(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607132
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】UリブおよびUリブの製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/07 20060101AFI20191111BHJP
B21D 47/01 20060101ALI20191111BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20191111BHJP
B21D 5/01 20060101ALN20191111BHJP
B21D 5/08 20060101ALN20191111BHJP
【FI】
E04C3/07
B21D47/01 A
E01D19/12
!B21D5/01 C
!B21D5/08 M
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-76703(P2016-76703)
(22)【出願日】2016年4月6日
(65)【公開番号】特開2017-186806(P2017-186806A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2018年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】米澤 隆行
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】佐藏 力
(72)【発明者】
【氏名】姫野 正志
【審査官】
土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−055128(JP,A)
【文献】
特開2014−092000(JP,A)
【文献】
特開2013−245459(JP,A)
【文献】
特開2008−272826(JP,A)
【文献】
特開2013−087432(JP,A)
【文献】
特開2003−183769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 47/01
E01D 19/12
B21D 5/01
B21D 5/08
E04C 3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延び、かつ前記一方向に直交する断面においてU字形状を有するUリブであって、
底壁部と一対の側壁部とを備え、
前記底壁部は、前記一方向に直交する断面において直線状に延びるように設けられ、
前記一対の側壁部は、前記一方向に直交する断面において、前記底壁部から離れるほど互いの間隔が広がるように設けられ、
前記一方向に直交する断面において、前記底壁部の厚み方向をUリブの高さ方向とし、前記底壁部の延伸方向をUリブの幅方向とした場合に、各側壁部は、その側壁部の先端とその側壁部の前記高さ方向における中点との間で、前記Uリブの幅方向の外側に凸となるように湾曲している、Uリブ。
【請求項2】
前記一方向に直交する断面において、各側壁部の外面は、その側壁部の外面の先端よりも前記Uリブの幅方向内側で、その側壁部の前記外面の前記先端とその側壁部の外面の前記高さ方向における中点とを結ぶ仮想線よりも外側に凸となるように湾曲している、請求項1に記載のUリブ。
【請求項3】
各側壁部の外面は、500mm以上2000mm以下の曲率半径を有している、請求項1または2に記載のUリブ。
【請求項4】
鋼帯からUリブを製造する方法であって、
前記鋼帯の幅方向における両側をロール成形またはプレス成形によって立ち上げて、底壁部と一対の側壁部とを形成する成形工程を有し、
前記成形工程において、前記底壁部は、前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において直線状に延びるように形成され、前記一対の側壁部は、前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において、前記底壁部から離れるほど互いの間隔が広がるように形成され、
前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において、前記底壁部の厚み方向をUリブの高さ方向とし、前記底壁部の延伸方向をUリブの幅方向とした場合に、各側壁部が、その側壁部の先端とその側壁部の前記高さ方向における中点との間で、前記Uリブの幅方向の外側に凸となるように湾曲している、Uリブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版等において用いられるUリブおよびUリブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等の土木構造物において、鋼床版が用いられている。
図1は、鋼床版を備えた橋梁の一例を示す図である。なお、
図1においては、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示している。X方向は橋梁1の長さ方向を示し、Y方向は橋梁1の幅方向を示し、Z方向は鉛直方向を示す。以下の説明では、橋梁1の幅方向を、左右方向ともいう。
【0003】
図1に示す橋梁1は、鋼床版2を有している。鋼床版2は、デッキプレート3と、複数の主桁4と、複数の横リブ5と、複数の縦リブ6とを有している。デッキプレート3、主桁4、横リブ5および縦リブ6はそれぞれ、鋼材からなる。
【0004】
デッキプレート3は、平板形状を有する。デッキプレート3の表面3aは、舗装材7によって舗装されている。舗装材7としては、例えば、アスファルトまたはコンクリート等の種々の材料を用いることができる。
【0005】
主桁4は、Y−Z平面に平行な断面においてI字形状を有し、かつ橋梁1の長さ方向に延びるように設けられている。主桁4の上端部は、例えば、デッキプレート3の裏面3bに溶接されている。
【0006】
横リブ5は、X−Z平面に平行な断面において例えばI字形状を有し、かつ橋梁1の幅方向に延びるように設けられている。横リブ5の左右の端部は、例えば、主桁4に溶接されている。
【0007】
縦リブ6は、上方に向かって開口するように開断面形状(U字形状)を有するUリブである。以下、縦リブ6を、Uリブ6という。具体的には、Uリブ6は、左右方向に延びる底壁部6aと、底壁部6aの左右方向における両端部から上方に延びる一対の側壁部6b,6cとを有する。側壁部6b,6cは、先端側(
図1においては上側)にいくほど互いの間隔が広がるように、底壁部6aに対して傾斜している。Uリブ6は、橋梁1の長さ方向に延びるように、かつ横リブ5を貫通するように設けられている。側壁部6b,6cの上端部は、デッキプレート3の裏面3bに溶接されている。
【0008】
上記のような構成を有する橋梁1では、例えば、橋梁1上を自動車8が通過することによって、鋼床版2において疲労亀裂が発生する場合がある。この疲労亀裂は、例えば、デッキプレート3とUリブ6との接合部9において発生する。以下、接合部9における疲労亀裂の発生態様について説明する。
【0009】
図2は、デッキプレート3と側壁部6bとの接合部9を示す拡大図である。
図2に示すように、側壁部6bをデッキプレート3に溶接する際には、例えば、側壁部6bの先端部のうち外側の部分6dが溶接ビード10によってデッキプレート3に接合される。通常、溶接ビード10の溶け込み量は、Uリブの厚みの75%が基準とされており、側壁部6bの先端部のうち内側の部分6eは接合されない。このため、デッキプレート3と溶接ビード10と部分6eとの間に、切欠き状の空間11(以下、不溶着部11という。)が形成されている。このような接合部9では、溶接ビード10の近傍において、溶接時の膨張および溶接後の収縮によって、引張りの残留応力が発生している。
【0010】
ここで、自動車8が橋梁1上を通過すると、デッキプレート3に荷重が加わり、デッキプレート3が撓む。これにより、デッキプレート3と溶接ビード10との境界部および側壁部6bと溶接ビード10との境界部に、曲げ応力や引張応力が発生する。これらの応力の内、鋼床版の幅方向に生じる引張応力が上述の残留応力に重畳されることにより、接合部9では大きな引張応力が発生しやすい。そして、複数の自動車8が通過することによって、上記荷重がデッキプレート3に繰り返し加わると、デッキプレート3と溶接ビード10との境界部近傍および側壁部6bと溶接ビード10との境界部近傍において疲労亀裂が発生する場合がある。例えば、溶接ビード10のデッキプレート3側の止端12または側壁部6b側の止端13に疲労亀裂が発生したり、デッキプレート3側のルート部14に疲労亀裂が発生したりする。これにより、鋼床版2の強度が低下するおそれがある。
【0011】
ところで、鋼床版2では、止端12および止端13は、Uリブ6の外側に位置する。このため、止端12および止端13において発生した疲労亀裂は、橋梁1の点検時等に、作業者によって発見されやすい。この場合、疲労亀裂が発生した部分を早期に補修することができるので、鋼床版2の強度低下を防止しやすい。
【0012】
一方、ルート部14は、Uリブ6の外側からは見えない位置にあるので、ルート部14において発生した疲労亀裂を発見することは難しい。また、仮に、ルート部14に疲労亀裂が発生していることを発見できたとしても、ルート部14をUリブ6の外側から補修することは難しい。このため、ルート部14に疲労亀裂が発生した場合は、Uリブ6の内側からルート部14を補修する必要があり、疲労亀裂の補修に時間および労力を要する。
【0013】
そこで、従来、ルート部14において疲労亀裂が発生することを防止するための技術が提案されている。
【0014】
例えば、特許文献1には、ピーニング施工方法が記載されている。特許文献1に記載された方法では、Uリブを用いた鋼床版において、ピーニング工具によってデッキプレートの表面に打撃を与える。特許文献1には、上記のように打撃を与えることによって、Uリブの内側の部分に圧縮残留ひずみを与えることができると記載されている。特許文献1に記載された方法では、上記のようにして圧縮残留応力を与えることによって、Uリブの内側の部分に発生した疲労亀裂の進展を抑制していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2014−172043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の方法では、デッキプレートの表面側をピーニング工具によって打撃するので、デッキプレートの裏面側に十分な大きさの圧縮残留応力を与えることは難しい。この場合、疲労亀裂の進展または疲労亀裂の発生を十分に抑制できない。
【0017】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、鋼床版において、Uリブとデッキプレートとを接合する溶接ビードのルート部に疲労亀裂が発生すること、およびルート部に疲労亀裂が発生した場合にその疲労亀裂が進展すること、を抑制するのに適したUリブおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明の一実施形態に係るUリブは、一方向に延び、かつ前記一方向に直交する断面においてU字形状を有するUリブであって、
底壁部と一対の側壁部とを備え、
前記底壁部は、前記一方向に直交する断面において直線状に延びるように設けられ、
前記一対の側壁部は、前記一方向に直交する断面において、前記底壁部から離れるほど互いの間隔が広がるように設けられ、
前記一方向に直交する断面において、前記底壁部の厚み方向をUリブの高さ方向とし、前記底壁部の延伸方向をUリブの幅方向とした場合に、各側壁部は、その側壁部の先端とその側壁部の前記高さ方向における中点との間で、前記Uリブの幅方向の外側に凸となるように湾曲している。
【0019】
(2)前記一方向に直交する断面において、各側壁部の外面は、その側壁部の外面の先端よりも前記Uリブの幅方向内側で、その側壁部の前記外面の前記先端とその側壁部の外面の前記高さ方向における中点とを結ぶ仮想線よりも外側に凸となるように湾曲していてもよい。
【0020】
(3)各側壁部の外面は、500mm以上2000mm以下の曲率半径を有していてもよい。
【0021】
(4)本発明の他の実施形態に係るUリブの製造方法は、鋼帯からUリブを製造する方法であって、
前記鋼帯の幅方向における両側をロール成形またはプレス成形によって立ち上げて、底壁部と一対の側壁部とを形成する成形工程を有し、
前記成形工程において、前記底壁部は、前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において直線状に延びるように形成され、前記一対の側壁部は、前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において、前記底壁部から離れるほど互いの間隔が広がるように形成され、
前記鋼帯の長さ方向に直交する断面において、前記底壁部の厚み方向をUリブの高さ方向とし、前記底壁部の延伸方向をUリブの幅方向とした場合に、各側壁部が、その側壁部の先端とその側壁部の前記高さ方向における中点との間で、前記Uリブの幅方向の外側に凸となるように湾曲している。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Uリブとデッキプレートとを接合する溶接ビードのルート部に疲労亀裂が発生すること、およびルート部に疲労亀裂が発生した場合にその疲労亀裂が進展することを抑制するのに適したUリブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、鋼床版を備えた橋梁の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、Uリブと側壁部との接合部を示す拡大図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るUリブを示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係るUリブを有する鋼床版を示す図である。
【
図5】
図5は、鋼床版において実施される疲労亀裂発生防止方法の一例を説明するための図である。
【
図6】
図6は、鋼床版において実施される疲労亀裂発生防止方法の一例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、デッキプレートと側壁部との接合部を示す拡大図である。
【
図8】
図8は、シミュレーションで用いた鋼床版の解析モデルを説明するための図である。
【
図9】
図9は、FEM解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳しく説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るUリブ20を示す断面図である。
図3においては、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示している。X方向はUリブ20の長さ方向を示し、Y方向はUリブ20の幅方向を示し、Z方向はUリブ20の高さ方向を示す。したがって、
図3に示すUリブ20の断面図は、Uリブ20の長さ方向に直交する断面を示す図である。なお、
図3においては、Uリブ20の高さ方向(上下方向)における中央を、二点鎖線で示している。Uリブ20の高さ方向は、後述する底壁部20aの厚み方向に等しい。
【0025】
図3を参照して、Uリブ20は、幅方向に延びる底壁部20aと、底壁部20aの幅方向における両端部から上方に延びる一対の側壁部20b,20cとを有する。側壁部20b,20cは、先端側(上側)にいくほど互いの間隔が広がるように、底壁部20aに対して傾斜している。Uリブ20は、例えば、鋼からなる。
【0026】
側壁部20bは、側壁部20bの先端と側壁部20bの上記高さ方向における中点との間で、Uリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。本実施形態では、上記のように側壁部20bが湾曲することによって、側壁部20bの外面22aおよび内面22bも同様に湾曲している。したがって、任意のUリブの側壁部が本実施形態に係るUリブ20の側壁部20bと同様に湾曲しているか否かは、側壁部の外面または側壁部の内面の形状によって判断することができる。すなわち、任意のUリブの側壁部が、下記に説明する側壁部20bの外面22aまたは内面22bと同様の形状の外面または内面を有している場合には、そのUリブの側壁部は、本実施形態に係るUリブ20の側壁部20bと同様に湾曲していると判断することができる。
【0027】
本実施形態においては、外面22aは、外面22aの先端(上端)p1と外面22aの上記高さ方向における中点p2との間で、Uリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。
図3には、先端p1と中点p2とを結ぶ仮想線L1を一点鎖線で示している。外面22aは、言い換えると、先端p1と中点p2との間で、仮想線L1よりもUリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。なお、中点p2は、Uリブ20の高さ方向において、側壁部20bの外面22aの先端p1および底壁部20aの外面24aの中央に位置する点である。本実施形態では、外面22aは、例えば、500mm以上2000mm以下の曲率半径Rcを有する。
【0028】
また、内面22bは、内面22bの先端(上端)p3と内面22bの上記高さ方向における中点p4との間で、Uリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。
図3には、先端p3と中点p4とを結ぶ仮想線L2を一点鎖線で示している。内面22bは、言い換えると、先端p3と中点p4との間で、仮想線L2よりもUリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。なお、中点p4は、Uリブ20の高さ方向において、側壁部20bの内面22bの先端p3および底壁部20aの内面24bの中央に位置する点である。
【0029】
詳細な説明は省略するが、側壁部20cも側壁部20bと同様に湾曲した形状を有する。すなわち、側壁部20cは、側壁部20cの先端と側壁部20cの上記高さ方向における中点との間で、Uリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。
【0030】
なお、本実施形態では、例えば、外面22aの曲率半径Rcを500mm以上に設定することによって、外面22aを、例えば、先端p1よりもUリブ20の幅方向内側に位置付けることができる。言い換えると、外面22aは、先端p1を通りかつUリブ20の高さ方向(上下方向)に延びる仮想線L3よりもUリブ20の幅方向外側に突出しないように設けられている。この場合、例えば、Uリブ20の外側を覆うように横リブ5(
図1参照)を設ける場合に、横リブ5とUリブ20とが干渉することを防止できる。詳細な説明は省略するが、側壁部20cの外面についても同様である。
【0031】
本実施形態に係るUリブ20は、例えば、鋼帯(図示せず)の幅方向における両側を成形工程(ロール成形またはプレス成形)において立ち上げることによって製造することができる。成形工程においては、底壁部20aは、鋼帯の長さ方向に直交する断面において直線状に延びるように形成される。また、一対の側壁部20b,20cは、鋼帯の長さ方向に直交する断面において、底壁部20aから離れるほど互いの間隔が広がるように、かつ上述したように湾曲するように形成される。
【0032】
図4は、本実施形態に係るUリブ20を有する鋼床版100を示す図である。本実施形態においても、従来の鋼床版2のUリブ6と同様に、Uリブ20は、デッキプレート3に溶接される。具体的には、側壁部20b,20cのそれぞれの先端は、溶接ビード10によって、デッキプレート3の裏面3bに接合される。なお、デッキプレート3の厚みは、例えば、6〜35mmであり、Uリブ20の厚みは、例えば、3〜12mmである。
【0033】
以下、上述の鋼床版100において実施される疲労亀裂発生防止方法について簡単に説明する。
図5および
図6は、鋼床版100において実施される疲労亀裂発生防止方法の一例を説明するための図である。また、
図7は、デッキプレート3と側壁部20bとの接合部9を示す拡大図である。
【0034】
図5を参照して、本実施形態に係る疲労亀裂発生防止方法では、まず、平板状の押圧部材40によって、底壁部20aをデッキプレート3側に向かって押圧する(負荷工程)。これにより、
図6(a)を参照して、側壁部20bに圧力が加えられて、側壁部20bがUリブ20の外側に膨らむように変形する。本実施形態では、負荷工程において、例えば、ルート部14の近傍を塑性変形させるように、押圧部材40によって底壁部20aが押圧される。
【0035】
次に、押圧部材40を底壁部20aから離す(除荷工程)。これにより、負荷工程で側壁部20bに加えられた圧力が除かれる。その結果、
図6(b)を参照して、側壁部20bは、負荷工程前の側壁部20bの形状に戻るように変形する。なお、本実施形態では、上述のように、負荷工程においてルート部14の近傍を塑性変形させている。そのため、除荷工程後の側壁部20bは、負荷工程前の側壁部20bの形状に完全には戻らない。説明は省略するが、側壁部20cについても同様である。
【0036】
以下、上述の疲労亀裂発生防止方法の作用効果を簡単に説明する。
図7を参照して、溶接ビード10のルート部14近傍においては、溶接時の膨張および溶接後の収縮によって、引張の残留応力が発生している。この状態で、上述の負荷工程を実行することによって、上述のように、側壁部20bは、Uリブ20の外側に向かって移動しようとする。これにより、溶接ビード10がUリブ20の外側に向かって引っ張られ、ルート部14近傍の引張応力は一時的に大きくなる。側壁部20bがさらに移動して、ルート部14近傍が塑性変形し始めると、引張応力は減少する。
【0037】
その後、除荷工程を実行することによって、側壁部20bは、Uリブ20の内側に向かって移動しようとする。これにより、溶接ビード10がUリブ20の内側に向かって押し付けられる。すなわち、いわゆるスプリングバックの効果が生じる。これにより、ルート部14近傍に圧縮方向の力を加えることができる。その結果、ルート部14近傍の引張残留応力を低減できる、またはルート部14近傍に圧縮残留応力を発生させることができる。
【0038】
以下、本実施形態に係るUリブ20の作用効果について説明する。本実施形態に係るUリブ20では、上述のように、側壁部20bは、側壁部20bの先端と側壁部20bの上記高さ方向における中点との間で、Uリブ20の幅方向の外側に凸となるように湾曲している。このため、Uリブ20を用いた鋼床版において、Uリブ20をデッキプレート3側に押圧した際(負荷工程時)に、側壁部20b,20cを外側に膨らむように容易に変形させることができる。これにより、Uリブ20を押圧する際に、Uリブ20のうち、底壁部20aおよびその周辺部分に大きな応力が生じることを抑制できる。その結果、底壁部20aおよびその周辺部分が塑性変形することを抑制することができる。さらに、底壁部20aおよびその周辺部分の塑性変形が抑制されることによって、除荷工程時に、側壁部20b,20cが溶接ビード10をUリブ20の内側に向かって押す力を十分に確保できる。すなわち、スプリングバックの効果を十分に生じさせることができる。これにより、ルート部14近傍の引張残留応力を十分に低減できる、またはルート部14近傍に圧縮残留応力を発生させることができる。その結果、疲労亀裂の発生または疲労亀裂の進展を十分に抑制できる。したがって、本実施形態に係るUリブ20は、溶接ビード10のルート部14に疲労亀裂が発生すること、およびルート部14に疲労亀裂が発生した場合にその疲労亀裂が進展することを抑制するのに適している。
【0039】
(シミュレーションに基づく検討)
以下、コンピュータを用いたFEM解析によるシミュレーション結果とともに、本発明の効果を説明する。
図8は、シミュレーションで用いた鋼床版のFEM解析モデルを説明するための図である。具体的には、
図8(a)は、鋼床版の解析モデルを示す図であり、
図8(b)は、解析モデルにおいて接合部9に相当する部分の拡大図であり、
図8(c)は、解析モデルにおいて不溶着部11周辺に相当する部分(
図8(b)において点線の丸で示した部分)のメッシュおよび積分点を示した図である。なお、
図8(a)においては、比較のために、従来のUリブの側壁部の形状を一点鎖線で示している。一点鎖線で示す従来のUリブの側壁部は、本実施形態に係るUリブ20の側壁部20bとは異なり、Uリブの外側に向かって湾曲しておらず、直線状に延びている。
【0040】
Uリブ20およびデッキプレート3のFEM解析モデルは、4節点の2次元平面ひずみ要素を用いて作成した。具体的には、対称性を考慮してUリブ20およびデッキプレート3の2次元の1/2モデルを作成した。Uリブ20およびデッキプレート3の解析モデルは、側壁部20bの曲率半径Rcを変えて、4種類作成した。具体的には、側壁部20bの曲率半径Rcを、2000mm、1500mm、1000mmおよび500mmに設定した。また、本シミュレーションでは、比較のために、
図8(a)において一点鎖線で示す従来のUリブについても同様に、FEM解析モデルを作成した。
【0041】
なお、
図8(a)においては、解析モデルの拘束点を三角形の記号で示している。また、
図8(b),(c)に示すように、解析モデルでは、不溶着部11を切欠き状に形成した。
【0042】
FEM解析では、Uリブ20およびデッキプレート3の材料としてSMB490B(JIS G3106 2008)を用いたと仮定し、その応力−ひずみ線図を用いた。SMB490Bの降伏応力は452MPa、ヤング率は206GPa、ポアソン比は0.3にそれぞれ設定し、等方硬化則に従ってFEM解析を行った。
【0043】
図8には示していないが、このシミュレーションでは、押圧部材40(
図5参照)の解析モデルをさらに作成した。そして、その押圧部材40の解析モデルによって、Uリブの解析モデルに対して上述の負荷工程および除荷工程を実行し、ルート部14(
図7参照)に生じる残留応力を求めた。
【0044】
下記の表1に、負荷工程の条件(圧下量)および除荷工程後のルート部14の残留応力(解析結果)を示す。なお、表1においては、
図8(a)において一点鎖線で示す従来のUリブの側壁部の曲率半径を、「∞」と記している。また、表1において圧下量とは、
図8(c)の積分点a〜dのいずれかにおいて塑性変形を示すデータが得られた後の、押圧部材40のデッキプレート3側への押し込み量である。すなわち、圧下量とは、ルート部14が塑性変形を開始した後の、押圧部材40の押し込み量を示す。また、ルート部14の残留応力は、
図8(c)の積分点cのデータに基づいて求めた。表1において、正の値の応力は引張応力を示し、負の値の応力は圧縮応力を示す。なお、負荷工程前には、ルート部14には応力が発生していないものとする。
【0046】
図9は、側壁部の曲率半径と、ルート部14の残留応力(表1、主応力和および幅方向応力)との関係を示したグラフである。表1および
図9に示すように、本実施形態に係るUリブ20の解析モデルでは、直線状の側壁部を有する従来のUリブに比べて、ルート部14の残留応力(主応力和および幅方向応力)を十分に低減できた。特に、幅方向応力は、本実施形態に係るUリブ20の解析モデルの全てにおいて、負の値となった。すなわち、本実施形態に係るUリブ20の解析モデルの全てにおいて、ルート部14に圧縮残留応力を発生させることができた。このように、本実施形態に係るUリブ20の解析モデルでは、従来のUリブに比べて、スプリングバックの効果を十分に得られた。この結果から、本実施形態に係るUリブ20は、ルート部14に疲労亀裂が発生すること抑制するのに適しており、かつルート部14に疲労亀裂が発生した場合にその疲労亀裂が進展することを抑制するのに適していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、Uリブとデッキプレートとを接合する溶接ビードのルート部に疲労亀裂が発生すること、およびルート部に疲労亀裂が発生した場合にその疲労亀裂が進展することを抑制するのに適したUリブが得られる。したがって、本発明は、鋼床版を構成するUリブとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 橋梁
2,100 鋼床版
3 デッキプレート
4 主桁
5 横リブ
6,20 Uリブ(縦リブ)
7 舗装材
8 自動車
9 接合部
10 溶接ビード
11 不溶着部
12,13 止端
14 ルート部
20a 底壁部
20b,20c 側壁部
40 押圧部材