【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びにエビの重量に対して2.3倍量の0.10Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れて5℃で180分水流撹拌を行った。処理時間180分でアカシャエビの頭部及び殻が部分的に除去されていた。完全に除去されなかった頭部及び殻については、手作業により除去することが可能である。
【0030】
(実施例2)
0.10Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)を0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)に代えて、処理時間を180分から120分に変えた以外は実施例1と同様にした。処理時間120分でアカシャエビの頭部及び殻が完全に除去されていたが、
図1に示されるように、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後には、処理前と比較してエビの身が収縮していた。
【0031】
(生鮮度の経時的変化)
実施例2において、生鮮度を示す指標であるK値の経時的変化を調べた。実施例2において、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理開始後0分、30分、60分、90分、120分、180分におけるK値を測定した。K値は、低いほど生鮮度が高い。K値の測定は、福田らの方法(福田裕、永峰文洋「高速液体クロマトグラフィーによる魚介類の鮮度指標「K値」の測定」、Shodex Technical Bulletin,3,昭和電工(株)、1−5)に従って、核酸関連化合物を抽出し、求めた各核酸関連化合物の定量値から、下式を用いて算出した。
【0032】
【数1】
【0033】
HPLCの条件は下記の通りとした:
カラム:Shodex Asahipak GS−320HQ
溶離液:0.2Mリン酸二水素ナトリウム
流量:1.0ml/min
検出波長:260nm
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μl
ATP:アデノシントリフォスフェート
ADP:アデノシンジフォスフェート
AMP:アデノシンモノフォスフェート
IMP:イノシン酸
HxR:イノシン
Hx:ヒポキサンチン。
【0034】
結果を
図2に示す。
図2より、K値の上昇は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理開始後30分間が最も急激で約2%の上昇であったが、その後は緩やかに上昇し、処理開始後30分後〜180分の間で約2%の上昇が認められた。また、ほぼ完全なエビの頭部及び殻の除去が達成される120分間の処理では、K値は5.4%であるため、生鮮度的に問題ないと考えられる。
【0035】
(実施例3)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びに2%(W/V)のポリリン酸ナトリウム溶液4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れ、エビをポリリン酸ナトリウム溶液に5℃で60分間浸漬させた。その後、エビの重量に対して2.3倍量の0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを電気バケツに入れ、温度5℃で120分間水流撹拌を行った。処理時間120分でジンケンエビの頭部及び殻が完全に除去されていた。また、実施例2と比較して、エビの身の収縮が抑制されていた。
【0036】
(実施例4)
電気バケツ(ナショナル製N−BK2)に、頭部及び殻付きのアカシャエビ2kg、並びにエビの重量に対して2.3倍量の0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)4.6Lを入れ、電気バケツを冷蔵庫に入れて、水流攪拌を5℃で120分間行った。その後、電気バケツに、2%(W/V)のポリリン酸ナトリウム溶液4.6Lを入れ、エビをポリリン酸ナトリウム溶液に5℃で60分間浸漬させた。
【0037】
処理前のエビと、クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後のエビと、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビの形状を比較した。回復率(%)は、エビの身(
図3(a))について、エビの全高(
図3(b)の(1))、厚み(
図3(b)の(2))、全長(
図3(c)の(3))、横幅(
図3(d)の(4))、縦幅(
図3(d)の(5))を測定し、式:(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後−ポリリン酸Na溶液処理後)/(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前−クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後)×100によって求めた。結果を表1及び
図4に示す。
図4において、
図4(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後のエビの形状を比較した図であり、
図4(b)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とポリリン酸Na溶液処理後のエビの形状を比較した図であり、
図4(c)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後のエビの形状とポリリン酸Na溶液処理後のエビの形状を比較した図である。
【0038】
【表1】
【0039】
表1及び
図4より、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理し、身が収縮したエビをポリリン酸Na溶液でさらに処理することによって、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理する前の状態にエビの形状が回復したことが示された。
【0040】
さらに、エビをクエン酸−クエン酸Na緩衝液により処理した後と、その後さらにポリリン酸ナトリウムにより処理した後に、それぞれ5倍量の沸騰水中で1分間加熱した場合のエビの形状の変化について調べた。増加率(%)は、エビの上記の部分を測定し、式:(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後加熱−ポリリン酸Na溶液処理後加熱)/(クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後加熱)×100によって求めた。結果を表2及び
図5に示す。
図5において、
図5(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後に加熱したエビの形状を比較した図であり、
図5(b)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理前のエビの形状とポリリン酸Na溶液で処理した後に加熱したエビの形状を比較した図であり、
図5(c)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後に加熱したエビの形状とポリリン酸Na溶液で処理した後に加熱したエビの形状を比較した図である。
【0041】
【表2】
【0042】
表2及び
図5より、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後にポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理したエビは、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後に加熱したエビよりも、加熱によるエビの収縮が小さいことが示された。
【0043】
さらに、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後のエビと、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビをそれぞれ5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理してエビの保水力(cm
2)を調べた。保水力の測定は加圧濾紙法を用いて行った。0.5gの試料の身を、上下3枚の濾紙(No.2,φ9cm)の間に試料を挟み、20kg/cm
2の加圧を1分間行った。保水力の指標として濾紙に浸透した水分の面積を用い、その測定にはプラニメーターを使用した。クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後に加熱したエビの保水力は33.6cm
2であり、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後に加熱したエビの保水力は55.6cm
2であった。クエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理及び加熱処理により減少したエビの保水力が、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理することによって回復することが示された。
【0044】
また、クエン酸−クエン酸Na緩衝液で処理した後と、ポリリン酸ナトリウム溶液でさらに処理した後のエビを重量に対して5倍量の沸騰水中で1分間加熱し、その前後の弾性率及び粘性率を算出し、弾性率/粘性率の比を計算し、変化率を計算した。弾性率及び粘性率は以下の方法で測定した。
【0045】
弾性率および粘性率は、レオナー(山電(RE−3305))を用いた応力緩和試験から得た応力および緩和時間から算出した。応力緩和試験の条件として、プランジャーには、直径3cmの円盤状のものを使用し、テーブルスピードを5mm/s、緩和時間を5分間とした。また、試料の身を縦1cm、横0.5cm、高さ0.5cmの直方体に成形した。応力緩和試験における応力は、測定の際にレオナーから出力される電圧をAD変換ボードを介してPCに50ms間隔で取り込み、その電圧を感度電圧(1000mv/g)に用いて荷重に変換し、荷重から下式を用いて求めた。
【0046】
応力(dyn/cm
2)=荷重(g)×重力加速度(980cm/s
2)/プランジャーと試料との接触面積(0.5cm
2)
【0047】
結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
表3より、ポリリン酸ナトリウム溶液で処理することによって、加熱による弾力性に対する影響が抑制されたことが示された。
【0049】
(実施例5)
クエン酸−クエン酸Na緩衝液処理後にポリリン酸ナトリウム溶液で処理することは手間が掛かるため、エビの頭部及び殻を除去するために使用するクエン酸ナトリウムの代わりにポリリン酸ナトリウムを用いた。すなわち、0.21Mクエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)に代えて、0.19Mクエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)を用いた以外は実施例2と同様にした。
【0050】
実施例2の有機酸緩衝液及び実施例5のポリリン酸Naを含む有機酸溶液で処理した後のエビの身の収縮率及び増加率を調べた。エビの身の収縮率及び増加率は、エビの上記の部分を測定し、式:(有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理後−有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理前)/有機酸緩衝液又は有機酸溶液処理前×100によって求めた。結果を表4及び
図6に示す。
図6において、
図6(a)はクエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理前後のエビの形状を比較した図であり、
図6(b)はクエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)による処理前後のエビの形状を比較した図である。
【0051】
【表4】
【0052】
表4及び
図6より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液と比較して、エビの身の収縮を抑制することができることが示された。
【0053】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理後のエビを、5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理した場合の収縮率及び収縮抑制率を調べた。結果を表5及び
図7に示す。
図7はクエン酸−クエン酸Na緩衝液による処理後に加熱したエビの形状と、クエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理後に加熱したエビの形状とを比較した図である。
【0054】
【表5】
【0055】
表5及び
図7より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)と比較して、加熱によるエビの身の収縮を抑制することができることが示された。
【0056】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液による処理前後のエビについて、弾性率及び粘性率を測定し、弾性率/粘性率の比を計算し、変化率を計算した。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
表6より、クエン酸−ポリリン酸Na溶液(pH5.0)は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液(pH5.0)と比較して、処理前後の弾力性の変化を抑制することができることが示された。
【0059】
実施例2のクエン酸−クエン酸Na緩衝液及び実施例5のクエン酸−ポリリン酸Na溶液で処理した後のエビを、5倍量の沸騰水中で1分間加熱処理した後の保水力を測定した。実施例2のエビの保水力は27.9cm
2であり、実施例5のエビの保水力は42.0cm
2であった。クエン酸−ポリリン酸Na溶液は、クエン酸−クエン酸Na緩衝液と比較して、エビの保水力を向上させることができることが示された。
【0060】
(実施例6)
バケツ洗濯機(アルミス製 AK−M60)に、無頭の殻付きのブラウンエビ(バングラディッシュ産)1kg、及び5℃の冷蔵庫で予め冷却した0.131Mクエン酸−0.079Mポリリン酸Na溶液(pH5.0)4Lを入れて、水流攪拌を30分間又は45分間行った。
【0061】
処理時間30分間で約8割のブラウンエビの殻が除去されていた。完全に除去されなかったブラウンエビの殻は、手作業により除去した。処理時間45分間で全てのブラウンエビの殻が除去されていた。
【0062】
殻を除去したブラウンエビを機械により腹部を開いた後、調味液に一晩浸漬後、味及び食感の比較を行なったところ、処理時間30分間及び処理時間45分間で差異は認められず、いずれの場合にも酸味を有さず、良好な風味及び食感を有していた。
【0063】
(実施例7)
無頭の殻付きブラウンエビ(バングラディッシュ産)1kgを洗濯用ネット袋に詰めて、実施例6と同様に45分間処理を行なったところ、約7割のブラウンエビの殻が除去されていた。完全に除去されなかったブラウンエビの殻は、手作業により除去した。
【0064】
殻を除去したブラウンエビを機械により腹部を開いた後、調味液に一晩浸漬後、味及び食感の評価を行なったところ、酸味を有さず、良好な風味及び食感を有していた。