【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年7月4日掲載、第63回高分子討論会のウェブサイトのアドレス http://main.spsj.or.jp/tohron.html [刊行物等] 平成26年7月4日掲載、第63回高分子討論会のウェブサイトのアドレス http://main.spsj.or.jp/tohron/63tohron/jp/posterprogram.pdf
【文献】
伊藤大介 他,連鎖/逐次ラジカル同時重合による周期的官能基導入ポリ(NIPAM)の合成と温度応答性挙動,高分子学会予稿集,2013年,Vol.62, No.2,pp.2446-2447
【文献】
伊藤大介 他,金属触媒を用いた連鎖/逐次ラジカル同時重合による周期的官能基導入ポリマーの合成,高分子学会予稿集,2012年,Vol.61,No.2,pp.2143-2144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に開示されるビニル系重合体(以下、単に、本ビニル系重合体という。)は、1又は2以上の第1の官能基を有する第1の単量体に由来する第1の単量体単位と、前記1又は2以上の第1の官能基を有しないビニル系単量体に由来する第2の単量体単位と、を備え、前記第1の官能基を前記ビニル系重合体において周期的に備えることができる。
【0015】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善されたビニル系重合体を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0016】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0017】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0018】
本明細書において、第1の官能基をビニル系重合体において周期的に備えるとは、第2の単量体単位を主体とする重合鎖を含む重合体領域であって、前記重合鎖の分子量分布が制御されている重合体領域を介して1又は2以上の第1の官能基を有する単位を備えることをいう。ここで、重合鎖の分子量分布が制御されているとは、かかる重合鎖自体をポリマーとしたときのMw/Mnが好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、もっとも好ましくは1.2以下である。分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることが好ましい。
なお、前記重合鎖は第1の官能基を有しないビニル系単量体に由来する第2の単量体単位を主体とするものであるが、本発明のビニル系重合体中の官能基の周期性を維持する限りにおいては、ビニル系単量体以外に由来する第1の官能基を含んでいてもよい。例えば、後述する通り、特定のリビングラジカル重合法によれば、重合制御剤に由来する第1の官能基を重合鎖の中心部に導入することが可能である。本発明のビニル系重合体は、このような場合をも含むものである。
【0019】
本ビニル系重合体は、ビニル系重合体の重合鎖中に一定の周期で、すなわち、周期的に1又は2以上の官能基を備えている。こうしたビニル系重合体によれば、周期的に官能基を有するために、官能基による各種機能の発現、重合体の強度、伸び、弾性率及び耐熱性等の各種バルク特性の制御又は向上が可能となる。
【0020】
本ビニル系重合体においては、また、第1の官能基を、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及び多重水素結合性官能基からなる群から選択される1又は2以上とすることができる。こうした水素結合性官能基を規則的に備えることで、本ビニル系重合体は、これらの水素結合性官能基により、分子内又は分子間水素結合により、ビニル系重合体に新たなバルク特性を付与することができる。
【0021】
以下、本明細書の開示に関し、種々の実施形態を挙げて詳細に説明する。
【0022】
(本ビニル系重合体)
本ビニル系重合体は、1又は2以上の第1の官能基を有する第1の単量体に由来する第1の単量体単位と、前記1又は2以上の第1の官能基を有しないビニル系単量体に由来する第2の単量体単位と、を備えている。
【0023】
以下、説明の都合上、本ビニル系重合体に特徴的な構造単位につき説明した後、本ビニル系重合体の製造方法について説明する。
【0024】
(第1の単量体単位)
第1の単量体単位は、1又は2以上の第1の官能基を有する第1の単量体に由来している。
【0025】
(第1の官能基)
本明細書において第1の官能基は、特に限定しないで、公知の各種官能基を適宜選択できる。第1の官能基は、本ビニル系重合体において意図する機能や用途に基づき当業者であれば適宜選択することができる。
【0026】
本明細書において、「官能基」とは、化学的反応性や化学的特徴に寄与する基であり、いわゆる置換基のほか、化合物中における特徴部分や結合類も含む概念である。したがって、本明細書において「官能基」は、ビニル系重合体の主鎖骨格の一部であって、主鎖骨格を構成する部分であってもよいし、主鎖骨格の一部を構成せずに、主鎖骨格の側鎖であってもよい。
【0027】
本ビニル系重合体には、第1の官能基として、水素結合性官能基を備えることが好ましい。水素結合性官能基の周期的な付与は、分子内及び/又は分子間水素結合の生成を促進し、本ビニル系重合体のバルク特性の制御及び向上を容易にすることができる。
【0028】
水素結合性官能基としては、特に限定しないが、本ビニル系重合体である同一分子内において、あるいは分子間において、水素結合を生じうる水素結合供与体となりうる官能基と、当該水素結合供与体と水素結合を形成可能な水素結合受容体となりうる官能基との組合せであればよい。
具体的な水素結合性官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、アミド基、ニトロ基、アゾ基、アジ基、イミノ基、ニトリル基、カルボニル基等及びこれらを含むより大きな原子団(例えば、環式基等)、並びに、トリアゾール、イミダゾール、テトラゾール等のアゾール基(置換基を含んでも良い)等が挙げられる。
【0029】
さらに、水素結合性官能基としては、水素結合性官能基を複数個備える多重水素結合性官能基であってもよい。多重水素結合性官能基は、当該官能基中に、好ましくは、水素結合供与体となりうる官能基と水素結合受容体となりうる官能基との双方を備えている。こうすることで、本ビニル系重合体の分子内及び分子間において強固な水素結合対による官能基対合状態を形成することができる。
【0030】
多重水素結合性官能基は、少なくとも2以上の水素結合性官能基を備えている。水素結合性官能基は、3個以上であってもよいし、4個以上であってもよい。多重水素結合性官能基としては、特に限定しないが、たとえば、以下のような形態あるいは組合せが挙げられる。以下の各種形態において、Aはアクセプター(水素結合受容体)を意味し、Dはドナー(水素結合供与体)を意味する。ドナーとアクセプターの組合せ、配列及び個数等は特に限定されない。以下の各形態は、それぞれ独立して多重水素結合官能基を例示を例示している。なお、以下の形態において対合状態で示すものは、異なる多重水素結合性官能基間での可能性ある対合状態を示しているが対合状態を例示している。
【0032】
上記した水素結合性官能基以外の第1の官能基としては、例えば、重合性ビニル基、グリシジル基、パーフルオロアルキル基及び加水分解性シリル基等が挙げられる。
【0033】
第1の単量体単位は、本ビニル系重合体において1種又は2種以上であってもよい。1種又は2種以上の第1の官能基を周期的に備えている限り、同一の第1の単量体単位であってもよいし、2種以上の単量体単位を組み合わせてもよい。
【0034】
(第2の単量体単位)
第2の単量体単位は、第1の官能基を有しないビニル系単量体に由来している。第2の単量体単位は、第1の単量体単位が備える第1の官能基を備えていない。こうした第2の単量体単位を介して、第1の単量体単位を備えることで、第1の官能基が周期的に配置される。
【0035】
ビニル系単量体としては、特に限定しないで公知の各種のビニル系単量体を1又は2以上適宜組み合わせて用いることができる。ビニル系単量体は、第1の単量体単位が備える1又は2以上の第1の官能基を備えないように選択される。なお、第1の単量体単位が備える第1の官能基が複数である場合には、当該複数の第1の官能基の一部であれば、第2の単量体単位が備えていてもよい。
【0036】
ビニル系単量体の中でもメタクリレート系単量体は第2の単量体に好適である。
メタクリレート系単量体の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−イソシアノエチルメタクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルメタクリレート、2−(リン酸)エチルメタクリレート(2−(Methacryloyloxy)ethyl phosphate)、トリアルコキシシリルプロピルメタクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルメタクリレート等が挙げられる。また、メタクリル酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアミン塩も用いることができる。また、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルメタクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルメタクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩、N−エチル−N−メチルピロリジニウムメタクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩などのイオン液体性のメタクリレートを用いることができる。
【0037】
ビニル系単量体の中でもアクリレート系単量体は第2の単量体に好適である。
アクリレート系単量体の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−イソシアノエチルアクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルアクリレート、2−(リン酸)エチルアクリレート(2−(acryloyloxy)ethylphosphate)、トリアルコキシシリルプロピルアクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルアクリレートなどが挙げられる。また、アクリル酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアミン塩も使用可能である。また、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルアクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルアクリレート
+/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CF
3SO
2)
2−)塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩、N−エチル−N−メチルピロリジニウムアクリレート
+/フルオロハイドロジェネーション((FH)
nF
−)塩などのイオン液体性のアクリレートを用いることができる。
【0038】
上記ビニル単量体の中でも、スチレン及びスチレン誘導体は、本発明に好適に使用可能である。スチレン誘導体の具体的な化合物には、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン、o−、m−、p−クロロスチレン、o−、m−、p−ヒドロキシスチレン、o−、m−、p−スチレンスルホン酸、o−、m−、p−アミノスチレン等が挙げられる。また、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0039】
上記ビニル系単量体の中でもアルキレンは、本発明に好適に使用可能である。
【0040】
ビニル系単量体は、2つ以上のビニル基を有する単量体も使用可能である。具体的には、例えば、ジエン系化合物(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、アリル基を2つ有する化合物(例えば、ジアリルフタレートなど)、メタクリロイル基を2つ以上有する多官能メタクリレート化合物(たとえばエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート)、アクリロイル基を2つ以上有する多官能アクリレート化合物(たとえばエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート)などである。
【0041】
ビニル系単量体は、このほかの公知のビニル系単量体を使用してもよい。具体的には、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、ビニルピリジン類(例えば、2−、3−、4−ビニルピリジン)、上記以外のスチレン誘導体(例えば、α−メチルスチレン)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール)、(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド)、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、マレイン酸およびその誘導体(例えば、無水マレイン酸)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、シクロヘキセン)などが挙げられる。
【0042】
本ビニル系重合体は、第1の単量体単位及び第2の単量体単位以外の単量体単位も備えることができる。後述するように、本ビニル系重合体は、リビングラジカル重合による重合体領域を備えることが好ましい。こうした重合体領域においては、開始剤に由来する単位を備えることができる。
【0043】
本ビニル系重合体は、1又は2以上の第1の官能基を周期的に備えることができる。既述のとおり、1又は2以上の第1の官能基を周期的に備えるとは、第2の単量体単位を主体とする重合鎖を含む重合体領域を介して1又は2以上の第1の官能基を有する単位をほぼ一定間隔で備えることをいう。換言すると、本ビニル系重合体は、第1の単量体単位と重合体領域とを交互に備えることができる。
【0044】
重合鎖が有する第2の単量体単位の数は特に限定しないが、第2の単量体単位を少なくとも2つ備えることができる。より好ましくは、5以上備えることができ、さらに好ましくは、100以上備えることができる。概して、重合体領域は第2の単量体単位を1000以上備えることができる。
【0045】
重合鎖は、第2の単量体がリビングラジカル重合によって重合されてなる重合鎖であることが好ましい。リビングラジカル重合による重合体領域は、分子量分布が狭い重合鎖を取得できるからである。すなわち、こうした重合鎖であると、鎖長が狭い分布となるため、第1の官能基を周期的に介在させるのに好適な介在領域を構成することができる。
【0046】
こうした重合鎖の分子量は、当業者であれば、後段で詳述するリビングラジカル重合反応の反応条件等により適宜調節することができる。
【0047】
本ビニル系重合体において、第1の単量体単位と第2の単量体単位又は重合体領域とは、第1の反応性官能基と第2の反応性官能基との特異的な反応によって取得される連結単位を介して連結されることができる。こうした連結単位は、第1の単量体単位と第2の単量体単位又は重合体領域との前記特異的な反応による反応部位として取得される。この特異的な反応による連結単位については、後述する。
【0048】
(本ビニル系重合体の製造方法)
次に、本ビニル系重合体の製造方法について説明し、リビングラジカル重合による重合体領域及び連結単位を含んだ本ビニル系重合体の詳細についても説明する。
【0049】
本製造方法は、1又は2以上の第1の官能基を備えるとともに前記第1の官能基以外の2つの第1の反応性官能基とを備える第1の単量体と、第2の単量体単位を主体とする重合鎖を備えるとともに、両末端に前記第1の反応性官能基と特異的に反応する第2の反応性官能基を備える重合体前駆体とを、第1の反応性官能基と前記第2の反応性官能基とによる反応を生じさせて結合する工程を備えることができる。
【0050】
本製造方法は、第1及び第2の反応性官能基間の反応によって高い特異性で、第1の単量体と重合体前駆体とを連結する。すなわち、第1の単量体と重合体前駆体とを、交互に連結する。第1及び第2の反応性官能基間の反応によって、連結単位は当該反応による反応部位として備えられる。ここで、重合体前駆体における重合鎖の分子量分布が狭く制御されていると、第1の官能基を周期的に備えるビニル系重合体を容易に得ることができる。
【0051】
(第1の単量体)
(第1の反応性官能基)
第1の単量体は、既に説明した第1の官能基を備えているほか、前記第1の官能基以外の第1の反応性官能基を2つ以上備えている。第1の単量体は、本ビニル系重合体の第1の単量体単位に対応している。
【0052】
本発明では、「特異的に反応する」とは、ほとんど副反応がなく、目的生成物を高収率で得られる程度に反応するこという。具体的な収率としては80%程度以上であり、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
本発明における第1の反応性官能基と第2の反応性官能基との特異的な反応として、例えばクリック反応を採用してもよい。
【0053】
ここで、クリック反応とは、クリックケミストリー(click chemistry)に基づく反応である。クリックケミストリーは、目的生成物を高収率で与える反応の総称であり、2001年にK.B.Sharplessらによって提唱されたものである(Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 2004-2021, 化学と工業、Vol.60-10, October, 976-980, 2007)。
【0054】
クリック反応としては、特に限定しないが、特異的であって目的生成物を一意的に付与する融合反応性、高い反応性を備える反応を含めることができる。なお、クリック反応に関しては、スクリプス研究所のサイト(http://www.scripps.edu/sharpless/click.html)においても確認できる。
【0055】
上記クリック反応を含め、本発明において第1の反応性官能基と第2の反応性官能基との特異的な反応は、特に限定されるものではないが、例えば以下の反応が示される。
(1)求核付加−開環反応
エポキシド、アジリジン、アジリジニウム及びエピスルホニウム等の三員環の開環反応
(2)カルボニル化合物の縮合反応
(2−1)アルデヒドまたはケトンと、1,3−ジオールによる1,3−ジオキソラン環形成反応
(2−2)アルデヒドと、ヒドラジンまたはヒドロキシルアミンエーテルによるヒドラゾン及びオキシム形成反応、
(2−3)α−及びβ−カルボニルアルデヒド、ケトン、及びエステルからのヘテロ環形成反応
(3)付加環化反応
Diels-Alder反応、有機アジドとアルキンの付加環化反応
(4)チオール・エン反応
【0056】
第1の反応性官能基及び第2の反応性官能基とは、こうした特異的な反応を生じうる一対の官能基の組合せをいう。
【0057】
第1の反応性官能基及び第2の反応性官能基としては、特に限定しないが、反応性に富む官能基を導入出来る観点から、上記(3)の付加環化反応に対応するアジド基及びアルキン基の組合せと上記(4)のチオール・エン反応に対応するチオール基及びアルケン基の組合せとが挙げられる。
【0058】
第1の単量体は、線状高分子としての本ビニル系重合体を意図する場合には、2つの第1の反応性官能基を備えることができる。第1の単量体が、3つの第1の反応性官能基を備えるとき、ネットワーク構造を有する本ビニル系重合体を意図できる。第1の官能基と第1の反応性官能基とを備える第1の単量体は、当業者であれば、適宜合成することができる。例えば、末端に、エポキシド基、水酸基、アルキニル基、アルケニル基等など備えるようにすることは当業者であれば、適宜実施可能である。
【0059】
(第2の単量体単位を主体とする重合鎖を含み両末端に前記第1の反応性官能基と特異的に反応する第2の反応性官能基を備える重合体前駆体)
重合体前駆体は、重合鎖を備えるほか、両末端に第2の反応性官能基を備えることができる。重合体前駆体は、本ビニル系重合体における第2の単量体単位又は重合体領域に対応している。
【0060】
(重合鎖)
重合鎖は、周期的に第1の官能基を本ビニル系重合体に備えるようにするには、分子量分布が制御されて、Mw/Mnが2.0以下程度であることが好ましい。より好ましくは、1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、もっとも好ましくは1.2以下である。こうした重合鎖を得るための方法は特に制限されるものではないが、リビングラジカル重合反応によれば分子量分布の狭い重合鎖が得られ易い。すなわち、重合鎖は、第2の単量体をリビングラジカル重合によって重合してなる重合鎖であることが好ましい。リビングラジカル重合は、現在、種々の重合態様が見出されており、こうした種々の態様を本ビニル系重合体に用いる第2の単量体の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0061】
重合鎖の取得に利用できるリビングラジカル重合方法に特に限定しないが、例えば、代表的には以下の方法が挙げられる。これらの方法は、いずれも当業者において周知である。リビングラジカル重合にあたっては、当業者であれば、所望の分子量分布となるように適宜実験条件が選択することができる。
【0062】
(1)原子移動ラジカル重合反応(ATRP)
開始剤として主としてハロゲン化アルキルを用い、ハロゲン化アルキルが遷移金属錯体によりラジカルを発生し、単量体の重合を進行させるものである。
(2)可逆的付加−解裂連鎖移動重合反応(RAFT)
この方法は、ジチオカルバメートやトリチオカルバメート等を連鎖移動剤として利用して、重合体間の迅速な連鎖移動よる活性末端の交換反応を利用するものである。
(3)ニトロキシラジカル法(NMP)、
この方法は、ニトロキシラジカルを開始剤として用いる方法である。
【0063】
このほか(4)有機テルル化合物を用いる重合法(TERP)、(5)有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP)、(6)有機ビスマス化合物を用いる方法(BIRP)及び(7)ヨウ素移動重合法も周知である。
【0064】
重合体前駆体は、重合鎖を含むほか、重合体前駆体両末端に第2のクリック反応性官能基を備える。重合鎖の両末端に第2のクリック反応性官能基を導入するには、種々の方法が挙げられる。一般に、リビングラジカル重合による重合体の末端に所望の官能基を導入するには、リビングラジカル重合により重合鎖の両末端に適当な官能基や原子を導入した後、当該末端官能基等を任意の官能基等に変換することにより行う。
【0065】
例えば、リビングラジカル重合の一法であるATRPにおいては、重合体の末端に開始剤に由来するハロゲン基を導入できる。そして、導入した末端ハロゲン基を、以下のスキームに示すように、種々の官能基に末端変換する方法が知られている。以下のスキームによれば、リビングラジカル重合により末端にハロゲン基を導入し、その後、エポキシ基、アジド基、ケトン基、アルケニル基等に容易に変換することができることが明らかである。こうした変換反応については、Chem. Rev. 2001, 101, 2921-2990に記載されている。
【0067】
エポキシ基は、水酸基、アミノ基等の求核反応により開環反応させることができ、上記に例示した特異的な反応の一つであるエポキシド、アジリジン、アジリジニウム及びエピスルホニウム等の三員環の開環反応に利用できる第2のクリック反応性官能基とすることができる。
【0068】
アジド基は、上記に例示した特異的な反応の一つであるアルキン化合物との付加環化反応に利用できる第2の反応性官能基とすることができる。
【0069】
ケトン基は、水酸基とアセタール構造(1,3−ジオキソラン構造)を形成することが可能で、上記に例示した特異的な反応の一つであるアルデヒト又はケトンと、1,3−ジオールによる1,3−ジオキソラン環形成反応に利用できる第2の反応性官能基とすることができる。
【0070】
また、アルケン基は、上記に例示した特異的な反応の一つであるチオール・エン反応に利用できる第2の反応性官能基とすることができる。
【0071】
さらに、RAFTやNMPでは、制御剤に由来する構造を末端に導入できる。制御剤は比較的任意に構造設計できるため、所望する特異的な反応に利用できる第2の反応性官能基を有する二官能制御剤を合成することで、容易に、第2の反応性官能基を導入できる。こうした変換反応はMacromolecules 2005, 38, 9518-9525、Chem. Rev. 2001, 101, 3661-3688に記載されている。
また、前記二官能制御剤として第1の官能基を有する制御剤を使用した場合には、重合鎖の中心部に第1の官能基を有する重合体前駆体を得ることができる。
【0072】
その他、得られた重合体の末端を変換することにより、所望の官能基を末端に導入することも可能である。
【0073】
なお、リビングラジカル重合による第2の単量体の重合鎖には、用いたリビングラジカル重合に応じて開始剤がその一部に含まれる場合がある。また、上記の説明においては、いずれも、両末端に第2の反応性官能基を一挙に導入するようにしたが、これに限定するものではなく、片側にのみ第2の反応性官能基を導入後に、他端に残存する末端官能基を第2の反応性官能基に変換するようにしてもよい。
【0074】
各種のリビングラジカル重合にそれぞれ用いることができる開始剤や、制御剤(RAFT制御剤)、触媒、溶媒などの各種試薬は、当業者であれば、必要に応じて入手しあるいは合成により取得できる。また、リビングラジカル重合に適用される反応時間、反応温度、ガス条件、原料や試薬の配合比等については、当業者は、上記した文献のほか、日本ゴム協会誌第82巻第3号(2009)53p−58p、同第8号(2009)、35p−41p、同第12号(2009)、34p−38p等のほか、本明細書に記載する特許文献1及び2のほか、特開2012−62449号公報、特開2011−157409号公報等に記載の方法も適宜利用して、意図した分子量分布の重合鎖を備え、所望の末端構造等を備える重合前駆体を合成できる。
【0075】
本製造方法では、こうして取得した第1の単量体と重合体前駆体とを第1の反応性官能基と第2の反応性官能基とによる反応を生じさせて結合する工程を実施する。
【0076】
第1の反応性官能基と第2の反応性官能基による特異的な反応は、用いる反応性官能基に基づく反応に適した条件を付与すればよい。上記に例示した特異的な反応に好適な条件は、当業者においてよく知られており、当業者であれば、反応の種類に応じて適宜設定することができる。
【0077】
例えば、第1の反応性官能基と第2の反応性官能基による特異的な反応として有機アジドとアルキンの付加環化反応を用いる場合には、以下のスキームに示すように、両末端にアジド基を備える重合体前駆体と、アルキニル基を両側に備える第1の単量体とを反応させることができる。
【0079】
また、例えば、第1の反応性官能基と第2の反応性官能基による特異的な反応として、チオール・エン反応を用いる場合には、以下のスキームに示すように、両末端にチオール基を備える重合体前駆体と、両側にアルケニル基を備える第1の単量体とを反応させることができる。
【0081】
このようにして、第1の単量体と重合体前駆体とを、それらの第1の反応性官能基と第2の反応性官能基とを反応させることで、これらが交互に連結した重合体、すなわち、本ビニル系重合体を得ることができる。こうして得られた本ビニル系重合体は、第1の単量体に由来する第1の単量体単位と、重合体前駆体に由来する重合体領域の末端(より具体的には、重合体領域の末端の第2の単量体に由来する第2の単量体単位)と、は、第1の反応性官能基と第2の反応性官能基との反応部位を連結単位として備えている。
【0082】
また、こうして得られた本ビニル系重合体は、第2の単量体がリビングラジカル重合により重合した分子量分布が制御された重合体領域を介して第1の単量体単位を備えるため、周期的に第1の官能基を備えるビニル系重合体となっている。
【0083】
本ビニル系重合体は、第1の官能基を周期的に備えることから、そのバルク特性の制御や向上が見込まれ、接着剤、圧着剤、塗料、コーティング剤等に有用である。
【0084】
本明細書において「アルコキシ」とは、上記アルキル基に酸素原子が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRO−で表される基をいう。鎖状のアルコキシは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルコキシは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルコキシの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。さらに好ましくは1〜10であり、いっそう好ましくは、1〜5アルコキシであり、特に好ましくは、1〜3である。具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシなどである。
【0085】
なお、本明細書の開示によれば、周期的に官能基を備えるビニル系重合体を製造するためのキットも提供される。すなわち、本キットは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及び多重水素結合性官能基からなる群から選択される1又は2以上の第1の官能基と、第1の反応性官能基を2以上備える、重合用中間体と、前記1又は2以上の第1の官能基を有さないビニル系単量体単位を含み、末端に第1の反応性官能基と特異的に反応可能な第2の反応性官能基を備える、ビニル系重合体と、を備えることができる。ここで、重合用中間体は、既述の第1の単量体に対応し、ビニル系重合体は、既述の重合体前駆体に対応し、これらの各種態様及び製造方法も既述の態様を適用することができる。
【0086】
こうしたキットによれば、第1の反応性官能基と第2の反応性官能基との特異的な反応によって、簡易に、特定官能基を周期的に備えるビニル系重合体を得ることができる。
【0087】
なお、本明細書において「アルキル」とは、鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状の場合は、一般にC
kH
2k+1−で表される(ここで、kは正の整数である)。鎖状のアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。本明細書において「アルキレン」とは、アルキルから水素原子がさらに一つ失われて生ずる2価の基をいう。
【0088】
本明細書において「置換アルキル」とは、アルキル基の水素が置換基に置換された基を意味する。このような置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0089】
本明細書において「ハロゲン化置換アルキル」とは、アルキル基の水素がハロゲンに置換され、かつアルキル基の別の水素が別の置換基に置換された基を意味する。当該別の置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0090】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。アリールを構成する芳香族炭化水素の環の数は、1つであってもよく、2つ以上であっても良い。好ましくは、1〜3である。分子内芳香族炭化水素の環が複数存在する場合、それらの複数の環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。具体的には、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ビフェニルなどである。
【0091】
本明細書において「ヘテロアリール」とは、アリールの芳香環の環骨格を構成する元素に、炭素以外のヘテロ元素を含む基をいう。ヘテロ原子の例としては、具体的には、酸素、窒素、イオウなど挙げられる。芳香環中のヘテロ原子の数は特に限定されず、例えば、1つのみのヘテロ原子を含んでもよく、2つまたは3つあるいは4つ以上のヘテロ原子が含まれてもよい。
【0092】
本明細書において「置換アリール」とは、アリールに置換基が結合して生ずる基をいう。本明細書において「置換ヘテロアリール」とは、ヘテロアリールに置換基が結合して生ずる基をいう。
【0093】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。好ましくは、臭素またはヨウ素であり、より好ましくはヨウ素である。
【実施例】
【0094】
以下、本明細書の開示を具現化した具体例を実施例として開示する。以下の実施例は本明細書の開示を説明するものであって、限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断らない限り、%は、質量%を意味する。
【実施例1】
【0095】
本実施例では、重合体前駆体を得るためのリビングラジカル重合用の試薬及び第1の単量体を合成した。
【0096】
(1)重合制御剤(RAFT剤)の合成
(1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼンの合成)
500mlナス型フラスコに1−ドデカンチオール(42.2g)、20%KOH水溶液(63.8g)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(1.5g)を加えて氷浴で冷却し、二硫化炭素(15.9g)、テトラヒドロフラン(以下「THF」ともいう)(38ml)を加え20分攪拌した。α、α−ジクロロ−p−キシレン(16.6g)のTHF溶液(170ml)を30分かけて滴下した。室温で1時間反応させた後、クロロホルムから抽出し、純水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチルから再結晶することで1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼンを収率80%で得た。
1H−NMR測定より7.2ppm、4.6ppm、3.4ppmに目的物のピークを確認した。
【0097】
【化5】
【0098】
(2)第1の単量体Aの合成
(単量体Aの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコに3−ヒドロキシ−3−メチルグルタル酸(2.27g)、クロロホルム(54ml)、塩化オキサリル(3.6ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液をプロパルギルアルコール(2.4ml)、トリエチルアミン(5.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Aを収率32%で得た。
1H−NMR測定より4.8ppm、2.5ppm、1.7ppmに目的物のピークを確認した。
【0099】
【化6】
【0100】
(2)第1の単量体Bの合成
(単量体Bの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコに5−ヘキセン酸(4.6ml)、クロロホルム(51ml)、塩化オキサリル(4.3ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液を2−(アミノメチル)−2−■メチル−1,3−■プロパンジアミン(2.5g)、トリエチルアミン(5.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Bを収率16%で得た。
1H−NMR測定より3.1ppm、2.6ppm、2.0ppm、1.8ppmに目的物のピークを確認した。
【0101】
【化7】
【0102】
(3)第1の単量体Cの合成
(単量体Cの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコに1,3,5−ペンタントリカルボン酸(2.86g)、クロロホルム(58ml)、塩化オキサリル(2.4ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液をプロパルギルアルコール(1.6ml)、トリエチルアミン(3.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Cを収率18%で得た。
1H−NMR測定より4.8ppm、4.0ppm、2.5ppmに目的物のピークを確認した。
【0103】
【化8】
【0104】
(4)第1の単量体Dの合成
(単量体Dの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコにイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)(3.82g)、クロロホルム(50ml)、塩化オキサリル(3.6ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液をプロパルギルアルコール(2.4ml)、トリエチルアミン(5.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Dを収率46%で得た。
1H−NMR測定より9.2ppm、4.7ppm、2.5ppmに目的物のピークを確認した。
【0105】
【化9】
【0106】
(5)第1の単量体Eの合成
(単量体Eの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコに3−ヒドロキシ−3−メチルグルタル酸(2.27g)、クロロホルム(54ml)、塩化オキサリル(3.6ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液をアリルアルコール(2.9ml)、トリエチルアミン(5.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Eを収率28%で得た。
1H−NMR測定より5.9ppm、5.2ppm、4.8ppm、1.7ppmに目的物のピークを確認した。
【0107】
【化10】
【0108】
(6)第1の単量体Fの合成
(単量体Fの合成)
三方コックを装着した100mlナス型フラスコにイソシアヌル酸ビス(2−カルボキシエチル)(3.82g)、クロロホルム(50ml)、塩化オキサリル(3.6ml)を加え、室温で1時間攪拌した。得られた溶液をアリルアルコール(2.9ml)、トリエチルアミン(5.9ml)を混合した溶液に氷浴下、15分かけて滴下した。一昼夜反応させた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、単量体Fを収率52%で得た。
1H−NMR測定より9.2ppm、5.9ppm、5.2ppm、4.8ppmに目的物のピークを確認した。
【0109】
【化11】
【実施例2】
【0110】
本実施例では、2種類のリビングラジカル重合による重合体前駆体(プレポリマーA、B)を合成した。
【0111】
以下のスキームに従って、プレポリマーAを合成した。
【化12】
1.プレポリマーAの合成
(1)ATRPによる重合鎖の合成
三方コックを装着した200mlナス型フラスコに窒素気流下、銅粉末(0.21g)、塩化銅(II)(0.29g)、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン(0.6ml)、アクリル酸エチル(以下「EA」ともいう)(58.7ml)およびジメチルスルホキシド(以下「DMSO」ともいう)(120ml)を仕込んだ。20℃の恒温槽にて1時間攪拌した後、開始剤としてメチルジクロロアセテート(1.1ml)を添加することで重合を開始した。30分後、純水約200ml、酢酸エチル60mlを加え、ドライアイス/メタノール浴で冷却し反応を停止した。この時点でのEAの重合率は約44%であった。上記重合溶液を水洗・抽出した後、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた溶液をメタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することで重合体を得た。得られた重合体の分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn3100、Mw3400、Mw/Mn1.12であった。高分子鎖1本あたりの末端ハロゲン基数f(Cl)を
1H−NMR測定より得られる末端Cl基に由来するピーク(4.4ppm)と開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(Cl)=2となり、末端に定量的にCl基を有する重合鎖が得られた。
【0112】
(2)アジド化
得られた重合体をジメチルホルムアミド(以下「DMF」ともいう)に溶解した後、アジ化ナトリウム(5.3g)を加え、室温で18時間攪拌した。反応液に純水約100ml、酢酸エチル60mlを加えた後、水洗・抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた溶液をメタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することでプレポリマーAを得た。得られたプレポリマーAの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn3100、Mw3400、Mw/Mn1.13であり、副反応による分子量の変化は確認されなかった。高分子鎖1本あたりの末端アジド基数f(N
3)を
1H−NMR測定より得られる末端N
3基に由来するピーク(3.9ppm)と開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(N
3)=2であり、末端に定量的にアジド基を有するプレポリマーAが得られた。
【0113】
2.プレポリマーBの合成
以下のスキームに従って、プレポリマーBを合成した。
【化13】
(1)RAFTによる重合鎖の合成
三方コックを装着した300mlナス型フラスコに窒素気流下、1,4−ビス(n−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン(16.7g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.21g)、EA(127g)および酢酸ブチル(36g)を仕込み、70℃の恒温槽で重合を開始した。30分後、ドライアイス/メタノール浴で冷却し反応を停止した。この時点でのEAの重合率は約52%であった。上記重合溶液にTHF(100ml)を加えた後、メタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することで重合体を得た。得られた重合体の分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn3200、Mw3700、Mw/Mn1.17であった。高分子鎖1本あたりのRAFT基数f(RAFT)を
1H−NMR測定より得られる末端RAFT基に由来するピーク(4.8ppm)と開始末端由来のピーク(7.1ppm)の積分値の比から計算したところ、f(RAFT)=2となり、末端に定量的にRAFT基を有する重合鎖が得られた。
【0114】
(2)アミン分解
得られた重合体をTHF(300ml)に溶解した後、n−プロピルアミン(30ml)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液は黄色透明溶液から無色透明溶液へと変化した。反応液をロータリーエバポレータで濃縮した後、THF(100ml)を加え、メタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することでプレポリマーBを得た。得られたプレポリマーBの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn3200、Mw3700、Mw/Mn1.17であり、副反応による分子量の変化は確認されなかった。高分子鎖1本あたりの末端チオール基数f(SH)を
1H−NMR測定より得られる末端チオール基に由来するピーク(3.2ppm)と開始基由来のピーク(7.1ppm)の積分値の比から計算したところ、f(SH)=2であり、末端に定量的にチオール基を有するプレポリマーBが得られた。
【実施例3】
【0115】
本実施例では、実施例2で合成した2種のプレポリマーA、Bと、実施例1で合成した各種単量体A〜Fを用いて、これらが有する反応性官能基間の特異的な反応によりこれらを結合しプレポリマーの鎖延長を行い、各種ビニル系重合体を合成した。前記特異的な反応としては、有機アジドとアルキンの付加環化反応及びチオール・エン反応を用いた。
【0116】
(1)プレポリマーAと単量体Aとからビニル系重合体AAの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーA(4.0g)、単量体A(0.27g)、DMF(2.4ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に触媒として臭化銅(I)(0.37g)、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下「PMDETA」ともいう)(1.0ml)のDMF溶液(0.5ml)を加えることで反応を開始した。触媒を加えた直後から急激な発熱が確認された。一昼夜反応させた後、反応液に純水約100ml、酢酸エチル60mlを加え、水洗・抽出し、エチレンジアミン四酢酸(以下「EDTA」ともいう)水溶液(100ml)および飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮後、室温で一昼夜真空乾燥することでビニル系重合体AAを得た。得られたビニル系重合体AAの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn29000、Mw87000、Mw/Mn3.00であった。
1H−NMR測定からプレポリマーAの末端アジド基(3.9ppm)と単量体Aのアルキン基由来のピーク(2.5ppm)は完全に消失し、反応により生成するトリアゾール環由来のピーク(5.4ppm、7.8ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのトリアゾール環数f(Tri)をトリアゾール環由来のピークと開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(Tri)=2であり、アジド基とアルキン基が定量的に反応し、プレポリマーAの分子量ごとに周期的に水酸基が導入されたビニル系重合体AAが得られた。
【0117】
(2)プレポリマーAと単量体Bとからビニル系重合体ABの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーA(4.0g)、単量体B(0.39g)、DMF(2.4ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に触媒として臭化銅(I)(0.37g)、PMDETA(1.0ml)のDMF溶液(0.4ml)を加えることで反応を開始した。触媒を加えた直後から急激な発熱が確認された。一昼夜反応させた後、反応液に純水約100ml、酢酸エチル60mlを加え、水洗・抽出し、エチレンジアミン四酢酸(以下「EDTA」ともいう)水溶液(100ml)および飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮後、室温で一昼夜真空乾燥することでビニル系重合体ABを得た。得られたビニル系重合体ABの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn30000、Mw86700、Mw/Mn2.89であった。
1H−NMR測定からプレポリマーAの末端アジド基(3.9ppm)と単量体Bのアルキン基由来のピーク(2.5ppm)は完全に消失し、反応により生成するトリアゾール環由来のピーク(5.4ppm、7.8ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのトリアゾール環数f(Tri)をトリアゾール環由来のピークと開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(Tri)=2であり、アジド基とアルキン基が定量的に反応し、プレポリマーAの分子量ごとに周期的にアミノ基が導入されたビニル系重合体ABが得られた。
【0118】
(3)プレポリマーAと単量体Cとからビニル系重合体ACの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーA(4.0g)、単量体C(0.29g)、DMF(2.4ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に触媒として臭化銅(I)(0.37g)、PMDETA(1.0ml)のDMF溶液(0.5ml)を加えることで反応を開始した。触媒を加えた直後から急激な発熱が確認された。一昼夜反応させた後、反応液に純水約100ml、酢酸エチル60mlを加え、水洗・抽出し、EDTA水溶液(100ml)および飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮後、室温で一昼夜真空乾燥することでビニル系重合体ACを得た。得られたビニル系重合体ACの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn33000、Mw97700、Mw/Mn2.96であった。
1H−NMR測定からプレポリマーAの末端アジド基(3.9ppm)と単量体Cのアルキン基由来のピーク(2.5ppm)は完全に消失し、反応により生成するトリアゾール環由来のピーク(5.4ppm、7.8ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのトリアゾール環数f(Tri)をトリアゾール環由来のピークと開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(Tri)=2であり、アジド基とアルキン基が定量的に反応し、プレポリマーAの分子量ごとに周期的にカルボン酸基が導入されたビニル系重合体ACが得られた。
【0119】
(4)プレポリマーAと単量体Dとからビニル系重合体ADの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーA(4.0g)、単量体D(0.45g)、DMF(2.0ml)を加え、室温で1時間攪拌した。この溶液に触媒として臭化銅(I)(0.37g)、PMDETA(1.0ml)のDMF溶液(0.7ml)を加えることで反応を開始した。触媒を加えた直後から急激な発熱が確認された。一昼夜反応させた後、反応液に純水約100ml、酢酸エチル60mlを加え、水洗・抽出し、EDTA水溶液(100ml)および飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮後、室温で一昼夜真空乾燥することでビニル系重合体ADを得た。得られたビニル系重合体ADの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn32700、Mw98800、Mw/Mn3.02であった。
1H−NMR測定からプレポリマーAの末端アジド基(3.9ppm)と単量体Dのアルキン基由来のピーク(2.5ppm)は完全に消失し、反応により生成するトリアゾール環由来のピーク(5.4ppm、7.8ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのトリアゾール環数f(Tri)をトリアゾール環由来のピークと開始基由来のピーク(3.7ppm)の積分値の比から計算したところ、f(Tri)=2であり、アジド基とアルキン基が定量的に反応し、プレポリマーAの分子量ごとに周期的に水素結合性官能基が導入されたビニル系重合体ADが得られた。
【0120】
(5)プレポリマーBと単量体Eとからビニル系重合体BEの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーB(4.0g)、単量体E(0.27g)、2,2‘−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.02g) 酢酸エチル(4.0ml)を加え、50℃で一昼夜反応させた。反応液をメタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することでビニル系重合体BEを得た。得られたビニル系重合体BEの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn29800、Mw88800、Mw/Mn2.98であった。
1H−NMR測定からプレポリマーBEの末端チオール基(3.2ppm)と単量体Eのアルケン基由来のピーク(5.2ppm)は完全に消失し、生成物のスルフィド結合に由来するピーク(3.1ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのスルフィド結合数f(−S−)をスルフィド結合由来のピークと開始基由来のピーク(7.1ppm)の積分値の比から計算したところ、f(−S−)=2であり、チオール基とアルケン基が定量的に反応し、プレポリマーBの分子量ごとに周期的に水酸基が導入されたビニル系重合体BEが得られた。
【0121】
(6)プレポリマーBと単量体Fとからビニル系重合体BFの合成
三方コックを装着した50mlナス型フラスコにプレポリマーB(4.0g)、単量体F(0.44g)、2,2‘−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.02g) 酢酸エチル(3.8ml)を加え、50℃で一昼夜反応させた。反応液をメタノール/純水=7/3(vol%)から再沈殿精製、真空乾燥することでビニル系重合体BFを得た。得られたビニル系重合体BFの分子量はGPC測定(PMMA換算)よりMn27800、Mw78700、Mw/Mn2.83であった。
1H−NMR測定からプレポリマーBの末端チオール基(3.2ppm)と単量体Fのアルケン基由来のピーク(5.2ppm)は完全に消失し、生成物のスルフィド結合に由来するピーク(3.1ppm)が出現した。プレポリマー鎖1本あたりのスルフィド結合数f(−S−)をスルフィド結合由来のピークと開始基由来のピーク(7.1ppm)の積分値の比から計算したところ、f(−S−)=2であり、チオール基とアルケン基が定量的に反応し、プレポリマーBの分子量ごとに周期的に水素結合性官能基が導入されたビニル系重合体BFが得られた。
【0122】
以上に示すように、リビングラジカル重合によって重合されたビニル系の重合鎖の末端に第2の反応性官能基を導入した重合体前駆体と、水素結合性の官能基を備えて第1の反応性官能基を導入した単量体と、これら反応性官能基間の特異的な反応により連結することで、生じた反応部位を連結単位として水素結合性の官能基を重合鎖毎に周期的に備えるビニル系重合体を得られることがわかった。