(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607706
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】加工処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/52 20060101AFI20191111BHJP
C21D 1/74 20060101ALI20191111BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
C21D9/52 103B
C21D9/52 103A
C21D1/74 W
C21D1/42 D
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-111784(P2015-111784)
(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公開番号】特開2016-222986(P2016-222986A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上本 敏史
(72)【発明者】
【氏名】飯干 福馬
【審査官】
橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−081413(JP,A)
【文献】
特開2004−043890(JP,A)
【文献】
実開昭58−078513(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00−9/44
C21D 9/50−9/66
C21D 1/00−1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺物の素材に潤滑剤を付着して加工する加工工程と、
螺旋状の誘導加熱コイルに挿通されている絶縁管中を昇温ガス雰囲気とし、前記加工工程を経た前記長尺物の素材を前記絶縁管内に挿通して誘導加熱する熱処理工程と、
を含み、
前記熱処理工程において、加熱器により昇温したガスを前記絶縁管の上流側から前記絶縁管内に導入し、前記長尺物の素材を当該素材の移送方向にガスブローする加工処理方法。
【請求項2】
長尺物の素材に潤滑剤を付着して加工する加工手段と、
螺旋状の誘導加熱コイルに絶縁管を挿通して成る加熱手段と、
を備え、
前記加工手段により加工された長尺物の素材を、昇温ガス雰囲気中の前記絶縁管内に挿通して前記誘導加熱コイルにより熱処理する、加工処理装置であって、
前記加熱手段には、ガスを昇温する加熱器を有し、前記加熱器により昇温したガスを前記絶縁管の上流側から前記絶縁管内に導入するガス導入手段が設けられている加工処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺物を得るために素材を加工して熱処理する加工処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼棒や鋼線などの長尺物は、引抜きなどの塑性加工を施した上で、強度や靭性を保つために焼入れ、焼戻し等の熱処理を施して製造される。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されている技術では、高周波焼入れを行う際、前工程で発生したゴミや切粉がワークに付着しているとスパーク等を発生するおそれがあるため、圧縮空気をワークに噴射してゴミや切粉を吹き飛ばしている。また、特許文献2に開示されている技術では、コイルに付着したスケールを除去するために、コイルの外周側に洗浄ノズルを設け、洗浄ノズルから水を噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−128625号公報
【特許文献2】特開2011−1580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した長尺物は、潤滑剤を素材に付着して塑性加工し、そのまま連続して素材に潤滑材が付着した状態で高周波熱処理する。そのため、高周波加熱コイルの寿命が短くなる。
【0006】
そこで、本発明は、塑性加工した素材を連続して高周波加熱処理を行っても、製造ラインに支障をきたすことなく、低コストで長尺物を製造することができる、加工処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するための次の手段を講じる。
[1]長尺物の素材に潤滑剤を付着して加工する加工工程と、
螺旋状の誘導加熱コイルに挿通されている絶縁管中を昇温ガス雰囲気とし、前記加工工程を経た前記長尺物の素材を前記絶縁管内に挿通して誘導加熱する熱処理工程と、
を含
み、
前記熱処理工程において、加熱器により昇温したガスを前記絶縁管の上流側から前記絶縁管内に導入する加工処理方法。
[2]長尺物の素材に潤滑剤を付着して加工する加工手段と、
螺旋状の誘導加熱コイルに絶縁管を挿通して成る加熱手段と、
を備え、
前記加工手段により加工された長尺物の素材を、昇温ガス雰囲気中の前記絶縁管内に挿
通して前記誘導加熱コイルにより熱処理する、加工処理装置
であって、
前記加熱手段には、ガスを昇温する加熱器を有し、前記加熱器により昇温したガスを前記絶縁管の上流側から前記絶縁管内に導入するガス導入手段が設けられている加工処理装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長尺物の素材に潤滑剤を付着して加工した上で、連続して、螺旋状の誘導加熱コイル内に挿入された絶縁管内の昇温ガス雰囲気中に移送するので、誘導加熱される前後間において、長尺物の素材に付着した潤滑剤を除去することができる。昇温ガスを長尺物の素材にブローすることで、絶縁管の内壁に潤滑剤又はその変形物が付着し難くなり、絶縁管を取り替える等のメンテナンス回数が減り、製造ラインに支障をきたすことなく、低コストで長尺物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る加工処理装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る加工処理装置を模式的に示す図である。
【0011】
本発明の実施形態に係る加工処理装置1は、
図1に示すように、複数組の搬送機構(図示せず)により長尺物の素材Wが移送されるライン上に、加工手段2と加熱手段3とが上流側から下流側に順に配置されて構成される。
【0012】
加工手段2は、潤滑剤を素材Wに付着して塑性加工等の加工処理を行う。塑性加工としては、例えば引抜加工が挙げられる。
【0013】
加熱手段3は、加工工程を経た素材Wを通電加熱する。
図1に示す形態では、加熱手段3は、螺旋状の誘導加熱コイル3aと、誘導加熱コイル3aの中空に挿通した絶縁管3bと、絶縁管3b内をガス雰囲気とするためのガス導入手段3cとを有する。
【0014】
加熱手段3は、誘導加熱コイル3aの中空に挿入して移送される素材Wを誘導加熱する。螺旋状の誘導加熱コイル3aの長さは、素材Wの太さ及び長さと、誘導加熱コイル3aに供給する電流の大きさにより、所定の温度まで素材Wを加熱するように選定される。絶縁管3bは、素材Wと誘導加熱コイル3aとの間でスパークの発生を阻止するために設けられる。絶縁管3bは誘導加熱コイル3aの両側に突出しており、絶縁管3bの上流側にはガス導入手段3cが接続されている。
【0015】
ガス導入手段3cは、ガス導入管3dと、ガス導入管3dに供給するガスを加熱する加熱器3eとを備える。ガス導入管3dは、絶縁管3bの上流側端に当接して係合するようにその先端が一部欠けている。
【0016】
本発明の実施形態に係る加工処理装置1によれば、搬送手段により素材Wが送り出され、先ず、加工手段2により、素材Wに例えば引抜き等の塑性加工が施される。その際、加工手段2において潤滑剤を素材Wの表面に付着して塑性加工する。よって、加工手段2から加熱手段3へ移送される素材Wの表面に潤滑剤が付着している。
【0017】
加熱手段3において、絶縁管3b内は、ガス導入手段3cにより昇温したガス雰囲気となっているので、誘導加熱される前に又はその途中で、素材Wの表面に付着した潤滑剤を燃焼するなどして素材Wの表面から除去される。ガス導入手段3cにより昇温ガスが順次導入されるので、誘導加熱コイル3aにより誘導加熱される際又はその途中において潤滑剤が素材Wから除去され又は潤滑剤が昇温により反応して一部が気体の生成物となり、絶縁管3bから外部に放出される。
【0018】
このように、絶縁管3b内の上流側で、素材Wに昇温ガスを斜めにブローするので、そのガス流によって潤滑剤が気化又は別の生成物として気化しても、絶縁管3bの内周面に飛来する前に絶縁管の口から外部に放出され易くなる。従って、絶縁管3bの内周面が、潤滑剤又はその熱による生成物が付着し難くなり、絶縁管内に潤滑剤等の汚物が堆積し難くなる。
【0019】
このように、絶縁管内に潤滑剤の汚物が堆積し難いことから、長尺物の製造ラインのうち、加熱手段3の一部、例えばガス導入手段3cを絶縁管3bから外して絶縁管3bを交換等する回数が減少し、製造効率を向上させることができる。
【0020】
潤滑剤としては、例えば粉末の潤滑剤や湿式の伸線用潤滑剤、引抜潤滑剤が用いられ、その潤滑剤には各種の有機物や界面活性剤などが含まれているので、昇温のガスにより素材Wから除去され易い。
【0021】
ガスとしては、空気、不活性ガス等が用いられる。不活性ガスを用いることで、誘導加熱の際、素材Wの表面が酸化され難くなる。また、空気を用いることで、製造コストを抑えることができる。不活性ガスを用いるか空気を用いるかは製造される長尺物の種類や品質により決定される。
【符号の説明】
【0022】
1:加工処理装置
2:加工手段
3:加熱手段
3a:誘導加熱コイル
3b:絶縁管
3c:ガス導入手段
3d:ガス導入管
3e:加熱器
W:長尺物の素材