特許第6608220号(P6608220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日置電機株式会社の特許一覧

特許6608220電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法
<>
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000002
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000003
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000004
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000005
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000006
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000007
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000008
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000009
  • 特許6608220-電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608220
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/48 20060101AFI20191111BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20191111BHJP
   G01N 27/42 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   G01N27/48 311
   G01N27/26 371Z
   G01N27/42 M
【請求項の数】10
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-162997(P2015-162997)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-105072(P2016-105072A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2018年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-236183(P2014-236183)
(32)【優先日】2014年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】中山 直人
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−093130(JP,A)
【文献】 特開2004−294422(JP,A)
【文献】 特開2005−171347(JP,A)
【文献】 特開平01−100297(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0065561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
C25D 1/00−21/22
H05K 3/40−3/46
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の電解メッキ液に接触させられた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該電解メッキ液に接触させられた対向電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行可能な測定部と、
前記測定部を制御して前記測定処理を実行させて測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部とを備えた電解メッキ液分析装置であって、
前記処理部は、前記測定値取得処理として、予め規定された電圧値の第1の電圧を予め規定された第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで当該作用電極に金属を析出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定させる第1の処理と、予め規定された変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定された第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定された周期で前記測定値として測定させる第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定された電流密度範囲内の電流密度となるように規定された電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する電解メッキ液分析装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記対向電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、
前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定された基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する請求項1記載の電解メッキ液分析装置。
【請求項3】
分析対象の電解メッキ液に接触させられた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該参照電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行可能な測定部と、
前記測定部を制御して前記測定処理を実行させて測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部とを備えた電解メッキ液分析装置であって、
前記処理部は、前記測定値取得処理として、予め規定された電圧値の第1の電圧を予め規定された第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで当該作用電極に金属を析出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定させる第1の処理と、予め規定された変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定された第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定された周期で前記測定値として測定させる第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定された電流密度範囲内の電流密度となるように規定された電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する電解メッキ液分析装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記参照電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、
前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定された基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する請求項3記載の電解メッキ液分析装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記測定値取得処理として、前記電解メッキ液に対する不溶性が予め規定されたレベル以上の第1の材料によって少なくとも電極面が形成された第1の電極を前記作用電極として使用する第1の測定値取得処理と、メッキ処理によって前記金属を析出させるメッキ対象物と同じ第2の材料によって少なくとも電極面が形成されると共に当該電極面の面積が前記第1の電極における前記電極面の面積と等しい第2の電極を前記作用電極として使用し、かつ前記第1の処理時における前記第1の時間および前記第1の電圧の電圧値、並びに前記第2の処理時における前記第2の時間、前記第2の電圧の電圧値および当該電圧値の変化率を前記第1の測定値取得処理時と等しく規定した第2の測定値取得処理とをそれぞれ実行し、
前記分析処理として、前記第1の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該第2の電流が流れていた第2の時間に基づいて当該第1の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第4の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて当該第2の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記金属の溶出に寄与した第5の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の処理時に印加した前記第1の電圧の電圧値が互いに等しい前記析出溶出処理毎に前記第4の電荷と前記第5の電荷との差である第6の電荷をそれぞれ演算すると共に、前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか予め規定された一方の電極面積と前記第1の電流の電流値とに基づいて第2の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記第2の電流密度および前記第6の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第6の電荷が小さい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が低くなり、当該第6の電荷が大きい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の前記単位時間当りにおける溶解率が高くなる状態であると分析する処理Gを実行する請求項1から4のいずれかに記載の電解メッキ液分析装置。
【請求項6】
分析対象の電解メッキ液に接触させた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該電解メッキ液に接触させた対向電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行して測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する電解メッキ液分析方法であって、
前記測定値取得処理として、予め規定した電圧値の第1の電圧を予め規定した第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで当該作用電極に金属を析出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定する第1の処理と、予め規定した変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定した第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定した周期で前記測定値として測定する第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する電解メッキ液分析方法。
【請求項7】
前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記対向電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、
前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定した基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する請求項6記載の電解メッキ液分析方法。
【請求項8】
分析対象の電解メッキ液に接触させた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該参照電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行して測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する電解メッキ液分析方法であって、
前記測定値取得処理として、予め規定した電圧値の第1の電圧を予め規定した第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで当該作用電極に金属を析出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定する第1の処理と、予め規定した変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定した第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定した周期で前記測定値として測定する第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する電解メッキ液分析方法。
【請求項9】
前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記参照電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、
前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、
前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定した基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、
前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する請求項8記載の電解メッキ液分析方法。
【請求項10】
前記測定値取得処理として、前記電解メッキ液に対する不溶性が予め規定されたレベル以上の第1の材料によって少なくとも電極面が形成された第1の電極を前記作用電極として使用する第1の測定値取得処理と、メッキ処理によって前記金属を析出させるメッキ対象物と同じ第2の材料によって少なくとも電極面が形成されると共に当該電極面の面積が前記第1の電極における前記電極面の面積と等しい第2の電極を前記作用電極として使用し、かつ前記第1の処理時における前記第1の時間および前記第1の電圧の電圧値、並びに前記第2の処理時における前記第2の時間、前記第2の電圧の電圧値および当該電圧値の変化率を前記第1の測定値取得処理時と等しく規定した第2の測定値取得処理とをそれぞれ実行し、
前記分析処理として、前記第1の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該第2の電流が流れていた第2の時間に基づいて当該第1の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第4の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて当該第2の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記金属の溶出に寄与した第5の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の処理時に印加した前記第1の電圧の電圧値が互いに等しい前記析出溶出処理毎に前記第4の電荷と前記第5の電荷との差である第6の電荷をそれぞれ演算すると共に、前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか予め規定された一方の電極面積と前記第1の電流の電流値とに基づいて第2の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記第2の電流密度および前記第6の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第6の電荷が小さい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が低くなり、当該第6の電荷が大きい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の前記単位時間当りにおける溶解率が高くなる状態であると分析する処理Gを実行する請求項6から9のいずれかに記載の電解メッキ液分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解メッキ液の状態を分析する電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板等の製造に際しては、各導体層(導体パターン)を相互に接続するための柱状導体(スルーホールやビア等)を電解メッキ処理によって形成する方法が広く用いられている。
【0003】
例えば、下記の特許文献には、硫酸銅メッキ液をメッキ浴(電解メッキ液)として用いた電解メッキ処理によって柱状導体を形成するプリント配線板の製造方法が開示されている。この製造方法では、まず、配線基板上に予め形成した下層配線の上に、給電膜として使用するカレントフィルムを無電解銅メッキ処理によって形成する。次いで、レジストを塗布して乾燥させた後に、柱状導体形成用のマスクを用いた紫外線露光を行って現像することにより、配線基板の上に柱状導体形成用のメッキレジストパターンを形成する。続いて、配線基板(カレントフィルム)を陰極として用いた電解銅メッキ処理を行う。この際には、メッキレジストパターンの開口部内(柱状導体を形成すべき位置:カレントフィルム上)に析出した銅によって柱状導体が形成される。次いで、メッキレジストパターンの剥離、および不要なカレントフィルムの除去を行った後に、絶縁材料を塗布して乾燥させることで層間絶縁層としての樹脂層を形成する。以上の処理を、多層化に必要な複数回に亘って繰り返し実行することにより、多層プリント配線板が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−98268号公報(第3−4頁、第1−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の多層プリント配線板の製造方法には、以下のような解決すべき問題点が存在する。すなわち、従来の製造方法では、硫酸銅メッキ液をメッキ浴(電解メッキ液)として用いた電解メッキ処理(電解銅メッキ処理)によって柱状導体を形成することで各導体層(導体パターン)を相互に接続している。
【0006】
この場合、電解メッキ処理によって下地の上に必要十分な量の金属を析出させるには、下地(陰極)における電流密度が好適な状態となるように、下地および電極(陽極)間に印加する電圧の電圧値や、電圧を印加する時間を調整する必要がある。また、電解メッキ処理によって柱状導体などを形成するための電解メッキ液は、各種のメーカーから複数種類の製品が提供されており、同じ電流密度となるように電圧を印加した際の単位時間当りの金属の析出量などが製品毎に相違する。さらに、同じ製品(電解メッキ液)であっても、使用時間(メッキ処理を行った時間)や、使用環境(不純物の混入の有無等)によって、同じ電流密度となるように電圧を印加した際の単位時間当りの金属の析出量等が変化する。
【0007】
したがって、電解メッキ処理によって柱状導体などを形成する際には、製品の製造工程において実際に使用する電解メッキ液がどのような状態であるかを分析し、分析結果に基づいて、柱状導体の形成に際して製品(陰極)と陽極との間に印加すべき電圧の電圧値等を決定する必要がある。具体的には、一例として、分析対象の電解メッキ液に試料を浸漬させて電解メッキ処理を行った後に、電解メッキ液から試料を取り出して洗浄および乾燥させ、電解メッキ処理によって試料の上に析出した金属の量(厚み等)を実測する処理を、電解メッキ処理時に試料と陽極との間に印加する電圧の電圧値を変更して複数回実行する。これにより、分析対象の電解メッキ液が、試料と陽極との間にどのような電圧値の電圧を印加することでどの程度の量の金属を析出させることができる状態であるかが分析される。
【0008】
この場合、分析に際して使用する試料と、製品の製造時に金属膜を形成する部位(上記の例では、メッキレジストパターンの開口部内のカレントフィルム)とでは電解メッキ液に接する面積が相違する。このため、試料を用いた電解メッキ処理時と、製品の製造時における電解メッキ処理時とでは、同じ電圧値の電圧を印加した際の単位時間当りの金属の析出量が相違する。したがって、好適な製造条件(印加すべき電圧の電圧値等)を特定する際には、試料を用いた分析に際して単位時間当りに必要量の金属を析出させることができた電解メッキ処理時の電流密度を演算し、演算した電流密度と、金属を析出させる製品の面積とに基づいて、電解メッキ処理時に製品(陰極)および陽極間に印加する電圧の電圧値等を決定する。
【0009】
このように、従来の製造方法では、柱状導体を形成するための電解メッキ処理時に配線基板(カレントフィルム:陰極)と陽極との間に印加する電圧の電圧値などを決定するために、試料を用いた電解メッキ処理、試料の洗浄・乾燥、および試料の上に析出した金属の量の実測を、電解メッキ処理時に印加する電圧の電圧値を変更して複数回実行しなくてはならない。このため、これらの分析作業が非常に煩雑であるという問題点がある。また、電解メッキ液の分析に使用した試料(金属が析出した試料)は再利用が困難であるため、これに起因して、電解メッキ液の分析コストが高騰しているという問題点もある。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、分析対象の電解メッキ液の状態を低コストで容易に分析し得る電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電解メッキ液分析装置は、分析対象の電解メッキ液に接触させられた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該電解メッキ液に接触させられた対向電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行可能な測定部と、前記測定部を制御して前記測定処理を実行させて測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部とを備えた電解メッキ液分析装置であって、前記処理部は、前記測定値取得処理として、予め規定された電圧値の第1の電圧を予め規定された第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで当該作用電極に金属を析出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定させる第1の処理と、予め規定された変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定された第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定された周期で前記測定値として測定させる第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定された電流密度範囲内の電流密度となるように規定された電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する。
【0012】
また、請求項2記載の電解メッキ液分析装置は、請求項1記載の電解メッキ液分析装置において、前記処理部は、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記対向電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定された基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する。
【0013】
また、請求項3記載の電解メッキ液分析装置は、分析対象の電解メッキ液に接触させられた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該参照電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行可能な測定部と、前記測定部を制御して前記測定処理を実行させて測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部とを備えた電解メッキ液分析装置であって、前記処理部は、前記測定値取得処理として、予め規定された電圧値の第1の電圧を予め規定された第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで当該作用電極に金属を析出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定させる第1の処理と、予め規定された変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定された第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加させることで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定された周期で前記測定値として測定させる第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定された電流密度範囲内の電流密度となるように規定された電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する。
【0014】
また、請求項4記載の電解メッキ液分析装置は、請求項3記載の電解メッキ液分析装置において、前記処理部は、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記参照電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定された金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定された金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定された基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する。
【0015】
また、請求項5記載の電解メッキ液分析装置は、請求項1から4のいずれかに記載の電解メッキ液分析装置において、前記処理部は、前記測定値取得処理として、前記電解メッキ液に対する不溶性が予め規定されたレベル以上の第1の材料によって少なくとも電極面が形成された第1の電極を前記作用電極として使用する第1の測定値取得処理と、メッキ処理によって前記金属を析出させるメッキ対象物と同じ第2の材料によって少なくとも電極面が形成されると共に当該電極面の面積が前記第1の電極における前記電極面の面積と等しい第2の電極を前記作用電極として使用し、かつ前記第1の処理時における前記第1の時間および前記第1の電圧の電圧値、並びに前記第2の処理時における前記第2の時間、前記第2の電圧の電圧値および当該電圧値の変化率を前記第1の測定値取得処理時と等しく規定した第2の測定値取得処理とをそれぞれ実行し、前記分析処理として、前記第1の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該第2の電流が流れていた第2の時間に基づいて当該第1の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第4の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて当該第2の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記金属の溶出に寄与した第5の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の処理時に印加した前記第1の電圧の電圧値が互いに等しい前記析出溶出処理毎に前記第4の電荷と前記第5の電荷との差である第6の電荷をそれぞれ演算すると共に、前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか予め規定された一方の電極面積と前記第1の電流の電流値とに基づいて第2の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記第2の電流密度および前記第6の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第6の電荷が小さい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が低くなり、当該第6の電荷が大きい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の前記単位時間当りにおける溶解率が高くなる状態であると分析する処理Gを実行する。
【0016】
また、請求項6記載の電解メッキ液分析方法は、分析対象の電解メッキ液に接触させた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該電解メッキ液に接触させた対向電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行して測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する電解メッキ液分析方法であって、前記測定値取得処理として、予め規定した電圧値の第1の電圧を予め規定した第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで当該作用電極に金属を析出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定する第1の処理と、予め規定した変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定した第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、前記対向電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定した周期で前記測定値として測定する第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する。
【0017】
また、請求項7記載の電解メッキ液分析方法は、請求項6記載の電解メッキ液分析方法において、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記対向電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定した基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する。
【0018】
また、請求項8記載の電解メッキ液分析方法は、分析対象の電解メッキ液に接触させた参照電極および作用電極の間に電圧を印加しつつ当該参照電極および当該作用電極の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行して測定値を取得する測定値取得処理、および取得した当該測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する電解メッキ液分析方法であって、前記測定値取得処理として、予め規定した電圧値の第1の電圧を予め規定した第1の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで当該作用電極に金属を析出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第1の電流の電流値を前記測定値として測定する第1の処理と、予め規定した変化率で電圧値が変化する第2の電圧を予め規定した第2の時間に亘って前記参照電極および前記作用電極の間に印加することで前記第1の処理において当該作用電極に析出させた前記金属を前記電解メッキ液に溶出させつつ、当該参照電極および当該作用電極の間を流れる第2の電流の電流値を予め規定した周期で前記測定値として測定する第2の処理とをこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で前記第1の電圧の電圧値を変更して複数回実行すると共に、前記分析処理において前記測定値取得処理によって取得した前記測定値に基づいて前記電解メッキ液の状態を分析する。
【0019】
また、請求項9記載の電解メッキ液分析方法は、請求項8記載の電解メッキ液分析方法において、前記第2の電流の電流値と前記第2の処理時に前記参照電極および前記作用電極の間を当該第2の電流が流れていた第2の時間とに基づいて当該第2の処理時に前記電解メッキ液に加えた第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記第2の電荷が多い前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する前記金属の量が多くなり、当該第2の電荷が少ない前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対して当該単位時間当りに析出する前記金属の量が少なくなる状態であると分析する処理A、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の処理時に前記電解メッキ液に加えた第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の電荷および前記第2の電荷の差を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各第1の電荷、前記各第2の電荷および前記各第1の電流密度に基づき、前記電解メッキ液が、前記両電荷の差が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、当該両電荷の差が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する当該金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する処理B、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度下限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度下限値を下回る前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理C、前記第2の電流の電流値および前記第2の時間に基づいて前記第2の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ当該各第2の電荷に基づいて前記各第1の処理時に前記作用電極に析出させた前記金属の金属量を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記各金属量および前記各第1の電流密度に基づき、予め規定した金属量以上の前記金属を前記作用電極に析出させ得る当該第1の電流密度の電流密度上限値を特定し、前記電解メッキ液が、前記電流密度上限値を超える前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときに前記予め規定した金属量以上の前記金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する処理D、前記各析出溶出処理毎の前記第2の電流の電流値に基づき、当該第2の電流の電流値が予め規定した基準電流値以上のときに前記電解メッキ液に不純物が含まれていると分析する処理E、前記第1の電流の電流値および前記第1の時間に基づいて前記第1の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて前記第2の電荷のうちの前記金属の溶出に寄与した第3の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記作用電極の電極面積および前記第1の電流の電流値に基づいて前記第1の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算すると共に、前記各第1の電流密度、前記前記各第1の電荷および前記各第3の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が大きい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が多くなり、当該第1の電荷に対する当該第3の電荷の比率が小さい前記析出溶出処理時における前記第1の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど当該メッキ対象物に対する前記金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを前記分析処理として実行する。
【0020】
また、請求項10記載の電解メッキ液分析方法は、請求項6から9のいずれかに記載の電解メッキ液分析方法において、前記測定値取得処理として、前記電解メッキ液に対する不溶性が予め規定されたレベル以上の第1の材料によって少なくとも電極面が形成された第1の電極を前記作用電極として使用する第1の測定値取得処理と、メッキ処理によって前記金属を析出させるメッキ対象物と同じ第2の材料によって少なくとも電極面が形成されると共に当該電極面の面積が前記第1の電極における前記電極面の面積と等しい第2の電極を前記作用電極として使用し、かつ前記第1の処理時における前記第1の時間および前記第1の電圧の電圧値、並びに前記第2の処理時における前記第2の時間、前記第2の電圧の電圧値および当該電圧値の変化率を前記第1の測定値取得処理時と等しく規定した第2の測定値取得処理とをそれぞれ実行し、前記分析処理として、前記第1の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該第2の電流が流れていた第2の時間に基づいて当該第1の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記電解メッキ液に加えられた第4の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、前記第2の測定値取得処理時における前記第2の電流の電流値および当該電流値の前記第2の時間内における変化の状態に基づいて当該第2の測定値取得処理時における前記第2の処理時に前記金属の溶出に寄与した第5の電荷を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、かつ前記第1の処理時に印加した前記第1の電圧の電圧値が互いに等しい前記析出溶出処理毎に前記第4の電荷と前記第5の電荷との差である第6の電荷をそれぞれ演算すると共に、前記第1の電極および前記第2の電極のいずれか予め規定された一方の電極面積と前記第1の電流の電流値とに基づいて第2の電流密度を前記各析出溶出処理毎にそれぞれ演算し、演算した前記第2の電流密度および前記第6の電荷に基づき、前記電解メッキ液が、当該第6の電荷が小さい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が低くなり、当該第6の電荷が大きい前記第2の電流密度となる条件でメッキ処理を行ったときほど前記メッキ対象物の前記単位時間当りにおける溶解率が高くなる状態であると分析する処理Gを実行する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1,3記載の電解メッキ液分析装置、および請求項6,8記載の電解メッキ液分析方法によれば、測定値取得処理および分析処理を実行して電解メッキ液の状態を分析する際に、測定値取得処理として、第1の処理および第2の処理をこの順で実行する析出溶出処理を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で第1の処理時に参照電極および作用電極の間に印加する電圧の電圧値を変更して複数回実行することにより、試料および電極の間に印加する電圧の電圧値を相違させた複数回の析出処理を実行し、各試料についての金属の析出状態を実測して電解メッキ液の状態を分析する従来の分析方法とは異なり、金属を析出させる際に印加する電圧の電圧値を異ならせた複数の試料を製作したのと同様にして、各析出処理時における金属の析出の状態に応じた測定値を取得して電解メッキ液の状態を分析することができ、その際に、各析出溶出処理における第2の処理に際して、第1の処理時に作用電極に析出した金属を電解メッキ液に溶出させることで、次の析出溶出処理の開始時点において作用電極に金属が析出していない状態とすることができるため、作用電極を幾度も交換したり、作用電極に析出している金属を除去したりすることなく、複数回の析出溶出処理を連続して実行することができる。これにより、複数の試料を用意して、析出処理および実測処理を複数回実行する必要がある従来の分析方法と比較して、電解メッキ液の状態を低コストで容易に分析することができる。
【0022】
請求項2,4記載の電解メッキ液分析装置、および請求項7,9記載の電解メッキ液分析方法によれば、測定値取得処理において取得した測定値に基づき、処理A〜処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを分析処理として実行することにより、条件を相違させて複数の試料を製作し(メッキ処理し)、各試料に析出した金属量などを実測する従来の分析方法とは異なり、電解メッキ液の分析に不慣れな者であっても、所望する分析項目に応じた処理(処理A〜Fのいずれか)を実行することで、電解メッキ液の状態を正確かつ容易に分析することができる。
【0023】
請求項5記載の電解メッキ液分析装置、および請求項10記載の電解メッキ液分析方法によれば、測定値取得処理において取得した測定値に基づき、処理Gを分析処理として実行することにより、分析対象の電解メッキ液が、メッキ処理時における酸化反応によってメッキ対象物をどの程度溶解させる状態であるかを正確かつ容易に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電解メッキ液分析システム1の構成図である。
図2】測定値取得処理において参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係について説明するための説明図である。
図3】第2の処理に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と、第2の処理に際して対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係について説明するための説明図である。
図4】第1の処理に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と、第2の処理に際して電解メッキ液Xaに加えられた電荷との関係について説明するための説明図である。
図5】第2の処理に際して対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の積算電流量と電解メッキ液Xaに含まれる不純物の濃度との関係について説明するための説明図である。
図6】第2の処理に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と、第2の処理に際して対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係についての不純物の有無(不純物の濃度)による相違について説明するための説明図である。
図7】第2の処理に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と、第2の処理に際して対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係についての不純物の有無(不純物の濃度)による相違について説明するための他の説明図である。
図8】測定値取得処理において参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係について説明するための他の説明図である。
図9】第1の測定値取得処理において参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値と対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値との関係、並びに第2の測定値取得処理において参照電極11および作用電極12aの間に印加する電圧の電圧値と対向電極13および作用電極12aの間を流れる電流の電流値との関係について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、電解メッキ液分析装置および電解メッキ液分析方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1に示す電解メッキ液分析システム1は、メッキ液槽X内に貯液されている電解メッキ液(メッキ浴)Xaの状態を「電解メッキ液分析方法」に従って分析可能な「電解メッキ液分析装置」の一例であって、電気化学測定装置2および分析装置3を備えて構成されている。
【0027】
電気化学測定装置2は、「測定部」の一例であって、電気化学センサ2aおよび測定装置本体2bを備えている。電気化学センサ2aは、三極測定による電気化学測定処理を実行するためのセンサ装置であって、ケーシング10、参照電極11、作用電極12(12a)、対向電極13および信号処理回路基板14を備えている。なお、本明細書では、「電解メッキ液分析装置」および「電解メッキ液分析方法」に関する理解を容易とするために、参照電極11、作用電極12(12a)および対向電極13を同じ形状・同じ大きさに図示すると共に、各電極11,12(12a),13の構成に関する詳細な説明を省略するが、実際には、測定対象(電解メッキ液分析システム1による分析対象)の電解メッキ液Xaの種類やメッキ対象物の材質などに応じて、各電極11,12(12a),13毎に各種の形状・大きさ・構成の電極が採用される。
【0028】
ケーシング10は、耐薬品性樹脂材料(一例として、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂などの各種のエンジニアリングプラスチック)で形成された容器体であって、各電極11,12(12a),13が取り付けられると共に、各電極11,12(12a),13が接続された信号処理回路基板14を収容する。信号処理回路基板14は、ポテンショスタットやI/V変換回路などが実装された回路基板であって、信号ケーブル2cを介して測定装置本体2bに接続されている。なお、この信号処理回路基板14については、測定装置本体2b側の構成要素とすることもできる。
【0029】
この場合、本例では、後述するように、一例として、「メッキ対象物」としての銅に「金属」の一例であるニッケルをメッキ処理可能な電解メッキ液Xaを分析対象として各種の分析を行う際に、電解メッキ液Xaに対する不溶性が非常に高いレベルである白金(「第1の材料」の一例)で電極面が形成された作用電極12(「第1の電極」の一例)を使用した「第1の測定値取得処理」と、「メッキ対象物」と同じ銅(「第2の材料」の一例)で電極面が形成された作用電極12a(「第2の電極」の一例)を使用した「第2の測定値取得処理」とが実行される。また、作用電極12,12aは、その電極面の面積が、互いに等しく、かつ対向電極13の電極面の面積以下となるように(一例として、作用電極12,12aおよび対向電極13のそれぞれの電極面の面積が互いに等しくなるように)規定されて形成されている。
【0030】
さらに、作用電極12,12aは、その長さが互いに等しく、かつケーシング10に挿入される側の端部の形状や太さが互いに等しくなるように形成されている。これにより、本例の電解メッキ液分析システム1(電気化学測定装置2)では、後述するように、「第1の測定値取得処理」を実行するときには、作用電極12をケーシング10に装着して信号処理回路基板14に接続し、「第2の測定値取得処理」を実行するときには、作用電極12aをケーシング10に装着して信号処理回路基板14に接続することにより、両「測定値取得処理」において電気化学センサ2aにおける作用電極12,12a以外の構成要素を共用することが可能となっている。
【0031】
測定装置本体2bは、操作部21、表示部22、処理部23および記憶部24を備えている。操作部21は、測定条件の設定操作、測定処理の開始/停止の指示、および測定結果の分析装置3への送信指示などの各種の操作が可能な操作スイッチを備え、これらの操作に応じた操作信号を処理部23に出力する。表示部22は、処理部23の制御下で、処理部23によって演算される電気化学測定処理の測定結果などを表示する。
【0032】
処理部23は、電気化学測定装置2を総括的に制御する。具体的には、処理部23は、操作部21からの操作信号に応じて電気化学測定処理(「測定処理」の一例)を実行する。また、処理部23は、電気化学センサ2aから出力されたセンサ信号に基づいて測定値を演算し、演算結果(測定値)を記録した測定値データD0を生成して記憶部24に記憶させる(「測定値取得処理」の一部)。さらに、処理部23は、操作部21からの操作信号(または、分析装置3からの制御信号)に応じて記憶部24から測定値データD0を読み出して分析装置3に出力する。
【0033】
この場合、処理部23は、電気化学センサ2aの信号処理回路基板14、および後述する分析装置3の処理部33と相俟って「処理部」を構成し、上記の電気化学測定処理において、分析対象の電解メッキ液Xaに接触させられた参照電極11および作用電極12(12a)の間に電圧を印加させつつ、電解メッキ液Xaに接触させられた対向電極13および作用電極12(12a)の間を流れる電流の電流値を測定値として演算して測定値データD0を生成する処理を実行する。記憶部24は、処理部23の動作ブログラムや、上記の測定値データD0などを記憶する。
【0034】
一方、分析装置3は、一例として、電解メッキ液分析システム1用の分析プログラムがインストールされたパーソナルコンピュータで構成されており、操作部31、表示部32、処理部33および記憶部34を備えている。操作部31は、キーボードや、マウスおよびタッチパッド等のポインティングデバイスで構成されて、これらの操作に応じた操作信号を処理部33に出力する。表示部32は、処理部33による「分析処理」の結果(分析結果)などを表示する。
【0035】
処理部33は、前述したように、電気化学測定装置2(測定装置本体2b)の処理部23と相俟って「処理部」を構成し、測定値が記録された測定値データD0を電気化学測定装置2(測定装置本体2b)から送信させて記憶部34に記憶させる(「測定値取得処理」の他の一部)を実行する。また、処理部33は、電気化学測定装置2から送信させた測定値データD0を解析することにより、後述する各分析項目毎に電解メッキ液Xaの状態を分析し、分析結果を表示部32に表示させると共に、分析結果を記録した分析結果データD1を生成して記憶部34に記憶させる(「分析処理」の一例)。記憶部34は、上記の分析プログラムや、電気化学測定装置2から送信された測定値データD0、および処理部33によって生成された分析結果データD1などを記憶する。
【0036】
この電解メッキ液分析システム1によって電解メッキ液Xaの状態を分析する際には、まず、電解メッキ液Xaが貯液されているメッキ液槽Xの設置場所に電気化学測定装置2を搬送する。この場合、本例の電解メッキ液分析システム1では、上記したように、「測定値取得処理」における「測定処理」を実行する電気化学測定装置2と、「測定値取得処理」によって取得した測定値に基づく「分析処理」を実行する分析装置3とが別体に構成されている。これにより、本例の電解メッキ液分析システム1では、分析装置3から切り離した電気化学測定装置2だけを電解メッキ液Xaが貯留されているメッキ液槽Xの設置場所に携行することにより、「測定値取得処理」の一部(測定処理)を電気化学測定装置2単体で実行することが可能となっている。
【0037】
次いで、電気化学センサ2aを組み立てる。この場合、作用電極12(12a)や対向電極13については、ケーシング10に取り付けた状態で電気化学センサ2aを保管することもできるが、参照電極11として液路部を有する電極(「銀塩化銀電極」など)を採用している場合には、液路部を構成する液体の揮発やイオン量の変化を阻止するために保護液中に浸漬して保管している参照電極11を保護液から取り出してケーシング10に装着する作業を行う必要がある。また、一例として、「第1の測定値取得処理」および「第2の測定値取得処理」の順で「測定値取得処理」を実行する際には、作用電極12をケーシング10に装着する。これにより、各電極11,12,13がケーシング10に取り付けられてケーシング10内において信号処理回路基板14に接続された状態となる。続いて、信号ケーブル2cを介して電気化学センサ2aを測定装置本体2bに接続することにより、電気化学測定装置2による電気化学測定処理を開始する準備が整う。なお、以下に説明する各測定処理の条件(測定条件)についての設定作業は既に完了しているものとする。
【0038】
次いで、図1に示すように、電極面が電解メッキ液Xaに接した状態となるように電気化学センサ2aにおける各電極11,12,13を電解メッキ液Xaに浸漬させた後に、測定装置本体2bの測定開始スイッチを操作して「測定値取得処理」としての「第1の測定値取得処理」を開始させる。この場合、この電解メッキ液分析システム1(電気化学測定装置2)では、処理の開始を指示されたときに、処理部23が、「測定値取得処理」として、「第1の処理(作用電極12に金属を析出させつつ測定値を得る処理:析出処理)」および「第2の処理(作用電極12に析出している金属を電解メッキ液に溶出させつつ測定値を得る処理:溶出処理)」をこの順で実行する「析出溶出処理」を、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加する電圧の電圧値を変更して複数回に亘って連続して実行する。
【0039】
具体的には、図2に示すように、処理部23は、上記の「第1の処理」として、予め規定された電圧値A1の電圧(参照電極11に対する作用電極12の電位:「第1の電圧」の一例)を予め規定された時間T1(「第1の時間」の一例:例えば、60秒)に亘って参照電極11および作用電極12の間に印加させることで作用電極12の電極面に金属を析出させつつ、対向電極13および作用電極12の間を流れる電流(「第1の電流」の一例)の電流値B1を予め規定された周期(後述する「第2の処理」に際して電流値を測定する周期と同じ周期:一例として、10ms間隔)で測定する。
【0040】
この場合、この「第1の処理」では、参照電極11および作用電極12の間に電圧値が一定の電圧(電圧値A1の電圧)を印加するため、同図に示すように、測定される電流値B1が時点t1a〜t1bの時間T1に亘って一定の値となる。したがって、この「第1の処理」に関しては、予め規定された周期での電流値の測定に代えて、参照電極11および作用電極12の間に電圧値A1の電圧を印加している時間T1の間(時点t1a〜t1bの間)に電流値B1を1回だけ測定する構成・方法を採用することもできる。
【0041】
また、処理部23は、上記の「第2の処理」として、予め規定された変化率(一例として、10mV/秒)で電圧値が変化する電圧(参照電極11に対する作用電極12の電位:同図の例では、電圧値A2a〜A2bの範囲で電圧値が変化する電圧:「第2の電圧」の一例)を予め規定された時間T2(「第2の時間」の一例)に亘って参照電極11および作用電極12の間に印加させることで、上記の「第1の処理」において作用電極12に析出させた金属を電解メッキ液Xaに溶出させつつ、対向電極13および作用電極12の間を流れる電流(「第2の電流」の一例)の電流値(同図の例では、電流値0〜B2の範囲内で変化する電流値)を予め規定された周期(一例として、10ms間隔)で測定する。
【0042】
この場合、本例の電解メッキ液分析システム1(電気化学測定装置2)では、上記のような「析出溶出処理」を実行する都度、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加する電圧の電圧値A1を0.2Vずつ変化させる。具体的には、例えば、分析対象の電解メッキ液Xaとして、ニッケルメッキ用の電解メッキ液を分析する際には、「第1の処理」において両電極11,12の間に印加する電圧の電圧値A1を、一例として、−3.4V〜−0.6Vの範囲内で0.2Vずつ大きな値に変更しつつ、15回の「析出溶出処理」を順次実行する。
【0043】
なお、上記の各「第1の処理」における電圧値の変更量や、「第1の処理」において印加する電圧の最低値(上記の例では、−3.4V)および最高値(上記の例では、−0.6V)は、上記の例に限定されない。この場合、「第1の処理」において印加する電圧の電圧値については、作用電極12における電流密度が予め規定された電流密度範囲内となるように規定された電圧値範囲内で変更する。具体的には、印加する電圧の最低値については、電解メッキ液Xaの種類に応じて、その電解メッキ液Xaを使用した実際のメッキ処理時に、メッキ対象物に金属を析出させ得る電流密度の下限値よりも十分に低い電流密度となる電圧値を規定し、印加する電圧の最高値については、その電解メッキ液Xaを使用した実際のメッキ処理時に、メッキ対象物に金属を析出させ得る電流密度の上限値よりも十分に高い電流密度となる電圧値に規定する。なお、これらの「下限値」や「上限値」については、一例として、未使用の電解メッキ液Xaを対象として、本例と同様の各処理(「第1の処理」、「第2の処理」および後述する「処理C,D」)を実行することで、好適な値を特定することができる。
【0044】
また、本例の電解メッキ液分析システム1(電気化学測定装置2)では、「第2の処理」に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値範囲(図2における電圧値A2a〜A2b)、およびその変化率を、同じ電圧値範囲および変化率に揃えて各「析出溶出処理」を実行する。具体的には、例えば、分析対象の電解メッキ液Xaとして、ニッケルメッキ用の電解メッキ液を分析する際には、いずれの「析出溶出処理」においても、「第2の処理」に際して参照電極11および作用電極12の間に印加する電圧の電圧値A2a〜A2bを、一例として、−0.5V〜1.0Vの範囲内で10mV/秒の変化率で変化させる。
【0045】
なお、「第2の処理」において両電極11,12の間に印加する電圧の最低値(上記の例では、−0.5V)および最高値(上記の例では、1.0V)や変化率(上記の例では、10mV/秒)は、上記の例に限定されない。この場合、「第2の処理」において印加する電圧の電圧値範囲については、作用電極12における電流密度が予め規定された電流密度範囲内となるように規定する。具体的には、印加する電圧の最低値(電圧値範囲の下限値)については、電解メッキ液Xaの種類に応じて、「第1の処理」によって作用電極12に析出させた金属が電解メッキ液Xaに溶出する電流密度の下限値よりも十分に低い電流密度であって、かつ作用電極12に金属(本例では、ニッケル)が析出することのない電流密度となる電圧値に規定し、印加する電圧の最高値(電圧値範囲の上限値)については、「第1の処理」によって作用電極12に析出させた金属が電解メッキ液Xaに溶出する電流密度の上限値よりも十分に高い電流密度となる電圧値に規定する。
【0046】
この場合、「第1の処理」によって作用電極12に金属を析出させた後に実行する「第2の処理」では、両電極11,12の間に上記の電圧値範囲内の電圧が印加されることで作用電極12に析出させられている金属が電解メッキ液Xaに溶出し、この際に、両電極13,12の間を流れる電流の電流値が、両電極11,12の間に印加された電圧の電圧値に応じて変化する。具体的には、「第1の処理」に際して時点t1a〜t1bの時間T1に亘って電圧値A1の電圧を両電極11,12の間に印加することで作用電極12に金属を析出させた図2の例では、「第2の処理」において、時点t2a〜t2bの時間T2に亘って10mV/秒の変化率で電圧値が変化する電圧を両電極11,12の間に印加した際に、作用電極12に析出している金属が電解メッキ液Xaに溶出することに起因して、時点ta〜tcまでの時間T(「第2の時間」の一例)に亘って両電極11,12の間を電流が流れている。
【0047】
また、同図に示す例では、時点t2aにおいて両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値A2aから、時点taにおいて両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値Aaまでの電圧値範囲内の電圧を両電極11,12の間に印加しているときには、両電極13,12の間を電流が流れていない。つまり、同図に示す例の電解メッキ液Xaでは、電圧値A2a〜Aaの電圧値範囲内の電圧を両電極11,12に印加したときに、作用電極12に金属が析出したり、析出した金属が電解メッキ液Xaに溶出したりすることがない状態となっている。
【0048】
さらに、同図に示す例では、時点tbにおいて両電極11,12の間に電圧値Abの電圧を印加したときに両電極13,12の間を流れる電流の電流値B2が最大値となり、時点tcにおいて両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値Acから、時点t2bにおいて両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値A2bまでの電圧値範囲内の電圧を両電極11,12の間に印加しているときには、両電極13,12の間を電流が流れていない。つまり、同図に示す例の電解メッキ液Xaを用いて上記の「第1の処理」を実行したときには、電圧値Abの電圧を両電極11,12の間に印加したときに作用電極12に析出している金属が最も効率良く電解メッキ液Xaに溶出し、電圧値Acの電圧を両電極11,12の間に印加した時点tcにおいては、「第1の処理」において作用電極12に析出させた金属のすべてが電解メッキ液Xaに溶出し(作用電極12の電極面が電解メッキ液Xaに直接接した状態となり)、その後に電圧値Ac〜A2bの電圧値範囲内の電圧を両電極11,12に印加しているときには、電解メッキ液Xaに溶出する金属が存在しない状態となっている。
【0049】
このため、「第2の処理」に際して電圧値Ab以上の電圧値の電圧を時点tb〜tcの間の時間よりも十分に長い時間に亘って両電極11,12の間に印加することで、時点t2bにおいては、作用電極12に金属が析出していない状態で「析出溶出処理」が終了する。したがって、本例の電解メッキ液分析システム1では、各「析出溶出処理」における「第2の処理」に際して、上記の電圧値Aaよりも十分に低く、かつ作用電極12に金属が析出することのない電圧値A2aから、上記の電圧値Abよりも十分に高い電圧値A2bまでの十分に広い電圧値範囲内の電圧を両電極11,12の間に印加することにより、その「析出溶出処理」の次に実行する「析出溶出処理」に際しては、作用電極12に金属が析出していない状態で「第1の処理」を開始することが可能となっている。これにより、各「析出溶出処理」毎に作用電極12から金属を除去する作業や、各「析出溶出処理」毎に作用電極12を交換する作業を行うことなく、複数回の「析出溶出処理」を連続して実行することが可能となっている。
【0050】
具体的には、ニッケルメッキ用の電解メッキ液Xaの状態を分析する本例では、15回の「析出溶出処理」の1回目の処理として、電圧値A1=−3.4Vの電圧を時点t1a〜t1bの時間T1に亘って参照電極11および作用電極12の間に印加しつつ、対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値B1を測定する「第1の処理」、および−0.5V〜1.0Vの範囲内で10mV/秒の変化率で電圧値が徐々に大きくなる電圧を時点t2a〜t2bの時間T2に亘って参照電極11および作用電極12の間に印加しつつ、対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値を測定する「第2の処理」をこの順で実行する。
【0051】
この際に、この1回目の「析出溶出処理」における「第2の処理」に際しては、一例として、図3にグラフG01で示す電流値(この例では、時間T2内で殆ど変化しない電流値)が測定される。したがって、処理部23は、「第1の処理」に際して測定した電流値を両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値A1=−3.4Vに対応付けて1回目の「析出溶出処理」についての測定値データD0の一部として記録すると共に、「第2の処理」に際して予め規定された周期(本例では、10ms間隔)で測定した電流値を、その時点において両電極11,12の間に印加している電圧の電圧値に対応付けて測定値データD0の他の一部として記録して記憶部24に記憶させる。
【0052】
また、15回の「析出溶出処理」の2回目の処理として、処理部23は、電圧値A1=−3.2Vの電圧を両電極11,12の間に印加しつつ、両電極13,12の間を流れる電流の電流値B1を測定する「第1の処理」、および−0.5V〜1.0Vの範囲内で10mV/秒の変化率で電圧値が徐々に大きくなる電圧を両電極11,12の間に印加しつつ、両電極13,12の間を流れる電流の電流値を測定する「第2の処理」を実行する。この際に、2回目の「析出溶出処理」における「第2の処理」に際しては、グラフG02で示す電流値が測定される。したがって、処理部23は、「第1の処理」に際して測定した電流値を両電極11,12の間に印加した電圧の電圧値A1=−3.2Vに対応付けて2回目の「析出溶出処理」についての測定値データD0の一部として記録すると共に、「第2の処理」に際して予め規定された周期で測定した電流値を、その時点において両電極11,12の間に印加している電圧の電圧値に対応付けて測定値データD0の他の一部として記録して記憶部24に記憶させる。
【0053】
この後、3回目以降の「析出溶出処理」においては、「第1の処理」に際して両電極11,12間に印加する電圧の電圧値が、−3.0V、−2.8V・・のように0.2Vずつ大きな電圧値に変更され、「第2の処理」において、グラフG03,G04・・で示す電流値が測定される。これにより、15回目の「析出溶出処理」が完了したときには、1回目から15回目までの計15回の「析出溶出処理」毎の計15個の測定値データD0が記憶部24に記憶された状態となる。これにより、「第1の測定値取得処理」が完了する。
【0054】
続いて、「第2の測定値取得処理」を実行する。具体的には、電気化学センサ2aをメッキ液槽Xから引き上げ、作用電極12に代えて作用電極12aをケーシング10に装着する。次いで、「第1の処理」時における「第1の時間」および「第1の電圧の電圧値」や、「第2の処理」時における「第2の時間」、「第2の電圧の電圧値」および「第2の電圧の電圧値の変化率」などの諸条件を上記の「第1の測定値取得処理」時と同様に規定して、「第1の測定値取得処理」時と同様の手順で、15回の「析出溶出処理」を実行する。これにより、15個の測定値データD0が記憶部24に記憶された状態となり、「第2の測定値取得処理」が完了する。
【0055】
なお、以下の説明においては、作用電極12を使用した「第1の測定値取得処理」によって取得された各測定値データD0と、作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」によって取得された各測定値データD0とを区別するために、「第2の測定値取得処理」によって取得された各測定値データD0を測定値データD0aともいう。以上により、電気化学測定装置2において実行すべき処理が完了する。なお、電気化学測定装置2において実行する処理については、上記の例に代えて、「第2の測定値取得処理」および「第1の測定値取得処理」の順で「測定値取得処理」を実行してもよい。
【0056】
続いて、電気化学センサ2aをメッキ液槽Xから引き上げ、必要に応じて各電極11,12a(12),13をケーシング10から取り外して保管用のケースに収容した後に、分析装置3が設置されている場所まで電気化学測定装置2を搬送し、信号ケーブル4(図1参照)を介して測定装置本体2bを分析装置3に接続する。次いで、電気化学測定装置2(測定装置本体2b)の操作部21を操作することにより、記憶部24に記憶されている各測定値データD0,D0aを分析装置3に送信する。これに応じて、分析装置3では、処理部33が、電気化学測定装置2から送信された各測定値データD0,D0aを記憶部34に記憶させる。なお、電気化学測定装置2から分析装置3への測定値データD0,D0aの送信については、電気化学測定装置2の操作部21を操作する上記の例に限定されず、分析装置3の操作部31を操作して分析装置3から電気化学測定装置2に送信要求信号を送信することで、電気化学測定装置2から分析装置3に測定値データD0,D0aを送信させることもできる。以上により、電解メッキ液Xaの分析に必要な測定値データD0,D0aが分析装置3の記憶部34に記憶された状態となり、「測定値取得処理」が完了する。
【0057】
次いで、分析装置3において「分析処理」を実行する。この場合、本例の電解メッキ液分析システム1では、上記したように、電気化学測定装置2による上記の「測定値取得処理(「第1の測定値取得処理」および「第2の測定値取得処理」)」に際して複数回(本例では、それぞれ15回)の「析出溶出処理」を実行する際に、各「析出溶出処理」における「第1の処理」に際して参照電極11および作用電極12(12a)の間に印加する電圧の電圧値を変更して作用電極12(12a)に金属を析出させている。このため、上記の15回の「析出溶出処理」をそれぞれ実行して測定値データD0,D0aを得ることにより、電極および試料の間に印加する電圧の電圧値を異ならせた複数種類のメッキ処理済みの試料をそれぞれ製作することなく、各「析出溶出処理」の実行によって取得した測定値データD0,D0aに基づいて電解メッキ液Xaの状態を分析することができる。
【0058】
具体的には、本例の電解メッキ液分析システム1(分析装置3)では、処理部33が、各「析出溶出処理」毎の測定値データD0,D0aに基づき、以下に説明する「処理A」〜「処理G」の分析処理(電解メッキ液Xaの状態を分析する処理)を実行し、分析結果を表示部32に表示させると共に、分析結果を示す分析結果データD1を生成して記憶部34に記憶させる。なお、「処理G」を除く分析処理については、作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」によって取得した測定値データD0aだけを使用して実行したり、測定値データD0,D0aの双方を使用して実行したりすることができるが、「電解メッキ液分析装置」の構成、および「電解メッキ液分析方法」の手順に関する理解を容易とするために、一例として、測定値データD0だけを使用して「処理A」〜「処理F」の分析処理を実行する例について説明する。
【0059】
まず、「処理A」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際してメッキ対象物(陰極)および電極(陽極)の間に印加する電圧(電流密度)と、メッキ対象物に対して単位時間当りに析出する金属の量(金属量)との関係がどのような状態となっているかを分析する処理を実行する。
【0060】
この場合、分析対象の電解メッキ液Xaを用いて金属(本例では、ニッケル)を析出させる(実際にメッキ処理する)メッキ対象物の表面積は、上記の「測定値取得処理」において金属(本例では、ニッケル)を析出させた作用電極12の電極面積とは相違する。このため、電気化学センサ2a(作用電極12)を用いた上記の「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加した電圧と同じ電圧値の電圧をメッキ対象物および電極(陽極)に印加したとしても、単位面積当りに析出する金属量や、金属の析出に寄与する電荷の大きさなどが電気化学センサ2aを用いた「第1の処理」時とは相違することとなる。したがって、本例の電解メッキ液分析システム1では、金属を析出させる際に印加する電圧の電圧値に代えて、印加した電圧の電圧値に対応する電流密度(陰極の電流密度)を演算し、演算した電流密度と、各分析項目毎のパラメータとを相互に関連付けて「分析処理」の分析結果とする構成が採用されている。
【0061】
具体的には、「処理A」では、まず、「第2の電流」の電流値と「第2の処理」時に対向電極13および作用電極12の間を「第2の電流」が流れていた「第2の時間」とに基づいて「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた「第2の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する処理を実行すると共に、作用電極12の電極面積および「第1の電流」の電流値に基づいて「第1の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0062】
より具体的には、例えば、図2に示す「析出溶出処理」の例では、時点ta〜tcの時間Tに亘って電流値0から電流値B2の間で変化した各電流値(10ms間隔でサンプリングされた各電流値)の積算値(積算電流量)と、両電極13,12の間を電流が流れていた時間Tとに基づいて「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた電荷(第2の電荷)を演算する。また、作用電極12の電極面積と、時点t1a〜t1bの時間T1に亘って両電極11,12の間に電圧を印加している状態において両電極13,12の間を流れた電流の電流値B1(本例では、10ms間隔でサンプリングされた各電流値B1)の積算値(積算電流量)とに基づいて作用電極12における電流密度(第1の電流密度)を演算する。このような演算処理を、15回の「析出溶出処理」の各測定値データD0毎にそれぞれ実行する。
【0063】
次いで、演算した各「第2の電荷」および各「第1の電流密度」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、分析対象の電解メッキ液Xaが、測定値データD0に基づいて演算された「第2の電荷」が多い「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する金属の量が多くなり、「第2の電荷」が少ない「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する金属の量が少なくなる状態であると分析する。したがって、この「処理A」の分析結果(分析結果データD1)に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して、単位時間当りに所望する金属量の金属をメッキ対象物に析出させ得る「電流密度」を特定することが可能となる。
【0064】
また、「処理B」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理における電流密度と、電解メッキ液Xaに加える電荷のうちのメッキ対象物に対する金属の析出に寄与しない電荷の量との関係がどのような状態となっているかを分析する処理(「電流効率:陰極効率」に関する分析処理)を実行する。
【0065】
具体的には、「処理B」では、まず、「第1の電流」の電流値および「第1の時間」に基づいて「第1の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた「第1の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、「第2の電流」の電流値および「第2の時間」に基づいて「第2の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、かつ「第1の電荷」および「第2の電荷」の差を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算すると共に、作用電極12の電極面積および「第1の電流」の電流値に基づいて「第1の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0066】
より具体的には、例えば、図2に示す「析出溶出処理」の例では、時点t1a〜t1bの時間T1に亘って両電極11,12の間に電圧を印加している状態において両電極13,12の間を流れた電流の電流値B1(本例では、10ms間隔でサンプリングされた各電流値B1)の積算値と、両電極13,12の間を電流が流れていた時間T1とに基づいて「第1の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた電荷(第1の電荷)を演算する。また、時点ta〜tcの時間Tに亘って電流値0から電流値B2の間で変化した各電流値(10ms間隔でサンプリングされた各電流値)の積算値と、両電極13,12の間を電流が流れていた時間Tとに基づいて「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた電荷(第2の電荷)を演算する。さらに、上記の「第1の電荷」および「第2の電荷」の差を演算する。また、作用電極12の電極面積と、時点t1a〜t1bの時間T1に亘って両電極11,12の間に電圧を印加している状態において両電極13,12の間を流れた電流の電流値B1(本例では、10ms間隔でサンプリングされた各電流値B1)の積算値とに基づいて作用電極12における電流密度(第1の電流密度)を演算する。このような演算処理を、15回の「析出溶出処理」の測定値データD0毎にそれぞれ実行する。
【0067】
次いで、演算した各「第1の電荷」、各「第2の電荷」および各「第1の電流密度」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、分析対象の電解メッキ液Xaが、測定値データD0に基づいて演算された「両電荷の差」が小さい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり(「電流効率:陰極効率」が良くなり)、「両電荷の差」が大きい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与しない電荷が多くなる(「電流効率:陰極効率」が悪くなる)状態であると分析する。したがって、この「処理B」の分析結果(分析結果データD1)に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して、所望する「電流効率:陰極効率」で所望する金属量の金属をメッキ対象物に析出させ得る「電流密度」を特定することが可能となる。
【0068】
さらに、「処理C」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して予め規定された金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させ得る電流密度の下限値(「電流密度下限値」)を特定する処理(「臨界電流密度(下限値)」、「均一電着性(下限値)」および「被覆力」に関する分析処理)を実行する。
【0069】
具体的には、「処理C」では、まず、「第2の電流」の電流値および「第2の時間」に基づいて「第2の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、かつ各「第2の電荷」に基づいて各「第1の処理」時に作用電極12に析出させた金属の金属量を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算すると共に、作用電極12の電極面積および「第1の電流」の電流値に基づいて「第1の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0070】
この場合、前述した「第1の処理」に際して作用電極12に析出した金属の金属量が多いほど、その金属を電解メッキ液Xaに溶出させるために「第2の処理」において電解メッキ液Xaに加えた電荷が多くなり、「第1の処理」に際して作用電極12に析出した金属の金属量が少ないほど、その金属を電解メッキ液Xaに溶出させるために「第2の処理」において電解メッキ液Xaに加えた電荷が少なくなる。したがって、「第2の処理」に際して電解メッキ液Xaに加えた電荷を演算することにより、「第1の処理」に際して作用電極12に析出した金属の金属量を特定することが可能となる。具体的には、「電荷/(金属の価数×ファラデー定数)」により、陰極に析出している金属の金属量を演算することができる。
【0071】
これにより、図4に示す折線グラフGのように、各「析出溶出処理」毎の「第1の電流密度」(同図では、両電極11,12の間に印加した「第1の電圧」の電圧値)と、各「析出溶出処理」毎に作用電極12に析出していた金属の金属量(同図では、「第2の処理」に際して電解メッキ液Xaに加えた電荷:作用電極12に析出していた金属を電解メッキ液Xaに溶出させるのに要した電荷)との関係がそれぞれ特定される。
【0072】
次いで、演算した各金属量および各「第1の電流密度」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、予め規定された金属量以上の金属を作用電極12に析出させ得る「第1の電流密度」の「電流密度下限値」を特定し、電解メッキ液Xaが、「電流密度下限値」を下回る「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときに予め規定された金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する。この場合、本例では、図4に示すように、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加した「第1の電圧」の電圧値が−3.4Vであった1回目の「析出溶出処理」時における作用電極12の電流密度が「臨界電流密度」の下限値として特定され、その電流密度を下回る電流密度でメッキ処理を行っても、メッキ対象物に金属が析出しないと分析される。なお、「均一電着性(下限値)」および「被覆力」については、「処理D」についての説明の後に説明する。
【0073】
一方、「処理D」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して予め規定された金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させ得る電流密度の上限値(「電流密度上限値」)を特定する処理(「臨界電流密度(上限値)」、「均一電着性(上限値)」および「被覆力」に関する分析処理)を実行する。
【0074】
具体的には、「処理D」では、上記の「処理C」と同様にして、「第2の電流」の電流値および「第2の時間」に基づいて「第2の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、かつ各「第2の電荷」に基づいて各「第1の処理」時に作用電極12に析出させた金属の金属量を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算すると共に、作用電極12の電極面積および「第1の電流」の電流値に基づいて「第1の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0075】
次いで、演算した各金属量および各「第1の電流密度」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、予め規定された金属量以上の金属を作用電極12に析出させ得る「第1の電流密度」の「電流密度上限値」を特定し、電解メッキ液Xaが、「電流密度上限値」を超える「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときに予め規定された金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する。この場合、本例では、図4に示すように、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加した「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vであった15回目の「析出溶出処理」時における作用電極12の電流密度が「臨界電流密度」の上限値として特定され、その電流密度を超える電流密度でメッキ処理を行っても、メッキ対象物に金属が析出しないと分析される。
【0076】
続いて、上記の「処理C」および「処理D」における演算結果から、「均一電着性」に関する電解メッキ液Xaの状態を分析する。この場合、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理時には、例えば、メッキ処理装置以外の機器が動作/停止したときに、メッキ対象物および電極の間に印加する電圧の電圧値がある程度の範囲内で変動することがある。したがって、メッキ対象物および電極の間に印加する電圧の電圧値が変動したとしても、メッキ対象物に析出する金属量が大きく変動することのない(「均一電着性」が担保される)電流密度範囲を特定しておく必要がある。
【0077】
例えば、図4に示すように、「第1の処理」に際して両電極11,12に加えた「第1の電圧」の電圧値の変動に伴って「第2の処理」に際して電解メッキ液Xaに加えた電荷(すなわち、作用電極12に析出した金属の金属量)が変化する範囲として、電荷Ca1〜Ca2の範囲内を維持することで、製品の「均一電着性」が担保されると規定されているときには、電圧値Va1〜Va2の範囲Haに対応する電流密度範囲内でメッキ処理を実行すればよいと分析される。なお、製品の「均一電着性」が担保されると分析される電荷の範囲(金属量の範囲)については、利用者によって予め規定されている。
【0078】
次いで、上記の「処理C」および「処理D」における演算結果から、「被覆力」に関する電解メッキ液Xaの状態を分析する。この際に、例えば、図4に示すように、「第2の処理」に際して電解メッキ液Xaに加える電荷として、電荷Cb以上の電荷が必要となる金属量を析出させることで、製品の「被覆力」が十分になると規定されているときには、電圧値Vb1〜Vb2の範囲Hbに対応する電流密度範囲内でメッキ処理を実行すればよいと分析される。なお、製品の「被覆力」が十分になると分析される電荷の範囲(金属量の範囲)についても、利用者によって予め規定されている。
【0079】
さらに「処理E」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaに不純物が含まれているか否か、および含まれている場合には、どの程度の量の不純物が含まれているかを分析する処理を実行する。具体的には、各「析出溶出処理」毎の「第2の電流」の電流値に基づき、「第2の電流」の電流値が予め規定された基準電流値以上のときに電解メッキ液Xaに不純物が含まれていると分析する。
【0080】
より具体的には、図6に示すように、例えば、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加した「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vであった「析出溶出処理」において、電解メッキ液Xaに不純物が混入していなかったときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGa1で示すような値となる。また、電解メッキ液Xaに100ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGa2で示すような値となり、電解メッキ液Xaに500ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGa3で示すような値となり、電解メッキ液Xaに1000ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGa4で示すような値となる。したがって、グラフGa1で示される電流値(硫酸銅等の不純物が混入していない状態において測定される電流値)と、「第2の処理」において実測された電流値とを対比することで、電解メッキ液Xaに硫酸銅が混入していたか否かを特定することができる。
【0081】
また、図7に示すように、例えば、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加した「第1の電圧」の電圧値が−1.6Vであった「析出溶出処理」において、電解メッキ液Xaに不純物が混入していなかったときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGb1で示すような値となる。また、電解メッキ液Xaに100ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGb2で示すような値となり、電解メッキ液Xaに500ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGb3で示すような値となり、電解メッキ液Xaに1000ppmの硫酸銅が混入していたときには、「第2の処理」に際して両電極13,12の間を流れる「第2の電流」の電流値がグラフGb4で示すような値となる。したがって、グラフGb1で示される電流値(硫酸銅等の不純物が混入していない状態において測定される電流値)と、「第2の処理」において実測された電流値とを対比することでも、電解メッキ液Xaに硫酸銅が混入していたか否かを特定することができる。
【0082】
この場合、出願人は、「第2の処理」時に両電極13,12の間を流れた電流の積算電流量と、電解メッキ液Xaに含有される硫酸銅の濃度とは、比例的な関係にあり、また、その比例関係は、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加する電圧値によって相違することを確認している。具体的には、図6の例のように、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加する「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vのときには、「第2の処理」時における積算電流量と硫酸銅の濃度との関係が、図5に近似直線Gaで示すような関係となる。また、図7の例のように、「第1の処理」に際して両電極11,12の間に印加する「第1の電圧」の電圧値が−1.6Vのときには、「第2の処理」時における積算電流量と硫酸銅の濃度との関係が、図5に近似直線Gbで示すような関係となる。
【0083】
したがって、この例では、「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vのときの「第2の処理」における積算電流量、および「第1の電圧」の電圧値が−1.6Vのときの「第2の処理」における積算電流量のいずれかに基づき、電解メッキ液Xaに含有されている硫酸銅の濃度を特定することができる。この場合、例えば、「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vのときの「第2の処理」における積算電流量だけに基づいて硫酸銅の濃度を特定しようとしたときに、「第2の処理」において測定誤差が生じたときには、特定される硫酸銅の濃度が不正確となるおそれがある。したがって、本例では、「第1の電圧」の電圧値が−0.6Vのとき、および−1.6Vのときの「第2の処理」における両積算電流量に基づいて硫酸銅の濃度を特定することで、正確な濃度を特定することができる。
【0084】
また、「処理F」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理における電流密度と、電解メッキ液Xaに加える電荷のうちのメッキ対象物に対する金属の析出に寄与する電荷の量との関係がどのような状態となっているかを分析する処理(「電流効率:陰極効率」に関する他の分析処理)を実行する。
【0085】
この場合、この「処理F」は、「第1の電荷」と「第2の電荷」との差が小さい電流密度となる条件でメッキ処理を行うときほど金属の析出に寄与しない電荷が少ないと分析する上記の「処理B」と分析手順が似ているが、この「処理F」では、「第1の電荷」に対する「第2の電荷のうちの金属の溶出に寄与した第3の電荷」の比率が大きい電流密度となる条件でメッキ処理を行うときほど金属の析出に寄与する電荷が多いと分析する処理であって、「処理B」とは分析手順が相違する。具体的には、「処理F」では、まず、「第1の電流」の電流値および「第1の時間」に基づいて「第1の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、「第2の電流」の電流値および「電流値の第2の時間内における変化の状態」に基づいて「第2の電荷」のうちの金属の溶出に寄与した「第3の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算し、かつ作用電極12の電極面積および「第1の電流」の電流値に基づいて「第1の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0086】
より具体的には、例えば、図8に示す「析出溶出処理」の例では、前述した「処理B」と同様にして、「第1の処理」時における電流密度(第1の電流密度)を演算すると共に、「第1の処理」時の時間T1の間に電解メッキ液Xaに加えられた電荷(第1の電荷)を演算する。また、時点t2a〜t2bの時間T2に亘って電流値0から電流値B2aの間で変化した各電流値(10ms間隔でサンプリングされた各電流値)に基づいて「第3の電荷」を演算する。
【0087】
なお、同図の例は、不純物が含まれている電解メッキ液Xaを対象として「第1の処理」および「第2の処理」が実行された例を示している。このため、同図の例では、「第2の処理」に際して時点t2a〜t2bの時間T2に亘って10mV/秒の変化率で電圧値が変化する電圧を両電極11,12の間に印加した際に、作用電極12に析出している金属の溶出に伴って時点ta〜tb3の時間Taに亘って電流値0から電流値B2aの間で変化する電流が両電極13,12の間を流れ、その後に、作用電極12に析出している不純物の溶出に伴って時点tb3〜tcの時間Tbに亘って電流値0から電流値B2bの間で変化する電流が両電極13,12の間を流れている。
【0088】
この場合、「第2の処理」に際して不純物が電解メッキ液Xaに溶出する電圧値は、金属が電解メッキ液Xaに溶出する電圧値とは相違する。このため、「第2の処理」に際して時点ta〜tcの時間Tに亘って両電極13,12の間を流れた電流の各電流値(10ms間隔でサンプリングされた各電流値)の変化の状態に基づき、金属の溶出に起因して両電極13,12の間を電流が流れた時間と、不純物の溶出に起因して両電極13,12の間を電流が流れた時間とをそれぞれ特定することができる。
【0089】
具体的には、同図に示す例では、両電極11,12の間に印加した電圧が電圧値Ab1となる(両電極13,12の間を流れる電流が電流値B2aとなる)時点tb1において作用電極12から電解メッキ液Xaへの金属の溶出量が最多となり、印加した電圧が電圧値Ab3となる時点tb3において作用電極12に析出していた金属の殆どが電解メッキ液Xaに溶出した状態となり、同時に、作用電極12から電解メッキ液Xaへの不純物の溶出が始まって、印加した電圧が電圧値Ab2となる(両電極13,12の間を流れる電流が電流値B2bとなる)時点tb2において作用電極12から電解メッキ液Xaへの不純物の溶出量が最多となり、印加した電圧が電圧値Acとなる時点tcにおいて作用電極12に析出していた不純物のすべてが電解メッキ液Xaに溶出した状態となっている。
【0090】
したがって、同図の例では、時点ta〜tb3の時間Taに亘って電流値0から電流値B2aの間で変化した各電流値(金属の溶出に起因して両電極13,12の間を流れた電流の電流値)の積算値と、両電極13,12の間を電流が流れていた時間Taとに基づき、「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた電荷(第2の電荷)のうちの「金属の析出」に寄与した電荷(第3の電荷)を演算する。このような演算処理を、15回の「析出溶出処理」の測定値データD0毎にそれぞれ実行する。
【0091】
次いで、演算した各「第1の電流密度」、各「第1の電荷」および各「第3の電荷」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、分析対象の電解メッキ液Xaが、「第1の電荷」に対する「第3の電荷」の比率が大きい(「第3の電荷」の値を「第1の電荷」の値で除した値が大きい)「析出溶出処理時」における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与する電荷が多くなり(「電流効率:陰極効率」が良くなり)、「第1の電荷」に対する「第3の電荷」の比率が小さい(「第3の電荷」の値を「第1の電荷」の値で除した値が小さい)「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与する電荷が少なくなる(「電流効率:陰極効率」が悪くなる)状態であると分析する。したがって、この「処理F」の分析結果(分析結果データD1)に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して、所望する「電流効率:陰極効率」で所望する金属量の金属をメッキ対象物に析出させ得る「電流密度」を特定することが可能となる。
【0092】
さらに、「処理G」としては、「測定値取得処理」によって取得した上記の各測定値データD0に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理における電流密度と、メッキ処理時に酸化反応によってメッキ対象物が溶解する溶解率との関係がどのような状態となっているかを分析する処理を実行する。
【0093】
この場合、メッキ処理に際しては、規定した電流密度となるようにメッキ対象物(陰極)と電極(陽極)との間に電圧を印加したときに、還元反応によって電解メッキ液中の金属や不純物がメッキ対象物に析出するだけでなく、酸化反応によってメッキ対象物が溶解する(電解メッキ液中へのメッキ対象物の溶出)。また、メッキ処理時に電解メッキ液に加えられる電荷のうちの還元反応に寄与する電荷と酸化反応に寄与する電荷との比率は、メッキ対象物と電極との間に印加する電圧の電圧値によって相違する。したがって、還元反応だけに着目してメッキ処理時の電流密度を規定したときには、メッキ対象物の溶解量が許容範囲を超え、不良品が生産されるおそれがある。このため、好適な生産条件を規定するには、メッキ処理時における電流密度と、メッキ対象物の溶解率との関係を事前に特定しておくのが好ましい。
【0094】
この「処理G」では、電解メッキ液Xaに対する不溶性が高い白金で電極面が形成された作用電極12を使用した「第1の測定値取得処理」によって取得された測定値データD0、およびメッキ対象物と同じ銅で電極面が形成された作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」によって取得された測定値データD0aの双方を用いて電解メッキ液Xaの状態を分析する。
【0095】
具体的には、まず、作用電極12,12aの電極面積と「第1の電流」の電流値とに基づいて「第2の電流密度」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。また、「第1の測定値取得処理」時における「第2の電流」の電流値(測定値データD0に基づいて特定される電流値)、および「第2の電流」が流れていた「第2の時間」に基づいて「第1の測定値取得処理」時における「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた「第4の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。また、「第2の測定値取得処理」時における「第2の電流」の電流値(測定値データD0aに基づいて特定される電流値)、およびその電流値の「第2の時間」内における変化の状態に基づき、「第2の測定値取得処理」時における「第2の処理」時に金属の溶出に寄与した「第5の電荷」を各「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。さらに、「第1の処理」時に印加した「第1の電圧」の電圧値が互いに等しい「析出溶出処理」毎に、「第4の電荷」と「第5の電荷」との差である「第6の電荷」をそれぞれ演算する。
【0096】
より具体的には、例えば、図9に示す「析出溶出処理」の例では、「第2の処理」において測定される電流値に関し、作用電極12を使用した「第1の測定値取得処理」の測定値を実線で示し、作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」の測定値を破線で示している。この場合、電解メッキ液Xaに対する不溶性が高い白金で電極面が形成された作用電極12を使用した「第1の測定値取得処理」の「第1の処理」では、電極面において酸化反応が生じないため、電解メッキ液Xaに加えられた「第1の電荷」の殆どが、金属等の析出(還元反応)、および電解メッキ液Xaに含まれる水分の電気分解に寄与することとなる。このため、作用電極12の電極面に多くの金属が析出するため、「第2の処理」に際してその金属を電解メッキ液Xaに溶出させるのに時点ta〜tcaの時間Taを要している。
【0097】
一方、メッキ対象物と同じ銅で電極面が形成された作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」の「第1の処理」では、電極面において酸化反応が生じるため、電解メッキ液Xaに加えられた「第1の電荷」が、金属等の析出(還元反応)、および電解メッキ液Xaに含まれる水分の電気分解だけでなく、作用電極12aにおける銅の溶解(電解メッキ液Xaへの溶出)にも寄与することとなる。このため、作用電極12を使用した際の「第1の処理」と同じ時点t1a〜t1bの時間T1に亘って参照電極11および作用電極12aの間に電圧値A1の電圧を印加した際に、作用電極12aの電極面に析出する金属の量が、「第1の測定値取得処理」時に作用電極12の電極面に析出する金属の量よりも少量となる。
【0098】
また、作用電極12aを使用した「第2の測定値取得処理」の「第2の処理」では、作用電極12aの電極面に析出した金属が電解メッキ液Xa中に溶出した後(作用電極12aの電極面が露出した状態となったとき)に、電極面における酸化反応によって作用電極12aの電極面自体が電解メッキ液Xa中に溶出する。例えば、図9に示す例では、時点t2a〜t2bの時間T2に亘って10mV/秒の変化率で電圧値が変化する電圧を両電極11,12aの間に印加した際に、「第1の処理」によって作用電極12aの電極面に析出した金属(本例では、ニッケル)が、両電極11,12a間の電圧が電圧値Aaとなった時点taから電解メッキ液Xa中に溶出し始め、電圧値がAcbとなった時点tcbにおいてほぼ完全に電解メッキ液Xa中に溶出した状態(作用電極12aの電極面が露出した状態)となる。
【0099】
このため、作用電極12aの電極面を構成している銅が電解メッキ液Xa中に溶出し始め、両電極11,12a間の電圧が電圧値Adとなる時点tdまでの時間Tcaに亘り、電極面を構成している銅の電解メッキ液Xa中への溶出が継続する。さらに、両電極11,12a間の電圧が電圧値Aeとなった時点teにおいて、作用電極12aの電極面を構成している銅が再び電解メッキ液Xa中に溶出し始め、両電極11,12a間の電圧が電圧値Afとなる時点tfまでの時間Tcbに亘り、電極面を構成している銅の電解メッキ液Xa中への溶出が継続する。この場合、同図に示す例のように、「第2の処理」に際して金属(ニッケル)が電解メッキ液Xaに溶出する電圧値は、作用電極12aの電極面を構成している銅が電解メッキ液Xaに溶出する電圧値とは相違する。このため、「第2の処理」に際して時点ta〜tfに亘って両電極13,12aの間を流れた電流の各電流値(10ms間隔でサンプリングされた各電流値)の変化の状態に基づき、金属の溶出に起因して両電極13,12aの間を電流が流れた時間と、銅の溶出に起因して両電極13,12aの間を電流が流れた時間とをそれぞれ特定することができる。
【0100】
したがって、同図の例では、時点ta〜tcbの時間Tbに亘って電流値0から電流値B2の間で変化した各電流値(金属の溶出に起因して両電極13,12aの間を流れた電流の電流値)の積算値と、両電極13,12aの間を電流が流れていた時間Tbとに基づき、「第2の処理」時に電解メッキ液Xaに加えられた電荷のうちの「金属の析出」に寄与した電荷(第5の電荷)を演算する。この「第5の電荷」を演算する処理を、各「第2の測定値取得処理」の「第2の処理」毎にそれぞれ実行する。なお、「第4の電荷」を演算する処理については、前述した「処理B」における「第1の電荷」の演算処理と同様のため、詳細な説明を省略する。次いで、「第4の電荷」と「第5の電荷」との差である「第6の電荷」を15回の「析出溶出処理」毎にそれぞれ演算する。
【0101】
続いて、演算した各「第2の電流密度」および各「第6の電荷」に基づき、電解メッキ液Xaの状態を分析する。具体的には、電解メッキ液Xaが、「第6の電荷」が小さい「第2の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率(溶解効率)が低くなり、「第6の電荷」が大きい「第2の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率(溶解効率)が高くなる状態であると分析する。したがって、この「処理G」の分析結果(分析結果データD1)に基づき、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理に際して、メッキ対象物を過剰に溶解させることなくメッキ対象物に金属を析出させ得る「電流密度」を特定することが可能となる。
【0102】
以上の各「処理A」〜「処理G」を順次実行した後に、処理部33は、分析結果を記録した分析結果データD1を生成して記憶部34に記憶させると共に、分析結果を示す各グラフや分析値を表示部32に表示させる。これにより、「分析処理」が完了する。この後、利用者は、表示部32に表示された分析結果を参照しつつ、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理時の処理条件を任意に規定する。これにより、電解メッキ液Xaの状態に即した好適な条件下でメッキ処理を行うことができる結果、良好な製品(メッキ製品)を製造することが可能となる。
【0103】
なお、分析対象の電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理時における処理条件を規定するために上記の一連の処理(「測定値取得処理」および「分析処理」)を実行する例について説明したが、一例として、新しい電解メッキ液Xa(未使用の電解メッキ液Xa)をメッキ液槽Xに貯液した時点において上記の各処理を実行してメッキ処理時における処理条件を規定すると共に、その際に記憶部34に記憶させた分析結果データD1を「基準値」として保存しておき、任意のタイミング(例えば、予め規定した回数のメッキ処理を行った時点)において、上記の各処理と同様の処理(「測定値取得処理」および「分析処理」)を実行して得られる分析結果データD1と、「基準値」としての分析結果データD1とを比較することで、電解メッキ液Xaの状態の変化を特定することもできる。これにより、メッキ液槽Xに貯液されている電解メッキ液Xaが、所望するメッキ処理を実行するのが困難な状態にまで劣化したときに、不良品を生産することなく、メッキ処理の処理条件を変更したり、電解メッキ液Xaの交換時期を特定したりすることができる。
【0104】
このように、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法では、参照電極11および作用電極12(12a)の間に電圧を印加しつつ対向電極13および作用電極12(12a)の間を流れる電流の電流値を測定する測定処理を実行して測定値(測定値データD0,D0a)を取得する「測定値取得処理」、および取得した測定値に基づいて電解メッキ液Xaの状態を分析する「分析処理」を実行して電解メッキ液Xaの状態を分析する際に、「測定値取得処理」として、「第1の電圧」を「第1の時間」に亘って両電極11,12(12a)の間に印加することで作用電極12(12a)に金属を析出させつつ、両電極13,12(12a)の間を流れる「第1の電流」の電流値を測定値として測定する「第1の処理」と、予め規定した変化率で電圧値が変化する「第2の電圧」を「第2の時間」に亘って両電極11,12(12a)の間に印加することで「第1の処理」において作用電極12(12a)に析出させた金属を電解メッキ液Xaに溶出させつつ、両電極13,12(12a)の間を流れる「第2の電流」の電流値を予め規定した周期で測定値として測定する「第2の処理」とをこの順で実行する「析出溶出処理」を、予め規定した電流密度範囲内の電流密度となるように規定した電圧値範囲内で「第1の電圧」の電圧値を変更して複数回実行する。
【0105】
したがって、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法によれば、試料および電極の間に印加する電圧の電圧値を相違させた複数回の析出処理を実行し、各試料についての金属の析出状態を実測して電解メッキ液の状態を分析する従来の分析方法とは異なり、金属を析出させる際に印加する電圧の電圧値を異ならせた複数の試料を製作したのと同様にして、各析出処理時における金属の析出の状態に応じた測定値を取得して電解メッキ液Xaの状態を分析することができ、その際に、各「析出溶出処理」の「第2の処理」に際して、「第1の処理」時に作用電極12(12a)に析出した金属を電解メッキ液Xaに溶出させることで、次の「析出溶出処理」の開始時点において作用電極12(12a)に金属が析出していない状態とすることができるため、作用電極12(12a)を幾度も交換したり、作用電極12(12a)に析出している金属を除去したりすることなく、複数回の「析出溶出処理」を連続して実行することができる。これにより、複数の試料を用意して、析出処理および実測処理を複数回実行する必要がある従来の分析方法と比較して、電解メッキ液Xaの状態を低コストで容易に分析することができる。
【0106】
また、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法では、「測定値取得処理」において取得した測定値(測定値データD0)に基づいて演算した各「第2の電荷」および各「第1の電流」密度に基づき、電解メッキ液Xaが、「第2の電荷」が多い「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する金属の量が多くなり、「第2の電荷」が少ない「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対して単位時間当りに析出する金属の量が少なくなる状態であると分析する「処理A」、「測定値取得処理」において取得した測定値に基づいて演算した各「第1の電荷」、各「第2の電荷」および各「第1の電流密度」に基づき、電解メッキ液Xaが、「両電荷の差」が小さい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与しない電荷が少なくなり、「両電荷の差」が大きい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与しない電荷が多くなる状態であると分析する「処理B」、「測定値取得処理」において取得した測定値に基づいて演算した各「金属量」および各「第1の電流密度」に基づき、予め規定した金属量以上の金属を作用電極12に析出させ得る「第1の電流密度」の「電流密度下限値」を特定し、電解メッキ液Xaが、「電流密度下限値」を下回る「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときに予め規定した金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する「処理C」、「測定値取得処理」において取得した測定値に基づいて演算した各「金属量」および各「第1の電流密度」に基づき、予め規定した金属量以上の金属を作用電極12に析出させ得る「第1の電流密度」の「電流密度上限値」を特定し、電解メッキ液Xaが、「電流密度上限値」を超える「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときに予め規定した金属量以上の金属をメッキ対象物に析出させることができない状態であると分析する「処理D」、各「析出溶出処理」毎の「第2の電流」の電流値に基づき、「第2の電流」の電流値が予め規定した基準電流値以上のときに電解メッキ液Xaに不純物が含まれていると分析する「処理E」、「測定値取得処理」において取得した各「第1の電流密度」、各「第1の電荷」および各「第3の電荷」に基づき、電解メッキ液Xaが、「第1の電荷」に対する「第3の電荷」の比率が大きい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与する電荷が多くなり、「第1の電荷」に対する「第3の電荷」の比率が小さい「析出溶出処理」時における「第1の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物に対する金属の析出に寄与する電荷が少なくなる状態であると分析する処理Fの各処理のうちの少なくとも1つを「分析処理」として実行する。
【0107】
したがって、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法によれば、条件を相違させて複数の試料を製作し(メッキ処理し)、各試料に析出した金属量などを実測する従来の分析方法とは異なり、電解メッキ液の分析に不慣れな者であっても、所望する分析項目に応じた処理(処理A〜Fのいずれか)を実行することで、電解メッキ液Xaの状態を正確かつ容易に分析することができる。
【0108】
さらに、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法では、「測定値取得処理」として、電解メッキ液Xaに対する不溶性が予め規定されたレベル以上の「第1の材料(本例では、白金)」によって電極面が形成された作用電極12を使用する「第1の測定値取得処理」と、メッキ処理によって金属を析出させるメッキ対象物と同じ「第2の材料(本例では、銅)」によって電極面が形成されると共に電極面の面積が作用電極12における電極面の面積と等しい作用電極12aを使用し、かつ「第1の処理」時における「第1の時間」および「第1の電圧」の電圧値、並びに「第2の処理」時における「第2の時間」、「第2の電圧」の電圧値および電圧値の変化率を「第1の測定値取得処理」時と等しく規定した「第2の測定値取得処理」とをそれぞれ実行し、「分析処理」として、「第2の電流密度」および「第6の電荷」に基づき、電解メッキ液Xaが、「第6の電荷」が小さい「第2の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が低くなり、「第6の電荷」が大きい「第2の電流密度」となる条件でメッキ処理を行ったときほどメッキ対象物の単位時間当りにおける溶解率が高くなる状態であると分析する「処理G」を実行する。
【0109】
したがって、この電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法によれば、分析対象の電解メッキ液Xaが、メッキ処理時における酸化反応によってメッキ対象物をどの程度溶解させる状態であるかを正確かつ容易に分析することができる。
【0110】
なお、「電解メッキ液分析装置」の構成、および「電解メッキ液分析方法」の具体的な手順については、上記の電解メッキ液分析システム1の構成、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法の手順の例に限定されない。例えば、「測定値取得処理」における各「析出溶出処理」に際して、参照電極11、作用電極12および対向電極13の3つ、または、参照電極11、作用電極12aおよび対向電極13の3つを用いた三極測定を実行する構成・方法を例に挙げて説明したが、このような構成・方法に代えて、「測定値取得処理」における各「析出溶出処理」に際して、参照電極11および作用電極12の2つ、または、参照電極11および作用電極12aの2つを用いた二極測定を実行する構成・方法を採用することもできる。なお、このような構成・方法を採用する場合には、「析出溶出処理」に際して対向電極13および作用電極12(12a)の間を流れる電流(「第1の電流」および「第2の電流」)を測定するのに代えて、作用電極12(12a)および参照電極11の間を流れる電流(「第1の電流」および「第2の電流」の他の一例)を測定する点が相違するだけのため、そのような構成に関する図示、およびそのような方法に関する説明を省略する。
【0111】
このように、上記の電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法における三極測定に代えて、参照電極11および作用電極12(12a)を用いた二極測定を行う「電解メッキ液分析装置」、および「電解メッキ液分析方法」によれば、上記の電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法と同様にして、試料および電極の間に印加する電圧の電圧値を相違させた複数回の析出処理を実行し、各試料についての金属の析出状態を実測して電解メッキ液の状態を分析する従来の分析方法とは異なり、金属を析出させる際に印加する電圧の電圧値を異ならせた複数の試料を製作したのと同様にして、各析出処理時における金属の析出の状態に応じた測定値を取得して電解メッキ液Xaの状態を分析することができ、その際に、各「析出溶出処理」の「第2の処理」に際して、「第1の処理」時に作用電極12(12a)に析出した金属を電解メッキ液Xaに溶出させることで、次の「析出溶出処理」の開始時点において作用電極12(12a)に金属が析出していない状態とすることができるため、作用電極12(12a)を幾度も交換したり、作用電極12(12a)に析出している金属を除去したりすることなく、複数回の「析出溶出処理」を連続して実行することができる。これにより、複数の試料を用意して、析出処理および実測処理を複数回実行する必要がある従来の分析方法と比較して、電解メッキ液Xaの状態を低コストで容易に分析することができる。
【0112】
また、上記の電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法における三極測定に代えて、参照電極11および作用電極12(12a)を用いた二極測定を行う「電解メッキ液分析装置」、および「電解メッキ液分析方法」によれば、上記の電解メッキ液分析システム1、および電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法と同様にして、条件を相違させて複数の試料を製作し(メッキ処理し)、各試料に析出した金属量などを実測する従来の分析方法とは異なり、電解メッキ液の分析に不慣れな者であっても、所望する分析項目に応じた処理(処理A〜Fのいずれか)を実行することで、電解メッキ液Xaの状態を正確かつ容易に分析することができる。また、処理Gを実行することで、分析対象の電解メッキ液Xaが、メッキ処理時における酸化反応によってメッキ対象物をどの程度溶解させる状態であるかを正確かつ容易に分析することができる。
【0113】
また、各「析出溶出処理」の「第2の処理」に際して、両電極11,12(12a)の間に印加する電圧(第2の電圧:参照電極11に対する作用電極12の電位)を−0.5V〜1.0Vのように昇順に変化させる例について説明したが、このような構成・方法に代えて、1.0V〜−0.5Vのように降順に変化させる構成方法を採用することもできる。このような構成・方法を採用する場合には、参照電極11に対する作用電極12(12a)の電位が、作用電極12(12a)に金属が析出することのない電位となるように電圧値範囲を規定することで、各「析出溶出処理」の終了時点において作用電極12(12a)に金属が析出していない状態となるため、上記した構成・方法の例と同様にして、複数回の「析出溶出処理」を連続して実行することができる。
【0114】
さらに、「電解メッキ液に対する不溶性が予め規定されたレベル以上の第1の材料によって少なくとも電極面が形成された第1の電極」として、電極面が白金で形成された作用電極12を使用する例について説明したが、「第1の電極」の電極面を形成する「第1の材料」は、白金に限定されず、電解メッキ液に対する不溶性が高いイリジウム、ルテニウムおよびチタニウムなどの各種の材料を採用することができる。また、「分析処理」における「処理G」を除く各処理時に「第1の測定値取得処理」において取得した測定値データD0だけを使用して各種の分析を行う例について説明したが、「処理G」を除く各処理時に「第2の測定値取得処理」において取得した測定値データD0aだけを使用して各種の分析を行うこともできる。この際には、「第2の測定値取得処理」における「第1の処理」および「第2の処理」に際して作用電極12aの電極面が酸化反応によって溶解するため、電極面が溶解するのに寄与した電荷を考慮して「金属の析出に寄与した電荷」等を演算する必要がある。
【0115】
さらに、「分析処理」に際して「処理A」〜「処理G」のすべてを実行する構成・方法を例に挙げて説明したが、これらの各「処理A」〜「処理G」のうちのいずれかが不要なときには、その処理を実行しない構成・方法を採用することもできる。また、上記の各「処理A」〜「処理G」のいずれか1つに加えて、例えば、作用電極12(12a)に析出した金属量について、各「析出溶出処理」毎に、金属の「体積」、「密度」および「膜厚」などのパラメータと、電流密度との関係を特定する分析処理を実行することもできる。なお、上記の各処理において特定される「金属量」と、金属の「体積」、「密度」および「膜厚」との関係については公知のため、詳細な説明を省略する。
【0116】
さらに、「測定値取得処理」の一部(測定値データD0,D0aの生成)を実行する電気化学測定装置2と、「測定値取得処理」の他の一部(電気化学測定装置2からの測定値データD0,D0aの受信)および「分析処理」を実行する分析装置3とを別体に構成した電解メッキ液分析システム1を例に挙げて説明したが、この電解メッキ液分析システム1における電気化学測定装置2および分析装置3を一体化した「電解メッキ液分析装置」(図示せず)を用いて「電解メッキ液分析方法」による電解メッキ液Xaの分析を実行することもできる。
【符号の説明】
【0117】
1 電解メッキ液分析システム
2 電気化学測定装置
2a 電気化学センサ
2b 測定装置本体
2c 信号ケーブル
3 分析装置
4 信号ケーブル
11 参照電極
12,12a 作用電極
13 対向電極
23,33 処理部
24,34 記憶部
A1,A2a,A2b,Aa〜Ac 電圧値
B1,B2 電流値
D0,D0a 測定値データ
D1 分析結果データ
T,T1,T2 時間
Xa 電解メッキ液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9