特許第6608162号(P6608162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6608162偏光解消素子、偏光解消装置及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608162
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】偏光解消素子、偏光解消装置及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20191111BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20191111BHJP
   G02B 27/48 20060101ALI20191111BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20191111BHJP
   G02B 26/06 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02B26/10 C
   G02B27/48
   G02B27/28 Z
   G02B26/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-91007(P2015-91007)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-206573(P2016-206573A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】514274487
【氏名又は名称】リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】藤村 康浩
(72)【発明者】
【氏名】小川 深雪
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−003479(JP,A)
【文献】 特開2015−026035(JP,A)
【文献】 特開2012−002922(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0236263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域が設けられている面をもち、前記複数のサブ波長構造領域は前記面内において互いに交差する第1配列方向及び第2配列方向で二次元配列されており、
前記サブ波長構造領域は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、前記溝の配列方向である光学軸方向が隣り合うサブ波長構造領域間で互いに異なっており、
前記面内において前記第1配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で前記光学軸方向がなす角度はすべて45度以上、90度以下になっており、
前記面内において前記第2配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で前記光学軸方向がなす角度はすべて45度未満になっている偏光解消素子。
【請求項2】
前記第1配列方向に配列された前記サブ波長構造領域おいて、前記光学軸方向は周期性を持たないように配列されている請求項1に記載の偏光解消素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された偏光解消素子と、
前記偏光解消素子を前記第1配列方向と平行な方向に並進振動させるための振動部と、
前記振動部の動作を制御して前記偏光解消素子を並進振動させる制御部と、を備えた偏光解消装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された偏光解消素子と、
レーザー光を出射する光源部と、
前記レーザー光が前記偏光解消素子で主走査方向及び副走査方向にラスター走査されるように前記レーザー光を反射する走査ミラー部と、を備え、
前記主走査方向と前記偏光解消素子の前記第1配列方向が平行になっている画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域が二次元に配列されている偏光解消素子、及びそれを用いた偏光解消装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー光は、色純度が高い(単一波長の光である)、照射パワーに対しての消費電力が小さい(エネルギー効率が良い)、基本的には平行光である(直進性が高い)という多くの利点を持っている。
【0003】
しかしながら、レーザー光は単一波長の光であり、光の位相がそろっているために、スペックルコントラストと呼ばれる光同士の干渉を起こしやすい。例えばレーザー光をディスプレイ光源として利用する際に、スペックルコントラストは画面のちらつきの原因となるため大きな課題である。
【0004】
このスペックルコントラストを解消するためにさまざまな手法が提案されている。その中の一つに、レーザー光の照射領域を分割し、その各々の領域に光学軸方向の異なるλ/2板を配置する素子を光路中に配置する手法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
この手法では、サブ波長構造(Sub-Wavelength Structures;SWS)を備えた偏光解消素子が用いられる。サブ波長構造は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝の周期構造である。
【0006】
光の波長より短いピッチをもつ溝の周期構造は、周期をもつ方向ともたない方向で互いに異なる有効屈折率nTE,nTMをもち、あたかも複屈折材料であるかのように振舞う。この有効屈折率の差によって各偏波方向の光の伝播速度に差ができるため、サブ波長構造を通過する光の偏光状態が変化する。
【0007】
サブ波長構造は、構造の設計によって複屈折やそれらの分散を自由に制御できる。サブ波長構造のこの特性を利用して、偏光板、波長板、波長分離素子など、様々な製品が展開されている。
【0008】
サブ波長構造を備えた偏光解消素子において、サブ波長構造の溝の配列方向である光学軸方向を任意に変化させるために、光学機能を発生する部分は複数のサブ波長構造領域に細かく分割されている。このような偏光解消素子において、隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向が互いに異なるように、各サブ波長構造領域に溝の繰返し構造が形成されている。
【0009】
特許文献1に開示された手法を用いると、もともとのレーザー光は光学軸方向が単一であったのに対し、素子透過後の光はさまざまな光学軸方向を有する光の束に変換される。そのことによって、レーザー光の可干渉性が低下し、結果としてスペックルコントラストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−341453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
偏光解消素子の振動を考慮すると、偏光解消素子における各々のサブ波長構造領域(セルと呼ぶ)の光学軸方向の配置は隣り合ったもの同士ができる限り離れていることが好ましい。しかしながら、隣り合ったセル同士の光学軸方向が離れていればいるほど、セル配置起因の回折光が発生する。
【0012】
セル配置起因の回折光の低減のために、隣り合ったセル同士の光学軸方向の角度差をできるだけ小さくし、且つ光学軸方向が徐々に変化するようにセルを配置する手法が提案されている。この場合は、セル配置起因の回折光は低減できるが、光学軸方向が徐々に変化していくために、スペックルコントラスト改善効果が低減してしまうという課題があった。
【0013】
本発明は、構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域が二次元に配列されている偏光解消素子での回折光の発生を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態にかかる偏光解消素子は、構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域が互いに交差する第1配列方向及び第2配列方向で二次元配列されており、上記サブ波長構造領域は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝をもち、上記溝の配列方向である光学軸方向が隣り合うサブ波長構造領域間で互いに異なっており、上記第1配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で上記光学軸方向がなす角度は45度以上、90度以下になっており、上記第2配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で上記光学軸方向がなす角度は45度未満になっているものである。
【0015】
本発明の実施形態にかかる偏光解消装置は、本発明の実施形態の偏光解消素子と、上記偏光解消素子を上記第1配列方向と平行な方向に並進振動させるための振動部と、上記振動機構の動作を制御して上記偏光解消素子を並進振動させる制御部と、を備えたものである。
【0016】
本発明の実施形態にかかる画像表示装置は、本発明の実施形態の偏光解消素子と、レーザー光を出射する光源部と、上記レーザー光が上記偏光解消素子で主走査方向及び副走査方向にラスター走査されるように上記レーザー光を反射する走査ミラー部と、を備え、上記主走査方向と上記偏光解消素子の上記第1配列方向が平行になっているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態の偏光解消素子、偏光解消装置及び画像表示装置は、偏光解消素子での回折光の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】偏光解消素子の一実施形態を模式的に示した平面図である。
図2】同実施形態におけるサブ波長構造領域の光学軸方向を説明するための模式的な平面図である。
図3】偏光解消素子におけるサブ波長構造体を説明するための概略断面図である。
図4】偏光解消装置の一実施形態を説明するための模式的な構成図である。
図5】同実施形態が偏光解消素子を並進振動させる動作を説明するための模式的な原理図である。
図6】偏光解消素子が並進振動されたときの時間軸でのサブ波長構造領域の重なりを説明するための模式図である。
図7】画像表示装置の一実施形態を説明するための模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の偏光解消素子は、第2配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度未満になっているので、第2配列方向における回折光の発生を低減できる。
【0020】
本発明の実施形態の偏光解消素子において、例えば、上記第1配列方向に配列された上記サブ波長構造領域おいて、上記光学軸方向は周期性を持たないように配列されているようにしてもよい。これにより、第1配列方向に配列されたサブ波長構造領域おいて、光学軸方向が均一化やパターン化されないようにすることができる。なお、本発明の実施形態の偏光解消素子は、第1配列方向に配列されたサブ波長構造領域おいて光学軸方向が周期性を持って配列されている構成を含む。
【0021】
本発明の実施形態の偏光解消装置は、本発明の実施形態の偏光解消素子を上記第1配列方向と平行な方向に並進振動させる。ここで「平行」とは、上記第1配列方向と並進振動方向が厳密に平行である場合に限らず、おおよそ平行である場合を含み、例えばそれらの方向のなす角度が10度以下である場合を含むことを意味する。
【0022】
レーザー光のスペックルコントラストをさらに低減させるためには、本発明の実施形態の偏光解消素子を振動させるのがよい。振動によって、時間軸での多重度が印加されることと、それぞれの瞬間(時間軸におけるある点)において、レーザー光の任意の領域における光学軸方向を変化させることができるためである。
【0023】
偏光解消素子が振動される場合であっても、振動によって重ねられるサブ波長構造領域の光学軸方向同士のなす角度が小さいと、スペックルコントラスト改善効果が低減してしまう。本発明の実施形態の偏光解消素子は、第1配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は45度以上、90度以下であり十分に大きい。また、本発明の実施形態にかかる偏光解消装置は、本発明の実施形態の偏光解消素子を上記第1配列方向と略平行な方向に並進振動させる。したがって、本発明の実施形態の偏光解消装置は、振動によって重ねられるサブ波長構造領域の光学軸方向同士のなす角度を大きくすることができ、スペックルコントラスト改善効果を向上させることができる。また、本発明の実施形態の偏光解消装置は、本発明の実施形態の偏光解消素子を備えているので、回折光の発生を低減できる。
【0024】
なお、上記第1配列方向と上記並進振動方向は厳密に平行であることが好ましいがおおむね平行であってもよい。上記第1配列方向と上記並進振動方向が厳密には平行でない状態は単純な軸ずれである。このような軸ずれが生じている状態であっても、本発明の実施形態の偏光解消装置は、回折光の発生の低減と、スペックコントラスト改善効果の向上の両方を達成できる。
【0025】
本発明の実施形態の画像表示装置は、主走査方向と本発明の実施形態の偏光解消素子の第1配列方向が平行になるように、本発明の実施形態の偏光解消素子でレーザー光をラスター走査させる。ここで「平行」とは、主走査方向と並進振動方向が厳密に平行である場合に限らず、おおよそ平行である場合を含み、例えばそれらの方向のなす角度が10度以下である場合を含むことを意味する。
【0026】
本発明の実施形態の画像表示装置では、本発明の実施形態の偏光解消素子を振動させる代わりにレーザー光自体が動くので、偏光解消素子とレーザー光の相対位置が変位する。したがって、本発明の実施形態の画像表示装置は、本発明の実施形態の偏光解消装置と同様に、回折光発生の低減と、時間軸におけるサブ波長構造領域同士の重なり合いによるスペックルコントラスト改善効果を得ることができる。
【0027】
なお、本発明の実施形態の画像表示装置において、上記第1配列方向と上記主走査方向は厳密に平行であることが好ましい。ただし、上記第1配列方向と上記主走査方向がおおむね平行であり、単純な軸ずれが生じている状態であっても、本発明の実施形態の画像表示装置は回折光の発生の低減と、スペックコントラスト改善効果の向上の両方を達成できる。
【0028】
図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、偏光解消素子の一実施形態のサブ波長構造領域を光学軸方向によって模式的に示した平面図である。図2は、図1の実施形態におけるサブ波長構造領域の光学軸方向を説明するための模式的な平面図である。図3は、偏光解消素子におけるサブ波長構造体を説明するための模式的な断面図である。
【0029】
図3に示されるように、偏光解消素子1は、基板3の表層部に、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝5を備えている。繰り返して配列された溝5によって、凹凸周期(ピッチ)Pを有するサブ波長構造が形成されている。基板3は例えば高透過率の二酸化ケイ素で形成されている。
【0030】
サブ波長構造体の複屈折作用について、図3を参照して説明する。サブ波長凹凸構造の媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条のランドの幅がL、空気層からなる凹条の溝の幅がSである。P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクタ(F)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0031】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0032】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0033】
サブ波長構造体の周期よりも2倍以上の波長をもつ光が垂直入射したと仮定する。このときの入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行(TE方向)であるか垂直(TM方向)であるかによって、サブ波長構造体の有効屈折率は次の式で与えられる。
n(TE)=(F×n2+(1−F))1/2
n(TM)=(F/n2+(1−F))-1/2
【0034】
入射光の偏光方向がサブ波長構造体の溝に平行である場合の有効屈折率をn(TE)、垂直である場合の有効屈折率をn(TM)と表す。式中の符号Fは前述のフィリングファクタである。
【0035】
このようなサブ波長構造体を透過した光のTE波とTM波の間の位相差(リタデーション)Δは、
Δ=Δn・d
である。ここで、Δnはn(TE)とn(TM)の差、dは前述の溝の深さである。
【0036】
サブ波長構造領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。光学軸の異なるサブ波長構造領域が隣り合っている本発明の実施形態の偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、隣り合うサブ波長構造領域間で楕円率が異なるとともに、サブ波長構造体を構成する溝の深さの異なる部分を透過した直線偏光間でも位相差の相違によって楕円率が異なる。
【0037】
この偏光解消素子で発生する位相差Δは使用する波長λに対して、λ/4≦Δ≦λとなるようにサブ波長構造体が設計されていることが好ましい。これにより、この偏光解消素子の異なる場所を通過した光束同士であってもその干渉を低減することができる。
【0038】
図1及び図2を参照して偏光解消素子1におけるサブ波長構造領域の配置について説明する。
偏光解消素子1において、構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域1a〜1hが互いに交差するX軸方向(第1配列方向)及びY軸方向(第2配列方向)で二次元配列されている。これらのサブ波長構造領域は互いに隙間のない状態で配置されている。なお、サブ波長構造領域1a〜1hは互いに間隔をもって配置されていてもよい。
【0039】
図1では16×16=256個のサブ波長構造領域1a〜1hが配置されたものを示している。ただし、サブ波長構造領域1a〜1hの個数は限定されるものではない。サブ波長構造領域1a〜1hの数は多いほどよい。例えば、偏光解消素子1が3mm×3mm(ミリメートル)の正方形で、1つのサブ波長構造領域が10μm×10μm(マイクロメートル)であるとすると、300×300=90000個のサブ波長構造領域1a〜1hが配置された偏光解消素子1となる。
【0040】
サブ波長構造領域1a〜1hは使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された溝5(図3を参照。)により構成されるストライプ状の凹凸構造をもっている。そのストライプ状の凹凸の配列方向が光学軸方向である。図2は、サブ波長構造領域1a〜1hのストライプ状の凹凸構造(模式的な平面図)と対応する光学軸方向を示している。図1及び図2において、この光学軸方向は双方向矢印で図示されている。
【0041】
各サブ波長構造領域1a〜1hは1つずつの光学軸方向をもっている。サブ波長構造領域1a〜1hの光学軸方向は隣り合うサブ波長構造領域で互いに異なっている。なお、光学軸方向が同じであり、かつ隣り合っている複数のサブ波長構造領域が存在する場合、それらのサブ波長構造領域は1つのサブ波長構造領域とみなされる。
【0042】
例えば、サブ波長構造領域1a〜1hの光学軸方向は180度を8分割した方向のいずれかの方向をもつように形成されている。サブ波長構造領域1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1hの光学軸方向は、順に、0度、22.5度、45度、67.5度、90度、112.5度、135度、157.5度である。ここで、光学軸方向は、直交座標系のXY平面において、X軸方向を0度とし、反時計回りに角度が大きくなっている。
【0043】
図1に示されるように、偏光解消素子1では、X軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は45度又は90度(45度以上、90度以下)に設定されている。X軸方向において、隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は45度以上なので、上記なす角度が45度未満である場合に比べて、回折光は発生しやすいが、スペックル解消の効果は大きくなる。特に、上記なす角度が90度である部分は、回折光が発生しやすいが、スペックル解消の効果が大きくなる。なお、偏光解消素子1において、X軸方向(第1配列方向)に配列されたサブ波長構造領域の光学軸方向は周期性を持って配列されているようにしてもよい。
【0044】
また、偏光解消素子1では、X軸方向に配列されたサブ波長構造領域において、光学軸方向は周期性を持たないように(ランダムに)配列されている。X軸方向及びY軸方向の両方において、サブ波長構造領域の光学軸方向が規則的に配置されていると、例えば斜め方向に大きな新たな干渉パターンが現れてくる。これに対して、偏光解消素子1のようにX軸方向において光学軸方向が周期性を持たないように配列されていると、そのような大きな干渉パターンは発生しない。
【0045】
また、偏光解消素子1では、Y軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は22.5度(45度未満)に設定されている。また、偏光解消素子1では、Y軸方向に配列されたサブ波長構造領域の光学軸方向は、徐々に(連続的に)変化している。このように、光学軸方向が徐々に変化されることによって屈折率は徐々に変化されている。つまり、Y軸方向に関して、隣り合うサブ波長構造領域間の位相差は小さくされている。したがって、Y軸方向では、X軸方向に比べて回折光は発生しにくいが、スペックル解消の効果は小さくなる。なお、偏光解消素子1において、Y軸方向(第2配列方向)に配列されたサブ波長構造領域の光学軸方向は周期性を持たないように配列されているようにしてもよい。
このように、偏光解消素子1は、Y軸方向での回折光の発生を低減できる。
【0046】
なお、偏光解消素子1がX軸方向に並進振動される場合、又は偏光解消素子1に対してX軸方向を主走査方向としてレーザー光がラスター走査される場合、Y軸方向に配列されたサブ波長構造領域同士の重なりは考慮する必要がない。また、Y軸方向で光学軸方向が45度未満で徐々に(連続的に)変化していると、マクロ的に見た際に干渉パターンが発現する可能性がある。そこで、その干渉パターンが実使用範囲においては発現しないくらい大きく(例えばミリメートルオーダー)になるように、Y軸方向における光学軸方向の変化が設定されていることが好ましい。これにより、振動時のサブ波長構造領域の重なり効果には影響を与えずに、回折光発生を抑制することが可能となる。
【0047】
次に偏光解消装置の実施形態について説明する。
図4は、偏光解消装置の一実施形態を説明するための模式的な構成図である。
偏光解消装置7は、偏光解消素子1、外枠部9、台座部11、振動部13、共振用ばね構造部15及び制御部17を備えている。
【0048】
偏光解消素子1は本発明の実施形態の偏光解消素子である。偏光解消素子1は例えば図1を参照して説明した偏光解消素子1である。
【0049】
外枠部9、台座部11、振動部13及び共振用ばね構造部15は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって形成されたものであり、ここではシリコン基板が加工されて形成されたものである。外枠部9、台座部11、振動部13及び共振用ばね構造部15を構成するシリコン材料の厚みは例えば200μmである。
外枠部9は、例えば、外形寸法が7mm×7mm、幅寸法が1mmの枠形状である。
【0050】
台座部11は外枠部9の枠内に配置されている。台座部11は、例えば、外形寸法が4mm×4mm、幅寸法が0.5mmの枠形状である。台座部11は、振動部13及び共振用ばね構造部15を介して外枠部9の枠内に梁状に保持されている。
【0051】
台座部11に偏光解消素子1が接合されている。偏光解消素子1と台座部11の接合方法は特に限定されないが、例えば分子接合や接着剤による接合などを挙げることができる。偏光解消素子1は、図4におけるXY平面において、X軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度以上、90度以下であり、Y軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度未満であるように、台座部11に配置される。
【0052】
振動部13は、例えば3つのムーニー型アクチュエータによって構成されている。ムーニー型アクチュエータは、枠状部材と、下部電極層と、圧電体層と、上部電極層によって形成されている。枠状部材はシリコン材料で形成されている。下部電極層は、その両端が枠状部材の上に配置され、枠状部材の枠内の空間の上をまたぐように配置されている。圧電体層は下部電極層の上に積層されている。上部電極層は圧電体層の上に積層されている。圧電体層及び上部電極層は枠状部材の枠内の空間の上をまたぐように配置されている。下部電極層、圧電体層及び上部電極層の積層体は、その長手方向が枠状部材の長手方向(Y軸方向)に沿うように配置されている。
【0053】
下部電極層及び上部電極層は例えばプラチナ(Pt)で形成されている。圧電体層は例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成されている。ただし、下部電極層、圧電体層及び上部電極層の材料はこれらの材料に限定されない。
【0054】
下部電極層、圧電体層及び上部電極層の積層体は、例えば、厚み寸法が1μm〜20μm、長さ寸法が150μm〜200μmである。下部電極層の幅寸法は例えば40μmである。圧電体層及び上部電極層の幅寸法は例えばそれぞれ20μm〜30μmである。
【0055】
振動部13において、3つのムーニー型アクチュエータは、長手方向と直交する方向(X軸方向)に一列に配列されている。隣り合うムーニー型アクチュエータはシリコン材料からなる連結部材によって連結されている。また、配列の両端に位置する2つのムーニー型アクチュエータのうち一方のムーニー型アクチュエータは、シリコン材料からなる連結部材によって台座部11に連結されている。
【0056】
シリコン材料からなる共振用ばね構造部15の一端は、振動部13を構成する3つのムーニー型アクチュエータのうちの1つに連結されている。共振用ばね構造部15と接続されているムーニー型アクチュエータは、配列の両端に位置する2つのムーニー型アクチュエータのうち台座部11に連結されていない方のムーニー型アクチュエータである。共振用ばね構造部15の他端は外枠部9に連結されている。
【0057】
偏光解消装置7には2組の振動部13及び共振用ばね構造部15が設けられている。台座部11と2組の振動部13及び共振用ばね構造部15は、共振用ばね構造部15、振動部13、台座部11、振動部13、共振用ばね構造部15の順に一列に連結されている。台座部11と2組の振動部13及び共振用ばね構造部15は、偏光解消素子1をX軸方向に並進振動させるための振動機構を構成している。
【0058】
振動部13から共振用ばね構造部15を介して外枠部9にまたがって配線19a,19bが形成されている。配線19aは振動部13のムーニー型アクチュエータの下部電極層と電気的に接続されている。配線19bは振動部13のムーニー型アクチュエータの上部電極層と電気的に接続されている。配線19a,19bは2つの振動部13ごとに設けられている。
【0059】
外枠部9に2組の電極パッド21a,21bが形成されている。電極パッド21a,21bは対応する配線19a,19bと電気的に接続されている。配線19a,19b及び電極パッド21a,21bは、例えば下部電極層及び上部電極層と同じ材料、ここではプラチナによって形成されている。
【0060】
制御部17は電極パッド21a,21b及び配線19a,19bを介して振動部13のムーニー型アクチュエータの動作を制御して、偏光解消素子1をX軸方向に並進振動させる。
【0061】
偏光解消装置7では、偏光解消素子1におけるX軸方向でのサブ波長構造領域の配列方向(第1配列方向)と、偏光解消素子1を並進振動させる方向は平行である。ただし、第1配列方向と並進振動方向は、おおよそ平行であればよく、例えばそれらの方向のなす角度が10度以下であればよい。
【0062】
図5は、偏光解消素子を並進振動させる動作を説明するための模式的な原理図である。
台座部11を挟んで配置された一対の振動部13のムーニー型アクチュエータを互いに逆方向に変位させると、一方の振動部13の枠状部材は長手方向に伸び、他方の振動部13の枠状部材は長手方向に縮む。枠状部材が長手方向に伸びた振動部13は長手方向と直交する方向の寸法が小さくなる。枠状部材が長手方向に縮んだ振動部13は長手方向と直交する方向の寸法が大きくなる。これにより、台座部11に配置された偏光解消素子1の位置は、枠状部材が長手方向に伸びた振動部13の方へ変位する。
【0063】
偏光解消装置7は、一対の振動部13を動作させるタイミングを制御することにより、偏光解消素子1を所望の周波数でX軸方向に並進振動させることができる。これにより、偏光解消素子1が振動されない場合に比べて、偏光解消素子1を透過した光におけるスペックルがより低減される。
【0064】
また、偏光解消素子1は、X軸方向では隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は大きく(45度以上、90度以下)になっており、Y軸方向では隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は小さく(45度未満)になっているので、回折光発生の抑制と、並進振動時のセルの重なり効果を両立することができる。
【0065】
図6は、偏光解消素子が並進振動されたときの時間軸でのサブ波長構造領域の重なりを説明するための模式図である。図6において図1と同じ機能を果たす部分には同じ符号が付されている。
【0066】
図6(A)に示されるように、この実施形態の偏光解消素子1では、図1に示された偏光解消素子1よりも多くのサブ波長構造領域1a〜1hが配置されている。図6では、32×32=1024個のサブ波長構造領域が配置されている。なお、図6において、サブ波長構造領域の境界(枠)は図示されていない。
【0067】
図6に示された偏光解消素子1では、図1に示された偏光解消素子1と同様に、X軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は45度又は90度であり、Y軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は22.5度である。
【0068】
図6(B)に示されるように、偏光解消素子1が例えばX軸方向のプラス側に振動されたとき、重なった光学軸方向の角度差は比較的大きい。これは振動によるスペックル解消効果が比較的大きいことを意味する。
【0069】
また、図6(C)に示されるように、偏光解消素子1が例えばY軸方向のマイナス側に振動されたとき、重なった光学軸方向の角度差は比較的小さい。これは振動によるスペックル解消効果が比較的小さいことを意味する。
【0070】
なお、Y軸方向に並進振動される場合であっても、Y軸方向の振幅を大きくすれば、重なった光学軸方向の角度差は大きくなり、振動によるスペックル解消効果も大きくなる。換言すれば、偏光解消素子1をX軸方向に変位(並進振動)させた状態においては、小さな変位量(振幅)であっても十分なスペックル解消効果を得ることができる。
【0071】
また、Y軸方向での偏光解消素子1の変位によって重なった光学軸方向の角度差を大きくするには、X軸方向での変位量に比べて大きな変位量が必要である。したがって、レーザー光の任意の領域における時間軸での光学軸方向を変化させることによってスペックルを解消させることを考慮すると、X軸方向での並進振動のほうがY軸方向での並進振動よりも有利である。
【0072】
本発明の実施形態の偏光解消装置において、振動部はムーニー型アクチュエータを用いたものに限定されない。本発明の実施形態の偏光解消装置における振動部は、本発明の実施形態の偏光解消素子を上記第1配列方向と平行な方向に並進振動させることができる構成であればどのような構成であってもよい。
【0073】
図7は、画像表示装置の一実施形態を説明するための模式的な構成図である。
画像表示装置23は、偏光解消素子1と、光源部25と、レンズ27と、走査ミラー部29を備えている。
【0074】
偏光解消素子1は本発明の実施形態の偏光解消素子である。偏光解消素子1は例えば図1を参照して説明した偏光解消素子1である。
【0075】
光源部25はレーザー光を出射する。光源部25は、例えば、光源31a,31b,31cとミラー33a,33b,33cを備えている。光源31aは青色レーザー光を出射する。光源31bは緑色レーザー光を出射する。光源31aは赤色レーザー光を出射する。
【0076】
光源31aから出射された青色レーザー光はミラー33aで反射され、ミラー33b、ミラー33cを介して光源部25から出射される。光源31bから出射された緑色レーザー光はミラー33bで反射され、ミラー33cを介して光源部25から出射される。光源31cから出射された赤色レーザー光はミラー33cで反射されて光源部25から出射される。光源部25から出射された青色、緑色及び赤色のレーザー光は、レンズ27を介して走査ミラー部29に入射する。
【0077】
走査ミラー部29は、光源部25から出射されたレーザー光が偏光解消素子1で主走査方向及び副走査方向にラスター走査されるように、レーザー光を反射する。偏光解消素子1を透過したレーザー光はスクリーン35でラスター走査されて画像を形成する。
【0078】
画像表示装置23において、偏光解消素子1は、図1でのX軸方向(第1配列方向)とラスター走査の主走査方向が平行になるように配置されている。偏光解消素子1において、例えば図1に示されるように、X軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度以上、90度以下であり、Y軸方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度未満である。なお、画像表示装置23では、偏光解消素子1におけるサブ波長構造領域の第2配列方向(ここではY軸方向)と、ラスター走査の副走査方向は例えば平行である。ただし、この第2配列方向と副走査方向は必ずしも平行でなくてもよい。
【0079】
画像表示装置23では、レーザー光がラスター走査されることによってレーザー光自体が動くので、偏光解消素子1とレーザー光の相対位置が変位する。さらに、ラスター走査の主走査方向と偏光解消素子1の上記第1配列方向は平行になっている。したがって、画像表示装置23は、図4を参照して説明した偏光解消装置7と同様に、回折光発生の低減と、時間軸におけるサブ波長構造領域同士の重なり合いによるスペックルコントラスト改善効果を得ることができる。
【0080】
本発明の実施形態の画像表示装置は、図7に示された構成に限定されない。本発明の実施形態の画像表示装置は、レーザー光を出射する光源部と、上記レーザー光が本発明の実施形態の偏光解消素子で主走査方向及び副走査方向にラスター走査されるように上記レーザー光を反射する走査ミラー部と、を備え、上記主走査方向と上記偏光解消素子の上記第1配列方向が平行になっている構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0081】
以上、本発明の実施形態が説明されたが、材料、形状、配置、寸法等は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0082】
例えば、本発明の実施形態の偏光解消素子において、複数のサブ波長構造領域は互いに大きさが異なっていてもよい。
【0083】
また、サブ波長構造領域の平面形状は、矩形に限定されず、例えば三角形や六角形など、どのような形状であってもよい。
【0084】
また、本発明の実施形態の偏光解消素子に設定されるサブ波長構造領域の光学軸方向は、8方向に限定されず、3方向以上、好ましくは4方向以上であればよい。サブ波長構造領域の光学軸方向が3方向であれば、隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は60度以下にすることができる。サブ波長構造領域の光学軸方向が4方向であれば、隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度は45度以下にすることができる。
【0085】
また、サブ波長構造領域の光学軸方向の配置は、図1又は図6に示されたものに限定されない。本発明の実施形態の偏光解消素子において、第1配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度以上、90度以下になっており、かつ、第2配列方向で隣り合うサブ波長構造領域間で光学軸方向がなす角度が45度未満になっている構成であれば、サブ波長構造領域の光学軸方向の配置はどのような配置であってもよい。
【0086】
また、第1配列方向と第2配列方向は、90度に限定されず、例えば30度や45度、60度など、他の角度であってもよい。
また、第1配列方向、第2配列方向に配列されるサブ波長構造領域の配置は、直線に沿った配置に限定されず、例えばジグザグ配置(千鳥状)など、他の配置であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 偏光解消素子
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h サブ波長構造領域
5 溝
7 偏光解消装置
13 振動部
17 制御部
23 画像表示装置
25 光源部
29 走査ミラー部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7