【課題を解決するための手段】
【0046】
原料を融解し生成する融液を固化させて単結晶を製造する、いわゆる融液法を用いて、最適濃度で均質な単結晶を製造するには、溶媒移動法の適用が必須である。
すなわち、最適濃度の結晶を生成できる組成の融液から単結晶を固化させ、同時に固化した分量と同じ組成で同量の最適濃度の原料融液を融液中に供給し続ける機能を有する単結晶製造装置と、この単結晶製造装置を用いた単結晶製造方法を提供する。
【0047】
本発明者は、上記の課題を解決するための手段として、ブリッジマン法の要素技術を活かして大型単結晶を製造しながら組成を最適組成で均質化できる新しい単結晶製造装置およびこの単結晶製造装置を使用した単結晶製造方法を発明した。
【0048】
すなわち、従来は大型単結晶の製造を可能とした方法として知られるブリッジマン法でシリコン単結晶を製造しようとすると、ルツボ材である石英とシリコン融液とが融着して固化するので、両者の熱膨張率の相違が起因となって製品中にクラックが発生してしまう問題があった。
【0049】
そこで、石英ルツボの内壁に離型剤を塗布するとクラックの発生を抑止することは可能となったが、離型剤が塗布された部分から無数の微結晶が成長してしまい、全体が多結晶となって所望の単結晶が得られない問題があった。
【0050】
シリコン融液を保持可能で安価なルツボ材は石英であるが、石英ルツボを使用しようとすると離型剤の塗布が必要であり、離型剤を塗布すると塗布された部分から微結晶の成長が発生してしまうので、離型剤を塗布した石英ルツボを使用する単結晶製造方法は知られていなかった。
【0051】
本発明者は大型ルツボを使用し、大型ルツボの下部に設置した種子単結晶の上面に形成される融液を固化させて大型単結晶を製造する際に、融液の周縁部の温度を高くして微結晶の成長を抑止しながら全体を固化させることで、融液の周縁部を除いた大部分を単結晶化する方法を見出した。
【0052】
さらに、融液法で均質組成単結晶を製造するには「溶媒移動法」の適用が必須である。この「溶媒移動法」を適用して単結晶を製造する際には、溶媒の役目を担う融液相の厚みは必要最小限度に薄く均質であることが望ましい。
【0053】
すなわち、最適組成の添加物濃度の固体は、分配係数で規定される添加物濃度の融液と平衡共存している。この条件を維持したまま最適組成で均質な単結晶の製造を行うには、融液から単結晶としての固体が析出すると同時に、最適組成で同じ量の原料融液を補給し、常に融液相の組成と量を均質に維持することが求められる。
【0054】
この時、融液相の厚みが薄いと全体の濃度を均質化し易いが、厚いと均質化するのに時間が掛かってしまう。したがってこれを均質化するために固体の析出速度、すなわち単結晶の製造速度を遅くする必要が生じてしまう。
【0055】
さらには単結晶製造の終盤では、原料融液の滴下が終了した時点で均質組成の単結晶製造も終了するが、残った融液相も続いて固化させ全体を固化させることになる。しかしながら融液相を固化した領域は、組成がズレているので厳密には製品にはならない。したがってこの製品にはならない部位のサイズは、小さい方が好都合である。
【0056】
すなわち、融液相の厚みは薄い方が好都合である。しかしながら、これまでルツボの下部に薄い融液相を形成できる単結晶製造装置および単結晶製造方法は知られていなかった。
【0057】
赤外線を材料に照射すると、材料の吸収能が高い場合には容易に材料の温度を上げ融液を形成することができる。この場合、赤外線は材料に吸収されるので、形成される融液相の深部には届かなくなる。
【0058】
例えばシリコンの場合、形成される融液相の厚みはせいぜい20〜30mm程度である。このことは、赤外線を照射して融液相を形成させ、溶媒移動法を適用して均質組成の単結晶を製造しようとする際、形成される融液相の厚みはせいぜい20〜30mm程度に止まるので、単結晶の製造に伴う融液相の組成変動を容易に均質化し、かつ単結晶製造の終盤で発生する融液相の固化部を小さくできるので、良品率を高めることができ好都合であることを意味する。
【0059】
このように大型単結晶の製造を可能にするブリッジマン法の要素技術を取り入れるとともに、赤外線を照射する方式を採用して溶媒移動法を効率的に適用可能とした新しい大型単結晶製造装置と、均質組成の大型単結晶を製造することのできる単結晶製造方法を発明した。
【0060】
すなわち、本発明の単結晶製造装置は、
単結晶製造用ルツボ内に種子単結晶を設置しておき、粒状原料融解手段で粒状原料を溶融し得られた原料融液を前記単結晶製造用ルツボ内に供給し、前記種子単結晶上に固体として単結晶を析出させ、大型単結晶を製造する単結晶製造装置であって、
前記単結晶製造装置は、
前記粒状原料を一定量、下方に位置する粒状原料融解手段に供給する粒状原料供給手段と、
前記粒状原料供給手段から供給される粒状原料を加熱、融解して原料融液とし、下方に位置する前記単結晶製造用ルツボ内に前記原料融液を供給する粒状原料融解手段と、
前記種子単結晶が底部に設置される単結晶製造用ルツボと、前記単結晶製造用ルツボ内の種子単結晶の上面に赤外線を照射する第1赤外線照射装置と、を有する結晶化手段と、
を少なくとも備え、
前記種子単結晶の上面に赤外線を照射して形成される融液中に、前記粒状原料融解手段から供給される原料融液を落とし、形成される混合融液から単結晶を析出させるよう構成されていることを特徴とする。
【0061】
このように構成されていれば、最適組成の粒状原料(粒状結晶母材+粒状添加物)が連続的に粒状原料融解手段に供給され、融解されて生成した原料融液が単結晶製造用ルツボ(以下、単にルツボとも称する。)内に連続的に滴下される。
【0062】
さらには、種子単結晶の上面に第1赤外線照射装置からの赤外線照射を受けて形成される融液相の厚みが一定に保持されるよう、赤外線の照射量、赤外線の照射分布を制御することにより、得られる単結晶の組成は滴下される最適組成の原料融液と同一となり、垂直方向,水平方向のいずれに対しても最適濃度で均質化した単結晶を製造することができる。
【0063】
また結晶化手段の第1赤外線照射装置は、ルツボの上部に配設されることが好ましい。
なお、ルツボ内の種子単結晶の上面を第1赤外線照射装置で照射して得られる融液相の厚みは、できるだけ薄いことが望ましい。
【0064】
単結晶製造の終盤では融液相を固化して終了するが、融液相に原料融液を滴下せずにそのまま固化させると、この固化領域の添加物濃度は固化とともに濃くなり規格外となる。融液相の厚みが厚いと、この規格外の箇所が増えてしまうこととなる。したがって、融液相の厚みは薄い方が全体的な高品質製品の回収率を高めることができ望ましい。
【0065】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料供給手段が、
前記粒状原料を収容するホッパーと、
前記ホッパー内の粒状原料を所定の供給速度に調整して一定量を下方に供給する粒状原料定量
供給装置と、
を有することを特徴とする。
【0066】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料供給手段が、
前記ホッパー内の粒状原料を掻き出して下方に供給する粒状原料掻き出し装置を有することを特徴とする。
【0067】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料供給手段が、
前記粒状原料定量供給装置から供給される粒状原料を下方の粒状原料融解手段の所定の位置に供給する供給管を有することを特徴とする。
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記供給管の材質が、石英であることを特徴とする。
【0068】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記ホッパーの下部には開口部が設けられ、
前記ホッパーの内部には、回転可能な螺旋棒が配置されていることを特徴とする。
【0069】
粒状原料を収納するホッパーから粒状原料を掻き出す際に、ホッパー内の粒状原料中に空洞が生じ、粒状原料をホッパーから取り出せなくなる現象が発生する場合がある。
これを防止し、安定的に連続して粒状原料を掻き出せるように、ホッパー内に螺旋棒を設けこれを回転させることにより、空洞の発生を防止することができる。
【0070】
さらにホッパー内の粒状原料を安定的に掻き出すため、例えば棒の先端部にスプーンのような形状の容器が取付られて成る粒状原料掻き出し装置を、ホッパーの下部に設けられた開口部に差し込み、引き抜いたら半回転させて粒状原料掻き出し装置上の粒状原料を下に落とすことで、連続して安定的に粒状原料をホッパーから取り出すことができる。
【0071】
粒状原料掻き出し装置から供給された粒状原料の重量を測定し、粒状原料定量供給装置により所定の供給速度に正確に調整し、供給管を介して下方の粒状原料融解手段の所定の位置に供給する。供給管の素材は特に制限は無いが、シリコンの場合には石英であることが望ましい。石英であれば金属不純物で汚染される恐れも少なくて済む。
【0072】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記ホッパーが、
前記粒状原料を収容する収容容器を着脱する着脱機構を有することを特徴とする。
【0073】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記着脱機構が、
前記着脱機構内および収容容器内の雰囲気を任意に調製する雰囲気調整機能を有することを特徴とする。
【0074】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解手段と結晶化手段が、密閉チャンバー内に配設されていることを特徴とする。
【0075】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料供給手段が、密閉チャンバー内に配設されていることを特徴とする。
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記ホッパー内と前記密閉チャンバーとを連結する、もしくは前記ホッパー内と前記密閉チャンバーとを同一の雰囲気に調整する雰囲気調整装置を有することを特徴とする。
【0076】
このようにホッパーに粒状原料を収容する収容容器を連結し、収容容器内の雰囲気をホッパー内と同一になるように任意に雰囲気制御してから内容物をホッパーに移し、脱着することにより、単結晶の製造途中であっても任意に粒状原料を追加、補給することが可能となるので、ホッパーのサイズを小型化することができる。
【0077】
また、ホッパー内と結晶化手段が配置された密閉チャンバーとが連結していれば、ホッパー内の雰囲気と結晶化手段が配置された密閉チャンバーの雰囲気が常に同一となり、粒状原料の供給を安定的に行うことができる。しかも単結晶の材料の特性に合わせて、ホッパー内の雰囲気と密閉チャンバー内の雰囲気とを最適に維持することができ、高純度で高品質な単結晶を製造することができる。
なお、ホッパーを有する粒状原料供給手段は、粒状原料融解手段と結晶化手段と同様に、密閉チャンバー内に配設されていても良いものである。
【0078】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記密閉チャンバーが、水冷構造であることを特徴とする。
【0079】
このように密閉チャンバーが水冷構造であれば、密閉チャンバーの温度上昇に伴うシール部の劣化などを抑止して、高精度の雰囲気制御を効率的に行うことができ、単結晶を歩留まり良く製造することができる。
【0080】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記ホッパーが、
組成の異なる粒状原料をそれぞれ収納する複数のホッパーから構成されていることを特徴とする。
【0081】
単結晶製造の最初から厳密に最適組成の単結晶製品を製造する場合には、粒状結晶母材用のホッパーと粒状添加物用のホッパーとを別々に設け、それぞれに粒状原料掻き出し装置と、粒状原料定量供給装置と、供給管と、を連結して使用することもできる。
【0082】
そして、ルツボ内の種子単結晶の上面に形成されるべき融液相の最初の量に合致させて、無添加の粒状結晶母材と粒状添加物との供給量を、別々に制御して供給することができる。さらには製造が進むにつれて増大する融液相の量に合致させながら、組成は融液相に相当する組成を維持することにより、均質で最適組成の単結晶を製造することができる。
この場合には種子単結晶上に成長させる単結晶製品の組成を、最初から最適組成に均質化することが容易であるという利点がある。
【0083】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解手段が、
前記粒状原料を受ける粒状原料融解容器と、
前記粒状原料融解容器を加熱し、前記粒状原料融解容器内の粒状原料を融解する容器加熱装置と、
を有することを特徴とする。
【0084】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器が、
前記粒状原料を加熱して融解する融解部と、
前記融解部で生成される融液のみを保持する融液保持部と、
を有することを特徴とする。
【0085】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器が、
ボート状容器と、
前記ボート状容器を前記融解部と融液保持部とに区分けする、下方に溝が設けられた隔離板と、
から成ることを特徴とする。
【0086】
融解容器の実施形態としては、細長いボート状容器を下方に溝を設けた隔離板で「融解部」と「融液保持部」とに区分し、それぞれの区分を最適温度に制御し、粒状原料を融解したら溶け残りの粒状原料を分離し、原料融液のみを下方のルツボ中に滴下できる構造が挙げられる。
【0087】
この構造では、隔離板の外側では粒状原料は融解されるが、原料融液は隔離板の下部に設けた溝から内側に移動し、原料融液の排出口から原料融液のみが排出され、下方のルツボの融液中に滴下される。
【0088】
したがって、粒状原料を融解し得られた原料融液の比重よりも粒状原料の比重の方が小さい場合には、原料融液の液面に粒状原料が浮き、原料融液の比重よりも粒状原料の比重の方が大きい場合には、原料融液の下方に粒状原料が沈み、これにより融液保持部に粒状原料を留めることができる。
【0089】
このようにボート状容器と隔離板とを組み合わせて融解容器を構成すれば、未融解の粒状原料が、そのままルツボ中に供給されてしまうことを防止し、原料融液のみをルツボ中に供給することができ、高品質な単結晶を製造することができる。
【0090】
すなわち、粒状原料を融解して単結晶として固化させる際に、原料融液中に未溶解の粒状原料が混入し、単結晶と原料融液との成長界面に付着して製品中に混入すると、粒状原料の粒径が小さい場合には負結晶の成因となり、粒状原料の粒径が大きい場合には新たな微結晶の発生要因となり、多結晶化する恐れがある。
【0091】
したがって、融解容器は未融解の粒状原料を内部に留め、完全に融解した原料融液のみを下方のルツボ中に滴下する機能を有していることが必須である。
この構造により、未融解の粒状原料は、融解容器の排出口から外部に流れ出せず、融解容器の内部に未融解の粒状原料が留められる。
【0092】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器が、
融解皿と、
前記融解皿内に設けられ、断面ハ字状で下部に溝を有する隔離皿と、
からなり、
前記融解皿と隔離皿との間で、前記融解部と融液保持部とに区分けされるよう構成されていることを特徴とする。
【0093】
融解容器の他の実施形態としては、融解皿内に、断面ハ字状で下部に溝を有する隔離皿を配置するようにした二重構造(傘状構造)のものが挙げられる。この融解皿と隔離皿との間で、「融解部」と「融液保持部」とを形成している。
【0094】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器が、
筒状部と、
前記筒状部の内部に設けられ、下端に開口を有する漏斗状部と、
からなり、
前記筒状部の内方が前記融解部とされ、前記筒状部の外方と漏斗状部との間が前記融液保持部とされることを特徴とする。
【0095】
このような簡易型の融解容器は、特にシリコンの場合のように粒状原料の比重が原料融液の比重よりも小さい材料の場合には、未融解の粒状原料が融液の上方に浮くので、融解容器の外に出る粒状原料は殆ど無い。例え粒状原料が外に出たとしても、融液の上方に浮いている。したがって、上方から照射される赤外線により加熱、融解され、成長中の結晶界面に付着して製品中に取り込まれる恐れは少なく、この簡易型であっても、単結晶を歩留まり良く製造することができる。
【0096】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記容器加熱装置が、第2赤外線照射装置であることを特徴とする。
融解容器を加熱する容器加熱装置として、第2赤外線照射装置を用いることができる。融解容器を加熱する際には、融解容器の上方から赤外線を照射しても良いし、横方向もしくは斜め下方から赤外線を照射しても良い。またこれらを併用しても良い。
【0097】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記容器加熱装置が、高周波誘導加熱装置であることを特徴とする。
融解容器を加熱する容器加熱装置として、高周波誘導加熱装置を用いることができる。さらには融解容器を例えばカーボン製の容器に収め、このカーボン製の容器を高周波誘導加熱装置で高温に維持し、粒状原料の融解を行っても良い。
【0098】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記容器加熱装置が、抵抗加熱装置であることを特徴とする。
融解容器を加熱する容器加熱装置として、抵抗加熱装置を用いることができる。シリコン単結晶を製造する場合にはカーボン抵抗加熱装置を使用すると好都合である。
【0099】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器が、
水平方向に回転する融解容器回転機構を有することを特徴とする。
このように融解容器回転機構を有していれば、特に融解皿と隔離皿から成る融解容器内に供給された粒状原料を均一に加熱することができる。
【0100】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解容器の全部または一部が、
白金、イリジウム、石英、炭化ケイ素、カーボン、グラファイト、カーボンもしくはグラファイト材の表面を炭化ケイ素化したもの、または予めカーボンもしくはグラファイト材の表面を炭化ケイ素でコーティングしたものから成ることを特徴とする。
【0101】
このような素材であれば、粒状原料を安定的に融解し、原料融液を生成することができる。特にシリコン単結晶製造の場合には、カーボン材の表面を炭化ケイ素化した素材を用いた融解容器が好適に使用できる。
【0102】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料供給手段を、複数有することを特徴とする。
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記粒状原料融解手段を、複数有することを特徴とする。
このように複数であれば、大型単結晶の製造速度を速めることができる。
【0103】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボが、
底部の中心部に凹部が設けられ、前記凹部内に種子単結晶が配置されるよう構成されていることを特徴とする。
【0104】
このように凹部が形成されていれば、ここに配置した種子単結晶の上側に融液相を形成させるに際して、種子単結晶の上側は融解するものの、残りは溶けずに固体の単結晶のまま維持させることが容易となる。したがって、この種子単結晶上に固体を析出させることで単結晶製造を継続することができる。
【0105】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボの外側に、補助加熱装置が設けられていることを特徴とする。
このような補助加熱装置で、ルツボ全体の温度を粒状原料の融点よりも100〜300℃程度低い温度まで加熱して維持することにより、ルツボ内部に融液を形成するために使用する第1赤外線照射装置からの赤外線の照射量を大幅に低減することができ、また制御性も高めることができる。
【0106】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボの上部には、
前記単結晶製造用ルツボ内の融液および/または混合融液の周縁部近傍を加熱する第3赤外線照射装置が配設されていることを特徴とする。
【0107】
このような第3赤外線照射装置が配置され、ルツボ内の融液相の量が増えて融液相の周縁部の位置が変化しても、その変化に合わせて周縁部近傍を加熱することができれば、周縁部近傍からの微結晶の生成、もしくは微結晶の成長を抑止することができる。
【0108】
したがって、ルツボ内の中心部の単結晶中に、別の微結晶が共存して多結晶化することを防止することができる。
なお、第3赤外線照射装置によって高められるルツボ内の融液相の周縁部近傍の温度は、ルツボ内全域の融液温度の平均値よりも少なくとも3℃以上であることが好ましい。
【0109】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記第3赤外線照射装置において、
融液相の変動する周縁部の位置と、照射位置とを合わせる照射位置調整機構を有することを特徴とする。
【0110】
傾斜を設けたルツボの底部の中心部に設けられた種子単結晶上に形成される融液相の直径は、結晶の成長とともに増大する。この融液相の周縁部位置は、ルツボの立壁部に達するまで変動することになるが、第3赤外線照射装置の照射位置調整機構により、常に融液相の周縁部に赤外線を照射し、周縁部近傍の温度を高く維持することができる。
これにより離型剤が塗布された部分から発生する微結晶の成長を抑止し、高品質な単結晶を製造することができる。
【0111】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボの底部が、中心に向かって下方に傾斜していることを特徴とする。
【0112】
ルツボの底部が、中心に向かって下方に傾斜していれば、ルツボ内の底部中心に配置された種子単結晶から立壁部に向かって徐々に単結晶を大型化していくことができる。この傾斜角度が小さすぎると、途中で別の微結晶が生成してしまう恐れが増える。逆に傾斜角度が大きすぎると、立壁部に到達する間の固化物はサイズが規格外となり、全体の製品歩留まりを劣化させてしまう。
なお、ルツボの底部の傾斜角度としては、中心部に向かって下がる3〜60度の範囲内であることが好ましい。
【0113】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボの内壁には、離型剤が塗布されていることを特徴とする。
特にシリコン単結晶を製造する際には、ルツボの内壁に離型剤を塗布することで、製造された大型単結晶の冷却中にクラックが発生してしまうことを抑止することができる。
【0114】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボの外側に、カーボン製保持具が設けられていることを特徴とする。
特にルツボの材質が石英である場合、石英製ルツボの外側にカーボン製保持具を設けることが好ましい。カーボン製保持具により、内側の石英製ルツボを安定的に使用することができる。
【0115】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボが、水平方向に回転するルツボ回転機構を有することを特徴とする。
【0116】
このようにルツボが回転可能であれば、常に形成される融液相の表面温度を一定に維持することが容易となり、融液相の周縁部近傍を加熱する際にも、加熱による温度ムラを少なくすることができる。
【0117】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボが、所定の速度で上下方向に昇降する昇降手段を有することを特徴とする。
【0118】
このようにルツボが上下方向に昇降可能であれば、常に形成される融液相の表面位置を一定に維持することができ、赤外線照射装置から融液相の表面までの距離を常に一定に維持することができる。
【0119】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記第1赤外線照射装置、第2赤外線照射装置、第3赤外線照射装置が、
レーザ光照射装置であることを特徴とする。
このようにレーザ光を照射するレーザ光照射装置であれば、単結晶製造装置の小型化および操作性向上に寄与することができる。
【0120】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記第1赤外線照射装置、第2赤外線照射装置、第3赤外線照射装置が、
内面を反射面として使用する楕円面反射鏡と、
前記楕円面反射鏡の底部側の第1焦点位置に設けられた赤外線ランプと、
を備えることを特徴とする。
このようにして構成される赤外線照射装置であれば、効率的に赤外線を照射することができる。
【0121】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記赤外線ランプが、
ハロゲンランプまたはキセノンランプであることを特徴とする。
このようにハロゲンランプまたはキセノンランプであれば、安価に入手可能であり、単結晶製造装置の製造コストを抑えることができる。
【0122】
また、本発明の単結晶製造装置は、
前記第1赤外線照射装置、第2赤外線照射装置、第3赤外線照射装置が、それぞれ複数設けられていることを特徴とする。
【0123】
このように赤外線照射装置が複数設けられていれば、単数の場合よりも、粒状原料の溶融および単結晶の製造を安定して確実に行うことができる。さらにこのように複数設けられていれば、ルツボ内の融液相の表面を均質に加熱することができる。
【0124】
なお、ルツボ内の融液相の表面を均質に加熱すれば、形成される固液界面の形状を平坦化することができ、製品中の添加物濃度を垂直方向,水平方向のいずれに対しても均質化した単結晶を製造することができる。
【0125】
例えば第3赤外線照射装置を、略円形の融液相の周縁部に合致させて複数配置すれば、融液相の周縁部を加熱した際に、この周縁部の温度を好適に高めて制御することができ、温度ムラの発生を確実に防止することができる。
【0126】
さらに、本発明の単結晶製造装置は、
前記単結晶製造用ルツボおよび粒状原料融解容器と、
前記第1赤外線照射装置,第2赤外線照射装置,第3赤外線照射装置と、の間には、
前記赤外線を透過する赤外線透過窓が設けられていることを特徴とする。
【0127】
このように赤外線透過窓が設けられていれば、ルツボ内で原料融液の蒸発物が生じても、各赤外線照射装置に蒸発物が到達しないので、赤外線の光量が減少することなく、長時間にわたって安定して単結晶製造装置を使用することができる。
【0128】
なお、蒸発物が赤外線透過窓に付着してしまうような場合には、赤外線透過窓の外周縁部に蒸発物付着防止手段を設けることが好ましい。蒸発物付着防止手段としては、例えば雰囲気ガスを赤外線透過窓に吹き付けるようにしたものが挙げられる。
【0129】
また、本発明の単結晶製造方法は、
製造しようとする単結晶材料の最適添加物組成の粒状原料を、粒状原料融解手段で融解し、得られた原料融液を下方の単結晶製造用ルツボ内に供給し、前記単結晶製造用ルツボ内に設置された種子単結晶上に、固体としての単結晶を析出させ、大型の単結晶を製造する単結晶製造方法であって、
前記単結晶製造用ルツボの上部に設けられた粒状原料供給手段を介して必要量の前記粒状原料を粒状原料融解手段に供給する工程と、
前記粒状原料融解手段に供給された粒状原料を、粒状原料融解手段で融解して原料融液とし、前記原料融液を下方の前記単結晶製造用ルツボ内に供給する工程と、
単結晶製造用ルツボ内の底部に設けられた種子単結晶の上面に赤外線を照射して融液を形成させ、さらに融液相の周縁部のみを加熱して、前記融液相の周縁部の温度を、前記融液相の周縁部を除く温度よりも高温に維持し、前記融液相中に原料融液を滴下させてなる混合融液相の下側から、前記種子単結晶上に固体として単結晶を析出させる工程と、
を少なくとも有することを特徴とする。
さらに、本発明の単結晶製造方法は、
前記粒状原料が、粒状結晶母材と粒状添加物とからなることを特徴とする。
【0130】
また、本発明の単結晶製造方法は、
添加物を添加した単結晶を製造する際に、
前記種子単結晶上に形成される融液の厚みが常に所定の厚みとなるように、前記種子単結晶の上面に照射される赤外線の強度を制御することを特徴とする。
【0131】
ここではリンを最適組成に添加したN型シリコン単結晶を製造する工程を例に説明する。
粒状原料を粒状原料融解手段に供給する工程では、無添加シリコンの粒状原料と、平均組成が最適添加物濃度の10倍の高濃度にリンを添加した粒状原料と、を混合して最適組成の粒状原料を作成し、これをホッパー内に収納する。
【0132】
粒状原料掻き出し装置と粒状原料定量供給装置を駆動し、ホッパー内から所定量の粒状原料を下方の粒状原料融解手段の融解容器内に供給管を介して供給する。
原料融液を下方のルツボ内に供給する工程では、まず粒状原料融解手段に供給された粒状原料を、粒状原料融解手段で融解して原料融液とする。
【0133】
粒状原料融解手段では、融解容器を容器加熱装置で加温し、上方から供給される粒状原料を融解する。
もしくは融解容器に上方から、または上方および横方向から赤外線を照射して加温しておき、この加温された融解容器に上方から粒状原料を投入して融解する。そして得られた原料融液のみを、下方のルツボ中に滴下する。
【0134】
次いで、単結晶を析出させる工程では、ルツボの中心部に設けられた種子単結晶上に、融液相を形成させるのに必要な量の粒状原料を配置し、密閉チャンバー内を真空排気してからアルゴンガスを流し入れる。
【0135】
さらにルツボの外側に配置した補助加熱装置を稼働し、所定の温度に達したら密閉チャンバー内を所定の減圧下に維持し、ルツボを回転させながらルツボ内加熱用の第1赤外線照射装置を稼働し、融液相を形成させる。形成された融液相の周縁部近傍には第3赤外線照射装置で赤外線を照射して加温する。
【0136】
次いで、ルツボの上方から原料融液の滴下を開始し、滴下量に合致させた量の固体が析出するのに合わせてルツボの位置を下降させる。
密閉チャンバーの上部からジョイスティックをルツボ内に降ろし、融液相下部の固体の位置を測定し、融液相の厚みをチェックしながら、常に一定の厚みになるように赤外線の照射量を制御する。
【0137】
所定の粒状原料の投入が終了したら粒状原料掻き出し装置、粒状原料定量供給装置、融解容器回転機構、容器加熱装置の稼働を停止し、ルツボの下降を停止してルツボ加熱用の第1赤外線照射装置の出力を徐々に下げて融液相を完全に固化させる。
【0138】
赤外線の照射を停止し、ルツボの外側に配設された補助加熱装置を制御して、ルツボの温度を室温まで所定の冷却時間で冷却したら全ての可動部を停止し、密閉チャンバーの扉を開いて単結晶製品を取り出す。
【0139】
すなわち、赤外線はルツボ内の原料融液に吸収されて熱となり、原料融液は加熱されるものの赤外線は吸収されるので、融液の下方に届く赤外線の光量は次第に少なくなり、熱に変換されることも少なくなり、温度上昇が抑えられる。
【0140】
このような単結晶製造方法は、いわゆる種子単結晶を使用して大型単結晶を製造するブリッジマン法と呼ばれる製造方法の基本理念と同じである。ただし、ブリッジマン法では全ての原料を最初に融解させてからルツボの底部から上方に向かって単結晶化を進めるので、製品には上下方向に偏析に伴う添加物濃度の変動が生じてしまう。
【0141】
本発明の単結晶製造方法では、ルツボ内に赤外線を照射して融液相を形成させる。この際、上側の温度は下側の温度よりも高くなり、下側の単結晶との固液界面温度はこの融液相からの固相の析出温度と同一となる。
【0142】
このようにして形成される融液相に原料融液が供給されて成る混合融液相の厚みが増すと、混合融液相に赤外線が吸収されるので、混合融液相の下部まで到達する赤外線量が少なくなり、温度が下がって混合融液相からの固相の析出が開始される。
【0143】
このようにして粒状原料の融解容器への投入,融解,ルツボ内への滴下、ルツボ内での混合融液相からの固相の析出(すなわち単結晶成長)を継続させ、融解容器への所定の粒状原料の投入が終了したら、赤外線の光量を徐々に減らし、残った混合融液相が完全に固化したら、全体を室温まで徐冷して製品を取り出す。
【0144】
これにより、添加物濃度を垂直方向,水平方向のいずれに対しても最適組成で均質化した高品質な大型単結晶を得ることができる。
本製造方法で均質組成の単結晶を製造するには、混合融液相の組成と量および温度は一定に維持される必要がある。所定の温度よりも高すぎる場合には混合融液相の厚みが増え、低すぎる場合には混合融液相の厚みは薄くなる。それでも赤外線の照射量が一定に維持されると混合融液相の厚みはせいぜい20〜30mm程度に過ぎないので、直ぐにその温度条件に合致した定常状態になる。
【0145】
定常状態では投入される原料融液の組成と量に見合った組成と量の単結晶が固化するので、得られる単結晶の組成は所定の組成で均質となる。このことは本製造方法が最も優れている利点であり、極めて制御性の高い製造方法であることを示している。
【0146】
また結晶製造の最終期、すなわち粒状原料の融解容器への投入が終了後、残った混合融液相を固化させた部位の添加物濃度は、次第に濃く成り均質にはならないが、この部位の厚みはせいぜい30mm程度なので製品全体の歩留まりの劣化を抑止することができる。