特許第6607488号(P6607488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607488
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ナノ粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/152 20170101AFI20191111BHJP
【FI】
   C01B32/152
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-168940(P2015-168940)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43520(P2017-43520A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長井 圭治
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−110690(JP,A)
【文献】 特開平10−001306(JP,A)
【文献】 特開2007−169374(JP,A)
【文献】 特開2013−165124(JP,A)
【文献】 特開2007−262162(JP,A)
【文献】 特開2010−202747(JP,A)
【文献】 特開2010−077370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C09B 1/00−69/10
B01J 10/00−12/02
B01J 14/00−19/32
B01D 9/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンをその良溶媒に溶解させた溶液と、前記フラーレンの貧溶媒であって、且つ前記良溶媒と相溶する溶媒を主成分とする分散用液体を其々用意し、
流路内径が2〜5mmの混合流路に前記溶液および前記分散用液体を供給して、混合時に過飽和となるように、且つ以下の(i)〜(iii)の条件を満たすようにして、前記フラーレンのナノ粒子分散液を調製するナノ粒子分散液の製造方法。
(i)流路内径が0.1〜1.0mmの溶液供給流路から前記溶液を前記混合流路に供給する。
(ii)前記分散用液体を、前記混合流路に、少なくとも前記溶液と前記混合流路が合流するタイミングに、流入速度が0.4〜3L/min、且つレイノルズ数が2300以上となる条件を満たすように供給する。
(iii)前記混合流路から排出される前記貧溶媒と前記良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように前記分散用液体および前記溶液を供給する。
【請求項2】
前記貧溶媒が水である請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子分散液中の前記フラーレンの体積平均粒子径が1〜50nmである請求項1又は2に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記分散用液体は、前記貧溶媒に核粒子が分散されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子分散液は、前記核粒子と前記フラーレンの複合ナノ粒子からなる分散液である請求項4に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記混合流路は、円筒管型流路である請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記溶液供給流路の流れ方向先端部が少なくとも前記混合流路内まで延在されている請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記混合流路内での前記分散用液体と前記溶液の走流方向が同一である請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子分散液中のナノ粒子の質量パーセント濃度が、1×10−3質量%〜1.0質量%である請求項1〜8のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
得られる分散液全質量に対する前記良溶媒の質量が1〜20質量%である請求項1〜9のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項11】
前記複合ナノ粒子は、pn接合型粒子である請求項5に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子分散液の製造方法および前記ナノ粒子分散液の製造に好適なナノ粒子分散液製造装置に関する。また、フラーレン粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は、例えば、インク、塗料、光触媒、半導体、有機エレクトロニクス、食品、化粧品、製剤の分野で用いられており、バルクとは異なる種々の物理的・化学的特性を有している。ナノ粒子の製造方法としては種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、アルカリ性または酸性の水性媒体に溶解した有機顔料の溶液を、層流の状態で流通させ、その層流過程で溶液のpHを変化させる工程等を経ることにより、有機顔料微粒子を製造する方法が開示されている。また、特許文献2においては、有機化合物を良溶媒に溶解させた有機化合物溶液と、所望の結晶形の該有機化合物を含有する貧溶媒とを混合して、前記貧溶媒に含有させたのと同じ結晶形の結晶を調製する方法が提案されている。更に、特許文献3において本発明者は、再沈殿法によりpn接合型粒子を得る方法を提案した。
【0003】
また、特許文献4においては、実質的に同一の面上に配置された3本以上の円管状流路と1本以上の排出流路とが一点で連結されたリアクターを用いて、生成する前記顔料微粒子の平均粒径を制御して析出させる方法が開示されている。より詳細には、前記連結点ないしその周辺において、顔料を良溶媒に溶解した顔料溶液と、該良溶媒に相溶し、且つ前記顔料の貧溶媒となる溶媒とを合流させて前記顔料の微粒子を析出させる。この際、顔料溶液及び貧溶媒の一方が他方を挟み込んで合流するように両液を流通させ、合流時の顔料の過飽和度を調節することにより微粒子を析出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−307154号公報
【特許文献2】特開2008−208277号公報
【特許文献3】特開2011−147849号公報
【特許文献4】特開2011−1501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機化合物を塗料・インク等に用いる場合、通常、溶媒と混合して用いられる。また、太陽電池の機能層を形成する際にも、溶媒を含む有機化合物含有組成物を塗工して層形成する方法が一般に用いられる。これまで、再沈殿法や再析出法により製造されたナノ粒子を、使用または出荷する直前に溶媒に混合して分散液とし、インクや塗工液として用いていた。しかし、一度、ナノ粒子を析出・沈殿させて粉体として取り出したものを再び貧溶媒に分散させるのではなく、沈殿の生じ難いナノ粒子分散液を直接製造できれば、製造工程の短縮化、コスト低減、廃棄物低減を実現できる。なお、上記においては、有機化合物の例について述べたが、フラーレン等の炭素含有分子についても同様の課題が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイスループットで製造可能なナノ粒子分散液の製造方法、並びにナノ粒子分散液製造装置を提供することである。また、前記方法により得られたフラーレン粒子分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において本願発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
[1]: 炭素含有分子をその良溶媒に溶解させた溶液および前記炭素含有分子の貧溶媒であって、且つ前記良溶媒と相溶する溶媒を主成分とする分散用液体を其々用意し、流路内径が2〜5mmの混合流路に前記溶液および前記分散用液体を供給して、混合時に過飽和となるように、且つ以下の(i)〜(iii)の条件を満たすようにして、前記炭素含有分子のナノ粒子分散液を調製するナノ粒子分散液の製造方法。
(i)流路内径が0.1〜1.0mmの溶液供給流路から前記溶液を前記混合流路に供給する。
(ii)前記分散用液体を、前記混合流路に、少なくとも前記溶液と前記混合流路が合流するタイミングに、流入速度が0.4〜3L/min、且つレイノルズ数が2300以上となる条件を満たすように供給する。
(iii)前記混合流路から排出される前記貧溶媒と前記良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように前記分散用液体および前記溶液を供給する。
[2]: 前記貧溶媒が水である[1]に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[3]: 前記ナノ粒子分散液中の前記炭素含有分子の体積平均粒子径が1〜50nmである[1]又は[2]に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[4]: 前記分散用液体は、前記貧溶媒に核粒子が分散されている[1]〜[3]のいずれかに記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[5]: 前記ナノ粒子分散液は、前記核粒子と前記炭素含有分子の複合ナノ粒子からなる分散液である[4]に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[6]: 前記溶液供給流路は、円筒管型流路である[1]〜[5]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[7]: 前記溶液供給流路の流れ方向先端部が少なくとも前記混合流路内まで延在されている[1]〜[6]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[8]: 前記混合流路内での前記分散用液体と前記溶液の走流方向が同一である[1]〜[7]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[9]: 前記ナノ粒子分散液中のナノ粒子の質量パーセント濃度が、1×10−3質量%〜1.0質量%である[1]〜[8]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[10]: 得られる分散液全質量に対する前記良溶媒の質量が1〜20質量%である[1]〜[9]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[11]: 前記炭素含有分子は、フラーレンである[1]〜[10]のいずれかに記載に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[12]: 前記複合ナノ粒子は、pn接合型粒子である[5]に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
[13]: ナノ粒子分散液の製造装置であって、
内径が2〜5mmの混合流路と、前記混合流路内に溶液供給流路を供給する、内径が0.1〜1.0mmの溶液供給流路と、炭素含有分子を良溶媒に溶解した溶液を貯蔵する溶液貯蔵タンクと、前記炭素含有分子の貧溶媒を主成分とする分散用液体を貯蔵する分散用液体貯蔵タンクと、前記分散用液体貯蔵タンクから前記分散用液体を、流入速度が0.4〜3L/min、且つレイノルズ数が2300以上となる条件で前記混合流路に供給する分散用液体供給手段と、前記溶液を前記混合流路に供給する溶液供給手段と、
前記溶液供給流路から排出されたナノ粒子分散液を貯留するナノ粒子分散液貯蔵タンクと、を具備し、前記混合流路が排出される前記貧溶媒と前記良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように前記混合流路に、前記分散用液体と前記溶液を供給するナノ粒子分散液の製造装置。
[14]: 平均粒子径が1nm以上、10nm未満のフラーレンが分散されたフラーレン粒子分散液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハイスループットで製造可能なナノ粒子分散液の製造方法、並びにナノ粒子分散液製造装置を提供できるという優れた効果を有する。また、前記方法により得られたフラーレン粒子分散液を提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るナノ粒子分散液製造装置の模式的説明図。
図2】第1実施形態に係るナノ粒子分散製造ユニットの模式的説明図。
図3】第1実施形態に係る溶液供給流路の流れ方向先端部の模式手側面図。
図4】変形例に係る溶液供給流路の流れ方向先端部の模式手側面図。
図5】変形例に係る溶液供給流路の流れ方向先端部の模式手側面図。
図6】実施例1に係るナノ粒子分散液製造装置の模式的説明図。
図7】実施例1に係るナノ粒子分散製造ユニットの模式的説明図。
図8】レイノルズ数に対するナノ粒子分散液の製造ユニットの模式的説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0012】
図1に、本発明に係るナノ粒子分散液の製造装置の一態様の模式的説明図を示す。ナノ粒子分散液の製造装置100は、ナノ粒子分散液製造ユニット1、溶液貯蔵タンク2、分散用液体貯蔵タンク3、溶液供給手段4、分散用液体供給手段5およびナノ粒子分散液貯蔵タンク6等を有する。
【0013】
ナノ粒子分散液製造ユニット1は、溶液貯蔵タンク2に貯蔵された溶液20と分散用液体貯蔵タンク3に貯蔵された分散用液体30を過飽和の条件で合流させ、混合撹拌せしめて、ナノ粒子分散液を製造するユニットである。溶液供給手段4は、所望の流量および圧力に制御し、且つ溶液20をナノ粒子分散液製造ユニット1に供給する手段であり、少なくとも溶液供給流路40と制御部(不図示)を有する。分散用液体供給手段5も同様に、所望の流量および圧力で制御し、且つ分散用液体30をナノ粒子分散液製造ユニット1に供給する手段であり、少なくとも分散用液体供給流路50と制御部を有する。溶液供給手段4は、溶液貯蔵タンク2とナノ粒子分散液製造ユニット1の間に配設されている態様の他、溶液貯蔵タンク2より流れ方向上流側に制御部や配管が更に備えられていてもよい。同様に、分散用液体供給手段5は、分散用液体貯蔵タンク3とナノ粒子分散液製造ユニット1の間に配設されている態様の他、分散用液体貯蔵タンク3より流れ方向上流側に制御部や配管が更に備えられていてもよい。
【0014】
溶液供給流路40は、ナノ粒子分散液製造ユニット1の内部まで延在されている。同様に分散用液体供給流路50もナノ粒子分散液製造ユニット1の内部まで延在されている。そして、ナノ粒子分散液製造ユニット1内に設けられた混合流路において溶液20と分散用液体30が混合せしめられて、ナノ粒子分散液が製造される。製造されたナノ粒子分散液は、ナノ粒子分散液製造ユニット1の混合流路と連結せしめられた分散液流路61を流れて、切り替えコック71に応じて、ナノ粒子分散液貯蔵タンク6あるいは廃液タンク7に貯蔵される。ナノ粒子分散液貯蔵タンク6は、名称の如くナノ粒子分散液を貯蔵するタンクであり、廃液タンク7は運転開始前後の動作安定性が得られていない液体70を貯蔵するタンクである。
【0015】
図2は、ナノ粒子分散液製造ユニット1の一例を示す模式的説明図である。ナノ粒子分散液製造ユニット1は、混合流路10、接続筐体11等を有する。混合流路10は、溶液20と分散用液体30を混合してナノ粒子分散液を製造する役割を担う。これらの流路は、円筒管型流路であることが好ましく、各流路の断面形状は、楕円又は真円であることが好ましい。混合流路10の流路内径は2〜5mmとする。流路内径のより好ましい範囲は、3〜4である。接続筐体11は、混合流路10の流れ方向上流側の一端側に配設され、混合流路10を嵌合して固定している。
【0016】
ここで、流路内径は流路の直径であり、任意断面形状の流路に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径をいう。溶液供給流路40および分散用液体供給流路50は、前述した様に、ナノ粒子分散液製造ユニット1内部まで延在されている。具体的には、溶液供給流路40は、接続筐体11を貫通し、混合流路10の内部まで延在されている。分散用液体30の混合流路10における流入速度およびレイノルズ数において、上述した条件(ii)を満たす安定した位置で溶液20が吐出されればよく、安定する位置まで溶液供給流路40が混合流路10内に延在されていればよい。混合流路10内の延在長さは、例えば、5〜10cm程度である。
【0017】
一方、溶液供給流路40の流れ方向先端部から混合流路の流れ方向先端部までの長さは、溶液20と分散用液体30が充分に混合・撹拌されて所望のナノ粒子分散液が得られる範囲であればよい。生産効率の観点からは、ナノ粒子分散液が得られる範囲内で、できる限り短い長さとすることが好ましい。流体が装置内を滞留している時間が製造時間となるためである。
【0018】
溶液供給流路40は、混合流路の中心軸状に挿入することが好ましい。溶液供給流路の流路内径は0.1〜1.0mmとする。流路内径のより好ましい範囲は、0.2〜0.6mmであり、更に好ましい範囲は、0.2〜0.4mmである。溶液貯蔵タンク2から溶液20が混合流路10に供給されるようにする。溶液供給流路40aの流れ方向先端部40Eの形状は、図3に示すように長手方向と直交する断面を有する態様、図4に示すように溶液供給流路40bの流れ方向先端部近傍に45°程度のテーパーを有する態様、図5に示すように溶液供給流路40cの流れ方向先端部近傍に20°程度のテーパーを有する態様が例示できる。テーパーを設けることにより、渦なくスムーズに合流できる効果がある。
【0019】
分散用液体供給流路50は、接続筐体11を貫通し、接続筐体11内で混合流路10の流れ方向入り口部に接続されている。即ち、分散用液体供給流路50の流れ方向先端部で混合流路10の流れ方向入り口部に接続され、分散用液体30が分散用液体供給流路50から混合流路10の流れ方向入り口部に供給される。そして、分散用液体30は、溶液供給流路40の流れ方向先端部から供給された溶液と混合流路10内で過飽和の条件で混合せしめられる。これらの工程を経て、炭素含有分子がナノ粒子として析出する。
【0020】
混合流路10の流れ方向に対する入り口側端部は、接続筐体11内に嵌合せしめられている。溶液供給流路40は、図2に示すように、溶液供給手段4より延在され、接続筐体11に嵌合せしめられ、且つ混合流路10内まで延在されている。これにより、溶液供給流路40を流れる溶液20は、混合流路10内に流れ込む。更に、分散用液体供給流路50が分散用液体供給手段5より延在され、接続筐体11に嵌合せしめられている。そして、接続筐体11内で分散用液体供給流路50は混合流路10に接続される。即ち、分散用液体供給流路50を流れた分散用液体30は、これらの接続部から混合流路10に流入せしめられる。
【0021】
分散用液体30は、混合流路10において溶液20と混合せしめられるときに、流入速度が0.4〜3L/min、且つレイノルズ数が2300以上となる条件で供給する。ここで、レイノルズ数(Reynolds number)は、流体力学において慣性力と粘性力との比で定義される無次元数である。管内の流れのレイノルズ数R eは次式で表される。
Re=D<υx>ρ/μ
Dは管の流路内径、<υx>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。
上記式から明らかなように、流路内径が大きいほどレイノルズ数は大きくなる。このため、流路内径をmmサイズとすることにより、過渡状態または乱流を形成しやすくすることができる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が大きく、粘度が小さいほどレイノルズ数は大きくなるので過渡状態または乱流を形成しやすくなる。臨界値を示すレイノルズ数は、臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ばれる。臨界レイノルズ数は、以下のように分類できる。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000≧Re≧2300 過渡状態
【0022】
本願においては、上述したように、溶液と分散用液体との合流時に、過飽和の条件で、貧溶媒を主成分とする分散用液の流量、圧力およびレイノルズ数が所定の範囲となるように分散用液体30を供給する。流速は、二流体の混合比に強く影響し、混合比が過飽和度を決定する。過飽和度は1000程度が必要である。但し、S=C/Ce ここでCは混合時濃度であり、Ceは飽和濃度(溶解度)である。過飽和度が粒径を支配する。その一方で、過飽和度が同じでも、即ち二流体の混合比が一定でも、流体力学的条件が異なると粒径および粒径分布が大きく異なる。本発明者が鋭意検討を重ねた結果、貧溶媒のレイノルズ指数を上記範囲にすることが特に重要であることがわかった。
【0023】
流路内径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の内壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、流路内径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、流路内径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、流路内径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
【0024】
本願発明によれば、流路内径が0.1〜1.0mmの溶液供給流路と、流路内径が2〜5mmの混合流路を用いることにより、容易に2300以上のレイノルズ指数の条件を得ることができる。そして、分散用液体30への溶液20の拡散速度を適切なものとすることにより、所望の粒径サイズのナノ粒子分散液が得られる。また、沈殿の生じない安定性の良好なナノ粒子分散液を得る事ができる。また、レイノルズ指数を2300以上とすることにより、流体間の衝突を高速とし、均質的な混合が可能となる。また、大きな表面積を有する流路壁の利用により精密温度制御、流速コントロールによる粒径および/又は粒径分布の精密制御なども可能となる。分散用液体のレイノルズ指数のより好ましい範囲は、3000以上である。また、流量の好ましい範囲は、400〜3000mL/minであり、より好ましくは500〜3000mL/minであり、更に好ましくは600〜3000mL/minであり、特に好ましくは700〜3000mL/minである。
【0025】
混合流路10、溶液供給流路40および分散用液体供給流路50の材質は、本発明の趣旨を逸脱しないものであればよい。混合流路10は、耐久性の観点から金属であることが好ましく、視覚性の観点からはガラスが好ましい。金属としては、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン等が挙げられる。その他、セラミックス、プラスチック、シリコーンおよびテフロン(登録商標)を用いてもよい。溶液供給流路40および分散用液体供給流路50の材質は、耐久性の観点から金属であることが好ましい。金属としては、混合流路と同一の素材を例示できる。
【0026】
混合流路10の流路長は、流速や目的とするナノ粒子により変わり得るが例えば、5〜10cm程度である。混合流路10、溶液供給流路40、分散用液体供給流路50は、其々独立に、目的に応じて内壁面に表面処理を施してもよい。例えば、ガラスにシリコーンの表面処理を施す方法が例示できる。
【0027】
混合流路10において、溶液供給流路40から供給された溶液20と分散用液体供給流路50から供給された分散用液体30がレイノルズ数2300以上の条件で混合せしめられる。混合流路10の流れ方向端部、すなわち排出口において、貧溶媒と良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように、分散液の供給量を調整する。このようにすることにより、溶液20の流速は、分散用液体30より2〜10倍速くなる。
【0028】
この体積比を安定に維持するために、良溶媒溶液の供給はガス圧で供給するのが望ましい、この圧力の好ましい範囲は、0.2〜4MPaであり、より好ましくは0.3〜3MPaであり、更に好ましい範囲は0.4〜2MPaであり、特に好ましくは0.5〜1MPaである。
【0029】
溶液20は、前述した通り、炭素含有分子と、炭素含有分子の良溶媒に溶解させた溶液である。溶液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分(例えば、界面活性剤)が含まれていてもよい。ここで、「炭素含有分子」としては、有機化合物や、有機化合物のように分子状の形をとるフラーレン、或いはカーボンナノチューブ等が挙げられる。
炭素含有分子は、ナノ粒子分散液を得たい粒子であればよく特に限定されないが、p型半導体化合物、n型半導体化合物、顔料等が好適な例として挙げられる。溶液20中のナノ粒子の質量%濃度は良溶媒に溶解できる範囲であればよいが、粒子回収の観点から10−3質量%〜飽和濃度とすることが好ましい。より好ましくは10−2質量%以上、更に好ましくは10−1質量%以上である。また、上限のより好ましい範囲は飽和濃度の70%以下、更に好ましくは飽和濃度の50%以下である。
【0030】
本発明に適用されるp型半導体化合物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において特に制限されないが、好適な例として大環状の配位子化合物又はその金属錯体を挙げることができる。「大環状の配位子化合物」とは、金属の配位子となり得る不対電子を有する原子を環上に含む化合物であり、「その金属錯体」とは、大環状化合物上の配位原子が金属原子に配位した化合物である。不対電子を有する原子は、例えば、窒素原子、酸素原子であり、好ましい例として窒素原子を挙げることができる。金属原子としては、周期律表1〜15族の各金属元素が挙げられる。好ましい金属原子は、周期律表4〜14族の金属元素である。金属錯体は、通常、金属原子と大環状の配位子化合物とが1:1(モル比)からなり、平面4配位の錯体を形成するものが用いられる。
【0031】
大環状の配位子化合物又はその金属錯体の具体例としては、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等が挙げられる。
【0032】
フタロシアニン誘導体とは、フタロシアニンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(1A)又は(1B):
【化1】
(式中、Mは、周期律表4〜14族からなる群から選ばれる金属原子又はその金属原子を含む原子団を示し、点線は配位結合を示す)で表されるフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【0033】
で示される「周期律表4〜14族の金属原子」の好ましい例としては、4族(特に、Ti)、5族(特に、V)、6族(特に、Mo)、7族(特に、Mn)、8族(Fe,Ru,Os)、9族(Co,Rh,Ir)、10族(Ni,Pd,Pt)、11族(特に、Cu)、12族(特に、Zn)、13族(特に、Al)、14族(特に、Pb)を挙げることができる。なお、「その金属原子を含む原子団」とは、金属に他の配位子(例えば、酸素、シアノ基)が配位したもの(例えば、Ti−O)を意味する。以降においても同様である。
【0034】
フタロシアニン誘導体の好ましい例としては、上記式(1A)で表されるフタロシアニン、上記式(1B)においてMがCo,Pt,Os,Mn,Ir,Fe,Rh,Cu,Zn,Ni,Pd又はRuであるフタロシアニン誘導体、クロロアルミニウムフタロシアニンを挙げることができる。これらの中でも、有機物酸化分解における活性の点からは、特に、無金属フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン又は銅フタロシアニンが好ましく、水の分解における酸素の発生量の点からは、コバルトフタロシアニンが好ましい。これらの化合物は、いずれも市販されているか又は当業者が容易に製造することができる。
【0035】
ナフタロシアニン誘導体とは、ナフタロシアニンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(2A)又は(2B):
【化2】
(式中、Mは、周期律表4〜14族からなる群から選ばれる金属原子又はその金属原子を含む原子団を示し、点線は配位結合を示す)で表されるナフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【0036】
「Mで示される周期律表4〜14族の金属原子」の好ましい例としては、4族(特に、Ti)、5族(特に、V)、6族(特に、Mo)、7族(特に、Mn)、8族(Fe,Ru,Os)、9族(Co,Rh,Ir)、10族(Ni,Pd,Pt)、11族(特に、Cu)、12族(特に、Zn)、13族(特に、Al)、14族(特に、Pb)を挙げることができる。
【0037】
ナフタロシアニン誘導体の好ましい例としては、上記式(2A)表されるナフタロシアニン、上記式(2B)においてMがCo,Pt,Os,Mn,Ir,Fe,Rh,Cu,Zn,Ni,Pd又はRuであるナフタロシアニン誘導体を挙げることができる。これらの中でも、有機物酸化分解における活性の点からは、無金属ナフタロシアニン、亜鉛ナフタロシアニン又は銅ナフタロシアニンが好ましく、水の分解における酸素の発生量の点からは、コバルトナフタロシアニンが好ましい。これらの化合物は、いずれも市販されているか又は当業者が容易に製造することができる。
【0038】
ポルフィリン誘導体とは、ポルフィリンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(3A)又は(3B):
【化3】
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基、Mは、周期律表4〜14族からなる群から選ばれる金属原子又はその金属原子を含む原子団を示し、点線は配位結合を示す)で表されるポルフィリン誘導体が挙げられる。
【0039】
ここで、上記Rで示されるアルキル基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましくはC1−10のアルキル基である。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチルなどが挙げられる。また、上記のRで示されるアリール基としては、単環又は2環のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル、ナフチル等が挙げられる。また、上記のRで示されるヘテロアリール基としては、ピリジル、ピラジニル等が挙げられる。
【0040】
で示される周期律表4〜14族の金属原子のうち好ましくは、4族(特に、Ti)、5族(特に、V)、6族(特に、Mo)、7族(特に、Mn)、8族(Fe,Ru,Os)、9族(Co,Rh,Ir)、10族(Ni,Pd,Pt)、11族(特に、Cu)、12族(特に、Zn)、13族(特に、Al)、14族(特に、Pb)が挙げられる。
【0041】
ポルフィリン誘導体の好ましい例としては、上記式(3A)で表されるポルフィリン、上記式(3B)においてMがCo,Pt,Os,Mn,Ir,Fe,Rh,Cu,Zn,Ni,Pd又はRu、Rがフェニル又は水素原子であるポルフィリン誘導体を挙げることができる。これらの中でも、有機物酸化分解における活性の点からは、特に、無金属ポルフィリン、亜鉛ポルフィリン又は銅ポルフィリンが好ましく、水の分解における酸素の発生量の点からは、コバルトポルフィリンが好ましい。これらの化合物は、いずれも市販されているか又は当業者が容易に製造することができる。
【0042】
p型半導体化合物のその他の好ましい例としては、導電性高分子を挙げることができる。導電性高分子の具体例としては、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン共重合体等を挙げることができる。
【0043】
ポリチオフェン誘導体の具体例としては、例えば、下記式(3C):
【化4】
(式中、nは50〜500の整数を示し、Rは、へキシル、オクチル、メチル基等のC1−8の直鎖のアルキル基を示す。)で表されるポリチオフェン誘導体が挙げられる。
【0044】
n型半導体化合物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において特に制限されないが、好適な例として多環式芳香族化合物(一部が飽和していてもよい)を挙げることができる。「多環式芳香族化合物」とは、少なくとも2個以上の芳香環が縮環した構造を有する化合物、或いは複数の芳香環が不飽和結合(二重結合、三重結合等)を介して結合した構造を有する化合物等を意味する。芳香環としては、ベンゼン環等のほかに、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環、キノキサリン環等の複素芳香環も含まれる(いずれの環も一部が飽和していてもよい)。
【0045】
多環式芳香族化合物には、本発明に悪影響を与えない範囲で、種々の置換基を有していてもよい。置換基としては、電子吸引基が挙げられ、具体的にはカルボニル基、スルホン基、スルホキシド基等が挙げられる。
【0046】
多環式芳香族化合物の具体例としては、C60、C70、C76、C82、C84などのフラーレン類;フラーレン誘導体;カーボンナノチューブ類;電子供与体(フェニレンジアミン、テトラアミノエチレン、トリス(2,2−ビピリジン)ルテニウムなど)をドープした導電性高分子(ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール等);ペリレン誘導体;ナフタレン誘導体等が挙げられる。中でも、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フラーレン類(C60等)等が好ましく採用され、特に、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC),ペリレン誘導体やフラーレン類(C60等)が好ましい。
【0047】
ペリレン誘導体とは、ペリレンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(4A)〜(4C):
【化5】
(式中、Rは、アルキル基又はアリール基を示す)で表されるペリレン誘導体が挙げられる。
【0048】
ナフタレン誘導体とは、ナフタレンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(5A):
【化6】
(式中、Rは、アルキル基又はアリール基を示す)で表されるナフタレン誘導体が挙げられる。
【0049】
ここで、上記R又はRで示されるアルキル基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましくはC1−10のアルキル基である。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、sec−ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチルなどが挙げられる。また、上記のR又はRで示されるアリール基としては、単環又は2環のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0050】
フラーレン誘導体とは、フラーレンの基本骨格を有する化合物を意味する。具体的には、例えば、下記式(6A):
【化7】
(式中、Rは、メチル、n−ブチル、イソブチル基等のC1−4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)で表されるフラーレン誘導体が挙げられる。
【0051】
p型半導体化合物の好ましい例としては、前述したように、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体が挙げられる。より好ましくは、式(1A)、(1B)、(2A)、(2B)、(3A)、(3B)、(3C)で表される化合物が挙げられる。特に、式(1A)の無金属フタロシアニン、式(1B)の鉄フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、銅フタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン又は式(1B)のコバルトフタロシアニンが好ましい。
【0052】
n型半導体化合物は、上記のp型半導体化合物との間において良好なp−n接合粒子を形成するものが用いられる。n型半導体化合物ナノ粒子としては典型的には、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フラーレン類が挙げられる。より好ましくは、式(4A)、(4B)、(4C)、(5A)、(6A)で表される化合物が挙げられる。特に、効率的なキャリア生成の点から、式(4A)で示されるペリレン誘導体(3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシル−ビスベンズイミダゾール)又はフラーレン類(C60等)が好適に用いられる。なお、本発明に係るp−n接合型粒子は、光触媒の活性を上げるために、上記のn型半導体化合物及びp型半導体化合物以外に、必要に応じて銀、銅等の金属微粒子などを添加してもよい。n型半導体化合物の特に好ましい例は、フラーレンである。
【0053】
上記有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料であることができる。詳しくは、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンまたはイソビオラントロン系顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料である。
【0054】
炭素含有分子は、1種又は任意の組み合わせで2種以上を組み合わせて用いられる。溶媒も同様である。
【0055】
溶液20の良溶媒は、用いるナノ粒子の良溶媒であって、且つ分散用液体の主成分として用いる貧溶媒と相溶性を示すものとする。貧溶媒として水を用いた場合には、水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒が挙げられる。溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いられる。ナノ粒子が溶解できる範囲で、良溶媒以外の溶媒(例えば、貧溶媒)が含まれていてもよい。
【0056】
好ましい有機溶媒は、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒またはスルホン酸系溶媒であるが、更に好ましくはアルカリ性の場合は含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸系溶媒である。特に好ましくは、アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)、酸性の場合はメタンスルホン酸である。溶液は、均一に溶解した溶液とする。
【0057】
分散用液体30は、溶液20に含まれる炭素含有分子の貧溶媒を主成分とする流体である。ここで「主成分」とは、分散用液体中の80質量%以上が貧溶媒であることを意味する。即ち、20質量%未満の範囲で、貧溶媒以外の溶媒(例えば、良溶媒)が含まれていてもよい。貧溶媒の含有量は、分散用液体中の90質量%以上であることがより好ましい。貧溶媒は、用いるナノ粒子により変わり得るが、水、アセトン、2−プロパノール等が例示できる。
【0058】
混合流路10内において溶液20と分散用液体30が過飽和であって、且つ上記(i)〜(iii)を満たす条件において混合せしめられると、溶液中の良溶媒に溶解していた炭素含有分子が貧溶媒内に拡散されて、ナノメータサイズの粒子が貧溶媒および良溶媒中に分散せしめられる。なお、得られるナノ粒子の体積平均粒子径(以下、単に「粒子径」ともいう)は、動的光散乱法により測定した値であり、本発明においては、マルバーン社製のゼータサイザーナノZS測定装置を用いて測定した値を示している。なお、測定は室温で行い、濃度は、得られた懸濁液をそのまま用いた。本願方法によれば、濃厚なナノ粒子分散液を得る事ができる。また、得られたナノ粒子分散液は、良溶媒と貧溶媒の相溶性が高いので、溶媒の分離工程が不要であるというメリットを有する。即ち、得られたナノ粒子分散液をそのまま製品として用いることが可能である。
【0059】
溶液供給手段4および分散用液体供給手段5は、上述した条件で溶液20および分散用液体30を供給できればよく特に限定されないが、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされた状態とし、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動する。
【0060】
本発明の流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、加温・冷却手段を具備するようにしてもよい。
【0061】
ナノ粒子分散液製造ユニット1およびそれに接続される各流路は、必要に応じて其々複数設けてもよい。複数設けることにより、処理量を大幅に向上させることができる。溶液と分散用液体を互いに対向させて衝突させると相対速度を上げられるが、内圧が上がってしまうために、系全体の耐圧性を上げる必要があった。本発明のように走流方向を同一にすることにより内圧上昇を抑制することができる。
【0062】
ナノ粒子分散液の製造は、流路に溶液と分散用液体を連続的に供給することにより、連続的にナノ粒子分散液を製造することができる。従って、簡易な装置で、非常に効率的にナノ粒子分散液を製造することが可能である。
【0063】
ハイスループット化のためには、原料供給量を高めることが有効である。しかし、再沈殿法においては、原料である炭素含有分子の良溶媒への溶解度から、原料供給には限界があった。また、過飽和の条件となるように、溶液の供給量に限界があった。また、製造安定性を確保するために、混合の再現性が安定な領域としなければならないという問題があった。
【0064】
本実施形態によれば、混合流路の内径サイズを2〜5mmとし、(i)溶液供給流路の内径を0.1〜1.0mmとする、(ii)分散用液体を、混合流路に、少なくとも溶液と混合流路が合流するタイミングに、流入速度が0.4〜3L/min、且つレイノルズ数が2300以上となる条件を満たすように供給する。(iii)混合流路から排出される貧溶媒と良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように分散用液体および溶液を供給する。これらを満たすことにより、溶液と分散用液体の接触界面を大きくとることができる。その結果、ハイスループットで数ナノメータ〜数十nmの体積平均粒子径を有するナノ粒子分散液およびナノ粒子分散液製造装置を提供することができる。
【0065】
本発明のナノ粒子分散液によれば、良溶媒と貧溶媒を用い、且つこれらの溶媒間の相溶性が優れているので、1〜50nmのサイズのナノ粒子を安定して供給できる。また、従来は難しかった1〜10nmの極微小サイズのナノ粒子分散液も安定して供給できる。
【0066】
上記効果が得られた理由は、溶液を0.1〜1.0mmという細い管と、2〜5mmの混合流路を組み合わせ、且つ分散用液体の流入速度とレイノルズ数を制御することで、混合流路内で充分に溶液を拡散させることができる。また、混合比を上述した特定比に設定しやすい。上記条件とすることにより、ナノ粒子が貧溶媒中に均質に分散せしめられ、ハイスループットでナノ粒子分散液を提供できることがわかった。
【0067】
ここで「粒径の揃った」とは、分散(σ)と平均(x)の比σ/xが0.11〜0.3程度のものをいう。貧溶媒と良溶媒の体積比が10:1〜200:1の範囲となるように分散液を供給するためには、分散用液体の速度をかなり速くすることが好ましい。例えば、400〜3000mL/minであり、より好ましくは400〜1000mL/minである。混合流路のサイズが5mm以下とすることにより、レイノルズ数を適切に設定しやすい。両者の内径サイズおよび圧力により、溶液が分散用液体中に充分に拡散させられる。レイノルズ指数が2300越えの貧溶媒に溶液供給流路より原料供給を行うことにより、粒子形成速度と密度を高め、更に、粒子細部の分布を制御できる。また、粒子間の凝集を著しく抑えることができる。また、流体デバイスの流速制御により、粒径サイズの制御性を向上させることができる。得られるナノ粒子分散液全質量に対する良溶媒の質量は、1〜20質量%の範囲であることが好ましい。ナノ粒子分散液中のナノ粒子の質量パーセント濃度は、1×10−3質量%〜1.0質量%の範囲が好ましい。
【0068】
太陽電池や光触媒などの光エネルギー変換用の本発明に係る半導体化合物(有機半導体化合物、フラーレン等)では、光吸収と光誘起電荷分離の効率を同時に高めるため、粒子径を所望のサイズに制御、例えば、10nm程度に制御する技術が求められていた。しかし、特許文献4にも記載のように、粒子のサイズが小さくなればなるほど、粒子同士の相互作用が強くなるので、その取扱いが煩雑となり凝集しやすくなる場合がある。本発明のナノ粒子分散液によれば、ナノサイズの分散液をハイスループットで製造できる。更に、沈殿を抑えた保存安定性が高いという優れた特性を有している。
【0069】
(第2実施形態)
次に、第1実施形態とは異なる別の実施形態について説明する。第2実施形態においては、貧溶媒にナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液を用いている点において、貧溶媒のみを用いた第1実施形態と相違する。
【0070】
貧溶媒に分散された核粒子としては、例えば、種結晶0.01質量%以上を含む態様が挙げられる。また、分散用液体からp型ナノ粒子分散液を供給し、溶液からn型半導体化合物溶液を供給して、pn接合型粒子を合成してもよい。また、その逆に、分散液からn型ナノ粒子分散液を供給し、溶液からp型半導体化合物溶液を供給してもよい。このとき、ナノ粒子の分散性を良好に保つ観点から、分散用液体中に10質量%以下で核粒子の良溶媒が含まれていてもよい。無論、このときの良溶媒は、貧溶媒と相溶性があるものを用いる。
【0071】
核粒子の粒子サイズは、1〜20nm程度であることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましい。
【0072】
第2実施形態によれば、pn接合粒子等の複合ナノ粒子をハイスループットで製造できるという優れたメリットを有する。
【0073】
<実施例>
以下、本発明を具体的実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1に係るナノ粒子分散液の製造装置として、図6に示す装置を用いた。また、図7に、実施例に係るナノ粒子分散液製造ユニット1の正面図と側面図を示す。混合流路10の流路内径を4.0mm、溶液供給流路40の流路内径を0.42mm(流路外径は1.7mm)、分散用液体供給流路50の流路内径を0.3mm(流路外径は1.8mm)とした。混合流路10の流路長は、15cmとし、混合流路10内への溶液供給流路40の挿入長さは5cmとした。混合流路10の材質はガラス管、溶液供給流路40および分散用液体供給流路50の材質は真鍮管とした。
【0074】
また、溶液貯蔵タンク2の上流側に、フルオロメータ41、バルブ42,43,44、プレッシャーゲージ45、アルゴンガス48を設けた。アルゴンガス48とフルオロメータ41の間に、ガス流路47、プレッシャーゲージ45、バルブ42を設置し、フルオロメータ41へのアルゴンガスの供給量が適切となるようにした。具体的には、プレッシャーゲージ45の値が0.1〜0.3MPaとなるように設定し、フルオロメータ41が50〜500mL/minとなるようにした。また、フルオロメータ41と溶液貯蔵タンク2の間には、圧調整流路46、バルブ42が設置されている。溶液貯蔵タンクはプレッシャーホルダーから構成されている。
【0075】
炭素含有分子として、フラーレン(東京化成社製)を用いた。溶液の溶媒としてN−メチルピロリジノンを用いた。分散用液体の溶媒として水を用いた。分散用液体貯蔵タンク3とナノ粒子分散液製造ユニット1の間には、分散用液体供給流路50とポンプ52が配設されている。分散用液体貯蔵タンク3には、純水(ミリQウォーター)が貯留されている。純水は、混合流路10の流れ方向先端部(出口部)において、良溶媒:貧溶媒の割合が67:1となるように0.1MPaの圧力でN−メチルピロリジノン溶液を、且つ溶液と合流するときのレイノルズ指数が2360となるように純水を、供給した。これにより、1×10−5質量%のフラーレン粒子分散液が得られた。得られたフラーレン粒子分散液の全体量に対する1.4質量%がN−メチルピロリジノンである。平均粒子径は、動的光散乱装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS測定装置)を用いて懸濁液の濃度を変えず、25℃にて600nmの散乱で測定した。
【0076】
ナノ粒子分散液製造ユニット1の混合流路10の流れ方向出力端は、分散液流路61に接続され、切り替えコック71を介して、廃液タンク7あるいは、ナノ粒子分散液貯蔵タンク6に液体が貯留されるようになっている。
【0077】
切り替えコック71とナノ粒子分散液貯蔵タンク6の間には、電磁スイッチを備え、初期の不安定な混合比の懸濁液と周期の懸濁液を排除した。
【0078】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
分散用液体、即ち貧溶媒の流入速度およびレイノルズ数の条件を表1の条件に代えて実験を行った以外の条件は実施例1と同様とした。
【表1】
【0079】
表2に、得られたナノ粒子分散液の濃度、貧溶媒:良溶媒の混合比、得られたナノ粒子の体積平均粒子径、粒径分布を調べた結果を示す。
【表2】
【0080】
表2に示すとおり、比較例1〜4においては、1か月室温で保存(静置)した後に沈殿物がみられたが、本願実施例においてはいずれの分散液にも沈殿物が生じず、懸濁状態が維持できることがわかった。本願の上記ナノ粒子分散液の製造装置で連続的にナノ粒子分散液を製造した場合、一日当たり50gのフラーレン粒子を製造できる。これは、太陽電池3000mに相当する量に該当する量である。
【0081】
図8に、各実施例および比較例の分散用液体のレイノルズ指数に対するナノ粒子分散液の体積平均粒子径をプロットした図を示す。表中のアルファベット記号と図8のアルファベット記号が対応している。レイノルズ指数を変更することにより、得られるナノ粒子の体積平均粒子径を制御できることがわかった。本発明のナノ粒子分散液の製造方法によれば、ハイスループットで安定性の高いナノ粒子分散液を提供できることがわかった。
【0082】
(実施例5〜8)
分散用液体、即ち貧溶媒の流入速度およびレイノルズ数の条件を表3の条件に代えて実験を行った以外の条件は実施例1と同様とした。
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示すように、比較例1〜4においては、1か月室温で保存した後に沈殿物がみられたが、本願実施例においてはいずれも沈殿等が生じなかった。図8に、各実施例および比較例の分散用液体のレイノルズ指数に対するナノ粒子分散液の体積平均粒子径をプロットした図を示す。レイノルズ指数を変更することにより、得られるナノ粒子の体積平均粒子径を制御できることがわかった。本発明のナノ粒子分散液の製造方法によれば、ハイスループットでナノサイズのナノ粒子分散液が容易に提供できることがわかった。
【符号の説明】
【0085】
1 ナノ粒子分散液製造ユニット、2 溶液貯蔵タンク、3 分散用液体貯蔵タンク、4 溶液供給手段、5 分散用液体供給手段、6 ナノ粒子分散液貯蔵タンク、7 廃液タンク、10 混合流路、11 接続筐体、20 溶液、30 分散用液体、40 溶液供給流路、41 フルオロメータ、42,43,44 バルブ、45 プレッシャーゲージ、46 圧調整流路、47 ガス流路、48 アルゴンガス、50 分散用液体供給流路、51 制御部、52 ポンプ、60 ナノ粒子分散液、61 分散液流路、70 液体、71 コック、100 製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8