特許第6607584号(P6607584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6607584ライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)の焼成システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6607584
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)の焼成システム
(51)【国際特許分類】
   C04B 2/10 20060101AFI20191111BHJP
   C01F 11/06 20060101ALI20191111BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20191111BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   C04B2/10
   C01F11/06
   C01B32/50
   F27D17/00 104D
   F27D17/00 101A
   F27D17/00 105A
   F27D17/00 101G
   F27D17/00 104G
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-207050(P2018-207050)
(22)【出願日】2018年11月2日
【審査請求日】2019年2月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597118061
【氏名又は名称】株式会社 セテック
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【弁理士】
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 弘
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−053016(JP,A)
【文献】 特許第4825994(JP,B2)
【文献】 特開昭60−141541(JP,A)
【文献】 特開平10−095642(JP,A)
【文献】 特開2010−091205(JP,A)
【文献】 特公昭47−016898(JP,B1)
【文献】 特開昭61−128088(JP,A)
【文献】 特開2002−316194(JP,A)
【文献】 特開2000−256047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/10
C01B 32/50
C01F 11/06
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水ライムケーキを乾燥させるライムケーキ乾燥機、このライムケーキ乾燥機から供給される高含水ライムケーキ(高含水粉状炭酸カルシウムCaCO3)を焼成して酸化カルシウム(CaO)、並びに、二酸化炭素(CO2)に熱分解する焼成炉を具備するライムケーキ焼成システムであって、
前記焼成炉より排出される焼成排ガスに含有されている酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)による再炭酸化を防止するため、該焼成炉の排ガス排出部にて、該焼成排ガスに空気を混合して急速冷却し、該混合ガスの温度を550°C以下とするとともに、該混合ガスにおける二酸化炭素(CO2)の分圧を0.012MPa以下として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制し、
前記焼成炉における排ガス排出部の後段に熱交換器を設け、該熱交換器の高温側に導入される前記混合ガスで、該熱交換器の低温側から供給される空気を加熱して焼成炉用の燃焼空気とし、該燃焼空気を前記焼成炉に導入するとともに、さらに該熱交換器の後段に粉状酸化カルシウム(CaO)の集塵機を設置して、該混合ガスから酸化カルシウム(CaO)を分離捕集し、分離捕集後の該混合ガスを前記ライムケーキ乾燥機に導入し、該混合ガスとライムケーキとの直接接触により乾燥熱伝達効率の向上を図ることを特徴とするライムケーキ焼成システム。
【請求項2】
高含水ライムケーキを乾燥させるライムケーキ乾燥機、このライムケーキ乾燥機から供給される高含水ライムケーキ(高含水粉状炭酸カルシウムCaCO3)を焼成して酸化カルシウム(CaO)、並びに、二酸化炭素(CO2)に熱分解する焼成炉を具備するライムケーキ焼成システムであって、
前記焼成炉より排出される焼成排ガスに含有されている酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)による再炭酸化を防止するため、該焼成炉の排ガス排出部にて、該焼成排ガスに空気を混合して急速冷却し、該混合ガスの温度を550°C以下とするとともに、該混合ガスにおける二酸化炭素(CO2)の分圧を0.012MPa以下として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制し、
前記焼成炉における排ガス排出部の後段に、粉状酸化カルシウム(CaO)の捕集用集塵機を設置するとともに、更に該捕集用集塵機の後段に熱交換器を設置し、該捕集用集塵機によって該熱交換器に導入される前の前記混合ガスから粉状酸化カルシウム(CaO)を回収して、該熱交換器に導入される高温側熱流体としての該混合ガスが粉状酸化カルシウム(CaO)随伴しないようにした後、該混合ガスを前記ライムケーキ乾燥機に導入し、該混合ガスとライムケーキとの直接接触により乾燥熱伝達効率の向上を図るとともに、
該熱交換器の低温側から供給される空気を熱交換により加熱して焼成炉用の燃焼空気として前記焼成炉に導入するようにしたことを特徴とするライムケーキ焼成システム。
【請求項3】
前記熱交換器の使用に際し、焼成排ガスと空気との混合ガスを該熱交換器の高温側熱流体として用いて、その流路を直管部で構成する細管群を流路として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化固着防止を図るとともに、
被加熱側空気は伝熱管ケース部を多室に分割し、伝熱管に直交して外表面を多段に直交して熱回収する流路を低温側流路とし、直管部の再炭酸化付着物の点検、除去用点検口を設ける熱交換器の適用を特徴とする請求項1に記載のライムケーキ焼成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)の焼成システムに関し、詳しくはライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)を焼成し、粉状酸化カルシウムを製造するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策より電気自動車は急速に普及の兆しを見せており、その電源となる自動車搭載用蓄電池として、リチウム畜電池の利用が期待されている。リチウム畜電池は、その電極材の出発原料として水酸化リチウムを使用するが、水酸化リチウムの精製工程においては水酸化カルシウムを使用することから、廃棄物としてライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)が発生する。
廃棄物となるライムケーキの主成分は、粉状炭酸カルシウムと水分である。このライムケーキを乾燥・焼成して酸化カルシウムとし、さらに水和反応により水酸化カルシウムとしてリサイクルすることは、石灰石資源の節約、及び廃棄物の有効利用による環境負荷軽減に寄与するため、リチウム畜電池の生産拡大に関連して焦眉の課題といえる。
【0003】
従来、石灰石〜炭酸カルシウム(CaCO3)を焼成して生石灰(酸化カルシウムCaO)を製造する場合、塊状石灰石の粒径につき、100〜50mm、または25〜10mm程度のものを竪型炉で焼成しているが、塊状石灰石の焼成においては焼成温度1200°C程度、焼成時間3〜6時間を要し、焼成された酸化カルシウム(CaO)の比表面積(単位質量あたりの表面積)は10〜15m/gとなる。
一方、石灰石は、その焼成特性において、高温、長時間の焼成になるほど比表面積は小さくなって結果的に酸化カルシウム(CaO)の活性が低くなる。このため、高活性酸化カルシウム(CaO)を得るためには、石灰石粒径を小粒径(粒径3mmΦ程度以下)にし、焼成時間の短縮を図るとともに焼成温度を900°C程度に低下させると、比表面積は40〜50m/g(JIS規格の約3倍)程度に大きくなる。酸化カルシウム(CaO)は水和消化して高反応消石灰が得られ焼却炉などの排煙ガス中の硫黄酸化物の脱硫、塩化水素除去などの排煙浄化剤として用いられる。
【0004】
ライムケーキ中の炭酸カルシウムは5μm以下の微細粒子であるので、乾燥して焼成すれば高活性の酸化カルシウム(CaO)製造の好適な原料となる。
従来、高活性の酸化カルシウム(CaO)を製造するための手段として流動層焼成炉が開発されたが、流動層焼成炉から排出される焼成排ガスは粉状の酸化カルシウム(CaO)を含有する。このことから、焼成ガス温度の低下に伴い、酸化カルシウム(CaO)は焼成ガス中の二酸化炭素(CO2)と再結合して再炭酸化現象を生じ、炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する。この再結合によって生成された炭酸カルシウム(CaCO3)は、焼成ガスの流路にて固着硬化現象を生じることから、流動層焼成炉の長時間の安定した操業は困難であり、国内外において現在、粉状の(CaCO3)を用いた焼成炉の稼動実績は無い状況である。
【0005】
以上より、ライムケーキの焼成による高活性酸化カルシウム(CaO)を得るにあたり、その焼成時に再炭酸化現象を防止し得るならば、流動層・噴流層焼成による高活性酸化カルシウム(CaO)の製造は可能となるが、一方、流動層焼成炉による焼成は、従来の焼成法に比較して焼成燃料消費率は増加傾向にあるため、その熱効率向上が望まれる。
【0006】
下記に示される先行技術文献は以下の内容が記載されている。文献1(特公昭58−11367号公報)記載の発明はライムケーキ(文献ではライムケーク)から焼成石灰の製造、文献2(特許第4474533号公報)記載の発明は粒径が0.3mm以下の炭酸カルシウムを用いて生石灰〜酸化カルシウム(CaO)の焼成する方法に関するもの、文献3(特許第4825994号公報)、文献4(特開2000−256047号公報)記載の発明はライムケーキを焼成する方法に関するものである。これらの発明は本願発明と同様に、高活性酸化カルシウム(CaO)の製造を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭58−11367号公報
【特許文献2】特許第4474533号公報
【特許文献3】特許第4825994号公報
【特許文献4】特開2000−256047号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Zement‐Kalk‐Gips、Vol 42, No 12, p621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の生石灰〜酸化カルシウム(CaO)の製造に関し、又、前述した各特許文献記載の発明には以下の課題があった。
【0010】
(課題1)
第1の課題としてライムケーキのリサイクルにおいて、高活性の酸化カルシウム(CaO)を得るためには、炉の焼成温度を1,000°C以下とする必要がある。その場合、焼成炉から排出する焼成排ガスに随伴する酸化カルシウム(CaO)は、焼成炉から排出される際の温度低下過程において、その排出ガス中に含有されている二酸化炭素(CO2)と酸化カルシウム(CaO)との再結合により再炭酸化が生じ、この再炭酸化物は焼成排ガス流路に対する固着硬化現象を発現し、流路を閉塞させるという課題があった。即ち、焼成炉排出ガス中の酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化を極力防止する必要がある。
【0011】
(課題2)
第2の課題として従来、流動層焼成炉による石灰石焼成は竪型炉に比較して熱効率が低いため実用化に際してはシステムとして熱効率を改善する必要があった。特に焼成炉から出る排出ガスの保有熱量を高含水ライムケーキの乾燥工程で利用する場合、乾燥炉における排出ガスとライムケーキとの熱伝達効率の向上が必要である。
【0012】
(課題3)
第3の課題として、排出ガスの保有熱量から熱回収をする熱交換器は、再炭酸化物の固着が生じ難い構造であるとともに、また微小なりとも固着を生ずることがあれば容易に点検・除去が出来る構造でなければならないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、高含水ライムケーキを乾燥させるライムケーキ乾燥機、このライムケーキ乾燥機から供給される高含水ライムケーキ〜高含水粉状炭酸カルシウム(CaCO3)を焼成して酸化カルシウム(CaO)、並びに、二酸化炭素(CO2)に熱分解する焼成炉を具備するライムケーキ焼成システムであって、前記焼成炉より排出される焼成排ガスに含有されている酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)による再炭酸化を防止するため、該焼成炉の排ガス排出部にて、該焼成排ガスに大気常温空気を混合して急速冷却し、該混合ガスの温度を550°C以下とするとともに、該混合ガスにおける二酸化炭素(CO2)の分圧を0.012MPa以下として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制することを特徴としている。
【0014】
即ち、請求項1記載の発明は課題1の解決策として、高含水ライムケーキを乾燥させるライムケーキ乾燥機(2)、このライムケーキ乾燥機(2)から供給される高含水ライムケーキ(高含水粉状炭酸カルシウムCaCO3)を焼成して酸化カルシウム(CaO)、並びに、二酸化炭素(CO2)に熱分解する焼成炉(3)を具備するライムケーキ焼成システムであって、
前記焼成炉(3)より排出される焼成排ガスに含有されている酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)による再炭酸化を防止するため、該焼成炉(3)の排ガス排出部(5)にて、該焼成排ガスに空気を混合して急速冷却し、該混合ガスの温度を550°C以下とするとともに、該混合ガスにおける二酸化炭素(CO2)の分圧を0.012MPa以下として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制し、
前記焼成炉(3)における排ガス排出部(5)の後段に熱交換器(6)を設け、該熱交換器(6)の高温側に導入される前記混合ガスで、該熱交換器(6)の低温側から供給される空気を加熱して焼成炉(3)用の燃焼空気とし、該燃焼空気を前記焼成炉(3)に導入するとともに、さらに該熱交換器(6)の後段に粉状酸化カルシウム(CaO)の集塵機(7)を設置して、該混合ガスから酸化カルシウム(CaO)を分離捕集し、分離捕集後の該混合ガスを前記ライムケーキ乾燥機(2)に導入し、該混合ガスとライムケーキとの直接接触により乾燥熱伝達効率の向上を図ることを特徴としている。
【0015】
請求項2記載の発明は、高含水ライムケーキを乾燥させるライムケーキ乾燥機(2)、このライムケーキ乾燥機(2)から供給される高含水ライムケーキ(高含水粉状炭酸カルシウムCaCO3)を焼成して酸化カルシウム(CaO)、並びに、二酸化炭素(CO2)に熱分解する焼成炉(3)を具備するライムケーキ焼成システムであって、
前記焼成炉(3)より排出される焼成排ガスに含有されている酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)による再炭酸化を防止するため、該焼成炉(3)の排ガス排出部(5)にて、該焼成排ガスに空気を混合して急速冷却し、該混合ガスの温度を550°C以下とするとともに、該混合ガスにおける二酸化炭素(CO2)の分圧を0.012MPa以下として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制し、
前記焼成炉(3)における排ガス排出部(5)の後段に、粉状酸化カルシウム(CaO)の捕集用集塵機(7)を設置するとともに、更に該捕集用集塵機(7)の後段に熱交換器(6)を設置し、該捕集用集塵機(7)によって該熱交換器(6)に導入される前の前記混合ガスから粉状酸化カルシウム(CaO)を回収して、該熱交換器(6)に導入される高温側熱流体としての該混合ガスが粉状酸化カルシウム(CaO)随伴しないようにした後、該混合ガスを前記ライムケーキ乾燥機(2)に導入し、該混合ガスとライムケーキとの直接接触により乾燥熱伝達効率の向上を図るとともに、
該熱交換器(6)の低温側から供給される空気を熱交換により加熱して焼成炉用(3)の燃焼空気として前記焼成炉(3)に導入するようにしたことを特徴としている。
【0016】
請求項3記載の発明は、上記1項において、前記熱交換器の使用に際し、焼成排ガスと空気との混合ガスを該熱交換器の高温側熱流体として用いて、その流路を直管部で構成する細管群を流路として、酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化固着防止を図るとともに、被加熱側空気は伝熱管ケース部を多室に分割し、伝熱管に直交して外表面を多段に直交して熱回収する流路を低温側流路とし、直管部の再炭酸化付着物の点検、除去用点検口を設ける熱交換器の適用を特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
近時、地球環境改善のため電気自動車の普及が図られ、それに伴い、自動車搭載用電池として、リチウム蓄電池の利用が期待されている。リチウム蓄電池の生産拡大に関連して、その電極材料の出発原料は水酸化リチウムであるが、その精製工程において水酸化カルシウムを必要とし、廃棄物として高含水のライムケーキを生ずる。そのライムケーキを乾燥・焼成して、高活性な酸化カルシウム(CaO)を得、さらに水和反応により水酸化カルシウムにリサイクルすることは石灰石資源の節約、また廃棄物の低減による環境負荷軽減に寄与し得るものとなる。本発明は、高活性酸化カルシウムを得ることを可能ならしめ、かかる目的にかなうものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】炭酸カルシウム(CaCO3)を焼成炉にて熱分解する場合の平衡温度と、二酸化炭素(CO2)の分圧の関係とを示すグラフである。
図2】ライムケーキを焼成して酸化カルシウム(CaO)を製造する際に利用される焼成システムの構成図であって、焼成炉に導入される空気加熱用熱交換器を酸化カルシウム(CaO)捕集用集塵機の前段に設置した場合を示している。
図3】ライムケーキを焼成して酸化カルシウム(CaO)を製造する際に利用される焼成システムの構成図であって、焼成炉に導入される空気加熱用熱交換器を酸化カルシウム(CaO)捕集用集塵機の後段に設置した場合を示している。
図4】本発明の焼成システムの実施形態にて使用される熱回収用熱交換器の概要を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面にしたがって本発明に係るライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)の焼成システムについて、詳細に説明する。
図1はライムケーキの主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)を熱分解(CaCO3→CaO+CO2)するに際し、焼成ガス中に含有する二酸化炭素(CO2)の分圧と、炉内の平衡温度との関係を示すグラフであり、破線は前述の非特許文献1に記載された式に基づいて記載された曲線、実線は特許文献1に記載された式に基づき記載された曲線である。
図1に示されるように、これらの特性曲線を境界として、その高温側上部がCaCO3の熱分解域(CaO+CO2)であり、また特性曲線の下部は結合域(CaCO3)である。つまり、焼成温度が低下すると、CO2が低分圧(低濃度)の場合、CaOとCO2は、再炭酸化反応(CaO+CO2→CaCO3)が生起する。本発明は、かかる再炭酸化反応を抑制し、酸化カルシウムCaOを焼成する際、その収率の向上を図るものである。
【0020】
図2はライムケーキを焼成してCaOを製造する際に利用されるシステムの概略構成の一例を示した図である。
図2に示されるように、本実施形態のライムケーキ(高含水炭酸カルシウム)の焼成システムは、ライムケーキ供給部1、焼成処理前のライムケーキを乾燥させる乾燥機2、焼成炉3、冷空気混合部(排ガス排出部)5、熱交換器6、酸化カルシウム(CaO)捕集用集塵機7等を具備して構成されている。
供給部1から供給されたライムケーキは乾燥機2にて、その含水率を10%以下にした後、焼成炉3に供給され、焼成温度1000°C以下で焼成され、炭酸カルシウムの熱分解により、酸化カルシウム(CaO)と、二酸化炭素(CO2)とが生成し、焼成炉3から焼成排ガスが排出されるが、この焼成排ガスには分解された微粒子の酸化カルシウム(CaO)が随伴されている。
【0021】
焼成炉3から排出される焼成排ガスには、冷空気供給部50、冷空気混合部(排ガス排出部)5を介して冷空気(常温大気空気)が混合されることによって、550°C以下に急速冷却される。また、冷空気の導入により焼成排ガス中のCO2分圧を0.012MPa以下に低下させて、焼成排ガスに含まれる微粒子の酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化反応を抑制し、焼成炉3と熱交換機6とを連結する管路内の固着・目詰まりを防止するようになっている。
また、冷空気混合部5にて焼成排ガスに空気を混入し、その混合ガスは熱交換器(ガスガスヒーター、GGH)6に導入されて高温側熱流体となる一方、熱交換器6の低温側空気入口63に低温側熱流体として、空気供給部55から空気が供給され、この空気を熱交換により加熱した後、低温側空気出口64から、燃焼用空気として焼成炉3に供給する。
【0022】
図3は、本発明の焼成システムの他の実施形態を示した焼成システムの構成図であって、図2における焼成炉3に導入される空気加熱用の熱交換器6を酸化カルシウム(CaO)の捕集用集塵機7の後段に設置した場合である。
図3に示されるように、熱交換器6を捕集用集塵機7の後段に設置した場合、熱交換器6に導入される混合ガスには酸化カルシウム(CaO)が随伴していないことから、熱交換器6は粉塵対策を要しない。このため、直管型熱交換器以外のプレート型など他の熱交換器を適用できるメリットを有するが、捕集用集塵機7には熱交換前の高温の混合ガスが導入されることとなるため、使用可能な集塵機は高温用に限定される。また、乾燥機2に供給される混合ガスは、集塵機の使用温度以下に限定されるため、焼成炉3の燃焼用空気温度が低下し、ライムケーキ焼成システムの熱効率は低下することから、図2のシステム構成を採用することが望ましい。
【0023】
図4は本実施形態の焼成システムにて使用される熱回収用の熱交換器6の基本構造の概要を示した説明図である。同図に示されるように、熱交換器6は、その高温側の熱流体が、微粒子の酸化カルシウム(CaO)を随伴していることから、管路内での微粉付着を避けるため、高温側ガス入口61及び高温側ガス出口62に連通する高温側ガス流路は、直管部60で構成し複数の細管群としている。
一方、低温側空気入口63から導入される空気(低温側流体)は、高温側熱流体の流路である直管部60の表面を直交し、低温側空気入口64まで移動することで熱回収し、焼成炉3用の燃焼空気となる。
即ち、熱交換器6における高温側の流路は、混合ガスに随伴する粉状の酸化カルシウム(CaO)の再炭酸化による固着防止を図るために、直管部60として清掃を簡便ならしめ、さらに熱交換器6の上部に天板65、下部に底板66を各々脱着自在に設置して点検清掃が容易な構造としている。
【0024】
熱交換器6にて熱交換された高温側熱流体である混合ガスは、捕集用集塵機7に導入されて随伴する酸化カルシウム(CaO)が回収され、この混合ガスは熱交換器6を通って温度が低下し、且つ、混合ガス中には粉塵を有しないため、各種の集塵機の使用が可能となり、システム全体のコスト低減を図ることができるようになる。捕集用集塵機7から排出される混合ガスは、ライムケーキ乾燥機2に吹き込んで導かれ、乾燥機2内にてライムケーキと直接接触して加熱乾燥させる。これによってライムケーキの乾燥熱伝達効率が向上するので、乾燥機2における伝熱面積が低減され、乾燥機のコスト低廉化に有効である。さらに、乾燥機2から排出された混合ガスは、その随伴する粉塵がサイクロン集塵機8により集塵されて分離後、排気筒9から排出される。
【0025】
(実施例)
以下に、本実施形態の焼成システムを使用して、ライムケーキより酸化カルシウムを製造する場合の実施例を以下に示す。
ライムケーキ(1.5t/h): CaCO3 1,050kg/h、水分450kg/h
ライムケーキ乾燥後 : CaCO3 1,050kg/h、水分105kg/h
燃料消費量 LNG 105m/h
CaO収量 580kg/h
【産業上の利用可能性】
【0026】
地球環境改善のため電気自動車は普及が進みつつあるが、使用する電池にはリチウム蓄電池が期待されている。リチウム電池生産拡大に関連してその電極材料の出発原料は水酸化リチウムである。その製造工程においては、水酸化カルシウムを必要とし、廃棄物として高含水ライムケーキを生ずる。ライムケーキを乾燥・焼成して酸化カルシウムとし、その酸化カルシウムを水和反応によって水酸化カルシウムとすることが可能となることから、本発明は、リチウム蓄電池の生産に必要不可欠なリサイクルシステムとして利用可能である。
また、本発明の低温焼成によって製造される酸化カルシウム(CaO)を、水和反応させることによって得られる水酸化カルシウムは、高反応消石灰として排煙乾式脱硫(SOx除去)、脱塩(HCl除去)などの浄化剤として、通常のJIS規格消石灰に比較して除去性能が高く、使用量は1/2程度に低減し得る。
さらに甜菜製糖などの精製過程において排出されているライムケーキは農地土壌改良材などに利用されているが、その使用される土壌によってはアルカリ過剰のケースもあることから、本発明はライムケーキの用途を拡げることに繋がり、適切なリサイクル事業を構築しうるものとなる。以上、粉状の酸化カルシウム(CaO)の焼成技術は多方面の分野にて利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 高含水炭酸カルシウム(ライムケーキ)供給部
2 燃料貯槽ライムケーキ乾燥機
3 焼成炉
4 燃料供給部
5 冷空気混合部
50 冷空気供給部
55 空気供給部
6 熱交換器
60 熱交換器高温側細管
61 熱交換器高温側ガス入口
62 熱交換器高温側ガス出口
63 熱交換器低温側空気入口
64 熱交換器低温側空気出口
65 熱交換器天板
66 熱交換器底板
7 CaO捕集用集塵機
70 CaO捕集部
8 サイクロン集塵機
9 排気筒
【要約】      (修正有)
【課題】ライムケーキ(高含水炭酸カルシウム〜CaCO3)を乾燥・焼成して酸化カルシウム(CaO)を製造する際、焼成炉の焼成排ガス中の酸化カルシウムは、焼成排ガス中の二酸化炭素(CO)により再炭酸化し、焼成排ガス流路に再炭酸化物が固着現象を生じて操業停止に至る可能性があることから、酸化カルシウムの再炭酸化を確実に防止するとともに、熱効率を向上させるライムケーキ焼成システムの提供。
【解決手段】ライムケーキ焼成後の焼成排ガス中に含有されている粉状の酸化カルシウムの再炭酸化防止のため、焼成炉より排出した焼成排ガスに空気を混合して焼成ガス温度を550°C以下に急速冷却し、また焼成ガス中の二酸化炭素の分圧を0.012MPa以下に低下させて再炭酸化を防止し、焼成排ガスより粉状の酸化カルシウムを分離捕集した後の混合ガスをライムケーキに直接接触させることで、ライムケーキの乾燥熱伝達効率の向上を図る。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4