(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
−第1実施形態−
上述のとおり、バッテリの余寿命をできる限り正確に推定することが好ましい。また、推定するバッテリの余寿命は、車載利用中に推定される余寿命に限らず、車載利用(一次利用)後の再利用(二次利用)時における余寿命についても、できる限り正確に推定することが好ましい。再利用時のバッテリの余寿命の推定精度が低いと、当該バッテリがどのような用途に再利用できるのか、何年程度使用できるのかといったバッテリの再利用計画が甘くなる。その結果、適切な再利用用途を見いだせない一次利用後のバッテリは、予備のバッテリ在庫として扱われることになり、在庫管理費が高騰する。なお、二次利用とは、車載利用(一次利用)されていたバッテリを、定置型バッテリとして使用する、あるいは一次利用時とは異なる車両に搭載して利用する等、一次利用時と異なる負荷へ電力を供給するバッテリの利用を意味し、バッテリの二次利用時の目的(バッテリが電力を供給する負荷)には限定されない。
【0009】
本発明に係るバッテリ劣化度推定装置は、このような問題を解決するため、バッテリの車載利用(一次利用)終了後であって、二次利用開始前に、当該バッテリの再利用時における劣化度を精度よく推定することを目的とする。以下、図面等を参照して、第1実施形態のバッテリ劣化度推定装置の詳細を説明する。
【0010】
図1は、第1実施形態のバッテリ劣化度推定装置の構成を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態のバッテリ劣化度推定装置100は、主に、サイクル劣化推定部110と、保存劣化推定部120と、二次利用開始時総劣化度算出部(再利用開始時総劣化度算出部)130と、総劣化度検出部140とを有する。
【0012】
ここで、各構成の説明の前に、バッテリの劣化について説明する。バッテリの劣化には、大きく分けて、主に化学反応に起因してバッテリの内部で経時的に生じる保存劣化と、バッテリの充電及び放電が繰り返されることに起因するサイクル劣化とがある。保存劣化は、たとえばバッテリの電極と電解質との化学反応によって、充放電に関わらず経時的に進行する劣化であり、この進行度合は時間の平方根に対応付く。これに対して、サイクル劣化は、バッテリの充放電時にバッテリ内部が膨張収縮することに起因して電極等の摩擦などによって機械的に進行する劣化であり、この進行度合は充電及び放電の回数(サイクル)に対応付く。本実施形態に係るバッテリ劣化度推定装置は、バッテリの二次利用時においての保存劣化度及びサイクル劣化度をそれぞれ推定し、足し合わせることにより、バッテリの総劣化度を推定する。以下、詳細を説明する。
【0013】
<サイクル劣化の推定>
サイクル劣化推定部110は、出力特性予測部111と、二次利用時のサイクル劣化度推定部112(以下、単にサイクル劣化度推定部112という)とを有し、バッテリの充電及び放電に起因する二次利用時のサイクル劣化度を推定する。サイクル劣化は、サイクル(充電放電回数)に比例して劣化が進む。バッテリの一定期間における充電放電回数は、出力特性(例えば、電力又は電流)の一定期間における積算値と考えることができる。そこで、出力特性予測部111は、予め予測可能な二次利用時の負荷情報に基づいて、二次利用時における出力特性の積算値を予測する。予測された出力特性の積算値は、二次利用時のサイクル劣化度推定部112に出力される。
【0014】
二次利用時において予測される出力特性の積算値は、二次利用期間中における、充電電力の積算値[kWh]、放電電力の積算値[kWh]、充電電力及び放電電力の絶対値の積算値[kWh]、充電電流の積算値[Ah]、放電電流の積算値[Ah]、充電電流及び放電電流の絶対値の積算値[Ah]のいずれであってもよい。適宜選択することで、コストをかけることなく推定精度を上げることができる。
【0015】
ここで、二次利用時の負荷情報とは、バッテリの二次利用における用途として予め設定された少なくとも一以上のモデルケースに対して、それぞれのモデルケース毎に想定される、バッテリの使用状態に関する情報である。当該情報には、例えば、二次利用期間中に予測される充電電力[kw]、放電電力[kw]等の、上述した出力特性の積算値を算出することができる情報や、二次利用期間中におけるバッテリの充電率(SOC:State Of Charge)[%]、温度[℃]に関する情報等が含まれる。なお、二次利用のモデルケースには、例えば定置型電源としての用途などの車載以外の用途だけでなく、一次利用時と同じ車載用途も含まれる。
【0016】
サイクル劣化度推定部112は、予測された二次利用時の出力特性の積算値と、予め設定されて記憶されているサイクル劣化特性とに基づいて、二次利用時のサイクル劣化度を推定する。
【0017】
ここで、
図2を参照してサイクル劣化特性の設定方法について説明する。バッテリの充電放電を繰り返す電池評価の一般的なサイクル試験を行って、サイクル(充電放電回数)と劣化度との関係をプロットする。なおこのサイクル試験中にも、バッテリの電極と電解質との化学反応によって保存劣化が進行する。そこで、
図2に示されるように、サイクル試験中の保存劣化分を除いて、サイクル劣化特性を設定することが重要である。このようにしてサイクル劣化特性をプロットすると、サイクル(充電放電回数)が多くなるにつれて、容量維持率が低下(劣化)していることが判る。すなわち、サイクル劣化度は、出力特性の積算値に比例することが判る。なお、容量維持率[%]は、バッテリの充電可能な最大容量(以下、充電可能容量とも言い、AhやWhで表される電気量である)の現在値を、バッテリ製造直後(新品時)の最大容量で除算したものである。すなわち、製造直後のバッテリの充電可能容量に対する現在のバッテリの充電可能容量を意味している。また、劣化度[%]とは100%と上述の容量維持率との差[%]で表される値であり、すなわちバッテリ使用開始時からの充電可能容量の減少率[%]を意味する。
【0018】
また、サイクル劣化の進行度合は、出力特性の積算値に対応付くが、他にも温度に対する感度もある。例えば、
図3に示されるように温度が高いほど劣化が進行しやすくなる。なお、
図3の縦軸の劣化係数は、容量維持率に乗算される係数である。したがって、サイクル劣化度推定部112は、出力特性予測部111で予測された二次利用時における出力特性の積算値と、予め設定されて記憶されているサイクル劣化特性とに加えて、二次利用時の負荷情報のうち、バッテリの温度[℃]に関する情報をも考慮して、サイクル劣化を推定しても良い。
【0019】
ここで、二次利用時の負荷情報に係るバッテリの温度[℃]に関する情報とは、バッテリの二次利用における用途として予め設定された少なくとも一以上のモデルケースに対して、それぞれのモデルケース毎に想定される、二次利用期間中のバッテリの温度の推移に関する情報である。なお、二次利用期間中の温度の推移に関する情報とは、予測される二次利用期間のバッテリ温度の履歴(ある温度の発生頻度)であって、二次利用期間中のバッテリが、どのような温度にどのくらいの時間に亘って晒されるのかを予測した情報である。例えば、バッテリが施設内の定置型電源として二次利用される場合には、二次利用先の施設内の温度推移の情報となる。
【0020】
サイクル劣化度推定部112は、この温度情報を用いて、サイクル劣化度を補正する。すなわち、バッテリが高温の状態にいる時間が長ければ、その長さに応じてサイクル劣化の進行が進むように補正する。このように補正することで、バッテリのサイクル劣化度をさらに高精度に推定することが可能となり、バッテリの余寿命を一層正確に推定できる。なおバッテリの特性によっては、温度感度を無視できる場合もあるので、当該補正はバッテリの特性に応じて適宜実施すればよい。
【0021】
<保存劣化の推定>
次に、保存劣化推定部120について説明する。本実施形態の保存劣化推定部120は、一次利用時の保存劣化度記憶部122と、二次利用時の保存劣化度推定部123とを備える。
【0022】
本発明に係るバッテリ劣化度推定装置100は、バッテリの使用開始から車載終了までの一次利用時の保存劣化度に関する情報に基づいて、二次利用時の保存劣化度を推定することを特徴とする。この一次利用時の保存劣化度に関する情報とは、二次利用開始前の時点において既に算出された保存劣化度、もしくは、当該保存劣化度を算出するのに必要な情報の少なくともいずれか一方である。一次利用時のバッテリの保存劣化度に関する情報は、一次利用時の保存劣化度記憶部122(以下、単に保存劣化度記憶部122ともいう)に記憶されている。保存劣化度記憶部122は、例えばバッテリに付設されたバッテリコントローラが有するRAM等の読み出し可能なメモリである。なお、当該バッテリコントローラは、バッテリを内包するバッテリパック内に備えられる。
【0023】
ここで、二次利用時の保存劣化度を推定するために、なぜ一次利用時の保存劣化度を取得する必要があるのか、
図4を用いて説明する。
図4は、バッテリの保存劣化特性に基づく保存劣化の進行曲線を表した図である。横軸は経過日数[day]を表し、縦軸は保存劣化度[%]を表している。図に示される曲線は、経過日数[day]に対する保存劣化度[%]であり、曲線の傾きは保存劣化度の増加速度(劣化スピード)[%/√day]を表す。図に示されるように、保存劣化度は経過日数の平方根[√day]に比例する。保存劣化度は経過日数に対して直線的に変化するものではないので、図中の矢印A、Bで表されるとおり、保存劣化の進行度合によって、劣化の進行の傾き(すなわち劣化度の増加速度)が異なる。したがって、二次利用時の保存劣化度を正確に推定するためには、二次利用時の保存劣化度を推定する時点における保存劣化の進行の傾きを把握しておく必要がある。すなわち、一次利用時の保存劣化度を取得するのは、二次利用開始時点における保存劣化の進行の傾きを把握するためである。
【0024】
続けて、保存劣化度について説明する。一次利用時の保存劣化度は、バッテリコントローラが有する機能部である
図1中に示した一次利用時の保存劣化度算出部が担う。一次利用時の保存劣化度は、電極が電解質に触れた時点からの経過時間と、予め設定されて記憶されている保存劣化特性とに基づいて算出される。この保存劣化特性は、例えば
図5に示される特性であり、電池評価の一般的な保存試験によって取得できる。
図5から、時間の平方根に比例して、保存劣化が進行する特性であることが判る。なお経過時間の計測手段は、車両に搭載されたタイマーであるので、電池製造過程において電極が電解質に触れた時点から車両タイマーで計時を開始するまでの時間は計時できない。そこで、電極が電解質に触れた時点から車両タイマーで計時を開始するまでの時間を、一定時間に管理して、その一定時間をタイマーの計時時間に加算すればよい。なお、電極が電解質に触れた時点から車両タイマーで計時を開始するまでの時間は、バッテリの寿命に比すれば極小であるので、簡易的には無視してもよい。
【0025】
また、保存劣化の進行度合は、時間の平方根に比例するのに加えて、温度に対する感度もある。例えば、
図6に示されるように温度が高いほど劣化が進行しやすくなる。
図6の縦軸の劣化係数は、容量維持率に乗算される係数である。劣化係数が小さいほど、容量維持率が小さく、すなわち保存劣化度が大きくなる。本実施形態で取得する一次利用時の保存劣化度は、一次利用時のバッテリの温度の推移に関する情報に基づいて、バッテリの温度感度を考慮して算出されたものである。なお、ここでの温度の推移に関する情報とは、一次利用期間中のバッテリ温度の履歴(ある温度の発生頻度)であって、一次利用期間中のバッテリが、どのような温度にどのくらいの時間に亘って晒されていたか認知可能な情報である。なお、当該温度の計測手段としては、例えばバッテリに付設されたサーミスタである。
【0026】
またさらに、保存劣化の進行度合は、バッテリのSOC(State Of Charge;満充電容量に対する残容量の割合である充電率)に対する感度もある。例えば、
図7に示されるようにSOCが大きいほど劣化が進行しやすくなる。
図7の縦軸の劣化係数は、容量維持率に乗算される係数である。劣化係数が小さいほど、容量維持率が小さく、すなわち保存劣化度が大きくなる。本実施形態で取得する一次利用時の保存劣化度は、一次利用時のバッテリのSOCの推移に関する情報に基づいて、バッテリのSOC感度を考慮して算出されたものである。なお、ここでのSOCの推移に関する情報とは、一次利用期間中のバッテリSOCの履歴(あるSOCの発生頻度)であって、一次利用期間中のバッテリが、どの程度のSOC[%]の状態で、どのくらいの時間使用されていたか認知可能な情報である。なお、当該SOCの計測手段としては、バッテリに付設された電圧センサにより検出した電圧から、もしくは、バッテリに付設された電流計等により検出した電流量から、一般的な方法で計測すればよい。
【0027】
このように、本実施形態の保存劣化度記憶部122には、電極が電解質に触れた時点からの経過時間と、予め設定されて記憶されている保存劣化特性とに加えて、一次利用期間中の温度履歴およびSOC履歴を考慮して算出された一次利用時の保存劣化度が記憶されている。
【0028】
また、保存劣化度記憶部122に記憶されている情報は、上述したとおり、保存劣化度を算出するのに必要な情報であってもよい。この場合、保存劣化度記憶部122には、電極が電解質に触れた時点からの経過時間と、予め設定されて記憶されている保存劣化特性とに加えて、一次利用期間中のバッテリの温度履歴とSOC履歴を、例えば
図8に示すようにマップ化して記憶する。ただし、本実施形態に係る保存劣化度推定部123において一次利用時の保存劣化度を推定する際には、一次利用期間中の温度履歴およびSOC履歴に基づいて算出可能な一次利用期間中の等価温度[℃]および等価SOC[%]を使用してもよい。このような情報が保存劣化度記憶部122に読み出し可能に記憶されることにより、後述する保存劣化度推定部123(以下、単に保存劣化度推定部123ともいう)は、保存劣化度記憶部122に記憶された情報に基づいて、二次利用時の保存劣化度を推定することができる。
【0029】
なお、等価温度[℃]とは所定の温度環境下において所定期間の経過後に発生した保存劣化と同等の保存劣化が発生するような、所定期間一定温度の条件下における温度をいう。すなわち、ある保存劣化が発生する所定期間の温度環境を、一定温度環境に置き換えた際の温度を意味する。
【0030】
同様に、等価SOC[%]とは所定のSOC状態において所定期間の経過後に発生した保存劣化と同等の保存劣化が発生するような、所定期間一定SOC状態におけるSOCを言う。すなわち、ある保存劣化が発生する所定期間のSOC状態を、一定SOC状態に置き換えた際のSOCを意味する。
【0031】
保存劣化度推定部123は、上述した一次利用時の保存劣化度に関する情報と、予め想定された二次利用時の負荷情報とに基づいて、次(1)式を用いて二次利用時の保存劣化度を推定する。なお、ここでの二次利用時の負荷情報とは、二次利用における用途として設定されたモデルケースに対して想定される、二次利用期間中におけるバッテリの等価SOC[%]および等価温度[℃]に関する情報である。
【0033】
ここで、
図8を参照して、式(1)の概念を説明する。
図8の横軸は日数[day]を表し、縦軸は保存劣化度[%]を表している。
【0034】
式(1)および
図9横軸のt1は、一次利用期間の日数[day]を示す。一次利用期間中の保存劣化速度は、K1(T1、SOC1)[%/√day]と表される。K1は、予め実験等により取得した、温度とSOCのパラメータを持つバッテリ毎に固有の劣化係数である。K1(T1、SOC1)[%/√day]の自乗に、一次利用期間の日数t1[day]を乗じたものの平方根を算出することで、一次利用時の保存劣化度[%]が求められる。求められた一次利用時の保存劣化度[%]は、
図9中のN点で示される。
【0035】
なお、式(1)中のt1×K1(T1、SOC1)
2の平方根は、一次利用時の保存劣化度[%]である。保存劣化度記憶部122に記憶された情報が保存劣化度を算出するための情報、すなわち、一次利用期間中の温度履歴およびSOC履歴等であれば、K1(T1、SOC1)[%/√day]に係る温度およびSOCのパラメータに、取得した一次利用期間中の温度履歴およびSOC履歴から算出される一次利用時の等価温度[℃]および等価SOC[%]を代入することで、一次利用時の保存劣化度[%]を求めることができる。
【0036】
式(1)および
図9横軸のt2は、二次利用期間の日数[day]を示す。二次利用期間中の保存劣化速度は、K2(T2、SOC2)[%/√day]と表される。K2は、K1同様、予め実験等により取得した、温度とSOCのパラメータを持つバッテリ毎に固有の劣化係数である。一次利用時および二次利用時のバッテリは同一のバッテリであるので、K1とK2は同じ値と考えてもよい。しかしながら、バッテリの使用期間、使用条件等によって微妙に変化する可能性があるので、二次利用期間の保存劣化度の算出精度をより高めるために、二次利用開始前にK2を算出し直しても良い。
【0037】
K2(T2、SOC2)[%/√day]に、二次利用期間中におけるバッテリの等価SOC[%]および等価温度[℃]を代入したものの自乗に、二次利用期間の日数t2[day]を乗じたものの平方根を算出することで、二次利用期間中の保存劣化度[%]、すなわち、一次利用期間終了時点の保存劣化度に対する変化量[%]が求められる。したがって、式(1)のとおり、t
1×K
1(T
1、SOC
1)
2と、t
2×K
2(T
2、SOC
2)
2との和の平方根を求めることで、一次利用時の保存劣化度[%]に、予測される二次利用期間における保存劣化度[%]が加算された保存劣化度[%]、すなわち、バッテリの二次利用時の保存劣化度を推定することができる。求められた二次利用時の保存劣化度[%]は、
図9中のP点で示される。
【0038】
また、
図9中のt2[day]の範囲に示される点線は、二次利用期間中の温度およびSOCを考慮せずに推定した場合の、二次利用期間中の保存劣化速度[%/√day]である。点線とP点に至る実線との差分に表されるとおり、二次利用期間中のバッテリの温度感度およびSOC感度を考慮することで、保存劣化度を高精度に推定することが可能となる。なおバッテリの特性によっては、温度感度、SOC感度を無視できる場合もあるので、バッテリの特性に応じて適宜適用すればよい。
【0039】
なお、以上の説明においては、一次利用終了後から二次利用開始までのバッテリの保存期間は略ゼロであることを前提としており、当該期間における保存劣化の進行については特に考慮していない。ただし、当該期間が二次利用時の保存劣化度の推定精度に影響を及ぼす程度に長い場合は、当該期間に進行する保存劣化度を考慮して、二次利用時の保存劣化度を推定しても良い。
【0040】
<二次利用開始時のバッテリ総劣化度の算出>
二次利用開始時総劣化度算出部(再利用開始時総劣化度算出部)130は、二次利用開始時点における総劣化度[%]を算出する。二次利用開始時点における総劣化度[%]は、一次利用時終了時点(すなわち、二次利用開始時点)における、保存劣化度[%]とサイクル劣化度[%]との和である。なお、一次利用終了時点における容量維持率[%]を、100%から一次利用時終了時点(すなわち、二次利用開始時点)における総劣化度[%]を減じることで算出することができる。
【0041】
<二次利用時の総劣化度の算出>
そして、総劣化度検出部140は、サイクル劣化推定部110で求めた二次利用時のサイクル劣化度[%]と、保存劣化推定部120で求めた二次利用時の保存劣化度[%]と、二次利用開始時容量総劣化度算出部130で算出した二次利用開始時点における総劣化度[%]を加算することによって、二次利用時のバッテリ総劣化度を推定する。
【0042】
なお、上述の通り総劣化度[%]は、100%と容量維持率との差であるため、総劣化度[%]を算出するという事は容量維持率[%]を算出することに等しい。なお、バッテリ生産時の充電可能な最大容量(AhもしくはWh)に算出した容量維持率を乗算することによって、バッテリの充電可能な最大容量を算出することができる。さらには、容量維持率(すなわち総劣化度)とバッテリの内部抵抗とには相関が有るため、容量維持率から内部抵抗を算出することもできる。
【0043】
以上、第1実施形態のバッテリ劣化度推定装置100は、車載期間中におけるバッテリの劣化度に関する情報を用いてバッテリの再利用時における劣化度を推定する。バッテリ劣化度推定装置100は、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報と、再利用時におけるバッテリに対する負荷情報とに基づいて、当該バッテリの再利用時の保存劣化度を推定する保存劣化度推定部123と、再利用時におけるバッテリに対する負荷情報に基づいて、バッテリの再利用時のサイクル劣化度を推定するサイクル劣化度推定部112と、バッテリの再利用開始時点における総劣化度を算出する二次利用開始時総劣化度算出部130と、を備える。バッテリ劣化度推定装置100は、再利用時の保存劣化度と、再利用時のサイクル劣化度と、バッテリの再利用開始時点における総劣化度とに基づいて、再利用開始後のバッテリの総劣化度を推定する総劣化度検出部140を備える。このように、一次利用時(車載期間中)のバッテリの保存劣化度に基づいて再利用時の保存劣化度を推定するとともに、再利用時のサイクル劣化度を推定し、それらを足し合わせることで再利用時の総劣化度を推定することにより、バッテリの再利用時の劣化度を精度よく推定することができるので、バッテリの寿命推定精度が向上する。その結果、バッテリの再利用適用計画を適切に設定することができるので、バッテリの在庫管理費の高騰を抑えることができる。
【0044】
また、第1実施形態のバッテリ劣化度推定装置100は、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報を記憶する保存劣化度記憶部122をさらに備える。保存劣化度記憶部122はバッテリに付設された記憶媒体であって、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報にはバッテリの車載期間中の温度および充電率(SOC)の推移に関する情報と、保存劣化度と相関関係がある保存劣化特性とが含まれる。保存劣化度推定部123は、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報を、保存劣化度記憶部122から取得する。これにより、一次利用時の保存劣化度に関する情報を記憶したメモリを備えたバッテリパック単体さえあれば、二次利用時のバッテリ劣化度を推定することができる。
【0045】
また、第1の実施形態のバッテリ劣化度推定装置100によれば、負荷情報には、再利用時におけるバッテリの温度および充電率の推移に関する情報が含まれる。保存劣化度推定部123は、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報と、再利用時におけるバッテリの温度および充電率の推移に関する情報とに基づいて再利用時の保存劣化度を推定する。これにより、バッテリの保存劣化に対する温度感度およびSOC感度を考慮して、二次利用時におけるバッテリの保存劣化度をより高精度に推定することができるので、より正確にバッテリの余寿命を推定することができる。
【0046】
また、第1の実施形態のバッテリ劣化度推定装置100によれば、負荷情報には、再利用時におけるバッテリの出力特性情報がさらに含まれる。サイクル劣化度推定部112は、出力特性情報から算出される出力特性の積算値と、予め記憶されているサイクル劣化特性とに基づいて再利用時のサイクル劣化度を推定する。これにより、再利用時の劣化度を推定する際に、一次利用時におけるサイクル劣化度情報を用いる必要がないので、演算負荷を低減し、処理時間を短縮することができる。
【0047】
また、第1の実施形態のバッテリ劣化度推定装置100によれば、出力特性の積算値とは、再利用時における、充電電力の積算値、放電電力の積算値、充電電力及び放電電力の絶対値の積算値、充電電流の積算値、放電電流の積算値、充電電流及び放電電流の絶対値の積算値のいずれかである。これにより、サイクル劣化度算出に用いる出力特性の積算値を適宜選択することができるので、コストをかけることなく推定精度を上げることができる。
【0048】
また、第1の実施形態のバッテリ劣化度推定装置100によれば、サイクル劣化度推定部112は、再利用時におけるバッテリの温度の推移に関する情報に基づいて、再利用時のサイクル劣化度を補正する。これにより、バッテリのサイクル劣化に対する温度感度を考慮して、二次利用時におけるバッテリのサイクル劣化度をより高精度に推定することができるので、より正確にバッテリの余寿命を推定することができる。
【0049】
−第2実施形態−
以下、第2実施形態のバッテリ劣化度推定装置100について、特に、これまで説明した第1実施形態との差異点について、
図10を参照して説明する。
【0050】
図10は、第2実施形態のバッテリ劣化度推定装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態のバッテリ劣化度推定装置100は、保存劣化推定部120での、一次利用時の保存劣化度に関する情報の取得方法が、第1実施形態と異なる。また、この差異点に伴い、第1実施形態にあった保存劣化度記憶部122は、本実施形態のバッテリ劣化度推定装置100が備える構成から除外されている。
【0051】
まず、第1実施形態と同様に、一次利用時の保存劣化度に関する情報が、保存劣化度記憶部122に記憶される。本実施形態では、保存劣化度記憶部122に記憶された一次利用時の保存劣化度に関する情報は、送信機124を介して、データサーバ150に送信される。
【0052】
送信機124は、保存劣化度記憶部122に記憶された一次利用時の保存劣化度に関する情報を後述するデータサーバ150に送信する。送信機124は、例えば、車両に備えられたカーナビゲーションが有する通信機能である。
【0053】
データサーバ150は、保存劣化度記憶部122に記憶された一次利用時の保存劣化度に関する情報を、データ送受信器(不図示)を介して取得/記憶し、記憶した情報を、データサーバ150と通信可能な車両等と共有することができるシステム、いわゆるテレマティクスシステムとして機能する。本実施形態のデータサーバ150は、後述する保存劣化推定部120と通信可能であり、定期的に、もしくは保存劣化推定部120からのリクエストに応じて、一次利用時の保存劣化度に関する情報を、保存劣化推定部120に送信する。
【0054】
保存劣化推定部120は、受信機125を備える。受信機125は情報通信部として機能する。そして、保存劣化度推定部123は、受信機125を介して、データサーバ150から、一次利用時の保存劣化度に関する情報を取得する。
【0055】
以上、第2実施形態のバッテリ劣化度推定装置100は、バッテリを備える車両の外部に設けられたバッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報を記憶した記憶装置と通信可能な受信機125をさらに備える。バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報には、バッテリの車載期間中の温度および充電率の推移に関する情報と、保存劣化度と相関関係がある保存劣化特性とが含まれる。保存劣化度推定部123は、バッテリの車載期間中の保存劣化度に関する情報を、受信部125を介して取得する。これにより、データ通信により一次利用時の保存劣化度に関する情報を取得することができるので、バッテリパックからの直接的なデータ収集に係る工数を削減することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。