(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608277
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】電気化学セルと共に使用するためのフロー構造
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20191111BHJP
C25B 9/08 20060101ALI20191111BHJP
C25B 11/03 20060101ALI20191111BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20191111BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20191111BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20191111BHJP
【FI】
H01M4/88 Z
C25B9/08
C25B11/03
H01M8/0258
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-517399(P2015-517399)
(86)(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公表番号】特表2015-526840(P2015-526840A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】US2013045474
(87)【国際公開番号】WO2013188568
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】61/659,302
(32)【優先日】2012年6月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/817,682
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505163578
【氏名又は名称】ヌヴェラ・フュエル・セルズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ブランシェ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・ボイエン,ロジャー
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−101351(JP,A)
【文献】
特開2010−095738(JP,A)
【文献】
特開2003−138391(JP,A)
【文献】
特開2010−103075(JP,A)
【文献】
特開昭62−227097(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0264152(US,A1)
【文献】
特開平09−177803(JP,A)
【文献】
特表2012−508320(JP,A)
【文献】
特開2003−100323(JP,A)
【文献】
特開2003−282068(JP,A)
【文献】
特開2004−119108(JP,A)
【文献】
特開2003−226992(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0040926(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0003235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
C25B 9/08
C25B 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高差圧電気化学セルにおいて使用するための開口多孔質フロー構造の製造方法であって、該方法は、
70%より大きい空隙容量を有する多孔質金属材料を選択すること、
少なくとも1種の機械的な技術を使用して多孔質金属材料を圧縮することにより、多孔質金属材料の降伏強度を増加させること、および
圧縮された多孔質金属材料の一方の側に少なくとも1つの微孔性材料層を積層すること
を含み、
ここで少なくとも1つの微孔性材料層の平均細孔サイズは、圧縮された多孔質金属材料の平均細孔サイズよりも小さく、
多孔質金属材料は、4,000psi(27.579MPa)に等しいかまたはそれより大きい圧力で、多孔質金属材料の厚み方向に圧縮され、
圧縮後の多孔質金属材料は、55%より大きい空隙容量を有することを含む、上記製造方法。
【請求項2】
前記多孔質金属材料の圧縮前の平均細孔サイズが、10μmから1000μmの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの微孔性材料層と前記圧縮された多孔質金属材料との平均細孔サイズの比率が、0.5未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質金属材料が、金属発泡体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質金属材料が、焼結された金属フリットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質金属材料が、細孔サイズが異なる2つまたはそれより多くの多孔質金属材料を一緒に積層することによって形成された、多孔率が異なる2つまたはそれより多くの別個の領域を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
圧縮された多孔質金属基板、ここで圧縮は、4,000psi(27.579MPa)に等しいかまたはそれより大きい圧力を、多孔質金属基板の厚み方向で多孔質金属基板に与え、圧縮により、多孔質金属基板に塑性変形を生じさせ、多孔質金属基板の降伏強度を増加させることを含み、圧縮された多孔質金属基板は、55%より大きい空隙容量を有する、
及び
圧縮された多孔質金属基板の一方の側に積層された少なくとも1つの微孔性材料層、ここで少なくとも1つの微孔性材料層の平均細孔サイズは、圧縮された多孔質金属基板の平均細孔サイズよりも小さい、
を含む、高差圧電気化学セルにおいて使用するためのフロー構造。
【請求項8】
前記圧縮された多孔質金属基板が、12,000psi(82.737MPa)より大きい降伏強度を有する、請求項7に記載のフロー構造。
【請求項9】
多孔率の勾配が、前記圧縮された多孔質金属基板に複数の微孔性材料層を積層することによって前記フロー構造全体に形成され、ここで微孔性材料層は、それぞれすぐ直前の層の細孔サイズよりも小さい細孔サイズを有する、請求項7に記載のフロー構造。
【請求項10】
前記少なくとも1つの微孔性材料層の細孔サイズが、0.5μmから10μmの範囲である、請求項7に記載のフロー構造。
【請求項11】
前記圧縮された多孔質金属基板が、高密度領域と低密度領域とを含み、ここで高密度領域は、低密度領域より低い多孔率を有する、請求項7に記載のフロー構造。
【請求項12】
前記高密度領域が、低密度領域より高い降伏強度を有する、請求項11に記載のフロー構造。
【請求項13】
第一の電極、第二の電極、およびその間に堆積させたプロトン交換膜、
第一の圧縮された多孔質金属基板を含み、第一の電極と流体的および電気的に連通する第一のフロー構造、ここで第一の圧縮された多孔質金属基板を形成する圧縮は、4,000psi(27.579MPa)に等しいかまたはそれより大きい圧力を、多孔質金属基板の厚み方向に与えることを含み、圧縮により、多孔質金属基板に塑性変形を生じさせ、多孔質金属基板の降伏強度を増加させることを含み、圧縮された多孔質金属基板は、55%より大きい空隙容量を有する、および
第二の多孔質金属基板を含み、第二の電極と流体的および電気的に連通する第二のフロー構造
を含む、高差圧電気化学セル。
【請求項14】
第一および第二のフロー構造の少なくとも1つが、前記多孔質金属基板上に積層された少なくとも1つの微孔性材料層を含み、前記少なくとも1つの微孔性材料層の平均細孔サイズが、前記圧縮された多孔質金属基板の平均細孔サイズよりも小さい、請求項13に記載の高差圧電気化学セル。
【請求項15】
第一および第二のフロー構造少なくとも1つが、フロー構造中に多孔率の勾配を含む、請求項13に記載の高差圧電気化学セル。
【請求項16】
第一のフロー構造が、第二のフロー構造の密度レベルより大きい密度レベルに圧縮される、請求項13に記載の高差圧電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる2012年6月13日付けで出願された米国仮出願第61/659,302号、および2013年4月30日付けで出願された米国仮出願第61/817,682号の優先権を主張する。
【0002】
[0002]本発明の開示は、電気化学セルを対象とし、より具体的には、高差圧電気化学セルで使用するためのフロー構造の設計および製造方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
[0003]電気化学セルは、通常燃料電池または電解セルとして分類されるが、化学反応により電流を発生させたり、または電流の流れを使用して化学反応を誘導したりするために使用されるデバイスである。燃料電池は、燃料の化学エネルギー(例えば水素、天然ガス、メタノール、ガソリンなど)と酸化剤(空気または酸素)とを、電気と、熱および水の廃棄物とに変換する。基礎的な燃料電池は、正電荷を有するアノード、負電荷を有するカソード、および電解質と呼ばれるイオン伝導性材料を含む。
【0004】
[0004]様々な燃料電池技術において様々な電解質材料が利用されている。例えばプロトン交換膜(PEM)燃料電池は、電解質として高分子のイオン伝導膜を利用している。水素PEM燃料電池において、水素原子は、アノードで電気化学的に電子と陽子(水素イオン)とに分離する。電子はカソードへの回路を通って流れて電気を発生させ、その一方で陽子は電解質膜を介してカソードに放散する。カソードでは、水素の陽子が(カソードに供給された)電子および酸素と結合して、水および熱を生産する。
【0005】
[0005]電解セルは、それとは逆に稼働する燃料電池の代表である。基礎的な電解セルは、外部の電位が適用されると水を水素と酸素ガスとに分解することによって水素発生器として機能する。水素燃料電池または電解セルの基礎的な技術は、例えば電気化学的な水素の加圧、精製、または膨張などの電気化学的な水素の操作に適用できる。電気化学的な水素の操作は、水素の管理に従来使用されていた機械システムの実用的な代替物として出現した。エネルギーキャリアーとしての水素の商業化の成功および「水素経済」の長期的持続可能性は主に、燃料電池、電解セル、および他の水素の操作/管理システムの効率および費用対効果によって決まる。
【0006】
[0006]1つの燃料電池は、作動中、一般的に約1ボルトを生産できる。望ましい量の電力を得るには、個々の燃料電池を組み合わせて燃料電池スタックを形成する。燃料電池は連続して一緒にスタックされ、それぞれのセルはカソード、電解質膜、およびアノードを包含する。各カソード/膜/アノード接合体は、「膜電極接合体」、または「MEA」を構成し、これは通常、バイポーラプレートの両面上に支持される。プレート中に形成されたチャネル(これは、流れ場として知られている)を介してMEAの電極にガス(水素および空気)が供給される。バイポーラプレート(これは、流れ場プレートとしても知られている)は、機械的な支持を提供することに加えて、スタック中の個々のセルを電気的に連結しつつ物理的に分離する。
【0007】
[0007]
図1は、従来技術のPEM燃料電池10の様々な構成要素を示す概略的な分解組立図である。例示されているように、バイポーラプレート2は、アノード7A、カソード7C、および電解質膜8を含む「膜電極接合体」(MEA)の両側に配置されている。アノード7Aに供給された水素原子は、電気化学的に電子と陽子(水素イオン)とに分けられる。電子は、電気回路を介してカソード7Cに流れ、その過程で電気を発生させ、それと同時に陽子は、電解質膜8を介してカソード7Cに移動するカソードでは、陽子は(カソードに供給された)電子および酸素と結合して、水および熱が生産される。
【0008】
[0008]加えて、従来技術のPEM燃料電池10は、セル内のMEAの両側に導電性のガス拡散層(GDL)5を含む。GDL5は、ガスの輸送を可能にする拡散媒体として機能し、セル内の液体は、バイポーラプレート2と電解質膜8との間で電気伝導をもたらし、セルから熱やプロセス水を除去するのに役立ち、場合によっては電解質膜8への機械的な支持を提供する。GDL5は、電解質膜に面する側に電極7Aおよび7Cが配置された織布または不織布のカーボンクロス(carbon cloth)を含み得る。場合によっては、電極7Aおよび7Cは、隣接するGDL5または電解質膜8のいずれかの上にコーティングされた電極触媒(electrocatalyst)材料を包含する。炭素繊維ベースのGDLは、特に細孔パラメーターの制御が難しいという理由で、高差圧セルの性能要件を満たさないことが一般的である。それゆえに、いくつかの高圧電気化学セル、例えば電気化学的水素圧縮機、精製装置などは、細孔パラメーターをよりよく制御するためにGDL5を作製するのに「フリット」タイプの高密度に焼結された金属のスクリーンパック、またはエキスパンドメタルを使用している。しかしながら、「フリット」タイプの媒体はしばしば低い空隙率、高いガス流動抵抗をもたらし、作動中に簡単に水で溢れてしまうようになる。層状の構造(すなわち、スクリーンパックおよびエキスパンドメタル)は、高差圧での作動に好適な比較的高粘度のガス拡散層をもたらす。しかしながら、これらもまた、例えばスタックの冷却を難しくする高い接触抵抗、高い電流密度領域などの他の性能上の不利益を引き込む。従来のGDL構造の物理的な制限により、高差圧を必要とする手法における電気化学セルの適応性が制限される。そのため、電気化学セルの設計、耐久性、および効率を改善することが引き続き必要である。
【発明の概要】
【0009】
[0009]本発明の開示は、電気化学セルで使用するための流れ場およびガス拡散層の設計および製造を対象とする。特に、本発明の開示は、電気化学セルで使用するための立体的な多孔質フロー構造の設計および製造方法を対象とする。このようなデバイスは、これらに限定されないが、燃料電池、電解セル、水素精製装置、水素エキスパンダー(hydrogen expander)、および水素圧縮機などの高差圧下で作動する電気化学セルで使用できる。
【0010】
[0010]本発明の開示の第一の形態は、電気化学セルにおいて使用するための開口多孔質フロー構造の製造方法である。本方法は、約70%より大きい空隙容量を有する多孔質金属材料を選択する工程、少なくとも1種の機械的な技術を使用して多孔質金属材料を圧縮する工程、および多孔質金属材料の一方の側に少なくとも1つの微孔性材料層を積層する工程を含み、ここで少なくとも1つの微孔性材料層は、圧縮された多孔質金属材料の平均細孔サイズよりも小さい平均細孔サイズを有するように選択される。
【0011】
[0011]本発明の開示の他の形態は、電気化学セルにおいて使用するためのフロー構造である。フロー構造は、圧縮された多孔質金属基板と、圧縮された多孔質金属基板の一方の側に積層された少なくとも1つの微孔性材料層とを含み、ここで少なくとも1つの微孔性材料層の平均細孔サイズは、圧縮された多孔質金属基板の平均細孔サイズよりも小さい。
【0012】
[0012]本発明の開示のさらなる他の形態は、高差圧における作動で使用するための電気化学セルである。電気化学セルは、第一の電極、第二の電極、およびその間に堆積させたプロトン交換膜を含む。電気化学セルはさらに、第一および第二のフロー構造を包含し、ここで第一のフロー構造は、第一の電極および膜と流体的および電気的に連通する第一の圧縮された多孔質金属基板を含み、第二のフロー構造は、第二の電極および膜と流体的および電気的に連通する第二の圧縮された多孔質金属基板を含む。
【0013】
[0013]添付の図面は、本明細書に包含されてその一部を構成するものであり、本発明の実施態様を例示し、説明と共に本発明の様々な形態の原理を解説するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、従来技術のプロトン交換膜(PEM)燃料電池の様々な構成要素を示す概略的な分解組立図を例示する。
【
図2A】
図2Aは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、圧縮前の多孔質金属材料を例示する。
【
図2B】
図2Bは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、圧縮後の多孔質金属材料を例示する。
【
図3】
図3は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、3種の異なる多孔質金属材料の相対密度を暴露負荷(exposure stress)の関数として例示する。
【
図4】
図4は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、フロー構造−電解質膜の境界で測定された接触抵抗を接触圧力の関数として例示する。
【
図5A】
図5Aは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、圧縮されていない多孔質金属材料を例示する。
【
図5B】
図5Bは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、圧縮し微孔性材料層で積層した後の多孔質金属材料を例示する。
【
図6A】
図6Aは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスを形成する方法を例示する。
【
図6B】
図6Bは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスの様々な配置を例示する。
【
図6C】
図6Cは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスの様々な配置を例示する。
【
図6D】
図6Dは、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスの様々な配置を例示する。
【
図7】
図7は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスを形成する別の方法を例示する。
【
図8】
図8は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る多孔質金属材料を示す概略図を例示する。
【
図9】
図9は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る多孔質金属材料を示す別の概略図を例示する。
【
図10】
図10は、本発明の開示の典型的な実施態様に係る2セル型の電気化学的な水素圧縮スタックに関する加えられた圧力のバリエーションを時間の関数として例示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0027]前述の一般的な説明と以下の詳細な説明とはいずれも単なる例示および説明であり、特許請求された発明を限定しないことが理解されよう。
【0016】
[0028]以下、本発明の開示に合致する所定の実施形態について述べ、その例を添付の図面で例示する。可能な限り、同じまたは類似の部品を指す場合は図面全体にわたり同じ参照番号を使用する。水素、酸素、および水を用いるプロトン交換膜(PEM)燃料電池に関して説明するが、本発明の開示のデバイスおよび方法は、例えば高差圧下で作動する電気化学セルなどの様々な種類の電気化学セルで採用できることが理解されよう。本明細書で使用される場合、用語「PEM」および「電解質膜」は同義的に使用され、プロトン交換膜を指す。
【0017】
[0029]本発明の開示は、高差圧電気化学セルの流れ場プレートおよびGDLとして使用するための立体的な多孔質基板の製造を対象とする。本発明の開示の例示的な実施態様において、流れ場プレートおよびガス拡散層は、金属発泡体または他の多孔質金属基板を使用して製造される。このような実施態様の一つにおいて、PEMの各側の反応物ガスは流れ場プレートに沿って流動し、多孔質GDLを介して放散してPEMに達する。代替の実施態様において、多孔質金属の流れ場プレートはまた、典型的に必要とされるGDLの機能を果たすこともでき、それにより電気化学セル接合体からGDLを排除する可能性ももたらされる。他の代替の実施態様において、異なる平均細孔径を有する2つの別個の層(より大きい細孔は流れ場プレートを構成し、より小さい細孔はGDLの代用である)からなる多孔質金属基板は、PEMと接触して配置できる。したがって、以下、特に他の規定がない限り、流れ場プレートおよびGDLは、「フロー構造」と総称される。しかしながら、従来のGDLで使用するための多孔質金属の流れ場プレートを製造したり、または従来のチャネルタイプの流れ場プレートと組み合わせて使用するための多孔質金属GDLを製造したりすることも本発明の開示の範囲内である。
【0018】
[0030]本発明の開示の第一の形態は、電気化学セルにおいて使用するためのフロー構造を多孔質金属材料から製造する方法である。1つの例示的な実施態様において、開口したセル状のフロー構造は、例えば発泡体、焼結された金属フリット(sintered metal frit)、または他のあらゆる多孔質金属などの高度に多孔質な金属材料を圧縮することによって形成できる。多孔質金属材料としては、例えばステンレス鋼、チタン、アルミニウム、ニッケル、鉄などの金属、または例えばニッケルクロム合金などの金属合金が挙げられる。いくつかの例示的な実施態様において、金属材料中の細孔サイズは、約10から約1000μmの範囲であってもよい。例えば、金属材料の細孔サイズは、約20μmから約1000μm、例えば約50μmから約1000μm、約20μmから約900μmなど、約30μmから約800μm、約40μmから約700μm、約50μmから約600μm、約60μmから約500μm、約70μmから約500μm、約100μmから約450μm、約200μmから約450μm、および約350μmから約450μmの範囲であってもよい。例示的な実施態様において、金属材料の平均細孔サイズは、約400μm、約500μm、または約800μmである。さらなる実施態様において、金属材料の空隙容量は、約70%から約99%の範囲である。例えば、金属材料の空隙容量は、約70%から約98%、例えば約75%から約98%、約75%から約95%、約75%から約90%、約75%から約85%、約70%から約80%、約73%から約77%、約80%から約90%、約83%から約87%、約90%から約99%、および約93%から約97%の範囲であってもよい。例示的な実施態様において、金属材料の空隙容量は、約75%、約85%、または約95%であってもよい。
【0019】
[0031]このような実施態様の一つにおいて、約95%の空隙容量および約400μmの平均細孔サイズを有する金属材料が、出発原料として使用される。次いで多孔質金属材料は、1種またはそれより多くの機械的な技術(例えば、プレス、圧延、圧印、鍛造など)を使用することによって圧縮できる。
【0020】
[0032]
図2Aおよび2Bに、圧縮プロセスの前および後の多孔質金属材料を例示する。
図2Aで示されるように、リガメント20とリガメント20間の空隙40とが、圧縮前の多孔質金属材料に全体として立体的な構造を生み出す。圧縮プロセス後、リガメント20は、
図2Bで例示されるように実質的に2次元のネットワークを形成するが、空隙40は立体的に連結されたままである。典型的な実施態様において、圧縮プロセスは、リガメント20の塑性変形を引き起こして材料の降伏強度を増加させる可能性がある(歪み硬化または冷間加工としも知られている)。いくつかの実施態様において、圧縮プロセス中に、リガメント20は折り重なって互いに接触する可能性があり、それによりマトリックスの有効な強度をさらに増加させることができる。したがって、圧縮プロセスは、多孔質金属材料の強度を増加させることができる。例えば、一実施態様において、圧縮前の多孔質金属材料の降伏強度は30psiであり、圧縮後の降伏強度は14,000psiに増加する。圧縮プロセスの後も空隙40は立体的に連結されたままなので、圧縮された多孔質金属構造は、流体の通過を可能にする十分な多孔率を維持できる。
【0021】
[0033]典型的な実施態様において、電気化学セルのフロー構造の1つが形成されるように意図された多孔質金属材料は、電気化学セルの意図された作動圧力(「P
operation」)に等しいかまたはそれより大きい晒された軸方向負荷レベル(「P
exposed」)に圧縮される。例えば、電気化学セルを約4,000psiの差圧で作動させることが意図される場合、セル中のフロー構造の1つを形成する多孔質金属材料は、約4,000psiに等しいかまたはそれより大きい負荷レベルに圧縮される。高差圧電気化学セルの典型的な実施態様において、低圧のフロー構造(すなわち、セルのアノード側にあるフロー構造)は、高圧のフロー構造(すなわち、セルのカソード側にあるフロー構造)の密度レベルより大きい密度レベルに圧縮される。いくつかの実施態様において、暴露負荷と作動圧力との比率(P
exposed/P
operation)は、約1から約1.5の値の範囲である。
【0022】
[0034]
図3は、3種の異なる多孔質材料の相対密度を暴露負荷の関数として示し、ここで暴露負荷は約0から約20,000psiの範囲であり、相対密度は約5%から約45%の範囲である(空隙容量は1−相対密度と定義され、約55%から約95%の範囲である)。例えば、1つの例示的な実施態様において、多孔質金属材料の相対密度は、暴露負荷が約14,000psiのときに約35%である。
図3で示されるように、多孔質金属材料の密度は、暴露負荷と共に増加する可能性がある。暴露負荷を調節することによって、フロー構造中の細孔のサイズ、形状、および分布(すなわち得られたフロー構造の密度)を目的に合わせて調整し、高差圧での電気化学的な作動に必要な機械的強度を達成することもできる。一実施態様において、例えば、圧縮により、結果得られたマトリックスで約55%の空隙容量(相対密度は約45%)を維持しながら約12,000psiより大きい機械的強度を達成することが可能である。
【0023】
[0035]いくつかの実施態様において、圧縮された多孔質金属フロー構造は、電解質膜とフロー構造との境界における電気的な接触抵抗を低くすることができる。接触抵抗は、一般的に相互作用する2つの表面間の接触圧力に依存しており、接触圧力が増加するにつれて接触抵抗は減少する。
図4は、典型的な圧縮された金属マトリックスの電気的な接触抵抗を接触圧力の関数として示し、ここで接触圧力は約1から約300kgf/cm
2の範囲であり、接触抵抗は約2から100mΩ−cm
2の範囲である。
図4で例示されるように、接触圧力を増加させると、フロー構造−PEMの境界における接触抵抗を減少させることができる。一実施態様において、圧縮された金属マトリックスの接触抵抗は、低い接触圧力でも低い可能性がある(例えば、約50mΩ−cm
2未満)。接触圧力が増加すれば、接触抵抗をさらに減少させることができる。
【0024】
[0036]境界での接触抵抗は、接触する対の表面トポグラフィーによっても左右される。接触する表面の粗さの形状は、実際の接触部の面積を小さくする可能性があり、電流は接触する隆起部分にしか流れないため、境界への電圧が低下する可能性がある。本発明の開示の典型的な実施態様において、圧縮プロセスは、少なくとも1つの平坦で滑らかな表面を有する多孔質金属フロー構造が得られるように設計される。例えば、一実施態様において、測定された表面粗さ(Ra)は、約32μin未満であってもよい。他の実施態様において、圧縮に使用される機械加工ツールは、約20μin、約10μin、または約5μin未満の表面粗さが達成されるように選択され設計される。さらに圧縮された金属マトリックスの表面の平面度を測定して、境界における最適な接触抵抗を確認してもよい。典型的な実施態様において、測定された平面度は、約0.002インチ未満であってもよい。他の実施態様において、平面度は、約0.001インチ未満、または約0.0005インチ未満であってもよい。圧縮された多孔質金属フロー構造の高度な平面度および低い表面粗さにより、相互作用するセルの構成要素間で最適な接触抵抗を達成できる。
【0025】
[0037]本発明の開示の別の形態において、圧縮された多孔質金属マトリックスの一方の側に微孔性材料層(MPL)を積層して、フロー構造を形成してもよい。例えば、圧縮プロセス前に、MPLを多孔質金属マトリックスに積層してもよいし、または圧縮プロセス後に、MPLを多孔質金属マトリックスに積層してもよい。積層は、カレンダー加工、プレス、または多孔質材料へのMPLのコーティングを包含してもよい。平坦で滑らかな積層表面は、電気化学セルの電解質膜の隣に配置してもよい。
【0026】
[0038]典型的な実施態様において、MPLの細孔サイズは、約0.1から50μmの範囲である。例えば、MPLの平均細孔サイズは、約0.1μmから約40μm、例えば約0.5μmから約20μm、約0.5〜10μm、約1μmから約10μmなどの範囲であってもよい。例示的な実施態様において、積層されたMPLの平均細孔サイズは、圧縮された層の平均細孔サイズよりも小さく、それにより、金属製のフロー構造全体に多孔率の勾配を形成し、電解質膜への機械的な支持体の分配を容易にすることができる。例えば、MPLと圧縮された多孔質マトリックスとの平均細孔径の比率(細孔
MPL/細孔
compacted_matrix)は、約0.5であってもよい。他の実施態様において、細孔
MPL/細孔
compacted_matrixは、約0.4未満、約0.3未満、約0.2未満、約0.1未満、または約0.05未満であってもよい。
【0027】
[0039]典型的な実施態様において、多孔率の勾配は、それぞれすぐ直前の層の平均細孔サイズよりも小さい平均細孔サイズを有する複数のMPLを積層することによって形成できる。圧縮された多孔質マトリックスに複数のMPLを積層することによって得られた細孔サイズの勾配は、
図5A(圧縮前)および
図5B(圧縮および積層後)の図解で例示される。細孔サイズにおける勾配は、高差圧下で作動する電気化学セルにとって望ましい可能性があり、これはなぜなら、このような勾配は、フロー構造全体に機械的な負荷を効果的に再分配するのに役立ち、それと同時に精密に勾配化した膜との接触を維持して、ガス拡散に最適な多孔率を提供し、多孔質フロー構造に向かってPEMが「膨張」しないようにするためである。
【0028】
[0040]典型的な実施態様において、電極触媒が膜電極接合体に一体化されない場合、MPLに電極触媒層をコーティングしてもよい。結果得られた積層構造は、電気化学セル中で電極触媒層がPEMと接触して配置された状態で配列される可能性がある。
【0029】
[0041]例示的な実施態様において、単一の圧縮された多孔質金属マトリックス内の変動する多孔率は、サイズが異なる2つまたはそれより多くの金属マトリックスを積層することによって達成できる。このような実施態様の一つにおいて、最終的な圧縮されたマトリックスを形成する2つまたはそれより多くの多孔質金属マトリックスのそれぞれの最初の多孔率は、同じである。他の実施態様において、2つまたはそれより多くの多孔質金属マトリックスの最初の多孔率は、互いに異なる。
図6Aは、どのようにサイズが異なる2つの多孔質金属マトリックス60、65が一緒に積層されて、変動する多孔率を有する単一の圧縮された多孔質金属マトリックス70を形成するかを例示する。このような実施態様の一つにおいて、得られるマトリックス70は、相対密度が異なる2つの別個の領域72、74、すなわち低密度領域72および高密度領域74を含む。低密度領域72は、高密度領域74よりも高い多孔率を有し、高密度領域74よりも小さい流動抵抗を提供する。またいくつかの実施態様において、低密度領域72はさらに、高密度領域74よりも低い降伏強度も有する。
【0030】
[0042]
図6B〜6Dは、変動する多孔率を有する圧縮された多孔質金属マトリックスの様々な実施態様を示す。
図6Bおよび6Cは、それぞれフレームが長方形の圧縮されたマトリックス70とフレームが円形の圧縮されたマトリックス70とを例示し、この場合、高密度領域74の両側は低密度領域72で取り囲まれる。
図6Dは、長方形のストリップ型の圧縮されたマトリックス70を例示し、この場合、マトリックスの中央領域全体は、上部および下部に低密度領域72が配置された高密度領域74を含む。
【0031】
[0043]いくつかの実施態様において、電気化学セルのフロー構造の1つが形成されるように意図された多孔質金属材料は、例えばリガメントの消失、大きい細孔径、低い金属含量などの欠陥を有する可能性があり、その結果として、その周囲にある多孔質金属材料領域よりも低い降伏強度および弾性係数を有する可能性が高い低密度領域が生じる。低密度領域を有する多孔質金属材料で形成されたフロー構造は、電気化学セル中に高差圧が存在するときに電解質膜を十分支持できない可能性があり、さらに膜から突き出たり、または膜を破裂したりする可能性がある。フロー構造中で弱い領域が形成されないように、多孔質金属材料の低密度領域をより強く押し潰して、その結果として厚さが不均一な圧縮された多孔質金属マトリックスを得る。典型的な実施態様において、
図7で示されるように、圧縮プロセスは、1つまたはそれより多くの加圧デバイス18で多孔質金属材料50中の低密度領域を押し潰すことを包含してもよい。金属材料の相対密度は、圧縮前に約5%から約45%の範囲であってもよい。相対密度範囲の例としては、例えば、約10%から約40%、約10%から約35%、約10%から約30%、約10%から約25%、約10%から約20%、約15%から約40%、約15%から約35%、約15%から約30%、約15%から約25%、約20%から約40%、約20%から約35%、約20%から約30%、約25%から約40%、および約25%から約35%などが挙げられる。
【0032】
[0044]以下でより詳細に説明されるように、1つまたはそれより多くの加圧デバイス18は、多孔質金属材料50に全体的に均一な圧力を付与できる。それにより多孔質金属材料50中の低密度領域をより強く押し潰すことが可能になり、結果として厚さが不均一な圧縮された多孔質金属マトリックスが得られる。多孔質の導電性フィラー材料を圧縮された多孔質金属材料の表面に適用して、押し潰された領域を充填してもよく、そうすることにより、圧縮された多孔質金属マトリックスは、滑らかな表面、全体的に均一な厚さ、ならびにほぼ均一な降伏強度および弾性係数を得ることができる。多孔質金属材料50は、圧縮後、約12,000psiより大きい機械的強度、および約500,000psiの弾性係数を有する可能性がある。
【0033】
[0045]1つまたはそれより多くの加圧デバイス18は、例えば、多孔質金属材料50を圧縮または加圧するのに好適なあらゆるデバイスを包含してもよい。例えば、1つまたはそれより多くの加圧デバイス18は、1つもしくはそれより多くのローラー、1つもしくはそれより多くのブリックもしくはプレート、1つもしくはそれより多くのブラダー、または1つもしくはそれより多くの高圧をかけるように設計された材料を含んでいてもよい。1つまたはそれより多くの加圧デバイス18は、類似の、または異なるコンプライアンスを有するデバイスを包含し得る。1つまたはそれより多くの加圧デバイスで多孔質金属材料50を加圧する好適な方法としては、例えば、スタンピング、カレンダー加工、またはハイドロホーミングなどが挙げられる。
【0034】
[0046]いくつかの実施態様において、1つまたはそれより多くの加圧デバイス18は、第一のローラー20および第二のローラー22を包含し得る。1またはそれより多くのローラー20、22は、カレンダー加工プロセスを介して多孔質金属材料50に圧力をかけることができる。例えば、
図7で示されるように、第一のローラー20は、多孔質金属材料50の第一の表面12と接触してもよく、第二のローラー22は、多孔質金属材料50の第二の表面14と接触してもよく、ここで第二の表面14は、第一の表面12の反対側にある。多孔質金属材料50が第一および第二のローラー20、22の間で加圧されるように、第一および第二のローラー20、22が実質的に同時に多孔質金属材料50と接触してもよい。
図7で示されるように、第一のローラー20は、第二のローラー22の回転とは逆方向に多孔質金属材料50に沿って回転してもよい。しかしながら、第一および第二のローラー20、22は、同じ方向で多孔質金属材料50に沿って回転し得ることも考慮される。第一のローラー20および第二のローラー22は、同じ速度または異なる速度で多孔質金属材料50と接触してもよい。
【0035】
[0047]厳選された実施態様において、第一のローラー20は、柔らかい、または順応しやすいローラーを包含してもよいし、第二のローラー22は、硬い、または曲がりにくい材料を包含してもよい。例えば、第一のローラー20は、例えばポリウレタン、ポリエチレンおよびゴムなどの高いデュロメーター値を有するポリマーを包含してもよい。いくつかの実施態様において、第一のローラー20は、柔らかい、または順応しやすい外側の被覆、例えばフェルト、またはポリウレタンもしくはゴムなどのエラストマー材料を包含してもよい。第二のローラー22は、例えば、カーボン紙、カーボンクロス、およびエラストマー材料などを包含してもよい。他の実施態様において、第一および第二のローラー20、22はどちらも、硬化した材料を包含してもよい。硬化した材料は、高い硬度を有する材料、または硬化した表面が生じるように処理された材料を包含してもよい。
【0036】
[0048]いくつかの実施態様において、第一および第二のローラー20、22は、円柱形のローラーではなく、硬い、または曲がりにくい平坦なプレートを包含してもよい。プレート間で多孔質金属材料50を加圧してもよい。他の実施態様において、第一および第二のローラー20、22は、ハイドロホーミング用ブラダーを含んでもよい。
【0037】
[0049]他の実施態様において、第一および第二のローラー20、22は、ハイドロホーミングプロセスを介して多孔質金属材料50に圧力をかけることができる。例えば、第一のローラー20は、型に注入される高圧流体を包含してもよいし、第二のローラー22は、ネガ型を包含してもよい。作動液は、金属材料の望ましい降伏強度より高く、例えば約12,000psiより高く加圧されてもよい。いくつかの実施態様において、高圧流体は、型ではなくブラダーに注入されてもよい。多孔質金属材料50は、第一のローラー20の圧力と第二のローラー22の圧力の間に加圧されてもよい。例えば、多孔質金属材料50は、金属材料の望ましい降伏強度より大きい圧力、例えば約12,000psiより大きい圧力にプレスしてもよい。1つまたはそれより多くの加圧デバイス18で加圧した後、多孔質金属材料50は、35%の相対密度を有する可能性がある。圧縮された多孔質金属材料50の表面粗さは、約20μinから約5μinの範囲であってもよい。いくつかの実施態様において、多孔質金属材料50は、加圧デバイス18で加圧した後、様々な粗さを有する表面を包含する可能性がある。例えば、加圧後、第一の表面12は、第二の表面14よりも滑らかな表面を包含する可能性がある。さらに、多孔質金属材料50は、加圧後、およそ12,000psiの降伏強度およびおよそ500,000psiの弾性係数を有する可能性がある。
【0038】
[0050]第一および第二のローラー20、22は、多孔質金属材料内の低密度領域を押し潰すのに十分な均一な圧力を多孔質金属材料50に付与できる。いくつかの実施態様において、均一な圧力は、多様な表面または不均一な表面を有する多孔質金属材料50をもたらす可能性がある。例えば、低い密度領域は、多孔質金属材料50におけるそれより高密度の領域よりも強く押し潰される可能性があるため、低密度領域は、多孔質金属材料50の外面上に表面形状24を形成するようになる。
図8で示されるように、表面形状24には、外面層中の自然のランダムな偏り、押し潰されたポケット、溝、またはへこみなどが含まれる。
【0039】
[0051]1種またはそれより多くのフィラー30を圧縮された多孔質金属材料に適用して、実質的に均一な外面を得てもよい。
図8で示されるように、表面形状24中にフィラー30を充填して、実質的に滑らかで平坦な外面を形成できる。滑らかで平坦な外面は、約0.0005インチ未満の表面の平面度を有する可能性がある。いくつかの実施態様において、
図9で示されるように、フィラー30は、圧縮された多孔質金属材料のための実質的に滑らかな外側の被覆を形成する場合もある。被覆の厚さは、約0.010インチから約0.001インチであってもよい。さらに、この厚さは、加圧プロセスでどれだけ深く多孔質金属材料50が変形したかによって決まる場合があることも考慮される。
【0040】
[0052]フィラー30は、圧縮プロセス後に多孔質金属材料50の表面上に積層してもよい、積層は、カレンダー加工、プレス、または多孔質金属材料50上への多孔質金属材料のコーティングを包含してもよい。
【0041】
[0053]フィラー30は、多孔質であってもよいし、加圧デバイス18に十分耐えて、且つ第一および第二のローラー20、22によって多孔質金属材料50に押し出されない材料で構成されていてもよい。このような材料としては、導電材料、例えばグラファイトエポキシ、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイトビーズ、またはガラスビーズなどが挙げられる。またフィラー30は、MPLとしても機能する場合がある。いくつかの実施態様において、フィラー30としては、バインダー32、例えばグラファイトエポキシなど、非導電性エポキシ、NAFION(登録商標)、TEFLON(登録商標)、またはグラファイトエポキシが挙げられる。バインダー32は、フィラー材料の強度を高めることができる。バインダー32は、フィラー30の形態で約100v/v%から約5v/v%で存在してもよい。一実施態様において、フィラー30としては、カーボンブラックおよびNAFION(登録商標)の混合物を包含する。他の実施態様において、フィラー30としては、カーボンブラックおよびテフロン(TEFLON)(登録商標)の混合物を包含する。さらにその他の実施態様において、フィラー30およびバインダー32はどちらも、グラファイトエポキシを包含する。
【0042】
[0054]加えて、フィラー30は、細孔形成剤、繊維、および粉末などの1種またはそれより多くの添加剤を包含してもよい。添加剤は、約95v/v%から約0v/v%で存在してもよい。細孔形成剤は、グリコール、PEG(ポリエチレングリコール)、またはPVP(ポリビニルピロリドン)を包含してもよい。細孔形成剤は、ベーキングで除去してもよいし、または多孔質金属材料から溶解させてもよい。細孔形成剤によって生じた開口した細孔構造は、電極7A、7Cへの、さらに電極7A、7Cからの水およびガスの通過を可能にする。
【0043】
[0055]いくつかの実施態様において、
図9で示されるように、フィラー30は、多孔質金属材料50とバイポーラプレート51とを接着して完全なフロー構造が形成されるように設計されてもよい。例えば、フィラー30中のバインダー32は、多孔質金属材料50と、多孔質金属材料50と反対側に配置されたバイポーラプレート51とを接着できる。
【0044】
[0056]さらに本発明の開示のプロセスは、1つまたはそれより多くの加圧デバイス18での繰り返しの加圧を包含してもよいことも考慮される。例えば、多孔質金属材料50は、フィラー適用後に第一および第二のローラー20、22で再度加圧してもよい。次いで第二のフィラーを多孔質金属材料50に適用してもよく、この場合、第二のフィラーは、最初のフィラーと同一でもよいし、または異なっていてもよい。
【0045】
[0057]結果的に、開示された方法によって生産されたフロー構造は、およそ0.25mm〜約1mmの均一な厚さを有する可能性がある。加えて、フロー構造は、約12,000psiから約15,000psiの範囲の実質的に均一な降伏強度を有する可能性がある。フロー構造の弾性係数は、約100,000から約500,000の範囲であり得る。
【実施例】
【0046】
電気化学的な水素圧縮におけるフロー構造としての多孔質金属材料の使用
[0058]本明細書で説明される製造方法を使用して、水素圧縮に使用されるPEM電気化学セルのフロー構造を製造した。具体的に言えば、材料の降伏強度を高めるために、高度に多孔質な金属マトリックスを圧縮することによってフロー構造(PEMの一方の側または両側)を製造した。圧縮前の多孔質金属マトリックスの平均細孔サイズは約400μmであった。圧縮後、金属マトリックスの平均細孔サイズは、約50〜100μmであった。次いで、圧縮された多孔質金属マトリックスそれぞれの少なくとも1つの表面に、約0.5μmから10μmの細孔サイズを有する微孔性材料層(MPL)を積層して、フロー構造全体に多孔率の勾配を形成した。積層された表面とPEMとを接触させてフロー構造を電気化学セル中に配置した。電気化学セルのPEMとして、50μmのPFSA(パーフルオロスルホン酸)膜を使用した。
【0047】
[0059]
図10は、電気化学的な水素圧縮セルが受ける差圧の範囲を例示し、ここで差圧は、注入口の水素の圧力と加圧された水素の圧力との差として測定された。注入口の水素の圧力は、約0から約25psiの範囲であり、加えられた圧力は約0から約12,000psiの範囲であった。すなわち、本電気化学セルは、膜を破裂させることなく約12,000psiより大きい差圧で作動が可能である。
【0048】
[0060]本発明の開示は、電解質膜が破裂したりまたは突き出たりしないような、MEAを適切に支持しそれと接触するのに十分かつ均一な強度を有する流れ場プレートを提供する。流れ場プレートは、滑らかで平坦な外面を付与しつつ低密度領域を補うことができる。それにより、電気化学セルの効率を高め、高いガス圧力差下でのダメージを防ぐことができる。加えて、本発明の開示の流れ場プレートは、低圧の流れ場と電極との間により均一な電気的な接触を提供する可能性もあり、それによって電気化学セル効率が改善される。
【0049】
[0061]当業者であれば、本明細書で開示された発明の説明および実施を考察すれば、本発明の他の実施態様は明らかであろう。本明細書および実施例は単なる例示とみなされ、本発明の真の範囲および本質は以下に記載の請求項で示されるものとする。
【符号の説明】
【0050】
2 バイポーラプレート
5 ガス拡散層(GDL)
7A アノード
7C カソード
8 電解質膜
10 PEM燃料電池
20 リガメント
40 空隙
60、65 多孔質金属マトリックス
70 圧縮された多孔質金属マトリックス
72 低密度領域
74 高密度領域
12 第一の表面
14 第二の表面
18 加圧デバイス
20 第一のローラー
22 第二のローラー
50 多孔質金属材料
24 表面形状
30 フィラー
32 バインダー
51 バイポーラプレート