特許第6608384号(P6608384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レキソジェン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000002
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000003
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000004
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000005
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000006
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000007
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000008
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000009
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000010
  • 特許6608384-コピー数が保持されるRNA分析法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608384
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】コピー数が保持されるRNA分析法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20191111BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20191111BHJP
   C12Q 1/6853 20180101ALI20191111BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20191111BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20191111BHJP
【FI】
   C12Q1/6806 Z
   C12Q1/6851 Z
   C12Q1/6853 Z
   C12Q1/686 Z
   !C12N15/11 Z
【請求項の数】31
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-557923(P2016-557923)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公表番号】特表2017-507663(P2017-507663A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】EP2015055961
(87)【国際公開番号】WO2015140307
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年12月18日
(31)【優先権主張番号】14161135.0
(32)【優先日】2014年3月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516277554
【氏名又は名称】レキソジェン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モル パメラ
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131645(WO,A1)
【文献】 特表2012−506246(JP,A)
【文献】 M.A.イニスほか編,PCR実験マニュアル,HBJ出版局,1991年12月12日,初版第1刷,19〜24頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68−1/6897
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型RNA分子から核酸産物を生成する方法であって、鋳型RNAを得た後に、
a)第1のオリゴヌクレオチドプライマーを、前記鋳型RNAの予め選択された核酸領域でアニーリングさせること、
b)該第1のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させることによって、第1の伸長された鎖を得ること、
c)該RNA鋳型を除去すること、
d)1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを前記第1の伸長された鎖にアニーリングさせること、
e)鎖置換活性を欠くポリメラーゼ用いて、及び/又はポリメラーゼによる鎖置換に抵抗性を有するプライマー使用して、前記第1の伸長された鎖にアニーリングされたプライマーを置換することなく、前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長し、更なる伸長産物を生成すること、
ここで、工程a)〜e)は、1つの引き続き増大していく流体容量で実施される、
f)前記第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に伸長された核酸部分を含む前記の更なる伸長産物の伸長産物を単離及び/又は増幅すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記鎖置換活性を欠くポリメラーゼが、T7、T4若しくはQ5 DNAポリメラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリメラーゼによる鎖置換に抵抗性を有するプライマーが、LNA若しくは2’フルオロ修飾を有するヌクレオチドを有するプライマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)〜e)が、洗浄することなく実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)〜e)が、流体を除去することなく実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記予め選択された核酸領域は、3’末端核酸領域であ、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記3’末端核酸領域は、ポリAテールを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、3’ポリヌクレオチドテールを前記鋳型RNAの3’末端に付加する工程を更に含み、前記予め選択された3’末端核酸領域は、前記3’ポリヌクレオチドテールを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴヌクレオチドプライマー及び/又は更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、DNAである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のオリゴヌクレオチドプライマー及び/又は更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、非アニーリング配列タグ又はリンカー配列を含、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記非アニーリング配列タグ又はリンカー配列は、増幅プライマー結合のために使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非アニーリング配列タグ又はリンカー配列は、バーコード含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記非アニーリング配列タグ又はリンカー配列は、ランダムバーコードを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させることb)は、逆転写によって行われ、かつ該第1の伸長された鎖は、DNA鎖である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記RNA鋳型を除去することc)は酵素的RNA消化アルカリ性分解、又は二価カチオン存在下での加熱を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素的RNA消化がRNアーゼにより実施され、前記アルカリ性分解がNaOH処理により実施され、又は前記加熱がMn2+若しくはMg2+の存在下で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、ランダムプライマー及び/又は少なくとも10種異なるプライマーを含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、ランダムプライマー及び/又は少なくとも20種の異なるプライマーを含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、ランダムプライマー及び/又は少なくとも100種の異なるプライマーを含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記予め選択された核酸領域は、1つ又は複数の関心の鋳型RNAに存在する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、それぞれ1種の鋳型RNA又は該RNAにある遺伝子配列に特異的である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、1つ又は複数の関心のRNAの特異的領域にアニーリングする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1つよりも多い種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させることe)は、クラウディング剤存在下で実施される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記クラウディング剤が、PEGである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記鋳型RNAは、1番目のプライマーアニーリングの前に断片化される、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
工程e)の伸長産物を精製する工程を更に含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記更なる伸長産物に対して、該伸長産物の配列タグ又はリンカー配列に特異的なプライマーを使用してPCRを実施することを含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記PCRの少なくとも1種のプライマーは、更なる配列タグ又はリンカー配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットの使用であって、該キットは、逆転写酵素、dNTP、補因子又はポリメラーゼに必要とされる金属イオン塩、プライマー、鎖置換活性を有さないDNAポリメラーゼ、例えばT7、Q5若しくはT4 DNAポリメラーゼびランダムオリゴヌクレオチドプライマーを含む、使用
【請求項30】
前記金属イオンが、Mg2+である、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記キットが、RNA分解剤及び/又はクラウディング剤、例えばPEGを更に含む、請求項29又は30に記載使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA分析の方法、特に転写産物量アッセイ及び転写産物型推定アッセイの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子発現は、遺伝子からの情報を機能性遺伝子産物の合成に使用する過程である。これらの産物は、機能性RNAであり、そのうち1つの主たる重要なクラスは、上記過程で酵素、輸送分子等のようなあらゆる種類のタンパク質に翻訳される、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA、つまりmRNAからなる。細胞及び組織におけるmRNA含有量及びそのプロセシング段階の知識は、細胞発生、疾患の発生、生物の薬物応答性及び他の生物学的過程の理解のために重要である。
【0003】
生物学的な細胞過程は、多くの内的パラメータ及び外的パラメータによって影響を受ける。このとき、全RNA、特にmRNAプール(トランスクリプトーム)は中心的な役割を担う。一般的な哺乳動物細胞は、10pgから30pgの間の全RNAを含み、それは、平均して3.6・10のmRNA分子に相当する。最新のヒトゲノムデータベースは、20769種のコーディング遺伝子アノテーション、48461種のGenescanによる遺伝子予測を含んでいる。遺伝子アノテーション及び遺伝子予測についての数は、かなり安定しているが、アノテーションが付けられた転写産物の数(現在195565種の転写産物)はRNA分析の向上により増え続けている(Ensembl release 73、2013年9月)。多くの調査の主な着目点は、タンパク質をコードするRNA、mRNA又は転写産物の定量化である。個々の遺伝子は、非常に多数の種々の転写産物、いわゆるスプライスバリアントを発現することができる。上記転写産物は、それらのエキソン領域の差によって、及び/又は調節過程にとって重要な非翻訳領域の開始部位と終止部位との差によって特徴付けられている。
【0004】
mRNA又は遺伝子発現レベルのいずれかを種々の精度で測定する様々な方法が開発されている。
【0005】
発現配列タグ、つまりESTは、cDNAの短い部分配列であり、クローニングされたcDNAの一回のシーケンシングによる結果である。発現配列タグは、過去に遺伝子転写産物の同定のために使用された。何百万ものESTが公共データベースにおいて入手可能であり、相応する遺伝子が発現される条件についての情報も提供されている。該ESTは、遺伝子発現を測定するためのDNAマイクロアレイ用のプローブの設計を可能にする。
【0006】
マイクロアレイハイブリダイゼーションアッセイのような遺伝子発現測定のための古典的な方法又は大規模並列シーケンシング若しくは次世代シーケンシング、つまりNGSによるmRNAシーケンシングのようなつい最近の方法は、それらの方法の固有の誤差により制限されており、その誤差は、最近では、より深い読みのシーケンシングのようなより多量の測定によって、或る程度までは補うことはできるが、大規模の試料処理量で分析を実施することができない程度までの費用増大が余儀なくされる。しかしながら、上記測定における精度も費用も、薬理学的調査及び大規模臨床研究における最重要な必要条件である。マイクロアレイは、予め決められた配列プローブが実験前に設計されているエキソンレベル又は配列レベルで、遺伝子を検出することができるにすぎない。そのようなハイブリダイゼーションプローブの限られた数及びミスハイブリダイゼーションは、高精度の遺伝子発現実験の場合には、しばしば不明瞭な結果をもたらす。マイクロアレイは、それらが種々の3’UTR(3’非翻訳領域)のうちの或る特定の数しか網羅することができず、新たな3’UTRを同定することができないという理由から、設計により制限される。
【0007】
1996年の終わりに、新たなハイスループットシーケンシング技術(特許文献1)が出回り始め、そしてその技術は、サンガー法以降それまで一般的であったジデオキシ法に対して、次世代シーケンシング、つまりNGSとして知られるようになった。新たなシーケンシング技術の開発によって、全体のトランスクリプトームのシーケンシングを試みることが可能となった。NGSは、何百万もの短い、つまり50塩基長から400塩基長の間のシングルリード又はペアエンドリードをシーケンシングするために小型化され並列化されたフローセルを使用する。空間的に隔離されたクローン増幅されるDNA鋳型は、合成によって相補鎖へと個々のヌクレオチドを付加しながら解読を行うようにしてシーケンシングされる。光学的スキャニング(Illumina社(米国)製のIlluminaシステム;Life Technologies(米国)製のSOLiDシステム;454 Life Sciences、Roche Diagnostics社(米国)製のRoche 454)及びアレイ状に配置されたマイクロチップ電界効果トランジスタ(Life Technologies(米国)製のIon Torrent)による非常に小さいpH変化の検出は、種々のマイクロ流体プラットフォームで使用されている。何百万ものショートリードを、既知の配列にアライメントせねばならないか、さもなければデノボアセンブルせねばならない。しかしながら、RNA調査については、個々の遺伝子からの転写産物の配列が大きな範囲で重複しているため、その状況は更に複雑である。今まで見出された転写産物バリアントのアノテーションは、個々のエキソン、エキソン−エキソン接合部及びカバレッジ率の発見を基礎として引き続いての転写産物アセンブリを導く枠組みを提供する。正しい転写産物アセンブリだけが、リードをそれらの親RNA分子に割り当てることを可能にし、更にそれぞれのコピー数の計算を可能にする。
【0008】
NGS技術とは無関係に、配列情報と頻度情報との同時の測定は、複雑な配列混合物を調査するにあたっての一つの主要な問題である。その配列のみがその分子の性質を決めるので、同じ分子をそれらの存在量に比例して繰り返しシーケンシングすることは、それらの相応のコピー数をカウントするためには避けられないと思われる。6桁のダイナミックレンジとするには、低含量の分子について統計学的に妥当な値に到達するまで、何百万もの同一の非常に多量の分子にわたる繰り返しのシーケンシングが必要となる。そのようなアプローチは、シーケンシングと引き続いてのデータ分析との間にリソース及び時間を消費する。必要とされるリードデプス(read depth)は、試料の複雑性に大きく依存する(非特許文献1;非特許文献2)。結局、一つの主な難題は、個々の遺伝子内で、重複するリードを重複する多数の転写産物アノテーションにアライメントすることのもつれ合いである。リードデプス及び計算における労力及び費用は莫大である。したがって、1つのmRNA分子当たりちょうど1つのリードを生成することによって、重複するリードのアライメントの必要性を排除する種々のアプローチが開発されている。そのような複数のリードのグループ化及びカウントは、mRNA測定及び遺伝子発現測定を簡単なものにする(特許文献2)。
【0009】
mRNA前駆体のポリアデニル化は、真核性遺伝子発現及び調節の一つの重要な工程である。多くの遺伝子は、選択的ポリアデニル化部位、つまりAPAと別個の3’UTRとを有するmRNAを産生し、上記遺伝子は、様々に調節されてよく、又は様々なタンパク質アイソフォームをコードしてもよい。したがって、1つのmRNA当たりちょうど1つのリードを生成することによる遺伝子発現値の測定の単純さと、ポリアデニル化部位の正確な同定とを組み合わせるために、これらのAPAを排他的にターゲティングする方法が開発された。
【0010】
そのような方法の一つは、ポリA部位をゲノムワイドに、そして鎖特異的に同定することである(非特許文献3)。ここでは、NGSシーケンシングのためのライブラリーは、RNA試料を熱断片化し、固相可逆固定化(SPRI)を行い、バッファー交換により精製することで更なる断片化を停止させ、ビオチン化されたアンカー用のポリT(V)プライマーアダプターでプライミングした後に逆転写を行い、SPRI精製を行うことで全ての非ポリA含有断片を除去し、そして溶液を交換し、RnアーゼHで処理してRNAを分解し、そしてより小さいRNA断片を、第二鎖合成のためのランダムな開始配列として、可能な限り長い二本鎖を生成する(それというのも、全ての他の内側に広がるプライミング部位は鎖置換を通じて置換されるであろうからである)DNAポリメラーゼIと一緒に使用し、SPRI精製を行い、ストレプトアビジン親和性精製を行い、そして以下の3工程、つまり酵素末端修復、シングルdAテーリング、別のアダプターのライゲーションのそれぞれの後に溶液交換を可能にする結合を行い、それに引き続きエンリッチメントPCR及びSPRI精製を行うことによって調製される。
【0011】
得られたNGSライブラリーは、1つのmRNA分子当たりちょうど1つのリードを含むが、1つのmRNA当たり1つのリードが、理論上の最高を示す。実際的な問題として、ライブラリー生成の多くの反応工程のそれぞれは100%を下回る効率を有するので、その結果が表すのは、歪められた、そして実現が望まれるには比例的に歪められた転写産物量である。転写産物種1つ当たりのリードの数は、それらのコピー数に比例しており、それらの長さ又は任意の他の配列特異的なバイアスには比例していないことが重要である。その労力と、化学と、消耗品とを集約した方法は、遺伝子発現測定に有利である。それというのも、該方法は、各転写産物からたった1つのリードしか産生されないので、単純なリードのカウントによりRNA量の定量化を可能にするからである。該方法は、実際のシーケンシングが始まる前に、プライマーアダプターのポリTストレッチを黙々と読み通す特定のNGSプロトコルを続ける。この部分は、3’T−フィル(3'T-fill)法と呼ばれる。さらに、ポリA部位アイソフォームの発現レベルは、単一ヌクレオチド配列の精度で検出及び定量化することができるか、又はそれぞれのクラスターに近接したポリA部位を併合した後に検出及び定量化することができる。リード生成のより良い質の他に、該プロトコルにおける主な改善は、それらの最後の転写産物からのシーケンシングを可能にした上記3’T−フィルの導入であった。
【0012】
他のポリA部位エンリッチメント方法は以前から開発されているが、それは上述の3’T−フィルを用いるものではなかった。転写産物バリアントの内部参照を欠いているので、該方法の種々の品質を判定しづらい。一つのより単純な方法は、ポリA結合配列の多重化分析(MAPS)である(非特許文献4)。ここでは、ビオチン化されたオリゴdT(NV)を含むアダプター配列がcDNA合成のプライミングのために使用される。固相選択に際し、第二鎖合成は、別のアダプター配列に結合されているランダムプライマーを使用することによって開始される。最後に、上記ライブラリーは、ストレプトアビジン被覆ビーズから放出され、そして通常のプライマーと一緒にバーコード付きプライマーを使用して増幅される。この方法は、同様に遺伝子発現を力強く検出する能力を有する。読み取り方向が当初mRNAの3’末端に向けられ、かつ該ライブラリーの非常に狭いサイズの選択だけがポリA部位中への読取りを可能にすることとなるが、該アダプター(プライマー)配列の交換及び上記の3’T−フィル法との組み合わせは、また、全てのリードでポリA部位の正確な検出を可能にする。
【0013】
上記方法には幾つかの落とし穴がある。その目的は全長cDNAを合成することであり、該cDNAの末端をジデスオキシリボヌクレオシド三リン酸(ddNTP)で保護してから、該cDNAをストレプトアビジンビーズ表面に結合させ、該cDNAをこれらの手段によって精製し、プライミングし、そしてTaq DNAポリメラーゼで第二鎖を伸長させている。Taq DNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を介して任意の対向した下流の鎖を分解するとともに、1つのcDNAにつき1つだけの第二鎖、つまりポリA部位から最も遠くでプライミングされた鎖が、述べられた親和性結合法を通じて二本鎖産物を精製する前に産生されることを保証するように選択されている。cDNAが長いので、上記NGSライブラリーは長い傾向にあり、それは後のNGSクラスター生成において長さのバイアスに導くこととなる。上記第二鎖合成はビーズ表面で行われるが、それは、特にビオチン化された第1のプライマー配列の配列に向かう境界領域で阻止される。表面限定の反応によって支援される多数の精製工程は、確実なポリA部位リードの生成において一連の長さ及び配列のバイアスをもたらす。
【0014】
もう一つのディープシーケンシングをベースとする方法は、定量的ポリA部位シーケンシング(PASシーケンシング)である(非特許文献5)。この方法は、所望のサイズ範囲のRNA断片を生成するための断片化工程から始まる。またしても、第1のアダプター配列は、アンカー用のオリゴdT(NV)プライマーの一部である。この方法は、逆転写酵素の末端トランスフェラーゼ活性を利用している。mRNA断片の5’末端に到達すると、MMLV−V RTは、幾つかの鋳型にないデオキシシトジン(deoxycytodines)をcDNAの3’末端へと付加する。それらの末端は、三重G配列を含む第2のアダプターとハイブリダイズする。該逆転写酵素は、鋳型を切り替え、そしてここで両方のアダプター配列だけ伸長されたmRNA断片のコピーを合成することまで継続する。
【0015】
この非常に単純な方法の主たる欠点は、わずか1%〜10%という非効率性、バイアス及び鋳型切り替えの不正確性である。低い効率は、低含量の転写産物の損失をもたらすと考えられる。切り替える鋳型は、鋳型切り替えプライマーに排他的にカップリングされず、そして人工的な融合転写産物が、種々のRNA鋳型への切り替えによって生成されることがある。また、該鋳型切り替えプライマーは、大過剰に準備する必要があり、後続のライブラリー増幅前の精製工程を必須のものとする。
【0016】
もう一つのポリA−seq法は、非特許文献6によって記載されている。該プロトコルは、第1のアダプター配列を含むアンカー用のポリTプライマーを用いた第一鎖合成、事前にRNAを消化するためのRNアーゼH処理、第2のアダプター配列を含むランダムプライマーによるプライミング、及び第二鎖の合成のためのクレノウ伸長を使用する。クレノウDNAポリメラーゼI断片は5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠いているが、該断片は、不変の鎖置換活性を含む。したがって、それぞれの第一鎖cDNAは、幾つかのランダムにプライミングされた第二鎖を生成し得る。mRNA量とリードのカウントとの明白な全射的相関は保証されない。
【0017】
特許文献3は、第一鎖合成の間にプロセッシブRT酵素と耐熱性RT酵素との間で前後して回すことを含む方法により全長cDNAを生成する方法に関する。
【0018】
特許文献4は、第一鎖及び第二鎖の合成方法に関する。第一鎖合成のために、ビーズに固定化されたプライマーが使用され、第二鎖合成のためにはランダムヘキサマーが使用される。第二鎖合成は、鎖置換活性を含むクレノウの混合物を用いる。
【0019】
非特許文献7は、RNA−seqを使用したトランスクリプトーム研究に関する。
【0020】
非特許文献8は、3’領域抽出及びディープシーケンシングによる選択的開裂及びポリアデニル化の分析に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】国際公開第98/44151号
【特許文献2】国際公開第02/059357号
【特許文献3】米国特許第6,406,891号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1371726号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Hopper, 2010
【非特許文献2】Wendl, 2009
【非特許文献3】Wilkening, 2013
【非特許文献4】Fox-Walsh, 2011
【非特許文献5】Shepard, 2011
【非特許文献6】Dertiら[2012]
【非特許文献7】Costaら[2010]
【非特許文献8】Mainul Hoqueら[2012]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
遺伝子発現のカウントのためには、mRNA存在量とリードのカウントとの間の全射的相関を有するNGSライブラリーアンプリコンを生成するための確実で効率的で簡単かつ費用的に効率的な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、鋳型RNA分子の核酸産物を生成する方法であって、場合により鋳型RNAを得た後に、
a)第1のオリゴヌクレオチドプライマーを、上記鋳型RNAの予め選択された核酸領域でアニーリングさせること、
b)該第1のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させることによって、通常は該鋳型RNAを含む二本鎖の状態にある第1の伸長された鎖を得ること、
c)該RNA鋳型を少なくとも上記二本鎖から除去すること、
d)1又は複数種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを上記第1の伸長された鎖にアニーリングさせること、
e)上記1又は複数種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを、鋳型特異的に、1)上記第1の伸長された鎖にアニーリングされたプライマーを置換することなく、又は2)置換された鎖を破壊するポリメラーゼを用いて伸長させることによって、更なる伸長産物を生成すること、
f)上記第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に(又は相補して)伸長された核酸部分を含む上記更なる伸長産物の伸長産物を単離及び/又は増幅すること、
を含む、方法を提供する。
【0025】
本発明は、また、逆転写酵素、dNTP、補因子、例えばポリメラーゼに必要とされる金属イオン、好ましくはMg2+の塩、プライマー、好ましくはポリTプライマー、鎖置換活性を有さないDNAポリメラーゼ、例えばT7、Q5若しくはT4 DNAポリメラーゼ又は置換された鎖を破壊するポリメラーゼ、例えば全長Bst、大腸菌のI型DNAポリメラーゼ及びランダムオリゴヌクレオチドプライマーを含むキットに関する。該キットは、本発明による方法を、好ましい特徴のいずれか1つ又は該特徴の組み合わせを伴う、いずれかの実施形態に従って実施するのに適切であり得る。
【0026】
以下の詳細な開示は、本発明の全ての態様及び実施形態を包含している。方法の記載も、上記方法を実施するのに適したパーツを含んでよいキットを包含する。キットの構成要素はまた、そのような構成要素をそれらの機能に従って実施又は使用することができる方法を包含し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明による方法の略図である。該反応は、引き続き反応物を添加することによって進行し、以下の段階に分けられる。a)cDNA合成は、既に存在するか(ここではmRNAのポリ(A))又は先行する反応で結合されたかいずれかの既知の領域又はタグにプライミングすることによって開始される。P1は、上記の既知の領域に相補的であり、更にユニバーサルタグとしてはたらく非相補的な特異的配列を5’末端に含む。b)RNAは、RNA依存性ポリメラーゼ、すなわち逆転写酵素によってcDNAへと逆転写される。c)cDNA合成後に、該RNA鋳型はRNアーゼ、pH変化(NaOH及び熱)又は二価カチオン(Mn2+、Mg2+及び熱)のいずれかによって加水分解又は分解される。d)次いで、該一本鎖cDNAは、多数のランダムプライマー、P(n)、P(n+1)...P(n+n)によってプライミングされる。e)そして第二鎖は、鎖置換を伴わないDNA依存性ポリメラーゼを使用して合成される。f)鎖置換の欠如は、最も3’側の断片だけが、2つのタグ、つまり一方は、cDNA合成プライマー由来のものであり、かつもう一方が第二鎖合成プライマー由来のものであるタグを含むであろうことを保証する。この最も3’側の断片が単離及び/又は増幅される。
図2】該アッセイにおいて生ずる例示的な核酸分子の略図である。2つのオリゴ(配列番号2及び配列番号3)は、一本鎖DNA鋳型(配列番号9)にハイブリダイズされる。鎖置換を伴わないポリメラーゼは、配列番号3の伸長の結果として65nt長の断片(配列番号4)を生じ、配列番号2の伸長の結果として85nt長の断片(配列番号5)を生ずることとなる。鎖置換を伴うポリメラーゼは、配列番号2の伸長及び配列番号3の置換の結果として150nt長の断片(配列番号6)を生ずることとなる。さらに、配列番号3の伸長の結果として65nt長の断片(配列番号4)と、鎖置換が不十分な場合には85nt(配列番号5)から150nt(配列番号6)の間の産物とが生ずることもある。
図3】種々の反応温度での鎖置換活性を有するポリメラーゼと鎖置換活性を有さないポリメラーゼとの比較を示す図である。3種の異なるポリメラーゼである、両者とも鎖置換を伴わないT7 DNAポリメラーゼ及びT4 DNAポリメラーゼ並びに鎖置換を伴うクレノウ断片3’−5’Exo−を、種々の反応温度で試験した。白色で中塗りされた矢印は、部分的に置換された鎖置換停止産物を示している。変性工程なしでの一本鎖鋳型の二次構造は、黒色の矢印で示されている。
図4】種々の反応温度での鎖置換活性を有するポリメラーゼと鎖置換活性を有さないポリメラーゼとの更なる比較を示す図である。T4については25℃が37℃よりも推奨することができる。それというのも、37℃では固有のエキソヌクレアーゼが該反応を肩代わりするからである。
図5】MnCl、高められた温度単独、NaOH処理又はRNアーゼによる種々のRNA分解法の比較を示す図である。マウス肝臓から単離された全RNAは、111ntの一本鎖DNA(ssDNA)オリゴ(配列番号7)でスパイクした(レーン1及びレーン10を参照のこと)。標準的なRTバッファーである50mMのトリスHCl(25℃でのpH8.3)、75mMのKCl、3mMのMgCl及び10mMのDTT中での、95℃で30分間並びに98℃で5分間、98℃で10分間、98℃で20分間及び98℃で30分間の熱処理によって、該RNAは分解されるが、該RNAは完全に除去されない。RNA/ssDNA混合物をRNアーゼ H/A/T1ミックスと一緒に、25℃又は37℃のいずれかで30分間にわたりインキュベートすることで、該RNAは一本鎖DNAを分解することなく完全に除去される。高められた温度で10分間(55℃)、0.1NのNaOHの存在下でインキュベートすることで、該RNAは分解されるものの、完全には分解されない。0.1NのNaOH中にて95℃で10分後に、該RNAは完全に除去されるが、上記ssDNAも分解し始める(レーン7〜10)。10mMのMnClをRNA/ssDNA/RTバッファー混合物に添加して、98℃で5分間、10分間、20分間、そして30分間にわたり熱処理することで、ssDNAを分解することなく、該RNAの完全な分解がもたらされる。
図6】初期RNA断片化のライブラリーサイズ及び効率に対する効果を示す図である。a)及びb)は、6mMのMnClの存在下で断片化され、そして最終的に14回のPCRサイクルにわたり増幅されるが、c)及びd)は、4mMのMnClの存在下で断片化され、2回の更なるPCRサイクルが必要とされた。全ての断片化は、85℃で3分間にわたって進行させた。
図7】RTプライマー濃度及び第二鎖合成プライマー濃度のライブラリーサイズ及び収率に対する影響を示す図である。a)50nMのアンカー用のポリdT(RT)プライマー(配列番号8)及び1μMの第二鎖合成オリゴ+rc(配列番号9及び10)、b)25nMのアンカー用のポリdT(RT)プライマー及び0.5μMの第二鎖合成オリゴ+rc、ライブラリーはロードする前に1:3希釈した、c)50nMのアンカー用のポリdT(RT)プライマー及び0.5μMの第二鎖合成オリゴ+rc、ライブラリーはロードする前に1:3希釈した、d)25nMのアンカー用のポリdT(RT)プライマー及び0.1μMの第二鎖合成オリゴ+rc。
図8】RNA分解法のNGSライブラリーの質に対する影響を示す図である。該RNAは、a)10mMのMnCl、95℃で10分間、b)5000UのRNアーゼ H、37℃で30分間、c)逆転写用バッファー、95℃で10分間、d)100mMのNaOH、95℃で10分間、及びe)200mMのMnClを通じて分解されている。ML、低分子量マーカー;MH、高分子量マーカー;P、残留しているプライマー;LL、リンカー−リンカー断片。
図9】第二鎖合成後のシリカカラムとSPRI精製との間の比較を示す図である。a)ヒドロキシル変性された磁性ビーズと塩−PEGバッファーとを用いるSPRI精製及びb)pH緩衝系を用いるシリカカラム精製。
図10】ヌクレオチド配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、RNA分子1つ当たり(ちょうど)1つの増幅産物を、第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に(若しくは相補して)伸長された核酸部分を含む伸長産物を目標とすることによって(例えば配列タグ若しくはリンカー配列を選択することによって、又はもう一つのプライマーの配列、例えば上記第1のプライマーに相補的な配列を選択することによって)提供するための簡単かつ経済的な方法であって、例えばオリゴdT含有プライマーが使用される場合には、プライミング反応の3’末端特異性によって実現され、又は遺伝子若しくは転写産物に特異的な配列が第一鎖合成とそのような産物の引き続いての単離、選択若しくは増幅との間にターゲティングされる場合には、遺伝子/転写産物の特異性によって実現される、方法に関する。上記第1の伸長された鎖にアニーリングされたプライマーの置換を抑制することによって、又は置換された鎖を破壊することによって、1つだけの産物、すなわち工程f)の選択、単離、増幅又は一般的にプロセシングの基準を満たす鋳型の予め選択された領域の最も近くに結合する工程d)のプライマーから延びる産物が得られる。したがって、それぞれのRNA鋳型の種類(予め選択された配列を有する)の濃度又はコピー数は、本発明による方法によって最終的に得られる伸長産物と直接的に相関する。該方法は、先に概要で記載されており、かつ更に特許請求の範囲において記載される。該方法は、1つの単独の徐々に増大していく容量又は容器において、特に更なる試薬を反応混合物にただ更に加えていくことによって実施することができ、工程a)〜e)において混合物から成分を単離することによって精製する必要はない。更なる試薬は、幾らかの程度まで、流体中に既に存在する成分を中和するか、又は該成分を構成してよい。このアプローチは、全ての中間反応生成物が1つの一貫した容量相内で常に保たれるため、処理を単純化するだけでなく、該方法の信頼性を高める。手動の調製において間で行われる任意の精製(複数の場合もある)を減らす他に、これは、自動化に適したチップ又はマイクロ流体デバイスへの該方法の実装を非常に容易にする。
【0029】
遺伝子発現は、増幅産物又はリードを遺伝子アノテーションにアライメント及びグループ化し、かつこれらのリードをカウントすることによって測定され、ここでリードを、転写産物足場にアライメントする必要はなく、かつ引き続き、或る特定の長さ及び配列に特異的なバイアスを排除するために行われる、RNA分子1つ当たり2つ以上のリードがある方法では必要とされる転写産物に特異的な正規化アルゴリズムにかけられない。
【0030】
本発明による方法が短いのは、2つのプライミング事象、2つのポリメラーゼ反応、1つの中間体RNA加水分解を必要とし、それに引き続き、RNA鋳型の予め選択された核酸領域に相当する産物の選択を目的とする1つの最終的な単離、増幅又は精製が行われるからである。
【0031】
転写産物1つ当たりわずか1つのリードは遺伝子発現のカウントにおいてより高い精度をもたらすことが知られている。本発明による方法の一つの新たな態様は、全長cDNAと比較して限られた長さを有するわずか一部分を分析するときに行われる長さの正規化のために必要とされるリードデプスの低下である。
【0032】
遺伝子発現シグナルをmRNAの予め選択された核酸領域に制限することにより、従来の全長シーケンシングと比べて目下約五分の一になると見積もられる、より低い相対シーケンシング費用と、試料調製物のレベルで長さの正規化が行われるため、より正確な遺伝子発現値とが可能となる。したがって、正確なFPKM値(百万個のマッピングされたリード当たりの転写産物のキロベース数当たりの断片)の計算のために転写産物バリアントの長さに対して予知は必要とされない。mRNAの領域によって提供される情報内容が、大規模分析において試料を分類する目的のために十分であるのは、その情報内容が全規模転写産物分析よりも少ないももの、単純な遺伝子発現が提供するであろうものより多いからである。
【0033】
生成された核酸産物は、また、増幅産物として理解してもよい。それというのも、核酸増幅反応が使用されるが、もちろんその鋳型RNAそれ自体はその全体でコピーされず、そのため該方法によって多重化されないからである。該方法は、鋳型RNAの領域のコピーされた配列を含むポリヌクレオチドを「増幅」することか、又は該ポリヌクレオチドを単純に生成することを目的とする。このコピーされた配列は、鋳型RNAの一部であり、プライマー結合工程a)で使用される予め選択された核酸領域の5’方向にある。該コピーされた配列は、通常は、約25ヌクレオチド〜2000ヌクレオチドの長さを有し、おおよそ約100nt、200nt、300nt、500nt又は1000ntを有する。厳密な値は様々であり得るが、実施者によって使用されるパラメータ及び試薬によって影響される。実質的に、実施者は、例えば該反応で使用されるプライマー、特にランダムプライマーであってよい工程d)のプライマーの量及び構成を変更することによって、得られる領域長さを調整することができる。実施者は、平均領域長さを、後続のNGS又は任意の他のシーケンシングに最適であるように調整することができる。
【0034】
本発明の一つの可能性によれば、それぞれの転写産物(鋳型RNA分子)又はターゲティングされる配列(予め選択された核酸領域は、転写産物1つ当たり2以上としてもよい)が、全転写産物に沿った多数のリードと比較してちょうど1つのリード(伸長産物に基づいて)を生成するとともに、これらのリードが、同じヌクレオチドで全て開始又は終止することができる場合、これらのリードが転写産物の異なるコピーから由来する場合か、又はそれらがPCR複製事象に由来する場合に、曖昧さを引き起こすかもしれない。したがって、場合により、バーコードを、第1の伸長反応の間に、プライミング事象ごとにタグ(バーコード)に対して使用し、こうして多数の転写産物コピーをクローナルPCR複製事象と区別して、真の再サンプリングの程度を決定することができる(米国特許出願公開第2011/0160078、引用することにより本明細書の一部をなす)。理想的には、そのようなバーコードは、リンカー配列中にランダムバーコードとして導入される。好ましくは、それらはプライミング反応には加わらない。その際、それぞれのリード(又は伸長産物)は、他のリード(伸長産物)とは異なる個々に独自のバーコードを有することとなる。
【0035】
比例的なPCR複製は、要求されるより高い精度を課するものではないが、適用されたリードデプスがNGSライブラリーの複雑さを上回り、こうしてシーケンシングの実行が、同じインサートのコピーを再びシーケンシング(読み出し)し始めることを示している。
【0036】
PCR複製自体は問題ではないが、同じ配列で開始及び終止するリードを理解することは、ユーザーに、シークエンシングを深くしすぎていることか、又はライブラリーの複雑さが低すぎることを確信させることがある。転写産物からの全てのリードはポリAテールに隣接した同じ配列(又は他のターゲティングされた配列)から始まり、しばしば好ましい配列で終わるので、上記リードは、大抵PCR複製物であるように見えるが、そうではない。したがって、第一鎖合成の間に導入されるランダムバーコードのようなシグネチャは、複製物から本物の単一のリードを識別することを可能とする。
【0037】
鋳型RNAを得る又は提供する予備工程は、任意のRNA、例えば細胞由来の全RNAを含有する試料を準備することである。また、特殊なRNA画分、例えばmRNA画分又は以下のRNA型のうちの一つを選択することができる。上記RNAは、好ましくは転写産物若しくはmRNAであり、特に好ましくは、該RNAは、ポリA部位若しくはポリAテールを含み、もちろん、他のRNA分子、例えばmiRNA前駆体、miRNA、tRNA前駆体、tRNA、rRNA前駆体若しくはrRNAを使用及び分析してよく、そのいずれか1つは、単独で又は他のRNA型と組み合わせて、上記RNA中に含まれてよい。好ましくは、上記鋳型RNAは、ポリA部位又はポリAテールを含む。それ自体がRNA種類中に存在しなければ、テールは人工的にテーリング反応によって付加されてよい。もちろんまた、ポリA以外の他のテールは、例えばリガーゼ(キットの任意成分)を使用するライゲーション反応によって、例えば国際公開第2007/062445号に記載されているように付加することができる。工程a)の第1のプライマーは、その際、この(人工的な)テールの配列にアニーリングすべきである。後続工程において、好ましくは、cDNAは本発明による方法の間に、DNAポリメラーゼを使用することによって、好ましくはRNA依存性DNAポリメラーゼを使用することによって生成される。代替的には、関心の転写産物、例えば癌、免疫不全等の病気の発生に関与する転写産物の特定の領域は、RNAの初期プライミングの間に転写産物特異的プライマーを使用してターゲティングすることができる。
【0038】
上記RNA鋳型は、任意の長さのものであってよいが、好ましくは20nt〜100000nt(ヌクレオチド)の範囲、特に好ましくは30nt〜50000ntの範囲、より好ましくは50nt〜25000ntの範囲、75nt〜10000ntの範囲、又は100nt〜8000ntの範囲である。
【0039】
好ましくは、上記3’末端の(任意の)テーリングは、ターミナルトランスフェラーゼ(キットの任意成分)を使用して行われる。しかし、例えば定義された予め選択された配列であってよいテール配列のライゲーションのような他のテーリング法も開示されている。上記ターミナルトランスフェラーゼは、1つのヌクレオチド型から好ましくは一様に選択される或る特定の数のヌクレオチドを付加することができる。テーリング、つまりはテール配列を付加するための任意の他の手段は、例えば一様に1つの種類のヌクレオチド又は様々なヌクレオチドのものであってよいテール配列をライゲーションすることによって使用することもできる。そのようなテールは、好ましくは、5ヌクレオチドから500ヌクレオチドの間の範囲、より好ましくは400ヌクレオチド未満、300ヌクレオチド未満、200ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、50ヌクレオチド未満又は30ヌクレオチド未満の範囲にある配列である。任意のそのようなテール(又はその一部分)は、工程a)における予め選択された3’末端の核酸領域であって、そこにプライマーがアニーリングすることができる領域として使用することができる。
【0040】
本発明による方法は、種々の核酸配列を有する様々なRNA分子の複雑な混合物を分析するのに特に適している。好ましくは、種々の配列の、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の、特に少なくとも20の、少なくとも30の、少なくとも40の、少なくとも50の、少なくとも75の、少なくとも100の、少なくとも200の以上の種々のRNA鋳型が、本発明による方法で得られる、及び/又は使用される。
【0041】
工程a)、つまり第1のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型RNAの予め選択された核酸領域でアニーリングさせる工程は、ハイブリダイゼーション条件下(二本鎖の溶融温度未満)で該予め選択された領域にアニーリング又はハイブリダイズする第1のプライマーを準備することを含む。したがって、該プライマーは、アニーリング反応又はハイブリダイゼーションのために十分な長さの相補的配列を含む。相補的領域は、当該技術分野で一般的に使用されるいずれかの領域とすることができ、それは、例えば6nt〜40ntの長さ、好ましくは少なくとも6nt、7nt、8nt、9nt、10nt以上のntの長さである。予め選択された領域は、既知の配列又は予測された配列の1つ、例えば真核性mRNAに共通するポリAテールである。任意の他の既知の配列、例えば遺伝子特異的若しくは転写産物特異的な配列又は関心の1つ若しくは複数の特定のターゲットについて選択する配列を使用してよい。そのような1つ又は複数のターゲット配列を使用して、疾患特異的パネル、例えば癌又は免疫不全に関するもの等のパネルを作成することができる。上記予め選択された核酸領域は、関心の1つ又は多数の鋳型RNAに存在してよい。関心のこれらの鋳型は、共通の特性、例えば特定の病気又は状態に関連する共通の特性を共有し得る。好ましくは、関心の鋳型のこのパネルは、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の、例えば少なくとも15の、少なくとも20の、その間の任意の範囲の、予め選択された核酸領域を含む鋳型を含む。多数の第1のプライマーを使用することで、このパネルに1つの反応においてアニーリングされるかもしれない(多重化)。
【0042】
必ずしもそうではないが、好ましくは、それは、鋳型RNAの予め選択された3’末端領域、例えばポリAテール又は上記のようにテーリングの間に付加される別のテールである。上記予め選択された領域は、関心のRNA型(例えば先に開示されたもの)にとって特徴的な配列を有してよい。また、先に述べたように、上記予め選択された領域は、人工的にRNA鋳型へと、例えばライゲーション又はテーリングによって結合され得る。
【0043】
上記プライマーは、RNA鋳型にアニーリングする配列、例えば塩基対形成によってハイブリダイズする相補的配列を有する1つの領域と、場合により、結合しない領域、例えば非相補的配列及び/又は更なるハイブリダイゼーションを妨げるこの領域とハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドによってブロックされる配列を有することによって結合しない領域とを含んでよい。この非結合領域は、好ましくは、PCR複製事象からの多数の転写産物コピーを区別するための(好ましくはランダムな)バーコードを含む。好ましくは、そのようなバーコードは、ブロック状の領域に位置している。上記アニーリング領域は、例えばオリゴdT〜オリゴdT35の領域であってよく、好ましくはオリゴdT15〜オリゴdT30の領域であってよく、例えばオリゴdT10又はオリゴdT25であってよく、該領域は、選択性を高め、そしてmRNA内の内部Aリッチ部位で、それらが鋳型RNAの所望の予め選択された領域ではない場合に生じ得る内部プライミング事象を減らす。
【0044】
好ましくは、上記第1のプライマーは、DNAプライマー、場合によりランダムプライマーについて以下に記載されるように修飾されたDNAプライマーである。
【0045】
工程b)、つまり第1のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させることにより第1の伸長された鎖を得る工程は、任意の鋳型特異的なオリゴヌクレオチド伸長反応で、好ましくはヌクレオチドポリメラーゼ、好ましくはDNAポリメラーゼ、特に逆転写酵素を使用して、逆転写のための鋳型としてRNAを用いて行うことができる。その際、上記第1の伸長された鎖は、通常、相補鎖として鋳型RNAを含む二本鎖の状態である。上述の第1の伸長された鎖は、後続工程における更なるプライマー伸長反応のための鋳型である。逆転写は、以下に更に記載される、鎖置換活性を有するか、又は鎖置換活性を有さない任意の逆転写酵素を使用して、例えばM−MLV RTを用いて実施することができる。好ましくは、少なくとも幾らかの鎖置換は、該ポリメラーゼがRNA二次構造を解く(uncoil)のを可能にするために存在する。RNA鋳型を使用する逆転写酵素の場合に、好ましい実施形態においては、逆転写は、RNA鋳型の二次構造若しくは三次構造(RNA:RNAハイブリッド)の形成を可能にしない条件下で、又はこれらの二次構造を逆転写酵素によって鎖置換することを可能にする条件下で行われる。伸長反応の間に使用されるポリメラーゼは、ウイルスのポリメラーゼであってよく、かつAMV RT(及びその突然変異体、例えばThermoscript RT)、M−MLV RT(及びその突然変異体、それらに限定されるものではないが、SuperscriptI、II若しくはIII、Maxima RT、RevertAid、RevertAid Premium、Omniscript、GoScriptを含む)、HIV RT、RSV RT、EIAV RT、RAV2 RT、Tth DNAポリメラーゼ、C.ヒドロゲノフォルマンス(C. hydrogenoformans)のDNAポリメラーゼ、トリ肉腫白血病ウイルス(ASLV)及びそれらのRNアーゼH突然変異体からなる群から選択することができる。これらのポリメラーゼのいずれかの混合物を使用することができる。特に、ウイルスのポリメラーゼの混合物、例えばM−MLVとASLVとの混合物を使用することができ、及び/又はRNアーゼH還元型類似体若しくはRNアーゼHマイナス類似体を使用することができる。これらの方法及び組成物のいずれかにおいて、上記の任意のポリメラーゼを含む2種以上のポリメラーゼを使用することができる。
【0046】
工程c)、つまりRNA鋳型を少なくとも二本鎖から取り除く工程は、上述の第1の伸長された鎖が、少なくとも3’末端領域で、該RNA鋳型から解放されることを意味する。該二本鎖は融解され、該RNA鋳型は精製によって取り除くことができるが、そのような精製は、更なる面倒な工程を付け加えるためあまり好ましくはなく、又は上記RNA鋳型は消化される。消化は、完全に又は部分的に行うことができる。短いRNA部分は、第1の伸長された鎖に残っていてもよい。それというのも、本発明による方法は、上記第1の伸長された鎖に対して全長での到達は必要としないからである。消化は、RNアーゼ又は加熱を使用して、特に更なるRNA脱安定化剤の存在下で、例えばアルカリ性条件又は二価カチオン、例えばMn2+の存在下で実施することができる。好ましくは、RNA鋳型の除去は、好ましくはRNアーゼによる酵素的RNA消化、好ましくはNaOH処理によるアルカリ性分解を含むか、又は二価カチオン、好ましくはMn2+若しくはMg2+の存在下での加熱を含む。
【0047】
工程e)における反応は、1つだけの伸長産物が、鎖置換を伴わない条件を使用することによって、又は破壊によって、すなわち置換された鎖を、例えば適切なポリメラーゼを使用することにより解重合することによって(その場合には鎖置換は生じてよい)産生されることを保証する。鎖置換を伴わないと、予め選択された領域につき最も3’側に向けられたプライマーだけが第1のプライマーに相当する位置まで伸長に成功する。RNA鋳型が、好ましくは逆転写後にこの反応と干渉することを防ぐために、該RNAは除去され、好ましくは完全に又は少なくとも第二鎖の合成の間に次に続く第2のプライマーよりも低い融解温度を有する短い断片だけしか残らないような程度まで加水分解される。
【0048】
RNAは、二価カチオンが存在する場合に、高い温度で自発的分解を受ける。該二価カチオンは、キレート化剤、例えばEDTA又はEGTAによって除去されない場合には後にマスクすることができる。試料が、更に沈殿若しくはカラムベースの精製法で精製されない場合に、キレート化剤の最終濃度は、キレート化剤が何らかの後続生成物を分解することから保護するが、活性のために二価カチオン(例えば、ポリメラーゼの場合のMg2+)を必要とすることもある後続の酵素反応を阻害しないようにバランスを取るべきである。RNAの迅速な加水分解は、例えば二価カチオンの存在下で、少なくとも70℃の温度で、例えば75℃で、及び/又は98℃までの温度で起こる。
【0049】
該RNAの加水分解は、好ましくはMnClと、cDNAをそのままに保つ一方でRNAは破壊する高い温度とを使用して実施される。これは、RNアーゼを使用するよりもかなり費用効率が高い。アルカリ性条件、例えばNaOHの添加によるアルカリ性条件を使用してRNAを加水分解することもできるが、cDNAを同様に分解から、例えばより低温又はアルカリ性の低いpHを使用し、RNAは分解するがcDNAは分解しないように調節して保護することに、かなり大きな注意を払わねばならない。
【0050】
工程d)、つまり1又は複数種のオリゴヌクレオチドプライマーを第1の伸長された鎖へとアニーリングさせる工程は、少なくとも1つのプライマーを該第1の伸長された鎖に結合させることを必要とする。この工程は、本質的に、工程a)において第1のプライマーのアニーリングについて記載されたのと同じ原理に従って実施される。上記更なるプライマー(複数の場合もある)の配列は、関心のRNA鋳型に関して知られる配列であってよいか、又は未知の配列であってもよい。ランダムプライマーを使用することが好ましく、それは、相補的配列の知識を必要としない。上記の工程a)でのように、多重化が可能である。工程d)においても、1つ又は複数の特定の選ばれたターゲット領域に場合により特異的にアニーリングすることにより、更なる1つのオリゴヌクレオチドプライマーにつき1つの鋳型RNA又は該鋳型RNAにある遺伝子配列の特異的な選択を可能にする多数の更なるオリゴヌクレオチドプライマーも一つの選択肢である。
【0051】
ランダムプライミングにおいて、ランダム配列、通常はランダムペンタマー、ヘキサマー、7マー、8マー、9マー、10マー、11マー、12マー又はそれより長いオリゴマー配列のオリゴヌクレオチド集団を使用して、鋳型核酸鎖、ここでは第1の伸長された鎖内のどこかで伸長反応がプライミングされる。該プライマーは、もちろんこのランダムオリゴマー配列に加えて更なるヌクレオチドを含んでよい。場合により、追加のランダムバーコードを使用して、多数の転写産物のコピーをPCR複製事象から区別することができる。好ましくは、該更なるプライマーは、DNAであり、場合により以下に記載されるように修飾されたDNAである。
【0052】
「ランダムプライマー」は、プライマー配列の少なくとも一部分のランダムな合成のため高い多様性を有する異なるプライマー配列部分を有する異なるプライマーの混合物として理解されるべきである。ランダムプライマーは、上記配列のための全組合せ範囲をカバーし得る。該ランダムプライマーのランダム配列プライマー部分は、1、2、3、4、5、6、7、8又はより多くのランダムヌクレオチド又はユニバーサルヌクレオチドを包含することができる。ランダムヌクレオチドは、所定のヌクレオチド位置でランダムにA、G、C又はT(U)から選択される。プライマーの配列のハイブリダイズに関して、本願明細書において配列T及びUは互換的に使用される。ランダム配列部分についての組合せ可能性はm通りであり、ここでmは、使用されるヌクレオチドの型(好ましくはA、G、C、T(U)の4つ全て)の数であり、かつnはランダムヌクレオチドの数である。したがって、それぞれ可能な配列が表されるランダムヘキサマーは、4=4096種の異なる配列からなる。ランダムプライマーは、A、T、C又はGがそうであるように相補的ヌクレオチドに特異的に結合しない1つ以上のヌクレオチドを含んでもよい。そのようなヌクレオチドは、「ゆらぎ塩基(wobble bases)」又は「ユニバーサル塩基」とも呼ばれる。ユニバーサル塩基を有するヌクレオチド、例えばデオキシイノシン、3−ニトロピロール2’−デオキシヌクレオシド及び5−ニトロインドール2’−デオキシヌクレオシドを使用することができる。ユニバーサル塩基は、任意のヌクレオチドA、C、G、T(U)又はそれらの少なくとも2種若しくは3種のヌクレオチドと塩基対を形成するであろう。そのようなランダムプライマーについて全ての可能性を含める必要はない。幾つかの実施形態においては、該ランダムプライマーは、少なくとも1つのランダムヌクレオチド(上記の1つの位置で入れ替え)及び/又は少なくとも1種のゆらぎヌクレオチドを含む。ランダムプライマー又は選択された配列のプライマーに関して、少なくとも10の、好ましくは少なくとも20の、特に好ましくは少なくとも100の異なるプライマーが使用される。
【0053】
特に、限定されるものではないが、ランダムにプライミングされた伸長における最適な表現について、プライマーは、10nMから100μMまでの濃度で、より好ましくは約1μMで存在してよいが、少なくとも200nMであってもよい。好ましい実施形態においては、プライマーと鋳型核酸との比率(重量/重量)は、5:1から1:1000の間、好ましくは2:1から1:500の間、好ましくは1:1から1:300の間、好ましくは1:2から1:250の間、好ましくは1:5から1:150の間、好ましくは1:10から1:100の間、好ましくは1:12から1:50の間である。プライマーと鋳型核酸とのモル比は、100:1から1000000:1の間、好ましくは1000:1から1000000:1の間、10000:1から500000:1の間、又は20000:1から300000:1の間であってよい。一例では、100ngのmRNA出発材料を使用し、かつ500nt〜5000ntのmRNA長を2000ntの平均値で仮定し、かつ1nmolのプライマーを添加すると、プライマーは、6800:1のモル過剰で存在する。
【0054】
更なるプライマーは、第1の伸長された鎖にアニーリングする配列を有する1つの領域と、場合により、例えば非相補的配列を有することによって、及び/又は更なるハイブリダイゼーションを防ぐこの領域とハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドによってブロックされる配列を有することによって結合しない領域とを含んでよい。この非結合領域は、多数の転写産物のコピーをPCR複製事象から区別するために、バーコード、好ましくはランダムバーコードを含んでもよい。
【0055】
工程e)、つまり1又は複数種の更なるオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に、第1の伸長された鎖にアニーリングされたプライマーを置換することなく、又は置換された鎖を破壊することにより更なる伸長産物を生成するポリメラーゼを用いて伸長させる工程は、工程b)と同様のコンセプトに従う。所定の鋳型、例えばDNAに適したあらゆる伸長法を使用することができる。好ましい実施形態においては、(鋳型がDNAであればDNA依存性であり、又は鋳型がRNAであればRNA依存性である)ポリメラーゼ、好ましくは更なる伸長産物がDNAであるべきであればDNAポリメラーゼが使用される。
【0056】
この工程におけるプライマー置換の抑制は、様々な措置によって、例えば置換活性を有さないポリメラーゼの選択によって、又はポリメラーゼによる置換に抵抗性を有するプライマーを提供することによって、又は置換された鎖を破壊するポリメラーゼを使用することによって達成することができる。
【0057】
DNAポリメラーゼが、DNAオリゴヌクレオチドを二次構造又は三次構造を解くのに少なくとも十分にDNAの鋳型鎖から置換し得るように、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを、ポリメラーゼの鎖置換を止めるために増強することができる。特に強い鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、クレノウポリメラーゼ(クレノウ断片)である。置換の抑制は、オリゴヌクレオチド自体への修飾を使用することによって、又はオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを安定化するか、若しくはポリメラーゼを停止させるかのいずれかの添加剤を使用することによって達成することができる。ポリメラーゼの鎖置換活性を低減又は阻害するオリゴヌクレオチドへの修飾は、例えば2’フルオロヌクレオシド、PNA、ZNA、G−クランプ(米国特許第6,335,439号、グアニンにクランプ結合することができるシトシン類似体)又はLNA(米国特許出願公開第2003/0092905号;米国特許第7,084,125号)である。これらの修飾は、一般に、オリゴヌクレオチドの融解温度を、該オリゴヌクレオチドの鋳型RNA又はDNA鎖への局所的ハイブリダイゼーションエネルギーの増大によって、修飾を伴わない同じオリゴヌクレオチドと比較して増大するか、又はオリゴヌクレオチドの糖リン酸骨格を強固にする。その幾らかはまた、糖リン酸骨格を強固にして、ポリメラーゼによる鎖置換を更に阻害する。鎖置換停止(SDS)のための手段は、国際公開第2013/038010号(引用することにより本明細書の一部をなす)に開示されている。
【0058】
それに代えて、又はそれに加えて、該プライマーの鋳型(例えば第1の伸長産物)へのハイブリダイゼーションは、該核酸に結合又はインターカレートする種々の添加剤を使用することによって変更することができる。例えば、エチジウムブロマイド、SybrGreen(米国特許第5,436,134号;米国特許第5,658,751号;米国特許第6,569,627号)又はアクリシジン、好ましくはRNA:DNA若しくはDNA:DNAハイブリッドに特異的なインターカレーターを使用することができる。dsNAに結合することができる他の化合物は、アクチノマイシンD及び類似体、ネオマイシンファミリーのアミノグリコシド類(ネオマイシン、リボスタマイシン、パロモマイシン及びフラマイセチン)である。プライマーのハイブリダイゼーション特性を変える添加剤は、プライマー構造中に共有結合的に含まれていてもよい。
【0059】
ハイブリダイゼーションエネルギー及びキネティクスを変更することで、ポリメラーゼによる鎖置換を、核酸結合タンパク質、例えば一本鎖結合タンパク質、例えばTtH SSB又はTth RecAの添加によって阻害することができる。
【0060】
これらの添加剤が単なる例であり、かつプライマー−鋳型ハイブリッドの高められた安定性に導く任意の他の化合物、塩基修飾又は酵素を使用することで、Tmを高め、したがって鎖置換を阻害するか、又は含まれる酵素の鎖置換能力を阻害することができることは当業者には明らかであろう。
【0061】
Tmの増大は、伸長ポリメラーゼによる、鋳型にアニーリングしたプライマー領域の5’末端ヌクレオチドのいずれか1つの置換を妨げるのに十分に大きいことが望ましい。特に、本発明によるTmの増大は、鋳型にアニーリングしているプライマー領域の5’末端に対して下流の3番目、2番目及び/又は1番目のヌクレオチドの置換を妨げる(更なるアニーリングされない5’ヌクレオチド、例えばリンカー領域又はバーコードが存在してよく、それらは修飾の必要はない)。
【0062】
本発明の或る特定の実施形態においては、上記鎖置換は、下流プライマーのちょうど1番目の5’ヌクレオチドで停止する必要がある。
【0063】
したがって、オリゴヌクレオチドプライマーの結合は、伸長ポリメラーゼをその置換から防ぐために、鋳型にアニーリングされた領域の該プライマーの5’末端で特異的にTmが高められることが好ましい。そのような修飾には、それらに限定されるものではないが、LNA、PNA、ZNA、アクリジン又は蛍光体が含まれる。
【0064】
5’末端でTmが高められたオリゴヌクレオチド、例えばLNA修飾されたオリゴヌクレオチドは、後続のプライマーの開始点ちょうどで停止することを可能にする。LNA修飾されたオリゴと一緒に鎖置換活性を有さないとともに反応温度を下げないポリメラーゼを使用することによる鎖置換の停止と、プライマーの鋳型への結合を高めるための種々の添加剤を使用することによる鎖置換の停止とを組み合わせることは本発明の範囲内である。
【0065】
好ましくはC及び/又はGヌクレオチドは修飾される。修飾されていなくとも、これらのヌクレオチドは、相補的にアニーリングされるときに増大された水素結合の形成のためA又はTよりも高いTmを有する。好ましい実施形態においては、上記オリゴヌクレオチドプライマーは、少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの、少なくとも6つの、G又はCから選択される修飾されたヌクレオチドを含む。これらの修飾されたヌクレオチドは、好ましくは上述のように鋳型にアニーリングするプライマー配列の5’末端にある。
【0066】
最も効果的な鎖置換停止は、G又はCの塩基によって、それらの塩基がプライマー又はストッパーの局所的Tmを高めるので達成される。したがって、セミランダムプライマー(ヘキサマー、ヘプタマー、オクタマー、ノナマー等)は、少なくとも2つの、より好ましくは3つ以上のG若しくはC又は複数のGとCとの組合せを含む。これらのG又はCが修飾されて、LNA修飾された塩基を使用する場合のように局所的融解温度を高める場合に最も好ましい。少なくとも1つの、少なくとも2つの、又は少なくとも3つのLNA修飾塩基は、アニーリングされるプライマー領域の5’末端で使用されることが最も好ましい。したがって、少なくとも2つの、少なくとも3つの修飾されたヌクレオチドが使用され、該ヌクレオチドが、場合によりG又はCから選択されることが好ましい。
【0067】
伸長反応が鋳型にアニーリングされた追加のプライマーの位置に達したときに伸長反応が停止されることを保証するために幾つかの方法及び手段が存在する。この停止は、また、本明細書においては鎖置換の抑制とも呼ばれる。既にコピーされたポリヌクレオチド部分の後続プライマー(複数の場合もある)をポリメラーゼが鎖置換するのを抑制する本発明による工程は、既にコピーがなされたポリヌクレオチド分子の任意の部分が再びコピーされないこと、特に第1の伸長された鎖において最も5’側にある部分であって、当初のRNA鋳型の最も3’側にある部分に相当する部分が再びコピーされないことを保証する。したがって、ポリヌクレオチドのコピーされた部分は、第2の鎖合成において過剰に現れないことになり、特に上記の最も5’側にあるコピーされた部分は、それぞれ合成された第1の鎖の鋳型から一度だけ合成される。この鎖置換の阻害は、種々の手段を通じて、例えば反応温度を低下させること、鎖置換活性を有さないポリメラーゼを使用すること、融解温度若しくは該プライマー:鋳型ハイブリッドのハイブリダイゼーションエネルギーを高めること、又はRNA若しくはプライマーの剛性の向上若しくは螺旋の安定化を通じて達成することができる。実際に、通常はこれらの手段の組合せが、鎖置換なくして最適な反応条件を実現するために選択される。当業者は、本明細書に記載されるか、又は特定の鋳型及び反応条件に合わせるために当該技術分野で知られる適切なパラメータを選択することは十分に可能である。
【0068】
一つの選択肢は、反応温度を調節することである。一般的に、37℃より高い、特に70℃より高い反応温度は、より効果的な置換合成に導く鋳型において二次構造をより良好に解くために伸長の間に選択される。一実施形態においては、プライマーの鎖置換の停止は、反応温度を低下させることによって達成される。37℃未満で、25℃にまで下げ、そして更に4℃にまで下がる反応温度は、鎖置換を減らすために使用される。しかしながら、より低い反応温度であっても、鎖置換活性を有するポリメラーゼが使用される場合、及び/又は融解温度を変更する修飾を有さない単純なストッパーオリゴヌクレオチドが使用される場合には、鎖置換の停止は完全なものにならないであろう。重合が12℃から37℃の間で実施されることが好ましい。
【0069】
一実施形態においては、該反応温度を低下させて、更なるプライマー又はストッパーの上記位置での伸長のより良い停止を達成する(とともに鎖置換を減らす)代わりに又はそれに加えて、鎖置換を欠いているポリメラーゼを使用することができる。DNA−DNAポリメラーゼの場合に、好ましくはT7、T4又はQ5 DNAポリメラーゼは、1又は複数種のオリゴヌクレオチドプライマーを鋳型特異的に伸長させるにあたり使用される。T4 DNAポリメラーゼは、特に効果的であり、全ての実施形態において好ましい。
【0070】
該ポリメラーゼは、中温型又は高温型のポリメラーゼ、特にDNAポリメラーゼであってよい。
【0071】
鎖置換を欠いている突然変異ポリメラーゼは、未修飾の場合に後続のプライマーを3ntまでにわたり置換することが可能であってよい。反応温度を下げることによる鎖置換の停止と、置換型合成を欠いている突然変異体又は置換型合成が損なわれた任意の他のポリメラーゼを使用することとを組み合わせることは本発明の範囲内である。
【0072】
一価対イオンの濃度の増大は、任意の鋳型−プライマーハイブリッドを安定化することとなるが二次構造も安定化することとなる。一価の正イオンの濃度は、好ましくは少なくとも20mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、少なくとも50mM、少なくとも60mM、少なくとも70mMから選択される。
【0073】
上記選択肢のいずれか一つの代わりに又はそれと組み合わせて、鎖置換の抑制は、クラウディング剤(crowding agent)、好ましくはPEGの存在によって高めることができる。クラウディング剤は、高い濃度で使用することができ、かつ細胞内部でクラウディングするマクロ分子の効果を模擬するために使用することができる不活性分子である。例は、PEG(ポリエチレングリコール)、PVP(ポリビニルピロリドン)、トレハロース、フィコール及びデキストランである。クラウディング剤は、例えば米国特許第5,554,730号又は米国特許第8,017,339号に開示されている。クラウディング剤として作用する他の添加剤は、Tween−20であり、NP−40は、PEGに加えて又はPEGに代えて添加することができる。本発明の範囲内では、好ましくは12%〜25%の最終PEG−8000(容量/容量)が使用される。様々なPEGの分子量及び化合物を使用することができ、そして熟練した実験者は、該添加剤の同一性及び濃度を変更して結果を最適化することができることを理解する。クラウディング剤は、好ましくは、鎖置換の危険性を下げるために、工程e)で存在する。クラウディング剤は、択一的に又は組み合わせて、任意の他の工程において、例えば精製工程、特に沈殿工程において存在してもよい。該キットは、クラウディング剤を、好ましくは反応工程e)用のバッファー中に、例えばポリメラーゼのための補因子、例えばMg2+を含むバッファー中に含み得る。後に、上記クラウディング剤は、沈殿バッファー中に存在してもよく、該バッファー中でその濃度は、ポリヌクレオチドの、特に伸長産物の沈殿に十分であるような程度にまで高められるであろう。
【0074】
工程f)、つまり第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に(又は相補して)伸長された核酸部分を含む上記の更なる伸長産物の伸長産物を単離及び/又は増幅する工程は、当初の鋳型RNAの予め選択された核酸領域に相当する工程e)の正しい伸長産物の選択である。工程e)における鎖置換は留められるか、又は防止されるので、それぞれの鋳型(直接的には、第1の伸長された鎖であるが、また内在的に当初の鋳型RNA)に関して工程e)から得られる本質的に1つの伸長産物だけが存在することとなる。それというのも、他のアニーリングされたプライマーは、第1のプライマーが結合される上記予め選択された領域にまで伸長することができ、かつ更に上記第1のプライマーの全配列に沿って伸長することができる最も3’側のプライマーのブロッキング作用のため、該予め選択された核酸領域に相当する領域にまで伸長することが妨げられると考えられるからである。他のブロッキング事象は、工程c)の除去が第1の伸長された鎖にアニーリングされた幾つかの短い分解産物を残すのであれば、RNA鋳型の残余断片によるものかもしれず、それは完全なRNA鋳型の除去を通じて発生が防止されるべきである。それというのも、さもなければ、最後の最も3’側のプライマーを所望の予め選択された領域中へと効果的に伸長させる見込みも低下するからである。
【0075】
その正しい更なる伸長産物の「選択」(それぞれの鋳型についての)は、例えば単離、精製若しくは増幅によって、又は一般的に、第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に伸長された核酸部分を含む更なる伸長産物に特異的な任意のプロセシングによって実現することができる。単離は、例えば固定化されたプローブへの結合を含んでよい。増幅を使用することで、プライマーを使用して鋳型鎖として更なる伸長産物を認識する選択的に産生される更なる伸長産物の相補鎖を得ることもできる。該増幅は、更なるプライマーアニーリングと鎖伸長反応とを含むPCRサイクルであってよい。単離又は増幅のために、認識配列として、特にオリゴヌクレオチド結合のための認識配列として既知の配列を使用することができる。そのような既知の配列は、例えば、工程a)の鋳型RNAの当初の予め選択された核酸領域と同一の配列であり、該配列は、したがって第1のプライマーの選択的な配列領域に相当するか、又は以下に更に記載されるリンカー若しくはバーコード配列のような第1のプライマー中に含まれる任意の他の領域に相当する。
【0076】
本発明の任意の好ましい実施形態によれば、工程a)の第1のオリゴヌクレオチドプライマー及び/又は工程d)の更なるオリゴヌクレオチドプライマーは、非アニーリング配列タグ又はリンカー配列を含む。そのような配列タグ又はリンカーは、別の伸長、特にPCR反応で結合する増幅プライマーのために使用することができる。該配列タグ又はリンカーは、それぞれのプライマー若しくはプライマー型に対するユニーク配列(特にランダムプライマーの場合において)又はユビキタス配列識別子(バーコード若しくはバーコード配列とも呼ばれる)を含んでもよい。配列の同一性又は識別子は、特定の実験若しくはバッチのプライマー(引き続いての伸長産物)、又は個々の若しくは群の伸長産物を同定することができる。該配列タグは、大規模並列シーケンシングによって更なる分析を可能にする。「非アニーリング」は、そのハイブリダイズする鋳型(RNA鋳型、第1の又は更なる伸長鎖)へとアニーリングしない配列を選択することによって、及び/又は該非アニーリング配列を別のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせることで、このプライマー部分をブロックし、該鋳型とのハイブリダイゼーションを防ぐことによって達成することができる。
【0077】
また、1番目のプライマーアニーリング(工程a)の前の鋳型RNAは、断片化されたRNAであり、すなわち例えば試料から得られたRNAを、断片化を受けるように処理することで、鋳型RNAを得ることも可能である。そのような断片化は、当該技術分野で既知の任意の手段を使用して実施することができる。断片化は、配列依存的に、例えばエンドヌクレアーゼ消化によって、又は配列非依存的な手段によって、例えば超音波処置若しくはせん断のような物理的手段によって、又は加水分解のような化学的手段によって開始することができる。配列依存的方法、例えば制限エンドヌクレアーゼ消化又は配列特異的増幅が使用されるのであれば、断片の末端は、配列バイアスを有することとなる。一つの好ましい実施形態は、限定分解又は工程c)について先に記載した加水分解、例えば二価カチオンの存在における若しくはアルカリ性条件下での加熱によって、しかし限られた時間にわたって及び/又はより低い温度で断片化することで、より大きいRNA断片を保つことである。そのような断片は、例えば約100nt〜5000ntの、好ましくは300nt〜3000ntの、特に好ましくは500nt〜2000ntの平均長を有してよい。該断片は、ターゲットとなる3’末端断片でインタクトとなるように選択的配列部分を保ち、工程e)の間のランダムプライミングのために十分に長い配列を提供し、そしてゲノムアノテーション及び/又はトランスクリプトームアノテーションにマッピングすることができる相補的な第1のプライマー配列と第2のプライマー配列との間で十分に長い配列インサートを維持するために、50ntより長い、好ましくは100ntより長い、特に好ましくは150ntより長い最小長さを維持する必要がある。該配列インサートは、10ntより長く、15ntより長く、好ましくは20ntより長いことが好ましく、それはしばしば、バイオインフォマティクスのNGSシーケンシングのリードアライメントアルゴリズムについての最小所要長として定められる。
【0078】
好ましくは、上記方法は、更なる伸長産物において、上記伸長産物の配列タグ又はリンカー配列に特異的なプライマー(若しくはプライマー対)を使用したPCRを実施することを含む。そのようなリンカー又は配列タグは、工程a)におけるプライマー及び/又は工程d)におけるプライマーによって導入することができる。
【0079】
更なるPCRのこれらの追加のプライマーは、改めてPCR増幅で使用することができる追加の配列タグ又はリンカー配列を含んでよい。また、これらのタグ又はリンカーは、配列識別子、例えば最初に述べたリンカー又は配列タグについて先に記載したバーコードを含んでもよい。
【0080】
好ましくは、本発明による方法は、工程f)において工程e)の伸長産物の精製を更に含む。そのような精製は、工程e)の伸長産物の期待される長さに相当する長さ、例えば150nt〜500ntを有するポリヌクレオチドの選択であってよい。工程e)の伸長産物の長さは、例えばランダムプライマーのプライマー濃度を調節することによって制御することができる。すなわち、より多くのランダムプライマーは、第1の鎖においてより多くのプライミング事象をもたらすであろうから、後に工程f)で選択される所望の伸長産物は、第1のプライミング部位に近くなり、そのためより短い長さであると考えられる。精製は、例えば100nt未満の長さを有する短いポリヌクレオチドを溶解状態で保ち、その溶解状態のポリヌクレオチドを分離することで、伸長産物を沈殿させることによって行うことができる。50nt〜100ntは、各側に1つずつ、2つの配列タグ又はリンカーを含むプライマー−プライマー産物についての典型的な長さである。好ましくは、精製は、70nt以下の、又は50nt以下の、又は40nt以下の、又は30nt以下の長さを有するそのような短いポリヌクレオチドを分離するためのものである。40ntから70ntの間の範囲は、プライマー及び配列タグ又はリンカーを含むプライマーにとって典型的な長さである。好ましくは、該方法は、定義されたサイズ範囲のポリヌクレオチドを、固体表面、例えばヒドロキシル基の部分を有する表面に選択的に結合し、該表面から選択的に放出する、固相可逆的固定化(Hawkins, 1995)を含む。サイズ依存的ポリヌクレオチド沈殿は、クラウディング剤によって、好ましくはPEGによって定義された塩濃度及びpH値を含む特定のバッファー条件を使用して適用することができる。好ましくは、除去されるべき短いポリヌクレオチドは、被覆されたビーズ上に結合されず、例えば沈殿されず、そして上清と一緒に除去され、その後に、所望のより長いオリゴヌクレオチドは、クラウディング剤を含まない又はほとんどクラウディング剤を含まない新たなバッファー中に放出される。好ましくは、そのようなビーズは磁性コアを含む(米国特許第5705628号)。他の精製方法には、サイズ依存的クロマトグラフィー法、例えばサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる。
【0081】
本発明の一つの好ましい実施形態(あらゆる他の実施形態と組み合わせることができる)は、本方法の工程a)〜e)を、1つの引き続き増大していく流体容量で、例えば1つのウェル、1つの容器又は1つのチューブにおいて行うことである。溶液アリコートにおいてRNAを供給した後に始まり、第1のオリゴヌクレオチドプライマーに相補的に伸長された核酸部分を含む所望の伸長産物の単離又は増幅までの全ての反応工程は、上記の1つの溶液において、そこに段階的に他の反応成分を更なる溶液の添加を通じて添加して行われる。本発明による方法の実施のために必要とされる試薬、例えば出発物質、酵素及び補因子を流体中に加えることで、反応混合物が生成する。本質的に、工程a)〜e)の方法は、追加の精製工程を行わずに実施することができる。これにより、工程a)〜e)についての措置自体は、精製とはみなされず、特に工程c)のRNA除去とはみなされない。それというのも、分解後のRNAの分解産物は溶解されたままであってよいからである。特に、1つの増大していく流体容量又は1つの容器において実施される工程a)〜e)の本発明による方法は、好ましくは、反応混合物からの流体の除去を伴わない方法である。そのような方法は、手順の取り扱いをかなり簡単なものにする。また、中間生成物を精製し、かつ反応容量を分けることなく、試料及び引き続いての反応生成物を保持する助けにもなる。
【0082】
本発明は、逆転写酵素、dNTP、補因子又はポリメラーゼによって必要とされる金属イオン、好ましくはMg2+の塩、プライマー、好ましくはポリTプライマー、鎖置換活性を有さないDNAポリメラーゼ、例えばT7、Q5若しくはT4 DNAポリメラーゼ、ランダムオリゴヌクレオチドプライマーを含むキットを更に提供する。該キットは、本発明による方法を、好ましい特徴のいずれか1つ又は該特徴の組合せを伴う、いずれかの実施形態に従って実施するのに適切であり得る。上記プライマー、好ましくはポリTプライマー又は多数の遺伝子特異的若しくは転写産物特異的なプライマーの一つ若しくは混合物は、工程a)のために適しており、かつ上記ランダムプライマーは、工程d)で使用するのに適している。これらのプライマー又はプライマー調製物は、プライマー組成の点で異なり、かつ好ましくは個別の容器、例えばバイアル中で提供される。
【0083】
上記キットは、高温RNA分解のために使用されるべきRNA分解剤、例えば酵素若しくは二価カチオン及び/又はクラウディング剤、例えばPEGを更に含んでよい。もちろん、上記のいずれも成分も、選択的な実施形態又はより好ましい実施形態において使用してよい。
【0084】
本発明による核酸産物を生成する一つの更なる利点は、長さの正規化(全ての更なる伸長産物は類似の長さ又は狭い長さ分布を獲得する)であり、それは、全転写産物及びより長い転写産物から生成されるリードによって選択的に使用されているシーケンシング時間を無くす。遺伝子発現及び転写末端部位分布についての同じ情報を得るために省かれたシーケンシング時間として理解される利得は、1つの試料における、転写産物長さのバリエーションと、転写産物のダイナミックレンジ又は濃度範囲との間の関係性である。その関係性は、2つの境界条件で見た場合に最良に説明される。i)全ての転写産物が同じ既知の長さを有することとなる場合に、例えば全ての転写産物が1kb長であり、かつ全ての生成した断片/リードが独自にマッピングされる場合に、例えば100bpへの長さ正規化は利益を有さないこととなる。したがって、上記利得は、平均長さの低下に依存しないが、長さ分布の低下に依存する。ii)全ての転写産物が異なる未知の長さを有することとなる場合、例えば転写産物が500bp長から10000kb長の間であり、かつ多くの生成される断片/リードが、同じ遺伝子から幾つかの転写産物バリアントによって共有されるエキソンにマッピングされるため独自に割り当てることができない場合、例えば100bpまでの長さ正規化は、明白にリードをカウントし、かつ全ての数のリードに対して正しい遺伝子発現値を決定するために利益を有することとなる。したがって、濃度重みづけされた長さ分布、配列アノテーション(事前知識)の正しさ及び正しい転写産物に明白に割り当てることができるリードを独自にマッピングする能力は、トランスクリプトームの複雑さについての関連の尺度である。この複雑さは、本発明による方法によって大きく減らすことができる。
【0085】
本発明による方法の産業上の機会は、マイクロアレイによる遺伝子発現プロファイリングの置き換えと、完全mRNAトランスクリプトーム分析を下回る中間的な分析ツールの提供において見られる。トキシコゲノミクス及びファーマコゲノミクスは、考えられる適用の例である。工程a)及び/又は工程d)における領域特異的プライマー、遺伝子特異的プライマー又は転写産物特異的プライマーを使用することによって、ターゲティングされたシーケンシングパネルが可能である。ターゲティングされた(配列特異的、予め選択/予め定義されている)及びターゲティングされていない(例えば全ての関心のRNA配列によって共有される配列、例えばポリA又はランダム配列のようなユビキタスな配列に対する)第1のプライマー及び第2のプライマーとの任意の組合せ、例えばa)標的特異的(ターゲティングされた)第1のプライマー及びターゲティングされていない第2のプライマー;b)ターゲティングされていない第1のプライマー及びターゲティングされた第2のプライマー;c)ターゲティングされた第1のプライマー及びターゲティングされた第2のプライマー;d)ターゲティングされていない第1のプライマー及びターゲティングされていない第2のプライマーが可能である。もちろん、本発明による方法を1つの引き続き増大していく流体容量において実施する利点、特に流体を除去/洗浄しないで実施する利点は、これら全ての変法に当てはまる。b)のための使用は、例えば3’側での潜在的な変異、例えば選択的スプライシング事象、選択的最終エキソン選択的PAA及び融合事象を検出するためである。a)のための使用は、例えば5’側での潜在的な変異、例えば選択的スプライシング事象、選択的第一エキソン及び融合事象を検出するためである。
【0086】
本発明を、更に以下の図面及び実施例において説明するが、これらの本発明の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1:Illumina社シーケンシングプラットフォーム用の3’末端NGSライブラリー生成
手短に言えば、ライブラリー生成の原理は、図1に記載されるようにして実施される。a)cDNA合成は、既に存在するか(ここではmRNAのポリ(A))又は先行する反応で結合されたかいずれかの既知の領域又はタグにプライミングすることによって開始される。P1は、上記の既知の領域に相補的であり、ユニバーサルタグとしてはたらく非相補的な特異的配列を5’末端に更に含む。b)RNAは、RNA依存性ポリメラーゼ、すなわち逆転写酵素によってcDNAへと逆転写される。c)cDNA合成後に、該RNA鋳型はRNアーゼ、pH変化(NaOH及び熱)又は二価カチオン(Mn2+、Mg2+及び熱)のいずれかによって加水分解又は分解される。d)次いで、該一本鎖cDNAは、多数のランダムプライマー、P(n)、P(n+1)...P(n+n)によってプライミングされる。e)そして第二鎖は、鎖置換を伴わないDNA依存性ポリメラーゼを使用して合成される。鎖置換の欠如は、最も3’側の断片だけが、2つのタグ、つまり一方は、cDNA合成プライマー由来のものであり、かつもう一方が第二鎖合成プライマー由来のものであるタグを含むであろうことを保証する。
【0088】
個々の反応工程を、以下により詳細に説明する。
【0089】
上記ライブラリー生成は逆転写を通じて第一鎖cDNA合成から開始する。ここでは、1つのIllumina適合配列を5’末端に含むオリゴdTプライマーがRNAにハイブリダイズされ、その後に逆転写が行われる。この目的のために、1つの個々のライブラリー調製につき、5μlのRNAを、オリゴdTプライマーを含む逆転写に必要な全ての成分を含有するが酵素を有さない5μlの第一鎖cDNA合成ミックス1と、PCRプレートの1つのウェル中で、選択的に8ウェルストリップの1つのウェル中で、又は任意の他のサーモサイクラー適合チューブ中で混合した。より少ないRNA容量が使用される場合に、RNアーゼ不含の水を添加して全容量10μlを得る。次いで、その溶液ウェルをピペッティングにより混合し、PCRプレートをシールする。そのシールは密閉に適用される。該プレートを、全ての液体がウェルの底に集まるように遠沈させる。次いで、該RNA/RT混合物を85℃で3分間にわたりサーモサイクラー中で変性させ、次いで37℃に冷やして、RTプライマーa)をハイブリダイズさせる。該プレートを遠沈させ、全ての液体がウェルの底に集まったのを確認してから、上記シールホイルを慎重に取り除く。
【0090】
その後に、10μlの逆転写酵素希釈液を、それぞれの反応へとピペッティングによって混加して、それから該プレートを再びシールする。該液体は遠沈する必要があり、工程b)において該プレートを37℃で15分間にわたりインキュベートする。
【0091】
c)RNA鋳型を除去する。この工程の間に、RNA鋳型は破壊され、それは、効果的な第二鎖合成のために必須である。第一鎖合成反応の後にシールホイルを取り除く前に、上記プレートを、全ての液体が確実にウェルの底に集まるまで素早く遠沈させる。5μlのRNA除去溶液を、第一鎖合成反応に直接添加し、良く混合し、そして該プレートを新たなホイルを使用して再びシールする。該プレートは、95℃で10分間にわたりインキュベートしてから、25℃に冷却し、そして遠沈せねばならない。ここで、該シールホイルを慎重に取り除き、5μlの除去溶液2(該溶液は、基本的に除去溶液1で添加された成分を除去又は中和する)を添加し、そして該溶液を再び良く混合する。
【0092】
d)後続の第二鎖合成の間に、該ライブラリーをdsDNAに変換する。第二鎖合成は、Illumina適合リンカー配列を5’末端に含むランダムプライマーによって開始される。逆相補は、該リンカー配列がハイブリダイゼーションに加わることを防ぐ。この段階では、精製ビーズ(SPRIビーズ)を室温に置き、該ビーズに平衡に十分な時間を与えることが推奨される。15μlの第二鎖合成ミックス1(DNA依存性重合反応に必要な全ての成分を含む)を添加し、ピペッティングにより良く混合し、そして該プレートをシールする。ここで、該プレートをサーモサイクラー中にて98℃で1分間にわたりインキュベートし、そして多くのサーモサイクラーで最高ランプ速度の10%に相当する0.5℃毎秒にランプ速度を定めることによってゆっくりと25℃に冷却する。該反応を、25℃で30分間にわたりインキュベートし、素早く遠沈してから、シールホイルを該プレートから取り除く。
【0093】
e)5μlのDNA依存性ポリメラーゼ希釈液を添加する。該反応を、25℃で15分間にわたりインキュベートする。工程e)まで、全反応は1つの連続的に増大していく容量で実施されている。該反応は、選択工程f)に入るまで続く。
【0094】
f)P1配列を含まない望ましくない二本鎖を依然として含む二本鎖ライブラリーを、磁性ビーズを使用して精製する。精製ビーズ(PB)は、使用前に室温で30分間にわたり平衡化されているべきである。PBは沈降していてもよいが、反応に加える前に適切に再懸濁せねばならない。その後に、SPRI精製を、製造元(AMPure Beads;Agentcourt)の指示に従って実施する。ライブラリーを、20μl水又は10mMのトリス(pH8.0)中で溶離させ、そしてライブラリーを含む17μlの澄明な上清を、新しいきれいなPCRプレート中に移す。ビーズが一切その新しいプレート中に移らないように注意せねばならない。該ライブラリーを、後の増幅のために−20℃で貯蔵してよい。
【0095】
最も3’側の断片をPCR増幅によって単離する。該ライブラリーを、また増幅して、NGS機器でのクラスター生成に必要な完成したアダプター配列を付加し、そして品質管理及び後続のレーン用混合物のために十分な材料を作製する。熱安定性のDNAポリメラーゼを使用する標準的なPCR反応を実施し、その後にその産物を再び最終精製(製造元の指示に従うSPPRI精製)によって精製する。その精製においては、完成したライブラリーは、あらゆる残りのPCR成分から隔離され、両方の配列P1とPnとを含まない全てのインプットDNA材料は、PCRの相対希釈プロセスによって全体的な表現において置き換えられる。両方の配列P1及びPnを含まない残りの配列は、NGSプロセスでクラスターを生成することができないと考えられる。それというのも、クラスター生成は、両方の配列を含む単一分子のみから出発するPCR増幅を用いるからである。最終ライブラリーを、添加した20μlのEB中で溶出させ、そしてビーズをEB中で適切に再懸濁してから、室温で2分間にわたりインキュベートする。該プレートをマグネットプレート上に置き、5分間にわたり、又は上清が完全に澄明になるまでビーズを回収する。該上清を、新しいPCRプレート中に移す。この時点で、ライブラリーは完成しており、品質管理、プーリング、クラスター生成及び更なるシーケンシングのための準備ができている。
【0096】
実施例2:鎖置換活性を有する停止しないポリメラーゼ(クレノウ)と鎖置換活性を有さない停止するポリメラーゼ(T4及びT7)との種々の温度での比較(図2図3及び図4
アッセイの説明:
準備されたアッセイの概略図は図2に示されて説明されている。鎖置換を伴い、置換された鎖を破壊する能力を有する方と有さない方との異なるポリメラーゼ及び鎖置換を伴わないポリメラーゼを、図2で記載されるアッセイを使用して評価した。簡潔には、配列番号1、配列番号2及び配列番号3を、種々のポリメラーゼの相応のバッファー中でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションの後に、ポリメラーゼを添加(3UのT4 DNAポリメラーゼ、10UのT7 DNAポリメラーゼ又は5Uのクレノウ断片(3’−5’exo−)し、そして該反応を図3及び図4に示されるようにして実施した。反応時間は、指定した温度で10分であった。その後に該反応を、シリカカラムを介して精製し、特にサイズ選択をせずにバッファー成分及び酵素を除去した。試料を、10%のPAAゲル(ローディングダイと混合し、95℃で2分間にわたり変性されている)上にロードし、58℃において100Vで10分間にわたって流し、次いで180Vで120分間にわたって流した。ゲルをGYBR Goldで染色した。
【0097】
図3において、鎖置換を伴わないポリメラーゼの場合に鋳型における二次構造が重大な障害となるので、変性及びゆっくりとしたアニーリング工程(95℃から室温へと、よりゆっくりとしたランプ(15分かかる)で下げる)の重要性が実証されている。白色で中塗りされた矢印は、部分的に置換された鎖置換停止産物を示している。変性工程なしでの一本鎖鋳型の二次構造は、黒色の矢印で示されている。クレノウは、鎖置換(特により高い温度で)を常に示し、ここではまた、cDNAにおける二次構造を避けるための変性工程は、該酵素がその固有の鎖置換によりこれらの二次構造を解くことができるため必須ではない(図2)。図4は、5種の異なるポリメラーゼの鎖置換を裏付けている。該アッセイは、上記のようにして、相応のバッファーを用いて、初期変性工程を伴って、そして図4に示される反応温度で行った。鎖置換を伴うポリメラーゼ:8ユニットのBst DNAポリメラーゼの大断片 レーン2;5ユニットのDNAポリメラーゼIの大(クレノウ)断片、レーン7〜8;及び200ユニットのM−MLV、レーン11;並びに鎖置換を伴わないポリメラーゼ:レーン3、3ユニットのT4 DNAポリメラーゼ、レーン4〜6、又は置換された鎖を破壊するポリメラーゼ、例えば5ユニットのBst DNAポリメラーゼの全長、レーン3、10ユニットの大腸菌DNAポリメラーゼI、レーン9〜10。異なる反応温度を確認した:12℃:レーン4;25℃:レーン5、7、9;37℃:レーン:2〜3、6、8、10〜11。T4 DNAポリメラーゼは、37℃で顕著になるエキソヌクレアーゼ活性を含む。配列番号1、配列番号5、配列番号2及び配列番号3の分解産物が確認することができる。Bst DNAポリメラーゼの大断片、DNAポリメラーゼIの大(クレノウ)断片及びM−MlVでは、鎖置換が存在し、配列番号6(全長産物)が確認することができる。さらに、配列番号5よりも大きい産物は、これらのポリメラーゼで確認され、それは、部分的な鎖置換から生ずるものである。他の鎖置換型のポリメラーゼ、例えばBst DNAポリメラーゼの全長(レーン3)及び大腸菌DNAポリメラーゼI(レーン9〜10)では、置換された鎖は破壊もされる。T4 DNAポリメラーゼは、鎖置換を含まず、配列番号5が明らかに確認することができる。T4については25℃が37℃よりも推奨することができる。それというのも、37℃では固有のエキソヌクレアーゼが該反応を肩代わりするからである(図4)。
【0098】
実施例3:MnCl、高められた温度単独、NaOH処理又はRNアーゼによるRNA分解(図5)。RNAの分解はまたバッファー条件にも依存する。
マウス肝臓から単離された全RNAは、111ntの一本鎖DNA(ssDNA)オリゴ(配列番号7)でスパイクした(レーン1及びレーン10を参照のこと)。全RNAは長いため、ゲルではより小さいRNAバンドしか確認することができず、その長いRNA断片はスロット中に残る。断片化に際し、より長いRNA断片は分解されることとなり、ポリアクリルアミドゲル上ではスメアとして確認することができる。標準的なRTバッファーである50mMのトリスHCl(25℃でpH8.3)、75mMのKCl、3mMのMgCl及び10mMのDTT中での、95℃で30分間並びに98℃で5分間、98℃で10分間、98℃で20分間及び98℃で30分間の熱処理によって、該RNAは分解されるが、該RNAは完全に除去されない。RNA/ssDNA混合物をRNアーゼ H/A/T1ミックスと一緒に、25℃又は37℃のいずれかで30分間にわたりインキュベートすることで、該RNAは一本鎖DNAを分解することなく完全に除去される。高められた温度で10分間(55℃)、0.1NのNaOHの存在下でインキュベートすることで、該RNAは分解されるものの、完全には分解されない。0.1NのNaOH中にて95℃で10分後に、該RNAは完全に除去されるが、上記ssDNAも分解し始める(レーン7〜10)。10mMのMnClをRNA/ssDNA/RTバッファー混合物に添加して、98℃で5分間、10分間、20分間、そして30分間にわたり熱処理することで、ssDNAを分解することなく、該RNAの完全な分解がもたらされる。試料を、精製せずに10%のPAAゲル(ローディングダイと混合し、95℃で2分間にわたり変性されている)上にロードし、58℃において100Vで10分間にわたって流し、次いで180Vで70分間にわたって流した。ゲルをGYBR Goldで染色した。
【0099】
実施例4:RNA分解法の、鎖置換を伴わないポリメラーゼを用いて合成されたNGSライブラリーの品質に対する影響(図6
500ngの全RNAを、配列番号8(20μl中の最終濃度:25nM)と混合し、そして4μlの5×RTバッファーを含有する10μlの容量で85℃に3分間にわたり加熱した。37℃に冷却した後に、1μlの1mMのdNTP、200ユニットのM−MLVを加え、そして37℃で15分間にわたりインキュベートした。引き続いてのRNA加水分解は、図6に示されるように異なる。RT反応バッファーにおけるビオチン−ストレプトアビジンつり上げ(fishing)を、NEB製の5μgのストレプトアビジンビーズを使用して20分間(25℃で1250rpmで振とう器において)にわたり実施した。ビーズを洗浄バッファーで2回洗浄し、そして10μlのMB−HO中にて80℃で何分かにわたり加熱することによって試料をビーズから放出させた。マグネットを使用してビーズを回収し、そして澄明な上清を種々のチューブに移し、第二鎖cDNA合成を、3ユニットのT4 DNAポリメラーゼ、配列番号9及び10(20μl中の最終濃度 0.1μM)、8%のPEG、10mMのMgCl及び0.5mMのdNTPを使用して20μlの全容量で実施した。ポリメラーゼを添加する前に、98℃で1分間の変性工程と、ゆっくりとしたアニーリング(15分以内で25℃にまで下降)とが含まれていた。次いで試料をSENSEユーザーガイドに従ってシリカにより精製して(第二鎖合成後の部分精製)、25μlの10mMのトリス(pH8)において溶出させた。10μlの精製された生成物を、次いでSENSE mRNA Seq PCRに従って配列番号11及び12をPCRプライマーとして使用して18サイクルにわたり増幅した。次いで試料をSENSEユーザーガイドに従ってシリカにより精製して(第二鎖合成後の部分精製)、15μlの10mMのトリス(pH8)において溶出させた。1μlの精製されたPCR産物を、High−sensitivity DNA−Chip(Agilent)へと製造元の指示に従ってロードした。
【0100】
該RNAのRNアーゼ及びMnCl分解により、cDNAを損傷するか、又はcDNAを増幅不可能にする塩基修飾をもたらすかのいずれかをもたらすNaOH加水分解よりもかなり高い収率がもたらされる。
【0101】
実施例5:RTバッファーにおけるRNAの初期断片化がライブラリーサイズ及び該プロトコルの効率を決定する(図6
RNAが変性される容量は、該変性の間に存在するMgCl濃度にも影響を及ぼし、これはまた、どれほどの長さのcDNAが、その僅かに断片化されたRNAから生成されるのかも決める。
【0102】
500ngの全RNAを、配列番号8(20μl中の最終濃度:25nM)と混合し、そして4μlの5×RTバッファーを含有する10μl(a及びb)又は15μl(c及びd)の容量で85℃に3分間にわたり加熱した。37℃に冷却した後に、1μlの1mMのdNTP、200ユニットのM−MLVを加え、そして37℃で15分間にわたりインキュベートした。RNAは、10mMのMnClの存在下で98℃に10分間にわたり加熱することによって加水分解した。その後に、10mMのEDTAを添加した。第二鎖合成は、第二鎖合成成分を反応に添加して、10mMのMgCl、0.5mMのdNTP、8%のPEG、配列番号9及び10(それぞれ100nMの最終濃度)及び3ユニットのT4 DNAポリメラーゼの最終濃度を40μlの全容量において得ることによって実施した。再び、ポリメラーゼを、98℃に1分間にわたり加熱して、ゆっくりとしたアニーリング(15分以内で25℃にまで下降)を行った後に添加した。精製、PCR増幅及び引き続いてのPCR精製並びにバイオアナライザーの実行は、実施例4に記載されるようにして実施した。
【0103】
実施例6:ライブラリーサイズ及び収率の、RTプライマー濃度及び第二鎖合成オリゴ濃度による調整(図7
全てのライブラリーは17サイクル。全ての反応条件は、実施例5に従うが、以下の濃度に変える。a)逆転写(RT)工程の間に50nMの配列番号8並びに第二鎖合成(SSS)において0.1μMの配列番号9及び10、b)RTの間に25nMの配列番号8並びにSSSの間に0.5μMの配列番号9及び10、ライブラリーはロードする前に1:3希釈した、c)RTの間に50nMの配列番号8並びにSSSの間に0.5μMの配列番号9及び10、ライブラリーはロードする前に1:3希釈した、d)RTの間に25nMの配列番号8並びにSSSの間に0.1μMの配列番号9及び10。
【0104】
実施例7:シリカとSPRI精製との対比(図8
全ての工程は実施例6(c)に記載される通りであるが、異なる精製を用いる。シリカ精製は、実施例5に記載されるようにして行い、かつヒドロキシル変性された磁性ビーズ及び塩−PEGバッファーを用いるSPRI精製は、製造元(Agentcourt製のAMPure XPビーズ)の指示に従って実施した。
【0105】
References
Costa V, et al. (2010) J Biomed Biotech 7(7): 1299-20.
Derti A, et al. (2012) Genome Res. 22(6): 1173-83.
Fox-Walsh K, et al. (2011) Genomics. 98(4): 266-71.
Hawkins TL, et. al. (1995) Nucleic Acids Res. 23: 4742-4743.
Mainul Hoque et al., (2012) Nature Methods 10(2): 133-139.
Shepard PJ, et al. (2011) RNA 17: 761-772.
Wendl MC and Wilson RK (2009) BMC Genomics 10: article 485.
Wilkening S, et al. (2013) Nucleic Acids Res. 41(5): e65.
WO 98/044151
WO 02/059357
US 5705628
US 2011/0160078US 6406891 B1
EP 1371726 A1
WO 2013/038010 A2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]