【文献】
Molecular Cloning: A Laboratory Manual,1989年,2nd ed.,p.A2-A3
【文献】
LB培地、LB寒天培地、TB培地レシピ,2012年 5月 8日,http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/chem/IMCB-8ken-HP/Lab_Manuals/entori/2010/4/8_LB_pei_deno_zuori_fang_(ye_ti&han_tian)_files/LB%E5%9F%B9%E5%9C%B0%E3%83%BBLB$B4(E7G%5DCO!%26TB%E5%9F%B9%E5%9C%B0%E3%83%AC%257%25T.pdf
【文献】
PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology,2011年,65(6),715-729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
培地の温度が、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり、少なくとも約93℃、少なくとも約95℃、少なくとも約97℃、少なくとも約99℃、少なくとも約101℃、少なくとも約102℃、又は少なくとも約103℃に上昇させられる、請求項1から34の何れか一項に記載の方法。
温度が少なくとも約5秒、少なくとも約6秒、少なくとも約7秒、少なくとも約8秒、少なくとも約9秒、少なくとも約10秒、少なくとも約11秒、少なくとも約12秒、少なくとも約13秒、少なくとも約14秒、又は少なくとも約15秒間上昇させられる、請求項35に記載の方法。
ウイルスがパルボウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科、カリシウイルス科及びピコルナウイルス科からなる群から選択される、請求項1から39の何れか一項に記載の方法。
ウイルスが、ウイルスがパルボウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科、カリシウイルス科及びピコルナウイルス科からなる群から選択される、請求項44から58の何れか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明者らは、細胞培養培地のpHを調節すること、カルシウム濃度を調節すること、リン酸濃度を調節すること、カルシウム及びリン酸濃度の両方を調節すること、並びに/又は細胞培養培地中のリン酸及びカルシウムの総量を制限すること、又はpH、カルシウム濃度及びリン酸濃度の組合せを調節すること、並びに細胞培養培地を十分な時間にわたり特定の温度範囲でのHTST処理にかけることが培地中のウイルス(あるいは他の感染性及び/又は外来因子)を不活性化するのに有効であり、沈殿物の形成を最小限にする又は妨げることにより装置の付着物も減少させるという予期しない発見をした。
【0015】
本発明は、ウイルスを不活性化するための高温短時間(HTST)処理に用いる装置上の沈殿物を減少させる方法を提供するものであり、方法は、装置に用いる細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、培地は、HTST処理中に約pH5.0から約pH6.9まで又は約pH5.0から約pH7.2までのpHを有する。他の態様において、本発明は、ウイルスを不活性化するための高温短時間(HTST)処理に用いる装置上の沈殿物を減少させる方法を提供するものであり、方法は、装置に用いる細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、培地は、HTST処理中に約pH5.0から約pH7.2までのpHを有する。他の態様において、本発明は、ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置上の沈殿物を減少させる方法を提供するものであり、方法は、HTST処理中、装置に用いる細胞培養培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む。
【0016】
他の態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法であって、HTST処理中、培地は約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する方法を提供する。他の態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法であって、HTST処理中、培地は約pH5.0から約pH7.2までのpHを有する方法を提供する。本発明の他の態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。いくつかの態様において、次に、培地のpHを細胞培養のポリペプチド産生期のために約6.9−7.2にする。他の態様において、本発明は、HTST処理中、細胞培養培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む、細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供する。
【0017】
I.一般的技術
本明細書で述べた又は言及した技術及び手順は、一般的に十分に理解されており、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Mannual 3d edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausbelら編,(2003));the series Methods in Enzymology(Academic Press, Inc.):PCR 2: A Practical Approach(M. J. MacPherson、B. D. Hames及びG.R. Taylor編(1995));Harlow及びLane編(1988) Antibodies;A Laboratory Manual and Animal Cell Culture(R. I. Freshney編(1987));Oligonucleotide Synthesis(M. J. Gait編、1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook(J. E. Cellis編, 1998) Academic Press; Animal Cell Culture(R. I. Freshney編,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P. Mather及びP.E. Roberts, 1998)Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures(A. Doyl, J.B. Griffith及びD.G. Newell編,1993-8)J.Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology(D. M. Weir及びC.C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M. Miller及びM. P. Calos編,1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction(Mullisら編,1994);Current Protocols in Immunology(J.E. Coliganら編,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley及びSons,1999);Immunobiology(C. A. Janeway及びP. Travers,1997);Antibodies(P. Finch、1997);Antibodies:A Practical Approach(D. Catty編,IRL Press、1988-1989);Monoclonal Antibodies;A Practical Approach(P. Shepherd及びC. Dean編, Oxford University Press, 2000);Using Antibodies:A Laboratory Manual(E. Harlow及びD. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999);The Antibodies(M. Zanetti及びJ. D. Capra編、Harwood Academic Publishers、1995);及びCancer:Principles and Practice of Oncology(V. T. DeVitaら編, J. B. Lippincott Company, 1993)に記載されている広く用いられる方法論などの従来の方法論を用いて当業者により一般的に用いられている。
【0018】
II.定義
細胞を「培養すること」は、細胞の生存及び/又は成長及び/又は細胞の増殖に適する条件下で細胞を細胞培養培地と接触させることを意味する。
【0019】
「バッチ培養」は、細胞を培養するためのすべての成分(細胞及びすべての細胞培養栄養素を含む)が培養工程の開始時に培養容器に供給される培養を意味する。
【0020】
「流加培養」という語句は、本明細書で用いているように、細胞及び培養培地が最初に培養容器に供給され、追加の培養栄養素が培養工程中に培養に連続的又は不連続的に供給され、培養の終了の前の定期的な細胞及び/又は産物の採取を伴う又は伴わないバッチ培養を意味する。
【0021】
「潅流培養」は、細胞が例えば、ろ過、カプセル封入、マイクロキャリアへの固定等により培養中に拘束され、培養培地が連続的又は間欠的に導入され、培養培地から除去される培養である。
【0022】
「培養容器」は、細胞を培養するために用いられる容器を意味する。培養容器は、細胞の培養に有用である限り、任意のサイズであり得る。
【0023】
「培地」及び「細胞培養培地」という用語は、細胞を成長させる又は維持するために用いられる栄養源を意味する。当業者により理解されているように、栄養源は、成長及び/又は生存のために細胞により要求される成分を含み得る、あるいは細胞の成長及び/又は生存を補助する成分を含み得る。ビタミン、必須又は非必須アミノ酸及び微量元素は、培地成分の例である。「培地(一及び複数)」は、本明細書を通して同義で用いられることを理解すべきである。
【0024】
「化学的に定義された細胞培養培地」又は「CDM」は、動物血清及びペプトンなどの動物由来又は非定義産物を含まない明記された組成物を含む培地である。当業者により理解されるように、CDMは、細胞が接触し、ポリペプチドをCDM中に分泌する、ポリペプチドの生産の工程に用いることができる。したがって、組成物は、CDM及びポリペプチド産物を含み得ること、またポリペプチド産物の存在は、CDMを化学的に定義されていない状態にしないことが理解される。
【0025】
「化学的に定義されていない細胞培養培地」は、化学組成を明記することができず、動物血清及びペプトンなどの1つ又は複数の動物由来又は非定義産物を含み得る培地を意味する。当業者により理解されるように、化学的に定義されていない細胞培養培地は、動物由来産物を栄養源として含み得る。
【0026】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために本明細書で同義で用いる。ポリマーは、線状又は分枝状であり得、修飾アミノ酸を含み得、非アミノ酸により中断され得る。該用語は、自然に又は介入、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化又は標識化合物とのコンジュゲーションなどの他の操作若しくは修飾により修飾されたアミノ酸ポリマーも含む。該定義内に例えば、アミノ酸の1つ又は複数の類似体(例えば、非天然アミノ酸等)並びに当技術分野で公知の他の修飾を含むポリペプチドも含まれる。「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書で用いているように特に抗体を含む。
【0027】
「単離ポリペプチド」は、それが発現した細胞又は細胞培養から回収されたポリペプチドを意味する。
【0028】
「核酸」は、本明細書で同義で用いているように、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチド若しくは塩基、及び/又はそれらの類似体、あるいはDNA若しくはRNAポリメラーゼにより、又は合成反応によりポリマーに組み込むことができる基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の変化は、ポリマーのアセンブリの前又は後に与えることができる。
【0029】
「単離核酸」は、その通常の状況外又はそれから分離された、天然に存在しない、組換え又は天然に存在する配列を意味し、含む。
【0030】
「精製」ポリペプチドは、ポリペプチドが、その自然環境に存在する且つ/又は実施条件下で最初に産生され且つ/又は合成され且つ/又は増幅されたときよりも純粋である形で存在するようにポリペプチドの純度が増加したことを意味する。純度は、相対的な用語であり、絶対的な純度を必ずしも意味しない。
【0031】
「抗体(一又は複数)」という用語は、最も広い意味で用い、例えば、単一モノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト及び中和抗体)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、イムノアドヘシン及びそれらが所望の生物的又は免疫学的活性を示す限り抗体の断片を特に含む。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、本明細書で抗体と同義で用いる。
【0032】
「抗体断片」は、全長抗体の一部、一般的にその抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片;単鎖抗体分子;ダイアボディ;線状抗体;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0033】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で用いているように実質的に均一な抗体の集団(すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量存在し得る可能な自然突然変異を除いて同じである)から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は、単一抗原部位に対して高度に特異的である。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤と対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一決定基に対して誘導される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体により汚染されずに合成できる点が有利である。「モノクローナル」という修飾語句は、特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈すべきでない。例えば、本発明に有用であるモノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature,256:495(1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により調製することができ、あるいは細菌、真核動物又は植物細胞中で組換えDNA法を用いて調製することができる(例えば、米国特許第4816567号参照)。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら、Nature,352:624−628(1991)及びMarksら、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)に記載されている技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0034】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、重及び/又は軽鎖の一部が特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同であるが、鎖(一又は複数)の残りの部分が他の種に由来する又は他の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体並びにそれらが所望の生物学的活性を示す限りそのような抗体の断片における対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体を含む(米国特許第4816567号及びMorrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984)参照)。本明細書における対象のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体を含む。
【0035】
「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する最小限の配列を含むキメラ抗体である非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の種類である。大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の抗体特異性、親和性及び容量を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種の超可変領域(ドナー抗体)の残基により置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によって、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基により置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見いだされない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。一般的に、ヒト化抗体は、超可変ループのすべて又は実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FRsのすべて又は実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のそれである、少なくとも1つ、一般的に2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、一般的にヒト免疫グロブリンのそれも任意選択的に含む。さらなる詳細については、Jonesら、Nature,321:522−525(1986);Riechmannら、Nature,332:323−329(1988)及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992)を参照のこと。
【0036】
「混入物」は、所望のポリペプチド産物と異なる物質を意味する。混入物は、制限なく、CHOPなどの宿主細胞物質;浸出プロテインA;核酸;所望のポリペプチドの変異体、断片、凝集体又は誘導体;他のポリペプチド;エンドトキシン;ウイルス混入物;細胞培養培地成分を含む。
【0037】
本明細書で用いているように、「沈殿物」という用語は、溶液中の固体又は不溶性粒子の形成を意味する。沈殿物の様々な形が存在し、具体例としての沈殿物は、本明細書に記載されている。非限定的な例は、リン酸カルシウム沈殿、不溶性ウイトロカイト、酸化物、リン酸鉄及びリン酸鉄カルシウム沈殿物を含む。リン酸カルシウム沈殿は、溶液中のカルシウム及びリン酸が不溶性粒子、すなわち、沈殿物を形成する過程である。不溶性粒子は、リン酸カルシウムと呼ぶことができる。リン酸カルシウムは、制限なしに、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ウイトロカイト及びヒドロキシアパタイトを含む。不溶性粒子は、さらなる成分、すなわち、ポリペプチド、核酸、脂質、鉄、キレート剤及び金属を含み得る。さらなる沈殿によるあるいは集合、凝集及び/又は転位によるそのような粒子の成長も定義に含まれる。
【0038】
本明細書で用いているように、「付着物」という用語は、処理装置の表面上の望ましくない物質の蓄積及び形成を意味する。付着物は、非定常状態の運動量、質量及び熱移動の問題の組み合わされたものとして特徴づけられ、化学的、溶解、腐食及び生物学的過程も起こる。付着物は、沈殿、すなわち、リン酸カルシウムの沈殿に起因し得る。
【0039】
本明細書で用いているように、「外来因子」は、ウイルス及び細菌(滅菌用フィルターを通過し得る細菌を含む)を含む。「感染因子」は、「外来因子」の1種である。
【0040】
本明細書に記載する本発明の態様及び実施態様は、態様及び実施態様を「含む」、「からなる」及び「から本質的になる」ことを含むことが理解される。
【0041】
本明細書で用いるために、特に明確に示さない限り、「a」、「an」及びtheのような用語の使用は、1つ又は複数を意味する。
【0042】
本明細書における「約」値又はパラメーターへの言及は、当該値又はパラメーターそれ自体を対象とする実施態様を含む(且つ記述する)。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。
【0043】
III.細胞培養培地
細胞培養培地中のウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化する方法は、ウイルス汚染、起こり得るウイルス汚染又は他の感染因子による汚染又は外来因子による汚染への懸念が存在する場合にあらゆる種類の細胞培養培地に適用することができる。本発明は、起こり得るウイルス汚染並びに実際のウイルス汚染が存在する場合に組成物及び方法が細胞培養及び細胞培養培地に適用できることを予期していることが理解される。
【0044】
ウイルス不活性化、沈殿物の形成の減少及びHTST処理に用いる装置の付着物の減少の方法は、ウイルス、外来因子及び他の感染因子が不活性化された場合に細胞培養培地の組成物を産生するのに用いることができる。したがって、細胞培養培地の組成物並びにそれがウイルス不活性化、外来因子不活性化及び/又は感染因子不活性化のシステムを通過しているときのその中間物が予期され、本明細書で詳述する。特定の細胞培養培地パラメーター(pH、カルシウムレベル及びリン酸レベル)の調節により、培地中に存在するウイルス混入物及び他の混入物を不活性化するのに有効な温度でHTST処理にかけた後の培地中の沈殿物の形成を減少又は妨げることが確認された。
【0045】
pH、カルシウム濃度又は量及びリン酸濃度又は量(並びにそれらのいずれかの組合せ)などの細胞培養培地パラメーターの独立した調節は、細胞培養に対する適合性をすべて維持すると同時に、沈殿物(例えば、カルシウム及びリン酸を含む複合体)を減少させ、HTST装置の付着物を減少させ、フィルター付着物を減少させるためにHTST処理とともに用いることができる。細胞培養に対する適合性を維持する細胞培養培地は、細胞が増殖し、成長し、生存し、ポリペプチド、タンパク質又は化合物を産生し、そのような産物を培地中に分泌することを可能にし、細胞培養の適合性の目的のために当業者が含めるべきであることを理解すると思われる他の特徴を有する。
【0046】
本明細書で述べる細胞培養パラメーターの独立した調節は、細胞培養工程に適用することができ、ポリペプチド及び/又はタンパク質の産生のためだけでなく、細胞、培地及び培地中の他の成分などの産物の生成のためにも有益であり得る。細胞培養培地中の沈殿物の低減又は予防のためのこれらの細胞培養培地パラメーターの調節は、ポリペプチド製剤などの生物学的製剤の生産に有益である。これらの調節されたパラメーター又は成分を有する細胞培養培地の使用は、生物学的製剤からのウイルス混入物を除去するために並びに細胞培養培地の性能に影響を及ぼし、培養細胞系からの生物製剤の効率的生産を妨げ、HTST装置の付着物の一因となり得る沈殿物の低減又は予防に有効である。本明細書で詳述する培地は、細胞成長、維持及び生物製剤の生産のあらゆる段階で用いることができ、基礎培地及び/又はフィード培地に用いることができる。一変形態様において本明細書で述べた培地は、HTST処理にかけた培地中で成長した細胞培養から単離された生物製剤を含む組成物の許容される濁度又は沈殿物レベルをもたらす。
【0047】
次の成分:(a)カルシウム及び(b)リン酸の1つ又は複数を含む細胞培養培地を提供する。いくつかの変形態様において、細胞培養培地は、成分(a)若しくは(b)、又は成分(a)及び(b)を含む。他の変形態様において、細胞培養培地は、成分(a)及び(b)を含まない。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいて、細胞培養培地は、HTST処理中、ウイルスを不活性化するために用いられる。態様のいずれかにおいて、細胞培養培地は、培地を調製するために用いられる原料及び取り扱いに起因して存在する可能性のあるウイルスを不活性化するためにHTSTにより処理する。
【0048】
培地成分は、当技術分野で公知である形で組成物に加えることができる。例えば、カルシウムは、塩化カルシウム、塩化カルシウム二水和物、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、L−乳酸カルシウム水和物、フォリン酸カルシウム及び硝酸カルシウム四水和物として提供することができるが、これらに限定されない。例えば、リン酸は、リン酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、第一リン酸カリウム、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸カルシウム及び第二リン酸カリウムとして提供することができるが、これらに限定されない。
【0049】
リン酸とカルシウムとの比は、カルシウム及びリン酸を含む複合体(例えば、リン酸カルシウム(CaPO
4)複合体)が形成しないようにHTST処理のために調節することができる。一変形態様において、カルシウム及びリン酸を含む複合体(例えば、リン酸カルシウム(CaPO
4)複合体)が形成しないようにリン酸及びカルシウムの総量を調節又は制限する。他の変形態様において、CaPO
4複合体の形成が成功裏でのHTST操作(例えば、HTST及びろ過装置の付着物なし)を可能にするようにリン酸及びカルシウムの総量を制限する。問題となる条件の検出方法は、一般的に濁度、HTST及びろ過装置の稼働観察並びにHTST及びろ過装置の目視観察(例えば、ボロスコープの使用による)を含む沈殿の間接測定を伴う。一態様において、培地は、リン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、総リン酸及びカルシウムは、約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満の培地中濃度である。他の変形態様において、総リン酸及びカルシウムは、約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。一変形態様において、総リン酸及びカルシウムは、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中に約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。本発明の態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のカルシウム及びリン酸の総量は約10mM未満に制限する。本発明のさらなる態様において、培地中のカルシウム及びリン酸の総量を、次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生のために十分なレベルに上昇させる。いくつかの態様において、細胞培養培地は、カルシウム及びリン酸を含まない。
【0050】
培地がリン酸を含む場合、細胞培養培地中のカルシウムレベルを調節することができる。調節は、カルシウムレベルの増加又は減少であり得る。いくつかの実施態様において、カルシウムレベルを減少させる(カルシウムの除去を含む)。他の実施態様において、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにカルシウムレベルを減少させる。他の実施態様において、HTST処理前に、培地からカルシウムを除去する。これらの実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制される(例えば、これらの調節が行われなかった場合に生じる複合体と比較したときの量の減少)ようにpHを調節する。他の実施態様において、HTST処理後に、カルシウムレベルを細胞培養に適するレベルにさらに調節することができる。HTST処理とHTST後のカルシウムレベルの細胞培養に適するレベルへの調節との間の時間的調節は、変化させることができる。秒、分、日、週、月又は年の時間経過は、本発明の範囲内で予期される。
【0051】
他の変形態様において、培地は、カルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、総カルシウムは、約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満の培地中濃度である。他の変形態様において、総カルシウムは、約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。他の変形態様において、総カルシウムは、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中に約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。本発明の態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のカルシウムの総量は約10mM未満に制限する。本発明のさらなる態様において、培地中のカルシウムの総量を、次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生のために十分なレベルに上昇させる。いくつかの態様において、細胞培養培地は、リン酸を含まない。
【0052】
他の態様において、培地がカルシウムを含む場合、リン酸レベルを調節することができる。調節は、リン酸レベルの増加又は減少であり得る。いくつかの実施態様において、リン酸レベルを減少させる。いくつかの実施態様において、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにリン酸レベルを減少させる。いくつかの実施態様において、HTST処理前に、培地からリン酸を除去する。いくつかの実施態様において、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにpHを調節する。いくつかの実施態様において、HTST処理後に、リン酸レベルを細胞培養に適するレベルにさらに調節する。HTST処理とHTST後のリン酸レベルの細胞培養に適するレベルへの調節との間の時間的調節は、変化させることができる。秒、分、日、週、月又は年の時間経過は、本発明の範囲内で予期される。
【0053】
他の変形態様において、培地は、リン酸の総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、総リン酸は、約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満の培地中濃度である。他の変形態様において、総リン酸は、約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。他の変形態様において、総リン酸は、細胞培養のポリペプチド産生期中に約1mM−約9mM;約2mM−約8mM;約3mM−約7mM;約4mM−約6mM;約1mM−約8mM;約1mM−約7mM;約1mM−約6mM;約1mM−約5mM;約1mM−約4mM;約1mM−約3mM;約1mM−約2mM;約2mM−約9mM;約3mM−約9mM;約4mM−約9mM;約5mM−約9mM;約6mM−約9mM;約7mM−約9mM;約8mM−約9mM;9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1mMのおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8及び約9mM以下の少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。本発明の態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸の総量を約10mM未満に制限する。本発明のさらなる態様において、次に、培地中のリン酸の総量を、細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生のために十分なレベルに上昇させる。いくつかの態様において、細胞培養培地はカルシウムを含まない。
【0054】
一変形態様において、細胞培養培地は、(a)若しくは(b)又は(a)及び(b)の総量を約10mM未満に制限することを含む本明細書で列挙した濃度の成分(a)及び(b)の1つ又は2つ又はそれぞれを含む。細胞培養培地が、それぞれ及びすべての濃度が具体的且つ個別に示された場合と同じに本明細書で示した濃度範囲のいずれかでの成分(a)及び(b)の組合せを含み得ることが理解される。例えば、一変形態様における培地は成分(a)及び(b)を含み、カルシウムは約0.5mMであり、リン酸は約2.5mMであると理解される。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいて、細胞培養培地は、HTST処理中にウイルスを不活性化するために用いる。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はカルシウムを含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、カルシウムを細胞培養培地に加える。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はリン酸を含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、リン酸を細胞培養培地に加える。
【0055】
一変形態様において、培地は、約0mM−約1mMのリン酸濃度及び約0.5mM−約3mMのカルシウム濃度を含む細胞培養培地である。他の変形態様において、リン酸濃度は、約1mM−約1.25mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約2.5mMである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約1.25mM−約1.5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約2.25mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約1.5M−約1.75mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約2mMである。一変形態様において、リン酸濃度は、約1.75M−約2mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1.75mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2mM−約2.25mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1.5mMである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約2mM−約2.25mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1.5mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2.25mM−約2.5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1.25mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2.5mM−約2.75mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1.15mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2.75mM−約3mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約1mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約3mM−約3.5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約0.8mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約3.5mM−約4.5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約0.6mMである。一変形態様において、リン酸濃度は、約4.5mM−約5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約0.5mMである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約5mM−約5.5mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約0.25mMである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約5.5mM−約6mMであり、カルシウム濃度は、約0mM−約0.1mMである。他の変形態様において、pH、カルシウム及びリン酸というパラメーターは、濁度(リン酸カルシウムベースの沈殿の間接的な尺度としての)がグリッド領域(グリッド領域は、この例における5NTUのグロスフェイリュア(gross-failure)濁度閾値又はそれを下回る濁度値に相当する)に留まり、非グリッド領域(非グリッド領域は、5NTUのグロスフェイリュア濁度閾値を上回る濁度応答に相当する)に示されている沈殿範囲を避けるように具体例としての
図5(
図5B、
図5C及び
図5Dなど)に示すように独立に調節することができる。
図5に示す応答面は、濁度(リン酸カルシウムベースの沈殿の間接的な尺度としての)に対するpH、カルシウム濃度及びリン酸濃度の多因子効果を示す。したがって、応答面は、処理する培地中の許容されるカルシウム及びリン酸濃度と組み合わせてpHの許容されるHTST処理操作設定点を見いだすためにどのように因子を組み合わせて調節させることができか、また一度に1つの因子としてだけでないことを示している。
【0056】
調節することができる他の独立パラメーター(他の独立パラメーターとしてのカルシウム及びリン酸に加えて)は、pHである。したがって、pHは、培地がカルシウム及びリン酸を含む場合に調節することができる。いくつかの実施態様において、HTST処理、前に培地を調製する際にpHを適切な低レベルに調節する。いくつかの実施態様において、pHは、適切なレベルに低下させることにより調節する。いくつかの実施態様において、pHを7.2未満に調節する。いくつかの実施態様において、pHを約5.0−7.2に調節する。いくつかの実施態様において、HTST処理後に、pHを細胞培養に適するレベルにさらに調節する。いくつかの実施態様において、pHを約6.9−7.2に調節する。HTST処理とHTST後のpHレベルの細胞培養に適するレベルへの調節との間の時間的調節は、変化させることができる。秒、分、日、週、月又は年の時間経過は、本発明の範囲内で予期される。
【0057】
他の態様において、約pH5.0から約pH7.2までのpHを含む細胞培養培地を提供する。一態様において、約pH5.0から約pH6.9までのpHを含む細胞培養培地を提供する。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいて、細胞培養培地は、HTST処理中に、ウイルスを不活性化するために用いる。態様のいずれかにおいて、培地のpHは、HTST処理中に約pH5.0から約pH7.2までである。これは、細胞培養のポリペプチド産生期の前であり得る。任意選択的に、当業者は、培地が細胞培養工程に適するpHであるようにHTST処理後の培地のpHを調節することができる。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、約pH5.0から培地のpHは約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。一態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。
【0058】
一変形態様において、培地は、約pH5.0から約pH7.2までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、培地は、約pH5.0から約pH6.9までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、培地のpHは、約5.0−約7.2;約5.0−約6.9;約5.2−約6.7;約5.4−約6.5;約5.6−約6.3;約5.8−約6.1;約5.9−約6.0;約5.0−約6.7;約5.0−約6.5;約5.0−約6.3;約5.0−約6.1;約5.0−約5.9;約5.0−約5.7;約5.0−約5.5;約5.0−約5.3;約5.0−約5.1;約5.2−約6.9;約5.4−約6.9;約5.6−約6.9;約5.8−約6.9;約6.0−約6.9;約6.0−約6.9;約6.2−約6.9;約6.4−約6.9;約6.6−約6.9;5.0又は5.2又は5.4又は5.6又は5.8又は6.0又は6.2又は6.4又は6.6又は6.8又は6.9のおおよそいずれか;5.0又は5.2又は5.4又は5.6又は5.8又は6.0又は6.2又は6.4又は6.6又は6.8及び約6.9以下の少なくともおおよそいずれかのpHである。一変形態様において、培地は、細胞培養培地約pH5.0から約pH7.2までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、培地のpHは、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中に約5.0−約6.9;約5.2−約6.7;約5.4−約6.5;約5.6−約6.3;約5.8−約6.1;約5.9−約6.0;約5.0−約6.7;約5.0−約6.5;約5.0−約6.3;約5.0−約6.1;約5.0−約5.9;約5.0−約5.7;約5.0−約5.5;約5.0−約5.3;約5.0−約5.1;約5.2−約6.9;約5.4−約6.9;約5.6−約6.9;約5.8−約6.9;約6.0−約6.9;約6.0−約6.9;約6.2−約6.9;約6.4−約6.9;約6.6−約6.9;5.0又は5.2又は5.4又は5.6又は5.8又は6.0又は6.2又は6.4又は6.6又は6.8又は6.9のおおよそいずれか;5.0又は5.2又は5.4又は5.6又は5.8又は6.0又は6.2又は6.4又は6.6又は6.8及び約6.9以下の少なくともおおよそいずれかのpHである。態様のいずれかにおいて、培地のpHは、HTST処理中に約pH5.0から約pH7.2までである。これは、細胞培養のポリペプチド産生期の前であり得る。培地は、HTST処理後に必要に応じて細胞培養工程に適するpHに調節することができる。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHは約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。態様のいずれかにおいて、培地のpHは、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までである。
【0059】
一変形態様において、培地は、約pH6.9から約pH7.2までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、培地のpHは、約6.9−約7.2;約7.0−約7.1;約6.9−約7.1;約6.9−約7.0;約7.0−約7.2;約7.1−約7.2;6.9又は7.0又は7.1又は7.2のおおよそいずれか;6.9又は7.0又は7.1及び約7.2以下の少なくともおおよそいずれかのpHである。一変形態様において、培地は、約pH6.9から約pH7.2までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、培地のpHは、細胞培養のポリペプチド産生期のために約6.9−約7.2;約7.0−約7.1;約6.9−約7.1;約6.9−約7.0;約7.0−約7.2;約7.1−約7.2;6.9又は7.0又は7.1又は7.2のおおよそいずれか;6.9又は7.0又は7.1及び約7.2以下の少なくともおおよそいずれかのpHである。態様のいずれかにおいて、培地のpHを、細胞培養のポリペプチド産生期のために約pH6.9から約pH7.2まで間にする。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期のためにHTST処理後に、培地のpHは約pH6.9から約pH7.2までである。
【0060】
一変形態様において、培地は、約pH5.0から約pH6.9までのpH並びに約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含む細胞培養培地である。一変形態様において、HTST処理中、培地は約pH5.0から約pH6.9までのpH並びに約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含む細胞培養培地である。いずれかの変形態様において、pH並びにカルシウム及びリン酸の量は、本明細書で詳述したいずれかの量である。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はカルシウムを含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、カルシウムを細胞培養培地に加える。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はリン酸を含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、リン酸を細胞培養培地に加える。さらなる態様において、細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期のためにHTST処理後、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。
【0061】
一変形態様において、培地は、約0mMから約0.5mMまでのリン酸濃度及び約6.4から約7.4までのpHを含む細胞培養培地である。他の変形態様において、リン酸濃度は、約0.5mMから約0.75mMまでであり、pHは、約6.4から約7.35までである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約0.75mMから約1mMまでであり、pHは、約6.4から約7.25までである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約1mMから約1.25mMまでであり、pHは、約6.4から約7.2までである。一変形態様において、リン酸濃度は、約1.25mMから約1.5mMまでであり、pHは、約6.4から約7.1までである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約1.5mMから約1.75mMまでであり、pHは、約6.4から約7.05までである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約1.75mMから約2mMまでであり、pHは、約6.4から約7までである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2mMから約2.25mMまでであり、pHは、約6.4から約6.9までである。一変形態様において、リン酸濃度は、約2.25mMから約2.5mMまでであり、pHは、約6.4から約6.85までである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約2.5mMから約2.75mMまでであり、pHは、約6.4から約6.75までである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約2.75mMから約3mMまでであり、pHは、約6.4から約6.7までである。さらなる変形態様において、リン酸濃度は、約3mMから約3.25mMまでであり、pHは、約6.4から約6.6までである。一変形態様において、リン酸濃度は、約3.25mMから約3.5mMまでであり、pHは、約6.4から約6.5までである。他の変形態様において、リン酸濃度は、約3.5mMから約3.75mMまでであり、pHは、約6.4から約6.45までである。
【0062】
一変形態様において、カルシウム濃度は、約0mMから約1mMまでであり、pHは、約6.65から約7.4までである。他の変形態様において、カルシウム濃度は、約0.1mMから約0.25mMまでであり、pHは、約6.55から約7.4までである。さらなる変形態様において、カルシウム濃度は、約0.25mMから約0.5mMまでであり、pHは、約6.5から約7.4までである。他の変形態様において、カルシウム濃度は、約0.5mMから約0.6mMまでであり、pHは、約6.5から約7.2までである。一変形態様において、カルシウム濃度は、約0.6mMから約0.75mMまでであり、pHは、約6.5から約7までである。他の変形形態において、カルシウム濃度は、約0.75mMから約1mMまでであり、pHは、約6.4から約6.9までである。さらなる変形態様において、カルシウム濃度は、約1mMから約1.1mMまでであり、pHは、約6.4から約6.8までである。さらなる変形態様において、カルシウム濃度は、約1.1mMから約1.25mMまでであり、pHは、約6.4から約6.7までである。一変形態様において、カルシウム濃度は、約1.25mMから約1.5mMまでであり、pHは、約6.4から約6.65までである。他の変形態様において、カルシウム濃度は、約1.5mMから約1.75mMまでであり、pHは、約6.4から約6.55までである。さらなる変形態様において、カルシウム濃度は、約1.75mMから約2mMまでであり、pHは、約6.4から約6.5までである。一変形態様において、カルシウム濃度は、約2mMから約2.25mMまでであり、pHは、約6.4から約6.45までである。他の変形態様において、カルシウム濃度は、約2.25mMから約2.5mMまでであり、pHは、約6.4から約6.43までである。さらなる変形態様において、カルシウム濃度は、約2.5mMから約2.6mMまでであり、pHは、約6.4から約6.41までである。
【0063】
個々の培地成分は、ウイルス不活性化、沈殿物の形成の減少及びHTST処理に用いる装置の付着物の減少などの1つ又は複数の有利な特性をもたらす量で存在し得る。一変形態様において、本明細書で提供する細胞培養培地は、表1に示す培地パラメーターを含む。培地組成物は、表1に示す量のいずれかの、成分(a)、(b)及び(c)のそれぞれを含む培地組成物、又は成分(a)、(b)及び(d)のそれぞれを含む培地組成物、又は成分(a)及び(b)を含む培地組成物、又は成分(a)及び(c)のそれぞれを含む培地組成物、又は成分(b)及び(c)のそれぞれを含む培地組成物、又は成分(a)及び(d)のそれぞれを含む培地組成物、又は成分(b)及び(d)のそれぞれを含む培地組成物(成分及び量のそれぞれ及びすべての組合せを具体的且つ個別に示したのと同じ)のような表1の培地成分のいずれか1つ又は複数(例えば、成分(a)−(c)のいずれか1つ又は複数)を含み得ることが理解される。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいてHTST処理中、細胞培養培地はウイルスを不活性化するために用いられる。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はカルシウムを含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、カルシウムを細胞培養培地に加える。いずれかの態様において、HTST処理中、培地はリン酸を含まない。さらなる態様において、HTST処理後に、リン酸を細胞培養培地に加える。さらなる態様において、培地のpHを、細胞培養のポリペプチド産生期のために約pH6.9から約pH7.2までの間にする。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。
【0064】
本明細書で提供する培地は、一変形態様においてカルシウム及びリン酸を含む。一態様において、カルシウム及びリン酸を含む培地は、フィード培地である。他の変形態様において、カルシウム及びリン酸を含む培地は、基礎培地である。いくつかの態様において、フィード培地は、産生培地である。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいて、HTST処理中、ウイルスを不活性化するために細胞培養培地を用いる。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期中に培地中のリン酸及びカルシウムの総量をタンパク質発現のために十分なレベルに上昇させる。態様のいずれかにおいて、HTST処理中、培地のpHは約pH5.0から約pH6.9までである。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。一態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。
【0065】
本明細書で提供する培地は、一変形態様において細胞培養培地を含み、培地は、約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。一変形態様において、カルシウム及びリン酸を含む培地は、フィード培地である。他の変形態様において、カルシウム及びリン酸を含む培地は、基礎培地である。いくつかの態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された細胞培養培地である。他の態様において、細胞培養培地は、化学的に定義されていない細胞培養培地である。態様のいずれかにおいて、HTST処理中、ウイルスを不活性化するために細胞培養培地を用いる。態様のいずれかにおいて、HTST処理中、ウイルスを不活性化するために細胞培養培地を用いる。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、次に細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。さらなる態様において、次に細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。態様のいずれかにおいて、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期中に培地中のリン酸及びカルシウムの総量をポリペプチド産生のために十分なレベルに上昇させる。
【0066】
一変形態様において、本発明は、細胞培地成分を実施例2で詳述するような応答面を用いて調節する培地を提供する。他の変形態様において、本発明は、細胞培地成分を
図5及び
図6における応答面を用いて調節する培地を提供する。
【0067】
一変形態様において、本発明は、培地をHTST処理にかけた後に微量金属を培地に加える、培地を提供する。一態様において、微量金属は、鉄又は銅からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数の微量金属である。一変形態様において、本発明は、培地をHTST処理にかけた後に鉄を約1μMから約125μMまでの量で培地に加える、培地を提供する。他の変形態様において、鉄は、培地をHTST処理にかけた後に約1μM−約125μM;約10μM−約120μM;約20μM−約110μM;約30μM−約100μM;約40μM−約90μM;約50μM−約80μM;約60μM−約70μM;約1μM−約120μM;約1μM−約110μM;約1μM−約100μM;約1μM−約90μM;約1μM−約80μM;約1μM−約70μM;約1μM−約60μM;約1μM−約50μM;約1μM−約40μM;約1μM−約30μM;約1μM−約20μM;約1μM−約10μM;約10μM−約125μM;約20μM−約125μM;約30μM−約125μM;約40μM−約125μM;約50μM−約125μM;約60μM−約125μM;約70μM−約125μM;約80μM−約125μM;約90μM−約125μM;約100μM−約125μM;約110μM−約125μM;約120μM−約125μM;1又は10又は20又は30又は40又は50又は60又は70又は80又は90又は100又は110又は120又は125μMのおおよそいずれか;1又は10又は20又は30又は40又は50又は60又は70又は80又は90又は100又は110又は120及び約125μMの少なくともおおよそいずれかの培地中濃度である。
【0068】
本明細書で提供する培地は、一態様において、HTST処理中、ウイルスの不活性化のための方法に用いる場合、HTST処理中、異なる培地をウイルスの不活性化のために用いる場合の属性と比較して、1つ又は複数の有利な属性をもたらす。生物学的製剤産物(例えば、抗体産物)の生産のためのウイルスの不活性化のためにHTST処理にかけた細胞培養培地中の沈殿物の形成は、生物学的製剤産物の活性などの生物学的製剤産物の品質属性に影響を及ぼし得る。さらに、HTST処理中の細胞培養培地中の沈殿物の形成は、HTST装置の付着物をもたらし得る。HTST装置の付着物は、ウイルスを効果的に不活性化するHTST処理の能力に影響を及ぼし得る。一態様において、付着物は、HTST処理に用いる装置上の沈殿を含む。一変形態様において、本明細書で提供する培地は、HTST処理中に細胞培養中のウイルスを不活性化する方法に用いる場合、HTST処理中にウイルスの不活性化のために用いる異なる培地中の沈殿と比較して細胞培養培地中の沈殿を減少させる。他の変形態様において、本明細書で提供する培地は、HTST処理中にウイルスを不活性化する方法に用いる場合、HTST処理中にウイルスの不活性化のために用いる異なる培地によるHTST装置の付着物と比較してHTST装置の付着物を減少させる。他の変形態様において、本明細書で提供する培地は、培地のHTST処理中にウイルスを不活性化する方法に用いる場合、異なる培地によるHTST処理に用いる装置上の沈殿と比較して、HTST処理に用いる装置上の沈殿を減少させる。他の変形態様において、本明細書で提供する培地は、培地のHTST処理の方法に用いる場合、異なる培地中のウイルスの不活性化と比較して、細胞培養培地中のウイルスを不活性化する。他の変形態様において、本明細書で提供する培地は、異なる培地中のウイルス不活性化と比較して、培地のHTST処理の方法におけるフィルター付着物をもたらす沈殿を減少させる。
【0069】
1つの知見は、細胞培養(ポリペプチド/タンパク質の産生、細胞の成長、生存及び/又は増殖を含む)のために重要であり得る銅及び鉄などの微量金属がHTST処理中に減少することである。したがって、本発明は、細胞培養培地が細胞培養への適合性を維持している間に、細胞培養培地中のウイルス又は外来因子を不活性化する方法も提供するものであり、前記方法は、(a)細胞培養培地を高温短時間(HTST)処理にかけることと、(b)pH、カルシウムレベル及びリン酸レベルからなる群から選択される1つ又は複数のパラメーターを調節することとを含み、微量金属濃度のさらなる調節が存在する。微量金属は、鉄又は銅であり得る。HTST処理前に培地中で、鉄及び/又は銅濃度は独立に調節することができる。ある場合に、鉄及び/又は銅濃度の低下が予期され、その量が一般的に既知である場合、鉄及び/又は銅は、HTST処理前に培地に加えることができる。低下の量が既知でない他の場合、HTST処理前に培地から鉄及び/又は銅を減少(除去を含む)させることができる。次にHTST処理後に、鉄及び/又は銅は細胞培養に適するレベルに培地に追加することができる。
【0070】
IV.本発明の組成物及び方法
本明細書で詳述する細胞培養培地は、HTST処理中、細胞培養培地中のウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化する方法に用いることができる。培地は、バッチ培養、流加培養又は潅流培養によるかどうかにかかわらず、細胞を培養する方法に用いることができる。培地は、抗体を含むポリペプチドを産生する細胞を培養する方法に用いることができる。培地は、組織置換又は遺伝子治療適用に用いるものを含む、細胞ベースの産物を産生する細胞を培養する方法に用いることができる。培地は、培地が細胞を培養することができる状態を維持すると同時にウイルスを不活性化する熱処理の使用がウイルス汚染の可能性の予防に有効である細胞培養適用に用いることができる。培地は、本明細書で述べた熱処理の変形態様又は実施態様にかけた細胞培養培地中のウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化する方法に用いることができる。
【0071】
細胞培養培地をHTST処理にかける、本明細書で詳述した細胞培養培地中のウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化する方法を提供する。一変形態様において、方法は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、培地は、表1に記載した1つ又は複数の培地成分を含む(例えば、表1に示す量のいずれかの成分(a)及び(b)を含む培地又は成分(a)及び(c)を含む培地又は成分(b)及び(c)を含む培地又は成分(a)及び(d)を含む培地又は成分(b)及び(d)を含む培地又は成分(a)−(c)若しくは(a)、(b)及び(d)のそれぞれを含む培地)。
【0072】
本明細書で詳述した細胞培養培地を装置に用い、HTST処理にかける、ウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化するためのHTST処理に用いる装置の付着物を減少させる方法。一変形態様において、方法は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、培地は、表1に記載した1つ又は複数の培地成分を含む(例えば、表1に示す量のいずれかの成分(a)及び(b)を含む培地又は成分(a)及び(c)を含む培地又は成分(b)及び(c)を含む培地又は成分(a)及び(d)を含む培地又は成分(b)及び(d)を含む培地又は成分(a)−(c)若しくは(a)、(b)及び(d)のそれぞれを含む培地)。特定の変形態様において、付着物は、沈殿物付着物である。一変形態様において、付着物は、フィルター付着物である。
【0073】
A.細胞培養培地中のウイルス不活性化並びに感染因子及び/又は外来因子の不活性化の方法
いくつかの変形態様において、本発明は、高温処理にかけた細胞培養培地中のウイルス、感染因子及び/又は外来因子を不活性化する方法を提供するものであり、培地は、不適合性培地と比較して熱処理に対して適合性である。例えば、不適合性培地の熱処理は、ウイルス、感染因子及び/又は外来因子の効果的な不活性化に必要な温度で沈殿を促進する又はもたらす。本明細書で開示した培地でもたらされるように、熱処理適合性培地は、ウイルス、感染因子及び/又は外来因子の効果的な不活性化に必要な温度で沈殿を促進せず又は低減させた。いくつかの態様において、熱処理は、HTST処理である。他の態様において、熱処理は、砂浴処理及び油浴法を含むが、これらに限定されないバッチ熱処理である。
【0074】
一変形態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供するものであり、HTST処理中、培地は約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。いくつかの態様において、HTST処理中、培地は約pH5.3から約pH6.3までのpHを有する。他の態様において、HTST処理中、培地は約pH6.0のpHを有する。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。一態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。他の変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供する。さらなる態様において、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度は約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満である。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。さらなる態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチド産生に十分なレベルに上昇させる。他の変形態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、この場合に培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供する。いくつかの態様において、培地のpHを約pH5.0から約pH6.0までの間に低下させ、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。さらなる態様において、培地のpHを次に約pH6.9から約pH7.2までの間にし、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチド産生に十分なレベルに上昇させる。本明細書で詳述した方法のいずれかのウイルスは、本明細書で詳述したウイルス(例えば、パルボウイルス)であり得、方法の培地は、表1に詳述した培地パラメーターを有する培地などの、本明細書で詳述した培地であり得る。
【0075】
a)温度及び温度保持時間
本明細書で詳述した方法のいずれかにおいて、熱処理は、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約85℃に上昇させることを含む。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約90℃に上昇させる。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約93℃に上昇させる。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約95、97、99、101又は103℃に上昇させる。他のさらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約95、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115又は117℃に上昇させる。他のさらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、100、111、112、113、114、115、116、117、118、119又は120℃に上昇させる。他のさらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を少なくとも約121、121、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149又は150℃に上昇させる。いくつかの態様において、培地の温度を約95℃に上昇させる。他の態様において、培地の温度を約102℃に上昇させる。一変形態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を約85℃から約120℃までの間に上昇させる。他の変形態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり培地の温度を約85℃−約120℃;約87℃−約118℃;約89℃−約116℃;91℃−約114℃;約93℃−約112℃;約95℃−約110℃;約97℃−約108℃;約99℃−約106℃;約101℃−約104℃;約85℃−約118℃;約85℃−約116℃;約85℃−約114℃;約85℃−約112℃;約85℃−約110℃;約85℃−約108℃;約85℃−約106℃;約85℃−約104℃;約85℃−約102℃;約85℃−約100℃;約85℃−約98℃;約85℃−約96℃;約85℃−約94℃;約85℃−約92℃;約85℃−約90℃;約85℃−約88℃;約87℃−約120℃;約89℃−約120℃;約91℃−約120℃;約93℃−約120℃;約95℃−約120℃;約97℃−約120℃;約99℃−約120℃;約101℃−約120℃;約103℃−約120℃;約105℃−約120℃;約107℃−約120℃;約109℃−約120℃;約111℃−約120℃;約113℃−約120℃;約115℃−約120℃;約117℃−約120℃;85℃又は86℃又は88℃又は90℃又は92℃又は94℃又は96℃又は98℃又は100℃又は102℃又は104℃又は106℃又は108℃又は110℃又は112℃又は114℃又は116℃又は118℃又は120℃のおおよそいずれか;85℃又は86℃又は88℃又は90℃又は92℃又は94℃又は96℃又は98℃又は100℃又は102℃又は104℃又は106℃又は108℃又は110℃又は112℃又は114℃又は116℃又は118℃及び約120℃以下の少なくともおおよそいずれかに上昇させる。態様のいずれかにおいて、細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチド産生のために培地の温度を約15℃から約40℃までの間に冷却する。
【0076】
熱処理温度は、培地中のウイルスを不活性化するための温度保持時間で保持する。温度保持時間は、ウイルスを不活性化するのに十分な時間である。態様のいずれかにおいて、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約1秒からである。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約2秒、3秒又は4秒までである。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約5、8、10、12、14、16、18又は20秒までである。他のさらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約5、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58又は60秒までである。いくつかの態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、10秒である。他の態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、2秒である。他の態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、約1−約60秒;約2−約58秒;約6−約54秒;約10−約50秒;約14−約46秒;約18−約42秒;約22−約38秒;約26−約34秒;約30−約34秒;約1−約56秒;約1−約52秒;約1−約48秒;約1−約44秒;約1−約40秒;約1−約36秒;約1−約32秒;約1−約28秒;約1−約22秒;約1−約18秒;約1−約14秒;約1−約10秒;約1−約6秒;約1−約3秒;約4−約60秒;約8−約60秒;約12−約60秒;約16−約60秒;約20−約60秒;約24−約60秒;約28−約60秒;約32−約60秒;約36−約60秒;約40−約60秒;約44−約60秒;約48−約60秒;約52−約60秒;約56−約60秒;1又は2又は4又は6又は8又は10又は12又は14又は16又は18又は20又は22又は24又は26又は28又は30又は32又は34又は36又は38又は40又は42又は44又は46又は48又は50又は52又は54又は56又は58又は60秒のおおよそいずれか;1又は2又は4又は6又は8又は10又は12又は14又は16又は18又は20又は22又は24又は26又は28又は30又は32又は34又は36又は38又は40又は42又は44又は46又は48又は50又は52又は54又は56又は58及び約60秒以下の少なくともおおよそいずれかである。他の態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約1分からである。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約2.5分までである。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5又は11分までである。他の変形態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、約1−約11分;2−約10分;4−約8分;約1−約10分;約1−約8分;約1−約6分;約1−約4分;約1−約2分;約2−約11分;約4−約11分;約6−約11分;約8−約11分;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7は8又は9又は10又は11分のおおよそいずれか;1又は2又は3又は4又は5又は6又は7は8又は9又は10及び約11分以下の少なくともおおよそいずれかである。
【0077】
b)感染因子
本発明は、培地を熱処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルス及び/又は外来因子を不活性化する方法を提供する。ウイルスは、本明細書で詳述したウイルス(例えば、パルボウイルス)であり得、細胞培養培地は、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述した細胞培養培地であり得る。熱処理中に細胞培養培地中で不活性化されるウイルスは、製品(例えば、ポリペプチド、細胞、組織)の製造について産業上関連性のあるウイルスであり得る。産業上関連性のあるウイルスは、当業者に公知である。産業上関連性のあるウイルスの非限定的な例は、パルボウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科、カリシウイルス科及びピコルナウイルス科である。ウイルスのクラスの正式な命名(例えば、パルボウイルス科)は、さほど正式でない命名(例えば、パルボウイルス)と本明細書を通して同義で用いる。いずれの命名法も同じクラスのウイルスを意味する(すなわち、パルボウイルス科は、パルボウイルスと同じクラスのウイルスを含む)ことが理解される。一変形態様において、ウイルスは、非エンベロープウイルスである。いくつかの態様において、非エンベロープウイルスは、一本鎖DNAウイルス、二本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス及び一本鎖RNAウイルスを含むが、これらに限定されない。さらなる態様において、非エンベロープウイルスは、パルボウイルス、レオウイルス又はピコルナウイルスを含むが、これらに限定されない。一変形態様において、ウイルスは、エンベロープウイルスである。いくつかの態様において、エンベロープウイルスは、一本鎖DNAウイルス、二本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス及び一本鎖RNAウイルスを含むが、これらに限定されない。さらなる態様において、エンベロープウイルスは、レトロウイルス、ヘルペスウイルス又はヘパドナウイルスを含むが、これらに限定されない。本発明のいずれかの変形態様において、ウイルスは、アデノウイルス、アフリカ豚コレラウイルス、アレナウイルス、アルテリウイルス、アストロウイルス、バキュロウイルス、バドナウイルス、バルナウイルス、ビルナウイルス、ブロモウイルス、ブニヤウイルス、シリシウイルス、カピロウイルス、カルラウイルス、カウリモウイルス、シルコウイルス、クロステロウイルス、コモウイルス、コロナウイルス、コトリコウイルス、シストウイルス、デルタウイルス、ディアンソウイルス、エナモウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、フロウイルス、フセロウイルス、ジェミニウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、ホルデウイルス、ハイポウイルス、イデアオウイルス、イノウイルス、イリドウイルス、レビウイルス、リポスリクスウイルス、ルテオウイルス、マクロモウイルス、マラフィロウイルス、ミクロウイルス、ミオウイルス、ネクロウイルス、ノダウイルス、オルトミクソウイルス、パポウイルス、パラミクソウイルス、パルチチウイルス、パルボウイルス、フィコドナウイルス、ピコルナウイルス、プラマウイルス、ポドウイルス、ポリドナウイルス、ポテクスウイルス、ポチウイルス、ポックスウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、リジディオウイルス、セクエウイルス、シフォウイルス、ソベモウイルス、テクチウイルス、テヌイウイルス、テトラウイルス、トバマウイルス、トブラウイルス、トガウイルス、トンブスウイルス、トチウイルス、トリコウイルス、チモウイルス及びアンブラウイルスからなる群から選択される。いくつかの態様において、ウイルスは、流行性出血熱ウイルス(EHDV)、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス1(MPV)、カシェ渓谷ウイルス、ベシウイルス2117、ブタサーコウイルス(PCV1)、ブタサーコウイルス2(PCV2)、イヌパルボウイルス(CPV)、ウシボウイルス(BPV)又はブルータングウイルス(BTV)を含むが、これらに限定されない。特定の態様において、ウイルスは、マウス微小ウイルスなどのパルボウイルスである。一変形態様において、本発明は、培地を熱処理にかけることを含む細胞培養培地中のサブウイルス物質を不活性化する方法を提供する。いくつかの態様において、サブウイルス物質は、ウイロイド又はサテライトである。他の変形態様において、本発明は、培地を熱処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルス様物質を不活性化する方法を提供する。
【0078】
他の変形態様において、本発明は、培地を熱処理にかけることを含む細胞培養培地中の感染因子を不活性化する方法を提供する。いくつかの態様において、感染因子は、細菌である。さらなる態様において、細菌は、マイコプラスマである。他の態様において、感染因子は、本明細書で述べるフィルターを含むフィルターを通過するのに十分に小さい細菌である。他の態様において、感染因子は、真菌である。他の態様において、感染因子は、寄生虫である。他の態様において、感染因子は、感染因子の成分である。感染因子の成分が細胞培養培地中で望ましくない感染因子に由来する成分であり得ることが当業者により理解される。
【0079】
他の変形態様において、本発明は、培地を熱処理にかけることを含む細胞培養培地中の外来因子を不活性化する方法を提供する。熱処理による不活性化に感受性である外来因子は、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述した細胞培養培地を用いて本明細書で詳述した方法のいずれかにより不活性化することができることは、当業者により理解される。変形態様のいずれかにおいて、少なくとも1つ又は複数の種類の感染因子及び/又は外来因子をHTST処理中に細胞培養培地中で不活性化する。いくつかの態様において、1つ又は複数の種類の感染因子及び/又は外来因子は、ウイルス、サブウイルス物質、ウイルス様物質、細菌、真菌、寄生虫あるいは感染因子及び/又は外来因子の成分である。変形態様のいずれかにおいて、熱処理は、HTST処理である。熱処理による感染因子及び/又は外来因子の不活性化のための本明細書で詳述した方法のいずれかは、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述した細胞培養培地を本明細書で詳述したいずれかのHTST処理にかけることを含むことは、当業者により理解される。
【0080】
ウイルスの不活性化は、当業者に公知のアッセイにより測定される。例えば、ウイルスの不活性化は、活動性ウイルスの所定のlog減少値(log reduction value)(LRV)の測定又は評価により判定される。一態様において、2秒間にわたる95℃を超える温度でのHTST処理を用いた細胞培養培地中のウイルス負荷の3log減少値以上は、培地中のウイルスの不活性化と判定される。他の態様において、60秒間にわたる100℃の温度でのHTST処理を用いた細胞培養培地中のウイルス負荷の約3log減少値は、培地中のウイルスの不活性化と判定される。態様のいずれかにおいて、ウイルス負荷は、MVM負荷である。
【0081】
c)熱処理システム
例えば、その開示がそれらの全体として出典明示により本明細書において援用される、Schleh,M.ら、2009.Biotechnol.Prog.,25(3):854−860及びKiss,R.,2011.PDA J Pharm Sci and Tech.,65:715−729に記載されている方法論などの当業者に公知の感染因子の不活性化のための細胞培養培地の熱処理の方法は、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述したいずれかの細胞培養培地の熱処理に用いることができる。例えば、高温短時間(HTST)処理をウイルスを不活性化するために製造工程に用いる。一変形態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、HTST処理中、培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する、細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供する。他の変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を提供する。他の変形態様において、本発明は、細胞培養培地をHTST処理にかけることを含む細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法であって、HTST処理中、培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する方法を提供する。HTST処理は、細胞培養培地を周囲温度又は37℃から約102℃に加熱し、約10秒の温度保持時間中に細胞培養培地を102℃に保持し、細胞培養培地を次におおよそ周囲温度又は約37℃に低下させるHTSTサイクルを含み得る。いくつかの態様において、周囲温度は、約15℃から30℃までである。他の態様において、周囲温度は、約18℃から25℃までである。HTST処理は、所定の流量に対する所望の温度保持時間を得るために間に配管を有する、1つは流体を加熱し、1つは流体を冷却するための2つの熱交換器を使用する連続流法であり得る。一態様において、細胞培養培地中のウイルスの不活性化は、細胞培養培地を1サイクルのHTST処理にかけることを含む。他の態様において、細胞培養培地中のウイルスの不活性化は、細胞培養培地を少なくとも2以上のサイクルのHTST処理にかけることを含む。一態様において、流量は、100LPMである。他の態様において、流量は、125LPMである。他の態様において、流量は、適切な温度並びにウイルス及び/又は外来因子の不活性化のための温度での保持時間を得るのに適切な流量である。いずれかの態様において、細胞培養培地を約37℃から約102℃に加熱し、細胞培養培地を、ウイルスを不活性化するのに十分な時間102℃に保持し、細胞培養培地を次に約37℃に冷却する。さらなる態様において、ウイルスを不活性化するのに十分な時間は、約10秒である。いずれかの態様において、ウイルスを不活性化するのに十分な時間は、本明細書で詳述した温度保持時間である。いずれかの態様において、温度保持時間中にウイルスを不活性化するための温度は、本明細書で詳述した温度である。一態様において、ウイルスを不活性化するための温度は、約85℃から約120℃までである。一変形態様において、細胞培養培地を約15℃から約102℃に加熱し、細胞培養培地を約10秒の温度保持時間中に102℃保持し、細胞培養培地を次に約37℃に冷却する。他の変形態様において、細胞培養培地を約37℃から約102℃に加熱し、細胞培養培地を約10秒の温度保持時間中に102℃保持し、細胞培養培地を次に約37℃に冷却する。
【0082】
HTST処理のために、約0.5−約20000リットル(L)の細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置により処理する。約0.5Lより少ない又は約20000Lより多い細胞培養培地容積は、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述したいずれかの細胞培養培地を用いる本明細書で詳述した方法のいずれかにおけるHTST処理に用いる装置により処理することができることは、当業者により理解される。一態様において、約0.5L−約20000Lの細胞培養培地容積を1HTSTランで処理する。他の態様において、約0.5L−約20000Lの細胞培養培地容積を少なくとも2以上のHTSTランで処理する。本明細書で用いているように、「HTSTラン」という用語は、少なくとも1サイクル(例えば、加熱、保持、冷却)のHTST処理のためにHTST処理に用いる装置(例えば、HTSTスキッド)におけるHTST処理に指定の量の培地をかける工程を意味し得る。HTST処理に用いるHTSTスキッドなどの装置を表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述したいずれかの細胞培養培地の熱処理に用いることができることは、当業者により理解される。一態様において、HTSTランは、約0.5L−約20000Lの少なくとも1又は複数細胞培養培地容積の連続処理を含み得る。他の態様において、HTSTランは、約0.5L−約20000Lの少なくとも1又は複数細胞培養培地容積のバッチ処理を含み得る。いずれかの態様において、少なくとも1又は複数細胞培養培地容積は、同じ種類の細胞培養培地(例えば、培地1)であり得る。いずれかの態様において、少なくとも1又は複数細胞培養培地容積は、少なくとも1つ又は複数のある種類の細胞培養培地(例えば、培地1及び培地2)であり得る。本明細書で詳述した方法のいずれかの態様において、少なくとも約0.5Lの細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理のための装置により処理する。さらなる態様において、少なくとも約2Lの細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理のための装置により処理する。さらなる態様において、培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間は、少なくとも約5、10、50、100、500、1000、5000、10000又は15000リットルまでである。いくつかの態様において、2Lの細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理のための装置により処理する。他の態様において、12000Lの細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理のための装置により処理する。他の変形態様において、約0.5−約20000;約2−約18000;約10−約16000;約20−約14000;約40−約12000;約80−約10000;約100−約8000;約200−約6000;約400−約4000;約800−約2000;約0.5−約18000;約0.5−約16000;約0.5−約14000;約0.5−約12000;約0.5−約10000;約0.5−約8000;約0.5−約6000;約0.5−約4000;約0.5−約2000;約0.5−約800;約0.5−約600;約0.5−約400;約0.5−約200;約0.5−約100;約0.5−約50;約0.5−約20;約0.5−約10;約0.5−約5;約0.5−約2;約2−約20000;約10−約20000;約100−約20000;約500−約20000;約1000−約20000;約1500−約20000;約2000−約20000;約5000−約20000;約1000−約20000;約15000−約20000;約1750−約20000リットル;0.5又は2又は10又は100又は1000又は10000又は20000リットルのおおよそいずれか;0.5又は2又は10又は100又は1000又は10000及び約20000リットル以下の少なくともおおよそいずれかの細胞培養培地容積をウイルスを不活性化するためのHTST処理のための装置により処理する。
【0083】
例えば、その開示がその全体として出典明示により本明細書において援用される、Kiss,R.,2011.PDA J Pharm Sci and Tech.,65:715−729に記載されている方法などの細胞培養処理中にウイルスを不活性化する方法は当業者に公知であり、表1に詳述した成分を有する培地などの本明細書で詳述したいずれかの細胞培養培地のHTST処理と組み合わせて用いることができる。例えば、高温短時間(HTST)処理は、細胞培養培地からウイルスを除去するための製造工程における少なくとも1つ又は複数のウイルスバリア処理と組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、1つ又は複数のウイルスバリア処理は、加熱滅菌、UV光曝露、ガンマ線照射及びろ過を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、ウイルスバリア処理は、ろ過である。本発明は、HTST処理にかけた細胞培養培地中のウイルスを除去し且つ/又は不活性化する方法を提供するものであり、ウイルスは、細胞培養培地をHTST処理にかけた後の工程におけるろ過により細胞培養培地から除去される。いくつかの態様において、ろ過は、限外ろ過である。限外ろ過の前に、表1に示す成分のような1つ又は複数の培地成分をHTST処理にかけた細胞培養培地に加える。いくつかの態様において、限外ろ過の前に、微量金属(例えば、鉄又は銅)などの1つ又は複数の培地成分をHTST処理にかけた細胞培養培地に加える。
【0084】
限外ろ過膜は、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又は同種のものから形成することができる。代表的な限外ろ過膜は、Viresolve(登録商標)膜、Viresolve(登録商標)Pro膜、Viresolve(登録商標)180膜、Viresolve(登録商標)70膜、Viresolve(登録商標)NFP膜、Viresolve(登録商標)NFR膜、Retropore(商標)膜、Virosart CPV膜、Planova75膜、Planova35膜、Planova20膜、Planova15N膜、VAG300膜、Ultipor DVD膜、Ultipor DV50膜、Ultipor DV20膜及びDVD Zeta Plus VR(商標)フィルターを含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、限外ろ過膜は、パルボウイルス粒子を除去することができる。いくつかの態様において、限外ろ過膜は、パルボウイルス保持膜である。
【0085】
限外ろ過膜の孔径は、水溶液中の1つ又は複数のタンパク質が膜を通過することを可能にしながら望ましくないウイルス粒子を保持するのに十分に小さなものであるべきである。本発明のいくつかの実施態様において、限外ろ過膜の孔径は、10nm未満、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、125nm、150nm、175nm又は200nmである。いくつかの実施態様において、限外ろ過膜の孔径は、20nm以下である。
【0086】
限外ろ過膜は、限外ろ過膜により保持される最小のタンパク質の平均分子量である分子量カットオフによって特徴づけることができる。例えば、1000kDを超える分子量を有する大部分の球状タンパク質は、1000kDの分子量カットオフを有する限外ろ過膜により80−90%の率で保持されるが、1000kD未満の分子量を有する大部分の球状タンパク質は、限外ろ過膜を通過する。本発明のいくつかの態様において、限外ろ過膜の分子量カットオフは、200kDから1000kDまでである。本発明のいくつかの態様において、限外ろ過膜は、200kD、300kD、400kD、500kD、600kD、700kD、900kD又は1000kDの分子量カットオフを有する。
【0087】
ろ過は、全量(垂直流)ろ過(NFF)又は十字流ろ過(TFF)により1つ又は複数の限外ろ過膜を用いて行うことができる。NFFでは、供給流が膜を通過し、大分子量物質がフィルターに捕捉されるが、ろ液が他端で放出される。TFFでは、供給流の大部分が、フィルター中ではなく、フィルターの表面にわたり接線方向に移動する。したがって、フィルターケーキがろ過過程中に実質的に洗い流され、フィルターユニットを操作することができる時間の長さが増加する。いずれかのモードのろ過用の限外ろ過膜は、VIRESOLVE(登録商標)NFPウイルスフィルターのようなカートリッジ(NFF)形で又はPELLICON(登録商標)カセットのようなカセット(TFF用)として供給することができる。好ましい実施態様において、ろ過は、垂直流ろ過である。
【0088】
複数の限外ろ過膜を本発明の方法に用いることができる。いくつかの実施態様において、複数の限外ろ過膜を並行して水溶液と接触させる。1つ又は複数のウイルスバリア処理と組み合わせたHTST処理は、タンパク質及びポリペプチド治療薬の産業規模生産のための表1に詳述した成分を有する細胞培養培地などの本明細書で開示したいずれかの細胞培養培地の処理に用いることができる。
【0089】
感染因子の不活性化のためのHTST処理中に用いる細胞培養培地は、HTST適合性培地又はHTST不適合性培地であり得る。本明細書で用いているように、「HTST適合性培地」という用語は、HTST処理中に少ない沈殿を有する又は沈殿を全く有さない細胞培養培地を意味する。本明細書で用いているように、「HTST不適合性培地」という用語は、HTST処理中に測定可能又は検出可能な沈殿を有する細胞培養培地を意味する。一変形態様において、本発明は、HTST処理中にウイルスの不活性化に用いるHTST適合性細胞培養培地をスクリーニングする方法を提供するものであり、HTST適合性培地は、HTST不適合性培地における沈殿と比較して少ない沈殿を有する。一態様において、HTST適合性細胞培養は、HTST処理中にHTST不適合性培地における沈殿と比較して沈殿を全く有さない。いずれかの変形態様において、HTST適合性培地は、HTST処理後にHTST不適合性培地と比較してより高いレベルの微量金属を有する。一態様において、微量金属は、鉄又は銅からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数の微量金属である。いずれかの変形態様において、HTST適合性培地は、他のHTST適合性培地と比較してより低いレベルの微量金属を有する。一態様において、微量金属は、鉄又は銅からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数の微量金属である。本発明は、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。一変形態様において、本発明は、細胞培地成分を表1に詳述したように調節する、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。他の変形態様において、本発明は、細胞培地成分を実施例2で詳述するような応答面を用いて調節する、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。一変形態様において、本発明は、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に調節する、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。他の変形態様において、本発明は、培地のpHを約pH5.0から約pH7.2までの間に調節する、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。いくつかの態様において、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換するためにHTST不適合性培地のpHを約pH5.3から約pH6.3までの間に調節する。さらなる態様において、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換するためにHTST不適合性培地のpHをpH6.0に調節する。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、HTST不適合性培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、HTST不適合性培地のpHを次に細胞培養のポリペプチド産生期のために約pH6.9から約pH7.2までの間にする。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、HTST不適合性培地のpHをpH6.9から約pH7.2までの間にする。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、HTST不適合性培地のpHは約pH5.0から約pH7.2までの間にある。一変形態様において、本発明は、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に調節する、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換する方法を提供する。さらなる態様において、HTST不適合性培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度を約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満に調節する。いくつかの態様において、HTST不適合性培地中のリン酸及びカルシウムの総量を細胞培養のポリペプチド産生期の前に約10mM未満に調節する。さらなる態様において、HTST不適合性培地中のリン酸及びカルシウムの総量を次に、細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチド産生に十分なレベルに上昇させる。
【0090】
d)沈殿物の形成の減少
一変形態様において、本発明は、ウイルスの不活性化のための熱処理中の細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。方法は、熱処理にかけた細胞培養培地中のカルシウム、リン酸及びpHの1つ又は複数のレベルを調節することを含む。一態様において、熱処理は、HTST処理である。一変形態様において、本発明は、培地がHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までの間のpHを有する、ウイルスの不活性化のためのHTST処理中の細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。他の変形態様において、本発明は、培地がHTST処理中に約pH5.0から約pH7.2までの間のpHを有する、ウイルスの不活性化のためのHTST処理中の細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。いくつかの態様において、培地は、HTST処理中に約pH5.3から約pH6.3までのpHを有する。他の態様において、培地は、HTST処理中に約pH6.0のpHを有する。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH7.2までの間に低下させる。さらなる態様において、培地のpHを次に細胞培養のポリペプチド産生期のために約pH6.9から約pH7.2までの間にする。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。一変形態様において、培地のpHは、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中に約pH5.0から約pH7.2までの間にある。他の変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含むウイルスの不活性化のためのHTST処理中の細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。さらなる態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度は、HTST処理中に約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満である。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。さらなる態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。他の変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含むウイルスの不活性化のためのHTST処理中の細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。いくつかの態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のHTST処理中、培地のpHを約pH5.0から約pH6.0までの間に低下させ、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期中、培地のpHをpH6.9から約pH7.2までの間にし、培地中のリン酸及びカルシウムの総量をポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。
【0091】
本発明のいくつかの態様において、表1に詳述した特定の成分を有する培地などの本明細書で詳述した培地は、感染因子の不活性化のためのHTST処理中の沈殿を減少させる。一態様において、培地中の特定の成分は、HTST処理中に特定の培地成分を欠く同じ培地中に存在する沈殿の量と比較した場合、沈殿を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも100%減少させる。培地中の沈殿の量の定量的測定は、当技術分野における周知の技術を用いて行うことができる。一変形態様において、本発明は、培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し、HTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpHを有さない培地中の沈殿と比較した場合、培地が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する、HTST処理にかけた細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。一態様において、培地は、HTST処理中に約pH5.3から約pH6.3までのpHを有し、HTST処理中に約pH5.3から約pH6.3までのpHを有さない培地中の沈殿と比較した場合、培地は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する。他の態様において、培地は、HTST処理中に約pH6.0のpHを有し、HTST処理中に約pH5.3から約pH6.0までのpHを有さない培地中の沈殿と比較した場合、培地は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する。一変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含み、HTST処理中に約10mMを超えるリン酸及びカルシウムの総量を有する培地中の沈殿と比較した場合、培地が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する、細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。一態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度は、HTST処理中に約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満であり、HTST処理中に約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満のリン酸及びカルシウムの総濃度を有さない培地中の沈殿と比較した場合、培地は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する。一変形態様において、本発明は、HTST処理中、培地が約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含み、約pH5.0から約pH6.9までのpHを有さず、HTST処理中に約10mMを超えるリン酸及びカルシウムの総量を有する培地中の沈殿と比較した場合、培地が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の少なくともおおよそいずれか少ない沈殿を有する、HTST処理にかけた細胞培養培地中の沈殿を減少させる方法を提供する。
【0092】
本明細書で詳述した方法のいずれかの感染因子は、本明細書で詳述したウイルス(例えば、パルボウイルス)であり得、方法の培地は、表1に詳述した成分を有する培地などの、本明細書で詳述した培地であり得る。
【0093】
B.熱処理に用いる装置の付着物を減少させる方法
本発明は、細胞培養培地中のウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置の付着物を減少させる方法を提供する。発明者らは、HTST処理にかけた細胞培養培地における特定の成分又はパラメーターのレベルを調節することにより、ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置の付着物が減少することを発見した。表1に詳述した成分を有する培地などの、本明細書で詳述した細胞培養培地は、ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置の付着物を減少させるための本明細書で詳述した方法のいずれかに用いることができる。明細書で詳述した方法のいずれかにおいて、付着物は、HTST処理に用いる装置上の沈殿を含む。
【0094】
一変形態様において、本発明は、HTST処理に用いる装置の付着物を減少させる方法を提供するものであり、方法は、装置に用いる細胞培養培地をHTST処理にかけることを含み、HTST処理中、培地は約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。一態様において、HTST処理中、培地は約pH5.3から約pH6.3までのpHを有する。他の態様において、HTST処理中、培地は、約pH6.0を有する。他の態様において、付着物は、HTST処理に用いる装置上の沈殿を含む。いずれかの態様において、HTST処理は、温度を培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり少なくとも約85℃に上昇させることを含む。さらなる態様において、培地の温度を培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり少なくとも約93℃に上昇させる。さらなる態様において、培地の温度を培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり少なくとも約95、97、99、101又は103℃に上昇させる。一変形態様において、本発明は、HTST処理に用いる装置の付着物を減少させる方法を提供するものであり、方法は、HTST処理中、装置に用いる細胞培養培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む。一態様において、HTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度は約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満である。さらなる態様において、付着物は、HTST処理に用いる装置上の沈殿を含む。
【0095】
いずれかの態様において、HTST処理に用いる装置の付着物は、HTST不適合性培地と比較してHTST適合性培地を用いる場合に減少する。一態様において、HTST処理中、HTST適合性培地は約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。他の態様において、HTST適合性培地は、約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含む。他の態様において、HTST処理中、HTST適合性培地は約pH5.0から約pH6.9までのpH並びに約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含む。HTST適合性培地は、表1に詳述した成分を有する培地などの、本明細書で詳述したいずれかの細胞培養培地である。
【0096】
製造工程に用いる様々な装置の付着物を測定し、モニターする方法、例えば、その開示がその全体として出典明示により本明細書において援用される、Awad,M.2011,Heat Transfer:Theoretical Analysis、Experimental Investigations and Industrial Systems,Chapter 20,p.505−542に記載されている方法論は、当業者に公知であり、表1に詳述した成分を有する培地及び実施例に詳述した培地などの、本明細書で開示したいずれかの細胞培養培地のHTST処理に用いる装置の付着物をモニターし、測定するために用いることができる。例えば、装置の付着物は、目標培地温度設定点を達成するのに必要な熱交換器蒸気圧の変化を測定することにより、又は達成温度の変化(若しくは低下)を測定することにより測定することができる。いずれかの態様において、付着物は、HTST処理に用いる装置上の沈殿を含む。一態様において、HTST不適合性培地の使用に起因する付着物の付着を受けやすい1つ又は複数の装置は、HTSTスキッド、熱交換器、配管、ろ過装置及びろ過膜を含むが、これらに限定されない。
【0097】
C.熱処理細胞培養培地を用いてポリペプチドを生産する方法
a)細胞
提供する方法及び組成物は、動物、酵母又は昆虫細胞を含む、本明細書で述べた培地中の成長及び/又はポリペプチド(例えば、抗体)の産生に適する細胞を用いることができる。一態様において、方法及び組成物の細胞は、細胞培養及びポリペプチドの発現に適する哺乳類細胞又は細胞型である。したがって、本明細書で提供する方法(例えば、細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法)及び組成物は、動物細胞を含む、適切な種類の細胞を用いることができる。一態様において、方法及び組成物は、哺乳類細胞を用いる。方法及び組成物は、ハイブリドーマ細胞も用いることができる。一変形態様において、哺乳類細胞は、抗体、抗体断片(リガンド結合断片を含む)及びキメラ抗体などの、所望のポリペプチドをコードする外因性単離核酸で形質転換した非ハイブリドーマ哺乳類細胞である。一変形態様において、方法及び組成物は、ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell、Leiden、The Netherlands));SV40により形質転換させたサル腎臓CV1系(COS−7、ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓系(293又は懸濁培養での増殖用にサブクローンした293細胞、Grahamら、J. Gen. Virol.、36:59 (1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol. Reprod.、23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝臓細胞(BRL3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB8065);マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら, Annals N. Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌系(Hep G2)からなる群から選択される哺乳類細胞を用いる。特定の変形態様において、方法及び組成物は、CHO細胞を用いる。特定の変形態様において、CHO細胞系の培養及びCHO細胞系からのポリペプチド(例えば、抗体)の発現を用いる。ポリペプチド(例えば、抗体)は、ポリペプチドを単離し、且つ/又は精製することができる本明細書で開示した培地中に分泌させることができ、あるいはポリペプチドは、ポリペプチドをコードする単離核酸を含む細胞の溶解物により本明細書で開示した培地中に放出させることができる。
【0098】
組換え脊椎動物細胞培養中の対象のポリペプチドの合成への適応に適する方法、ベクター及び宿主細胞は、当技術分野で公知であり、例えば、Gethingら、Nature,293:620−625(1981);Manteiら、Nature,281:40−46(1979);Levinsonら;欧州特許第117060号及び欧州特許第117058号に記載されている。ポリペプチドの哺乳類細胞培養発現のための特に有用なプラスミドは、pRK5(欧州特許出願公開第307247号)又はpSVI6B(1991年6月13日に公開されたPCT国際公開第91/08291号)である。
【0099】
宿主細胞を発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導する、形質転換細胞を選択する又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適宜修飾した栄養培地中で培養する。哺乳類細胞については、Graham及びvan der Erb, Virology,52:456−457(1978)のリン酸カルシウム沈殿法又はHawley−Nelson,Focus,15:73(1193)のlipofectamine.TM.(Gibco BRL)法が好ましい。哺乳類細胞宿主系形質転換の一般的態様は、当技術分野で公知であり、例えば、1983年8月16日に発行された米国特許第4399216号にAxelにより記載された。哺乳類細胞を形質転換する種々の技術については、例えば、Keownら、Methods in Enzymology(1989)、Keownら、Methods in Enzymology,185:527−537(1990)及びMansourら、Nature,336:348−352(1988)を参照のこと。
【0100】
方法及び組成物は、細胞培養中にモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの使用も含む。モノクローナル抗体は、免疫動物から免疫細胞(一般的に脾臓細胞又はリンパ節組織からのリンパ球)を回収し、通常の方法、例えば、骨髄腫細胞との融合により又はエプスタイン−バー(EB)ウイルス形質転換により細胞を不死化し、所望の抗体を発現するクローンについてスクリーニングすることにより調製する。Kohler及びMilstein,Eur.J.Immunol.,6:511(1976)により最初に記載され、Hammerlingら、In:Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas,Elsevier,N.Y.,p.563−681(1981)にも記載されているハイブリドーマ技術は、多くの特異抗原に対する高レベルのモノクローナル抗体を分泌するハイブリッド細胞系を作製するために広く適用されている。
【0101】
b)ポリペプチド
本明細書で詳述した組成物(例えば、細胞)及び方法により産生され、本明細書で提供する組成物に存在するポリペプチドは、宿主細胞に対して同種であり得、あるいは好ましくは、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生されるヒトタンパク質又は哺乳類細胞により産生される酵母ポリペプチドのような、利用する宿主細胞に対して異種、すなわち、外来性であることを意味する、外因性であり得る。一変形態様において、ポリペプチドは、宿主細胞により培地中に直接分泌される哺乳類ポリペプチド(抗体など)である。他の変形態様において、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする単離核酸を含む細胞の溶解物により培地中に放出される。
【0102】
一変形態様において、ポリペプチドは、鎖長がより高レベルの三次及び/又は四次構造を生じるのに十分であるアミノ酸の配列である。一態様において、ポリペプチドは、少なくとも約5−20kD、あるいは少なくとも約15−20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有する。
【0103】
宿主細胞中で発現可能であるポリペプチドは、本開示に従って生産することができ、提供する組成物に存在し得る。ポリペプチドは、宿主細胞に対して内因性である遺伝子から、又は遺伝子工学により宿主細胞に導入された遺伝子から発現させることができる。ポリペプチドは、天然に存在するものであり得、又は代わりになるべきものとして、人手により遺伝子組換え若しくは選択された配列を有し得る。遺伝子組換えポリペプチドは、個々に天然に存在する他のポリペプチドセグメントからアセンブルすることができ、あるいは天然に存在しない1つ又は複数のセグメントを含み得る。
【0104】
本発明により望ましくは発現させることができるポリペプチドは、興味深い生物学的又は化学的活性に基づいてしばしば選択される。例えば、本発明は、薬学的又は商業的に関連性のある酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合因子等を発現させるために用いることができる。
【0105】
種々のポリペプチドを本明細書で提供する方法により生産することができ、本明細書で提供する組成物に存在する。細菌ポリペプチドの例は、例えば、アルカリホスファターゼ及びベータ−ラクタマーゼを含む。哺乳類ポリペプチドの例は、例えば、レニン、ヒト成長ホルモンを含む成長ホルモン;ウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ1−抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、第IX因子、組織因子及びフォン・ビルブラント因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;ウロキナーゼ又はヒト尿若しくは組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)などのプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血増殖因子;腫瘍壊死因子−アルファ及び−ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性、正常T細胞発現及び分泌の調節(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted));ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−アルファ);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミュラー管抑制因子;レラキシンA鎖;レラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;ベータ−ラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNアーゼ;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモン又は増殖因子の受容体;インテグリン;プロテインA又はD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5若しくは−6(NT−3、NT−4、NT−5若しくはNT−6)などの神経栄養因子又はNGF−ベータなどの神経増殖因子;血小板由来増殖因子(PDGF);aFGF及びbFGFなどの線維芽細胞増殖因子;表皮増殖因子(EGF);TGF−アルファ及びTGF−ベータ1、TGF−ベータ2、TGF−ベータ3、TGF−ベータ4又はTGF−ベータ5を含むTGF−ベータなどのトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子−I及び−II(IGF−I及びIGF−II);デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質;CD−3、CD−4、CD−8及びCD−19などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;イムノトキシン;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン−アルファ、−ベータ及び−ガンマなどのインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M−CSF、GM−CSF及びG−CSF;インターロイキン(ILs)、例えば、IL−1−IL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;分解促進因子;例えば、AIDSエンベロープの一部などのウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレッシング;調節タンパク質;抗体;並びに上記のポリペプチドのいずれかの断片などの分子を含む。
【0106】
抗体は、本明細書で提供する方法により産生され、提供する組成物に存在し得る哺乳類ポリペプチドの例である。抗体は、特異抗原に対する結合特異性を示す好ましいクラスのポリペプチドである。天然抗体は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合により重鎖に連結されているが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重及び軽鎖は、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端における可変ドメイン(V.sub.H)とそれに続く多くの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端における可変ドメイン(V.sub.L)及びその他端における定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと並んでおり、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基が軽及び重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。
【0107】
抗体は、すべてが免疫グロブリン折り畳みに基づく様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子である。例えば、IgG抗体は、ジスルフィド結合して機能性抗体を形成する2つの「重」鎖及び2つの「軽」鎖を有する。各重及び軽鎖は、それ自体「定常」(C)及び「可変」(V)領域を有する。V領域は、抗体の抗原結合特異性を決定するが、C領域は、構造支持をもたらし、免疫エフェクターとの非抗原特異的相互作用において機能する。抗体又は抗体の抗原結合断片の抗原結合特異性は、特定の抗原に特異的に結合する抗体の能力である。
【0108】
抗体の抗原結合特異性は、V領域の構造特性により決定される。可変性は、可変ドメインの110アミノ酸長にわたって均一に分布していない。それどころか、V領域は、それぞれ9−12アミノ酸長である「超可変領域」と呼ばれる極度の可変性のより短い領域により分離された15−30アミノ酸のフレームワーク領域(FRs)と呼ばれる比較的に不変の拡張部からなる。天然重及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を接続する、また場合によってその一部を形成する、ループを形成する、3つの超可変領域により接続されたβシート配置を主としてとる、4つのFRsをそれぞれ含む。各鎖における超可変領域は、FRsにより近接してつなぎ合わされ、他の鎖の超可変領域とともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health service, National Institutes of Health, Bethesda,Md. (1991)を参照)。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞の細胞毒性(ADCC)における抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0109】
各V領域は、一般的に3つの相補性決定領域(「CDRs」、それらのそれぞれが「超可変ループ」を含む)及び4つのフレームワーク領域を含む。実質的な親和力で特定の所望の抗原に結合することを必要とする最小限の構造単位である、抗体結合部位は、したがって一般的に3つのCDRs及びその間に散在して適切な配置にCDRsを保持し、提示する少なくとも3つ、好ましくは4つのフレームワーク領域を含む。古典的な4鎖抗体は、VH及びVLドメインにより共同して定義される抗原結合部位を有する。ラクダ及びサメ抗体などの特定の抗体は、軽鎖を欠いており、重鎖のみにより形成された結合部位に依拠する。VHとVLとの共同の非存在下で結合部位が重鎖又は軽鎖のみにより形成されている単一ドメイン遺伝子組換え免疫グロブリンを調製することができる。
【0110】
「可変」という用語は、可変ドメインの特定の部分が、抗体間で配列が大幅に異なり、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性に用いられるという事実を意味する。しかし、可変性は、抗体の可変ドメインを通して均一に分布していない。それは、軽鎖及び重鎖可変ドメインの両方における超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存されている部分は、フレームワーク領域(FRs)と呼ばれる。天然重及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を接続する、また場合によってその一部を形成する、ループを形成する、3つの超可変領域により接続されたβシート配置を主としてとる、4つのFRsをそれぞれ含む。各鎖における超可変領域は、FRsにより近接してつなぎ合わされ、他の鎖の超可変領域とともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)を参照)。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞の細胞毒性(ADCC)における抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0111】
「超可変領域」という用語は、本明細書で用いる場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、「相補性決定領域」若しくは「CDR」のアミノ酸残基(例えば、VLにおける残基24−34(L1)、50−56(L2)及び89−97(L3)に存在し、VHにおける31−35B(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3)に存在する(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))及び/又は「超可変ループ」の残基(例えば、VLにおける残基26−32(L1)、50−52(L2)及び91−96(L3)並びにVHにおける26−32(H1)、52A−55(H2)及び96−101(H3)(Chothia及びLesk, J. Mol. Biol., 196:901-917 (1987))を含み得る。
【0112】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書で定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0113】
抗体のパパイン消化により、それぞれが単一抗原結合部位を有する、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片、及びその名称が容易に結晶化するその能力を反映する、「Fc」断片残基が生ずる。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原に交差結合することができるF(ab’)2断片が生ずる。
【0114】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む最小限の抗体断片である。この領域は、強固な非共有結合性会合による1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。それは、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用して、VH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を定義するというこの配置状態にある。ひとまとめにすると、6つの超可変領域が抗原結合特異性を抗体に付与する。しかし、単一可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)でさえも、全結合部位よりも低い親和力であるが、抗原を認識し、結合する能力を有する。
【0115】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域の1つ又は複数のシステインを含む、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端における少数の残基の付加の点がFab断片と異なっている。Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基(一又は複数)が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’の本明細書における表示である。F(ab’)2抗体断片は、最初にそれらの間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生成された。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0116】
脊椎動物種の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に異なるタイプの1つに帰属させることができる。
【0117】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、抗体を異なるクラスに帰属させることができる。完全な抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2にさらに分類することができる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元配置は、周知である。
【0118】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは、単一ポリペプチド鎖で存在する。いくつかの実施態様において、Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にするVH及びVLドメイン間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvのレビューについては、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,113巻,Rosenburg及びMoore編,Springer−Verlag,New York,p.269−315(1994)を参照のこと。
【0119】
「ダイアボディ」という用語は、同じポリペプチド鎖における軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(HL)(VH−VL)を含む、2つの抗原結合部位を有する小抗体断片を意味する。短すぎて、同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成をもたらすことができないリンカーを用いることにより、ドメインは、他の鎖の相補性ドメインと強制的に対形成し、2つの抗原結合部位を形成する。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号及びHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)により十分に記載されている。
【0120】
本明細書における目的のために、「完全な抗体」は、重及び軽可変ドメイン並びにFc領域を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。好ましくは、完全な抗体は、1つ又は複数のエフェクター機能を有する。
【0121】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合により重鎖に連結されているが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重及び軽鎖は、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端における可変ドメイン(VH)とそれに続く多くの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端における可変ドメイン(VL)及びその他端における定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと並んでおり、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基が軽及び重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。
【0122】
「裸の抗体」は、細胞毒性部分又は放射性標識などの異種分子にコンジュゲートされていない抗体(本明細書で定義した)である。
【0123】
抗体は、対象の抗原に対して誘導される。好ましくは、抗原は、生物学的に重要なポリペプチドであり、疾患又は状態に罹患している個体への抗体の投与は、当哺乳動物における治療効果をもたらし得る。しかし、非ポリペプチド抗原(腫瘍関連糖脂質抗原など;米国特許第5091178号参照)に対して誘導される抗体も用いることができる。
【0124】
抗原がポリペプチドである場合、それは、膜貫通分子(例えば、受容体)又は増殖因子などのリガンドであり得る。具体例としての抗原は、レニン;ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ1−抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、第IX因子、組織因子(TF)及びフォン・ビルブラント因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;ウロキナーゼ又はヒト尿若しくは組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)などのプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血増殖因子;腫瘍壊死因子−アルファ及び−ベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(活性、正常T細胞発現及び分泌の調節);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−アルファ);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミュラー管抑制因子;レラキシンA鎖;レラキシンB鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;ベータ−ラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNアーゼ;IgE;CTLA−4などの細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモン又は増殖因子の受容体;プロテインA又はD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5若しくは−6(NT−3、NT−4、NT−5若しくはNT−6)などの神経栄養因子又はNGF−ベータなどの神経増殖因子;血小板由来増殖因子(PDGF);aFGF及びbFGFなどの線維芽細胞増殖因子;表皮増殖因子(EGF);TGF−アルファ及びTGF−ベータ1、TGF−ベータ2、TGF−ベータ3、TGF−ベータ4又はTGF−ベータ5を含むTGF−ベータなどのトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子−I及び−II(IGF−I及びIGF−II);デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD18、CD19、CD20及びCD40などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;イムノトキシン;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン−アルファ、−ベータ及び−ガンマなどのインターフェロン;コロニー刺激因子(CSFs)、例えば、M−CSF、GM−CSF及びG−CSF;インターロイキン(ILs)、例えば、IL−1−IL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;分解促進因子;例えば、AIDSエンベロープの一部などのウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレッシン;調節タンパク質;CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4及びVCAMなどのインテグリン;HER2、HER3又はHER4受容体などの腫瘍関連抗原;並びに上記のポリペプチドのいずれかの断片などの分子を含む。
【0125】
本明細書で詳述した抗体の好ましい分子標的は、CD3、CD4、CD8、CD18、CD19、CD20、CD34及びCD40などのCDタンパク質;EGF受容体、HER2、HER3又はHER4受容体などのErbB受容体ファミリーのメンバー;LFA−1、Mac1、p150.95、VLA−4、ICAM−1、VCAM、そのアルファ又はベータサブユニットを含むアルファ4/ベータ7インテグリン及びアルファv/ベータ3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体)などの細胞接着分子;VEGFなどの増殖因子;組織因子(TF);アルファインターフェロン(アルファ−IFN);IL−8などのインターロイキン;IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA−4;プロテインC及び同類のものを含む。
【0126】
本明細書における方法により産生させることができる抗体(ひいてはその抗原結合断片を含む、その断片を含む)は、制限なしに、抗HER2、抗体2C4、抗VEGF、抗体C2B8、抗CD11a、抗組織因子、IgG4b、抗CD40、抗CD20、抗IgE、E25及びE26、抗PCSK9並びに抗ベータ7を含む。
【0127】
c)細胞成長及びポリペプチド産生
一般的に細胞は、細胞成長、維持及び/又はポリペプチド産生のいずれかを促進する1つ又は複数の条件下で本明細書で述べた細胞培養培地のいずれかと混ぜ合わせる(接触させる)。細胞を成長させ、ポリペプチドを産生する方法は、細胞及び細胞培養培地を含む培養容器(バイオリアクター)を用いる。培養容器は、ガラス、プラスチック又は金属を含む、細胞を培養するのに適する材料により構成され得る。一般的に、培養容器は、少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10000リットル又はそれ以上であり得る。培養工程中に調節することができる培養条件は、pH及び温度を含むが、これらに限定されない。
【0128】
細胞培養は、一般的に細胞培養の生存、成長及び生存能力(維持)の助けとなる条件下で初期成長期に維持される。詳細な条件は、細胞型、細胞が得られた生物並びに発現ポリペプチドの性質及び特性によって異なる。
【0129】
初期成長期における細胞培養の温度は、細胞培養が生存できるままである温度の範囲に主として基づいて選択する。例えば、初期成長期中、CHO細胞は、37℃で十分に成長する。一般的に、大部分の哺乳類細胞は、約25℃−約42℃の範囲内で十分に成長する。好ましくは、哺乳類細胞は、約35℃−40℃の範囲内で十分に成長する。当業者は、細胞の必要性及び産生要件に依存する、細胞が成長する適切な温度(一又は複数)を選択することができる。
【0130】
本発明の一実施態様において、初期成長期の温度を単一の一定温度に維持する。他の実施態様において、初期成長期の温度を一定の温度範囲内に維持する。例えば、温度は、初期成長期中に絶え間なく増加又は減少させることができる。あるいは、温度は、初期成長期中に様々な時点に不連続の量で増加又は減少させることができる。当業者は、単一又は複数の温度を用いるべきであるかどうか、及び温度を絶え間なく又は不連続の量で調節すべきであるかどうかを判断することができる。
【0131】
細胞は、初期成長期中により長い又はより短い時間にわたり成長させることができる。一変形態様において、妨害せずに成長させた場合に細胞が最終的に到達する最大生存細胞密度の所定の百分率である生存細胞密度を達成するのに十分な期間にわたり細胞を成長させる。例えば、最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は99パーセントの所望の生存細胞密度を達成するのに十分な期間にわたり、細胞を成長させる。
【0132】
他の実施態様において、細胞を規定の期間にわたり成長させる。例えば、細胞培養の出発濃度、細胞を成長させる温度及び細胞の固有の成長速度によって、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又はそれ以上の日数にわたり細胞を成長させることができる。場合によって、細胞を1ヵ月又はそれ以上の期間にわたり成長させることができる。
【0133】
細胞培養は、酸素化及び細胞への栄養素の分散を増大させるために初期培養期中に撹拌又は振盪することができる。本発明によれば、当業者は、pH、温度、酸素化等を含むが、これらに限定されない、初期成長期中のバイオリアクターの特定の内部条件を制御又は調節することが有益であり得ることを理解する。例えば、pHは、適切な量の酸又は塩基を供給することにより制御することができ、酸素化は、当技術分野で周知であるスパージング装置により制御することができる。
【0134】
初期培養段階は、成長期であり、バッチ細胞培養条件をシードトレイン(seed train)を生産するための組換え細胞の成長を促進するように変更する。成長期は、一般的に細胞が一般的に速やかに分裂している、例えば、成長している、指数増殖(exponential growth)の期間を意味する。この時期中、細胞を一定の期間、通常1−4日、例えば、1、2、3又は4日にわたり、細胞成長が最適であるような条件下で培養する。宿主細胞の成長周期の決定は、当業者に公知の方法により特定の宿主細胞について決定することができる。
【0135】
成長期において、基礎培養培地及び細胞を培養容器にバッチで供給することができる。培養培地は、一態様において約5%未満又は1%未満又は0.1%未満の血清及び他の動物由来のタンパク質を含む。しかし、血清及び動物由来のタンパク質は、所望の場合に用いることができる。特定の変形態様において、基礎培地は、ウイルスを不活性するためのHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。一態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のウイルスを不活性するためのHTST処理中、基礎培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させる。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。さらなる態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。他の特定の変形態様において、ウイルスを不活性するためのHTST処理中、基礎培地はリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む。一態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のウイルスを不活性するためのHTST処理中、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限する。さらなる態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。他の変形態様において、基礎培地は、ウイルスを不活性するためのHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpH及び約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を有する。一態様において、細胞培養のポリペプチド産生期の前のウイルスを不活性するためのHTST処理中、基礎培地のpHを約pH5.0から約pH6.9までの間に低下させ、約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含む。さらなる態様において、培地のpHを次に約pH6.9から約pH7.2までの間にし、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。態様のいずれかにおいて、基礎培地は、化学的に定義された培地である。態様のいずれかにおいて、基礎培地は、化学的に定義されていない培地である。それらの文書がそれらの全体として出典明示により本明細書において援用される、欧州特許第307247号又は米国特許第6180401号において指定された範囲の1又は2倍のアミノ酸、ビタミン、微量元素及び他の培地成分を用いることができる。
【0136】
あるいは、Ham’s F10(Sigma)、最少必須培地([MEM]、Sigma)、RPMI−1640(Sigma)及びダルベッコ修正イーグル培地([DMEM]、Sigma)などの市販の培地は、動物細胞を培養するのに適しており、本明細書で詳述した化学的に定義された培地成分を補うことができる(例えば、提供するキットを用いることにより)。さらに、すべての開示がそれらの全体として出典明示により本明細書において援用される、Ham及びWallace,Meth.Enz.,58:44(1979),Barnes及びSato,Anal.Biochem.,102:255(1980),米国特許第4767704号;第4657866号;第4927762号;又は第4560655号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;米国特許番号Re.30985;又は米国特許第5122469号に記載されている培地のいずれかは、それぞれに本明細書で詳述した化学的に定義された培地成分を補うことができる(例えば、提供するキットを用いることにより)宿主細胞の培養培地として用いることができる。
【0137】
本明細書で提供する培地に、必要に応じてホルモン及び/又は他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン又は表皮増殖因子など)、イオン(ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム及びリン酸など)、緩衝剤(へペスなど)、ヌクレオシド(アデノシン及びチミジンなど)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)、微量金属(鉄及び銅など)並びにグルコース又は同等のエネルギー源も補うことができる。他の必要な補給物も当業者に公知であるような適切な濃度で含めることができる。
【0138】
それらの成長の特定の時点に、細胞は、産生期における培養の開始時に培養培地に接種するための接種物になり得る。あるいは、産生期は、成長期に続き得る。細胞成長期に一般的にポリペプチド産生期が続く。
【0139】
ポリペプチド産生期中に、細胞培養は、細胞培養の生存及び生存能力の助けとなり、所望のポリペプチドの発現に適切な第2の一連の条件下(成長期と比較して)に維持することができる。例えば、後の産生期中に、CHO細胞は、25℃−35℃の範囲内で組換えポリペプチド及びタンパク質を十分に発現する。複数の不連続的な温度変化を用いて、細胞密度若しくは生存能力を増大又は組換えポリペプチド若しくはタンパク質の発現を増大させることができる。本明細書で用いているように、「ポリペプチド産生期」又は「タンパク質発現期」という用語は、細胞培養が生物学的製剤(例えば、ポリペプチド)を産生する、細胞培養期を意味し得る。
【0140】
細胞は、所望の細胞密度又は産生力価に達するまで後の産生期に維持することができる。一実施態様において、組換えポリペプチドの力価が最大に達するまで細胞を後の産生期に維持する。他の実施態様において、細胞をこの時点の前に採取することができる。例えば、最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は99パーセントの生存細胞密度を達成するのに十分な期間にわたり細胞を維持することができる。ある場合には、生存細胞密度を最大値に到達させ、次いで培養を採取する前に生存細胞密度をあるレベルに低下させることが望ましいことがあり得る。
【0141】
特定の場合には、細胞により枯渇させられた又は代謝された栄養素又は他の培地成分を細胞培養に後のポリペプチド産生期中に補うことが有益又は必要であることがあり得る。例えば、細胞培養のモニタリング中に枯渇したことが認められた栄養素又は他の培地成分を細胞培養に補うことが有利であり得る。いくつかの態様において、1つ又は複数の枯渇成分は、後の産生期の前のカルシウム、リン酸、鉄及び銅を含む。いくつかの態様において、補う培地成分は、カルシウム、リン酸、鉄及び銅を含む。あるいは又はさらに、後のポリペプチド産生期の前に細胞培養に補うことが有益又は必要であり得る。いくつかの態様において、後のポリペプチド産生期の前に細胞培養にカルシウム、リン酸、鉄及び銅を含む1つ又は複数の培地成分を補う。非限定的な例として、ホルモン及び/又は他の増殖因子、特定のイオン(ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム及びリン酸など)、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシド又はヌクレオチド、微量元素(非常に低い最終濃度で通常存在する無機化合物)、微量金属(鉄及び銅など)アミノ酸、脂質、あるいはグルコース又は他のエネルギー源を細胞培養に補うことが有益又は必要であり得る。本明細書で用いているように、「フィード培地」又は「産生培地」という用語は、細胞培養のポリペプチド産生期中に用いる細胞培養培地を意味する。
【0142】
特定の変形態様において、フィード培地は、ウイルスを不活性化するためのHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpHを有する。いくつかの態様において、フィード培地のpHを次に細胞培養のポリペプチド産生期のために約pH6.9から約pH7.2までの間にする。いくつかの態様において、次に、細胞培養のポリペプチド産生期のために、HTST処理後に、フィード培地のpHを約pH6.9から約pH7.2までの間にする。他の特定の変形態様において、ウイルスを不活性化するためのHTST処理中、フィード培地は、リン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含む。いくつかの態様において、フィード培地中のリン酸及びカルシウムの総量を次に細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。他の変形態様において、フィード培地は、ウイルスを不活性化するためのHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpH並びに約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を有する。いくつかの態様において、培地のpHを次に約pH6.9から約pH7.2までの間にし、培地中のリン酸及びカルシウムの総量を細胞培養のポリペプチド産生期中のポリペプチドの産生に十分なレベルに上昇させる。態様のいずれかにおいて、フィード培地は、化学的に定義された培地である。態様のいずれかにおいて、フィード培地は、化学的に定義されていない培地である。それらの文書がそれらの全体として出典明示により本明細書において援用される、欧州特許第307247号又は米国特許第6180401号において指定された範囲の1又は2倍のアミノ酸、ビタミン、微量元素及び他の培地成分を用いることができる。
【0143】
D.キット
細胞培養培地に化学的に定義された成分を補うためのキットを述べる。キットは、再構成すべき乾燥成分を含んでいてもよく、また使用説明書(例えば、培地にキット構成要素を補う際に用いるための)も含んでいてもよい。キットは、細胞培養培地に補うのに適する量で本明細書で提供する培地成分を含み得る。一変形態様において、キットは、表Iの培地成分を含む。他の変形態様において、キットは、培地のpHを表Iに開示したpHレベルに調節するための培地成分を含む。
【0144】
E.組成物
細胞培養培地及び細胞又は所望のポリペプチド(例えば、抗体)などの1つ又は複数の他の構成要素を含む組成物も提供する。一変形態様において、(a)ポリペプチドをコードする単離核酸を含む細胞;及び(b)本明細書で提供する細胞培養培地を含む組成物を提供する。他の変形態様において、(a)ポリペプチド;及び(b)本明細書で提供する細胞培養培地を含む組成物を提供し、一態様において、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする単離核酸を含む細胞により培地中に分泌される。他の変形態様において、(a)ポリペプチド;及び(b)本明細書で提供する細胞培養培地を含む組成物を提供し、一態様において、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする単離核酸を含む細胞の溶解物により培地中に放出される。組成物の細胞は、本明細書で詳述したいずれかの細胞(例えば、CHO細胞)であり得、組成物の培地は、表1に詳述したような培地成分を含む培地などの本明細書で詳述したいずれかの培地であり得る。同様に、組成物のポリペプチドは、抗体などの本明細書で詳述したいずれかのポリペプチドであり得る。
【0145】
F.ウイルス不活性化のためのシステム
本発明は、細胞培養培地のウイルスの不活性化のためのシステム及び/又は方法を予期する。システムは、培地、培地封じ込めユニット(一又は複数)、pH計(若しくはpHを測定するための他の手段)、カルシウム及び/又はリン酸濃度及び/又は量の測定及び/又は定量のための手段;培地の移送のための手段(例えば、管)、培地の温度を上昇させるための熱源(一又は複数)、目標設定点(例えば、温度)の調節の手段、保持封じ込めユニット(例えば、保持チューブ)、培地の温度を低下させるための冷却源(一又は複数)、空気供給装置、圧力入力及び出力の手段(例えば、圧力弁、蠕動ポンプ、遠心ポンプ、容積移送式ポンプ)、培地入力及び出力の手段、ガス入力及び出力の手段、ろ過の手段、流量及び流動力学に関連する他の態様の調節の手段を含み得るが、これらに限定されず、所望のポリペプチド又は細胞培養又は細胞培養培地の生産が行われるバイオリアクターに任意選択的に接続される。
【0146】
上記の要素を含むウイルス不活性化のためのシステムは、熱処理のためのシステムも含み得る。本明細書で述べた様々なパラメーター(例えば、pH、カルシウム及び/又はリン酸濃度)とともに用いることができる具体例としての熱処理システムを
図1に示す。本明細書で述べるそのようなシステムは、培地を様々な最終製品(例えば、ポリペプチド、抗体等)の生産のために用いることができるように細胞培養培地中のウイルスを不活性化する方法を実施するのに有用である。
【0147】
G.具体例としての実施態様
一態様において、本発明は、本発明は、細胞培地が細胞培養への適合性を維持している間に、細胞培養培地中のウイルス又は外来因子を不活性化する方法を提供するものであり、前記方法は、(a)細胞培養培地を高温短時間(HTST)処理にかけることと、(b)pH、カルシウムレベル及びリン酸レベルからなる群から選択される1つ又は複数のパラメーターを調節することとを含む。
【0148】
上記の実施態様のいずれかにおいて、方法は、微量金属濃度を調節することをさらに含む。
【0149】
上記の実施態様のいずれかにおいて、微量金属は、鉄及び銅からなる群から選択される。
【0150】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理前に、培地中で鉄及び/又は銅濃度を調節する。
【0151】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理前に、培地から鉄及び/又は銅を除去する。
【0152】
上記の実施態様のいずれかにおいて、方法は、HTST処理後に、培地に鉄及び/又は銅を細胞培養に対して適切なレベルまで補うことをさらに含む。
【0153】
上記の実施態様のいずれかにおいて、培地がカルシウム及びリン酸を含む場合、pHを調節する。
【0154】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理前に培地を調製する際にpHを適切な低いレベルに調節する。
【0155】
上記の実施態様のいずれかにおいて、pHを適切なレベルに低下させることにより調節する。
【0156】
上記の実施態様のいずれかにおいて、pHを7.2未満に調節する。
【0157】
上記の実施態様のいずれかにおいて、pHを約5.0−7.2に調節する。
【0158】
上記の実施態様のいずれかにおいて、方法は、HTST処理後に、pHを細胞培養に対して適切なレベルに調節することをさらに含む。
【0159】
上記の実施態様のいずれかにおいて、pHを約6.9−7.2に調節する。
【0160】
上記の実施態様のいずれかにおいて、培地がリン酸を含む場合、カルシウムレベルを調節する。
【0161】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウムレベルを低下させる。
【0162】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにカルシウムレベルを低下させる。
【0163】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理前、カルシウムを培地から除去する。
【0164】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにpHを調節する。
【0165】
上記の実施態様のいずれかにおいて、方法は、HTST処理後に、カルシウムレベルを細胞培養に対して適切なレベルに調節することをさらに含む。
【0166】
上記の実施態様のいずれかにおいて、培地がカルシウムを含む場合、リン酸レベルを調節する。
【0167】
上記の実施態様のいずれかにおいて、リン酸レベルを低下させる。
【0168】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにリン酸レベルを低下させる。
【0169】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理前に、培地からリン酸を除去する。
【0170】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸を含む複合体の形成が抑制されるようにpHを調節する。
【0171】
上記の実施態様のいずれかにおいて、方法は、HTST処理後に、リン酸レベルを細胞培養に対して適切なレベルに調節することをさらに含む。
【0172】
上記の実施態様のいずれかにおいて、培地中のリン酸及びカルシウムの総濃度がHTST処理中に約10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満である。
【0173】
上記の実施態様のいずれかにおいて、カルシウム及びリン酸レベルを調節する。
【0174】
上記の実施態様のいずれかにおいて、pH、カルシウム及びリン酸レベルを調節する。
【0175】
他の態様において、本発明は、培地が細胞培養への適合性を維持すると同時に細胞培養培地中のウイルス又は外来因子を不活性化する方法を提供するものであり、前記方法は、細胞培養培地を高温短時間(HTST)処理にかけることを含み、培地は、HTST処理前及び/又は処理中に約pH5.0から約pH7.2までのpHを有する。いくつかの実施態様において、pHは、HTST処理前又は処理中に約pH5.0から約pH6.9まで、約pH5.3から約pH6.3まで、又は約pH6.9から約pH7.2までである。いくつかの実施態様において、方法は、HTST処理後に、pHを細胞培養に対して適切なレベルに調節することをさらに含む。いくつかの実施態様において、培地は、カルシウム及びリン酸を含む。いくつかの実施態様において、HTST処理前に、培地中の微量金属(例えば、鉄及び/又は銅)の濃度を調節する。いくつかの実施態様において、培地は、HTST処理前又は処理中に鉄及び/又は銅を含まない。いくつかの実施態様において、方法は、HTST処理後に、鉄及び/又は銅を培地に細胞培養に対して適切なレベルまで補うことをさらに含む。
【0176】
他の態様において、本発明は、培地が細胞培養への適合性を維持すると同時に細胞培養培地中のウイルス又は外来因子を不活性化する方法を提供するものであり、前記方法は、細胞培養培地を高温短時間(HTST)処理にかけることを含み、培地中のリン酸及びカルシウムの総量は、HTST処理前及び/又は処理中に約10mM未満である。いくつかの実施態様において、培地中のリン酸及びカルシウムの総量は、HTST処理前又は処理中に約9、8、7、6、5、4、3、2又は1mM未満である。いくつかの実施態様において、培地は、HTST処理前又は処理中にリン酸を含まない。いくつかの実施態様において、培地は、HTST処理前又は処理中にカルシウムを含まない。いくつかの実施態様において、方法は、HTST処理後に、リン酸及び/又はカルシウムレベルを細胞培養に対して適切なレベルに調節することをさらに含む。いくつかの実施態様において、HTST処理前に、培地中の微量金属(例えば、鉄及び/又は銅)の濃度を調節する。いくつかの実施態様において、HTST処理前、培地は、鉄及び/又は銅を含まない。いくつかの実施態様において、方法は、方法は、HTST処理後に培地に細胞培養に、鉄及び/又は銅を対して適切なレベルまで補うことをさらに含む。
【0177】
上記の実施態様のいずれかにおいて、沈殿物形成が抑制される。
【0178】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理に用いる装置の付着物が減少する。
【0179】
上記の実施態様のいずれかにおいて、フィルターの付着物が抑制される。
【0180】
上記の実施態様のいずれかにおいて、HTST処理は、培地の温度を培地中のウイルス又は外来因子を不活性化するのに十分な時間にわたり少なくとも約85度℃に上昇させることを含む。
【0181】
上記の実施態様のいずれかにおいて、培地の温度を培地中のウイルスを不活性化するのに十分な時間にわたり少なくとも約93、95、97、99、101、102又は103℃に上昇させる。
【0182】
上記の実施態様のいずれかにおいて、温度を少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15秒間上昇させる。
【0183】
上記の実施態様のいずれかにおいて、ウイルスは、パルボウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、レオウイルス科、トガウイルス科、カリシウイルス科及びピコルナウイルス科からなる群から選択される。
【0184】
上記の実施態様のいずれかにおいて、ウイルスは、エンベロープウイルスである。
【0185】
上記の実施態様のいずれかにおいて、ウイルスは、非エンベロープウイルスである。
【0186】
上記の実施態様のいずれかにおいて、外来因子は、細菌である。
【0187】
本明細書で開示した特徴のすべては、任意の組合せで組み合わせることができる。本明細書で開示した各特徴は、同じ、同等又は類似の目的を果たす代替特徴により置き換えることができる。したがって、特に明確に示さない限り、開示した特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の一例にすぎない。
【0188】
以下の実施例は、本発明を例示するために示すものであって、限定するために示すものではない。
【0189】
本明細書で開示したすべての参考文献は、すべての目的のためにそれらの全体として出典明示により本明細書において援用される。
【実施例】
【0190】
細胞培養工程のウイルス性因子汚染は、細胞系からの生物学的製剤(例えば、組換えタンパク質)の産生に脅威を与え、産物の精製時のウイルス性因子を除去する能力に関して潜在的な安全上の懸念を生じさせる。外来因子が生産工程に入り、経由するリスクを最小限にするために細胞培養培地の高温短時間(HTST)処理の使用を含むいくつかのアプローチをとることができる。しかし、適切に機能する場合にはウイルスを不活性化するのに有効であるが、所定の培地は、ウイルス粒子の不活性化のためのHTST処理の使用と不適合性である可能性がある(Schleh, M.ら 2009. Biotechnol. Prog. 25(3):854-860及びKiss, R. 2011. PDA J Pharm Sci and Tech. 65:715-729)。培地の不適合性は、HTST装置におけるプロセス接触面の付着物をもたらす。付着物の1つの寄与因子は、HTST処理の加熱及び冷却操作の結果としての培地の沈殿である。沈殿は、熱交換器を詰まらせ、システムが温度設定点を維持することが不可能であることによるHTSTスキッドの運転停止をもたらす残留物の沈着につながる。さらに、熱処理と不適合性である培地中の沈殿は、HTST条件により培地中で不活性化されなかった細菌を除去するために用いるプロセスフィルターの付着物の原因となり得る。沈殿に起因するフィルターの付着物は、処理の不具合及びろ過費用の著しい増加をもたらし得る。さらに、熱処理と不適合性の培地中の沈殿は、細胞培養の能力(例えば、産物力価、細胞成長、細胞生存能力)及び産物の品質に悪影響を及ぼし得る。
【0191】
本明細書で述べたように、ウイルスの不活性化のためのHTST処理又は他の熱処理中の使用に対して培地を適合性にする培地のいくつかの改良が確認された。ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置上の沈殿を減少又は防ぐいくつかの培地製剤が確認された。本明細書で提供する培地中のウイルスを不活性化する方法を、ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置上の沈殿を減少させる方法と同様に述べる。培地は、一態様において、ウイルスの不活性化に用いるHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し得る。培地は、他の態様において、細胞培養のタンパク質発現期の前のウイルスの不活性化に用いるHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpHを有し得る。さらなる態様における培地は、細胞培養のタンパク質発現期のために約pH6.9から約pH7.2までの間にされたpHを有し得る。ウイルスの不活性化に用いるHTST処理中、一態様における培地は、リン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含み得る。細胞培養のタンパク質発現期の前のウイルスの不活性化に用いるHTST処理中、他の態様における培地は、リン酸及びカルシウムの総量を約10mM未満に制限することを含み得る。さらなる態様における培地は、細胞培養のタンパク質発現期中のタンパク質の発現に十分なレベルに上昇したリン酸及びカルシウムの総量を有し得る。いずれかの態様において、培地は、細胞培養培地中のウイルスの不活性化に用いるHTST処理中に約pH5.0から約pH6.9までのpH及び約10mM未満のリン酸及びカルシウムの総量を含み得る。培地は、細胞培養のすべての時期を通して用途を見いだし、基礎及び/又はフィード培地に用いることができる。培地は、ウイルスを不活性化するためのHTST処理に用いる装置上の沈殿物を減少させる用途を見いだす。細胞培養培地に化学的に定義された成分を補うためのキットも予期される。
【0192】
実施例1: HTSTスキッドの操作からの所見を再現するための砂浴スクリーニング法のバリデーション
製造規模のHTST処理中に、細胞培養培地の液体製剤を、所定の流量に対する所望の保持時間を得るために間に配管を有する、1つは流体を加熱し、1つは流体を冷却するための2つの熱交換器を使用する連続流法で102℃で10秒間加熱する(
図1)。熱処理後の挙動について実験規模(〜20mL)の培地容積の要件を有する培地組成をより迅速に試験するために砂浴スクリーニング法を用いた。この方法は、パイロット及び製造規模のHTSTスキッドに用いる適合性培地をスクリーニングし、特定するための「ワーストケース」熱曝露に基づくものであった(表2)。
【0193】
材料及び方法
培地の調製
この試験に用いた培地は、様々なpHレベルを有する基礎産生培地及びバッチフィード培地を含む(表3)。すべての培地は、Millipore SuperQ超純水精製システムにより処理した精製脱イオン水を用いて調製した。培地は、適切な培地粉末ストック(SAFC and Life Technologies)を用いて調製した。所定の調製について目標pH及びオスモル濃度を保証するために液体の調製中にガラス電極pHプローブ(Mettler Toledo)及び浸透圧計(Advanced Instruments)を用いた。成分の完全な溶解並びに最終pH及びオスモル濃度の調節の後に直ちに、0.1μmの孔径のPES膜フィルターを用いて培地をろ過し、小規模調製用の250mLから1Lまでのビン(Corning)に入れた。
【0194】
pHの調節
培地の調製の完了と熱処理を適用した時の間の時間中に起こった排気に起因したpHのドリフトを補正した。熱処理前に、各培地製剤の30mLアリコートを50mL管(Falcon)に移し、最初のFalcon管の蓋を250mL Corning三角フラスコの通気孔付き蓋と交換した。次いで、管をCO
2重層を含むインキュベーターに30分間入れてpHを低下させた(pH6.2試料については15%CO
2及び他のすべての試料については12%CO
2、200rpm、37℃)。この処置により、pHを目標値以下にすることができた。pHが目標pHまで戻るまでガラス電極pHプローブ及び計測器(Mettler Toledo)を用いてpHをモニターしながら管を手動により撹拌した。最終pH測定は、NOVA bioprofilerを用いて行った。
【0195】
砂浴法
砂浴法のために、22mLの調製済み液体培地を20mLガラス圧力容器(Aceガラス製品)に移した。それを完全に満たし、過剰の培地が蓋及びサーモウエルにより置換されることを可能にすることによって空気ヘッドスペースが容器中に残らないように、容器をサーモウエル付きのネジ蓋で密閉した。加熱源マトリックスに直接曝露した培地による外表面の付着を防ぐために容器の外側を洗浄した。テフロンテープを用いて、ガラス容器のへりとネジ蓋との界面を覆ってガラス圧力容器をより十分に密封し、砂又は熱電対ウエル油が熱処理のための試料に入ることを防いだ。温度制御装置(Techne TC−8D)付きの流動化砂浴(Techne SBS−4)を構成し(圧縮空気入口圧力=5psig、浴温度=110℃)、30分間平衡化した。単一VWRデジタル温度計に取り付けた熱電対を管の半径方向の中心に幾何学的に位置した試料容器サーモウエルに挿入した。熱電対ウエルのガラス壁と熱電対との間の熱移動媒体とするためにシリコーン油を熱電対ウエルに加えた。試料容器を砂浴に入れ、タイマーを始動させた。温度動態データを約30−60秒ごとに記録した。容器が温度計の表示により102℃に達したならば、容器を10秒間の保持のために砂浴中に保持した。加熱及び保持の処置の後に、温度計の温度表示が35℃に達するまで容器を室温の水浴に移した。熱処理後に、15mLの各試料を濁度及び目視測定のためにバイアルに移した。
【0196】
沈殿の測定
培地試料を熱処理前及び後に次の2種の方法により沈殿について分析した:1)濁度計(2100Q Hach)による濁度;並びに2)ペレットサイズに基づく沈殿の視覚識別及び定性的判定(例えば、非可視、低、中、高)のために沈殿物を沈降させるための50mL Falcon管中での10000xgで10分間の試料の遠心分離(Sorvall RC6 plus、SS−34ローター)。非遠心分離試料も沈殿の視覚識別のために分析した。
【0197】
結果
砂浴及びHTST加熱プロファイルからの次の2つの主要な所見が存在した:1)砂浴熱処理システムの加熱プロファイルは、大規模HTSTスキッド操作よりもかなり長かった、及び2)砂浴は、ほぼ6.5分で102℃の目標設定点に到達することができた(
図2)。砂浴法加熱プロファイルは、一貫して5−8分の範囲にあり、水浴中で試料を冷却する前に10秒間の保持のための周囲温度(〜21−25℃)又は37℃から目標102℃まで加熱するための平均時間は〜6−〜6.5分であった。製造又はパイロット規模連続流HTSTシステムと比較して、加熱、保持及び冷却の曲線下面積は、砂浴法でかなりより大きかった。砂浴法における培地試料は、パイロット及び製造規模HTST操作と比較して総熱曝露に関してワーストケースであると判断された。したがって、砂浴法における熱曝露により主として促進された所定の培地製剤中の成分の有意な変化は、より大規模のHTST処理に関する関連データとなるものであろう。
【0198】
HTST処理中に、培地1フィード培地製剤のpHをpH7.0からpH6.4に低下させることによってHTST操作上の問題(表3)が軽減する可能性があることが認められた。同様に、培地2基礎培地製剤について、pH7.0の代わりに6.7のpHで培地を処理することによっても操作上の問題(表3)が軽減し得ることが認められた。砂浴法が大規模HTST処理操作で起こった沈殿挙動を正確に反映するかどうかを判断するために、これらの培地を砂浴法で2つのpHレベルで処理した。熱処理の前及び後の視認性測定は、砂浴システムが中性pH処理でHTST適合性の問題を有することが公知の培地の熱処理に起因した沈殿挙動を正確に示した(
図3A及びB)ことを示すものであった。培地の熱曝露による変化の「ワーストケース」と一致して、培地2は、同じ培地のpH7.0処理試料と比較して有意に改善されたとは言え、砂浴中でpH6.7で依然として沈殿の兆候を示した。全体的にみて、これらの結果は、パイロット及び製造規模HTST処理における使用に適合性であり得る培地製剤をスクリーニングし、特定するための砂浴法の使用の妥当性を確認するものであった。
【0199】
実施例2: ウイルスの不活性化のための熱処理中の培地中の沈殿へのpH、カルシウム及びリン酸レベルの寄与
材料及び方法
培地の調製
この試験に用いた培地は、約pH5.9から約pH7.5に及ぶpHレベル、約0mMから約3.5mMまでの(又は未定義培地でより大きい)カルシウム濃度範囲及び約0mMから約6.5mMまでの(又は未定義培地でより大きい)リン酸濃度範囲の基礎産生培地及びバッチフィード培地を含む。すべての培地は、Millipore SuperQ超純水精製システムにより処理した精製脱イオン水を用いて調製した。培地は、適切な培地粉末ストック(SAFC and Life Technologies)を用いて調製した。所定の調製について目標pH及びオスモル濃度を保証するために液体の調製中にガラス電極pHプローブ(Mettler Toledo)及び浸透圧計(Advanced Instruments)を用いた。成分の完全な溶解並びに最終pH及びオスモル濃度の調節の後に直ちに、0.1μmの孔径のPES膜フィルターを用いて培地をろ過し、小規模調製用の250mLから1Lまでのビン(Corning)に入れた。
【0200】
pHの調節
培地の調製の完了と熱処理を適用した時の間の時間中に起こった排気に起因したpHのドリフトを補正した。熱処理前に、各培地製剤の30mLアリコートを50mL管(Falcon)に移し、最初のFalcon管の蓋を250mL Corning三角フラスコの通気孔付き蓋と交換した。次いで、管をCO
2重層を含むインキュベーターに30分間入れてpHを低下させた(pH6.2試料については15%CO
2及び他のすべての試料については12%CO
2、200rpm、37℃)。この処置により、pHを目標値以下にすることができた。pHが目標pHまで戻るまでガラス電極pHプローブ及び計測器(Mettler Toledo)を用いてpHをモニターしながら管を手動により撹拌した。最終pH測定は、NOVA bioprofilerを用いて行った。
【0201】
砂浴法
砂浴法のために、22mLの調製済み液体培地を20mLガラス圧力容器(Aceガラス製品)に移した。それを完全に満たし、過剰の培地が蓋及びサーモウエルにより置換されることを可能にすることによって空気ヘッドスペースが容器中に残らないように、容器をサーモウエル付きのネジ蓋で密閉した。加熱源マトリックスに直接曝露した培地による外表面の付着を防ぐために容器の外側を洗浄した。テフロンテープを用いて、ガラス容器のへりとネジ蓋との界面を覆ってガラス圧力容器をより十分に密封し、砂及び熱電対ウエル油が熱処理のための試料に入ることを防いだ。温度制御装置(Techne TC−8D)付きの流動化砂浴(Techne SBS−4)を構成し(圧縮空気入口圧力=5psig、浴温度=110℃)、30分間平衡化した。単一VWRデジタル温度計に取り付けた熱電対を管の半径方向の中心に幾何学的に位置した試料容器サーモウエルに挿入した。熱電対ウエルのガラス壁と熱電対との間の熱移動媒体とするためにシリコーン油を熱電対ウエルに加えた。試料容器を砂浴に入れ、タイマーを始動させた。温度動態データを約30−60秒ごとに記録した。容器が温度計の表示により102℃に達したならば、容器を10秒間の保持のために砂浴中に保持した。加熱及び保持の処置の後に、温度計の温度表示が35℃に達するまで容器を室温の水浴に移した。熱処理後に、15mLの各試料を濁度及び目視測定のためにバイアルに移した。
【0202】
沈殿の測定
培地試料を熱処理前及び後に次の2種の方法により沈殿について分析した:1)濁度計(2100Q Hach)による濁度;並びに2)ペレットサイズに基づく沈殿の視覚識別及び定性的判定(例えば、非可視、低、中、高)のために沈殿物を沈降させるための50mL Falcon管中での10000xgで10分間の試料の遠心分離(Sorvall RC6 plus、SS−34ローター)。非遠心分離試料も沈殿の視覚識別のために分析した。
【0203】
結果
様々なレベルのpH値並びにカルシウム及びリン酸濃度を有するいくつかの培地製剤を調製した(表4)。非遠心分離及び遠心分離試料の目視観察並びに濁度測定により熱処理前及び後の沈殿について調製済み培地を評価した。
【0204】
培地4及び培地5製剤は、パイロット又は製造規模のHTSTで操作上の問題を以前に示さなかったが、砂浴法において測定可能な濁度及び可視沈殿を示したことから、試料における沈殿の測定は、砂浴法により得られたデータが、HTST処理操作と比較して完全熱曝露の可能なシナリオを反映していることを示すものであった。砂浴法により、カルシウム及びリン酸濃度並びにpHレベルが、少なくとも102℃の熱曝露中の培地の有意な変化に寄与する培地製剤における構成要素であることが確認された。いくつかの製剤では、カルシウム及びリン酸濃度を変更せずにpHレベルを低下させることにより、濁度の低下がもたらされた(表4)。さらに、カルシウムを含まない又は低いカルシウム濃度を有する製剤も沈殿事象を示さず、中性pHにおいてさえも高い濁度測定値を有さなかった(表4)。沈殿の減少とより低いカルシウム及びリン酸濃度に加えてより低いカルシウム対リン酸比との間に相関関係があった(表4)。これらの所見は、熱処理中の加熱及び冷却によるリン酸カルシウム沈殿物の形成がカルシウム濃度、リン酸濃度及びpHレベルの関数であるという判断につながった。
【0205】
砂浴システムにおける熱処理製剤の多変量解析のための全要因実験計画(DoE)に培地4を選択し、濁度(NTU)応答計量を用いて沈殿応答面を得た。変化させた変数は、カルシウム濃度(0.1−2.9mM)、リン酸濃度(0.1−5.9mM)及びpH(6.0−7.2)であった。濁度測定により決定され、目視観察により確認された、並べ替えたパラメーター推定値により、カルシウム及びリン酸の両方を含む培地製剤の熱処理によるpH依存性のリン酸カルシウムの形成が培地中の沈殿をもたらしたことが確認された(
図4)。培地の沈殿に影響を及ぼす最も強い効果は、カルシウム及びリン酸濃度の交差積である(
図4)。これは、カルシウム及びリン酸濃度の両方に依存する不溶性リン酸カルシウム形の予測された反応速度論と一致する。さらに、カルシウム及びリン酸濃度の積による濁度の推定も、カルシウム又はリン酸濃度がゼロである場合に濁度の有意な増加がない(HTST適合性の推定として)という所見と一致する。
【0206】
その後、DoE濁度データ及びインプット(カルシウム濃度、リン酸濃度及びpH)から応答面をモデル化した。ワーストケース砂浴熱処理における良操作領域対不良操作領域(a good versus a bad operating regime)のカットオフは、遠心分離及び非遠心分離熱処理培地試料の目視検査による可視的沈殿と比較したすべての濁度値の解析に基づいて5NTUの濁度として選択した。データは、培地製剤を改良するための複数の選択肢又はてこがHTST適合性を保証することが可能であったことを示唆するものである。特に、カルシウム濃度、リン酸濃度、pHの低下、又は3つのパラメーターのある組合せは、培地製剤をHTST処理又は他の熱処理の方法に対して適合性にするためのすべての可能なてこであった(
図5)。
【0207】
熱処理済みの培地4に関するデータから得たモデル化応答面に基づいて、砂浴熱処理試験における培地の安定性は、カルシウム及びリン酸濃度並びにpHレベルにとりわけ依存していた。HTST不適合性培地から適合性培地に転換する可能性がある他の培地製剤の修正を判断するために、加水分解物を含まない他の培地製剤(培地3、培地4、培地6、培地7、培地8、培地9、培地11、培地12及び培地13)をpH7.0におけるそれらのカルシウム及びリン酸濃度に基づくモデル応答面上にプロットした(
図6)。加水分解物を含む培地は、カルシウム及びリン酸のレベルが可変性であるため、解析に複雑さが加わるものであった。培地11は、それが沈殿範囲外にあり、したがって、HTST適合性である可能性があると判断されたことを示した応答面の範囲に入っていた(
図6、ポイントC)。培地5(表4)の製造のための培地11への加水分解物の添加により、また加水分解物中のリン酸及びカルシウムレベルの既知の推定値に基づいて、培地の沈殿範囲への移動がもたらされ、HTST不適合性である可能性があった(
図6、ポイントC矢印)。培地12は、沈殿範囲内にあり、モデルに基づいて、培地2(表4)の製造のための加水分解物の添加により、培地が沈殿範囲内にさらに移動する(
図6、ポイントD矢印)ことが予測された。モデル応答面に基づき沈殿範囲内又は外にあると予測された製剤は、製造規模HTSTスキッド操作で熱交換器の付着物の問題を有していた2つの製剤を含む砂浴熱処理による可視的沈殿と相関していた。得られた応答面モデルを用いることにより、熱処理による細胞培養培地中の沈殿について中性に近いpHにおける高濃度のカルシウム及びリン酸に対して強い相関があったことが示された(
図5及び6)。さらに、砂浴データに基づく応答面モデルは、HTST不適合性培地をHTST適合性培地に転換するための製剤の変更に関する勧告を行うために創出することができる。
【0208】
実施例3: ウイルス不活性化時の培地の沈殿挙動に対する温度の影響
材料及び方法
培地の調製
この試験に用いた培地は、基礎産生培地及びバッチフィード培地を含む。すべての培地は、Millipore SuperQ超純水精製システムにより処理した精製脱イオン水を用いて調製した。培地は、適切な培地粉末ストック(SAFC and Life Technologies)を用いて調製した。所定の調製について目標pH及びオスモル濃度を保証するために液体の調製中にガラス電極pHプローブ(Mettler Toledo)及び浸透圧計(Advanced Instruments)を用いた。成分の完全な溶解並びに最終pH及びオスモル濃度の調節の後に直ちに、0.1μmの孔径のPES膜フィルターを用いて培地をろ過し、小規模調製用の250mLから1Lまでのビン(Corning)に入れた。
【0209】
pHの調節
培地の調製の完了と熱処理を適用した時の間の時間中に起こった排気に起因したpHのドリフトを補正した。熱処理前に、各培地製剤の30mLアリコートを50mL管(Falcon)に移し、最初のFalcon管の蓋を250mL Corning三角フラスコの通気孔付き蓋と交換した。次いで、管をCO
2重層を含むインキュベーターに30分間入れてpHを低下させた(pH6.2試料については15%CO
2及び他のすべての試料については12%CO
2、200rpm、37℃)。この処置により、pHを目標値以下にすることができた。pHが目標pHまで戻るまでガラス電極pHプローブ及び計測器(Mettler Toledo)を用いてpHをモニターしながら管を手動により撹拌した。最終pH測定は、NOVA bioprofilerを用いて行った。
【0210】
砂浴法
砂浴法のために、22mLの調製済み液体培地を20mLガラス圧力容器(Aceガラス製品)に移した。それを完全に満たし、過剰の培地が蓋及びサーモウエルにより置換されることを可能にすることによって空気ヘッドスペースが容器中に残らないように、容器をサーモウエル付きのネジ蓋で密閉した。加熱源マトリックスに直接曝露した培地による外表面の付着を防ぐために容器の外側を洗浄した。テフロンテープを用いて、ガラス容器のへりとネジ蓋との界面を覆ってガラス圧力容器をより十分に密封し、砂及び熱電対ウエル油が熱処理のための試料に入ることを防いだ。温度制御装置(Techne TC−8D)付きの流動化砂浴(Techne SBS−4)を構成し(圧縮空気入口圧力=5psig、浴温度=110℃)、30分間平衡化した。単一VWRデジタル温度計に取り付けた熱電対を管の半径方向の中心に幾何学的に位置した試料容器サーモウエルに挿入した。熱電対ウエルのガラス壁と熱電対との間の熱移動媒体とするためにシリコーン油を熱電対ウエルに加えた。試料容器を砂浴に入れ、タイマーを始動させた。温度動態データを約30−60秒ごとに記録した。容器が温度計の表示により102℃に達したならば、容器を10秒間の保持のために砂浴中に保持した。加熱及び保持の処置の後に、温度計の温度表示が35℃に達するまで容器を室温の水浴に移した。熱処理後に、15mLの各試料を濁度及び目視測定のためにバイアルに移した。
【0211】
沈殿の測定
培地試料を熱処理前及び後に次の2種の方法により沈殿について分析した:1)濁度計(2100Q Hach)による濁度;並びに2)ペレットサイズに基づく沈殿の視覚識別及び定性的判定(例えば、非可視、低、中、高)のために沈殿物を沈降させるための50mL Falcon管中での10000xgで10分間の試料の遠心分離(Sorvall RC6 plus、SS−34ローター)。非遠心分離試料も沈殿の視覚識別のために分析した。
【0212】
結果
砂浴システムにおける加熱の目標設定点をさらに変化させることにより、培地の沈殿に対する温度の影響を試験した。測定は、すべて中性pH7.0で調合した培地1(フィード、未定義)、培地2(基礎、未定義)、培地4(基礎、定義)及び培地10(基礎、未定義)について約75、85、90、97及び102℃の温度で行った。加熱曲線に沿って採取した非遠心分離及び遠心分離試料の目視検査で、4種の異なる培地製剤のすべてが試料が90℃に達する時までに沈殿事象を有していたことが示された(
図7、黒丸)。培地4及び10は、85℃及び75℃のより低い温度で沈殿事象を示し続けた(
図7、黒丸)。培地2は、熱処理中85℃で沈殿事象を示したが、75℃では可視沈殿物を生じなかったことから、培地2が約75℃以下の温度での熱処理に適合性であることがわかる(
図7、白丸)。培地1は、85℃で沈殿物を生じず、培地1が約85℃以下の温度での熱処理に適合性であることがわかる(
図7、白丸)。これらの所見は、4種の異なる培地製剤すべてが試料が90℃に達するまでに約20NTU又はそれ以上の濁度測定値を有していたことを示した濁度測定により確認された(
図8)。熱処理培地の濁度値は、培地2、4及び10について97℃から102℃に変化したときに低下した(
図8)。溶液様培地における濁度は、粒径分布の関数であり、特にコロイド粒径の特定の範囲は、粒径分布の他の部分の測定値よりも活性(active)である。したがって、最高温度における測定濁度の低下は、濁度データのアーチファクトを生じさせる粒径分布の変化(例えば、粒径が増加するが、数は減少する)をもたらす粒子の軟凝集/凝集の結果である可能性がある。これらの結果は、ウイルスの不活性化を維持しながら温度をわずかに低下させることによって濁度が有意に低下しなかったことを示すものであった。
【0213】
大規模HTST操作の適切な保持時間における85℃−90℃を超える温度は、有効なウイルス不活性化方法であるために必要であり、95℃を超える温度は、産業上関連性のあるパルボウイルスの所望のlog減少を達成するために必要である。砂浴法は、熱処理により促進される培地の沈殿事象を観察するためのより厳密なものであるが、データから、熱交換器の付着物をもたらす沈殿事象を回避するために102℃の現行の目標HTST処理設定点より低い温度での操作を用いることができることが示唆される。HTST処理の目的はウイルスの不活性化であるので、目標温度設定点を低下させることは、選択の対象となるものではなく、数種の培地製剤については、沈殿は、培地HTSTの適用における起こり得る操作上の問題であることは、明らかである。したがって、カルシウム及びリン酸濃度並びにpHレベルは、少なくとも90℃の温度でのHTST処理による培地中のウイルスの不活性化時の沈殿事象を減少又は防ぐために調節することができる要素である。
【0214】
実施例4: ウイルスの不活性化のためのパイロット及び大規模HTST培地処理中の培地中の沈殿へのpH、カルシウム及びリン酸レベルの寄与
材料及び方法
パイロット規模HTST
パイロット規模HTSTを用いる試験のために、後の実験ラン(run)への可能な持ち越しを最小限にするためにカルシウム又はリン酸の最低濃度から最高濃度までの培地製剤を処理した。各HTST実験ランは、実験ランの間に用いた脱イオン洗浄水をフラッシュし、HTST法の102℃(許容範囲:97℃−110℃)の操作温度に加熱コイルを平衡化するために15L−20Lの培地を必要とした。平衡化後、約20Lの培地をHTSTスキッドに流し、出口流をプラスチックキュビテナー中に収集した。試料は、培地混合タンクからのHTST処理の前の培地から、及びキュビテナー中の出口培地から採取し、0.1μm PVDFカプセル膜フィルター(Millipore)によりろ過し、培地保存バックに入れて、「Pre−HTST」及び「Post−HTST」試料とした。すべての処理及び未処理ろ過培地試料を、細胞培養性能アッセイ及び分析試験に用いる前に2−8℃で保存した。
【0215】
製造規模HTST
1800Lの培地4又は培地1製剤を、製造規模HTSTスキッドを用いた培地熱処理の製造規模エンジニアリングラン(engineering run)に用いた。この培地の調製の目的は、1)培地4の製造混合条件が規定された品質管理処方混合時間と適合するのに十分であったかどうかを判断すること、及び2)培地4に関する製造規模HTST処理性能データを得ることであった。HTST処理前及び後の培地試料は、培地混合タンク及び送り先バイオリアクターにおけるサンプリングポートに6x20−L培地バッグマニホールド(Sartorius Stedim Biotech)を無菌的に接続することにより採取した。HTST処理前に採取した試料については、培地を採取前に0.1μm PVDFカプセル膜フィルター(Millipore)によりろ過し、HTSTの後に採取した試料については、培地を採取前に0.5/0.2μm二重層カートリッジフィルターPVDFプレフィルター(Millipore)及び0.1μmナイロン最終フィルター(Pall)からなる製造フィルタートレインに通した。次いで試料を細胞培養性能アッセイ及び分析試験に用いた。
【0216】
結果
パイロット及び製造規模HTST操作の両方について、所望の容積の培地4を処理した場合、HTSTスキッドの運転停止又は出力温度の制御の困難につながる工程内事象は存在しなかった。したがって、熱交換器表面又は後のろ過における付着物をもたらすのに十分に顕著な沈殿事象の兆候はなかった。パイロット規模で処理した培地4には、最終ろ過及び細胞培養における使用の前に粒状物質が視覚的に存在しなかった。製造規模で処理した培地4は、システムの試料ポートの配置のため最終ろ過の前に試料を採取することができなかった。分析及び細胞培養性能試験をHTST処理にかけた及びかけなかった培地4について実施した。培地4の分析試験で、HTST処理により微量金属の喪失が起こっていたことが示され、HTST処理中の操作上の困難をきたすのに十分な沈殿物をもたらすことなく培地組成物濃度を変化させる沈殿事象が起こっていたことが示唆される。培地4の製造規模HTST処理については、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)及び誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP−OES)アッセイのデータは、非熱処理培地4と比較して熱処理によるFe(鉄)の24%の喪失及びCu(銅)の16%の喪失を示した(
図9)。
【0217】
パイロット及び製造規模HTST操作の両方について、所望の容積のpH7.10の培地1を処理した場合、HTSTスキッドの運転停止又は出力温度の制御の困難につながる工程内事象が存在した。沈殿事象は、熱交換器表面の付着物をもたらすのに十分に著しかった。パイロット規模で処理した培地1は、最終ろ過及び細胞培養における使用の前に粒子状物質を有していた。製造規模で処理した培地1は、システムの試料ポートの配置のため最終ろ過の前に試料を採取することができなかった。培地1のpHを約pH6.34に調節することにより、沈殿が減少した。パイロット及び製造規模HTST操作の両方について、所望の容積のpH6.34の培地1を処理した場合、HTSTスキッドの運転停止又は出力温度設定点の制御の困難につながる工程内事象は存在しなかった。したがって、熱交換器表面の付着物をもたらすのに十分に著しい沈殿事象の兆候はなかった。パイロット規模で処理した培地1は、最終ろ過及び細胞培養における使用の前に粒状物質が視覚的に存在しなかった。製造規模で処理した培地1は、システムの試料ポートの配置のため最終ろ過の前に試料を採取することができなかった。
【0218】
実施例5: ウイルスの不活性化のための熱処理中の培地中の微量金属の喪失へのpH、カルシウム及びリン酸レベルの寄与
材料及び方法
培地の調製
この試験に用いた培地は、約pH5.9から約pH7.5に及ぶpHレベル、約0mMから約3.5mMまでの(又は未定義培地でより大きい)カルシウム濃度範囲、約0mMから約6.5mMまでの(又は未定義培地でより大きい)リン酸濃度範囲及び約0μMから約125μMまでの(又は未定義培地でより大きい)鉄濃度範囲の基礎産生培地及びバッチフィード培地を含む。すべての培地は、Millipore SuperQ超純水精製システムにより処理した精製脱イオン水を用いて調製した。培地は、適切な培地粉末ストック(SAFC and Life Technologies)を用いて調製した。所定の調製について目標pH及びオスモル濃度を保証するために液体の調製中にガラス電極pHプローブ(Mettler Toledo)及び浸透圧計(Advanced Instruments)を用いた。成分の完全な溶解並びに最終pH及びオスモル濃度の調節の後に直ちに、0.1μmの孔径のPES膜フィルターを用いて培地をろ過し、小規模調製用の250mLから1Lまでのビン(Corning)に入れた。
【0219】
pHの調節
培地の調製の完了と熱処理を適用した時の間の時間中に起こった排気に起因したpHのドリフトを補正した。熱処理前に、各培地製剤の30mLアリコートを50mL管(Falcon)に移し、最初のFalcon管の蓋を250mL Corning三角フラスコの通気孔付き蓋と交換した。次いで、管をCO
2重層を含むインキュベーターに30分間入れてpHを低下させた(pH6.2試料については15%CO
2及び他のすべての試料については12%CO
2、200rpm、37℃)。この処置により、pHを目標値以下にすることができた。pHが目標pHまで戻るまでガラス電極pHプローブ及び計測器(Mettler Toledo)を用いてpHをモニターしながら管を手動により撹拌した。最終pH測定は、NOVA bioprofilerを用いて行った。
【0220】
砂浴法
砂浴法のために、22mLの調製済み液体培地を20mLガラス圧力容器(Aceガラス製品)に移した。それを完全に満たし、過剰の培地が蓋及びサーモウエルにより置換されることを可能にすることによって空気ヘッドスペースが容器中に残らないように、容器をサーモウエル付きのネジ蓋で密閉した。加熱源マトリックスに直接曝露した培地による外表面の付着を防ぐために容器の外側を洗浄した。テフロンテープを用いて、ガラス容器のへりとネジ蓋との界面を覆ってガラス圧力容器をより十分に密封し、砂及び熱電対ウエル油が熱処理のための試料に入ることを防いだ。温度制御装置(Techne TC−8D)付きの流動化砂浴(Techne SBS−4)を構成し(圧縮空気入口圧力=5psig、浴温度=110℃)、30分間平衡化した。単一VWRデジタル温度計に取り付けた熱電対を管の半径方向の中心に幾何学的に位置した試料容器サーモウエルに挿入した。熱電対ウエルのガラス壁と熱電対との間の熱移動媒体とするためにシリコーン油を熱電対ウエルに加えた。試料容器を砂浴に入れ、タイマーを始動させた。温度動態データを約30−60秒ごとに記録した。容器が温度計の表示により102℃に達したならば、容器を10秒間の保持のために砂浴中に保持した。加熱及び保持の処置の後に、温度計の温度表示が35℃に達するまで容器を室温の水浴に移した。熱処理後に、15mLの各試料を濁度及び目視測定のためにバイアルに移した。
【0221】
パイロット規模HTST
パイロット規模HTSTを用いる試験のために、後の実験ランへの可能な持ち越しを最小限にするためにカルシウム又はリン酸の最低濃度から最高濃度までの培地製剤を処理した。各HTST実験ランは、実験ランの間に用いた脱イオン洗浄水をフラッシュし、HTST法の102℃(許容範囲:97℃−110℃)の操作温度に加熱コイルを平衡化するために15L−20Lの培地を必要とした。平衡化後、約20Lの培地をHTSTスキッドに流し、出口流をプラスチックキュビテナー中に収集した。試料は、培地混合タンクからのHTST処理の前の培地から、及びキュビテナー中の出口培地から採取し、0.1μm PVDFカプセル膜フィルター(Millipore)によりろ過し、培地保存バックに入れて、「Pre−HTST」及び「Post−HTST」試料とした。すべての処理及び未処理ろ過培地試料を、細胞培養性能アッセイ及び分析試験に用いる前に2−8℃で保存した。
【0222】
製造規模HTST
抗体産生キャンペーンを支持して1800Lのエンジニアリングラン培地4の調製を行い、製造規模HTSTスキッドU1281を用いて培地を処理した。この培地の調製の目的は、1)培地4の混合条件が規定された品質管理処方混合時間と適合するのに十分であったかどうかを判断すること、及び2)培地4に関する製造規模HTST処理性能データを得ることであった。HTST処理前及び後の培地試料は、培地混合タンク及び送り先バイオリアクターにおけるサンプリングポートに6x20−L培地バッグマニホールド(Sartorius Stedim Biotech)を無菌的に接続することにより採取した。HTST処理前に採取した試料については、培地を採取前に0.1μm PVDFカプセル膜フィルター(Millipore)によりろ過し、HTSTの後に採取した試料については、培地を採取前に0.5/0.2μm二重層カートリッジフィルターPVDFプレフィルター(Millipore)及び0.1μmナイロン最終フィルター(Pall)からなるGMPフィルタートレインに通した。次いで試料を細胞培養性能アッセイ及び分析試験に用いた。
【0223】
沈殿の測定
培地試料を熱処理前及び後に次の2種の方法により沈殿について分析した:1)濁度計(2100Q Hach)による濁度;並びに2)ペレットサイズに基づく沈殿の視覚識別及び定性的判定(例えば、非可視、低、中、高)のために沈殿物を沈降させるための50mL Falcon管中での10000xgで10分間の試料の遠心分離(Sorvall RC6 plus、SS−34ローター)。非遠心分離試料も沈殿の視覚識別のために分析した。
【0224】
培地成分濃度の変化の分析
測定可能な培地成分濃度の有意な変化についてスクリーニングするために、Pre−HTST及びPost−HTST処理上清保持物(supernatant retains)をアッセイした。用いたアッセイは、水溶性ビタミンの測定、アミノ酸の測定及び無機リン酸の測定を含んでいた。微量元素は、2種の誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)アッセイを用いて分析した。さらに、鉄、銅及び亜鉛の試料については、これらの元素のより高処理定量のための誘導結合プラズマ光学発光分光法(ICP−OES)アッセイにより測定した。適用できる場合にはすべての統計解析を実施し、JMPソフトウエア及びExcelを用いてグラフにした。
【0225】
結果
より大規模の製造規模で起こる微量金属の喪失をより十分に理解するために、培地4をモデル培地製剤として用いて砂浴試験を行った。微量金属の喪失がそれらの成分を含み、中性又はより高いpHで処理した培地中のリン酸カルシウム沈殿事象と関連していたかどうかを判断するために、半要因デザイン(half-gactorial designs)を作成して、熱処理後の回収されたFe及びCuレベルに対する様々なpH、カルシウム(Ca)、無機リン酸(PO
4)、鉄(Fe)及び銅(Cu)の影響を評価した(表5)。
【0226】
回収された微量金属の解析により、高いpH、Ca及びPO
4レベルがFe喪失に関与する主な要因であったことが示された(
図10)。これらの3つの要因のいずれか1つのレベルの増加がより低いFe回収率につながっている。初期Fe濃度は、pH、Ca及びPO
4と比較して同様であるが、より小さな主効果を示したが、Cuは、Fe回収率に対して実質的に効果を示さない。pH、Ca及びPO
4の重要性は、鉄の喪失が、操作上の観点からは注目に値しない(例えば、HTSTスキッドの操作上の問題を引き起こすのに十分に重要でない)が、細胞培地の性能(例えば、産物力価、細胞成長、細胞生存能力及び産物品質)の有害効果の観点からは注目に値するリン酸カルシウム沈殿事象に関連する可能性と一致している。
【0227】
主効果プロットにおける分散又は広がりを説明するために、4つの最強要因(pH、Ca、PO
4及びFe)を用いてデータから全要因モデルを作成した。この解析による交互作用プロットは、熱処理後のFe回収率に影響を及ぼす2つの交互作用、すなわち、1)pH*Ca及び2)pH*PO
4を示している(
図11)。これらの結果から、熱処理によるFeの喪失を避ける培地製剤を作製するために、カルシウム及びリン酸の濃度の低下、pHレベルの低下又は3つの要因のある組合せの低下が必要であることが示唆される。さらに、このデータは、可視的沈殿及び濁度の増加が認められない場合でさえもFeの喪失が起こることを示している。
【0228】
HTST後のFeレベルが初期のFeレベルの関数であった程度を測定するために、75−150μMの範囲の硫酸第一鉄レベルを有する培地(ただし、他の点では培地4と同等)を試験した。データは、初期Fe濃度とHTST後Fe濃度との間の予期しない非直線関係を示すものである(
図12)。しかし、125μMのFe試料が他の3つの試料と比べてpHの逸脱を経験したことが発見された。両方の試料集合において、125μMのFe試料は、HTST試験の前に最高のpHを有していた。pHは、アッセイ1及びアッセイ2試料集合について7.08−7.17及び7.09−7.14であった。
【0229】
DoE実験の結果は、pH7.0の培地が砂浴熱処理システムにおける不具合(failure)の危機にあったこと及びFeの喪失がpH6.7を超えた場合起こり始めることを示唆するものであった。この領域を特徴づけるために、6.6−7.2の範囲のpHレベルを有する培地4製剤を試験した。pHの逸脱(pH単位の一部と小さいものであってさえ)が砂浴熱処理システムでは重要であり得るという証拠が高分解能pH滴定データに示されていた(
図13A)。pH6.8の後には、Fe回収率は、pHに非常に敏感であり、急激に低下し、pH7.2までにプラトーに達した。この急激なpH依存性は、硫酸第一鉄滴定結果がpHの変動による交絡を受けた可能性が最も高かったことを示唆するものであった。pHの非常に小さな変化(すなわち、0.2pH単位)が培地製剤をFe喪失が起こらない領域に入れたことがあり得ることも示唆される。
【0230】
DoE実験の結果は、Fe回収率の大きな改善がCa及びPO
4レベルの比較的に小さな変更によって実現される可能性があることも示唆するものであった(
図13B)。以前に認められた便益を実現するために必要であり得るCa及びPO
4の変更をより十分に定量化するために、0.5−1.17x標準培地4レベルの範囲のCa及びPO
4レベルを有する培地4製剤を試験した。この滴定のために、Ca及びPO
4レベルの比を0.5の一定の値に維持した。グラフデータ解析により、Fe喪失の増加に伴う曲線状プロファイルがCa及びPO
4レベルの増加と相関していたことが示された(
図13B)。培地4製剤は、Ca及びPO
4濃度の小さな変更によりFe回収率の大きな改善が可能である、勾配の最も急な部分にある。例えば、Ca及びPO
4濃度を30%減少させること(及び同じ比を維持すること)により、HTST処理に転換することができる砂浴熱処理後の100%のFe回収率を得ることができる。
【0231】
微量金属の喪失がリン酸カルシウムの沈殿と相関していたならば、カルシウム及びリン酸回収率とFe回収率との関係が存在していたことになる。データ解析により、リン酸回収率は、Fe回収率が低く、沈殿が識別された場合(
図14、円内のダイヤモンド)にFe回収率との明確な関係を形成しなかったことが示された。比較的高い初期リン酸濃度試料における小さな濃度の差の検出は、シグナル対ノイズのため困難であった可能性がある。これをリン酸カルシウムが鉄と相互作用していたという可能性に関連付けると、比較的少量のリン酸が鉄とともに1:1の化学量論で除去された可能性があり、リン酸の喪失を検出することが困難であることになる。他の生じ得る原因は、アッセイが特定の形の無機リン酸を検出するにすぎないという事実に関連し得る。カルシウムの回収率は、60−80%の範囲にあり、Fe回収率が低く、沈殿が識別された場合(
図14、円内の四角)に10−30%の範囲のFe回収率と直線関係にあると思われた。最小二乗回帰による当サブセットの解析により、Ca回収率の分散の69%がFe回収率により説明することができたことが示された。このデータは、FeがCa回収率に直接関連していることを示している。
【0232】
培地4(及び培地4の変形態様)並びに培地9についてパイロット規模及び製造規模HTST処理実験ランも実施した。細胞培養性能及び産物品質に対するHTST処理の影響を評価するために分析アッセイ及び細胞培養性能試験のための
実験ランからデータを収集した。鉄及び銅を除いて、分析試験からいずれの成分の有意な喪失も確認されなかった。さらに、主要な細胞培養性能メトリックス(力価、成長、生存能力)又は産物品質(基礎変異体を含む)の有意な変化は認められなかった。当該細胞系についての銅の滴定に基づいてその喪失が試験に用いた宿主細胞系の不正な変化をもたらすのに十分に大きくなかったため、銅の喪失は、細胞培養性能又は基礎変異体のレベルの変化をもたらさなかった。培地4製剤中のカルシウム及びリン酸(それぞれ1.5mM及び3mM)と比較して鉄及び銅(それぞれ75μM及び1μM)のような微量金属が比較的少量であるため、熱交換器の著しい付着物につながらなかったが、液体培地中に存在する鉄及び銅と相互作用し得る非常に少量のリン酸カルシウム沈殿物(CaPO
4複合体)が形成された可能性があった。CaPO
4複合体のこれらの相互作用は、液体培地からそれを封鎖するようにある様態で鉄及び銅をキレート化し、それを沈殿するCaPO
4複合体とともにプロセス流内のある場所に堆積させ得る。機序にかかわりなく、ウイルスを不活性化するために培地を成功裏に処理する場合を含む、培地のHTST処理により鉄及び銅の喪失が認められるという事実は残る。HTST処理による鉄及び銅濃度の低下は、喪失が産生期の必要とされる鉄及び銅濃度と比べて有意である場合に後の産生期におけるHTST処理培地の成功裏での使用に負の影響を及ぼす可能性がある。
【0233】
7種の異なる培地製剤についてパイロット規模及び製造規模HTST処理実験ランを実施した。培地製剤中の鉄レベルをHTST処理前に測定し、HTST処理後の鉄の予測レベルを決定した。HTST処理後(post−HTST)の培地中の鉄レベルの分析により、HTST処理が鉄レベルの喪失をもたらしたことが示された。鉄の喪失は、培地14で44%、培地15で42%、培地16で20%、培地17で1.3%、培地18で42%であった(
図15)。培地19及び培地20は、HTST処理後に鉄を補った。
【0234】
HTST処理にかけ、鉄を補った細胞培養培地中のマウス骨髄腫細胞株であるNS0細胞の成長をアッセイした。細胞の成長の解析により、鉄を補った又は補わなかった、HTSTにより処理しなかった細胞培養培地中で成長させた細胞は、時間の経過とともに同等の量で成長したことが示された(
図16)。これと比較すると、HTSTにより処理し、鉄を補わなかった培地中で培養した場合、細胞はより低い量で成長した。HTST処理細胞培養への鉄の添加によって、HTSTにより処理しなかった細胞培養培地と比較して、より高いレベルへの細胞成長の回復がもたらされた(
図16)。
【0235】
全体的にみて、このデータは、Feの喪失がカルシウム、リン酸及びpHレベルと相関していたことを示すものであり、微量金属の喪失と可視的沈殿物として必ずしも検出可能でない事象を含む熱処理中のリン酸カルシウム沈殿事象、有意な濁度変化又は操作上の問題との間の密接な関係が示唆された。Feなどの微量金属の喪失は、様々な細胞系における細胞培養性能及び産物の品質に悪影響を及ぼし得る。