(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
(1)本発明の端子金具は、前記斜め挿入規制部は、前記角筒部の少なくとも一方の対角位置にあるコーナ部に配される構成とすることが好ましい。
このような構成によれば、キャビティに対し端子金具が逆挿されたときに傾斜の方向によっては、対角位置にある斜め挿入規制部へキャビティの肉が共に入り込んで引っ掛かりとなるため、非正規な挿入をより確実に規制することができる。
(2)前記斜め挿入規制部は、前記角筒部における幅方向両側のコーナ部に配されているとよい。
このような構成によれば、キャビティに対する端子金具の傾斜方向が時計回り方向と反時計回り方向のいずれの方向であっても、端子金具の非正規な挿入を規制することができる。
(3)前記斜め挿入規制部には、前記角筒部の壁部において略U字状にスリットを貫通することで、端子金具の挿入方向と交差する方向へ片持ち状に延びかつ前記角筒部の内方へ撓み可能な弾性片が備えられるようにしてもよい。
このような構成によれば、端子金具が斜め姿勢で逆挿入されたときに、キャビティの内壁の肉が弾性片を角筒部の内方へ押し込む。これにより、角筒部に対し単にスリットを凹設する場合に比べて、キャビティの内壁の肉をより広範囲に斜め挿入規制部内に食い込ませることができる。したがって、端子金具の非正規な挿入をより確実に規制することができる。
(4)前記斜め挿入規制部の外面と、この斜め挿入規制部の周辺における前記角筒部の外面は略面一に形成されるとよい。
このような構成によれば、斜め挿入規制部が角筒部の外面と略面一であるため、端子金具が正規に挿入される際の挿入抵抗を増加させずに済む。
(5)前記斜め挿入規制部には前記弾性片が挿入方向に沿って複数設けられ、かつ挿入方向に関して隣接する前記弾性片はその延び方向が相互に逆向きとなっている。
このような構成によれば、逆挿入時における端子金具の傾斜角度がばらついても、隣接する斜め挿入規制部の弾性片の向きが反対となっているため、キャビティの内壁の肉によって弾性片が撓ませられる範囲が広くなっている。したがって、逆挿入時における端子金具の傾斜角度がばらついても、端子金具の非正規な挿入を確実に規制することができる。
【0010】
次に、本発明の端子金具を具体化した実施例1及び2について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<実施例1>
(コネクタハウジング1)
図1ないし
図8は本発明の実施例1を示している。まず、実施例1に係る端子金具Tが収容されるコネクタハウジング1について説明する。
図6に示すように、コネクタハウジング1は端子金具Tを収容する端子収容部2と、この端子収容部2を包囲するようにして設けられたフード部3とからなっている。端子収容部2には端子金具Tを収容する複数のキャビティ4が設けられ、上下二段に配されている。
端子金具Tは各キャビティ4の後部側から挿入される。
図7、
図8に示すように、各キャビティ4は上下方向に長く幅方向に短い断面略長方形状に形成されている。
各キャビティ4には、その入口からほぼ全長に亘ってガイド溝5が凹設されていて、端子金具Tが正規の向きでキャビティ4に向き合ったときに後述するスタビライザ23,26を案内しながら進入させうる。しかし、端子金具Tがキャビティ4に対して正規とは逆の向き(上下反転した向き)で向き合ったときには、スタビライザ23,26がキャビティ4の入口周りの壁面に干渉することで逆向きの挿入を禁止する。ガイド溝5はキャビティ4の天井面において幅方向の中央部に位置している。
(端子金具T)
次に、端子金具Tについて説明するが、以下の説明において、「前後」については
図2に表れる方向を基準とし、「上下」「左右」については
図4に表れる方向を基準とする。
【0012】
実施例1に係る端子金具Tは雌端子金具Tであり、導電金属製の薄板材によって形成されている。
図1に示すように、前部には相手端子金具(雄端子金具)との接続のための端子接続部6と、後部側に配され電線Wの端末部に接続される電線接続部7とを備えている。このうち、電線接続部7は、電線の端末に露出された芯線をかしめるワイヤバレル8と、電線の被覆をかしめるインシュレーションバレル9とからなっている。
【0013】
端子接続部6は前後方向に開口する略角筒状に形成された角筒部10を有している。前側の開口部は
相手端子金具(雄端子金具)のタブ部が進入するタブ挿通口11となっている。角筒部10の外形はキャビティ4の断面形状と同様、上下方向に長い略長方形状に形成され、キャビティ4に対してほぼ適合した状態で挿入可能である。
【0014】
図4、
図5に示すように、角筒部10は電線接続部7側の底面から連続する底壁12と、底壁12の左右方向両側から起立する一対の側壁13R、13Lとを有している。
【0015】
底壁12の前縁部からは角筒部10の内側へ向けて弾性舌片14が折り返し状に形成されている。弾性舌片14は上下方向への撓みが可能であり、頂点部には可動側接点部15が下方からの叩き出しによって上向きに突出形成されている。
【0016】
右側の側壁13Rの立ち上がり端からは、左側の側壁13Lに向けて天井壁16が延出している。右側の側壁13Rの立ち上がり端部であって天井壁16にかけてのコーナ部分には、前後一対の窓部17F、17Rが開口している。また、天井壁16の左右方向中央部は、
図2に示すように、前後方向に沿って角筒部10の内側へ向けて溝状に凹ませてあり、このことにより、角筒部10の内部には弾性舌片14と対向するようにして固定側接点部18が突出形成される。雌雄の端子金具が接続される際には、雄端子金具のタブ部が可動側接点部15と固定側接点部18とによって弾性的に挟み込まれて、電気的導通がとられるようになっている。
【0017】
左側の側壁13Lの立ち上がり端からは、前後に分かれて前側覆い壁19と、後側覆い壁20がそれぞれ右側の側壁13Rに向けて水平に延出している。前側覆い壁19の前端縁には下向きに前垂れ片21が曲げ形成されていて、前面は湾曲面となっている。
【0018】
前側覆い壁19の後部には左右方向に入れられた切り込みの後部側に前側拡幅部22が片持ち状に形成されている。この前側拡幅部22の左右方向中央部には、端子金具Tの逆挿入を防止するためのスタビライザを兼ねたランス係止部23が上方へ向けて突出形成されている。ランス係止部23は各キャビティ4内において撓み可能に形成された図示しないランスと係止可能である。ランス係止部23は正面視で略U字状をなすようにして曲げ形成されている。ランス係止部23は角筒部10の左右方向に関して中央部に配されている。ランス係止部23の前後両端面はいずれも鉛直に切り立つようにして形成されている。
【0019】
また、前側拡幅部22の自由端側には前側ずれ止め片24が形成されている。この前側ずれ止め片24は前側の窓部17Fに適合した状態で嵌め入れられ、その前後端面が前側窓部17Fの前後の開口縁にほぼ隙間なく対向するようにしてある。
【0020】
一方、後側覆い壁20には左右方向に入れられた切り込みの前部側であって、自由端部には後側ずれ止め片25が形成されている。この後側ずれ止め片25は後側の窓部17Rに適合した状態で嵌め入れ、その前後端面が後側窓部17Rの前後の開口縁にほぼ隙間なく対向する。かくして、前後のずれ止め片24,25によって前後の覆い壁19,20が前後方向に関して位置決めされ、結果として角筒部10の箱形状が維持される。
【0021】
また、後側覆い壁20における切り込みの後部であって左右方向の中央部にはスタビライザを兼ねたリテーナ係止部26が上方へ向けて突出形成されている。リテーナ係止部26もランス係止部23と同様、正面視で略U字状をなすようにして突出形成されている。リテーナ係止部26はコネクタハウジング1に装着されるリテーナ(図示しない)によって係止され、端子金具Tをランスと共に二重に抜け止めする。リテーナ係止部26も角筒部10の左右方向に関して中央部に配されている。
リテーナ係止部26及びランス係止部23は前後方向に関して同一軸線上に配されるとともに、キャビティ4に設けられたガイド溝5に沿って変位可能である。
【0022】
角筒部10の四隅には端子金具Tが逆向きかつ斜め姿勢でキャビティ4に挿入されようとする場合に、これを阻止する斜め挿入規制部27,28が配されている。本実施例1においては、斜め挿入規制部27,28は前後に2か所ずつ配されている。前側に配された斜め規制部(前側斜め挿入規制部27)は、底壁12の左右方向両側部から両側壁13R,13Lの付け根部にかけてのコーナ部に一対が配されるとともに、それぞれは前側ずれ止め片24のほぼ真下に位置している。
【0023】
両前側斜め挿入規制部27は2つの弾性片27A1,27A2を有している。各前側斜め挿入規制部27における前後の弾性片27A1,27A2は、それぞれ角筒部10に略U字状でかつ貫通状態でスリット29を切り込むことによって形成される。この際に、スリット29の切り込み方向は左右方向、換言すればキャビティ4に対する端子金具Tの挿入方向と交差する方向(直交する方向)であり、かつ略U字部分の伸び方向が相互に反対方向となるようにしてある。このようにスリット29の切り込み方向を相互に反対方向とすることにより、前側に位置する弾性片27A1は、側壁13R,13L側が接続された基端となり、底壁12側が自由端となる片持ち状をなす。逆に、後側に位置する弾性片27A2は、底壁12側が接続された基端となり、
側壁13R,13L側が自由端となる片持ち状をなしている。したがって、両弾性片27A1,27A2は角筒部10の左右方向、つまり端子金具Tの挿入方向と交差する方向(直交する方向)に延出するとともに、角筒部10の内外方向への撓みが可能となっている。
【0024】
また、両弾性片27A1,27A2の間には底壁12側と両側壁13R,13L側のそれぞれに両端部が接続された仕切り壁30が両持ち梁状に形成されている。この仕切り壁30の外面と両弾性片27A1,27A2の外面は斜め挿入規制部27の周辺の面とほぼ面一をなしている。
【0025】
なお、
図3等に示すように、
前側斜め挿入規制部27において前部側に位置する弾性片27A1の前端は、ランス係止部23の前端面よりも若干前方に位置している。
【0026】
後側に配された斜め規制部(後側斜め規制部28)は、前後の両覆い壁19,20間のほぼ中央において角筒部10の上面側のコーナ部に配されている。左右に対をなして形成された後側斜め規制部28は、角筒部10の天井壁16における上面側から側面側にかけての範囲に亘って形成されており、前側斜め挿入規制部27とは角筒部10のほぼ対角線上に位置する関係にある。後側斜め挿入規制部28も前側斜め挿入規制部27と同様、弾性片28A1,28A2を2つずつ有している。各後側斜め挿入規制部28における両弾性片28A1,28A2の自由端側への延び方向が相互に反対向きである点等、後側斜め挿入規制部28の構成は前側斜め挿入規制部27と全く同様である。
【0027】
かくして、端子金具Tがキャビティ4に対して逆向きでかつ斜めの姿勢で挿入されようとする場合には、
図8に示すように、前後の斜め挿入規制部27,28は共にキャビティ4の内壁に干渉するようになっている。
【0028】
次に、上記のように構成された本実施例1の作用効果を説明する。端子金具Tが正規の姿勢でキャビティ4に向き合うときには、前後のスタビライザである、ランス係止部23及びリテーナ係止部26がキャビティ4のガイド溝5に適合する。このため、端子金具Tはこれら係止部23,26がガイド溝5による案内を受けてキャビティ4内に挿入される。この際において、本実施例1の端子金具Tではいずれの弾性片27A1,27A2,28A1,28A2及び仕切り板30の外面が、角筒部10における周辺の面と面一に形成されているため、各斜め挿入規制部27,28が挿入時の抵抗とならない。したがって、端子金具Tを円滑にキャビティ4へ挿入することができる。
【0029】
一方、端子金具Tが正規姿勢から180°上下反転した姿勢でキャビティ4に向き合うときには、角筒部10の前端部の一部がキャビティ4内に入り込むものの、ランス係止部23の突出部分がキャビティ4の入口部分と干渉する。前述したように、ランス係止部23の前端面は鉛直に切り立った面となっているため、キャビティ4の入口部分の壁面に面当たり状態となる。このため、端子金具Tが逆向き姿勢のまま挿入される事態は確実に禁止される。
【0030】
しかしながら、例えば端子金具Tがキャビティ4に対し真っ直ぐな逆向きの姿勢で角筒部10の前端部を浅く挿入させた状態で、
図8に示すように、端子金具Tを図示反時計回りにこじるようにして傾けると、ランス係止部23がキャビティ4の略対角線上に位置するため、キャビティ4の入口部分に対するランス係止部23の干渉代が浅くなっていることから、端子金具Tが強引に押し込まれると、既にキャビティ4内に浅く入り込んでいる角筒部10の前端部のうちランス係止部23と反対側のコーナ部(
図8では上部左側のコーナ部)に位置する前側斜め挿入規制部27がキャビティ4の内壁に強く押し付けられる。その結果、押圧力を受けた内壁は、その反作用によって前側斜め挿入規制部27に圧接力を作用させる。これにより、キャビティ4の内壁の肉Mが弾性片27A1,27A2を内方へ撓み変形させて前側斜め挿入規制部27内に食い込む。この状態で端子金具Tをさらに押し込もうとすると、前側斜め挿入規制部27内に食い込んだ肉が引っ掛かりとなって大きな挿入抵抗を生じる。かくして、端子金具Tが非正規の姿勢でキャビティ4内に挿入される事態が回避される。
【0031】
本実施例1では、前側斜め挿入規制部27は左右に一対設けられているため、端子金具Tは
図8とは逆方向に傾いた場合にも対応することができる。また、前側斜め挿入規制部27は弾性片27A1,27A2を設けているため、単にスリットを設けた場合に比較してより多くの肉を食い込ませることができるため、挿入規制をより確実に行うことができる。さらに、本実施例では後側斜め挿入規制部28も設けているため、端子金具Tの対角位置で挿入規制をすることができる。このことも、端子金具Tの逆向きの斜め挿入規制に有効となる。
【0032】
また、斜め挿入規制部27,28は、弾性片27A1,27A2,28A1,28A2及び仕切り壁30の外面を周囲の面から突出しない形態としたため、通常の挿入作業時における挿入抵抗を何ら増加させずに済む、という効果も得られる。さらに、各斜め挿入規制部27,28における弾性片の延び方向を逆向きとしたため、前後いずれかの弾性片27A1,27A2,28A1,28A2を十分に撓ませ得る端子金具Tの傾斜範囲を広く確保することができる。つまり、斜め挿入に対応できる範囲を有効に拡張することができる。
【0033】
<実施例2>
図9は本発明の実施例2を示している。実施例1では弾性片27A1,27A2,28A1,28A2が角筒部10のコーナ部の湾曲形状に併せて湾曲した形態であったが、実施例2における斜め挿入規制部31,32では角筒部10を構成する壁面から上下方向あるいは左右方向へ真っ直ぐ立ち上げた構成である。各弾性片31A1,31A2,32A1,32A2の周囲は実施例1と同様、スリット29が切り込まれて片持ち状に形成され、僅かではあるが、撓み変形が可能となっている。また、実施例2では実施例1とは異なり、弾性片31A1,31A2,32A1,32A2の先端側の一部が角筒部10における周辺より突出するようにして形成されている。
他の構成は実施例1と同様であり、もって同様の作用効果を生じ得る。
【0034】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では斜め挿入規制部に弾性片を設けたが、単に左右方向にのみ延びるスリットを設ける構成であってもよい。
(2)上記実施例では斜め挿入規制部は略U字状にスリットを切り込む構成としたが、角筒部10のコーナ部にローレット溝のような凹溝を形成するようにしてもよい。要は、端子金具Tの挿入方向と交差するような凹凸部が形成されるようなものであれば良い。
(3)上記実施例では、本発明を雌端子金具Tに適用したが、雄端子金具に適用することも可能である。
【0035】
(4)上記実施例ではランス係止部23とリテーナ係止部26とは略U字状に突出する形態を示したが、他の形態であってもよい。例えば、角筒部10に係止孔を設けてランスを係止させたり、リテーナ係止部26に代えて角筒部10の後端面にリテーナを係止させるようにしてもよい。