特許第6607011号(P6607011)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607011
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20191111BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
   F02D13/02 G
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-239341(P2015-239341)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-106347(P2017-106347A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 勝平
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129110(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/133379(WO,A1)
【文献】 特開2006−037886(JP,A)
【文献】 特開2006−170026(JP,A)
【文献】 特開2002−097912(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/050070(WO,A1)
【文献】 特開2014−051175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体に内包され、同じ回転軸芯上に配置されて前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される進角室及び遅角室と、
前記駆動側回転体に支持された第1ロック部材および第2ロック部材を、前記従動側回転体に形成された第1凹部および第2凹部に各別に付勢係合させ、両回転体の相対回転位相を保持するロック機構と、
前記第1・第2凹部に対する作動流体の供給により前記第1・第2ロック部材を前記第1・第2凹部から離脱させてロック状態を解除し、前記進角室および遅角室に対する作動流体の給排により前記相対回転位相を制御する流体制御部とを備え、
遠心力によりロック部材がロック解除状態となる前記駆動側回転体の回転数として、前記第1ロック部材の第1解除回転数が、前記第2ロック部材の第2解除回転数より小さく設定され、
前記流体制御部は、ロック解除時に、前記相対回転位相を前記第1凹部が前記第1ロック部材に剪断力を作用させない位相に制御し、
前記駆動側回転体の回転数が前記第1解除回転数より大きい状態で前記第2凹部に作動流体を供給する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記第1ロック部材の質量が、前記第2ロック部材の質量より大きく設定されている請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記第1解除回転数が、前記内燃機関のアイドリング時の回転数より大きく設定されている請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体とを有し、これらの相対回転位相を拘束するロック機構を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された弁開閉時期制御装置として特許文献1には、駆動側回転体に従動側回転体を内包し、従動側回転体に形成されたロック凹部に対して係脱可能となるロック部材を駆動側回転体に対し半径方向に出退自在に支持し、スプリングにより突出方向に付勢した技術が示されている。
【0003】
この特許文献1では一対のロック部材と、各々のロック部材に対応する一対のロック凹部とが形成され、少なくとも一方のロック凹部には段状部が形成されている。段状部が形成される理由は、ロック状態に移行する場合に段状部に対応する一方のロック部材を段状部に係合させて相対回転位相の変動領域を小さくし、他方のロック部材のロック凹部への嵌り込みを促進するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004‐257313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるように、一対のロック部材を備えたものでは、単一のロック部材を備えたものと比較してロック状態への移行を容易にするものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるように、駆動側回転体に出退自在にロック部材を支持し、ロック部材が係合するロック凹部を従動側回転体に形成したものでは、エンジンの稼働時には、駆動側回転体から従動側回転体に伝えられる回転力や、カム変動トルクによりロック部材に対して剪断方向に大きい力が作用することになり、ロック凹部に作動油を供給しても迅速なロック解除を行えないこともあった。
【0007】
このような不都合を解消するために、進角室又は遅角室に作動油を供給することで剪断力の作用を抑制した状態でロック解除が行われていた。つまり、一方のロック部材に作用する剪断力を抑制するために、進角室と遅角室とのうちの一方に作動油を供給して一方のロック部材のロック解除を行う。この後に、他方のロック部材に作用する剪断力を抑制するために、進角室と遅角室とのうち他方に作動油を供給して他方のロック部材のロック解除を行っていたのである。
【0008】
しかしながら、このような制御形態では、バルブの制御に時間を要するだけでなく、相対回転位相を変化させる方向に油圧が作用するまでに時間を要するため、結果として、ロック状態の解消に時間を要するものであった。
【0009】
このような理由から、2つのロック部材を有するロック機構のロック状態の解除を迅速に行う弁開閉時期制御装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体に内包され、同じ回転軸芯上に配置されて前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に区画形成される進角室及び遅角室と、
前記駆動側回転体に支持された第1ロック部材および第2ロック部材を、前記従動側回転体に形成された第1凹部および第2凹部に各別に付勢係合させ、両回転体の相対回転位相を保持するロック機構と、
前記第1・第2凹部に対する作動流体の供給により前記第1・第2ロック部材を前記第1・第2凹部から離脱させてロック状態を解除し、前記進角室および遅角室に対する作動流体の給排により前記相対回転位相を制御する流体制御部とを備え、
遠心力によりロック部材がロック解除状態となる前記駆動側回転体の回転数として、前記第1ロック部材の第1解除回転数が、前記第2ロック部材の第2解除回転数より小さく設定され、
前記流体制御部は、ロック解除時に、前記相対回転位相を前記第1凹部が前記第1ロック部材に剪断力を作用させない位相に制御し、
前記駆動側回転体の回転数が前記第1解除回転数より大きい状態で前記第2凹部に作動流体を供給することを特徴とする。
【0011】
これによると、ロック機構のロック状態を解除する場合には、第1解除回転数を超えた状況において、第1ロック部材に作用する剪断力を作用させない方向に駆動側回転体と従動側回転体の相対回転位相を制御することで、剪断力の作用が抑制され遠心力の作用により第1ロック部材が第1凹部から離脱する。次に、第2凹部に作動流体を供給することにより第2ロック部材を第2凹部から離脱させることが可能となる。
つまり、この構成では、第1ロック部材のロック状態を解除するために作動流体を供給する必要がないため、例えば、流体制御部を構成する制御弁のスプール等を作動させる時間が不要となり、ロック機構のロック解除の高速化を実現する。
特に、この構成では、第1ロック部材のロック状態を解除するタイミングで作動流体の圧力が充分でなくてもロック状態の解除が可能となる。
従って、2つのロック部材を有するロック機構のロック状態の解除を迅速に行う弁開閉時期制御装置が構成された。
【0012】
本発明は、前記第1ロック部材の質量が、前記第2ロック部材の質量より大きく設定されても良い。
【0013】
これによると、付勢部材の付勢力を異ならせることなく、質量の差を設定するだけで迅速なロック状態の解除を実現できる。
【0014】
本発明は、前記第1解除回転数が、前記内燃機関のアイドリング時の回転数より大きく設定されているのが好ましい。
【0015】
これによると、内燃機関がアイドリング状態にある場合には第1ロック部材のロック状態が遠心力によって解除されることはない。よって、例えば、アイドリングによるエンジンの暖機運転中や、エンジン停止前のロック機構をロック状態に設定した場合には、相対回転位相が変化せず、安定したエンジン回転状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】弁開閉時期制御装置の構成を表す図である。
図2】中間ロック位相でのロック状態を表す図1のII−II線断面図である。
図3】第1ロック部材のロック状態が解除された状態を示す断面図である。
図4】第1・第2ロック部材のロック状態が解除された状態を示す断面図である。
図5】ロック解除時の作動を示すタイミングチャートである。
図6】ロック解除ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1図2に示すように、内燃機関としてのエンジンEの吸気バルブの開閉時期を設定する弁開閉時期制御部10と、この弁開閉時期制御部10に対する作動油(作動流体の一例)を制御する作動油制御部20(流体制御部の一例)と、作動油制御部20を制御する制御ユニット(ECU)40と、を備えて弁開閉時期制御装置が構成されている。
【0018】
エンジンEは乗用車等の車両に備えられるものを想定しており、このエンジンEで駆動される油圧ポンプPからの作動油(作動流体)は作動油制御部20(流体制御部)に供給される。この作動油制御部20は、電磁弁として構成される位相制御弁24(OCV)と、電磁弁として構成されるロック制御弁25(OSV)とを備えている。
【0019】
位相制御弁24は、弁開閉時期制御部10の外部ロータ11(駆動側回転体の一例)と内部ロータ12(従動側回転体の一例)との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)の制御を実現する。また、ロック制御弁25は、弁開閉時期制御部10のロック機構Lの制御を実現する。
【0020】
制御ユニット40は、クランクシャフト1の回転数(単位時間あたりの回転数)を検知する回転数センサ7と、相対回転位相を検知する位相検知センサ8からの検知信号を取得することにより、位相制御弁24とロック制御弁25との制御を可能にする(この制御形態は後述する)。
【0021】
〔弁開閉時期制御部〕
弁開閉時期制御部10は、エンジンEのクランクシャフト1と同期回転する外部ロータ11(駆動側回転体)と、エンジンEの燃焼室の吸気バルブを開閉する吸気カムシャフト2に対して連結ボルト13により連結する内部ロータ12(従動側回転体)とを備えている。
【0022】
エンジンEは、シリンダブロックの複数のシリンダボアにピストン3を収容し、これらのピストン3をコネクティングロッド4によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。
【0023】
吸気カムシャフト2は、エンジンEに対して回転軸芯Xを中心に回転自在に支持されている。弁開閉時期制御部10は、外部ロータ11に対して内部ロータ12を内包し、外部ロータ11の軸芯と、内部ロータ12の軸芯とが回転軸芯Xと同軸芯上に配置されることにより、回転軸芯Xを中心にして夫々が相対回転自在に構成されている。
【0024】
外部ロータ11は、フロントプレート14とリヤプレート15とを締結ボルト16で締結した構成を有し、フロントプレート14とリヤプレート15とに挟み込まれる位置に内部ロータ12が配置(内包)されている。
【0025】
内部ロータ12には、回転軸芯Xと同軸芯で開口が形成され、この開口に挿通する連結ボルト13により、この内部ロータ12が吸気カムシャフト2に連結している。リヤプレート15の外周にはタイミングスプロケット15Sが形成されている。
【0026】
タイミングスプロケット15Sと、エンジンEのクランクシャフト1に設けた出力スプロケット1Sとに亘ってタイミングチェーン5を巻回することで、外部ロータ11はクランクシャフト1と同期回転する。図面には示していないが、排気側のカムシャフトの前端にも弁開閉時期制御部10と同様の構成の装置が備えられており、この装置に対してもタイミングチェーン5から回転力が伝達される。
【0027】
図2に示すように、外部ロータ11には、径方向内側に向けて突出する複数の突出壁11Tが一体的に形成されている。内部ロータ12は複数の突出壁11Tの突出端に密接する外周を有する円柱状に形成され、この内部ロータ12の外周部分に複数のベーン17が外方に突出する形態で備えられている。
【0028】
この構成から、外部ロータ11に内部ロータ12を内装した状態では、内部ロータ12の外方において回転方向で隣接する突出壁11Tの間に流体圧室Cが形成される。この流体圧室Cがベーン17で仕切られることにより進角室Caと遅角室Cbとが区画形成される。
【0029】
図2に示すように、弁開閉時期制御部10は、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ11が駆動回転方向Sに向けて回転する。そして、外部ロータ11に対して内部ロータ12が駆動回転方向Sと同方向へ回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向への回転方向を遅角方向Sbと称する。外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相で遅角方向Sbの作動端を最遅角位相と称し、相対回転位相で進角方向Saの作動端を最進角位相と称している。
【0030】
この弁開閉時期制御部10では、進角室Caに作動油が供給されることで相対回転位相が進角方向Saに変位し、エンジンEの吸気圧縮比が高められる。これとは逆に、遅角室Cbに作動油を供給することで相対回転位相が遅角方向Sbに変位し、エンジンEの吸気圧縮比が低減するようにクランクシャフト1と吸気カムシャフト2との関係が設定されている。
【0031】
図1に示すように、内部ロータ12とフロントプレート14とに亘って、外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相が、最遅角位相から中間ロック位相M(図2を参照)に達するまで付勢力を作用させるトーションスプリング18が備えられている。なお、トーションスプリング18の付勢力が作用する範囲は、中間ロック位相Mを超えるものでも良く、中間ロック位相Mに達しないものであっても良い。
【0032】
内部ロータ12には進角室Caに連通する進角制御油路21と、遅角室Cbに連通する遅角制御油路22と、後述する2つのロック凹部(第1ロック凹部35と第2ロック凹部36)に連通するロック解除油路23とが形成されている。また、この弁開閉時期制御装置ではエンジンEのオイルパン1Aに貯留される潤滑油を作動油として用いている。
【0033】
〔弁開閉時期制御部:ロック機構〕
弁開閉時期制御部10のロック機構Lは、ロック解除油路23に作動油が供給されない場合にロック状態への移行が可能となり、ロック解除油路23に作動油が供給される場合にロック状態の解除を行えるように構成されている。進角方向Saの作動端となる相対回転位相を最進角位相と称し、遅角方向Sbの作動端となる相対回転位相を最遅角位相と称している。中間ロック位相Mは、最進角位相と最遅角位相との間に設定され、低温状態のエンジンEの良好な始動を実現する位相である。
【0034】
図2図4に示すように、ロック機構Lは、外部ロータ11に対し、径方向内方に出退自在に支持される第1ロック部材31と、第2ロック部材32と、これらを突出付勢する第1スプリング33と、第2スプリング34とを備えている。更に、ロック機構Lは、第1ロック部材31が係合するため内部ロータ12の外周に形成された第1ロック凹部35(第1凹部の一例)と、これと同様に第2ロック部材32が係合するため内部ロータ12の外周に形成された第2ロック凹部36(第2凹部の一例)とを備えている。
【0035】
第1ロック部材31と第2ロック部材32とは、外部ロータ11に対して周方向で所定の間隔で配置されるものであり、回転軸芯Xに対して接近する作動と、回転軸芯Xから離間する作動とが可能なように外部ロータ11に形成されたスリットに対してスライド移動自在に支持されている。これらにはプレート状の部材が用いられている。
【0036】
特に、この構成では、第1ロック部材31の質量を、第2ロック部材32の質量より大きくするために、第2ロック部材32の内部の一部に空洞部32Sを形成しており、第1スプリング33と第2スプリング34とに等しい付勢力のものが用いられている。尚、第1ロック部材31の質量を、第2ロック部材32の質量より大きくするために、例えば、比重の異なる材料を用いても良い。
【0037】
これにより、弁開閉時期制御部10の回転数(単位時間の回転数:回転速度)が予め設定された第1解除回転数を超えた場合に、遠心力により第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱してロック解除位置まで移動可能に構成されている。この第1解除回転数は、例えば、エンジンEのアイドリング時の回転数より大きい値に設定されている。また、弁開閉時期制御部10の回転数が第1解除回転数より大きい値の第2解除回転数を超えた場合に、遠心力により第2ロック部材32が第2ロック凹部36から離脱してロック解除位置まで移動可能となる。
【0038】
この構成では第2解除回転数が設定されているが、ロック機構Lのロック状態を解除する場合には、後述するように弁開閉時期制御部10の回転数が第2解除回転数に達する以前に第2ロック凹部36に作動油が供給され第2ロック部材32を第2ロック凹部36から離脱させる制御が行われる。
【0039】
図2に示すように、第1ロック凹部35と第2ロック凹部36とは、対応するロック部材の板厚より幅広(内部ロータ12の周方向で幅広)で回転軸芯Xと平行姿勢となる溝状に形成されている。また、第1ロック凹部35と第2ロック凹部36との開口部分で駆動回転方向Sの下流側には各々に浅い溝状となる第1段状部35aと第2段状部36bとが形成されている。これらの段状部は、ロック部材がロック凹部に嵌り込む以前に一時的係合することにより外部ロータ11と内部ロータ12との相対変位(回転軸芯Xを中心とする相対的な揺動)を小さくしてロック凹部への嵌り込みを助けるラチェットとして機能する。
【0040】
そして、ロック機構Lがロック状態にある場合には、図2に示すように、第1ロック部材31の突出端が、第1スプリング33の付勢力により第1ロック凹部35の底壁に接触(底壁の小突起により少し浮き上がった状態で接触)すると共に、第1ロック凹部35の内壁面のうち、周方向で駆動回転方向Sの上流側の第1内壁面35sに接触する。また、第2ロック部材32の突出端が、第2スプリング34の付勢力により第2ロック凹部36の底壁に接触(底壁の小突起により少し浮き上がった状態で接触)すると共に、第2ロック凹部36の内壁面のうち、周方向で駆動回転方向Sの下流側の第2内壁面36sに接触する。これにより、相対回転位相が小さく変動する現象(ガタツキ)を抑制する状態で相対回転位相が保持される。
【0041】
〔弁開閉時期制御装置の流体制御機構〕
位相制御弁24は、その電磁ソレノイドに供給される電力(制御信号)によりスプールを進角ポジションと遅角ポジションと中立ポジションとの3ポジションに切換操作自在に構成されている。
【0042】
この位相制御弁24は、電磁ソレノイドに電力を供給しない状態(デューティ比0%)でスプールが遅角ポジションに維持され、電磁ソレノイドに対して最大の電力(デューティ比100%)を供給することでスプールが進角ポジションに操作され、デューティ比50%程度の電力を供給することで中立ポジションに操作される。
【0043】
この位相制御弁24の構成から、制御ユニット40の制御により位相制御弁24の電磁ソレノイドに電力が供給されない場合には、油圧ポンプPからの作動油が遅角制御油路22を介して遅角室Cbに供給されると共に、進角室Caの作動油が進角制御油路21から排出される。
【0044】
これとは逆に、位相制御弁24の電磁ソレノイドに最大の電力が供給された場合には、油圧ポンプPからの作動油が進角制御油路21を介して進角室Caに供給されると共に、遅角室Cbの作動油が遅角制御油路22から排出される。尚、位相制御弁24のスプールが中立ポジションに設定された場合には、進角室Caと遅角室Cbのいずれにも作動油の給排は行われず相対回転位相が保持される。
【0045】
ロック制御弁25は、電磁ソレノイドに電力を供給しない状態(デューティ比0%)でスプールがロックポジションとなり、電磁ソレノイドに対して最大の電力(デューティ比100%)を供給することでスプールがアンロックポジションとなる。
【0046】
このロック制御弁25の構成から、電磁ソレノイドに電力が供給されない場合には、スプールがロックポジションに保持され、ロック解除油路23に作動油は供給されない。これに対して、電磁ソレノイドに電力が供給された場合には、スプールはアンロックポジションに操作されロック解除油路23に作動油が供給される。
【0047】
〔制御構成・制御形態〕
図1に示すように、制御ユニット40には、回転数センサ7と、位相検知センサ8とからの信号が入力し、位相制御弁24(OCV)とロック制御弁25(OSV)とに制御信号を出力するように構成されている。
【0048】
制御ユニット40は、位相制御部41と、ロック制御部42とを備えている。これらはソフトウエアで構成されるものであるが、各々の一部をロジック回路等のハードウエアで構成することや、全てをハードウエアで構成することも可能である。
【0049】
位相制御部41は、ロック制御弁25のスプールをアンロックポジションに維持した状態で位相制御弁24を制御することにより位相検知センサ8からの信号をフィードバックする形態で相対回転位相を、目標とする位相まで変位させる制御を行う。また、ロック制御部42は、位相制御弁24とロック制御弁25とを制御することによりロック機構Lをロック状態に移行する制御、及び、ロック状態を解除する制御を行う。
【0050】
ロック制御部42は、エンジンEの停止時には、エンジンEが完全に停止する以前にロック機構Lをロック状態に移行する制御を行う。これによりエンジンEの始動時にはロック機構Lがロック状態にある。
【0051】
このようにロック機構Lがロック状態にあるため、エンジンEの始動時には、油圧ポンプPから作動油が供給されない状況で吸気カムシャフト2から変動トルクが作用しても、ロック機構Lが外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相の変動を阻止して吸気タイミングの変動や異音の発生を抑制する。
【0052】
特に、この弁開閉時期制御装置では、エンジンEの始動の後に弁開閉時期制御部10の回転数が第1解除回転数を超えた時点で、遠心力で第1ロック部材31のロック状態の解除が許される。この後、ロック制御部42がロック制御弁25を制御することによりロック解除油路23に作動油を供給して第2ロック部材32のロック状態の解除を行うように制御形態が設定されている。以下に、ロック機構Lのロック状態の解除を実現する制御を説明する。
【0053】
エンジンEが停止した時点では、図2に示す如くロック機構Lの第1ロック部材31が第1ロック凹部35に係合し、第2ロック部材32が第2ロック凹部36に係合するロック状態にある。また、図5のT0のタイミングに示すように、位相制御弁24のスプールは遅角ポジションにあり、ロック制御弁25のスプールはロックポジションにある。
【0054】
このような状態で、エンジンEを始動した場合には、図6にロック解除ルーチンとして示すフローチャートに従う制御が行われ、図5のタイミングチャートに示すように各部が作動する。
【0055】
具体的には、エンジンEを始動し、例えば、アクセルペダルを踏み込むことにより弁開閉時期制御部10の回転数が増大した場合には、油圧ポンプPから吐出する作動油の油圧も上昇する。
【0056】
ここでエンジンEの稼動時の状況を考えると、ロック機構Lでは、第1ロック部材31と、第1ロック凹部35の第1内壁面35sとの間、あるいは、第2ロック部材32と、第2ロック凹部36の第2内壁面36sとの間で剪断力が作用する。このような理由から、ロック解除油路23に作動油を供給しても迅速なロック解除を行い難いものであった。
【0057】
これに対して、エンジンEの始動時には、位相制御弁24のスプールが遅角ポジションにあるためエンジンEの回転数が増大した場合には、これに伴い遅角室Cbに供給される作動油の油量が増大し、油圧も上昇する。そのため、弁開閉時期制御部10では、相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる方向に(第1ロック部材31に対する剪断力を作用させない位相に向けて)力が作用し、第1ロック部材31と、第1ロック凹部35との間に作用する剪断力が解消される。尚、この方向に力が作用することにより、第2ロック部材32と第2内壁面36sとの間で剪断力は増大する。
【0058】
このような理由から、外部ロータ11の回転数がアイドリング回転数に対応する値より高い所定の値に達することにより、第1ロック部材31は遠心力によりT1のタイミングで図3に示すように第1ロック凹部35から離脱する。
【0059】
また、図6に示すロック解除ルーチンでは、回転数センサ7で検知される回転数が第1解除回転数以上の設定数に達していることを判定した場合には、第1ロック部材31が遠心力により第1ロック凹部35から離脱していると判定できるため(#01ステップ)、設定時間の経過を待つ(#02ステップ)。
【0060】
この設定時間が経過したT2のタイミングにおいて、位相制御弁24のスプールを進角ポジションに設定すると共に、ロック制御弁25のスプールをアンロックポジションに設定する(#03ステップ)。尚、T2のタイミングでの回転数は、弁開閉時期制御部10の回転数は第2解除回転数未満に設定されている。
【0061】
このような制御が行われることにより、第2ロック部材32と、第2ロック凹部36との間に作用する剪断力が抑制され、この抑制状態で第2ロック凹部36に供給される作動油の圧力によりT3のタイミングで図4に示すように、第2ロック部材32が第2ロック凹部36から離脱する。
【0062】
この制御の後には、ロック機構Lのロック状態は解除され、相対回転位相が進角方向Saへ変位を開始する。このような進角方向への変位を位相検知センサ8が検知した後に、T4のタイミングで、位相制御弁24のスプールを中立ポジションに操作し、このロック解除ルーチンを終了する(#04ステップ)。
【0063】
尚、このようにロック解除ルーチンの終了の後に、相対回転位相を目標とする位相に変位させる場合には、このルーチンに続いて制御ユニット40が位相制御弁24を操作することになる。
【0064】
〔実施形態の作用・効果〕
つまり、ロック機構Lを、第1ロック部材31と第2ロック部材32とを備えて構成し、外部ロータ11が第1解除回転数を超えることにより遠心力の作用により第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱できるように構成する。また、エンジンEが停止する際には、エンジンEが完全に停止する以前にロック機構Lがロック状態に達するように制御形態を設定する。そして、エンジンEが停止する状況では位相制御弁24のスプールが遅角ポジションに保持され、ロック制御弁25のスプールがロックポジションに保持されるように構成する。
【0065】
これにより、エンジンEの始動の後には、遅角室Cbに供給される作動油の圧力により第1ロック部材31の突出端と、第1ロック凹部35の第1内壁面35sとの間に作用する剪断力が抑制され、遠心力の作用により第1ロック部材31を第1ロック凹部35から離脱させる作動を実現する。
【0066】
このように第1ロック部材31が遠心力で第1ロック凹部35から離脱するため、制御ユニット40での制御は不要であり、作動油の油量や油圧が充分でなくともロック解除が実現する。また、第1ロック部材31のロック状態が解除された場合には、第2ロック部材32の突出部が第2ロック凹部36の内部で変位可能な状態に達するものの、遅角室Cbに対して作動油が供給されているため、相対回転位相は変動するものの急激な変動を招くものではない。
【0067】
この後に、回転数が上昇し油圧が充分に上昇した状態で位相制御弁24を制御し、ロック制御弁25を制御することにより、第2ロック部材32に作用する剪断力を低減する状態で作動油の油圧により第2ロック部材32を第2ロック凹部36から離脱させてロック機構Lのロック状態の解除が実現する。
【0068】
これにより、2つのロック部材を制御するために位相制御弁24を2度操作する必要がなく、しかも、油圧の上昇を待つことなくロック機構Lのロック解除を開始することが可能となり、迅速なロック解除を実現するのである。
【0069】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0070】
(a)制御ユニット40の制御形態として、例えば、エンジンEがアイドリング状態にある場合にロック機構Lをロック状態するように制御を行い、このようにロック機構Lがロック状態に達した後に、ロック状態を解除する場合に、本発明の構成を利用して迅速なロック解除を実現しても良い。
【0071】
(b)第1ロック部材31と、第2ロック部材32とに作用するスプリングの付勢力を異ならせることで第1ロック部材31の第1解除回転数を設定する。このように構成することにより第1ロック部材31と第2ロック部材32とに等しい質量の材料を用いることが可能となる。
【0072】
(c)実施形態では、第2ロック部材32を、第2ロック凹部36から離脱させる際に、相対回転位相を第2ロック部材32に作用する剪断力を解消する方向に変位させていたが、これに代えて、剪断力を抑制するための制御を行わず、第2ロック凹部36に作動油を供給するように制御形態を設定しても良い。
【0073】
つまり、第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱した後には、エンジンEの回転数が上昇し、作動油の油圧が上昇しているため、ロック制御弁25の制御により高い油圧を利用して第2ロック部材32の第2ロック凹部36からの離脱させるのである。このような制御を行うことにより一層迅速なロック解除を実現する。
【0074】
(d)実施形態のフローチャートで説明したように、回転数が設定数(第1解除回転数以上の値)に達した場合において、第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱したことを確認するため、実施形態の#02ステップの処理に代えて、位相検知センサ8の信号を取得するように制御形態を設定しても良い。つまり、第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱した場合には、カム変動トルクの作用によって相対回転位相が決まった範囲で変動する。このような理由から、相対回転位相の変動現象を位相検知センサ8で検知した場合に「離脱」と判定し、次の制御に移行するように制御形態を設定する。
【0075】
このように制御形態を設定することにより、第1ロック部材31が第1ロック凹部35から離脱したことを適正に確認でき、この確認の後に、次の制御が実行されるため、ロック機構Lのロック解除を確実に行える。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、内燃機関の弁開閉タイミングを設定するため駆動側回転体と従動側回転体とを有し、これらの相対回転位相をロックするロック機構を有する弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 クランクシャフト
2 カムシャフト(吸気カムシャフト)
11 駆動側回転体(外部ロータ)
12 従動側回転体(内部ロータ)
20 流体制御部(作動油制御部)
31 第1ロック部材
32 第2ロック部材
35 第1凹部(第1ロック凹部)
36 第2凹部(第2ロック凹部)
Ca 進角室
Cb 遅角室
E 内燃機関(エンジン)
L ロック機構
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6