(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス充填剤(C)が、扁平率1.5〜8の断面形状を持つガラス繊維と、平均厚みが0.1〜10μmのガラスフレークのいずれか一方又は双方であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、キャビティ表面側から、金属層、次いで熱硬化性樹脂層を具備する金型で射出成形することを特徴とする成形品の製造方法。
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形品を製造する方法であって、急速加熱冷却金型を用い、金型キャビティ表面温度が130℃以上のときに射出工程を行い、金型キャビティ表面温度が80℃以下のときに型開き工程を行うことを特徴とする成形品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、粘度平均分子量が13,000〜22,000のポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、ガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25〜65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75〜35質量部含み、該熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10〜45質量部含むことを特徴とする。
【0023】
[メカニズム]
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、テレフタル酸残基、1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)をポリカーボネート樹脂(A)に対して所定の割合で混合して用いることにより、樹脂マトリクスの屈折率をガラスの屈折率に近づけることができ、樹脂マトリクスの屈折率とガラス充填剤(C)の屈折率の差に起因する透明性の低下の問題を軽減することができる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ガラスよりも屈折率が大きく、ポリカーボネート樹脂(A)にガラス充填剤(C)を充填したガラス強化ポリカーボネート樹脂組成物では、この屈折率差に起因して透明性が大きく低下する。ポリカーボネート樹脂(A)に対して、屈折率の小さいポリエステル樹脂(B)を所定の割合で配合することにより、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)で形成される樹脂マトリクスの屈折率を、用いるガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができ、透明性を顕著に改善することができる。
【0025】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、透明性、耐衝撃性、耐熱性等の面から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0026】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0027】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0028】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0030】
芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよい。一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、13,000〜22,000、好ましくは13,000〜20,000である。ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が上記下限よりも小さいと熱可塑性樹脂組成物製造時のストランドの引き取りが安定せずにペレット化が困難となる。ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が上記上限よりも大きいとポリエステル樹脂(B)との相溶性が低下して透明性に優れた成形品を得ることができない。
【0033】
ポリカーボネート樹脂(A)としては、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量が上記範囲となるように用いる。
【0034】
[ポリエステル樹脂(B)]
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、テレフタル酸残基、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と称す場合がある。)残基、及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(以下「TMCD」と称す場合がある。)残基を含む非晶性ポリエステル樹脂(B)である。
【0035】
「残基」とは、ポリエステル樹脂の製造原料として用いられる化合物に由来して、ポリエステル樹脂中に取り込まれる構造部分をさす。
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(ジカルボン酸或いはその誘導体)とジオールとをエステル化反応又はエステル化交換反応して得られるものであるが、本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、ジカルボン酸成分として少なくともテレフタル酸成分(テレフタル酸或いはその誘導体)を用い、ジオールとして少なくともCHDMとTMCDを用いて製造されたものである。
【0036】
CHDMはシス、トランス、或いはこれらの混合物のいずれであってもよい。TMCDについてもシス、トランス、或いはこれらの混合物でのいずれあってもよい。
【0037】
ポリエステル樹脂(B)は、ポリエステル樹脂(B)に含まれる全ジオール残基に占めるCHDM残基とTMCD残基の合計の割合が85モル%以上、特に90〜100モル%、とりわけ95〜100モル%であることが、透明性、耐熱性の観点から好ましい。
【0038】
ポリエステル樹脂(B)は、CHDM残基とTMCD残基の合計100モル%に占めるCHDM残基の割合が10〜90モル%で、TMCD残基の割合が90〜10モル%であることが好ましく、CHDM残基の割合が20〜85モル%でTMCD残基の割合が15〜80モル%であることがより好ましく、CHDM残基の割合が30〜80モル%でTMCD残基の割合が20〜70モル%であることが特に好ましい。全ジオール残基に占めるCHDM残基またはTMCD残基の比率が100モル%に近づくと、ポリエステル樹脂(B)が結晶性となり、透明性が低下するため好ましくない。CHDM残基とTMCD残基とを上記割合で含むことで、透明性、耐熱性を向上させることができるため好ましい。
【0039】
ポリエステル樹脂(B)がジオール残基としてCHDM残基及びTMCD残基以外の他のジオール残基を含む場合、他のジオール残基を構成するジオールとしては、2〜16個の炭素原子を含むジオール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、p−キシレングリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0040】
ポリエステル樹脂(B)は、ポリエステル樹脂(B)に含まれる全ジカルボン酸残基に占めるテレフタル酸残基の割合が50モル%以上、特に80モル%以上、とりわけ90〜100モル%であることが、入手性の観点から好ましい。
【0041】
ポリエステル樹脂(B)が、テレフタル酸残基以外の他のジカルボン酸残基を含む場合、他のジカルボン酸残基を構成するジカルボン酸としては、イソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,4−、1,5−、2,6−、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−スチルベンジカルボン酸の芳香族ジカルボン酸や、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アザレン酸等の脂肪族ジカルボン酸の1種又は2種以上が挙げられる。
【0042】
ポリエステル樹脂(B)は、1種のみを用いてもよく、CHDM残基とTMCD残基の組成や物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0043】
[ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の割合]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを、これらの合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25〜65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75〜35質量部含む。この範囲よりもポリカーボネート樹脂(A)が多く、ポリエステル樹脂(B)が少なくても、逆にポリエステル樹脂(B)が多く、ポリカーボネート樹脂(A)が少なくても、樹脂マトリクスの屈折率をガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができず、透明性に優れた成形品を得ることができない。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特にポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を26〜60質量部、ポリエステル樹脂(B)を40〜74質量部含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂(A)を27〜55質量部、ポリエステル樹脂(B)を45〜73質量部含むことが更に好ましい。
【0045】
ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合割合は、用いるガラス充填剤(C)の屈折率と樹脂マトリクスの屈折率とが近似するように設計することが好ましい。従って、用いるガラス充填剤(C)の屈折率に応じて、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合割合は適宜調整することが好ましい。
【0046】
[その他の樹脂成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が含有し得る他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(B)以外のポリエステル樹脂や熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0048】
これらの他の熱可塑性樹脂の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを併用することによる本発明の効果、即ち透明性の改善効果を有効に得る上で、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)と他の熱可塑性樹脂との合計である全熱可塑性樹脂成分100質量部中に10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0049】
[ガラス充填剤(C)]
本発明で用いるガラス充填剤(C)の形態には特に制限はなく、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスビーズなど様々な形態のものを用いることができる。ガラス充填剤(C)はこれらの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。透明性と補強効果の観点からガラス繊維及び/又はガラスフレークを用いることが好ましく、ガラス繊維又はガラスフレークを用いることがより好ましく、ガラス繊維を用いることが特に好ましい。
【0050】
ガラス充填剤(C)のガラス組成には特に制限はないが、好ましくは無アルカリガラス(Eガラス)である。
【0051】
ガラス充填剤(C)として用いるガラス繊維は、断面(ガラス繊維の繊維長さ方向に直交する断面)形状が、円形のものよりも、断面形状が扁平のガラス繊維(以下、「扁平断面ガラス繊維」と称す場合がある。)の方が、成形時の配向性に優れ、寸法安定性等の向上効果に優れる上に、成形品の透明性の向上にも有効であることから好ましい。
【0052】
ガラス繊維の断面形状は、繊維の長さ方向に直交する断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率で表される。本発明で用いるガラス繊維の扁平率はその平均値で1.5〜8であることが好ましく、3〜8であることがより好ましい。
【0053】
本発明で用いる扁平断面ガラス繊維の断面の長径D1の平均値は、通常10〜50μm、好ましくは15〜40μm、より好ましくは20〜35μm、さらに好ましくは24〜30μm、特に好ましくは25〜30μmである。
【0054】
扁平断面ガラス繊維の断面形状は、扁平状(略長方形状)の他、楕円状、繭状、三つ葉状、及びこれに類する形状の非円形形状が含まれるが、扁平状又は楕円状が好ましく、扁平状が特に好ましい。
【0055】
本発明で用いるガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)は、通常2〜1000、好ましくは2.5〜700、より好ましくは3〜600である。ガラス繊維のアスペクト比が2以上であれば、機械的強度の向上効果に優れ、600以下であれば、ソリや異方性を抑え、成形品外観の低下を防止することができる。
【0056】
ガラス繊維の平均繊維径(直径)とは、円形断面のガラス繊維であれば、その直径が該当する。その他の断面形状のガラス繊維では、その断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径(直径)をいう。ガラス繊維の平均繊維長とは、繊維の長軸方向の長さの数平均値をいう。ガラス繊維の平均繊維長、平均繊維径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により任意に選択した100個程度のガラス繊維について測定した繊維長と繊維径の平均値として求めることができるが、市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0057】
ガラスフレークとは、通常、平均粒径が10〜4000μm、平均厚みが0.1〜10μmで、アスペクト比(平均最大径/平均厚みの比)が2〜1000程度の鱗片状のガラス粉末である。本発明で用いるガラスフレークは、平均粒径2000μm以下、特に100〜1500μmで、平均厚みが0.1〜10μm、特に0.4〜6μmで、アスペクト比が10〜800、特に50〜600のものが好ましい。
【0058】
ガラス充填剤(C)は、樹脂マトリクスとの接着性を改良すると共に、ポリカーボネート樹脂(A)の分解を抑制するために、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理したものを用いてもよい。市販のガラス繊維やガラスフレークは、予め表面処理剤で表面処理されているものが多いため、表面処理品を用いる場合は、表面処理剤を更に用いる必要はない。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ガラス繊維等のガラス充填剤(C)を、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して10〜45質量部含む。ガラス充填剤(C)の含有量が10質量部未満では、ガラス充填剤(C)を配合したことによる剛性等の向上効果を十分に得ることができない。ガラス充填剤(C)の含有量が45質量部を超えると、ガラス充填剤(C)の高配合に起因してガラス充填剤(C)の表面浮きによる透明性や成形品外観の低下、耐衝撃性の低下が問題となる上に、熱可塑性樹脂組成物の溶融押出(ペレット化)が困難になる場合がある。ガラス充填剤(C)は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対して12〜43質量部、特に15〜40質量部配合することが好ましい。
【0060】
[その他の添加剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、リン系熱安定剤等の安定剤(D)、離型剤(E)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤(染顔料)、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤、滴下防止剤などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物に好適な添加剤の一例について具体的に説明する。
【0061】
<安定剤(D)>
安定剤(D)としては、以下のリン系熱安定剤、フェノール系酸化防止剤、有機リン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0062】
(リン系熱安定剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、リン系熱安定剤を含有していてもよい。リン系熱安定剤は一般的に、樹脂成分を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形品使用時の耐熱安定性の向上に有効である。
【0063】
リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル(ただし、後述の有機リン酸エステル化合物を除く。)等が挙げられる。中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0064】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0065】
ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0066】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0067】
リン系熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がリン系熱安定剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して通常0.01〜3質量部、特に0.02〜1質量部、とりわけ0.03〜0.5質量部が好ましい。リン系熱安定剤の配合量が上記下限値以上であると、リン系熱安定剤を配合することによる熱安定性の向上効果を十分に得ることができる。リン系熱安定剤の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
【0069】
(フェノール系酸化防止剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物はフェノール系酸化防止剤を含有していてもよい。フェノール系酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下を抑制することができる。
【0070】
フェノール系酸化防止剤しては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0071】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。フェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−60」、「アデカスタブAO−50」等が挙げられる。
【0072】
フェノール系酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がフェノール系酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して通常0.02〜3質量部、特に0.03〜1質量部、とりわけ0.04〜0.5質量部が好ましい。フェノール系酸化防止剤の配合量が上記下限値以上であると、フェノール系酸化防止剤を配合することによる上記の効果を有効に得ることができる。フェノール系酸化防止剤の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、リン系熱安定剤とフェノール系酸化防止剤とを共に含有することが好ましく、この場合、リン系熱安定剤とフェノール系酸化防止剤とを、リン系熱安定剤:フェノール系酸化防止剤=1:0.2〜3の質量比で、合計量としてポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部中に対して0.04〜2質量部含有することが好ましい。
【0075】
(有機リン酸エステル化合物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性の向上のために下記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物を含有していてもよい。
(RO)
nP(O)(OH)
3−n …(1)
一般式(1)中、Rは総炭素数が2〜25の、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。nは1又は2を表す。nが2の場合に2つのRは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。
【0076】
一般式(1)におけるRが表す非置換のアルキル基としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基及びステアリル基などが挙げられる。置換基を有するアルキル基としては、ブチル基やアリル基、メタリル基などの鎖状炭化水素基がエーテル結合やエステル結合によりアルキル基に結合したものが挙げられる。Rとしてはこれらの置換基を有するアルキル基を用いることが好ましい。また置換基の炭素も含めたRにおける総炭素数は5以上であることが好ましい。
【0077】
有機リン酸エステル化合物は一般式(1)におけるRやnが異なる化合物の混合物であってもよい。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が有機リン酸エステル化合物を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して通常0.02〜3質量部、特に0.03〜1質量部、とりわけ0.04〜0.5質量部が好ましい。有機リン酸エステル化合物の配合量が上記下限値以上であると、有機リン酸エステル化合物を配合することによる熱安定性の向上効果を十分に得ることができる。有機リン酸エステル化合物の配合量は多過ぎてもその効果は頭打ちとなり、経済的でないので上記上限以下とする。
【0079】
<離型剤(E)>
離型剤(E)としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、及びポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0080】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸が挙げられる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0081】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族は、脂環式化合物も含有する。係るアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0082】
上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0083】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0084】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素には、脂環式炭化水素も含まれる。これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0085】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0086】
離型剤(E)を用いる場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のその含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。離型剤の含有量が上記下限値以上であると離型性改善の効果を十分に得ることができる。離型剤の含有量が上記上限値以下であると離型剤の過剰配合による耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などの問題を防止することができる。
【0087】
<紫外線吸収剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤を含有することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐候性を向上させることができ、耐候性の向上で透明性の低下を防止することができる。
【0088】
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0089】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0090】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
ベンゾフェノン化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
【0091】
サリシレート化合物の具体例としては、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
サリシレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
【0092】
シアノアクリレート化合物の具体例としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の市販品としては、例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
【0093】
オギザニリド化合物の具体例としては、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられる。
オキザリニド化合物の市販品としては、例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
【0094】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
マロン酸エステル化合物の市販品としては、例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0095】
紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、通常0.001〜3質量部、好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.1〜0.5質量部、さらに好ましくは0.1〜0.4質量部である。紫外線吸収剤の含有量が上記下限値以上であると、耐候性の向上効果を十分に得ることができる。紫外線吸収剤の含有量が上記上限値以下であれば、モールドデボジット等による金型汚染を防止することができる。
【0097】
<帯電防止剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、所望によって帯電防止剤を含有していてもよい。帯電防止剤は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(2)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩が挙げられる。
【0099】
一般式(2)中、R
3は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良い。R
4〜R
7は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。
【0100】
一般式(2)中のR
3は、炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、ポリカーボネート樹脂(A)等の熱可塑性樹脂成分への相溶性の観点からアリール基の方が好ましく、炭素数1〜34、好ましくは5〜20、特に10〜15のアルキル基で置換されたアルキルベンゼン又はアルキルナフタリン環から誘導される基が好ましい。一般式(2)中のR
4〜R
7は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキル基であり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、特にブチル基が好ましい。
【0101】
スルホン酸ホスホニウム塩の具体例としては、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルオクチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム、ジブチルベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム、ジブチルナフチルスルホン酸トリフェニルホスホニウム、ジイソプロピルナフチルスルホン酸トリオクチルメチルホスホニウム等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂(A)との相溶性及び入手が容易な点で、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが好ましい。
【0102】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が帯電防止剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.1〜5.0質量部が好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部、特に好ましくは0.5〜1.8質量部である。帯電防止剤の含有量が0.1質量部未満では帯電防止の効果は得られない。帯電防止剤の含有量が5.0質量部を超えると透明性や機械的強度が低下し、成形品表面にシルバーや剥離が生じて外観不良を引き起こし易い。
【0104】
<着色剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、所望によって着色剤として各種の染顔料を含有していてもよい。染顔料を含有することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の隠蔽性、耐候性を向上させることができる。また、着色剤を含有することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品のデザイン性を向上させることができる。
【0105】
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
【0106】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0107】
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノリン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;シアニン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0108】
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
【0109】
上記の着色剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0110】
着色剤は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリカーボネート樹脂(A)や他の樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0111】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が着色剤を含有する場合、その含有量は、必要な意匠性に応じて適宜選択すればよいが、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上で、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。着色剤の含有量が上記下限値未満の場合は、着色効果が十分に得られない可能性がある。着色剤の含有量が上記上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0112】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するための混練条件は、熱可塑性樹脂組成物に用いる各成分の種類や配合割合により異なり、一概に言えないが、ガラス充填剤(C)として特にガラス繊維を用いる場合は、これを他の成分とは別に溶融混練することが好ましい。特に、ガラス繊維は、押出機を用いて溶融混練する際にサイドフィード法を用いてポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)等他の成分が十分に溶融混練された溶融混練物に対して押出機の途中から供給して溶融混練することが、溶融混練時のガラス繊維の切断や折曲を防止してガラス繊維の形状を維持することができ好ましい。
【0113】
この場合、ガラス繊維は、樹脂成分が十分に溶融混練された状態で供給されることが好ましいため、この点においては、押出機の下流側でサイドフィードすることが好ましいが、このサイドフィード位置が過度に下流側であると、ガラス繊維が樹脂組成物中で十分に分散されないうちに押出される結果となる。このような観点から、ガラス繊維は、特に押出機の上流(ホッパー部位)から、バレル長さLの1/5〜4/5程度の下流位置にサイドフィードすることが好ましい。
【0114】
溶融押出しに用いる押出機のL/D(バレル長さ/スクリュー径)は特に制限はなく、通常25〜50程度である。スクリュー回転数は150〜600rpm、シリンダー温度は250〜300℃程度に設定することが好ましい。
【0115】
押出機から溶融押出しされたストランドを水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いて切断することにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0116】
[熱可塑性樹脂成形品]
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形品を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法、すなわち一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、ガスアシスト射出成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱冷却金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などを採用することができる。各種射出成形法においてはホットランナー方式を用いた成形法を選択することもできる。
【0117】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を他の熱可塑性樹脂組成物と多色複合成形して複合成形品とすることもできる。
【0118】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際、金型内に金属部材を挿入しておき、その金型内に熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、金属部材との複合成形品とすることができる。
【0119】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際、金型内にガラス部材を挿入しておき、その金型内に熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより、ガラス部材との複合成形品とすることができる。
【0120】
本発明の成形品は、その全表面積の30%以上の面積を占める成形品表面の表面粗さRaが0.1μm以下の表面平滑性を有することが好ましい。このような表面平滑性を有することで、成形品表面での光の散乱が防止され、より優れた透明性を得ることができる。この光の散乱を防止することによる透明性の向上の観点から、表面粗さRaが0.1μm以下となる平滑面は、成形品の意匠面であることが好ましい。
表面粗さRaが0.1μm以下の平滑表面の面積は、大きい程透明性の観点から好ましく、成形品の全表面の50%以上の面積であることがより好ましい。透明性の観点からこの面積は、成形品の形状や用途によっても異なるが、成形品の全表面の面積の70%以上であれば十分であるが、その上限は通常100%である。
【0121】
より透明性に優れた成形品を得るために、本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形品を製造する方法としては、以下の通り、本発明の成形品の製造方法に従って、断熱金型を用いて射出成形するか、或いは、急速加熱冷却金型を用いてヒート&クール成形により射出成形することが好ましい。
【0122】
〔成形品の製造方法〕
本発明の成形品の製造方法の一態様は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を断熱金型、即ち、キャビティ表面にセラミックス層を具備する金型、或いは、キャビティ表面側から、金属層、次いで熱硬化性樹脂層を具備する金型で射出成形することを特徴とする。
【0123】
本発明の成形品の製造方法の別の態様は、急速加熱冷却金型を用いて、金型キャビティ表面温度が130℃以上のときに射出工程を行い、金型キャビティ表面温度が80℃以下のときに型開き工程を行う(以下、この方法を「ヒート&クール成形」と称す。)ことを特徴とする。
【0124】
[メカニズム]
上記いずれの成形品の製造方法においても、成形品表面へのガラス充填剤(C)の浮きが防止され、平滑表面が形成されることで成形品表面の光の散乱が抑制される結果、透明性が改善される。
【0125】
断熱金型を用いた場合、金型内に射出された溶融樹脂の放熱が防止され、ガラス充填剤(C)よりも流動し易い樹脂が成形品の表層部で流動することで、ガラス充填剤(C)の表面浮きが防止される。
【0126】
ヒート&クール成形においても、キャビティ内に射出された溶融樹脂を徐冷することが可能となり、ガラス充填剤(C)の表面浮きを防止することができる。
【0127】
[断熱金型を用いる成形法]
本発明で用いる断熱金型は、キャビティ表面にセラミックス層を有する金型(以下「セラミックス断熱金型」と称す場合がある。)、或いはキャビティ側から金属層、次いで熱硬化性樹脂層が形成された金型(以下「樹脂断熱金型」と称す場合がある。)である。
【0128】
セラミックス断熱金型としては、セラミックス製の被覆板(入れ子)を金属製の金型本体のキャビティ表面に設けたものが挙げられる。セラミックスの材質としては、断熱性、耐熱性、安定性に優れたものであれば良く、特に制限はないが、熱伝導率として5W/m・K以下のセラミックスが好ましく、酸化ジルコニウム(ZrO
2:ジルコニア)等が挙げられる。ジルコニアは、部分安定化剤として、カルシア(酸化カルシウム,CaO)、イットリア(酸化イットリウム,Y
2O
3)、マグネシア(酸化マグネシウム,MgO)、シリカ(酸化珪素,SiO
2)、セリア(酸化セリウム,CeO
2)の1種又は2種以上を含む部分安定化ジルコニアであってもよく、導電性付与剤として、Fe
2O
3、NiO、Co
3O
4、Cr
2O
3、TiO
2、TiN、TiC、WC、TaC等の1種又は2種以上を含む導電性ジルコニアであってもよい。
【0129】
セラミックス層の厚さは、必要とする断熱性を得ることができる程度であればよく、特に制限はないが、通常0.1〜10mm、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは1〜7mm、更に好ましくは2〜5mmである。セラミックス層の厚さが薄過ぎると十分な断熱性を得ることができず、通常の金型を用いた場合に比べて透明性の改善効果が小さい。セラミックス層の厚さが厚過ぎると、断熱効果が大きくなり過ぎ、キャビティ内の溶融樹脂の冷却に時間を要し、成形サイクルが長くなる。
【0130】
樹脂断熱金型としては、金属製の金型本体のキャビティ表面に、熱硬化性樹脂層を介して金属層を設けたものが挙げられる。熱硬化性樹脂層は断熱層として機能すると共に、金型本体と金属層との接着層として機能する。熱硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂の熱伝導率は、通常0.3〜3W/m・K程度である。
【0131】
熱硬化性樹脂には、強化剤としてガラスビーズ等の無機粒子が含有されていても良い。無機粒子の形状は球形が好ましく、その平均粒径は1〜100μm程度である。熱硬化性樹脂層中の無機粒子の含有率は60〜90質量%が好ましい。
【0132】
熱硬化性樹脂層の厚さは、熱硬化性樹脂の断熱性(熱伝導率)によっても異なるが、好ましくは0.2〜1.5mm程度である。
【0133】
キャビティ表面を構成する金属層の構成材料としては、具体的には、合金工具鋼、ダイス鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼等の鋼材、あるいは、クロム、亜鉛、ニッケル、ダイヤモンド等の薄膜が挙げられる。好ましくは、焼き入れ処理等の加工処理を施した鋼材である。金属層の厚みは、通常0.2〜1.5mm程度である。
【0134】
金属層はメッキ等により熱硬化性樹脂層表面に形成することもできるが、焼き入れ鋼等の薄板を熱硬化性樹脂で接着してもよい。
【0135】
金属層と熱硬化性樹脂層との間には、必要に応じてセラミックスよりなる補強層を形成してもよい。
【0136】
セラミックス断熱金型、樹脂断熱金型といった断熱金型を用いて本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際の成形条件は、通常の金型を用いる場合と同様でよく、射出成形機のシリンダー温度280〜320℃、金型温度60〜100℃の射出成形条件を採用することができる。
【0137】
[ヒート&クール成形法]
ヒート&クール成形法で用いる急速加熱冷却金型とは、金型温調装置により、金型の媒体通路に循環させる熱媒体と冷媒体の切り換えを瞬時に行うことができるものである。ヒート&クール成形法は、このような急速加熱冷却金型を用いて、少なくとも型開き後から溶融樹脂の充填完了前までの間に金型の媒体通路に熱媒体を供給し、少なくとも溶融樹脂の充填完了後から型開き前までの間に金型の媒体通路に冷媒体を供給することで、所定の金型キャビティ温度以上で射出工程を行い、射出工程終了と同時に熱媒体を冷媒体に切り換えて所定の金型キャビティ温度以下で型開き工程を行うものである。
【0138】
本発明におけるヒート&クール成形法では、温度200〜320℃程度の熱媒体により金型キャビティ温度が130℃以上、好ましくは130〜160℃となったときに溶融樹脂を射出する射出工程を行い、この射出工程終了と同時に熱媒体を温度40〜60℃程度の冷媒体に切り換え、金型キャビティ温度が80℃以下、好ましくは50〜80℃となったときに型開きを行う。
【0139】
射出工程終了と同時に熱媒体を冷媒体に切り換えることで、射出工程終了から型開きまでの保持時間は50秒以下、特に15〜40秒程度とすることが好ましい。
【0140】
熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際の射出成形機のシリンダー温度は、280〜320℃という通常の温度条件を採用すればよい。
【0141】
〔用途〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物及びその射出成形品は、ガラス充填剤(C)を配合したことによる優れた寸法安定性、剛性(曲げ強度)、耐熱性等の各種特性を得た上で、透明性にも優れる。
【0142】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及びその射出成形品は、カメラ、OA機器、AV機器、通信機器、携帯電話・タブレットなどの情報端末機器、精密機器、電気・電子部品、自動車等の車輌部品、一般機械部品、建築部材、レジャー用品、雑貨、各種容器、保護筐体、照明器具等、各種の製品に好適に用いることができる。中でも、透明性が重視されるカメラ、OA機器、AV機器、携帯電話・タブレットなどの情報端末機器、電気・電子部品、自動車部品、鉄道車輌部品、航空機部品、建築部材、保護筐体として好適である。OA機器、AV機器、情報端末機器の具体的な用途例として、タッチパネルディスプレイ用カバーなどが挙げられる。
【0143】
〔シート〕
本発明のシートは、本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなるものである。
【0144】
ここで、「シート」とは、一般に、薄く、その厚さが長さと幅に対して小さく平らなものをさし、「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、シートよりも更に薄く、通常、ロールの形で提供されるものをいう。「シート」と「フィルム」とは明確に区別されるものではなく、本発明の「シート」は「フィルム」を含むものである。
【0145】
本発明のシートを製造する方法としては、特に制限はないが、溶融押出法(例えば、Tダイ成形法)が好適に用いられる。その際のシート成形条件にも特に制限はないが、2本の鏡面仕上げされた冷却ロールをTダイ近傍に備えた押出成形機を用い、Tダイから吐出されたシート状の溶融樹脂を100〜140℃に温調した2本の冷却ロールで挟むことで、シートの表面平滑性が向上し、より透明性の高いシートを得ることができる。冷却ロール間の挟み圧力が高い程、シートの表面平滑性が向上し、より透明性の高いシートを得ることができる。
【0146】
本発明のシートの厚みは好ましくは0.2〜2mm、より好ましくは0.25〜1.9mm、さらに好ましくは0.3〜1.8mmである。厚みが上記下限以上であることにより、剛性を確保することができる。厚みが上記上限以下であることにより、透明性に優れたシートを得ることができる。
【0147】
本発明のシートは、当該シート単体で使用することもできるが、非強化の熱可塑性樹脂の表面層として積層して用いることもできる。
【0148】
本発明のシートの用途としては、特に制限はないが、カメラ、OA機器、AV機器、通信機器、携帯電話・タブレットなどの情報端末機器、精密機器、電気・電子部品、自動車等の車輌部品、一般機械部品、建築部材、レジャー用品、雑貨、各種容器、保護筐体、照明器具等に用いられるシート部材等が挙げられる。
【実施例】
【0149】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0150】
以下の実施例及び比較例において使用した各成分は以下の表1A,1Bの通りである。
【0151】
【表1A】
【0152】
【表1B】
【0153】
〔射出成形品の実施例と比較例〕
[実施例I−1〜26、比較例I−1〜18]
<熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造>
表1A,1Bに記したガラス充填剤(C)以外の各成分を、表2〜7に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた東芝機械社製二軸押出機(TEM26SX)に上流のフィーダーより供給し、さらにガラス充填剤(C)をバレルの途中より供給して(押出機の上流(ホッパー部位)から、バレル長さLの3/5の下流位置)、回転数250rpm、吐出量25kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練した。押出機からストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。なお、比較例I−8、16については、ストランドの振動が大きく、引き取りが困難であったため、ペレットを得ることができなかった。
【0154】
<一般金型を用いた平板の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ型)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度100℃の条件で射出成形し、長さ50mm、幅40mm、厚さ2mmの平板を成形した。金型として、固定側キャビティ及び可動側キャビティを構成する入れ子の材質がSUS420J2である金型を使用した。
【0155】
<断熱金型を用いた平板の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、ファナック社製射出成形機(S−2000i150B型)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度100℃の条件で射出成形し、長さ100mm、幅100mm、厚さ2mmの平板を成形した。金型として、固定側キャビティ及び可動側キャビティ表面に、100mm×100mm×3mmの酸化ジルコニウム(ZrO
2)の板を備えた断熱金型を使用した。
【0156】
<ヒート&クール成形による平板の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、ファナック社製射出成形機(S−2000i150B型)を用いて、シリンダー温度290℃の条件で射出成形し、長さ50mm、幅40mm、厚さ2mmの平板を成形した。このとき、金型温調装置として松井製作所社製MCJ−OM−250AAを用いた急速加熱冷却金型により、300℃の油を金型流路に循環させ、金型のキャビティ表面温度が160℃に到達したときに300℃の油の循環を止め、その後射出工程を行った。射出工程終了と同時に、40℃の油を金型流路に循環させ、金型のキャビティ表面温度が80℃に到達したときに型開き工程を行い、上述の形状の成形品を得た。金型として、固定側キャビティ及び可動側キャビティを構成する入れ子の材質がSUS420J2である金型を使用した。射出工程終了から型開きまでの保持時間は25秒であった。
【0157】
<射出成形品のヘイズの測定>
日本電色工業社製ヘーズメーターNDH4000を用い、上述の方法で得られた平板のヘイズを測定した。ヘイズが小さい程透明性が優れることを意味している。断熱金型を用いて成形した射出成形品、及びヒート&クール成形で得られた射出成形品の場合、ヘイズは15%以下であることが好ましい。一般金型を用いて成形した射出成形品の場合、ヘイズは55%以下であることが好ましい。
ヘイズの測定結果を表2〜7に示す。
比較例I−18は白濁し、測定不可であった。
【0158】
<射出成形品の表面粗さの測定>
東京精密社製SURFCOM 3000Aを用い、カットオフ波長λcを0.8mm、カットオフ種別をガウシアン、λsを2.67μm、評価長さを8mmに設定し、上述の方法で得られた平板の表面粗さRaを測定した。Raが小さい程成形品表面が平滑であることを意味しており、透明性に優れた成形品を得るためにはRaを0.1μm以下にすることが好ましい。
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
【0161】
【表4】
【0162】
【表5】
【0163】
【表6】
【0164】
【表7】
【0165】
表2〜7より次のことが分かる。
ポリエステル樹脂(B)の配合量が本発明の範囲を超えて多過ぎる比較例I−4,11でも、少な過ぎる比較例I−3,10でも、樹脂マトリクスの屈折率をガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができず、透明性が悪い。
【0166】
粘度平均分子量が本発明の範囲を超えて大きいポリカーボネート樹脂(a)を用いた比較例I−1,2,5〜7,9,12〜14,15では、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、ガラス充填剤(C)をそれぞれ同配合とした実施例に比べてヘイズが大きく、透明性に劣る。これらの比較例に対して、粘度平均分子量が本発明の範囲内のポリカーボネート樹脂(A)を用いた実施例では、透明性が改善されている。
【0167】
粘度平均分子量が本発明の範囲より小さいポリカーボネート樹脂(a)を用いた比較例I−8,16では、ストランドの引き取りが困難でペレット化ができなかった。
【0168】
いずれの実施例からも、ガラス充填剤(C)として扁平断面ガラス繊維を用いると、円形断面のガラス繊維を用いた場合よりも透明性が改善されることが分かる。
いずれの実施例においても、一般金型で射出成形するよりも断熱金型を用いたり、ヒート&クール成形で射出成形したりすることで、透明性は格段に改善されることが分かる。
実施例I−23〜26より、ガラス充填剤(C)としてガラスフレークを用いた場合も、良好な透明性が得られることが分かる。
【0169】
実施例I−9,10と実施例I−11では、扁平率が同一であっても、組成が異なることで屈折率の異なる扁平断面ガラス繊維を用いている。実施例I−9,10に対して、実施例I−11では、ポリエステル樹脂(B)を多く配合してヘイズはほぼ同等の結果が得られている。このことは、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合割合は、用いたガラス充填剤(C)の屈折率に応じて、本発明の範囲内で調整することが重要であることを示している。
【0170】
実施例I−20は、実施例I−6に対して、離型剤(E)を含まない例であり、実施例I−21は実施例I−6とは異なる離型剤(E)を用いた例、実施例I−22は2種類の離型剤(E)を併用した例であるが、いずれもほぼ同等の透明性が得られている。
【0171】
比較例I−17はガラス充填剤(C)を多量に配合した例であり、透明性は著しく悪化している。
比較例I−18はポリエステル樹脂(B)を用いていないため、白濁した。
【0172】
〔シートの実施例と比較例〕
〔実施例II−1〜11、比較例II−1〜7〕
<熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造>
熱可塑性樹脂組成物の配合を表8,9に記した割合(質量部)としたこと以外は実施例I−1と同様にして熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0173】
<シートの作製>
上述の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、単軸押出機を用いて厚み1.0mmのシートを成形した。単軸押出機のスクリューとして、φ30mm、L/D=38のフルフライトスクリューを使用した。Tダイはリップ幅300mmのものを使用した。Tダイより吐出された樹脂を鏡面仕上げした2本の冷却ロールで挟み、更に一方の冷却ロールに沿わせることで冷却した。冷却ロールの温度はいずれも120℃であった。
【0174】
<シートのヘイズの測定>
日本電色工業社製SH7000を用い、上述の方法で得られたシートのヘイズを測定した。ヘイズが小さい程透明性が優れることを意味している。シートのヘイズは70%以下であることが好ましい。
ヘイズの測定結果を表8、9に示す。
【0175】
なお、表8,9には、熱可塑性樹脂組成物配合が同一の射出成形品の実施例と比較例の番号を備考として併記した。
実施例II−11は、実施例I−15に対して離型剤(E)を含まず、同一配合の射出成形品の実施例がないものである。
【0176】
【表8】
【0177】
【表9】
【0178】
表8,9より、溶融押出法によるシートにおいても、射出成形品と同様に、本発明の熱可塑性樹脂組成物配合組成とすることで、ポリカーボネート樹脂(A)の種類やポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)及びガラス充填剤(C)の配合が本発明の範囲外のものと比較して相対的に透明性の改善を図ることができることが分かる。
【0179】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年7月11日付で出願された日本特許出願2018−131658及び2019年1月23日付で出願された日本特許出願2019−009474に基づいており、その全体が引用により援用される。
粘度平均分子量が13,000〜22,000のポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、ガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物。ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25〜65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75〜35質量部含み、熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10〜45質量部含む。この熱可塑性樹脂組成物を断熱金型で射出成形するか、ヒート&クール成形して成形品を製造する。