特許第6607384号(P6607384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607384
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】無電解めっきの前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/30 20060101AFI20191111BHJP
   C23C 18/20 20060101ALI20191111BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20191111BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20191111BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20191111BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20191111BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   C23C18/30
   C23C18/20 A
   C23C18/16 A
   B05D1/18
   B05D7/02
   B05D3/06 102Z
   B05D3/04 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-195150(P2015-195150)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-64656(P2017-64656A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年4月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 2015年6月1日 掲載アドレス https://kaken.nii.ac.jp/ https://kaken.nii.ac.jp/d/p/25410135.ja.html
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 聡行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 充
(72)【発明者】
【氏名】姜 俊行
(72)【発明者】
【氏名】喜多 あずさ
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/102253(WO,A1)
【文献】 特開2002−220677(JP,A)
【文献】 特開2012−233227(JP,A)
【文献】 特開2010−059532(JP,A)
【文献】 地方独立行政法人大阪市立工業研究所,プラズマ処理とLbL積層を経るPENフィルムの表面改質,Polymer Preprints,Japan,日本,2014年,vol.63, no.1,pp.1371-1372
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
C23C 18/00−18/54
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)高分子基材に対して、プラズマ処理を施す工程、
(2)前記高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程、及び
(3)前記工程(2)の後、前記高分子基材をアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程
を含む、無電解めっきの前処理方法であって、
前記工程(3)の後、前記工程(2)及び工程(3)を2回以上繰り返し、最終工程が前記工程(2)であり、
前記高分子基材が、ポリエチレンナフタレートであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
(1)高分子基材に対して、プラズマ処理を施す工程、
(2)前記高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程、及び
(3)前記工程(2)の後、前記高分子基材をアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程
を含む、無電解めっきの前処理方法であって、
前記工程(3)の後、前記工程(2)及び工程(3)を3回以上繰り返し、最終工程が前記工程(3)であり、
前記高分子基材が、ポリエチレンナフタレートであることを特徴とする、方法。
【請求項3】
1回目の工程(3)の後、前記工程(2)を3回、前記工程(3)を2回繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1回目の工程(3)の後、前記工程(2)を3回、前記工程(3)を3回繰り返すことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
高分子基材に対して請求項1〜のいずれかに記載の方法による前処理を施した後、
(4)前記高分子基材に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、及び
(5)無電解めっきを行う工程
を含む、無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルム等の高分子基材に金属皮膜を形成する方法として、無電解めっき法が知られている。しかしながら、高分子基材表面は金属との化学結合が期待できないため、高分子基材に対して直接無電解めっきを行う方法では密着性の高いめっき皮膜を形成することが困難であることが知られている。
【0003】
そのため、従来、高分子基材と無電解めっき皮膜との密着性を確保するために、酸又はアルカリ等の薬剤を用いたエッチングなどのウェットプロセス、あるいはプラズマ処理などのドライプロセス等の高分子基材の表面を粗化又は改質する前処理を施した後、パラジウム触媒等の無電解めっき用触媒付与工程、さらに必要に応じて活性化工程を経て、無電解めっきが行われている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
しかしながら、エッチングなどのウェットプロセスによる前処理では、多段階の工程を経る必要がある、使用する薬剤の廃液処理が煩雑である等の問題点があり、さらには、高分子基材とめっき皮膜との密着性が要求水準に達しない等の問題が指摘されている。また、プラズマ処理などのドライプロセスによる前処理においても、高分子基材に無電解めっき用触媒を付与することが困難である、高分子基材とめっき皮膜との密着性が要求水準に達しない等の問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−019947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状及び問題点に鑑みてなされたものであり、無電解めっき皮膜との密着性に乏しい基材である高分子基材上に、密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することが可能な無電解めっきの前処理方法、及び当該前処理方法を含む無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、高分子基材に対して、プラズマ処理又はUV処理を施し、次いで、当該基材をカチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬した後、無電解めっきを行うことにより、高分子基材上に密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することが可能であることを見出した。本発明者らは、当該知見をもとに、さらに研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、代表的には、以下の項に記載の無電解めっきの前処理方法、及び当該前処理方法を含む無電解めっき方法を包含する。
【0009】
項1.
(1)高分子基材に対して、プラズマ処理又はUV処理を施す工程、及び
(2)前記高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程
を含む、無電解めっきの前処理方法。
項2.
さらに、(3)前記工程(2)の後、前記高分子基材をアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程
を含む、上記項1に記載の方法。
項3.
前記工程(3)の後、前記工程(2)及び工程(3)を繰り返すことを特徴とする、上記項2に記載の方法。
項4.
最終工程が前記工程(2)であることを特徴とする、上記項3に記載の方法。
項5.
最終工程が前記工程(3)であることを特徴とする、上記項3に記載の方法。
項6.
前記高分子基材が、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートである、上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.
高分子基材に対して上記項1〜6のいずれかに記載の方法による前処理を施した後、
(4)前記高分子基材に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、及び
(5)無電解めっきを行う工程
を含む、無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高分子基材上に密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下において、本発明の無電解めっきの前処理方法を「本発明の前処理方法」と記載する場合がある。
【0012】
無電解めっきの前処理方法
本発明の前処理方法は、(1)高分子基材に対して、プラズマ処理又はUV処理を施す工程、及び(2)当該高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程を含む。なお、以下において、上記(1)及び(2)の工程をそれぞれ、「工程(1)」及び「工程(2)」と記載する場合がある。
【0013】
本発明の前処理方法では、高分子基材を処理対象とする。高分子基材としては、後述するプラズマ処理又はUV処理により基材表面の改質が可能な高分子素材からなる基材であれば特に制限されない。このような高分子素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。上記で例示した高分子素材の中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)は、化学的に安定であることによりエッチング等の化学処理による表面の改質が困難であるため、基材表面に無電解めっき用触媒を付与することが非常に困難であることが知られている。しかしながら、本発明の前処理方法によれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)を素材とする基材をも処理対象とすることができる。
【0014】
工程(1)では、高分子基材に対して、プラズマ処理又はUV処理を施す。限定的な解釈を望むものではないが、高分子基材の表面にプラズマ処理又はUV処理を施すことにより、基材表面の高分子の化学結合が切断され、基材表面にヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基が生成される結果、疎水性の高分子基材表面が親水性に改質されるものと考えられている。
【0015】
工程(1)で行うプラズマ処理は、大気圧(常圧)下で行う大気圧プラズマ処理であってもよいし、真空(減圧)下で行う真空プラズマ処理であってもよい。また、使用するガスの種類についても特に制限されず、酸素、窒素、水素、アルゴン、ヘリウム、四フッ化炭素やこれらの混合ガスを用いることができる。また、プラズマ処理の時間等の各種条件についても特に制限されず、用いる高分子基材の種類に応じて適宜調整することができる。また、プラズマ処理は、公知のプラズマ発生装置を用いることにより行うことができる。プラズマ処理の好ましい一例を挙げると、例えば、真空プラズマ発生装置を用いて、1〜10Pa程度の減圧下、酸素及び窒素を含む混合ガスを原料ガスとし、出力10〜100W程度で1〜10分程度、真空プラズマ処理を行うことにより行うことができる。
【0016】
工程(1)で行うUV処理において照射する紫外線の波長は特に制限されず、例えば、180〜400nm程度とすることができる。また、光源としても特に制限されず、低圧水銀灯、高圧水銀灯などの各種光源を用いることができる。また、紫外線の照射量、照射時間等の各種条件についても特に制限されず、用いる高分子基材の種類に応じて適宜調整することができる。UV処理の好ましい一例を挙げると、例えば、オゾンレス低圧水銀灯を用いて、波長254nmの紫外線を、照射量22〜44J/cm程度、15〜30分程度照射することにより行うことができる。
【0017】
また、上記工程(1)の後、後述する工程(2)の前に、必要に応じて、上記工程(1)の処理が施された高分子基材をアルコールなどを用いて洗浄してもよい。洗浄の方法としては特に制限されず、常法に従って行うことができる。
【0018】
工程(2)では、上記工程(1)の処理が施された高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する。限定的な解釈を望むものではないが、上記工程(1)の処理により高分子基材の表面にヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基が生成される結果、高分子基材の表面がアニオン性となる。そして、工程(2)において当該高分子基材を、カチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬することによって、高分子基材表面に、当該高分子基材の表面とは反対の電荷を有するカチオン性ポリマーが静電的作用によって吸着する。換言すれば、工程(2)により、高分子基材上にカチオン性ポリマーからなる層(カチオン性ポリマー層)が形成される。
【0019】
カチオン性ポリマーは、アミノ基、4級アンモニウム基等の正電荷を帯びることができる官能基を有するポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミンハイドロクロライド(PAH)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジンなどが挙げられる。カチオン性ポリマーとしては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、カチオン性ポリマーを2種以上組み合わせる場合の各カチオン性ポリマーの比率は特に制限されない。また、カチオン性ポリマーの分子量は特に制限されず、例えば数万〜数百万程度、好ましくは数十万程度のものを用いることができる。
【0020】
カチオン性ポリマーを含む溶液における溶媒は特に制限されず、例えば、水、水とエタノール等のアルコールとの混合溶媒などが挙げられる。水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度はなるべく低いことが好ましく、具体的には1〜30%程度であることが好ましい。また、上記で例示した溶媒の中では、水が好ましい。カチオン性ポリマーを含む溶液の調製方法についても特に制限されず、例えば、上記したカチオン性ポリマーを上記した溶媒に溶解させることにより調製することができる。なお、必要に応じて、酸、アルカリ等のpH調整剤、又はpH緩衝剤を用いて、カチオン性ポリマーにおける正電荷を帯びることができる官能基が十分に正電荷を有するように溶液のpHを調整してもよい。具体的なpH条件については、用いるカチオン性ポリマーの種類に応じて適宜調整することができる。
【0021】
カチオン性ポリマーを含む溶液におけるカチオン性ポリマーの濃度は特に制限されず、通常0.1〜1質量%程度、好ましくは0.1〜0.5質量%程度、より好ましくは0.1〜0.3質量%程度である。
【0022】
上記工程(1)の処理が施された高分子基材を、上記したカチオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する際の条件は特に制限されない。例えば、上記工程(1)の処理が施された高分子基材を20〜30℃程度のカチオン性ポリマーを含む溶液に3〜10分程度浸漬することにより行うことができる。
【0023】
なお、上記工程(2)の後、基材を洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては特に制限されず常法に従って行えばよい。例えば、純水を用いた流水によるリンス又は純水に浸漬した後、エアブローにより洗浄水を除去する方法などが挙げられる。
【0024】
さらに、本発明の前処理方法は、(3)上記工程(2)の後、高分子基材をアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する工程を含むことが好ましい。なお、以下において、上記(3)の工程を「工程(3)」と記載する場合がある。
【0025】
工程(3)では、上記工程(2)の処理が施された高分子基材を、アニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する。限定的な解釈を望むものではないが、上記の通り、工程(2)の処理により高分子基材表面にカチオン性ポリマーが静電的作用によって吸着する。そして、本工程(3)において当該高分子基材をアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬することによって、カチオン性ポリマーとは反対の電荷を有するアニオン性ポリマーが静電的作用によって吸着する。換言すれば、工程(3)により、カチオン性ポリマー層上にアニオン性ポリマーからなる層(アニオン性ポリマー層)が形成される。
【0026】
アニオン性ポリマーは、スルホン酸、硫酸、カルボン酸等の負電荷を帯びることができる官能基を有するポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、ポリビニルホスホン酸(PVPA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、デキストラン硫酸などが挙げられる。アニオン性ポリマーとしては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アニオン性ポリマーを2種以上組み合わせる場合の各アニオン性ポリマーの比率は特に制限されない。また、アニオン性ポリマーの分子量は特に制限されず、例えば数万〜数百万程度、好ましくは数十万程度のものを用いることができる。
【0027】
アニオン性ポリマーを含む溶液における溶媒は特に制限されず、例えば、水、水とエタノール等のアルコールとの混合溶媒などが挙げられる。水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度はなるべく低いことが好ましく、具体的にはアルコール濃度が1〜30質量%程度であることが好ましい。また、上記で例示した溶媒の中では、水が好ましい。アニオン性ポリマーを含む溶液の調製方法についても特に制限されず、例えば、上記したアニオン性ポリマーを上記した溶媒に溶解させることにより調製することができる。なお、必要に応じて、酸、アルカリ等のpH調整剤、又はpH緩衝剤を用いて、アニオン性ポリマーにおける負電荷を帯びることができる官能基が十分に正電荷を有するようにpHを調整してもよい。具体的なpH条件については、用いるアニオン性ポリマーの種類に応じて適宜調整することができる。
【0028】
アニオン性ポリマーを含む溶液におけるアニオン性ポリマーの濃度は特に制限されず、通常0.1〜1質量%程度、好ましくは0.1〜0.5質量%程度、より好ましくは0.1〜0.3質量%程度である。
【0029】
上記工程(2)の処理が施された高分子基材を、上記したアニオン性ポリマーを含む溶液に浸漬する際の条件は特に制限されない。例えば、上記工程(2)の処理が施された高分子基材を20〜30℃程度のアニオン性ポリマーを含む溶液に3〜10分程度浸漬することにより行うことができる。
【0030】
なお、上記工程(3)の後、基材を洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては特に制限されず常法に従って行えばよい。例えば、純水を用いた流水によるリンス又は純水に浸漬した後、エアブローにより洗浄水を除去する方法などが挙げられる。
【0031】
さらに、本発明の前処理方法は、上記工程(3)の後、工程(2)及び工程(3)を繰り返すことが好ましい。ここで、「工程(2)及び工程(3)を繰り返す」とは、工程(2)の処理を施した後、工程(3)の処理を施すことを意味する。なお、以下において、「工程(2)及び工程(3)を繰り返す」処理(又は工程)を単に「繰り返し処理(又は工程)」と記載する場合がある。
【0032】
限定的な解釈を望むものではないが、上記の通り、工程(3)の処理を行うことによりアニオン性ポリマーが静電的作用によってカチオン性ポリマー層に吸着する。その後、さらに、工程(2)の処理を行うことにより、アニオン性ポリマーとは反対の電荷を有するカチオン性ポリマーが静電的作用によって吸着し、次いで工程(3)の処理を行うことにより、カチオン性ポリマーとは反対の電荷を有するアニオン性ポリマーが静電的作用によって吸着する。換言すれば、工程(2)及び工程(3)を繰り返すことにより、アニオン性ポリマー層上にカチオン性ポリマー層が形成され、当該カチオン性ポリマー層上にさらにアニオン性ポリマー層が形成され、繰り返す回数に応じてアニオン性ポリマー層、カチオン性ポリマー層、アニオン性ポリマー層、・・・のように各ポリマー層が順次形成される。当該繰り返し工程は、Thin Solid Films,210/211,831−835(1992)等において報告されているいわゆる交互積層法(Layer−by−Layer法、LbL法)に準じて行われるものであり、当該繰り返し工程によって形成される層をLbL層又は高分子電解質多層膜(Polyelectrolyte multilayers膜、PEMs膜)と称されている。本明細書においてもこれらの用語を用いる場合がある。
【0033】
工程(2)及び工程(3)を繰り返す回数は特に制限されないが、通常、1回目の工程(3)の処理を施してから、工程(2)及び工程(3)を1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回、さらに好ましくは4回以上繰り返すことができる。また、繰り返す回数の上限は特に制限されない。なお、上記工程(2)又は工程(3)の場合と同様に、繰り返し工程における工程(2)及び/又は工程(3)の後、必要に応じて、繰り返し処理が施された基材を洗浄してもよい。
【0034】
また、本発明の前処理方法では、工程(2)及び工程(3)を繰り返した後、最終工程を工程(2)としてもよいし、工程(3)としてもよい。ここで、「最終工程」とは、繰り返し処理を終了する工程を意味しており、例えば、「最終工程を工程(2)とする」とは、工程(2)及び工程(3)を繰り返した後、工程(2)で繰り返し処理を終了することを意味する。同様にして、「最終工程を工程(3)とする」とは、工程(2)及び工程(3)を1回又は複数回繰り返した後、工程(3)で繰り返し処理を終了することを意味する。
【0035】
最終工程を工程(2)とした場合には、基材上のLbL層における最上層(最外層)がカチオン性ポリマー層となり、最終工程を工程(3)とした場合には、基材上のLbL層における最上層(最外層)がアニオン性ポリマー層となる。
【0036】
無電解めっき方法
本発明の無電解めっき方法は、基材に対して上記した前処理方法による前処理を施した後、(4)当該基材に対して無電解めっき用触媒を付与する工程、及び(5)無電解めっきを行う工程を含む。なお、以下において、上記(4)及び(5)の工程をそれぞれ、「工程(4)」及び「工程(5)」と記載する場合がある。
【0037】
工程(4)では、上記した前処理方法により前処理が施された基材に対して無電解めっき用触媒を付与する。本工程において用いる無電解めっき用触媒は特に制限されず、後述する工程(5)において行う無電解めっき処理において用いる無電解めっき浴の種類などに応じて適切なものを用いればよい。例えば、パラジウム、銀、ルテニウム等の公知の無電解めっき用触媒を使用することができる。また、無電解めっき用触媒の付与方法についても特に制限されず、常法に従って行えばよい。例えば、上記した前処理方法により前処理が施された基材を無電解めっき用触媒を含む溶液(無電解めっき用触媒付与液)に浸漬した後、当該基材を触媒活性化液に浸漬する方法などが挙げられる。
【0038】
また、工程(4)において用いる無電解めっき用触媒は、アニオン性のものであるか、カチオン性のものであるかを問わず用いることができる。上記した前処理方法において最終工程を工程(2)とした場合、当該前処理により基材上に積層された最外層がカチオン性ポリマー層であることから、アニオン性の無電解めっき用触媒を用いることが好ましい。同様に、上記した前処理方法において最終工程を工程(3)とした場合、当該前処理により基材上に積層された最外層がアニオン性ポリマー層であることから、カチオン性の無電解めっき用触媒を用いることが好ましい。このように、最外層の電荷と反対の電荷を有する無電解めっき用触媒を用いることにより、静電作用により無電解めっき用触媒が最外層に付着するため、後に行われる無電解めっき処理により、さらに密着性の高い無電解めっき皮膜を形成することができる。
【0039】
工程(5)では、上記した工程(4)により無電解めっき用触媒が付与された基材に対して無電解めっき処理を行う。
【0040】
無電解めっき処理を行う方法としては特に制限されず、常法に従って行えばよい。例えば、上記工程(4)により無電解めっき用触媒が付与された基材を、無電解めっき浴に浸漬することにより行うことができる。
【0041】
工程(5)において用いることのできる無電解めっき浴は、自己触媒性の無電解めっき浴であれば特に制限なく用いることができる。例えば、無電解銅めっき浴、無電解銅合金めっき浴、無電解パラジウムめっき浴、無電解パラジウム合金めっき浴、無電解銀めっき浴、無電解銀合金めっき浴、無電解ニッケルめっき浴、無電解ニッケル合金めっき浴、無電解金めっき浴、無電解金合金めっき浴などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、無電解めっき浴の具体的な浴組成についても特に制限されず、還元剤成分を含む公知の組成の無電解めっき浴を用いればよい。浴温、浴pH、めっき時間などのめっき条件についても特に制限されず、使用するめっき浴の種類、所望する無電解めっき皮膜の膜厚や性質などに応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(25mm×50mm×250μm)を基材として用い、当該基材に対して真空プラズマ処理装置(魁半導体社製、ステージ寸法:100Φ、出力:45W、ガス圧:2Pa)により2分間プラズマ処理を行った。次いで、以下の方法により基材上にLbL層を形成した。
【0044】
まず、基材を0.2質量%のポリジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)(重量平均分子量:約200,000〜350,000)水溶液に5分間浸漬した後、基材を純水で洗浄した。次いで、基材を0.2質量%のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)(重量平均分子量:約500,000)水溶液に5分間浸漬し、基材を純水で洗浄した。さらに、同様にして、上記した、PDDA水溶液への浸漬、PSSNa水溶液への浸漬、PDDA水溶液への浸漬、PSSNa水溶液への浸漬、及びPDDA水溶液への浸漬をこの順で行うことにより、基材上に、基材との接触面からPDDA層、PSSNa層、PDDA層、PSSNa層、PDDA層、PSSNa層、及びPDDA層の順で積層されたLbL層を形成した。なお、上記した順序で積層されたLbL層を(PDDA/PSSNa)3.5層と記載する場合がある。
【0045】
次いで、(PDDA/PSSNa)3.5層が形成された基材に、アニオン性のパラジウム触媒(奥野製薬工業株式会社製、商品名:キャタリストC)を用いてパラジウム触媒を付与し、50mL/Lの硫酸水溶液を用いて活性化を行った後、当該基材を無電解銅めっき浴(pH12.5、奥野製薬工業株式会社製、商品名:ATSアドカッパーIW)に35℃で4分間浸漬することにより、膜厚約0.1μmの無電解銅めっき皮膜を形成した。
【0046】
以上の方法により形成された無電解銅めっき皮膜について密着性を評価するために、JIS−K5600の方法に準じてクロスカット試験を行った。クロスカット試験後、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜を目視で観察し、その面積割合を算出した結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は100%であった。
【0047】
実施例2
基材上に、(PDDA/PSSNa)4.0層を形成したこと以外は実施例1と同様にしてLbL層を形成し、無電解めっき用触媒としてカチオン性のパラジウム触媒(奥野製薬工業株式会社製、商品名:OPC−50 インデューサーM)を用い、触媒活性化液(奥野製薬工業株式会社製、商品名:OPC−150 クリスターRW)を用いて当該無電解めっき用触媒の活性化を行ったこと以外は実施例1と同様にして無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。なお、(PDDA/PSSNa)4.0層とは、基材との接触面からPDDA層、PSSNa層、PDDA層、PSSNa層、PDDA層、PSSNa層、PDDA層、及びPSSNa層の順で積層されたLbL層を意味する。
【0048】
以上の方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は100%であった。
【0049】
実施例3
ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(25mm×50mm×250μm)を基材として用い、当該基材に対してオゾンレス低圧水銀灯によりUV照射(波長:254nm、照射エネルギー:29J/cm)を20分間行った。次いで、上記実施例1と同様にして、基材上に(PDDA/PSSNa)3.5層を形成し、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。
【0050】
以上の方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は100%であった。
【0051】
実施例4
基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(25mm×50mm×250μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、プラズマ処理、(PDDA/PSSNa)3.5層の形成、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。
【0052】
以上の方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は100%であった。
【0053】
比較例1
プラズマ処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして(PDDA/PSSNa)3.5層の形成、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。当該方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は5%未満であった。
【0054】
比較例2
プラズマ処理に替えて、基材を60℃に加温した1N水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬したこと以外は実施例1と同様にして、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。当該方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は5%未満であった。
【0055】
比較例3
プラズマ処理を行わなかったこと以外は実施例4と同様にして(PDDA/PSSNa)3.5層の形成、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。当該方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は5%未満であった。
【0056】
比較例4
プラズマ処理に替えて、基材を60℃に加温した1N水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬したこと以外は実施例4と同様にして、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。当該方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は5%未満であった。
【0057】
比較例5
(PDDA/PSSNa)3.5層の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、プラズマ処理、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。その結果、PENフィルム上に無電解銅めっき皮膜の形成はほとんど観察されなかった。これは、プラズマ処理後、(PDDA/PSSNa)3.5層の形成を行わなかったことにより、無電解めっき用触媒がPENフィルム上に付与されなかったことが原因であるものと考えられる。
【0058】
比較例6
(PDDA/PSSNa)3.5層の形成を行わなかったこと以外は実施例3と同様にして、UV処理、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。その結果、PETフィルム上に無電解銅めっき皮膜の形成はほとんど観察されなかった。これは、プラズマ処理後、(PDDA/PSSNa)3.5層の形成を行わなかったことにより、無電解めっき用触媒がPETフィルム上に付与されなかったことが原因であるものと考えられる。
【0059】
比較例7
基材としてコロナ処理が施されたポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(帝人社製、商品名:TEONEX Q51)を用い、かつプラズマ処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、(PDDA/PSSNa)3.5層の形成、無電解めっき用触媒の付与及び活性化、並びに無電解銅めっき処理を行った。なお、コロナ処理はPENフィルム等の高分子基材の表面を親水化するための処理として知られている方法の1つである。当該方法により形成された無電解銅めっき皮膜について、実施例1と同様にしてクロスカット試験を行った。その結果、剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合は5%未満であった。
【0060】
以上の結果を下記表1に示す。なお、下記表1中、「クロスカット試験結果」の列に記載の数値は、上記実施例1〜4及び比較例1〜7で行ったクロスカット試験における剥離されずに基材上に残留した無電解銅めっき皮膜の面積割合を示す。また、下記表1中、「クロスカット試験結果」の列に記載の「×」印は、無電解銅めっき皮膜が形成されなかったことを示す。
【0061】
【表1】
【0062】
以上の結果から明らかなように、本発明の前処理方法によれば、高分子基材上に密着性に優れた無電解めっき皮膜を形成できることが分かった。