特許第6607347号(P6607347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607347
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】傷害判定装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/00 20060101AFI20191111BHJP
   B60R 21/0136 20060101ALI20191111BHJP
   G08B 25/10 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   B60R21/00 340
   B60R21/0136 310
   G08B25/10 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-146150(P2015-146150)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-24604(P2017-24604A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】深谷 敬
(72)【発明者】
【氏名】奥山 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 明
(72)【発明者】
【氏名】三國 寿太郎
(72)【発明者】
【氏名】平山 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】林 賢司
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−040061(JP,A)
【文献】 特開2002−031544(JP,A)
【文献】 特開2013−166515(JP,A)
【文献】 特開2005−263178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突形態を判別する衝突形態判別手段と、
車両の衝突前後の速度差を検出する速度差検出手段と、
前記衝突形態判別手段により判別された車両の衝突形態、及び前記速度差検出手段により検出した速度差に基づいて、車両の衝突により乗員に傷害が発生する確率である傷害発生率を推定する傷害発生率推定手段と、
傷害発生率に対応して取られるべき措置を記憶した記憶手段と、
前記記憶手段から前記傷害発生率推定手段により推定された傷害発生率に対応する措置を選択する措置選択手段と、
前記措置選択手段により選択された措置を通報する通報手段と、を備え
前記記憶手段には、車両の衝突前後の速度差と前記傷害発生率との関係を表す傷害発生率マップが前記衝突形態ごとに記憶され、
前記傷害発生率推定手段は、前記衝突形態判別手段により判別された車両の衝突形態に対応する傷害発生率マップを前記記憶手段から選択し、選択した傷害発生率マップから前記速度差検出手段により検出した速度差に対応する傷害発生率を求める
ことを特徴とする傷害判定装置。
【請求項2】
請求項に記載する傷害判定装置において、
前記傷害発生率マップは、前記車両の衝突前後の速度差に基づき前記衝突形態ごとに衝突シミュレーションを実行し、前記乗員に傷害が発生する確率を集計することにより作成される
ことを特徴とする傷害判定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する傷害判定装置において、
前記記憶手段は、しきい値で区分された傷害発生率ごとに異なる措置が記憶され、
前記措置選択手段は、前記傷害発生率推定手段により推定された傷害発生率を前記しきい値と比較し、前記しきい値に対応する措置を選択する
ことを特徴とする傷害判定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項の何れか一項に記載する傷害判定装置において、
車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手段を備え、
前記衝突形態判別手段は、前記加速度検出手段の検出結果から得られる衝突波形に基づいて車両の衝突形態を判別する
ことを特徴とする傷害判定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項の何れか一項に記載する傷害判定装置において、
前記衝突形態には、車両に衝突する対象物との成す衝突角度が車両の運転者側又は助手席側である衝突形態を含み、
前記記憶手段には、運転者側に搭乗する乗員についての第1傷害発生率マップ、及び助手席側に搭乗する乗員についての第2傷害発生率マップが記憶され、
前記傷害発生率推定手段は、衝突角度が運転者側又は助手席側である衝突形態が検出されたとき、当該衝突形態に対応した傷害発生率を、前記第1傷害発生率マップ、及び第2傷害発生率マップのそれぞれについて推定する
ことを特徴とする傷害判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突による乗員の傷害発生率を推定し、適切な措置を取ることができる傷害判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、衝突事故が発生した際に、乗員を保護するためのエアバッグ装置が搭載されているものがある。エアバッグ装置は、例えば、車両の衝突が起きた際に、車両の加速度(減速度)を加速度センサで検出し、その検出結果に基づいて所定のタイミングでエアバッグを展開させる。
【0003】
近年は、車両が衝突した場合に、上記のような加速度センサの検出結果に基づいて、車体の変形の程度や、損壊状況を推定し、その推定結果を外部のサービスセンタ等に知らせるシステム(装置)の開発が進んでいる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
このような装置では、車両の損壊状況等の客観的な情報を外部のサービスセンタ等に迅速に送信することができるので、情報を受信したサービスセンタ等は、車両の損壊状況を正確に把握でき、損壊状況に応じた適切な対応をとることができるとされている。
【0005】
また、車両の衝突により乗員に傷害が発生することが予測される。そこで、車両の衝突により乗員に傷害が発生する確率(以降、傷害発生率と称する。)を推定する装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような装置では、車両の衝突形態、例えば、正面衝突、オフセット衝突、ポール衝突、側面衝突、後方衝突などの衝突形態に基づいて傷害発生率を推定する。さらに、乗員の年齢や性別等の乗員情報が電子的に記録された免許証などのカードを用いて、衝突形態のみならず、乗員情報に基づいても傷害発生率を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第425490号公報
【特許文献2】特開2014−234121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る装置では、車両の衝突形態が判別され、サービスセンタに通知される。しかしながら、サービスセンタでは乗員が重傷であるかなど傷害の程度が不明であるため、傷害の程度に応じた適切な措置を行いにくいという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に係る装置は、衝突形態に基づいて傷害発生率を推定した結果、高い確率で重傷を負ったと推定する場合がある。しかし、衝突前後の速度に大きな変化がない場合などは、重傷を負わない場合もある。このような場合に対応して、より的確に傷害発生率を推定することが望まれている。
【0009】
さらに、特許文献2に係る装置では、乗員の情報が記録されたカードを用意することが若干煩雑であり、また、当該カードを読み取る装置が必要となってしまう。このため、そのような乗員情報に依存することなく、傷害発生率を推定することが望まれている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車両の衝突による乗員の傷害発生率をより高精度に推定し、傷害発生率に応じた適切な措置を可能とすることができる傷害判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、車両の衝突形態を判別する衝突形態判別手段と、車両の衝突前後の速度差を検出する速度差検出手段と、前記衝突形態判別手段により判別された車両の衝突形態、及び前記速度差検出手段により検出した速度差に基づいて、車両の衝突により乗員に傷害が発生する確率である傷害発生率を推定する傷害発生率推定手段と、傷害発生率に対応して取られるべき措置を記憶した記憶手段と、前記記憶手段から前記傷害発生率推定手段により推定された傷害発生率に対応する措置を選択する措置選択手段と、前記措置選択手段により選択された措置を通報する通報手段と、を備え、前記記憶手段には、車両の衝突前後の速度差と前記傷害発生率との関係を表す傷害発生率マップが前記衝突形態ごとに記憶され、前記傷害発生率推定手段は、前記衝突形態判別手段により判別された車両の衝突形態に対応する傷害発生率マップを前記記憶手段から選択し、選択した傷害発生率マップから前記速度差検出手段により検出した速度差に対応する傷害発生率を求めることを特徴とする傷害判定装置にある。
【0012】
かかる第1の態様では、車両の衝突による乗員の傷害発生率をより高精度に推定し、傷害発生率に応じた適切な措置を可能とすることができる。また、外部のサービスセンタ等では、車両の衝突に対して取るべき措置が直接的に得られるので、迅速かつ適切な措置をとることができる。また、傷害発生率の推定を速やかに行うことができる。
【0015】
本発明の第の態様は、第の態様に記載する傷害判定装置において、前記傷害発生率マップは、前記車両の衝突前後の速度差に基づき前記衝突形態ごとに衝突シミュレーションを実行し、前記乗員に傷害が発生する確率を集計することにより作成されることを特徴とする傷害判定装置にある。
【0016】
かかる第の態様では、衝突形態ごとにより正確な傷害発生率マップを作成することが可能となる。
【0017】
本発明の第の態様は、第1又は第2の態様に記載する傷害判定装置において、前記記憶手段は、しきい値で区分された傷害発生率ごとに異なる措置が記憶され、前記措置選択手段は、前記傷害発生率推定手段により判定された傷害発生率を前記しきい値と比較し、前記しきい値に対応する措置を選択することを特徴とする傷害判定装置にある。
【0018】
かかる第の態様では、しきい値を変更することで必要となる措置を柔軟に変更することができる。
【0019】
本発明の第の態様は、第1から第の何れか一つの態様に記載する傷害判定装置において、車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手段を備え、前記衝突形態判別手段は、前記加速度検出手段の検出結果から得られる衝突波形に基づいて車両の衝突形態を判別することを特徴とする傷害判定装置にある。
【0020】
かかる第の態様では、車両の衝突形態を正確に判別することができる。
【0021】
本発明の第の態様は、第1から第のいずれか1つの態様に記載する傷害判定装置において、前記衝突形態には、車両に衝突する対象物との成す衝突角度が車両の運転者側又は助手席側である衝突形態を含み、前記記憶手段には、運転者側に搭乗する乗員についての第1傷害発生率マップ、及び助手席側に搭乗する乗員についての第2傷害発生率マップが記憶され、前記傷害発生率推定手段は、衝突角度が運転者側又は助手席側である衝突形態が検出されたとき、当該衝突形態に対応した傷害発生率を、前記第1傷害発生率マップ、及び第2傷害発生率マップのそれぞれについて推定することを特徴とする傷害判定装置にある。
【0022】
かかる第の態様では、衝突角度を考慮して衝突形態を分けることで、乗員の位置ごとに傷害発生率を推定することができる。そして、乗員毎に傷害発生率に基づいて措置が選択されるので、各乗員に適した措置を取ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車両の衝突による乗員の傷害発生率をより高精度に推定し、傷害発生率に応じた適切な措置を可能とすることができる傷害判定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る衝突判別装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る衝突判別装置の構成を示すブロック図である。
図3】加速度センサの検出結果から形成された衝突波形の一例を示す図である。
図4】車両と車両に衝突する対象物との位置関係を示す概略図である。
図5】衝突角度とラップ量とにより分類される衝突形態の一例を示す図である。
図6】衝突形態ごとの傷害発生率マップを示す図である。
図7】傷害判定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〈実施形態1〉
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る傷害判定装置10は、車両1が衝突した際に、乗員の重傷度を判定し、重傷度に応じた措置を選択する装置である。具体的には、傷害判定装置10は、車両1に搭載された加速度センサ(加速度検出手段)20及び速度センサ(速度差検出手段)25を備えている。また、傷害判定装置10は、衝突形態判別手段30と、記憶部(記憶手段)40と、傷害発生率推定手段50と、措置選択手段60とを有するECU70を備えている。また、傷害判定装置10は、車両1に搭載され、外部のサービスセンタ等に所定の情報を送信する通信装置80(請求項の通報手段の一例である)を備えている。
【0027】
加速度センサ20は、車両1に搭載されて車両1の衝突時の加速度(減速度)を検出する。また、速度センサ25は、車両1に搭載されて車両1の速度を検出する。加速度センサ20及び速度センサ25は、所定の間隔で車両1の加速度及び速度を検出(サンプリング)しており、各検出結果(加速度情報及び速度情報)は記憶部40に適宜記録される。
【0028】
本実施形態では、4つの加速度センサ20と1つの速度センサ25とが車両1に設けられている。例えば、車両1の前端部に、右フロントセンサ20a及び左フロントセンサ20bが設けられ、車両1の前後方向中央部に、右サイドセンサ20c及び左サイドセンサ20dがそれぞれ設けられている。また、速度センサ25は図示しない車軸近傍に設けられている。
【0029】
車両1に搭載する加速度センサ20の数は特に限定されず、車両1に少なくとも一つ搭載されていればよい。また加速度センサ20を設ける位置も特に限定されないが、衝突時に車両の1の変形の影響を受けにくい位置であることが好ましい。
【0030】
ECU70が備える衝突形態判別手段30は、車両1の衝突形態を判別する。衝突形態としては、例えば、正面衝突、斜め衝突、オフセット衝突、ポール衝突等が挙げられる。具体的には、衝突形態判別手段30は、車両1が衝突した際に、加速度センサ20の検出結果から得られる衝突波形に基づいて、予め類別した車両1の衝突形態を判別する。すなわち、車両1の衝突が何れの衝突形態に属するかを判別する。
【0031】
衝突形態判別手段30による衝突形態の判別は、例えば、各衝突形態に対応する基準波形と、加速度センサ20の検出結果から得られた衝突波形との相似度に基づいて車両1の衝突形態を判別することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、車両1に複数の加速度センサ20が設けられているが、衝突形態判別手段30は、このうちの何れか一つの加速度センサ20(20a〜20d)の検出結果に基づいて車両1の衝突形態を判別する。例えば、車両1の衝突時の出力が最大である加速度センサ20a〜20dの何れかの検出結果に基づいて車両1の衝突形態を判別する。勿論、衝突形態の判別は、特定の加速度センサ20の検出結果に基づくものであってもよいし、複数の加速度センサ20の検出結果に基づくものであってもよい。
【0033】
衝突形態判別手段30による衝突形態の判別手順について説明する。なお図3は衝突波形の一例である。
【0034】
衝突形態判別手段30は、車両1の衝突が起こると、衝突が終了した時点で、加速度センサ20の検出結果に基づいて衝突波形を形成する。例えば、加速度センサ20が検出した加速度を記憶部40から読み出し、当該加速度を2回積分して車両1の変位を得る。このような加速度センサ20の検出結果である車両1の加速度(減速度)と、車両1の変位とから、例えば、図3に示すような衝突波形を形成する。
【0035】
次に、衝突形態判別手段30は、得られた衝突波形を、各衝突形態に対応する基準波形と比較し、両者の相似度(相似の程度)を求める。そして、衝突形態毎に求められた両波形の相似度から車両1の衝突形態を判別する。すなわち、衝突形態判別手段30は、衝突波形と各基準波形との相似度が最も高い衝突形態を車両1の衝突形態であると判別する。
【0036】
基準波形は、衝突形態毎に予め規定したものであり、正面衝突、オフセット衝突、ポール衝突等の各衝突形態で波形の特徴が異なる。このため、加速度センサ20の検出結果から得られた衝突波形と複数の各基準波形との相似度に基づいて衝突形態を判別することで、車両1の衝突形態を正確に判別することができる。
【0037】
このような各衝突形態に対応する複数の基準波形は、記憶部40に予め記憶されている。なお基準波形の形成方法は、特に限定されないが、例えば、該当車両の有限要素シミュレーションの結果に基づいて作成すればよい。
【0038】
衝突波形と基準波形との相似度の求め方は、特に限定されない。衝突形態判別手段30は、例えば、衝突形態に対応する基準波形と衝突波形とを比較し、基準波形の複数の特徴点と衝突波形との残差に基づいて相似度を求めることができる。
【0039】
具体的には、図示するように、正面衝突の基準波形の各特徴点と、衝突波形の各サンプリング点との残差を求め、当該残差の平均(各点の残差の和をサンプリング点の数で割ったもの)を求める。このような残差の平均を他の衝突形態の基準波形についても実施する。そして、残差の平均が最小となる基準波形に対応する衝突形態が、車両1の衝突形態であると判別する。
【0040】
本実施形態の衝突形態について説明する。図4は、車両と車両に衝突する対象物との位置関係を示す概略図である。
【0041】
車両1の衝突形態としては、上述したように正面衝突等があるが、これらの衝突形態は、衝突角度及びラップ量で分別できる。衝突角度は、車両1の進行方向を基準として、車両1と対象物2とを結ぶ直線のなす角度である。車両1の進行方向の真正面をゼロ度とし、進行方向の左側を正の角度(+θ)、右側を負の角度(−θ)で表す。また、ラップ量は、車両1と対象物2とが車幅方向で重なる範囲をいう。ここでは、車両1の車幅に対して、車幅方向で重なる範囲の割合をラップ量とする。ラップ量が100%を前面フルラップ、ラップ量が40%を前面40%ラップ、ラップ量が15%を前面15%ラップと称する。
【0042】
図5に示すように、衝突角度とラップ量との組み合わせにより衝突形態が分類される。例えば、正面衝突(図では正突と略記)は、前面フルラップであり、衝突角度が−15度〜+15度の範囲で対象物2に車両1が衝突した形態である。斜め衝突(図では斜突と略記)は、前面フルラップであり、衝突角度が+30度以上(図では省略しているが−30度以上も含む)の範囲で対象物2に車両1が衝突した形態である。オフセットは、前面40%ラップであり、衝突角度が−15度〜+15度の範囲で対象物2に車両1が衝突した形態である。側面衝突(図では側突と略記)は、前面40%ラップ〜前面15%ラップの範囲であり、衝突角度が45度以上(図では省略しているが−45度以上も含む)で対象物2に車両1が衝突した形態である。スモールオーバーラップは、衝突角度が−30度〜+30度の範囲(図では−30度は省略してある)かつ前面15%ラップであるか、衝突角度が+30度(図では省略しているが−30度も含む)かつ前面40%ラップで対象物2に車両1が衝突した形態である。
【0043】
このような様々な衝突形態に対応して基準波形がシミュレーション等で作成されて、記憶部40に記憶されている。
【0044】
このようにして衝突形態判別手段30により衝突形態が検出されたとき、ECU70は、その検出されたタイミングの前後における速度を記憶部40から読み取り、速度差を計算する。計算した速度差は、傷害発生率推定手段50で用いられる。
【0045】
ECU70が備える傷害発生率推定手段50は、衝突形態判別手段30により判別された車両の衝突形態、及び速度センサ25により検出した速度差に基づいて、車両の衝突による乗員の傷害発生率を推定する。
【0046】
傷害発生率とは、車両1の衝突により乗員に傷害が発生する確率であり、衝突形態及び速度差に基づいて定まる。すなわち、衝突形態及び速度差が定まれば傷害発生率が特定される。また、傷害発生率は、率が高いほど重傷である度合いが高いことも意味している。
【0047】
本実施形態では、車両の衝突前後の速度差と傷害発生率との関係を表す傷害発生率マップとして記憶部40に記憶されている。そしてこのような傷害発生率マップは、衝突形態毎に記憶部40に記憶されている。
【0048】
図6は、衝突形態ごとの傷害発生率マップを示す図である。横軸は、衝突前後速度差[km/h]を表し、縦軸は傷害発生率[%]を表している。図5に示した5つの衝突形態である、正面衝突、斜め衝突、オフセット、側面衝突、スモールオーバーラップのそれぞれに対応して、5つの傷害発生率マップM1〜M5が記憶部40に記憶されている。これらの各傷害発生率マップM1〜M5は、特定の速度差に対して一意の傷害発生率が定まるように定義されている。
【0049】
このような傷害発生率マップは、例えば、衝突形態ごとに速度差ΔVに様々な値を設定して衝突シミュレーションを実行し、乗員に傷害が発生する確率を集計することにより得ることができる。もちろん、傷害発生率マップはこのような作成方法に限定されず、速度差及び衝突形態を説明変数とし、傷害発生率を目的変数とするようなモデル式を傷害発生率マップとしてもよい。
【0050】
傷害発生率推定手段50は、衝突形態判別手段により衝突形態が判別されたとき、当該衝突形態に対応する傷害発生率マップを記憶部40から選択する。そして、選択した傷害発生率マップから速度センサ25の検出結果に基づいて得られた速度差に対応する傷害発生率を求める。
【0051】
例えば、衝突形態が正面衝突であると判別されたとき、傷害発生率推定手段50は、記憶部から傷害発生率マップM1を選択する。そして、速度差がΔVであったとすると、傷害発生率推定手段50は、傷害発生率マップM1からΔVに対応する傷害発生率pを特定する。このようにして、衝突形態及び速度差に基づいて、乗員の傷害発生率pが推定される。
【0052】
このように傷害発生率推定手段50により推定された乗員の傷害発生率pは、措置選択手段60により用いられる。
【0053】
ECU70が備える措置選択手段60は、記憶部40から傷害発生率推定手段50により推定された傷害発生率に対応する措置を選択する。本実施形態でいう措置とは、車両1の衝突があった際に、乗員の状態に応じて取るべき措置である。このような措置は、例えば、ロードサービスを要請すること(ロードサービス要請)、事故の発生を通報すること(事故通報)、救急隊を要請すること(救急隊要請)、ドクターヘリ又はドクターカーを要請すること(ドクターヘリ要請)などが挙げられる。
【0054】
このような各種の措置は、傷害発生率に対応して記憶部40に記憶されている。措置選択手段60は、傷害発生率推定手段50で推定された傷害発生率に対応する措置を記憶部40から選択する。
【0055】
傷害発生率は、衝突時の乗員の状態、すなわち、どの程度の傷を負っているかを推定したものである。したがって、措置選択手段60が傷害発生率に対応した選択した措置は、衝突後の乗員の状態に応じて取るべき適切な措置となる。
【0056】
傷害発生率から措置を選択する具体的な方法としては、しきい値で傷害発生率を区分し、その区分毎に措置を予め対応させて記憶部40に記憶させておく。そして、傷害発生率推定手段50により推定された傷害発生率としきい値とを比較し、そのしきい値に対応する措置を選択する。
【0057】
表1にしきい値と措置とを例示する。
【表1】
【0058】
上述したように、傷害発生率は、率が高いほど重傷である度合いが高いことも意味している。したがって、表1に示すように、傷害発生率が高いほど、重傷に応じた適切な措置が対応づけられており、傷害発生率が低いほど、それほど重傷ではない場合に適切な措置が対応づけられている。
【0059】
措置選択手段60は、傷害発生率が5%未満であれば、措置としてロードサービス要請を選択する。また、措置選択手段60は、傷害発生率が5%以上30%未満であれば、措置として事故通報を選択する。同様に、措置選択手段60は、傷害発生率が50%以上80%未満であれば、措置として救急隊要請を選択し、傷害発生率が80%以上であればドクターヘリ要請を選択する。
【0060】
このように選択された措置は、ECU70により通信装置80を介して外部のサービスセンタ等に送信される。このような措置を受け取ったサービスセンタでは、当該措置にしたがって、迅速に対応することができる。なお、措置のみならず、上述した衝突形態や傷害発生率を含めて送信してもよい。これにより、サービスセンタ等では、その後の対応をさらに適切なものとすることができる。
【0061】
以下、傷害判定装置10における処理手順について説明する。なお図7は、傷害判定装置10の処理手順を示すフローチャートである。
【0062】
まず、衝突形態判別手段30は、車両1の衝突があったとき、加速度センサ20による加速度情報に基づいて車両の衝突形態を判別する(ステップS1)。次に、ECU70は、速度センサ25による速度情報に基づいて衝突前後の速度差を計算する(ステップS2)。次に、傷害発生率推定手段50は、ステップS1で判別した衝突形態及びステップS2で計算した速度差に基づいて、傷害発生率を推定する(ステップS3)。次に、措置選択手段60は、ステップS3で推定された傷害発生率に対応する措置を選択する(ステップS4)。最後に、ECU70は、ステップS4で選択された措置を通信装置80を介して外部のサービスセンタ等に通報する(ステップS5)。
【0063】
以上に説明した本実施形態に係る傷害判定装置10は、車両の衝突形態及び速度差に基づいて乗員の傷害発生率を推定し、当該傷害発生率に対応して、乗員の状態に適した措置を選択し、外部に措置を通報する。
【0064】
傷害判定装置10によれば、車両の衝突形態及び速度差に基づいて傷害発生率を推定するので、衝突形態を用いて傷害発生率を推定する従来技術と比較して、より高精度な傷害発生率が得られる。そして、この高精度に推定された傷害発生率に対して、適切な措置を選択するので、実際の乗員の傷害の程度に応じて、従来技術と比較してより適切な措置を取ることができる。
【0065】
このような傷害判定装置10によれば、車両1の衝突による乗員の傷害発生率をより高精度に推定し、傷害発生率に応じた適切な措置を可能とすることができる。また、外部のサービスセンタ等では、車両の衝突に対して取るべき措置が直接的に得られるので、迅速かつ適切な措置をとることができる。なお、従来技術では、必要な措置ではなく、衝突形態が外部に通報されるので、実際の乗員の状態については不明であり、衝突形態から必要な措置を講じる必要があった。このため、迅速性や正確性に欠けた措置を取るおそれがあった。
【0066】
上述したように、傷害発生率を推定するにあたり速度差を用いることで高精度な推定を実現した。これは、速度差を考慮することで、例えば、衝突前後の速度に大きな変化がない場合は傷害が発生する可能性が低い、という事態についても的確に推定できるからである。逆に衝突前後の速度に大きな変化がある場合は、傷害が発生する可能性が非常に高い、という事態についても的確に推定できるからである。
【0067】
そして、このような傷害発生率を衝突形態ごとに推定した。これにより、同じ速度差であっても、衝突形態によっては傷害発生率が大きく異なる、という事態を的確に推定できる。
【0068】
また、傷害判定装置10は、速度差及び衝突形態を得るための構成としては、加速度センサ20及び速度センサ25を用いた。これらのセンサは、一般的な車両1には必ず搭載されている。したがって、速度差及び衝突形態に基づいて傷害発生率を求めるにあたって、特別な装置を必要としない。従来技術のように乗員に関する情報を読み取るための装置が不要になり、コストを削減することができる。
【0069】
さらに、図5に示したように、衝突形態の判別にあたっては衝突角度を用いることができることを説明した。衝突角度は、+側と−側、すなわち運転者側、助手席側を区別するために用いることができる。つまり、図5の例では、運転者側及び助手席側を区別せずにオフセットなど一つに纏めていたが、衝突形態を分けてもよい。
【0070】
例えば、0度から−15度までを運転者側オフセット、0度から+15度までを助手席側オフセットという二つの衝突形態に分けてもよい。そして、運転者側に関する傷害発生率マップA1〜An(nは衝突形態の数)、助手席側に関する傷害発生率マップB1〜Bnを衝突形態ごとに作成して記憶部40に設けておく。衝突形態判別手段30により、運転者側オフセットという衝突形態が推定されたとき、運転者側オフセットに対応した傷害発生率マップAi、傷害発生率マップBiを選択し、速度差に対応した傷害発生率を運転者側及び助手席側のそれぞれについて特定する。
【0071】
このように衝突角度を考慮して衝突形態を分けることで、乗員の位置ごとに傷害発生率を推定することができる。そして、乗員毎に傷害発生率に基づいて措置が選択されるので、各乗員に適した措置を取ることができる。
【0072】
なお、傷害発生率マップA1〜Anは請求項の第1傷害発生率マップに相当し、傷害発生率マップB1〜Bnは請求項の第2傷害発生率マップに相当する。また、運転者側や助手席側を区別せずに、全ての乗員に対して共通の傷害発生率マップを用いてもよい。
【0073】
傷害判定装置10は、傷害発生率を推定するに当たり、傷害発生率マップを用いた。これにより、記憶部40から速度差に対応する傷害発生率をルックアップするだけで傷害発生率を得ることができるので、傷害発生率の推定を速やかに行うことができる。
【0074】
傷害判定装置10は、傷害発生率をしきい値と比較することで措置を選択した。これにより、しきい値を変更すれば、傷害発生率に適した措置を変更することができる。例えば、実際の乗員は比較的高度な重傷であるにも関わらず、その重傷の度合いに対して適切でない措置がなされた場合、傷害発生率に対応して適切な措置が選択されるようにしきい値を変更すればよい。このように、必要となる措置を柔軟に変更することができる。
【0075】
傷害判定装置10は、加速度センサ20により検出された加速度情報に基づいて衝突波形を形成し、当該衝突波形に基づいて車両1の衝突形態を判別した。具体的には、この衝突波形を予め規定した各衝突波形に対応した基準波形と比較することで、車両1の衝突形態を正確に判別することができる。特に、基準波形が、衝突時の車両1の変位と加速度との関係から規定されたものである場合、衝突形態毎の波形の特徴の違いが顕著であり、車両1の衝突形態を判別し易い。
【0076】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
【0077】
例えば、上述の実施形態では、衝突形態は合計5個定められていたが、数に限定はない。また、衝突形態は、衝突角度及びラップ量により分類されて定められていたが、このような態様に限定されない。
【0078】
また、衝突形態判別手段30が、車両の変位と加速度とに基づいて衝突波形を形成し、この衝突波形と基準波形とから衝突形態を判別するようにしたが、衝突波形及び基準波形は、例えば、時間と車両の加速度とから形成されたものであってもよい。この場合には、衝突波形及び基準波形を正規化して比較することが好ましい。なお、時間に関しては、衝突期間を考慮して最大時間を設定し、設定した最大時間を100%として正規化すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、自動車の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 傷害判定装置
20 加速度センサ(加速度検出手段)
25 速度センサ(速度差検出手段)
30 衝突形態判別手段
40 記憶部(記憶手段)
50 傷害発生率推定手段
60 措置選択手段
80 通信装置(通報手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7