(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記応力算出工程では、前記評価された回折環の変形と、前記決定された基準面とのなす角度と、予め求められた前記基準面に対するX線の入射角とに基づいて、cosα法を用いて、前記決定された領域の応力を算出する請求項1又は2記載のX線残留応力測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明するが、まず、
図1を参照して、本実施の形態に係るX線残留応力測定システムおよびX線残留応力測定方法の原理について説明する。
【0012】
X線回折を用いた応力測定においては、応力が存在することによる回折環の半径方向のピーク位置のシフトにより応力を評価する(
図1(A)参照)。ここで、
図1(B)に示すように、測定対象物の表面SのX線照射領域P内に凹凸が存在する場合、回折されたX線の透過経路に応じて測定対象物中をX線が透過する距離が大きく変化するため、
図1(C)に示すように、回折環の半径方向のピーク位置が見かけ上シフトしてしまい、そのシフトを応力として計算してしまうため、測定精度が著しく低下する。
【0013】
測定対象物の表面SのX線照射領域P内に
図1(B)のような凹凸が存在する場合、回折角が大きい回折線より回折角が小さい回折線のほうが測定対象物中を透過する経路が長くなり、より吸収され、ピーク強度がより小さくなり、見かけ上、ピーク位置がシフトする。
【0014】
そこで、本発明の実施の形態では、残留応力評価を実施したい凹凸のある表面について、レーザ等で凹凸形状を測定し、測定領域として、所定方向の形状が直線近似できる領域を決定する。次に、決定した測定領域のみにX線を照射するようにX線のビーム径を選定する。その選定したX線のビーム径にて、決定した測定領域にX線を照射し、残留応力評価を実施する。決定された測定領域の近似直線の、基準面に対するなす角度を用いてX線の入射角を補正して、残留応力評価を実施し、曲線等の凹凸形状を有する対象試料の表面残留応力評価の精度を向上させる。
【0015】
(X線残留応力測定システムの構成)
図2および
図3を参照して、本実施の形態に係るX線残留応力測定システム100について説明する。なお、
図2および
図3に示すシステム構成は、X線残留応力測定システム100の一例である。
【0016】
図2に示すように、X線残留応力測定システム100は、X線回折測定装置10と、3次元形状測定装置20と、ステージ30を有する走査機構32と、ステージ80を有する走査機構82と、走査制御装置40と、コンピュータ装置50とを含んで構成されている。
【0017】
X線回折測定装置10は、X線回折により発生する回折環の形状を測定する。X線回折測定装置10は、X線照射部11、イメージングプレート12、読み取り部14、及び制御部15、イメージングプレート12を取り付けるためのテーブル16、及びテーブル駆動機構17を備えており、X線回折測定装置10はステージ30と接続されておりステージ30を有する走査機構32と、走査制御装置40と、コンピュータ装置50により駆動することが可能となっている。
【0018】
ここで、X線照射部11は、電子線をターゲットに衝突させてX線を発生させる装置と、発生したX線を細束のX線ビームとして計測対象物に照射するX線光学系とを備えている。X線発生装置は、たとえば、電子線を高電圧で加速して陽極に衝突させCr-Kα特性X線を発生させるためのX線管球(真空管)であり、また、X線光学系は、たとえば、発生したX線を細いビームに絞り照射するコリメータである。コリメータは、所望のビーム径に応じて切り替え可能となっている。
【0019】
X線照射部11は、高電圧電源(図示省略)からX線出射のための高電圧及び電流の供給を受け、制御部15により制御されて、X線を出射して測定対象物OBに照射し、イメージングプレート12に、回折されたX線の像である回折環像を記録する。
【0020】
制御部15は、X線照射部11、テーブル駆動機構17、及び読み取り部14に接続されて作動制御したり、読み取り部14から出力されたデータを取得したりする。
【0021】
制御部15は、コンピュータ装置50を構成するコントローラ51によって制御され、X線照射部11から一定の強度のX線が出射されるように、X線照射部11に高電圧電源から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線照射部11は、図示しない冷却装置を備えていて、制御部15は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線照射部11の温度が一定に保たれる。
【0022】
読み取り部14は、イメージングプレート12に記録された回折環像を読み取る。例えば、読み取り部14は、回折環を撮像したイメージングプレート12にレーザ光を照射して、X線が照射された部分を再度励起して発光させ、イメージングプレート12から入射した光の強度を検出することにより、イメージングプレート12に記録された回折環像を読み取る。
【0023】
また、読み取り部14は、読み取り部14に設けられているLED光源(図示省略)から可視光を発して、イメージングプレート12に撮像された回折環を消去する。
【0024】
テーブル駆動機構17は、イメージングプレート12が取り付けられたテーブル16を回転及び移動させるためのものである。
【0025】
イメージングプレート12が回折環撮像位置にある状態(
図2の状態)において、テーブル16及びイメージングプレート12の各々に形成されている貫通孔(図示省略)の中心軸と、X線照射部11のX線の光軸とが一致するように、テーブル駆動機構17はテーブル16を移動させる。これにより、X線照射部11から出射されるX線は貫通孔から出射され、X線照射部11から出射されたX線がステージ30を駆動することで、測定対象物OB上の目的の領域に照射される。
【0026】
また、イメージングプレート12は、テーブル駆動機構17によって駆動されて、撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内へ移動する。
【0027】
また、X線回折測定装置10は、X線照射部11、イメージングプレート12、読み取り部14、及び制御部15を収容するケース18を備えている。
【0028】
このケース18の側面壁は、支持アーム52に接続されており、支持アーム52は、図示されていないアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、ケース18を任意の位置、姿勢にすることができる。さらに支持アーム52はステージ30に接続されており、測定対象物の任意の位置にX線照射をできるよう駆動機構を備えている。
【0029】
3次元形状測定装置20は、測定対象物OBの表面の所定方向に沿った凹凸形状を測定する。3次元形状測定装置20は、例えば、レーザ変位計を用いて構成され、
図3に示すように、測定対象物OBの表面にレーザ光を照射し、測定対象物OBのレーザ照射点までの距離を測定する。このとき、レーザ照射点を、所定方向(
図4のX軸方向)に走査して、X軸方向に沿って各レーザ照射点までの距離を測定する。なお、
図4に示すように、測定対象物OBの表面は、X軸方向に凹凸が存在し、Y軸方向には凹凸が存在しない場合は、2次元形状測定のみで十分である。奥ゆき方向に凹凸が存在する場合は、奥ゆき方向にも2次元の凹凸測定を繰返し実施することにより、3次元形状を測定するものとする。
【0030】
また、3次元形状測定装置20の側面壁は、1軸駆動可動なステージを持つ支持アーム56に接続されており、支持アーム56は、図示されていないアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、3次元形状測定装置20を任意の位置、姿勢にすることができる。
【0031】
コンピュータ装置50は、コントローラ51と、表示装置53と、入力装置54とを備えている。
【0032】
コントローラ51は、X線回折測定装置10及び3次元形状測定装置20により得られたデータから、測定対象物OBの応力を算出する部位であり、たとえば、PC(Personal Computer)等を用いて構成されている。
【0033】
コントローラ51は、機能的には、
図6に示すように、形状測定部60、測定領域決定部62、角度決定部63、ビーム径選定部64、回折環撮像制御部66、回折環読取り制御部68、回折環消去制御部70、X線入射角度補正部71、及び残留応力計算部72を備えている。
【0034】
形状測定部60は、入力装置54により形状測定開始指令を受け付ける。このとき、オペレータによりアーム式移動装置が操作され、3次元形状測定装置20から照射されるレーザ光の照射位置が、測定対象物OBの基準位置に配置されているものとする。形状測定部60は、3次元形状測定装置20を制御して、3次元形状測定装置20からレーザ光を照射させてレーザ照射点までの距離を測定すると共に、所定方向にレーザ照射点を走査させる。形状測定部60は、3次元形状測定装置20から入力される各レーザ照射点までの距離を表す点群データを用いて、
図6に示すような、測定対象物OBの2次元形状データを作成し、作成された2次元形状データを表示装置53に表示する。
【0035】
測定領域決定部62は、2次元形状データが表す測定対象物OBの表面の所定方向に沿った凹凸形状のうち、形状が直線に近似される領域を測定領域として決定する。例えば、2次元形状データに含まれる各レーザ照射点までの距離データから、2点のレーザ照射点の組み合わせの各々について、当該組み合わせのレーザ照射点間の形状と近似直線との相関値を算出し、相関値が所定値(例えば、0.9)以上となるレーザ照射点の組み合わせを特定し、特定されたレーザ照射点の組み合わせで規定される領域を、測定領域として、測定領域決定部62にて決定する。また、角度決定部63は、2次元形状データから得られる測定領域の近似直線と、基準面(測定試料において水平と仮定した面)とのなす角度を求め、X線入射角度補正部71にて上記測定領域決定部62にて特定された近似直線に対する実際のX線の入射角を算出する。
【0036】
ビーム径選定部64は、切り替え可能なコリメータで形成されるX線のビーム径のうち、測定領域決定部62で決定された測定領域の大きさに収まるものを選定し、選定したビーム径を表示装置53に表示する。なお、選定されるX線のビーム径は、測定対象物OBの材料において回折環が形成可能なものとする。オペレータは、表示装置53に表示されたビーム径を見て、X線回折測定装置10で用いるコリメータを切り替える。
【0037】
回折環撮像制御部66は、入力装置54により回折環撮像開始指令を受け付ける。このとき、オペレータによりアーム式移動装置が操作され、X線回折測定装置10から照射されるX線の照射位置が、測定対象物OBの基準位置に配置されているものとする。
【0038】
回折環撮像制御部66は、測定領域決定部62で決定された測定領域が、X線回折測定装置10から照射されるX線の照射位置となるように、走査機構制御部40を制御する。
【0039】
また、回折環撮像制御部66は、イメージングプレート12が撮像位置にある状態で、X線回折測定装置10を制御して、X線照射部11にX線の出射を開始させ、所定時間の経過後に、X線照射部11にX線の出射を停止させる。これにより、X線照射部11から出射されたX線は、貫通孔を介して外部に出射され、測定対象物OBの測定箇所に所定時間だけ照射される。このX線照射により、測定対象物OBのX線照射箇所から回折X線が発生し、イメージングプレート12には回折環が撮像される。
【0040】
回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、
図7に示すように、イメージングプレート12を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート12の読取り開始位置とは、読み取り部14によるレーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。
【0041】
回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、測定対象物OBに対するX線の照射によりイメージングプレート12上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度φx及びイメージングプレート12から測定対象物OBまでの距離Lに応じて決まる。そして、X線の回折角度φxは測定対象物OBの材質で決まり、前記距離Lは予め設定されている距離である。したがって、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角φxを記憶しておけば、前記入力した測定対象物OBの材質を用いることにより、コントローラ51は回折環基準半径RoをRo=L・tan(φx)の演算によって自動的に計算する。
【0042】
次に、回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、読み取り部14からレーザ光の出射を指令する。これにより、回転するイメージングプレート12上にレーザ光が照射される。回折環読取り制御部68は、読み取り部14から出力された受光強度を、基準位置からの回転角度θpと、移動距離0に基づくイメージングプレート12の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて記憶する。
【0043】
次に、回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12を読取り開始位置から
図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート12において、回折環基準半径Roの若干内側の位置から外側方向に一定速度で相対移動し始める。
【0044】
このとき、回折環読取り制御部68は、読み取り部14から出力された受光強度を、基準位置からの回転角度θpと、移動距離xに基づくイメージングプレート12の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて順次記憶する。
【0045】
その後、回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12が所定の小さな角度だけ回転するごとに、同様に、読み取り部14からのレーザ光の出射、及びイメージングプレート12の相対移動を行って、読み取り部14から出力された受光強度を、基準位置からの回転角度θpと、移動距離xに基づくイメージングプレート12の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて順次記憶する。
【0046】
また、読み取り部14から出力されたデータ、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、回折環読取り制御部68は、所定角度ごとに、読み取り部14から出力された受光強度のピークに対応した半径値rを回折環の半径値とする。
【0047】
回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート12の消去開始位置とは、読み取り部14のLED光源から出力される可視光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になるような位置である。
【0048】
次に、回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、読み取り部14のLED光源による可視光のイメージングプレート12に対する照射を開始させるとともに、イメージングプレート12を前記消去開始位置から消去終了位置まで一定速度で移動させる。消去終了位置とは、LED光源によるLED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光源による可視光が、消去開始位置から消去終了位置まで、イメージングプレート12上に照射され、回折X線によって形成された回折環の一部が消去される。
【0049】
その後、回折環読取り制御部68は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12が所定の小さな角度だけ回転するごとに、同様に、読み取り部14からの可視光の出射、及びイメージングプレート12の相対移動を行って、回転角度ごとに、LED光源による可視光が、消去開始位置から消去終了位置まで、イメージングプレート12上に照射され、回折X線によって形成された回折環の全てが消去される。
【0050】
残留応力計算部72は、測定領域決定部62により得られた測定領域の近似直線と基準面とのなす角を用いて、cosα法により、回折環撮像読取り制御部68により得られた回折環像を解析して、測定対象物OBの測定領域の残留応力を計算する。
【0051】
具体的には、前述した回折環の読み取りにおいて得られた回折環の形状を表すデータ、すなわち回転角度ごとの回折環の半径値rに基づいて、回折環の形状と真円(基準形状)との半径方向のずれを、回折環の中心角αをパラメーターとする変形ε
αとして算出する。中心角αは、回折環の中心を通る基準となる線と、回折環の円周上の点とのなす中心角であり、円周角αとも呼ぶ。
【0052】
また、残留応力計算部72は、測定領域の応力を平面応力であると仮定して、X軸の応力σ
x、せん断応力τ
xyを、以下の式に従って算出する。
【0054】
ただし、Eは、ヤング率、νはポアソン比、ηは回折角の余角、ψ
0は、X線入射角度補正部71により、予め定められた基準面(ステージ30の載置面)に対するX線の入射角を、基準面とのなす角度で補正した入射角である。
【0055】
残留応力計算部72は、算出したX軸の応力σ
x、せん断応力τ
xyを、測定対象物OBのX線照射位置における残留圧縮応力、残留せん断応力として表示装置53に表示する。オペレータは表示された残留圧縮応力及び残留せん断応力の大きさを見て、測定対象物OBの疲労強度への影響の評価等を行う。
【0056】
(X線残留応力測定方法)
以下に、上記のように構成したX線残留応力測定システム100を用いて、測定対象物OBである鉄製の部材に対して、X線を照射し、測定対象物OBの残留応力を測定する具体的方法について説明する。この残留応力の測定は、
図8に示すように、形状測定工程S100、測定領域決定工程S102、角度決定工程S103、ビーム径選定工程S104、回折環撮像工程S106、回折環読取り工程S108、回折環消去工程S110、入射角度補正工程S111、及び残留応力計算工程S112を実行することにより行われる。なお、残留応力計算工程S112が、回折環評価工程及び応力算出工程の一例である。
【0057】
まず、形状測定工程S100について説明する。オペレータは、測定対象物OBの近傍に3次元形状測定装置20を設置し、3次元形状測定装置20に接続された支持アーム56のアーム式移動装置を操作して、3次元形状測定装置20の位置と姿勢を調整する。この位置と姿勢の調整は目視にて行う調整であり、3次元形状測定装置20から照射されるレーザ光が、測定対象物OBの基準位置に照射されるようにする。次にオペレータは、入力装置54を操作して、形状測定工程S100の開始をコントローラ51に指示する。この指示に応答して、コントローラ51は、3次元形状測定装置20からの測定データを取得すると共に、3次元形状測定装置20を制御して、レーザ照射点をX方向に走査させる。これにより、X方向の各レーザ照射点までの距離を表す点群データが得られる。コントローラ51は、得られた点群データから、測定対象物OBの2次元形状データを作成し、作成された2次元形状データを表示装置53に表示する。
【0058】
次の測定領域決定工程S102では、まず、オペレータが、表示装置53に表示された2次元形状データを確認した上で、入力装置54を操作して、測定領域決定工程S102の開始をコントローラ51に指示する。この指示に応答して、コントローラ51は、2次元形状データから、測定領域として決定する
次の角度決定工程S103では、2次元形状データから得られる測定領域の測定形状に基づいて、測定領域の近似直線と基準面とのなす角度を求める。
【0059】
ビーム径選定工程S104では、コントローラ51は、切り替え可能なコリメータで形成されるX線のビーム径のうち、測定領域決定工程で決定された測定領域の大きさに収まるものを選定し、選定したビーム径を表示装置53に表示する。オペレータは、表示装置53に表示されたビーム径を見て、X線回折測定装置10で用いるコリメータを切り替える。
【0060】
回折環撮像工程S106では、オペレータは、測定対象物OBの近傍にX線回折測定装置10を設置し、ケース18に接続された支持アームのアーム式移動装置を操作して、X線回折測定装置10の位置と姿勢を調整する。この位置と姿勢の調整は目視にて行う調整であり、X線回折測定装置10から出射されるX線が、ステージ30の載置面(基準面)に対する入射角が所定角度で、測定対象物OBの基準位置に照射されるようにする。
【0061】
次にオペレータは、入力装置54を操作して、測定対象物OBの材質(本実施例では、鉄)を入力し、残留応力の測定開始をコントローラ51に指示する。これにより、コントローラ51は、まずイメージングプレート12が撮像位置にある状態で、走査制御装置40を制御して、X線回折測定装置10から出射されるX線が、測定領域決定工程S102で決定された、測定対象物OBの測定領域に照射されるように、ステージ30を移動させる。
【0062】
次に、コントローラ51は、X線回折測定装置10を制御して、X線照射部11にX線の出射を開始させ、所定時間の経過後に、X線照射部11にX線の出射を停止させる。これにより、X線照射部11から出射されたX線は、貫通孔を介して外部に出射され、測定対象物OBの測定箇所に所定時間だけ照射される。この測定対象物OBへのX線の所定時間の照射により、測定対象物OBの測定箇所から回折X線が発生し、イメージングプレート12には回折環が撮像される。
【0063】
このような回折環撮像工程S106の後、コントローラ51は、自動的に又はオペレータによる入力装置54を用いた指示により、回折環読取り工程S108を実行する。
【0064】
コントローラ51は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。コントローラ51は、X線回折測定装置10を制御して、読み取り部14によるレーザ光のイメージングプレート12に対する照射を開始させ、かつ、イメージングプレート12が所定の一定回転速度で回転させる。次に、コントローラ51は、読み取り部14から出力された受光強度を、基準位置からの回転角度θpと、移動距離xに基づくイメージングプレート12の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて順次記憶する。
【0065】
また、読み取り部14から出力された受光強度、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ51は、所定角度ごとに、読み取り部14から出力された受光強度のピークに対応した半径値rを回折環の半径値とする。
【0066】
このような回折環読取り工程S108の後、コントローラ51は、自動的に又は作業者による入力装置54を用いた指示により、回折環消去工程S110を実行する。この回折環消去工程S110においては、コントローラ51は、X線回折測定装置10を制御して、イメージングプレート12を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。
【0067】
次に、コントローラ51は、X線回折測定装置10を制御して、読み取り部14のLED光源による可視光のイメージングプレート12に対する照射を開始させるとともに、イメージングプレート12を前記消去開始位置から消去終了位置まで一定速度で移動させ、更に、イメージングプレート12を回転させる。LED光源による可視光が、消去開始位置から消去終了位置まで、イメージングプレート12上に螺旋状に照射され、回折X線によって形成された回折環が消去される。
【0068】
このような回折環消去工程S110の後、コントローラ51は、自動的に又は作業者による入力装置54を用いた指示により、入射角度補正工程S111を行って、直線と近似された測定領域に対するX線入射角度を計算し補正する。そして、コントローラ51は、残留応力計算工程S112を行う。
【0069】
コントローラ51は、回折環読取り工程S108により得られた回折環の形状を表すデータ、すなわち回転角度ごとの回折環の半径値rに基づいて、回折環と真円との半径方向のずれを、回折環の中心角αをパラメーターとする変形ε
αとして算出する。
【0070】
コントローラ51は、測定領域決定工程S102により得られた測定領域の近似直線と基準面とのなす角と、算出された各中心角αの変形ε
αとに基づいて、X軸の応力σ
x、せん断応力τ
xyを算出する。コントローラ51は、算出したX軸の応力σ
x、せん断応力τ
xyを、測定対象物OBのX線照射位置における残留圧縮応力、残留せん断応力として表示装置53に表示する。オペレータは表示された残留圧縮応力及び残留せん断応力の大きさを見て、測定対象物OBの疲労強度への影響の評価等を行う。
【0071】
<実施例>
レーザ変位計にて測定対象物の形状測定を実施し、上記
図7に示す2次元形状データが得られ、測定領域として、上記
図7中X=0mmの付近の領域を決定し、測定領域の近似直線(上記
図7の点線参照)と水平面とのなす角度θ[deg]=20.3°を算出した。上記測定領域の大きさ1mm以内となるコリメータ(φ0.3mm)を選定した。
【0072】
ここで、測定領域に上記決定したX線のコリメータ(φ0.3mm)にて上記
図6のXY平面でX軸に45°方向からX線を照射した場合に得られた回折環像を
図9(A)に示す。
図9(A)は、高さで受光強度を示した3次元表示である。
図9(B)は、回折環のみを切り出して展開したものを示しており、高さで受光強度を示している。この回折環像から得られる回折環の変形を用いてcosα法にてX方向の応力解析を行った結果、σ
x=-79±10MPaとなった。また、
図10に、回折環の各ピーク位置における強度分布を示す。上記
図10における回折環の強度分布の差異は、実際の測定対象物に対するX線の照射方向が45°でないため、生じており、これにより応力解析に誤差が生じていると推定される。
【0073】
次に、測定領域に上記決定したX線のコリメータ(φ0.3mm)にて上記
図6のXY平面でX軸に45°方向からX線を照射した場合に得られた回折環像について、入射角度を、45-20.3=24.7°として補正し、回折環像の強度の補正を行った補正後の回折環像を
図11(A)に示す。
図11(A)は、高さで受光強度を示した3次元表示である。
図11(B)は、回折環のみを切り出して展開したものを示しており、高さで受光強度を示している。この回折環像から得られる
図11(B)は、回折環のみを切り出して展開したものを示している。この回折環像から得られる回折環の変形と、補正された入射角とを用いてcosα法にてX方向の応力解析を行った結果、σ
x=-132±13MPaとなった。また、
図12に、回折環の各ピーク位置における強度分布を示す。上記
図12における回折環の強度分布の差異は上記
図10の補正無しの場合に比べ、測定対象物に対するX線の入射角を補正することで著しく改善されており、これによりこの補正後の回折環を用いて応力解析することで、応力評価精度は向上していると推定される。
【0074】
以上詳述したように、本実施の形態に係るX線残留応力測定システム及びX線残留応力測定方法によれば、測定対象物の表面の所定方向に沿った凹凸形状を測定して、所定方向の凹凸形状が直線に近似される領域を測定領域として決定すると共に、基準面とのなす角度を決定し、決定された測定領域のみにX線を照射するようにX線のビーム径を選定し、選定されたビーム径を用いて決定された測定領域にX線を照射したときの回折X線により形成される回折環の基準形状からの変形を測定し、測定された回折環の変形と、基準面に対するX線の入射角と、基準面とのなす角度とに基づいて、決定された領域の残留応力を算出することにより、測定対象物の表面に凹凸が存在しても、測定対象物の残留応力を精度良く算出することができる。
【0075】
また、残留応力評価を実施したい凹凸のある表面について、レーザ等で凹凸形状を測定し、測定箇所として、直線近似できる領域を決定し、直線近似できる領域の直線と基準面とのなす角度と、基準面に対するX線の入射角を用いて、凹凸形状の残留応力評価への影響を考慮して、残留応力評価を実施することにより、曲率等の凹凸形状を有する測定対象物の表面残留応力評価の精度を向上させることができる。
【0076】
なお、上記の実施の形態では、3次元形状測定装置として、レーザ変位計を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、凹凸形状は、触診式の凹凸形状評価法、またはその他の凹凸形状測定可能な各種顕微鏡を用いた評価法等により計測されてもよい。また、X線の照射領域の限定にコリメータを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、X線の照射領域の限定には、スリット等を用いてもよい。