(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複素振幅分布算出手段は、前記再生光の光源が複数の点光源である場合、各点光源から求めた複素振幅分布の総和を1つの前記再生光の複素振幅分布として算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のホログラムデータ生成装置。
前記複素振幅分布算出手段は、前記再生光の光源が線光源又は面光源である場合、前記線光源又は前記面光源を点光源の集合として予め設定し、各点光源から求めた複素振幅分布の総和を1つの前記再生光の複素振幅分布として算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のホログラムデータ生成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原理的には、ホログラフィでは、銀塩感材やフォトポリマーといったホログラム記録媒体にホログラムデータを記録して再生する場合、ホログラム記録時の参照光とホログラム再生時の照明光(再生光)を同一方向から照明することで、ホログラム記録時と同等の物体光を再生できる。だが現実的には、ホログラフィでは、ホログラムの設置条件や観察条件により、参照光と同一の光源を再生光として照明することが困難である場合が多い。参照光と再生光の方向に違いがあると、物体光が正しく再生されないという問題が生じる。
【0005】
ここで、SLMにホログラムデータを表示して再生した物体光をホログラム記録媒体に記録する技術(以下、「波面記録技術」)では、ホログラム記録面を小領域に分割し、各小領域を順次記録することで、ホログラム記録面全体を記録する。このとき、参照光は、各小領域に対して正面又は一定の入射角度を有する平行光の場合が多くなる。これに対し、ホログラム再生時、ホログラム全面を平行光で照明するには、光源からの光をコリメートするためにホログラム以上の大きさを有するレンズが必要となる。従って、ホログラムの大きさによっては、平行光での照明環境を整えることが難しくなり、ハロゲンランプ、LED光源等の点光源に近い照明を再生光として用いる場合が多くなる。この場合、参照光と再生光との方向ズレが生じるだけでなく、ホログラム記録面上の各画素位置から点光源までの距離が異なるため、輝度分布の違い(明るさのムラ)が発生する。
【0006】
また、波面記録技術では、物体光をホログラムデータ上で自由に調整できる。このため、ホログラム記録媒体に対する、参照光と再生光との入射角の方向ズレや輝度分布の違いをホログラムデータで予め補正することが可能である。
【0007】
前記した従来技術もホログラム再生時に生じる方向ズレ(位相のズレ)をホログラムデータの計算時に補正できる。しかし、前記した従来技術は、SLMで再生される物体光をホログラム記録媒体に記録せず、再生用レンズを通して直接観察する電子ホログラフィに関連した技術のため、参照光と再生光との方向ズレや輝度分布の違いを補正していない。さらに、前記した従来技術は、再生用レンズを用いるフーリエ変換型ホログラムのみを対象とするため、再生用レンズを必要としないフレネル型やイメージ型のホログラムに適用できない。
【0008】
そこで、本願発明は、波面記録技術において、補正前物体光を正しく再生できるホログラムデータ生成装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題に鑑みて、本願発明に係るホログラムデータ生成装置は、ホログラム記録媒体にホログラムデータを記録する際に照射する参照光と、ホログラム記録媒体に記録されたホログラムデータを再生する際に照射する再生光との方向ズレを補正するホログラムデータ生成装置であって、複素振幅分布算出手段と、補正後物体光算出手段と、ホログラムデータ生成手段と、を備える構成とした。
【0010】
かかる構成によれば、ホログラムデータ生成装置は、複素振幅分布算出手段によって、再生したい物体光(補正前物体光)、ホログラム記録時の参照光、及び、ホログラム再生時の再生光について、ホログラム記録面上での複素振幅分布を算出する。
【0011】
ここで、補正前物体光の複素振幅分布は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)等で用いられる公知のホログラム算出手法で算出できる。例えば、補正前物体光の複素振幅分布は、再生したい物体光を点光源やポリゴン光源で仮定し、各光源からホログラム記録面までの光波伝搬を算出する手法で求められる。また、補正前物体光の複素振幅分布は、多視点画像群等の高密度な光線情報を用いてホログラム記録面上の複素振幅分布を算出する手法で求めてもよい。
【0012】
前記したように、参照光は、ホログラム記録面に対して正面又は一定の入射角を有する平行光であることが多い。この場合、参照光の振幅情報がホログラム記録面全体で一定なので、参照光の複素振幅分布として、ホログラム記録面上での位置に応じて変化する位相分布のみを求めればよい。
【0013】
前記したように、再生光は、平行光、1つ又は複数の点光源と仮定できる場合が多い。
平行光と仮定した場合、再生光の複素振幅分布は、参照光と同様の手法で求められる。
1つの点光源と仮定した場合、再生光の複素振幅分布は、点光源からホログラム記録面までのキルヒホッフ回折積分式、角スペクトル法等の厳密な光波の伝搬計算、又は、フレネル回折等の近似計算で求められる。
複数の点光源と仮定した場合、再生光の複素振幅分布は、各点光源からの光波伝搬を計算し、計算結果の複素和を算出することで求められる。
【0014】
ホログラムデータ生成装置は、補正後物体光算出手段によって、方向ズレが補正された補正後物体光の複素振幅分布を表した算出式が予め設定される。この算出式は、補正前物体光の位相及び振幅の両方に寄与し、方向ズレの補正が可能である。
【0015】
そして、ホログラムデータ生成装置は、補正後物体光算出手段によって、予め設定された算出式及び補正前物体光と参照光と再生光との複素振幅分布に基づいて、補正後物体光の複素振幅分布を算出する。
このとき、補正後物体光算出手段は、ホログラム記録媒体の画素位置(x,y)毎に、振幅AO及び位相φOで表された補正前物体光の複素振幅分布と、振幅AR及び位相φRで表された参照光の複素振幅分布と、振幅AP及び位相φPで表された再生光の複素振幅分布とを、算出式としての式(4)に代入することで、補正後物体光の複素振幅分布Cを算出する。さらに、ホログラムデータ生成装置は、ホログラムデータ生成手段によって、補正後物体光の複素振幅分布が反映されたホログラムデータを生成する。
【0016】
ここで、本願発明に係るホログラムデータ生成装置は、前記した方向ズレだけでなく、ホログラム記録時の参照光とホログラム再生時の再生光との輝度分布の違いを補正することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
本願発明に係るホログラムデータ生成装置は、方向ズレや輝度ムラが補正されたホログラムデータを生成するので、補正前物体光を正しく再生することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(方向ズレ及び輝度分布の違いの補正手法)
図1〜
図3を参照し、本願発明における方向ズレ及び輝度分布の違いの補正手法を説明した後、本願発明の実施形態に係るホログラムデータ記録システムの構成について説明する。
【0020】
図1のように、波面記録技術において、ホログラム記録媒体9にホログラムデータを記録する際(ホログラム記録時)、参照光Rを物体光(補正前物体光)Oの正面から照射し、物体光O及び参照光Rの干渉縞がホログラム記録媒体9に記録(印刷)することを考える。このとき、参照光Rと同一の再生光をホログラム記録媒体9に照射すれば、被写体Tの立体像Uがそのまま再生される。
【0021】
図2のように、観察者Vがホログラム記録媒体9の正面で立体像を観察する場合、再生光の光源をホログラム記録媒体9の正面に配置することが困難である。従って、参照光Rに対して角度θだけ外れた方向から再生光Pを照射するので、参照光Rと再生光Pとの方向ズレに起因して物体光が正しく再生されない。その結果、被写体Tの立体像Uが、本来の位置(つまり、被写体Tの位置)からずれた位置に歪んで再生される。
なお、
図2では、説明のために参照光R及び破線で被写体Tを図示したが、ホログラム記録媒体9に記録されたホログラムデータを再生する際(ホログラム再生時)、参照光Rを照射せず、被写体Tは存在しない。
【0022】
また、
図3のように、再生光Pの光源を点光源90
Pとした場合、ホログラム記録媒体9の中心から点光源90
Pまでの距離L
1と、ホログラム記録媒体9の端から点光源90
Pまでの距離L
2とが異なる。この距離L
1,L
2の相違により、ホログラム記録媒体9の中心が明るく、端が暗くなるといった輝度ムラに起因する、ホログラム記録時の参照光Rに対しての輝度分布の違いが発生する
【0023】
前記した参照光Rと再生光Pとの方向ズレ、又は、輝度分布の違いが発生すると、物体光が正しく再生されない。そこで、ホログラム記録時、ホログラムデータ上で方向ズレ及び輝度分布の違いを予め補正する。
【0024】
図4のように、ホログラム記録媒体9に反射型ホログラムを記録することとする。この
図4では、ホログラム記録時の物体光Oを破線で図示し、参照光Rを実線で図示した。また、
図4では、物体光Oの伝搬方向をブロック矢印で図示した。
【0025】
ここで、物体光の複素振幅分布O(x,y)を以下の式(1)のように定義する。この式(1)では、A
Oが物体光Oの振幅を表し、φ
Oが物体光Oの位相を表し、jが虚数単位を表し、expが指数関数を表す。また、(x,y)は、ホログラム記録媒体9の中心画素を原点(0,0)とした2次元座標系を表す。
【0027】
また、ホログラム記録媒体9で正反射する参照光の複素振幅分布R(x,y)を以下の式(2)のように定義する。この式(2)では、A
Rが参照光Rの振幅を表し、φ
Rが参照光Rの位相を表す。
【0029】
図5では、ホログラム記録時の再生光Pを実線で図示した。
ここで、ホログラム記録媒体9で正反射する再生光の複素振幅分布P(x,y)を以下の式(3)のように定義する。この式(3)では、A
Pが再生光Pの振幅を表し、φ
Pが再生光Pの位相を表す。
【0031】
図4,
図5のように、物体光Oの伝搬方向を正方向とすると、ホログラム記録媒体9で反射された参照光R及び再生光Pも正方向に伝搬することになる。この場合、方向ズレや輝度分布の違いが補正された補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)は、式(4)の算出式で表すことができる。
【0033】
この式(4)は、方向ズレのみが発生した場合には方向ズレのみを補正する。また、式(4)は、輝度分布の違いのみが発生した場合には輝度分布の違いのみを補正する。さらに、式(4)は、方向ズレ及び輝度分布の違いの両方が発生した場合には方向ズレ及び輝度分布の違いの両方を補正できる。
【0034】
ここで、ホログラム記録媒体9に透過型ホログラムを記録する場合も考える。この場合、ホログラム記録時、
図6のように物体光O及び参照光Rが正方向に伝搬し、ホログラム再生時、
図7のように再生光Pが正方向に伝搬することから、前記式(4)をそのまま用いることができる。つまり、前記式(4)は、ホログラム記録媒体9に記録するホログラムが反射型又は透過型の何れであっても適用できる。
【0035】
以上より、物体光の複素振幅分布O(x,y)、参照光の複素振幅分布R(x,y)、及び、再生光の複素振幅分布P(x,y)を求め、それぞれを振幅A
O,A
R,A
P及び位相φ
O,φ
R,φ
Pに分解する。そして、振幅A
O,A
R,A
P及び位相φ
O,φ
R,φ
Pを前記式(4)に代入することで、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)が求められる。
【0036】
その後、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)が反映されたホログラムデータを生成し、生成したホログラムデータをSLMに表示して再生し、再生された補正後物体光をホログラム記録媒体9に記録する。例えば、ホログラムデータが表す干渉縞H(x,y)は、以下の式(5)で定義される。この式(5)では、上付きの‘*’が複素共役を表し、R
2がSLMで補正後物体光を再生するためにSLMに照射する再生光を表す。つまり、R
2は、ホログラム記録時にホログラム記録媒体9に照射された参照光と異なる。
【0038】
(ホログラムデータ記録システムの構成)
図8を参照し、本願発明の実施形態に係るホログラムデータ記録システム1の構成について説明する。
図8のように、ホログラムデータ記録システム1は、ホログラムデータをホログラム記録媒体9に記録するものであり、ホログラムデータ記録装置10と、ホログラムデータ生成装置20とを備える。
【0039】
ホログラム記録媒体9は、ホログラムデータが記録されるものである。具体的には、ホログラム記録媒体9の素材として例えば、ガラス又はプラスチックの基板にフォトポリマーと感光材とを積層させたものが挙げられる。
【0040】
[ホログラムデータ記録装置の構成]
まず、ホログラムデータ記録装置10の構成について説明する。
ホログラムデータ記録装置10は、レーザ100と、1/2波長板101と、レンズ102,103と、偏光ビームスプリッタ104と、物体光光学系110と、参照光光学系120と、ステージ130とを備える。
【0041】
レーザ100は、レーザ光を発振するレーザ装置である。例えば、レーザ100としては、ホログラム記録媒体9の記録方式に応じて、連続発振レーザ、パルスレーザ等のレーザ光を発振するレーザ装置を用いることができる。
【0042】
1/2波長板101は、後記する偏光ビームスプリッタ104で分岐されるP偏光及びS偏光のバランスを調整するために、レーザ100からのレーザ光の偏光方向を変えるものである。
【0043】
レンズ102は、例えば、1/2波長板101からのレーザ光のビーム径を拡大する凸レンズである。このレンズ102は、その機能を満たすものであれば、単レンズ又は複合レンズであってもよい(後記するレンズ103,113,115〜117も同様)。
なお、レンズ102で拡大されたレーザ光の光軸中心を長破線で図示し、レーザ光の両端を短破線で図示した。
【0044】
レンズ103は、例えば、レンズ102からのレーザ光を平行光に変換する凸レンズである。
偏光ビームスプリッタ104は、レンズ103からのレーザ光を、物体光(P偏光)と参照光(S偏光)とに分岐するものである。つまり、偏光ビームスプリッタ104は、レンズ103からのレーザ光を、互いに直交するP偏光とS偏光とに分岐する。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ104を透過したレーザ光を物体光とし、偏光ビームスプリッタ104で反射されたレーザ光を参照光とする。
【0045】
物体光光学系110は、偏光ビームスプリッタ104を透過した物体光をホログラム記録媒体9に出射する光学系である。この物体光光学系110は、物体光光学系110からの物体光及び参照光光学系120からの参照光がホログラム記録媒体9の記録面上で同一位置に照射されるように配置されている。また、物体光光学系110は、偏光ビームスプリッタ111と、SLM112と、レンズ113と、HZP(ハーフゾーンプレート)処理用マスク114と、レンズ115〜117とを備える。
【0046】
偏光ビームスプリッタ111は、偏光ビームスプリッタ104からの物体光をSLM112に透過すると共に、SLM112からの物体光をレンズ113に向けて反射するものである。つまり、偏光ビームスプリッタ111は、SLM112で振幅が変調された物体光をレンズ113に向けて反射する。
【0047】
SLM112は、ホログラムデータ生成装置20から入力されたホログラムデータを表示する振幅変調素子である。そして、SLM112は、偏光ビームスプリッタ111からの物体光の振幅をホログラムデータに従って変調し、ホログラムデータ(干渉縞)が反映された物体光を偏光ビームスプリッタ111に反射する。
なお、ホログラムデータとは、ホログラムの干渉縞を表したデータである。本実施形態では、ホログラムデータは、方向ズレや輝度分布の違いを補正した補正情報(補正後物体光の複素振幅分布)が反映されている。
【0048】
レンズ113は、例えば、偏光ビームスプリッタ111で反射された物体光をHZP処理用マスク114に集光する凸レンズである。
HZP処理用マスク114は、妨害光を除去するHZP処理を行うために、レンズ113からの物体光の半分を遮蔽するマスクである。
【0049】
レンズ115は、例えば、HZP処理用マスク114からの物体光を平行光に変換する凸レンズである。
レンズ116は、例えば、レンズ115からの物体光をレンズ117に集光する凸レンズである。
レンズ117は、例えば、レンズ116からの物体光をホログラム記録媒体9に出射する凸レンズである。
【0050】
参照光光学系120は、偏光ビームスプリッタ104で反射された参照光をホログラム記録媒体9に出射する光学系であり、空間フィルタ121と、ミラー122,123とを備える。
【0051】
空間フィルタ121は、偏光ビームスプリッタ104で反射された参照光の外周部を遮断するフィルタである。
ミラー122は、空間フィルタ121からの参照光をミラー123に反射するものである。
ミラー123は、ミラー122からの参照光をホログラム記録媒体9に反射するものである。
【0052】
ステージ130は、ホログラム記録媒体9を搭載し、任意の位置に移動させるものである。例えば、ステージ130は、ホログラムデータを要素セル単位で記録する場合、搭載したホログラム記録媒体9を2軸方向に移動させてもよい。
【0053】
以上の構成により、レーザ100が出射したレーザ光は、1/2波長板101により偏光方向が調整される。そして、このレーザ光は、偏光ビームスプリッタ104により、物体光と参照光とに分岐される。
【0054】
物体光は、偏光ビームスプリッタ111を透過し、SLM112に入射する。このとき、SLM112は、補正情報が反映されたホログラムデータを表示している。従って、SLM112に入射した物体光は、SLM112に表示されたホログラムデータに応じて、その振幅が変調され、P偏光としてホログラム記録媒体9に出射される。
【0055】
また、参照光は、空間フィルタ121によって物体光と同一ビーム径まで絞られ、ミラー122で反射される。そして、参照光は、参照光光学系120を介して、ホログラム記録媒体9に出射される。このように、物体光及び参照光が共にホログラム記録媒体9の同一位置に照射され、ホログラムデータ(干渉縞)が記録される。
【0056】
[ホログラムデータ生成装置の構成]
次に、ホログラムデータ生成装置20の構成について説明する。
ホログラムデータ生成装置20は、ホログラム記録時の参照光とホログラム再生時の再生光との方向ズレ、又は、輝度分布の違いが補正されたホログラムデータを生成するものである。
【0057】
図8のように、ホログラムデータ生成装置20は、パラメータ入力手段21と、複素振幅分布算出手段22と、補正情報算出手段(補正後物体光算出手段)23と、ホログラムデータ生成手段24とを備える。
【0058】
パラメータ入力手段21は、物体光、参照光及び再生光の複素振幅分布の算出に必要なパラメータを入力するものである。例えば、ホログラムデータ記録装置10の利用者が、図示を省略したマウス、キーボード等の操作手段を用いて、パラメータをパラメータ入力手段21に入力する。
【0059】
例えば、物体光の複素振幅分布O(x,y)は、点光源モデル、ポリゴンモデル、又は、光線サンプリング面により算出される。従って、パラメータ入力手段21には、物体光に関するパラメータとして、点光源モデル、ポリゴン点光源モデル、又は、多視点画像群等の光線情報といった公知のホログラム計算手法に用いられる情報を入力する。より具体的には、パラメータは、点光源モデルやポリゴン光源モデルを用いる場合、各光源の3次元情報や輝度情報となる。また、パラメータは、光線情報を用いる場合、各光線の輝度情報、光線の空間サンプリング情報や角度サンプリング情報となる。
【0060】
通常、ホログラム記録時にホログラム記録媒体9に照射する参照光は、平行光であることが多い。この場合、パラメータ入力手段21には、参照光に関するパラメータとして、参照光の波長、原点での初期位相、及び、x軸及びy軸に対するなす角を入力する。
【0061】
再生光の光源90
Pが点光源の場合、その複素振幅分布P(x,y)は、フレネル回折により算出できる。従って、パラメータ入力手段21には、再生光に関するパラメータとして、点光源の波長及び振幅、初期位相、光源90
Pの位置を入力する。
図9のように、再生光の光源90
Pが、光源90
P1,…,光源90
Pnのように複数の場合もある(nは2以上の整数)。この場合、パラメータ入力手段21には、全ての光源90
Pについて、パラメータを入力する。
【0062】
また、
図10のように、再生光の光源90
Pが線光源の場合もある。この場合、パラメータ入力手段21には、線光源をn個の光源90
P1,…,光源90
Pnの集合として予め設定し(nは2以上の整数)、全ての光源90
Pについて、パラメータを入力する。
さらに、
図11のように、再生光の光源90
Pが面光源の場合もある。この場合、パラメータ入力手段21には、面光源をm×n個の光源90
P11,…,光源90
Pmnの集合として予め設定し(m,nは2以上の整数)、全ての光源90
Pについて、パラメータを入力する。
【0063】
その後、パラメータ入力手段21は、入力されたパラメータを複素振幅分布算出手段22に出力する。
図8に戻り、ホログラムデータ生成装置20の構成について、説明を続ける。
【0064】
複素振幅分布算出手段22は、パラメータ入力手段21から入力されたパラメータを参照して、物体光と参照光と再生光とについて、複素振幅分布を算出するものである。
具体的には、複素振幅分布算出手段22は、点光源モデル、ポリゴン点光源モデル又は光線情報を用いた公知のホログラム算出手法により、物体光の複素振幅分布O(x,y)を算出する。
【0065】
例えば、点光源モデル及びポリゴン点光源モデルの場合、ホログラム算出手法として、下記の参考文献1,2に記載の手法をそれぞれ利用できる。
参考文献1:M.Lucente,“Interactive computation of holograms of holograms using a look-up table”,Journal of Electronic Imaging,Vol.2,No.1,1993
参考文献2:K.Matsushima,S.Nakahara,“Extremely high-definition full-parallax computer-generated hologram created by the polygon-based method”,Applied optics,Vol.48,Issue 34,2009
【0066】
また、光線情報の場合、ホログラム算出手法として、下記の参考文献3,4に記載の手法を利用できる。
参考文献3:T.Yatagai,“Stereoscopic approach to 3-D display using computer-generated hologram”,Applied Optics Vol.15,Issue 11,1976
参考文献4:K.Wakunami,M.Yamaguchi,“Calculation for computer generated hologram using ray-sampling plane”,Optics Express,Vol.19,Issue 10,2011
【0067】
また、複素振幅分布算出手段22は、平行光である参照光の複素振幅分布R(x,y)を以下の式(6)により算出する。この式(6)では、kが波数(k=2π/λ
R)を表し、λ
Rが参照光Rの波長を表す。また、φ
(0,0)は、2次元座標系(x,y)の原点(0,0)における初期位相を表す。また、θ
x,θ
yは、それぞれx軸及びy軸に対するなす角を表す。
【0069】
また、複素振幅分布算出手段22は、光源90
Pが点光源である再生光の複素振幅分布P(x,y)をフレネル回折により算出する。このフレネル回折は、以下の式(7)で定義される。この式(7)では、A
Pが再生光の振幅を表し、λ
zが再生光の波長を表し、(x
P,y
P,z)が光源90
Pの位置を表す。
【0071】
ここで、複素振幅分布算出手段22は、再生光の光源90
Pnが複数の場合、光源90
Pn毎に再生光の複素振幅分布P
n(x,y)を算出する。そして、複素振幅分布算出手段22は、以下の式(8)により、光源90
Pn毎に算出した再生光の複素振幅分布P
n(x,y)の総和を、1つの再生光の複素振幅分布P(x,y)として算出する。
【数8】
【0072】
なお、複素振幅分布算出手段22は、再生光の光源90
Pが線光源又は面光源の場合、線光源又は面光源を点光源の集合として予め設定し、式(8)を用いて、再生光の複素振幅分布P(x,y)を算出する。
【0073】
その後、複素振幅分布算出手段22は、算出した物体光の複素振幅分布O(x,y)と、参照光の複素振幅分布R(x,y)と、再生光の複素振幅分布P(x,y)とを、補正情報算出手段23に出力する。
【0074】
補正情報算出手段23は、補正情報を算出するものである。
具体的には、補正情報算出手段23は、方向ズレや輝度分布の違いが補正された補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)を表した算出式として、前記式(4)が予め設定されている。
また、補正情報算出手段23は、複素振幅分布算出手段22から入力された物体光の複素振幅分布O(x,y)と、参照光の複素振幅分布R(x,y)と、再生光の複素振幅分布P(x,y)とをそれぞれ、前記式(1)〜式(3)を用いて、振幅A
O,A
R,A
P及び位相φ
O,φ
R,φ
Pに分解する。
そして、補正情報算出手段23は、振幅A
O,A
R,A
P及び位相φ
O,φ
R,φ
Pを前記式(4)に代入することで、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)を算出する。
その後、補正情報算出手段23は、算出した補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)をホログラムデータ生成手段24に出力する。
【0075】
ホログラムデータ生成手段24は、補正情報算出手段23から入力された補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)が反映されたホログラムデータを生成するものである。
具体的には、ホログラムデータ生成手段24は、前記式(5)を用いて、ホログラムデータを生成する。すなわち、ホログラムデータ生成手段24は、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)を一般的なホログラムエンコード手法でエンコードし、ホログラムデータを生成する。
その後、ホログラムデータ生成手段24は、生成したホログラムデータをSLM112に出力する。
【0076】
[ホログラムデータ生成装置の動作]
図12を参照し、ホログラムデータ生成装置20の動作について説明する(適宜
図8参照)。
【0077】
ホログラムデータ生成装置20は、パラメータ入力手段21によって、物体光、参照光及び再生光の複素振幅分布の算出に必要なパラメータを入力する(ステップS1)。
ホログラムデータ生成装置20は、複素振幅分布算出手段22によって、ステップS1で入力されたパラメータを参照して、物体光と参照光と再生光とについて、複素振幅分布を算出する(ステップS2)。
【0078】
ホログラムデータ生成装置20は、補正情報算出手段23によって、補正情報として、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)を算出する(ステップS3)。
ホログラムデータ生成装置20は、ホログラムデータ生成手段24によって、補正後物体光の複素振幅分布C(x,y)が反映されたホログラムデータを生成する(ステップS4)。
【0079】
その後、ステップS4で生成されたホログラムデータは、SLM112に出力、表示され、ホログラム記録媒体9に記録される。
ホログラム再生時、パラメータ入力手段21に入力したパラメータと同一条件で再生光をホログラム記録媒体9に照明すればよい。
【0080】
(作用・効果)
本願発明に係るホログラムデータ生成装置20は、方向ズレや輝度分布の違いが補正されたホログラムデータを生成するので、方向ズレに起因した立体像の歪みや輝度分布の違いを抑制し、補正前物体光を正しく再生することができる。
【0081】
さらに、ホログラムデータ生成装置20は、ホログラム展示環境に応じて、様々な照明光源に対応したホログラムデータを生成することが可能になる。これにより、コンテンツ制作者が意図した立体像や補正前物体光を高い再現度で再生することができる。
【0082】
以上、本願発明の各実施形態を詳述してきたが、本願発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本願発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0083】
前記した実施形態では、複素振幅分布算出手段が、再生光の複素振幅分布をフレネル回折で算出することとして説明したが、本願発明は、これに限定されない。例えば、複素振幅分布算出手段は、フレネル回折等の近似計算だけでなく、キルヒホッフ回折積分式、角スペクトル法等の厳密計算で再生光の複素振幅分布を算出してもよい。
【0084】
ホログラムデータ記録装置の構成(例えば、光学系の構成)は、前記した実施形態に限定されない。
前記した実施形態では、空間光変調器が振幅変調素子であることとして説明したが、これに限定されない。例えば、空間光変調器は、位相変調素子、又は、DPH(double phase hologram)光学系等の位相及び振幅の両方を変調できる素子としてもよい。このように、共役光や0次光等の不要光が発生しない場合、フィルタ処理用の光学系(
図1のレンズ113,115及びHZP処理用マスク114)を省略してもよい。
前記した実施形態では、ホログラムデータ生成装置を独立したハードウェアとして説明したが、本願発明は、これに限定されない。例えば、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、ホログラムデータ生成装置として協調動作させるホログラムデータ生成プログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD−ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。