(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低強度部は、所定の温度以上に加熱された後に、所定の冷却速度未満で冷却された部分であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用シートフレーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
更なる軽量化のため、シートフレームを構成するフレーム材には薄肉軽量化素材として高張力鋼板が使用されることがある。しかしながら、高張力鋼板は一般鋼と比べて成形が難しい。
こうした高張力鋼板を用いる場合においても、特許文献1に記載の発明のように、強度が必要なフレームメンバー、又はシートフレーム全体に対して熱処理を施す場合には、熱処理による歪が大きくなり製品精度が低下する虞がある。
また、特許文献2に記載の発明のように、薄肉鋼に補強部を設ける場合には、補強部の分重量が増加してしまうため、軽量化の点で問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、フレームを軽量化しつつ、フレームの強度を部分的に調整することができる車両用シートフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明に係る車両用シートフレームによれば、高張力鋼板を用いて成形されたフレーム部材を備える車両用シートフレームであって、前記フレーム部材は、強度調整用の熱処理が施されない非熱処理部と、強度向上用の熱処理が施され、前記非熱処理部よりも強度が高い高強度部と、強度低下用の熱処理が施され、前記非熱処理部よりも強度が低い低強度部と、を有
し、前記低強度部は、シートバックフレームとシートクッションフレームとの接続部において、シャフト貫通孔とボルト締結用孔との間に設けられることにより解決される。
また、上記課題は、本発明に係る車両用シートフレームによれば、高張力鋼板を用いて成形されたフレーム部材を備える車両用シートフレームであって、前記フレーム部材は、溶接により組み付けられた複数のフレームと、前記複数のフレームが組み付けられた状態で強度向上用の熱処理により形成され、前記強度向上用の熱処理が施されない箇所よりも強度が高い高強度部と、を有し、前記高強度部は、前記複数のフレームに形成された溶接痕の少なくとも一部と重なる箇所に形成されることにより解決される。
【0009】
上記の車両用シートフレームでは、高張力鋼板を用いて成形されるフレーム部材のうち一部の金属組織が熱処理時の条件に応じた組織となっており、当該一部の強度が他の部分の強度と異なるようになっている。そのため、上記の車両用シートフレームでは、形状や材料を変更することなく同一のフレーム部材のうちで強度を部分的に変化させることができる。これにより、フレーム部材に薄肉軽量化素材を用いて軽量化を実現しつつ、フレーム部材の強度を部分的に調整することができる。
【0010】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記一部は、前記他の部分よりも強度が高い高強度部を含むこととしてよい。
上記構成によれば、車両用シートフレームにおいて熱処理した部分の強度を熱処理しない部分の強度よりも高くすることができる。すなわち、上記構成によれば、フレーム部材において所定の条件で熱処理した箇所の変形を抑制することができる。
【0011】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部は、所定の温度以上に加熱された後に、所定の冷却速度以上で冷却された部分であることとしてよい。
上記構成によれば、フレーム部材において所定の条件で加熱後に急冷した部分の強度を、それ以外の部分に比べて高くすることができる。すなわち、上記構成によれば、フレーム部材の一部に対する熱処理時の冷却速度を制御することで、フレーム部材に部分的に強度の高い部分を設けることができる。
【0012】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部の金属組織は、マルテンサイトであることとしてよい。
上記構成によれば、フレーム部材に金属組織が硬度の高いマルテンサイトである箇所を部分的に設けることができる。これにより、フレーム部材に部分的に強度の高い箇所を設けることができる。
【0013】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部は、シートバックフレームの上部フレーム及びサイドフレームの溶接周辺部、又は前記シートバックフレームの下部フレーム及び前記サイドフレームの溶接周辺部の少なくとも一方に設けられることとしてよい。
上記構成によれば、車両衝突時に応力が集中し易いシートバックフレームの上部フレーム及びサイドフレームの溶接周辺部や、シートバックフレームの下部フレーム及びサイドフレームの溶接周辺部の剛性を高めることができる。これにより、車両用シートフレームの変形を抑制できる。
【0014】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記フレーム部材は、強度低下用の熱処理により形成され、強度低下用の熱処理が施されない箇所よりも強度が低い低強度部を含むこととしてよい。
上記構成によれば、車両用シートフレームを構成するフレーム部材について形状や材料を変更せずに、フレーム部材に部分的に強度の低い箇所を設けることができる。これにより、フレーム部材において所定の条件で熱処理した箇所の変形を促進させることができる。
【0015】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記低強度部は、所定の温度以上に加熱された後に、所定の冷却速度未満で冷却された部分であることとしてよい。
上記構成によれば、車両用シートフレームを構成するフレーム部材の一部を所定の条件で加熱後に徐冷した部分の強度を、それ以外の部分に比べて弱くすることができる。このように、フレーム部材の熱処理における冷却速度を制御することで、フレーム部材に部分的に強度の低い部分を設けることができる。
【0016】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記低強度部の金属組織は、パーライトを含むこととしてよい。なお、パーライトとは、フェライトとセメンタイトが共にある状態を総称しており、例えばフェライトをベースとしてセメンタイトが層状になったものである。
上記構成によれば、フレーム部材に金属組織が硬度の低いパーライトを含む箇所を部分的に設けることで、フレーム部材に部分的に強度の低い箇所を設けることができる。
【0017】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記低強度部は、シートバックフレームとシートクッションフレームとの接続部、前記シートバックフレームを構成するサイドフレームの下部、又は前記シートクッションフレームを構成するクッションサイドフレームの後部の少なくともいずれかに設けられることとしてよい。また、上記の接続部は、クッションサイドフレームと一体に構成されてもよい。
上記構成によれば、低強度部が脆弱部として機能することで車両衝突時のエネルギーを効率良く吸収させることができる。
【0018】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記熱処理は、前記フレーム部材を組み付けた状態で行われることとしてよい。
上記構成によれば、組み付け前に熱処理する場合に比べて、熱処理により発生する歪の大きさを抑制できる。
【0019】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部は、前記シートバックフレームの前記サイドフレームにおける、シート側面とシート後面との接続部に沿って設けられることとしてよい。
上記構成によれば、シート後方に掛かる力に対しシートバックフレームの強度を向上させることができる。
【0020】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記シートバックフレームの前記サイドフレームは、エアバッグ取付用の複数の穴が形成され、前記高強度部は、前記複数の穴の間において、シート前後方向に延出するように設けられることとしてよい。
上記構成によれば、シート前後方向に掛かる力に対してシートバックフレームのサイドフレームの強度を向上させることができる。これにより、シートバックフレームのサイドフレームの変形を抑制できる。
【0021】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部は、前記シートバックフレームの前記サイドフレームにおける、シート側面とシート後面との接続部に沿って設けられる第1領域と、前記複数の穴の間において、シート前後方向に延出するように設けられる複数の第2領域と、を有することとしてよい。
上記構成によれば、シートバックフレームのサイドフレームについて、シート側面の広い範囲で強度を向上させることができる。
【0022】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記溶接痕は、前記シートバックフレームの前記上部フレームと、前記シートバックフレームの前記サイドフレームとの溶接痕、又は前記シートバックフレームの前記下部フレームと、前記シートバックフレームの前記サイドフレームとの溶接痕の少なくとも一方であることとしてよい。
上記構成によれば、シートバックフレームのサイドフレームについて、シート上下方向の広い範囲で強度を向上させることができる。
【0023】
上記の車両用シートフレームにおいて、前記高強度部は、前記シートバックフレームの前記上部フレームと、前記シートバックフレームの前記サイドフレームとが重なる部分に設けられることとしてよい。
上記構成によれば、シートバックフレームの上部フレームとサイドフレームの接合部分の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、車両用シートフレームを軽量化しつつ、車両用シートフレームの必要な部分の強度を確保することができる。
本発明によれば、車両用シートフレームにおいて所定の条件で熱処理した箇所の変形を抑制することができる。
本発明によれば、車両用シートフレームの一部に対する熱処理時の冷却速度を制御することで、車両用シートフレームに部分的に強度の高い部分を設けることができる。
本発明によれば、車両用シートフレームに金属組織が硬度の高いマルテンサイトである箇所を部分的に設けることで、車両用シートフレームに部分的に強度の高い箇所を設けることができる。
本発明によれば、車両衝突時に応力が集中し易いシートバックフレームの上部フレーム及びサイドフレームの溶接周辺部や、シートバックフレームの下部フレーム及びサイドフレームの溶接周辺部の剛性を高め、車両用シートフレームの変形を抑制できる。
本発明によれば、車両用シートフレームを構成するフレーム部材について形状や材料を変更せずに、フレーム部材に部分的に強度の低い箇所を設けることができる。
本発明によれば、フレーム部材の熱処理における冷却速度を制御することで、フレーム部材に部分的に強度の低い部分を設けることができる。
本発明によれば、フレーム部材に金属組織が硬度の低いパーライトを含む箇所を部分的に設けることで、フレーム部材に部分的に強度の低い箇所を設けることができる。
本発明によれば、車両衝突時のエネルギーを効率良く吸収することができる。
本発明によれば、組み付け前に熱処理する場合に比べて、熱処理により発生する歪の大きさを抑制できる。
本発明によれば、シート後方に掛かる力に対しシートバックフレームの強度を向上させることができる。
本発明によれば、シート前後方向に掛かる力に対してシートバックフレームのサイドフレームの強度を向上させることができる。
本発明によれば、シートバックフレームのサイドフレームについて、シート側面の広い範囲で強度を向上させることができる。
本発明によれば、シートバックフレームのサイドフレームについて、シート上下方向の広い範囲で強度を向上させることができる。
本発明によれば、シートバックフレームの上部フレームとサイドフレームの接合部分の強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る車両用シート及び車両用シートの骨格となるシートフレームについて、
図1〜
図15を参照しながら説明する。
【0027】
本実施形態は、高張力鋼板を用いて成形されたフレーム部材を備える車両用シートフレームであって、前記フレーム部材のうち一部の金属組織が熱処理時の条件に応じた組織となっており、当該一部の強度が他の部分の強度と異なることを特徴とする車両用シートフレームの発明に関するものである。なお以下において、車両用シートのシートバックに対して乗員が着座する側をシート前方側、その逆側をシート後方側とする。
【0028】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の車両用シートSは、シートクッション1と、シートバック2とを備えるシート本体と、シートクッション1に対してシートバック2を回動可能に連結するリクライニング機構20と、車体フロアに対してシート本体を昇降可能に連結するハイトリンク機構21と、車体フロアに取り付けられ、シート本体を前後移動可能に支持するレール機構40と、から主に構成されている。
【0029】
シートクッション1は、乗員を下方から支持する着座部である。
図1及び
図2に示すように、シートクッション1は、骨格となるクッションフレーム10に載置したクッションパッド1aを表皮材1bで被覆して構成している。
【0030】
シートバック2は、乗員の背中を後方から支持する背もたれ部である。シートバック2は、骨格となるシートバックフレーム30に載置したクッションパッド2aを表皮材2bで被覆して構成している。
【0031】
車両用シートフレームFは、車両用シートSの骨格である。
図2に示されるように、車両用シートフレームFは、クッションフレーム10と、シートバックフレーム30と、クッションフレーム10とシートバックフレーム30を連結する連結ブラケット50を備える。
【0032】
図2に示すように、クッションフレーム10は、シートクッション1の骨格となる略矩形状の枠状体からなる。
クッションフレーム10は、左右側方に配置されるクッションサイドフレーム11と、各クッションサイドフレーム11の前方部分を連結するプレート状のパンフレーム12と、各クッションサイドフレーム11の後方部分を連結するパイプ状の後方連結フレーム13とを備える。
また、クッションフレーム10は、パンフレーム12及び後方連結フレーム13に掛け止めされ、蛇状に延びている3つの弾性バネ14と、パンフレーム12の下方に配置され、各クッションサイドフレーム11を連結するサブマリンパイプと、を備える。
【0033】
クッションサイドフレーム11は、シート前後方向に延出し、縦断面略コの字形状からなる板金部材である。クッションサイドフレーム11の後方部分にはリクライニング機構20が取り付けられ、その下方部分にはハイトリンク機構21を介してレール機構40が取り付けられている。
【0034】
リクライニング機構20は、シートバック2の回転動作をロックするロック状態と、ロック解除状態との間で切り替え可能である。シートバック2を起立姿勢でロックした状態から、リクライニング操作レバーが操作されることでリクライニング機構20のロック状態が解除され、シートバック2の起立姿勢を調整可能となる。
【0035】
ハイトリンク機構21は、シート本体の高さを調整可能とする機能を有する。ハイトリンク機構21は、クッションフレーム10とレール機構40の間において、シート前方側とシート後方側に取り付けられた2つのリンクを備え、これらのリンクの動作により高さ調整機構が実現される。なお、左右のクッションサイドフレーム11のそれぞれについて2つのリンクを備えている。
【0036】
レール機構40は、車体フロアに固定され、シート前後方向に延びる左右のロアレール41と、ロアレール41に沿って摺動可能に支持される左右のアッパレール42と、アッパレール42を摺動不能にロックするロック部材と、ロック部材のロック状態を解除するレール操作レバーと、から主に構成されている。
【0037】
ロアレール41は、長尺な中空体からなり、シート幅方向に間隔を空けて左右に配置されている。ロアレール41には、シート前後方向に沿って断面略凸形状の収容空間が形成されている。
【0038】
アッパレール42は、ロアレール41の収容空間内に挿入された状態でロアレール41に沿ってスライド移動する長尺体からなる。
図2に示すように、アッパレール42の上方部分には、レール連結ブラケット45を介してクッションフレーム10に接続するリンクが連結されている。
【0039】
次に、シートバックフレーム30の構成の詳細について説明する。
図2に示されるように、シートバックフレーム30は、上側に略逆U字形状に形成された中空円筒体の上部フレーム31と、上部フレーム31左右の端部とそれぞれと連結して配設される左右のサイドフレーム32と、左右のサイドフレーム32の下端部に架設される下部フレーム33とを備える。
また、シートバックフレーム30は、左右のサイドフレーム32の内側面に架設される弾性バネ34と、上部フレーム31の湾曲部の内側面に架設される上部クロスフレーム36と、を備える。
【0040】
左右のサイドフレーム32は、板金部材を左右内側に折り曲げた略U字形状からなる。左右のサイドフレーム32は、上下方向に延出し、互いに略平行な状態で左右方向に離間している。
サイドフレーム32には、エアバッグユニットを取り付けるための穴であるエアバッグ取付穴82a、エアバッグ取付穴82b、貫通穴82cが形成される。エアバッグユニットには、エアバッグ本体、エアバッグの展開方向を案内する力布、エアバッグ取付用のプレート等を含むこととする。例えば、エアバッグ取付穴82a及びエアバッグ取付穴82bは、エアバッグの力布を取り付ける箇所であり、貫通穴82cはエアバッグのモジュールから延出するボルトが挿通される箇所である。
また、貫通穴82cの周囲にはビード部が形成されている。特に、貫通穴82cのシート前方において、エアバッグ取付穴82aとエアバッグ取付穴82bとの間には、略U字状のビード部83が形成されている。
【0041】
右のサイドフレーム32の上方端部の内側側面と、上部フレーム31の右側端部とが当接するように配置される。そして、右のサイドフレーム32の上方端部と、上部フレーム31の右側端部とが溶接固定される。
同様に、左のサイドフレーム32の上方端部の内側側面と、上部フレーム31の左側端部とが当接するように配置される。そして、左のサイドフレーム32の上方端部と、上部フレーム31の左側端部とが溶接固定される。
なお、溶接にはレーザー溶接、アーク溶接等の各種の溶接を用いることとしてよい。
【0042】
下部フレーム33は、
図2に示すように、左右方向に延出たフレームの中央部と、フレーム中央部から左右に延出する部分をそれぞれ対向するように折り曲げて形成した端部とを備える。
【0043】
下部フレーム33の右側端部の内側面は、右のサイドフレーム32と当接するように配置される。そして、右のサイドフレーム32の下方端部と、下部フレーム33の右側端部とが溶接固定されている。
同様に、下部フレーム33の左側端部の内側面は、左のサイドフレーム32と当接するように配置される。そして、左のサイドフレーム32の下方端部と、下部フレーム33の左側端部とが溶接固定されている。
【0044】
サイドフレーム32の端部には、左右方向に貫通したシャフト貫通孔が設けられている。そして、連結シャフト35が、リクライニング機構20、リクライニング機構20とクッションフレーム10とを連結する連結ブラケット50、左右のサイドフレーム32の下端部をそれぞれ嵌通し、各部を固定している。
また、連結シャフト35は、リクライニング機構20によりシートバックフレーム30が回動する際の回転軸となっている。
【0045】
本実施形態に係るシートフレームにおいては、主に高張力鋼板(例えば440Mpa材)を用いて成形されたフレーム部材を溶接等により組み付けた状態で、シートフレームのうち強度を調整する箇所について部分的に硬度調整のための熱処理を行う。
本実施形態では、上記の熱処理をレーザーによる加熱処理と、加熱部分の冷却処理により行うこととするが、これに限定されるものではない。
また、上記のフレーム部材とは、シートフレームを構成する要素である。例えばシートバックフレーム30を構成する各部材、クッションフレーム10を構成する各部材、シートバックフレーム30とクッションフレーム10を連結するブラケット等が、上記のフレーム部材の一例に相当する。
【0046】
具体的には、上部フレーム31とサイドフレーム32との溶接部周辺と、サイドフレーム32と下部フレーム33との溶接部周辺とについて、強度が高くなるように熱処理(強度向上用の熱処理)を施す。上記の強度向上用の熱処理は、加熱処理とその後の冷却処理における冷却速度を制御することにより行われる。なお、強度向上用の熱処理が施されることで金属組織が変化した箇所を、高強度部と称する。
【0047】
また、本実施形態に係るシートフレームにおいては、クッションフレーム10とシートバックフレーム30とを連結する連結ブラケット50の一部、シートバックフレーム30を構成する左右のサイドフレーム32の下端部の周辺、又はクッションフレーム10を構成するクッションサイドフレーム11の後端部の周辺について、強度が低くなるように熱処理(強度低下用の熱処理)を施す。上記の強度低下用の熱処理は、加熱処理とその後の冷却処理における冷却速度を制御することにより行われる。なお、強度低下用の熱処理が施されることで金属組織が変化した箇所を、低強度部と称する。
以下、熱処理の条件と鋼の組織変化との関係について説明する。
【0048】
図3には、鋼をA1変態点以上になるまで加熱し(
図3に示す例では1000℃まで加熱)、オーステナイト組織(S2)にした後に、冷却速度の違いによってオーステナイトから遷移する金属組織の分類を示した。
【0049】
図3に示されるように、1000℃のオーステナイト組織の鋼を2秒以内に540℃以下となる冷却速度(臨界冷却速度)で冷却したときには(例えば冷却曲線C1)、オーステナイト組織からマルテンサイト組織(S1)に遷移する。
【0050】
また、
図3に示されるように、1000℃のオーステナイト組織の鋼を2秒以内に540℃となる冷却速度未満で冷却したときには(例えば冷却曲線C2又はC3)、金属組織にパーライト組織(S3、S4)を含むように遷移する。この場合において、冷却曲線がC2の場合には、マルテンサイト組織とパーライト組織が混在しているが(S3)、冷却速度をより遅くし冷却曲線C3で冷却した場合には、パーライト組織となる(S4)。
【0051】
なお、金属組織の硬度は、マルテンサイト(S1)>マルテンサイト+パーライト(S3)>パーライト(S4)である。
【0052】
また、オーステナイト組織に変化するまで加熱した鋼の冷却方法としては、ドライアイスパウダーを熱処理箇所に吹き付ける方法、冷却したエアーを熱処理箇所に吹き付ける方法、ドライミストを熱処理箇所に吹き付ける方法等を用いることとしてよい。この中でも、臨界冷却速度以上の冷却速度を満足するためにはドライミストによる冷却が好適である。
例えばドライミストによる冷却工程においては、冷却エアーに微量の水分を含ませた低温ドライミストを利用することとしてよい。この際、ミストの粒径は例えば30μm程度とすると好適である。
焼入れの急冷工程において、上記の低温ドライミストを使用することで、冷却に使用する水分量を少なくしつつ、効果的な冷却を行うことができる。これにより、電子機器等の水による故障が懸念される部品の周辺においても、焼入れを行うことができる。また、冷却に用いる水分の量を低減でき、大掛かりな防水機構を採用しなくともよいため、焼入れ工程のコストを削減できる。
【0053】
本実施形態においては、熱処理により強度を高くする場合には熱処理箇所の金属組織がマルテンサイトとなるように冷却速度を制御する。一方、熱処理により強度を低くする場合には熱処理箇所の金属組織がパーライトを含むように冷却速度を制御する。
【0054】
次に、
図4乃至
図7を参照しながら、本実施形態に係る車両用シートフレームFにおける具体的な熱処理箇所について説明する。まず、車両用シートフレームFの一部に強度を高めるための熱処理を施すことで形成される高強度部の形成箇所の具体例について説明する。
【0055】
図4は、
図2の要部拡大図であって、上部フレーム31とサイドフレーム32の接合部分に形成される高強度部の一例を示す斜視図である。
図4において、上部フレーム31と上部クロスフレーム36とは溶接部60aにおいて溶接(アーク溶接)されている。また、上部フレーム31とサイドフレーム32とは溶接部60b,60cにおいて溶接(レーザー溶接)されている。なお、溶接の態様は例示であり、本実施形態において図示する溶接態様に限定されるものではない。
【0056】
ここで、
図4に示す高強度部61は、上部フレーム31とサイドフレーム32の溶接部60a,60b,60cの少なくとも一部を含む領域に設けられている。ここで、高強度部61は、上部フレーム31とサイドフレーム32の断面の全周に亘って設けられることとしてもよいし、断面の一部に設けられることとしてもよい。
【0057】
なお、高強度部61については、以下の強度向上用の熱処理を施す。すなわち、強度向上用の熱処理では、1000℃に加熱されオーステナイト組織となった鋼を、2秒以内に540℃以下に急冷することでマルテンサイト組織に変化させる。これにより、上記の強度向上用の熱処理が施された高強度部61の硬度が、上記の強度向上用の熱処理が施されていない箇所よりも高くなる。そのため、上部フレーム31とサイドフレーム32の接合部分の強度を局所的に向上させることができる。
【0058】
次に、
図5及び
図6を参照しながら、上部フレーム31とサイドフレーム32の接合部分に形成される高強度部の他の例について説明する。
図5は、
図2の要部拡大図であって、上部フレーム31とサイドフレーム32の接合部分に形成される高強度部の他の一例を示す斜視図である。また、
図6は、
図5のVI−VI断面図であって、上部フレーム31とサイドフレーム32の接合部分に形成される高強度部の断面図である。
【0059】
図5及び
図6に示されるように、高強度部61aは
図4に示す高強度部61よりも範囲が狭くなっている。すなわち、高強度部61aは上部フレーム31とサイドフレーム32との溶接部を含むが、上部クロスフレーム36と上部フレーム31との溶接部は含まない領域に設けられている。また、
図6に示されるように、高強度部61aは、上部フレーム31とサイドフレーム32との断面のうちシート前方側に対して設け、シート後方側に対しては設けなくともよい。
【0060】
なお、高強度部61aについても金属組織がマルテンサイトとなるように強度向上用の熱処理を施すこととする。これにより、
図5及び
図6に示す例では、車両衝突時に応力が集中するシート前方側の上部フレーム31とサイドフレーム32の接合箇所周辺の強度を局所的に向上させることができる。
【0061】
次に、
図7に示されるように、高強度部は、例えばサイドフレーム32と下部フレーム33との接合部分に設けられることとしてよい。
図7には、
図2の要部拡大図であって、サイドフレーム32と下部フレーム33の接合部分に形成される高強度部の一例を示す斜視図である。
図7において、サイドフレーム32と下部フレーム33とは溶接部70において溶接(レーザー溶接)されている。
【0062】
図7に示す高強度部71は、サイドフレーム32と下部フレーム33の溶接部70を含む領域に設けられている。ここで、高強度部71については、1000℃に加熱されオーステナイト組織となった鋼を、2秒以内に540℃以下に急冷することでマルテンサイト組織に変化させる強度向上用の熱処理を施すこととする。これにより、高強度部71の硬度が、上記の強度向上用の熱処理が施されていない箇所よりも高くなるため、サイドフレーム32と下部フレーム33の接合部分の強度を向上させることができる。
【0063】
次に、
図8及び
図9を参照しながら、車両用シートフレームFを構成するフレーム部材のうち、強度を低めるための熱処理を施すことで形成される低強度の形成箇所の具体例について説明する。
【0064】
図8に示されるように、クッションフレーム10とシートバックフレーム30とを連結する連結ブラケット50の一部に低強度部54を設ける。連結ブラケット50には、クッションサイドフレーム11と連結ブラケット50とを締結するボルトを挿通するボルト締結用孔52,53と、連結シャフト35用のシャフト貫通孔51が形成される。連結シャフト35にはリクライニング機構20が取り付けられ、リクライニング機構20を介して連結ブラケット50にシートバックフレーム30が連結されている。
【0065】
ここで、
図8に示す連結ブラケット50では、クッションフレーム10が連結される部分と、シートバックフレーム30が連結される部分との間に、周囲よりも強度を低くした低強度部を設ける。すなわち、
図8に示す連結ブラケット50では、シャフト貫通孔51とボルト締結用孔53との間に、熱処理により金属組織を周囲よりも硬度が低い、例えばパーライト組織に変化させた低強度部54を形成する。
【0066】
低強度部54については、以下の強度低下用の熱処理を施す。すなわち、強度低下用の熱処理では、レーザーにより1000℃に加熱されオーステナイト組織となった鋼を、例えば自然冷却(自己冷却)により臨界冷却速度よりも遅い冷却速度で徐冷することでパーライト組織に変化させる。
なお、780材(引張強度が780MPa)以上の高張力鋼板を用いた場合においては、上記の強度低下用の熱処理により、低強度部54の硬度が、強度向上用の熱処理を施した部位や熱処理を施していない他の部位の金属組織に比べて低くなるため、連結ブラケット50の強度を部分的に低くすることができる。車両衝突時には脆弱部となる低強度部54が変形することにより、シートバックフレーム30への応力集中を低減することができる。すなわち、低強度部54が脆弱部として機能することにより、車両衝突時の衝撃を効率良く吸収することができる。
【0067】
また、
図9に示されるように、シートバックフレーム30を構成するサイドフレーム32の下方端部の周辺に低強度部72を設けることとしてよい。ここで、サイドフレーム32の下方端部とは、サイドフレーム32における下部フレーム33との接合部分に近い側の端部をいう。なお、低強度部72も、上記と同様の強度低下用の熱処理を施すことにより形成される。このように、サイドフレーム32の下方端部の周辺に低強度部72を設け、車両衝突時に低強度部54を脆弱部として変形させることにより、車両衝突時の衝撃を効率良く吸収することができる。
【0068】
また、
図9に示されるように、クッションフレーム10を構成するクッションサイドフレーム11の後方端部の周辺に低強度部73を設けることとしてよい。ここで、クッションサイドフレーム11の後方端部とは、クッションサイドフレーム11においてシート後方側の端部をいう。なお、低強度部73も、上記と同様の強度低下用の熱処理を施すことにより形成される。このように、サイドフレーム32の下方端部の周辺に低強度部73を設け、車両衝突時に低強度部73を脆弱部として変形させることにより、車両衝突時の衝撃を効率良く吸収することができる。なお、上述した低強度部54,72,73のうちいずれか1つを形成した場合には他の低強度部については形成しなくともよい。
【0069】
上記の実施形態に係る車両用シートフレームでは、レーザーにより所定温度(A1変態点以上であり例えば1000℃)以上に加熱しオーステナイト組織とした熱処理箇所について、その後の冷却速度を制御し強度の異なる金属組織に遷移させることとする。これにより、車両用シートフレームの形状、材料等を変更することなく、車両用シートフレームの熱処理箇所の強度を他の箇所と異ならせることができる。
また、上記の実施形態に係る車両用シートフレームでは、車両用シートフレームを構成するフレーム部材を溶接等により組み付けた状態で、強度を調整する対象部分に対し(すなわちフレームコンプ品における強度調整部分に対し)、加熱処理後の冷却速度を制御することで対象部分の強度を調整することができる。
【0070】
また、上記の実施形態に係る車両用シートフレームでは、車両用シートフレームの対象部分をレーザーにより1000℃以上に加熱した後に所定の冷却速度以上(例えば毎秒230℃以上)で冷却を行い、熱処理箇所を例えばオーステナイト組織からマルテンサイト組織に遷移させることとする。これにより、形状変更、肉厚変更、補強部材の追加、材料変更等をすることなく、対象部分の強度を高くすることができる。こうすることで、高張力鋼板を用いて成形したシートフレームにおいて、超高張力鋼板相当の強度(980Mpa以上)を部分的に得ることができる。
【0071】
また、上記の実施形態に係る車両用シートフレームでは、レーザーによる加熱後に所定の冷却速度未満(例えば自然冷却)で冷却を行うこととする。熱処理箇所を例えばオーステナイト組織からパーライト組織に遷移させることで、形状変更、肉厚変更、凹凸、切り欠き等の加工、材料変更等をすることなく、必要部分の強度を低くすることができる。
【0072】
また、熱処理によりシートフレームにおいて高強度部や低強度部を形成する工程は、フレーム部材を組み付けた後にも行うことができるため、製造工程の自由度が高い。また、シートフレームを構成するフレーム部材の溶接を、レーザーを用いて行う場合には、熱処理箇所の加熱をレーザー溶接の設備、治具、製造ラインを用いて行うことができるため、製造コストの低減が可能であり、量産化が容易となる。
【0073】
また、上記の 実施形態に係る車両用シートフレームでは、部品の取付等の平面部を確保し易く、面の張り出しや切欠がないため、形状をコンパクトにできる。
【0074】
また、本発明に係る熱処理による強度を調整する対象部品には特に制約がなく、パイプ、プレス品のいずれであっても構わない。
【0075】
また、本実施形態に係る車両用シートフレームでは、レーザー加熱後の酸化被膜が加工の痕跡として残るほか、仮に酸化被膜を塗装して痕跡を消した場合においても電子顕微鏡やハンディ通電による確認が可能である。
【0076】
<その他の実施形態>
本発明に係る車両用シートフレームは、前席のみならず後席のシートフレームに対しても同様に適用することができる。
【0077】
ここで
図10には、後席のリアバックフレーム100の斜視図を示す。
図11には
図10の要部拡大図であって、フレーム骨格部の接合部分における熱処理箇所を示す斜視図を示す。
【0078】
図10に示されるように、リアバックフレーム100は、リアバックフレーム100の骨格を形成する角棒状の骨格フレーム(例えば骨格フレーム101,102,103)と、リアバックフレーム100の面を形成するプレート状のパンフレーム(例えばリアパンフレーム105)とを備える。
シートバックフレームの横方向の骨格を担う骨格フレーム(例えば骨格フレーム101)と、シートバックフレームの縦方向の骨格を担う骨格フレーム(例えば骨格フレーム102,103)とは、溶接されている。
図10に示す例では、フレームをレーザー溶接しているが、フレームをアーク溶接等の他の溶接により接合してもよい。
【0079】
ここで、
図11には、
図10に示されるリアバックフレーム100に関し、骨格フレーム101と骨格フレーム103の接合箇所XIを拡大して表示している。
図11に示されるように、骨格フレーム101と骨格フレーム103のフランジ部103aは溶接部110aで溶接される。骨格フレーム101と骨格フレーム103のフランジ部103bは溶接部110bで溶接される。骨格フレーム101と骨格フレーム103の凹部103cとは溶接部110cで溶接される。
【0080】
そして、
図11に示されるように、本発明の一態様に係るリアバックフレーム100では、リアバックフレーム100を構成する骨格フレーム103の稜線部分の高強度部120については、強度向上用の熱処理を施す。例えば、強度向上用の熱処理では、1000℃に加熱されオーステナイト組織となった鋼を、2秒以内に540℃以下に急冷することでマルテンサイト組織に変化させることとする。
これにより、高強度部120の硬度が、強度低下用の熱処理を施した部位や熱処理を施していない他の部位の金属組織に比べて高くなる。そのため、骨格フレーム103の強度を向上させることができる。
また、骨格フレーム103以外の骨格フレームやパンフレームについても強度向上用の熱処理や、強度低下用の熱処理により部分的に強度を調整してもよい。
【0081】
上記実施形態において、
図2に示すように、車両用シートSは、ハイトリンク機構21やレール機構40を備えた構成となっているが、これらの構成を備えることは必須ではい。例えば、車体フロアに固定されたベース部材とクッションフレーム10(クッションサイドフレーム11)とが直接連結されていてもよい。また、連結ブラケット50についても、クッションサイドフレーム11と一体に形成し、部品数を削減するようにしてもよい。
【0082】
[シートバックフレームの変形例]
次に、
図12〜
図15に基づいて、本発明の変形例に係る車両用シートフレームF1について説明する。車両用シートフレームF1は、車両用シートフレームFに対し、サイドフレーム32の構成及び熱処理箇所の点で主に相違する。以下では、車両用シートフレームF1について、主に車両用シートフレームFからの相違点について説明する。
【0083】
図12及び
図13に示されるように、車両用シートフレームF1のサイドフレーム32は、溶接部80及び溶接部81において上部フレーム31と接合している。
溶接部80は、サイドフレーム32の上端部に2箇所設けられた略U字状の溶接部である。溶接部80は、サイドフレーム32の上端部と上部フレーム31を接合する。
また、溶接部81は溶接部80よりも下方に設けられた直線状の溶接部である。溶接部81は、上部フレーム31の下端部とサイドフレーム32を接合する。
【0084】
また、
図15に示されるように、車両用シートフレームF1のサイドフレーム32は、下部フレーム33と溶接部85a、溶接部85b、溶接部85c及び溶接部85dにおいて接合される。
なお、車両用シートフレームF1では、上部フレーム31、サイドフレーム32、下部フレーム33の溶接には、レーザー溶接を用いた例を示しているが、アーク溶接等の他の溶接方法を用いてもよい。
【0085】
また、車両用シートフレームF1には、車両用シートフレームFと同様に、サイドフレーム32には、エアバッグユニットを取り付けるための穴であるエアバッグ取付穴82a、エアバッグ取付穴82b、貫通穴82cが形成される。エアバッグユニットには、エアバッグ本体、エアバッグの展開方向を案内する力布、エアバッグ取付用のプレート等を含むこととする。例えば、エアバッグ取付穴82a及びエアバッグ取付穴82bは、エアバッグの力布を取り付ける箇所であり、貫通穴82cはエアバッグのモジュールから延出するボルトが挿通される箇所である。
【0086】
次に、
図13乃至
図15を参照しながら、車両用シートフレームF1における熱処理箇所について説明する。
【0087】
図13乃至
図15に示されるように、車両用シートフレームF1では、サイドフレーム32におけるシート側面32aとシート後面32bとを接続する稜線部分である接続部32cに沿って、強度向上用の焼入れを行うことにより、高強度部84dと高強度部84e(第1領域に相当)が形成される。
ここで、高強度部84dは、接続部32cの上部であって、溶接部81と対向する位置に形成される。例えば、高強度部84dは、エアバッグ取付穴82aよりも上に形成される。
また、高強度部84eは、接続部32cの下部であって、溶接部85aと少なくとも一部が重なる位置に形成される。例えば、高強度部84eは、エアバッグ取付穴82bよりも下に形成される。
このように、サイドフレーム32に高強度部84d及び高強度部84eを形成することにより、シート後方に掛かる力に対しサイドフレーム32の強度を向上させることができる。
なお、車両用シートフレームF1では、高強度部84dと高強度部84eとを離間して形成したが、両者を繋げて1つにしてもよい。
【0088】
また、車両用シートフレームF1では、エアバッグ取付穴82b及び貫通穴82cの間において、高強度部84cの近傍からシート前方に延出する領域に強度向上用の焼入れを行うことにより、高強度部84a(第2領域に相当)が形成される。
また、車両用シートフレームF1では、エアバッグ取付穴82a及び貫通穴82cの間において、高強度部84cの近傍からシート前方に延出する領域に強度向上用の焼入れを行うことにより、エアバッグ取付穴82b(第2領域に相当)が形成される。
このように、サイドフレーム32に高強度部84a及び高強度部84bを形成することにより、シート前後方向に掛かる力に対してサイドフレーム32の強度を向上させることができる。これにより、サイドフレーム32の変形を抑制できる。
【0089】
また、高強度部84aと高強度部84bとのシート前方の端部を接続する領域(第3領域)に、強度向上用の焼入れを行うことにより、高強度部84cが形成される。
このように、異なる方向に焼入れをすることで、サイドフレーム32のシート側面32aの広い範囲でバランス良く強度を向上させることができる。
なお、車両用シートフレームFでは、貫通穴82cの前方にビード部83を設けることで、貫通穴82cの周囲の剛性を高めている。一方、車両用シートフレームF1では、貫通穴82cの前方に高強度部84a、高強度部84b、高強度部84cからなる略U字状の焼入れ箇所を設けることで、ビード部83と同様に貫通穴82cの周囲の剛性を高めることができる。
【0090】
車両用シートフレームF1では、サイドフレーム32のシート側面32aを、高強度部84a、高強度部84b、高強度部84c、高強度部84d、高強度部84eにより補強したことで、シート側面32aの広い範囲の強度を向上させることができる。
【0091】
また、
図13乃至
図15に示される例では、高強度部84a及び高強度部84bを、高強度部84d及び高強度部84eから離間する位置に形成している。ただし、高強度部84aと高強度部84d、そして高強度部84bと高強度部84eを連結してもよい。
【0092】
また、車両用シートフレームF1では、高強度部84dは、溶接部81に沿って(略平行に)形成し、高強度部84eは、シート上下方向に延出する溶接部85aと重なって形成している。
このように、接続部32cに沿った高強度部84d及び高強度部84eを形成することにより、サイドフレーム32の上部から下部に渡る広い範囲の強度を向上させることができる。
【0093】
また、車両用シートフレームF1では、高強度部84dは、サイドフレーム32と上部フレーム31とが重なる部分に設けられる。これにより、上部フレーム31とサイドフレーム32との接合部分の強度を向上させることができる。
【0094】
上記実施形態では、具体例として自動車に用いられる車両用シートについて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、電車、バス等の車両用シートのほか、飛行機、船等の乗物用シートにも適用してもよい。
【0095】
また、上記実施形態において、高張力鋼板には、例えば引張り強さが340MPa以上の鋼板であるものとしてよいが、高張力鋼板の定義は上記に限られるものではない。
【0096】
本実施形態では、主として本発明に係る車両用シートフレームに関して説明した。ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。