特許第6608503号(P6608503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6608503接触面構造品及び接触面構造品の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6608503
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】接触面構造品及び接触面構造品の形成方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/32 20060101AFI20191111BHJP
   F16C 19/00 20060101ALI20191111BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20191111BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   F16C33/32
   F16C19/00
   F16C33/58
   F16C33/66 Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-196518(P2018-196518)
(22)【出願日】2018年10月18日
【審査請求日】2018年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】沢田 博司
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−114770(JP,A)
【文献】 特開2009−085418(JP,A)
【文献】 特開2016−205443(JP,A)
【文献】 特表2015−519468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリース潤滑下で相対的に振動や微小運動する接触面構造品において、
曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造が接触面外に連通して形成されていることを特徴とする接触面構造品。
【請求項2】
前記グレーティング状凹凸の周期構造が、接触面外に付着するグリースと当接していることを特徴とする請求項1に記載の接触面構造品。
【請求項3】
前記グレーティング状凹凸の周期構造の凹凸が50nm以上10μm以下、かつ周期ピッチが10μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接触面構造品。
【請求項4】
前記グレーティング状凹凸の周期構造が、振動や微小運動方向に沿って配向していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の接触面構造品。
【請求項5】
軸部材と、前記軸部材とのはめ合い面を備えた部品とを備え、軸部材の外周面又は前記はめ合い面の一方が、前記周期構造が形成される接触面であることを特徴とする前記請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の接触面構造品。
【請求項6】
転がり軸受に用いられることを特徴とする請求項5に記載の接触面構造品。
【請求項7】
グリース潤滑下で相対的に振動や微小運動する接触面構造品の形成方法において、
曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を接触面外に連通して形成することを特徴とする接触面構造品の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触面構造品及び接触面構造品の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受や軸のはめ合い面などに振動や微小揺動運動が作用すると、接触面に潤滑剤が行き渡らず、フレッチング摩耗が発生することがある。フレッチング摩耗は精度や軸受トルクなどに悪影響を及ぼすため、耐フレッチング特性の向上が課題となっている。
【0003】
特許文献1には、微小揺動時に、一対の軌道部材と転動体との接触面の摩耗(フレッチング摩耗)を防止する転がり軸受が提案されている。特許文献1に記載の転がり軸受は、一対の軌道部材の微小揺動時の振幅をAとし、転動体に接触する一対の軌道部材の軌道面に生じる接触円の半径をBとし、振幅Aと接触円の半径Bとの比(A/B)を振幅比Rとすると、微小揺動時の振幅比Rが1.5を超えるようにするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−95868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリースは、液体の潤滑油(基油またはベースオイル)に、増ちょう剤と呼ばれる微細な固体を分散して半固体状にした潤滑剤である。グリース潤滑下で接線方向の振動や微小揺動運動が作用した場合、グリースの基油動粘度が小さく、混和ちょう度が大きい(離油度の高い)ほど耐フレッチング性が向上する。これは、基油動粘度が小さく、混和ちょう度が大きいグリースは離油度が高く、接触域に残った高濃度の増ちょう剤が保護膜を形成することで耐フレッチング性が向上すると考えられるからである。
【0006】
前記特許文献1のものでは、グリースの離油度が低く、接触域から基油と一緒に保護膜の素材となる増ちょう剤も排除されることから、保護膜形成能が乏しく、フレッチング摩耗が生じることがある。
【0007】
また、揺動運動の耐フレッチング用グリースとして、基油動粘度が小さく、混和ちょう度が大きいグリースを適用した場合、基油動粘度が小さくなると油膜形成能が低下して油膜切れが生じやすく、混和ちょう度が大きくなると、保護膜を形成するための増ちょう剤が不足するため、増ちょう剤由来の保護膜形成能が低下する。このため、基油動粘度や混和ちょう度に依存することなく離油度を向上させることが望ましい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、基油動粘度や混和ちょう度に依存することなく離油度を向上させて、油膜形成能と保護膜形成能を向上させるとともに、フレッチング摩耗を低減することができる接触面構造品及び接触面構造品の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の接触面構造品は、グリース潤滑下で相対的に振動や微小運動する接触面構造品において、曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造が接触面外に連通して形成されている。
【0010】
本発明の接触面構造品によれば、接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造が形成されるため、油分に対し高い濡れ性を示し、グリースの離油度が増大し、増ちょう剤由来の移着膜の形成が促進される。移着膜は保護膜として作用するため、フレッチング摩耗を防止することができる。また、曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面にグレーティング状凹凸の周期構造を形成することで、接触界面近傍に潤滑剤が流入しやすくなり、微小運動の振幅Aと微小運動方向の接触幅Dとの比(A/D)が1未満の低振幅比でもフレッチング摩耗を低減することができる。
【0011】
前記構成において、前記グレーティング状凹凸の周期構造が、接触面外に付着するグリースと当接してもよい。これにより、接触面外のグリースから油が分離し、その油分を接触面内に移動させることで、フレッチング摩耗を防止することができる。
【0012】
前記構成において、前記グレーティング状凹凸の周期構造の凹凸が50nm以上10μm以下、かつ周期ピッチが10μm以下とすることができる。これにより、油分の保持性、移動性を向上することができる。周期構造の凹凸が50nm未満では十分な量の増ちょう剤を担持できず、凹凸および周期ピッチが10μmを超えると、増ちょう剤や油分がほとんど流出してしまう。
【0013】
前記構成において、前記グレーティング状凹凸の周期構造が、振動や微小運動方向に沿って配向していてもよい。これにより、接触面に速やかに油分が移動し、潤滑特性を向上することができる。また、離油作用によって高濃度化した増ちょう剤が側方に排除されにくく、周期構造に沿って保持されるため、増ちょう剤の担持性が向上する。さらに、摩耗粉の排出性も向上する。
【0014】
軸部材と、前記軸部材とのはめ合い面を備えた部品とを備え、前記一方の接触面は、軸部材の外周面又は前記はめ合い面であるのが好ましく、特に転がり軸受に用いられるのが好ましい。
【0015】
本発明の接触面構造品の形成方法は、グリース潤滑下で相対的に振動や微小運動する接触面構造品の形成方法において、曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造を接触面外に連通して形成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接触面構造品及び接触面構造品の形成方法は、基油動粘度や混和ちょう度に依存することなく離油度を向上させて、油膜形成能と保護膜形成能を向上させるとともに、フレッチング摩耗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第2部材に対して第1部材を摺動させている状態の簡略斜視図である。
図2】周期構造の拡大平面図である。
図3】本発明の実施形態を示す接触面構造品の第1部材の第2部材との接触部を示す図であり、(a)はA/D<1、(b)はA/D=1、(c)はA/D>1を示す。
図4】第1部材に周期構造を設けた場合の第1部材と第2部材との簡略側面図である。
図5】第2部材に周期構造を設けた場合の第1部材と第2部材との簡略側面図である。
図6】前記周期構造の形成に用いるレーザ表面加工装置の簡略図である。
図7】往復動回数50000回におけるプレート側摩耗痕深さを示すグラフ図である。
図8】A/D=1.47における鏡面同士と周期平行ボールに対するプレート側摩耗痕写真図である。
図9】A/D=0.63における鏡面同士と周期平行ボールに対するプレート側摩耗痕写真図である。
図10】A/D=1.47における周期平行ボールのボール側摩耗痕の写真図である。
図11】A/D=0.63における周期平行ボールのボール側摩耗痕の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1図11に基づいて説明する。
【0019】
本発明に係る接触面構造品は、図1に示すように、第1部材1と、第2部材2とがグリース潤滑下で相対的に接線方向の振動や微小運動をするものである。本実施形態において、「振動や微小運動」とは、接線方向における揺動や、振幅の比較的小さい往復動など、振幅の小さい運動全般を意味する。本発明では振動と微小運動とを区別する必要はなく、「振動や微小運動」を単に微小運動ということがある。
【0020】
図例における第1部材1としてはSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)等の金属製の球体で構成し、第2部材2はSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)等の金属製の平板体で構成している。グリースは、本実施形態では脂環式ウレアグリースを使用しており、第1部材1(球体)の第2部材2との接触面に付着させている。
【0021】
曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面には、図2に示すように、微小の凹部4と微小の凸部5とが交互に所定ピッチで配設されたグレーティング状凹凸の周期構造3が所定幅で帯状に形成されている。本実施形態では、第1部材1は第2部材2よりも曲率半径が小さく、第1部材1に周期構造3を設けている。すなわち、第1部材1は接線方向において揺動するものであるため、接触領域が第2部材2よりも狭い。接触領域の狭い側とは、第1部材1と第2部材2とが図1に示すものと同様であっても、例えば第1部材1がその場で空回りする場合には、第2領域2の第1領域1との接触領域は線状となり、第1部材1の第2領域2との接触領域は広い。この場合は、接触領域の狭い側は第2部材2であるため、第2部材2側に周期構造3を設ける。このように、第1部材1と第2部材2とでいずれに周期構造3を設けるかは、第1部材1と第2部材2との運動において、相手部材との接触領域の狭い側がいずれの部材であるかによって決定される。
【0022】
グレーティング状凹凸の周期構造3は、連続的に高さが変化するものである。この凹凸の高低差(凹部4の底部から凸部5の頂点までの高さ)が50nm以上10μm以下かつ、周期ピッチが10μm以下であるのが好ましい。本実施形態では、グレーティング状凹凸の周期構造3が微小運動方向(図2の矢印の方向)に沿って配向している。また、グレーティング状凹凸の周期構造3が接触面外に連通し、接触面外に付着するグリースと当接している。
【0023】
油の接触角は、数1に示すようにWenzelの式で表せる。なお、数1において、rは表面積倍率であり、r>1である。θeは平滑面の接触角であり、θwはみかけの接触角である。数1により、θe>90°ではθw>θeとなり、θe<90°ではθw<θeとなる。すなわち、表面積倍率rが大きいほど油の接触角が低減し、表面粗さの導入により潤滑油の濡れ性が向上する。すなわち、本実施形態において、微小の凹部4と微小の凸部5とが交互に所定ピッチで配設されたグレーティング状凹凸の周期構造3を形成すると、油分に対し高い濡れ性を示し、グリースの離油度が増大し、増ちょう剤由来の移着膜の形成が促進される。移着膜は保護膜として作用するため、フレッチング摩耗を防止することができる。
【数1】
【0024】
第1部材1と第2部材2とが振幅Aで振動や微小運動する場合、振幅Aと微小運動方向の接触幅Dとの比(A/D)は図3のようになる。なお、図3は、第1部材1の第2部材2との接触部6(第1部材1が第2部材2と接触している部分の外縁を示しており、符号6で示す円形の内側において第2部材2と接触している)を示す図であり、接触部6は、6aで示す実線の位置から6bで示す仮想線の位置までを往復する。図3の(a)はA/D<1の場合、(b)はA/D=1の場合、(c)はA/D>1の場合を示す。
【0025】
第1部材1と第2部材2との微小運動が、図3(a)のようにA/D<1の場合、接触部6が重なり合う常時接触部が生じる。常時接触部とは、図3(a)のハッチングで示すように、第1部材1が常時第2部材2と接触している箇所(領域)であり、運動中においては外側に現れない第1部材1と第2部材2同士が連続的に接触する領域である。一方、第1部材1と第2部材2との微小運動が、図3(b)のようにA/D=1の場合や、図3(b)のようにA/D>1の場合、常時接触部が生じない。このため、図3(b)(c)の場合では、図3(a)の場合と比較して、グリースの再流入性と摩耗粉の排出性が高い。
【0026】
第1部材1と第2部材2とが相対運動する場合、潤滑剤はクエット流れにより、周期構造3の凸部先端間の潤滑剤が第2部材2の相対移動により引きずられるため、第1部材1と第2部材2との接触界面近傍に潤滑剤が流入しやすくなる。すなわち、図4に示すように、第2部材2が動くと、接触界面に近い潤滑剤は第2部材2に連れ回って、周期構造3の底部では潤滑剤は動かない。このため、接触界面における速度分布としては、図4の接触面拡大図の矢印のようになる。すなわち、接触界面近傍の潤滑剤は動くため、そこに発生した摩耗粉を取り払うことができ、潤滑剤が流入しやすくなる。一方、第1部材1が動くと、接触界面にある潤滑剤は動かないが、第1部材1が動くことにより、第1部材1と第2部材2との接触点も移動し、接触点と潤滑剤との相対関係がずれる。すなわち、接触系面の潤滑剤は実際には静止しているが、第1部材1の動きにより、接触点に対して潤滑剤が相対的に動くこととなる。
【0027】
なお、図5に示すように、第2部材2(つまり、曲率半径の大きい側であり、接触領域の広い側の接触面)に周期構造3を設けた場合、周期構造3の底部では潤滑剤は第2部材2に連れ回り、接触界面である第1部材1の底部に付着している潤滑剤は連れ回らない。このため、接触界面における速度分布としては、図5の接触面拡大図の矢印のようになる。すなわち、接触界面近傍の潤滑剤は動かないため、そこに発生した摩耗粉を取り払うことができず、潤滑剤が流入しにくい。
【0028】
接触面構造品の形成方法は、まず、第1部材1の接触面に周期構造3を形成する。周期構造3は、図6に示すように、レーザ発生器11と光学系10とを備えたレーザ表面加工装置を使用して形成する。
【0029】
図6に示すレーザ表面加工装置では、レーザ発生器11は、ミラー12により加工材料
Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカル
シャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16
によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ17に
よって、XYθステージ19上の加工材料W表面に集光照射することになる。
【0030】
周期構造3は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)Wに照射した場合、入射光と加工材料Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、レーザ波長と同程度の周期間隔で、エネルギー分布にわずかな粗密が生じる。一般的な加工方法ではレーザ照射面全体が加工されるが、加工閾値近傍のエネルギー密度でレーザ照射することで、高エネルギー部分を選択的に加工することができる。その結果、1光軸のレーザ照射でありながら、グレーティング状の周期構造3が形成される。このとき、加工に用いるレーザのパルス幅が長くなるほど熱影響や加工蒸散物との相互作用によるレーザの散乱によって周期構造に乱れが生じることになる。
【0031】
本発明では、少なくとも一方の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造3が形成されるため、油分に対し高い濡れ性を示し、グリースの離油度が増大し、増ちょう剤由来の移着膜の形成が促進される。移着膜は保護膜として作用するため、フレッチング摩耗を防止することができる。また、曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面にグレーティング状凹凸の周期構造を形成することで、接触界面近傍に潤滑剤が流入しやすくなり、微小運動の振幅Aと微小運動方向の接触幅Dとの比(A/D)が1未満の低振幅比でもフレッチング摩耗を低減することができる。このように、本実施形態では、基油動粘度や混和ちょう度に依存することなく離油度を向上させて、油膜形成能と保護膜形成能を向上させるとともに、フレッチング摩耗を低減することができる。
【0032】
また、グレーティング状凹凸の周期構造3が接触面外に連通し、接触面外に付着するグリースと当接しているため、接触面外のグリースから油が分離し、その油分を接触面内に移動させることで、フレッチング摩耗を防止することができる。
【0033】
グレーティング状凹凸の周期構造3の凹凸が50nm以上10μm以下、かつ周期ピッチが10μm以下としているため、油分の保持性、移動性を向上することができる。周期構造の凹凸が50nm未満では十分な量の増ちょう剤を担持できず、凹凸および周期ピッチが10μmを超えると、増ちょう剤や油分がほとんど流出してしまう。
【0034】
グレーティング状凹凸の周期構造3が、振動や微小運動方向に沿って配向しているため、接触面に速やかに油分が移動し、潤滑特性を向上することができる。また、離油作用によって高濃度化した増ちょう剤が側方に排除されにくく、周期構造に沿って保持されるため、増ちょう剤の担持性が向上する。さらに、摩耗粉の排出性も向上する。
【0035】
本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、第1部材1及び第2部材2の接触面としては、平坦面形状であっても、凸曲面状であっても、凹曲面であってもよく、このため、第1部材1及び第2部材2としては、円柱状、円錐体乃至円錐台状等であってもよい。また、摺動方向として直線状ではなく、円形や楕円形状であってもよい。このため、第1部材1や第2部材2が回転しない、または、その軸心廻りに回転するものであってもよい。特に、第1部材1(又は第2部材2)が軸であり、第2部材2(又は第1部材1)が軸とのはめ合い面を有する部材であるのが好ましく、例えば転がり軸受に適用するのが好ましい。
【0036】
周期構造形成工程に使用するレーザとしては、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ、及びナノ秒レーザといったパルスレーザを使用することができる。また、第1部材1側を固定して第2部材2を第1部材1に対して摺動させても、逆に、第2部材2側を固定して第1部材1を第2部材2に対して摺動させても、第1部材1と第2部材2とを摺動させてもよい。周期構造3は第1部材1に設けてもよい。また、グリースの種類は、本発明の接触面構造品としての用途に適したものを任意に選択することができる。
【実施例1】
【0037】
図1に示すような往復式ボールオンプレート試験機を用いてグリース潤滑下における微小往復運動時のフレッチング試験を行った。プレート試験片は光学研磨したSUJ2基板(Ra2nm)とした。ボール試験片は直径6.35mmのSUJ2ボール(Ra8nm)とした。ボール試験片にはグレーティング状の周期構造(ピッチ約700nm、深さ約150nm)を形成した。周期構造の配向方向は、振動方向に対して平行(以下、周期平行ボールという)とした。比較のため、未加工のボール試験片(以下、鏡面同士という)も用いた。また、未加工のボール試験片と振動方向に対して平行の周期構造を形成したプレート試験片(以下、周期平行プレートという)でも比較試験を実施した。
【0038】
試験条件は、荷重5N(ヘルツ接触円直径D=95μm)、往復動速度4mm/s、往復動振幅A=60、140μm(振幅比A/D=0.63、1.47)、往復動回数は50000回とした。グリースは脂環式ウレアグリース(増ちょう剤量16%、基油PAO6、ちょう度250)とし、試験前にボール側接触部に約0.1mg付着させた。フレッチング摩耗の評価には、プレート側摩耗痕深さで評価した。
【0039】
往復動回数50000回におけるプレート側摩耗痕深さの結果を図7に示す。ドットは鏡面同士(Polished)であり、ハッチングは周期平行ボール(Textured(Ball//))であり、白地が周期平行プレート(Textured(Plate//))である。周期平行プレートのA/D=0.63における摩耗痕深さは、鏡面同士よりも大きくなった。接触円が重なり合う常時接触部では潤滑不足となり、周期構造が摩耗した。しかし、A/D=1.47では、プレートの摩耗痕深さは9nmとなり、ほとんど摩耗が生じなかった。図示しないが、A/D>2においてはプレートの摩耗痕深さは検出限界以下となった。振幅比が1桁以上大きなしゅう動面の摩耗低減に有効であることが示されていることから、周期平行プレートは、振幅比A/Dが1以上であればフレッチングを含む広い条件下での摩耗低減に極めて有効となる。しかし、接触円が重なり合う常時接触部が発生するA/D<1となる条件ではフレッチング摩耗が増加するため、使用が制限される。
【0040】
一方、周期平行ボールのA/D=0.63における摩耗痕深さは37nmとなり、鏡面同士の40%程度に低減した。また、A/D=1.47ではプレートの摩耗痕深さは検出限界以下となった。すなわち、周期平行ボールは接触円が重なり合う常時接触部が発生するA/D<1となる条件を含めてフレッチング摩耗低減に極めて有効といえる。A/D=1.47における鏡面同士と周期平行ボールに対するプレート側摩耗痕写真を図8に示し、A/D=0.63における鏡面同士と周期平行ボールに対するプレート側摩耗痕写真を図9に示す。周期平行ボールではプレート側に増ちょう剤由来の保護膜形成の促進が認められた。A/D=1.47における周期平行ボールのボール側摩耗痕を図10に示し、A/D=0.63における周期平行ボールのボール側摩耗痕を図11に示す。ボール側の摩耗も極めて少なく、きれいに残存した周期構造が認められた。
【符号の説明】
【0041】
1 第1部材
2 第2部材
3 周期構造
4 凸部
5 凹部
【要約】
【課題】基油動粘度や混和ちょう度に依存することなく離油度を向上させて、油膜形成能と保護膜形成能を向上させるとともに、フレッチング摩耗を低減することができる接触面構造品及び接触面構造品の形成方法を提供する。
【解決手段】グリース潤滑下で相対的に振動や微小運動する接触面構造品において、曲率半径の小さい側又は接触領域の狭い側の接触面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状凹凸の周期構造が形成されている。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11