【実施例】
【0036】
図1に示す第1実施例の外装構造は、下地4上に、平板部11,21の左右側縁を同方向へ折り曲げ、更にその先端を内側に折り返して側縁成形部12,12、22,22を設けて山側外装板1、谷側外装板2とし、これらを交互に配置させることにより山部と谷部とが連続して形成される外装構造である。即ち前記山側外装板1の下向きの側縁成形部12は、平板部11の左右側縁を下向きに折り下げ、更にその下端を内側に折り返した上向き折返し部分124を有し、前記谷側外装板2の上向きの側縁成形部22は、平板部21の左右側縁を上向きに折り上げ、更にその上端を内側に折り返した下向き折返し部分224を有する構成である。そして、谷側外装板2の下ハゼ部(上向き側縁成形部)22,22の下向き折返し部分224を、山側外装板1の上ハゼ部(下向き側縁成形部)12,12の上向き折返し部分124に面接触させて係合させている構成である。
【0037】
この第1実施例における山側外装板1は、略平坦状の平板部11の左右側縁を折り下げ、更にその下端を内側に折り返して上ハゼ12とした構成である。より詳しくは、
図1(b)に示すように上ハゼ12は、下向きの折り下げ片121と上向き折返し片122とその先端の内側に折り返した下向き片である山側当接面123とからなる。即ちこの第1実施例における上向き折返し部分124は、上向き折返し片122と山側当接面123とからなる。また、前記平板部11の裏面側には、略同一厚みの裏貼り材1bが添設されている。
【0038】
また、この第1実施例における谷側外装板2は、略平坦状の平板部21の左右側縁を折り上げ、更にその上端を内側に折り返して下ハゼ22とした構成である。より詳しくは、
図1(b)に示すように下ハゼ22は、上向きの折り上げ片221と下向き折返し片222とその先端を内側に折り返した上向き片である谷側当接面223とからなる。即ちこの第1実施例における下向き折返し部分224は、下向き折返し片222と谷側当接面223とからなる。また、前記平板部21の裏面側には、略同一厚みの裏貼り材2bが添設されている。
【0039】
そして、これらの山側外装板1及び谷側外装板2は、
図1(c)に示すように裏貼り材1b,2bを配する方向が逆方向である以外は全く同一形状に金属素材を成形したものである。また、裏貼り材1b,2bとしては、弾性及び気密性を有する硬質ウレタンフォームを用いることができる。
【0040】
この第1実施例には、ピース材である保持部材3を前記山側外装板1の裏面側に配設している。
この保持部材3は、
図1(c)に示すように下端に下地4への固定部31を有する起立部32と、該起立部32の上端を外側へ折返した折返し部33と、を有する構成である。
前記固定部31は、略水平状に延在し、凹部311に上方から固定具(二点鎖線にて示す)を打ち込んで下地4に固定する。
また、前記折返し部33は、外側を向くように配設され、殆ど全ての図面では左側に向くように形成され、
図2(b)にて右方に配されている保持部材3では、折返し部33は右側に向くように配設されている。
【0041】
そして、これらの部材から構成される本発明の外装構造では、前記保持部材3への前記外装板1,2の取付については、
図1(b)に示すように谷側外装板2の下ハゼ22を、保持部材3の折返し部33の内側へ収容されるように係合させると共に、山側外装板1の上ハゼ12を、下ハゼ22に面接触させて係合する。
なお、この第1実施例では、前述のように上ハゼ12は、折り下げ片121と上向きの折返し片122とその先端の内側に折り返した山側当接面123とからなり、下ハゼ22は、折り上げ片221と下向きの折返し片222とその先端を内側に折り返した山側当接面223とからなる構成であるため、上ハゼ12と下ハゼ22との面接触は、具体的には山状当接面123と谷状当接面223との面接触である。
【0042】
前記下地4は、
図1(a)では破線にて示したが、
図2(b)に示すように躯体(C形鋼)4d上に固定した略一定厚みの野地材4cの表面に、防水シート材4bを敷設した構成である。
また、前記山側外装板1の裏面、即ち左右に隣接する前記谷側外装板2,2間には、断面略矩形状の断熱材5を配した構成とした。
【0043】
このような各部材から構成される本発明の外装構造の施工手順を、以下に簡単に説明する。
まず、下地4上に、所定間隔にて前記構成の保持部材3を固定する。
この工程の際には、予め谷側外装板2の寸法に応じて保持部材3を取り付けるが、配設する谷側外装板2に折返し部33が向くように保持部材3を配設し、その固定部31には固定具3bを上方から打ち込んで下地4(躯体4d)に固定する。
【0044】
次に、前述のように下地4上に固定した保持部材3の折返し部33に、前記構成の谷側外装板2の下ハゼ22(の下向き折返し片222)を係合させて取り付ける。なお、この工程で、保持部材3,3の配設間隔に断熱材5を取り付けておくようにしてもよい。
この工程にて、谷側外装板2の配設は、隣接する保持部材3,3間に谷側外装板2を落とし込むように配設すればよい。
【0045】
続いて山側外装板1を取り付けた谷側外装板2の上方に臨ませ、下方へ向かって押し下げるように係合させて取り付ける。この山側外装板1の配設に際し、断熱材5を抱き込むように同時に配設してもよいし、前述のように予め断熱材5のみを取り付けておくようにしてもよい。
この工程では、山側外装板1を下降させるに伴って、上ハゼ12,12(の上向き折返し片122,122)が、下ハゼ21,21(の下向き折返し片222,222)に当接しながら弾性に抗して拡開し、上向き折返し片122の上端が下向き折返し片222の下端を過ぎると、最終的に山状当接面123が谷状当接面223に面接触して係合する。
【0046】
このように施工される本発明の外装構造では、上ハゼ12,12及び下ハゼ22,22の係合を採用し、しかも毛細管現象を防止する空間として利用される上方が開放された空間13を有するため、雨水の浸入や毛細管現象による雨水の浸入を生ずることなく、しかも前述のように山側外装板1を上方から下方へ押圧するだけの簡易な操作にて、弾性的に係合(嵌合)させて取り付けることができるため、施工性にも極めて優れている。
【0047】
続いて
図3に基づいて、本発明の外装構造の施工性以外の効果を説明するが、前述の従来のビス止め方式の外装構造を示す
図4(a),
図5(a)、並びに従来のハゼ締め式の外装構造を示す
図4(b),
図5(b)と比較しながら説明する。
【0048】
まず、
図3(a)には、本発明の外装構造の大きな特徴である「面接触」の部分にハッチングを施すと共に、
図3(a),(c)には上方が開放する空間23にはクロスハッチングを施した。また、
図3(b)には、その防水効果を示すため、想定される雨水の浸入経路を示した。
この
図3(b)に示すように、係合部分(123,223)の下方に上方が開放する空間13を形成したので、該空間13が毛細管現象を防止する上、該空間13が排水路として機能し、万が一、浸入した雨水もこの排水路(13)にて流下させることができる。
また、「面接触」とは、前述のように上ハゼ12に形成した山側当接面123と下ハゼ22に形成した谷側当接面223とが面接触して係合するものであり、従来のハゼ締め式のような密接状の係合が決して行われない構成である。
さらに、山側外装板1の裏面に取り付けた気密性を有する裏貼り材1bにより、風雨が吹き込む経路を塞いでいる。そのため、図中に点線で示す矢印のように、水が内部に浸入するためには、裏貼り材1bや下ハゼ22を越えて吹き上げられなければならないため、防水性が高いものである。
【0049】
これに対し、従来のビス止め方式や従来のハゼ締め式では、そのような毛細管現象を防止する空間13が形成されず、同様の効果も奏しないことは
図4(a),(b)から明らかである。
即ち
図4(a)には、従来のビス止め仕様を示したが、太線にて示すように山側外装板6の表面を伝う雨水Wが、この山側外装板6の側縁成形部62と谷側外装板6'の側縁成形部62'との重合部分に側方から打ち込んだ固定ビス7のビス穴から浸入してしまう。
また、
図4(b)には、従来のハゼ締め仕様を示したが、やはり太線にて示すように山側外装板8の表面を伝う雨水Wが、谷側外装板8'と吊子9とのハゼ締め部分から毛細管現象により内部に浸入してしまう。即ちこの仕様における係合は、
図4(c)に拡大して示すように上ハゼ82に設けた上向き折返し片821と下ハゼ83に設けた下向き折返し片831とが密接状に係合して吊子9の係合部92に係合させているため、毛細管現象が生じ,内部への雨水の浸入を生じてしまう。
なお、これらの従来の仕様において、仮に止水性に優れたシール材を使用してビス穴やハゼ締め部の水密性を向上したとしても、シール材の経年劣化にて雨水の浸入が生じてしまう。
【0050】
次に、
図3(c)に基づいて、本発明の外装構造の負圧作用時の防水性能について説明する。
図3(c)に示すように吹き上げ風等に起因する負圧が作用すると、図中に白抜き矢印にて示すように通常は水平状の平板部11,21を上方へ引っ張り上げるような力(負圧)が作用し、上方に凸状に変形させる現象が生じる。その際、谷側外装板2の下ハゼ22は負圧作用以前から保持部材3に当接しているため、山側外装板1の上ハゼ12に上方へ引っ張られる力(負圧)が作用し、ハッチング矢印にて示すようにその山側当接面123が下ハゼ22の谷側当接面223に当接しつつ上方へ滑るように引っ張り上げられ、山側当接面123と上向き折返し片122の上端が、谷側外装板2の折り上げ片221に当接する。また、上ハゼ12の下方からの押圧により引き上げられる下ハゼ22は、その上方に位置する裏貼り材1bを圧縮状に押圧する。
そして、山側当接面123と上向き折返し片122との上端が、谷側外装板2の折り上げ片221に当接する。
このように負圧作用時には、負圧が作用していない状態よりも上ハゼ12と下ハゼ22とがむしろ深く係合して外れ難くなる。
【0051】
なお、山側外装板1と谷側外装板2とは同一形状に成形したので、前記上ハゼ12の上方へ引っ張り上げられる挙動に伴い、山側外装板1の上ハゼ12の折り下げ片121が、下ハゼ22の谷側当接面223と下向き折返し片222との下端に当接する。
このようにハゼ12,22が縦壁(折り上げ片221,折り下げ片121)に接することで2つの独立した空間13,23が発生し、毛細管現象による水の侵入が防止される。
また、係合部分123,223の下方の空間13は上方が塞がれ、一方、係合部分123,223の上方に位置する空間23は負圧作用以前には下方が開放しているが、負圧が作用すると前述のように下方が塞がれ、隙間がなくなり、風雨の吹き込みが防止される。しかも、前述のように裏貼り材1bは、下ハゼ22の下向き折返し片222から圧縮状に押圧されているので、水が内部に浸入する隙間がないため、極めて防水性が高い。
【0052】
これに対し、
図5(a)には、従来のビス止め仕様における負圧作用時を示しているが、ビス7自体の抜けは生じなくても、ビス7の直近の側縁成形部62,62'に変形が生じており、この状態では、所定の特性は得られない。
また、同図(b)には、従来のハゼ締め仕様における負圧作用時を示しているが、ハゼ締めの一部が負圧による引っ張り作用で解除されており、しかも前述のように上ハゼ82に設けた上向き折返し片821と下ハゼ83に設けた下向き折返し片831とが密接状に係合して吊子9の係合部92に係合しているため、毛細管現象が生じてしまうし、この状態では、到底所定の特性は得られない。
【0053】
なお、前記
図1(b),(c)には、前記第1実施例に用いた外装板1,2や保持部材3を示しているが、成形時の状態(=組み付け前)ではなく、組み付け状態における各部材を示すものである。
また、前記
図3(c)にて説明したように、負圧が作用した際には、山側当接面123と上向き折返し片122の上端が、谷側外装板2の折り上げ片221に当接し、山側外装板1の折り下げ片121が、下ハゼ22の谷側当接面223と下向き折返し片222との下端に当接するが、通常の敷設状態では、折り上げ片221と上向き折返し部分124、折下片121と下向き折返し部分224は、接触していない。即ち少なくとも折り下げ片221と上向き折返し片124が接触していないことで、通常時の雨水の吸い込みを防止することができる(開放した下向き空間となるため、吹きつけたられた雨水が溜まることなく自然に流下する)。
【0054】
図6(a)〜(d)及び
図7(a)〜(d)に示す第2実施例の外装構造は、谷側当接面223と山側当接面123とが上り傾斜するように面接触している前記第1実施例とは異なり、谷側当接面223"と山側当接面123"とが略水平状に面接触している構成である。
【0055】
この第2実施例における山側外装板1"の上ハゼ部(下向き側縁成形部)12"は、
図6(d)に示すように下端を内側に折り返した上向き折返し部分124"を備えている。この上ハゼ12"は、下向きの折り下げ片121"と上向き折返し片122"とその先端の内側に折り返した下向き片である山側当接面123"とからなり、前記上向き折返し部分124"は、上向き折返し片122"と山側当接面123"とから構成されている。
また、谷側外装板2"の下ハゼ22"は、下向き折返し部分224"を備え、上向きの折り上げ片221"と下向き折返し片222"とその先端を内側に折り返した上向き片である谷側当接面223"とからなり、前記下向き折返し部分224"は、下向き折返し片222"と谷側当接面223"とから構成されている。
【0056】
また、この第2実施例における保持部材3"は、
図6(d)に示すように下端に下地4"への固定部31"を有する起立部32"と、該起立部32"の上端を外側へ折返した折返し部33"と、を有する構成である。前記固定部31は、略水平状に延在し、上方から固定具3b"を打ち込んで下地4"に固定する。
さらに、前記下地4"は、略一定厚みの野地材の表面に、防水シート材4b"を敷設した構成である。
また、前記山側外装板1"の裏面、即ち左右に隣接する前記谷側外装板2",2"間には、断面略矩形状の断熱材5"を配した構成とした。
【0057】
この第2実施例の外装構造では、谷側当接面223"と山側当接面123"とが略水平状に面接触する構成であるため、
図6(b)に示すように山側外装板1"を押し下げた際に下向き側縁成形部(上ハゼ)12"が外側へ拡開する方向へ変形する。
それに対し、前記第1実施例では、上下方向のストローク(押し下げ高さ)を必要とする。但し、隙間が大きいので施工しやすい(不陸等の影響を受けにくい)という利点を有している。
一方、この第2実施例では、
図6(c)に一点鎖線で囲うように上ハゼ12"の下端が谷側外装板2"の平板部21"に近接する外装構造が得られ、言い換えれば上下方向の押し下げ高さを必要とせず、ストロークを横方向(幅方向)のみとできる。
【0058】
図7(a)〜(d)は、この第2実施例の効果を示すものである。
この第2実施例では、上ハゼ12"の下端が谷側外装板2"の平板部21"に近接する意匠性を備える外装構造が得られるため、
図7(a)に破線矢印で示すように雨や風の浸入を抑制することができる。
図7(b)は、より詳細に防水性能を示すものであり、排水路(上方が開放する空間)13"により、万が一、浸入した雨水も流下できることは前記第1実施例と同様であるが、この水が図中に破線矢印で示すように更に内部に入ろうとするには、ハゼ(22"等)を越えて吹き上げられなければならない(決してあり得ない)ので、この第2実施例は極めて防水性が高いものである。
図7(c),(d)は、何れも破線矢印で示す負圧時における作用を示しており、山側外装板1"の上ハゼ12"が持ち上げられると、上ハゼ12"の上向き折返し片122"の上端が下ハゼ22"の折り上げ片221"に当接するため、隙間がなくなり吹き込みが防止される。また、ストロークを横方向(幅方向)のみとしたことにより、ハゼの高さ、隙間等を自由に設定でき、外装材の意匠性の選択肢が増えるという利点もある。