【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0050】
なお、以下の実験例1〜3においては、安全性の観点から放射性セシウムを実験室で用いることが非常に困難であるため、セシウムとして
133Cs(安定同位体)を用いている。
【0051】
[実験例1]
本実験例1では、カチオン性高分子ポリマーとしてポリエチレンイミンを用い、粘土鉱物中の懸濁態セシウムの除去についての評価を行った。
【0052】
(1)実験方法
[Csモンモリロナイトの調製]
純水100mlにモンモリロナイト(製品名「モンモリロナイト(天然鉱物)」和光純薬工業株式会社製)5gを添加し、3時間攪拌したのち、遠心分離によりモンモリロナイトを回収した。この操作を3回行い、精製モンモリロナイトを調製した。
精製モンモリロナイトを飽和塩化セシウム水溶液(
133CsCl:162g/100ml)100mlに再懸濁させ、48時間攪拌したのち、一晩静置し、遠心分離により粗Csモンモリロナイトを回収した。
粗Csモンモリロナイトに含まれる塩化物を除去するために、粗Csモンモリロナイトを純水100mlに再懸濁させ、再生セルロースチューブに充填し、純水2Lを入れたビーカー内に浮かべて、ビーカー内を攪拌し、透析しながら、脱塩装置で再生セルロースチューブから溶出するイオンの除去を行った。再生セルロースチューブからイオンの溶出が認められなくなった時点で、透析を終了し、Csモンモリロナイトを回収した。回収したものを減圧乾燥し、めのう乳鉢ですりつぶして、均質化した。
Csモンモリロナイトの一部と精製モンモリロナイトを混合し、純水25mlに懸濁・均質化させ、遠心分離して回収したのち、減圧乾燥後、めのう乳鉢ですりつぶした。この際のCsモンモリロナイトと精製モンモリロナイトの混合物(以下、「モンモリロナイト試料」ともいう)に含まれる
133Cs濃度は、64.7ppt(
137Cs濃度に換算すると207kBq/kgに相当)であった。
【0053】
[懸濁態セシウムの除去についての評価]
モンモリロナイト試料2gに対し、2質量%ポリエチレンイミン水溶液(ポリエチレンイミン;(製品名「エポミンP−1000」株式会社日本触媒製;平均分子量約70,000;1g当たりのカチオン基約18mmol))を10ml添加し、8時間程度放置したのち、純水100mlを添加し、12時間攪拌した。遠心分離により上清とモンモリロナイト試料を回収し、上清は、イオンクロマトグラフィー(製品名「DX−120」日本ダイオネクス株式会社製)を用いて
133Cs濃度を測定した。回収したモンモリロナイト試料は、再度純水100mlを添加し、12時間攪拌した。遠心分離により上清とモンモリロナイト試料を回収し、上清は、イオンクロマトグラフィーを用いて
133Cs濃度を測定した。この一連の操作を、上清から
133Csが検出されなくなるまで行った。すなわち、1回目の抽出操作のみ2質量%ポリエチレンイミン水溶液10ml及び純水100mlを用い、2回目以降の抽出操作は純水100mlを用いた。
別途、コントロール実験として、モンモリロナイト試料を純水100mlを用いて抽出する抽出操作を行った。
【0054】
(2)結果及び考察
実験例1の結果を下記表1に示す。また、上清に含まれる
133Cs濃度(ppt)と抽出回数(回)との関係を
図2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
上記表1に示すように、2質量%ポリエチレンイミン水溶液10ml及び純水100mlを用いた1回目の抽出操作において、モンモリロナイト試料(初期値)の73%に相当する47pptの
133Csが水相へと移行した。
また、6回目の抽出操作で
133Csが検出限界以下になるまで、抽出操作を重ねるごとに濃度は減少した。
更に、6回目の抽出後にモンモリロナイト試料には、初期値の2.2%に相当する1.4ppt(
137Cs濃度に換算すると4.5kBq/kgに相当)まで減少し、モンモリロナイト試料に含まれる97.8%のセシウムが水相へと移行した。
【0057】
なお、コントロール実験においては、1回目の抽出で4ppt(
137Cs濃度に換算すると13kBq/kgに相当)の
133Csが水相へと移行し、2回目の抽出操作では検出限界以下であった。
【0058】
本実験例1で調製したCsモンモリロナイトの層状構造の層間中のほとんどの吸着サイトには、セシウムが存在すると考えられる。
モンモリロナイト試料中のセシウムは、水のみの抽出操作で初期値の4%、ポリエチレンイミンを作用させたことにより、およそ98%が回収された。これは、ポリエチレンイミンのカチオン基がCsモンモリロナイトの層状構造の層間の深部にある懸濁態セシウムとイオン交換したことを示している。
本実験例1において、ポリエチレンイミンはモンモリロナイトの層状構造の層間を押し広げながらモンモリロナイトの表面をコーティングするように吸着していることが推察される。
【0059】
[実験例2]
本実験例2では、ポリエチレンイミン水溶液の濃度(以下、「PEI濃度」ともいう)についての検討を行った。
【0060】
(1)実験方法
濃度:0.005質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.25質量%、0.5質量%、1質量%又は2質量%のポリエチレンイミン水溶液を、実験例1と同様の方法で調製したモンモリロナイト試料及び土壌試料に作用させ、ポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果の濃度依存性を評価した。この際に用いたモンモリロナイト試料及び土壌試料の
133Cs濃度は、それぞれ64.7ppt及び1.86ppmであった。
これらの試料5gに対し、25mlのそれぞれのポリエチレンイミン水溶液を加え、12時間攪拌した後に遠心分離による固液分離し、上清を回収した。その後、純水25mlを添加して30分間攪拌したのち、遠心分離による固液分離し、上清を回収する洗浄操作を2回行った。回収されたそれぞれの上清を合一して、
133Cs濃度をそれぞれ測定し、除去率(%)を算出した。
【0061】
(2)結果及び考察
実験例2の結果を下記表2に示す。また、モンモリロナイト試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を
図3に、土壌試料における除去率(%)とPEI濃度との関係を
図4に示す。なお、
図3及び4において、下段のグラフは、上段のグラフの一部を拡大したものである。
【0062】
【表2】
【0063】
上記表2に示すように、0.05質量%〜2質量%の濃度範囲において、著しいポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果が確認された。
その除去率は、モンモリロナイト試料で94.4%〜97.1%、土壌試料で92.9%〜96.6%あった。また、除去操作を行った際の試料残渣に残留していたセシウム濃度はいずれも5ppt未満であった。特に土壌試料の残渣に残留したセシウムをベースに除去率を算出すると、ほぼ100%のセシウムが除去できたことになる。
【0064】
したがって、本実験例2の結果から、ポリマー添加工程(I)におけるポリエチレンイミン水溶液の濃度は、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましいことが判明した。
【0065】
また、本実験例2では、対象試料として、モンモリロナイト試料及び土壌試料を用いており、0.05質量%〜2質量%の濃度範囲において、その除去率はいずれの試料においても高く、両試料の除去率は同程度であった。モンモリロナイト試料は、土壌中に含まれる粘土鉱物と同様の構造を有することから、本発明に係る除去方法は、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことが判明した。よって、本発明に係る除去方法は、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対して適用可能であることが分かった。
【0066】
[実験例3]
本実験例3では、ポリエチレンイミン水溶液のpH1〜11の範囲における、懸濁態セシウムの除去効果について検討を行った。
【0067】
(1)実験方法
濃度:0.1質量%のポリエチレンイミン水溶液を用いて、実験例1と同様の方法で調製したモンモリロナイト試料及び土壌試料のポリエチレンイミンによるセシウムの除去効果のpH依存性を評価した。この際に用いたモンモリロナイト試料及び土壌試料の
133Cs濃度は、それぞれ64.7ppt及び1.86ppmであった。
これらの試料5gに対し、25mlの濃度:0.1質量%ポリエチレンイミン水溶液を加え、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて、アルカリ性、中性、酸性環境をそれぞれ作成し、12時間攪拌した後に遠心分離による固液分離し、上清を回収した。その後、純水25mlを添加して30分間攪拌したのち、遠心分離による固液分離し、上清を回収する洗浄操作を2回行った。回収されたそれぞれの上清を合一して、
133Cs濃度を測定し、除去率(%)を算出した。
【0068】
(2)結果及び考察
実験例3の結果を下記表3に示す。また、モンモリロナイト試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を
図5に、土壌試料における除去率(%)とポリエチレンイミン水溶液のpHとの関係を
図6に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
上記表3に示すように、pH1〜11のpH環境下において、いずれも85%以上の高い除去率を示した。特にpH4〜11の範囲においてはいずれも90%以上の除去率を示し、ポリエチレンイミンによるセシウムの高い除去効果が確認された。その除去率は、モンモリロナイト試料で94.1%〜97.4%、土壌試料で91.2%〜96.4%あった。また、除去操作を行った際の試料残渣に残留していたセシウム濃度はいずれも5ppt未満であった。
【0071】
したがって、本実験例3の結果から、ポリマー添加工程(I)におけるポリエチレンイミン水溶液のpHは、1以上11以下とすることが好ましく、4以上11以下とすることがより好ましいことが判明した。
【0072】
また、本実験例3では、対象試料として、モンモリロナイト試料及び土壌試料を用いており、pH1〜11のpH環境下において、その除去率はいずれの試料においても高く、両試料の除去率は同程度であった。したがって、実験例2と同様に、本発明に係る除去方法は、土壌中に含まれる粘土鉱物及び土壌全体の両方に対して同様の除去率を示すことから、土壌及び土壌を分級処理した細粒の両方に対して適用可能であることが判明した。