(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する。本発明のトンネル付きセラミック部材の製造方法は、セラミック粉末及び樹脂を含む中間成形体同士を貼り合わせ、加圧して未焼結成形体を形成する工程を含む。セラミック粉末としては、例えば、Al
2O
3、Y
2O
3、AlN、及びSiCから成る群から選択される1種以上の粉末が挙げられる。
【0014】
なお、トンネル付きセラミック部材をSEM観察し、セラミック粒子を確認することができれば、そのトンネル付きセラミック部材の製造に用いられる中間成形体はセラミック粉末を含んでいる。
【0015】
中間成形体とは、セラミック粉末及び樹脂を含む成形体であって、貼り合わせ及び加圧の工程を未だ行っていないものを意味する。また、未焼結成形体とは、中間成形体に対し、貼り合わせ及び加圧の工程を行った後のものを意味する。
【0016】
セラミック粉末の平均粒径は、0.5〜3μmの範囲が好ましい。この範囲内である場合、少ない助剤量で、セラミックを緻密化することができる。
樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。セラミック粉末100重量部に対する樹脂の量は、1〜15重量部の範囲が好ましい。この範囲内であることにより、成形体の加工が容易になり、また、貼り合わせ時に成形体が崩れにくくなる。
【0017】
中間成形体及び未焼結成形体は、例えば、助剤成分を含むことができる。助剤成分としては、例えば、セラミック粉末がAl
2O
3の場合は、SiO
2、MgO等が挙げられる。また、セラミック粉末がY
2O
3の場合は、CaO等が挙げられる。セラミック粉末と助剤成分との合計重量を100重量部としたとき、助剤成分の量は2重量部以下が好ましい。この範囲内であることにより、以下の効果が得られる。
【0018】
例えば、トンネル付きセラミック部材が、半導体装置の内部でプラズマに暴露されるような部位に使用されることがある。この場合、Siウエハ等を処理する際に使用するプラズマにより、選択的に助剤成分がエッチングされ、パーティクルが発生することがある。上記のように助剤成分の量を2重量部以下とすれば、パーティクルの発生を抑制できる。
【0019】
中間成形体は、例えば、プレス成形体、樹脂硬化成形体、シート積層体とすることができる。それぞれについては後述する実施例で説明する。
中間成形体同士を貼り合わせ、加圧して未焼結成形体を形成するときの圧力は、例えば、10Kg/cm
2以上とすることができる。この範囲内である場合、未焼結成形体同士の密着力を一層高めることができる。
【0020】
未焼結成形体のうち少なくとも一方は、貼り合わせを行う面にトンネルとなる溝を有する。例えば、貼り合わされた一対の未焼結成形体のうち、一方は溝を有し、他方は溝を有さないものとすることができる。この場合、トンネルの側面に段差が生じてしまうことが起こり難い。また、貼り合わされた一対の未焼結成形体の両方が溝を有していてもよい。この場合、両方の未焼結成形体における溝を合わせて、1つのトンネルを形成することもできる。
【0021】
未焼結成形体における溝は、中間成形体がプレス成形体、又はシート積層体である場合、溝の形状に応じた、例えばR(面取り)を有するマシニングツールを用いて形成することができる。また、中間成形体が樹脂硬化成形体である場合、樹脂硬化成形体を成形するための型に予め溝の形状を設けておくことで、溝を形成することもできる。
【0022】
未焼結成形体における溝の幅は、例えば、1mm以上とすることができる。また、未焼結成形体における溝の深さは、例えば、1mm以上とすることができる。溝の幅又は深さをこの範囲内とすることにより、トンネルの断面積を大きくし、トンネルを流れる流体(例えばガス)の圧力損失を小さくすることができる。
【0023】
未焼結成形体における溝は、以下の条件を充足する。
条件:前記溝の長手方向に直交する前記溝の断面において、前記溝に外接する長方形であって、最小の面積となる長方形を想定する。前記長方形における前記溝の底面側の頂点を点Aとし、前記点Aに接続する前記長方形の2辺上で、前記点Aからの距離が0.14mmである点をそれぞれ点B、Cとする。前記点A、B、Cを頂点とする三角形は、前記溝の外にある。
【0024】
溝がこの条件を充足することにより、中間成形体同士を貼り合わせ、加圧して未焼結成形体を形成する工程において圧力が大きくても、溝の角で亀裂が生じることを抑制できる。また、溝の幅や深さが大きくても、溝の角で亀裂が生じることを抑制できる。
【0025】
前記点Aに接続する前記長方形の2辺上で、前記点Aからの距離が0.2mmである点をそれぞれ点B’、C’とする。前記点A、B’、C’を頂点とする三角形が溝の外にあることが好ましい。この場合、溝の角で亀裂が生じることを一層抑制できる。
【0026】
本発明のトンネル付きセラミック部材は、セラミックの組成比が98重量%以上であるセラミック領域と、トンネルとを備える。
セラミックとしては、例えば、Al
2O
3、Y
2O
3、AlN、及びSiCから成る群から選択される1種以上が挙げられる。
【0027】
セラミック領域は、セラミックとともに、助剤成分を含むことができる。助剤成分としては、例えば、セラミック粉末がAl
2O
3の場合は、SiO
2、MgO等が挙げられる。また、セラミック粉末がY
2O
3の場合は、CaO等が挙げられる。セラミック領域における助剤成分の組成比は、2重量%以下であることが好ましい。この範囲内であることにより、以下の効果が得られる。
【0028】
例えば、トンネル付きセラミック部材が、半導体装置の内部でプラズマに暴露されるような部位に使用されることがある。この場合、Siウエハ等を処理する際に使用するプラズマにより、選択的に助剤成分がエッチングされ、パーティクルが発生することがある。上記のように助剤成分の量を2重量部以下とすれば、パーティクルの発生を抑制できる。
【0029】
例えば、本発明のトンネル付きセラミック部材を、上述した製造方法で製造する場合、セラミックの組成比が98重量%以上であり、助剤成分の組成比が2重量%以下であれば、中間成形体を貼り合わせた際に、貼り合わせ界面に微細な隙間があると、焼成中に助剤成分により微細な隙間を埋める効果が必ずしも期待できず、焼成体の接着界面に隙間ができることがある。そのため、中間成形体を貼り合わせる際に、隙間なく貼り合わせることが好ましい。隙間なく貼り合わせるため、中間成形体同士を貼り合わせ、加圧するときの圧力を大きく(例えば、10Kg/cm
2以上に)することが好ましい。このときでも、トンネルが後述する条件を充足することにより、トンネルの角におけるクラックを抑制できる。
【0030】
トンネル付きセラミック部材が備えるトンネルは、以下の条件を充足する。
条件:前記トンネルの長手方向に直交する前記トンネルの断面において、前記トンネルに外接する長方形であって、最小の面積となる長方形を想定する。前記長方形における各頂点をそれぞれ点Aとする。前記点Aに接続する前記長方形の2辺上で、前記点Aからの距離が0.14mmである点をそれぞれ点B、Cとする。前記点A、B、Cを頂点とする三角形であって、前記トンネルの外にある三角形が少なくとも2つ存在する。
【0031】
トンネルが上記の条件を充足することにより、トンネルの角でクラックが生じることを抑制できる。特に、トンネルの幅や深さが大きくても、トンネルの角でクラックが生じることを抑制できる。
【0032】
前記点Aに接続する前記長方形の2辺上で、前記点Aからの距離が0.2mmである点をそれぞれ点B’、C’とする。前記点A、B’、C’を頂点とする三角形であって、前記トンネルの外にある三角形が少なくとも2つ存在することが好ましい。この場合、トンネルの角でクラックが生じることを一層抑制できる。
【0033】
本発明のトンネル付きセラミック部材は、種々の用途に用いることができ、例えば、半導体製造装置に関連した、シャワーヘッド、静電チャック、ヒーター等に用いることができる。トンネル付きセラミック部材のトンネルには、種々の流体(例えば、ガス、液体)を流すことができる。
(実施例1)
平均粒径1.0μmのAl
2O
3原料(セラミック粉末の一例)と樹脂と水とから成るスラリーS1を用い、スプレードライヤーにより、スプレー顆粒を作製した。樹脂としてはポリビニルアルコール(PVA)を用いた。Al
2O
3原料100重量部に対し、樹脂の量は3重量部とした。
【0034】
次に、スプレー顆粒を加圧成形し、
図1Aに示す中間成形体1、3を作成した。中間成形体1、3の形状は、それぞれ、直径360mm、厚み15mmの円盤形状である。なお、中間成形体1、3は、プレス成形体の一例である。
【0035】
次に、
図1Bに示すように、中間成形体3における一方の面3Aに、マシニングセンタにより、溝5を形成した。溝5の形成には、Rのついたエンドミル(Rを有するマシニングツールの一例)を用いた。面3A上での溝5のパターンは、
図3に示すとおりである。
【0036】
次に、平均粒径1.0μmのAl
2O
3原料と樹脂と溶剤とを混合したペーストS1を用意した。樹脂としてはポリビニルアルコール(PVA)を用いた。Al
2O
3原料100重量部に対し、樹脂の量は3重量部とした。溶剤としてテルピオネールを用いた。
【0037】
上記のペーストS1を、中間成形体3の面3A上(溝5の部分は除く)に塗布し、
図1Cに示すように、中間成形体1と中間成形体3とを貼り合わせ、加圧した。貼り合わせ及び加圧後の中間成形体1を、以下では未焼結成形体1’とする。また、貼り合わせ及び加圧後の中間成形体3を、以下では未焼結成形体3’とする。
【0038】
中間成形体1と中間成形体3とを貼り合わせる面は、中間成形体3の面3Aと、中間成形体1の面1Aとである。なお、面1Aには溝は形成されていない。また、加圧における圧力は20Kg/cm
2とした。
【0039】
中間成形体1と中間成形体3とを貼り合わせた結果、溝5の開口部が閉じられ、トンネル11が形成された。
図2は、溝5の長手方向に直交する断面での、未焼結成形体3’の断面図である。溝5は、底面9の両端部10においてRのついた形状を有する。長方形7は、
図2において溝5に外接する仮想的な長方形であって、最小の面積となる長方形である。長方形7の各辺は、面3Aに水平であるか、直交する。長方形7における溝5の底面9側の頂点を点Aとする。点Aに接続する長方形7の2辺上で、点Aからの距離が0.14mmである点をそれぞれ点B、Cとする。点A、B、Cを頂点とする三角形は、溝5の外にある(セラミックを主成分とする領域内にある)。
図2に示す2つの三角形の両方が溝5の外にあることが好ましい。溝5の幅Wは2mmであり、溝5の深さDは1.5mmである。
【0040】
次に、未焼結成形体1’、3’を、空気中で脱脂、焼結した。脱脂条件は250℃とした。また、焼結条件は1550℃とした。
最後に、外径研磨や穴あけ加工を行い、
図1Dに示すトンネル付きセラミック部材13を完成した。トンネル付きセラミック部材13は、トンネル11と、それ以外のセラミック領域15とから成る。セラミック領域15では、セラミックの組成比が99重量%であり、助剤の組成比が1重量%である。
【0041】
トンネル付きセラミック部材13におけるトンネル11の形状は、未焼結成形体3’における溝5の形状と同様であった。ただし、トンネル11の大きさは、未焼結成形体3’における溝5の大きさの約80%であった。
【0042】
図4は、トンネル11の長手方向に直交する断面での、トンネル付きセラミック部材13の断面図である。トンネル11は、底面9の両端部10においてRのついた形状を有する。長方形7は、
図4においてトンネル11に外接する仮想的な長方形であって、最小の面積となる長方形である。長方形7における底面9側の頂点を点Aとする。点Aに接続する長方形7の2辺上で、点Aからの距離が0.14mmである点をそれぞれ点B、Cとする。点A、B、Cを頂点とする三角形は、トンネル11の外にある(セラミック領域15内にある)。
【0043】
焼結後にトンネル11を観察したところ、クラックは見られなかった。本実施例のトンネル付きセラミック部材13は、CVDヒーター等で用いられるシャワーヘッドとすることができる。
(実施例2)
平均粒径1.0μmのAl
2O
3原料(セラミック粉末の一例)と熱硬化性樹脂と溶剤とから成るスラリーS2を調製した。熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂を用いた。Al
2O
3原料100重量部に対し、熱硬化性樹脂の量は10重量部とした。
【0044】
上記のスラリーS2を型に流し込み、加熱することで硬化させ、中間成形体1、3を得た。この未焼結成形体1、3は、樹脂硬化成形体の一例である。本実施例における中間成形体1、3の形状は、基本的には前記実施例1における中間成形体1、3と同様である。中間成形体1用の型には、溝5に対応する凸部は設けられておらず、中間成形体3用の型には、溝5に対応する凸部が設けられている。よって、中間成形体3には溝5が形成されている。
【0045】
次に、上記のペーストS2を、未焼結成形体3の面3A上(溝5の部分は除く)に塗布し、中間成形体1と中間成形体3とを貼り合わせ、加圧・加熱して未焼結成形体1’、3’を形成した。加圧における圧力は20Kg/cm
2とし、加熱の条件は60℃として、硬化させた。
【0046】
未焼結成形体3’における溝5の形状は基本的には前記実施例1と同様である。ただし、本実施例では、溝5の幅Wは10mmであり、深さDは3mmである。溝5の形状は、前記実施例1と同様に、点A、B、Cを頂点とする三角形が、溝5の外にあるという条件を充足する(
図2参照)。
【0047】
次に、未焼結成形体1’、3’を、空気中で脱脂、焼結した。脱脂条件は250℃とした。また、焼結条件は1550℃とした。
最後に、外径研磨や穴あけ加工を行い、トンネル付きセラミック部材13を完成した。トンネル付きセラミック部材13は、トンネル11と、それ以外のセラミック領域15とから成る(
図1D参照)。セラミック領域15では、セラミックの組成比が99重量%であり、助剤の組成比が1重量%である。
【0048】
トンネル付きセラミック部材13において、トンネル11の形状は、未焼結成形体3’における溝5の形状と同様であった。ただし、トンネル11の大きさは、未焼結成形体3’における溝5の大きさの約80%であった。
【0049】
本実施例でも、トンネル11の形状は、前記実施例1と同様に、点A、B、Cを頂点とする三角形が、トンネル11の外にある(セラミック領域15内にある)という条件を充足する(
図4参照)。
【0050】
焼結後にトンネル11を観察したところ、クラックは見られなかった。本実施例のトンネル付きセラミック部材13は、CVDヒーター等で用いられるシャワーヘッドとすることができる。
(実施例3)
平均粒径1.0μmのAl
2O
3原料(セラミック粉末の一例)と樹脂と可塑剤と溶剤とから成るスラリーS3を調製した。樹脂としてはポリビニルブチラール樹脂(PVB)を用いた。Al
2O
3原料100重量部に対し、樹脂の量は10重量部とした。
【0051】
次に、スラリーS3を用い、ドクターブレード法により、シート成形体を作製した。そのシート成形体を複数積層し、加圧接着することで、中間成形体1、3を作成した。この中間成形体1、3は、シート積層体の一例である。中間成形体1、3の形状は、基本的には前記実施例1と同様である。ただし、本実施例では中間成形体1、3の厚みは8mmである。
【0052】
以降は前記実施例1と同様に、溝5の形成、貼り合わせ、加圧を行い、未焼結成形体1’、3’を形成した。さらに、未焼結成形体1’、3’に、脱脂、焼結、及び外径研磨や穴あけ加工を行い、トンネル付きセラミック部材13を完成した。溝5の形成においては、Rのついたエンドミルを用いた。未焼結成形体3’における溝5の形状は、前記実施例1と同様であり、点A、B、Cを頂点とする三角形が、溝5の外にあるという条件を充足する(
図2参照)。ただし、溝5の幅Wは5mmであり、深さDは3mmである。また、加圧における圧力は30Kg/cm
2とした。
【0053】
トンネル付きセラミック部材13は、トンネル11と、それ以外のセラミック領域15とから成る。セラミック領域15では、セラミックの組成比が99重量%であり、助剤の組成比が1重量%である。
【0054】
トンネル付きセラミック部材13において、トンネル11の形状は、未焼結成形体3’における溝5の形状と同様であった。ただし、トンネル11の大きさは、未焼結成形体3’における溝5の大きさの約80%であった。
【0055】
本実施例でも、トンネル11の形状は、前記実施例1と同様に、点A、B、Cを頂点とする三角形が、トンネル11の外にある(セラミック領域15内にある)という条件を充足する(
図4参照)。
【0056】
トンネル11を観察したところ、クラックは見られなかった。トンネル11を撮影した写真を
図5に示す。本実施例のトンネル付きセラミック部材13は、CVDヒーター等で用いられるシャワーヘッドとすることができる。
(実施例4)
基本的には前記実施例3と同様にして、トンネル付きセラミック部材を作成した。ただし、シート成形体を積層する前に、シート成形体に接続用の穴をパンチングによって開け、その穴にペーストを充填し、ビアを形成した。穴に充填するペーストは、W又はMoと、Al
2O
3と、樹脂と、溶剤とから成るものである。また、シート成形体の表面にW又はMoと、Al
2O
3と、樹脂と、溶剤とからなるペーストをスクリーン印刷で印刷し、配線パターンを形成した。シート成形体を積層したとき、上記のビア及び配線パターンは、立体的な配線構造を形成する。
【0057】
また、焼結のときは、加湿した窒素、水素混合カス中で焼結を行う。そのことにより、ビアや配線パターンの酸化を抑制することができる。
(比較例)
基本的には前記実施例3と同様にして、トンネル付きセラミック部材を作成した。ただし、溝5の形成において、Rのついていないエンドミルを用いた。そのため、
図6Aに示すように、未焼結成形体3’の溝5において、点A、B、Cを頂点とする三角形を想定したとき、その三角形の少なくとも一部は、溝5の中にある。
【0058】
また、
図6Bに示すように、トンネル付きセラミック部材のトンネル11において、トンネル11に外接する長方形であって、最小の面積となる長方形7を想定し、長方形7の4つの頂点をそれぞれ点Aとする。各点Aに接続する長方形7の2辺上で、点Aからの距離が0.14mmである点をそれぞれ点B、Cとする。点A、B、Cを頂点とする三角形は4つとも、少なくとも一部がトンネル11の中にある。
【0059】
トンネル11を観察した写真を
図7に示す。
図7に示すように、トンネル11の角においてクラックが見られた。なお、
図7では、クラックを着色し、見やすくしている。