【実施例】
【0070】
以下の実施例は、特許請求される発明をより詳細に説明するために提供されるものであって、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。具体的な材料に言及する場合、それは単に説明が目的であり、本発明を限定することを意図するものではない。当業者であれば、発明能力を発揮せずとも、また本発明の範囲から逸脱することなく、同等の手段または反応物を開発し得る。
【0071】
実施例1:一本鎖オリゴヌクレオチドおよび合成mRNAの送達
合成mRNAの送達は、遺伝子送達に代わる改善された代替法である。遺伝子送達ベクターの場合、遺伝子発現を可能にするには核を突破しなければならないのに対して、mRNAは、タンパク質産物を翻訳させるために細胞質内に送達するだけで済む。このような方法は、例えば、体細胞に多能性を誘導するために、いわゆる山中因子を発現させるのに用いられる。従来の「リポフェクション」はin vitroでmRNAを送達するのに有用であり得るが、このシステムおよびこれと同様のシステムはin vivoでは効果がない。
【0072】
本開示の標的細胞貫通タンパク質であるHerPBK10は、in vivoで核酸および薬物を送達するのに有効であることがわかった。ほかにも、遺伝子および薬物の送達用に関連タンパク質のPBK10を開発した。HerPBK10は、ヒト上皮成長因子受容体(HER3)との相互作用を介して細胞との標的化結合および貫通を容易にし、PBK10は、インテグリン相互作用を介してこの作用を発揮する。
【0073】
以下に、HerPBK10およびPBK10が一本鎖オリゴヌクレオチドおよび合成mRNAの送達に有用であることを示す。
【0074】
HerPBK10はMDA−MB−435細胞内に標識オリゴヌクレオチドを輸送する。HerPBK10が一本鎖オリゴヌクレオチド送達を仲介し得るかどうかを明らかにするため、Cy3標識オリゴヌクレオチド(50 pmol)を0.1M HEPES/Optimem I(Invitrogen社;カールスバッド、カリフォルニア州、米国)中、HerPBK10(5μg)または比較対照である市販のトランスフェクション試薬、Lipofectamine 2000(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)と室温で20分間インキュベートした。得られた混合物をHERを発現するMDA−MB−435細胞に加え、37℃で1時間インキュベートした。細胞を室温で15分間、4%PFAで固定し、HerPBK10に対する免疫蛍光を実施した。細胞をDAPIで対比染色して核を識別した。Leica SP2走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を取得した。Lipofectamine仲介による取込みでは、予想された通り、細胞内にオリゴヌクレオチドの局在がみられた(
図1A)。重要なのは、HerPBK10−オリゴ複合体の結合および取込み時にHerPBK10とオリゴヌクレオチドの共局在がみられる(
図1B)ことであり、HerPBK10がオリゴヌクレオチドの細胞内への輸送を仲介することが示唆される。
【0075】
PBK10はmRNA送達を仲介する。GFPをコードする1kbの合成mRNA(
図2A)を用いて、PBK10が細胞内への送達を仲介してタンパク質を発現させる能力を検討した。GFP発現を、リポフェクチンで送達したmRNAと、リポフェクチンで送達したGFP発現プラスミドとで比較した。mRNAをリポフェクチンで送達したところ、HeLa細胞に蛍光顕微鏡で検出可能なレベルのGFP発現がみられた(
図2B)。PBK10と、GFPをコードする合成mRNAとをPBK10:mRNAの重量比20:1で、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)中、室温で約20分間混合した後、約50〜70%の集密度で付着HeLa細胞に加えた。これにより、PBK10は、それまでに送達用にPBK10を開発した遺伝子送達複合体とほぼ同じmRNAとの複合体を形成した(
図2C)。
【0076】
最初に、PBK10とmRNAとの間で作製した複合体の細胞結合を評価することにより、PBK10が送達を仲介する能力を検討した。PBK10−mRNA複合体をHeLa細胞とともに氷上でインキュベートして、内部移行は促進せずに受容体結合を促進した後、細胞を洗浄して遊離(未結合)複合体を除去し、PBK10に対する一次抗体を用いてELISAで処理し、細胞表面結合複合体を識別した。ELISAベースの細胞表面結合の検出から、複合体(PBK10+mRNA)が細胞と結合することがわかった(
図2D)。ほかにも、PBK10(mRNAを含まない)を細胞上でインキュベートした後、細胞にPBK10のみに対する免疫蛍光を実施した。細胞結合複合体の取込みを確認するため(E)、上に記載したように、細胞を複合体とともに氷上でインキュベートし、洗浄した後、37℃まで温めて内部移行を促進した。温めた後、示される時点で細胞を固定し、PBK10(緑)に対する免疫蛍光を実施した。細胞をローダミンファロイジンおよびDAPIで対比染色して、それぞれアクチン(赤)および核(青)を識別した。Leica SPE走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を取得した。観察結果から、複合体が時間依存性にHeLa細胞内に内部移行したことがわかる(
図2E)。別の組のHeLa細胞をPBK10−mRNA複合体とインキュベートし、約24時間後、細胞を固定してGFPに対する免疫蛍光を実施した。観察結果から、PBK10仲介によるmRNAの送達後、GFP発現は検出可能であるが、その頻度は低い(細胞数が少ない)ことがわかる(
図2D)。十分なGFP発現(免疫蛍光により検出可能なもの)を可能にする最適なPBK10:mRNAの重量比は20であった(
図2E)。以上の観察結果は、タンパク質PBK10およびHerPBK10はともに同様の方法で核酸と相互作用するため、PBK10またはHerPBK10によってmRNAを送達することが可能であったことを示している。
【0077】
実施例2:c−Metに標的化したタンパク質ナノ構築物
受容体チロシンキナーゼ(RTK)であるc−METおよびその内在性リガンドである肝細胞増殖因子(HGF)は、正常組織の発生過程で細胞遊走、形態形成分化および三次元環状構造の組織化のほか、細胞増殖および血管新生に寄与する。しかし、c−METおよびHGFの調節異常は腫瘍進行に寄与する可能性があり、そのような場合、広範囲にわたるヒト癌の予後不良と関係がある。
【0078】
細胞表面のc−METの上昇は、現在用いられているシグナル遮断療法に対する獲得耐性を含めた薬剤耐性と関係があることがわかっており、このため、RTK−標的療法の重要なバイオマーカーとなっている。RTKを標的とする治療法の大部分は、腫瘍の生存を支える下流のシグナル伝達経路の阻害を目指すものであるが、最初はそのような治療法に応答する腫瘍がほぼ例外なく、シグナル阻害に対して耐性を獲得する一方で、相当数にのぼるものが、既にそのようなシグナル遮断療法に対して生得的に耐性を示す。
【0079】
シグナル阻害を必要としない腫瘍標的化戦略の方がc−MET陽性癌細胞に対して高い効果を示し得る。これは、c−METを認識し、結合している治療剤の細胞への取込みを誘発するリガンドによって対処され得るものであり、これによりシグナル伝達を遮断する必要性が回避される。HGFによりこれを遂行できる可能性はあるが、それには四量体化およびジスルフィド結合が必要となるため、治療剤の開発が技術的に複雑なものとなる。これに代わるc−MET標的化のための優れたリガンドとして有望なものが、食中毒の原因となる細菌から得られる可能性がある。
【0080】
ヒト病原菌であるリステリア菌(Listeria monocytogenes)は、そのインターナリンと呼ばれる表面タンパク質を介してc−METと結合し、宿主細胞内に侵入する。特にインターナリンB(InlB)は、c−Metと結合した後に受容体介在性エンドサイトーシスを誘発する。InlBとHGFはc−Metの異なる領域を認識し、InlBは、結合するのに四量体化もジスルフィド結合も必要としない。したがって、InlBは、本発明者らがヒト上皮成長因子受容体(HER)などの他の受容体を標的化するために既に確立した腫瘍標的化のナノバイオロジー的戦略に向いているものと思われる。
【0081】
PBK10は、アデノウイルスキャプシドペントンベースに由来し、ペントンベースの膜貫通活性により細胞内への遺伝子および薬物の送達を仲介することができる、組換えタンパク質である。PBK10を腫瘍特異的リガンドと融合すると、腫瘍細胞に対して標的化することが可能であることがわかった。この研究は、InlBの受容体結合部位をPBK10との組換え融合体として作製し、c−MET陽性癌細胞への細胞毒性薬の標的化送達を仲介する新規なタンパク質、InlB−PBK10を作製するものである。
【0082】
その研究結果は、InlB−PBK10が、様々な腫瘍細胞系のc−METを認識し、細胞と結合した後、迅速に内部移行する可溶性融合タンパク質として作製され得ることを示している。InlB−PBK10は、コロールなどの毒性化合物とともに直径約10〜20nmのナノクラスターを形成し、細胞内移行後に細胞質内へのコロール貫通を仲介して腫瘍細胞死を引き起こす。したがって、Inl−PBK10は、MET発現腫瘍への毒性分子の標的化送達を仲介する新規な構築物である。
【0083】
背景
腫瘍バイオマーカーとしてのc−MET。間葉上皮転換因子またはMETは、最初に活性化発癌遺伝子として発見された受容体チロシンキナーゼ(RTK)である。METの内在性リガンドガンドである肝細胞増殖因子(HGF)は、線維芽細胞由来細胞運動因子または分散因子(SF)としても知られ、通常、METを活性化して細胞の増殖、運動、生存および分化経路を誘導する。METおよびHGFはそれぞれ、主として上皮起源の細胞および間葉起源の細胞に発現する。HGFとMETとの間のパラクリンシグナル伝達が、組織増殖および形態分化を調節する上皮−間葉相互作用を仲介する。HGF−METシグナル伝達は、正常組織では胚形成、器官形成、血管新生、創傷治癒および組織再生に寄与するのに対し、この経路のシグナル伝達に異常があると、腫瘍の発生および進行、腫瘍細胞の浸潤および転移の原因になる。
【0084】
c−METは、アミノ(N)末端細胞外ドメイン、膜貫通セグメントおよびカルボキシ(C)末端細胞内キナーゼドメインからなる。細胞外領域は、PSIドメイン(プレキシン、セマフォリンおよびインテグリン中に存在する)に隣接するアミノ(N)末端セマフォリン(Sema)ドメインと、これに続く4つの免疫グロブリン(Ig)様ドメインとからなり、これらは一緒になってHGF結合部位を構成している。HGFが受容体に結合すると、METの二量体化が起こり、ERK1/2、AKTおよびSTAT3、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI−3K)、Ras−Raf−MAPKおよびホスホリパーゼCを介したシグナル伝達が活性化される。分解エンドサイトーシス経路および再利用エンドサイトーシス経路の両方を介した輸送を仲介するダイナミン依存性およびクラスリン依存性の経路を介して、リガンド誘発によるMETのエンドサイトーシスが起こる。
【0085】
c−METシグナル伝達の調節異常は、遺伝子増幅の有無を問わない過剰発現および構成的キナーゼ活性化、キナーゼ−ドメイン変異ならびにHGFの過剰発現によるc−METのパラクリン/オートクリン活性化を含めた複数の機序を介して起こる。c−METのリガンド依存性の活性化はほかにも、正常なHGF−METシグナル伝達を崩壊させるほか、構成的二量体化を引き起こす変異および低酸素条件によって生じ得る。後者はHIF−1α誘導によるMETの転写を活性化して、タンパク質レベルを上昇させ、HGFシグナル伝達を増幅し、浸潤を促進する。
【0086】
一般には、多くの種類の癌では、腫瘍において様々なRTKが不均一に発現することが耐性の主要な機序であると考えられてきた。ある特定のRTKの阻害を目的とする治療法では、他のRTKがアップレギュレートされるか、リガンドによる刺激を受け、次いで、PI3Kおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を含めた細胞の生存に極めて重要な因子のシグナル伝達が維持されるため、奏効しないことが多い。この耐性の機序は、非小細胞肺癌および乳癌を含めたその他の腫瘍ではMETシグナル伝達の代償的アップレギュレーションによりEGFR阻害剤に対する耐性が生じることを示す研究によって明らかにされた。以上のことを考え合わせると、c−METは、各種の癌、予後不良および転移の原因となり、また耐性腫瘍を特定し標的化する有用なバイオマーカーになり得ることから、治療的介入の有力な候補となっている。
【0087】
現在臨床で用いられているHGF/MET経路を標的とした治療法は、HGF(フィクラツズマブ)もしくはMET(オナルツズマブ)に対する抗体またはMETキナーゼドメインに対する小分子阻害剤(チバンチニブもしくはARQ197)のいずれかで構成されるものである。上に挙げた方法のいずれにもみられる問題点のひとつに、シグナル阻害の治療効果の信頼性、すなわち、既に言及した代償的なRTKクロストークが生じ、耐性の発現が促されやすいという点がある。併用療法を用いて複数のRTK、特に、顕著なクロストークがみられる2つの受容体、EGF−RとMETの機能を阻止または破壊することに注目が集まりつつある。この方法を検討したin vitroの研究では、肺癌、乳癌、胃癌および結腸直腸癌などの腫瘍細胞系には有望であることが明らかにされているが、この方法を検討する臨床試験は未だ進行中であり、決定的なものではない。
【0088】
c−MET標的化薬剤として有望な細菌病原体タンパク質。インターナリンB(InlB)は、ヒト細菌病原体であるリステリア菌(L.monocytogenes)(Lm)の表面に表出し、c−METとの結合を介してLmが非食作用細胞内に侵入させるタンパク質である。InlBは、N末端(側)へリックスキャップドメインと、免疫グロブリン様反復間(IR)領域に隣接した様々な数のロイシンリッチリピート(LRR)とからなるLmインターナリンタンパク質の大きなファミリーのメンバーである。他のインターナリンとは異なり、InlB構造にはほかにも、C末端にB反復および3つのGWモジュールが含まれている。InlBのフラグメントであり、c−METと高い親和性で結合することが可能なInlB321は、Cap、LRR(タンパク質間相互作用ドメイン)およびIR領域として知られるタンパク質ドメインからなる。InlB321とMETとの結合は、その2つのドメイン、LRRおよびIRを介して生じ、これらはそれぞれ、IglおよびMETのセマドメインと結合する。
【0089】
InlBには、有望な腫瘍標的リガンドとしてHGFより優れた利点がいくつかある。HGFは、20個のスルフィド結合を含むヘテロ二量体タンパク質であり、プロタンパク質を切断してサブユニットに組織化する必要があるため、特に外因性タンパク質ドメインとの融合体として組換え産生するには複雑なものとなり得る。これに対して、InlB321は既に大腸菌(Escherichia coli)で組換え可溶性リガンドとして産生されたものであるため、他のタンパク質との融合に耐え得る(
図3A)。in vitroの研究では、InlB321ペプチドがMETとの結合後に受容体介在性内部移行を誘発し得ることが示されており、このことは、そのナノ送達薬剤としての使用を助けるものである。このほか、HGFのMET結合部位とInlB321のMET結合部位との間には重複が全くみられず(
図3B);したがって、この2つのリガンドの間にはMETとの結合をめぐる競合が存在しないことに留意することが重要である。
【0090】
本研究では、カルボキシル(C)末端がデカリジン配列(K10)により修飾されたAd5ペントンベース(PB)との組換え融合体としてこのペプチドを再設計する。得られる多ドメインタンパク質、InlB−PBK10は、核酸またはコロールなどのアニオン性カーゴの輸送(K10ドメインにより仲介される)、標的化結合および内部移行(InlB321メインにより仲介される)のほか、膜貫通および細胞内輸送(PBドメインによって仲介される)の各機能を備えている。InB−PBK10融合遺伝子の構築、この組み換え遺伝子によってコードされる融合タンパク質の産生、このタンパク質がMETと結合して細胞に侵入する能力に関する特徴付けのほか、このタンパク質がin vitroで細胞毒性ペイロードを送達する能力の評価について、その結果を示す。
【0091】
結果
InlB−PBK10をコードする組み換え遺伝子を構築することができる。InlB−PBK10遺伝子構築物を作製する戦略は、pRSET−A細菌発現プラスミドにクローニングするためのInlB321のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、次いでInlB321配列の3’末端へのPBK10の挿入を伴う2段階のクローニング法を実施するものであった。この戦略を遂行するべく、この配列とPBK10とを連結して発現プラスミドpRSET−Aに「インフレーム」で挿入する制限部位をPCRによりInlB321に導入するためのオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。
【0092】
本発明者らの順方向および逆方向のオリゴヌクレオチドプライマーは、それぞれ以下の配列を含むものであった:
5’−AGTGAGCTCGAGACTATCACTGTG−3’(配列番号1)および
5’−GTTGGTGACTTTCTCCCACCTTCACCACCTTCATCTAGATATCCATGGTAT−3’(配列番号2)。
【0093】
順方向プライマーには、pRSET−AによってコードされるN末端(側)ポリ−ヒスチジン配列にInlB321リーディングフレームを隣接させるよう制限部位SacIを導入した。逆方向プライマーには制限部位BglIIおよびKpnIを導入した。SacIおよびKpnIはpRSETAにInlB321を挿入するために使用し、BglIIは、次いでInlB321コード配列のちょうど3’側にPBK10を挿入するために使用した。InlB321とPBK10との間に短い柔軟なリンカーを組み込むため、逆方向プライマーにGly−Gly−Ser−Gly−Gly−Ser(配列番号3)アミノ酸モチーフをコードする配列を含ませた。InlB321 PCR産物に変異が導入されないよう高忠実度ポリメラーゼを用いた。
【0094】
pRSETAの制限部位SacIおよびKpnIに800bpのInlB321 PCR産物をライゲートしてプラスミド構築物pRSETA−InlBを作製した。次いで、pRSETA−InlBの制限部位BglIIおよびHindIIIにPBK10を挿入した。これを実施するため、プラスミド構築物pRSETA−ΡΒΚ10の制限部位BamHIおよびHindIIIからPBK10を切り取り、二重消化したpRSETA−InlBにライゲートし、pRSETA−InlB−PBK10構築物を得た(
図4A)。本発明者らはほかにも、のちに実施する可能性のあるin vitroおよびin vivo撮像実験のため、カルボキシ[C]末端で緑色蛍光タンパク質(GFP)と融合したInlB321をコードする構築物、pRSETA−GFP−InlBを作製した。この構築物は、既に記載した800bpのInlB PCR産物をSacIおよびBglIIで消化し、これをpRSETA−GFPプラスミドにライゲートして、InlBインサートがGFPのコード配列とインフレームにすることにより作製したものである(
図4B)。いずれの構築物も二重消化し、1%アガロースゲルを用いた電気泳動により評価して、予想されたバンドの存在を確認した(
図4C)。さらに、3種類の構築物いずれについて、その同一性を確認するほか、リーディングフレームに変異が導入されていないことを確認するため、配列決定を実施した。
【0095】
組換えタンパク質InlB、InlB−PBK10およびGFP−InlBは細菌内で産生され得る。既に記載した3つのプラスミド構築物(pRSET−InlB、pRSET−InlB−PBK10およびpRSET−GFP−InlB)はいずれも、「方法」に記載した通り、のちのタンパク質の発現および精製のために大腸菌(E.coli)株BLR(DE3)pLysSに形質転換した。この菌株は、これよりも伝統的な(すなわち、BL21)発現株とは対照的に、反復配列に対する許容性が高く、このため、C末端(側)ポリリジンを含む完全長タンパク質を得る能力を付与する。一方、pRSET−Aプラスミドは、N末端でポリヒスチジン配列と融合したタンパク質をコードする。このヒスチジン(His)−タグは、ニッケルキレート樹脂を用いるアフィニティー精製を可能にするほか、抗His−タグ抗体が認識するエピトープになる。
【0096】
3つの構築物からいずれも、細菌内で可溶性タンパク質(InlB、InlB−PBK10およびGFP−InlB)が産生され、このタンパク質は、「方法」に記載した通りにニッケル結合樹脂を用いた金属キレートアフィニティークロマトグラフィーにより単離することが可能であった。抗Hisタグ抗体は3つのいずれのタンパク質も認識し、これらのタンパク質は、変性ゲル電気泳動により予測分子量が約37kDa(InlB)、約100kDa(InlB−PBK10)および約63kDa(GFP−InlB)の位置に移動した(
図5)。
【0097】
c−METの表面レベルは様々な腫瘍細胞系の間で異なる。InlB−PBK10の特徴付けの第一の目的は、このタンパク質が腫瘍細胞上のc−METを認識するかどうかを明らかにすることであった。様々な腫瘍細胞系に関連するc−METレベルに関する文献のほとんどが総c−METタンパク質発現量またはRNA発現量のいずれかに基づくものであり、このため、細胞表面上に表出するc−METのレベルに関する情報は得られない。したがって、まず、本発明者らの用途に利用可能な細胞系のパネルを対象に、c−METの相対細胞表面レベルを明らかにすることが重要であった。このような評価に利用可能な抗体の大部分が、c−METの細胞質ドメインに対して作製されたものであり、c−METの発現および活性化の機序を評価するために用いられることから、相対細胞表面レベルを明らかにすることが最初の難題となることがわかった。この研究には、細胞表面c−METに対して特異的に生じさせたMET3抗体を用いた。本発明者らは、様々な細胞系のc−METの相対細胞表面レベルを測定するのに細胞表面ELISAを用いた。簡潔に述べれば、この方法は、非透過性細胞の表面上の相対受容体レベルを測定することを可能にするものであり、96ウェルフォーマットで実施可能であるため、複数回再現することが可能であるだけでなく、貴重な試薬を節約することも可能である。本発明者らのELISAの結果は、H1993(肺癌細胞系)およびMDA−MB−231(乳癌細胞系)がc−METの表面レベルの最も高い細胞系であることを示すものである。RANKL(前立腺癌細胞系)およびMDA−MB−435(乳癌細胞系)は細胞表面c−METのレベルが中程度であり、LN−GFP(前立腺癌細胞系)およびCos−7(アフリカミドリザル腎線維芽細胞)は細胞表面c−METレベルが低い(
図6)。
【0098】
InlB由来ペプチドはc−METを認識する。標的化リガンドの受容体特異性を評価するため、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて、c−MET陽性細胞を結合したInlBの相対レベルを測定した。2つの腫瘍細胞系についてInlBの結合を試験し、1つはc−METの発現量が多い腫瘍細胞系(H1993)、もう1つはc−METの発現量が少ない腫瘍細胞系(LN GFP)であった。InlBは、LN GFP細胞と比較すると、HI993細胞との結合レベルが比例的に高くなった(
図7A)。InlBがc−METと特異的に結合するかどうかを確認するため、本発明者らは、METの細胞外リガンド結合ドメインに由来する可溶性ペプチド(METペプチド)をInlB結合の競合阻害剤として用いた。阻害剤がリガンドに対して等モル比であれば、受容体との結合が50%減少することが予測される。予測通り、等モル(1:1)濃度のMET:InlBでInlBとH1993細胞との結合が50%減少し、c−METとの選択的結合が示された(
図7B)。
【0099】
InlB−PBK10による細胞結合はc−METレベルと相関し、遊離リガンドによって競合的に阻害される。前節では、InlBがc−METを介してc−MET陽性腫瘍細胞と結合する能力を有することを示した。次の目標は、融合タンパク質の一部として具現化した場合にInlBによる受容体結合が影響を受けるかどうかを試験することであった。このことを評価するため、本発明者らは、細胞表面ELISAを用いて、InlB−PBK10と、高c−METを発現する細胞系(MDA−MB−231)および低c−METを発現する細胞系(Cos−7)との結合を評価した。InlB−PBK10は、相対的に低レベルのc−METを発現する細胞(Cos−7)よりもc−METの細胞表面発現が高い細胞(MDA−MB−231)との結合で高いレベルを示した(
図7C)。InlB−PBK10がc−METを認識することをさらに確認するため、遊離InlBリガンドを競合阻害剤として用いた。InlBの濃度が増大すると、InlB−PBK10とMDA−MB−231細胞との結合の減少がみられ、InlB−PBK10がc−METを介してこの細胞と結合することが示唆された(
図7D)。
【0100】
InlB−PBK10は浮遊細胞上のc−METとの結合を示す。c−MET認識をさらに確認するため、InlB−PBK10が(付着細胞との結合を評価した前回のアッセイとは対照的に)浮遊細胞と結合することができるかどうかを試験した。本発明者らはプルダウンアッセイを実施し、このアッセイでは、c−MET陽性細胞系MDA−MB−435を浮遊液中、競合阻害剤である遊離InlBリガンドの濃度を漸増させて、InlB−PBK10とともにインキュベートした。InlB−PBK10:InlBのモル比が1:1、1:5および1:10になるよう遊離InlBリガンドの濃度を選択した。次いで、InlB−PBK10に特異的な抗体(ペントンベースを認識するAd5抗体)を用いたウエスタンブロット法により、細胞ペレットと共沈殿するInlB−PBK10のレベルを評価した。InlBの濃度が増大するにつれてInl−PBK10の結合レベルが減少し、結合はほぼ完全に阻害されたことから、InlB−PBK10が浮遊細胞上のc−METを認識して結合し得ることが確認された(
図7E)。
【0101】
InlB−PBK10はC−MET+細胞内に内部移行する。InlB−PBK10の細胞内取込み後の生存および検出を検討するため、まず、InlB−PBK10を3つの異なる細胞、MDA−MB−231、MDA−MB−435およびH1993と4℃でインキュベートして、内部移行は促進せずに受容体結合を促進した。次いで、エンドサイトーシスを誘導するため、細胞を示される時間の間、37℃でインキュベートし、最大30分後の特定の時点で細胞を固定した。免疫蛍光染色および共焦点顕微鏡法から、3つの細胞系のいずれでも、結合から最初の5分間以内にInlB−PBK10(緑で示される)が細胞膜上に集合し、細胞膜にフォーカスを形成したことがわかる。次いで、InlB−PBK10は、30分後までに核周辺領域に蓄積された。これらのデータは、InlB−PBK10が細胞結合から30分以内に細胞内に内部移行し蓄積され得ることを示している(
図8)。最大30分後の特定の時点で細胞を固定し、レーザー走査共焦点顕微鏡法により撮像した。赤はアクチン;青は核を示している。バーは約10ミクロンを表す。
【0102】
InlB−PBK10はc−MET+細胞に毒性分子を送達する。InlB−PBK10のエンドソーム分解能を評価するため、InlB−PBK10が本来単独では細胞膜を貫通することができない細胞毒性薬の細胞質内侵入を仲介することが可能かどうかを評価した。ガリウム(III)を含有するスルホン化コロール(S2GaまたはGa−コロール)は、自発的にタンパク質と組織化することができる蛍光性の強い化合物である。この化合物は、同化合物を細胞内に送達する膜貫通担体がないと、細胞膜を通過して細胞質内の毒性標的に接近することができない。20〜22 Medina−Kauwe研究所では、Ga−コロールは単独では無毒性であるが、HerPBK10によりHER2+腫瘍細胞内に送達されると細胞死を促進し得ることが既に明らかにされている。
【0103】
この研究では、InlB−PBK10とGa−コロールとを混合して非共有結合的組織化を促進し、得られたInlB−PBK10−Ga複合体を透過型電子顕微鏡(TEM)および動的光散乱法により特徴付けた(
図9Aおよび9B)。TEM(
図9Aの右パネル)では、InlB−PBK10にGa−コロール(+S2Ga)を加えた場合、InlB−PBK10単独(−S2Ga)と比較して、球状の集合体が形成されることがわかる。この画像は、タンパク質とコロールが直径10〜20nmのクラスターを形成することを示している。粒子径の測定に用いた動的光散乱法から、InlB−PBK10単独で形成される粒子の平均直径が8.4nmであるのに対し、InlBPBK10−Gaは直径が約16.4nmであることがわかる。
【0104】
InlB−PBK10−Gaが細胞を貫通し、c−MET陽性癌細胞系にコロール仲介性の毒性を誘導することができるかどうかを検討するため、MDA−MB−435細胞を1μΜ、5μΜおよび10μΜのInlB−PBK10、S2GaおよびInlB−PBK10−Gaそれぞれに曝露した。1μΜの濃度では、InlB−PBK10−Gaが細胞生存率を60%低下させたのに対し、濃度1μΜ以上の単独のS2Gaおよび単独のInlB−PBK10は細胞生存率に影響を及ぼすことはなかった。これらのデータから、InlB−PBK10がエンドソーム溶解能を有することが確認されるほか、この構築物が、細胞表面c−METを発現する細胞内にGa−コロールなどの細胞毒性薬を送達することが可能であることがわかる(
図9C)。
【0105】
InlB−PBK10の治療能をさらに評価するため、このタンパク質を用いて、より主流の化学療法分子を送達することができるかどうかを評価した。ドキソルビシン(Dox)は、FDAによって承認されている細胞毒性薬であり、広範囲にわたる種類の癌に用いられている。このような薬物を主として腫瘍細胞に標的化することができれば、副作用を軽減する点で有益であると考えられる。この方法では、最初にDoxを二本鎖オリゴにインターカレートしてDNA−Doxを形成し、次いで、これが(DNAのリン酸骨格との電荷相互作用を介して)InlB−PBK10のポリリジンと結合し、本発明者らがI−Doxと命名した複合体を形成することが可能になる。I−Dox複合体(Dox濃度で5μΜ)を「方法」に記載した条件下、示される細胞系とインキュベートした。I−Dox複合体中の濃度と同じ濃度でInlB−PBK10をインキュベートした。処置から24時間後、代謝(MTT)アッセイにより細胞生存率を評価した。I−Dox複合体は、低c−MET発現細胞(LAPC4)に比して高c−MET発現細胞(H1993)に有意な毒性を誘導した(
図9D)。まず、H1993細胞を遊離InlBリガンドで処置してc−METを遮断し、次いで、上記と同じ条件でI−Doxに曝露した。InlB−PBK10単独では、有意ではないがわずかな細胞数の減少がみられ、細胞死の主要な機序がDoxの送達を介するものであることが示唆された。さらに、遊離InlBリガンドはI−Doxによる細胞毒性を阻害し、c−MET結合および侵入によりDoxが送達されることでI−Dox仲介による細胞毒性が生じることが示唆された(
図9E)。
【0106】
実験手順
細胞。ヒト乳癌細胞系(MDA−MB−435
*およびMDA−MB−231)を米国国立癌研究所から入手した。ヒト肺癌(H1993)細胞系およびアフリカミドリザル腎線維芽細胞系(Cos−7)はATCCから入手した。ヒト卵巣癌細胞(A2780)をSigma−Aldrich社から入手した。前立腺癌系(LNCaP
Neo/RANKL、LNCaP
Neo)をLeland Chung博士(Cedars−Sinaiメディカルセンター)の厚意により入手した。MDA−MB−435およびMDA−MB−231は5%CO
2下、DMEM、10体積%ウシ胎仔血清(FBS、Sigma−Aldrich社)および1体積%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma−Aldrich社)中で維持した。H1993細胞およびA2780細胞は5%CO
2下、RPMI、10体積%FBSおよび1体積%ペニシリン/ストレプトマイシン中で維持した。Cos−7細胞は5%CO
2下、DMEM/F12培地、20体積%非熱失活ウシ胎仔血清(ATCC30−2020)および1体積%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma−Aldrich社)中で維持した。LNCaP
Neo/RANKL、LNCaP
Neoは、RPMI培地、10体積%FBSおよび1体積%ペニシリン/ストレプトマイシンならびにG418二硫酸塩溶液(Sigma Aldrich社、G8168)200μg中で維持した。LNCaP
Neo/RANKL細胞の培地にはヒグロマイシン(GEMINI Bio−products社、400−123)を200μg/ml添加してRANKL−発現プラスミドを維持した。細胞系間の集密度を等しく維持するため、特定のアッセイでは、細胞系をその増殖速度に応じて播いた。
【0107】
DNA構築物。2段階のクローニング法(
図8Aにまとめた)でInlBをコードする配列とPBK10をコードする配列を一緒にタンパク質発現プラスミドpRSET−A(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)に順次ライゲートすることにより、標的化構築物InlB−PBK10を作製した。それぞれ配列5’−AGTGAGCTCGAGACTATCACTGTG−3’(配列番号1)および5’−GTTGGTGACTTTCTCCCACCTTCACCACCTTCATCTAGATATCCATGGTAT−3’(配列番号2)を含む順方向および逆方向オリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅の鋳型として、インターナリンBのアミノ酸36〜321をコードするプラスミド構築物(pMET−30−InlB321)(CeBiTec、ビーレフェルト大学、ドイツ)を使用した。pRSET−A内へのインフレーム挿入のためにSacI制限部位を順方向プライマーに導入した。のちにInlBコード配列のちょうど3’側にPBK10をインフレームで挿入するために、BglIIおよびKpnI制限部位を逆方向プライマーに導入した。逆方向プライマーにはほかにも、InlB配列とPBK10配列の中間に柔軟なリンカー(GlyGlySerGlyGlySer)(配列番号3)をコードする配列が含まれている。800bpのInlB PCR産物をSacIおよびKpnIで消化して、pRSET−A内にライゲートした。次いで、得られた構築物pRSETA−InlBをBglIIおよびHindIIIで消化して、PBK10がInlBとインフレームで挿入されるよう調節した。制限酵素BamHIおよびHindIIIを用いてプラスミドpRSET−ΡΒΚ10からPBK10を切り取り、pRSETA−InlBのBglII−HindIII部位に挿入し、pRSET−InlB−PBK10構築物を得た。
【0108】
既に記載した800bpのInlB PCR産物をSacIおよびBglIIで消化し、これをInlB321のインフレームクローニングのためのpRSETA−GFPプラスミド内にライゲートすることにより、カルボキシ[C]末端で緑色蛍光タンパク質(GFP)と融合したInlB321をコードするpRSETA−GFP−InlB構築物を作製した。
【0109】
細菌からのタンパク質の発現および精製。BLR(DE3)pLysS(Novagen社、マディソン、ウィスコンシン州、米国)細菌形質転換細胞の一晩培養物を0.5mg/mlアンピシリン、0.034mg/mlクロラムフェニコールおよび0.0125mg/mlテトラサイクリンを含有するLB中、1:50で播種した。培養物の吸光波長600nmにおける吸光度(OD600)の読取り値が0.6に達したとき、培養物を0.4mM IPTGで誘導し、37℃で振盪しながらさらに3時間、増殖させた。培養物を回収し、ペレット化した。細胞ペレットを溶解緩衝液(50mMトリス、pH8.0、50mM NaCl、2mM EDTA、pH8.0)に再懸濁させ、0.1%Triton X−100の添加および融解時に1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を添加する1サイクルの凍結融解により溶解させた。融解後、ライセートに10mM MgCl
2および0.01mg/ml DNアーゼを加え、ライセートを室温で10分間振盪してゲノムDNAを消化した後、ライセートを氷に戻し、次いで、300mM NaClおよび10mMイミダゾールを加えた。予め冷却した遠心管にライセートを移して平衡状態にし、予め冷却したローターに入れて4℃、39,000×gで1時間遠心分離した。上清を回収し、予めMCAC−10(50mM NaH
2PO
4、300mM NaCl、10mMイミダゾールおよび0.1%Triton X−100、pH8.0)で平衡化したNi−NTA樹脂(Qiagen社、バレンシア、カリフォルニア州、米国)に加え、氷上で1時間インキュベートした。結合したタンパク質を含有する樹脂を氷上で振盪しながら、MCAC−10緩衝液20mLで10分間、1回洗浄し、MCAC−20(50mM NaH
2PO
4、500mM NaCl、20mMイミダゾールおよび10%グリセロール、pH8.0)で3回洗浄した後、50mM Na−リン酸、pH8.0、300mM NaCl、250mMイミダゾールおよび10%グリセロールの溶液2mLで溶離した。同時にタンパク質を低塩緩衝液に緩衝液交換し、限外ろ過(Amicon Ultra Centrifugal Filters−Ultracel−50K(Millipore社、べドフォード、マサチューセッツ州、米国)により濃縮し、BioRadタンパク質定量化アッセイ(BioRad Laboratories社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を用いてその濃度を測定した。
【0110】
タンパク質検出。当該技術分野で公知の不連続ゲル緩衝液系で変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を実施した。BioRadセミドライ転写セルセットに192mMグリシン、25mMトリスおよび20%メタノールを用いて、タンパク質を一定電圧(20V)で40分間、ニトロセルロースに電気的に転写した。ブロットをトリス−緩衝生理食塩水(10mMトリス、pH7.5、150mM NaCl)中、3%ウシ血清アルブミンでブロックした。ブロットをブロッキング緩衝液中、1:1500希釈の抗RGS−Hisタグ抗血清(Qiagen社)と一晩インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州、米国)とインキュベートした後、HRP基質および化学発光検出試薬(Thermo Fisher社)と反応させ、フィルム(Hyperfilm ECL;Amersham Pharmacia Biotech社)に感光させることにより、抗体−抗原複合体を検出した。
【0111】
c−MET細胞表面発現のELISAベースのアッセイ。細胞系のc−METレベルを明らかにするため、以下の細胞数:1ウェル当たり8×10
3個のMDA−MB−231、MDA−MB−435、A2780、LNCaP
Neo/RANKLおよびLNCaP
Neoならびに1ウェル当たり9×10
3個のH1993およびLAPC4を用いて、96ウェルプレートに細胞を播いた。48時間後、培地を吸引し、1mM MgCl
2と1mM CaCl
2とを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(PBS+)で細胞を簡単に洗浄し、次いで、PBS中4%のPFAで12分間、室温(RT)で固定した後、PBS+(1ウェル当たり200μl)で3回洗浄し、次いで、ブロッキング溶液(3%BSA/PBS、1ウェル当たり100μL)中、RTで1時間インキュベートした。抗c−MET抗体(マウスモノクローナル抗c−METを0.87μg/mLで使用;Knudson博士)を3つ組のウェルに加え(1ウェル当たり100μL)RTで1時間インキュベートした。細胞をPBS+で3回洗浄し、1:2000希釈のHRPコンジュゲート二次抗体とRTで1時間インキュベートした。細胞PBS+で3回、蒸留水で1回洗浄し、各ウェルにTMB(eBioscience社)溶液100μLを製造業者の指示書に従って加えた。プレートを基質と暗所で30分間(または青色の発色が見えるようになるまで)インキュベートし、1N HClを100μL添加することにより反応を停止させた。Spectra MaxM2プレートリーダー(Molecular Devices社)で450nmにおける吸光度を測定した。次いで、クリスタルバイオレットアッセイを実施して相対的な細胞数を求めた。簡潔に述べれば、細胞をPBS+(200μL/ウェル)で1回洗浄し、RTで0.1%クリスタルバイオレット(100μL/ウェル)と15分間インキュベートした。細胞をPBS+(200μL/ウェル)で4回、十分に洗浄し、RTで95%エタノール(100μL/ウェル)と10分間インキュベートした。490nmにおける吸光度を測定した。
【0112】
細胞結合アッセイ。様々な濃度のInlB−PBK10と細胞との結合を明らかにするため、細胞を以下の濃度で96ウェルプレートに播いた:1ウェル当たり8×10
3個のLNCaP
Neo/RANKLおよびLNCaP
Neoならびに1ウェル当たり9×10
3個のH1993およびLAPC4。48時間後、培地を吸引し、細胞を緩衝液A(無血清DMEM、20mM HEPES pH7.4、2mM MgCl
2、3%BSA)100μLで簡単に洗浄した。細胞を氷上で攪拌しながら4℃で1時間、示される濃度のInlB−PBK10を含有する緩衝液A 50μLとインキュベートした。細胞をPBS+(200μL/ウェル)で1回洗浄し、既に記載した細胞表面ELISA(c−METの細胞表面発現ELISA)に供した。ELISAには以下のような改変を施した:InlB−PBK10を検出するため、プレートを1:1500希釈の一次抗体(RGS−His;Qiagen社)と一晩インキュベートし、の二次抗体(ヤギ抗マウス、1:2000希釈)と室温で1時間インキュベートした。
【0113】
競合阻害アッセイでは、示される濃度のInlBを細胞上でインキュベートした後、InlB−PBK10を加えた。具体的には、既に記載した通りに播いた細胞系を緩衝液A 100μLで簡単に洗浄した後、1μΜ、5μΜまたは10μΜのInlBを含有する緩衝液A 50μL中、氷上で攪拌しながら4℃で1時間、インキュベートした。細胞を緩衝液A(100μL/ウェル)で1回洗浄した後、1μΜのInlB−PBK10を含有する緩衝液A 50μLと氷上で攪拌しながら4℃で1時間、インキュベートした。細胞をPBS+(200μl/ウェル)で1回洗浄し、既に記載した通りに表面結合InlB−PBK10の免疫検出用に処理したが、ただし、プレートはInlB−PBK10のペントンベースドメインを認識する1:5000希釈の抗体(Ad5抗体;Abeam社)とインキュベートした。プレートを二次抗体(ヤギ抗ウサギ、1:2000希釈)と室温で1時間インキュベートした。c−MET細胞表面発現ELISAについて既に説明した通りに結合を検出した。
【0114】
細胞生存アッセイ。MDA−MB−435細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり8×10
3個播いた。48時間後、培地を吸引し、細胞を37℃、5%CO
2の恒温器内で、異なる濃度のInlB−PBK10−GaおよびS2Ga(1μΜ、5μΜおよび10μΜ)を含有する培地30〜50μlと振盪しながら4時間インキュベートした。4時間インキュベートした後、追加の培地を加えて1ウェル当たりの総体積を100μLにし、細胞を約24時間、振盪せずにインキュベートした。Promega CellTiter 96 Aqueous Non−Radioactive Cell Proliferation Assayを用いて細胞生存率を測定した。培地を除去し、新鮮な培地100μlをウェルに加えた。製造業者の指示書に従って、MTS溶液2.0mLとPMS溶液100μLとを混合し、20μLを各ウェルに加えた。プレートを37℃、5%CO
2でインキュベートし、MTT試薬を加えてから1時間後および2時間後に490nmにおける吸光度を読み取った。次いで、クリスタルバイオレット染色を実施して、相対細胞数を求めた。簡潔に述べれば、1mM Ca
2+と1mM Mg
2+とを含有するPBS+で細胞を洗浄した後、0.1%クリスタルバイオレット(100μl/ウェル)とRTで15分間インキュベートし、次いでPBS+(200μL/ウェル)で4回洗浄した。プレートを95%エタノール(100μL/ウェル)とRTで10分間インキュベートし、590nmにおける吸光度を測定した。
【0115】
InlB−PBK10取込み/細胞内輸送アッセイ。InlB−PBK10取込みアッセイでは、細胞を12ウェルディッシュのカバーガラス上に1×10
5個播き、2日間増殖させた。処置当日、ディッシュを氷上に移し、以下の方法に示される実験用に処置した。取込みの経時変化を検討するため、細胞を冷PBSで2回洗浄した後、InlB−PBK10を8μg含む緩衝液A 0.4mLを各ウェルに加えた。ディッシュを氷上で振盪しながら4℃で1時間インキュベートして、内部移行は促進せずに受容体結合を促進した後、細胞を冷PBSで洗浄して未結合タンパク質を除去した。次いで、ウェルに予め温めた完全培地を加え、ディッシュを示される時点の間、37℃、5%CO
2でインキュベートした。次いで、個々のカバーガラスを取り出し、PBS/1%MgCl
2で3回洗浄した後、PBS中4%のパラホルムアルデヒドで15分間、室温で固定した。カバーガラスをPBSで3回洗浄した後、塩化アンモニウムの50mM PBS溶液と5分間、Triton X−100の0.1%PBS溶液と5分間インキュベートし、次いで、BSAの1%PBS溶液で30分間、室温でブロックした。カバーガラス上の細胞を一次抗体と4℃で一晩インキュベートし、PBSで3回洗浄し、暗所で二次抗体と1時間、室温でインキュベートした。示されている場合、アクチンおよび核を対比染色した細胞を二次抗体とのインキュベーション時に1:100希釈のテキサスレッドx−ファロイジン(Invitrogen社、T7471)とインキュベートした後、最終濃度300nMのDAPI中で5分間、インキュベートした。ファロイジン、DAPIならびに一次および二次抗体はいずれもBSAの1%PBS溶液で希釈した。二次抗体およびDAPI処理の後、カバーガラス上の細胞をPBSで3回洗浄し、Prolong Antifade封入媒体(Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州、米国)に封入した。InlB−PBK10の検出にはRGS−His抗体(Qiagen社)を1:150希釈で使用し、また蛍光をInlB−PBK10については488nm、核については405nm(DAPI)、F−アクチンについては532nm(テキサスレッド)で検出するのに1:500希釈のフルオロフォアコンジュゲートヤギ抗マウス(FITC−コンジュゲート)を使用した。
【0116】
InlB−PBK10−Dox(I−Dox)組織化。ウイルスキャプシド由来融合タンパク質であるInlB−PBK10を十分に確立された方法に従ってドキソルビシンと組織化させた。簡潔に述べれば、当モル濃度の30塩基オリゴヌクレオチドLLAA−5(5’−CGCCTGAGCAACGCGGCGGGCATCCGCAAG−3’)(配列番号4)とそれに対応する逆相補体LLAA−3とを混合することにより、相補的なオリゴヌクレオチド二本鎖を調製した。混合物を5分間煮沸し、30分間、室温まで冷却して、オリゴヌクレオチドのアニーリングを促進した。二本鎖オリゴをDoxと1:10のモル比(DNA:Dox)で混合し、室温(RT)で30分間インキュベートした後、HBS中、InlB−PBK10:DNA−Doxが6:1のモル比でInlB−PBK10とインキュベートし、50k MWカットオフ(mwco)フィルター膜を用いた限外ろ過(10%グリセロールと2時間〜一晩プレインキュベートすることにより調製した)により、組織化が不完全な成分からI−Doxを単離した。複合体を4000×gで15分間、または体積が80%以上減少するまで遠心分離した。480nmにおける吸光度または590nmにおける蛍光(Ex:480nm)の測定値をDoxの吸光度または蛍光の較正曲線(SpectraMax、Molecular Devices社、USA)に対して外挿することにより、I−Dox中のDox濃度を求めた。Doxの濃度は、ベール・ランベルトの方程式:(λ
maxにおける吸光度/Dox吸光係数)×希釈係数=濃度(M)にDox係数11,500M
−1cm
−1を用いることにより算出した。実験に用いたI−Dox投与量は、I−Dox中のDoxの濃度に基づくものである。
【0117】
InlB−PBK10−Ga組織化。10×モル過剰のコロールを暗所でInlB−PBK10と穏やかに攪拌しながら4℃で1時間インキュベートすることにより、InlB−PBK10とスルホン化ガリウムコロール(S2Ga)とを非共有結合的に組織化させた。50K MWカットオフスピンカラムフィルター(Millipore社、ビレリカ、マサチューセッツ州、米国)による限外ろ過を製造業者のろ過手順に従って実施することにより、未結合コロールを除去し、ろ液が清澄化するまでPBSで洗浄した。残余物は、ろ過工程全体を通じて鮮緑色(コロール色素を示す)を保持した。残余物をPBSに再懸濁させ、コロールのλ
maxにおける吸光度を測定して、既に記載した通りにコロール濃度を求めた。例えば、S2Gaは、タンパク質と結合するとλ
maxが424nmから429nmにシフトするが、これにより複合体中のコロール濃度の推定値が大幅に変化することはない。
【0118】
FACS解析。InlB321の結合を評価するため、H1993細胞およびLn GFP細胞を48時間培養した。PBSで2回洗浄した後、2mM EDTA中、37℃で5〜10分間インキュベートすることにより細胞を剥離した。0.01%MgCl
2とCaCl
2とを含有するPBS(0.01%PBS+)を細胞に加え、2000rpmで4分間回転させた。細胞を0.01%PBS+でさらに3回洗浄し、再懸濁させ、計数し、エッペンドルフチューブに分けた。チューブを300×gで2分間回転させ、示される濃度のInlBを含有するミルクの3%PBS溶液に再懸濁させ、低温室内で1時間、氷上でインキュベートした。次いで、細胞をPBSで4回洗浄し、BSAの3%PBS溶液で150倍に希釈したRGS−His抗体と室温で30分間インキュベートした。細胞を4回洗浄した後、二次抗体のAlexa Fluor 647ヤギ抗マウスIgG(H+L)とともに3%BSAに再懸濁させ、室温で30分間インキュベートした。細胞を4回洗浄し、0.1%PFAと15分間インキュベートした後、再び4回洗浄し、Beckman Coulter Cyan ADP FACS機器で解析した。
【0119】
InlB321による細胞結合がc−METを介するものであることを確認するため、InlB321およびMETペプチド(YCP2247 SPEED BioSystems社、ロックビル、メリーランド州)を氷上で、1×PBSに溶かした3%のミルク中、30〜40分間インキュベートした後、細胞と結合させた。上記の通りに結合アッセイを実施した。
【0120】
細胞プルダウンアッセイ。48時間増殖させたMDA−MB−435細胞を攪拌しながら37℃で5〜10分間、1×PBS中2mMのEDTAを用いて浮揚させた。細胞を300×gで5分間回転させた後、1回洗浄し、緩衝液A+3%BSAに再懸濁させ、4本のエッペンドルフチューブに分けた(2×10
6細胞/チューブ)。細胞を再び回転させ、緩衝液A+3%BSA 500μLに再懸濁させた。チューブのうち3本には0.4μΜ、2μΜおよび4μΜのInlBを加え、4本目のチューブにはタンパク質を加えず、いずれのチューブも氷上で1時間インキュベートした。全細胞を洗浄し回転させて未結合InlBを除去した後、緩衝液A 500μlに溶かした0.4μΜのInlB−PBK10を4本のチューブすべてに加え、次いで、氷上で2時間振盪して、内部移行は促進せずに受容体結合を促進した。細胞を既に記載した通りに3回洗浄し回転させた。次いで、ペレットをSDS−PAGE試料緩衝液50μLに懸濁させ、InlB−PBK10に特異的な抗体(ペントンベースを認識するAd5抗体)を1:5000希釈で用いてSDS−PAGE/ウエスタンブロット法により評価した。
【0121】
実施例3:両腹側にMDA−MB−435腫瘍を担持するnu/nuマウスにおけるInl−PBK10の生体内分布
背景
前の「c−Metに標的化したタンパク質ナノ構築物」と題する実施例の
図6に示される通り、MDA−MB−435細胞は細胞表面に著明なレベルのc−METを表出する。さらに、
図7Eに示される通り、c−MET標的化タンパク質構築物であるInlB−PBK10は、c−METリガンドであるInlBによって競合的に阻害される相互作用を介してこの細胞と結合し、このことは、この構築物がc−METを介してMDA−MB−435細胞と結合し得ることを示している。
図8は、InlB−BK10が受容体と結合した後にMDA−MB−435細胞内に侵入することを示しており、また
図9Cは、このタンパク質が、膜不透過性の毒性分子(ガリウムメタレート化コロール)のこの細胞内への送達を促進し、細胞死を引き起こし得ることを示している(したがって、ほかにも、Inl−PBK10がエンドソーム膜を破壊することが可能であることが確認される)。
【0122】
結果
この実施例では、Inl−PBK10がin vivoでMDA−MB−435腫瘍に蓄積することが可能であるかどうかを評価するため、MDA−MB−435腫瘍を有するマウスにおけるInl−PBK10の生体内分布を評価した。この評価を実施するため、両腹側にMDA−MB−435腫瘍の異種移植片を担持する雌nu/nuマウスの尾静脈にAlexa680標識InlB−PBK10(2nmolタンパク質)を単回注射し、注射後の示される時点で、640nm励起フィルターおよび700nm発光フィルターを用いてXenogenイメージングにより撮像した。動物体全体の画像から、注射から4時間後までに体内から相当量の蛍光が排出されているのがわかる(
図10A)。4時間後の時点で、マウスを屠殺し、腫瘍および組織を取り出してさらに撮像した。腫瘍に蛍光の蓄積がある程度みられるものの、注射した物質の大部分が4時間後までに腎臓に排泄されているのに対し、肝臓には蛍光がある程度検出された(
図10B)。心臓、脾臓、肺、脳および骨格筋を含めた残りの組織には、検出可能な蛍光はみられなかった(
図10B)。今後の研究では、今回よりも早い時点および遅い時点で組織を回収して、腎臓への送達が迅速な排泄によるものであるのかどうかを明らかにするとともに、競合阻害剤による生体内分布を明らかにして、腫瘍への送達がc−METを介して起こることを確認する必要がある。
【0123】
実施例4:脳転移性乳房腫瘍のナノバイオロジー標的化
脳へ拡散する腫瘍を含めた転移性乳房腫瘍があると、ヒト上皮成長因子受容体サブユニット3(HER3)の細胞表面レベルが上昇する。現在、末梢乳房腫瘍を除去するべく多数の標的療法が用いられているが、脳転移にこれらの分子を送達するには血液脳関門(BBB)による制限がある。この具体例には、脳に転移するHER2+乳房腫瘍があり、中枢神経系(CNS)の外側であればトラスツズマブなどのHER2抗体による標的化が可能であるのに対し、この腫瘍には、HER2サブユニットが脳血管内皮上に存在するものの、抗体に血管壁を通過させる細胞横断輸送を仲介しないため、同抗体を到達させるのは不可能である。
【0124】
これに対してHER3は、リガンドと結合すると細胞横断輸送により迅速に脳血管内皮を通過し、これは通常、神経の成長および維持のためのニューレグリン成長因子の送達を仲介するために起こる。本発明者らは、腫瘍細胞内への毒性分子の標的化侵入のための入口としてHER3を利用する自己組織化性ナノバイオロジー粒子、HerMnを開発した。HerMnは、スルホン化マンガン(III)コロール(S2MnまたはMn−コロール)と非共有結合的に組織化した受容体−標的細胞貫通タンパク質HerPBK10からなり、血清中で安定な、直径10〜20nmの粒子である(
図11)。HerPBK10の標的化ドメインは、ヒト上皮成長因子受容体サブユニット3(HER3)と特異的に相互作用し、迅速に受容体介在性エンドサイトーシスを誘導するリガンド、ヘレグリンアルファに由来するものである。HER3はHER2の好ましい二量体化パートナーであり、HER2−3ヘテロ二量体はHER2+腫瘍細胞上に広く存在することから、本発明者らはこれまでに、マウスを用いて、HerPBK10が治療用および撮像用分子をHER2+腫瘍に標的化し、化学療法剤ドキソルビシンよりも10倍超低い用量で腫瘍成長阻害を仲介することができ、同時に心組織および肝組織を温存し、検出可能な免疫原性を全く示さないことを明らかにしている。HerMnによる腫瘍標的化毒性は、ミトコンドリア膜破壊およびスーパーオキシド仲介による細胞骨格の損傷によって起こる。HerMnはこのほか、コロールの常磁性により、磁気共鳴画像法(MRI)による腫瘍選択的検出を誘発することができる。
【0125】
HerMnは、マウスに全身注射した後、皮下HER2+腫瘍への選択的なホーミングおよび毒性を示すことに加えて、脳に分布するものと思われる。Mnコロールがその抗酸化活性により、正常組織に対して神経保護作用を示すことが知られているのは興味深い。これを裏付けるものとして、HerMnはex vivoでヒト心臓細胞の生存を維持する。以上を考え合わせると、HerMnは、標的化能と、脳および心臓などの正常組織に有益な保護効果をもたらす能力とを兼ね備えているため、対象外の組織を温存しながら毒性を脳転移性乳房腫瘍に標的化する能力を有すると推測されるのが魅力的である。
【0126】
背景
脳転移は深刻な臨床的問題である。乳癌が脳に転移した患者の平均生存期間は1年未満である。末梢腫瘍を治療する標的療法のレパートリーは次々出現しているものの、そのほとんどは血液脳関門(BBB)を通過することができないため、脳転移の治療には適さない。この例のひとつが、ヒト上皮成長因子受容体サブユニット2(HER2)に対するモノクローナル抗体であるトラスツズマブ(Tz)のHER2+乳癌治療への使用である。HER2+癌は、高悪性度腫瘍であり、標準治療に抵抗性を示し、転移し、死亡率が高いとされる。脳に転移するHER2+腫瘍は、HER2が脳血管内皮上に存在するものの、血管壁を横断して細胞横断輸送しないため、Tzで治療することができない。HER2−であり、かつ脳転移性であるトリプル陰性乳癌(TNBC)では、特異的細胞表面バイオマーカーがないため、選択肢はさらに少なくなる。HER2およびEGFRの小分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるラパチニブ(Lp)は細胞膜を迅速に通過して両種類の腫瘍を標的とすることができるが、これらの腫瘍は、HER3が上昇するという理由もあって、このような阻害剤に抵抗性を示す可能性が高い。
【0127】
結果
HerPBK10はHER3に特異的である。HerPBK10には、HER3リガンドであるヘレグリン−αの受容体結合領域(アミノ酸35〜239、Ig様ドメインおよびEGF様ドメインを含む)が含まれており、アデノウイルスペントンベースキャプシドタンパク質に由来する膜貫通部分と融合している(
図11A)。HerPBK10は最初、単一のマルチドメインタンパク質分子内にペイロード組織化、標的化、内部移行およびエンドソーム貫通の各機能を備えた非ウイルス遺伝子導入ベクターとして設計された。HER3はHER2の好ましい二量体化パートナーであり、HER2−3ヘテロ二量体はHER2+腫瘍細胞上に広く存在することから、HerPBK10が治療用および撮像用分子をHER2+腫瘍に標的化し、化学療法剤ドキソルビシンよりも10倍超低い用量で腫瘍成長阻害を仲介することができ、同時に心組織および肝組織を温存し、検出可能な免疫原性を全く示さないことがマウスを用いて明らかにされている。
【0128】
HerPBK10のHER3に対する特異性は、それがヒトHER3の細胞外ドメインを含む固定化ペプチドと結合することが可能であることにより裏付けられる(
図12A)。この結合能は、HerPBK10を予めin vitroで遊離HER3ペプチドに吸着させることによって阻害される(
図12A)。同ペプチドはほかにも、ヒト(
図12B)およびマウス(
図13B〜13C)両方のHER3+細胞との結合を阻害する。HER3のリガンド結合ドメインが、マウスとヒトとの間で高い(94%)配列同一性を共有していることは注目すべきことである(
図13A)。HER2−3ヘテロ二量体はHER2+腫瘍細胞上に広く存在するが、ヘテロ二量体化阻害抗体であるペルツズマブ(Pz)はHerPBK10と細胞HER3との結合は阻害せず(
図12B)、このことは、HerPBK10結合にはHER2−3二量体化を必要としないことを示している。このほか、HER4ペプチドによってもベータセルリン(HER4を遮断する)によっても結合は阻害されず(
図12B)、このことは、HerPBK10がHER3特異的であることを示している。
【0129】
HER2+患者および年齢がマッチした対照の血清では、競合阻害剤として用いた過剰の組換えリガンドの添加(+Her)とは対照的に、HerPBK10と培養HER2+細胞との結合は阻害されない(かつ、互いに有意差が認められない)(
図12C)。これまでの研究で、免疫適格マウスにHerPBK10を反復投与しても、このタンパク質に対して検出可能な中和抗体が生成されないことが明らかにされている。さらに、アデノウイルス全体に対して作製され、HerPBK10を認識することができるポリクローナル抗体は、受容体と培養細胞との結合を阻害しない。
【0130】
HerPBK10はMn−コロールと自己組織化してHerMnナノ粒子を形成する。HerPBK10のカルボキシ[C]−末端は、コロールを含めたアニオン分子との求電子結合を仲介するデカリジン尾部からなる(
図11A)。コロールはポルフィリンと構造的に類似した大環状分子であり、ポルフィリンと同様に金属配位子を含み得る(
図11B)。スルホン化コロールは両親媒性で生理溶液に可溶であり、求電子相互作用および疎水性相互作用を含めた非共有結合的相互作用を介して自発的にタンパク質と結合することができる。アニオン性スルホナート基は、負に帯電した細胞膜による反発によって非特異的な細胞内移行を阻害し、このため、担体タンパク質を介してコロール送達を標的細胞内へ方向付ける能力を可能にする。本発明者らは、HerPBK10とスルホン化マンガン(III)コロール(S2MnまたはMn−コロール)とを組み合わせて、迅速に自己組織化する直径10〜20nmの粒子を形成し、HerMnと命名した(
図11C〜D)。この粒子には単一のタンパク質と結合した多数のコロール分子(コロール25〜35個/タンパク質)が含まれており、高速限外ろ過に耐え得る。以上の結果は、コロールがタンパク質ポケット内でほとんど解離せずに結合することができ、HerPBK10と結合すると、血清タンパク質への移行に耐え得ることを示した、これまでの本発明者らの研究および本発明者らの共同研究者の研究の結果と一致する。
【0131】
HerMnはHER3+腫瘍を標的とする。HerMnは、培養したHER2+/HER3+細胞には標的化毒性を示すが、HER2−/HER3−腫瘍細胞には標的化毒性を示さないのに対し、Mn−コロールは細胞生存率に全く影響を及ぼさない。このデータを
図14に示すが、ここでは、各細胞系に示される濃度のHerMnまたはS2Mnを加え、24時間後、クリスタルバイオレット(CV)染色により生存率を評価した。各濃度当たりN=3であり、3つの独立した実験から得られたものである。HerPBK10の標的化リガンドは受容体と結合した後、迅速にエンドサイトーシスを誘導することがわかっている。スルホン化コロール単独ではエンドソーム膜を破ることができないため、HerPBK10のペントンベース部分が、エンドサイト―シスによる取込み後の効果的な膜破壊および細胞質内への侵入を可能にする。
【0132】
1つの実験では、細胞に10μΜのS2MnまたはHerMnを加え、24時間後、TMRM(30nM)のHBSS溶液を加えた。その結果を
図15Aに示すが、ここでは、対照はPBSで処置したものである。
図15Bの共焦点蛍光像は、MDA−MB−435細胞上で24時間インキュベートした後のHerMn(5μΜ)によるスーパーオキシド仲介性のアクチン(赤)およびチューブリン(緑)の崩壊を示している。S2Mn(5μΜ)、HerPBK10(タンパク質濃度はHerMnと同じである)およびPBSを対照とした。また別の細胞にはTiron(5mM)を加え、1時間後にHerMnで処置した。青色は核である。スケールバー=10μmである。
【0133】
HerMnは細胞質内に入ると、ガリウム(III)コロール(S2GaまたはGa−コロール)と同じく、スーパーオキシド増大および構造への酸化的損傷によりミトコンドリアの膜電位(
図15A)および細胞骨格を崩壊させる(
図15B)。
【0134】
Ga−コロールはミトコンドリア外膜タンパク質、TSPOと直接結合することがわかった。その結果を
図16に示す。可溶性組換えTSPOタンパク質を当モル濃度(1μΜ)のS2Gaと室温で約20分間インキュベートした後、限外ろ過により遊離の未結合S2Gaを除去した。吸光スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定することにより、残余物にTSPOタンパク質と結合したコロールが存在するかどうかを評価した。示されている場合、TSPOのポルフィリン結合部位に対する競合阻害剤としてPK11195を用いた(
図16A〜16B)。HerGaがin situでTSPOと相互作用することを示す証拠が得られている。MDA−MB−435細胞に外来性TSPO(内因性のTSPO結合の競合阻害剤である)を発現するプラスミドをトランスフェクトし、24時間後、HerGaで細胞を処置し、ミトコンドリア内の赤色蛍光色素の蓄積が減少し、細胞質内に緑色蛍光が蓄積することによって示される、HerGa仲介によるミトコンドリア破壊を調べた(
図16C〜16D)。
【0135】
TSPOは、ポルフィリンをはじめとする代謝産物をプロセシングのためにミトコンドリア内に移動させ、ミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体の構成要素と相互作用するほか、細胞恒常性に寄与する。ポルフィリンとTSPOとの結合を阻害するPK11195によってコロール結合が競合的に阻害され得ることから、Ga−コロールはTSPO上のポルフィリン結合部位を特異的に認識する(
図16A〜16B)。MDA−MB−435細胞に組換え可溶性TSPOが過剰発現すると、コロール仲介によるミトコンドリア膜電位の崩壊が阻害され(
図16C〜16D)、コロールがin situでTSPOと相互作用することが示唆される。Mn−コロールがGa−コロールと同様のミトコンドリア膜破壊を示すことから、TSPOはMn−コロールの分子標的である可能性が高い。異種移植マウス腫瘍モデルでは、HerMnはin vivoで、全身送達後、心臓を含む正常組織をほとんど迂回して腫瘍にホーミングし(
図17)、極めて低い薬理学的用量(0.008mg/kg)で腫瘍成長を阻害する(
図18A)。Mn−コロールはほかにも常磁性を示し、このため、MRIに有用である。
【0136】
HerMnがマウスにおいて全身送達後に腫瘍内に蓄積することに加えて、HerMnはトラスツズマブ(Tz)とは対照的に脳に分布し得ることがわかった(
図17)。このほか、腫瘍の無いマウスの尾静脈にHerPBK10を注射すると脳への局在化がみられるのに対して、PBK10(HER3標的化リガンドを欠く)の全身送達では検出可能な脳送達は全くみられない(
図19)。ほかにも、ドキソルビシン(心毒性があることが知られている)および腫瘍細胞に対してもCDCに対しても、毒性も成長促進作用も示さない単独のHerPBK10とは対照的に、HerMnはヒト心臓由来細胞(CDC)に対して非毒性であるだけでなく、曝露期間を延長して用量を増大させると、培養CDCの生存率が増大することがわかった(
図18B)。このことは、これまでに視神経症モデルにおいてin vitroおよびin vivoで得られた結果を裏付けるものであり、Mn−コロールに神経保護作用があることを示している。Ga−コロールにはこのような神経保護作用が全くみられなかったことから、この作用はMn−コロールに固有のものであると思われる。
【0137】
以上の結果は、HerMnが正常組織に有益な効果をもたらすと同時に、腫瘍組織、特にHER3上昇がみられる脳転移に対して毒性を標的化することを示している。全身粒子のうち非腫瘍組織に分布するものは少数であると思われるため、HerMnの標的化特異性がこの点にもたらす重要性は低くなる(
図17)。しかし、比較的低レベルのコロールで神経保護および腫瘍毒性が得られる(
図18A)ことから、この二重活性の可能性を検討する価値はある。
【0138】
応用
HerMnは、標的化能と、脳および心臓などの正常組織に保護をもたらす能力とを兼ね備えているため、対象外の組織を温存しながら脳転移性乳房腫瘍に毒性を送達することができる。
【0139】
実施例5:腸炎エルシニア(Yersinia enterocolitica)インベイシン由来ペプチドを用いたベータ−1インテグリンの標的化
腸炎エルシニア(Yersinia enterocolitica)は、腸上皮、特に腸壁のパイエル板に侵入し、食中毒を引き起こす細菌病原体である。腸上皮への結合および侵入は、細菌インベイシン(Inv)タンパク質と、主としてパイエル板を覆う上皮細胞上に発現するベータ−1インテグリンとの相互作用を介して起こる。
【0140】
インベイシン(pHIT123−Inv)をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドをPCR鋳型として使用し、ベータ−1インテグリン結合部位(約600bp)をコードする最小限の配列が増幅されると同時に、標的化送達のための外来性ペプチド内にインフレームクローニングのための制限部位が導入されるようオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。使用したプライマーは以下の配列を含むものであった:5’−ACAGAGCTCATAACCGGCATTAACGTGAAT−3’(配列番号6);5’−CTGTGTGCGGAGCCGCAATAGGAATTCATC−3’(配列番号7);および5’−GATGAATTCCTATTGCGGCTCCGCACACAG−3’(配列番号8)。これらのプライマーは、増幅ならびにInvインサートへのSacIおよびEcoRI制限部位の付加に使用するものである。また別のプライマーは以下の配列を含むものであった:5’−GTCCAAAACCAAGAAAAGGCGGAGCAGCTGTAC−3’(配列番号9);5’−ACAATGACGCGTGTACAGCTGCTCCGCCTTTTCTTGGTTTTGGAC−3’(配列番号10);5’−CCGCTGTGTGCGGAGCCGCAAGGAGGAACGCGTACACAC−3’(配列番号11);5’−GTGTGTACGCGTTCCTCCTTGCGGCTCCGCACACAGCGG−3’(配列番号12);および5’−ACACACGGATCCTTGCGGCTCCGCACACAGCGG−3’(配列番号13)。これらのプライマーは、ノブまたは完全長ファイバー構築物のいずれかにクローニングのためのMluIまたはBamHI制限部位を導入するものである。
【0141】
外来性ペプチドは、アデノウイルス(Ad)キャプシドファイバーおよびノブタンパク質をコードする。ファイバーは、Adキャプシドから伸び、主として細胞との結合を仲介して感染を引き起こし、N末端側の長い繊維状のシャフトドメインとそれに続くC末端側の球状のノブドメインとからなる、アンテナ様の各突起を表す。ノブドメインは、細胞表面受容体と特異的に相互作用し、シャフトの非存在下で可溶性タンパク質として産生されるものである。Invは、PBK10と融合すると効果的なリガンドとなる。
【0142】
ノブサブドメインをInvに置き換えて組換えノブ構築物であるABCJ−InvおよびAGJ−Invを得るという2つの戦略を用いて、Inv配列をノブ内に挿入する。細菌内では、これらの構築物を発現するpRSETベクターから、N末端にGFPがタグ付けされたタンパク質(GFP−ABCJ−InvおよびGFP−AGJ−Inv)およびタグ付けされていないタンパク質の両方として組換えタンパク質が産生される。3つ目の戦略では、InvをノブのDGループ内に挿入し、in vitro翻訳を用いてS35標識タンパク質を作製した。未変性ゲル電気泳動から、組換えタンパク質が野生型可溶性ノブとほぼ同じオリゴマー(二量体および三量体)の構造を維持することがわかった(したがって、Invインサートは融合タンパク質の三次構造を混乱させないことが示唆された)。いずれのシナリオでも、完全長の可溶性タンパク質が作製される。
【0143】
このほか、完全長ファイバータンパク質のノブをInvに置き換えた構築物を作出した。細菌内でのタンパク質発現にはバキュロウイルスベクターを用いた。Invとノブとの間にFactorX切断部位が導入されており、完全長ファイバータンパク質のシャフトドメインとノブドメインとの間にInvを発現する第二のファイバー構築物を作出した。
【0144】
実施例6:CD4のリガンド
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)gp120エンベロープタンパク質のCD4結合ドメインに由来するアミノ酸配列、TITLPCRIKQFINMWQEVGKAMYAPPISGQIRCSSNITGLLLTR(配列番号5)はCD4と結合するのに十分である。標準的な分子生物学技術を用いてこの配列を得た。配列番号5をコードする核酸配列(約132nt)をpBluescript(PSK)プラスミドにクローン化した。臭化エチジウムで染色した電気泳動ゲルから、BamHI−EcoRI消化によりベクター(約3kb)からインサート(約132nt)が切り取られたことがわかった。次いで、得られた産物をPBK10などの外来性ペプチドとインフレームで挿入して、CD4を発現する細胞(すなわち、「ヘルパー」T−細胞)に対してこのような送達タンパク質を標的化する。