(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608263
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20191111BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F02B77/00 K
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-242205(P2015-242205)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-106597(P2017-106597A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】木下 慎也
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−326846(JP,A)
【文献】
特開平02−193798(JP,A)
【文献】
特開昭61−059041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B61/00−79/00
F16F15/00−15/36
F16H55/32−55/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸が縦に延びるエンジンの下側に配置されて、前記駆動軸に取り付けられる内周部材と、この内周部材の外周側に同心的に配置された環状質量体とをゴム状弾性材料からなる弾性体を介して連結した構造を備えるトーショナルダンパにおいて、前記内周部材の上側に円盤状のプレートが取り付けられ、このプレートは前記弾性体及び前記環状質量体とは非接触であって前記弾性体より大径に形成され、外径部に、回転によって上方への空気流を生じさせるフィンが設けられたことを特徴とするトーショナルダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船外機におけるエンジンの出力軸に取り付けられるトーショナルダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型船舶の船外機は、その上部に、出力軸であるクランクシャフトが縦に延びるエンジンが収容され、下部にプロペラが設けられ、エンジンの駆動力が、クランクシャフトから下方へ延びるドライブシャフトと、ギヤ及びプロペラシャフトを介してプロペラへ伝達されるようになっている。クランクシャフトは、各気筒内でのピストンの往復運動を回転運動に変換するのに伴って捩り振動を発生するため、トーショナルダンパによって、このような捩り振動の低減が図られている。
【0003】
トーショナルダンパは、クランクシャフトに取り付けられる内周部材と、その外周側に同心的に配置された環状質量体とをゴムからなる弾性体を介して連結した構造であって、従来から、特許文献1に開示されているように、エンジンの上部に位置するフライホイールマグネット部に取り付けられるタイプのものと、エンジンの下部に位置してクランクシャフトの下端部に取り付けられるタイプのものが知られている。いずれのタイプも、海水の浸入を防ぐためのエンジンカバー(カウル)で覆われているため、ゴムからなる弾性体に作用する熱負荷が大きい。特に、特許文献1のように、エンジンの上部に位置するフライホイールマグネット部に取り付けられるトーショナルダンパは構造上大径であって、弾性体の体積が大きなものとなるため、熱蓄積によって150℃以上のレベルまで温度が上昇することがあり、弾性体の耐久性低下が懸念される。
【0004】
一方、エンジンの下部に位置して取り付けられるトーショナルダンパの場合は、フライホイールマグネット部に取り付けられるものよりも小径にすることができるため、熱負荷に対する弾性体の耐久性の点では有利であるが、やはり、カウルに覆われた空間に配置されるものであることから、熱負荷はある程度大きなものとならざるを得ず、しかもエンジンから僅かに漏れ出した潤滑油が滴下して、弾性体のゴムを膨潤してしまい、トーショナルダンパの振動低減機能が低下する懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−8986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、船外機におけるエンジンの下側に配置されるトーショナルダンパにおいて、弾性体の熱負荷及び膨潤による劣化を防止して長期にわたり振動低減機能を維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を解決するため、請求項1の発明に係るトーショナルダンパは、駆動軸が縦に延びるエンジンの下側に配置されて、前記駆動軸に取り付けられる内周部材と、この内周部材の外周側に同心的に配置された環状質量体とをゴム状弾性材料からなる弾性体を介して連結した構造を備えるトーショナルダンパにおいて、前記内周部材の上側に円盤状のプレートが取り付けられ、このプレートは前記弾性体及び前記環状質量体とは非接触であって前記弾性体より大径に形成され、外径部に、回転によって上方への空気流を生じさせるフィンが設けられたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るトーショナルダンパによれば、エンジンから漏れ出した潤滑油が滴下しても、この漏油は弾性体の上側を覆うプレートで受け止められ、遠心力によって外径側へ排出され、環状質量体の外周空間から下方へ落下するので、弾性体が漏油に浸されて膨潤により劣化ことがなく、また、フィンにより生じる上方への空気流が空冷作用を奏するため、弾性体が熱の蓄積により劣化ことがなく、このため長期にわたり優れた振動低減機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るトーショナルダンパが取り付けられる船外機の一例を示す概略構成説明図である。
【
図2】本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態を示す取付状態の断面図である。
【
図3】本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態を示す断面斜視図である。
【
図4】本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態を一部拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るトーショナルダンパの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
まず
図1は、本発明に係るトーショナルダンパが取り付けられる船外機の一例を示すものであって、この種の船外機は、よく知られているように、カウル101、アッパーケース102、ロアケース103等からなる外殻100における上部のカウル101に、クランクシャフト201が縦(上下方向)に延びるエンジン200が収容され、外殻100における下部のロアケース103の外部にはプロペラ300が回転自在に配置され、エンジン200の駆動力が、クランクシャフト201から、ドライブシャフト202、ベベルギヤ及びクラッチからなる前進・後進切換装置203及びプロペラシャフト204を介してプロペラ300に伝達されるようになっている。なお、クランクシャフト201及びその下に接続されたドライブシャフト202は、請求項1に記載された駆動軸に相当するものである。
【0012】
エンジン200の下側にはトーショナルダンパ1が配置されている。このトーショナルダンパ1は、
図2に示すように、クランクシャフト201の下端に取り付けられる環状の内周部材11と、この内周部材11の外周側に同心的に配置された環状質量体12とを弾性体13を介して連結した構造を備えると共に、内周部材11の上側に、円盤状のプレート14が取り付けられたものである。なお、クランクシャフト201の下端部は、筒状ハウジング208で包囲されており、トーショナルダンパ1は、この筒状ハウジング208の内周空間に配置されている。
【0013】
内周部材11は金属又は合成樹脂等からなるものであって、複数のボルト挿通孔11aが円周方向所定間隔で開設され、上端が環状質量体12及び弾性体13よりも上方へ突出した形状に形成されている。
【0014】
環状質量体12は金属からなるものであって、上面外径部には、外径側ほど低位となるテーパ面12aが形成されている。
【0015】
弾性体13は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるものであって、環状に成形されており、内周部材11の外周面と、これに径方向に対向する環状質量体12の内周面との間に、圧入によって所要の圧縮代をもって嵌着されたものである。そして互いに対向する内周部材11の外周面と環状質量体12の内周面は、弾性体13との間での滑りを防止するために、軸方向中間位置で互いに対応して径方向へ緩やかに起伏した形状となっており、すなわち弾性体13は径方向へうねった状態で内周部材11と環状質量体12の間に介在している。
【0016】
弾性体13及び環状質量体12は、クランクシャフト201から内周部材11へ入力される捩り振動に対する副振動系を構成するものであって、すなわちこの副振動系は、弾性体13の円周方向剪断ばね定数と環状質量体12の円周方向慣性質量によって、例えばクランクシャフト201の捩り振動の捩り方向振幅がピークとなる周波数域にチューニングされている。
【0017】
プレート14は、金属又は合成樹脂からなるものであって、弾性体13より大径に形成された円盤状の本体14aと、その外周に円周方向等間隔で設けられて環状質量体12より外径側まで延びる多数のフィン14bとを備える。そしてこのプレート14は、内周部材11の上に配置され、上述のように、内周部材11は上端が環状質量体12及び弾性体13よりも上方へ突出しているため、その上に配置されたプレート14は、弾性体13及び環状質量体12とは非接触であり、これによって、弾性体13及び環状質量体12からなる副振動系の捩り共振の動作を阻害しないようになっている。
【0018】
プレート14の本体14aには内周部材11のボルト挿通孔11aと対応する複数のボルト挿通孔14cが開設されており、それより外径側には、弾性体13よりも大径で、外径側が低位となる環状の段差部14dが形成されている。また、フィン14bは、
図3及び
図4に示すように、軸流ファン状に屈曲形成されており、
図2に示すクランクシャフト201と共に回転することによって、筒状ハウジング208の内周空間に、上方への空気流を生じさせるものである。
【0019】
以上の構成を備えるトーショナルダンパ1は、
図2に示すように、内周部材11の下側に配置された取付フランジ部材206に開設されたボルト挿通孔206aから、内周部材11のボルト挿通孔11a及びプレート14のボルト挿通孔14cを通してクランクシャフト201の下端の螺子穴201aに軸方向にねじ込まれた複数のボルト205によって、内周部材11とプレート14がクランクシャフト201の下端面と取付フランジ部材206との間で共締めされることにより取り付けられ、クランクシャフト201と共に回転するものである。
【0020】
ここで、クランクシャフト201には、
図1に示すエンジン200のピストンの往復運動を回転運動に変換する動作に伴って捩り振動を生じるが、トーショナルダンパ1は、クランクシャフト201の捩り振動の振幅がピークとなる周波数域において、弾性体13及び環状質量体12からなる副振動系が捩り方向へ共振し、その振動変位によるトルクが入力振動によるトルクと逆方向へ生じる。このため、クランクシャフト201の捩り振動のピークを低減する動的吸振効果を奏する。
【0021】
また、船外機のエンジン200は、クランクシャフト201の軸受部207などへ供給される潤滑油や、クランク室に供給される燃料油の一部などが、軸受部207の下側に配置された不図示のシール手段から僅かに漏出してトーショナルダンパ1上へ滴下することは避けられない。しかしながら、上述の構成を備えるトーショナルダンパ1によれば、エンジン200からの漏油は弾性体13の上側を覆うプレート14の円盤状の本体14aで受け止められ、プレート14の回転によって発生する遠心力によって、本体14aから外径側へ移動してフィン14bの外径端から振り切られ、環状質量体12の外周空間を経由して下方へ落下する。このため、弾性体13が漏油に浸されて膨潤により劣化するのを有効に防止することができる。
【0022】
また、エンジン200の停止時にプレート14上に漏油が滴下した場合は、遠心力による振り切り作用は得られないが、プレート14の本体14aには、弾性体13よりも大径で、外径側が低位となる環状の段差部14dが形成されているため、プレート14上の漏油がフィン14bの間のスリットを経由して下面へ廻り込んでも、段差部14dより内径側へ流れ込んで弾性体13を膨潤させることはなく、この漏油は、フィン14bの下向きの縁部から環状質量体12の外周側へ排出される。そして、環状質量体12の上面外径部には、外径側ほど低位となるテーパ面12aが形成されているため、漏油の一部がもし環状質量体12の上へ滴下したような場合でも、この漏油が内径側へ容易に流れ込まないようになっている。
【0023】
また、トーショナルダンパ1は、弾性体13が運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を減衰しており、言い換えれば、弾性体13は捩り振動の入力を受けて反復変形するのに伴い、内部摩擦によって発熱する。しかも、船外機の外殻100におけるカウル101に覆われた空間に配置されているので、エンジン200からの熱の影響を受けやすい。
【0024】
しかしながら、上述の構成を備えるトーショナルダンパ1によれば、プレート14の外径部に形成されたフィン14bは、クランクシャフト201と共に回転することによって筒状ハウジング208の内周空間に上方への空気流を惹起する。そして一般に、外殻100には、換気や、エンジン200への燃焼用の空気の供給などを目的として、下部に不図示の空気取入口が開設され、上部に不図示の排気口が開設されているため、フィン14bの送風作用によって、下方の空気取入口からの相対的に低温の空気が、筒状ハウジング208と環状質量体12との間の空間をエンジン200側へ向けて通過する。このため、弾性体13の熱は、環状質量体12を介して空気中へ放出され、さらにエンジン200で発生する熱と共に、外殻100の上部の排気口を通じて外気中へ排出される。特に、プレート14が熱伝導性の良い金属からなるものである場合は、フィン14bが冷却フィンとして機能するので、一層効率よく放熱される。
【0025】
したがって、先に説明した膨潤による弾性体13の劣化の防止に加え、熱負荷による弾性体13の劣化も有効に防止されるので、長期にわたって優れた振動低減機能を維持することができる。
【0026】
なお、プレート14の本体14aに形成した環状の段差部14dは、図示の例とは逆に外径側が高くなる形状であっても良く、この場合は、エンジン200側から滴下した漏油をプレート14の本体14a上に一時的に貯留しておき、回転時に遠心力により振り切って排出させることができる。
【0027】
また、フィン14bの形状は図示の例のほか、例えばターボファンやシロッコファン形状とすることによって、風量の向上、ひいては冷却効率の向上を図ることができる。
【0028】
また、プレート14は、環状質量体12の上部に嵌合等によって取り付けても良く、その他の細部についても種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 トーショナルダンパ
11 内周部材
12 環状質量体
13 弾性体
14 プレート
14b フィン
200 エンジン
201 クランクシャフト(駆動軸)