(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本開示の蓄電デバイスについて説明する。この蓄電デバイスは、炭素多孔体を活物質として有する蓄電デバイス用電極を備えている。この炭素多孔体を活物質として有する蓄電デバイス用電極は、対極の電位に応じて正極としてもよいし、負極としてもよい。また、正極及び負極をこの蓄電デバイス用電極としてもよい。蓄電デバイス用電極の対極は、イオンを吸蔵放出する活物質を有するものとしてもよいし、イオンを吸脱着する活物質を有するものとしてもよい。この炭素多孔体は、イオンを吸脱着するものである。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタなどとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため炭素多孔体を活物質として有する蓄電デバイス用電極と、リチウムを吸蔵放出するリチウム二次電池用負極とを組み合わせたハイブリッドキャパシタ(リチウムイオンキャパシタ)を主として説明する。
【0012】
この蓄電デバイス用電極は、炭素多孔体を活物質として有する。この炭素多孔体は、
図1に示す特徴を有している。
図1は、炭素多孔体の窒素吸着等温線の一例を示す説明図である。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が100(cm
3(STP)/g)以上であるものである。この炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、120(cm
3(STP)/g)以上あることが好ましく、150(cm
3(STP)/g)以上あることがより好ましい。また、この炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、400(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。例えば、焼成条件を調整することにより、ミクロ細孔容量を調節することができ、目的の吸着特性を得ることができる。ここで、メソ細孔とは直径が2nmより大きく50nm以下の細孔を示し、ミクロ細孔とは直径が2nm以下の細孔を示すものとする。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、”Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility" Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh,H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いるものとする。
【0013】
この炭素多孔体は、窒素吸着等温線によるBET比表面積が1000m
2/g以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線によるBET比表面積は、1200m
2/g以上であることが好ましく、1500m
2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積は、より大きい方が吸着材としては好ましい。このBET比表面積は、3000m
2/g以下であるものとしてもよい。BET比表面積は、目的の吸着特性に応じて、適宜調整するものとすればよい。
【0014】
この炭素多孔体は、
図1に示すように、窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm
3(STP)/g)以上である。この窒素吸着等温線の微分値は、吸着等温線における特定の測定点(相対圧P/P
0,窒素吸着量)とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算したものであり、窒素吸着等温線における傾きを表す値である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P
0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm
3(STP)/g)以上であることが好ましく、500(cm
3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0015】
この炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm
3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P
0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm
3(STP)/g)以上であることが好ましく、400(cm
3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0016】
この炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.98における窒素吸着量が1200(cm
3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線の相対圧力P/P
0が0.98における窒素吸着量は、1400(cm
3(STP)/g)以上であることが好ましく、1500(cm
3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着量は、3000(cm
3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0017】
次に、この炭素多孔体の製造方法について説明する。この製造方法は、例えば、芳香族カルボン酸のリチウム塩を不活性雰囲気中で800℃以上1000℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程、を含むものである。この製造方法では、上述した特徴を有する炭素多孔体を製造することができる。この焼成工程では、芳香族カルボン酸としては、複数のベンゼン環が縮合した構造を有する多環芳香族炭化水素(例えばナフタレン)にカルボキシ基が結合したものや、複数のベンゼン環が結合した構造を有する芳香族炭化水素(例えばビフェニル)にカルボキシ基が結合したものなどが挙げられる。具体的には、ナフタレンジカルボン酸ジリチウム及びビフェニルジカルボン酸ジリチウムのうち少なくとも1以上を芳香族カルボン酸のリチウム塩として用いるものとしてもよい。不活性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、希ガス雰囲気などが挙げられ、窒素雰囲気が好ましい。焼成温度は、消費エネルギーの観点からはより低い方が好ましく、例えば、950℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましい。あるいは、焼成温度は、金属成分(例えばリチウムなど)の除去の観点からは、より高い方が好ましく、850℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましい。焼成時の保持時間は、例えば50時間以下としてもよい。このうち、0.5〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。0.5時間以上では、炭素多孔体の構造の形成が十分に行われる。20時間以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。
【0018】
この炭素多孔体の製造方法において、焼成工程のあと、金属成分を溶解可能な洗浄液で洗浄する溶出処理工程、を含むものとしてもよい。この製造方法において、焼成工程によって金属成分が焼失し除去されるが、残存する金属成分をこの溶出処理により更に除去することができる。金属成分を溶解可能な洗浄液としては、例えば、水や酸性水溶液などが挙げられ、このうち酸性水溶液が好ましい。酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、酢酸などの水溶液が挙げられる。こうした洗浄を行うことにより、金属成分が存在していた箇所に空洞が形成されると推察される。
【0019】
この蓄電デバイス用電極は、イオンを吸脱着する炭素多孔体を活物質とし、電気二重層容量を発現するキャパシタ用電極として構成されている。この電極は、例えば、炭素多孔体を活物質とし、必要に応じて導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金、貴金属)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0020】
本開示の蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えているものとしてもよい。正極は、上述した炭素多孔体を活物質として有する蓄電デバイス用電極としてもよい。負極は、負極活物質を含み集電体を有していてもよい。また、イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在しイオン(カチオン及びアニオン)を伝導するものである。負極は、例えば、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、負極活物質と、必要に応じて導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0021】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などとしてもよい。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0022】
イオン伝導媒体に含まれている支持塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0023】
このイオン伝導媒体は、例えば、イオン液体を含むものとしてもよい。このイオン液体は、支持塩(キャリア)として含まれていてもよい。このイオン液体としては、トリフルオロメタンスルホネートアニオンや、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを含むものとしてもよい。イオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、アルキルピペリジウムカチオン、アルキルピロジリウムカチオンなどが挙げられる。また、イオン液体としては、例えば、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME−TFSI)、N,N−ジエチル−N−エチル‐N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0024】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、イオン伝導性ポリマーなどを用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0025】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
あるいは、この蓄電デバイスの正極は、リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとし、負極は、上述した炭素多孔体を活物質として有する蓄電デバイス用電極としてもよい。この正極は、一般的なリチウムイオン電池に用いられるものとしてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi
(1-x)MnO
2(0<x<1など、以下同じ)やLi
(1-x)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)Ni
aCo
bMn
cO
2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV
2O
5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材や結着材、集電体は、蓄電デバイス用電極で挙げた材料を適宜用いることができる。また、正極は、例えば、リチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。この場合、正極活物質としては、高比表面積を示しイオンを吸脱着する活性炭類などが好ましい。
【0027】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この正極22と負極23とのうちいずれか1以上には、活物質として炭素多孔体を有している。
【0028】
以上詳述した本実施形態の蓄電デバイスでは、例えば−20℃の低温領域など、より広い温度域で充放電容量を向上させることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、活物質としての炭素多孔体は、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔との両方を併せ持つ細孔構造を有しており、電荷担体であるイオンの吸脱着に使用できる表面積が向上しているからであると考えられる。特に、低温や高負荷時にはより大きな細孔の存在が容量低下の抑制に有効であると考えられる。また、サイズが大きな溶媒和リチウムイオンの吸脱着時には、低温性能を大幅に向上することができる。
【0029】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、キャリアをリチウムイオンとそのアニオンとして説明したが、特にこれに限定されず、キャリアであるカチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、第1級〜第3級アミン、第4級アンモニウムカチオンなどが挙げられる。また、キャリアであるアニオンとしては、イオン液体のアニオンなどとしてもよい。
【実施例】
【0031】
以下には、本開示の活物質である炭素多孔体を具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例3、4、7〜9が実施例に相当し、実験例1、2、5、6、10〜13が参考例に相当する。
【0032】
[実験例1〜4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naph−Li)を窒素中で、所定温度、3時間加熱して炭素と一部金属成分を含む炭素多孔体を得た。これを水中に分散し、さらに過剰量の塩酸を添加することで、多孔体中に残存する金属成分を溶出させる溶出処理を行った。残渣である炭素をろ別乾燥することで、目的の炭素多孔体を得た。焼成温度を650℃、750℃、850℃及び950℃としたものをそれぞれ実験例1〜4とした。
【0033】
[実験例5〜9]
4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(Bph−Li)を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て炭素多孔体を得た。焼成温度を650℃、750℃、850℃、950℃及び1000℃としたものをそれぞれ実験例5〜9とした。なお、実験例9は、溶出処理を行わなかった。
【0034】
[実験例10]
加熱雰囲気をアルゴン中として焼成した以外は実験例9と同様の工程を経て得られた炭素多孔体を実験例10とした。
【0035】
[実験例11、12]
テレフタル酸(以下PTA)0.1mol(16.6g)と、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)0.09mol(6.7g)と、水酸化カリウム(KOH)0.02mol(1.1g)とを混合し、10gの水を加え混練した。これを24時間放置したのちに80℃で乾燥し、複合塩を得た。得られた複合塩を不活性雰囲気中、600℃、3時間加熱して炭素と金属炭酸塩(一部は金属酸化物)の複合体を得た。これを水中に分散し、さらに過剰量の塩酸を添加することで、金属成分を溶出させた。残渣である炭素をろ別乾燥することで、実験例11の炭素多孔体を得た。また、塩合成において、PTA0.1mol(16.6g)、水酸化カルシウム0.07mol(5.2g)、水酸化カリウム0.06mol(3.4g)の組成で調製した以外は実験例11と同様の処理を行い得られた炭素多孔体を実験例12とした。
【0036】
[実験例13]
市販の活性炭(クラレケミカル株式会社製YP−50)を実験例13とした。
【0037】
(窒素吸着等温線測定)
実験例1〜13の各炭素多孔体について、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定を行い、窒素吸脱着等温線を求めた。この窒素吸脱着等温線から、細孔特性を算出した。窒素吸着等温線は、カンタクローム社製Autosorb−1を用いて測定を行い、吸着量の解析を行った。この窒素吸着等温線において、特定の測定点とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算し、窒素吸着等温線の微分値(傾き)を求めた。また、αsプロット解析において、プロット外挿直線の切片の値により、ミクロ細孔容量(cm
3(STP)/g)を求めた。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、“Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility” Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh, H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いた。
【0038】
(結果と考察)
測定結果を
図3〜10及び、表1に示す。
図3は、実験例1〜4の窒素吸脱着等温線である。
図4は、実験例5〜10の窒素吸脱着等温線である。
図5は、実験例11〜13の窒素吸脱着等温線である。
図6は、実験例2〜4の焼成後及び溶出処理後の収率である。
図7は、実験例6〜8の焼成後及び溶出処理後の収率である。
図8は、実験例1〜4の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。
図9は、実験例5〜10の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。
図10は、実験例11〜13の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。表1には、実験例1〜13の原料、焼成温度(℃)、焼成後の収率(質量%)、酸処理後の収率(質量%)、BET比表面積(m
2/g)、ミクロ細孔容量(cm
3(STP)/g)、吸着等温線の微分値(傾き)、相対圧力が0.98の窒素吸着量(cm
3(STP)/g)をまとめて示した。焼成後の収率は、焼成後の炭素多孔体の質量を焼成前の質量で除算して100を乗算した値であり、酸処理後の収率は焼成して酸処理した炭素多孔体の質量を焼成前の質量で除算して100を乗算した値である。
【0039】
図3、表1に示すように、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを焼成して得られる炭素多孔体は、焼成温度が800℃以上、より好ましくは850℃以上において、相対圧力P/P
0が0.1〜0.8で吸着量が微増し、相対圧力が0.8以上で大きな吸着量が得られる窒素吸着等温線を示した(実験例3、4)。また、
図4、表1に示すように、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを焼成して得られる炭素多孔体も、脱着でのヒステリシスはやや大きいものの、焼成温度が800℃以上、より好ましくは850℃以上において、相対圧力が0.1〜0.8で吸着量が微増し、相対圧力が0.8以上で大きな吸着量が得られる窒素吸着等温線を示した(実験例7〜9)。また、炭素多孔体の収率を検討すると、
図6、7に示すように、焼成温度の上昇に伴い酸溶出成分の質量割合が減少することがわかった。例えば、焼成温度が900℃を超えると、酸溶液による溶出処理を行うことなく、金属成分(リチウム)が焼成によって除去されることがわかった。したがって、例えば、焼成温度を900℃以上にすると溶出処理を省略することができるものと推察された。また、焼成雰囲気をArとした実験例10では、実験例9とは異なる構造ができていることがわかった。
【0040】
図8〜10は、窒素吸着等温線の2点間の吸着量の差分値を相対圧力の差分値で除算した吸着量微分値(cm
3(STP)/g)を示す。この微分値は、吸着等温線の傾きの大きさを示す。実験例3、4、7〜9では、相対圧力P/P
0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm
3(STP)/g)以上であった。また、実験例3、4、7〜9では、相対圧力P/P
0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm
3(STP)/g)以上であった。これらの実験例では、実験例10〜13と異なり、特定の細孔径の細孔が偏って存在するものでなく、マイクロ孔からメソ孔にかけて各細孔径の細孔が比較的均一に存在することを示しているものと推察された。本開示の炭素多孔体の製造方法によれば、例えば、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔が存在する構造を有する炭素多孔体が得られている可能性が極めて高いと推察された。このように、本開示の炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを均一的に有しており、ガス吸着速度やガス吸着量の向上など、機能向上が期待された。
【0041】
【表1】
【0042】
次に、本開示の炭素多孔体を活物質に用いた蓄電デバイスを具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例14が実施例に相当し、実験例15、16が参考例に相当する。
【0043】
[実験例14]
4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(Bph−Li)を窒素中、1000℃で焼成して得られた炭素と一部金属成分を含む炭素多孔体を水中に分散し、さらに過剰の塩酸を添加することで、多孔体中に残存する金属成分を溶出させたのち、残渣である炭素をろ別乾燥して実験例14の炭素多孔体を得た。得られた炭素多孔体を活物質とし、結着材としてのSBR及びCMCと、導電材としてのカーボンブラックとを質量比で8:1:1として溶媒である水と混合し、スラリー状の合材とした。この合材をアルミ集電箔に塗工・乾燥してキャパシタ用電極を得た。この電極に、対極として金属リチウム、セパレータとしてポリエチレン多孔膜(東レバッテリーセパレータフィルム社製E20MMS)を介して対向させ、電解液を加えた電気化学セルを作製した。電解液は、体積比でEC:DMC:EMC=3:4:3とした溶媒に1.0mol/LのLiPF6を溶解したものを用いた。得られたものを実験例14の蓄電デバイスとした。この蓄電デバイスを用いて炭素多孔体を含む電極の単極評価を実施した。
【0044】
[実験例15]
焼成温度を800℃とした以外は実験例14と同様の工程を経て得られた炭素多孔体、及び電気化学セルを実験例15とした。
【0045】
[実験例16]
市販の活性炭(クラレケミカル株式会社製YP−50F)を用いた以外は実験例14と同様の工程を経て得られた電気化学セルを実験例16とした。
【0046】
(窒素吸着等温線測定)
実験例14〜16の各炭素多孔体について、上述の実験例と同様に、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定を行い、窒素吸脱着等温線を求めた。
図11は、実験例14〜16の窒素吸脱着等温線である。
図12は、この窒素吸脱着等温線を用いてGCMC法で解析した実験例14〜16の細孔分布曲線である。また、実験例14〜16の測定結果を表2に示す。実験例14は上記実験例9と同様に好適な細孔分布、比表面積を示した。
【0047】
【表2】
【0048】
(充放電評価)
実験例14〜16に対して充放電の評価を行った。各セルを20℃、0℃、−20℃の各温度で、1Cの定電流充放電で既定の電位間をサイクルさせた。リチウム基準電位(Li/Li
+、以下同じ)で3.0V〜4.2V間を5サイクル、3.0V〜1.8V間を5サイクル、1.8V〜4.2V間を5サイクルの順に実施した。今回評価した電極はともに自然電位が3V付近であり、3.0V〜4.2Vの電位域での充放電では、アニオン(PF
6-イオン)の吸脱着が活物質へ起きていると考えられ、同様に、3.0V〜1.8Vの電位域での充放電では、カチオン(溶媒和しているLi
+イオン)の吸脱着が活物質へ起きていると考えられる。得られた充放電曲線において、放電開始時と終了時の電位差と電気量差とから微分容量(F/g)を求めて評価した。なお、実験例14はサンプル数n=3、実験例15,16は、サンプル数n=2で測定を行い、平均値と標準誤差を求めた。
【0049】
(結果と考察)
表3に、4.2V−3.0V、1.8V−3.0V及び4.2V−1.8V電位域の各測定温度における微分容量(F/g)の5サイクル目の平均値と、標準誤差をまとめた。
図13〜15は、それぞれ20℃、0℃及び−20℃における、1.8V−4.2V電位域での5サイクル目の4.2Vから1.8Vへの放電時の放電曲線である。
図13〜15に示すように、どの温度においても実験例14が他の実験例よりも高容量であることがわかった。
図16〜18は、それぞれ20℃、0℃及び−20℃における、1.8V−4.2V電位域での5サイクル目の充放電時の各電位に対する微分容量の関係図である。なお、微分容量の符号は、電位が高くなる方向を正としている。どの温度においても、実験例14がほとんどの電位域で他の実験例よりも微分容量の絶対値が大きいことがわかった。
図19〜21は、それぞれ4.2V−3.0V電位域、1.8V−3.0V電位域及び4.2V−1.8V電位域における、5サイクル目の充放電時の各温度に対する微分容量の関係図である。実験例14は、すべての温度で、他の実験例よりも高容量であった。特に、−20℃での1.8V→3.0V電位域でのカチオン脱離容量において、メソ細孔をもたない実験例16(市販活性炭)の容量低下が大きいのに対して、実験例14は、容量低下が大幅に少なくなっており、活物質の細孔構造の違いが顕著にあらわれていると思われた。
【0050】
【表3】
【0051】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。