(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、Si:0.8%〜7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.010%〜0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02%〜0.20%、Seq=S+0.406×Se:0.003%〜0.05%を含有し、残部はFeおよび不純物元素である珪素鋼素材を、下記式で表される温度T1(℃)、T2(℃)、およびT3(℃)のいずれの温度以上、1350℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程と、
前記熱間圧延鋼板を熱延板焼鈍して焼鈍鋼板を得る工程と、
前記焼鈍鋼板を一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して冷間圧延鋼板を得る工程と、
前記冷間圧延鋼板を脱炭焼鈍して一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布して、仕上げ焼鈍を施し二次再結晶を生じさせる工程と、
前記脱炭焼鈍の開始から仕上げ焼鈍における二次再結晶開始までの間に鋼板の窒素量を増加させる窒化処理を行う工程と、を有し、
前記熱間圧延を行って熱間圧延鋼板を得る工程は、仕上げ圧延を990℃以下の温度域で90%以上の累積圧延率、及び700℃以下の温度域で巻きとり、
前記焼鈍鋼板を得る工程では、前記熱間圧延鋼板の焼鈍を、1000℃〜1150℃の範囲内の温度にまで加熱して再結晶させた後、それより低い850℃〜1100℃の温度で焼鈍する二段階の工程で行い、焼鈍後の粒組織におけるラメラ間隔を20μm以上に調整する、方向性電磁鋼板の製造方法。
T1=10062/(2.72−log([Al]×[N]))−273
T2=14855/(6.82−log([Mn]×[S]))−273
T3=10733/(4.08−log([Mn]×[Se]))−273
ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]は、それぞれ酸可溶性Al、N、Mn、S、Seの含有量である。
前記珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Cu:0.01%〜0.30%含有し、下記のT4(℃)以上の温度で加熱した後に熱間圧延することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
T4=43091/(25.09−log([Cu]×[Cu]×[S]))−273
ここで、[Cu]は、Cuの含有量である。
前記脱炭焼鈍鋼板を得る工程では、その昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒以上の加熱速度で加熱する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
前記珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Ti≦0.015%、Bi:0.01%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3には、熱間圧延工程において、仕上げ熱間圧延の終了温度を950℃以下で行う技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、熱間圧延工程後の熱間圧延鋼板の焼鈍を1段階のみで行う。熱間圧延鋼板の焼鈍を1段階のみで行う方法の場合、ラメラ間隔を20μm以上に増加させることは困難であり、集合組織{111}/{411}の比を3.0以下に調整して磁束密度を効果的に向上させる製造方法として十分ではなかった。
【0005】
また、特許文献4、5には、熱間圧延鋼板の焼鈍を、2段階で行うことが開示されている。特許文献4、5に開示された方法において、熱間圧延鋼板に焼鈍を2段階で施した後の焼鈍鋼板は、微細な結晶粒で占められた金属組織となること、及び、この焼鈍鋼板に冷間圧延と脱炭焼鈍を施すことによって{111}<112>が増加することが記載されている。しかし、この技術は、ラメラ間隔を20μm以上に増加させる技術とは、相反する技術であり、磁束密度を効果的に向上させる製造方法として十分ではなかった。
これらの技術は熱間圧延工程において再結晶を促進して結晶粒を微細化させる技術を開示したものである。熱間圧延板の微細結晶粒組織はその後も継承され、冷間圧延前の結晶粒界から核発生する{111}<112>が増加したものと考えられる。
【0006】
さらに、特許文献6には、熱間圧延工程後の熱間圧延鋼板の焼鈍を800℃〜950℃で、1段階で行うことが開示されている。そして熱間圧延鋼板の焼鈍を1段階のみで行う方法は、ラメラ間隔を20μm以上に増加させることは困難である。また、珪素鋼素材に含有するAl量が少ない。そのため、磁束密度を効果的に向上させる製造方法として十分ではなかった。これは特許文献6に記載の技術は高磁束密度化を狙ったものではなく、低磁場の鉄損特性を改善するために製品の結晶粒の微細化制御を行ったものである。
【0007】
上記のとおり、特許文献1〜6に開示された技術では、磁束密度を効果的に向上させることは十分にできなかった。
【0008】
本発明者らは、磁束密度の高い電磁鋼板を得るために研究を進めた結果、一次再結晶組織中の{411}方位粒が{110}<001>二次再結晶粒の優先成長に影響を及ぼすことを見出した。例えば、本発明者らは、脱炭焼鈍後の一次再結晶集合組織{111}/{411}の比を3.0以下に調整し、その後、窒化処理を行うことにより、磁束密度の高い方向性電磁鋼板が工業的に安定的に製造できることを示した。そして、その際の一次再結晶後の粒組織を制御する方法として、例えば、脱炭焼鈍工程の昇温過程における昇温速度を12℃/秒以上に制御する方法があることを示した(特許文献7参照)。
【0009】
また、本発明者らは、次の方法を提案した(特許文献8参照)。その方法は、脱炭焼鈍工程の昇温過程において、鋼板温度が600℃以下の温度域から750℃〜900℃の範囲内の温度域まで、40℃/秒以上の昇温速度で加熱する。それにより、脱炭焼鈍後の粒組織において、I
{111}/I
{411}の比率を3以下に制御する。また、脱炭焼鈍後の鋼板の酸化層の酸素量を2.3g/m
2以下に調整して、その後の仕上げ焼鈍工程において、二次再結晶を安定化させる、という方法である。ここで、I
{111}及びI
{411}は、それぞれ{111}及び{411}面が板面に平行である粒の割合であり、X線回折測定により板厚1/10層において測定された回折強度値を表している。
【0010】
さらに、本発明者らは、次の方法を提案した(特許文献9、特許文献10参照)。その方法は、熱間圧延鋼板の焼鈍を、1000℃〜1150℃の温度域まで加熱して再結晶させた後、それより低い850℃〜1100℃の温度域で焼鈍する、2段階の焼鈍工程とすることにより、焼鈍後の粒組織においてラメラ間隔を20μm以上に制御すること。そして、最終板厚の鋼板を脱炭焼鈍する際の昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒以上の昇温速度で加熱する、という方法である。
【0011】
しかしながら、本発明者らが既に提案した特許文献7〜10による方法においても、磁束密度を、さらに効果的に向上させることが望まれていた。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、従来の技術に対してさらに磁束密度を向上させることができる方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、一次再結晶集合組織{111}/{411}の量比をさらに低下することができれば、二次再結晶組織{110}<001>をさらに尖鋭化させることができ、磁束密度を効果的に高めることが可能になると考えた。
そして本発明らは、上記事情に鑑み、更に研究を進めた結果、{411}/{111}集合組織を増加させるために、熱間圧延後の結晶方位を制御する方法を検討した。その結果、本発明者らは、熱間圧延工程の仕上げ熱間圧延の条件を最適化してCube系を含むαファイバー(<011>(圧延方向に平行)):以下Cube系方位と称する)を強化すると、脱炭焼鈍工程後の一次再結晶集合組織{111}/{411}の比が減少するという知見を得た。その機構は必ずしも明確でないが、本願発明者らは次のように考えている。熱間圧延板でCube系方位を強化すると、その影響は焼鈍をしても継承され冷間圧延工程前においてもCube系方位が増加する。{411}方位は冷間圧延前のCube系方位の粒内から再結晶するので一次再結晶後の{411}方位を増加させ、集合組織{111}/{411}の比を低下させることができる。そして、本発明者らは、集合組織{111}/{411}の比を低下させることにより、方向性電磁鋼板の磁束密度を効果的に向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、質量%で、Si:0.8%〜7%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.010%〜0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02%〜0.20%、Seq=S+0.406×Se:0.003%〜0.05%を含有する珪素鋼素材を、下記式で表される温度T1(℃)、T2(℃)、およびT3(℃)のいずれの温度以上、1350℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程と、熱間圧延鋼板を熱延板焼鈍して焼鈍鋼板を得る工程と、焼鈍鋼板を一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して冷間圧延鋼板を得る工程と、冷間圧延鋼板を脱炭焼鈍して一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程と、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布して、仕上げ焼鈍を施し二次再結晶を生じさせる工程と、脱炭焼鈍の開始から仕上げ焼鈍における二次再結晶開始までの間に鋼板の窒素量を増加させる窒化処理を行う工程と、を有し、熱間圧延を行って熱間圧延鋼板を得る工程は、仕上げ圧延を990℃以下の温度域で90%以上の累積圧延率、及び700℃以下の温度域で巻きとることによって熱延板の中心層の{100}集合組織を調整し、焼鈍鋼板を得る工程では、熱間圧延鋼板の焼鈍を、1000℃〜1150℃の範囲内の温度にまで加熱して再結晶させた後、それより低い850℃〜1100℃の温度で焼鈍する二段階の工程で行い、焼鈍後の粒組織におけるラメラ間隔を20μm以上に調整する、方向性電磁鋼板の製造方法である。
T1=10062/(2.72−log([Al]×[N]))−273
T2=14855/(6.82−log([Mn]×[S]))−273
T3=10733/(4.08−log([Mn]×[Se]))−273
ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]は、それぞれ酸可溶性Al、N、Mn、S、Seの含有量である。
【0015】
本発明では、珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Cu:0.01%〜0.30%含有し、下記のT4(℃)以上の温度で加熱した後に熱間圧延してもよい。
T4=43091/(25.09−log([Cu]×[Cu]×[S]))−273
ここで、[Cu]は、Cuの含有量である。
【0016】
また、本発明の熱間圧延鋼板を得る工程では、仕上げ圧延終了温度を960℃以下としてもよい。
【0017】
また、本発明の脱炭焼鈍鋼板を得る工程では、その昇温過程において、鋼板温度が550℃から720℃にある間を40℃/秒以上の加熱速度で加熱してもよい。当該加熱は誘導加熱装置によって行うこともできる。
【0018】
また、本発明では珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Cr:0.3%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1%以下、Mo:0.1%以下、Ti≦0.015%、Bi:0.01%以下の1種または2種以上を含有してもよい。
【0019】
さらに、本発明では熱間圧延工程において、熱間圧延鋼板の中心層の{100}集合組織をI
{100}≧10に調整することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来に比べて高い磁束密度を得ることができる方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明で言及する方向性電磁鋼板として必要な特性は、高い磁束密度であり、高い磁束密度:B8である。これにより変圧器等の電気機器の鉄心として用いられる等する際に、高い磁力特性を得ることができる。以下本発明の態様について説明する。
【0023】
主要成分が質量%で、Si:0.8%〜7.0%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.010%〜0.065%、N:0.0075%以下、Mn:0.02%〜0.20%、Seq.=S+0.406×Se:0.003%〜0.05%を含む珪素鋼素材を、下記式で表される温度T1、T2、およびT3(℃)のいずれも満たす温度以上、1350℃以下の温度で加熱した後に熱間圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程と、熱間圧延鋼板を熱延板焼鈍して焼鈍鋼板を得る工程と、焼鈍鋼板を一回の冷間圧延または焼鈍を介して複数の冷間圧延を施して冷間圧延鋼板を得る工程と、冷間圧延鋼板を脱炭焼鈍して一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程と、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布して、仕上げ焼鈍を施し二次再結晶を生じさせる工程を有し、脱炭焼鈍の開始から仕上げ焼鈍における二次再結晶開始までの間に鋼板の窒素量を増加させる窒化処理を行う工程を有している。
【0024】
T1=10062/(2.72−log([Al]×[N]))−273
T2=14855/(6.82−log([Mn]×[S]))−273
T3=10733/(4.08−log([Mn]×[Se]))−273
ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]は、それぞれ酸可溶性Al、N、Mn、S、Seの含有量である。
【0025】
また、珪素鋼素材が、さらに、質量%で、Cu:0.01%〜0.30%の範囲で、含有されてもよく、この際には、
T4=43091/(25.09−log([Cu]×[Cu]×[S]))−273
を満たす。ここで、[Cu]は、Cuの含有量である。
【0026】
熱間圧延を行って熱間圧延鋼板を得る工程は、上記した条件を満たすように加熱したスラブに対して、仕上げ圧延を990℃以下の温度域で90%以上の累積圧延率、700℃以下の温度で巻きとることによって熱延板の中心層の{100}集合組織を調整させる(I{100}≧10)。
【0027】
図1には熱間圧延のうち仕上げ圧延開始温度T
K(℃)と磁束密度B8(T)との関係を表した。この図、及びこの図の根拠となる具体的なデータによれば、熱間仕上げ圧延開始温度を990℃以下とすることにより、再結晶が抑制され、磁束密度B8の高い状態を確保することができる。
【0028】
図2には熱間圧延のうち仕上げ圧延における累積圧延率R(%)と磁束密度B8(T)との関係を表した。この図、及びこの図の根拠となる具体的なデータによれば、熱間仕上げ圧延の累積圧延率を90%以上とすることで磁束密度B8(T)を向上させることができる。好ましくは92.5%以上である。
これにより、{100}を増加させ、再結晶を抑制する。
ここで仕上げ圧延における最終パスの圧延率は25%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上である。
【0029】
図3には熱間圧延を終えて冷却した後に鋼板を巻き取る際の温度T
M(℃)と磁束密度B8(T)との関係を表した。この図、及びこの図の根拠となる具体的なデータによれば、当該巻き取り温度を700℃以下とすることで磁束密度B8(T)を向上させることができる。好ましくは600℃以下である。
巻き取り温度は400℃以上であることが好ましい。巻き取り温度が400℃より低いと巻き取りがし難くなる虞がある。
また、熱間圧延後に巻き取り温度にまで冷却する際には、できるだけ早く冷却を開始することが好ましい。好ましくは熱間仕上げ圧延の最終パス終了後の2秒以内、より好ましくは1秒以内である。
【0030】
図4には熱間仕上げ圧延終了直後の温度T
E(℃)と磁束密度B8(T)との関係を表した。この図、及びこの図の根拠となる具体的なデータによれば、熱間仕上げ圧延終了直後の温度を960℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは920℃以下、最も好ましくは890℃以下である。これにより磁束密度B8が高い状態を得ることができる。
【0031】
このように、熱間圧延を行うことにより、冷間圧延前のαファイバー(Cube系)組織の粒内からの再結晶をさせることができる。
【0032】
なお、当該熱間圧延工程は、粗圧延を複数回行い、仕上げ圧延を連続で4パス以上10パス以内で行われることが好ましい。
【0033】
熱間圧延鋼板を熱延板焼鈍して焼鈍鋼板を得る工程では、5℃/秒以上の加熱速度で、1000℃〜1150℃の範囲内の温度にまで加熱して再結晶させた後、それより低い850℃〜1100℃の温度で20秒以上焼鈍する二段階の工程で行う。その後5℃/秒程度の冷却速度で冷却し、焼鈍後の粒組織におけるラメラ間隔を20μm以上に調整する。これにより安定して高い磁束密度B8とすることができる。
【0034】
ここで、ラメラ間隔とは、ラメラ組織(変態相または結晶粒界によって分断された圧延面に平行な層状組織)と称される、圧延面に平行な層状組織の平均間隔を表す。本発明者らは、研究の結果、熱間圧延工程において、仕上げ圧延開始温度、仕上げ圧延累積圧延率、及び、巻き取り温度、の各々の条件を最適化することで、磁束密度が効果的に向上することを見出した。その理由は定かではないが、例えば、次のように推測される。
【0035】
仕上げ圧延開始温度が990℃以下の範囲、及び、巻き取り温度が700℃以下の範囲では、再結晶ノーズ温度以下の範囲で仕上げ圧延工程が行われる。そのため、仕上げ圧延中の再結晶化が抑制されることで、集合組織のランダム化が抑制され、圧延によって形成された加工集合組織が保存される。
また、仕上げ圧延累積圧延率が90%以上の高圧延率域では、圧延によって形成されるCube系方位を高度に発達させることができる。
従って、熱間圧延工程の条件を最適化することで、仕上げ圧延中の再結晶化が抑制されることにより、集合組織のランダム化が抑制され、さらに、累積圧延率をたかめることにより、圧延による加工集合組織であるCube系方位が強化される。それによって、熱間圧延鋼板の中心層I
{100}の集合組織が調整された(例えば、I
{100}が10以上(I
{100}≧10))熱間圧延鋼板が得られる。
その後、得られた熱間圧延鋼板を、二段階の焼鈍工程を施す。焼鈍工程における一段目の焼鈍によって、再結晶させて粒内の転移を除去して粒内/粒界の差異を明確にする。続く、二段目の焼鈍によって、ラメラ間隔を増大させる。この焼鈍を行っても熱間圧延で行ったCube系方位が強化は継承される。冷間圧延前の焼鈍板が、Cube系方位の強化したラメラ間隔の広い結晶組織となるので、Cube系方位粒内(ラメラ間隔内)から核発生する{411}粒は増加し、粒界およびラメラ近傍から核発生する{111}粒は減少する。その結果、脱炭焼鈍後の一次再結晶集合組織は、それにより、{111}/{411}比が減少する。これにより、尖鋭な{110}<001>方位が二次再結晶により発達して製品の磁束密度が効果的に向上すると推測される。
【0036】
以下により具体的に各項目の態様について説明する
【0037】
始めに本発明の製造方法に用いる珪素鋼素材について説明する。
本発明の珪素鋼素材は、質量%で、0.8%≦Si≦7.0%、C≦0.085%、0.010%≦酸可溶性Al≦0.065%、N≦0.075%、0.02%≦Mn≦0.2%、0.003%≦S+0.406×Se≦0.05%を含有し、残部としてFeおよび不純物元素からなる。
また、本発明の珪素鋼素材は、必要に応じて、質量%で、Cr≦0.30%、P≦0.50%、Sn≦0.3%、Sb≦0.3%、Ni≦1%、Mo≦0.1%、Ti≦0.015%、及びBi≦0.01%からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
以下、珪素鋼素材の成分の限定理由について説明する。
【0038】
(Si)
Siは、電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。しかし、Si含有量が7.0質量%を超えていると、冷間圧延が極めて困難となり、冷間圧延時に割れが生じやすくなる。このため、Si含有量は7.0質量%以下とし、好ましくは4.5質量%以下であり、より好ましくは4.0質量%以下である。また、Si含有量が0.8質量%未満であると、仕上げ焼鈍時に変態が生じ、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。このため、Si含有量は0.8質量%以上とし、好ましくは2.0質量%以上であり、より好ましくは2.5質量%以上である。
【0039】
(C)
Cは、一次再結晶組織の制御に有効な元素であるが、磁気特性に悪影響を及ぼす。このため、仕上げ焼鈍前に脱炭焼鈍を行う。Cの含有量が0.085質量%より多いと、脱炭焼鈍時間が長くなり、工業生産における生産性が損なわれてしまう。これらのことから、Cの含有量は、0.070質量%以下であることが好ましい。下限値としては、特に限定されないが、0.020質量%以上であることがよく、0.050質量%以上であることが好ましい。
【0040】
(酸可溶性Al)
酸可溶性Alは、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。酸可溶性Alの含有量が0.010質量%〜0.065質量%の範囲内にある場合に二次再結晶が安定する。このため、酸可溶性Alの含有量は0.010質量%〜0.065質量%とする。また、酸可溶性Alの含有量は0.020質量%以上であることが好ましく、0.025質量%以上であることが更に好ましい。また、酸可溶性Alの含有量は0.040質量%以下であることが好ましく、0.030質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
(N)
Nは、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量が0.0075質量%を超えていると、冷間圧延時に鋼板中にブリスターとよばれる空孔が生じる。このため、N含有量は0.0075質量%以下とする。
【0042】
(Mn、S及びSe)
Mn、S及びSeは、MnS及びMnSeを生成し、複合析出物がインヒビターとして機能する。Mn含有量が0.02質量%〜0.20質量%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。このため、Mn含有量は、0.02質量%〜0.20質量%とする。また、Mn含有量は、0.08質量%以上であることが好ましく、0.09質量%以上であることが更に好ましい。また、Mn含有量は0.50質量%以下であることが好ましい。
S及びSeの含有量は、S+0.406×Seで求められるSeqが、0.003質量%〜0.05質量%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定する。このため、Seqの含有量は0.003質量%〜0.05質量%とする。なお、S又はSeのいずれかのみが珪素鋼素材に含有されていてもよく、S及びSeの双方が含有されていてもよい。
【0043】
また、珪素鋼素材には質量%で、0.01%≦Cu≦0.30%が含まれても良い。
【0044】
(その他)
その他、珪素鋼素材は、上記成分に加えて、必要に応じて、質量%で、Cr≦0.30%、P≦0.50%、Sn≦0.30%、Sb≦0.30%、Ni≦1.0%、Mo≦0.10%、Ti≦0.015%、及びBi≦0.01%からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
【0045】
Crは、脱炭焼鈍時に形成される酸化層を改善し、グラス被膜の形成に有効である。しかし、Cr含有量が0.30質量%を超えていると、脱炭が著しく阻害されやすい。このため、Cr含有量は0.30質量%以下(0.00質量%を含む)とすることがよい。
【0046】
Pは、比抵抗を高めて鉄損を低減させやすい。しかし、P含有量が0.50質量%を超えていると、圧延性に問題が生じやすくなる。このため、P含有量は0.50質量%以下(0.00質量%を含む)とすることがよい。
【0047】
Sn及びSbは、粒界偏析元素である。本発明で用いられる珪素鋼素材は、Alを含有しているため、仕上げ焼鈍の条件によっては、焼鈍分離剤から放出される水分により、Alが酸化される場合がある。この場合、方向性電磁鋼板内の部位によって、インヒビター強度にばらつきが生じ、磁気特性もばらつくことがある。しかし、粒界偏析元素が含有されている場合には、Alの酸化を抑制することができる。つまり、Sn及びSbは、Alの酸化を抑制して、磁気特性のばらつきを抑制する。但し、Sn及びSbの含有量が総量で0.30質量%を超えていると、脱炭焼鈍時に酸化層が形成されにくくなり、グラス被膜の形成が不十分となりやすい。また、脱炭が著しく阻害されやすい。このため、Sn及びSbの含有量は総量で0.30質量%以下(0.00質量%を含む)とすることがよい。
【0048】
Niは、比抵抗を高めて鉄損を低減させやすい。また、Niは、熱間圧延鋼板の金属組織を制御して磁気特性を向上させやすい。しかし、Ni含有量が1.0質量%を超えていると、二次再結晶が不安定になりやすい。このため、Ni含有量は1.0質量%以下(0.0質量%を含む)とすることがよい。
【0049】
Moは、熱間圧延時の表面性状を改善する。しかし、Mo含有量が0.10質量%を超えるとこの効果が飽和しやすい。このため、Mo含有量は0.10質量%以下(0.00質量%を含む)とすることがよい。
【0050】
Tiは、窒化物等の析出物を形成してインヒビターとしての機能を強化しやすくなる。しかし、Ti含有量が0.015質量%を超えていると、磁束密度が低下することがある。このため、Ti含有量は0.015質量%以下(0.000質量%を含む)とすることがよい。
【0051】
Biは、硫化物等の析出物を安定化してインヒビターとしての機能を強化しやすくなる。しかし、Bi含有量が0.010質量%を超えていると、グラス被膜の形成に悪影響が及ぼすことがある。このため、Bi含有量は0.010質量%以下(0.000質量%を含む)とすることがよい。
【0052】
(残部)
残部はFeおよび不純物元素である。不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
【0053】
次に、本発明の製造方法について説明する。以下、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。本発明は、次の各工程を有して構成されている。
【0054】
(珪素鋼素材作製工程)
上記の成分組成を有する珪素鋼素材は、例えば、次のようにして得られる。上記の成分組成を有する鋼を転炉または電気炉等により溶製して溶鋼を得る。溶鋼は、必要に応じて真空脱ガス処理される。その後、溶鋼は、連続鋳造、または造塊後分塊圧延され、珪素鋼素材が得られる。
珪素鋼素材の厚みは、例えば、150mm〜350mmであることがよく、220mm〜280mmであることが好ましい。また、珪素鋼素材の厚みは、30mm〜70mmの範囲である薄い珪素鋼素材(いわゆる薄スラブ)であってもよい。薄スラブを用いる場合は、熱間圧延工程において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
【0055】
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、後に説明する条件にて加熱された珪素鋼素材の熱間圧延を行い、熱間圧延鋼板を得る工程である。熱間圧延工程では、例えば、加熱された珪素鋼素材の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を行って所定厚みの熱間圧延鋼板とする。仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を所定の温度で巻き取る。
熱間圧延に先だって行われるスラブ加熱は次のようなものである。すなわち、本発明においては、スラブ加熱温度は1350℃以下として、高温スラブ加熱の諸問題(専用の加熱炉が必要であり、また、溶融スケール量が多い等の問題)を回避する。また、本発明ではスラブ加熱の下限温度はインヒビター(AlN、MnS、およびMnSeなど)が完全溶体化する必要がある。そのために、スラブ加熱温度を、下記式で表される温度T1、T2、およびT3(℃)のいずれの温度以上とするとともに、インヒビター構成元素量を制御する必要がある。AlとNの含有量に関しては、下記式T1が1350℃以下となるようにする必要がある。同様に、MnとSの含有量、またMnとSeの含有量に関しては、それぞれ下記式のT2、T3、さらにCuを含有した場合には、CuとSの含有量に関しては、下記式のT4を満足する必要がある。
T1=10062/(2.72−log([Al]×[N]))−273
T2=14855/(6.82−log([Mn]×[S]))−273
T3=10733/(4.08−log([Mn]×[Se]))−273
T4=43091/(25.09−log([Cu]×[Cu]×[S]))−273
ここで、[Al]、[N]、[Mn]、[S]、[Se]、[Cu]は、それぞれ酸可溶性Al、N、Mn、S、Se、Cuの含有量(質量%)である。
【0056】
熱間圧延工程では、この工程で得られた熱間圧延鋼板の中心層の{100}集合組織が調整される。中心層の{100}集合組織は、I
{100}≧10に調整されることがよい。好ましくは、I
{100}≧14である。ここで、I
{100}は、回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値を示す。なお、I
{100}の具体的な測定方法は、以下のようにして行う。熱延後の試料の片面を表面層から板厚中央部まで研削・研磨し、その面をX線デ
イフラクトメータにより逆極点図測定を行う。試料の200回折X線強度とランダム試料の200X線回折強度を測定して、その比を算出する。
【0057】
粗圧延は圧延パス間の時間間隔が長く、静的再結晶または静的回復が起こるので集合組織の改善にはあまり寄与しない。従って、粗圧延は、通常の方法で所定の厚みになるように、複数回パスで行えばよい。なお、前述のとおり、いわゆる薄スラブを用いる場合は、熱間圧延工程において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略してもよい。
仕上げ圧延は、複数の圧延機を短間隔で配列(タンデム圧延機)することによって、再結晶および回復の影響を回避して圧延時の歪を加算的に付与して、最終的に所定の累積圧延率になるように、パススケジュールを設定(例えば、高速連続圧延によって4回〜10回のパス)して行えばよい。
【0058】
本発明では、990℃以下の温度域で、累積圧延率が90%以上となるように、仕上げ圧延を施して熱間圧延鋼板を得た後、700℃以下の温度で熱間圧延鋼板を巻きとることが好ましい。
仕上げ圧延を行う開始温度を990℃以下とすることで、再結晶・回復を回避して歪を効果的に蓄積させることができ、最終製品の磁束密度が向上する。仕上げ圧延を行う開始温度は、好ましくは930℃以下、より好ましくは900℃以下である。仕上げ圧延を開始する温度の下限はとくに限定されない。仕上げ圧延開始温度が低すぎる場合、鋼板が硬くなり仕上げ圧延が困難になって、生産性が低下することがある。したがって、温度域の下限は、990℃以下の範囲で、生産性を考慮して設定すればよい。温度域の下限としては、設備の圧延能力に依存するが、例えば、800℃以上とすればよい。
【0059】
仕上げ圧延の終了温度は、960℃以下であることが好ましい。仕上げ圧延の終了温度は、より好ましくは920℃以下、さらに好ましくは880℃以下の範囲である。仕上げ圧延終了温度の下限値はとくに限定されない。終了温度が低すぎる場合、仕上げ圧延が困難になって、生産性が低下することがある。したがって、仕上げ圧延終了温度の下限は、960℃以下の範囲で、生産性を考慮して設定すればよい。温度域の下限としては、設備の圧延能力に依存するが、例えば、700℃以上とすればよい。
【0060】
仕上げ圧延の累積圧延率は、90%以上となるように仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延の累積圧延率は90%以上とすることで、効果的に磁束密度が向上する。仕上げ圧延の累積圧延率は、好ましくは92.5%以上であり、より好ましくは95%以上である。ただし、累積圧延率の上限は、特に限定されないが、圧延能力等の点から、累積圧延率の上限としては、99.9%以下であることがよい。
また、仕上げ圧延の最終パス圧延率は、25%以上であることがよい。好ましくは30%以上である。
【0061】
本発明では、仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を巻き取るまでの間に、冷却(例えば、水冷)される。冷却開始までの時間が長いと鋼板が再結晶・回復してしまい、集合組織がランダム化してしまう。熱間圧延鋼板の冷却は、仕上げ圧延終了後(最終パス終了後)から2秒以内に開始されることが好ましい。より好ましくは1秒以内である。
仕上げ圧延を終了した後、700℃以下の温度で熱間圧延鋼板を巻き取る。つまり、巻き取り温度は700℃以下である。巻き取り温度は600℃以下とすることが好ましい。巻き取り温度を700℃以下とすることで、効果的に磁束密度が向上する。
巻取り温度の下限は特に限定されない。巻取り温度が低すぎる場合、巻取りを開始するまでの時間が長くなって生産性が低下することがある。また、巻取り温度が低すぎる場合、熱間圧延鋼板が硬くなり巻き取り形状の保持が困難となる。したがって、これらの点を考慮して巻取り温度の下限としては、例えば、400℃以上とすることがよい。
【0062】
熱間圧延工程では、この工程で得られた熱間圧延鋼板の中心層の集合組織{100}が調整される。中心層の集合組織{100}は、I
{100}≧10に調整されることがよい。好ましくは、I
{100}≧14である。上限は特に限定されないが、生産性等を考慮するとI
{100}≦18であることがよい。なお、中心層の集合組織{100}がI
{100}≧10を満たしても、珪素鋼素材が既述の範囲を満たしていない場合、方向性電磁鋼板の磁束密度は十分に向上しない。ここで、I
{100}は、回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値を示す。
なお、I
{100}の具体的な測定方法は、以下のようにして行う。すなわち、熱間圧延後の試料の片面を表層から中心層まで研削・研磨し、その面をX線デイフラクトメータによる逆極点図測定を行う。試料の200回折X線強度とランダム試料の200回折強度を測定し、その比を算出する。
【0063】
(焼鈍工程)
焼鈍工程は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板を焼鈍して、焼鈍鋼板を得る工程である。まず、一段目の焼鈍において、熱間圧延鋼板を1000℃〜1150℃の温度域まで加熱して再結晶させる。このとき、一段目の焼鈍では、熱間圧延工程で強化されたαファイバー(Cube系)組織の粒内から再結晶される。
次に、二段目の焼鈍において、一段目の焼鈍温度よりも低い温度である850℃〜1100℃の温度域で焼鈍し、焼鈍後の焼鈍鋼板の粒組織において、ラメラ間隔を20μm以上に調整する。より好ましい条件としては、一段目の焼鈍温度は1050℃〜1125℃の温度域であり、二段目の焼鈍温度は850℃〜950℃の温度域である。
【0064】
一段目の焼鈍において、熱間圧延鋼板の再結晶を促進する観点から、昇温速度は、5℃/秒以上で行うことがよい。好ましくは10℃/秒以上である。一段目の焼鈍において、焼鈍時間は、1100℃以上の高温では0秒以上、1100℃未満1000℃以上の温度では30秒以上で行うことがよい。
昇温速度、及び焼鈍時間の上限は特に限定されないが、例えば、昇温速度は、鋼板の幅方向の温度を均一化する観点から40℃/秒以下、焼鈍時間は、生産性の観点から100秒以下で行うことがよい。
【0065】
一方、二段目の焼鈍において、ラメラ構造を20μm以上に調整する点から、焼鈍時間は、20秒以上で行うことが好ましい。また、二段目の焼鈍後、ラメラ組織を保存する点から、冷却速度は、5℃/秒以上であることがよい。好ましくは15℃/秒以上である。
焼鈍時間、及び冷却速度の上限は特に限定されないが、例えば、焼鈍時間は、生産性の観点から100秒以下、冷却速度は設備に依存するが鋼板の幅方向の温度を均一化する観点等から、50℃/秒以下で行うことがよい。
なお、ラメラ間隔の距離の測定方法としては、次のように行う。すなわち、焼鈍試料の圧延に平行な断面の金属組織を顕微鏡観察し、線分法により板厚方向に平行な直線とラメラ(粒界および旧γ相)の交点の数を測定し、その数を基にラメラ間隔を算出する(JIS G 0551)。
【0066】
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、焼鈍工程で得た焼鈍鋼板を、1回の冷間圧延、又は焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延により冷間圧延鋼板を得る工程である。
冷間圧延工程の操作は、製品の特性とコストとに応じて選択すればよい。
冷間圧延工程において、最終の冷間圧延における圧延率(最終冷間圧延率)は80%以上とすることが好ましい。最終冷間圧延率は、より好ましくは90%以上である。最終冷間圧延率の上限は特に限定されないが、生産性や圧延機の性能等の点から、95%以下であることがよい。最終冷間圧延率が上記範囲であると、{411}や{111}等の一次再結晶方位を発達させる点で好ましい。
【0067】
(脱炭焼鈍工程)
脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得た冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程である。冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷間圧延鋼板中に含まれるCが除去される。脱炭焼鈍は、冷間圧延鋼板中に含有する「C」を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
【0068】
脱炭焼鈍鋼板に生じる一次再結晶を制御する方法としては、例えば、脱炭焼鈍工程において、鋼板を加熱する昇温速度を調整する方法が挙げられる。例えば、鋼板の温度が550℃〜720℃の範囲にある間、40℃/秒以上の昇温速度で鋼板を加熱するのがよい。昇温速度は、好ましくは75℃/秒〜125℃/秒である。脱炭焼鈍工程の操作条件は、この範囲の条件で行うと、{411}方位粒が再結晶しやすくなる。
脱炭焼鈍において、鋼板の温度が550℃〜720℃の範囲にある間、冷間圧延鋼板を加熱する方法は特に限定するものではない。方向性電磁鋼板のキュリー点が、550℃程度であり、加熱が必要な温度範囲の上限が720℃である。そのため、冷間圧延鋼板を加熱する方法としては、昇温過程における鋼板の温度が550℃から720℃にある間、誘導加熱装置による誘導加熱が好ましい。
【0069】
また、上記の昇温速度の効果を安定して発揮させるためには、加熱した後に、770℃〜900℃の温度域で、雰囲気ガスの酸化度(PH
2O/PH
2)を0.15超1.1以下とし、鋼板の酸素量を2.3g/m
2以下とすることが有効である。雰囲気ガスの酸化度が0.15以下では、鋼板表面に形成されるグラス被膜の密着性が劣化しやすく、1.1を越えるとグラス被膜に欠陥が生じやすい。また、鋼板の酸素量を2.3g/m
2以下とすることにより、(Al,Si)Nインヒビターの分解を抑制して高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板の製品が安定して製造しやすくなる。
また、脱炭焼鈍を行う際に、鋼板の酸素量を2.3g/m
2以下とすると同時に、一次再結晶粒径が15μm以上となるようにすることにより、二次再結晶がより安定して発現され、さらに優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0070】
(窒化処理)
窒化処理は、脱炭処理の開始から、仕上げ焼鈍における二次再結晶開始までの間に、鋼板の窒素量を増加させる処理である。
窒化処理としては、例えば、脱炭焼鈍に引き続いて、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で焼鈍する処理、MnN等の窒化能のある粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板を仕上げ焼鈍する処理等が挙げられる。
脱炭焼鈍を行う際の昇温速度を高めた場合に、二次再結晶をより安定的に行わせるためには、(Al,Si)Nの組成比率を調整することが望ましい。また、窒化処理後の鋼板中の窒素量としては、鋼板中のAl量:[Al]に対する窒素量:[N]の比、すなわち[N]/[Al]が、質量比として14/27以上、望ましくは2/3以上となるようにするとよい。
【0071】
(焼鈍分離剤塗布工程)
鈍分離剤塗布工程は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。
【0072】
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。具体的には、仕上げ焼鈍工程では、二次再結晶によって、{100}<001>方位粒を優先成長させる。
【0073】
以上のような実施形態によれば、効果的に磁束密度の高い方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0074】
なお、本発明は、上記に限定されるものではない。上記は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を例示して、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
表1に示す成分を含有し、残部Feおよび不純物元素を含む珪素鋼素材を得る。この珪素鋼素材を表2に示すように1150〜1420℃の温度域で加熱する。
珪素鋼素材の加熱後、複数回のパスで粗圧延を施す。その後、仕上げ圧延を表2に示す種々の条件で行い、次いで、表2に示す種々の温度で熱間圧延鋼板を巻き取る。なお、仕上げ圧延の温度は、開始から終了までの間、仕上げ開始温度よりも高くならない条件で行う。
【0077】
その後、この熱間圧延鋼板に対して表2に示す種々の条件で焼鈍を施して焼鈍鋼板を得る。次いで、焼鈍鋼板に対して、0.28mmの厚さになるまで冷間圧延を施し、冷間圧延鋼板を得る。
その後、冷間圧延鋼板を830℃の温度で脱炭焼鈍を行って一次再結晶を生じさせる。
【0078】
次いで、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して鋼板中の窒素を増加させる窒化処理を行う。そして、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布する。その後、仕上げ焼鈍を行って二次再結晶を生じさせる。
【0079】
表2に、上記の実験条件、および、焼鈍鋼板のラメラ間隔、磁束密度を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の範囲内である本発明例では、本発明の範囲外である比較例に比べて、良好な磁束密度が得られる。
【0083】
以上により、従来に比べて高い磁束密度を得ることができる方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。