特許第6607632号(P6607632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607632
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】殻付きエビの処理方法
(51)【国際特許分類】
   A22C 29/02 20060101AFI20191111BHJP
   A23L 17/40 20160101ALN20191111BHJP
【FI】
   A22C29/02
   !A23L17/40 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-143586(P2015-143586)
(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公開番号】特開2016-28570(P2016-28570A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2018年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-148149(P2014-148149)
(32)【優先日】2014年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(74)【代理人】
【識別番号】100176197
【弁理士】
【氏名又は名称】平松 千春
(72)【発明者】
【氏名】進藤 穣
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−111499(JP,A)
【文献】 特開2008−245624(JP,A)
【文献】 特開2008−043267(JP,A)
【文献】 特開2001−197860(JP,A)
【文献】 特開平06−125694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 29/02
A23L 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殻付きのエビを、ポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液中に浸漬し、水流攪拌により処理することを特徴とする殻付きエビの処理方法。
【請求項2】
有機酸がクエン酸である請求項1に記載の殻付きエビの処理方法。
【請求項3】
ポリリン酸塩溶液でさらに処理する請求項1又は2に記載の殻付きエビの処理方法。
【請求項4】
機酸溶液により処理した後、ポリリン酸塩溶液で処理する請求項に記載の殻付きエビの処理方法。
【請求項5】
頭部及び殻付きのエビの頭部及び殻を除去する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の処理方法によってエビの殻を除去する、エビの殻の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エビ、特に小型エビの殻を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鹿児島湾において、ナミクダヒゲエビが小型底曳網漁により漁獲されているが、ジンケンエビ(Plesionika semilaevis)も多量に混獲されている。このジンケンエビのサイズは小型(体長約75mm)である為、殻の除去に手間が掛かり、その上、安価であるという理由から、漁獲されたジンケンエビの大部分は利用されずに廃棄されているのが現状である。通常、冷凍ムキエビの殻むきは、人件費の安い東南アジア諸国で行われているが、ジンケンエビにおいても同様の手法を取り入れると、特産品としての価値が失われる。また、富山県のシラエビのように殻むき機械の導入も考えられるが、既存の機械をそのまま利用することが不可能で、改良のためのコストが莫大に掛かってしまうことで、採算性に疑問が生じる。
【0003】
殻むき作業の簡略化のためにエビの殻を軟化する方法として、特許文献1には、生又は前処理した甲殻類を減圧下で加熱する減圧加熱工程と、減圧加熱工程後の甲殻類を加圧下で加熱する加圧加熱工程とを備える甲殻類加工品の製造方法が記載されており、前処理として、0.05〜1.0重量%の有機酸(乳酸、クエン酸、酢酸、酒石酸など)水溶液への浸漬処理による殻の軟化を補助する処理が施されてもよいことが記載されている。しかし、有機酸をpHを制御せずに用いることにより、甲殻類の風味が酸味を伴うようになってしまう。
【0004】
また、特許文献2には、エビの殻を有機酸及びキチン分解酵素により処理することを特徴とするエビの殻の軟化方法が記載されているが、特許文献2の方法では、ATP分解酵素を失活させるためにボイル処理を行っている。
【0005】
しかし、エビをより簡便に処理するために、加熱処理することなく生の状態でエビを処理することや、エビの殻を除去してエビの殻むき作業のさらなる簡略化を図り、ジンケンエビなどの小型エビを加工食品の原料としてより有効に利用することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−20527号公報
【特許文献2】特開2008−245624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、簡便な方法でエビの殻を除去することが望まれている。それ故、本発明は、簡便な方法でエビの殻を除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む特定のpHの有機酸溶液中での水流攪拌を用いると簡便な方法でエビの殻を除去することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)殻付きのエビを有機酸緩衝液中に浸漬し、水流攪拌により処理することを特徴とする殻付きエビの処理方法
(2)殻付きのエビを、ポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液中に浸漬し、水流攪拌により処理することを特徴とする殻付きエビの処理方法
(3)有機酸がクエン酸である(1)又は(2)に記載殻付きエビの処理方法
(4)ポリリン酸塩溶液でさらに処理する(1)〜(3)のいずれかに記載殻付きエビの処理方法
(5)有機酸緩衝液又は有機酸溶液により処理した後、ポリリン酸塩溶液で処理する(4)に記載殻付きエビの処理方法
(6)頭部及び殻付きのエビの頭部及び殻を除去する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の処理方法によってエビの殻を除去する、エビの殻の除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、簡便な方法でエビの殻を除去する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は有機酸緩衝液による処理の前後のエビの形状を示す図である。
図2図2は実施例2のK値の経時的変化を示す図である。
図3図3は実施例の回復率の測定に用いたエビの部位を示す図である。
図4図4は実施例4のエビの形状の比較を示す図である。
図5図5は実施例4の加熱処理後のエビの形状の比較を示す図である。
図6図6は実施例2及び5のエビの形状の比較を示す図である。
図7図7は実施例2及び5の加熱処理後のエビの形状の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、殻付きのエビを有機酸緩衝液中に浸漬し、水流攪拌により処理するエビの殻の除去方法に関する。また、本発明は、殻付きのエビをポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液中に浸漬し、水流攪拌により処理するエビの殻の除去方法にも関する。本発明の方法では、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液中に浸漬した殻付きのエビを水流撹拌により処理することによって、エビの風味及び食感に影響を与えることなく、エビの殻を除去することができる。
【0014】
本発明において、エビが頭部及び殻付きである場合には、エビの頭部及び殻を除去することができる。すなわち、本発明は、頭部及び殻付きのエビを有機酸緩衝液中に浸漬し、水流攪拌により処理するエビの頭部及び殻の除去方法にも関し、また、頭部及び殻付きのエビをポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液中に浸漬し、水流攪拌により処理するエビの頭部及び殻の除去方法にも関する。
【0015】
本発明の方法では、加熱処理を行う必要がなくなり、簡便な方法でエビの殻を除去することができる。
【0016】
本発明に用いられるエビとしては、特に限定されずに、小エビ、例えば、アマエビ(ホッコクアカエビ)、ジンケンエビ、アカシャエビ、サルエビ、アカエビ、キシエビ、トラエビ、シラエビ、ヨシエビ等、及び中型のエビ、例えば、ブラウンエビ等を挙げることができるが、好ましくはジンケンエビ、アカシャエビ及びブラウンエビが用いられる。本発明には、大きいエビを用いることもできる。
【0017】
本発明に用いられるエビは、殻付きのエビである。エビは、少なくとも殻付きであればよく、頭部が付いたエビを用いてもよいし、予め頭部を除去したエビを用いてもよい。頭部が付いたエビを用いると、頭部を除去する作業を行うことなく、有機酸緩衝液を用いた水流撹拌による処理でエビの頭部及び殻を除去することができる。
【0018】
本発明に用いられる有機酸緩衝液は、有機酸を含み、外部から酸や塩基を加えてもそのpHが大きく変化しない性質(緩衝作用)を有しているものであれば特に限定されないが、pH4.0〜6.0の緩衝液であることが好ましく、pH4.5〜5.5の緩衝液であることが特に好ましい。本発明では、有機酸緩衝液を用いることにより、有機酸をpHを制御せずに用いた場合と比較して得られるエビの風味が酸味を伴わない点で優れる。
【0019】
有機酸緩衝液としては、例えば、有機酸及び有機酸塩を含む緩衝液を用いることができる。有機酸としては、例えば、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、酢酸等を挙げることができるが、クエン酸が好ましい。有機酸塩としては、上記の有機酸の塩、例えば上記の有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができるが、ナトリウム塩が好ましい。本発明に用いられる有機酸緩衝液は、好ましくは、クエン酸及びクエン酸ナトリウムを含む緩衝液(pH4.5〜5.5)である。有機酸緩衝液は、上記のうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明に用いられるポリリン酸塩を含む有機酸溶液は、pHを4.0〜6.0に調整した、有機酸及びポリリン酸塩の溶液である。本発明では、ポリリン酸塩を含むpH4.0〜6.0の有機酸溶液(以下、ポリリン酸塩を含む有機酸溶液とも記載する)を用いることにより、処理によるエビの身の収縮・硬化を抑制することができる。ポリリン酸塩を含む有機酸溶液は、pH4.5〜5.5であることがより好ましい。有機酸としては、上記の有機酸緩衝液について挙げたものを用いることができるが、クエン酸が好ましい。ポリリン酸塩としては、ポリリン酸ナトリウムが好ましい。本発明に用いられるポリリン酸塩を含む有機酸溶液は、好ましくは、クエン酸及びポリリン酸ナトリウムを含む溶液(pH4.5〜5.5)である。ポリリン酸塩を含む有機酸溶液は、上記のうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液の酸濃度は、特に限定されずに、例えば0.06M〜0.50Mであり、好ましくは0.15M〜0.30Mである。有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液の酸濃度がこの範囲であると、エビの風味及び食感に影響を及ぼすことなく、エビの殻を短時間で除去することができる。
【0022】
エビは、エビの重量に対して、例えば、1〜4倍量、好ましくは2〜3倍量の上記の有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液で浸漬処理される。エビの有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液による浸漬処理について、処理温度は、例えば、0℃〜10℃である。処理時間は、例えば30分〜240分であるが、用いるエビや、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液の濃度に応じて適宜選択することができる。例えば、頭部及び殻付きのエビを用いる場合、処理時間は、好ましくは、60分〜240分であり、また、無頭の殻付きのエビを用いる場合、処理時間は、好ましくは、30分〜120分である。
【0023】
本発明では、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液に浸漬したエビは、水流撹拌により処理される。本発明において、水流撹拌は、水流(水の流れ)による撹拌であれば特に限定されない。水流を生じさせる手段としては、例えば、ポンプ、ジェットノズル、プロペラ等の撹拌翼、電気バケツ及び二槽式洗濯機の洗濯槽等における容器底部の撹拌手段等を挙げることができるが、プロペラ等の撹拌翼を用いた攪拌では、攪拌中に撹拌翼がエビに接触し、物理的損傷を引き起こす恐れがあることから、プロペラ等の撹拌翼を用いずに水流を生じさせることが好ましい。尾の脱離を防ぐために、エビを水流撹拌により処理する際に洗濯用ネット袋等の袋に入れて処理してもよい。
【0024】
本発明の方法では、エビをポリリン酸塩溶液でさらに処理することができる。エビをポリリン酸塩溶液で処理することによって、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液による処理によりエビの身が収縮・硬化した場合に、エビの身を処理前の形状に回復させることができる。
【0025】
ポリリン酸塩としては、例えば、ポリリン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができるが、エビの身の収縮・硬化の回復効果の観点から、好ましくはポリリン酸ナトリウムが用いられる。
【0026】
エビのポリリン酸塩溶液による処理は、上記のエビの有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液による処理の前に行ってもよく、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液による処理の後に行ってもよいが、エビの身の収縮・硬化の回復効果の観点から、好ましくは、有機酸緩衝液又はポリリン酸塩を含む有機酸溶液による処理の後に行う。
【0027】
上記の処理に用いるポリリン酸塩溶液は、例えば、0.05〜5.0%(W/V)の濃度である。処理温度は、例えば、0℃〜10℃であり、処理時間は、例えば30分〜90分である。エビのポリリン酸塩溶液による処理は、例えば、エビをポリリン酸塩溶液に浸漬させることによって行う。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びにエビの重量に対して2.3倍量の0.10Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れて5℃で180分水流撹拌を行った。処理時間180分でアカシャエビの頭部及び殻が部分的に除去されていた。完全に除去されなかった頭部及び殻については、手作業により除去することが可能である。
【0030】
(実施例2)
0.10Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)を0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)に代えて、処理時間を180分から120分に変えた以外は実施例1と同様にした。処理時間120分でアカシャエビの頭部及び殻が完全に除去されていたが、図1に示されるように、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後には、処理前と比較してエビの身が収縮していた。
【0031】
(生鮮度の経時的変化)
実施例2において、生鮮度を示す指標であるK値の経時的変化を調べた。実施例2において、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理開始後0分、30分、60分、90分、120分、180分におけるK値を測定した。K値は、低いほど生鮮度が高い。K値の測定は、福田らの方法(福田裕、永峰文洋「高速液体クロマトグラフィーによる魚介類の鮮度指標「K値」の測定」、Shodex Technical Bulletin,3,昭和電工(株)、1−5)に従って、核酸関連化合物を抽出し、求めた各核酸関連化合物の定量値から、下式を用いて算出した。
【0032】
【数1】
【0033】
HPLCの条件は下記の通りとした:
カラム:Shodex Asahipak GS−320HQ
溶離液:0.2Mリン酸二水素ナトリウム
流量:1.0ml/min
検出波長:260nm
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μl
ATP:アデノシントリフォスフェート
ADP:アデノシンジフォスフェート
AMP:アデノシンモノフォスフェート
IMP:イノシン酸
HxR:イノシン
Hx:ヒポキサンチン。
【0034】
結果を図2に示す。図2より、K値の上昇は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理開始後30分間が最も急激で約2%の上昇であったが、その後は緩やかに上昇し、処理開始後30分後〜180分の間で約2%の上昇が認められた。また、ほぼ完全なエビの頭部及び殻の除去が達成される120分間の処理では、K値は5.4%であるため、生鮮度的に問題ないと考えられる。
【0035】
(実施例3)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びに2%(W/V)のポリリン酸ナトリウム溶液4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れ、エビをポリリン酸ナトリウム溶液に5℃で60分間浸漬させた。その後、エビの重量に対して2.3倍量の0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを電気バケツに入れ、温度5℃で120分間水流撹拌を行った。処理時間120分でジンケンエビの頭部及び殻が完全に除去されていた。また、実施例2と比較して、エビの身の収縮が抑制されていた。
【0036】
(実施例4)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びにエビの重量に対して2.3倍量の0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れて、水流攪拌を5℃で120分間行った。その後、電気バケツに、2%(W/V)のポリリン酸ナトリウム溶液4.6Lを入れ、エビをポリリン酸ナトリウム溶液に5℃で60分間浸漬させた。
【0037】
処理前のエビと、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後のエビと、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビの形状を比較した。回復率(%)は、エビの身(図3(a))について、エビの全高(図3(b)の(1))、厚み(図3(b)の(2))、全長(図3(c)の(3))、横幅(図3(d)の(4))、縦幅(図3(d)の(5))を測定し、式:(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後−ポリリン酸Na溶液処理後)/(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前−クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後)×100によって求めた。結果を表1及び図4に示す。図4において、図4(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後のエビの形状を比較した図であり、図4(b)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とポリリン酸Na溶液処理後のエビの形状を比較した図であり、図4(c)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後のエビの形状とポリリン酸Na溶液処理後のエビの形状を比較した図である。
【0038】
【表1】
【0039】
表1及び図4より、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理し、身が収縮したエビをポリリン酸Na溶液でさらに処理することによって、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理する前の状態にエビの形状が回復したことが示された。
【0040】
さらに、エビをクエン酸−クエン酸Na緩衝液により処理した後と、その後さらにポリリン酸ナトリウムにより処理した後に、それぞれ5倍量の沸騰水中で1分間加熱した場合のエビの形状の変化について調べた。増加率(%)は、エビの上記の部分を測定し、式:(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後加熱−ポリリン酸Na溶液処理後加熱)/(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後加熱)×100によって求めた。結果を表2及び図5に示す。図5において、図5(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後に加熱したエビの形状を比較した図であり、図5(b)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とポリリン酸Na溶液で処理した後に加熱したエビの形状を比較した図であり、図5(c)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後に加熱したエビの形状とポリリン酸Na溶液で処理した後に加熱したエビの形状を比較した図である。
【0041】
【表2】
【0042】
表2及び図5より、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後にポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理したエビは、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後に加熱したエビよりも、加熱によるエビの収縮が小さいことが示された。
【0043】
さらに、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後のエビと、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビをそれぞれ5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理してエビの保水力(cm)を調べた。保水力の測定は加圧濾紙法を用いて行った。0.5gの試料の身を、上下3枚の濾紙(No.2,φ9cm)の間に試料を挟み、20kg/cmの加圧を1分間行った。保水力の指標として濾紙に浸透した水分の面積を用い、その測定にはプラニメーターを使用した。クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後に加熱したエビの保水力は33.6cmであり、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後に加熱したエビの保水力は55.6cmであった。クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理及び加熱処理により減少したエビの保水力が、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理することによって回復することが示された。
【0044】
また、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後と、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビを重量に対して5倍量の沸騰水中で1分間加熱し、その前後の弾性率及び粘性率を算出し、弾性率/粘性率の比を計算し、変化率を計算した。弾性率及び粘性率は以下の方法で測定した。
【0045】
弾性率および粘性率は、レオナー(山電(RE−3305))を用いた応力緩和試験から得た応力および緩和時間から算出した。応力緩和試験の条件として、プランジャーには、直径3cmの円盤状のものを使用し、テーブルスピードを5mm/s、緩和時間を5分間とした。また、試料の身を縦1cm、横0.5cm、高さ0.5cmの直方体に成形した。応力緩和試験における応力は、測定の際にレオナーから出力される電圧をAD変換ボードを介してPCに50ms間隔で取り込み、その電圧を感度電圧(1000mv/g)に用いて荷重に変換し、荷重から下式を用いて求めた。
【0046】
応力(dyn/cm)=荷重(g)×重力加速度(980cm/s)/プランジャーと試料との接触面積(0.5cm
【0047】
結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
表3より、ポリリン酸ナトリウム溶液で処理することによって、加熱による弾力性に対する影響が抑制されたことが示された。
【0049】
(実施例5)
クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後にポリリン酸ナトリウム溶液で処理することは手間が掛かるため、エビの頭部及び殻を除去するために使用するクエン酸ナトリウムの代わりにポリリン酸ナトリウムを用いた。すなわち、0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)に代えて、0.19Mクエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0050】
実施例2の有機酸緩衝液及び実施例5のポリリン酸Naを含む有機酸溶液で処理した後のエビの身の収縮率及び増加率を調べた。エビの身の収縮率及び増加率は、エビの上記の部分を測定し、式:(有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理後−有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理前)/有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理前×100によって求めた。結果を表4及び図6に示す。図6において、図6(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理前後のエビの形状を比較した図であり、図6(b)はクエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)による処理前後のエビの形状を比較した図である。
【0051】
【表4】
【0052】
表4及び図6より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液と比較して、エビの身の収縮を抑制することができることが示された。
【0053】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理後のエビを、5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理した場合の収縮率及び収縮抑制率を調べた。結果を表5及び図7に示す。図7はクエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後に加熱したエビの形状と、クエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理後に加熱したエビの形状とを比較した図である。
【0054】
【表5】
【0055】
表5及び図7より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)と比較して、加熱によるエビの身の収縮を抑制することができることが示された。
【0056】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理前後のエビについて、弾性率及び粘性率を測定し、弾性率/粘性率の比を計算し、変化率を計算した。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
表6より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)と比較して、処理前後の弾力性の変化を抑制することができることが示された。
【0059】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液で処理した後のエビを、5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理した後の保水力を測定した。実施例2のエビの保水力は27.9cmであり、実施例5のエビの保水力は42.0cmであった。クエン酸−ポリリン酸Na溶液は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液と比較して、エビの保水力を向上させることができることが示された。
【0060】
(実施例6)
バケツ洗濯機(アルミス製 AK−M60)に、無頭の殻付きのブラウンエビ(バングラディッシュ産)1kg、及び5℃の冷蔵庫で予め冷却した0.131Mクエン酸−0.079Mポリリン酸Na溶液(pH5.0)4Lを入れて、水流攪拌を30分間又は45分間行った。
【0061】
処理時間30分間で約8割のブラウンエビの殻が除去されていた。完全に除去されなかったブラウンエビの殻は、手作業により除去した。処理時間45分間で全てのブラウンエビの殻が除去されていた。
【0062】
殻を除去したブラウンエビを機械により腹部を開いた後、調味液に一晩浸漬後、味及び食感の比較を行なったところ、処理時間30分間及び処理時間45分間で差異は認められず、いずれの場合にも酸味を有さず、良好な風味及び食感を有していた。
【0063】
(実施例7)
無頭の殻付きブラウンエビ(バングラディッシュ産)1kgを洗濯用ネット袋に詰めて、実施例6と同様に45分間処理を行なったところ、約7割のブラウンエビの殻が除去されていた。完全に除去されなかったブラウンエビの殻は、手作業により除去した。
【0064】
殻を除去したブラウンエビを機械により腹部を開いた後、調味液に一晩浸漬後、味及び食感の評価を行なったところ、酸味を有さず、良好な風味及び食感を有していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7