特許第6607197号(P6607197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6607197インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607197
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20191111BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20191111BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   B41J2/14 605
   B41J2/14 603
   B41J2/14 501
   B41J2/14 613
   B41J2/18
   B41J2/175 121
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-569529(P2016-569529)
(86)(22)【出願日】2016年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2016051161
(87)【国際公開番号】WO2016114396
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2018年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-6633(P2015-6633)
(32)【優先日】2015年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 英幸
(72)【発明者】
【氏名】東野 楠
【審査官】 馬渕 貴洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−116571(JP,A)
【文献】 特開2004−195959(JP,A)
【文献】 特表2011−520671(JP,A)
【文献】 特開平06−340066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 〜 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを射出する複数のノズルと、
前記ノズルに個別に連通し、内部にインクが充填される圧力室と、
前記圧力室に圧力を加えることによって、インクを吐出するための駆動源となる圧力発生手段と、
前記圧力室よりも流路が狭いくびれ部を有し、前記圧力室にインクを供給するインレットと、
前記ノズルの近傍から前記圧力室内のインクを排出可能な循環流路と、を備え、
前記循環流路の粘性抵抗は前記ノズルの粘性抵抗よりも小さく、かつ前記循環流路のインピーダンスは前記インレットのインピーダンスの0.5倍以上であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インレットと前記循環流路の合計粘性抵抗は、前記ノズルの粘性抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記複数のノズルが形成されたノズル層と、
前記ノズル層の上面に積層されており、前記圧力室からのインクを連通する前記ノズルより穴径が大きいノズル連通路と、前記循環流路と、が形成されたノズル支持層と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズル層と前記ノズル支持層とを有するノズルプレートを備えることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ノズルプレートは、前記ノズル層と前記ノズル支持層との間に、前記ノズル支持層よりもエッチングレートの低い結合層を備え、
前記ノズル支持層は、前記結合層又は前記ノズル層に面した空隙部を有し、
前記循環流路は、前記空隙部により形成されていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記結合層はSiO基板からなることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ノズル層はSi基板からなることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記ノズル支持層はSi基板からなることを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記圧力室が形成されたボディ層と、
前記圧力室と前記ノズル連通路を連通する中間連通路が形成された中間層と、
を備え、
前記ボディ層及び前記中間層の少なくとも一方に、前記複数のノズルの各々に対応する前記循環流路が連結された共通循環流路が形成されていることを特徴とする請求項3〜8のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記インレットから前記圧力室及び前記循環流路への循環流を発生させるためのインクの循環手段を備えることを特徴とする請求項10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記循環流路から排出されるインクを貯留する循環用サブタンクを備えることを特徴とする請求項10又は11に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記インレットにインク供給するためのインクを貯留する供給用サブタンクを備えることを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記循環用サブタンクと前記供給用サブタンクはインク流路によって接続されていることを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドに備えられた複数のノズルからインクの液滴を射出して記録媒体に画像を形成するインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
従来のインクジェットヘッドでは、インクジェットヘッド内に発生した気泡や混入した異物等によって、ノズルが詰まり、射出不良等の問題が生じる場合がある。
また、インクの種類によっては、長時間使用しないままにしておくと、インク粒子の沈降等によってノズル付近のインク粘度が高まり、安定したインクの射出性能が得難い場合がある。
【0004】
そこで、インクジェットヘッドのヘッドチップにインクの循環流路を設けることによって、ヘッド内の気泡等をインクとともに循環流路に流すことができるインクジェット記録装置が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5385975号公報
【特許文献2】特開2005−119287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の循環流路は、循環流路のインピーダンスがノズルのインピーダンスよりも2〜10倍高くなるように形成されており、インクの循環流速が最大射出時の1/100程度(射出量150000(pL/s)に対して循環量1500(pL/s))でインクを循環させることが可能であるものの、このような流速では、遅いため、気泡や異物等を、効果的に排出することは難しい場合がある。
【0007】
また、特許文献2の循環流路は、空気圧で開閉する弁が設けられており、非印字中に弁を開けて供給流路を加圧し、かつ循環流路を減圧することによって、圧力室内の気泡を循環流路へ効果的に排出することが可能であるものの、印字中(インク射出時)は弁を閉じておく必要があり、インクを循環させることができないため、インク射出時に突発的に発生した気泡については排出できない。
【0008】
また、従来のヘルムホルツ共振モードを用いた方式(ベンド方式やプッシュ方式)において、チャネル内に循環経路を構成する場合、圧力が循環流路に逃げてしまうため、圧力効率が低下して射出性能が低下するという問題がある。
ここで、当該射出性能の低下を抑えるために、単に循環流路を狭くして、循環流路へ圧力が逃げ難くする構成とすることも考えられるが、循環流路を狭くすれば、循環流速が低下するため、気泡や異物等を効果的に排出することが難しくなる。
【0009】
また、循環流路は変えずに、例えば、ポンプ等を用いて循環流路の圧力を上げて循環速度を速めることもできるが、装置側に負荷をかけるとともに、ノズルのメニスカスがブレークし、インクがノズルから漏れてしまう等の恐れが生じる。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、循環流路を設けたことによるインクの射出性能の低下を最小限に抑え、かつ装置に負荷をかけずに、ノズル近傍の気泡等を効果的に排出することができるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決のために、請求項1に記載の発明は、インクジェットヘッドであって、
インクを射出する複数のノズルと、
前記ノズルに個別に連通し、内部にインクが充填される圧力室と、
前記圧力室に圧力を加えることによって、インクを吐出するための駆動源となる圧力発生手段と、
前記圧力室よりも流路が狭いくびれ部を有し、前記圧力室にインクを供給するインレットと、
前記ノズルの近傍から前記圧力室内のインクを排出可能な循環流路と、を備え、
前記循環流路の粘性抵抗は前記ノズルの粘性抵抗よりも小さく、かつ前記循環流路のインピーダンスは前記インレットのインピーダンスの0.5倍以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記インレットと前記循環流路の合計粘性抵抗は、前記ノズルの粘性抵抗よりも小さいことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記複数のノズルが形成されたノズル層と、
前記ノズル層の上面に積層されており、前記圧力室からのインクを連通する前記ノズルより穴径が大きいノズル連通路と、前記循環流路と、が形成されたノズル支持層と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル層と前記ノズル支持層とを有するノズルプレートを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、前記ノズル層と前記ノズル支持層との間に、前記ノズル支持層よりもエッチングレートの低い結合層を備え、
前記ノズル支持層は、前記結合層又は前記ノズル層に面した空隙部を有し、
前記循環流路は、前記空隙部により形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記結合層はSiO基板からなることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項3〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル層はSi基板からなることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項3〜7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル支持層はSi基板からなることを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の発明は、請求項3〜8のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記圧力室が形成されたボディ層と、
前記圧力室と前記ノズル連通路を連通する中間連通路が形成された中間層と、
を備え、
前記ボディ層及び前記中間層の少なくとも一方に、前記複数のノズルの各々に対応する前記循環流路が連結された共通循環流路が形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の発明は、
請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のインクジェット記録装置において、
前記インレットから前記圧力室及び前記循環流路への循環流を発生させるためのインクの循環手段を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載の発明は、請求項10又は11に記載のインクジェット記録装置において、
前記循環流路から排出されるインクを貯留する循環用サブタンクを備えることを特徴とする。
【0023】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載のインクジェット記録装置において、
前記インレットにインク供給するためのインクを貯留する供給用サブタンクを備えることを特徴とする。
【0024】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のインクジェット記録装置において、
前記循環用サブタンクと前記供給用サブタンクはインク流路によって接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、循環流路を設けたことによるインクの射出性能の低下を最小限に抑え、かつ装置に負荷をかけずに、ノズル近傍の気泡等を効果的に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図
図2】インクジェットヘッドの分解斜視図
図3図2中の(III)−(III)線に沿う部分で切断した断面図
図4】ヘッドチップの平面図
図5図4中の(V)−(V)線に沿う部分で切断した断面図
図6図2中の(VI)−(VI)線に沿う部分で切断した断面図
図7】インクの循環機構の構成を説明する模式図
図8A】インクの液滴の射出液滴量3.5pLで射出速度7m/sとした場合に、循環流路とインレットのインピーダンスの比率(Zc/Zi)に対する、アクチュエータの駆動電圧(V)の関係を表すグラフである。
図8B】インクの液滴の射出液滴量3.5pLで射出速度7m/sとした場合に、循環流路とインレットのインピーダンスの比率(Zc/Zi)に対する、射出負圧(kPa)の関係を表すグラフである。
図9A】インクの液滴の射出液滴量1.0pLで射出速度7m/sとした場合に、循環流路とインレットのインピーダンスの比率(Zc/Zi)に対する、アクチュエータの駆動電圧(V)の関係を表すグラフである。
図9B】インクの液滴の射出液滴量1.0pLで射出速度7m/sとした場合に、循環流路とインレットのインピーダンスの比率(Zc/Zi)に対する、射出負圧(kPa)の関係を表すグラフである。
図10】変形例に係るヘッドチップの平面図
図11図10中の(XI)−(XI)線に沿う部分で切断した断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。但し、発明の範囲は図示例に限定されない。また、以下の説明において、同一の機能及び構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
なお、以下の説明では、ラインヘッドを用いた記録媒体の搬送のみで描画を行う1パス描画方式での実施形態を例にして説明するが、適宜の描画方式に適用可能であり、例えば、スキャン方式やドラム方式を用いた描画方式を採用しても良い。
また、以下の説明では、記録媒体Kの搬送方向を前後方向、記録媒体Kの搬送面において当該搬送方向に直交する方向を左右方向とし、前後方向及び左右方向に垂直な方向を上下方向として説明する。
【0028】
[インクジェット記録装置の概略]
インクジェット記録装置100は、プラテン101、搬送ローラー102、ラインヘッド103,104,105,106、及びインクの循環機構等を備える(図1及び図7参照)。
プラテン101は、上面に記録媒体Kを支持しており、搬送ローラー102が駆動されると、記録媒体Kを搬送方向(前後方向)に搬送する。
ラインヘッド103,104,105,106は、記録媒体Kの搬送方向(前後方向)の上流側から下流側にかけて、搬送方向に直交する幅方向(左右方向)に並列して設けられている。そして、ラインヘッド103,104,105,106の内部には、後述するインクジェットヘッド1が少なくとも一つ設けられており、例えば、シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),黒(K)のインクを記録媒体Kに向けて吐出する。
なお、インクの循環機構については、後述する(図7参照)。
【0029】
[インクジェットヘッドの概略構成]
インクジェットヘッド1は、ヘッドチップ2、保持板3、接続部材4、インク流路部材5等を備える(図2及び図3等参照)。
【0030】
ヘッドチップ2は、複数の基板が積層されて構成されており、最下層には、インクを射出するノズル211が設けられている。また、ヘッドチップ2の上面には、圧力発生手段としての圧電素子24が設けられており、圧電素子24の変位によって、ヘッドチップ2の内部の圧力室231に充填されたインクが加圧され、ノズル211からインクの液滴が射出される。
【0031】
保持板3は、ヘッドチップ2の強度保持のために、ヘッドチップ2上面に接着剤を用いて接合されている。また、保持板3は、中央部に開口部31を有しており、ヘッドチップ2の上面の圧電素子24が開口部31の内部に格納されるように構成されている。
【0032】
接続部材4は、例えばFPC等からなる配線部材であり、その幅方向が保持板3の左右方向に沿って保持板3の上面の後側付近に接着され、保持板3の中央に設けられた開口部31を通して、ボンディングワイヤ41によって圧電素子24と電気的に接続している。また、接続部材4は、駆動部(図示省略)に接続しており、当該駆動部から、接続部材4とボンディングワイヤ41を通じて、圧電素子24に給電することができる。
【0033】
インク流路部材5は、保持板3上面の左右方向の両端部にそれぞれ1つ接合されている。また、インク流路部材5は、ヘッドチップ2の内部にインクを供給するために利用するインク供給流路501,502と、ヘッドチップ2の内部からインクを排出するために利用するインク循環流路503,504とをそれぞれ1つずつ備える。
【0034】
以下、ヘッドチップ2、保持板3及びインク流路部材5について詳細に説明する。
なお、図4は、説明の便宜のため、ヘッドチップ2内部の構成については破線で示している。また、共通供給流路25から連通孔(中間連通路)221,・・・までのインク流路については、網点で示している。
【0035】
[ヘッドチップ]
ヘッドチップ2は、上面に、左右方向沿って一列に並んで設けられた圧電素子24と、インク流路部材5からヘッドチップ2の内部にインクを供給するためのインク供給口201,202と、ヘッドチップ2の内部からインク流路部材5にインクを排出するためのインク循環口203,204等を備える(図4等参照)。
また、以下において、循環流路213をノズルプレート21に形成する実施例を示すが、循環流路213は圧力室231が形成されるボディプレート23よりもノズル側に配置されれば良く、例えば中間プレート22に設けても良い。従って、ノズル近傍とは、圧力室231が形成されるボディプレート23よりもノズル側であることを示す。なお、上述した様にノズル近傍に循環流路213を設けることにより、気泡や異物による吐出不良等の問題を抑制することができるが、より吐出不良につながりやすいノズル211に近い位置の気泡や異物を除去する観点から、循環流路213はノズルプレート21に設けることが好ましい。したがって、以下においては、循環流路213をノズルプレート21に設ける場合を詳述する。
【0036】
ヘッドチップ2は、内部に、下側から順にノズルプレート21、中間プレート22、ボディプレート23の3枚の基板が積層一体化されることによって構成されている(図5)。
【0037】
ノズルプレート21は、ヘッドチップ2の最下層に位置した基板であり、例えば、ノズル層21a、結合層21b、ノズル支持層21cの3層から構成されるSOIウエハからなる。
ノズル層21aは、インクの液滴を射出するためのノズル211が形成された層であり、厚さ、例えば、10〜20μmのSi基板からなる。ノズル層21aの下面であるノズル面214には、撥インク膜(図示省略)が形成されている。
結合層21bは、例えば、厚さ0.3〜1.0μmのSiO基板からなる。
ノズル支持層21cは、ノズル211と連通しノズル211よりも径の大きな大径部(ノズル連通路)212と、大径部212に連通しインクの循環に使用される循環流路213とが形成され、例えば、厚さ100〜300μmのSi基板からなる。
【0038】
ここで、ノズル層21a及びノズル支持層21cは、それぞれSi基板で構成されているため、ノズル層21aとノズル支持層21cは、ドライエッチングやウェットエッチングによって容易に加工することが可能である。また、結合層21bは、Si基板よりも薄くてエッチングレートの非常に低いSiO基板であるため、ノズル層21aとノズル支持層21cをそれぞれ結合層21bに向かって加工した場合、例えノズル層21aとノズル支持層21cに加工ムラがあった場合であっても、結合層21bで加工を制御することが可能である。
ここで、循環流路213は、結合層21bに面した空隙部によって形成されているため、高精度に加工されて製造されている。なお、結合層21bに面した空隙部を形成した後に、バッファード・フッ酸(BHF)等を用いたウェットエッチング処理で結合層21bを除去することによって、循環流路213をノズル層21aに面した空隙部によって形成しても良い。
【0039】
中間プレート22は、例えば、100〜300μm程度のガラス基板からなり、ノズルプレート21の大径部212に対応する位置に、中間プレート22を貫通し、インクの射出時にインク流路となる連通孔(中間連通路)221が形成されている。
連通孔221は、インクが通過する経路の径を絞る形状とする等、インクの流路の形状を調整し、インクの射出においてインクに加えられる運動エネルギーを調整している。
また、中間プレート22のガラス基板としては、ホウケイ酸ガラス(例えば、テンパックスガラス)が好ましく用いられる。
【0040】
ボディプレート23は、圧力室層23aと、振動層23bから構成されている。
圧力室層23aは、例えば、100〜300μm程度のSi基板からなり、中間プレート22の連通孔221に連通し、平面視で略円形状である複数の圧力室231と、複数の圧力室231に対して共通にインクを供給するための共通供給流路25と、共通供給流路25と各圧力室231とを個別に連通し、共通供給流路25内のインクを圧力室231に供給するためのインレット232と、が形成されている。インレット232は、圧力室231よりも流路が狭いくびれ部を有しており、圧力室231に加えられた圧力が、インレット232側から逃げ難くなっている。なお、くびれ部は、圧力室231よりも狭い流路であれば良く、形状は適宜変更可能である。
【0041】
振動層23bは、例えば、20〜30μm程度の薄い弾性変形可能なSi基板であり、圧力室層23aの上面に積層されている。また、振動層23bにおいて、圧力室231の上面は振動板233として機能し、振動板233の上面に設けられた圧電素子24の動作に応じて振動板233が振動し、圧力室231内のインクに圧力を加えることができる。
【0042】
また、中間プレート22及び圧力室層23aには、ノズル支持層21cに形成された複数の循環流路213から流れてきたインクが合流する共通循環流路26が設けられている。
また、振動層23bは、共通供給流路25の上面に形成されたダンパ234と、共通循環流路26の上面に形成されたダンパ235と、を有している。ダンパ234,235は、例えば、圧力室231に一度に圧力が加えられて共通循環流路26に一度にインクが流れてきた場合に、わずかに弾性変形できるようになっており、インク流路における急激な圧力変化を防ぐことができる。
【0043】
次に、インクの循環経路について説明する。インクは、まずインク供給口201,202から共通供給流路25に供給される。次に、インクは共通供給流路25から分岐して各ノズル211,・・・に対応するインレット232,・・・、圧力室231,・・・、連通孔221,・・・、大径部212,・・・、及び循環流路213,・・・に順々に流れる。次に、各循環流路213,・・・からのインクが共通循環流路26で合流し、インク循環口203,204からインクが排出され、インク循環流路504を通って循環用サブタンク63に戻される(図4図5及び図7等参照)。
【0044】
[保持板]
保持板3は、ヘッドチップ2の上面に接着剤で接合されており、例えば、厚みが0.5〜3.0mm程度のSi基板又はガラス基板からなる基板である。また、保持板3にSi基板又はガラス基板を用いることで、ヘッドチップ2を構成する基板と線膨張率が近づくため、接着剤として熱硬化性接着剤等の加熱を伴う接合方法を用いた場合でも、保持板3とヘッドチップ2との間の反りは抑制される。
【0045】
保持板3の平面視形状は、前後方向及び左右方向のいずれにおいても、ヘッドチップ2よりも大きく形成されている。特に、保持板3の左右方向の両端部は、ヘッドチップ2よりも大きく張り出している。
保持板3の中央部には、ヘッドチップ2と接合された際に、当該ヘッドチップ2の上面に配列されている全ての圧電素子24を取り囲むことができる大きさの開口部31が貫通形成されている。
【0046】
開口部31は、左右方向に沿って延びる矩形状に形成されており、開口部31の内部には、ヘッドチップ2上面の圧電素子24を全て取り囲むことはできるが、ヘッドチップ2の上面の両端部に設けられたインク供給口201,202及びインク循環口203,204の位置までは至らない大きさに形成されている。また、保持板3を平面視した場合、ノズルプレート21に形成された各ノズル211は、開口部31の設けられた前後左右方向の領域内に配置されている。
【0047】
保持板3の開口部31の下側は、上側よりも空間が大きくなるように形成されており、開口部31の領域は上に凸となるように構成されている。そして、開口部31の下側は、保持板3とヘッドチップ2が接合された際に、圧電素子24及び圧電素子24の前後方向に設けられた共通供給流路25及び共通循環流路26を含み得る大きさに形成されている。
【0048】
保持板3の左右方向の両端部近傍には、ヘッドチップ2の上面に設けられたインク供給口201,202及びインク循環口203,204をそれぞれ1つずつ取り囲むことのできる大きさの貫通孔301,302,303,304が形成されている。貫通孔301,302,303,304は、それぞれインク流路部材5とヘッドチップ2の間を連通するインク流路として用いられる。
【0049】
[インク流路部材]
インク流路部材5は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等の合成樹脂によって、下面が開口する箱状形状に形成されており、保持板3上面の左右方向の両端部に1つずつ配置されている。
以下、左右に設けられたインク流路部材5は、同様の構成であるため、右側のインク流路部材5の概略構成についてのみ説明し、左側のインク流路部材5の説明は省略する。
【0050】
インク流路部材5は、インク供給用の流路として機能するインク供給流路501と、インクを排出用の流路として機能するインク循環流路504が設けられている。
【0051】
インク流路部材5の内部には、インク供給流路501及びインク循環流路504のそれぞれに対して、インク流路部材5の内部を通過するインク中のごみや気泡等の不純物を取り除くためのフィルタ51が設けられている。フィルタ51は、例えば、ステンレス鋼等の金属製メッシュが用いられ、インク流路部材5内の樹脂に対して接着されている。
【0052】
[インク循環機構]
インクの循環手段としてのインク循環機構について説明する。インク流路部材5は、インク供給流路501をインク流路72によって供給用サブタンク62に接続しており、供給用サブタンク62からインク流路部材5の内部にインクを供給し、貫通孔301及びインク供給口201を通してヘッドチップ2の内部にインクを供給する(図6及び7等参照)。
【0053】
また、インク流路部材5は、インク循環流路504をインク流路73によって循環用サブタンク63に接続しており、ヘッドチップ2のインク供給口201から貫通孔304を通してインク流路部材5内部に排出されたインクを、循環用サブタンク63に排出することができる。
【0054】
供給用サブタンク62及び循環用サブタンク63は、ヘッドチップ2内部の共通供給流路25及び共通循環流路26が設けられた位置基準面に対して、上下方向(重力方向)に異なる位置に設けられている。そして、当該位置基準面に対して、供給用サブタンク62との水頭差による圧力P1及び循環用サブタンク63との水頭差による圧力P2によって、ヘッドチップ2の内部のインクを循環させることができる。
【0055】
また、供給用サブタンク62は、インク流路74によって循環用サブタンク63に繋がっており、ポンプ82によって、循環用サブタンク63から供給用サブタンク62にインクを戻すことができる。
また、供給用サブタンク62は、インク流路71によってメインタンク61に繋がっており、ポンプ81によって、メインタンク61から供給用サブタンク62にインクを供給することができる。
したがって、供給用サブタンク62及び循環用サブタンク63の水頭差、及び各サブタンクの上下方向(重力方向)の位置を適宜調整することによって、圧力P1及び圧力P2を調整し、適宜の循環流速でヘッドチップ2内部のインクを循環させることができる。
【0056】
[ヘッドチップ内部へのインクの充填]
上述した右側のインク流路部材5と同様の構成を左側に設けることとしても良いが、左側のインク流路部材5を以下のような構成にすることによって、ヘッドチップ2の内部へインクを充填する際に、各ノズル211に均等な圧をかけて、安定したインクの充填が可能となる。
【0057】
左側のインク流路部材5において、インク供給流路502及びインク循環流路503は、バルブを介してチューブで接続されている(図示省略)。そして、インクをヘッドチップ2の内部に充填する際には、当該バルブを開放し、右側のインク流路部材5のインク供給流路501からインク循環流路504に向かって加圧することによって、ヘッドチップ2の共通供給流路25にインクを充填することができる。
次に、インク供給流路502及びインク循環流路503間のバルブを閉じて、インク供給流路501から更に加圧することで、共通供給流路25に充填されたインクを各インレット232,・・・から各ノズル211,・・・近傍までインクに充填し、さらに、各循環流路213,・・・から共通循環流路26にインクを流すことができる。
【0058】
また、循環流路213の粘性抵抗はノズル211の粘性抵抗よりも十分に低くしている。そのため、ノズル211のメニスカスがブレークすることなく、インクを吐き捨てずに、ノズルにインクを充填することができる。
【0059】
そして、インクの充填後、ノズル211近傍の圧力と、循環流速の速度が所定値になるように、上述した圧力P1及び圧力P2を適宜調整することで、インクを循環させることができる。
【0060】
[インクの射出性能]
上述した通り、インクの射出は、圧電素子24による圧力室231への加圧によってノズル211から射出できるように構成されている。ここで、圧力室231はインレット232からインクが供給されており、ノズル211の近傍にはインクの循環流路213が設けられている。
そのため、インクの射出性能は、ノズル211のインピーダンスZn、インレット232のインピーダンスZi、及び循環流路213のインピーダンスZcによって定めることができる。
【0061】
各インピーダンスZは、流路の粘性抵抗RとイナータンスMとによって定めることができる値であり、次に説明するように、電気等価回路定数として計算することができ、電気回路シミュレータによって、圧力室の共振周波数や液滴速度、射出負圧、駆動電圧などの各射出特性を計算することが可能である。
具体的には、インレット232及び循環流路213においては、流路形状が直方体であるとして、流路の幅(前後方向)をw(μm)、流路の高さ(上下方向)をh(μm)、流路の長さ(左右方向)をl(μm)、インクの流体粘度をη(Pa/s)、インク密度をρ(kg/m)、駆動パルス周波数(駆動パルス長の逆数)をf(Hz)とした場合、イナータンスはM=ρl/hw、粘性抵抗はR=8ηl(h+w)/(hw)、インピーダンスはZ=(R+2πfM1/2と計算することができる。
また、ノズル211においては、ノズル211が円柱形状であるとして、流路の直径をd(μm)、流路の高さ(上下方向)をl(μm)、インクの流体粘度をη(Pa/s)、インク密度をρ(kg/m)、駆動パルス周波数(駆動パルス長の逆数)をf(Hz)とした場合、イナータンスはM=4ρl/πd、粘性抵抗はR=128ηl/πd、インピーダンスはZ=(R+2πfM1/2と計算することができる。
なお、直方体形状と円柱形状についての説明をしたが、その他の形状の場合、例えば、テーパ形状の場合は、テーパ形状の長さ方向に直方体として細分化して積分することによって計算することができる。
【0062】
本発明における循環流路213のインピーダンスZcの設定値について、図8A図8B図9A及び図9Bの実験値を用いて説明する。
図8A及び図8Bには、インクの液滴の射出液滴量3.5pLで射出速度7m/sとした場合に、循環流路213のインピーダンスZcとインレット232のインピーダンスZiの比率(Zc/Zi)を横軸とし、圧電素子24の駆動電圧(V)を縦軸とした場合の関係を図8A、循環流路213のインピーダンスZcとインレット232のインピーダンスZiの比率(Zc/Zi)を横軸とし、インクの射出負圧(kPa)を縦軸とした場合の値の関係を図8Bに示す。ここで、射出負圧とは、射出時に生じるノズル近傍の圧力のことで、この値が低くなりすぎると、キャビテーションにより気泡が発生するので、所定値以上にする必要がある。
また、図9A及び図9Bには、インクの液滴の射出液滴量1.0pLで射出速度7m/sとした場合に、図8A及び図8Bと同様に、インピーダンス比率(Zc/Zi)を横軸とし、圧電素子24の駆動電圧(V)を縦軸とした場合の値の関係を図9A、インピーダンス比率(Zc/Zi)を横軸とし、インクの射出負圧(kPa)を縦軸とした場合の値の関係を図9B示す。
【0063】
図8A図8B図9A及び図9Bから分かる通り、射出液滴量3.5pLの場合(図8A及び図8B)であっても、射出液滴量1.0pLの場合(図9A及び図9B)の場合であっても、圧電素子24の駆動電圧(V)はZc/Ziが0.5以上でほぼ一定となり、射出負圧(kPa)も0.5以上で増加の傾きが緩やかになることが分かった。
【0064】
以上の通り、循環流路213のインピーダンスZcとインレット232のインピーダンスZiの比率(Zc/Zi)は、0.5以上となるときに、圧電素子24の駆動電圧(V)の上昇を抑え、かつ射出負圧を抑えて気泡の発生を抑えることが可能となるため、インクの射出性能が高いといえる。なお、インピーダンスZiの比率(Zc/Zi)は、射出性能的には上限なく設計可能であるが、インピーダンスZiの比率(Zc/Zi)が上昇すると粘性抵抗も同時に上昇するため、0.5以上でノズルの粘性抵抗より低くなる範囲で設計している。
【0065】
また、循環流路213の粘性抵抗Rcがノズル211の粘性抵抗Rnよりも大きくなると、インク充填時やインク循環時にノズル211のメニスカスがブレークする恐れがあるため、循環流路213の粘性抵抗Rcがノズル211の粘性抵抗Rnよりも小さくする必要がある。
【0066】
また、本発明の構成では、電気回路シミュレーションの結果より、インクの循環流速が最大射出時(射出液滴量(pL)×射出周波数(Hz))と同等以上の速さとすることができ、気泡等の異物を効果的に除去することが可能である。なお、電気回路シミュレーションは、上述した射出特性の場合と同様に、流路を電気等価回路に置き換えて、インとアウトの圧力から求めている。
また、循環流速をより速めるために、インレット232の粘性抵抗Riと循環流路213の粘性抵抗Rcの合計粘性抵抗であるRs(Rs=Ri+Rc)を、ノズル211の粘性抵抗Rnよりも小さくすることが好ましい。
【0067】
なお、循環流路213のインピーダンスZcとインレット232のインピーダンスZiの値は適宜設定可能であるが、循環流路213のインピーダンスZcを大きくすると、循環流路213への圧力損失が少なくなるため、射出性能を循環流路213なしの場合に近づく。
【0068】
[変形例]
循環流路213を設けたヘッドチップ2の変形例について、図10及び図11を用いて説明する。
なお、図10は、説明の便宜のため、ヘッドチップ2内部の構成については破線で示している。また、共通供給流路25から連通孔221,・・・までのインク流路については、網点で示している。
また、本実施形態と同様の構成については、説明を省略する。
【0069】
ヘッドチップ2は、上面に、左右方向沿って千鳥配列となるように並列して2列に並んで設けられた圧電素子24と、インク流路部材5からヘッドチップ2の内部にインクを供給するためのインク供給口201,202と、ヘッドチップ2の内部からインク流路部材5にインクを排出するインク循環口203,204等を備える(図10)。
【0070】
ヘッドチップ2は、内部に、下側から順にノズルプレート21、中間プレート22、ボディプレート23の3枚の基板が積層一体化されることによって構成されている(図11)。そして、千鳥配列となるように2列に並んで設けられた圧電素子24の下側の圧力室層23aに、それぞれの圧電素子24に対応して圧力室231が形成されている。
【0071】
共通供給流路25は、ボディプレート23の圧力室層23aのみに形成されており、圧電素子24が配列された位置を挟んで、ヘッドチップ2の前側付近と後側付近の2列に左右方向に沿って設けられている。
また、圧力室層23aの上面にはわずかに弾性変形可能な振動層23bが形成されており、共通供給流路25の上面の振動層23bは、ダンパ234として機能している。
【0072】
共通循環流路26は、共通供給流路25が形成されたボディプレート23の下側に配置されるように、中間プレート22の中間プレート層22aのみに形成されている。
また、中間プレート22の中間プレート層22aの上面にはわずかに弾性変形可能な振動層22bが形成されており、共通循環流路26の上面の振動層22bは、ダンパ236として機能している。
【0073】
インクの循環経路は、まずインク供給口201,202から、ヘッドチップ2の前側付近及び後側付近に並列して形成された共通供給流路25に供給される。次に、千鳥配列に並んだ圧電素子24の下側に設けられたそれぞれの圧力室231,・・・に対して、距離の短い前側又は後側の共通供給流路25から、インレット232,・・・を介して供給される。次に、連通孔221,・・・、大径部212,・・・、及び循環流路213,・・・に順々に流れる。次に、各循環流路213,・・・からのインクが前側又は後側の共通循環流路26で合流し、インク循環口203,204からインクが排出され、インク循環流路504を通って循環用サブタンク63に戻される(図7図10及び図11参照)。
【0074】
[本発明の技術的効果]
以上のように、本発明のインクジェットヘッド1は、循環流路213の粘性抵抗Rcをノズル211の粘性抵抗Rnよりも小さくし、かつ循環流路213のインピーダンスZcをインレットのインピーダンスZiの0.5倍以上とすることによって、インクの射出性能の低下を最小限に抑え、かつ装置に負荷をかけずに、ノズル近傍の気泡等を効果的に排出することができる。
【0075】
具体的には、循環流路213を形成した場合には、循環流路213に圧力が逃げてしまうため、圧力損失しやすくなるが、本発明の構成では、圧力損失を最低限に抑えることができ、より低い電圧で駆動させることができる。
また、射出負圧を抑えることができるため、気泡の発生を抑えることができる。
また、インクの循環流速を最大射出時(射出液滴量(pL)×射出周波数(Hz))と同等以上の速さとすることができ、気泡等の異物を効果的に除去することができる。
【0076】
また、ノズル211の近傍に循環流路213が形成されているため、ノズル近傍の気泡等の異物を除去することができる。
また、インレット232を圧力室231よりも流路が狭いくびれ部を有する構成であるため、圧力室231の圧力を効果的に高めることができる。
【0077】
また、インレット232と循環流路213の合計粘性抵抗をノズル211の粘性抵抗よりも小さくすることによって、循環流速をより速めることができる。
また、ノズル211が形成されたノズル層21aの上面に積層されたノズル支持層21cに、圧力室231からのインクを連通するノズル211より穴径が大きいノズル連通路(大径部212)と、循環流路213と、を形成することによって、循環流路213をノズルの直上に形成することができるため、ノズル近傍の気泡等を効果的に除去し、ノズル211の詰まりを防ぐことができる。
【0078】
また、ノズル層21aとノズル支持層21cとの間に、ノズル支持層21cよりもエッチングレートの低い結合層21bを備え、ノズル支持層21cは結合層21b又はノズル層21aに面した空隙部を有し、循環流路213は当該空隙部により形成されている構成とすることによって、製造誤差を極力減らして循環流路213を製造することができる。
【0079】
また、ボディプレート(ボディ層)23及び中間プレート(中間層)22の少なくとも一方に、複数のノズル211の各々に対応する循環流路213が連結された共通循環流路26を形成することによって、安定して共通循環流路26を設けることができ、製造誤差を極力減らして製造することができる。
【0080】
また、本発明のインクジェットヘッド1は、循環流を発生させるためのインクの循環手段(インク循環機構)を別途設けることによって、インクジェット記録装置100に搭載して利用することができる。
【0081】
[その他]
本発明の今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した詳細な説明に限定されるものではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0082】
例えば、本発明のインク流路部材5は、インク供給流路及びインク循環流路を備えるインク流路部材5を左右方向に1つずつ設ける構成としたが、インクの循環ができる構成であれば適宜構成は変更可能であり、片側に1つ設ける構成としても良い。また、例えば、左側のインク流路部材5には、インク供給流路のみを設け、右側のインク流路部材5には、インク循環流路のみを設ける構成としても良い。
【0083】
また、循環流を発生させるためのインクの循環手段として、水頭差による圧力よって制御する方法を説明したが、本発明のように循環流を発生させることができる構成であれば、当然適宜変更可能である。
【0084】
また、インクジェットヘッド1は、圧電素子を使用してインク等の液滴を吐出する構成としたが、液滴を吐出できる機構を備えていれば良く、例えば、サーマル(電気熱変換素子)を使用することとしても良い。
【0085】
更に、本発明の範囲は上記に限られることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、インクジェットヘッド、及びインクジェットヘッドと循環流を発生させるためのインクの循環手段等とを備えたインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 インクジェットヘッド
21 ノズルプレート
21a ノズル層
21b 結合層
21c ノズル支持層
211 ノズル
212 大径部(ノズル連通路)
213 循環流路
22 中間プレート(中間層)
221 連通孔(中間連通路)
23 ボディプレート(ボディ層)
231 圧力室
232 インレット
24 圧電素子(圧力発生手段)
25 共通供給流路
26 共通循環流路
100 インクジェット記録装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11