(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)は、強い磁場中に置かれた試料に電磁波を印加したときに発生する原子核スピン(磁気モーメント)のエネルギーの共鳴現象である。核磁気共鳴装置(NMR装置)は、斯かる共鳴現象を利用して試料の構造を解析する機器である。磁場強度が大きい程、NMR信号の感度と分解能が高くなるため、NMR装置には強い磁場を発生するための磁場発生装置が備えられる。
【0003】
強磁場を発生する磁場発生装置として、超電導体を着磁させることにより磁場を発生する超電導磁場発生装置が開発されている。また、超電導磁場発生装置に備えられる超電導体としては、超電導遷移温度が高く、且つ冷却が比較的容易な高温超電導体が好ましく用いられる。
【0004】
NMR装置によって試料の分子構造を解析するに当たり、試料が磁場中に置かれる。このとき場所によって磁場強度のばらつきが大きいと、得られるNMRスペクトルがブロードとなり、試料の分子構造を適切に識別することができない。よって、NMR装置に用いられる超電導磁場発生装置は、強磁場を発生することができ、且つ試料の測定空間の磁場強度が均一な磁場(均一磁場)を形成することができるように構成されているのが好ましい。
【0005】
なお、高分解能NMR測定のためには、1ppm以下の磁場の均一性が要求される。1ppm以下の極めて均一性が高い磁場は、通常、超電導磁場発生装置に複数のシムコイル(磁場補正コイル)を追加することにより達成され得る。言い換えれば、超電導磁場発生装置により発生させられる磁場の均一性は、最低でも、シムコイルによる補正が可能なppmオーダーでなければならない。
【0006】
NMR装置に用いられる超電導磁場発生装置に備えられる超電導体は、例えば円筒形状に形成される。この場合、円筒形状の超電導体の内周空間(ボア)内に、磁束が軸方向に通る磁場が発生するように、外部磁場発生装置により磁場(印加磁場)が超電導体に印加される。そして、磁場を印加したまま超電導体を超電導遷移温度以下の温度にまで冷却する。冷却完了後、外部磁場発生装置により発生されている印加磁場を取り除く。すると、印加磁場を維持するように超電導体が着磁され、超電導体内に超電導電流が誘起される。こうして超電導体内に超電導電流が流れることにより、超電導体のボア内に、軸方向に磁束が通る磁場(捕捉磁場)が形成される。捕捉磁場が形成されている超電導体のボア内には試料が置かれる空間(室温ボア空間)が形成される。室温ボア空間に配置された試料に電磁波を与えることにより、試料から微弱な電磁波が発せられる。この電磁波を検出することで、NMRスペクトルが得られる。
【0007】
試料の分析精度を向上させるため、円筒形状の超電導体のボア内に形成される捕捉磁場は、
図20に示すように軸対称な磁場強度分布(すなわち円筒形状の超電導体の中心軸に垂直ないずれの方向から見ても同一な磁場強度分布)であって、中央部分(試料が置かれる空間)の磁場強度が均一であるのがよい。こうした捕捉磁場を得るためには、着磁された超電導体内を流れる超電導電流が、円筒形状の超電導体の中心軸を中心として周方向に流れる円電流でなければならない。つまり、超電導体の軸方向に直交する断面により表されるリング形状と同心円状の超電導電流ループが超電導体内に形成されることが、超電導体のボア内に軸対象な磁場強度分布であって中央部分の磁場強度が均一な捕捉磁場を形成するために必要である。ところが、使用する超電導体の材料組織或いは超電導特性が不均一である場合、そのことによって超電導電流ループが同心円形状とは異なる歪な形状に形成される。すなわち超電導電流ループが乱れる。超電導電流ループが乱れた場合、超電導体のボア内の磁場の軸対称性が崩れるとともに均一性が悪化するため、磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分の磁場強度が均一な捕捉磁場を超電導体のボア内に形成することはできない。よって、超電導体の材料組織及び超電導特性は均一であるのがよい。
【0008】
ところで、高温超電導体として、溶融法により作製されたRE−Ba−Cu−O系(REはYを含む希土類元素)の超電導バルクが良く知られている。しかしながら、このような超電導バルクは、超電導電流ループを乱す以下のような特性(以下、不均一特性と言う)を有する。
(1)超電導バルクは、超電導体上に載置された種結晶から単結晶成長させることにより作製されるため、結晶成長境界を有する。例えば、超電導体上に結晶構造のc面が接するように載置された種結晶から結晶成長させて超電導バルクを作製した場合、上から見て種結晶を中心に十字状に結晶成長するため、十字状の結晶成長境界が超電導バルクに形成される。このようにして形成された超電導バルクを着磁した場合、超電導バルク内に形成される超電導電流ループの形状が、隣接する結晶成長境界をつなぐような四角形状となる。つまり、超電導電流が結晶成長境界部分で外側に膨らむように流れることによって超電導電流ループが乱れ、同心円状の超電導電流ループが形成されない。その結果、超電導体のボア内に形成される捕捉磁場の軸対称性が崩れるとともに均一性が悪化する。
(2)高温超電導体としての超電導バルクは、単結晶の超電導相内に非超電導相が微細に分散しているような組織構造を有する。非超電導相は強力な磁場を捕捉するピン止め点を形成するが、非超電導相のサイズや分布にばらつきがあり、そのようなばらつきによって超電導バルク内に形成される超電導電流ループが乱れる。
(3)超電導バルクは、空孔、不要な析出物、マイクロクラックの存在、結晶性の乱れ等の、材料組織の不均一性を有する。斯かる材料組織の不均一性により、超電導バルク内に形成される超電導電流ループが乱れる。
(4)超電導バルクは、超電導特性(超電導遷移温度Tc、臨界電流密度Jc等)の局所的なばらつきを有する。これによっても、超電導電流ループが乱れる。
【0009】
従って、超電導磁場発生装置に備えられる高温超電導体に超電導バルクを使用する場合、上記した不均一特性によって超電導電流ループが乱れるため、印加磁場が均一であっても、円筒形状の超電導体のボア内に均一な捕捉磁場を形成することが難しい。
【0010】
特許文献1は、高温超電導材料により円筒状に形成された外側超電導体と、高温超電導材料により円筒状に形成され、外側超電導体の内周側に外側超電導体と同軸的に配置された内側超電導体と、外側超電導体及び内側超電導体を超電導遷移温度以下の温度に冷却するための冷熱を発生する冷却装置と、を備える超電導磁場発生装置を開示する。この超電導磁場発生装置に備えられる内側超電導体は、円筒周面内における臨界電流密度の均一性が、円筒周面内における外側超電導体の臨界電流密度の均一性よりも高くなるように、構成される。ここで、円筒周面とは、円筒形状の超電導体の外周面及び内周面に平行な面、つまり、軸方向から見た場合に円筒形状の超電導体の外周及び内周を形成する円と一致する円或いは同心の円を形成する面である。
【0011】
特許文献1に記載の超電導磁場発生装置によれば、外側超電導体内に形成される超電導電流ループの乱れを、内側超電導体に任意の方向に形成される超電導電流ループで補うことにより、超電導体(内側超電導体)のボア内に形成される捕捉磁場の軸対称性及び均一性が保たれる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第一実施形態)
まず、第一実施形態について説明する。
図1は、第一実施形態に係る超電導磁場発生装置100を上下方向に沿った中心線を含む平面で切断した断面を表す概略図である。
図1に示すように、超電導磁場発生装置100は、超電導体1と、ホルダ4と、冷却装置5と、真空断熱容器6と、外部磁場発生コイル7(外部磁場発生装置)とを備える。
【0037】
冷却装置5は、高温超電導体の超電導遷移温度Tc(例えば90K)以下の低温、例えば50K程度の低温(冷熱)を発生するものであればどのようなものであってもよい。冷却装置5として、パルス管冷凍機、GM冷凍機、スターリング冷凍機を例示することができる。冷却装置5は、冷凍サイクル運転の実施によって冷熱を発生するものであるのが好ましいが、液体窒素のような、高温超電導体の超電導遷移温度Tc以下の温度を提供することができる物質であってもよい。
【0038】
本実施形態において、冷却装置5は、内部に低温を発生するための機構を備える。また、冷却装置5は、コールドヘッド52と、円筒基材53とを備える。コールドヘッド52は、冷却装置5の内部の機構の動作により冷却される。コールドヘッド52は、例えば銅等の、熱伝導率が高く且つ非磁性の材質により形成される。コールドヘッド52は、柱状の支柱部52a及び円板状のステージ部52bと、を有する。
図1において、支柱部52aは冷却装置5の上側部分に設けられる。支柱部52aの上端(他方の端部)が、円板状のステージ部52bの一方の端面に接続される。支柱部52aとステージ部52bは一体的に形成されていてもよい。
【0039】
ステージ部52bの他方の面(上面)に、ホルダ4及び円筒基材53が載置される。円筒基材53は、円筒状に形成されるとともに外周面531a及び内周面531bを有する円筒部531と、円筒部531の一方の端部に形成されたフランジ部532を有する。そして、フランジ部532が、コールドヘッド52のステージ部52b上に載置される。円筒基材53は、熱伝導率の高い非磁性金属により形成される。例えば、円筒基材53の材質として、銅、アルミニウム、サファイア(アルミナ単結晶)を例示できる。
【0040】
超電導体1は、
図1に示すように外側超電導体2と内側超電導体3を備える。外側超電導体2は、複数のリング形状の超電導バルク2aを軸方向に沿って積み重ねることによって円筒状に形成される。なお、一つの超電導バルクによって円筒状の外側超電導体2を構成してもよい。円筒状の外側超電導体2の一方の端面(下端面)が、コールドヘッド52のステージ部52b上に載置されている円筒基材53のフランジ部532上に載置される。このとき、円筒基材53の円筒部531が外側超電導体2の内周空間内に外側超電導体2と同軸配置するように、外側超電導体2がフランジ部532上に載置される。
【0041】
外側超電導体2の内周側に内側超電導体3が配設される。内側超電導体3も外側超電導体2と同様に円筒状に形成される。ただし、内側超電導体3の径方向における長さ(厚さ)は、外側超電導体2の径方向における長さ(厚さ)と比較して非常に薄い。この内側超電導体3は、円筒基材53の円筒部531の外周面531aに巻き付けられているとともに、円筒部531の外周面531aに部分的に接着されている。上記したように円筒部531と外側超電導体2は同軸配置しているので、円筒部531の外周面531aに巻き付けられた内側超電導体3は、外側超電導体2の内周側に外側超電導体2と同軸的に配置されることになる。内側超電導体3の外周面は外側超電導体2の内周面に接触していてもよく、接触していなくてもよい。
【0042】
外側超電導体2及び内側超電導体3は第2種超電導体であり、高温超電導材料により形成される。本実施形態においては、外側超電導体2は、RE−Ba−Cu−O(REはYを含む希土類元素)系超電導体であり、周知の溶融法により形成される。外側超電導体2は、c軸方向を積層方向(層に垂直な方向)とする層状の結晶構造を持つ高温超電導体であり、結晶構造のc軸の方向が外側超電導体2の軸方向に一致するように種結晶から結晶成長させることにより形成される。内側超電導体3はc軸方向を積層方向(層に垂直な方向)とする層状の結晶構造を持つ高温超電導体であり、結晶構造のc軸の方向が内側超電導体3の径方向に一致するように形成される。
【0043】
本実施形態において、内側超電導体3は、超電導薄帯(超電導テープ線材)により構成される。超電導薄帯とは、厚さが非常に薄く、一方向に長く形成され、且つ、超電導特性を発揮し得る材料をいう。
図2は、内側超電導体3を構成する超電導薄帯3Aを長手方向及び厚み方向を含む平面で切断した断面を示す概略図である。
図2に示すように、超電導薄帯3Aは、ハステロイ等により構成される薄膜金属基板3a上に、中間層3b、RE−BBa−Cu−O系の超電導体により構成される超電導膜3c、保護層3d、Cu等により構成される安定化層3eが、この順に積層された多層構造を有する。超電導膜3cは、結晶構造のc軸の方向が、テープ面、すなわち超電導薄帯の厚み方向に垂直な面に垂直な方向(
図2の矢印A方向)に一致するように、形成される。
【0044】
超電導薄帯3Aは、上述したように多層構造を有しているので、積層方向(厚み方向)に引っ張り応力が作用した場合に、超電導膜3cが剥離しやすい。すなわち、テープ面(厚み方向に垂直な面)に垂直な引っ張り応力により剥離しやすい。よって、超電導薄帯3Aには、そのテープ面に垂直な方向に大きな引っ張り応力が作用しないのが好ましい。
【0045】
また、本実施形態においては、内側超電導体3は、
図2に示す構造の長尺状の超電導薄帯3Aが、円筒基材53の円筒部531の外周面531aに螺旋状に巻き付けられることにより、円筒状に形成される。
図3は、超電導薄帯3Aが円筒部531の外周面531aに螺旋巻きされた状態を示す図である。
図3において、円筒部531が一点鎖線で示され、螺旋巻きされた超電導薄帯3Aが実線で示される。
図3に示すように、超電導薄帯3Aは、円筒部531の外周面531aに、円筒部531の軸方向(
図3において上下方向)を併進方向として螺旋状に巻き付けられる。この場合において、円筒状の内側超電導体3の内周面側が超電導薄帯3Aの薄膜金属基板3a側となり、外周面側が超電導薄帯3Aの安定化層3e側となるように、超電導薄帯3Aが螺旋巻きされる。なお、螺旋状に巻きつけられた超電導薄帯3Aの併進方向における両端部は、円筒部531の軸方向端部に沿うように、斜めに切断されている。
【0046】
超電導薄帯3Aの螺旋巻きによって円筒状の内側超電導体3を形成した場合、超電導薄帯3Aのテープ面に垂直な方向、すなわち結晶構造のc軸方向が、円筒状の内側超電導体3の径方向に一致する。従って、内側超電導体3は、結晶構造のc軸方向が径方向に一致するように、形成される。
【0047】
また、円筒部531の外周面531aに超電導薄帯3Aを螺旋巻きする前に、円筒部531の外周面531aに、例えば
図3の黒丸で示すように、離間した複数の位置に部分的に接着剤9を塗布しておき、接着剤9の塗布後に円筒部531の外周面531aに超電導薄帯3Aが螺旋巻きされる。これにより、内側超電導体3の内周面が円筒部531の外周面531aに、離間した複数の位置にて部分的に接着される。なお、接着剤としては、内側超電導体3(超電導薄帯3A)の内周面を円筒部531の外周面531aに接着することができるものであれば特に限定されないが、例えばエポキシ系の接着剤を用いることができる。
【0048】
図1に示すように、ホルダ4は、外側超電導体2の外径とほぼ同じ内径を有する円筒状の本体部41と、本体部41の
図1において下端から径外方に放射状に延設されることによりリング状に形成された固定部42と、本体部41の
図1において上端から径内方に放射状に延設されることによりリング状に形成された端面部43とを有し、概して有底筒形状を呈する。ホルダ4の固定部42がステージ部52bに載置されることにより、ホルダ4がステージ部52bに固定される。このホルダ4の本体部41の内周空間内に超電導体1(外側超電導体2及び内側超電導体3)が配設される。ホルダ4がステージ部52b上に固定された状態においては、外側超電導体2の外周面がホルダ4の本体部41の内周面に接触するとともに、外側超電導体2の
図1において上側の端面がホルダ4の端面部43の下面に接触する。このようにして外側超電導体2がホルダ4に保持される。ホルダ4もコールドヘッド52と同様に、銅、アルミニウム等の熱伝導率が高く且つ非磁性の材質により形成される。
【0049】
真空断熱容器6は、ホルダ4の本体部41の外径よりも大きい内径を有する円筒形状の本体部61と、本体部61の
図1において下端から径外方に放射状に延設されることによりリング状に形成された固定部62と、本体部61の
図1において上端から径内方に放射状に延設されることによりリング状に形成された上面部63とを有する。また、固定部62が冷却装置5に気密的に固定される。本体部61の内周空間内に、超電導体1、ホルダ4、コールドヘッド52及び円筒基材53が収納される。
【0050】
図1に示すように、真空断熱容器6の上面部63の内周壁に囲まれた円形の開口から円筒容器8が真空断熱容器6の内周空間内に挿入される。円筒容器8は、有底筒状の容器部81と、容器部81の開口端から径外方に放射状に延設された蓋部82とを有し、蓋部82が真空断熱容器6の上面部63の
図1において上面に載置される。そして、容器部81が、円筒基材53の円筒部531の内周面531bに対面するように、超電導体1のボア(内周空間)に進入している。つまり、容器部81は超電導体1のボア内に配設される。容器部81内の空間に、例えばNMR装置にて分析される試料が載置される。容器部81内の空間は、超電導体1のボアのほぼ中央に設けられる。この空間を、室温ボア空間と呼ぶ。室温ボア空間の形状は、本実施形態では、円柱状である。
【0051】
また、容器部81の
図1において上側部分の外周面とリング状の上面部63の内周面との隙間が図示しない封止手段により気密的に封止される。これにより上面部63に形成された開口が塞がれる。また、上述のように真空断熱容器6の固定部62は冷却装置5に気密的に固定されている。従って、真空断熱容器6、冷却装置5、及び円筒容器8によって仕切られた密閉空間が、冷却装置5の
図1において上方に形成される。この密閉空間内に、超電導体1(外側超電導体2、内側超電導体3)、ホルダ4、コールドヘッド52及び円筒基材53が配設される。真空断熱容器6は、アルミニウム合金等の非磁性材料で形成される。
【0052】
また、
図1に示すように、真空断熱容器6の円筒状の本体部61の外周を囲むように、外部磁場発生コイル7が設けられる。外部磁場発生コイル7に通電することにより磁場が発生する。外部磁場発生コイル7への通電により発生した磁場を、以下、印加磁場と呼ぶ場合もある。印加磁場は少なくとも外部磁場発生コイル7の内周空間内に形成される。従って、外部磁場発生コイル7の作動によって、超電導体1に磁場が印加される。このとき、超電導体1のボア内に、外側超電導体2及び内側超電導体3の軸方向に沿って磁束が通るような磁場が形成される。
【0053】
上記構成の超電導磁場発生装置100の作動について説明する。まず、図示しない排気装置を用いて、真空断熱容器6の本体部61の内周空間内に形成される密閉空間の内部を排気する。これにより、密閉空間内の気圧が真空状態(例えば0.1Pa以下)となるように減圧される。その後、外部磁場発生コイル7を作動させることにより印加磁場を発生させる。この場合において、上述したように、超電導体1のボア内の空間には、外側超電導体2及び内側超電導体3の軸方向に沿って磁束が通過するような磁場が形成される。また、超電導体1のボア内の空間に、磁場強度分布が軸対称であって、且つ、室温ボア空間内の磁場強度が径方向及び軸方向に均一に分布するように、磁場が印加される(磁場印加工程)。
【0054】
外部磁場発生コイル7の作動によって超電導体1に磁場が印加された状態のまま、冷却装置5を作動させる。これによりコールドヘッド52が冷却され、さらにコールドヘッド52のステージ部52bに載置されている円筒基材53及びホルダ4が冷却される。円筒基材53の円筒部531の外周面531aには、接着剤9を介して内側超電導体3が巻き付けられている。従って、内側超電導体3は、円筒部531及び接着剤を介して冷却される。また、外側超電導体2は、円筒基材53のフランジ部532及びホルダ4を介して冷却される。この場合において、外側超電導体2及び内側超電導体3は、それぞれの超電導遷移温度以下の温度にまで冷却される(冷却工程)。
【0055】
冷却工程の途中であり、外側超電導体2の超電導遷移温度Tcoと内側超電導体3の超電導遷移温度Tciのうちいずれか高い温度よりも僅かに高い温度(超電導直前温度Ts>Tco,Tci)まで、外側超電導体2及び内側超電導体3が冷却されたときに、外部磁場発生コイル7を制御して、室温ボア空間内に、超電導体1(外側超電導体2及び内側超電導体3)の軸方向及び径方向における磁場強度分布が均一な均一磁場が形成されるように、印加磁場を調整する(磁場調整工程)。この磁場調整工程により、それまでに超電導体1に生じていた磁化の変化が印加磁場に与える影響が打ち消される。
【0056】
冷却装置5による冷却により外側超電導体2の温度及び内側超電導体3の温度がそれぞれの超電導遷移温度以下の温度にまで低下した場合、外側超電導体2及び内側超電導体3が超電導状態にされる。このとき、すなわち外側超電導体2の温度及び内側超電導体3の温度が超電導遷移温度以下であるときに、外部磁場発生コイル7の作動を停止して、印加磁場を取り除く。すると、印加磁場の除去に伴う磁場強度の変化を受けて、磁場の状態を復元するように外側超電導体2内に超電導電流が誘起される。このようにして誘起された超電導電流が外側超電導体2内を流れることにより磁場が発生する。すなわち外側超電導体2が着磁される。外側超電導体2の着磁により発生する磁場は、基本的には、外部磁場発生コイル7の作動により発生していた印加磁場と同じ磁場である。つまり、外側超電導体2に超電導電流が流れることにより、外側超電導体2が、外部磁場発生コイル7の作動により発生していた印加磁場を捕捉する(磁場捕捉工程)。外側超電導体2が印加磁場を捕捉することにより超電導体1のボア内に磁場が発生する。磁場の捕捉によって発生した磁場を、捕捉磁場と呼ぶこともある。
【0057】
次に、超電導磁場発生装置100にて発生した捕捉磁場を利用した核磁気共鳴装置について簡単に説明する。
図4は、核磁気共鳴装置110の概略構成を示す図である。核磁気共鳴装置110は、超電導磁場発生装置100と、検出コイル120と、分析手段130とを備える。検出コイル120は、超電導体1のボア内に配設された円筒容器8の容器部81内(室温ボア空間内)に配設される。検出コイル120の内周側に、測定すべき試料Pが配設される。また、分析手段130は、高周波発生装置131、パルスプログラマ(送信器)132、高周波増幅器133、プリアンプ(信号増幅器)134、位相検波器135、アナログ−デジタル(A/D)変換器136、及びコンピュータ137を備える。
【0058】
超電導磁場発生装置100を作動させると、上述のようにして、超電導体1のボア内に捕捉磁場が形成される。次に、図示しないシムコイルにより捕捉磁場を調整することにより、捕捉磁場の磁場強度の均一性が高められる。このとき室温ボア空間内の磁場強度の均一性が1ppm以下となるように、捕捉磁場がシムコイルにより調整される。そして、室温ボア空間内に試料Pが置かれる。この状態において、高周波発生装置131を作動させる。すると、高周波発生装置131により発生された高周波パルスがパルスプログラマ132及び高周波増幅器133を経て検出コイル120に通電され、試料Pにパルス電磁波(ラジオ波)が照射される。磁場中に置かれた試料Pにラジオ波を照射させた場合に起きる核磁気共鳴により、試料Pのまわりに設けられた検出コイル120に微小電流が流れる。この微小電流を表す信号(NMR信号)が、プリアンプ134、位相検波器135、A/D変換器136を経てコンピュータ137に受け渡される。コンピュータ137は、受け渡されたNMR信号に基づいてNMRスペクトルを算出する。得られたNMRスペクトルから試料Pの分子構造が解析される。
【0059】
後述するように、本実施形態に係る超電導磁場発生装置100を用いた場合、室温ボア空間内に生じる捕捉磁場の均一性は高い。従って、検出コイル120により検出された微小電流から得られるNMRスペクトルのピークは明瞭である。よって、試料Pの分子構造の解析精度が向上する。
【0060】
次に、超電導磁場発生装置100により捕捉磁場が発生しているときに外側超電導体2に流れる超電導電流について説明する。
図5は、超電導磁場発生装置100の作動により超電導体1のボア内に捕捉磁場が発生している場合に外側超電導体2に流れている超電導電流を模式的に示す図である。上述したように、印加磁場は、超電導体1のボア内の空間に、外側超電導体2及び内側超電導体3の軸方向に沿って磁束が流れるように形成されていたので、捕捉磁場も同じように磁束が流れるように形成される。このような捕捉磁場は、外側超電導体2の中心軸周りを周方向に沿って超電導電流が流れ続けることにより維持される。このとき超電導電流は、外側超電導体2の中心軸の周りを回る円形の超電導電流ループを形成する。円形の超電導電流ループが形成されることにより、超電導体1のボア内を軸方向に磁束が流れるような捕捉磁場が形成される。
【0061】
なお、一般に、超電導電流は、円筒形状の超電導体の径外方から流れ始める。超電導電流が大きくなるにつれて、超電導電流が超電導体の径内方にも流れるようになる。また、超電導電流の大きさは捕捉磁場の大きさに比例する。従って、捕捉磁場が非常に大きい場合には、捕捉磁場を形成するための超電導電流は、外側超電導体2のみならず内側超電導体3にも流れる。しかしながら、本実施形態では、印加磁場と同じ大きさの捕捉磁場は、理論的には外側超電導体2のみに超電導電流が流れることにより形成され得るように構成される。すなわち、印加磁場は、外側超電導体2に理論的に最大の超電導電流を流すことができる場合に形成される磁場の大きさよりも小さく設定される。
【0062】
外部磁場発生コイル7によって、超電導体1のボア内に、磁場強度分布が軸対称であり且つ中央部分(室温ボア空間)における磁場強度が均一であるような磁場が印加されていた場合、そのような印加磁場と同一の捕捉磁場を得るために外側超電導体2に形成される超電導電流ループは、外側超電導体2の中心軸に垂直な断面内で、中心軸を中心として外側超電導体2の周方向に沿って外側超電導体2の外周形状(或いは内周形状)と同心の円を描く。
図5に、このような理想的な超電導電流ループRが示される。
【0063】
外側超電導体2の材料特性及び超電導特性が完全に均一であれば、
図5に示すような理想的な超電導電流ループRが形成されるはずである。しかし、外側超電導体2は超電導バルクにより形成されているので、上述した不均一特性を有し、電流が流れやすい部分と流れにくい部分が存在する。超電導電流は電流の流れ難い部分を避けて流れるために、超電導体が不均一特性を有する場合、超電導電流ループが上記した同心状の円ではなく歪な形状に形成される可能性が高い。すなわち、超電導電流ループが乱れる可能性が高い。従って、超電導体1のボア内に形成されていた印加磁場が、軸対称分布であり且つ中央部分(室温ボア部分)の磁場強度が均一である場合であっても、外側超電導体2の持つ不均一特性のために、実際に外側超電導体2に形成される超電導電流ループは乱れる。
図5に点線で、乱れた超電導電流ループR’が示される。乱れた超電導電流ループにより得られる磁場は不均一である。このため捕捉磁場の軸対称性及び均一性が損なわれる。
【0064】
本実施形態においては、外側超電導体2の内側に内側超電導体3が同軸的に設けられている。そして、外側超電導体2に形成される超電導電流ループの乱れによって捕捉磁場の軸対称性及び均一性が損なわれた場合、捕捉磁場を補正するための超電導電流(補正電流)のループが内側超電導体3に形成される。内側超電導体3にこのような補正電流ループが形成されることによって、外側超電導体2に形成された乱れた超電導電流ループにより形成された不均一な捕捉磁場を均一な捕捉磁場に戻すような磁場が形成される。その結果、捕捉磁場の軸対称性及び均一性が保たれる。よって、磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分における磁場強度が均一な捕捉磁場が、超電導体1のボア内に形成される。
【0065】
図6は、内側超電導体3に形成される補正電流ループを模式的に示す図である。補正電流ループは、外側超電導体2に形成される超電導電流ループの乱れに応じて形成されるため、その形状は様々に変化する。例えば、
図6の補正電流ループL1,L2に示すように、円筒周面内にて周方向における一部の領域のみを流れる超電導電流により形成される補正電流ループが形成され得る。すなわち、内側超電導体3には、その円筒周面内にて、任意形状の補正電流ループが形成される。なお、本実施形態のように、超電導薄帯3Aが螺旋巻きされることによって円筒状の内側超電導体3が形成されているような場合には、補正電流ループは、螺旋巻きされた超電導薄帯3Aの隣接する巻線の境界を横切らないような領域内にて、任意形状の補正電流ループが形成される。
【0066】
内側超電導体3の円筒周面に任意形状の補正電流ループが形成される理由について説明する。円筒形状の超電導体の臨界電流密度Jcは、軸方向における臨界電流密度Jczと、径方向における臨界電流密度Jcrと、周方向における臨界電流密度Jcθとによって表される。また、ある点において、Jczの方向、Jcrの方向、Jcθの方向は、直交する。従って、JczとJcrとによって、Jcθに直交する面が定義され、JcrとJcθとによって、Jczに直交する面が定義され、JcθとJczとによって、Jcrに直交する面が定義される。Jcrに直交する面は、円筒周面である。すなわち、JcθとJczとにより円筒周面が定義される。ここで、円筒周面とは、円筒形状の超電導体の外周面及び内周面に平行な面、つまり、軸方向から見た場合に円筒形状の超電導体の外周及び内周を形成する円と一致する円或いは同心の円を形成する面である。
【0067】
また、内側超電導体3は、上述したように、その結晶構造のc軸の方向が径方向に一致するように形成されている。一般に、c軸方向を積層方向(層に垂直な方向)とする層状の結晶構造を持つ超電導体において、c軸方向における臨界電流密度は低く、c軸方向に直交する方向における臨界電流密度は高い。さらに、c軸方向に直交する面内における臨界電流密度はほぼ等しい。このことから、内側超電導体3においては、径方向における臨界電流密度Jcr1が低く、軸方向における臨界電流密度Jcz1及び周方向における臨界電流密度Jcθ1が高く、且つ、Jcz1とJcθ1はほぼ等しいと言える。つまり、Jcθ1≒Jcz1>Jcr1という関係が成立する。
【0068】
なお、外側超電導体2の結晶構造のc軸の方向は、上述したように外側超電導体2の軸方向に一致する。そのため、外側超電導体2の軸方向に流れる超電導電流の臨界電流密度Jcz2は、外側超電導体2の径方向に流れる超電導電流の臨界電流密度Jcr2及び周方向に流れる超電導電流の臨界電流密度Jcθ2よりも小さい。また、Jcr2とJcθ2はほぼ等しい。つまり、Jcr2≒Jcθ2>Jcz2という関係が成立する。
【0069】
円筒形状の超電導体の円筒周面における臨界電流密度の均一性は、軸方向における臨界電流密度Jczに対する周方向における臨界電流密度Jcθの比(Jcθ/Jcz)により表すことができ、比(Jcθ/Jcz)が1に近ければ近いほど、円筒周面における臨界電流密度は均一であるということができる。ここで、内側超電導体3においては、Jcz1とJcθ1はほぼ等しいから、比(Jcθ1/Jcz1)は1に近い。一方、外側超電導体2においては、Jcz2はJcθ2よりも小さいから、比(Jcθ2/Jcz2)は1よりかなり大きい。つまり、内側超電導体3の臨界電流密度についての比(Jcθ1/Jcz1)の大きさは、外側超電導体2の臨界電流密度についての比(Jcθ2/Jcz2)の大きさよりも、1に近い。要するに、内側超電導体3の円筒周面における臨界電流密度の均一性は、外側超電導体2の円筒周面における臨界電流密度の均一性よりも高い。
【0070】
面内における臨界電流密度が高く、且つ、その面内における臨界電流密度が均一である場合、その面内に超電導電流が流れ易い。すなわち、内側超電導体3の円筒周面内に超電導電流が流れ易い。よって、内側超電導体3の円筒周面内に、任意の形状の超電導電流ループ(補正電流ループ)が形成されるのである。
【0071】
内側超電導体3の円筒周面内に任意形状の補正電流ループが形成されることによって、超電導体1のボア内に、磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分の磁場強度が均一な捕捉磁場を形成することができる理由について言及する。超電導体1のボア内に形成されていた印加磁場の磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分における印加磁場の磁場強度が均一であった場合、外側超電導体2内には、その印加磁場と同一の捕捉磁場が形成されるように超電導電流ループが形成されるはずである。しかし、外側超電導体2の不均一特性に起因して印加磁場と同一の磁場を形成できないような超電導電流ループが外側超電導体2内に形成された場合、印加磁場と捕捉磁場との差分の磁場が、内側超電導体3に形成される補正電流ループによって捕捉される。ここで、上述したように、内側超電導体3は、その円筒周面内に任意の形状の超電導電流ループ(補正電流ループ)を形成することができる。よって、内側超電導体3の円筒周面内の領域であって超電導電流ループを形成することができる領域内の任意の位置に、任意の形状の超電導電流ループが一つ以上形成されることにより、任意の方向に磁束が通る任意の強度の磁場を形成することができる。つまり、差分の磁場がどのような磁場であっても、その磁場に応じた磁場が形成されるように、内側超電導体3内の円筒周面内に任意形状の超電導電流ループ(補正電流ループ)が形成される。その結果、不均一な捕捉磁場が補われて捕捉磁場の軸対称性及び均一性が保たれる。このため、超電導体1のボア内に、磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分の磁場強度が均一な捕捉磁場を形成することができる。よって、超電導体1のボアの中央部分に配置した室温ボア空間に、軸方向に及び径方向に沿って磁場強度が均一な捕捉磁場を形成することができる。
【0072】
また、本実施形態において、上述したように円筒形状の外側超電導体2の結晶構造のc軸の方向は軸方向に一致し、一方、円筒形状の内側超電導体3の結晶構造のc軸の方向は径方向に一致している。また、印加磁場の方向(磁束の流れる方向)は超電導体1の軸方向である。つまり、外側超電導体2には、c軸方向に磁束が流れるように磁場が印加され、内側超電導体3には、c軸方向に垂直に磁束が流れるように磁場が印加される。ここで、超電導体は、磁場の印加によって臨界電流密度が低下するという性質を持つが、さらに、超電導体は、磁場の印加方向によって臨界電流密度の低下量が変化するという性質をも持つ。c軸方向に垂直に磁束が流れるように磁場が印加された場合における臨界電流密度の低下量は、c軸方向に磁束が流れるように磁場が印加された場合における臨界電流密度の低下量よりも少ない。すなわち、内側超電導体3における臨界電流密度の低下量は、外側超電導体2における臨界電流密度の低下量よりも小さい。従って、外側超電導体2と内側超電導体3が同じ材料組成である場合であっても、c軸方向の違いにより、内側超電導体3の臨界電流密度が外側超電導体2の臨界電流密度よりも大きくなる。このように、内側超電導体3の臨界電流密度が大きいので、臨界電流密度によって補正電流ループの大きさが制限されることを防止することができる。よって、外側超電導体2に形成される超電導ループの乱れに応じた適切な補正電流ループを内側超電導体3に形成することができ、その結果、より一層確実に、磁場強度分布が軸対称であって且つ中央部分の磁場強度が均一な捕捉磁場を形成することができる。
【0073】
ところで、上記したように、室温ボア空間に補足磁場を形成するために、超電導体1(外側超電導体2及び内側超電導体3)が、冷却工程にて超電導遷移温度以下の温度に冷却される。また、内側超電導体3は、接着剤9を介して円筒基材53の円筒部531の外周面531aに接着されている。従って、冷却工程では、内側超電導体3は、円筒部531及び接着剤を介して冷却される。
【0074】
また、冷却時には、内側超電導体3、円筒部531、及び接着剤9が、熱収縮する。この場合において、内側超電導体3、接着剤9、円筒部531のそれぞれの熱収縮率が異なる場合、熱収縮率の違いに起因して、内側超電導体3に熱応力が作用する。特に、円筒部531の熱収縮率が内側超電導体3の熱収縮率よりも大きい場合、冷却時に内側超電導体3が径内方に引っ張られるような引っ張り応力を円筒部531から受ける。
【0075】
上記した引っ張り応力は、接着剤9を介して内側超電導体3に作用する。つまり、内側超電導体3のうち、円筒部531の外周面531aへの接着領域に引っ張り応力が作用する。従って、接着剤9による接着領域が大きい場合、大きな引っ張り応力が内側超電導体3に作用する。例えば、内側超電導体3の全面が接着剤9によって円筒部531の外周面531aに接着されている場合、非常に大きな引っ張り応力が内側超電導体3に作用することになる。
【0076】
このような引っ張り応力は、内側超電導体3を構成する超電導薄帯3Aのテープ面に垂直な方向に作用する。よって、引っ張り応力が大きい場合、超電導薄帯3Aの剥離等の損傷が発生する可能性が高い。
【0077】
この点に関し、本実施形態においては、内側超電導体3が、円筒部531の外周面531aに接着剤によって部分的に接着されている。従って、接着領域が、全面接着の場合と比較して小さい。よって、冷却時の熱収縮の違いにより円筒部531から内側超電導体3に作用する引っ張り応力も小さい。そのため、内側超電導体3を構成する超電導薄帯3Aの剥離等損傷の発生が抑制される。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る超電導磁場発生装置100は、高温超電導材料により円筒状に形成され、超電導遷移温度以下の温度に冷却された状態で印加磁場を捕捉することにより、捕捉磁場を発生する外側超電導体2と、高温超電導材料により円筒状に形成され、外側超電導体2の内周側に外側超電導体2と同軸的に配置されるとともに、円筒周面内における臨界電流密度の均一性が、円筒周面内における外側超電導体2の臨界電流密度の均一性よりも高い内側超電導体3と、外側超電導体2と内側超電導体3をそれぞれ超電導遷移温度以下の温度に冷却するための冷熱を発生する冷却装置5と、を備える。更に、冷却装置5は、外側超電導体2の内周空間内に外側超電導体2と同軸的に配設された円筒部531を有する円筒基材53を備える。そして、内側超電導体3は、円筒部531の外周面531aに巻き付けられ、且つ、円筒部531の外周面531aに部分的に接着された状態で、外側超電導体2の内周側に外側超電導体2と同軸的に配置される。
【0079】
本実施形態によれば、内側超電導体3が円筒部531の外周面531aに部分的に接着されているため、内側超電導体3の冷却時に、円筒部531の熱収縮率と内側超電導体3の熱収縮率との差によって内側超電導体3が接着部位を介して円筒部531から熱応力(引っ張り応力)を受ける領域が、全面接着の場合と比較して小さい。つまり、内側超電導体3を円筒部531に部分接着することによって、円筒部531から内側超電導体3に作用する熱応力(引っ張り応力)が軽減される。その結果、冷却時に生じる熱応力(引っ張り応力)に起因した内側超電導体3の損傷、例えば内側超電導体3を構成する超電導薄帯3Aの剥離等が抑制される。
【0080】
また、内側超電導体3は、円筒部531の外周面531aに、円筒部531の軸方向を併進方向として螺旋状に巻き付けられた長尺状の超電導薄帯3Aにより円筒状に形成されている。そして、こうして円筒状に形成された内側超電導体3は、離間した複数の位置にて、円筒部の周面に部分的に接着されている。このため、1本の長尺状の超電導薄帯3Aから、簡単に、円筒形状の内側超電導体3を作製することができる。
【0081】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導場発生装置は、冷却装置の構造、より具体的にはコールドヘッド及び円筒基材の構成を除き、基本的には、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生装置100と同一構成である。従って、以下に説明する構成以外の構成については上記第一実施形態で示した構成と同一符号を用いることによりその具体的な説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0082】
図7は、本実施形態に係る超電導磁場発生装置101を上下方向に沿った中心線を含む平面で切断した断面を表す概略図である。
図7に示すように、本実施形態に係る超電導磁場発生装置101に備えられる冷却装置5は、第一実施形態に係る冷却装置5と同様に、支柱部52a及びステージ部52bを有するコールドヘッド52と、円筒基材53を備える。
【0083】
また、本実施形態においては、コールドヘッド52のステージ部52bの表面(
図7において上面)の中央部には、
図7の上下方向に垂直な断面が円形状の凹部52cが形成されている。また、円筒基材53は、外周面531a及び内周面531bを有する円筒状の円筒部531と、円筒部531の一方の端面(
図7において下端面)を閉塞するように円筒部531の一方の端面に接続された円板状の固定部533とを有する。固定部533の径は、ステージ部52bの表面に形成された凹部52cの径よりも僅かに小さい。
【0084】
そして、円筒基材53の固定部533が、コールドヘッド52のステージ部52bの表面に形成された凹部52cに嵌め込まれている。凹部52cに嵌め込まれた固定部533は、ボルトBTによってコールドヘッド52のステージ部52bに固定される。これにより、円筒基材53の固定部533が、ステージ部52bに埋設された状態でコールドヘッド52(ステージ部52b)に直接的に固定される。また、外側超電導体2は、コールドヘッド52のステージ部52b上に直接的に載置される。それ以外の構成は、上記第一実施形態と同様である。
【0085】
本実施形態によれば、円筒基材53の固定部533がコールドヘッド52のステージ部52bに埋設状態で固定されているため、コールドヘッド52から円筒基材53への冷熱の伝達量を増大させることができる。このため、冷却工程時間の短縮化を図ることができる。さらに、外側超電導体2及び内側超電導体3を着磁する際における外側超電導体2の発熱による円筒基材53の加熱が抑えられる。このため、円筒基材53の円筒部531を通じて、内側超電導体3が、効率良く、且つ、均一に冷却される。
【0086】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、内側超電導体3の構成を除き、基本的には第一実施形態又は第二実施形態に係る超電導磁場発生装置100,101と同一である。以下、異なる点を中心に説明する。
【0087】
本実施形態において、内側超電導体は、超電導薄帯が螺旋巻きされることによって円筒状に形成された2つの超電導体を備える。これら2つの円筒状の超電導体が重ね合わされることによって、内側超電導体が構成される。
【0088】
図8は、本実施形態に係る内側超電導体3が、第二実施形態に係る円筒基材53の円筒部531に巻きつけられている状態を示す図である。
図8において円筒部531が一点鎖線で示される。
図8に示すように、本実施形態に係る内側超電導体3は、第一内側超電導体31と、第二内側超電導体32とを備える。第一内側超電導体31及び第二内側超電導体32は、ともに円筒状である。第一内側超電導体31は円筒部531の外周側に設けられ、第二内側超電導体32は第一内側超電導体31の外周側に設けられる。
【0089】
図9は、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32とを別々に示す図であり、
図9(a)が第一内側超電導体31を示し、
図9(b)が第二内側超電導体32を示す。
図9(a)からわかるように、第一内側超電導体31は、円筒部531の外周面531aに、円筒部531の軸方向を併進方向として螺旋状に巻きつけられた長尺状の超電導薄帯3Aにより円筒状に形成される。また、
図9(b)からわかるように、第二内側超電導体32は、円筒状に形成された第一内側超電導体31の外周面31aに、円筒部531の軸方向(すなわち第一内側超電導体31の軸方向)を併進方向として螺旋状に巻き付けられた長尺状の超電導薄帯3Aにより円筒状に形成される。
【0090】
また、
図9(a)に示すように、第一内側超電導体31を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯3Aの各螺旋巻線のうち、軸方向に隣接する巻き線の側縁どうしが隙間なく付き合わされる。このため隣接する側縁と側縁との境界線B1が螺旋状に形成される。同様に、
図9(b)に示すように、第二内側超電導体32を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯3Aの各螺旋巻線のうち、軸方向に隣接する巻線の側縁どうしが隙間なく付き合わされる。このため隣接する側縁と側縁との境界線B2が螺旋状に形成される。
【0091】
また、
図9(a)と
図9(b)とを比較してわかるように、第一内側超電導体31に形成される螺旋状の境界線B1の形成位置(すなわち第一内側超電導体31を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯3Aの各螺旋巻線の側縁の位置)と、第二内側超電導体32に形成される螺旋状の境界線B2の形成位置(すなわち第二内側超電導体32を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯3Aの各螺旋巻線の側縁の位置)が、一致しないように、境界線B1と境界線B2が円筒部531の軸方向にずらされている。従って、磁場の捕捉時に内側超電導体3に形成される補正電流ループのうち、第二内側超電導体32に形成される螺旋状の境界線B2を跨ぐような補正電流ループL6は第一内側超電導体31に形成され、第一内側超電導体31に形成される境界線B1を跨ぐような補正電流ループL7は第二内側超電導体32に形成される。
【0092】
このように、それぞれの側縁の位置が異なる位置に形成されるように、2本の長尺状の超電導薄帯を螺旋状に巻きつけて第一内側超電導体31及び第二内側超電導体32を備える内側超電導体3を構成することで、一方の側縁を跨ぐ位置に形成されるべき補正電流ループが他方の超電導薄帯に形成される。つまり、誘起される補正電流ループは、必ず、いずれかの超電導薄帯に形成される。このため、内側超電導体3に任意の形状の補正電流ループを内側超電導体3に形成することができる。
【0093】
また、第一内側超電導体31は、円筒部531の外周面531aに接着剤により部分的に接着されており、第二内側超電導体32は、第一内側超電導体31の外周面31aに接着剤により部分的に接着されている。
図8には、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aが黒丸で表され、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bが白丸で表されている。
図8からわかるように、接着位置Aと接着位置Bは、異なる位置にある。
【0094】
ここで、接着位置Aは、第一内側超電導体31が円筒部531に接着される位置であり、接着位置Bは、第二内側超電導体32が第一内側超電導体31に接着される位置である。接着位置Aと接着位置Bが異なる位置ということは、接着位置Aと接着位置Bが、第一内側超電導体31を挟んで異なる位置、つまり、第一内側超電導体31のテープ面に垂直な方向(径方向)における同一位置ではないということである。このため、テープ面に垂直な方向において、第一内側超電導体31は、両面接着されていない。
【0095】
このように、接着位置Aと接着位置Bとが第一内側超電導体31を挟んで異なる位置となるように接着位置Aと接着位置Bを調整することにより、冷却工程において、第一内側超電導体31が、同じ位置で両面側から引っ張られることを防止することができる。このため、第一内側超電導体31に局所的に大きな引っ張り応力が作用することが防止され、その結果、第一内側超電導体31の剥離等の損傷が、効果的に抑制される。
【0096】
(第四実施形態)
次に、第四実施形態について説明するが、第四実施形態に係る超電導磁場発生装置は、円筒部の外周面への第一内側超電導体の接着位置、及び、第一内側超電導体の外周面への第二内側超電導体の接着位置、を除き、上記第三実施形態に係る超電導磁場発生装置の構成と基本的に同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0097】
本実施形態においても、上記第三実施形態と同様に、内側超電導体が、第一内側超電導体と第二内側超電導体を備える。また、第一内側超電導体は、円筒部の外周面に、円筒部の軸方向を併進方向として螺旋巻きされた超電導薄帯により円筒状に形成される。第二内側超電導体は、第一内側超電導体の外周面に、円筒部の軸方向を併進方向として螺旋巻きされた超電導薄帯により円筒状に形成される。さらに、第一内側超電導体は、円筒部の外周面に部分接着され、第二内側超電導体は、第一内側超電導体の外周面に部分接着される。
【0098】
図10Aは、第四実施形態において、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置を示す図である。また、
図10Bは、第四実施形態において、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置を示す図である。
図10Aにおける接着位置及び
図10Bにおける接着位置は、それぞれ斜線で示される。
【0099】
図10Aに示すように、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置U1,D1は、円筒部531の軸方向における両端位置である。ここで、円筒部531の一方の端部には、第一内側超電導体31を構成する長尺状の超電導薄帯の長手方向における一方の端部が対面し、円筒部531の他方の端部には、第一内側超電導体31を構成する長尺状の超電導薄帯の長手方向における他方の端部が対面する。従って、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置U1,D1は、第一内側超電導体31を構成する超電導薄帯の長手方向における両端位置であるとも言える。また、第一内側超電導体31を構成する超電導薄帯は、円筒部531の外周面531aの一方の端部から巻き始められ、他方の端部で巻き終わる。従って、接着位置U1,D1は、別の言い方をすれば、超電導薄帯が円筒部531の外周面531aに螺旋巻きされる際における巻き始めの位置と巻き終わりの位置である。
【0100】
また、
図10Bに示すように、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置U2,D2は、第一内側超電導体31の軸方向における両端位置である。第一内側超電導体31の一方の端部には、第二内側超電導体32を構成する長尺状の超電導薄帯の長手方向における一方の端部が対面し、第一内側超電導体31の他方の端部には、第二内側超電導体32を構成する長尺状の超電導薄帯の長手方向における他方の端部が対面する。従って、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置U2,D2は、第二内側超電導体32を構成する超電導薄帯の長手方向における両端位置であるともいえる。また、第二内側超電導体32を構成する超電導薄帯は、第一内側超電導体31の外周面31aの一方の端部から巻き始められ、他方の端部で巻き終わる。従って、接着位置U2,D2は、別の言い方をすれば、超電導薄帯が第一内側超電導体31の外周面31aに螺旋巻きされる際における巻き始めの位置と巻き終わりの位置である。
【0101】
図11は、本実施形態に係る第一内側超電導体31の接着及び第二内側超電導体32の接着が完了した状態を示す斜視図である。また、
図12は、本実施形態に係る第一内側超電導体31の接着状態及び第二内側超電導体32の接着状態を、円筒部531の中心軸線を含む断面から示す概略図である。
【0102】
図12に示すように、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置U1と、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置U2は、第一内側超電導体31を挟んで同じ位置であり、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置D1と、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置D2は、第一内側超電導体31を挟んで同じ位置である。
【0103】
また、円筒部531の外周面531aと第一内側超電導体31の内周面との間であって、円筒部531の軸方向における両端に位置する接着位置U1,D1の間の広い領域は未接着領域である。同様に、第一内側超電導体31の外周面31aと第二内側超電導体32の内周面との間であって、第一内側超電導体31の軸方向における両端に位置する接着位置U2,D2の間の広い領域は未接着領域である。
【0104】
本実施形態においてはこのように、各内側超電導体31,32の接着位置を、それぞれが固定されるために必要最小限の位置である両端位置(超電導薄帯の長手方向における両端位置)に限定し、接着面積を極力小さくすることによって、冷却時に各内側超電導体31,32に作用する引っ張り応力をより一層軽減することができる。その結果、冷却時における各内側超電導体31,32の損傷がより一層抑制される。また、円筒部531の外周面531aの両端に接着剤を塗布しておいてから、円筒部531の外周面531aに超電導薄帯を螺旋巻きすることにより、円筒部531の外周面531aに第一内側超電導体31を簡単に接着することができる。同様に、第一内側超電導体31の外周面31aの両端に接着剤を塗布しておいてから、第一内側超電導体31の外周面31aに超電導薄帯を螺旋巻きすることにより、第一内側超電導体31の外周面31aに第二内側超電導体32を簡単に接着することができる。
【0105】
(第五実施形態)
次に、第五実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、上記第四実施形態で示した円筒部と第一内側超電導体との間の未接着領域、及び、第一内側超電導体と第二内側超電導体との間の未接着領域に、充填剤が充填されていることを除き、上記第四実施形態と基本的には同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0106】
図13は本実施形態に係る第一内側超電導体31の接着状態及び第二内側超電導体32の接着状態を、円筒部531の中心軸線を含む断面から示す概略図である。
図13に示すように、第一内側超電導体31は、円筒部531の軸方向における両端の接着位置U1,D1にて、円筒部531の外周面531aに接着されている。また、第二内側超電導体32は、第一内側超電導体31の軸方向における両端の接着位置U2,D2にて、第一内側超電導体31の外周面31aに接着されている。
【0107】
また、円筒部531の外周面531aと第一内側超電導体31の内周面との間であって、接着位置U1,D1間に形成される隙間(未接着領域)に充填剤10が充填されている。同様に、第一内側超電導体31の外周面31aと第二内側超電導体32の内周面との間であって、接着位置U2,D2間に形成される隙間(未接着領域)に充填剤10が充填されている。
【0108】
充填剤10は、その弾性率が、接着位置U1,D1,U2,D2に塗布される接着剤9の弾性率よりも小さいものを採用することができる。例えば、接着位置U1,D1,U2,D2に塗布される接着剤がエポキシ系接着剤である場合、充填剤10として、グリース、ワックス、シリコーンを用いることができる。
【0109】
このように、本実施形態においては、円筒部531と第一内側超電導体31との間の隙間、及び、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32との間の隙間、の全部又は一部に、弾性率が接着剤よりも小さい充填剤10が充填される。このように構成することにより、冷却工程にて、内側超電導体3が、各接着位置に塗布された接着剤のみならず隙間に充填された充填剤10からも冷熱を受けることができる。このため、冷却効率をより向上させることができる。
【0110】
また、充填剤10は接着剤よりも変形しやすいので、冷却時には、充填剤10の充填領域に作用する引っ張り応力は、接着領域における引っ張り応力よりも弱い。よって、冷却時における内側超電導体3の剥離等の損傷が効果的に抑制される。
【0111】
(第六実施形態)
次に、第六実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、第二内側超電導体の外周側にカバー部が設けられていることを除き、上記第五実施形態と基本的には同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0112】
図14は、本実施形態に係る超電導磁場発生装置に備えられる第一内側超電導体31及び第二内側超電導体32の接着状態を、円筒部531の中心軸線を含む断面から示す概略図である。
図14に示すように、第一内側超電導体31は、円筒部531の軸方向における両端の接着位置U1,D1にて、円筒部531の外周面531aに接着され、第二内側超電導体32は、第一内側超電導体31の軸方向における両端の接着位置U2,D2にて、第一内側超電導体31の外周面31aに接着される。
【0113】
また、円筒部531と第一内側超電導体31との間の隙間、及び、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32との間の隙間、の全部又は一部に、弾性率が接着剤よりも小さい充填剤10が充填される。
【0114】
また、
図14からわかるように、第二内側超電導体32の外側にカバー部54が設けられる。このカバー部54は円筒形状であり、熱伝導性の良好な材質により形成される。また、カバー部54の
図14において下端部が円筒基材53に接続される。
【0115】
カバー部54は、第二内側超電導体32を覆うように設けられている。すなわち、カバー部54は、第二内側超電導体32の外周面32aに対面するように、円筒状に形成されている。第二内側超電導体32の外周面32aは、第二内側超電導体32の内周面(第一内側超電導体31の外周面31aに部分的に接着されている周面)と反対側の周面である。つまり、カバー部54は、第二内側超電導体32の周面であって第一内側超電導体31の外周面31aに部分的に接着されている面(内周面)とは反対側の周面(外周面32a)に対面するように円筒状に形成される。
【0116】
また、第二内側超電導体32とカバー部54との間に隙間が形成されており、この隙間内には、充填剤10が充填される。この充填剤10は、上述したように、各内側超電導体31,32の接着に用いられる接着剤の弾性率よりも小さい弾性率を有する。
【0117】
本実施形態によれば、冷却工程にて、内側超電導体3がカバー部54側からも冷却される。よって、冷却効率がより向上するとともに、内側超電導体3を均一に冷却することができる。
【0118】
(第七実施形態)
次に、第七実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、内側超電導体が円筒部の内周面側に配設されていることを除き、基本的には、第六実施形態と同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0119】
図15は、本実施形態に係る内側超電導体3が円筒基材53の円筒部531に接着されている状態を、円筒部531の中心軸を含む断面から示す概略図である。
図15に示すように、内側超電導体3は、第一内側超電導体31及び第二内側超電導体32を備える。
【0120】
第一内側超電導体31は、円筒基材53の円筒部531の内周面531b側に配置されており、円筒部531の内周面531bの両端部における接着位置A,Aにて、円筒部531に部分的に接着される。また、第二内側超電導体32は、第一内側超電導体31の内周面31b側に配置されており、第一内側超電導体31の内周面31bの両端部における接着位置B,Bにて、第一内側超電導体31に部分的に接着される。
【0121】
また、円筒部531の内周面531bと第一内側超電導体31の外周面との間の隙間には充填剤10が充填される。同様に、第一内側超電導体31の内周面31bと第二内側超電導体の外周面との間の隙間にも、充填剤10が充填される。
【0122】
また、第二内側超電導体32の内周側に、円筒状のカバー部54が配設される。このカバー部54は、熱伝導率の良好な材質により形成されており、その外周面が第二内側超電導体32の内周面に対面配置する。また、カバー部54の
図15において下端部が、円筒基材53に接続される。さらに、第二内側超電導体32とカバー部54との間に隙間が設けられており、この隙間内に充填剤10が充填される。
【0123】
本実施形態においては、上記第六実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0124】
(第八実施形態)
次に、第八実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、内側超電導体の接着位置が異なることを除き、基本的には、上記第三実施形態及び上記第四実施形態と同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0125】
本実施形態においても、上記第三実施形態及び第四実施形態と同様に、内側超電導体は、第一内側超電導体と、第二内側超電導体とを備える。第一内側超電導体は、円筒部の外周面に接着され、第二内側超電導体は、第一内側超電導体の外周面に接着される。
【0126】
図16Aは、第八実施形態において、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aを示す図である。また、
図16Bは、第八実施形態において、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bを示す図である。
図16Aにおける接着位置A及び
図16Bにおける接着位置Bは、それぞれ斜線で示される。
【0127】
図16Aに示すように、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aは、円筒部531の周方向に離間し且つ円筒部531の軸方向に沿って線状に延びた複数の線状領域である。同様に、
図16Bに示すように、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bは、第一内側超電導体31の周方向に離間し且つ第一内側超電導体31の軸方向に沿って線状に延びた複数の線状領域である。
【0128】
第一内側超電導体31が円筒部531の外周面531aに接着される複数の線状領域(接着位置A)のそれぞれは、第一内側超電導体31が接着されたとき、第一内側超電導体31を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯の各螺旋巻線間を、円筒部531の軸方向に沿って跨ぐ。従って、各螺旋巻線が、少なくとも一か所で円筒部531に接着されることになる。同様に、第二内側超電導体32が第一内側超電導体31に接着される複数の線状領域(接着位置B)のそれぞれは、第二内側超電導体32が接着されたとき、第二内側超電導体32を構成する螺旋巻きされた超電導薄帯の各螺旋巻線間を、円筒部531の軸方向に沿って跨ぐ。従って、各螺旋巻線が、少なくとも一か所で第一内側超電導体31に接着されることになる。
【0129】
図17は、本実施形態に係る第一内側超電導体31の接着状態及び第二内側超電導体32の接着状態を、円筒部531の軸方向に垂直な断面から示す概略図である。
図17に示すように、円筒部531の軸方向から見た場合、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aは、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bとは異なる位置である。具体的にいうと、接着位置Aと接着位置Bは、円筒部531の周方向において異なる位置である。つまり、接着位置Aと接着位置Bは、円筒部531の周方向にずれている。このため、接着位置Aと接着位置Bは、第一内側超電導体31を挟んで同じ位置に来ない。
【0130】
本実施形態によれば、円筒部531への第一内側超電導体31の接着領域(接着位置A)は、第一内側超電導体31の軸方向に線状に延びているため、冷却時には、第一内側超電導体31が軸方向に線状に延びた接着領域(接着位置A)に塗布された接着剤を介して、軸方向に沿ってほぼ均一に冷却される。同様に、第一内側超電導体31への第二内側超電導体32の接着領域(接着位置B)は、第二内側超電導体32の軸方向に線状に延びているため、冷却時には、第二内側超電導体32が軸方向に線状に延びた接着領域(接着位置B)に塗布された接着剤を介して軸方向に沿ってほぼ均一に冷却される。また、簡単に、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32を部分接着することができる。さらに、第一内側超電導体31が円筒部531に接着される位置(接着位置A)と、第一内側超電導体31が第二内側超電導体32に接着される位置(接着位置B)が、第一内側超電導体31を挟んで異なった位置である(周方向にずれている)ので、冷却時に第一内側超電導体31が同じ位置にて両面側から引っ張られることがない。このため、第一内側超電導体31の剥離等の損傷が効果的に抑制される。
【0131】
(第九実施形態)
次に、第九実施形態について説明するが、本実施形態に係る超電導磁場発生装置は、円筒部と第一内側超電導体との間の隙間、及び、第一内側超電導体と第二内側超電導体との間の隙間に、それぞれ充填剤が充填されていることを除き、上記第八実施形態に係る超電導磁場発生装置と基本的には同一である。以下、相違点を中心に説明する。
【0132】
本実施形態においても、第八実施形態と同様に、内側超電導体は、第一内側超電導体と、第二内側超電導体とを備える。第一内側超電導体は、円筒部の外周面に接着され、第二内側超電導体は、第一内側超電導体の外周面に接着される。
【0133】
また、円筒部の外周面への第一内側超電導体の接着位置、及び、第一内側超電導体の外周面への第二内側超電導体の接着位置も、第八実施形態と同様の位置である。つまり、本実施形態においても、
図16Aに示すように、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aは、円筒部531の周方向に離間し且つ円筒部531の軸方向に沿って線状に延びた複数の線状領域である。同様に、
図16Bに示すように、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bは、第一内側超電導体31の周方向に離間し且つ第一内側超電導体31の軸方向に沿って線状に延びた複数の線状領域である。
【0134】
図18は、本実施形態に係る第一内側超電導体31の接着状態及び第二内側超電導体32の接着状態を、円筒部531の軸方向に垂直な断面から示す概略図である。
図18に示すように、円筒部531の軸方向から見た場合、円筒部531の外周面531aへの第一内側超電導体31の接着位置Aは、第一内側超電導体31の外周面31aへの第二内側超電導体32の接着位置Bとは異なる位置である。具体的にいうと、接着位置Aと接着位置Bは、円筒部531の周方向において異なる位置である。つまり、接着位置Aと接着位置Bは、円筒部531の周方向にずれている。
【0135】
また、
図18からわかるように、円筒部531の外周面531aと第一内側超電導体31の内周面との間であって、接着位置Aを除く部分に形成される隙間(未接着領域)に充填剤10が充填されている。同様に、第一内側超電導体31の外周面31aと第二内側超電導体32の内周面との間であって、接着位置Bを除く部分に形成される隙間(未接着領域)に充填剤10が充填されている。
【0136】
充填剤10は、その弾性率が、接着位置A,Bに塗布される接着剤の弾性率よりも小さいものを選定し得る。例えば、接着位置A,Bに塗布される接着剤がエポキシ系接着剤である場合、充填剤10として、グリース、ワックス、シリコーンを選定することができる。
【0137】
図19Aは、
図18のI−I断面図であり、
図19Bは、
図18のII−II断面図である。
図19Aに示す断面においては、円筒部531と第一内側超電導体31との間に充填剤10が充填されており、一方、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32との間に接着剤が塗布されている。また、
図19Bに示す断面においては、円筒部531と第一内側超電導体31との間に接着剤が塗布されており、一方、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32との間に充填剤10が充填されている。
【0138】
本実施形態によれば、上記第八実施形態と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態においては、円筒部531と第一内側超電導体31との間の隙間、及び、第一内側超電導体31と第二内側超電導体32との間の隙間、の全部又は一部に、弾性率が接着剤よりも小さい充填剤10が充填される。このように構成することにより、冷却工程にて、内側超電導体3が、接着位置A,Bに塗布された接着剤のみならず隙間に充填された充填剤10からも冷熱を受けることができる。このため、冷却効率をより向上させることができる。
【0139】
また、充填剤10は接着剤よりも変形しやすいので、冷却時には、充填剤10の充填領域に作用する引っ張り応力は、接着領域における引っ張り応力よりも弱い。よって、冷却時における内側超電導体3の剥離等の損傷が効果的に抑制される。
【0140】
(参考例1)
本発明の課題は、
図1に示す超電導磁場発生装置100において、内側超電導体3を、その熱収縮率が円筒部531の熱収縮率よりも大きい材料により構成することによっても、或いは、円筒部531を、内側超電導体3の熱収縮率よりも小さい材料により構成することによっても、解決することもできる。
【0141】
つまり、参考例1に係る超電導磁場発生装置は、高温超電導材料により円筒状に形成され、超電導遷移温度以下の温度に冷却された状態で印加磁場を捕捉することにより、捕捉磁場を発生する外側超電導体2と、高温超電導材料により円筒状に形成され、外側超電導体2の内周側に外側超電導体2と同軸的に配置されるとともに、円筒周面内における臨界電流密度の均一性が、円筒周面内における外側超電導体2の臨界電流密度の均一性よりも高い内側超電導体3と、外側超電導体2と内側超電導体3をそれぞれ超電導遷移温度以下の温度に冷却するための冷熱を発生する冷却装置5と、を備え、冷却装置5は、外側超電導体2の内周空間内に外側超電導体2と同軸的に配設された円筒部531を有する円筒基材53を備え、内側超電導体3は、その熱収縮率が円筒部531の熱収縮率よりも大きく、且つ、円筒部531の外周側に設けられている、超電導磁場発生装置である。
【0142】
本例によれば、円筒部531の外周側に内側超電導体3が設けられる。つまり、内周側に円筒部531が設けられ、外周側に内側超電導体3が設けられる。また、内周側の円筒部531の熱収縮量よりも外周側の内側超電導体3の熱収縮量が大きい。このため、冷却時には外周側の内側超電導体3が内周側の円筒部531よりも多く熱収縮して内側超電導体3が円筒部531に押し付けられる。つまり、冷却時には、内側超電導体3が円筒部531から圧縮応力を受ける。言い換えれば、冷却時には、円筒部531から内側超電導体3に引っ張り応力が作用しない。よって、引っ張り応力が内側超電導体3に作用することによる内側超電導体3の剥離等の損傷が効果的に抑制される。
【0143】
この場合において、内側超電導体3は、第一金属皮膜層と、超電導膜と、第一金属皮膜層の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する第二金属皮膜層が、この順で積層された多層状の超電導薄帯により構成されており、且つ、第一金属皮膜層が内周側となるように、円筒状に形成されているとよい。これによれば、冷却時には、内側超電導薄帯内の第二金属皮膜層が外周側から超電導膜を圧縮する。このため、超電導膜には引っ張り応力が作用しない。よって、引っ張り応力が超電導膜に作用することによる内側超電導体の剥離等の損傷がより効果的に抑制される。
【0144】
なお、本例に係る超電導磁場発生装置の構成のうち、上記した特徴以外の構成については、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生装置100の説明を援用することができる。
【0145】
(参考例2)
また、本発明の課題は、
図1に示す超電導磁場発生装置100において、内側超電導体3を、円筒部531の円筒基材53の内周側に配置し、且つ、内側超電導体3を、その熱収縮率が円筒部531の熱収縮率よりも小さい材料により構成し、或いは、円筒部531を、内側超電導体3の熱収縮率よりも大きい材料により構成することによっても、解決することもできる。
【0146】
つまり、参考例2に係る超電導磁場発生装置は、高温超電導材料により円筒状に形成され、超電導遷移温度以下の温度に冷却された状態で印加磁場を捕捉することにより、捕捉磁場を発生する外側超電導体2と、高温超電導材料により円筒状に形成され、外側超電導体2の内周側に外側超電導体2と同軸的に配置されるとともに、円筒周面内における臨界電流密度の均一性が、円筒周面内における外側超電導体2の臨界電流密度の均一性よりも高い内側超電導体3と、外側超電導体2と内側超電導体3をそれぞれ超電導遷移温度以下の温度に冷却するための冷熱を発生する冷却装置5と、を備え、冷却装置5は、外側超電導体2の内周空間内に外側超電導体2と同軸的に配設された円筒部531を有する円筒基材53を備え、内側超電導体3は、その熱収縮率が円筒部531の熱収縮率よりも小さく、且つ、円筒部531の内周側に設けられている、超電導磁場発生装置である。
【0147】
本例によれば、円筒部531の内周側に内側超電導体3が設けられる。つまり、外周側に円筒部531が設けられ、内周側に内側超電導体3が設けられる。また、外周側の円筒部531の熱収縮量よりも内周側の内側超電導体3の熱収縮量が小さい。このため、冷却時には外周側の円筒部531が内周側の内側超電導体3よりも多く熱収縮して内側超電導体3が円筒部531に押し付けられる。つまり、冷却時には、内側超電導体3が円筒部531から圧縮応力を受ける。言い換えれば、冷却時には、円筒部531から内側超電導体3に引っ張り応力が作用しない。よって、引っ張り応力が内側超電導体3に作用することによる内側超電導体の剥離等の損傷が効果的に抑制される。
【0148】
この場合において、内側超電導体3は、第一金属皮膜層と、超電導膜と、第一金属皮膜層の熱収縮率よりも大きい熱収縮率を有する第二金属皮膜層が、この順で積層された多層状の超電導薄帯により構成されており、且つ、第一金属皮膜層が内周側となるように、円筒状に形成されているとよい。これによれば、冷却時には、内側超電導薄帯内の第二金属皮膜層が外周側から超電導膜を圧縮する。このため、超電導膜には引っ張り応力が作用しない。よって、引っ張り応力が超電導膜に作用することによる内側超電導体の剥離等の損傷がより効果的に抑制される。
【0149】
なお、本例に係る超電導磁場発生装置の構成のうち、上記した特徴以外の構成については、上記第一実施形態に係る超電導磁場発生装置100の説明を援用することができる。
【0150】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、超電導薄帯3Aを螺旋巻きすることにより円筒状に形成した内側超電導体3が例示されているが、リング状に形成された超電導薄帯を軸方向につなぎ合わせて円筒状の内側超電導体を構成してもよい。また、一枚のシート状の超電導体(超電導シート)を円筒部531にロール状に一周よりも多く巻き付けることにより円筒状の内側超電導体を構成してもよい。さらに、円筒状に形成された複数枚の超電導シートを、それぞれの継ぎ目が重ならないように、円筒部531の周面に積層上に巻き付けることによって、円筒状の内側超電導体を構成してもよい。また、上記第一実施形態では、内側超電導体3が円筒部531に複数の離間した位置で部分接着されている例を示したが、内側超電導体3が円筒部531の周面に部分的に接着されているのであれば、複数の接着箇所がつながっていてもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。