特許第6607673号(P6607673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607673
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】樹脂固体酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/06 20060101AFI20191111BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20191111BHJP
   C08G 8/28 20060101ALI20191111BHJP
   C08G 65/36 20060101ALI20191111BHJP
   C08G 12/40 20060101ALI20191111BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   B01J31/06 Z
   B01J37/08
   C08G8/28 B
   C08G65/36
   C08G12/40
   C08G59/14
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-257771(P2014-257771)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2015-143348(P2015-143348A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-269908(P2013-269908)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】児玉 淳史
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】川上 竜司
(72)【発明者】
【氏名】新宮 達也
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−199739(JP,A)
【文献】 特開平01−288305(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101550223(CN,A)
【文献】 特開昭48−028596(JP,A)
【文献】 米国特許第03933424(US,A)
【文献】 特開2012−193169(JP,A)
【文献】 特開2003−272672(JP,A)
【文献】 特開2005−285449(JP,A)
【文献】 特開2008−066221(JP,A)
【文献】 恩田歩武 他,スルホ基を有する固体酸の水溶液中での触媒活性比較,第110回触媒討論会 討論会A予稿集,2012年 9月14日,page.213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 29/10
C07C 31/18
C07C 67/08
C07C 69/14
C08G 8/28
C08G 16/04
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未炭化状態のフェノール樹脂または未炭化状態のフラン樹脂を原料樹脂とし、該原料樹脂にスルホ化剤として硫酸を添加する工程と、これを80℃以下、40℃以上の温度で加熱する工程とを有してスルホ基修飾樹脂を得ることを特徴とする樹脂固体酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂固体酸の製造方法に関し、特に、原料となる樹脂を炭化することなくスルホ基(スルホン酸基)を導入して得る樹脂固体酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸は高い活性を有し、炭化水素化合物を反応させる際の触媒としても広く利用される。例えば、遊離高級脂肪酸とアルコールとを反応させて、高級脂肪酸エステルを得るエステル化反応の促進、セルロース等の糖鎖から単糖への加水分解反応の促進、その他、炭化水素燃料を合成するアルキル化反応の促進等の用途である。
【0003】
硫酸は触媒として各種の反応促進に寄与した後、中和、洗浄され、その都度消費されていた。硫酸は液体であるため回収が容易ではない。回収処理と新規投入との経費差から、現状は使い捨てが主流である。しかし、使用済みの硫酸の中和、洗浄に加え、環境基準に準拠した排水処理までを考慮すると、この負担は大きい。このことから、触媒として連続使用に耐えうるとともに、反応後の分離、回収に容易なより利便性の高い触媒が求められるようになってきた。
【0004】
そのような触媒として固体酸が挙げられる。例えば、硫酸処理を施したジルコニア、スルホ基(スルホン酸基)を導入したフッ素樹脂等である。前記のジルコニアの場合、単位重量あたりのスルホ基濃度が低いため、触媒活性が低くなる欠点がある。また、前記のフッ素樹脂に関しては、熱に弱く、適用できる反応種が限られている問題がある。
【0005】
そこで、十分な触媒活性と耐熱性も併せ持つ固体酸として、炭素系の固体酸が提案された(特許文献1、特許文献2等参照)。特許文献等に開示の固体酸は、炭化水素化合物を炭化処理して活性炭等の炭素のみの形態とした後、スルホ基を導入した固体酸である。このように、現状、炭素系固体酸の主流は、活性炭等を基材とした固体酸である。
【0006】
特許文献等に開示の固体酸から理解されるように、出発原料となる樹脂等の炭化水素化合物の焼成、炭化が必須と考えられていた。なぜならば、スルホ基の導入に際し、硫酸や発煙硫酸等の強力な酸化力を有する酸が使用される。このため、樹脂等の炭化水素化合物では、スルホ化時の硫酸との反応により分解されてしまう。従って、耐酸性や耐熱性を勘案すると、活性炭等の炭化物がスルホ基導入の基材として望ましいといえる。
【0007】
しかしながら、出発原料となる樹脂等を適切な条件下において炭化する場合、焼成、炭化、賦活等の設備が必要となる。そのため、スルホ化の前段階で追加設備分の製造経費が上乗せされる。また、樹脂等の炭化物の場合、焼成条件によっては炭化物表面の官能基の変化からスルホ基の導入量が低減することも知られている。それゆえ、従前の固体酸製造においては、出発原料の選択、炭化や焼成条件の制御が主に検討されてきた。
【0008】
その一方、固体酸の基材となる樹脂においても比較的耐酸性や耐熱性に優れた種類も存在する。このような樹脂について、炭化を行わず直接スルホ基を導入可能か否か鋭意検討した。結果、従来考えられていたよりも多量なスルホ基の導入が認められ、さらに、触媒活性の高い固体酸を得ることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2005/029508
【特許文献2】WO2008/102913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、合成樹脂の炭化工程を省略して直接合成樹脂にスルホ基を導入することによって中間段階の製造経費の軽減可能な樹脂固体酸の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、未炭化状態のフェノール樹脂または未炭化状態のフラン樹脂を原料樹脂とし、該原料樹脂にスルホ化剤として硫酸を添加する工程と、これを80℃以下の温度、40℃以上で加熱する工程とを有してスルホ基修飾樹脂を得ることを特徴とする樹脂固体酸の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る樹脂固体酸の製法によると、未炭化状態のフェノール樹脂または未炭化状態のフラン樹脂を原料樹脂とし、該原料樹脂にスルホ化剤として硫酸を添加する工程と、これを80℃以下、40℃以上の温度で加熱する工程とを有してスルホ基修飾樹脂を得ることを特徴とするので、原料となる合成樹脂の炭化工程を省略して直接合成樹脂にスルホ基を導入することによって中間段階の製造経費の軽減可能であるとともに、前記スルホ化剤が、硫酸で液体であり比較的取り扱いが容易であり、安価に調達することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に規定する樹脂固体酸の製造方法について説明する。はじめに、樹脂固体酸の原料となる合成樹脂が用意される。この合成樹脂は、公知の樹脂から選択され、特に、後述するスルホ化において分解し難い性状の樹脂が選択される。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂(尿素樹脂)、メラミン樹脂、またはエポキシ樹脂等の樹脂、もしくは、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等から選択される。これらにおいて、フェノール樹脂またはフラン樹脂が適する。後記の実施例に開示するように、スルホ化段階における硫酸等の強酸に耐性が高いことから好ましく用いられる。これらの樹脂を「原料樹脂」とすることにより、従前の木質原料と比較して成分的な均質性が図られる。
【0014】
列記の原料樹脂は出発物質であり、いずれの樹脂も未炭化状態で用意される。そしてこれにスルホ化剤として硫酸が添加される。そして、そのままスルホ化される。スルホ基はスルホン基やスルホン酸基とも称され「−SO2OH」(あるいは−SO3H)で表される。スルホ基は強酸性と電子求引性を呈することから触媒反応の活性中心となる。
【0015】
原料樹脂の形態については、反応における接触面積を増加させてスルホ基の導入量を増やす点が考慮される。そこで、粉末状物、粒状物、または繊維状物の形態とすることが好ましい。繊維状物については樹脂繊維を織布または不織布に加工した適宜の形態も含められる。原料樹脂の粒径、繊維径が小さい場合、樹脂固体酸の反応対象との接触面積も増加するため、触媒の反応性が向上する。また、樹脂固体酸の反応系への投入、回収、さらには反応容器等への充填には粉末状物、粒状物、繊維状物のいずれもが向く。原料樹脂の大きさについては特段制約されない。ただし、粉末状物、粒状物の個々の粒子直径や繊維状物の断面径が大きくなりすぎると、樹脂固体酸の反応対象への接触面積が減少する。このことから、粉末状物または粒状物の粒子直径(粒径)は概ね2mm以下が望ましく、繊維径(断面径)は概ね1mm以下が望ましいと考えられる。
【0016】
未炭化状態とは、出発原料となる原料樹脂に炭化に関する焼成、賦活等の一切の処理が行われていないことを意味する。従前の固体酸の場合、木質原料、石油ピッチ、または合成樹脂等の出発原料について、予め、焼成、炭化、賦活等の処理を経て概ね炭化物とされる。そして、ここにスルホ基が導入されていた。これに対し、本発明の樹脂固体酸にあっては、従前の製法中の原料を炭化物にする工程が一切省略される。つまり、未炭化状態の原料樹脂に対しスルホ化剤が添加される(スルホ化剤添加工程)。従って、炭化物を得るための設備やエネルギー等の負担、経費が軽減される。
【0017】
次に、原料樹脂とスルホ化剤との混合のみでは、原料樹脂にスルホ化剤のスルホ基が導入され難い。そこで、原料樹脂とスルホ化剤の混合後に加熱される(加熱工程)。この加熱は、スルホ基と未炭化状態の原料樹脂との結合反応を促す程度の加熱であり、原料樹脂の炭化を目的としない。すなわち、出発原料の原料樹脂の熱分解温度以下の温度域での加熱である。また、スルホ化剤自身の強力な酸化力により原料樹脂自体も溶融するおそれがある。さらに、スルホ化剤が介在することにより、前掲の原料樹脂自体の熱分解温度以下での加熱による分解も促進され得る。
【0018】
そこで、後記の実施例からも明らかなように、加熱に際し、加熱温度は200℃以下であり、好ましくは、160℃以下、さらに好ましくは、120℃以下、最も好ましくは80℃以下、40℃以上の温度域である。なお、加熱温度の下限について特段制約はないものの、スルホ基結合の反応促進性の観点から、室温以上、好ましくは40℃以上である。加熱工程における適切な加熱温度の選択は、出発原料となる原料樹脂の種類、触媒活性の良否等を勘案して設定される。
【0019】
スルホ基導入に用いるスルホ化剤として、硫酸、発煙硫酸、またはクロロスルホン酸が使用され、特に硫酸は好ましく用いられる。これらのスルホ化剤は液体であり比較的取り扱いが容易であり、安価に調達することができる。前記の発煙硫酸中には、硫酸、二硫酸(ピロ硫酸)、三酸化硫黄が液体、気体の状態で混在しており、いずれも後記の脱水縮合反応の発現に寄与する。むろん、列記以外のスルホ化剤も使用可能である。原料樹脂へのスルホ基の導入は、原料樹脂の水酸基等の官能基との脱水縮合によりスルホ基が結合していると考えられる。
【0020】
未炭化状態の原料樹脂に対しスルホ基が導入された結果、スルホ基修飾樹脂を得ることができる。その後、適宜水洗により余分なスルホ化剤が洗浄され、余分な水分が除去される。こうして、本発明の樹脂固体酸は出来上がる。一連の説明から明らかなように、本発明の樹脂固体酸におけるスルホ基修飾樹脂は、合成樹脂の原料段階の製造時(モノマー合成時)、または合成樹脂の製造段階となる重合時(ポリマー合成時)にスルホ基を導入した樹脂ではない。既に樹脂(ポリマー)として完成した段階で新たにスルホ基を導入して得たスルホ化物である。従って、スルホ基修飾樹脂は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等の分子中にスルホ基を当初から有している樹脂と本質的に相違する。
【0021】
樹脂固体酸の本体であるスルホ基修飾樹脂に着目すると、出発原料である原料樹脂の当初の重量(Wa)を基準とし、出来上がったスルホ基修飾樹脂の回収時の重量(Wb)とする関係において、望ましい収率(Y)は80%以上である。この収率(Y)とは、「Y=(Wb/Wa)×100」とする式により表される。同式から理解されるように通常の反応の場合、途中の損失、分解等を伴うため、反応開始時の重量より減少する。その中で、収率80%以上が維持されることは、スルホ基導入の反応時に原料樹脂の分解が少ないことを意味する。従って、極めて製造効率が良い。
【0022】
加えて、原料樹脂の分解が抑制されるのみならず、導入されるスルホ基自体の重量も加算されるため、さらにその分の重量も増加する。従って、途中の減損分を超過して100%以上の収率も生じ得る。
【0023】
本発明の樹脂固体酸の触媒活性の良否は、スルホ基修飾樹脂におけるスルホ基の量の多少として換言される。そこで、良好な触媒活性を発揮可能な観点から、スルホ基修飾樹脂におけるスルホ基の量は1mmol/g以上が妥当であり、好ましくは2mmol/g以上、さらに好ましくは4mmol/g以上である。むろん、多いほど触媒活性は高まる。しかし、樹脂の官能基量等の制約から現実的に6ないし7mmol/gが上限と考えられる。
【0024】
樹脂固体酸の本体であるスルホ基修飾樹脂の主用途は、後記の実施例から理解されるように、触媒反応に使用される用途である。触媒反応は樹脂表面に存在するスルホ基に起因する。触媒反応は従前の硫酸存在下における反応と同様と考えられる。従って、樹脂固体酸の場合、触媒反応の反応装置に適用が簡単である。また、安価かつ高活性である点も工業用途として魅力的である。触媒反応の種類は無数にあり、従前の硫酸を使用していた反応系をはじめ各種の触媒反応へ活用可能である。
【0025】
当該触媒反応として、樹脂固体酸の本体であるスルホ基修飾樹脂は、実施例に開示の加水分解反応及びエステル化反応に使用される。これらの触媒反応が必要とされる分野では、比較的市場規模が大きく、触媒の使用量も多い。それゆえ、本発明の樹脂固体酸のように、安価かつ高活性で供給可能であることから、最終製品の製造原価の低減に寄与しえる。加水分解反応は、例えばセルロース等の糖鎖を分解して単糖等を得る際に有効な反応である。エステル化反応は、例えば、医薬品製造、各種化学品等の製造に有効である。
【0026】
以上のとおり、樹脂固体酸及び樹脂固体酸の製造方法の特性として、まず製造中の工程の簡素化が実現できることである。当初、合成樹脂の炭化が不可欠と考えられていたことから大きな進歩である。次に、たとえ炭化の工程を省略しても、所望の触媒活性に何らの影響を及ぼさない。さらには、未炭化の合成樹脂の方が高い触媒活性を示している(次述の実施例参照)。
【実施例】
【0027】
〔使用原料〕
実施例の樹脂固体酸の出発原料となる合成樹脂(原料樹脂)について、以下の樹脂を使用した。
フェノール樹脂(レゾール型)として、「リグナイト株式会社製,LPS(登録商標)シリーズ,粒径0.4mm、粒径0.2mm、及び粒径0.075mm」を使用した。当該レゾール型フェノール樹脂は粉末状物、粒状物である。
前記のフェノール樹脂(レゾール型)にスルホ基を導入して得たスルホ基修飾樹脂において、使用によりスルホ基が脱離した樹脂も「原料フェノール樹脂」(レゾール型)に包含され得るとして取り扱った。
フェノール樹脂(ノボラック型)として、「群栄化学工業株式会社製,カイノール(登録商標)KT−2800,繊維径14μm」を使用した。ノボラック型フェノール樹脂は繊維状物である。
フラン樹脂として、「旭有機材工業株式会社製,架橋フルフリルアルコール樹脂粒子,BEAPS(登録商標)−Fシリーズ,粒径0.45mm」を使用した。フラン樹脂は粒状物である。
【0028】
比較例、その他の原料は以下のとおりとした。
木質原料として、ベイマツ(米松)のオガコ(大鋸粉)を使用した。
スルホ化剤として、硫酸、発煙硫酸、及びクロロスルホン酸は、いずれも和光純薬工業株式会社製を使用した。表中の欄に示す発煙硫酸の濃度(1%,11.3%,20%,30%)については、濃度の異なる発煙硫酸の試薬を98%硫酸及び30%発煙硫酸を用いて調製した。
【0029】
〔実施例の樹脂固体酸の作成〕
〈実施例1ないし16,20ないし25〉
レゾール型のフェノール樹脂またはフラン樹脂(粉末状物または粒状物)について、出発原料の原料樹脂10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤100mLを添加した。そして、各表に記載のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例1ないし16,20ないし25)。
【0030】
〈実施例17,18,19〉
ノボラック型のフェノール樹脂(繊維状物)3gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤200ないし300mLを添加した。そして、各表に記載のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例17,18,19)。
【0031】
〈実施例26〉
前掲の実施例1のスルホ基修飾樹脂について、スルホ基量を0.1mmol/g以下になるまで熱水にて処理した。当該処理樹脂を出発原料のフェノール樹脂(レゾール型)とした。当該処理樹脂(出発原料)10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤100mLを添加し、80℃のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例26)。
【0032】
〔比較例の固体酸の作成〕
〈比較例1〉
比較例1は未炭化の木質原料をスルホ化した例である。木質原料10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のスルホ化剤として発煙硫酸100mLを添加した。しかしながら、80℃の加熱中に分解してしまい回収不能となった。
【0033】
〈比較例2ないし4〉
比較例2ないし4は、炭化した木質原料をスルホ化した例である。はじめに木質原料を金属板上に配しマッフル炉(光洋サーモシステム株式会社製,品名:INH−51N1)を用い、窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表中の比較例毎に対応する加熱温度(300℃ないし400℃)まで昇温して当該温度を1時間維持した。加熱が終了して冷却後、マッフル炉から取り出して各比較例の木質原料の炭化物を得た。
【0034】
各比較例の木質原料の炭化物について、それぞれを10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例3ないし4)。なお、比較例2については、スルホ化時に溶解したため回収不能となった。
【0035】
〈比較例5ないし11〉
実施例にて使用のレゾール型及びノボラック型のフェノール樹脂、並びにフラン樹脂を前出のマッフル炉を用い、窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表中の比較例毎に対応する加熱温度(300℃ないし600℃)まで昇温して当該温度を1時間維持した。加熱が終了して冷却後、マッフル炉から取り出して各比較例の合成樹脂の炭化物を得た。
【0036】
比較例5ないし9の合成樹脂(レゾール型のフェノール樹脂)の炭化物について、それぞれを10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例5ないし9)。
【0037】
比較例10の合成樹脂(ノボラック型のフェノール樹脂)の炭化物について、3g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸300mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例10)。
【0038】
比較例11の合成樹脂(フラン樹脂)の炭化物についても、10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例11)。
【0039】
〔物性及び活性の測定〕
〈収率〉
実施例の未炭化物原料の収率(Y1)については、スルホ化の前段階である合成樹脂の当初の重量(Wa)を基準とし、スルホ化後のスルホ基修飾樹脂を回収し重量(Wb)を測定し、商を求めた。すなわち、実施例の収率とは、「Y1(%)=(Wb/Wa)×100」である。計測を正確にするため、洗浄後のスルホ基修飾樹脂をフッ素樹脂製の濾膜(オムニポアメンブレン:JCWP04700(孔径10μm))を用いてほぼ全量を回収して100℃、10時間かけて乾燥した。この乾燥物をスルホ基修飾樹脂の重量とした。
【0040】
比較例の炭化物原料の収率(Y2)については、はじめに出発原料となる木質原料または合成樹脂の当初の重量(Wa)を基準とした。炭化後の炭化物を回収し、その重量(Wp)を測定した。そこで、原料の炭化段階における収率(YC)を求めた。具体的に、「YC=(Wp/Wa)」とした。
【0041】
続いて、炭化物重量(Wp)を基準とし、スルホ化後のスルホ化物を回収し重量(Wq)を測定した。そこで、スルホ化段階における収率(YS)を求めた。具体的に、「YS=(Wq/Wp)」とした。この場合も同様に、洗浄後のスルホ化物を前出のフッ素樹脂製の濾膜を用いてほぼ全量を回収して100℃、10時間かけて乾燥した。この乾燥物をスルホ化物の重量とした。
【0042】
最終的な比較例の炭化物原料の収率(Y2)については、中間段階の収率の積である。そこで、「Y2(%)=(YC×YS)×100」として求めた。
【0043】
〈硫黄含有量とスルホ基量の測定〉
元素分析に際し、実施例並びに比較例の成形固体酸を100℃に加熱して乾燥した。それぞれの固体酸に含まれる元素組成について、自動燃焼イオンクロマトグラフ:DIONEX製ICS−1000、燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製AQF−100、吸収装置:株式会社三菱化学アナリテック製GA−100、送水ユニット:株式会社三菱化学アナリテック製WS−100、燃焼温度1000℃)により分析した。得られた硫黄分(mmol/g)(wt%に換算)は、スルホ基と等価であるとして、単位重量当たりの固体酸におけるスルホ基量(mmol/g)を求めた。
【0044】
〔触媒活性の測定〕
〈加水分解反応の測定〉
実施例並びに比較例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。サンプル瓶に固体酸0.1gを分取し、セロビオース0.12g、水0.7mLを添加し、90℃の温度を維持しながら60分間反応させた。反応後冷却して水2.3mLを添加しシリンジフィルターにより濾過した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製,RID−10A)、カラム(BIO−RAD社製,品名:AminexHPX−87Hカラム)を使用し、濾過液を当該HPLCに装填し、グルコース等の単糖類のピーク面積比よりセロビオースから分解されて生成した糖類量を求めた。そして、1g固体酸当たりの1時間の反応による分解量(μmol)に換算した(μmol・g-1・h-1)。
【0045】
〈エステル化反応の測定〉
実施例並びに比較例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。固体酸0.2gをフラスコに分取して150℃で1時間、真空乾燥(0.4Pa以下)した。真空乾燥を終えた固体酸にエタノール58.5mL(1.0mol)、酢酸5.742mL(0.1mol)を添加し、70℃の温度を維持しながら60分間反応させた。反応後冷却してシリンジフィルターにより濾過した。濾液中に含まれる酢酸エチルの生成量をガスクロマトグラフィー(GC)(株式会社島津製作所製,GC−2014 FID−ガスクロマトグラフィー)、カラム(アジレント・テクノロジー株式会社製,J&W GCカラム DB−WAXキャピラリーカラム)を使用して求めた。そして、1g固体酸当たりの1分間の反応による分解量(mmol)に換算した(mmol・g-1・min-1)。
【0046】
以上のとおり作成するとともに測定した実施例の樹脂固体酸及び比較例の固体酸について、結果を表1ないし8に表す。各表中、原料(種類、粒度(粒径))、炭化条件(温度)、スルホ化剤(種類、濃度)、スルホ化条件(温度、収率、硫黄含有量)、及び触媒評価(加水分解反応速度、エステル化反応速度)の順に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
〔結果,考察〕
いずれの実施例の樹脂固体酸も良好な触媒作用を発揮した。加えて、比較例5ないし11との比較から、敢えて出発原料となる合成樹脂を炭化しない実施例の方が、スルホ基の量が増加した。結果的に、単位重量当たりの触媒反応の活性中心が多くなり触媒反応が活発化したと類推する。合成樹脂を炭化する場合、表面の各種の官能基が焼成により喪失してしまう。すると、スルホ基との結合を担う部位が相対的に減少することから、全体にスルホ基との結合量が減少したといえる。このように、通例であった炭化処理を省略することによって、より性能向上を実現できたことは特筆すべき知見である。
【0056】
また、出発原料が未炭化の木質原料の状態ではスルホ化の強酸に耐えられないため(比較例1)、木質原料の炭化は必須である(比較例2ないし4)。その分、否応なく炭化のための設備は燃料等の経費が加わる。また、出発原料の木質原料の安定性についても、天然物であることから、合成樹脂ほどは高いとは言えない。従って、出発原料に実施例の合成樹脂を選択したことの優位性は高い。
【0057】
続いて個々の実施例について検討する。実施例に使用したスルホ化剤は、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸であり種類を問わず未炭化状態の合成樹脂に対してスルホ化が可能であった。次に、スルホ化温度について、実施例2のほぼ常温(室温)と実施例1,3との比較から、温度を上げるほどスルホ化は促進し、スルホ基量は増す。室温下での反応は可能であるものの、より効率化の観点から、製造段階において加熱を加えることが望ましい。なお、実施例5の温度まで加熱すると、合成樹脂の温度耐性と、スルホ化剤の強力な酸化作用の影響から樹脂の分解が生じた。従って、スルホ化時の温度範囲を勘案した場合の上限は200℃以下、好ましくは160℃以下、さらに好ましくは120℃以下となる。下限については特段限定されないものの40℃以上、好ましくは80℃以上となる。
【0058】
収率については、途中の炭化が省略されるため燃焼損失がなく、概ね100%を超過した。合成樹脂に結合したスルホ基の重量増加分である。なお、実施例5については、スルホ化段階における分解である。そうすると、収率は少なくとも80%以上が妥当であるといえる。スルホ基量について見ると、全ての実施例とも1mmol/gを超過しているためこの値を下限とした。より好ましいスルホ基量は2mmol/g以上である。
【0059】
原料樹脂については、開示のとおりフェノール樹脂及びフラン樹脂を用いた場合に未炭化状態においてスルホ化が可能となった。これらの樹脂種が効果的である詳細については不明であるものの、強酸性のスルホ化剤に対する樹脂の耐性が影響していると考える。また、フェノール樹脂においてはレゾール型、ノボラック型の双方ともスルホ化が可能であった。さらに、樹脂の形態についても粉末状物、粒状物、及び繊維状物のいずれもスルホ化が可能であった。加えて、スルホ基が脱離した樹脂であっても再度スルホ基を導入してスルホ基修飾樹脂を得ることができ、回収と再利用も可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の樹脂固体酸及びその製造方法は、出発原料となる合成樹脂を炭化することなくそのままスルホ化して固体酸に加工することができるため、製造経費を低廉に抑制することができる。しかも、触媒活性の性能面も既存の炭化物のスルホ化物よりも良好であり、従前の硫酸の使用や既存品の固体酸の代替として非常に有望である。