【実施例】
【0027】
〔使用原料〕
実施例の樹脂固体酸の出発原料となる合成樹脂(原料樹脂)について、以下の樹脂を使用した。
フェノール樹脂(レゾール型)として、「リグナイト株式会社製,LPS(登録商標)シリーズ,粒径0.4mm、粒径0.2mm、及び粒径0.075mm」を使用した。当該レゾール型フェノール樹脂は粉末状物、粒状物である。
前記のフェノール樹脂(レゾール型)にスルホ基を導入して得たスルホ基修飾樹脂において、使用によりスルホ基が脱離した樹脂も「原料フェノール樹脂」(レゾール型)に包含され得るとして取り扱った。
フェノール樹脂(ノボラック型)として、「群栄化学工業株式会社製,カイノール(登録商標)KT−2800,繊維径14μm」を使用した。ノボラック型フェノール樹脂は繊維状物である。
フラン樹脂として、「旭有機材工業株式会社製,架橋フルフリルアルコール樹脂粒子,BEAPS(登録商標)−Fシリーズ,粒径0.45mm」を使用した。フラン樹脂は粒状物である。
【0028】
比較例、その他の原料は以下のとおりとした。
木質原料として、ベイマツ(米松)のオガコ(大鋸粉)を使用した。
スルホ化剤として、硫酸、発煙硫酸、及びクロロスルホン酸は、いずれも和光純薬工業株式会社製を使用した。表中の欄に示す発煙硫酸の濃度(1%,11.3%,20%,30%)については、濃度の異なる発煙硫酸の試薬を98%硫酸及び30%発煙硫酸を用いて調製した。
【0029】
〔実施例の樹脂固体酸の作成〕
〈実施例1ないし16,20ないし25〉
レゾール型のフェノール樹脂またはフラン樹脂(粉末状物または粒状物)について、出発原料の原料樹脂10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤100mLを添加した。そして、各表に記載のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例1ないし16,20ないし25)。
【0030】
〈実施例17,18,19〉
ノボラック型のフェノール樹脂(繊維状物)3gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤200ないし300mLを添加した。そして、各表に記載のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例17,18,19)。
【0031】
〈実施例26〉
前掲の実施例1のスルホ基修飾樹脂について、スルホ基量を0.1mmol/g以下になるまで熱水にて処理した。当該処理樹脂を出発原料のフェノール樹脂(レゾール型)とした。当該処理樹脂(出発原料)10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のそれぞれのスルホ化剤100mLを添加し、80℃のスルホ化温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(実施例26)。
【0032】
〔比較例の固体酸の作成〕
〈比較例1〉
比較例1は未炭化の木質原料をスルホ化した例である。木質原料10gを秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し、ここに前出のスルホ化剤として発煙硫酸100mLを添加した。しかしながら、80℃の加熱中に分解してしまい回収不能となった。
【0033】
〈比較例2ないし4〉
比較例2ないし4は、炭化した木質原料をスルホ化した例である。はじめに木質原料を金属板上に配しマッフル炉(光洋サーモシステム株式会社製,品名:INH−51N1)を用い、窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表中の比較例毎に対応する加熱温度(300℃ないし400℃)まで昇温して当該温度を1時間維持した。加熱が終了して冷却後、マッフル炉から取り出して各比較例の木質原料の炭化物を得た。
【0034】
各比較例の木質原料の炭化物について、それぞれを10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例3ないし4)。なお、比較例2については、スルホ化時に溶解したため回収不能となった。
【0035】
〈比較例5ないし11〉
実施例にて使用のレゾール型及びノボラック型のフェノール樹脂、並びにフラン樹脂を前出のマッフル炉を用い、窒素ガスにより不活性雰囲気状態を維持し、表中の比較例毎に対応する加熱温度(300℃ないし600℃)まで昇温して当該温度を1時間維持した。加熱が終了して冷却後、マッフル炉から取り出して各比較例の合成樹脂の炭化物を得た。
【0036】
比較例5ないし9の合成樹脂(レゾール型のフェノール樹脂)の炭化物について、それぞれを10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例5ないし9)。
【0037】
比較例10の合成樹脂(ノボラック型のフェノール樹脂)の炭化物について、3g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸300mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例10)。
【0038】
比較例11の合成樹脂(フラン樹脂)の炭化物についても、10g秤量して500mLの三つ口フラスコ内に投入し発煙硫酸100mLを添加した。80℃の反応温度を維持しながら10時間攪拌した。その後、蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した(比較例11)。
【0039】
〔物性及び活性の測定〕
〈収率〉
実施例の未炭化物原料の収率(Y
1)については、スルホ化の前段階である合成樹脂の当初の重量(Wa)を基準とし、スルホ化後のスルホ基修飾樹脂を回収し重量(Wb)を測定し、商を求めた。すなわち、実施例の収率とは、「Y
1(%)=(Wb/Wa)×100」である。計測を正確にするため、洗浄後のスルホ基修飾樹脂をフッ素樹脂製の濾膜(オムニポアメンブレン:JCWP04700(孔径10μm))を用いてほぼ全量を回収して100℃、10時間かけて乾燥した。この乾燥物をスルホ基修飾樹脂の重量とした。
【0040】
比較例の炭化物原料の収率(Y
2)については、はじめに出発原料となる木質原料または合成樹脂の当初の重量(Wa)を基準とした。炭化後の炭化物を回収し、その重量(Wp)を測定した。そこで、原料の炭化段階における収率(Y
C)を求めた。具体的に、「Y
C=(Wp/Wa)」とした。
【0041】
続いて、炭化物重量(Wp)を基準とし、スルホ化後のスルホ化物を回収し重量(Wq)を測定した。そこで、スルホ化段階における収率(Y
S)を求めた。具体的に、「Y
S=(Wq/Wp)」とした。この場合も同様に、洗浄後のスルホ化物を前出のフッ素樹脂製の濾膜を用いてほぼ全量を回収して100℃、10時間かけて乾燥した。この乾燥物をスルホ化物の重量とした。
【0042】
最終的な比較例の炭化物原料の収率(Y
2)については、中間段階の収率の積である。そこで、「Y
2(%)=(Y
C×Y
S)×100」として求めた。
【0043】
〈硫黄含有量とスルホ基量の測定〉
元素分析に際し、実施例並びに比較例の成形固体酸を100℃に加熱して乾燥した。それぞれの固体酸に含まれる元素組成について、自動燃焼イオンクロマトグラフ:DIONEX製ICS−1000、燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製AQF−100、吸収装置:株式会社三菱化学アナリテック製GA−100、送水ユニット:株式会社三菱化学アナリテック製WS−100、燃焼温度1000℃)により分析した。得られた硫黄分(mmol/g)(wt%に換算)は、スルホ基と等価であるとして、単位重量当たりの固体酸におけるスルホ基量(mmol/g)を求めた。
【0044】
〔触媒活性の測定〕
〈加水分解反応の測定〉
実施例並びに比較例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。サンプル瓶に固体酸0.1gを分取し、セロビオース0.12g、水0.7mLを添加し、90℃の温度を維持しながら60分間反応させた。反応後冷却して水2.3mLを添加しシリンジフィルターにより濾過した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製,RID−10A)、カラム(BIO−RAD社製,品名:AminexHPX−87Hカラム)を使用し、濾過液を当該HPLCに装填し、グルコース等の単糖類のピーク面積比よりセロビオースから分解されて生成した糖類量を求めた。そして、1g固体酸当たりの1時間の反応による分解量(μmol)に換算した(μmol・g
-1・h
-1)。
【0045】
〈エステル化反応の測定〉
実施例並びに比較例の固体酸を100℃に加熱して乾燥した。固体酸0.2gをフラスコに分取して150℃で1時間、真空乾燥(0.4Pa以下)した。真空乾燥を終えた固体酸にエタノール58.5mL(1.0mol)、酢酸5.742mL(0.1mol)を添加し、70℃の温度を維持しながら60分間反応させた。反応後冷却してシリンジフィルターにより濾過した。濾液中に含まれる酢酸エチルの生成量をガスクロマトグラフィー(GC)(株式会社島津製作所製,GC−2014 FID−ガスクロマトグラフィー)、カラム(アジレント・テクノロジー株式会社製,J&W GCカラム DB−WAXキャピラリーカラム)を使用して求めた。そして、1g固体酸当たりの1分間の反応による分解量(mmol)に換算した(mmol・g
-1・min
-1)。
【0046】
以上のとおり作成するとともに測定した実施例の樹脂固体酸及び比較例の固体酸について、結果を表1ないし8に表す。各表中、原料(種類、粒度(粒径))、炭化条件(温度)、スルホ化剤(種類、濃度)、スルホ化条件(温度、収率、硫黄含有量)、及び触媒評価(加水分解反応速度、エステル化反応速度)の順に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
〔結果,考察〕
いずれの実施例の樹脂固体酸も良好な触媒作用を発揮した。加えて、比較例5ないし11との比較から、敢えて出発原料となる合成樹脂を炭化しない実施例の方が、スルホ基の量が増加した。結果的に、単位重量当たりの触媒反応の活性中心が多くなり触媒反応が活発化したと類推する。合成樹脂を炭化する場合、表面の各種の官能基が焼成により喪失してしまう。すると、スルホ基との結合を担う部位が相対的に減少することから、全体にスルホ基との結合量が減少したといえる。このように、通例であった炭化処理を省略することによって、より性能向上を実現できたことは特筆すべき知見である。
【0056】
また、出発原料が未炭化の木質原料の状態ではスルホ化の強酸に耐えられないため(比較例1)、木質原料の炭化は必須である(比較例2ないし4)。その分、否応なく炭化のための設備は燃料等の経費が加わる。また、出発原料の木質原料の安定性についても、天然物であることから、合成樹脂ほどは高いとは言えない。従って、出発原料に実施例の合成樹脂を選択したことの優位性は高い。
【0057】
続いて個々の実施例について検討する。実施例に使用したスルホ化剤は、発煙硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸であり種類を問わず未炭化状態の合成樹脂に対してスルホ化が可能であった。次に、スルホ化温度について、実施例2のほぼ常温(室温)と実施例1,3との比較から、温度を上げるほどスルホ化は促進し、スルホ基量は増す。室温下での反応は可能であるものの、より効率化の観点から、製造段階において加熱を加えることが望ましい。なお、実施例5の温度まで加熱すると、合成樹脂の温度耐性と、スルホ化剤の強力な酸化作用の影響から樹脂の分解が生じた。従って、スルホ化時の温度範囲を勘案した場合の上限は200℃以下、好ましくは160℃以下、さらに好ましくは120℃以下となる。下限については特段限定されないものの40℃以上、好ましくは80℃以上となる。
【0058】
収率については、途中の炭化が省略されるため燃焼損失がなく、概ね100%を超過した。合成樹脂に結合したスルホ基の重量増加分である。なお、実施例5については、スルホ化段階における分解である。そうすると、収率は少なくとも80%以上が妥当であるといえる。スルホ基量について見ると、全ての実施例とも1mmol/gを超過しているためこの値を下限とした。より好ましいスルホ基量は2mmol/g以上である。
【0059】
原料樹脂については、開示のとおりフェノール樹脂及びフラン樹脂を用いた場合に未炭化状態においてスルホ化が可能となった。これらの樹脂種が効果的である詳細については不明であるものの、強酸性のスルホ化剤に対する樹脂の耐性が影響していると考える。また、フェノール樹脂においてはレゾール型、ノボラック型の双方ともスルホ化が可能であった。さらに、樹脂の形態についても粉末状物、粒状物、及び繊維状物のいずれもスルホ化が可能であった。加えて、スルホ基が脱離した樹脂であっても再度スルホ基を導入してスルホ基修飾樹脂を得ることができ、回収と再利用も可能であることを確認した。