(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607405
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】導電路
(51)【国際特許分類】
H01R 4/70 20060101AFI20191111BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20191111BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
H01R4/70 B
H01R4/62 A
H01B7/00 306
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-199859(P2016-199859)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-63764(P2018-63764A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 洋和
(72)【発明者】
【氏名】黒石 亮
【審査官】
山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/084995(WO,A2)
【文献】
特表2009−539207(JP,A)
【文献】
実開平02−057569(JP,U)
【文献】
特開2009−009736(JP,A)
【文献】
特開2016−058137(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0055300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/70
H01B 7/00
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単芯線を単芯線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記単芯線用絶縁被覆を除去して前記単芯線の一方の端部と他方の端部を露出させた単芯線電線と、
第1撚り線を第1撚り線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記第1撚り線用絶縁被覆を除去して露出させた前記第1撚り線の端部が、前記単芯線の前記一方の端部に同軸状に固着された第1撚り線電線と、
第2撚り線を第2撚り線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記第2撚り線用絶縁被覆を除去して露出させた前記第2撚り線の端部が、前記単芯線の前記他方の端部に同軸状に固着された第2撚り線電線と、
前記単芯線電線と前記第1撚り線電線を包囲可能な内径寸法を有し、前記単芯線電線のみを包囲する保護位置と、前記単芯線の前記一方の端部と前記第1撚り線電線とを包囲して前記単芯線の前記他方の端部を露出させる露出位置との間で、軸線方向に変位可能なパイプとを備えていることを特徴とする導電路。
【請求項2】
前記単芯線がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、前記第1撚り線が銅又は銅合金からなっていることを特徴とする請求項1記載の導電路。
【請求項3】
前記単芯線の前記一方の端部は、前記第1撚り線が固着された第1固着領域と、前記第1固着領域と前記単芯線用絶縁被覆との間の第1露出領域とを含み、
前記単芯線の前記他方の端部は、前記第2撚り線が固着された第2固着領域と、前記第2固着領域と前記単芯線用絶縁被覆との間の第2露出領域とを含み、
前記パイプが前記保護位置にある状態では、前記第1固着領域と前記第2固着領域のみが前記パイプの外部に露出していることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の導電路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、単芯線電線の両端に撚り線電線を接続した車両用の導電路が開示されている。単芯線電線は、導体が単芯線なので曲げ変形させ難いのであるが、電気抵抗を同じとした場合に外径を撚り線電線より小さくできるので、車体の床下のような低背スペースに配索される。撚り線電線は、導体が撚り線なので外径が単芯線電線より大きいのであるが、屈曲変形させ易いので、エンジンルーム内や車内リヤスペースのような狭いスペース内で屈曲した経路で配索される。単芯線電線の両端部では、絶縁被覆を除去することにより単芯線が露出されている。撚り線電線の端部では、絶縁被覆を除去することにより撚り線が露出されている。そして、単芯線の両端部に、夫々、撚り線が溶着により同軸状に固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−058137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単芯線は、柔軟性が低いため、外力が作用したときに折損することが懸念される。この対策としては、単芯線電線を剛性の高いパイプ内に挿通し、外力が単芯線電線に直接作用しないようにすることが考えられる。しかし、単芯線に撚り線を溶着するためには、単芯線の両端部のうち、撚り線との固着領域だけでなく、固着装置の設備との干渉回避のための余長領域を露出させておく必要がある。そのため、パイプで単芯線の両端部を包囲することができない。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、単芯線電線を長い領域に亘ってパイプで保護可能な導電路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
単芯線を単芯線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記単芯線用絶縁被覆を除去して前記単芯線の一方の端部と他方の端部を露出させた単芯線電線と、
第1撚り線を第1撚り線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記第1撚り線用絶縁被覆を除去して露出させた前記第1撚り線の端部が、前記単芯線の前記一方の端部に同軸状に固着された第1撚り線電線と、
第2撚り線を第2撚り線用絶縁被覆で包囲した形態であり、前記第2撚り線用絶縁被覆を除去して露出させた前記第2撚り線の端部が、前記単芯線の前記他方の端部に同軸状に固着された第2撚り線電線と、
前記単芯線電線と前記第1撚り線電線を包囲可能な内径寸法を有し、前記単芯線電線のみを包囲する保護位置と、前記単芯線の前記一方の端部と前記第1撚り線電線とを包囲して前記単芯線の前記他方の端部を露出させる露出位置との間で、軸線方向に変位可能なパイプとを備えているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電路を製造する際には、まず、単芯線の一方の端部に第1撚り線を固着し、次に、パイプを露出位置へ移動させて、単芯線の他方の端部を露出させる。この状態で、単芯線の他方の端部に第2撚り線を固着した後、露出位置のパイプを保護位置まで移動させる。パイプを露出位置から保護位置へ移動させるのに伴い、単芯線電線のうちパイプで包囲される領域が拡大するので、単芯線電線を長い領域に亘ってパイプで保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】単芯線と第1撚り線を固着した直後の状態をあらわす一部切欠側面図
【
図3】単芯線と第2撚り線を固着した直後の状態をあらわす一部切欠側面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記単芯線がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、前記第1撚り線が銅又は銅合金からなっていてもよい。電気抵抗を同じとした場合、第1撚り線の外径は、同一材料の単芯線に比べて大きくなる。この点に鑑みて、第1撚り線の材料を、単芯線の材料であるアルミニウムやアルミニウム合金より電気抵抗率の小さい銅又は銅合金とした。これにより、第1撚り線電線の外径が小径化されるので、パイプの外径も小さくすることができ、単芯線電線の配索に必要なスペースを低背化できる。
【0010】
本発明は、前記単芯線の前記一方の端部は、前記第1撚り線が固着された第1固着領域と、前記第1固着領域と前記単芯線用絶縁被覆との間の第1露出領域とを含み、前記単芯線の前記他方の端部は、前記第2撚り線が固着された第2固着領域と、前記第2固着領域と前記単芯線用絶縁被覆との間の第2露出領域とを含み、前記パイプが前記保護位置にある状態では、前記第1固着領域と前記第2固着領域のみが前記パイプの外部に露出していてもよい。この構成によれば、第1撚り線電線と第2撚り線電線が曲げて配索されるときに、第1撚り線電線と第2撚り線電線がパイプの端部と干渉せずに済む。
【0011】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1〜
図3を参照して説明する。本実施例1の導電路は、1本の単芯線電線10と、1本の第1撚り線電線20と、1本の第2撚り線電線23と、1本のパイプ26とを備えて構成されている。
【0012】
<単芯線電線10>
単芯線電線10は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる円形断面の単芯線11と、単芯線11を包囲する円筒形の単芯線用絶縁被覆12とを備え、一直線状に延びている。単芯線電線10の一端部では、単芯線用絶縁被覆12が除去され、単芯線11の一方の端部13が一定の長さに亘って露出している。単芯線電線10を構成する単芯線11は曲げ変形させ難いのであるが、電気抵抗を同じとした場合に単芯線11と撚り線とを比較すると、単芯線11の外径を撚り線の外径より小さくできる。したがって、単芯線電線10は、車体の床下のような低背スペースに配索される。
【0013】
露出した一方の端部13における先端部は、偏平に成形されていて、後述する第1撚り線21を導通可能に固着するための第1固着領域14となっている。一方の端部13のうち第1固着領域14と単芯線用絶縁被覆12との間の領域は、第1露出領域15となっている。第1露出領域15は、第1固着領域14と第1撚り線21とを超音波溶着によって固着するための自動機(図示省略)が単芯線用絶縁被覆12と干渉するのを回避するために確保されている。
【0014】
単芯線電線10の他端部では、単芯線用絶縁被覆12が除去され、単芯線11の他方の端部16が一定の長さに亘って露出している。露出した他方の端部16における先端部は、偏平に成形されていて、後述する第2撚り線24を導通可能に固着するための第2固着領域17となっている。他方の端部16のうち第2固着領域17と単芯線用絶縁被覆12との間の領域は、第2露出領域18となっている。第2露出領域18は、第2固着領域17と第2撚り線24とを超音波溶着によって固着するための自動機(図示省略)が単芯線用絶縁被覆12と干渉するのを回避するために確保されている。
【0015】
<第1撚り線電線20>
第1撚り線電線20は、銅又は銅合金製の金属素線を撚り合わせた円形断面の第1撚り線21と、第1撚り線21を包囲する円筒形の第1撚り線用絶縁被覆22とを備えている。第1撚り線電線20は、その軸線を屈曲又は湾曲させるような形態で比較的容易に変形し得るので、エンジンルーム内や車内リヤスペースのような狭いスペース内で屈曲した経路で配索される。第1撚り線電線20における単芯線電線10側の端部では、第1撚り線用絶縁被覆22が除去され、第1撚り線21の端部が、第1固着領域14よりも少し長い範囲に亘って露出している。
【0016】
第1撚り線21の端部は、単芯線11の第1固着領域14に対し超音波溶着により、導通可能に且つ同軸状に固着されている。第2固着領域17と第2撚り線24との固着部分は、熱収縮チューブ等の防水手段(図示省略)により液密状に包囲されている。単芯線電線10と第1撚り線電線20の端部は、ほぼ同軸状をなして一直線状に接続されている。第1撚り線21の材料である銅や銅合金は、単芯線11の材料であるアルミニウム又はアルミニウム合金よりも電気抵抗率が低い。これにより、第1撚り線21の外径は単芯線11の外径とほぼ同じ寸法又は、単芯線11の外径と大差ない寸法となっている。したがって、第1撚り線電線20の外径は単芯線電線10の外径とほぼ同じ寸法又は、単芯線電線10の外径と大差ない寸法となっている。
【0017】
<第2撚り線電線23>
第2撚り線電線23は、単芯線11と同じくアルミニウム又はアルミニウム合金製の金属素線を撚り合わせた円形断面の第2撚り線24と、第2撚り線24を包囲する円筒形の第2撚り線用絶縁被覆25とを備えている。第2撚り線電線23は、その軸線を屈曲又は湾曲させるような形態で比較的容易に変形し得るので、エンジンルーム内や車内リヤスペースのような狭いスペース内で屈曲した経路で配索される。第2撚り線電線23における単芯線電線10側の端部では、第2撚り線用絶縁被覆25が除去され、第2撚り線24の端部が、第2固着領域17よりも少し長い範囲に亘って露出している。
【0018】
第2撚り線24の端部は、単芯線11の第2固着領域17に対し超音波溶着により、導通可能に且つ同軸状に固着されている。第2固着領域17と第2撚り線24との固着部分は、熱収縮チューブ等の防水手段(図示省略)により液密状に包囲されている。単芯線電線10と第2撚り線電線23の端部は、ほぼ同軸状をなして一直線状に接続されている。第2撚り線24の材料は単芯線11の材料と同じであるから、第2撚り線24の外径は単芯線11の外径より大きい。したがって、第2撚り線電線23の外径は、単芯線電線10の外径より大きく、第2撚り線電線23の外径よりも大きい。
【0019】
<パイプ26>
パイプ26は、金属等のように単芯線11よりも曲げ剛性の高い材料からなり、一直線状の円筒形部品である。パイプ26の内径は、単芯線電線10と第1固着領域14と第1撚り線電線20とを包囲可能な寸法であり、且つ第2撚り線電線23の外径よりも小さい寸法である。パイプ26の長さは、第1固着領域14と第1露出領域15との境界から、第2固着領域17と第2露出領域18との境界に至る長さと同等の寸法である。
【0020】
パイプ26は、単芯線電線10の少なくとも一部を包囲する状態で、軸線方向に移動させることが可能である。即ち、パイプ26は、単芯線電線10のみを包囲する保護位置(
図1を参照)と、単芯線電線10の一部と、単芯線11の一方の端部13の全体と、第1撚り線電線20の一部とを包囲する露出位置(
図3を参照)との間で移動可能である。パイプ26が露出位置にある状態では、単芯線11の他方の端部16の全体が露出する。
【0021】
導電路を製造する際には、まず、
図2に示すように、パイプ26を単芯線電線10、第1撚り線電線20から外した状態で、単芯線11の一方の端部13(第1固着領域14)に第1撚り線21を固着する。次に、
図3に示すように、パイプ26を露出位置へ移動させて、単芯線11の他方の端部16を露出させ、この状態で、単芯線11の他方の端部16(第2固着領域17)に第2撚り線24を固着する。この後、露出位置のパイプ26を保護位置まで移動させれば、導電路の製造が完了する。
【0022】
第2撚り線24を単芯線11に固着する際には、パイプ26を、第1撚り線21が固着済みの第1固着領域14側(露出位置)へ退避させる。そして、第2撚り線24を単芯線11に固着した後は、パイプ26を露出位置から保護位置へ移動させる。露出位置のパイプ26は、第1撚り線電線20の一部を包囲する位置まで退避するので、単芯線11だけを包囲する場合に比べて十分大きな退避量が確保される。
【0023】
パイプ26を露出位置から保護位置へ移動させるときには、単芯線電線10のうちパイプ26で包囲される領域が拡大するのであるが、本実施例では、パイプ26が露出位置へ退避するときの退避寸法が大きいので、パイプ26を保護位置に移動させたときには、単芯線電線10を長い領域に亘ってパイプ26で包囲して保護することができる。
【0024】
また、単芯線11はアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、第1撚り線21は銅又は銅合金からなっている。この材料選択の技術的意義は次の通りである。直列接続されて1本の導電路を構成する導体は電気抵抗が同じとなるように断面積が設定されることから、第1撚り線21の外径は、同一材料の単芯線11に比べて大きくなる。この点に鑑みて、第1撚り線21の材料を、単芯線11の材料であるアルミニウムやアルミニウム合金より電気抵抗率の小さい銅又は銅合金とした。これにより、第1撚り線電線20の外径が小径化されるので、パイプ26の外径も小さくすることができ、単芯線電線10の配索に必要なスペースを低背化できる。
【0025】
また、単芯線11の一方の端部13は、第1撚り線21が固着された第1固着領域14と、第1固着領域14と単芯線用絶縁被覆12との間の第1露出領域15とを含んで露出した形態となっている。単芯線11の他方の端部16は、第2撚り線24が固着された第2固着領域17と、第2固着領域17と単芯線用絶縁被覆12との間の第2露出領域18とを含んで露出した形態となっている。そして、パイプ26が保護位置にある状態では、第1固着領域14と第2固着領域17のみがパイプ26の外部に露出し、第1露出領域15と第2露出領域18は、パイプ26に包囲されている。この構成によれば、第1撚り線電線20と第2撚り線電線23が曲げて配索されるときに、第1撚り線電線20と第2撚り線電線23がパイプ26の端部と干渉せずに済む。
【0026】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、第1撚り線の材料を銅又は銅合金としたが、第1撚り線の材料は、単芯線及び第2撚り線と同じくアルミニウム又はアルミニウム合金としてもよい。
(2)上記実施例では、単芯線と第2撚り線を同じ材料とし、第1撚り線を、単芯線及び第2撚り線と異なる材料としたが、単芯線と第1撚り線と第2撚り線を全て同一の材料としてもよく、単芯線と第1撚り線のみを同一材料としてもよく、第1撚り線と第2撚り線のみを同一材料としてもよい。
(3)上記実施例では、パイプが保護位置にある状態では、第1固着領域と第2固着領域のみがパイプの外部に露出しているが、パイプが保護位置にある状態で、第1固着領域と第2固着領域のうちいずれか一方の固着部のみがパイプの外部に露出してもよく、第1固着領域と第2固着領域の両方(つまり、単芯線電線の全長)がパイプで包囲されていてもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…単芯線電線
11…単芯線
12…単芯線用絶縁被覆
13…一方の端部
14…第1固着領域
15…第1露出領域
16…他方の端部
17…第2固着領域
18…第2露出領域
20…第1撚り線電線
21…第1撚り線
22…第1撚り線用絶縁被覆
23…第2撚り線電線
24…第2撚り線
25…第2撚り線用絶縁被覆
26…パイプ