【実施例】
【0028】
<カーボンナノチューブの調製>
プラズマエンハンスト化学気相成長法で、Ni触媒を用いて、CrコートされたSi基板上に、該基板に対して略垂直方向にMWCNTのアレイを成長させた。得られたMWCNTは、直径が50〜70nm、長さ2〜3μm、密度が10
6MWCNT/cm
2であり、隣接するMWCNT同士の間は5μm超であった。得られたMWCNTアレイのTEM写真を
図1に示す。
【0029】
<プローブの作成>
三角錐形状のAuコートされたSiチップを有するカンチレバー(バネ定数約3N/m、チップ頂点の曲率約50nm)を備える原子間力顕微鏡(SIIナノテクノロジー社製、SPA400)を使用して、以下の手順でプローブを作成した。
(1)タッピングモードで、上記MWCNTアレイをイメージングして、2μm程度の適切な長さを有するMWCNTの位置を特定した。
図2aに、従来のAuコートされたSiチップを用いて測定された、基板に対して垂直状に成長したMWCNTのトポグラフィーを示す。
(2)コンタクトモードで、上記特定されたうちの一のMWCNTの自由端の上に、カンチレバーの変位が5nm(
図2d、右側y軸)となる程度の力(約15nN)をかけて、
図2bに示すようにして、チップを配置した。
(3)
図2bの配置を保った状態で、チップに負バイアス電圧(
図2d、左側y軸)を与える条件で、MWCNTを通じて基板に流れ込む電流を次第に増加させていった(
図2d、x軸)。これは、設定した電流を流すために必要な電圧を印加する、定電流制御の条件で実施した。電流が90〜100μAに達したとき、カンチレバーの変位が0nmに戻ると共にバイアス電圧が増大し、MWCNTの切断が確認された。この切断によって、もともと基板上にあった2μm程度の長さを持つMWCNTは、数百nm程度を基板上に残してチップ側へと移動した。
図2cに、得られたプローブを用いて測定した、基板上に残ったMWCNTのAFM像を示す。該AFM像では、探針を備えないチップで測定した
図2aのAFM像と比べて、MWCNTの円形が明確に示されている。
(4)同様にして、他に24個のプローブを作成した。
【0030】
<評価>
図2fに、得られたプローブを用いて得られた、CrコートされたSi基板のAFMトポグラフィーと、対応する高さプロフィールを示す。比較のために、本発明の探針を有しない、従来のチップを用いて得られたものを
図2eに示す。本発明のプローブでは、細かい構造が鮮明に検出され、
図2f下のグラフに示すように、20nm程度の小粒子も検出できた。一方、従来のチップでは、
図2e下のグラフに示すように、80nm程度の粒子が何とか検出できる程度であった。ここから、本発明のプローブの増強されたイメージング能が確認された。
【0031】
このとおり本発明の方法に従い、CNTを正確に位置決めして、適切に力を負荷し、電流を流すことによって、良好に配置され、適切な長さを有するCNT探針を有するプローブが簡単且つ高収率で得られることが分かった。
【0032】
<プローブの形態>
得られたプローブを、走査型電子顕微鏡(日立 S4800)及び透過型電子顕微鏡(JEOL1010、100kV)を用いて観察した。後者の観察では、カンチレバーをそのSi基材から取り外し、Cu製のTEMグリッド上に銀ペーストを用いて固定した。
【0033】
図3は、得られたプローブのSEM像である。上段は同じプローブを異なる方向から見た像であり、下段は他の異なる3つのプローブの像である。
図3aにおいて、MWCNTは完全にyz平面内に在り、y軸に対して約15°傾いている。この傾き角(ティルトアングル)は、プローブをAFM装置に搭載したときに補償され、MWCNTが試料面に対して垂直となる。
【0034】
図3に示す4つのプローブにおいて、MWCNTは長さが約1〜1.5μmであった。25回行った実験のうち、1回だけ約500nmより少し長い程度のものがあったが、他は全て、特別の切断工程無しに、1〜1.5μmの長さであった。この長さの均一性は、使用したMWCNT垂直アレイが長さ2μm〜3μmでほぼ揃っており、そのうちの2.5〜3μmのものを選んでチップに取り付けたことによるものと考えられる。MWCNTの直径が約50nmであることを考慮すると、上記長さのものはAFMイメージング中の熱雑音が低く、好ましい。
【0035】
図4は得られたプローブのSEM像(a,b)及びTEM像(c,d)である。既に述べたとおり、
図4a及びcからMWCNTとチップが側面同士で固着されていることが分かる。さらに、該固着部は数nmの厚みの無定形炭素層で覆われていることが分かった。これは、切断のために流した比較的大きな電流によって生成されたものと思われる。
【0036】
図4dから、MWCNTの質はあまり良いとは言えず、多くの欠陥を含むバンブー構造であることが分かった。より欠陥が少なく、細くて良質の構造のCNTを用いることで、ヤング率及び導電性がより高い良質のプローブが得られるものと考えられる。
【0037】
<プローブの電気的特性>
上記実施例において、AuコートSiチップをMWCNTの上に配置した後、該系を導電性にするためには、約3Vまでの電圧を要することが分かった。一般に、環境雰囲気中でAFMを用いるときには、チップと試料の間の汚染物質及び酸化層を除去するために、最初の活性化電圧が必要である。本発明の場合も同様であるが、一旦活性化された後は、チップとMWCNTの良好な電気的接続が形成されることが、AuコートSiチップを用いて、切断される前のMWCNTのコンダクタンスを測定することで確認された。典型的なI/V特性を
図5aに示す。各MWCNTの電気的測定をする間に、コンタクト力を連続的に3、7.5、15、及び30nNに制御したが、30nNまではI/V特性に影響を及ぼさないことが分かった。20本以上のMWCNTについて測定した結果、使用したMWCNTの抵抗値が12〜70kΩであることが算定された。この値は、これまでに微細電極を用いて測定されてきた数100kΩ以上という値に比べて明らかに低く、今回使用したMWCNTとAuコートチップは良好な電気的接続を形成していると言える。
【0038】
得られたプローブ自体も安定な導電性を示した。
図5bは、Crコートされた基板とプローブとの間のコンダクタンスを計測した結果である。初期の減少と1回の揺らぎの後は、25μAを流した状態で2時間超安定であった。ここから、本発明のプローブはナノ構造の電気的特性を調べるプローブとして電気的安定性に優れ、信頼性が高いことが分かる。
【0039】
<Au修飾>
該プローブを用いて容易にAu修飾された探針を得ることができることが分かった。
図4eはAu修飾した探針のTEM像である。これは、得られたプローブを空気中で350℃で2時間、単に加熱しただけである。金粒子がMWCNTの表面に観察された。該粒子の密度は、加熱温度及び時間を制御することで制御できる。該探針のエネルギー分散X線(EDX)スペクトルを
図4fに示す。約7keVにAuが検出されているのが分かる。同スペクトルにおいて、Cu、Al、SiはSEM装置及び基板由来である。挿入図は、Au(左)とC(右)のマッピングである。ここから、Auが全体に亘って均一に付着していることが分かった。該Au修飾探針を用いれば、触媒反応、センシング、チップ増強ラマン分析等への応用が可能である(R. Kumarら, Nanoscale, 5 (2013), pp. 6491-6497; H. Sharmaら, J. Raman Spectroscopy, 44 (2012), pp. 12-20;J.C. Charlier,ら, Nanotechnol., 20 (2009), p. 375501)
【0040】
<比較実験>
比較として、Auコートが無いSiチップを用いて同上の操作を行った。該チップでも、コンタクトモードでMWCNTを固着させることはできたが、あまり綺麗に配向していなかった。MWCNTは基板から引き抜かれ、基板表面上のCr粒子と汚染物でコートされた、丸まった頂部の探針となり、AFMには適切ではなかった。