特許第6607147号(P6607147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000002
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000003
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000004
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000005
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000006
  • 特許6607147-ヒートポンプ装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607147
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 6/04 20060101AFI20191111BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20191111BHJP
   F25B 30/02 20060101ALI20191111BHJP
   F24H 4/02 20060101ALN20191111BHJP
   F24D 3/18 20060101ALN20191111BHJP
【FI】
   F25B6/04 C
   F25B1/00 311C
   F25B30/02 G
   !F24H4/02 F
   !F24D3/18
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-125908(P2016-125908)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-227421(P2017-227421A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 康太
(72)【発明者】
【氏名】高津 昌宏
【審査官】 飯星 潤耶
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/140870(WO,A1)
【文献】 特開2010−091135(JP,A)
【文献】 特開2012−077957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 6/04
F25B 1/00
F25B 30/02
F24D 3/18
F24H 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(21,22)と、少なくとも2つの放熱器(23,24,30)と、減圧器(28)と、蒸発器(25)とが順次接続されて構成される冷媒回路(2)と、
前記少なくとも2つの放熱器のいずれかから熱媒に熱を受け取る少なくとも2つの被加熱側回路(3,4)と、を備え、
前記少なくとも2つの放熱器は、エンタルピーの異なる冷媒がそれぞれに通過するよう前記冷媒回路に設置され、相対的にエンタルピーの高い冷媒が通過する第1放熱器(23)と、前記第1放熱器の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する第2放熱器(24)と、を有し、
前記冷媒回路は、前記第1放熱器と前記第2放熱器との間から前記圧縮機へと前記冷媒のインジェクションを行うインジェクション回路(5,5A,5B)を有
前記少なくとも2つの被加熱側回路は、一の被加熱側回路にて前記冷媒回路から熱を受け取った第1熱媒と、他の被加熱側回路を通る第2熱媒との間で熱交換を行うことができるよう構成される、
ヒートポンプ装置(1,1A,1B)。
【請求項2】
熱交換が行われた後の前記第2熱媒の熱媒温度(To)が設定値(Tset)となるように前記インジェクション回路によるインジェクション冷媒量を制御する、
請求項に記載のヒートポンプ装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの放熱器は、前記第2放熱器の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する第3放熱器(30)を有し、
前記インジェクション回路(5A,5B)は、前記第2放熱器と前記第3放熱器との間から前記圧縮機へと前記冷媒のインジェクションを行う、
請求項1又は2に記載のヒートポンプ装置(1A,1B)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少ない投入エネルギーで、空気中などから熱を集約して、大きな熱エネルギーとして利用するヒートポンプ装置が知られている。このようなヒートポンプ装置において、例えば特許文献1に記載されるように、温度域の異なる冷媒と複数系統の湯水(熱媒)とで熱交換を行う複数の放熱器を用いるものがある。この装置では、床暖房のように中温の湯が必要である場合と、給湯のように高温の湯が必要となる場合において、複数の放熱器のうち、ある放熱器では高温の冷媒と熱交換させ高温の湯を作りつつ、他の放熱器では中温の冷媒と熱交換させ中温の湯を作ることによって、高効率な高温の湯と中温の湯の沸き上げを行うことができる。また、中温の湯を貯留する中温蓄熱槽と高温の湯を貯留する高温蓄熱槽から最適なバランスで熱量を取り出すことにより、所定の温度の湯を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−43798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される従来の構成では、各放熱器への加熱側の冷媒の流量比が制御できないため、それぞれの放熱器の加熱能力の能力比は、加熱側である冷媒の各放熱器におけるエンタルピー差の比にて決まる。このため、被加熱側では、各系統における湯の沸き上げ温度を、被加熱側の各系統の湯水(熱媒)の流量比で制御することしかできない。例えばヒートポンプ装置が2つの放熱器を備え、高温T1及び中温T2の2種類の湯の沸き上げを行う構成の場合、2つの放熱器の能力比は各放熱器の入出力時の冷媒のエンタルピー差の比Δh1:Δh2で決まってしまうので、被加熱側の沸き上げ温度T1,T2の制御は、高温T1の湯の流量と中温T2の湯の流量との比を調整することで行う。
【0005】
しかし、各放熱器のエンタルピー差比と、端末側(被加熱側)における各系統で必要な熱媒の流量比とが一致するとは限らない。従って、端末の負荷に応じた必要な蓄熱量(中温及び高温の各湯量)に対し、中温蓄熱槽に蓄えられている熱量(中温の湯の湯量)と、高温蓄熱槽に蓄えられている熱量(高温の湯の湯量)のバランスが異なり、余剰熱量が生まれ、効率が低下するという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱側の少なくとも2つの放熱器の能力比を適切に制御でき、効率を向上できるヒートポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るヒートポンプ装置(1,1A,1B)は、圧縮機(21,22)と、少なくとも2つの放熱器(23,24,30)と、減圧器(28)と、蒸発器(25)とが順次接続されて構成される冷媒回路(2)と、前記少なくとも2つの放熱器のいずれかから熱媒に熱を受け取る少なくとも2つの被加熱側回路(3,4)と、を備え、前記少なくとも2つの放熱器は、エンタルピーの異なる冷媒がそれぞれに通過するよう前記冷媒回路に設置され、相対的にエンタルピーの高い冷媒が通過する第1放熱器(23)と、前記第1放熱器の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する第2放熱器(24)と、を有し、前記冷媒回路は、前記第1放熱器と前記第2放熱器との間から前記圧縮機へと前記冷媒のインジェクションを行うインジェクション回路(5,5A,5B)を有する。前記少なくとも2つの被加熱側回路は、一の被加熱側回路にて前記冷媒回路から熱を受け取った第1熱媒と、他の被加熱側回路を通る第2熱媒との間で熱交換を行うことができるよう構成される。
【0008】
この構成により、インジェクション回路の冷媒流量を調整することによって、冷媒回路の第1放熱器を流れる冷媒と、第2放熱器を流れる冷媒との流量比を制御することが可能となり、第1放熱器及び第2放熱器の加熱能力を自由に制御することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱側の少なくとも2つの放熱器の能力比を適切に制御でき、効率を向上できるヒートポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るヒートポンプ装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態における暖房回路の温風制御を説明するフローチャートである。
図3図3は、第1実施形態における冷媒及び湯水の温度変化を説明するためのTH線図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係るヒートポンプ装置の概略構成を示す図である。
図5図5は、第2実施形態における冷媒及び湯水の温度変化を説明するためのTH線図である。
図6図6は、本発明の第3実施形態に係るヒートポンプ装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
[第1実施形態]
図1図3を参照して第1実施形態を説明する。まず図1を参照して、第1実施形態に係るヒートポンプ装置1の構成について説明する。
【0013】
ヒートポンプ装置1は、上述のとおり、少ない投入エネルギーで、空気中などから熱を集約して、大きな熱エネルギーとして利用するための装置である。ヒートポンプ装置1は、例えば空気調和装置に適用することができ、特に超臨界サイクルで加熱を行う場合に適用することができる。
【0014】
図1に示すように、ヒートポンプ装置1は、加熱側の冷媒回路2と、被加熱側の2つの回路として給湯回路3(一の被加熱側回路)と暖房回路4(他の被加熱側回路)とを備える。冷媒回路2は、回路内を流れる冷媒に熱を発生させる。給湯回路3及び暖房回路4は、冷媒回路2の冷媒の熱を最終的に熱媒で受け取って出力する。
【0015】
ここで、本実施形態において用いる「熱媒」という用語は、各被加熱側回路(本実施形態では給湯回路3及び暖房回路4)において加熱されて出力される被加熱媒体のことをいう。給湯回路3における熱媒とは、給湯回路3内を流れる湯水のことをいい、最終的に所望の温度に加熱された後には貯湯タンク33に貯留される。暖房回路4における熱媒とは、暖房用ファン26により発生される風のことをいい、第2放熱器24を介して冷媒と熱交換を行い、さらに、暖房用熱交換器41を介して暖房回路4を流れる湯と熱交換を行った後に、所望の温度の温風として出力される。つまり、典型的には、熱媒とは、最終的に冷媒回路2にて発生した熱を受けて湯や温風となる水や風の総称であり、給湯回路3の湯水のように熱媒自体が回路内を流れ冷媒回路2から直接熱を受け取る熱伝達媒体として機能するものや、暖房回路4の温風のように、回路内を流れる熱伝達媒体(本実施形態では湯水)を介して間接的に冷媒回路2から熱を受け取るものを含む。
【0016】
冷媒回路2は、第1圧縮機21と、第2圧縮機22と、第1放熱器23と、第2放熱器24と、膨張弁28(減圧器)と、空気熱交換器25(蒸発器)とが配管によって環状に順次接続されて構成される。冷媒回路2は、熱伝達媒体としての冷媒が上記の順で各要素を通り、第1圧縮機21へと戻ることができるよう構成される冷媒循環路である。
【0017】
第1圧縮機21及び第2圧縮機22は、空気熱交換器25から冷媒を吸引し、圧縮し、第1放熱器23及び第2放熱器24へ吐出する圧縮機である。第1圧縮機21及び第2圧縮機22は冷媒回路2において直列に接続され、第1圧縮機21が第2圧縮機22に対して冷媒の流れの上流側に配置される。第1圧縮機21は、空気熱交換器25からの冷媒を圧縮して吐出し、第2圧縮機22は、第1圧縮機21から吐出された冷媒を圧縮して第1放熱器23に吐出する。第1圧縮機21及び第2圧縮機22は、不図示の動力源により駆動される。動力源は、例えば内燃機関や電動機によって提供されうる。
【0018】
第1放熱器23及び第2放熱器24は、第1圧縮機21及び第2圧縮機22により圧縮された高温冷媒を放熱して冷却する放熱器である。第1放熱器23及び第2放熱器24は冷媒回路2において直列に接続され、第1放熱器23が第2放熱器24に対して冷媒の流れの上流側に配置される。第1放熱器23は、第2圧縮機22から供給される冷媒を、給湯回路3の熱伝達媒体と熱交換させることにより冷却し、第2放熱器24は、第1放熱器23により冷却された冷媒をさらに放熱させて冷却する。第2放熱器24の放熱を促進するため、第2放熱器24には暖房用ファン26が設けられている。暖房用ファン26により発生した空気の流れ(風)は、第2放熱器24と熱交換して吸熱した後に、暖房回路4の暖房用熱交換器41へ流れる。
【0019】
つまり、第1放熱器23と、第2放熱器24とは、エンタルピーの異なる冷媒がそれぞれに通過するよう冷媒回路2に設置される、とも表現することができる。第1放熱器23は、相対的にエンタルピーの高い冷媒が通過し、第2放熱器24は、相対的にエンタルピーの低い冷媒が通過する。第2放熱器24は、第1放熱器23の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する、とも言い換えることができる。
【0020】
膨張弁28は、第1放熱器23及び第2放熱器24によって冷却された冷媒を減圧する。膨張弁28は、減圧器であればよく、固定の絞り、またはエジェクタによっても提供されうる。
【0021】
空気熱交換器25は、膨張弁28によって減圧された冷媒を蒸発させる。空気熱交換器25の吸熱を促進するため、空気熱交換器25には空気熱交換器用ファン27が設けられている。
【0022】
冷媒回路2は、第2圧縮機22から吐出された冷媒の圧力Pdを測定する圧力センサ29を備える。
【0023】
冷媒回路2は、第1放熱器23と第2放熱器24との間から第2圧縮機22へと冷媒のインジェクションを行うインジェクション回路5を有する。インジェクション回路5は、第1放熱器23及び第2放熱器24の間と、第1圧縮機21及び第2圧縮機22の間とを接続するインジェクション管51、及び、インジェクション管51上に設けられインジェクション管51を流れる冷媒量を調整する膨張弁52を有する。インジェクション回路5において、冷媒は、第2圧縮機22、第1放熱器23、膨張弁52を通り、第1圧縮機21を出た冷媒と合流して第2圧縮機22へと戻る。
【0024】
給湯回路3は、冷媒回路2の第1放熱器23から、熱伝達媒体及び熱媒としての湯水に熱を受け取る。給湯回路3は、循環ポンプ31と、第1放熱器23と、流量調整弁32と、貯湯タンク33とが配管によって環状に順次接続されて構成される。給湯回路3は、熱伝達媒体及び熱媒としての湯水が、第1放熱器23及び流量調整弁32を通り貯湯タンク33へと流れ、循環ポンプ31を経て第1放熱器23へと戻ることができるよう構成される循環路である。
【0025】
暖房回路4は、第2放熱器24から、熱媒としての風に熱を受け取る。暖房回路4は、給湯回路3の循環路において流量調整弁32と循環ポンプ31の上流とを接続するバイパス管43と、バイパス管43上に配置される暖房用熱交換器41とを有する。暖房回路4は、熱伝達媒体としての湯水が、第1放熱器23、流量調整弁32、及びバイパス管43を通り暖房用熱交換器41へと流れ、循環ポンプ31を経て第1放熱器23へと戻ることができるよう構成される循環路である。流量調整弁32は、第1放熱器23から出力された湯水について、給湯回路3の貯湯タンク33へ供給する流量を調整すると共に、暖房回路4の暖房用熱交換器41へ供給する流量を調整することができる。
【0026】
暖房回路4の熱媒は、上述のように暖房用ファン26により発生される風のことをいう。この風は、まず冷媒回路2の第2放熱器24を通過するときに冷媒回路2の冷媒から熱量を受けて加熱され、さらに、暖房用熱交換器41を通過するときに暖房回路4を流れる熱伝達媒体としての湯から熱量を受けてさらに加熱された後に、所望の温度の温風として出力される。暖房回路4は、暖房用熱交換器41から吹き出す空気温度To(以下では「吹き出し温度」とも表記する)を測定する吹き出し温度サーミスタ42を備える。
【0027】
つまり、被加熱側回路としての給湯回路3及び暖房回路4は、異なる種類の熱媒を用いるものであり、各回路の熱媒の流量を独立して制御できるものである。
【0028】
次に第1実施形態に係るヒートポンプ装置1の動作について説明する。ヒートポンプ装置1は、冷媒回路2の膨張弁52の制御によってインジェクション回路5の冷媒流量(インジェクション流量)を適宜調整し、循環ポンプ31または流量調整弁32の制御によって給湯回路3及び暖房回路4を流れる湯水の流量を調整し、または、暖房用ファン26の制御によって暖房回路4を通過する空気の風量を調整することによって、給湯回路3または暖房回路4の各熱媒を所望の温度で出力することができる。ヒートポンプ装置1は、例えば不図示のコンピュータ等の制御装置を備え、この制御装置によって膨張弁52、循環ポンプ31、流量調整弁32、暖房用ファン26などの各要素の動作を制御することができるよう構成されている。
【0029】
ここでは、暖房回路4の制御について説明する。より詳細には、被加熱側では、給湯回路3の制御が停止され、暖房回路4のみが制御される状態におけるヒートポンプ装置1の動作について説明する。この状態では、流量調整弁32により給湯回路3の貯湯タンク33への湯水の供給が停止され、第1放熱器23から出力された湯水のすべてが暖房回路4の暖房用熱交換器41へ供給されている。以下でのこの状態を「暖房モード」と表記する。
【0030】
暖房モードでは、必要な暖房能力、必要な暖房吹き出し温度To、室内温度などの情報によって、暖房用熱交換器41を通り出力される温風の風量が決定される。それに伴い、第2放熱器24を通過する風量が定まるため、第2放熱器24を通過後の空気の温度は第2放熱器24への吸い込み風(暖房用ファン26によって生成される風)の温度によって決まる。このため、第2放熱器24での冷媒と風(熱媒)との間の交換熱量は暖房の条件によって決定される。また、第2放熱器24での熱交換量が決定されると、暖房の条件から第1放熱器23の熱媒側の必要能力が決定される。
【0031】
図2を参照して、暖房モードにおけるインジェクション回路5のインジェクション流量の制御方法について説明する。暖房モードが開始されると(ステップS1)、まずは第2圧縮機22の吐出圧力Pdが、所定の目標圧力Pset以上か否かが判定される(ステップS2)。吐出圧力Pdが目標圧力Pset以上となるまでは待機し(ステップS2のNO)、吐出圧力Pdが目標圧力Pset以上となったとき(ステップS2のYes)、インジェクション回路5のインジェクション流量の制御(インジェクション制御)が開始される(ステップS3)。
【0032】
インジェクション制御が開始されると、まず暖房用熱交換器41からの吹き出し温度Toが、設定吹き出し温度Tsetから所定の1℃を減じた値(Tset−1℃)以上か否かが判定される(ステップS4)。ここで「Tset−1℃」とは、Tsetを基準として高温側に所定幅(本実施形態では「+1℃」)をとられ、かつ、低温側に所定幅(本実施形態では「−1℃」)をとられて設定される吹き出し温度Toの許容範囲の下限値である。
【0033】
吹き出し温度Toが、許容範囲の下限値「Tset−1℃」より低い場合(ステップS4のNo)には、第2放熱器24による放熱割合が最適よりも大きいため、第1放熱器23による放熱割合を増加させる必要がある。すなわち、第1放熱器23へ流れる冷媒流量比を第2放熱器に対して増加させる必要があるため、膨張弁52の開度を大きくし、より開ける方向に制御する(ステップS5)。これにより、第1放熱器23による放熱割合が増加して第1放熱器23の加熱能力が向上し、暖房回路4を流れる熱伝達媒体としての湯水が第1放熱器23において冷媒回路2の冷媒から受ける熱量が増大する。この結果、暖房回路4の暖房用熱交換器41の加熱能力も向上して、暖房用熱交換器41から熱量を受ける吹き出し温度Toが増加して、許容範囲に近づく。膨張弁52を開いた後には、ステップS4に戻り、吹き出し温度Toの判定が繰り返される。
【0034】
一方、吹き出し温度Toが、許容範囲の下限値「Tset−1℃」以上の場合(ステップS4のYes)には、吹き出し温度Toが、設定吹き出し温度Tsetから所定の1℃を加えた値(Tset+1℃)以下か否かが判定される(ステップS6)。ここで「Tset+1℃」とは、上述した吹き出し温度Toの許容範囲の上限値である。
【0035】
吹き出し温度Toが、許容範囲の上限値「Tset+1℃」より高い場合(ステップS6のNo)には、第2放熱器24による放熱割合が最適よりも小さいため、第1放熱器23による放熱割合を減少させる必要がある。すなわち、第1放熱器23へ流れる冷媒流量比を第2放熱器に対して減少させる必要があるため、膨張弁52の開度を小さくし、より閉める方向に制御する(ステップS7)。これにより、第1放熱器23による放熱割合が減少して第1放熱器23の加熱能力が低下し、暖房回路4を流れる熱伝達媒体としての湯水が第1放熱器23において冷媒回路2の冷媒から受ける熱量が減少する。この結果、暖房回路4の暖房用熱交換器41の加熱能力も低下して、暖房用熱交換器41から熱量を受ける吹き出し温度Toが減少して、許容範囲に近づく。膨張弁52を閉めた後には、ステップS4に戻り、吹き出し温度Toの判定が繰り返される。
【0036】
吹き出し温度Toが、許容範囲の上限値「Tset+1℃」以下の場合(ステップS6のYes)には、吹き出し温度Toが許容範囲内にあるので、インジェクション流量は現状を維持される。そして、運転停止の制御指令が無い場合(ステップS8のNo)にはステップS4に戻り、吹き出し温度Toの判定が繰り返される。一方、運転停止の制御指令が有る場合(ステップS8のYes)には本制御フローを終了する。
【0037】
次に第1実施形態に係るヒートポンプ装置1の効果について説明する。第1実施形態のヒートポンプ装置1は、第1圧縮機21と、第2圧縮機22と、第1放熱器23と、第2放熱器24と、膨張弁28と、空気熱交換器25とが順次接続されて構成される冷媒回路2と、第1圧縮機21及び第2圧縮機22の少なくとも一方から熱媒に熱を受け取る2つの被過熱側回路としての給湯回路3及び暖房回路4と、を備える。第1放熱器23及び第2放熱器24は、エンタルピーの異なる冷媒がそれぞれに通過するよう冷媒回路2に設置される。第1放熱器23は、相対的にエンタルピーの高い冷媒が通過し、第2放熱器24は、第1放熱器23の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する。冷媒回路2は、第1放熱器23と第2放熱器24との間から第1圧縮機21及び第2圧縮機22の間へと冷媒のインジェクションを行うインジェクション回路5を有する。
【0038】
この構成により、インジェクション回路5の冷媒流量を調整することによって、冷媒回路2の第1放熱器23を流れる冷媒と、第2放熱器24を流れる冷媒との流量比を制御することが可能となり、第1放熱器23及び第2放熱器24の加熱能力を自由に制御することができる。
【0039】
ここで図3を参照して、第1実施形態のヒートポンプ装置1が冷媒回路2の第1放熱器23及び第2放熱器24の加熱能力を自由に制御できることによる利点についてさらに説明する。図3の横軸は、冷媒回路2の冷媒、及び、給湯回路3及び暖房回路4の熱媒のエンタルピー(kJ/kg)を示し、図3の縦軸は、冷媒及び熱媒の温度(℃)を示す。図3では、冷媒回路2の冷媒の温度―エンタルピー特性(TH特性)をグラフAで示し、給湯回路3の熱媒(湯水)が第1放熱器23を通過するときのTH特性をグラフB1で示し、暖房回路4の熱媒(風)が第2放熱器24を通過するときのTH特性をグラフB2で示す。図3中のΔh1は、第1放熱器23への入出力時における冷媒のエンタルピー差であり、第1放熱器23での冷媒と熱媒との間の熱交換量である。同様に、図3中のΔh2は、第2放熱器24への入出力時における冷媒のエンタルピー差であり、第2放熱器24での冷媒と熱媒との間の熱交換量である。図3中のグラフCは、冷媒(CO2)の飽和液線及び飽和蒸気線である。
【0040】
図3のグラフAに示すように、冷媒回路2において第1放熱器23に供給される冷媒は、相対的にエンタルピーが高く、第1放熱器23における放熱によってエンタルピーがΔh1減少し、冷媒温度も低下する。一方、グラフB1に示すように、給湯回路3の熱媒は、第1放熱器23において冷媒の熱を吸収することによって、エンタルピーがΔh1増加し、熱媒温度もT1に上昇する。また、図3のグラフAに示すように、冷媒回路2において第1放熱器23で放熱された後に第2放熱器24に供給される冷媒は、第2放熱器24における放熱によってエンタルピーがさらにΔh2減少し、冷媒温度も低下する。一方、グラフB2に示すように、暖房回路4の熱媒は、第2放熱器24において冷媒の熱を吸収することによって、エンタルピーがΔh2増加し、媒体温度もT2に上昇する。
【0041】
一般に、第1放熱器23の加熱能力は、エンタルピー差Δh1と第1放熱器23における冷媒流量との積として算出できる。同様に、第2放熱器24の加熱能力は、エンタルピー差Δh2と第2放熱器24における冷媒流量との積として算出できる。
【0042】
例えば特許文献1に記載の構成のように、加熱側の冷媒回路2にインジェクション回路5を備えない構成の場合には、各放熱器の冷媒流量を調整できないので、各放熱器の加熱能力比は、エンタルピー差の比Δh1:Δh2のみで決まってしまう。このため、給湯回路3の熱媒温度T1と暖房回路4の熱媒温度T2の制御は、給湯回路3及び暖房回路4を流れる熱伝達媒体(湯水)の流量の比を調整することで行う。しかし、各放熱器のエンタルピー差比Δh1:Δh2と、被加熱側の給湯回路3及び暖房回路4で必要な湯水の流量比とが一致するとは限らない。従って、給湯回路3及び暖房回路4で必要な蓄熱量に対して、給湯回路3に蓄えられている熱量(給湯回路3に流れる湯水の流量)と、暖房回路4に蓄えられている熱量(暖房回路4に流れる湯水の流量)のバランスが異なり、余剰熱量が生まれ、効率が低下する場合がある。
【0043】
これに対して本実施形態のヒートポンプ装置1は、加熱側の冷媒回路2にインジェクション回路5を備えることにより、第1放熱器23及び第2放熱器24の冷媒流量を制御することが可能とした。これにより、第1放熱器23と第2放熱器24が必要な加熱能力を発揮でき、被加熱側の給湯回路3及び暖房回路4を流れる熱伝達媒体(湯水)の流量比を調整しなくても、所望の給湯回路3の熱媒温度T1と暖房回路4の熱媒温度T2とを達成できるよう随時制御することが可能となる。
【0044】
以上より、第1実施形態のヒートポンプ装置1は、インジェクション回路5の冷媒流量を調整することによって、2つの被加熱側回路としての給湯回路3及び暖房回路4の必要熱量に応じて、第1放熱器23及び第2放熱器24の能力比を適切に制御でき、効率を向上できる。
【0045】
また、第1実施形態のヒートポンプ装置1において、2つの被加熱側回路としての給湯回路3及び暖房回路4は、給湯回路3にて冷媒回路2から熱を受け取った第1熱媒としての湯水と、暖房回路4を通る第2熱媒としての温風との間で熱交換を行うことができるよう構成される。ヒートポンプ装置1は、熱交換が行われた後の暖房回路4の熱媒の吹き出し温度To(熱媒温度)が設定吹き出し温度Tset(設定値)となるように、インジェクション回路5によるインジェクション冷媒量を制御する。
【0046】
この構成により、暖房回路4の必要熱量の指標となる設定吹き出し温度Tsetに基づいて、インジェクション回路5の冷媒流量の制御によって第2放熱器24の冷媒流量、すなわち第2放熱器24の加熱能力を適切に制御することができる。
【0047】
[第2実施形態]
図4及び図5を参照して第2実施形態を説明する。図4に示すように、第2実施形態に係るヒートポンプ装置1Aは、(1)冷媒回路2において第2放熱器24の下流側に第3放熱器30を有する点、(2)インジェクション回路5Aが、第2放熱器24と第3放熱器30との間から第2圧縮機22へと冷媒のインジェクションを行う点、(3)冷媒回路2が、第2放熱器24から出た冷媒と、第3放熱器30から出た冷媒との間で熱交換を行う内部熱交換器55を有する点で、第1実施形態のヒートポンプ装置1と異なる。
【0048】
第3放熱器30は、第2放熱器24により放熱された冷媒を、給湯回路3の熱伝達媒体と熱交換させることによりさらに放熱する。第3放熱器30には、第2放熱器24にて放熱された冷媒が供給されるので、第1放熱器23及び第2放熱器24よりエンタルピーの低い冷媒がする。言い換えると、第3放熱器30には、第2放熱器24の次にエンタルピーの高い冷媒が通過する。
【0049】
インジェクション回路5Aは、第1実施形態のインジェクション回路5の各要素に加えて、第2放熱器24及び第3放熱器30の間と、第1圧縮機21及び第2圧縮機22の間とを接続する第2インジェクション管53、及び、第2インジェクション管53上に設けられ第2インジェクション管53を流れる冷媒量を調整する第2膨張弁54を有する。第2インジェクション管53は、第2膨張弁54、内部熱交換器55を通過した後にインジェクション管51と合流されて、冷媒回路2の第2圧縮機22の上流側に接続されている。
【0050】
図5を参照して第2実施形態の効果を説明する。図5の縦軸、横軸、グラフA,B1,B2は図3と同様である。図3中のΔh3は、第3放熱器30への入出力時における冷媒のエンタルピー差であり、第3放熱器30での冷媒と熱媒との間の熱交換量である。図5のグラフAに示すように、冷媒回路2において第2放熱器24で放熱された後に第3放熱器30に供給される冷媒は、第3放熱器30における放熱によってエンタルピーがさらにΔh3減少し、冷媒温度も低下する。一方、グラフB3に示すように、給湯回路3の熱媒は、第3放熱器30において冷媒の熱を吸収することによって、エンタルピーがΔh3増加し、媒体温度もT3に上昇する。第3放熱器30の加熱能力は、エンタルピー差Δh3と第3放熱器30における冷媒流量との積として算出できる。
【0051】
第2実施形態に係るヒートポンプ装置1Aは、冷媒回路2にインジェクション回路5Aを設けることにより、冷媒回路2に第1放熱器23、第2放熱器24、第3放熱器30の3つの放熱器を設ける構成でも、各放熱器の冷媒流量を制御することを可能とした。これにより、各放熱器間の冷媒流量比を調整でき、第1放熱器23、第2放熱器24、第3放熱器30の加熱能力を自由に制御できる。
【0052】
また、第2実施形態のヒートポンプ装置1Aは、冷媒回路2に内部熱交換器55を備えることにより、システム効率の向上を図ることができる。
【0053】
なお、インジェクション回路5Aは、少なくとも第1放熱器23と第2放熱器24との間から第2圧縮機22へと冷媒のインジェクションを行うことができればよい。つまり、インジェクション回路5Aは、第1実施形態のインジェクション回路5と同様に、第2インジェクション管53及び第2膨張弁54を有しない構成でもよい。
【0054】
[第3実施形態]
図6を参照して第3実施形態を説明する。図6に示すように、第3実施形態に係るヒートポンプ装置1Bは、冷媒回路2において内部熱交換器55がインジェクション管51と第2インジェクション管53との合流位置より第2圧縮機22側に配置される点で、第2実施形態のヒートポンプ装置1Aと異なる。
【0055】
インジェクション回路5Bにおいて、第2インジェクション管53上の第2膨張弁54と、インジェクション管51との合流位置との間には、電磁弁56が設けられている。電磁弁56は、例えば制御装置(図示せず)からの制御指令に応じて開閉を切り替えることができ、第2インジェクション管53の連通と遮断とを制御できる。
【0056】
第3実施形態のヒートポンプ装置1Bは、電磁弁56を閉状態とすることで、第1放熱器23から出た冷媒と、第3放熱器30から出た冷媒との間で熱交換を行うことができる。また、電磁弁を開状態とすることで、第2放熱器24から出た冷媒と、第3放熱器30から出た冷媒との間で熱交換を行うことができる。
【0057】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。特に、本発明で第1圧縮機(21)、第2圧縮機(22)と記載した圧縮機は、1つのケーシング内に2つの圧縮機構を持つ圧縮機でインジェクションを行うものも包含される。また第1圧縮機(21)、第2圧縮機(22)と記載した2つの圧縮機を、1つのケーシング内で1つの圧縮機構を備え、圧縮過程の途中にインジェクションを行う圧縮機に置き換えてもよい。圧縮機構は、例えばスクロール式やロータリー式、ピストン式など圧縮方式には限定されない。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0058】
上記実施形態では、被加熱側の回路として給湯回路3と暖房回路4の2つの回路を備える構成を例示したが、被加熱側回路は少なくとも2つであればよく、3以上の回路を備える構成とすることもできる。
【0059】
また、上記実施形態では、被加熱側回路としての給湯回路3と暖房回路4は、給湯回路3にて冷媒回路2から熱を受け取った第1熱媒としての湯水と、暖房回路4を通る第2熱媒としての温風との間で熱交換を行うことができる構成を例示したが、複数の被加熱側回路の間の関係はこれに限られない。例えば、複数の被加熱側回路のそれぞれは冷媒回路2と個別に熱交換を行い、被加熱側回路の間では熱交換を行わない構成でもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、給湯回路3の熱媒が湯水であり、暖房回路4の熱媒が空気の流れである構成、つまり複数の被加熱側回路のそれぞれの熱媒の種類が異なる構成を例示したが、各回路の熱媒が同一種類でもよい。
【符号の説明】
【0061】
1,1A,1B:ヒートポンプ装置
2:冷媒回路
21:第1圧縮機(圧縮機)
22:第2圧縮機(圧縮機)
23:第1放熱器(放熱器)
24:第2放熱器(放熱器)
25:空気熱交換器(蒸発器)
28:膨張弁(減圧器)
30:第3放熱器(放熱器)
3:給湯回路(一の被加熱側回路)
4:暖房回路(他の被加熱側回路)
5,5A,5B:インジェクション回路
To:吹き出し温度(熱媒温度)
Tset:設定吹き出し温度(設定値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6