特許第6607918号(P6607918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607918
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】タッチパネル用導電性積層体
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20191111BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20191111BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20191111BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20191111BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20191111BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20191111BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 400
   B32B9/00 A
   B32B15/04 Z
   B32B15/20
   B32B27/30 A
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-501882(P2017-501882)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086361
(87)【国際公開番号】WO2016136117
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-35707(P2015-35707)
(32)【優先日】2015年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518236856
【氏名又は名称】株式会社VTSタッチセンサー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉成 朋
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有史
【審査官】 ▲高▼瀬 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−540331(JP,A)
【文献】 特開2015−005495(JP,A)
【文献】 特開2015−005272(JP,A)
【文献】 特開2013−129183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
B32B 9/00
B32B 15/04
B32B 15/20
B32B 27/30
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの面を備えるとともに、光透過性を有する基材と、
前記基材の前記1つの面に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、
前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、
前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、
前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備え
前記下地層と前記第1の酸窒化銅層との界面における密着強度が、8.0N/15mm以上である
タッチパネル用導電性積層体。
【請求項2】
1つの面を備えるとともに、光透過性を有する基材と、
前記基材の前記1つの面に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、
前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、
前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、
前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備え、
前記下地層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面における表面粗さRaが、3nm以上20nm以下である
タッチパネル用導電性積層体。
【請求項3】
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを備える基材と、
前記第1の面、および、前記第2の面に別々に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、
前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、
前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、
前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備え
前記下地層と前記第1の酸窒化銅層との界面における密着強度が、8.0N/15mm以上である
タッチパネル用導電性積層体。
【請求項4】
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを備える基材と、
前記第1の面、および、前記第2の面に別々に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、
前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、
前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、
前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備え、
前記下地層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面における表面粗さRaが、3nm以上20nm以下である
タッチパネル用導電性積層体。
【請求項5】
前記下地層は、紫外線硬化性多官能アクリレート、紫外線硬化性単官能アクリレート、紫外線硬化性のアクリル基を含むアクリルポリマー、および、前記第2の酸窒化銅層のうち前記銅層とは反対側の面における密着性を低くするためのアンチブロッキング剤を含み、
前記下地層は、前記基材において前記下地層の接する面に形成された複数の凹部を埋める
請求項1から4のいずれか一項に記載のタッチパネル用導電性積層体。
【請求項6】
前記銅層の厚さは、200nm以上500nm以下であり、
前記第1の酸窒化銅層の厚さは、30nm以上50nm以下であり、かつ、前記銅層の厚さにおける25%以下の値である
請求項1からのいずれか一項に記載のタッチパネル用導電性積層体。
【請求項7】
前記第2の酸窒化銅層において、XYZ表色系における三刺激値のうちのYの値であって、前記第2の酸窒化銅層が形成された時点での前記Yの値が20%以下である
請求項1からのいずれか一項に記載のタッチパネル用導電性積層体。
【請求項8】
前記第1の酸窒化銅層および前記第2の酸窒化銅層の少なくとも一方は、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含む
請求項1からのいずれか一項に記載のタッチパネル用導電性積層体。
【請求項9】
前記第1の酸窒化銅層、前記銅層、および、前記第2の酸窒化銅層から構成される積層体における表面抵抗率が、0.13Ω/□以下である
請求項に記載のタッチパネル用導電性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルを構成するタッチセンサ用電極を形成するために用いられる導電性積層体、および、タッチパネル用導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルの備えるタッチセンサは、複数の電極を備えている。複数の電極の形成材料には、各電極の抵抗値を低くする目的で、銅などの金属が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−28699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属を形成材料とする電極は、電極の表面にて光を反射するため、透明導電性酸化物を形成材料とする電極よりも抵抗値は低い一方で、タッチパネルの使用者に視認されやすい。そこで、金属を形成材料とする複数の電極を備えるタッチパネルにおいて、各電極を視認されにくくすることが求められている。
【0005】
本発明は、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された電極を視認されにくくすることのできるタッチパネル用導電性積層体、および、タッチパネル用導電性積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのタッチパネル用導電性積層体は、1つの面を備えるとともに、光透過性を有する基材と、前記基材の前記1つの面に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備える。
【0007】
上記課題を解決するためのタッチパネル用導電性積層体の製造方法は、基材における少なくとも1つの面に下地層を形成する工程と、前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて第1の酸窒化銅層を形成する工程と、前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて銅層を形成する工程と、前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて第2の酸窒化銅層を形成する工程と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、銅層が、銅層よりも反射率の低い2つの酸窒化銅層で挟まれている。これにより、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された複数の電極では、2つの酸窒化銅層において光の反射が抑えられるため、第1の面と対向する方向から電極が視認されにくくなり、かつ、基材を介して電極が視認されにくくなる。
【0009】
上記課題を解決するためのタッチパネル用導電性積層体は、第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを備える基材と、前記第1の面、および、前記第2の面に別々に位置するとともに、光透過性を有する下地層と、前記下地層のうち、前記基材に接する面とは反対側の面に位置する第1の酸窒化銅層と、前記第1の酸窒化銅層のうち、前記下地層に接する面とは反対側の面に位置する銅層と、前記銅層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面とは反対側の面に位置する第2の酸窒化銅層と、を備える。
【0010】
上記構成によれば、銅層が、銅層よりも反射率の低い2つの酸窒化銅層で挟まれている。これにより、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された複数の電極では、2つの酸窒化銅層において光の反射が抑えられるため、第1の面と対向する方向から電極が視認されにくく、また、第2の面と対向する方向からも電極が視認されにくくなる。
【0011】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記下地層は、紫外線硬化性多官能アクリレート、紫外線硬化性単官能アクリレート、紫外線硬化性のアクリル基を含むアクリルポリマー、および、前記第2の酸窒化銅層のうち前記銅層とは反対側の面における密着性を低くするためのアンチブロッキング剤を含み、前記下地層は、前記基材において前記下地層の接する面に形成された複数の凹部を埋めることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、下地層がアンチブロッキング剤を含むため、タッチパネル用導電性積層体が巻き取られたり、積み重ねられたりしたときに、第2の酸窒化銅層が、第2の酸窒化銅層の上に積まれた層に密着することが抑えられる。また、下地層は、基材の凹部を埋め、かつ、基材の上に層状に形成されているため、下地層における第1の酸窒化銅層と接する面の平坦性が高まる。ひいては、タッチパネル用導電性積層体の各層における平坦性が高まる。
【0013】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記銅層の厚さは、200nm以上500nm以下であり、前記第1の酸窒化銅層の厚さは、30nm以上50nm以下であり、かつ、前記銅層の厚さにおける25%以下の値であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、第1の酸窒化銅層の厚さが、30nm以上50nm以下であるため、第1の酸窒化銅層は、基材と銅層との間の密着性を高める上で十分な厚さを有している。しかも、第1の酸窒化銅層の厚さが銅層の厚さの25%以下の値であるため、基材と銅層との間の密着性を保ちつつも、タッチパネル用導電性積層体の全体における厚さと、タッチパネル用導電性積層体における銅の使用量とが、過剰に大きくなることが抑えられる。
【0015】
上記タッチパネル用導電性積層体では、前記第2の酸窒化銅層において、XYZ表色系における三刺激値のうちのYの値であって、前記第2の酸窒化銅層が形成された時点での前記Yの値が20%以下であることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、第2の酸窒化銅層において、XYZ表色系のうち、明るさの指標であるYの値が20%以下である。そのため、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された複数の電極では、第2の酸窒化銅層と対向する方向から電極が視認されにくくなる。また、第2の酸窒化銅層が形成されたときのYの値が20%以下であるため、第2の酸窒化銅層が視認される程度にYの値が大きくなりにくい。
【0017】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記第1の酸窒化銅層および前記第2の酸窒化銅層の少なくとも一方は、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含むことが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、第1の酸窒化銅層および第2の酸窒化銅層のうち、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含む層において、光学特性の変化に対する耐久性を高めることができる。
【0019】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記下地層と前記第1の酸窒化銅層との界面における密着強度が、8.0N/15mm以上であることが好ましい。
上記構成によれば、タッチパネル用導電性積層体がパターニングされるとき、パターニングによって形成される電極の一部が、下地層から剥がれにくくなり、ひいては、電極における断線を抑えることができる。
【0020】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記第1の酸窒化銅層、前記銅層、および、前記第2の酸窒化銅層から構成される積層体における表面抵抗率が、0.13Ω/□以下であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された電極の抵抗値を、タッチセンサの応答速度に対する影響が無視できる程度に小さい抵抗値とすることができる。
【0022】
上記タッチパネル用導電性積層体において、前記下地層のうち、前記第1の酸窒化銅層に接する面における表面粗さRaが、3nm以上20nm以下であることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、表面粗さRaが3nm以上であるため、下地層、第1の酸窒化銅層、銅層、および、第2の酸窒化銅層から構成される積層体が、アンチブロッキング性をより得やすくなる。また、表面粗さRaが20nm以下であるため、上述した積層体を用いて形成された電極での光の散乱が、タッチパネルの使用者によって視認される程度に大きくなることが抑えられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された電極を視認されにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のタッチパネル用導電性積層体を具体化した1つの実施形態においてタッチパネル用導電性積層体の一例における断面構造を模式的に示す断面図である。
図2】タッチパネル用導電性積層体の一例における断面構造を模式的に示す断面図である。
図3】タッチパネル用導電性積層体の製造方法のうち、下地層を形成する工程を説明するための工程図である。
図4】基材と下地層との一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図5】タッチパネル用導電性積層体の製造方法のうち、下側酸窒化銅層を形成する工程を説明するための工程図である。
図6】タッチパネル用導電性積層体の製造方法のうち、銅層を形成する工程を説明するための工程図である。
図7】タッチパネル用導電性積層体の作用を説明するための作用図である。
図8】タッチパネル用導電性積層体の作用を説明するための作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1から図8を参照してタッチパネル用導電性積層体、および、タッチパネル用導電性積層体の製造方法の1つの実施形態を説明する。以下では、タッチパネル用導電性積層体の構成、タッチパネル用導電性積層体の製造方法、タッチパネル用導電性積層体の作用、および、実施例を順番に説明する。
【0027】
[タッチパネル用導電性積層体の構成]
図1および図2を参照してタッチパネル用導電性積層体の構成を説明する。なお、図1に示されるタッチパネル用導電性積層体の断面構造は、タッチパネル用導電性積層体の1つの例における断面構造であり、図2に示されるタッチパネル用導電性積層体の断面構造は、タッチパネル用導電性積層体の他の1つの例における断面構造である。
【0028】
図1が示すように、タッチパネル用導電性積層体10は、基材11、下地層12、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15を備えている。下地層12、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15が、第1の積層体16を構成している。
【0029】
基材11は、光透過性を有し、1つの面である第1の面11aを備え、下地層12は、基材11の第1の面11aに形成されている。下側酸窒化銅層13は、下地層12のうち、基材11に接する面とは反対側の面に形成され、銅層14は、下側酸窒化銅層13のうち、下地層12に接する面とは反対側の面に形成されている。上側酸窒化銅層15は、銅層14のうち、下側酸窒化銅層13に接する面とは反対側の面に形成されている。
【0030】
すなわち、下地層12は、基材11の第1の面11aに位置し、下側酸窒化銅層13は、下地層12のうち、基材11に接する面とは反対側の面に位置し、銅層14は、下側酸窒化銅層13のうち、下地層12に接する面とは反対側の面に位置している。上側酸窒化銅層15は、銅層14のうち、下側酸窒化銅層13に接する面とは反対側の面に位置している。
【0031】
基材11は、光透過性を有した樹脂から形成されていることが好ましく、基材11の形成材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリイミドなどであればよい。基材11の厚さは、例えば数十μmから数百μmである。
【0032】
下地層12は、基材11と下側酸窒化銅層13との両方に対して密着性を有する層であり、下側酸窒化銅層13が基材11から剥がれることを抑える層である。下地層12は、光透過性を有し、また、複数の樹脂材料から構成される塗液から形成された層であることが好ましい。下地層12の厚さは、例えば数μmである。
【0033】
下地層12を形成するための塗液は、紫外線硬化性多官能アクリレート、紫外線硬化性単官能アクリレート、アクリルポリマー、および、アンチブロッキング剤を含む。言い換えれば、下地層12は、紫外線硬化性多官能アクリレート、紫外線硬化性単官能アクリレート、アクリルポリマー、および、アンチブロッキング剤を含む。このうち、紫外線硬化性多官能アクリレートは、下地層12の形状を定める機能を有し、紫外線硬化性単官能アクリレートは、紫外線による硬化反応に反応性を有する希釈剤である。
【0034】
アクリルポリマーは、基材11と下側酸窒化銅層13とに対して密着性を有し、アクリルポリマーは、紫外線硬化性のアクリル基と、密着性に寄与する官能基とを有している。アンチブロッキング剤は、上側酸窒化銅層15のうち、銅層14に接する面とは反対側の面における密着性を低くする。アンチブロッキング剤は、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、および、シリカなどで形成される粒子であることが好ましく、粒子の粒径は、数百nm程度であることが好ましい。下地層12の厚さが例えば1μmであれば、粒子の粒径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0035】
下地層12を形成するための塗液、ひいては下地層12がアンチブロッキング剤を含むため、上側酸窒化銅層15のうち、銅層14に接する面とは反対側の面が、アンチブロッキング剤である粒子の形状に追従した凹凸を有する。それゆえに、タッチパネル用導電性積層体10が巻き取られたり、積み重ねられたりしたときに、上側酸窒化銅層15と、上側酸窒化銅層15の上に積まれた層である基材11との接触点が減る。
【0036】
結果として、上側酸窒化銅層15が、上側酸窒化銅層15の上に積まれた基材11に貼り着いてしまうこと、すなわちブロッキングが抑えられるとともに、上側酸窒化銅層15と比べて軟質な基材11の表面が、上側酸窒化銅層15によって傷付けられることが抑えられる。
【0037】
下地層12と下側酸窒化銅層13との界面における密着強度は、8.0N/15mm以上であることが好ましい。下地層12と下側酸窒化銅層13との界面における密着強度は、JIS K 6854−3に準拠する方法によって測定された値である。
【0038】
密着強度が8.0N/15mm以上であれば、タッチパネル用導電性積層体10がパターニングされるとき、パターニングによって形成される電極の一部が、下地層12から剥がれにくくなり、ひいては、電極における断線を抑えることができる。
【0039】
下地層12のうち、下側酸窒化銅層13に接する面が表面であり、表面における表面粗さRaは、3nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。下地層12の表面粗さRaは、JIS B 0601に準拠する方法によって測定された値である。
【0040】
下地層12の表面における表面粗さRaが3nm以上であることによって、表面粗さRaが3nmよりも小さい構成と比べて、第1の積層体16が、アンチブロッキング性を得やすくなる。なお、アンチブロッキング性は、上側酸窒化銅層15と、上側酸窒化銅層15の上に積まれた基材11との間におけるブロッキングを抑える特性である。
【0041】
また、下地層12の表面における表面粗さRaが20nm以下であることによって、第1の積層体16におけるヘイズの値が、第1の積層体16から形成された電極での光の散乱がタッチパネルの使用者によって視認される程度に大きくなることが抑えられる。さらにまた、下地層12の表面における表面粗さRaが20nm以下であることによって、下地層12の表面に形成された下側酸窒化銅層13に、ピンホールやクラックが生じることが抑えられる。
【0042】
このように、第1の積層体16がアンチブロッキング性を有し、かつ、第1の積層体16でのヘイズの値が大きくなることを抑える上では、下地層12の表面における表面粗さRaが、3nm以上20nm以下であることが好ましい。
【0043】
なお、下地層12がアンチブロッキング剤を含む構成では、下地層12の表面における表面粗さRaは、下地層12におけるアンチブロッキング剤の分散の度合いによって制御することができる。下地層12の中で、アンチブロッキング剤が均一に分散していると、下地層12の表面における平滑性が高まる。一方で、下地層12の中で、アンチブロッキング剤が過度に凝集していると、上側酸窒化銅層15では、凝集したアンチブロッキング剤に重なる部分が、他の部分よりも突き出た突出部分として視認されてしまう。
【0044】
そのため、下地層12の表面における表面粗さRaの値が、3nm以上20nm以下の範囲に含まれるためには、視認される大きさを有した突出部分が上側酸窒化銅層15に形成されない程度に、アンチブロッキング剤が、下地層12の中で凝集していることが好ましい。
【0045】
下地層12の表面における硬度はHB以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。なお、下地層12の硬度は、JIS K 5600−5−4に準拠する鉛筆法に基づき測定される引っかき硬度である。
【0046】
下地層12における硬化の度合いが小さいほど、下地層12の表面における硬度が低くなるため、下地層12の表面に傷が生じやすくなる。これにより、下地層12の表面に位置する下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15にも、下地層12が有する傷に追従した窪みなどが形成されやすくなる。下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15の積層体から電極が形成されるとき、こうした窪みが、電極に断線を生じさせる場合がある。
【0047】
また、下地層12の表面における硬度が低くなるほど、下地層12に外部から作用した応力によって、下地層12が変形する度合いが大きくなる。そして、下地層12が変形する度合いが大きくなり過ぎると、下地層12の表面に形成された下側酸窒化銅層13が、下地層12の変形に追従できず、結果として、下側酸窒化銅層13にひびが生じたり、下側酸窒化銅層13が下地層12から剥がれたりする場合がある。
【0048】
この点で、下地層12の表面における鉛筆硬度がHB以上であれば、電極における断線、下側酸窒化銅層13に生じるひび、および、下側酸窒化銅層13の剥がれを抑えることができる。
【0049】
下側酸窒化銅層13は、酸窒化銅(CuNO)から形成される層である。
ここで、窒化銅層は、形成初期、すなわち形成されてからの経過時間が短い間において、酸窒化銅層に比べて化学的に不安定であり、空気中の酸素と反応しやすい。これにより、窒化銅層の組成は、形成初期の間に変わりやすく、ひいては、窒化銅層の光学特性も形成初期の間に変わりやすい。このように、窒化銅層では、形成されたときにおける光学特性と、短い時間が経過した後の光学特性とが大きく異なるため、窒化銅層の光学特性を求められる光学特性とすることが難しい。
これに対して、酸窒化銅層は、窒化銅層と比べて、酸素を含む分だけ形成初期における組成の変化、および、光学特性の変化が抑えられる。
【0050】
下側酸窒化銅層13では、JIS Z 8722に準拠するXYZ表色系の三刺激値のうち、Yの値の初期値、すなわち、下側酸窒化銅層13の形成された時点におけるYの値は、20%以下であることが好ましい。なお、三刺激値におけるYの値は、明るさの指標であり、Yの値が大きいほど明るいことを示す。また、下側酸窒化銅層13の厚さは、30nm以上50nm以下であり、かつ、銅層14の厚さにおける25%以下の値であることが好ましい。
【0051】
下側酸窒化銅層13の厚さが、30nm以上50nm以下であるため、下側酸窒化銅層13は、下地層12の形成された基材11と銅層14との間の密着性を高める上で十分な厚さを有している。しかも、下側酸窒化銅層13の厚さが銅層14の厚さの25%以下の値であるため、基材11と銅層14との間の密着性を保ちつつも、タッチパネル用導電性積層体10の全体における厚さと、タッチパネル用導電性積層体10における銅の使用量とが過剰に大きくなることが抑えられる。
【0052】
下側酸窒化銅層13は、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含むことが好ましく、4原子%以上12原子%以下の割合で酸素原子を含むことがより好ましい。こうした下側酸窒化銅層13によれば、下側酸窒化銅層13における組成が変わりにくい程度に下側酸窒化銅層13に酸素原子が含まれているため、下側酸窒化銅層13における光学特性の変化に対する耐久性、すなわち光学特性の経時的な安定性を高めることができる。
【0053】
下側酸窒化銅層13における光学特性の変化は、タッチパネル用導電性積層体10を用いて形成した電極を有するタッチパネルがディスプレイの表面として適用された場合に、ディスプレイの表面における反射色の変化として表れる。そのため、下側酸窒化銅層13における光学特性の経時的な安定性が高まれば、複数のディスプレイにおいて、反射色を含む色調のばらつきが抑えられ、ひいては、ディスプレイが有する工業製品としての商品価値が高まる。
【0054】
なお、下側酸窒化銅層13における光学特性は、下側酸窒化銅層13における光学的な特徴を定める複数のパラメータによって特定され、複数のパラメータは、上述したXYZ表色系の三刺激値におけるYの値、Lab表色系におけるLの値、aの値、および、bの値によって構成される。このうち、Lab表色系におけるLの値は明度指数、すなわち明度の指標であり、aの値およびbの値の各々は知覚色度指数、すなわち、色相および彩度の指標である。
【0055】
下側酸窒化銅層13における光学特性の初期値のうち、Yの初期値は、上述したように20%以下であることが好ましい。また、Lの初期値は、55以下であることが好ましい。aの初期値およびbの初期値は、負の値であることが好ましく、aの初期値およびbの初期値は負の値であって、かつ、絶対値が5以上20以下であることがより好ましい。
【0056】
下側酸窒化銅層13が含む酸素原子の割合が、4原子%以上19原子%以下であれば、下側酸窒化銅層13の光学特性の初期値が、上述した好ましい範囲に含まれる。
【0057】
また、第二塩化鉄液をエッチャントとして用いたとき、下側酸窒化銅層13が含む酸素原子の量が小さいほど下側酸窒化銅層13のエッチング速度が低くなり、これにより、下側酸窒化銅層13のエッチング速度と、銅層14のエッチング速度との差が大きくなる。言い換えれば、下側酸窒化銅層13が含む酸素原子の量が大きいほど下側酸窒化銅層13のエッチング速度が高くなり、これにより、下側酸窒化銅層13のエッチング速度と、銅層14のエッチング速度との差が小さくなる。
【0058】
そして、下側酸窒化銅層13のエッチング速度と、銅層14のエッチング速度との差が小さいほど、下側酸窒化銅層13と銅層14とをエッチングして電極を形成するとき、下側酸窒化銅層13における線幅と、銅層14における線幅とに差が生じることが抑えられる。これにより、電極において断線が生じることが抑えられる。
【0059】
そのため、下側酸窒化銅層13と銅層14とを含む積層体において、ウェットエッチングによる加工性を高める上では、下側酸窒化銅層13は、12原子%以上42原子%以下の割合で酸素原子を含むことが好ましく、19原子%以上42原子%以下の割合で酸素原子を含むことがより好ましい。
銅層14は、銅(Cu)から形成される層であり、銅層14の厚さは、200nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0060】
上側酸窒化銅層15は、酸窒化銅(CuNO)から形成される層である。上側酸窒化銅層15では、上述したXYZ表色系の三刺激値のうち、Yの値の初期値、すなわち、上側酸窒化銅層15の形成された時点におけるYの値は、20%以下であることが好ましい。また、上側酸窒化銅層15において、Lの初期値は、55以下であることが好ましい。aの初期値およびbの初期値は負の値であることが好ましく、aの初期値およびbの初期値は負の値であって、かつ、絶対値が5以上20以下であることがより好ましい。また、上側酸窒化銅層15の厚さは、30nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0061】
上側酸窒化銅層15においても、上述した下側酸窒化銅層13と同様、上側酸窒化銅層15における光学特性の変化に対する耐久性を高める上では、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含むことが好ましく、4原子%以上12原子%以下の割合で酸素原子を含むことがより好ましい。
【0062】
また、上側酸窒化銅層15を含む積層体において、ウェットエッチングによる加工性を高める上では、上側酸窒化銅層15は、12原子%以上42原子%以下の割合で酸素原子を含むことが好ましく、19原子%以上42原子%以下の割合で酸素原子を含むことがより好ましい。
【0063】
こうしたタッチパネル用導電性積層体10では、銅層14が下側酸窒化銅層13と上側酸窒化銅層15とに挟まれているため、2つの酸窒化銅層を有しない構成と比べて、銅層14が酸化されにくい。
【0064】
第1の積層体16において、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15から構成される積層体の表面抵抗率は、0.13Ω/□以下であることが好ましい。タッチパネル用導電性積層体10を構成する層のうち、下側酸窒化銅層13および上側酸窒化銅層15は、銅層14よりも抵抗値の高い化合物から形成される層ではある。ただし、酸窒化銅層によれば、第1の積層体16において、上述した積層体における表面抵抗値が、タッチパネルの備える電極として許容されない程度にまで上昇することを抑えることが可能である。
【0065】
そして、タッチパネル用導電性積層体10が、こうした抵抗値の高い化合物層を有しても、第1の積層体16が含む上述した積層体の表面抵抗率が0.13Ω/□以下であれば、以下の効果を得ることができる。すなわち、タッチパネル用導電性積層体10を用いて形成された電極の抵抗値を、タッチセンサの応答速度に対する影響が無視できる程度に小さい抵抗値とすることができる。
【0066】
図2が示すように、基材11のうち、第1の面11aとは反対側の面が第2の面11bであり、第2の面11bには、第2の積層体20が位置していてもよい。第2の積層体20は、基材11に対する位置が異なる一方で、層が積み重なる方向においては第1の積層体16と同じ層構造を有している。すなわち、第2の積層体20は、下地層21、下側酸窒化銅層22、銅層23、および、上側酸窒化銅層24から構成されている。
なお、下側酸窒化銅層13,22が第1の酸窒化銅層の一例であり、上側酸窒化銅層15,24が第2の酸窒化銅層の一例である。
【0067】
[タッチパネル用導電性積層体の製造方法]
図3から図6を参照してタッチパネル用導電性積層体の製造方法を説明する。なお、図4では、基材11の第1の面11aにおける一部について説明する便宜上から、基材11と下地層12との一部が拡大して示されている。また、基材11の第2の面11bに対して第2の積層体20を形成する工程は、積層体が形成される面が異なる以外は、第1の面11aに対して第1の積層体16を形成する工程と同じである。そのため、以下では、第1の積層体16を形成する工程を説明し、第2の積層体20を形成する工程の説明を省略する。
【0068】
図3が示すように、タッチパネル用導電性積層体10が形成されるときには、まず、基材11の第1の面11aに下地層12が形成される。下地層12が形成される工程では、上述した複数の樹脂材料を含む塗液を用いて、基材11の第1の面11aに塗膜が形成される。そして、塗膜が硬化されることによって、下地層12が形成される。
【0069】
図4が示すように、下地層12は、基材11の第1の面11aに形成された複数の凹部11cを埋め、かつ、第1の面11aの上に層状に形成される。そのため、下地層12における下側酸窒化銅層13と接する面の平坦性が高まる。ひいては、タッチパネル用導電性積層体10の各層における平坦性が高まる。
【0070】
なお、基材11の第1の面11aに形成された凹部11cの深さは、上述した下地層12における表面粗さRaに比べて大幅に大きい。そのため、下地層12によれば、こうした凹部11cを埋めることによって平坦性を高めつつ、下地層12の表面における表面粗さRaを上述した範囲とすることができる。
【0071】
図5が示すように、下側酸窒化銅層13が形成される工程では、下地層12のうち、基材11に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて下側酸窒化銅層13が形成される。
【0072】
下側酸窒化銅層13は、例えば、窒素ガスと酸素ガスとを含む雰囲気にて銅ターゲットがスパッタされることによって形成される。ターゲットのスパッタが行われる雰囲気に供給される窒素ガスの流量が例えば400sccmであるとき、酸素ガスの流量は、10sccm以上100sccm以下であることが好ましく、10sccm以上40sccm以下がより好ましく、20sccmであることがさらに好ましい。
【0073】
図6が示すように、銅層14が形成される工程では、下側酸窒化銅層13のうち、下地層12に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて銅層14が形成される。
【0074】
そして、銅層14のうち、下側酸窒化銅層13に接する面とは反対側の面に、スパッタ法を用いて上側酸窒化銅層15が形成される。これにより、タッチパネル用導電性積層体10が製造される。
【0075】
なお、上側酸窒化銅層15も、下側酸窒化銅層13と同様、例えば、窒素ガスと酸素ガスとを含む雰囲気にて銅ターゲットがスパッタされることによって形成される。ターゲットのスパッタが行われる雰囲気に供給される窒素ガスの流量が例えば400sccmであるとき、酸素ガスの流量は、10sccm以上100sccm以下であることが好ましく、10sccm以上40sccm以下であることがより好ましく、20sccmであることがさらに好ましい。
【0076】
タッチパネル用導電性積層体10では、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15の全てがスパッタ法を用いて形成される。そのため、下側酸窒化銅層13と銅層14から形成された電極に対して、めっき法などの湿式の処理を用いて光の反射を抑える層を形成する工程を省くことができる。しかも、下側酸窒化銅層13と上側酸窒化銅層15との両方がスパッタ法を用いて形成されるため、例えば、下側酸窒化銅層13がスパッタ法を用いて形成される一方で、上側酸窒化銅層がめっき法で形成される場合と比べて、下側酸窒化銅層13と上側酸窒化銅層15との色味の差を小さくすることができる。
【0077】
また、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15のいずれかが異なる気相法、例えば蒸着法を用いて形成される場合と比べて、複数の層を形成するための環境の変化、例えば、真空度の変化や温度の変化が抑えられやすい。それゆえに、タッチパネル用導電性積層体10の製造装置の構成をより簡単にすることができる。
【0078】
[タッチパネル用導電性積層体の作用]
図7および図8を参照してタッチパネル用導電性積層体の作用を説明する。なお、図7および図8の各々では、第1の積層体16のうち、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15がエッチングされることによって、下地層12の上に複数の電極が形成された状態が示されている。
【0079】
図7が示すように、下地層12のうち、基材11に接する面とは反対側の面には、複数の電極31が形成されている。各電極31は、下側酸窒化銅層13、銅層14、および、上側酸窒化銅層15を備え、基材11の第1の面11aにおいて、1つの方向に沿って延びている。電極31の線幅は、例えば数μmから数十μm程度である。
【0080】
複数の電極31が第1の面11aと対向する方向から視認されるとき、光源LSの射出した光の一部は、電極31の備える上側酸窒化銅層15に入射し、上側酸窒化銅層15に入射した光の少なくとも一部が、観察者OBに向けて上側酸窒化銅層15から射出される。
【0081】
ここで、上側酸窒化銅層15における光の反射率は、銅層14における光の反射率よりも低いため、銅層14が電極31の最表層である構成と比べて、上側酸窒化銅層15から観察者OBに向けて射出される光の量が小さくなる。すなわち、上側酸窒化銅層15は、銅層14のような金属光沢を有さず、かつ、褐色や黒色であって、明度の低い色を有する層として視認される。
【0082】
そして、上述したように、電極31は、数μmから数十μm程度の非常に小さい線幅を有するため、結果として、電極31は、第1の面11aと対向する方向から観察者OBによって視認されにくくなる。
【0083】
また、上側酸窒化銅層15におけるYの値は、上側酸窒化銅層15が形成された時点において20%以下であるため、上側酸窒化銅層15が形成された時点からの時間の経過が短い時点では、上側酸窒化銅層15の明度が、観察者OBに視認されない程度に小さい。
【0084】
上側酸窒化銅層15の明度は、上側酸窒化銅層15の経時的な劣化に伴い高くなる傾向を有する。しかしながら、上側酸窒化銅層15が形成された時点においてYの値が20%以下であるため、上側酸窒化銅層15が形成された時点からの時間の経過が長い時点であっても、上側酸窒化銅層15の明度が、観察者OBに視認される程度に大きくなりにくい。言い換えれば、上側酸窒化銅層15が形成された時点でのYの値がより大きい構成と比べて、上側酸窒化銅層15の明度が、観察者OBに視認される程度に大きくなるまでにかかる時間が長くなる。
【0085】
図8が示すように、複数の電極31が第2の面11bと対向する方向から視認されるとき、すなわち、複数の電極31が基材11を介して視認されるとき、複数の電極31が第1の面11aと対向する方向から視認されるときと同様の理由から、観察者OBによって電極31が視認されにくくなる。つまり、下側酸窒化銅層13は、上述したように、下地層12と銅層14との間における密着層としての機能と、複数の電極31を視認されにくくする機能とを併せ持つ。
【0086】
なお、基材11における第2の面11bに形成された複数の電極においても、上述した第1の面11aに形成された複数の電極31と同等の効果を得ることができる。
【0087】
[実施例]
[実施例1]
厚さが100μmであるポリエチレンテレフタレートシートを基材として準備し、基材の第1の面に、塗液を用いて1.2μmの厚さを有する下地層を形成した。そして、下地層の上に、スパッタ法を用いて下側酸窒化銅層を形成し、下側酸窒化銅層の上に、スパッタ法を用いて銅層を形成した。さらに、銅層の上に、スパッタ法を用いて上側酸窒化銅層を形成して、実施例1のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、上側酸窒化銅層の形成は、以下の条件で行った。
【0088】
・MF帯高周波電源 6.0kW
・アルゴンガス流量 100sccm
・酸素ガス流量 10sccm
・窒素ガス流量 400sccm
【0089】
[実施例2]
上側酸窒化銅層を形成するときの条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同じ方法によって実施例2のタッチパネル用導電性積層体を得た。
・MF帯高周波電源 6.0kW
・アルゴンガス流量 100sccm
・酸素ガス流量 100sccm
・窒素ガス流量 400sccm
【0090】
[加速試験]
実施例1のタッチパネル用導電性積層体と、実施例2のタッチパネル用導電性積層体とに対して、以下の条件で加速試験を行った。
【0091】
[試験条件1]
温度が90℃であり、かつ、相対湿度が2%から3%であって、加湿をしていない試験環境中に、実施例1,2のタッチパネル用導電性積層体を120時間、240時間、および、500時間にわたって静置した。
【0092】
[試験条件2]
温度が60℃であり、かつ、相対湿度が90%である試験環境中に、実施例1,2のタッチパネル用導電性積層体を120時間、240時間、および、500時間にわたって静置した。
【0093】
[測定結果]
実施例1,2のタッチパネル用導電性積層体について、上側酸窒化銅層が形成された時点における上側酸窒化銅層のYの値、Lの値、aの値、および、bの値をそれぞれ測定した。また、加速試験が行われた実施例1,2のタッチパネル用導電性積層体であって、各経過時間にわたって加速試験を行ったタッチパネル用導電性積層体について、上側酸窒化銅層のYの値、Lの値、aの値、および、bの値をそれぞれ測定した。
【0094】
なお、Yの値は、JIS Z 8722に準拠する測定方法を用いて測定した。また、Lの値、aの値、および、bの値は、JIS Z 8781−4に準拠する測定方法を用いて測定した。各測定結果は、以下の表1に示すような値であった。
【0095】
【表1】
【0096】
表1が示すように、実施例1では、上側酸窒化銅層が形成された時点における上側酸窒化銅層のYの値、すなわち、Yの初期値が18.9%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例1では、Lの初期値が50.6であり、aの初期値が−15.0であり、bの初期値が−4.5であることが認められた。
【0097】
実施例2では、Yの初期値が18.5%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例2では、Lの初期値が50.2であり、aの初期値が−9.2であり、bの初期値が−10.0であることが認められた。
【0098】
そして、実施例1の上側酸窒化銅層では、実施例2の上側酸窒化銅層と比べて、加速試験後において、Yの値、Lの値、aの値、および、bの値の各々における初期値からの変化量が小さいことが認められた。
【0099】
[実施例3]
厚さが100μmであるポリエチレンテレフタレートシートを基材として準備し、基材の第1の面に、塗液を用いて1.2μmの厚さを有する下地層を形成した。そして、下地層の上に、スパッタ法を用いて38nmの厚さを有する下側酸窒化銅層を形成し、下側酸窒化銅層の上に、スパッタ法を用いて500nmの厚さを有する銅層を形成した。さらに、銅層の上に、スパッタ法を用いて38nmの厚さを有する上側酸窒化銅層を形成して、実施例3のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の形成は、以下の条件で行った。実施例3において、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、44nm・m/minであることが認められた。
【0100】
・MF帯高周波電源 9.3kW
・アルゴンガス流量 100sccm
・酸素ガス流量 80sccm
・窒素ガス流量 400sccm
【0101】
[実施例4]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を形成するときの条件のうち、酸素ガスの流量を以下のように変更した以外は、実施例3と同じ方法によって実施例4のタッチパネル用導電性積層体を得た。実施例4において、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、実施例3における成膜速度と同じであることが認められた。
・酸素ガス流量 40sccm
【0102】
[実施例5]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を形成するときの条件のうち、酸素ガスの流量を以下のように変更した以外は、実施例3と同じ方法によって実施例5のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、実施例5において、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、実施例3における成膜速度と同じであることが認められた。
・酸素ガス流量 20sccm
【0103】
[実施例6]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を形成するときの条件のうち、酸素ガスの流量を以下のように変更した以外は、実施例3と同じ方法によって実施例6のタッチパネル用導電性積層体を得た。実施例6において、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、実施例3における成膜速度と同じであることが認められた。
・酸素ガス流量 10sccm
【0104】
[実施例7]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を形成するときの条件のうち、MF帯高周波電源のパワーを以下のように変更した以外は、実施例5と同じ方法によって実施例7のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、実施例7における上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、30nm・m/minであることが認められた。
・MF帯高周波電源 6.0kW
【0105】
[実施例8]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を形成するときの条件のうち、酸素ガスの流量と、窒素ガスの流量とを以下のように変更した以外は、実施例3と同じ方法によって実施例8のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、実施例8における上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々の成膜速度は、実施例3における成膜速度と同じであることが認められた。
・酸素ガス流量 20sccm
・窒素ガス流量 200sccm
【0106】
[比較例1]
上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の各々を形成するときの条件のうち、酸素ガスの流量を以下のように変更した以外は、実施例3と同じ方法によって、上側窒化銅層および下側窒化銅層を有する比較例1のタッチパネル用導電性積層体を得た。なお、比較例1における上側窒化銅層および下側窒化銅層の各々の成膜速度は、実施例3における成膜速度と同じであることが認められた。
・酸素ガス流量 0sccm
【0107】
[光学特性の測定結果]
実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体について、上側酸窒化銅層が形成された時点における上側酸窒化銅層のYの値、Lの値、aの値、および、bの値をそれぞれ測定した。また、比較例1のタッチパネル用導電性積層体について、上側窒化銅層が形成された時点における上側窒化銅層のYの値、Lの値、aの値、および、bの値をそれぞれ測定した。なお、Yの値、Lの値、aの値、および、bの値は、それぞれ、実施例1,2と同じ方法によって測定した。各測定結果は、以下の表2に示すような値であった。
【0108】
【表2】
【0109】
表2が示すように、実施例3では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が15.7%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例3では、Lの初期値が46.5であり、aの初期値が5.8であり、bの初期値が−20.2であることが認められた。
【0110】
実施例4では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が16.6%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例4では、Lの初期値が47.8であり、aの初期値が−14.4であり、bの初期値が−12.4であることが認められた。
【0111】
実施例5では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が17.9%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例5では、Lの初期値が49.4であり、aの初期値が−15.1であり、bの初期値が−9.0であることが認められた。
【0112】
実施例6では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が18.7%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例6では、Lの初期値が50.3であり、aの初期値が−10.5であり、bの初期値が−8.3であることが認められた。
【0113】
実施例7では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が17.0%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例7では、Lの初期値が48.3であり、aの初期値が−15.8であり、bの初期値が−10.7であることが認められた。
【0114】
実施例8では、上側酸窒化銅層におけるYの初期値が19.1%であり、20%以下であることが認められた。また、実施例8では、Lの初期値が50.8であり、aの初期値が−13.3であり、bの初期値が−7.0であることが認められた。
【0115】
比較例1では、上側窒化銅層におけるYの初期値が23.5%であり、20%よりも大きいことが認められた。また、比較例1では、Lの初期値が55.6であり、aの初期値が−0.8であり、bの初期値が−3.7であることが認められた。
【0116】
[光学特性における初期値の評価]
上述したように、実施例3から8の各々における上側酸窒化銅層では、Yの初期値が20%以下である一方で、比較例1の上側窒化銅層では、Yの初期値が20%を超えることが認められた。このように、酸窒化銅層によれば、窒化銅層に比べて、成膜初期におけるYの値が小さくなるため、酸窒化銅層は窒化銅層よりも明度の低い色を有する点で好ましいことが認められた。
【0117】
なお、実施例3の上側酸窒化銅層は、bの絶対値が20を超える値であり、他の上側酸窒化銅層と比べて彩度が高く、他の上側酸窒化銅層よりも強い色みを有するため、観察者によって視認されやすい。それゆえに、実施例4から実施例8の各々における上側酸窒化銅層は、実施例の中でもより好ましい光学特性を有することが認められた。
【0118】
[組成分析の結果]
実施例3から8の各々における上側酸窒化銅層、および、比較例1の上側窒化銅層について、表面における組成分析を行った。オージェ分光分析装置(SAM−680、アルバック・ファイ(株)製)を用いて、上側酸窒化銅層、あるいは、上側窒化銅層の組成を測定した。
【0119】
オージェ分光分析装置において、アルゴンイオン銃の加速電圧を1kVに設定し、入射角を45°に設定し、試料におけるアルゴンイオンの入射する範囲を1mm四方に設定して、1分間にわたって試料の表面をエッチングしたときの組成を測定した。なお、入射角は、アルゴンイオンの入射方向と試料の法線方向とが形成する角度であり、アルゴンイオン銃によるエッチングレートは、SiOに換算して7nm/minである。また、オージェ分光分析装置において、電子銃の加速電圧を10kVに設定し、電流量を10nAに設定した。
【0120】
実施例3から8、および、比較例1において、窒素原子(N)、酸素原子(O)、および、銅原子(Cu)の各々における原子%、および、2つの原子間での相対比は、以下の表3に示すような値であった。なお、相対比のうち、銅原子に対する窒素原子の比(N/Cu)の百分率が第1相対比であり、銅原子に対する酸素原子の比(O/Cu)の百分率が第2相対比であり、酸素原子に対する窒素原子の比(N/O)の百分率が第3相対比である。
【0121】
【表3】
【0122】
表3が示すように、実施例3の上側酸窒化銅層において、窒素原子が1原子%であり、酸素原子が42原子%であり、銅原子が57原子%であることが認められた。また、実施例3の上側酸窒化銅層において、第1相対比が1%であり、第2相対比が73%であり、第3相対比が2%であることが認められた。
【0123】
実施例4の上側酸窒化銅層において、窒素原子が9原子%であり、酸素原子が19原子%であり、銅原子が72原子%であることが認められた。また、実施例4の上側酸窒化銅層において、第1相対比が12%であり、第2相対比が26%であり、第3相対比が47%であることが認められた。
【0124】
実施例5の上側酸窒化銅層において、窒素原子が13原子%であり、酸素原子が12原子%であり、銅原子が75原子%であることが認められた。また、実施例5の上側酸窒化銅層において、第1相対比が17%であり、第2相対比が16%であり、第3相対比が108%であることが認められた。
【0125】
実施例6の上側酸窒化銅層において、窒素原子が10原子%であり、酸素原子が4原子%であり、銅原子が86原子%であることが認められた。また、実施例6の上側酸窒化銅層において、第1相対比が11%であり、第2相対比が5%であり、第3相対比が233%であることが認められた。
【0126】
実施例7の上側酸窒化銅層において、窒素原子が6原子%であり、酸素原子が31原子%であり、銅原子が63原子%であることが認められた。また、実施例7の上側酸窒化銅層において、第1相対比が9%であり、第2相対比が49%であり、第3相対比が19%であることが認められた。
【0127】
実施例8の上側酸窒化銅層において、窒素原子が12原子%であり、酸素原子が12原子%であり、銅原子が76原子%であることが認められた。また、実施例8の上側酸窒化銅層において、第1相対比が16%であり、第2相対比が15%であり、第3相対比が103%であることが認められた。
【0128】
比較例1の上側窒化銅層において、窒素原子が5原子%であり、酸素原子が0原子%であり、銅原子が95原子%であることが認められた。また、比較例1の上側窒化銅層において、第1相対比が6%であり、第2相対比が0%であることが認められた。
【0129】
[特性の評価]
実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体、および、比較例1のタッチパネル用導電性積層体について、初期安定性、耐久性、および、加工性を評価した。
【0130】
このうち、初期安定性は、上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層が形成されたときから5日間の間での、上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層における光学特性の安定性である。なお、光学特性は、上述したYの値、Lの値、aの値、および、bの値を含む。
【0131】
初期安定性は、実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体、および、比較例1のタッチパネル用導電性積層体を常温かつ常圧の雰囲気に5日間にわたって静置したときに、上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層における光学特性が、初期値からどの程度変化するかによって評価した。
【0132】
耐久性は、上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層における光学特性の耐久性であり、上述した初期安定性を評価する期間が過ぎて以降での上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層における光学特性の安定性である。耐久性を評価するときには、まず、実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体、および、比較例1のタッチパネル用導電性積層体を常温かつ常圧の雰囲気に5日間にわたって静置した。
【0133】
そして、実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体、および、比較例1のタッチパネル用導電性積層体に対して、上述した試験条件1にて500時間にわたって加速試験を行った。耐久性は、上側酸窒化銅層あるいは上側窒化銅層において、加速試験後の光学特性が、加速試験前の光学特性に対してどの程度変化しているかによって評価した。
【0134】
加工性は、タッチパネル用導電性積層体をエッチングしたときの加工性である。加工性は、実施例3から8のタッチパネル用導電性積層体、および、比較例1のタッチパネル用導電性積層体を塩化第二鉄液でエッチングしたときに得られる電極の形状によって評価した。
【0135】
初期安定性、耐久性、および、加工性の各々の評価結果は、以下の表4に示す通りであった。なお、初期安定性では、安定性が高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「○」とし、安定性が低いタッチパネル用導電性積層体の評価を「×」とした。耐久性では、耐久性が最も高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「○」とし、次に耐久性が高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「△」とし、耐久性が低いタッチパネル用導電性積層体の評価を「×」とし、さらに耐久性が低いタッチパネル用導電性積層体の評価を「××」とした。加工性では、加工性が最も高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「◎」とし、次に加工性が高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「○」とし、その次に加工性が高いタッチパネル用導電性積層体の評価を「△」とし、加工性が低いタッチパネル用導電性積層体の評価を「×」とした。
【0136】
【表4】
【0137】
表4が示すように、実施例3から実施例8の各々における上側酸窒化銅層は初期安定性が高い一方で、比較例1の上側窒化銅層は初期安定性が低いことが認められた。すなわち、酸窒化銅層は、窒化銅層に比べて、酸窒化銅層が形成された直後において、光学特性の急激な変化が起こりにくく、それゆえに、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成した電極において、所望とする光学特性を満たすことがより容易である。
なお、初期安定性を評価する試験の期間が、3日間あるいは4日間であっても、試験の期間が5日間であるときと同じ傾向が、発明者らによって認められている。
【0138】
実施例3の上側酸窒化銅層では、加速試験前の光学特性と、加速試験後の光学特性との差が、上述した実施例2と同程度であることが認められた。また、実施例4から8の上側酸窒化銅層、および、比較例1の上側窒化銅層では、加速試験前の光学特性と、加速試験後の光学特性との差が、実施例3よりも小さいことが認められた。
【0139】
実施例3から8の各々におけるタッチパネル用導電性積層体は、比較例1のタッチパネル用導電性積層体よりも加工性が高いことが認められた。また、実施例の中でも、実施例3,4,7の各々におけるタッチパネル用導電性積層体が最も加工性が高く、実施例5,8の各々におけるタッチパネル用導電性積層体が次に加工性が高いことが認められた。
【0140】
具体的には、比較例1では、銅層のエッチング速度に対して、窒化銅層のエッチング速度が小さいために、窒化銅層において所望とする線幅を満たそうとすると、銅層における線幅が小さくなり、複数の電極の一部において、断線を招きやすい程度に線幅が小さくなることが認められた。
【0141】
これに対して、実施例3から8では、銅層のエッチング速度と酸窒化銅層のエッチング速度との差が、銅層のエッチング速度と窒化銅層のエッチング速度との差よりも小さいために、各層における線幅の差が小さく、また、複数の電極において断線が認められなかった。なお、実施例3から8の中でも、実施例3,4,7では、各層における線幅の差がほとんど認められなかった。
【0142】
[上側酸窒化銅層における組成と特性との関係]
表2、表3、および、表4から明らかなように、酸窒化銅層を備えるタッチパネル用導電性積層体は、窒化銅層に比べて、Yの初期値を低く抑えられること、成膜後の初期において光学特性を安定に保つことができること、および、加工性がよいことの3つの点で優れていることが認められた。
【0143】
また、酸窒化銅層の中でも、4原子%以上19原子%以下の酸素原子を含む酸窒化銅層によれば、光学特性の変化に対する耐久性が高まることが認められた。そして、酸窒化銅層の中でも、12原子%以上42原子%以下の酸素原子を含む酸窒化銅層によれば、ウェットエッチングによる加工性が高まり、19原子%以上42原子%以下の酸素原子を含む酸窒化銅層によれば、ウェットエッチングによる加工性がより高まることが認められた。
【0144】
さらには、12原子%の酸素原子を含む酸窒化銅層であれば、光学特性における初期値、耐久性、および、加工性の全てにおいて、好ましい特性を有することが認められた。
【0145】
一方で、第1相対比が11%以上17%以下である酸窒化銅層によれば、光学特性の変化に対する耐久性が高まることが認められた。言い換えれば、窒素原子と銅原子との相対比が11%以上17%以下である状態において酸素を含むことによって、酸窒化銅層における光学特性の変化に対する耐久性が高まることが認められた。
【0146】
[密着強度]
実施例4から7の各々について、下地層と下側酸窒化銅層との界面における密着強度を測定した。密着強度の測定は、JIS K 6854−3に準拠する方法を用いて行った。なお、実施例4から7の各々において密着強度を測定するときには、タッチパネル用導電性積層体の厚さを大きくする目的で、上側酸窒化銅層を取り除いた後、銅層の上に、15μmの厚さを有する銅層を形成した。そして、各実施例において、試験片の幅を15mmに設定し、引張速度を50mm/分に設定した。
【0147】
実施例4の密着強度は8.0N/15mmであり、実施例5の密着強度は8.4N/15mmであり、実施例6の密着強度は8.3N/15mmであり、実施例7の密着強度は8.2N/15mmであることが認められた。このように、実施例における密着強度は、8.0N/15mm以上であることが認められた。
【0148】
なお、こうした密着強度を有するタッチパネル用導電性積層体によれば、タッチパネル用導電性積層体のエッチングによって電極が形成されるとき、電極における断線が抑えられることも認められている。また、実施例4から7の各々では、密着強度を測定する試験において、下地層と下側酸窒化銅層との界面における界面破壊が認められた。
【0149】
[表面抵抗率]
実施例3から7の各々、および、比較例1について、タッチパネル用導電性積層体が備える積層体の表面抵抗率を測定した。すなわち、実施例3から7の各々では、下側酸窒化銅層、銅層、および、上側酸窒化銅層がこの順に積層された積層体の表面抵抗率を測定し、比較例1では、下側窒化銅層、銅層、および、上側窒化銅層がこの順に積層された積層体の表面抵抗率を測定した。各積層体の表面抵抗率は、JIS K 7194に準拠する方法を用いて測定した。なお、表面抵抗率の測定には、抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)を用いた。
【0150】
実施例3の表面抵抗率は0.13Ω/□であり、実施例4の表面抵抗率は0.13Ω/□であり、実施例5の表面抵抗率は0.13Ω/□であり、実施例6の表面抵抗率は0.12Ω/□であり、実施例7の表面抵抗率は0.13Ω/□であり、実施例8の表面抵抗率は0.13Ω/□であることが認められた。また、比較例1の表面抵抗率は0.12Ω/□であることが認められた。このように、実施例における表面抵抗率は、0.13Ω/□以下であることが認められた。
【0151】
なお、こうした表面抵抗率を有するタッチパネル用導電性積層体によれば、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された電極の抵抗値を、タッチセンサの応答速度に対する影響が無視できる程度に小さい抵抗値とすることができることも認められている。
【0152】
以上説明したように、タッチパネル用導電性積層体、および、タッチパネル用導電性積層体の製造方法における1つの実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0153】
(1)銅層14が、銅層14よりも反射率の低い2つの酸窒化銅層で挟まれているため、タッチパネル用導電性積層体10を用いて形成された複数の電極31では、第1の面11aと対向する方向から電極31が視認されにくくなり、かつ、基材11を介して電極31が視認されにくくなる。
【0154】
(2)第2の積層体20を用いて形成された複数の電極では、下側酸窒化銅層22、および、上側酸窒化銅層24において、光の反射が抑えられる。そのため、第2の面11bにおける複数の電極では、第2の面11bと対向する方向から電極が視認されにくくなり、かつ、基材11を介して電極が視認されにくくなる。
【0155】
(3)下地層がアンチブロッキング剤を含むため、タッチパネル用導電性積層体10が巻き取られたり、積み重ねられたりしたときに、上側酸窒化銅層が、上側酸窒化銅層の上に積まれた層に密着することが抑えられる。また、下地層は、基材11の凹部11cを埋め、かつ、基材11上に層状に形成されているため、下地層における下側酸窒化銅層と接する面の平坦性が高まる。ひいては、タッチパネル用導電性積層体10の各層における平坦性が高まる。
【0156】
(4)下側酸窒化銅層の厚さが、30nm以上50nm以下であるため、下側酸窒化銅層は、下地層の形成された基材11と銅層との間の密着性を高める上で十分な厚さを有している。しかも、下側酸窒化銅層の厚さが銅層の厚さの25%以下の値であるため、基材11と銅層との間の密着性を保ちつつも、タッチパネル用導電性積層体10の全体における厚さと、タッチパネル用導電性積層体10における銅の使用量とが過剰に大きくなることが抑えられる。
【0157】
(5)上側酸窒化銅層において、XYZ表色系のうち、明るさの指標であるYの値が20%以下である。そのため、タッチパネル用導電性積層体10を用いて形成された複数の電極では、上側酸窒化銅層と対向する方向から、電極が視認されにくくなる。また、上側酸窒化銅層が形成されたときのYの値が20%以下であるため、上側酸窒化銅層が視認される程度にYの値が大きくなりにくい。
【0158】
(6)下側酸窒化銅層および上側酸窒化銅層が、4原子%以上19原子%以下の割合で酸素原子を含むことによって、光学特性の変化に対する耐久性を高めることができる。
【0159】
(7)下地層と下側酸窒化銅層との界面における密着強度が8.0N/15mm以上であれば、パターニングによって形成される電極の一部が下地層から剥がれにくくなり、ひいては、電極における断線を抑えることができる。
【0160】
(8)タッチパネル用導電性積層体10の表面抵抗率が0.13Ω/□以下であれば、電極の抵抗値をタッチセンサの応答速度に対する影響が無視できる程度に小さい抵抗値とすることができる。
(9)下地層の表面における表面粗さRaが3nm以上であれば、積層体が、アンチブロッキング性をより得やすくなる。
【0161】
(10)下地層の表面における表面粗さRaが20nm以下であれば、積層体を用いて形成された電極での光の散乱が、タッチパネルの使用者によって視認される程度に大きくなることが抑えられる。
【0162】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・下地層の表面における表面粗さRaは3nmよりも小さくてもよく、20nmよりも大きくてもよい。こうした構成であっても、基材と下側酸窒化銅層との間に下地層が位置する以上は、基材における下側酸窒化銅層が位置する面に形成された凹部によって、下地層のアンチブロッキング性を高める程度の表面粗さと比べて、大幅に大きい段差がタッチパネル用導電性積層体の各層に形成されることは抑えられる。
【0163】
・タッチパネル用導電性積層体の表面抵抗率は0.13Ω/□よりも大きくてもよく、タッチパネル用導電性積層体を用いて形成された電極に求められる抵抗値、ひいては、タッチパネルに求められる検出精度が得られる範囲であればよい。
【0164】
・下地層と下側酸窒化銅層との界面における密着強度は、8.0N/15mmよりも小さくてもよく、タッチパネル用導電性積層体に対する加工によって、下側酸窒化銅層が下地層から剥がれない範囲であればよい。
【0165】
・上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層の少なくとも一方において、酸素原子が4原子%未満の割合で含まれてもよく、また、酸素原子が19原子%を超える割合で含まれてもよい。こうした構成であっても、タッチパネル用導電性積層体が、上側酸窒化銅層および下側酸窒化銅層を備える以上は、電極が基材11を介して視認されにくくなる。
【0166】
・下側酸窒化銅層におけるYの初期値は、20%以下に限られない。下側酸窒化銅層におけるYの初期値が20%を越えるとしても、下側酸窒化銅層が形成されている以上は、電極が基材11を介して視認されにくくなる。
【0167】
・上側酸窒化銅層におけるYの初期値は、20%以下に限られない。上側酸窒化銅層におけるYの初期値が20%を越えるとしても、上側酸窒化銅層が形成されている以上は、電極の形成された面と対向する方向から電極が視認されにくくなる。
【0168】
・銅層の厚さは、200nmよりも小さくてもよいし、500nmよりも大きくてもよい。要は、銅層は、タッチパネル用導電性積層体10を用いて電極が形成されたときに、電極として必要な導電性を満たすだけの厚さを有していればよい。
【0169】
・下側酸窒化銅層の厚さは、30nmよりも小さくてもよいし、50nmよりも大きくてもよい。また、下側酸窒化銅層の厚さは、銅層の厚さにおける25%よりも大きい値であってもよい。要は、下側酸窒化銅層は、下地層の形成された基材と銅層との両方に対して密着性を発現することが可能な厚さを有していれば、下側酸窒化銅層の厚さは、上述した実施形態に記載した範囲に限定されない。
【0170】
・下地層を形成するための塗液は、塗液を用いて形成された下地層が、基材11と下側酸窒化銅層とに対する密着性を有していれば、紫外線硬化性多官能アクリレート、紫外線硬化性単官能アクリレート、アクリルポリマー、および、アンチブロッキング剤の少なくとも1つを含んでいなくてもよい。
あるいは、下地層は、基材11と下側酸窒化銅層とに対する密着性を有していれば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などから形成されてもよい。
【0171】
・電極31の線幅は、数十μm以上であってもよい。こうした構成であっても、電極31が下側酸窒化銅層と上側酸窒化銅層とを備える以上は、電極31が金属層のみから形成される構成と比べて、電極31が視認されにくくなる。
・下側酸窒化銅層、銅層、および、上側酸窒化銅層は、スパッタ法以外の方法、例えば、蒸着法やCVD法などの気相成長法を用いて形成されてもよい。
【符号の説明】
【0172】
10…タッチパネル用導電性積層体、11…基材、11a…第1の面、11b…第2の面、11c…凹部、12,21…下地層、13,22…下側酸窒化銅層、14,23…銅層、15,24…上側酸窒化銅層、16…第1の積層体、20…第2の積層体、31…電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8