(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
心ストランドと、前記心ストランドの周囲に配置される複数の側ストランドと、前記心ストランドおよび前記複数の側ストランドを被覆する被覆樹脂とを有するIWRC(Independent Wire Rope Core)と、
前記IWRCの周囲に配置される複数の主ストランドと、
を備えるエレベータ用主ロープにおいて、
前記複数の側ストランドは、前記複数の側ストランドの各中心が位置する仮想層心円の周上に略等間隔で配置され、
前記仮想層心円の周長に対して、前記複数の側ストランドの内、前記仮想層心円の周方向において隣り合う二つの側ストランドの間隙の総計の割合(A)が8.5%以上であり、
前記複数の主ストランドの仮想内接円の半径に対して、前記複数の側ストランドの各仮想外接円と前記仮想内接円との間隙の割合(B)が3.0%以上であり、
前記仮想層心円は、前記複数の主ストランドの前記仮想内接円内に、仮想的に、前記複数の側ストランドと同じ個数の側ストランドが最密充填される場合における層心円であり、
ロープ掛け本数を1本のみ増やす場合のロープ破断強度の許容対比率、すなわち、ある荷重を、3ないし10本の内のあるロープ掛け本数で支持できる場合のロープ破断強度に対する、同じ荷重を、ロープ掛け本数を1本のみ増やして支持する場合において許容されるロープ破断強度の比が、0.91以上であることを特徴とするエレベータ用主ロープ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態であるエレベータ装置を示す概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、乗りかご3には主ロープ2の一端が接続され、釣り合い錘4には主ロープ2の他端が接続される。主ロープ2は巻上機1のシーブと方向転換プーリ20に巻き掛けられる。乗りかご3および釣り合い錘4は、図示されない昇降路内において主ロープ2によって吊られる。巻上機1のモータによってシーブが回転すると、主ロープ2が駆動されるので、乗りかご3および釣り合い錘4は、図示されないガイドレールに案内されながら昇降する。主ロープ2として、後述するような本発明の一実施形態であるエレベータ用主ロープが用いられる。
【0016】
本実施形態によれば、後述するように主ロープ2の強度の低下を抑えつつ主ロープ2の寿命が向上するため、エレベータ装置の信頼性が向上する。さらに、主ロープの寿命が向上することにより主ロープの保守点検頻度が低減できるので、エレベータ装置の保守が容易になる。また、主ロープの強度低下が抑制されているため、所望の積載量に対するロープ掛け本数の増加を抑制できるので、シーブやプーリの寸法の増大や、昇降路内におけるロープ設置空間の増大を抑えることができる。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態であるエレベータ用主ロープを示す断面図である。本
図2は、主ロープの長手方向に垂直な方向における断面を示す(他の断面図も同様)。
【0018】
図2に示すように、本実施形態のエレベータ用主ロープは、ロープ芯材となるIWRCと、このIWRCの周囲に配置され、IWRCの外周において撚り合わされながら巻き付けられる10本の主ストランド10A〜10Jとからなる。主ストランド10A〜10Jは、IWRCの外周表面に接する。さらに、主ロープ断面において、主ストランド10A〜10Jは、IWRCの周囲において周方向に沿って略等間隔に配置される。
【0019】
IWRCは、その中心部すなわち主ロープの中心部に配置される1本の心ストランド7と、心ストランド7の外周において、心ストランド7との間に間隔を保持して、撚られながら巻き付けられる6本の側ストランド8A〜8Fと、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fとの間および側ストランド同士の間も含めて、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fの周囲全体を被覆する被覆樹脂9とを有している。側ストランド8A〜8Fは、主ロープ断面において、側ストランド8A〜8Fの中心が心ストランド7の中心すなわちIWRCの中心(すなわち主ロープ中心)を中心とする同一円周上に等間隔に位置するように配置される。このように、IWRCは、心ストランド7、側ストランド8A〜8Fおよび被覆樹脂9によって構成される、断面が円形の独立したロープからなる。
【0020】
なお、主ストランド10A〜10J、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fは、鋼線からなる複数本の素線が、ストランド断面が略円形となるように撚り合わされる公知の構成を有する。
【0021】
図2の主ロープ断面において、心ストランド7および側ストランド8A〜8Fのストランド径(直径)は、互いに等しく、かつ主ストランド10A〜10Jのストランド径(直径)よりも小さな値に設定される。なお、このようにIWRCの各ストランド径を等しくすることにより、主ロープを構成するストランドのストランド径の種類が低減できるので、生産性が向上したり、コストが低減されたりする。また所定の主ロープ径(直径)およびそれに対応するIWRC径(直径)のもとで、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fの間、側ストランド同士間、および側ストランド8A〜8Fと主ストランド10A〜10Jの間に被覆樹脂9が介在するように、心ストランド7および側ストランド8A〜8Fのストランド径の大きさが設定される。これにより、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fとの間、側ストランド同士の間、側ストランド8A〜8Fと主ストランド10A〜10Jの間における直接的な接触が防止される。このため、主ロープに張力が負荷されたり、主ロープがエレベータのシーブやプーリを通過する際に屈曲されたりしても、各ストランド間の接触による素線の摩耗が防止される。従って、ロープ寿命を向上できると共に、ロープ強度の経年低下を抑えることができる。
【0022】
ここで、所定の主ロープ径およびそれに対応するIWRC径のもとで、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fが互いに接触し、側ストランド同士が互いに接触し、かつ側ストランド8A〜8Fと主ストランド10A〜10Jが互いに接触するように、心ストランド7および側ストランド8A〜8Fのストランド径の大きさが設定される場合、本実施形態よりも、心ストランド7および側ストランド8A〜8Fのストランド径が大きくなるので、強度は大きくなる。すなわち、本実施形態は、ロープの長寿命化が可能となる反面、ロープ強度が低下する傾向にある。従って、エレベータ装置において、同じ荷重を支えるためのロープ掛け本数が増加する傾向にある。
【0023】
これに対し、後述するようなエレベータ用主ロープの寿命と強度に関する本発明者の検討により得られた新規な知見に基づき、本実施形態では、
図2に示すように、心ストランド7と側ストランド8A〜8Fとの間、側ストランド同士の間、および側ストランド8A〜8Fと主ストランド10A〜10Jとの間に間隙を設けるようにIWRCにおける各ストランドを配置し、かつ側ストランド8A〜8Fの中心が位置する円周の長さ、すなわち側ストランド8A〜8Fの仮想層心円の周長に対する側ストランド8A〜8F間の間隙寸法の総計値の割合が8.5%以上20%以下にする。これにより、ロープ強度の低下を抑えながらロープ寿命を向上することができる。
【0024】
以下、エレベータ用主ロープの寿命と強度に関する本発明者の検討について説明する。
【0025】
図3は、ストランド間の間隙寸法(a,b)を併記した
図2と同様の断面図である。
【0026】
図3に示すように、側ストランド8A〜8Fは、心ストランド7の中心を中心とする仮想層心円11の円周上に側ストランド8A〜8Fの各中心を位置させて、仮想層心円11の周方向に沿ってほぼ等間隔に配置される。ここで、仮想層心円11の円周上において隣り合う二個の側ストランド間の間隙寸法をaとする。また、主ストランド10A〜10Jは、IWRCの表面に接し、かつ主ストランド10A〜10Jに内接し、心ストランド7の中心を中心とする仮想内接円12に沿って等間隔に配置されている。ここで、主ロープおよびIWRCの径方向において隣り合う側ストランドと主ストランドの間隙寸法をbとする。なお、以下の検討においては、隣り合う二個の側ストランドの各々の仮想外接円(側ストランドの中心を中心とし、ストランド径を直径とする円)の間隙の大きさ上記aと見なし、側ストランド8A〜8Fの各外周に接する各仮想外接円と主ストランド10A〜10Jの仮想内接円12との間隙の大きさを上記bと見なす。なお、主ロープ断面において、仮想内接円12はIWRC外周(すなわち被覆樹脂の外周)に一致している。
【0027】
以下の検討結果におけるロープ構成に係るパラメータである「間隔比A」および「間隔比B」について説明する。
【0028】
間隔比Aは、側ストランドの仮想層心円(
図3の11)の円周長に対する間隙寸法aの総計値の割合あり、式(1)で表される。
【0029】
間隔比A(%)=(aの総計値/仮想層心円の円周長)×100 … (1)
なお、間隙寸法aの総計値は、例えば
図3の場合、側ストランドが6本であるから、6aとなる。
【0030】
また、間隔比Bは、主ストランドの仮想内接円(
図3の12)の半径に対する間隙寸法bの割合であり、式(2)で表される。
【0031】
間隔比B(%)=(b/仮想内接円の半径)×100 … (2)
図4は、本発明者による一検討結果であり、素線擦れ寸法比と間隔比Aの関係を示す。本検討結果は、繰り返し屈曲疲労試験の結果であり、試験機としては遊星式疲労試験機を使用し、試験条件としてロープ張力はロープ破断強度の1/10とし、繰り返し屈曲回数は600万回としている。屈曲試験後ロープを分解して、光学顕微鏡を用いて、IWRCのストランドの素線における素線擦れ痕の長さを測定している。なお、
図4においては、間隔比A=0(%)の場合、すなわち側ストランドが仮想層心円の周方向に沿って間隙なく接する場合における素線擦れ痕の長さを基準長さとして、各間隔比に対する素線擦れ痕の長さを、基準長さに対する寸法比である素線擦れ寸法比によって示している。
【0032】
図4に示すように、本発明者の検討によれば、間隔比Aを8.5%以上とすればIWRCのストランドの素線に擦れが発生しない。従って、間隔比Aを8.5%以上とすることにより、ロープ寿命を向上できる。
【0033】
図5は、本発明者による一検討結果であり、素線擦れ個数比と間隔比Bの関係を示す。本検討結果は、繰り返し屈曲疲労試験の結果であり、試験機および試験条件は先の
図4の場合と同じである。屈曲試験後ロープを分解して、光学顕微鏡を用いて、IWRCのストランドの素線における素線擦れ痕の個数を測定している。なお、
図5においては、間隔比B=0(%)の場合、すなわち側ストランドと主ストランドが仮想内接円の径方向に沿って間隙なく接する場合における素線擦れ痕の個数を基準個数として、各間隔比に対する素線擦れ痕の個数を、基準個数に対する個数比である素線擦れ個数比によって示している。
【0034】
図5に示すように、本発明者の検討によれば、間隔比Bを3.0%以上とすればIWRCのストランドの素線に擦れが発生しない。従って、間隔比Bを3.0%以上とすることにより、ロープ寿命を向上できる。
【0035】
図6は、本発明者の検討における間隔比Aと間隔比Bの関係例を示す。図中のプロット13〜18は、本発明者の検討における主ロープサンプル中の代表サンプルにおける間隔比Aおよび間隔比Bの値を示す。
【0036】
本発明者の検討における主ロープサンプルのIWRCにおいては、所定のロープ径および所定のIWRC径のもとで、
図1の実施形態と同様に、一本の心ストランドの回りに6本の側ストランドが同一の仮想層心円周に沿って等間隔に配置される。心ストランドのストランド径と側ストランドのストランド径は同じ大きさdとし、IWRCにおける側ストランドおよび心ストランドの中心の位置は変えずに、dを変えることによって
図3における間隙寸法a,bを変えている。ここで、仮想層心円は、dが最大の場合、すなわち隣接するストランドが間隙なく接する場合の側ストランドの中心を通り、この中心の位置はdを変えても変えない。
【0037】
このとき、側ストランドおよび心ストランドの断面形状の外形を円とみなし、かつA=B=0の場合のdの値すなわちdの最大値をd
0とすると、間隙寸法aの総計値=6a=6(d
0−d)、仮想層心円の円周長=2πd
0、間隙寸法b=(d
0−d)/2、仮想内接円の半径=3d
0/2であるから、式(1),(2)より、A=100×3(d
0−d)/(π・d
0),B=100×(d
0−d)/3d
0である。従って、式(3)が得られる。
【0038】
B=πA/9 … (3)
式(3)が示すように、間隔比Bは間隔比Aに比例する。これに対し、本発明者の検討における主ロープサンプル中の代表サンプルについては、
図6に示すように、プロット13〜18はほぼ一直線に並んでおり、間隔比Aと間隔比Bは比例関係にある。プロット13に対応する主ロープサンプルの側ストランドおよび心ストランドの径(直径)は、プロット13の場合に最大となり、間隙寸法a,b=0となるので、間隔比A,B=0となる。プロット14〜18に対応する主ロープサンプルの側ストランドおよび心ストランドの径(直径)は、プロット番号の順に小さくなり、間隙寸法a,bが大きくなるため、間隔比A,Bはともに増加する。プロット13〜18の(A,B)は、それぞれ、(0,0),(6,2.1),(10,3.6),(14.3,5.1),(18,6.3),(24,8.3)であり、式(3)の関係がほぼ満たされている。
【0039】
本発明者の検討における主ロープサンプルのように、間隔比A,Bの間に上記のような比例関係を設定すれば、A≧8.5%(
図3)およびB≧3%(
図4)の一方が満たされれば、他方も満たされる。
【0040】
図7〜12は、本発明者の検討における主ロープサンプル中の代表サンプルの断面を示す。
図7,8,9,10,11および12は、それぞれ、
図6におけるプロット13,14,15,16,17および18の(A,B)を有する主ロープサンプルを示す。なお、
図7〜12の主ロープサンプルにおいて、主ロープ径、IWRC径、主ストランド数(10本)および主ストランドのストランド径は変えずに一定としている。また、側ストランドのストランド径と心ストランドのストランド径は同じ大きさとしているが、これにより主ロープを構成するストランド径の種類が低減できるので、生産性が向上したりコストが低減されたりする。
【0041】
図7に示す主ロープサンプルは、A=0,B=0である(
図6のプロット13)。このため、IWRCにおいて側ストランド同士は層心円11の周方向で接触する。さらに、各側ストランドが、主ストランドの仮想内接円12、すなわちIWRCの外周表面に接する。このため、
図7の主ロープサンプルにおいては、主ロープの径方向すなわちIWRCの径方向で、側ストランド8Bと主ストランド10Cが接触し、側ストランド8Eと主ストランド10Hとが接触する。
【0042】
図8〜12に示す主ロープサンプルにおいて、6本の側ストランドは、それらの中心が
図7の主ロープサンプルと同じ層心円11の周上に位置し、層心円11の周方向に沿って等間隔に配置される。
図8〜12の順に、側ストランドおよび心ストランドの径を小さくしている。すなわち、側ストランドおよび心ストランドの中心位置は、
図7の主ロープサンプルと変えずに、ストランド径の大きさを変化させる。また、主ストランドの仮想内接円12の直径は、
図7の主ロープサンプルと同じである。これにより、心ストランドと側ストランドの間、側ストランド間、および主ストランドと側ストランド間に、間隙が設けられる。このため、側ストランド同士の接触および側ストランドと主ストランドの接触が防止され、ロープ寿命を向上できる。
【0043】
図13は、本発明者による一検討結果であり、素線擦れ寸法比と間隔比Aの関係および素線擦れ個数比と間隔比Bの関係を示す。本検討結果は、上述した
図7〜
図12に示した主ロープサンプルを代表とする、
図6に示すような比例関係にある種々の間隔比A,Bを有する主ロープサンプルに対する繰り返し屈曲疲労試験の結果である。なお、試験機、試験条件、測定方法などについては、
図4および
図5に示した検討結果と同様である。
【0044】
図13が示すように、
図7〜12に示すような主ロープサンプル、すなわち
図6に示すような関係にある間隔比A,Bを有する主ロープサンプルについて、間隔比Aが8.5%以上、あるいは間隔比Bが3.0%以上であれば、ストランド同士の接触による擦れを防止することができる。従って、ロープ寿命を向上できる。ここで、
図6に示す関係あるいは式(3)の関係により、間隔比Aが8.5%以上であることは間隔比Bが3%以上であることに対応する。従って、間隔比Aが8.5%以上であれば、ストランド同士の接触を防止して、ロープ寿命を向上できる。
【0045】
図1に示す実施形態のエレベータ用主ロープ並びに
図7〜12に示すようなエレベータ用主ロープサンプルにおいては、1本の心ストランドの回りに、6本の側ストランドが配置される。6本の側ストランドの中心を、層心円の周方向に沿って、隣り合う側ストランドの中心を結ぶ6本の直線は、正六角形を描く。従って、間隔比A,B=0の場合、所定の径を有するIWRC内、すなわち主ストランドの仮想内接円12内において、心ストランドおよび側ストランドが最密充填される。従って、
図7〜12に示すような主ロープサンプル中で、
図7の主ロープサンプルのIWRCのストランド総断面積が最大となる。このため、
図7〜12に示すような主ロープサンプルにおいては、間隔比A,B=0である
図7の主ロープサンプルのロープ破断強度が最大となる。しかし、上述したように、間隔比Aを8.5%以上として、ロープ寿命を向上させると、IWRC内におけるストランド径が小さくなりストランドの総断面積が低減するため、ロープ破断強度は低下する。ロープ破断強度が低下する場合、エレベータ装置においては、ロープ掛け本数を増やすことになるが、シーブやプーリの大きさやロープ設置空間の増大を招く。そこで、このような点を考慮した、ロープ破断強度に関する本発明者の検討について、次に説明する。
【0046】
図14は、本発明者の検討結果である、ロープ破断強度の許容対比率とロープ掛け本数との関係を示す。ロープ破断強度の許容対比率とは、ある荷重をあるロープ掛け本数で支持できる場合のロープ破断強度に対する、同じ荷重を、ロープ掛け本数を増やして支持する場合において許容されるロープ破断強度の比を示す。
図14における曲線19は、ある荷重をあるロープ掛け本数で支持できる場合のロープ破断強度に対する、同じ荷重を、ロープ掛け本数を1本増やして支持する場合において許容されるロープ破断強度の比と、ロープ掛け本数の関係を示す。従って、ロープ掛け本数をnとすれば、
図19の関係は、ロープ破断強度の許容対比率=n/(n+1)である。例えば、3本の主ロープで支持できる荷重を4本の主ロープで支持する場合、許容されるロープ破断強度は、3本の主ロープで支持する場合のロープ破断強度の0.75倍である。
【0047】
図14が示すように、通常のロープ掛け本数である3〜10本の場合、ロープ破断強度の許容対比率を0.91以上とすることにより、ロープ破断強度が低下しても、ロープ掛け本数の増加を1本に止めることができる。すなわち、
図13に示すように、間隔比Aを8.5%以上として寿命が向上する反面、破断強度が低下する主ロープを用いる場合でも、ロープ破断強度の対比率を0.91以上とすることにより、ロープ掛け本数の増加を1本に止めることができ、シーブやプーリの大きさやロープ設置空間の増大を抑えることができる。
【0048】
図15は、本発明者の検討結果であり、ロープ破断強度の対比率と間隔比Aとの関係を示す。本検討結果は、所定の主ロープ径のもとで、
図7〜12に示すような主ロープサンプルを含む種々の間隔比Aを有するIWRCを備える主ロープサンプルに対するものである。但し、主ストランドの本数は、通常の使用本数である6本、8本、10本、12本としている。
図15におけるプロット列20,21,22,23が、それぞれ主ストランド本数6,8,10,12の場合である。
【0049】
間隔比Aが大きくなるほどIWRCにおけるストランド径が小さくなるので、
図15が示すように、ロープ破断強度が低下する。なお、間隔比Aが同じ大きさであっても、主ストランド本数が増えるとロープ破断強度が低下するが、これは所定の主ロープ径のもとで主ストランドの本数を増やすと主ストランドのストランド径が小さくなるためである。但し、エレベータ用主ロープの柔軟性については、主ストランドのストランド径が小さい方が好ましい。
【0050】
上述したように、ロープ掛け本数の増大を1本に止める場合、ロープ破断強度の対比率は0.91以上とする。これを満たすためには、
図15に示すように、主ストランド本数が6本、8本、10本および12本の場合、それぞれ間隔比Aを、31.5%以下、23%以下、20%以下および18%以下とする。すなわち、通常の主ストランド本数(6〜12本)に対しては、間隔比Aを18%以下とすれば、ロープ掛け本数の増大を1本に止めることができ、シーブやプーリの大きさやロープ設置空間の増大を抑えることができる。
【0051】
また、上述したように、間隔比Aが8.5%以上であれば、ストランド同士の接触を防止して、ロープ寿命を向上できる。従って、通常の主ストランド本数(6〜12本)に対しては、間隔比Aを8.5%以上かつ18%以下とすれば、ロープ強度の低下を抑えながらロープ寿命を向上することができる。また、主ストランド本数が6本、8本、10本および12本の場合、それぞれ間隔比Aを、8.5%以上31.5%以下、8.5%以上23%以下、8.5%以上20%以下および8.5%以上18%以下とすることにより、ロープ強度の低下を抑えながらロープ寿命を向上することができる。
【0052】
なお、上記のようにロープ強度の低下を抑えながらロープ寿命を向上することができる間隔比Aの範囲のもとで、IWRCの側ストランドは、本数を本実施形態のように6本として、正六角形を描くように配置することが力学的バランス上好ましい。さらに、このような配置とし、間隔比A=0の場合の層心円上に側ストランドを配置して、間隔比A=0の場合よりも側ストランドおよび心ストランドのストランド径を小さくすることにより、ストランド間に間隙を設けることが好ましい。これにより、ロープ強度が低下しても、IWRC内にストランドを最密充填する場合のロープ強度すなわち最大ロープ強度から大幅に低下することがなく、ロープ強度の低下を抑えることができる。さらに、主ロープの柔軟性を考慮すると、
図2の実施形態のように、主ストランドの本数を10本とすることが好ましい。これにより、柔軟性、ロープ強度およびロープ寿命というエレベータ用主ロープの主要特性のバランスが向上する。
【0053】
ここで、本実施形態と、前述した特許文献1などにおける従来技術との比較について述べておく。
【0054】
本実施形態では、IWRCを有するエレベータ用主ロープの寿命を向上するためのストランドの間隔比の範囲が数値的に明らかにされているのに対し、ストランド同士を単に離す従来技術はあるものの、間隔比の数値範囲は明らかにされていない。また、間隔比を大きくしてロープ寿命を向上する際に犠牲となるロープ破断強度について、ロープ掛け本数を1本増しまで許容するというような考え方は従来技術には無く、そのような考え方に基づく間隔比の数値範囲も従来技術では明らかではない。さらに、強度の低下を抑えながら、ストランド間に間隙を設けるために、仮想される最密充填時の側ストランドの層心円周に沿って側ストランドを配置するという側ストランドの配置構成についても、従来技術では明らかではない。
【0055】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0056】
例えば、本発明によるエレベータ用主ロープは、機械室を備えるエレベータおよび機械室レスエレベータのいずれにも適用できる。