特許第6607348号(P6607348)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607348
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20191111BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20191111BHJP
   B60K 28/16 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
   B60L50/60
   B60K28/16
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-166168(P2015-166168)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-46426(P2017-46426A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小森 克洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 輝
(72)【発明者】
【氏名】中井 英二
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 源
(72)【発明者】
【氏名】中和 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸司
【審査官】 今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−113541(JP,A)
【文献】 特開2000−345876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60K 28/16
B60L 50/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、
ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、
トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、
前記電動車両の重量を検出する重量検出手段と、を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記重量検出手段によって検出される前記電動車両の重量が重いほど前記開度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の電動車両の制御装置であって、
前記出力制限手段は、前記重量検出手段によって検出される前記電動車両の重量が軽いほど前記速度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動車両の制御装置であって、
前記電動車両の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記開度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項4】
デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、
ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、
トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、
前記電動車両の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記開度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電動車両の制御装置であって、
前記出力制限手段は、前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記速度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の電動車両の制御装置であって、
前記電動車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記開度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項7】
デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、
ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、
トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、
前記電動車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記開度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電動車両の制御装置であって、
前記出力制限手段は、前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記速度閾値を低い値に変更する
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャルギアを介して車輪に連結される電動機を備えた電動車両の制御装置に関し、特に、トラクションコントロール機能がオフの状態での電動機の出力(トルク)を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両には、車輪を回転させるための動力を発生する走行用モータ(電動機)を備えた電気自動車(EV)や、走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド電気自動車(HEV)等がある。これらの電動車両において走行用モータは、バッテリから供給される電力によって電動車両を走行させるための動力を発生する。そして電動車両では、アクセルを踏み込むことで、その踏み込み量の増加に応じて走行用モータの出力を増加させる制御(力行制御)を実行している。また走行用モータは、一般的に、デファレンシャルキア(差動装置)を介して左右の駆動輪に連結されており、このデファレンシャルギアにより左右の車輪の回転数差が吸収されている。
【0003】
ところで電動車両には、各車輪の空転(スリップ)により駆動力が伝わらなくなるのを防ぐため、車輪のスリップを検出したときに、駆動源である走行用モータの出力(トルク)を抑制したり、スリップしている車輪に制動力を与えたりすることで当該スリップを抑制する、いわゆるトラクションコントロール機能を備えているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4802643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トラクションコントロール機能をオンにしておくことで、スリップの発生を抑制することができる一方、例えば、急な坂道を上りたい場合や、轍を乗り越えたい場合等のように走行用モータの高い出力が要求される場合に、所望の出力が得られない虞がある。
【0006】
このような問題を解消するために、例えば、スイッチ操作により、トラクションコントロール機能をオフにできる電動車両もある。トラクションコントロール機能をオフにすることで、状況に応じ所望の出力は得られるものの、必要以上に出力が上昇してしまう虞がある。
【0007】
ところで、電動車両の走行用モータは、低回転から高トルクを出せる特性を有している。このため、トラクションコントロール機能がオフの状態では、車両が低速あるいは停止した状態でアクセルペダルを強く踏み込むことにより、駆動輪のスリップ、いわゆるホイールスピンが起こり易い。
【0008】
さらに、例えば、左右の駆動輪が接する路面のμ(摩擦係数)が異なっている状態でアクセルペダルを強く踏み込むと、左右の駆動輪の一方のみでホイールスピンが起こり、左右の駆動輪で大きな回転数差が生じてしまう。この回転数差は、上述のようにデファレンシャルギアによって吸収されるが、回転数差が過大になりまた長期に亘って継続すると、そのことに起因してデファレンシャルギアが破損してしまう虞がある。
【0009】
なお、このような問題は、トラクションコントロール機能がオフの状態で発生するものであるが、当然、トラクションコントロール機能を備えていない電動車両においても起こり得る。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、坂道等でも良好に発進することができ、且つ左右の駆動輪の回転数差に起因するデファレンシャルギアの破損を抑制することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、前記電動車両の重量を検出する重量検出手段と、を備え、
前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記重量検出手段によって検出される前記電動車両の重量が重いほど前記開度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【0013】
本発明の第の態様は、第の態様の電動車両の制御装置であって、前記出力制限手段は、前記重量検出手段によって検出される前記電動車両の重量が軽いほど前記速度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【0014】
本発明の第の態様は、第1又は2の態様の電動車両の制御装置であって、前記電動車両の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段を備え、前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記開度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
本発明の第4の態様は、デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、前記電動車両の傾斜状態を検出する傾斜状態検出手段と、を備え、前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記開度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【0015】
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様の電動車両の制御装置であって、前記出力制限手段は、前記傾斜状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両が下り坂における前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど前記速度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1から5の何れか一つの態様の電動車両の制御装置であって、前記電動車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段を備え、前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記開度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
本発明の第7の態様は、デファレンシャルギアを介して車輪に連結された電動機を備える電動車両の制御装置であって、ドライブシャフト又は駆動輪の回転速度に基づく車速を検出する車速検出手段と、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、前記アクセル開度が大きくなるほど出力が大きくなるように前記電動機を制御する電動機制御手段と、トラクションコントロール機能がオフの状態で、前記車速検出手段によって前記車速が所定の速度閾値以上となったことが検出されると、前記電動機の出力の上昇を制限する出力制限手段と、前記電動車両の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、を備え、前記出力制限手段は、前記アクセル開度が所定の開度閾値以上での前記電動機の出力の上昇を制限し、且つ前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記開度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【0017】
本発明の第の態様は、第6又は7の態様の電動車両の制御装置であって、前記出力制限手段は、前記旋回状態検出手段の検出結果に基づいて、前記電動車両の旋回半径が小さいほど前記速度閾値を低い値に変更することを特徴とする電動車両の制御装置にある。
【発明の効果】
【0018】
かかる本発明によれば、坂道でも良好に発進することができ、且つ左右の駆動輪の回転数差に起因するデファレンシャルギアの破損を抑制した電動車両を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る制御装置を備える電動車両の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】車速とモータトルクの上限値との関係を示すグラフである。
図4】走行開始からの経過時間と左右の駆動輪の回転数差及び車速との関係を示すグラフである。
図5】本発明の実施形態2に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図6】本発明の実施形態3に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図7】本発明の実施形態4に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施形態1)
まずは、本発明に係る制御装置を備える電動車両の概略構成について簡単に説明する。
図1に示すように、電動車両1は、電気自動車(EV)であり、二次電池であるバッテリ2と、このバッテリ2からの電力供給により作動する電動機である走行用モータ3と、を備えている。走行用モータ3は、デファレンシャルギア(以下、単に「デフ」とも称する)4を介して駆動輪(本実施形態では、前輪)5に連結されている。走行用モータ3の動作は、制御装置としてのECU(電子制御ユニット)10によって制御される。
【0021】
ECU10は、電動車両1に設けられた各種センサ、例えば、アクセルペダル31のストローク(APS)を計測するアクセルペダルストロークセンサ32、電動車両1の車速を計測する車速センサ33等からの出力情報に基づいて走行用モータ3を適宜制御する。ECU10は、アクセルペダル31が踏み込まれると、基本的には、アクセルペダル31の踏み込み量が増加するほど出力(トルク)が大きくなるように走行用モータ3のインバータ(図示なし)を適宜制御する。
【0022】
本実施形態に係るECU10は、図2に示すように、車速検出手段11と、アクセル開度検出手段12と、モータ制御手段13と、出力制限手段14と、を備えている。
【0023】
車速検出手段11と、車速センサ33の出力情報に基づいて電動車両1の車速を検出する。ここで、車速センサ33は、例えば、駆動輪(前輪)が接続されるドライブシャフトの回転速度に基づいて車速を計測する。このため、駆動輪5がホイールスピンしている場合でも、そのときの回転速度に基づいて車速が演算される。またアクセル開度検出手段12は、アクセルペダルストロークセンサ32の出力情報に基づいてアクセル開度を検出する。
【0024】
モータ制御手段13は、アクセル開度検出手段12の検出結果に基づいて走行用モータ3を適宜制御する。詳しくは、モータ制御手段13は、アクセルペダル31が踏み込まれている場合、アクセルペダル31の踏み込み量が大きくなるほど、つまりアクセル開度が大きくなるほど出力(トルク)が大きくなるように走行用モータ3を制御する。
【0025】
出力制限手段14は、車速検出手段11によって計測される車速が所定の速度閾値以上である場合に、アクセル開度が所定の開度閾値以上での走行用モータ3の出力(トルク)の上昇を、例えば当該開度閾値における出力値が上限となるよう制限する。
【0026】
ここで、本実施形態に係る電動車両1は、左右の駆動輪(前輪)5の回転数差が大きくならないように、左右の駆動輪5のブレーキや、走行用モータ3の出力を適宜制御する、いわゆるトラクションコントロール機能(アクティブスタビリティコントロール機能(ASC)ともいう)を有している。またこのトラクションコントロール機能は、例えば、運転者が所定のスイッチを操作することでオフにすることができるようになっている。なおトラクションコントロール機能は、周知の機能であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0027】
そして出力制限手段14は、トラクションコントロール機能がオフの状態である場合に、上述したように車速が所定の速度閾値以上となると、アクセル開度が所定の開度閾値以上での走行用モータ3の出力(トルク)の上昇を、例えば当該開度閾値における出力値が上限となるよう制限する。
【0028】
以下、この出力制限手段14による出力制限制御について説明する。
電動車両1では、車速に応じた走行用モータ3の出力(モータトルク)の最高値が、電動車両1の運転条件に対応して設定される。例えば、ECU10は、電動車両1の運転条件に応じたモータトルクのマップを複数記憶しており、電動車両1の運転条件が変更されると、対応するマップを読み出し、このマップに基づいて走行用モータ3を制御する。
【0029】
例えば、トラクションコントロール機能がオフにされると、図3に点線で示すように、その運転条件に応じたモータトルクの最高値が設定される。すなわちトラクションコントロール機能がオフである運転状態に適した車速とモータトルクの最高値との関係が規定されたマップが読み出される。
【0030】
そしてモータ制御手段13は、このモータトルクの最高値を超えない範囲で走行用モータ3を制御する。基本的には、アクセル開度が全開(100%)となった際に、この最高値のモータトルクを発揮されるように走行用モータ3を制御する。
【0031】
しかしながら、本発明では、トラクションコントロール機能がオフの状態である場合、出力制限手段14は、車速検出手段11によって検出される電動車両1の速度が所定の速度閾値(本実施形態では、20km/h)以上となると、アクセル開度検出手段12によって検出されるアクセル開度が所定の開度閾値(本実施形態では、アクセル開度80%)以上での走行用モータ3の出力(トルク)の上昇を制限する。すなわち、出力制限手段14は、電動車両1の速度が所定の速度閾値(20km/h)以上の範囲におけるモータトルクの最大値を、図3中に実線で示すように、所定量(本実施形態では20%)だけ減少させる補正を行う。
【0032】
したがって本実施形態では、車速が速度閾値(20km/h)以上の速度範囲においては、アクセル開度を開度閾値(アクセル開度80%)としたときに、最大のモータトルクが発揮され、それ以上アクセルペダル31を踏み込んでも(アクセル開度を大きくしても)、モータトルクが上昇しないように制御される。或いは、アクセル開度が全開になるまでモータトルクは徐々に上昇するが、アクセル開度を全開(100%)としたときに、アクセル開度80%に相当するモータトルクが発揮されるようにしてもよい。
【0033】
このように車速が速度閾値以上の範囲においては、モータトルクの最大値を制限するようにしたので、例えば、左右の駆動輪5に回転数差が生じた場合でも、回転数差を早期に抑制することができ、この回転数差に起因するデファレンシャルギア4の破損を抑制することができる。
【0034】
図4は、左右の駆動輪の一方が低μ路(氷結路に相当)に接し、他方が高μ路(ウェットアスファルトに相当)に接した状態で、アクセルペダル31を強く踏み込んだ際の駆動輪5の回転数差の変化を説明する図である。
【0035】
図4に示すように、トラクションコントロール機能がオンの場合、電動車両1が停止した状態、或いは極低速の状態で、アクセルペダル31を強く踏み込んでも、左右の駆動輪5の回転数の差(差回転数)の上昇は抑えられ(例えば、500rpm以下程度)、車速の上昇も比較的早い。
【0036】
一方、トラクションコントロール機能がオフの場合、電動車両1が停止した状態、或いは極低速の状態で、アクセルペダル31を強く踏み込むと(時刻t1)、左右の駆動輪5の差回転数が急激に増加する。図4の例では、約2000rpmまで上昇している。それに伴い、車速の上昇も、トラクションコントロールがオンのときに比べて遅くなる。そして従来は、このままアクセルペダル31を踏み込んだ状態を維持すると、図中点線で示すように左右の駆動輪5の差回転数もそのまま継続されてしまい、デファレンシャルギア4の破損を招く虞があった。
【0037】
しかしながら本実施形態では、上述のように車速が速度閾値(20km/h)以上の速度範囲においてモータトルクの最大値を制限するようにしたので、左右の駆動輪5の回転数差を早期に抑制することができる。図4の例では、時刻t2で車速が速度閾値(例えば、20km/h)を超えると、アクセルペダル31を強く踏み込んだ状態が維持されていても、左右の駆動輪5の差回転数は、例えば、半分程度(約1000rpm)まで低下する。
【0038】
このようにトラクションコントロール機能がオフのときに、左右の駆動輪5の回転数差が大きくなった場合でも、その回転数差を早期に抑制することで、回転数差に起因するデファレンシャルギア4の破損を抑制することができる。
【0039】
また出力制限手段14は、車速が速度閾値よりも遅い場合には、モータトルクの上昇の制限は行わない。このため車速が速度閾値よりも遅い速度範囲では、アクセルペダル31を強く踏み込むと、運転条件に応じて設定された最高値のモータトルクが発揮される。したがって、発進時に所望のモータトルクが得られ、坂道等であっても良好に電動車両1を発進させることができる。
【0040】
(実施形態2)
本実施形態は、出力制限手段14が、電動車両1の重量に応じて開度閾値や速度閾値を適宜変更するようにした例である。
【0041】
図5に示すように、本実施形態に係るECU10は、上述した車速検出手段11、アクセル開度検出手段12、モータ制御手段13及び出力制限手段14に加えて、例えば、車高検出センサ34によって計測される車高変化の情報等に基づいて電動車両1の重量を検出する重量検出手段15をさらに有する。
【0042】
そして、出力制限手段14は、重量検出手段15によって検出される電動車両1の重量が重いほど開度閾値を低い値に変更する。すなわちモータトルクの最高値がより低い値となるようにする。さらに出力制限手段14は、重量検出手段15によって検出される電動車両の重量が重いほど速度閾値を高い値に変更する。すなわちモータトルクの最高値が制限される範囲が狭まるように速度閾値を変更する。
【0043】
このように電動車両1の重量に応じて開度閾値を適宜変更することで、デフの破損をより確実に抑制することができる。また速度閾値を適宜変更することで、坂道等であってもより良好に電動車両1を発進させることができる。例えば、電動車両1の重量が軽くなるほど駆動輪5の面圧が低くなり、駆動輪5のスピンが生じ易く、左右の駆動輪5の回転数差が大きくなり易い。しかし、速度閾値を低い値に設定することで、左右の駆動輪5の回転数差が生じた場合、この回転数差をより早期に抑制することができる。
【0044】
(実施形態3)
本実施形態は、出力制限手段14が、電動車両1の傾斜状態に応じて開度閾値や速度閾値を適宜変更するようにした例である。
【0045】
図6に示すように、本実施形態に係るECU10は、上述した車速検出手段11、アクセル開度検出手段12、モータ制御手段13及び出力制限手段14に加えて、傾斜状態検出手段16をさらに有する。傾斜状態検出手段16は、例えば、電動車両1に設けられる傾斜センサ35によって計測される情報等に基づいて、電動車両1の傾斜方向(前傾、後傾)及び傾斜角度の大きさを検出する。
【0046】
そして、出力制限手段14は、この傾斜状態検出手段16によって電動車両1が前傾状態でありその傾斜角度が大きいほど、開度閾値を低い値に変更する。すなわち電動車両1が下り坂に位置し、その勾配が大きいほど、開度閾値を低い値に変更する。さらに出力制限手段14は、傾斜状態検出手段16によって検出される電動車両1の前傾状態における傾斜角度が大きいほど速度閾値を低い値に変更する。すなわち電動車両1が下り坂に位置し、その勾配が大きいほど速度閾値を高い値に変更する。
【0047】
電動車両1が下り坂に位置している場合、発進時にはあまり大きなモータトルクは必要としない。このため、モータトルクの最大値の制限を強めることで、またモータトルクの最大値を制限する速度範囲を広げることで、電動車両1を良好に発進させることができ、且つデファレンシャルギア4の破損をより確実に抑制することができる。
【0048】
(実施形態4)
本実施形態は、出力制限手段14が、電動車両1の旋回状態に応じて開度閾値や速度閾値を適宜変更するようにした例である。
【0049】
図7に示すように、本実施形態に係るECU10は、上述した車速検出手段11、アクセル開度検出手段12、モータ制御手段13及び出力制限手段14に加えて、電動車両1の旋回状態を検出する旋回状態検出手段17をさらに有する。旋回状態検出手段17は、例えば、ステアリングホイールの操舵角を検出するハンドル角センサ36の出力情報に基づいて、電動車両1の旋回状態を検出する。なお旋回状態検出手段17は、ハンドル角センサ36の代わりに、例えば、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサの出力情報等に基づいて、電動車両1の旋回状態を検出するようにしてもよい。
【0050】
そして、出力制限手段14は、旋回状態検出手段17によって電動車両1の旋回半径が小さいほど、開度閾値を低い値に変更する。さらに出力制限手段14は、旋回状態検出手段17によって検出される電動車両1の旋回半径が小さいほど速度閾値を低い値に変更する。
【0051】
これにより、電動車両1を良好に発進させることができ、且つデファレンシャルギア4の破損をより確実に抑制することができ、さらに電動車両1の走行安定性を高めることができる。すなわち電動車両1の旋回半径が小さいほど、モータトルクの最大値の制限を強めることで、またモータトルクの最大値を制限する速度範囲を広げることで、電動車両1の急加速を抑制することができ、走行安定性を高めることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上述の実施形態では、トラクションコントロール機能を有する電動車両を例示して本発明を説明したが、本発明は、トラクションコントロール機能を備えていない電動車両にも適用可能なものである。
【符号の説明】
【0054】
1 電動車両
2 バッテリ
3 走行用モータ
4 デファレンシャルギア(デフ)
5 駆動輪(前輪)
10 ECU(制御装置)
11 車速検出手段
12 アクセル開度検出手段
13 モータ制御手段(電動機制御手段)
14 出力制限手段
15 重量検出手段
16 傾斜状態検出手段
17 旋回状態検出手段
31 アクセルペダル
32 アクセルペダルストロークセンサ
33 車速センサ
34 車高検出センサ
35 傾斜センサ
36 ハンドル角センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7