特許第6607372号(P6607372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607372
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20191111BHJP
【FI】
   B62D5/04
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-121123(P2015-121123)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-1648(P2017-1648A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】椎名 晶彦
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−081916(JP,A)
【文献】 特開2014−205474(JP,A)
【文献】 特開2010−221758(JP,A)
【文献】 特開2004−237785(JP,A)
【文献】 特開2012−106560(JP,A)
【文献】 特開2006−123857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
F16D 25/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の回転を伝達する操舵軸と、
舵輪を転舵する転舵機構と、
前記操舵軸の少なくとも一部を収容する内部空間を有するハウジングと、
前記操舵軸に相対回転可能に設けられ、前記転舵機構に連結された出力軸と、
前記操舵軸と前記出力軸とを連結/連結解除可能に設けられたツーウェイクラッチと、前記ツーウェイクラッチが前記操舵軸と前記出力軸とを連結/連結解除するための駆動力を生じさせる駆動力発生部と、前記駆動力発生部からの駆動力を受けて前記ツーウェイクラッチを作動させるための作動部材とを有し、前記操舵軸と前記出力軸との間の動力伝達を断続するクラッチ機構とを含み、
前記クラッチ機構は、前記ハウジングの内部空間に収容配置されており、
前記ツーウェイクラッチが、
前記操舵軸および前記出力軸の一方に同軸に連結された内輪と、
前記操舵軸および前記出力軸の他方に同軸に連結され、前記内輪に相対回転可能に設けられた外輪と、
前記内輪の外周と前記外輪の内周とによって形成されるくさび空間に、前記内輪の周方向に並んで配置されるローラ対と、
前記操舵軸回りに相対回転可能に設けられ、互いに反対向きの所定の方向に移動されることにより、前記ローラ対を互いに接近する方向に押圧する第1および第2の押圧部材とを含み、
前記作動部材が、前記第1の押圧部材に摺接する第1の摺接面と、前記第2の押圧部材に摺接する第2の摺接面とを有し、
前記第1および第2の摺接面が、前記操舵軸の所定の軸方向に向かうに従って周方向の両側に互いに離れる部分を含むように設けられている、ステアリング装置。
【請求項2】
前記操舵軸へ少なくとも回転やトルクを伝達する、あるいは前記操舵軸から少なくとも回転やトルクを伝達される伝達機構を含み、前記ハウジングは前記伝達機構を前記内部空間に収容する、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記操舵軸に一体回転可能に取り付けられた歯車を有し、前記ハウジングは少なくとも前記歯車を収容する、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
当該内部空間において、前記駆動力発生部は、前記ツーウェイクラッチに対し、周方向外方に配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記伝達機構が減速機であり、前記内輪が前記操舵軸に連結されており、前記外輪は、前記出力軸に連結されている、請求項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記伝達機構が減速機であり、かつ前記操舵軸に一体回転可能に取り付けられた歯車をさらに有し、
前記内輪が前記出力軸に連結されており、かつ前記外輪が前記操舵軸に連結されており、
前記外輪は、前記歯車に固定されている、請求項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記駆動力発生部は、コイルへの通電により生じる電磁力を利用して前記前記ツーウェイクラッチを駆動する、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記駆動力発生部は、油圧を用いて前記ツーウェイクラッチを駆動する、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記ツーウェイクラッチの内部を封止するシール部材を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材と転舵機構との機械的な連結をなくし、ステアリングホイールの操舵角を角度センサによって検出するとともに、そのセンサ出力に応じて制御される転舵用アクチュエータの駆動力を転舵機構に伝達するようにしたステアバイワイヤシステムが提案されている(たとえば下記特許文献1参照)。
一方、ステアバイワイヤシステムを搭載する場合には、転舵用アクチュエータ等に不具合が発生した場合であっても転舵輪の転舵を実行できるように、対策を講じる必要がある。
【0003】
そのような対策を講じたステアリング装置として、下記特許文献2,3には、操舵部材と転舵機構とを電磁クラッチ機構を介して連結し、正常運転中には、操舵部材と転舵機構との機械的な連結を解除し、異常発生時には、操舵部材と転舵機構とを機械的に連結する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−132950号公報
【特許文献2】特許4927608号公報
【特許文献3】特許4347100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステアリング装置にクラッチ機構(電磁クラッチ)を搭載する場合、たとえば、インターミディエイトシャフトと、ステアリングコラムとの間にクラッチ機構を介装することが考えられる。
しかしながら、この場合、クラッチ機構が周辺部材と干渉するおそれがある。
そこで、本発明の目的は、クラッチ機構を周辺部材と干渉することなく搭載できるステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、操舵部材(3)の回転を伝達する操舵軸(10)と、転舵輪を転舵する転舵機構(A)と、前記操舵軸の少なくとも一部を収容する内部空間を有するハウジング(H)と、前記操舵軸に相対回転可能に設けられ、前記転舵機構に連結された出力軸(16)と、前記操舵軸と前記出力軸とを連結/連結解除可能に設けられたツーウェイクラッチ(106,306)と、前記ツーウェイクラッチが前記操舵軸と前記出力軸とを連結/連結解除するための駆動力を生じさせる駆動力発生部(53,253,353)と、前記駆動力発生部からの駆動力を受けて前記ツーウェイクラッチを作動させるための作動部材(55,255,355)とを有し、前記操舵軸と前記出力軸との間の動力伝達を断続するクラッチ機構(15,215,315)とを含み、前記クラッチ機構は、前記ハウジングの内部空間(S)に収容配置されており、前記ツーウェイクラッチが、前記操舵軸および前記出力軸の一方に同軸に連結された内輪(104,304)と、前記操舵軸および前記出力軸の他方に同軸に連結され、前記内輪に相対回転可能に設けられた外輪(105,305)と、前記内輪の外周と前記外輪の内周とによって形成されるくさび空間(129)に、前記内輪の周方向に並んで配置されるローラ対(123)と、前記操舵軸回りに相対回転可能に設けられ、互いに反対向きの所定の方向に移動されることにより、前記ローラ対を互いに接近する方向に押圧する第1および第2の押圧部材(131,132)とを含み、前記作動部材が、前記第1の押圧部材に摺接する第1の摺接面(153)と、前記第2の押圧部材に摺接する第2の摺接面(154)とを有し、前記第1および第2の摺接面が、前記操舵軸の所定の軸方向(X1,X2)に向かうに従って周方向の両側に互いに離れる部分を含むように設けられている、ステアリング装置(1,201,301)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2に記載の発明は、前記操舵軸へ少なくとも回転やトルクを伝達する、あるいは前記操舵軸から少なくとも回転やトルクを伝達される伝達機構(12)を含み、前記ハウジングは前記伝達機構を前記内部空間に収容する、請求項1に記載のステアリング装置である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記操舵軸に一体回転可能に取り付けられた歯車(14)を有し、前記ハウジングは少なくとも前記歯車を収容する、請求項1に記載のステアリング装置である。
請求項4に記載の発明は、当該内部空間において、前記駆動力発生部は、前記機構部に対し、周方向外方に配置されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【0012】
請求項に記載の発明は、前記伝達機構が減速機であり、前記内輪が前記操舵軸に連結されており、前記外輪は、前記出力軸に連結されている、請求項に記載のステアリング装置である。
請求項に記載の発明は、前記伝達機構が減速機であり、かつ前記操舵軸に一体回転可能に取り付けられた歯車をさらに有し、前記内輪が前記出力軸に連結されており、かつ前記外輪が前記操舵軸に連結されており、前記外輪は、前記歯車に固定されている、請求項に記載のステアリング装置である。
【0013】
求項に記載の発明は、前記駆動力発生部は、コイル(56a,256a,356a)への通電により生じる電磁力を利用して前記ツーウェイクラッチを駆動する、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【0014】
請求項に記載の発明は、前記駆動力発生部は、油圧を用いて前記ツーウェイクラッチを駆動する、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
請求項は、前記ツーウェイクラッチの内部を封止するシール部材(80)を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1によれば、クラッチ機構がハウジングの内部空間に収容配置されている。ハウジングの内部にクラッチ機構を収容配置するので、クラッチ機構が周辺部材と干渉することを回避できる。ゆえに、周辺部材と干渉することなくクラッチ機構を設けることができるステアリング装置を提供できる。
また、ツーウェイクラッチでは、ローラ対が内輪および外輪の双方に係合する状態で接続状態になる。この接続状態から、一対の押圧部材を互いに反対向きの所定の方向に移動することにより、ローラ対が互いに接近する方向に移動させられる。この場合、内輪および外輪の少なくとも一方に対するローラ対の係合が外れる。その結果、ツーウェイクラッチが切断状態になる。これにより、操舵軸と出力軸とを連結/連結解除する構成を、ツーウェイクラッチによって実現できる。
また、作動部材の、操舵軸の軸方向への移動に伴い、一対の押圧部材が互いに反対方向に移動する。そのため、作動部材を操舵軸の軸方向のいずれかに移動させることにより、ローラ対を互いに接近する方向に移動させることができる。これにより、ツーウェイクラッチを、接続状態と切断状態との間で良好に切り換えることができる。
また、第1および第2の摺接面は、所定の軸方向に向かうに従って周方向の両側に互いに離れるように設けられている。そのため、作動部材を、操舵軸の所定の軸方向とは反対側へ移動させることにより、第1および第2の押圧部材を互いに反対向きの所定の方向に移動させることができる。
請求項2によれば、クラッチ機構がハウジングの内部空間に収容配置されている。ハウジングの内部にクラッチ機構を収容配置するので、クラッチ機構が周辺部材と干渉することを回避できる。ゆえに、周辺部材と干渉することなくクラッチ機構を設けることができるステアリング装置を提供できる。
【0016】
請求項3によれば、クラッチ機構がハウジングの内部空間に収容配置されている。ハウジングの内部にクラッチ機構を収容配置するので、クラッチ機構が周辺部材と干渉することを回避できる。ゆえに、周辺部材と干渉することなくクラッチ機構を設けることができるステアリング装置を提供できる。
請求項4によれば、内部空間において、駆動力発生部は、機構部に対し、周方向外方に配置されている。すなわち、駆動力発生部および機構部が、操舵軸の軸方向に関し並列に配置されている。そのため、駆動力発生部および機構部を、操舵軸の軸方向に関し直列に配置する場合と比較して、クラッチ機構を、操舵軸の軸方向に大型化させることなく、ハウジング内に収容できる。これにより、ステアリング装置の大型化を抑制できる。
【0019】
請求項によれば、内輪の操舵軸への連結、および外輪の出力軸への連結を実現できる。
請求項によれば、外輪が歯車に固定されている。これにより、外輪の操舵軸への連結を実現できる
【0020】
求項によれば、駆動力発生部は、コイルへの通電により生じる電磁力を利用してツーウェイクラッチを駆動する。これにより、駆動力発生部を簡単な構成で実現できる。
請求項によれば、駆動力発生部は、油圧を用いてツーウェイクラッチを駆動する。そのため、ハウジング内の周辺部材に対する電磁場の影響を回避しながら、ツーウェイクラッチを駆動することができる。
【0021】
請求項によれば、ツーウェイクラッチの内部に封入された潤滑剤の、当該内部からの流出が防止される。これにより、当該潤滑剤がハウジング内の他の部材に影響を及ぼすことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係るステアリング装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、図1に示すハウジングの断面図である。
図3図3は、図2の切断面線III−IIIから見た断面図である
図4図4は、図3に示すツーウェイクラッチの斜視図である。
図5図5Aおよび図5Bは、図4に示す作動部材を説明するための図である。
図6図6Aおよび図6Bは、前記作動部材のくさび部材の斜視図である。
図7図7は、前記ツーウェイクラッチの締結状態における、前記作動部材と、第1および第2の押圧部材との間の位置関係を示す図である。
図8図8は、前記ツーウェイクラッチの解放状態における、当該ツーウェイクラッチの断面図である。
図9図9は、前記ツーウェイクラッチの解放状態における、前記作動部材と、第1および第2の押圧部材との間の位置関係を示す図である。
図10図10は、本発明の第2の実施形態に係るステアリング装置の要部の概略構成を示す断面図である。
図11図11は、本発明の第3の実施形態に係るステアリング装置の要部の概略構成を示す断面図である。
図12図12は、ステアリング装置の第1の変形例を示す模式的な断面図である。
図13図13は、ステアリング装置の第2の変形例を示す模式的な断面図である。
図14図14は、ステアリング装置の第3の変形例を示す模式的な断面図である。
図15図15は、ステアリング装置の第4の変形例を示す模式的な断面図である。
図16図16は、ステアリング装置の第5の変形例を示す模式的な断面図である。
図17図17は、ステアリング装置の第6の変形例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す図である。
ステアリング装置1は、転舵輪2を転舵するための転舵機構Aに対する、ステアリングホイール等の操舵部材3の機械的な連結が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを採用している。
【0024】
ステアリング装置1において、操舵部材3の回転操作に応じて、転舵アクチュエータ4の動作が制御される。この動作は、転舵軸6の車幅方向の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵用の左右の転舵輪2の転舵運動に変換され、これにより車両の転舵が達成される。
具体的には、転舵アクチュエータ4は、たとえばモータを含む。このモータの駆動力は、転舵軸6に関連して設けられた運動変換機構(ボールねじ装置等)により、転舵軸6の軸方向の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端に連結されたタイロッド7に伝達され、ナックルアーム8の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム8に支持された転舵輪2の操向が達成される。転舵機構Aは、転舵軸6、タイロッド7およびナックルアーム8を含む。転舵軸6を支持する転舵軸ハウジング9は、車体Bに固定されている。
【0025】
操舵部材3は、操舵軸10に連結されている。操舵軸10は、車体Bに固定されたステアリングコラム5のハウジングHによって、回転可能に支持されている。操舵軸10は、操舵部材3と一体回転可能である。操舵軸10には、第1のモータ11と、第1のモータ11の出力回転を減速させる第1の減速機(伝達機構)12とが取り付けられている。第1の減速機12は、たとえば、第1のモータ11により回転駆動されるウォーム軸13と、ウォーム軸13と噛み合い、操舵軸10に固定されたウォームホイール(歯車)14とを含む。
【0026】
操舵軸10は、クラッチ機構15を介して、転舵機構Aに連結されている。具体的には、転舵機構Aの転舵軸6はラック軸を含む。このラック軸に係合するピニオン19を先端部に有するピニオン軸18には、インターミディエイトシャフト17を介して、出力軸16が接続されている。出力軸16は、操舵軸10に同軸かつ相対回転可能に設けられている。操舵軸10と出力軸16との間に、クラッチ機構15が介装されている。
【0027】
ステアリング装置1には、操舵軸10に関連して、操舵部材3の操舵角を検出するための操舵角センサ20が設けられている。また、操舵軸10には、操舵部材3に加えられた操舵トルクを検出するためのトルクセンサ21が設けられている。トルクセンサ21は、ステアリングコラム5のハウジングH内に収容されている。
また、ステアリング装置1には、転舵輪2に関連して、転舵輪2の転舵角を検出するための転舵角センサ22、車速を検出する車速センサ23等が設けられている。センサ20〜23を含む種々のセンサ類の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成のECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)から構成される制御装置24に入力されるようになっている。制御装置24は、操舵角センサ20によって検出された操舵角と、車速センサ23によって検出された車速とに基づいて目標転舵角を設定する。また、制御装置24は、この目標転舵角と、転舵角センサ22によって検出された転舵角との偏差に基づいて、転舵アクチュエータ4を駆動制御する。
【0028】
車両の正常運転中は、制御装置24は、クラッチ機構15を切断状態として、操舵部材3と転舵機構Aとを機械的に切り離す。この状態で、制御装置24は、操舵角センサ20、トルクセンサ21等が出力する検出信号に基づいて、操舵部材3が操舵された方向と逆方向を向く適当な反力を操舵部材3に付与するように、第1のモータ11を駆動制御する。第1のモータ11の出力回転は第1の減速機12によって減速(増幅)され、操舵軸10を介して操舵部材3に伝達される。すなわち、車両の正常運転中は、第1のモータ11および第1の減速機12が反力発生機構として機能する。
【0029】
一方、車両がイグニション・オフの状態である場合や、ステアバイワイヤシステムに不調が生じた等の異常発生の場合には、制御装置24は、クラッチ機構15を接続状態として、操舵部材3と転舵機構Aとを機械的に連結させる。これにより、操舵部材3による転舵機構Aの直接操作を可能としている。クラッチ機構15を介して操舵軸10と転舵機構Aとを機械的に連結可能な構成を採用することにより、ステアバイワイヤシステムの機械的なフェールセーフを実現している。
【0030】
また、例えば転舵アクチュエータ4又は第1のモータ11の一方に不調が生じた場合は、制御装置24は、操舵角センサ20、トルクセンサ21等が出力する検出信号に基づいて、転舵機構Aに操舵補助力を付与するように、他方を駆動制御する。第1のモータ11の出力回転は、第1の減速機12によって減速され、出力軸16、インターミディエイトシャフト17およびピニオン軸18を介して転舵機構Aに伝達される。転舵アクチュエータ4の出力回転は運動変換機構により転舵機構Aに伝達される。すなわち、異常発生の場合には、第1のモータ11および第1の減速機12、又は転舵アクチュエータ4および運動変換機構が、操舵補助機構として機能する。
【0031】
とくに、転舵アクチュエータ4の不調時には、第1のモータ11および第1の減速機12によって、異常発生時の操舵補助機構と正常時の反力発生機構とを兼用することができる。そのため、操舵補助機構および反力発生機構をそれぞれ別に設ける場合と比較して、コストダウンを図ることができる。
また、反力発生機構が、第1のモータ11だけでなく、第1のモータ11の出力を増幅する第1の減速機12を有しているので、大きな回転トルクを反力として発生させることができる。これにより、所望の大きさの反力を操舵部材3に付与できる。
【0032】
ステアリングコラム5は、少なくとも第1の減速機12を収容するハウジングHを有している。クラッチ機構15は、ハウジングHの内部空間S(図2参照)に収容されている。
図2は、ハウジングHの断面図である。図2の断面図は、後述する図3の切断面線II−IIから見ている。
【0033】
操舵軸10は、操舵部材3(図1参照)に連なるミドルシャフト27と、ミドルシャフト27に同軸に固定された入力軸28と、ウォームホイール14が外嵌固定された内軸29と、入力軸28および内軸29を同一軸線上に連結するトーションバー30とを含む。ミドルシャフト27を介して入力軸28に操舵トルクが入力されたときに、トーションバー30が弾性的にねじり変形し、これにより、入力軸28と内軸29とが相対回転する。操舵トルクは、トルクセンサ21により、入力軸28と内軸29との相対回転量に基づいて検出される。
【0034】
操舵軸10を支持するステアリングコラム5は、ミドルシャフト27の少なくとも一部を収容する筒状のジャケットJと、ジャケットJに対し操舵軸10の軸方向下部(転舵機構A側)に配置され、トルクセンサ21の少なくとも一部を収容すると共にトルクセンサ21を保持するセンサハウジング26と、センサハウジング26に対し操舵軸10の軸方向下部に配置され、第1の減速機12を収容する減速機ハウジング25とを有している。センサハウジング26および減速機ハウジング25は、ハウジングHに含まれる。
【0035】
ステアリングコラム5は、車両後方側に配置された上部取付構造体71により車体Bの所定部72に取り付けられるとともに、車両前方側に配置された下部取付構造体73により車体Bの所定部74に取り付けられている。ジャケットJが、上部取付構造体71により支持され、減速機ハウジング25が下部取付構造体73により支持されている。この状態で、操舵軸10は、車両の前後方向に対して斜め姿勢(操舵部材3(図1参照)が上方に位置する斜め姿勢)に支持されている。
【0036】
ステアリングコラム5は、チルト中心軸75の回りに揺動可能に支持されている。 ステアリングコラム5をチルト中心軸75の回りに揺動させ傾けることにより操舵部材3(図1参照)の高さ位置を調整するチルト調整機能が、上部取付構造体71および下部取付構造体73によって実現されている。下部取付構造体73は、チルトヒンジ機構として機能する。
【0037】
トルクセンサ21は、操舵軸10を取り囲む環状をなしており、センサハウジング26の内周26aに嵌合支持されている。
センサハウジング26は、減速機ハウジング25に固定されている。センサハウジング26は、減速機ハウジング25の上端に突き当てられた外筒38と、内周39aに第1の軸受50の外輪50aを支持する内筒39と、外筒38と内筒39との間を接続する環状壁40とを含む。
【0038】
トルクセンサ21は、入力軸28および内軸29に関連して設けられた磁気回路形成機構44に生じた磁束に基づいて操舵トルクを検出する。磁気回路形成機構44は、入力軸28および内軸29の一方に一体回転可能に連結された多極磁石45と、多極磁石45の磁界内に配置され、入力軸28および内軸29の他方と一体回転可能に連結された一対の磁気ヨーク46とを含み、磁気回路を形成する。
【0039】
トルクセンサ21は、一対の磁気ヨーク46とそれぞれ磁気的に結合された一対の集磁リング47と、一対の集磁リング47の集磁部(図示しない)間の磁束を検出するホールIC等の磁束検出要素(図示しない)と、これらを保持する樹脂製の環状の本体48とを備えている。配線49は、トルクセンサ21の本体48から径方向外方に延びている。センサハウジング26が、第1の軸受50を介して内軸29を回転可能に支持している。第1の軸受50の内輪50bは、内軸29に一体回転可能に嵌合されている。
【0040】
減速機ハウジング25は、ウォーム軸13を収容保持する筒状のウォーム軸収容部34と、ウォームホイール14を収容保持するウォームホイール収容部35とを、単一の材料で交差状に一体に形成している。ウォームホイール収容部35がセンサハウジング26に固定されている。
ウォームホイール14は、内軸29の軸方向下端部に一体回転可能で且つ軸方向移動不能に連結されている。ウォームホイール14は、内軸29に一体回転可能に結合される環状の芯金部31と、芯金部31の周囲を取り囲んで外周面部に歯32aを形成する合成樹脂部材32とを含む。芯金部31は、たとえば合成樹脂部材32の樹脂成形時に金型内にインサートされ、芯金部31と合成樹脂部材32とは一体回転可能に結合される。
【0041】
出力軸16は、ウォームホイール収容部35から、軸方向の下方(転舵機構A側)に突き出すように設けられている。出力軸16は、内軸29に同軸かつ内軸29の外周を囲み、出力軸16の内周と、内軸29の外周との間には微小隙間が形成されている。出力軸16は、内軸29の外周に介装された第2の軸受36によって、内軸29に同軸かつ相対回転可能に支持されている。第2の軸受36として、図2に示すような転がり軸受が採用されてもよいし、すべり軸受が採用されてもよい。出力軸16は、インターミディエイトシャフト17(図1参照)等を介して転舵機構A(図1参照)に連なっている。
【0042】
減速機ハウジング25は、第3の軸受37を介して出力軸16を回転可能に支持している。第3の軸受37は、操舵軸10の軸方向に関し、ウォームホイール14の下方(転舵機構A側)に配置されている。第3の軸受37の内輪37aは、出力軸16に一体回転可能に嵌合されている。
ハウジングHの内部空間Sは、ウォームホイール14によって、ウォームホイール14に対し操舵軸10の軸方向の下方側(転舵機構A側)の第1の空間Saと、ウォームホイール14に対し操舵軸10の軸方向の上方側(操舵部材3側)の第2の空間Sbとに仕切られている。
【0043】
クラッチ機構15は、機構部51と駆動部52とを含む。機構部51は、次に述べるツーウェイクラッチ106を含む。駆動部52は、駆動力発生部53の一例としての環状のソレノイド54と、駆動力発生部53からの電磁力(駆動力)を受けて機構部51を作動させるための作動部材55とを含む。機構部51は、ハウジングHの内部空間Sのうち、下方の第1の空間Saに収容配置されている。
【0044】
ソレノイド54は、第1の空間Saに収容されている。すなわち、ソレノイド54は、操舵軸10の軸方向に関し、ウォームホイール14に対し機構部51と同じ側に配置されている。ソレノイド54は、機構部51(後述するツーウェイクラッチ106)の外周を取り囲むように(機構部51の周方向外方に)配置されている。より具体的には、ソレノイド54は、ツーウェイクラッチ106の外輪105の外周を取り囲んでいる。ソレノイド54は、減速機ハウジング25の外周面25aに固定されている。ソレノイド54と機構部51とは、操舵軸10の軸方向に関し、部分的に重なっている。
【0045】
ソレノイド54は、操舵軸10と同軸に銅線等が巻き付けられたコイル56aと、コイル56aに近接して配置されるコア56bとを有する。ソレノイド54の内周部が、作動部材55のアーマチュア58を吸引する吸引部として機能する。
第1の実施形態において、ハウジングHの内部空間Sのうち、上方の第2の空間Sbは狭空間である。そのため、第2の空間Sbにクラッチ機構15の一部(たとえばソレノイド54)を配置することはできない。
【0046】
図3は、図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。図4は、図3に示すツーウェイクラッチ106の斜視図である。図4では、ツーウェイクラッチ106から外輪105を除いた構成を示している。また、図3では、作動部材55としてくさび部材126の構成のみを示し、その他の構成の図示を省略している。
以下、図2図4を参照して、ツーウェイクラッチ106について説明する。
【0047】
以降の説明において、操舵軸10の軸方向を軸方向Xとする。内輪104の軸方向および外輪105の軸方向は、軸方向Xと一致する。また、軸方向Xのうち、ツーウェイクラッチ106から見て上方側(車両の後方側)の軸方向を軸方向一方X1とし、軸方向Xのうち、ツーウェイクラッチ106から見て下方側(車両の前方側)の軸方向を軸方向他方X2とする。
【0048】
また、操舵軸10の回転方向に沿う方向を周方向Yとする。内輪104の周方向、外輪105の周方向、およびウォームホイール14の周方向は、周方向Yと一致する。また、周方向Yのうち、軸方向他方X2側から見て時計回りの周方向を周方向一方Y1とし、周方向Yのうち、軸方向他方X2側から見て反時計回りの周方向を周方向他方Y2とする。
また、操舵軸10の回転半径方向を、径方向Zとする。内輪104の径方向、外輪105の径方向、およびウォームホイール14の径方向は、径方向Zと一致する。
【0049】
ツーウェイクラッチ106は、出力軸16(図2参照)に同軸に連結された内輪104と、内軸29(図2参照)に同軸に連結され、かつ内輪104に相対回転可能に設けられた外輪105と、内輪104の外周と外輪105の内周とによって形成される一または複数の(この実施形態では、たとえば3つの)くさび空間129のそれぞれに、周方向Yに並んで配置される、第1のローラ123aおよび第2のローラ123bからなるローラ対123と、操舵軸10回りに相対回転可能に設けられた第1および第2の押圧部材131,132とを含む。第1の押圧部材131が周方向他方Y2に向けて移動することにより、各ローラ対123の第1のローラ123aが周方向他方Y2に向けて押圧移動させられる。また、第2の押圧部材132が周方向一方Y1に向けて移動することにより、各ローラ対123の第2のローラ123bが周方向一方Y1に向けて押圧移動させられる。
【0050】
図2に示すように、外輪105は、ウォームホイール14の芯金部31の下側(出力軸16側)の面に形成された環状溝41に内嵌固定されている。外輪105の芯金部31への固定により、外輪105の操舵軸10への連結を簡単な構成で実現できる。外輪105は、鋼等の金属材料を用いて一体に設けられていてもよい。この実施形態では、要求される硬さが互いに相違することから、芯金部31と外輪105とを別部材としているが、外輪105と、ウォームホイール14の芯金部31とを一体に設けた構成を採用してもよい。
【0051】
内輪104は、図2に示すように、たとえば、出力軸16と一体に設けられている。すなわち、内輪104と出力軸16とを一体に含む出力軸部材57が設けられている。出力軸部材57は、たとえば鋼等の金属材料を用いて形成されている。また、内輪104と、出力軸16とを、別部材を用いて設けるようにしてもよい。なお、内輪104や外輪105が合成樹脂材料を用いて形成されていてもよい。
【0052】
図3に示すように、各くさび空間129は、外輪105の内周に形成された円筒面121と、内輪104の外周に形成され、円筒面121と径方向Zに対向するカム面122とによって区画される。各くさび空間129は、周方向Yの両端に向かうに従って狭くなっている。各くさび空間129には、第1および第2のローラ123a,123bを互いに離反する周方向Yに弾性押圧する弾性部材124が配置されている。弾性部材124としてコイルばね等を例示できる。カム面122は、周方向Yに対し互いに反対の方向に傾斜するように設けられた一対の傾斜面127a,127bと、一対の傾斜面127a,127b傾斜面127a,127b同士を接続する平坦なばね支持面128とを含む。
【0053】
各ローラ対123は、周方向一方Y1側の第1のローラ123aと、周方向他方Y2側の第2のローラ123bとを含む。
第1の押圧部材131は、柱状の第1の押圧部135と、第1の押圧部135の一端部を一括して支持する環状の第1の支持部136(図2参照)とを含む。第1の支持部136は、たとえば複数の第1の押圧部135を、径方向Zの内方から支持する。第1の押圧部材131は、第1の支持部136が内輪104および外輪105と同軸をなすように、かつ内輪104および外輪105に相対回転可能に設けられている。第1の押圧部135は、ローラ対123と同数(この実施形態では3つ)で、軸方向Xに延びる柱状で、周方向Yに等間隔に配置されている。第1の押圧部135および第1の支持部136は、合成樹脂材料または金属材料を用いて一体に設けられていてもよい。第1の押圧部材131は、ローラ対123および弾性部材124を保持する保持器として機能していてもよい。
【0054】
第2の押圧部材132は、柱状の第2の押圧部140と、第2の押圧部140を一括して支持する環状の第2の支持部141(図5参照)とを含む。第2の支持部141は、たとえば複数の第2の押圧部140を、径方向Zの外方から支持する。第2の押圧部材132は、第2の支持部141が内輪104および外輪105と同軸をなすように、かつ内輪104および外輪105に相対回転可能に設けられている。第2の押圧部140は、ローラ対123と同数(この実施形態では3つ)で、軸方向Xに延びる柱状で、周方向Yに等間隔に配置されている。第2の押圧部140および第2の支持部141は、合成樹脂材料または金属材料を用いて一体に設けられていてもよい。第2の押圧部材132は、ローラ対123および弾性部材124を保持する保持器として機能していてもよい。
【0055】
図3および図4に示すように、第1の押圧部材131および第2の押圧部材132は、第1の押圧部135と第2の押圧部140とが周方向Yに交互に並ぶように組み合わされる。
図3および図4に示すように、各第1の押圧部135と、当該第1の押圧部135が押圧可能な第1のローラ123aが含まれるローラ対123に対して周方向一方Y1側で隣接するローラ対123に含まれる第2のローラ123bに押圧可能な第2の押圧部140(以下、「隣ローラ対123の第2の押圧部140」という)との間には、対応する1つのくさび部材126が配置されている。各第1の押圧部135の周方向他方Y2側には、当該第1の押圧部135が押圧可能な第1のローラ123aと対をなす第2のローラ123bを押圧するための第2の押圧部140が、ローラ対123を介して配置されている。また、各第1の押圧部135の周方向一方Y1側には、隣ローラ対123の第2の押圧部140が、くさび部材126を介して配置されている。
【0056】
図3および図4に示すように、各第1の押圧部135の周方向他方Y2側の面には、ローラ対123の第1のローラ123aを押圧するための第1の押圧面137が形成されている。第1の押圧面137は、たとえば平坦面によって構成されている。第1の押圧面137は、平坦面によって構成されているものに限られず、第1のローラ123aに、面接触、線接触または点接触するものであってもよい。
【0057】
図3および図4に示すように、各第1の押圧部135の周方向一方Y1側の面には、第1の被摺接面138が形成されている。くさび部材126の周方向他方Y2側の面には第1の摺接面153が形成されている。第1の摺接面153と第1の被摺接面138とは線接触状態になるような形状に形成されている。具体的には、本実施例では第1の被摺接面138は、周方向他方Y2側へ凹形状に湾曲した曲面C(図7等参照)を含んでいる。第1の摺接面153は、周方向他方Y2側へ凸形状に湾曲した曲面D(図7等参照)を含んでいる。曲面Cの曲率は曲面Dの曲率よりも小さく設定されており、曲面Cと曲面Dとは線接触している。つまり、第1の摺接面153と第1の被摺接面138とは線接触している。くさび部材126の軸方向Xの移動に伴って曲面C上における曲面Dとの接触位置も曲面C上を移動するが、通常状態では曲面Cから逸脱することはない。
【0058】
図3および図4に示すように、各第2の押圧部140の周方向一方Y1側の面には、ローラ対123の第2のローラ123bを押圧するための第2の押圧面142が形成されている。第2の押圧面142は、たとえば平坦面によって構成されている。第2の押圧面142は、平坦面によって構成されているものに限られず、第2のローラ123bに、面接触、線接触または点接触するものであってもよい。
【0059】
図3および図4に示すように、各第2の押圧部140の周方向他方Y2側の面には、第2の被摺接面143が形成されている。移動部材55の周方向一方Y1側の面には第2の摺接面154が形成されている。第2の摺接面154と第2の被摺接面143とは線接触状態になるような形状に形成されている。具体的には、本実施例では第2の被摺接面143は、周方向一方Y1側へ凹形状に湾曲した曲面E(図7等参照)を含んでいる。第2の摺接面154は、周方向一方Y1側へ湾曲した凸形状の曲面F(図7等参照)を含んでいる。曲面Eの曲率は曲面Fの曲率よりも小さく設定されており、曲面Eと曲面Fとは線接触している。つまり、第2の摺接面154と第2の被摺接面143とは線接触している。移動部材55の軸方向Xの移動に伴って曲面E上における曲面Fとの接触位置も曲面E上を移動するが、通常状態では曲面Eから逸脱することはない。
【0060】
図5Aおよび図5Bは、作動部材55を説明するための図である。図5Aには、軸方向Xに沿う切断面線から見た断面図を示し、図5Bには、図5Aの切断面線V-Vから見た断面図を示す。
図2図5Aおよび図5Bを参照しながら、作動部材55について説明する。
作動部材55は、円筒状のアーマチュア58と、アーマチュア58に支持され、アーマチュア58の内周58aからアーマチュア58の径方向(すなわち径方向Z)内方に向けて張り出す側壁部59と、側壁部59に支持された、ローラ対123の数と同数のくさび部材126とを含む。すなわち、アーマチュア58、側壁部59およびくさび部材126は一体移動可能に設けられている。
【0061】
アーマチュア58は、磁性材料(たとえば鋼)を用いて形成されており、かつ内輪104および外輪105に対し、相対回転可能に設けられている。アーマチュア58は、ツーウェイクラッチ106の外輪105に外嵌されている。アーマチュア58は、外輪105の軸方向他方X2寄りの部分の外周を取り囲んでいる。より具体的には、図2に示すように、ソレノイド54の内周と外輪105の外周との間の隙間に収容されている。
【0062】
側壁部59は、たとえば、円筒状のアーマチュア58の側面に対して垂直な円環板によって構成されている。側壁部59の外周部59aは、アーマチュア58の、側面の軸方向Xの途中部の内周58aに固定されている。側壁部59は、磁性材料を用いて形成されていてもよいし、その他の材料(たとえば合成樹脂材料)を用いて形成されていてもよい。
くさび部材126は、軸方向Xに沿って延びている。図5Bに示すように、くさび部材126は、周方向Yに等間隔に配置されている。くさび部材126は、磁性材料を用いて形成されていてもよいし、その他の材料(たとえば合成樹脂材料)を用いて形成されていてもよい。
【0063】
作動部材55は、アーマチュア58が内輪104および外輪105と同軸になる姿勢で、かつ、軸方向Xに移動可能に設けられている。
図6Aおよび図6Bは、作動部材55のくさび部材126の構成を示す斜視図である。図6Aおよび図6Bでは、互いに異なる二方向から、くさび部材126を見ている。
各くさび部材126は、軸部151と、軸部151の先端部(軸部151の軸方向一方X1の端部)において、周方向Yの双方に広がるくさび部152とを含む。くさび部152は、周方向他方Y2側の面に設けられた第1の摺接面153と、周方向一方Y1側の面に設けられた第2の摺接面154とを含む。くさび部152が第1および第2の押圧部材131,132(図3等参照)に、軸方向一方X1側から摺接している。第1の摺接面153および第2の摺接面154の形状は前述の通りである。
【0064】
図7は、ツーウェイクラッチ106の締結状態における、作動部材55と、第1および第2の押圧部材131,132との間の位置関係を示す図である。図8は、ツーウェイクラッチ106の解放状態における、ツーウェイクラッチ106の断面図である。図9は、ツーウェイクラッチ106の解放状態における、作動部材55と、第1および第2の押圧部材131,132との間の位置関係を示す図である。
【0065】
図2図3および図7図9を参照しながら、クラッチ機構15の断続について説明する。
クラッチ機構15を接続状態とする際には、ソレノイド54への電力供給がオフとされる。この状態で、ソレノイド54は作動部材55のアーマチュア58を軸方向他方X2側に吸引せず、そのため、作動部材55のくさび部材126は、第1の位置(図7に示す位置)に配置されている。くさび部材126が第1の位置に配置されている状態では、ツーウェイクラッチ106が締結状態にある。この締結状態では、図3に示すように、弾性部材124によって、各第1のローラ123aが、くさび空間129の周方向一方Y1側の端部の第1の係合位置129aに向けて弾性押圧されている。そのため、第1のローラ123aが内輪104の外周および外輪105の内周に係合している。また、この状態では、図3に示すように、弾性部材124によって、各第2のローラ123bが、くさび空間129の周方向他方Y2側の端部の第2の係合位置129bに向けて弾性押圧されている。そのため、第2のローラ123bが内輪104の外周および外輪105の内周に係合している。締結状態のツーウェイクラッチ106により内軸29と出力軸16とが連結され、これにより、操舵部材3(図1参照)と転舵機構A(図1参照)とが機械的に連結される。
【0066】
一方、クラッチ機構15を切断状態とする際には、ソレノイド54への電力供給がオンとされる。ソレノイド54への電力供給がオフ状態からオン状態に切り換わると、図9に示すように、作動部材55のアーマチュア58がクラッチ機構15により吸引されて、軸方向他方X2側に引き込まれ、軸方向他方X2に移動する(たとえば1〜2mm程度)。その結果、作動部材55のくさび部材126が、第1の位置(図7に示す位置)よりも軸方向他方X2側に寄った第2の位置(図9に示す位置)に配置される。
【0067】
前述のように、第1の摺接面153は、周方向他方Y2側へ凸形状の曲面Dを含み、第1の被摺接面138と線接触している。第2の摺接面154は、周方向一方Y1側へ凸形状の曲面Fを含み、第2の被摺接面143と線接触している。つまり、第1の摺接面153および第2の摺接面154は、軸方向他方X2に向かうに従って周方向Yに関して互いに離れる部分を含み、この部分で線接触するように構成されている。従って、作動部材55の軸方向他方X2側の第2の位置への移動に伴い、第1の被摺接面138、すなわち第1の押圧部135は周方向他方Y2へ移動し、第2の被摺接面143、すなわち第2の押圧部140が周方向一方Y1へ移動する。
【0068】
これにより、第1の押圧部135(第1の押圧面137)が、第1のローラ123aを、弾性部材124の弾性押圧力に抗って周方向他方Y2に向けて押圧移動させる。これにより、各第1のローラ123aが第1の係合位置129a(図3参照)から離脱し、図8に示すように、各第1のローラ123aと外輪105の内周との間に隙間S1が形成される。すなわち、各第1のローラ123aの、内輪104の外周および外輪105の内周に対する係合が外れる。
【0069】
また、第2の押圧部140(第2の押圧面142)が周方向一方Y1側に移動させられることにより、第2のローラ123bを、弾性部材124の弾性押圧力に抗って周方向一方Y1に向けて押圧移動させる。これにより、各第2のローラ123bが第2の係合位置129b(図3参照)から離脱し、図8に示すように、各第2のローラ123bと外輪105の内周との間に隙間S2が形成される。すなわち、各第2のローラ123bの、内輪104の外周および外輪105の内周に対する係合が外れる。
【0070】
作動部材55のくさび部材126が第2の位置に配置されている状態では、ツーウェイクラッチ106が解除状態にある。この解除状態では、各ローラ123a,123bの、内輪104および外輪105に対する係合が解除される。解除状態のツーウェイクラッチ106により内軸29と出力軸16との機械的な連結が解除され、これにより、操舵部材3(図1参照)と転舵機構A(図1参照)とが連結解除される。
【0071】
ところで、仮に、クラッチ機構15をハウジングH(図2参照)の内部空間S(図2参照)に収容配置する構成でなく、インターミディエイトシャフトとステアリングコラムとの間にクラッチ機構を配置する場合を考える。具体的には、特開2013−92191号公報に記載の駆動力伝達機構を、インターミディエイトシャフト17(図1参照)とステアリングコラム5(図1等参照)との間に介装する場合を考える。この場合には、当該駆動力伝達機構は大型の装置であるため、駆動力伝達機構のハウジングが、ステアリングコラム5の下部取付構造体73と干渉するおそれがある。また、駆動力伝達機構のハウジングの分だけ、インターミディエイトシャフト17を下側へずらす必要があり、このことに起因して、インターミディエイトシャフト17のジョイント部の折れ角によるトルク変動(角度伝達誤差)が生じるおそれがある。
【0072】
以上により、この発明の第1の実施形態によれば、クラッチ機構15がハウジングHの内部空間Sに収容配置されている。操舵軸10の一部、第1の減速機12およびトルクセンサ21を収容するハウジングHの内部にクラッチ機構15が収容配置されているので、クラッチ機構15が周辺部材(たとえば下部取付構造体73)と干渉することを回避できる。ゆえに、周辺部材と干渉することなくクラッチ機構15を設けることができる。
【0073】
また、内部空間Sにおいて、駆動力発生部53が、機構部51に対し、周方向Y外方に配置されている。すなわち、駆動力発生部53が、機構部51に対し、軸方向Xに関し並列に配置されている。そのため、駆動力発生部53および機構部51を軸方向Xに関し直列に配置する場合と比較して、クラッチ機構15を、軸方向Xに大型化させることなく、ハウジングH内に収容することができる。これにより、ステアリング装置1の大型化を抑制できる。
【0074】
また、ツーウェイクラッチ106は、ローラ対123が内輪104および外輪105の双方に係合する状態で締結状態になる。この締結状態から、第1の押圧部材131を周方向他方Y2に向けて移動させ、かつ第2の押圧部材132を周方向一方Y1に向けて移動させることにより(互いに反対向きの所定の方向に移動させることにより)、ローラ対123を互いに接近する方向に押圧移動させることができる。これにより、内輪104および外輪105に対するローラ対123の係合が外れ、その結果、ツーウェイクラッチ106が解放状態になる。これにより、操舵軸10と出力軸16とを連結/連結解除する機構部51を、ツーウェイクラッチ106により実現できる。
【0075】
また、くさび部152の第1および第2の摺接面153,154が、軸方向他方X2に向かうに従って周方向Yの両側に互いに離れる部分を含むように設けられている。そのため、作動部材55を軸方向一方X1へ移動させることにより、第1の押圧部材131を周方向他方Y2に向けて移動させ、かつ第2の押圧部材132を周方向一方Y1に向けて移動させることができ、これにより、ローラ対123を互いに接近する方向に押圧移動させることができる。ゆえに、ツーウェイクラッチ106の締結状態と解放状態との切換えを良好に行うことができる。
【0076】
また、クラッチ機構が搭載されない構成のステアリング装置では、内軸29とインターミディエイトシャフト17とが接続されている。これに対し、ステアリング装置1では、内軸29に同軸かつ相対回転可能に設けられる出力軸16が、インターミディエイトシャフト17と接続されている。そのため、ステアリング装置1におけるインターミディエイトシャフト17の座標を、クラッチ機構が搭載されない構成のステアリング装置の場合と同等とすることができる。そのため、インターミディエイトシャフト17のジョイント部の折れ角によるトルク変動(角度伝達誤差)の発生を回避できる。
【0077】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るステアリング装置201の要部の概略構成を示す断面図である。第2の実施形態において、第1の実施形態に示された各部に対応する部分には、図1図9の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
第2の実施形態に係るステアリング装置201に含まれるクラッチ機構215は、ハウジングHの内部空間Sに収容配置される点、および、駆動力発生部253が操舵軸10の軸方向に関し、ウォームホイール14に対し機構部51と同じ側に配置される点において、第1の実施形態に係るクラッチ機構15と共通している。クラッチ機構215がクラッチ機構15と相違する点は、駆動力発生部253を、軸方向Xに関し、機構部51に対し並列ではなく、機構部51と直列に配置した点である。
【0078】
クラッチ機構215は、機構部51と駆動部252とを含む。
駆動部252は、駆動力発生部253の一例としての環状のソレノイド254と、駆動力発生部253からの電磁力(駆動力)を受けて機構部251を作動させるための作動部材255とを含む。
ソレノイド254は、ハウジングHの内部空間Sのうち下方の第1の空間Saにおいて、ツーウェイクラッチ106(機構部51)に対し、軸方向他方X2側に配置されている。より具体的には、ソレノイド254は、外輪105および内輪104に対し、軸方向他方X2側に配置されている。すなわち、軸方向他方X2側から軸方向一方X1に向かうに従って、駆動力発生部253および機構部51の順に並んでいる。
【0079】
ソレノイド254は、操舵軸10(図1参照)と同軸に設けられた円環状のコイル256aと、コイル256aが巻き付けられるコア256bとを有する。ソレノイド254の内周部が、次に述べるアーマチュア226を吸引する吸引部として機能する。
作動部材255は、ローラ対123(図3等参照)と同数のアーマチュア226を備えている。第2の実施形態に係る各アーマチュア226は、材質を除いて、第1の実施形態に係る各くさび部材126と、同等の構成を有している。各アーマチュア226は、磁性材料を用いて形成されている。
【0080】
第2の実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様、ハウジングHの内部空間Sのうち、上方の第2の空間Sbは狭空間である。そのため、第2の空間Sbにクラッチ機構215の一部(たとえばソレノイド254)を配置することはできない。
クラッチ機構215を接続状態とする際には、ソレノイド254への電力供給がオフとされる。この状態で、ソレノイド254はアーマチュア226を軸方向他方X2側に吸引せず、そのため、アーマチュア226は、第1の位置(図10に実線で示す位置)に配置されている。アーマチュア226が第1の位置に配置されている状態では、ツーウェイクラッチ106が締結状態(図3参照)にある。
【0081】
一方、クラッチ機構215を切断状態とする際には、ソレノイド254への電力供給がオンとされる。ソレノイド254への電力供給がオフ状態からオン状態に切り換わると、アーマチュア226がクラッチ機構215により吸引されて、軸方向他方X2側に引き込まれ、軸方向他方X2に移動する(たとえば1〜2mm程度)。その結果、アーマチュア226が、第1の位置よりも軸方向他方X2側に寄った第2の位置(図10に破線で示す位置)に配置される。アーマチュア226が第2の位置に配置されている状態では、ツーウェイクラッチ106が解除状態(図8参照)になる。
【0082】
図11は、本発明の第3の実施形態に係るステアリング装置301の要部の概略構成を示す断面図である。第3の実施形態において、第1の実施形態に示された各部に対応する部分には、図1図9の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
第3の実施形態に係るステアリング装置301に含まれるクラッチ機構315は、第2の実施形態に係るクラッチ機構215と同様、駆動力発生部353を機構部351と直列に配置している。第3の実施形態に係るクラッチ機構315は、第2の実施形態に係るクラッチ機構215と、軸方向Xに関する配置順序において相違している。
【0083】
クラッチ機構315は、機構部351と駆動部352とを含む。
機構部351は、ツーウェイクラッチ306を含む。
ツーウェイクラッチ306は、内輪104に代えて、内軸29(図2参照)に同軸に連結された内輪304を設け、かつ、外輪105に代えて、出力軸16(図2参照)に同軸に連結された外輪305を設けている。これらの点において、第3の実施形態に係るツーウェイクラッチ306は、第1の実施形態に係るツーウェイクラッチ106と相違している。
【0084】
外輪305は、たとえば、出力軸16と一体に設けられている。すなわち、外輪305と出力軸16とを一体に含む出力軸部材357が設けられている。また、外輪305と、出力軸16とを、別部材を用いて設けるようにしてもよい。外輪305が内軸29でなく出力軸16に連結されている点を除いて、外輪305は、外輪105と同等の構成である。
【0085】
この実施形態では、出力軸部材357は、内軸29の外周に介装された第2の軸受336によって、内軸29に同軸かつ相対回転可能に支持されている。第2の軸受336として、すべり軸受が採用されてもよいし、図11に示すような転がり軸受が採用されてもよい。減速機ハウジング25は、第3の軸受337を介して出力軸部材357を回転可能に支持している。
【0086】
内輪304は、内軸29の外周に外嵌固定されている。内輪304が出力軸16でなく内軸29に連結されている点を除いて、内輪304は、内輪104と同等の構成である。
なお、この第3の実施形態に係るツーウェイクラッチ306は、第1の押圧部材131(図3等参照)および第2の押圧部材132(図3等参照)を備えている。しかし、第1の押圧部材131の第1の押圧部の第1の被摺接面(第1の実施形態に係る第1の被摺接面138に相当。図3等参照)は、第1の実施形態に係る第1の被摺接面138と、軸方向Xに関し逆向きである。また、第2の押圧部材132の第2の押圧部の第2の被摺接面(第2の実施形態に係る第2の被摺接面143に相当。図3等参照)は、第1の実施形態に係る第2の被摺接面143と、軸方向Xに関し逆向きである。
【0087】
すなわち、第3の実施形態では、各第1の押圧部の周方向一方Y1側の面に形成された第1の被摺接面は、軸方向他方X2(所定の軸方向)に向かうに従って周方向他方Y2に向かう面によって構成されており、各第2の押圧部の周方向他方Y2側の面に形成された第2の被摺接面は、軸方向他方X2に向かうに従って周方向一方Y1に向かう面によって構成されている。
【0088】
駆動部352は、駆動力発生部353の一例としての環状のソレノイド354と、駆動力発生部353からの電磁力(駆動力)を受けて機構部351を作動させるための作動部材355とを含む。
ソレノイド354は、ハウジングHの内部空間Sのうち下方の第1の空間Saにおいて、ツーウェイクラッチ306(機構部351)に対し、軸方向一方X1側に配置されている。より具体的には、ソレノイド354は、外輪305および内輪304に対し、軸方向一方X1側に配置されている。すなわち、軸方向一方X1側から軸方向他方X2に向かうに従って、駆動力発生部353および機構部351の順に並んでいる。
【0089】
ソレノイド354は、操舵軸10(図1参照)と同軸に設けられた円環状のコイル356aと、コイル356aが巻き付けられるコア356bとを有する。ソレノイド354の内周部が、次に述べるアーマチュア326を吸引する吸引部として機能する。
作動部材355は、ローラ対123(図3等参照)と同数のアーマチュア326を備えている。第3の実施形態に係る各アーマチュア326は、材質を除いて、第1の実施形態に係る各くさび部材126と、同等の構成を有している。各アーマチュア326は、磁性材料を用いて形成されている。アーマチュア326は、各第1の押圧部135と、隣ローラ対123の第2の押圧部140との間に挿入されている。
【0090】
また、第3の実施形態では、アーマチュア326の軸方向Xの向きは、第1の実施形態に係るくさび部材126の向きと逆方向であり、アーマチュア326が、第1および第2の押圧部材131,132に、軸方向一方X1側から摺接している。つまり、第1の被摺接面138と摺接する第1の摺接面153は、軸方向他方X2に向かうに従って周方向他方Y2に向かうような面によって構成されている。また、第2の被摺接面143と摺接する第2の摺接面154は、軸方向他方X2に向かうに従って周方向一方Y1に向かうような面によって構成されている。すなわち、アーマチュア326の第1および第2の摺接面153,154が、軸方向他方X2(所定の方向)に向かうに従って周方向Yの両側に互いに離れるように設けられている。
【0091】
第3の実施形態においても、第1および第2の実施形態の場合と同様、ハウジングHの内部空間Sのうち、上方の第2の空間Sbは狭空間である。そのため、第2の空間Sbにクラッチ機構315の一部(たとえばソレノイド354)を配置することはできない。
クラッチ機構315を接続状態とする際には、ソレノイド354への電力供給がオフとされる。この状態で、ソレノイド354はアーマチュア326を軸方向一方X1側に吸引せず、そのため、アーマチュア326は、第1の位置(図11に実線で示す位置)に配置されている。アーマチュア326が第1の位置に配置されている状態では、第1のローラ123a(図3参照)および第2のローラ123b(図3参照)が内輪304の外周および外輪305の内周にそれぞれ係合しており、そのため、ツーウェイクラッチ306が締結状態にある。
【0092】
一方、クラッチ機構315を切断状態とする際には、ソレノイド354への電力供給がオンとされる。ソレノイド354への電力供給がオフ状態からオン状態に切り換わると、アーマチュア326がクラッチ機構315により吸引されて、軸方向一方X1側に引き込まれ、軸方向一方X1に移動する(たとえば1〜2mm程度)。その結果、アーマチュア326が、第1の位置よりも軸方向一方X1側の第2の位置(図11に破線で示す位置)に配置される。アーマチュア326が第2の位置に配置されている状態では、第1のローラ123aおよび第2のローラ123bの、内輪304の外周および外輪305の内周に対する係合が外れ、その結果、ツーウェイクラッチ306が解除状態になる。
【0093】
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、駆動力発生部53,253,353が、コイル56a,256a,356aへの通電により生じる電磁力を利用して機構部51,351を駆動するものとして説明したが、図12に示すように、駆動力発生部53Aが油圧を用いて駆動力を発生するものであってもよい。
【0094】
図12に示す第1の変形例では、駆動力発生部53Aは、油圧発生部401を含む。油圧発生部401は、ハウジングH(たとえば減速機ハウジング25)の一部を液密的に封止して油室402を区画している。駆動力発生部53Aは、油室402内の油圧を制御する油圧制御回路403をさらに含む。この場合、作動部材55Aは、軸方向Xに延びる部材であり、軸方向Xに沿って移動可能に設けられている。作動部材55AとハウジングH(たとえば減速機ハウジング25)とは相対摺動可能に設けられている。作動部材55Aの軸方向一方X1側の端部55Aaが、油室402内に嵌め合わされている。油室402の周面402aと作動部材55Aとの間は、円環状のシール404によって封止されている。
【0095】
油圧発生部401は、ハウジングHの内部空間Sのうち、第1の空間Saに収容配置されている。
油圧制御回路403の制御により油室402から作動部材55Aに油圧力が与えられ、この油圧力を受けて、作動部材55Aが軸方向Xに移動する。作動部材55Aの軸方向Xの移動により、クラッチ機構15,215,315が締結状態と解除状態との間で切り換えられる。
【0096】
この第1の変形例では、駆動力発生部53Aとして油圧発生部401を用いることにより、駆動力発生部53Aとしてソレノイド54,254,354を採用する場合と比較して、トルクセンサ21や第1の軸受50への電磁場の影響を回避できる。
また、図13に示すように、駆動力発生部53Bがモータの出力を用いて駆動力を発生するものであってもよい。
【0097】
図13に示す第2の変形例では、駆動力発生部53Bは、電動駆動部501を含む。また、作動部材55Bは、軸方向Xに沿って移動可能に設けられている。電動駆動部501は、第2のモータ502と、第2のモータ502の出力回転を減速させる第2の減速機503とを含む。第2の減速機503は、第2のモータ502の出力軸502aに設けられた駆動ギア504と、作動部材55Bに一体移動可能に設けられ、駆動ギア504に噛み合う従動ギア505とを含む。
【0098】
第2の減速機503は、第2のモータ502の出力回転を増幅すると共に、当該出力回転を、作動部材55Bの軸方向Xの駆動力に変換する。駆動ギア504は、たとえばピニオン歯であってよい。また、従動ギア505は、たとえば軸方向Xに沿って並んだラック歯であってよい。
第2のモータ502の回転駆動により、作動部材55Bが軸方向Xに移動する。作動部材55Bの軸方向Xの移動により、クラッチ機構15,215,315が締結状態と解除状態との間で切り換えられる。
【0099】
この第2の変形例では、駆動力発生部53Bとして電動駆動部501を用いることにより、駆動力発生部53Bとしてソレノイド54,254,354を採用する場合と比較して、トルクセンサ21や第1の軸受50への電磁場の影響を回避できる。
また、第2のモータ502への給電停止時には、出力軸502aが回転しないので、エネルギー(電力)を用いることなく、クラッチ機構15,215,315を締結状態または解除状態に維持しておくことができる。
【0100】
また、機構部51(図2参照)がツーウェイクラッチ106であるとして説明したが、機構部51は、図14に示すような摩擦クラッチ602を含む構成であってもよい。図14では、摩擦クラッチ602として単板クラッチを用いる場合を図示しているが、多板クラッチ等の他のクラッチを採用してもよい。
また、機構部51は、図15に示すような噛み合いクラッチ603を含む構成であってもよい。
【0101】
さらに、図14および図15に示す変形例は、機構部351(図10参照)に適用されていてもよい。
また、第1の実施形態において、図16に示すように、ツーウェイクラッチ106の外輪105の下側の面と、内輪104の下側の面との間を封止する環状のシール部材80が設けられていてもよい。シール部材80は、接触シールにより構成されている。
【0102】
くさび空間129には、ツーウェイクラッチ106の摩擦面を潤滑状態とするためのクラッチ用の潤滑剤が充填されている。このクラッチ用の潤滑剤は、ウォームホイール収容部35に充填されている、ウォーム軸13とウォームホイール14との噛み合い部分を潤滑するための潤滑剤とは異なり、極めて高い粘度を示す。そのため、くさび空間129から漏れ出したクラッチ用の潤滑剤が、ウォーム軸13とウォームホイール14との噛み合い部分に達すると、当該噛み合い部分の潤滑状態に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、シール部材80によって、くさび空間129からの流出を防止している。
【0103】
なお、シール部材80は、第2の実施形態および第3の実施形態に適用されていてもよい。
また、図17に示すように、ソレノイド454の少なくとも一部と、ウォームホイール14とが、操舵軸10の軸方向に対して重なるように配置されていてもよい。第1〜第3の実施形態では、ウォームホイール14とウォーム軸13とで減速機構が構成されており、しかもソレノイド54は操舵軸10と同軸に配置された円環状であるため、このようなソレノイド54の配置にするとウォーム軸13とソレノイド54とが干渉してしまう。本変形例では、たとえば円筒状のソレノイド454を、その底面または上面をアーマチュア58の円筒面(外周面)の外周に所定の距離を空けて対向させて、ウォーム軸13を避けた位置に並べる。アーマチュア58も、例えばウォーム軸13と干渉する部分を、操舵軸10に平行な平面で切り取り、ウォーム軸13と干渉しないような形状とする。このようにすることで、ソレノイド454をアーマチュア58の所定範囲の外周領域に並べることが可能となり、作動部材55を引っ張りツーウェイクラッチ106を締結開放するために必要な力を確保しつつソレノイド454をウォームホイール14の外周部へ配置することができ、軸方向の寸法を短縮することができる。
【0104】
また、センサハウジング26および減速機ハウジング25によってハウジングHが構成されているとしたが、ハウジングHは少なくとも減速機ハウジング25を含む構成であればよい。すなわち、ハウジングHは第1の減速機12を収容していれば、トルクセンサ21を収容していなくてもよい。したがって、トルクセンサが設けられていないステアリング装置にも本願発明を適用できる。
【0105】
また、第1〜第3の実施形態では、ウォームホイール14(歯車)が回転部材に相当し、ウォームホイール14とウォーム軸13とが減速機構に相当するが、ウォームホイール14(歯車)の代わりに、プーリとベルトを用いた減速機構を採用することもできる。例えば、モータ軸と、操舵軸10にそれぞれプーリを同行回転可能に設け、それぞれのプーリにベルトを掛けて減速機構とする構成とすることができる。この場合、操舵軸10に設けられたプーリが回転部材に相当する。この場合でも、プーリに上記実施例と同様の環状溝を設けることで、上記の実施例や変形例のクラッチ機構の構成を適用することができる。
【0106】
また、上述した第1〜第3の実施形態およびそれらの変形例では、クラッチ機構(クラッチ機構15等)をステアリングコラム5に設けられたハウジングHの内部空間に収容したが、モータ11と、ウォーム軸13及びウォームホイール14とで構成される減速機構とを、転舵軸ハウジング9側に設ける構成のステアリング装置にも本発明は適用できる。
【0107】
また、操舵軸10に一体回転可能に取り付けられる歯車として、ウォームホイール14を例に挙げたが、歯車として他の種類の歯車を採用できる。
その他、本発明は特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0108】
1…ステアリング装置、3…操舵部材、10…操舵軸、14…ウォームホイール(歯車)、15…クラッチ機構、16…出力軸、51…機構部、53…駆動力発生部、55…作動部材、56a…コイル、104…内輪、105…外輪、106…ツーウェイクラッチ、123…ローラ対、126…くさび部材(第1の部材)、129…くさび空間、131…第1の押圧部材、132…第2の押圧部材、153…第1の摺接面、154…第2の摺接面、201…ステアリング装置、215…クラッチ機構、253…駆動力発生部、、255…作動部材、304…内輪、305…外輪、355…作動部材、306…ツーウェイクラッチ、315…クラッチ機構、353…駆動力発生部、602…摩擦クラッチ、603…噛み合いクラッチ、A…転舵機構、H…ハウジング、S…内部空間、X1…軸方向一方、X2…軸方向他方
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17