(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記状態推定部は、さらに、前記充電及び前記放電のうちの前記一方の状態において、前記第一変化量以下の大きさの変化量を有する第二期間における前記蓄電素子の通電による劣化量を示す第二劣化量を、前記第一変化量が前記所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる前記第二劣化量の値よりも小さい値に低減させて、前記蓄電素子の状態を推定する
請求項1または2に記載の蓄電素子状態推定装置。
前記状態推定部は、合計の変化量が前記第一変化量以下の大きさとなる複数の期間からなる前記第二期間を取得し、当該複数の期間のそれぞれにおける前記蓄電素子の通電による劣化量を示す前記第二劣化量を低減させる
請求項3に記載の蓄電素子状態推定装置。
前記状態推定部は、所定の第三期間に前記第二期間が含まれるか否かを判断し、前記第三期間に前記第二期間が含まれると判断した場合にのみ、前記第二劣化量を低減させる
請求項3または4に記載の蓄電素子状態推定装置。
前記判断部は、前記蓄電素子に対して充電及び放電を行っていない状態から前記他方に切り替わった時点を前記第一時点として、または、前記他方から前記蓄電素子に対して充電及び放電を行っていない状態に切り替わった時点を前記第二時点として、前記第一変化量が前記所定量よりも小さいか否かを判断する
請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電素子状態推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置及び当該蓄電素子状態推定装置を備える蓄電システムについて説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0024】
(実施の形態)
まず、蓄電システム10の構成について、説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100を備える蓄電システム10の外観図である。
【0026】
同図に示すように、蓄電システム10は、複数(同図では5個)の蓄電素子状態推定装置100と、複数(同図では5個)の蓄電素子200と、当該複数の蓄電素子状態推定装置100及び複数の蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備えている。つまり、1つの蓄電素子200に対応して、1つの蓄電素子状態推定装置100が配置されている。
【0027】
蓄電素子状態推定装置100は、それぞれ蓄電素子200の上方に配置され、所定時点での蓄電素子200の状態を推定する回路を搭載した平板状の回路基板である。具体的には、1つの蓄電素子状態推定装置100は、1つの蓄電素子200に接続されており、当該1つの蓄電素子200から情報を取得して、当該1つの蓄電素子200の所定時点での劣化状態などの状態を推定する。
【0028】
なお、ここでは、蓄電素子状態推定装置100は、それぞれの蓄電素子200の上方に配置されているが、蓄電素子状態推定装置100はどこに配置されていてもよい。また、蓄電素子状態推定装置100の形状も特に限定されない。
【0029】
また、蓄電素子状態推定装置100の個数は5個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。つまり、複数の蓄電素子200に対応して、1つの蓄電素子状態推定装置100が配置されていてもよいし、1つの蓄電素子200に対応して、複数の蓄電素子状態推定装置100が配置されていてもよい。つまり、いくつの蓄電素子200にいくつの蓄電素子状態推定装置100が接続されている構成でもかまわない。この蓄電素子状態推定装置100の詳細な機能構成の説明については、後述する。
【0030】
蓄電素子200は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。また、同図では5個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。なお、蓄電素子200の個数は5個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。また蓄電素子200の形状も特に限定されず、円柱形状や長円柱形状などであってもよい。
【0031】
蓄電素子200は、容器と、当該容器に突設された電極端子(正極端子及び負極端子)とを備えており、当該容器の内方には、電極体と、当該電極体及び電極端子を接続する集電体(正極集電体及び負極集電体)とが配置され、また、電解液などの液体が封入されている。電極体は、正極、負極及びセパレータが巻回されて形成されている。なお、電極体は、巻回型の電極体ではなく、平板状極板を積層した積層型の電極体であってもよい。
【0032】
正極は、アルミニウムやアルミニウム合金などからなる長尺帯状の金属箔である正極基材層の表面に、正極活物質層が形成された電極板である。なお、正極活物質層に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、正極活物質として、LiMPO
4、LiMSiO
4、LiMBO
3(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、チタン酸リチウム、LiMn
2O
4やLiMn
1.5Ni
0.5O
4等のスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiMO
2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のリチウム遷移金属酸化物等を用いることができる。
【0033】
負極は、銅や銅合金などからなる長尺帯状の金属箔である負極基材層の表面に、負極活物質層が形成された電極板である。なお、負極活物質層に用いられる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、負極活物質として、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−ケイ素、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
5O
12等)、ポリリン酸化合物、あるいは、一般にコンバージョン負極と呼ばれる、Co
3O
4やFe
2P等の、遷移金属と第14族乃至第16族元素との化合物などが挙げられる。
【0034】
セパレータは、樹脂からなる微多孔性のシートである。なお、蓄電素子200に用いられるセパレータは、特に従来用いられてきたものと異なるところはなく、蓄電素子200の性能を損なうものでなければ適宜公知の材料を使用できる。また、容器に封入される電解液(非水電解質)としても、蓄電素子200の性能を損なうものでなければその種類に特に制限はなく様々なものを選択することができる。
【0035】
なお、蓄電素子200は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもかまわない。
【0036】
次に、蓄電素子状態推定装置100の詳細な機能構成について、説明する。
【0037】
図2は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
【0038】
蓄電素子状態推定装置100は、蓄電素子200の状態を推定する装置である。ここで、蓄電素子200の状態とは、蓄電素子200の電気的または機械的な状態をいい、例えば、蓄電素子200の性能の劣化度合いを示す劣化状態、蓄電素子200が異常な挙動を示しているかを示す異常状態などが含まれる。
【0039】
同図に示すように、蓄電素子状態推定装置100は、判断部110、状態推定部140及び記憶部150を備えている。また、判断部110は、切替判断部120及び変化量判断部130を有している。また、記憶部150は、蓄電素子200の状態を推定する各種データを記憶するためのメモリであり、充放電履歴データ151及び劣化情報データ152が記憶されている。
【0040】
判断部110は、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わった時点を第一時点とし、第一時点の次に当該他方から当該一方に切り替わった時点を第二時点とし、第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量が、所定量よりも小さいか否かを判断する。また、判断部110は、蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない状態から当該他方に切り替わった時点を第一時点として、または、当該他方から蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない状態に切り替わった時点を第二時点として、第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断してもよい。
【0041】
ここで、判断部110が有する切替判断部120及び変化量判断部130が行う処理について説明することで、判断部110が行う処理を具体的に説明する。
【0042】
切替判断部120は、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断する。具体的には、切替判断部120は、所定の単位期間ごとの電流の平均値を取得し、当該平均値を用いて、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断する。この切替判断部120が行う処理について、以下に、さらに詳細に説明する。
【0043】
まず、切替判断部120は、蓄電素子200の状態を推定したい時点(以下、所定時点という)までの蓄電素子200の充放電履歴を取得する。具体的には、切替判断部120は、蓄電素子200に接続され、蓄電素子200から充放電履歴を検出して取得する。つまり、切替判断部120は、蓄電素子状態推定装置100が載置されている蓄電素子200の電極端子に、リード線などの配線によって電気的に接続されている。そして、切替判断部120は、所定時点までの期間において、当該配線を介して、蓄電素子200から充放電履歴を取得する。
【0044】
さらに具体的には、切替判断部120は、蓄電素子200の運転状態を常に監視しておき、蓄電素子200の運転状態に所定の変化が見られた都度、充放電履歴を取得する。例えば、切替判断部120は、蓄電素子200の電圧の変化を監視し、電圧の差が現在の電圧の0.1%を超えた場合に、蓄電素子200が充放電を行ったとみなして、充放電履歴を取得する。この場合、例えば、切替判断部120は、蓄電素子200の電圧の変化が0.1%を超えた都度、充放電履歴を取得していく。つまり、切替判断部120は、蓄電素子200の電圧の変化が0.1%のサンプリング周期で、充放電履歴を取得する。なお、充放電履歴の取得のタイミングは上記に限定されず、また、切替判断部120は、蓄電素子200の使用期間が1秒のサンプリング周期で充放電履歴を取得するなど、どのようなサンプリング周期を用いてもかまわない。なお、サンプリング周期を一定期間に定める場合には、1秒以下の周期が好ましい。
【0045】
ここで、充放電履歴とは、蓄電素子200の運転履歴であり、蓄電素子200が充電または放電を行った時点(以下、充放電時点という)を示す情報、及び、当該充放電時点において蓄電素子200が行った充電または放電に関する情報などを含む情報である。
【0046】
具体的には、充放電時点を示す情報とは、蓄電素子200が充電または放電を行った日付(年月日)及び時刻などを含む情報である。また、蓄電素子200が行った充電または放電に関する情報とは、蓄電素子200が行った充電または放電時の電圧及び電流などを示す情報である。
【0047】
本実施の形態では、切替判断部120は、所定の単位期間ごとの電圧及び電流の平均値を算出して取得する。なお、単位期間は、どのような期間でもよく、ユーザの設定により適宜決定されればよいが、例えば1秒間、4秒間、30秒間、1分間などであるが、4秒間が好ましい。また、切替判断部120は、例えば、蓄電素子200に対して充電を行っている場合には、電流の値をプラスとし、蓄電素子200に対して放電を行っている場合には、電流の値をマイナスとして、電流の平均値を算出する。
【0048】
また、切替判断部120は、当該単位期間ごとの蓄電素子200のSOC(State Of Charge)を算出して取得する。例えば、切替判断部120は、SOCとOCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)との関係を示すSOC−OCV特性を用いて、蓄電素子200の電圧値からSOCを推定することで、SOCを算出する。または、切替判断部120は、充放電電流を積算してSOCを推定する電流積算法を用いて、蓄電素子200の電流値からSOCを算出することにしてもよい。
【0049】
そして、切替判断部120は、取得した充放電時点を示す情報、電圧(平均値)、電流(平均値)、及び、SOCを、単位期間ごとに対応付けて、記憶部150に記憶されている充放電履歴データ151に書き込む。
【0050】
また、切替判断部120は、電流の値を用いて、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断する。つまり、切替判断部120は、充放電履歴データ151から電流(平均値)を読み出して、例えば、当該電流の値がプラスからマイナス、またはマイナスからプラスに変化した場合、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったと判断する。
【0051】
そして、切替判断部120は、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断する。つまり、切替判断部120は、電流の値がプラスからマイナスに変化した場合には充電から放電に切り替わったと判断し、電流の値がマイナスからプラスに変化した場合には放電から充電に切り替わったと判断する。
【0052】
そして、切替判断部120は、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わった時点を第一時点として検出し、また、第一時点の次に当該他方から当該一方に切り替わった時点を第二時点として検出する。
【0053】
また、切替判断部120は、蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない状態(以下、放置状態という)から当該他方に切り替わった時点についても、第一時点として検出する。または、切替判断部120は、当該他方から放置状態に切り替わった時点についても、第二時点として検出する。
【0054】
つまり、切替判断部120は、電流の値が零からプラス若しくはマイナスに変化した時点についても、第一時点と検出し、電流の値がマイナス若しくはプラスから零に変化した時点についても、第二時点と検出する。なお、蓄電素子200には、常に微小電流が流れている場合があり、この場合には、電流の値が零であることのみならず、電流が一定値以下となる場合も、放置状態の概念に含める。また、電流の値が零である期間が一瞬であっても、放置状態の概念に含める。
【0055】
そして、切替判断部120は、単位期間ごとの蓄電素子200の充放電の状態(充電、放電または放置)と、検出した切り替え時点(第一時点、第二時点)とを、充放電履歴データ151にさらに書き込む。
【0056】
図3は、本発明の実施の形態に係る充放電履歴データ151に書き込まれるデータの一例を示す図である。
【0057】
同図に示すように、充放電履歴データ151には、所定時点までの蓄電素子200の運転履歴である充放電履歴を示すデータが書き込まれる。つまり、充放電履歴データ151には、「充放電時点」と「電圧(平均値)」と「電流(平均値)」と「SOC」と「充放電の状態」と「切り替え時点」とが対応付けられたデータテーブルが書き込まれる。
【0058】
ここで、「充放電時点」には、蓄電素子200が充電または放電を行った時点を示す情報である日付(年月日)及び時刻等が記憶される。つまり、切替判断部120は、タイマなどから時間を計測して、当該日付(年月日)及び時刻等を取得し、「充放電時点」に書き込む。なお、充放電時点の単位として、年、月、日、時、分、秒、またはサイクル数(充放電回数)など、どのような単位を用いてもかまわない。
【0059】
また、「電圧(平均値)」、「電流(平均値)」及び「SOC」には、蓄電素子200が行った充電または放電に関する情報として、蓄電素子200が行った充電または放電時の単位期間における電圧の平均値、電流の平均値及びSOCを示す情報が記憶される。また、「充放電の状態」には、「充電」、「放電」、「放置」のいずれかの情報が記憶される。また、「切り替え時点」には、切替判断部120が検出した切り替え時点(第一時点、第二時点)が記憶される。
【0060】
図2に戻り、次に、変化量判断部130が行う処理について、詳細に説明する。
【0061】
変化量判断部130は、切替判断部120が検出した第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量が、所定量よりも小さいか否かを判断する。
【0062】
具体的には、変化量判断部130は、第一期間における蓄電素子200のSOCの変化量を第一変化量とし、当該SOCの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。つまり、変化量判断部130は、充放電履歴データ151から、第一時点及び第二時点におけるSOCの値を読み出して、2つのSOCの値の差分を算出することで、第一期間における蓄電素子200のSOCの変化量を算出し、第一変化量とする。そして、変化量判断部130は、第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。なお、所定量は、例えば0.5%または0.36%程度の小さな値である。
【0063】
次に、状態推定部140が行う処理について、説明する。
【0064】
状態推定部140は、第一変化量が所定量よりも小さいと判断された場合に、第一期間における蓄電素子200の通電による劣化量を示す第一劣化量を、第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第一劣化量の値よりも小さい値に低減させる。ここで、「蓄電素子200の通電による劣化量を示す第一劣化量」とは、蓄電素子200が通電を行うことで生じる性能の低下量であり、例えば、蓄電素子200の容量、容量維持率、SOC、電圧等の劣化量(低下量)や、容量減少率などである。
【0065】
また、「第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第一劣化量の値」とは、変化量判断部130が第一変化量が所定量以上であると判断した場合に使用される数式等に従って算出される劣化量の値である。例えば、変化量判断部130が第一変化量が所定量以上であると判断した場合に、状態推定部140が所定の関係式を用いて劣化量を算出するような規則としている場合には、当該関係式を用いて算出される劣化量の値である。なお、状態推定部140は、当該関係式として、従来知られている一般的な関係式を用いて、当該劣化量の算出を行うことにしてもよいし、状態推定部140が新たな関係式を導出して当該劣化量の算出を行うことにしてもよい。
【0066】
つまり、状態推定部140は、変化量判断部130がSOCの変化量が所定量以上であると判断した場合には、所定の関係式等を用いて劣化量を算出し、変化量判断部130がSOCの変化量が所定量よりも小さいと判断した場合には、劣化量を所定の関係式等を用いて算出した値よりも低減させる。
【0067】
具体的には、状態推定部140は、第一変化量が所定量よりも小さいと判断された場合に、第一劣化量を零に低減させる。なお、状態推定部140は、第一劣化量を零に低減させるのではなく、零よりも少し大きな値に低減したり、上記所定の関係式を用いて算出される劣化量から一定量を差し引いたり当該劣化量の50%〜10%程度に低減させたりすることにしてもよい。
【0068】
また、状態推定部140は、さらに、充電及び放電のうちの一方の状態において、第一変化量以下の大きさの変化量を有する第二期間における蓄電素子200の通電による劣化量を示す第二劣化量を、第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第二劣化量の値よりも小さい値に低減させる。つまり、第一期間が充電されていた期間の場合には、第二期間は放電されていた期間であり、第一期間が放電されていた期間の場合には、第二期間は充電されていた期間である。また、第二期間は、第一期間の直前または直後の期間であるのが好ましいが、第一期間から少し離れた期間であってもかまわない。また、第二期間は、第一変化量以下の大きさの変化量を有する期間であればよいが、好ましくは、第一変化量と同じ大きさの変化量を有する期間である。
【0069】
また、第二期間は、1つの連続した期間でなくともよく、複数の非連続な期間からなる期間であってもよい。この場合、状態推定部140は、合計の変化量が第一変化量以下の大きさとなる複数の期間からなる第二期間を取得し、当該複数の期間のそれぞれにおける蓄電素子200の通電による劣化量を示す第二劣化量を低減させる。なお、第二期間は、合計の変化量が第一変化量と同じ大きさとなる複数の期間からなるのが好ましい。
【0070】
また、状態推定部140は、所定の第三期間に第二期間が含まれるか否かを判断し、第三期間に第二期間が含まれると判断した場合にのみ、第二劣化量を低減させる。つまり、第二期間が第一期間から離れすぎていないことが好ましいため、状態推定部140は、第二劣化量を低減させることができる第二期間を、第三期間内に含まれる場合に限定して第二劣化量を低減させる。つまり、第三期間を超えるような長い期間において、微小な容量変化(SOC変動)が繰り返された場合にも劣化量を低減させると、本来は大きな容量変化を起こしていたものまで劣化量を低減させてしまう可能性がある。しかし、上述のように劣化量を低減させる期間を定めることで、このような可能性を排除することができる。
【0071】
状態推定部140は、以上のようにして算出した劣化量を、記憶部150に記憶されている劣化情報データ152に書き込んでいく。そして、状態推定部140は、所定時点までの当該劣化量を劣化情報データ152から読み出して、所定時点での蓄電素子200の状態を推定する。具体的には、状態推定部140は、蓄電素子200の性能の劣化度合いを示す劣化状態、蓄電素子200が異常な挙動を示しているかを示す異常状態などを推定する。例えば、状態推定部140は、蓄電素子200の可逆容量が何%減少したかなどの容量の劣化状態を推定する。そして、状態推定部140は、蓄電素子200の状態を推定した結果を、劣化情報データ152に書き込む。
【0072】
次に、蓄電素子状態推定装置100が蓄電素子200の状態を推定する処理について、詳細に説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100が蓄電素子200の状態を推定する処理の一例を示すフローチャートである。また、
図5は、本発明の実施の形態に係る判断部110の切替判断部120及び変化量判断部130が、第一変化量を取得する処理の一例を示すフローチャートである。また、
図6は、本発明の実施の形態に係る状態推定部140が第一劣化量を低減させる処理の一例を示すフローチャートである。また、
図7〜
図11は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100が蓄電素子200の状態を推定する処理を説明する図である。
【0073】
まず、
図4に示すように、判断部110は、第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量を取得する(S102:変化量取得ステップ)。
【0074】
具体的には、判断部110は、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わった時点を第一時点とし、第一時点の次に当該他方から当該一方に切り替わった時点を第二時点とし、第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量を取得する。または、判断部110は、蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない状態から当該他方に切り替わった時点を第一時点として、または、当該他方から蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない状態に切り替わった時点を第二時点として、第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。
【0075】
さらに具体的には、切替判断部120が、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否か、及び、当該他方から当該一方に切り替わったか否かを判断することで、第一時点及び第二時点を検出する。または、切替判断部120が、蓄電素子200に対する放置状態から当該他方に切り替わった否か、または、当該他方から放置状態に切り替わったか否かを判断することで、第一時点または第二時点を検出する。
【0076】
つまり、例えば
図7に示すように、切替判断部120は、蓄電素子200に対する放電から充電に切り替わった時点を第一時点として検出し、充電から放電に切り替わった時点を第二時点として検出する。または、例えば
図8に示すように、切替判断部120は、蓄電素子200に対する放置状態から充電に切り替わった時点を第一時点として検出し、充電から放電に切り替わった時点を第二時点として検出する。または、例えば
図9に示すように、切替判断部120は、蓄電素子200に対する放電から充電に切り替わった時点を第一時点として検出し、充電から放置状態(電流が零の状態)に切り替わった時点を第二時点として検出する。
【0077】
そして、変化量判断部130が、切替判断部120が検出した第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量を取得する。つまり、例えば
図7に示すように、変化量判断部130は、第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量Q1を示す第一変化量を取得する。なお、この判断部110(切替判断部120及び変化量判断部130)が第一変化量を取得する処理のさらなる詳細については、後述する。
【0078】
そして、判断部110は、取得した第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する(S104:判断ステップ)。具体的には、変化量判断部130が、第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。つまり、変化量判断部130は、第一期間における蓄電素子200のSOCの変化量を第一変化量とし、当該SOCの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。
【0079】
つまり、例えば
図7に示すように、変化量判断部130は、第一期間において電流を積算する(つまり電流と時間とを乗じる)ことで、蓄電素子200の容量の変化量Q1を算出する。そして、変化量判断部130は、当該変化量Q1に対応する蓄電素子200のSOCの変化量を算出して第一変化量とし、当該SOCの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。なお、本実施の形態では、当該所定量は、例えば0.5%または0.36%であるが、当該数値は特に限定されず、また、固定値でなく状況に応じて変動させてもよい。
【0080】
そして、判断部110が、第一変化量が所定量よりも小さいと判断した場合(S104でYES)、状態推定部140は、第一劣化量を低減させる(S106:劣化量低減ステップ)。具体的には、状態推定部140は、第一期間における蓄電素子200の通電による劣化量を示す第一劣化量を、第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第一劣化量の値よりも小さい値に低減させる。
【0081】
つまり、例えば
図7に示すように、状態推定部140は、判断部110が変化量Q1に対応するSOCの変化量が所定量よりも小さいと判断した場合には、変化量Q1に対応する第一劣化量を低減させる。なお、この状態推定部140が第一劣化量を低減させる処理の詳細については、後述する。
【0082】
そして、状態推定部140は、蓄電素子200の状態を推定する(S108:状態推定ステップ)。なお、判断部110が、第一変化量が所定量以上であると判断した場合(S104でNO)には、状態推定部140は、第一劣化量を低減することなく、蓄電素子200の状態を推定する。例えば
図7に示すように、状態推定部140は、判断部110が変化量Q2に対応するSOCの変化量が所定量以上であると判断した場合には、変化量Q2に対応する第一劣化量は低減させることなく、所定の関係式等を用いて算出する。
【0083】
つまり、状態推定部140は、判断部110が、第一変化量が所定量以上であると判断した場合には、所定の関係式等を用いて劣化量を算出し、判断部110が、第一変化量が所定量よりも小さいと判断した場合には、劣化量を所定の関係式等を用いて算出した値よりも低減させる。このように、状態推定部140は、第一劣化量を状況に応じて低減することで、蓄電素子200の状態を推定する。
【0084】
以上により、蓄電素子状態推定装置100が蓄電素子200の状態を推定する処理は、終了する。なお、蓄電素子状態推定装置100は、将来の蓄電素子200の充放電履歴を予測することで、将来の蓄電素子200の状態(余寿命など)を推定することもできる。
【0085】
次に、判断部110の切替判断部120及び変化量判断部130が、第一変化量を取得する処理(
図4のS102)の詳細について、説明する。
【0086】
図5に示すように、まず、切替判断部120は、所定の単位期間ごとの電流の平均値を取得する(S202)。そして、切替判断部120は、取得した当該平均値を用いて、蓄電素子200に対する充放電の状態が切り替わったか否かを判断する(S204)。つまり、切替判断部120は、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断する。または、切替判断部120は、電流の値が零からプラス若しくはマイナスに変化したか否か、または、マイナス若しくはプラスから零に変化したか否かを判断することで、放置状態及び充放電状態のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断する。
【0087】
そして、切替判断部120は、蓄電素子200に対する充放電の状態が切り替わっていないと判断した場合(S204でNO)には、単位期間ごとの電流の平均値を取得する処理(S202)を繰り返し行う。
【0088】
そして、切替判断部120は、蓄電素子200に対する充放電の状態が切り替わったと判断した場合(S204でYES)には、第一時点と第二時点とを取得する(S206)。具体的には、切替判断部120は、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わった時点を第一時点として検出し、また、第一時点の次に当該他方から当該一方に切り替わった時点を第二時点として検出する。また、切替判断部120は、蓄電素子200に対して充電及び放電を行っていない放置状態から当該他方に切り替わった時点についても、第一時点として検出する。または、切替判断部120は、当該他方から放置状態に切り替わった時点についても、第二時点として検出する。
【0089】
そして、変化量判断部130は、第一変化量として、SOCの変化量を算出する(S208)。つまり、変化量判断部130は、切替判断部120が検出した第一時点から第二時点までの第一期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量として、SOCの変化量を算出する。
【0090】
以上により、判断部110の切替判断部120及び変化量判断部130が、第一変化量を取得する処理(
図4のS102)は、終了する。
【0091】
次に、状態推定部140が第一劣化量を低減させる処理(
図4のS106)の詳細について、説明する。
【0092】
図6に示すように、まず、状態推定部140は、第一期間における第一劣化量を低減させる(S302)。つまり、状態推定部140は、第一劣化量を、第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第一劣化量の値よりも小さい値に低減させる。具体的には、例えば
図7に示すように、状態推定部140は、蓄電素子200の容量の変化量Q1に対応する第一劣化量を、零に低減させる。
【0093】
そして、状態推定部140は、充電及び放電のうちの一方の状態において、第一変化量以下の大きさの変化量を有する第二期間が、所定の第三期間に含まれるか否かを判断する(S304)。具体的には、例えば
図7に示すように、状態推定部140は、変化量Q1以下の大きさの変化量Q3に対応する第二期間が、第三期間に含まれるか否かを判断する。なお、第三期間は、ユーザの設定により適宜決定されればよいが、例えば、1分間、10分間、1時間などであり、好ましくは、30分以上1時間以下の期間である。
【0094】
ここで、第一期間が充電されていた期間であるため、第二期間は放電されていた期間である。また、第二期間は、第一期間の直前または直後の期間であるのが好ましいが、
図9に示すように、第一期間から少し離れた期間であってもかまわない。また、第二期間は、第一変化量以下の大きさの変化量を有する期間であればよいが、好ましくは、第一変化量と同じ大きさの変化量を有する期間である。つまり、変化量Q3は、変化量Q1と同じ大きさとなるのが好ましい。ただし、
図9のような場合には、変化量Q3は、変化量Q4、5の合計と同じ大きさとなるのが好ましい。
【0095】
そして、状態推定部140は、第三期間に第二期間が含まれると判断した場合(S304でYES)には、第二期間における第二劣化量を低減させる(S306)。つまり、状態推定部140は、充電及び放電のうちの一方の状態において、第一変化量以下の大きさの変化量を有する第二期間における第二劣化量を、第一変化量が所定量以上であると判断された場合に適用される規則を用いて得られる第二劣化量の値よりも小さい値に低減させる。
【0096】
例えば
図7では、状態推定部140は、変化量Q1以下の大きさの変化量Q3に対応する第二期間が、第三期間に含まれていると判断する。そして、状態推定部140は、放電状態における変化量Q2に対応する第二期間の第二劣化量を、零に低減させる。
【0097】
ここで、第二期間が、1つの連続した期間ではなく、複数の非連続な期間からなる場合には、状態推定部140は、合計の変化量が第一変化量以下の大きさとなる複数の期間からなる第二期間を取得し、当該複数の期間のそれぞれにおける蓄電素子200の通電による劣化量を示す第二劣化量を低減させる。
【0098】
つまり、例えば
図10に示すように、状態推定部140は、合計の変化量が変化量Q1以下の大きさとなる変化量Q6、7に対応する複数の期間からなる第二期間を取得し、当該複数の期間のそれぞれにおける第二劣化量を、零に低減させる。なお、第二期間は、合計の変化量が第一変化量と同じ大きさとなる複数の期間からなる(
図10では、変化量Q6、7の合計が変化量Q1と同じ大きさとなる)のが好ましい。
【0099】
また、状態推定部140は、第三期間に第二期間が含まれないと判断した場合(S304でNO)には、当該第二期間における第二劣化量を低減させることなく、処理を終了する。つまり、例えば
図11に示すように、状態推定部140は、第三期間に変化量Q7に対応する第二期間が含まれないと判断した場合には、当該変化量Q7に対応する第二劣化量を低減させることなく、処理を終了する。
【0100】
以上により、状態推定部140が第一劣化量を低減させる処理(
図4のS106)は、終了する。
【0101】
次に、
図12A〜
図14を用いて、蓄電素子状態推定装置100が奏する効果について、説明する。
【0102】
図12A及び
図12Bは、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100の効果を説明するために用いる前提データを示す図である。具体的には、
図12Aは、対象の電池の電流パターンを示す図であり、
図12Bは、当該電流パターンに基づいて算出したSOCの変化量の分布を示す図である。また、
図13A〜
図13Cは、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100の効果を示す図である。具体的には、
図13Aは、測定値と比較例とを示すグラフであり、
図13Bは、測定値と実施例とを示すグラフであり、
図13Cは、比較例と実施例との測定値からの差を比べた表である。また、
図14は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100の効果を説明するための概念図である。
【0103】
ここで、
図12Aに示す電流パターンは、自動車の燃費計算を実施するための走行モードであるJC08モード(4秒平均)に基づく電流パターンである。この電流パターンを本願の蓄電素子に適用して、実使用を模擬した試験を実施した。また、
図12Bは、
図12Aに示された電流パターンにおいて、電流値の符号が切り替わるタイミングを読み取って、SOCの変化量(ΔSOC)を算出し、SOCの変化量の値が小さいものから並べたものである。この結果から、充電によるSOCの変化量は、最大値が0.36%であり、0.5%未満と極めて小さい値となった。なお、SOCの変化量は、蓄電素子の容量の変化量を可逆容量で除して算出したものである。
【0104】
次に、上記の電流パターンにおいて、実使用を模擬した試験を実施した結果を
図13A〜
図13Cに示す。つまり、
図13Aは、上記実施の形態における蓄電素子状態推定装置100による状態推定を行わない従来の蓄電素子状態推定装置を用いた場合の推定結果(比較例1)と、蓄電素子において実際に測定された状態値(測定値1)とを示している。具体的には、同図は、試験開始後55、109、159、209日後における蓄電素子の容量の推移を示している。なお、比較例1と測定値1は、常温よりも20℃高い環境下での推定結果と測定結果である。
【0105】
また、
図13Bは、上記実施の形態における蓄電素子状態推定装置100によってSOCの変化量が0.5%未満の通電劣化量を零とした場合の推定結果(実施例1)と、蓄電素子において実際に測定された状態値(測定値1)とを示している。具体的には、同図は、試験開始後55、109、159、209日後における蓄電素子の容量の推移を示している。なお、実施例1は、蓄電素子状態推定装置100を用いた場合での、常温よりも20℃高い環境下での推定結果であり、上述の比較例1及び測定値1に対応している。
【0106】
また、
図13Aに示された比較例1と、
図13Bに示された実施例1との試験結果を表にしたものを、
図13Cに示す。具体的には、同図は、比較例1と測定値1との誤差、及び、実施例1と測定値1との誤差とを示している。なお、当該誤差は、容量の差分を初期容量で除して計算したものである。これらの図に示すように、実施例1は、比較例1に比べて測定値1との誤差が小さくなっている。
【0107】
このように、SOCの微小な変化によっては電池の劣化は進行しにくいため、SOCの微小な変化による劣化を無視することで、推定精度が向上する。例えば、
図14の(a)に示すように、電池を放電する際に、SOC20%相当の充電及びSOC120%相当の放電(合計でSOC140%相当の充放電)をしていたものとする。そして、このうち、充電20%分と放電20%分とがSOCの微小な変化によるものとすれば、充電20%分と放電20%分とを無視することができる。このため、
図14の(b)に示すように、充電20%分と放電20%分とを無視して、SOC0%相当の充電及びSOC100%相当の放電をしていたとして推定を行うことができる。これにより、推定精度を向上させることができる。
【0108】
なお、上記の試験で対象とした電池の仕様は、全ての実施例及び比較例において以下の通りである。つまり、電池の仕様としては、正極合剤(正極活物質層)には、正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物、導電助剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用した。また、負極合剤(負極活物質層)には、負極活物質として難黒鉛化炭素、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを使用した。また、電解液には、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)とを、25:55:20の比率で混合し、混合溶液にLiPF
6を1mol/L添加した。また、電池容量の推定においては、例えば、劣化係数をaとしたときの使用期間tにおける劣化のモデル式をf(t)=a√tとして算出することができる。なお、上記の劣化のモデル式はほんの一例であり、本願の主旨に沿ったものであれば、本発明の技術的範囲に属する。
【0109】
以上のように、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100によれば、蓄電素子200の充放電が切り替わった期間における蓄電素子200の容量の変化量を示す第一変化量が、所定量よりも小さいと判断した場合に、蓄電素子200の通電による劣化量を示す第一劣化量を、通常の推定計算で得られる値よりも低減させて、蓄電素子200の状態を推定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討の結果、蓄電素子200が変電所などで運用されて、微小で複雑に変化する電流がしばしば重畳され、容量が微小に変化した場合には、蓄電素子200の通電による劣化量に与える影響が少ないことを見出した。つまり、蓄電素子200の通電による劣化は、例えば、リチウムイオン電池の場合であれば、主に活物質へのリチウムイオンの挿入・脱離反応に伴う活物質の膨張収縮が繰り返されることによる結晶構造の破壊、又は、充放電に伴う極板の膨張収縮が繰り返されることによって活物質粒子同士の機械的接触が不十分となることに起因するものと想定される。しかし、通電電気量が微小である場合、即ち、SOC変動が微小である場合には、これに伴う膨張収縮の程度が微小であるから、上記した結晶構造の崩壊や機械的接触の低下が進行せずに劣化が生じないことが想定される。このため、蓄電素子状態推定装置100によれば、容量が微小に変化した場合の第一劣化量を、通常の推定計算で得られる値よりも低減させることで、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0110】
また、本願発明者らは、鋭意検討の結果、容量が微小に変化した場合の第一劣化量は、無視することができることを見出した。このため、蓄電素子状態推定装置100によれば、第一変化量が所定量よりも小さいと判断された場合に、第一劣化量を零に低減させて蓄電素子200の状態を推定することで、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0111】
また、蓄電素子状態推定装置100は、第二期間における蓄電素子200の通電による劣化量を示す第二劣化量を、通常の推定計算で得られる値よりも低減させて、蓄電素子200の状態を推定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討の結果、容量が微小に変化した場合に、充電及び放電の双方ともに、蓄電素子200の通電による劣化量に与える影響が少ないことを見出した。このため、蓄電素子状態推定装置100によれば、充電及び放電の双方における劣化量を低減させることで、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0112】
また、蓄電素子状態推定装置100は、第二期間が複数の期間に分かれる場合に、当該複数の期間のそれぞれにおける蓄電素子200の通電による劣化量を示す第二劣化量を低減させる。このように、蓄電素子状態推定装置100によれば、第二期間が複数の期間に分かれる場合でも、複数の期間における劣化量を低減させることで、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0113】
また、蓄電素子状態推定装置100は、所定の第三期間に第二期間が含まれると判断した場合にのみ、第二劣化量を低減させる。つまり、蓄電素子状態推定装置100によれば、第三期間に第二期間が含まれない場合には劣化量を低減させないことで、劣化量を低減させ過ぎないようにすることができ、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0114】
また、蓄電素子状態推定装置100は、電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、容易に、充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断することができる。
【0115】
また、蓄電素子状態推定装置100は、単位期間ごとの電流の平均値で電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、頻繁に電流の向きが切り替わる場合を排除することができる。
【0116】
また、蓄電素子状態推定装置100は、第一期間における蓄電素子200のSOCの変化量を第一変化量とし、SOCの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断する。つまり、蓄電素子状態推定装置100によれば、第一変化量としてSOCの変化量を用いることで、劣化量を低減させるか否かの判断を、精度良く行うことができる。
【0117】
また、蓄電素子状態推定装置100は、蓄電素子200が充電及び放電を行っていない放置状態から、充電または放電を行っている充放電状態に切り替わった時点を第一時点として、または、充放電状態から放置状態に切り替わった時点を第二時点として、上記判断を行う。このように、蓄電素子状態推定装置100によれば、放置状態から充放電状態に変化した場合、または、充放電状態から放置状態に変化した場合においても、劣化量を低減させることで、蓄電素子200の状態の推定精度を向上させることができる。
【0118】
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100及び蓄電システム10について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0119】
例えば、上記実施の形態では、変化量判断部130は、第一期間における蓄電素子200のSOCの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断することとした。しかし、変化量判断部130は、当該SOCの変化量に換えて、蓄電素子200の容量の変化量やDOD(Depth Of Discharge)の変化量を用いて判断してもよい。つまり、変化量判断部130は、第一期間における蓄電素子200の容量またはDODの変化量を第一変化量とし、当該容量またはDODの変化量が所定量よりも小さいか否かを判断することにしてもよい。
【0120】
また、上記実施の形態では、状態推定部140は、第三期間に第二期間が含まれると判断した場合にのみ、第二劣化量を低減させることとした。しかし、状態推定部140は、第三期間を設定することなく、全ての第二劣化量を低減させることにしてもよい。
【0121】
また、上記実施の形態では、状態推定部140は、第一劣化量を低減させる際に、第二劣化量を低減させることとした。しかし、状態推定部140は、第一劣化量を低減させるのみで、第二劣化量は低減させないことにしてもよい。
【0122】
また、上記実施の形態では、切替判断部120は、単位期間ごとの電流の平均値を取得し、当該平均値を用いて、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断することとした。しかし、切替判断部120は、電流の平均値を用いることなく、取得した電流の値から、電流の向きが切り替わったか否かを判断することにしてもよい。
【0123】
また、上記実施の形態では、切替判断部120は、蓄電素子200に対する電流の向きが切り替わったか否かを判断することで、蓄電素子200に対する充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断することとした。しかし、切替判断部120は、電流の向きではなく、外部からの情報等、その他の情報に基づいて充電及び放電のいずれか一方から他方に切り替わったか否かを判断することにしてもよい。
【0124】
また、上記実施の形態では、判断部110は、放置状態から充放電状態に切り替わった時点を第一時点として、または、充放電状態から放置状態に切り替わった時点を第二時点として、第一変化量が所定量よりも小さいか否かを判断することとした。しかし、判断部110は、放置状態から充放電状態に切り替わったり、充放電状態から放置状態に切り替わったりした場合には、当該判断は行わないことにしてもよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、蓄電素子状態推定装置100は、記憶部150を備えており、蓄電素子200の充放電履歴や状態推定のための情報を記憶部150に記憶させることとした。しかし、蓄電素子状態推定装置100は、記憶部150を備えておらず、記憶部150の代わりに当該外部のメモリを使用することにしてもかまわない。
【0126】
また、蓄電素子状態推定装置100は、推定した蓄電素子200の状態に関するデータを参照し、蓄電素子200の異常を検知して、安全上のアラームを発するような安全状態を推定する機能を有していてもよい。
【0127】
また、本発明に係る蓄電素子状態推定装置100が備える処理部は、典型的には、集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現される。つまり、例えば
図15に示すように、本発明は、判断部110及び状態推定部140を備える集積回路101として実現される。
図15は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子状態推定装置100を集積回路で実現する構成を示すブロック図である。
【0128】
なお、集積回路101が備える各処理部は、個別に1チップ化されても良いし、一部または全てを含むように1チップ化されても良い。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適応等が可能性としてあり得る。
【0129】
また、本発明は、このような蓄電素子状態推定装置100として実現することができるだけでなく、蓄電素子状態推定装置100が行う特徴的な処理をステップとする蓄電素子状態推定方法としても実現することができる。
【0130】
また、本発明は、蓄電素子状態推定方法に含まれる特徴的な処理をコンピュータ(プロセッサ)に実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムが記録されたコンピュータ(プロセッサ)読み取り可能な非一時的な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリ、フラッシュメモリ、磁気記憶装置、光ディスク、紙テープなどあらゆる媒体として実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体及びインターネット等の伝送媒体を介して流通させることができる。
【0131】
また、上記実施の形態に含まれる構成要素を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。