(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面は説明用のために作成されたものであり、説明の対象部位を特に強調するように描かれている。そのため、図面における各部材の寸法比率は、必ずしも実際のものとは一致しない。
【0020】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る送電コイル装置と、当該送電コイル装置を備えた非接触給電システムについて説明する。
図1に示されるように、非接触給電システム1は、送電コイル装置2と受電コイル装置3とを備えており、送電コイル装置2から受電コイル装置3に非接触で電力を供給する。送電コイル装置2および受電コイル装置3は、上下方向(対向方向)に離間するように配置される。送電コイル装置2は、例えば駐車場等の路面Rに設置される。受電コイル装置3は、例えば電気自動車(移動体)EVに搭載される。非接触給電システム1は、駐車場等に到着した電気自動車EVに対し、磁界共鳴方式又は電磁誘導方式等のコイル間の磁気結合を利用して、電力を供給するように構成される。
【0021】
送電コイル装置2は、路面Rから上方に突出するように設けられる。送電コイル装置2は、扁平な錘台状や直方体状をなす。送電コイル装置2には制御器やインバータ等(いずれも図示せず)が接続され、直流電源や交流電源で生成された所望の交流電力が送電コイル装置2に供給される。交流電力が供給された送電コイル装置2は、磁束を発生させる。なお、送電コイル装置2は、路面Rから突出せずに路面Rに埋め込まれていてもよい。
【0022】
以下、送電コイル装置2の具体的構成を例に、本発明の実施形態に係るコイル装置について説明する。
【0023】
送電コイル装置2は、磁束を発生させる送電コイル部4と、送電コイル部4を収容するハウジング6とを備える。扁平なハウジング6は、ベース7と保護カバー8とを含む。ベース7は、路面Rに固定される。保護カバー8は、ベース7との間に収容空間を形成するようにベース7に固定される。ベース7及び保護カバー8は、例えば、樹脂製又は非磁性且つ導電性の材料(例えば、アルミニウム)により構成される。送電コイル部4は、矩形板状の磁性部材であるフェライト板9と、第1の渦巻きコイル11と、第2の渦巻きコイル12と、を備える。第1、第2の渦巻きコイル11,12は、フェライト板9の主面9a上に配置される。
【0024】
第1の渦巻きコイル11は、リッツ線である第1の導線13を有する。第1の導線13は、第1の保持部材21に保持されている。第1の保持部材21は、例えば矩形平板状であり、表面に第1の導線13を形成する溝が形成されている。第2の渦巻きコイル12は、リッツ線である第2の導線14を有する。第2の導線14は、第2の保持部材22に保持されている。第2の保持部材22は、例えば矩形平板状であり、表面に第2の導線14を形成する溝が形成されている。第1及び第2の保持部材21,22は、別体であっても、一体成型されたものであってもよい。第1及び第2の保持部材21,22が一体成型された場合、一体成型部材の一方の表面と他方の表面の双方に溝が形成される。第1及び第2の保持部材21,22が別体である場合、それぞれの部材の溝は、保護カバー8側の表面又はベース7側の表面のいずれであってもよい。
図1では、第1の保持部材21の溝は、ベース7側の表面に設けられ、第2の保持部材22の溝は、保護カバー8側の表面に設けられている。第1の保持部材21の溝が保護カバー8側の表面に設けられている場合に比べ、第1の導線13は、フェライト板9に近くなる。その結果、第1の導線13で発生した熱は、フェライト板9を介して効率的に送電コイル装置2(又は受電コイル装置3)の外部に放出される。また、第2の保持部材22の溝がベース7側の表面に設けられている場合に比べ、第2の導線14は、保護カバー8に近くなる。その結果、第2の導線14で発生した熱は、保護カバー8を介して効率的に送電コイル装置2(又は受電コイル装置3)の外部に放出される。
【0025】
図2は、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との電気的な接続構成を模式的に示す図である。
図2に示されるように、第1の導線13は、スパイラル部13aと、スパイラル部13aの一方の端部に設けられた第1の入力部13bと、スパイラル部13aの他方の端部に設けられた第1の出力部13cとを有する。ここでいう他方の端部は、渦巻き状に巻き回された第1の導線13における内側から延在する端部である。内側とは、渦巻き状のスパイラル部13aにおいて軸線Aに近い側をいい、軸線Aから遠い側を外側という。スパイラル部13aは、第1の導線13が軸線Aの周りに渦巻き状(スパイラル状)に巻き回された部分である。第1の渦巻きコイル11では、スパイラル部13aにおいて第1の導線13は外側から内側に向かって右巻きに巻き回される。軸線Aは、フェライト板9の主面9aの法線方向と平行な線であり、主面9aと交差する。このような第1の渦巻きコイル11は、スパイラルコイルやサーキュラコイルとも呼ばれる。
【0026】
第2の渦巻きコイル12も、第1の渦巻きコイル11と略同様の構成を有する。すなわち、第2の導線14は、スパイラル部14aと、スパイラル部14aの一方の端部に設けられた第2の入力部14bと、スパイラル部14aの他方の端部に設けられた第2の出力部14cとを有する。第2の渦巻きコイル12では、スパイラル部13aにおいて第2の導線14は外側から内側に向かって左巻きに巻き回される。ここで、それぞれのスパイラル部13a,14aを構成する第1の導線13と第2の導線14の長さは、略同じ長さである。
【0027】
ここで、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とが有する入出力部の端末処理についてさらに説明する。
【0028】
第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とは、電気的に並列接続される。従って、電気的な点からみると、第1の入力部13bは、入力端子16において第2の入力部14bに接続される。また、第1の出力部13cは、出力端子17において第2の出力部14cに接続される。
【0029】
一方、構造的な点からみると、第1の入力部13bと第2の出力部14cとは、互いに撚り合わされる。この2本の導線が撚り合された構造は、いわゆるツイストペアケーブル構造である。同様に、第2の入力部14b及び第1の出力部13cも撚り合されて、ツイストペアケーブル構造をなす。
【0030】
図3に示されるように、フェライト板9の上には、第1のコイル層18及び第2のコイル層19がこの順に積層される。第1のコイル層18及び第2のコイル層19には、スパイラル部13aにおける第1の導線13及び/又はスパイラル部14aにおける第2の導線14が配置される。第1実施形態の送電コイル部4では、第1のコイル層18は、スパイラル部13aにおける第1の導線13を含む。第2のコイル層19は、スパイラル部13aにおける第2の導線14を含む。このような構成では、第1の渦巻きコイル11のスパイラル部13a及び第2の渦巻きコイル12のスパイラル部14aは、平面コイルであるともいえる。送電コイル部4では、フェライト板9側から第1のコイル層18、第2のコイル層19の順で設定されている。そうすると、第1の渦巻きコイル11及び第2の渦巻きコイル12も、この順で積層される。すなわち、第1の導線13及び第2の導線14は、フェライト板9の主面9aから、軸線Aの方向に沿って第1の導線13、第2の導線14の順に積層される。
【0031】
第1、第2の渦巻きコイル11,12は、同じ数(6回)の巻き数を有する。従って、
図3に示される断面には、12個の第1の導線13の断面と、12個の第2の導線14の断面とが現れる。第1の渦巻きコイル11のスパイラル部13aでは、第1の導線13同士の間隔(即ち導線ピッチP1)は等間隔である。同様に、第2の渦巻きコイル12のスパイラル部13aでは、第2の導線14の導線ピッチP2は等間隔である。また、第1の渦巻きコイル11の導線ピッチP1は、第2の渦巻きコイル12の導線ピッチP2と略同じである。要するに、第2の渦巻きコイル12は、第1の渦巻きコイル11と比較すると、構造的には、スパイラル部14aにおける巻き方向が相違するのみであり、そのほかの物理的構造は同じである。
【0032】
以下、比較例1に係るコイル装置の作用効果と対比しつつ、送電コイル装置2の作用効果について、説明する。
【0033】
比較例1に係るコイル装置は、単層の渦巻きコイルであり、この渦巻きコイルが有する導線の長さは、第1の導線13の長さと第2の導線14の長さとを足し合わせた長さであるとする。導線の長さに対応する巻き数が得られ、この巻き数に基づくインダクタンスが決定される。すなわち、比較例1のコイル装置は、電気的には、本実施形態の第1の導線13と第2の導線14とが直列接続された構成に相当する。なお、コイルの内径、外形、導線の直径、導線ピッチを利用することにより、与えられた導線の長さから巻き数が得られる。また、導線の長さに対応する電気抵抗が得られ、この電気抵抗に基づくジュール熱が発生する。
【0034】
一方、本実施形態の送電コイル部4は、2個の渦巻きコイルである第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とを有する。従って、送電コイル部4は、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とが磁気的に結合されたものであると考えられ、この磁気的結合の度合いに基づいて送電コイル部4の総合インダクタンスが決まる。以下、送電コイル部4のインダクタンスを総合インダクタンス(LD)、第1の渦巻きコイル11のインダクタンスを第1のインダクタンス(L1)、第2の渦巻きコイル12のインダクタンスを第2のインダクタンス(L2)と呼ぶ。送電コイル部4の総合インダクタンス(LD)は、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との磁気的結合の度合いに基づく。
【0035】
まず、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との磁気的結合の度合いについて説明する。第1の導線13と第2の導線14とは、渦巻き状のそれぞれの場所において軸線Aの方向に沿って並置される。このような配置によれば、第1の導線13の磁場と第2の導線14の磁場との磁気的な結合度合いが高まる。磁気的な結合度合いは、いわゆる結合係数(k)によって示される。送電コイル装置2では、第1の導線13及び第2の導線14が軸線Aに沿って並置されている。この第1の導線13と第2の導線14との配置によれば、理論上の結合係数の最大値に近づけることができる。
【0036】
さらに磁気的結合の度合いについて説明する。既に述べたように、送電コイル部4は、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とが並列接続される。第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とは、軸線Aの方向に積層される。つまり、送電コイル部4は、二層並列構造を有する。二層並列構造の送電コイル部4の総合インダクタンス(LD)は、式(1)に示される。
【数1】
LD:送電コイル部4が有する総合インダクタンス
L1:第1の渦巻きコイル11が有する第1のインダクタンス
L2:第2の渦巻きコイル12が有する第2のインダクタンス
M:第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との相互インダクタンス
相互インダクタンス(M)は、第1のコイル層18における第1の渦巻きコイル11と、第2のコイル層19における第2の渦巻きコイル12と、の間で相互誘導が生じることによる。
【0037】
ここで、第1のインダクタンス(L1)は、第2のインダクタンス(L2)と等しい(L1=L2=L)と仮定する。この仮定によれば、式(1)から式(2)が得られる。また、この仮定によれば、相互インダクタンス(M)は、式(3)で表される。式(3)の係数(k)は、コイル同士の磁気的結合の度合いを示す、いわゆる結合係数である。結合係数(k)は、0以上1以下の数(k≦1)であり、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との相対的な位置関係に対応する。第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との位置関係によっては、結合係数kは0.8以上とすることができる。結合係数kが0.8である場合には、総合インダクタンス(LD)は0.9Lとなる。
【数2】
【数3】
【0038】
次に、第1、第2の渦巻きコイル11,12のジュール熱について説明する。送電コイル部4は、第1の導線13と第2の導線14とが並列接続される。従って、送電コイル部4の電気抵抗は、式(4)に示される。
【数4】
RD:送電コイル部4の総合電気抵抗
R1:第1の渦巻きコイル11の電気抵抗
R2:第2の渦巻きコイル12の電気抵抗
スパイラル部13aにおける第1の導線13の長さは、スパイラル部14aにおける第2の導線14の長さと同じである。そうすると、例えば、送電コイル部4の総合電気抵抗(RD)は、第1の渦巻きコイル11の電気抵抗(R1)に対して1/2である。ジュール熱は電気抵抗に比例する(Q=R×I
2×t)ので、電気抵抗が1/2になると、第1、第2の渦巻きコイル11,12のジュール熱も1/2になる。従って、第1の渦巻きコイル11及び第2の渦巻きコイル12の並列接続により、ジュール熱の発生が抑制される。
【0039】
従って、送電コイル装置2では、第1の導線13と第2の導線14とを軸線Aの方向に並置されるので、総合インダクタンス(LD)を高める方向に作用する磁気的結合の度合い(結合係数k)が所望の値に確保される。さらに、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とは電気的に並列に接続されるので、ジュール熱の発生が抑制される。従って、送電コイル装置2は、所望のインダクタンスを確保しつつ、ジュール熱を抑制することができる。
【0040】
また、送電コイル装置2では、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12との入出力部が、いわゆるツイストペアケーブル構造をなす。このケーブル構造によれば、第1の導線13と第2の導線14に流れる電流に起因する磁束が互いに打ち消しあうので、送電コイル装置2から外部へ放射されるノイズを低減できる。また、第1の導線13と第2の導線14とに外部から磁束が作用した場合には、第1の導線13と第2の導線14とに流れる電流に外部磁束に起因するノイズが重畳される可能性がある。この第1の導線13と第2の導線14とのツイストペアケーブル構造によれば、外部から作用する磁束によって発生したノイズとなる電流が互いに打ち消しあうので、外部から作用する磁束の影響を抑制できる。
【0041】
さらに、送電コイル装置2では、互いに撚り合わされている第1の入力部13bと第2の出力部14cとは、スパイラル部13a,14aの外側から延在する。また、互いに撚り合わされている第2の入力部14bと第1の出力部13cとは、スパイラル部13a,14aの内側から延在する。従って、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とを積層させたときに、それぞれの配線設計が容易になる。
【0042】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る送電コイル装置2について説明する。
【0043】
第1実施形態の説明において、総合インダクタンス(LD)を算出する際に、第1の渦巻きコイル11の第1のインダクタンス(L1)と第2の渦巻きコイルの第2のインダクタンス(L2)とは等しいものとして仮定した。しかし、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とが同じ物理的構成及び電気的構成を有している場合であっても、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とは厳密には同じではない場合がある。例えば、第1の渦巻きコイル11及び第2の渦巻きコイル12がフェライト板9上に配置される場合である。フェライト板9は、磁界中で磁化するため、フェライト板9からの磁束が第1の渦巻きコイル11及び第2の渦巻きコイル12のインダクタンスに影響を与える。フェライト板9から第1の渦巻きコイル11までの距離と、フェライト板9から第2の渦巻きコイル12までの距離が異なるために、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とは厳密に一致しないことがある。
【0044】
例えば、第1の渦巻きコイル11と第2の渦巻きコイル12とが同じ物理的及び電気的構成を有していると仮定する。フェライト板9の存在を無視したとき、第1のインダクタンス(L1)の大きさと第2のインダクタンス(L2)の大きさとは同じである。一方、フェライト板9の存在を考慮したとき、フェライト板9に近い第1の渦巻きコイル11の第1のインダクタンス(L1)は、フェライト板9から遠い第2の渦巻きコイル12の第2のインダクタンス(L2)よりも大きい。2個のコイルの間においてインダクタンスの差異が生じると、第1の渦巻きコイル11に流れる電流と、第2の渦巻きコイル12に流れる電流とが互いに相違する。この電流量の相違は、電流の偏りとも呼ばれる。電流の偏りは、第1、第2の渦巻きコイル11,12におけるジュール熱の要因となりえる。
【0045】
そこで、第2実施形態の送電コイル装置は、第1の渦巻きコイル11が有する第1のインダクタンス(L1)と、第2の渦巻きコイル12が有する第2のインダクタンス(L2)と、のインダクタンス差(ΔL)を小さくするための構成を有する。以下、インダクタンス差(ΔL)を小さくするための構成について具体的に説明する。
【0046】
図4に示されるように、送電コイル装置2Aは、送電コイル部4Aを備える。送電コイル部4Aは、フェライト板9の上に配置された第1の渦巻きコイル11Aと第2の渦巻きコイル12Aとを有する。
図5及び
図6に示されるように、第1の渦巻きコイル11Aのスパイラル部13aでは、第1の導線13Aが第1のコイル層18と第2のコイル層19とに配置される。第2の渦巻きコイル12Aのスパイラル部14aでは、第2の導線14が第1のコイル層18と第2のコイル層19とに配置される。換言すると、第1のコイル層18は、第1の導線13Aの一部と、第2の導線14Aの一部とを含む。また、第2のコイル層19は、第1の導線13Aの別の一部と、第2の導線14Aの別の一部とを含む。すなわち、第1の導線13A及び第2の導線14Aは、第1のコイル層18と第2のコイル層19との両方に配置される。
【0047】
第1、第2の渦巻きコイル11A,12Aは、6回の巻き数を有する。
図6に示される断面には、12個の第1の導線13の断面と、12個の第2の導線14の断面とが現れる。ここで、説明の便宜上、第1の導線13及び第2の導線14は、軸線Aに近い側から順に、第1の巻回部M1、第2の巻回部M2、第3の巻回部M3、第4の巻回部M4、第5の巻回部M5、第6の巻回部M6を含むものとする。
【0048】
第1のコイル層18における、第1、第2、第3、第4の巻回部M1,M2,M3,M4には第1の導線13Aが配置され、第5、第6の巻回部M5,M6には第2の導線14Aが配置される。一方、第2のコイル層19における、第1、第2、第3、第4の巻回部M1,M2,M3,M4には第2の導線14Aが配置され、第5、第6の巻回部M5,M6には第1の導線13Aが配置される。従って、第1、第2、第3、第4の巻回部M1,M2,M3,M4では、フェライト板9の主面9a上において、第1の導線13A、第2の導線14Aがこの順に配置される。つまり、フェライト板9から離間する軸線Aの方向に沿って、第1の導線13A、第2の導線14Aの順に並置される。一方、第5、第6の巻回部M5,M6では、フェライト板9の主面9a上において、第2の導線14A、第1の導線13Aがこの順に配置される。つまり、フェライト板9から離間する軸線Aの方向に沿って、第2の導線14A及び第1の導線13Aの順に並置される。
【0049】
第1の導線13Aに注目すると、第1の導線13Aが配置される層は、第4の巻回部M4から第5の巻回部M5の間において第1のコイル層18から第2のコイル層19に変わる。一方、第2の導線14Aに注目すると、第2の導線14Aの配置される層は、第4の巻回部M4から第5の巻回部M5の間において第2のコイル層19から第1のコイル層18に変わる。
【0050】
既に述べたように、フェライト板9から第1の導線13までの距離(D1)は、第1のインダクタンス(L1)を決定する変数の一つである。同様に、フェライト板9から第2の導線14までの距離(D2)は、第2のインダクタンス(L2)を決定する変数の一つである。そこで、第2実施形態の送電コイル装置2Aは、第1の渦巻きコイル11Aが有する第1のインダクタンス(L1)と、第2の渦巻きコイル12が有する第2のインダクタンス(L2)と、のインダクタンス差(ΔL)を小さくするための構成を有する。具体的には、送電コイル装置2Aは、フェライト板9から第1の渦巻きコイル11までの平均距離(E1)と、フェライト板9から第2の渦巻きコイル12までの平均距離(E2)との平均距離差(ΔE)が小さくされる。
【0051】
ここで、フェライト板9の主面9aから第1のコイル層18までの距離が距離(D1)であり、フェライト板9の主面9aから第2のコイル層19までの距離が距離(D2)である。そうすると、第1実施形態の送電コイル部4のように、第1の渦巻きコイル11が第1のコイル層18に配置された場合、第1の渦巻きコイル11の平均距離(E1)は距離(D1)であり、第2の渦巻きコイル12の平均距離(E2)は距離(D2)である。そうすると平均距離差(ΔE)は、ΔE=E2−E1=D2−D1である。この場合に、平均距離差(ΔE)は、平均距離(E1)と平均距離(E2)との差分の最大値になる。この平均距離差(ΔE)を小さくする場合、第1の渦巻きコイル11Aの平均距離(E1)と第2の渦巻きコイル12Aの平均距離(E2)とを互いに近づければよい。
【0052】
理想的には、例えば、平均距離(E1)が平均距離(E2)と等しい場合(E1=E2)には、平均距離差(ΔE)はゼロである。すなわち、第1のコイル層18に配置される第1の導線13Aの長さと、第2のコイル層19に配置される第2の導線14Aの長さと、が等しい場合には、平均距離(E1)は、E1=(D1+D2)/2である。同様に、第1のコイル層18に配置される第2の導線14の長さと、第2のコイル層19に配置される第2の導線14の長さと、が等しい場合には、平均距離(E2)は、E2=(D1+D2)/2である。
【0053】
この平均距離差(ΔE)は、ゼロである必要はなく、上述した差分の最大値(距離(D2−D1))よりも小さくなっていればよい。そこで、スパイラル部13aにおける第1の導線13Aの一部を第1のコイル層18に配置し、別の部分を第2のコイル層19に配置する。そうすると、第1の渦巻きコイル11Aの平均距離(E1)は、スパイラル部13aにおける第1の導線13が全て第1のコイル層18に配置された場合よりも大きくなる。従って、第1の渦巻きコイル11Aの平均距離(E1)は、第2の渦巻きコイル12Aの平均距離(E2)に近づく。一方、スパイラル部14aにおける第2の導線14Aの一部を第1のコイル層18に配置し、別の部分を第2のコイル層19に配置する。そうすると、第2の渦巻きコイル12Aの平均距離(E2)は、スパイラル部14aにおける第2の導線14Aが全て第2のコイル層19に配置された場合よりも小さくなる。従って、第2の渦巻きコイル12Aの平均距離(E2)は、第1の渦巻きコイル11Aの平均距離(E1)に近づく。
【0054】
そこで、第2実施形態の送電コイル部4Aでは、第1の導線13A及び第2の導線14Aの配置を、最も外側の領域(第6の巻回部M6)及びそれに隣接する領域(第5の巻回部M5)と、それら領域よりも内側の領域(第1、第2、第3、第4の巻回部M1,M2,M3,M4)とで異ならせている。これは、一巻きに要する導線の長さが、外側であるほど長くなる。すなわち、第1のコイル層18に配置される導線と、第2のコイル層19に配置される導線との長さを揃えるためには、第1のコイル層18における導線の巻き数と、第2のコイル層19における導線の巻き数とを異ならせる。このような送電コイル部4Aによれば、第1の渦巻きコイル11Aにおける平均距離(E1)と第2の渦巻きコイル12Aにおける平均距離(E2)との平均距離差(ΔE)が小さくなるので、第1の渦巻きコイル11Aの第1のインダクタンス(L1)と第2の渦巻きコイル12Aの第2のインダクタンス(L2)の平均距離差(ΔE)を小さくすることができる。従って、第2実施形態の送電コイル装置2Aによれば、第1の渦巻きコイル11A及び第2の渦巻きコイル12Aに流れる電流の片寄りが抑制される。そして、第1、第2の渦巻きコイル11A,12Aにおけるジュール熱が抑制される。
【0055】
なお、第2の実施形態に係る送電コイル装置2Aが備える送電コイル部4Aは、
図6に示された構成に限定されない。
【0056】
〔変形例1〕
例えば、
図7の(a)部に示されるように、変形例1に係る送電コイル装置2Bは、送電コイル部4Bを備える。送電コイル部4Bでは、スパイラル部13a,14a(
図2参照)の内側から外側に向かって(軸線Aと交差する方向に沿って)、第1の導線13Bと第2の導線14Bとが一巻きごとに交互に配置されてもよい。すなわち、第1の導線13Bと第2の導線14Bとは、一巻きごとに、配置される第1のコイル層18と第2のコイル層19とが入れ替わる。この構成によれば、第1の渦巻きコイル11Bの平均距離(E1)と、第2の渦巻きコイル12Bの平均距離(E2)と、の平均距離差(ΔE)をさらに小さくすることができる。
【0057】
〔変形例2〕
また、
図7の(b)部に示されるように、変形例2に係る送電コイル装置2Cは、送電コイル部4Cを備える。送電コイル部4Cでは、スパイラル部13a,14a(
図2参照)の内側から外側に向かって、第1の導線13Cと第2の導線14Cとが二巻きごとに交互に配置されてもよい。すなわち、第1の導線13Cと第2の導線14Cとは、二巻きごとに、配置される第1のコイル層18と第2のコイル層19とが入れ替わる。この構成によれば、簡易な構造で第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とのインダクタンス差(ΔL)が小さくなる。従って、送電コイル装置2Cを効率的に製造することができる。なお、第1、第2の導線13C,14Cにおける第1のコイル層18と第2のコイル層19とが入れ替えは、一巻き(一周)ごとに限定されず、例えば、180度(半周)ごと、或いは、90度(1/4周)ごとに入れ替えてもよい。
【0058】
〔変形例3〕
また、
図7の(c)部に示されるように、変形例3に係る送電コイル装置2Dは、送電コイル部4Dを備える。送電コイル部4Dでは、スパイラル部13a,14a(
図2参照)の最も内側の構成(第1の巻回部M1)と最も外側の構成(第6の巻回部M6)とが、第1の導線13D及び第2の導線14Dに関して同じ配置構成を有し、且つ、それらの間に配置される領域(第2,第3,第4,第5の巻回部M2,M3,M4,M5)は、渦巻きの最も内側(第1の巻回部M1)及び最も外側(第6の巻回部M6)における第1の導線13D及び第2の導線14Dの配置構成と異なっていてもよい。この構成によれば、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)との差分を小さくする構成を簡易にすることができる。従って、送電コイル装置2Dを効率的に製造することができる。
【0059】
〔変形例4〕
第2実施形態の送電コイル装置2Aでは、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)との差分を小さくするための構成として、軸線Aの方向における第1の導線13Aと第2の導線14Aの配置に注目した。インダクタンス差(ΔL)を小さくするための構成は、第1の導線13Aと第2の導線14Aとの配置に限定されることはない。
【0060】
渦巻きコイルのインダクタンスを決定する変数として、コイルの巻き数が挙げられる。
図8の(a)部に示されるように、送電コイル装置2Eは、送電コイル部4Eを備える。送電コイル部4Eは、第1の渦巻きコイル11Eの巻き数と第2の渦巻きコイル12Eの巻き数とが互いに異っていてもよい。第1の渦巻きコイル11Eは、スパイラル部13aを構成する第1の導線13Eが全て第1のコイル層18に配置される。そして、第1の渦巻きコイル11Eの巻き数は、5回である。第2の渦巻きコイル12Eは、スパイラル部14aを構成する第2の導線14Eが全て第2のコイル層19に配置される。そして、第2の渦巻きコイル12Eの巻き数は、6回である。すなわち、フェライト板9から遠い第2の渦巻きコイル12Eの巻き数が、フェライト板9から近い第1の渦巻きコイル11Eの巻き数より多い。フェライト板9から遠いコイルほど、インダクタンスが小さくなるが、巻き数を多くすることにより、インダクタンスは大きくなる。よって、フェライト板9からの位置に因るインダクタンスの差を、巻き数の調整により縮めることができる。
【0061】
〔変形例5〕
また、渦巻きコイルのインダクタンスを決定する変数として、コイルの内径及び外径が挙げられる。
図8の(b)部に示されるように、送電コイル装置2Fは、送電コイル部4Fを備える。送電コイル部4Fは、第1の渦巻きコイル11Fの内径H1と第2の渦巻きコイル12Fの内径H2とが互いに異なっていてもよい。また、第1の渦巻きコイル11Fの外径H3と第2の渦巻きコイル12Fの外径H4とが互いに異なっていてもよい。具体的には、第1の渦巻きコイル11Fの内径H1は、第2の渦巻きコイル12Fの内径H2よりも小さい。さらに、第1の渦巻きコイル11Fの外径H3は、第2の渦巻きコイル12Fの外径H4よりも小さい。
【0062】
〔変形例6〕
また、渦巻きコイルのインダクタンスを決定する変数として、導線ピッチが挙げられる。
図8の(c)部に示されるように、送電コイル装置2Gは、送電コイル部4Gを備える。送電コイル部4Gは、第1の渦巻きコイル11Gの導線ピッチP1と第2の渦巻きコイル12Gの導線ピッチP2とが互いに異なっていてもよい。具体的には、第1の渦巻きコイル11Gの導線ピッチP1は第2の渦巻きコイル12Gの導線ピッチP2よりも大きい。
【0063】
上記変形例4、5、6の送電コイル装置2E,2F,2Gによれば、フェライト板9を考慮しない場合において、第1の渦巻きコイル11E,11F,11Gの第1のインダクタンス(L1)が、第2の渦巻きコイル12E,12F,12Gの第2のインダクタンス(L2)よりも小さい。しかし、フェライト板9を考慮する場合において、第1の渦巻きコイル11E,11F,11Gに与えるフェライト板9の影響は第2の渦巻きコイル12E,12F,12Gに与えるフェライト板9の影響より大きい。従って、フェライト板9の影響を含めた場合には、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とのインダクタンス差(ΔL)は小さくなる。
【0064】
〔第3実施形態〕
次に、
図9の(a)部を参照しつつ、第3実施形態に係る送電コイル装置2Hについて説明する。第2実施形態の送電コイル装置2Aは、ジュール熱による総合インダクタンス(LD)の低下を抑制するために、第1の渦巻きコイル11Aと第2の渦巻きコイル12Aとのインダクタンス差(ΔL)を小さくするように構成されていた。渦巻きコイルは、コイルの巻き数、コイルの内径、コイルの外径、導線ピッチなどをインダクタンスの設計変数として有する。そうすると、インダクタンス差(ΔL)は、これらの変数を調整することにより、所望の値に設定することが可能である。すなわち、第2実施形態の送電コイル装置2Aのようにインダクタンス差(ΔL)を小さい値に設定することも可能であるし、逆に第3実施形態に係る送電コイル装置2Hのようにインダクタンス差(ΔL)を大きい値に設定することも可能である。なお、以下では、フェライト板9が存在する場合について説明するが、フェライト板9を設けずに、コイルの巻き数、コイルの内径、コイルの外径、導線ピッチなどのみを調整して、インダクタンス差(ΔL)を大きくしてもよい。
【0065】
送電コイル装置2Hは、インダクタンス差(ΔL)を大きくするための構成を有する。具体的には、コイルの巻き数が変数として選択される。第1の渦巻きコイル11Hは、スパイラル部13aを構成する第1の導線13Hが全て第1のコイル層18に配置される。第2の渦巻きコイル12Hは、スパイラル部14aを構成する第2の導線14Hが全て第2のコイル層19に配置される。そして、第1の渦巻きコイル11Hの巻き数(6回)は、第2の渦巻きコイル12Hの巻き数(5回)より多い。
【0066】
この構成によれば、フェライト板9を考慮しない場合において、第1のインダクタンス(L1)が、第2のインダクタンス(L2)よりも大きい。そして、第1の渦巻きコイル11Hは、第2の渦巻きコイル12よりもフェライト板9に近い。従って、フェライト板9の影響によりさらに大きくなり、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とのインダクタンス差(ΔL)が大きくなる。従って、インダクタンス差(ΔL)を所望の値に設定することができる。
【0067】
〔変形例7〕
また、
図9の(b)部に示されるように、変形例7に係る送電コイル装置2Kは、インダクタンス差(ΔL)を大きくする構成とするために、コイルの内径及び外径を変数として選択してもよい。具体的には、第1の渦巻きコイル11Kの内径H5は、第2の渦巻きコイル12Kの内径H6よりも大きい。さらに、第1の渦巻きコイル11Kの外径H7は、第2の渦巻きコイル12Kの外径H8よりも大きい。
【0068】
〔変形例8〕
また、
図9の(c)部に示されるように、変形例8に係る送電コイル装置2Lは、インダクタンス差(ΔL)を大きくする構成とするために、導線ピッチP1,P2を変数として選択してもよい。具体的には、第1の渦巻きコイル11Lの導線ピッチP1は第2の渦巻きコイル12Lの導線ピッチP2よりも小さい。
【0069】
〔変形例9、10〕
また、第1の導線及び第2の導線の断面寸法や断面形状も、インダクタンスに影響する。従って、インダクタンス差(ΔL)を大きくするための構成として、第1の導線及び第2の導線の断面形状や断面寸法を採用することもできる。そこで、
図10の(a)部に示されるように、変形例9に係る送電コイル装置2Pは、インダクタンス差(ΔL)を大きくする構成とするために、第2の導線14Pの線径H9を第1の導線13Pの線径H10より小さくしてもよい。また、
図10の(b)部に示されるように、変形例10に係る送電コイル装置2Qは、第1の導線13Qの断面形状を円形状とし、第2の導線14Qの断面形状を第1の導線13Qの断面形状とは異なる矩形状としてもよい。これらの構成によれば、送電コイル部の厚みを低減することができる。
【0070】
上記第3実施形態及び変形例7〜10の送電コイル装置2H,2K,2L,2P,2Qによれば、設計要求に応じて、第1のインダクタンス(L1)と第2のインダクタンス(L2)とをそれぞれ所望の値に設定することができる。
【0071】
なお、上述した実施形態は本発明に係るコイル装置の一例を示すものである。本発明に係るコイル装置は、実施形態に係るコイル装置に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係るコイル装置を変形し又は他のものに適用したものであってもよい。
【0072】
上記実施形態では、コイル装置が第1の渦巻きコイルと、第2の渦巻きコイルとを有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、3層以上のコイル層で構成されたコイル装置にも適用できる。この場合、3層以上のコイル層の全てのコイル層に本発明が適用されてもよいし、3層以上のコイル層の内少なくとも2層に本発明が適用されてもよい。
【0073】
上記実施形態では、第1の導線13及び第2の導線14としてリッツ線を用いる例を示したが、これに限られず、非接触給電用のコイル装置として機能する限りにおいて、リッツ線以外の導線であってもよい。例えば、導線30の種類・形態・形式・材料・構成・形状・寸法は任意に選択できる事項である。
【0074】
上記実施形態では、本発明が送電コイル装置2に適用される場合について説明したが、これに限られない。本発明は、受電コイル装置3に適用されてもよい。上記実施形態では、本発明のコイル装置が非接触給電システムに適用される場合について説明したが、非接触給電システムに限定されるものではなく、例えば、本発明のコイル装置が誘導加熱システムや渦流探傷システムに適用されもよい。
【0075】
上記実施形態では、磁性部材がフェライト板9である場合について説明したが、フェライト板9に限定されない。磁性部材は、他の磁性材料(例えば、ケイ素鋼板、アモルファス磁性合金、磁石)で実現されてもよく、特に電力効率向上の点で軟磁性材料(例えば、フェライト、ケイ素鋼板、アモルファス磁性合金)であることが好ましい。
【0076】
上記実施形態において、渦巻き状というのは、
図2に示すように渦巻きコイルを軸線方向から見て円形形状に限られるものではない。外側から内側へ、もしくは内側から外側へ軸線を囲むように巻かれて、渦巻きコイルを軸線Aと垂直方向から見て平面状であれば、軸線方向から見た形状は問わない。たとえば、
図4に示すように直線部を含む形状でもよいし、六角形や八角形状でもよい。また、上記実施形態では、1つのコイル層における渦巻きコイルは、軸線Aと垂直方向に沿って揃っているが、厳密にこの態様に限られるものではない。渦巻きコイルは、異なる巻回部毎に、1つのコイル層において軸線Aの方向にずれていてもよい。