(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解析部は、前記薬剤を含有しない血液試料及び任意の濃度で前記薬剤を含有する血液試料の電気的特性の経時変化データの差、又は、前記経時変化データから算出した値の差に基づいて、前記薬剤の影響を評価する請求項1に記載の血液状態解析装置。
前記解析部は、前記薬剤を含有しない血液試料及び任意の濃度で前記薬剤を含有する血液試料の電気的特性の経時変化データを比較することにより、プラスミン又はプラスミノゲンによる影響を評価する請求項10に記載の血液状態解析装置。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1の実施形態の血液状態解析システムの概略構成を示す図である。
【
図2】血液凝固に伴う複素誘電率の経時変化を示す図面代用グラフであり、Aは実数部(ε´)を示し、Bは虚数部(ε”)を示す。
【
図3】血液の凝固強さについて、粘弾性測定により求めた値と、誘電率から求めた値を比較した図面代用グラフである。
【
図4】
図1に示す血液状態解析装置の動作例を示すフローチャート図である。
【
図5】CyD濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図面代用グラフである。
【
図6】
図5に示す10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)において、CyD濃度が0μg/mLの血液試料の値と、その他の血液試料の値との差を示す図面代用グラフである。
【
図7】複素誘電率の実数部(ε´)から求めた凝固振幅と、CyD濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図8】複素誘電率の実数部(ε´)から求めた凝固率と、CyD濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図9】線溶系促進剤(tPA)及び線溶系阻害剤(アプロティニン)濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図面代用グラフである。
【
図10】
図9に示す10MHzにおけるε´の値から算出した評価パラメータの値を示す図面代用グラフである。
【
図11】ヘパリン濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図面代用グラフである。
【
図12】
図11に示す10MHzにおけるε´の値から求めた凝固時間と、ヘパリン濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図13】ヘパリン濃度が異なる血液試料の凝固曲線を示す図面代用グラフである。
【
図14】ヘパリン濃度と凝固時間差との関係を示す図面代用グラフである。
【
図15】Aはフィブリノゲン阻害剤(Pefabloc)濃度と凝固振幅との関係を示す図であり、Bは凝固時間との関係を示す図面代用グラフである。
【
図16】
図1に示す血液状態解析装置の他の動作例を示すフローチャート図である。
【
図17】PLT及びHCTが異なる血液試料の1MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図面代用グラフである。
【
図18】PLT及びHCTが異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図面代用グラフである。
【
図19】
図18に示す血液試料にCyDを過剰に添加したときの凝固曲線である。
【
図21】複素誘電率の実数部(ε´)から推定した凝固率と、血小板濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図22】複素誘電率の実数部(ε´)から推定した凝固振幅と、血小板濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図23】複素誘電率の実数部(ε´)から推定しHCTで補正した凝固振幅と、血小板の実効濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図24】Pefabloc濃度が異なる複数の検体について、CyD濃度と凝固振幅との関係を調べた結果を示す図面代用グラフである。
【
図25】CyD濃度が異なる複数の検体について、Pefabloc濃度と凝固振幅との関係を調べた結果を示す図面代用グラフである。
【
図26】血液凝固に伴う複素誘電率の実数部の経時変化の例を示す図面代用グラフである。
【
図27】Pefablocを添加していない血液試料の測定結果を示す図面代用グラフである。
【
図28】CyDにより血小板の機能が完全に抑制されている血液試料の振幅CFとフィブリノゲンの実効濃度FIBとの関係を示す図面代用グラフである。
【
図29】振幅CF−a×フィブリノゲンの実効濃度FIBと、血小板の実効濃度PLTとの関係を示す図面代用グラフである。
【
図30】振幅CF−a×フィブリノゲンの実効濃度FIBと、血小板の実効濃度PLTとの関係を示す図面代用グラフである。
【
図31】CyD濃度を横軸、各CyD濃度における振幅(CF−CyDX)からCyDにより血小板の機能が完全に抑制されている血液試料の振幅(CF−CyDY)を引いた値を縦軸として作成した図面代用グラフである。
【
図32】Pefablocそれぞれの濃度の傾きと、フィブリノゲン測定装置(商品名「DRIHemato」(登録商標)、A&T社製)で測定したフィブリノゲンの実効濃度との関係を示す図面代用グラフである。
【
図33】フィブリノゲン測定装置(商品名「DRIHemato」(登録商標)、A&T社製)で測定したフィブリノゲンの実効濃度を用いた場合の、モデルの確認(1)で用いた結果とは異なる測定結果から前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとの相関を示す図面代用グラフである。
【
図34】
図28から算出したフィブリノゲンの実効濃度を用いた場合の、モデルの確認(1)で用いた結果とは異なる測定結果から前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとの相関を示す図面代用グラフである。
【
図35】複素誘電率の初期値とヘマトクリット値の関係を示す図面代用グラフである。
【
図36】多項目自動血球計数装置で測定したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図33に対応する比較データを示す図面代用グラフである。
【
図37】多項目自動血球計数装置で測定したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図34に対応する比較データを示す図面代用グラフである。
【
図38】複素誘電率の初期値から算出したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図33に対応する比較データを示す図面代用グラフである。
【
図39】複素誘電率の初期値から算出したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図34に対応する比較データを示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
(電気的特性から血液の凝固系・線溶系を評価する血液状態解析システムの例)
2.第1の実施の形態の変形例
(HCTにより補正を行う血液状態解析システムの例)
【0015】
(1.第1の実施の形態)
先ず、本開示の第1の実施形態に係る血液状態解析システムについて説明する。
図1は本実施形態の血液状態解析システムの概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の血液状態解析システム1は、電気的特性測定装置10と血液状態解析装置11が設けられている。また、本実施形態の血液状態評価システムには、必要に応じて、サーバ12や表示装置13等が接続されていてもよい。
【0016】
[電気的特性測定装置10]
電気的特性測定装置10は、評価対象の血液試料が充填されるサンプル容器に設けられた電極対間に電圧を印加して、特定の周波数又は周波数帯域で、血液試料の電気的特性を経時的に測定する測定部を備えている。電気的特性測定装置10で測定される電気的特性は、例えばインピーダンス、コンダクタンス、アドミッタンス、キャパシタンス、誘電率、導電率、位相角及びこれらを電気量変換することにより得られる量が挙げられる。なお、本実施形態の血液状態解析システム1は、これらの電気的特性のうち1種で評価可能であるが、2種以上の電気的特性を利用することもできる。
【0017】
電気的特性測定装置10の構成は、特に限定されるものではなく、測定する電気的特性に応じて、適宜設定することができる。例えば、電極対間に交流電圧を印加し、血液のインピーダンスや複素誘電率を測定する場合は、インピーダンスアナライザーやネットワークアナライザーを使用することもできる。なお、電気的特性測定装置10は、後述する血液状態解析装置11において利用する周波数又は周波数帯域についてのみ測定を行ってもよいが、周波数を変えて広帯域で電気的特性を測定し、得られたスペクトルから評価に利用する周波数又は周波数帯域を抽出することもできる。
【0018】
[血液状態解析装置11]
血液状態解析装置11は、直接又はネットワーク14を介して電気的特性測定装置10に接続されており、薬剤又は血液中の因子が血液の凝固特性又は線溶特性に及ぼす影響を評価する解析部を備えている。この血液状態解析装置11には、電気的特性測定装置10で測定された電気的特性の経時変化データが入力され、解析部は電気的特性の経時変化データを利用して評価を行う。
【0019】
[サーバ12]
サーバ12は、例えば、ネットワーク14を介して電気的特性測定装置10、血液状態解析装置11及び表示装置13等と接続されており、情報記憶部等が設けられている。そして、サーバ12は、電気的特性測定装置10や血液状態解析装置11からアップロードされた各種データを管理し、要求に応じて表示装置13や血液状態解析装置11に出力する。
【0020】
[表示装置13]
表示装置13は、電気的特性測定装置10で測定された血液試料の電気的特性データや血液状態解析装置11での評価結果等を表示する。なお、表示装置13には、ユーザが表示するデータを選択し入力するための情報入力部が設けられていてもよい。この場合、ユーザにより入力された情報は、ネットワーク14を介してサーバ12や血液状態解析装置11に送信される。
【0021】
[動作]
次に、本実施形態の血液状態解析システムの動作、即ち、血液状態解析システムを用いて、血液試料の凝固系や線溶系を評価する方法について説明する。
図2は血液凝固に伴う複素誘電率の経時変化を示す図であり、Aは実数部(ε´)を示し、Bは虚数部(ε”)を示す。また、
図3は血液の凝固強さ(clot strength)について、粘弾性測定により求めた値と、誘電率から推定した値を比較した図である。
【0022】
例えば、
図2A及び
図2Bに示すように、血液の複素誘電率の経時変化データからは、凝固開始時間aや凝固終了時間bを推定することができる。また、複素誘電率の実数部と虚数部の振幅差は凝固振幅に相当し、凝固開始時間aと凝固終了時間bとを結ぶ線の傾きは、凝固率に相当する。そして、
図3に示すように、複素誘電率から推定した血液の凝固強さ(clot strength)の値は、トロンボエラストメトリー等の粘弾性測定により求めた凝固強さの値とは、相関関係がある。
【0023】
そこで、本実施形態の血液状態解析システムでは、同一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、薬剤又は血液中の因子が血液の凝固系や線溶系に及ぼす影響を評価する。その際、評価には、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用する。
図4は
図1に示す血液状態解析システム1の動作例を示すフローチャート図である。
【0024】
具体的には、
図4に示すように、先ず、電気的特性測定装置10により、薬剤濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域で、電気的特性を経時的に測定する(測定工程S1)。その後、電気的特性測定装置10で測定された電気的特性の経時変化データを利用して、血液状態解析装置11において、薬剤又は血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する(解析工程S2)。
【0025】
(測定工程S1)
測定工程S1では、同一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域で、電気的特性を経時的に測定する。その際、電気的特性の測定条件は、特に限定されるものではなく、評価対象の血液を変質させない範囲で、電気的特性の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0026】
また、測定は、後述する解析工程において利用する周波数又は周波数帯域についてのみ行ってもよいが、利用する周波数及び周波数帯域の全てを含むような広帯域で電気的特性を測定することもできる。その場合、血液状態解析装置11において、得られたスペクトルから、評価に利用する周波数又は周波数帯域を抽出すればよい。具体的には、測定を行う周波数帯域としては、蛋白質の影響が比較的少ない100Hz〜100MHzの範囲が好ましく、1kHz〜10MHzの範囲がより好ましい。
【0027】
一方、血液試料に添加される薬剤としては、血液の凝固系若しくは線溶系に対する活性剤又は抑制剤を用いることができる。具体的には、サイトカラシンD(以下、CyDと略す。)等の血小板機能抑制剤、H-Gly-Pro-Arg-Pro-OH×AcOH(PefablocFG)等のフィブリノゲン機能抑制剤、フィブリン重合抑制剤、プラスミノゲン活性剤、アプロチニンやトラネキサム酸等のプラスミン抑制剤、ヘパリン等の凝固抑制剤等が挙げられる。
【0028】
(解析工程S2)
解析工程S2では、電気的特性測定装置10で測定された電気的特性の経時変化データを利用して、血液状態解析装置11において、薬剤又は血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する。例えば、各血液試料の電気的特性の経時変化データから、従来、血液の凝固系や線溶系の評価で用いられているパラメータを算出する。ここで、血液の凝固系や線溶系の評価用パラメータとしては、例えば、凝固時間(ClotingTime)、クロット形成時間(ClotFormationTime)、クロットの最大堅固(MaximumColtfirmness)、最大溶解(MaximumLysis)、凝固振幅(Coagulationamplitude)、凝固率(Coagulationrate)、凝固時間から一定時間経過後のクロット堅固、最大堅固から一定時間経過後のクロット堅固、最大堅固後のクロット線速度等が挙げられる。
【0029】
また、例えば、凝固系の評価を行う場合、評価対象の凝固因子としては、血小板因子やフィブリノゲン等が挙げられる。その場合、血液試料に添加する薬剤としては、血小板機能抑制剤、フィブリノゲン機能抑制剤又はフィブリン重合抑制剤等を使用することができる。そして、これらの影響についての評価は、例えば、薬剤を含有しない血液試料及び任意の濃度で薬剤を含有する血液試料の電気的特性の経時変化データから求めた凝固振幅又は凝固率の差に基づいて行うことができる。
【0030】
図5はCyD濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図である。また、
図6は
図5に示す10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)において、CyD濃度が0μg/mlの血液試料の値と、その他の血液試料の値との差を示す図である。
図5に示すように、10MHzにおけるε´の値及びその経時変化特性は、CyD濃度に応じて変化することがわかる。また、
図6に示すように、CyD濃度が高くなる程、その影響が大きくなることが分かる。
【0031】
図7は複素誘電率の実数部(ε´)から求めた凝固振幅と、CyD濃度との関係を示す図である。
図8は複素誘電率の実数部(ε´)から求めた凝固速度(=(振幅B−振幅A)/(時間B−時間A))と、CyD濃度との関係を示す図である。
図7及び
図8に示すように、複素誘電率の実数部(ε´)から求めた凝固振幅や凝固速度の値と、血液試料のCyD濃度とは、相関関係があることがわかる。
【0032】
そして、この評価結果から、血液に含まれる対象因子の影響を完全になくすための最低限の薬剤投与量を推定することが可能となる。例えば、CyDの場合はある濃度以上になると凝固率は変化しなくなるため、
図8に破線で示すCyDを過剰に含有する血液試料の凝固率と一致する3.3μg/mlが、血小板因子の作用を完全に抑制するための最低限の薬剤投与量と推定される。また、
図8に示す血液試料の場合、血小板数は1μlあたり136500個であるため、血小板因子を阻害するためのCyD量は血小板1個あたり25ngとなる。
【0033】
また、例えば、線溶系の評価を行う場合は、評価対象の凝固因子としては、プラスミノゲンやプラスミン等が挙げられる。その場合、血液試料に添加する薬剤としては、プラスミノゲン若しくはプラスミンの活性剤又は阻害剤を使用することができる。
図9は線溶系促進剤(tPA)及び線溶系阻害剤(アプロティニン)濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図である。
【0034】
図9は、血液に線溶系促進剤であるtPAを添加して人工的に作製した線溶系の血液試料を用いて測定した値であり、tPA=8、アプロティニン=0の血液試料は線溶系促進の患者の血液と同様の特徴を示す。
図9に示すように、10MHzにおけるε´の値及びその経時変化特性は、アプロティニン濃度に応じて変化することがわかる。なお、
図9には、薬剤を添加していない対照血液試料(tPA=0、アプロティニン=0)の測定結果も併せて示す。
【0035】
線溶系の血液についての評価は、例えば、
図2に示すBの時間から30分後の振幅を、Bの時間の振幅で除した値(LI30:線溶に伴う最大堅固から一定時間経過後のクロット堅固源)を、評価パラメータとして用いることができる。
図10は
図9に示す10MHzにおけるε´の値から算出した評価パラメータの値を示す図である。
図10に示すように、血液に線溶系阻害剤であるアプロティニンを添加することにより、評価パラメータであるLI30の値は、薬剤を添加していない対照血液試料の値にまで戻ることがわかる。
【0036】
なお、線溶系の評価は、前述した方法に限定されるものではなく、例えば100kHzなどのように10MHz以外の周波数でも可能であり、また、評価も線溶系関連のパラメータを用いることができ、LI30以外の値を使用してもよい。
【0037】
本実施形態の血液状態解析方法は、前述した評価項目及び評価方法に限定されるものではなく、例えば薬剤にヘパリンを使用し、ヘパリンによる血液凝固抑制効果を評価することもできる。
図11はヘパリン濃度が異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図であり、
図12は
図11に示す10MHzにおけるε´の値から求めた凝固時間と、ヘパリン濃度との関係を示す図である。また、
図13はヘパリン濃度が異なる血液試料の凝固曲線を示す図であり、
図14はヘパリン濃度と凝固時間差との関係を示す図である。
【0038】
図11に示すように、10MHzにおけるε´の値及びその経時変化特性は、ヘパリン濃度に応じて変化することがわかる。また、
図12に示すように、ヘパリン濃度の増加に伴い凝固時間が長くなり、ヘパリン濃度が高い程その影響は大きいことがわかる。そこで、ヘパリンの影響については、例えば
図13に示す凝固時間により評価することができる。具体的には、
図14に示すように、ヘパリンを添加した血液試料と添加していない血液試料とで凝固時間の差を求めることにより、血液試料中のヘパリン量を推定することができる。
【0039】
更に、薬剤にPefablocなどのフィブリノゲン阻害剤を用いることにより、フィブリノゲンの影響についても評価することが可能である。
図15Aはフィブリノゲン阻害剤(Pefabloc)濃度と凝固振幅との関係を示す図であり、
図15Bは凝固時間との関係を示す図である。
図15A及び
図15Bに示すように、血液試料のフィブリノゲン阻害剤(Pefabloc)濃度が増加すると、凝固振幅や凝固時間が変化するため、この特性を利用することで、フィブリノゲンの影響の評価やフィブリノゲンの量を推定が可能となる。
【0040】
解析工程S2は、前述した各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作成し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。このようなコンピュータプログラムは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等の記録媒体に格納されていてもよく、また、ネットワークを介して配信することもできる。
【0041】
本実施形態の血液状態解析システムでは、評価に、電気的特性の経時変化データを用いているため、従来の評価方法では観測することができなかった特定の因子の影響を評価することが可能である。これにより、従来よりも信頼性の高い評価結果を得ることができる。また、本実施形態の血液状態解析システムは、簡便な方法で、かつ短時間の測定で、血液の凝固系又は線溶系の評価を精度よく行うことができる。
【0042】
なお、本実施形態の血液状態解析システムでは、測定装置と解析装置をそれぞれ個別に設けているが、これらは一体となっていてもよい。また、解析装置は、予め測定しておいたデータに基づいて評価を行うこともできる。
【0043】
(2.第1の実施の形態の変形例)
本開示の血液状態解析システムでは、電気的特性の経時変化データから推定されたパラメータをそのまま評価に用いることもできるが、これらの推定値を、血液のヘマトクリット値(HCT)を用いてデータを補正してもよい。
図16は本変形例の血液状態解析装置の他の動作例を示すフローチャート図である。具体的には、
図16に示すように、本変形例の血液状態解析システムでは、解析工程S2において、データ補正を行う。
【0044】
図17はPLT及びHCTが異なる血液試料の1MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図である。
図18はPLT及びHCTが異なる血液試料の10MHzにおける複素誘電率の実数部(ε´)の経時変化を示す図である。
図19は
図18に示す血液試料にCyDを過剰に添加したときの凝固曲線であり、この図から血小板の影響が完全に無くなった状態での凝固過程を観察することができる。
図20は
図18に示す値と
図19に示す値の差を示す図であり、この図から血小板の影響と、フィブリノゲンと血小板の相互作用が凝固に及ぼす影響を観察することができる。
【0045】
図17及び
図18に示すように、10MHzにおけるε´の値及びその経時変化特性は、HCTに応じて変化する。そして、
図17〜
図20に示す結果から、HCTが同等の血液試料では、血小板数と凝固振幅又は凝固率には、相関関係があることがわかる。ただし、HCTが変化すると、血小板数が同等であっても、凝固振幅が大きくなる。また、HCTが小さく、血小板数が多い場合は、凝固振幅はほとんど変化がない。このことから、HCTによる補正は、有効であると考えられる。
【0046】
図21は複素誘電率の実数部(ε´)から推定した凝固率と、血小板濃度との関係を示す図である。
図22は複素誘電率の実数部(ε´)から推定した凝固振幅と、血小板濃度との関係を示す図である。
図21及び
図22に丸(○)で示すデータは、
図17のデータから抽出したCyD添加なしのデータであり、×で示すデータは、
図18のデータから抽出したCyD過剰添加のデータである。そして、
図21及び
図22に四角(□)で示すデータは、これらの差分、即ち、血小板の影響と、フィブリノゲンと血小板の相互作用が凝固に及ぼす影響を示す。
【0047】
なお、本技術において、「実効濃度」とは、所定の反応に対して実際に機能している分子や細胞等の濃度をいう。例えば、単に、血小板の濃度とは、一定の血液検体に含まれる血小板の数であるが、血液凝固反応における血小板の実効濃度とは、血液凝固反応において実際に機能する血小板の数である。即ち、血小板の機能を抑制する薬剤等を添加した場合には、血小板の実効濃度は減少する。
【0048】
図21及び
図22に示すように、丸で示すデータと、四角で示すデータは、血小板数に依存する。なお、
図21及び
図22において破線で囲んだデータは、
図17〜
図19に示す血小板数が少ない血液試料と、血小板数が多い血液試料に相当する。これらの血液試料は、他の血液試料とHCTが異なっており、その結果、凝固率や振幅でも血小板数との相関関係がずれている。このため、これらの血液試料のデータについては補正が必要となる。
【0049】
図23は
図21に示す値をHCTで補正(HCTの4乗で正規化)したものである。
図23に示すように、
図21のデータをHCTで補正した結果、血小板数との関係が直線になっている。また、一の検体から、CyDありとなしの凝固差分をとる場合、その2つの凝固曲線の誘電測定により、HCTと血小板数を推定することができる。
【0050】
このように、HCTによる補正を行うことで、解析装置による評価結果の精度を更に向上させることができる。なお、本変形例における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0051】
また、本開示は、以下のような構成をとることもできる。
(1)
一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記薬剤又は前記血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する解析部を少なくとも備える血液状態解析装置。
(2)
前記薬剤は、前記血液の凝固系若しくは線溶系に対する活性剤又は抑制剤である(1)に記載の血液状態解析装置。
(3)
前記解析部は、各血液試料の電気的特性の経時変化データから、凝固時間、クロット形成時間、クロットの最大堅固、最大溶解、凝固振幅、凝固率、凝固時間から一定時間経過後のクロット堅固、最大堅固から一定時間経過後のクロット堅固及び最大堅固後のクロット線速度からなる群から選択される少なくとも1種の値を算出し、算出された値に基づいて評価を行う(1)又は(2)に記載の血液状態解析装置。
(4)
前記解析部は、前記算出された値を、前記血液試料のヘマトクリット値により補正する(3)に記載の血液状態解析装置。
(5)
前記解析部は、前記血液の凝固系について、血小板因子による影響若しくはフィブリノゲンによる影響又はその両方を評価する(1)〜(4)のいずれかに記載の血液状態解析装置。
(6)
前記薬剤は、血小板機能抑制剤、フィブリノゲン機能抑制剤又はフィブリン重合抑制剤である(5)に記載の血液状態解析装置。
(7)
前記解析部は、前記薬剤を含有しない血液試料及び任意の濃度で前記薬剤を含有する血液試料の電気的特性の経時変化データの差、又は、前記経時変化データから算出した値の差に基づいて、前記薬剤の影響を評価する(5)又は(6)に記載の血液状態解析装置。
(8)
前記解析部は、前記血液試料に含まれる対象因子の影響をなくすための最低限の薬剤投与量を推定する(5)〜(7)のいずれかに記載の血液状態解析装置。
(9)
前記解析部は、前記血液の線溶系について、プラスミン又はプラスミノゲンによる影響を評価する(1)〜(4)のいずれかに記載の血液状態解析装置。
(10)
前記薬剤は、プラスミノゲン若しくはプラスミンの活性剤又は阻害剤である(9)に記載の血液状態解析装置。
(11)
前記解析部は、前記薬剤を含有しない血液試料及び任意の濃度で前記薬剤を含有する血液試料の電気的特性の経時変化データを比較することにより、プラスミン又はプラスミノゲンによる影響を評価する(9)又は(10)に記載の血液状態解析装置。
(12)
前記薬剤はヘパリンであり、前記解析部は前記ヘパリンによる血液凝固抑制効果を評価する(1)〜(4)のいずれかに記載の血液状態解析装置。
(13)
一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域で、電気的特性を経時的に測定する測定部を備える電気的特性測定装置と、 前記電気的特性測定装置で測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記薬剤又は前記血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する解析部を備える血液状態解析装置と、を有する血液状態解析システム。
(14)
更に、前記電気的特性測定装置での測定データ及び/又は前記血液状態解析装置での解析結果を記憶する情報記憶部を備えるサーバを有し、 前記サーバは、ネットワークを介して、前記電気的特性測定装置及び/又は前記血液状態解析装置と接続されている(13)に記載の血液状態解析システム。
(15)
一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域で、電気的特性を経時的に測定する測定工程と、前記測定工程で測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記薬剤又は前記血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する解析工程と、を有する血液状態解析方法。
(16)
一の血液検体から調整された薬剤の種類又は濃度が異なる2以上の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記薬剤又は前記血液中の因子が前記血液の凝固系又は線溶系に及ぼす影響を評価する解析機能を、コンピュータに実現させるためのプログラム。
【0052】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【実施例1】
【0053】
以下、本開示の効果について具体的に説明する。本実施例では、健常者から採取した血液サンプルに、CyD又はPefablocの濃度を変えて添加し、その凝固過程における複素誘電率の変化を測定した。各血液サンプルのCyD濃度及びPefabloc濃度などを下記表1に示す。また、
図24はPefabloc濃度が異なる複数の検体について、CyD濃度と凝固振幅との関係を調べた結果であり、
図25はCyD濃度が異なる複数の検体について、Pefabloc濃度と凝固振幅との関係を調べた結果である。
【0054】
【表1】
【0055】
下記数式1に示すようにクロット堅固CFは、血小板の実効濃度PLTと、フィブリノゲンの実効濃度FIBに依存している。なお、下記数式1におけるa、b、cは、測定により求められるパラメータである。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、
図24に示すPefabloc濃度が0%のサンプルのデータに、
図8に示す解析方法を適用すると、血小板の寄与がなくなるCyD濃度は、3.4μg/ml(180μlの血液に8μlのCyDを添加)と推定できる。これにより、血小板の実効濃度(142000/μl)を求めることができ、同様に、
図25に示すCyD濃度0%のサンプルのデータを用いると、フィブリノゲン量を求めることができる。
【0058】
血小板の寄与がない場合、凝固振幅は105程度であることから、上記数式1から下記数式2が導出される。
【0059】
【数2】
【0060】
また、CyD濃度が0で、フィブリノゲン量が過剰の場合は、上記数式1から下記数式3が導出される。
【0061】
【数3】
【0062】
なお、フィブリノゲンもCyDも添加していない場合は、振幅が128であるため、上記数式1は下記数式4で表され、下記数式4から下記数式5が導出される。
【0063】
【数4】
【0064】
【数5】
【0065】
そして、血小板の実効濃度PLTは、CyDの濃度依存性のデータから推定できる。また、フィブリノゲンの実効濃度FIBは、PFGの濃度依存性のデータから推定できる。一方、CyDの過剰添加のデータがあり、パラメータbを予め知っていれば、上記数式2からフィブリノゲンの実効濃度FIBを推定することができる。また、Pefablocの過剰添加のデータがあり、パラメータaを予め知っていれば、上記数式3から血小板の実効濃度PLTを推定することができる。
【0066】
更に、CyD濃度依存性と過剰添加のデータに加えて、Pefablocの濃度依存性と過剰添加のデータ及びどちらも添加なしのデータを持っていれば、上記数式5からa、b、cを推定することができる。
【0067】
本実施例では、血小板の実効濃度PLTが3.4μg/ml(equivalent CyD)、フィブリノゲンの実効濃度FIBが1000μg/ml(equivalent PFG)なので、aが30.88ml/MG(eqCyD)、bが0.105ml/MG(eqPFG)、cが−0.024ml/MG(eqCyD)となる。
【0068】
また、上記表1に示すNo.6のサンプルでは、上記数式1は、CyD添加なしの場合は下記数式6で表され、CyD過剰添加の場合は下記数式7で表される。
【0069】
【数6】
【0070】
【数7】
【0071】
上記数式6及び数式7から、フィブリノゲンの実効濃度FIBは約9640μg/ml(equivalent PFG)、血小板の実効濃度PLTは約1.1μg/ml(equivalent CyD)と算出される。
【実施例2】
【0072】
実施例2では、電気的特性を用いた血液凝固測定において、血液試料中の血小板の実効濃度とフィブリノゲンの実効濃度とが、どのように振幅に影響しているかを確認した。
【0073】
[振幅の規定]
図26は、血液凝固に伴う複素誘電率の実数部の経時変化の例を示す図である。ある時間の測定値をA、測定値の最小値をBとしたとき、AをBで割ったもの(Min規格)から1を引いたもの(Min測定値を0としたとき)を、100倍したもの(値が小さくなるために補正)を、振幅CFと規定した(下記数式8)。
【0074】
【数8】
【0075】
[血小板とフィブリノゲンの実効濃度との振幅への寄与モデルの仮定]
血液試料中にフィブリノゲンが存在しない場合又は血液試料中のフィビリノゲンが機能しない場合には振幅CFは出ないこと、血液試料中に血小板が存在しない場合又は血液試料中の血小板が機能しない場合には振幅CFはフィブリノゲンの実効濃度FIBのみに依存することから、下記数式9のモデルを仮定した。なお、a及びbは定数、PLTは血小板の実効濃度、FIBはフィブリノゲンの実効濃度である。
【0076】
【数9】
【0077】
[検定時間の規定]
Pefablocを添加した血液試料では、Pefablocがフィブリノゲンに継続的に効いている可能性があることから、Pefabloc無添加の血液試料から検討時間の規定を行った。具体的には、Pefablocを添加していない血液試料の測定結果から、ほとんどのデータで凝固時間が決定される10分を検討時間として規定した(
図27)。
【0078】
[モデルの確認(1)]
CyDにより血小板の機能が抑制されている場合、振幅CFは、フィブリノゲンの実効濃度FIBに依存的に変化するため、CyDにより血小板の機能が抑制されている血液試料の振幅CFとフィブリノゲンの実効濃度FIBとの関係について確認を行った。CyDにより血小板の機能が完全に抑制されている血液試料の振幅CFとフィブリノゲンの実効濃度FIBとの関係を
図28に示す。
【0079】
図28に示す通り、血小板の機能が完全に抑制されている血液試料の振幅CFとフィブリノゲンの実効濃度FIBとは、下記の数式10が成り立つことが確認できた。また、
図28より、aが算出できた(a=0.0258)。
【0080】
【数10】
【0081】
また、前記数式9は、下記数式11となることから、振幅CF−a×フィブリノゲンの実効濃度FIBと、血小板の実効濃度PLTとの関係について確認を行った。振幅CF−a×フィブリノゲンの実効濃度FIBと、血小板の実効濃度PLTとの関係の例を
図29(例1)及び
図30(例2)に示す。
【0082】
【数11】
【0083】
なお、CyDは、血小板の機能を抑制しているが、血小板自体を減らしている訳ではないため、多項目自動血球計数装置(商品名「pocH」(登録商標)、シスメックス社製)を用いた血小板数は、CyDを添加した血液試料についても、CyD無添加の血液試料と同じ血小板数となる。そのため、実際に機能している血小板数が分からなかったため、下記の方法で、CyD濃度から機能する血小板数を算出した。
【0084】
CyD濃度を横軸、各CyD濃度における振幅(CF−CyDX)からCyDにより血小板の機能が完全に抑制されている血液試料の振幅(CF−CyDY)を引いた値を縦軸として、グラフを作成した(
図31)。次に、CyD濃度0から直線が引けるCyD濃度の値を用いて近似直線を引いた。そして、近似直線の式から、(CF−CyDX)−(CF−CyDY)が0になるCyD濃度を求めた。求められたCyD濃度で機能する血小板がなくなると考え、下記の数式12から、各CyD濃度における機能する血小板数を求めた。なお、CyD濃度が0の時の血小板数は、多項目自動血球計数装置で測定した各CyD濃度の血小板数の平均から算出した。Aは機能する血小板がなくなる濃度の血小板数、Bは各CyD濃度の血小板数の平均である。
【0085】
【数12】
【0086】
図29及び
図30に示す通り、傾きがPefablocの濃度によって異なることが分かった。また、モデルが成り立つとするならば、傾きはb×フィブリノゲンの実効濃度FIBになるはずであるから、Pefablocそれぞれの濃度の傾きと、フィブリノゲン測定装置(商品名「DRIHemato」(登録商標)、A&T社製)で測定したフィブリノゲンの実効濃度との関係を確認した(
図32)。
【0087】
図32に示す通り、傾きとフィブリノゲンの実効濃度との相関が認められるため、下記数式13が成り立つことが分かった。
【0088】
【数13】
【0089】
よって、前記数式11が成り立つため、モデルが成り立つことが確認できた。また、
図32よりbを算出することができた(b=0.0014)。
【0090】
[モデルの数式9の各成分の振幅に寄与する割合]
前記数式9のa×フィブリノゲンの実効濃度FIBと、b×フィブリノゲンの実効濃度FIB×血小板の実効濃度PLTのそれぞれの成分が、振幅CFに寄与する割合を算出した。算出した結果を下記表2に示す。なお、フィブリノゲンの実効濃度については、前述の
図28から求めたaの値を用いて、振幅CFから算出した。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示す通り、振幅CFに寄与率は、血小板よりもフィブリノゲンの方が大きいことが分かった。
【0093】
[モデルの確認(2)]
<フィブリノゲン測定装置で測定したフィブリノゲンの実効濃度を用いた場合>
フィブリノゲン測定装置(商品名「DRIHemato」(登録商標)、A&T社製)で測定したフィブリノゲンの実効濃度と、多項目自動血球計数装置(商品名「pocH」(登録商標)、シスメックス社製)を用いて測定した血小板数から前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとの相関を調べた。結果を
図33に示す。
【0094】
図33に示す通り、前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとは、相関していることが確認できた。
【0095】
<
図28から算出したフィブリノゲンの実効濃度を用いた場合>
図28から算出したフィブリノゲンの実効濃度と、多項目自動血球計数装置(商品名「pocH」(登録商標)、シスメックス社製)を用いて測定した血小板数から前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとの相関を調べた。結果を
図34に示す。
【0096】
図34に示す通り、
図28から算出したフィブリノゲンの実効濃度を用いた場合も、前記数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとが、きれいに相関しているため、前記モデルが成り立つことが確認できた。
【実施例3】
【0097】
フィブリノゲン測定装置で測定されるフィブリノゲンの実効濃度は、ヘマトクリット値に依存する。そのため、前記実施例2の結果をより正確に得るためには、ヘマトクリット値の影響を考慮すべきである。そこで、前記実施例2のモデルの確認(1)及び(2)において、下記の数式14を用いて、補正を行った。
【0098】
【数14】
【0099】
ヘマトクリット値は、多項目自動血球計数装置などを用いて測定することもできるし、電気的特性を用いた血液凝固測定の初期値から算出することも可能である。具体的には、例えば、血液試料の複素誘電率を測定した場合に、その初期値からヘマトクリット値を求めることができる。複素誘電率の初期値とヘマトクリット値の関係を
図35に示す。
【0100】
多項目自動血球計数装置で測定したヘマトクリット値を使用すると、前記数式9の係数は、a=0.0299、b=0.0016となった。
また、複素誘電率の初期値から算出したヘマトクリット値を使用すると、前記数式9の係数は、a=0.0304、b=0.0017となった。
【0101】
さらに、数式9を用いて算出した振幅CFと、実際の測定振幅CFとを比較した。多項目自動血球計数装置で測定したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図33に対応する比較データを
図36に、
図34に対応する比較データを
図37にそれぞれ示す。
また、複素誘電率の初期値から算出したヘマトクリット値を使用して補正した場合の
図33に対応する比較データを
図38に、
図34に対応する比較データを
図39にそれぞれ示す。
【0102】
図36〜
図39に示す通り、前記
図33や
図34と同様に、相関を示していた。また、
図36〜
図39は、それぞれ前記33及び
図34に比べ、良い相関を示していることから、ヘマトクリット値を用いた補正が有効であることが分かった。
【0103】
なお、本開示は、前述したモデルに限定されるものではなく、例えば、血小板とフィブリノゲンの干渉のタームの形を変えたり、PFGとCyDの効き方を盛り込むなど適宜設定することができる。
【0104】
1 血液状態解析システム
10 電気的特性測定装置
11 血液状態解析装置
12 サーバ
13 表示装置
14 ネットワーク