(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608841
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】封止用の熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20191111BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20191111BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20191111BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20191111BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20191111BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20191111BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20191111BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20191111BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20191111BHJP
B29K 25/00 20060101ALN20191111BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/12
C08L23/06
C08L23/16
C08K5/5415
C08L23/26
B29C45/14
B29C48/154
B29K23:00
B29K25:00
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-558290(P2016-558290)
(86)(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公表番号】特表2017-512856(P2017-512856A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】FR2015050634
(87)【国際公開番号】WO2015145021
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年2月20日
(31)【優先権主張番号】1452580
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】シルバン ティモニエ
【審査官】
大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−207006(JP,A)
【文献】
特開2006−206715(JP,A)
【文献】
特開2006−291019(JP,A)
【文献】
特表2010−530325(JP,A)
【文献】
特開2011−213767(JP,A)
【文献】
特開2012−079849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラス製の基材上にエラストマーをオーバーモールドするための熱可塑性組成物であって、
(a)50〜70重量%の、スチレンブロックを含むコポリマー(TPE−S)から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(TPE)、
(b)20〜35重量%の、プロピレンホモポリマー(PP)、エチレンホモポリマー(PE)及びプロピレンとエチレンとのコポリマーから選ばれるポリオレフィン、
(c)少なくとも7重量%の、官能性アルコキシシラン、
を含み、これらの百分率は成分(a)、(b)及び(c)の合計に対して表されている、無機ガラス製の基材上にエラストマーをオーバーモールドするための組成物。
【請求項2】
(a)+(b)+(c)の合計に対して0.5〜10重量%の、無水マレイン酸(MAH)によりグラフトされた少なくとも1種の有機ポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
無水マレイン酸によりグラフトされた前記有機ポリマーを、無水マレイン酸によりグラフトされたTPE−S及び無水マレイン酸によりグラフトされたポリオレフィンから選ぶことを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記官能性アルコキシシランが、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン及び(メタ)アクリロイルシラン並びにこれらの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記官能性アルコキシシランが、アミノシラン、ビニルシラン及びエポキシシランから選ばれる少なくとも2種のシランの混合物であることを特徴とする、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
揮発性有機溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
基材上に熱可塑性組成物を射出することによりオーバーモールドするための方法であって、以下の一連の段階、すなわち、
(1)請求項1〜6のいずれか1項記載の熱可塑性組成物を1000Pa・s-1未満の粘度を得るのに十分な温度に加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を基材の一部分を挿入した成形型キャビティー中に射出する段階、
(3)成形型から前記基材にオーバーモールドした集成体を取り出す段階、
を含む、基材上に熱可塑性組成物を射出することによりオーバーモールドするための方法。
【請求項8】
前記基材の一部分がグレージングの端部であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
基材上に熱可塑性組成物を押出しすることによりオーバーモールドするための方法であって、以下の一連の段階、すなわち、
(1)請求項1〜6のいずれか1項記載の熱可塑性組成物を1000Pa・s-1未満の粘度を得るのに十分な温度に至るまで押出機内で加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を基材と接触させて押出しする段階、
を含む、基材上に熱可塑性組成物を押出しすることによりオーバーモールドするための方法。
【請求項10】
段階(2)において、加熱した熱可塑性組成物をグレージングの端部と接触させて押出しすることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
成形型から取り出す段階又は押出しする段階の後に、基材又はポリマーによりオーバーモールドした基材の部分を50℃を超える温度で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記基材又は前記基材の部分を60℃と150℃の間の温度で加熱することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記基材がグレージングを形成している無機ガラスであることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
加熱した熱可塑性組成物を射出又は押出しする段階の前に、基材又は基材のオーバーモールドする部分を50℃を超える温度で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記基材又は前記基材のオーバーモールドする部分を60℃と150℃の間の温度で加熱することを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
オーバーモールドしようとする基材の表面をプラズマ又はコロナ放電により物理的に前処理する段階、又は、オーバーモールドしようとする表面を、官能性シランの適用、及び/又は有機チタネート、ジルコネート及びジルコアルミネートから選ばれる付着促進剤の適用により化学的に前処理する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記プラズマが大気プラズマであることを特徴とする、請求項16項記載の方法。
【請求項18】
前記熱可塑性組成物と接触する基材の部分に有機下塗り層がなく、加熱した前記熱可塑性組成物が基材と直接接触することを特徴とする、請求項7〜15のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事前の下塗り段階なしで自動車グレージングの封止を可能にする、カップリング剤含有量の多い熱可塑性エラストマーをベースとする封止組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車グレージングの産業分野において、「封止」という用語は、グレージングの周辺部を囲むようにポリマー材料をオーバーモールドする処理又は段階を意味する。この材料は、グレージングの縁の周囲に耐漏洩性フレームを形成する成形型内に流動状態で注入される。重合及び/又は架橋反応(熱硬化性ポリマーの場合)あるいは冷却(熱可塑性ポリマーの場合)により材料を硬化させた後に、成形型を開放しそして取り外して、グレージングの周囲にグレージングの縁とグレージングの2つの面のうちの少なくとも一方、多くの場合にはグレージングの両方の面とに接触している異形ストリップを残す。
【0003】
異形ストリップを形成するポリマーは、多くの場合、グレージングと車体との間のシールとしての役割を果たすことができるエラストマーである。しかしながら、エラストマーでないポリマーも封止によりオーバーモールドして、他の機能を果たさせることができる。この場合、得られる異形ストリップは一般に、並置されたエラストマーの構成要素及び非エラストマーの構成要素の両方を含む複合材ストリップである。
【0004】
封止段階は一般に、グレージングの周囲のオーバーモールドする表面をクリーニング及び活性化する段階の後に行われ、そして多くの場合にはその後、オーバーモールドされた異形ストリップと接触することが意図された活性化領域にプライマーが適用される。
【0005】
熱可塑性エラストマー(TPE)、特にスチレンベースのTPE(TPE−S)が、自動車グレージングの封止のために、すなわちグレージングの周囲の少なくとも一部分を覆うエラストマーシールの射出成形によるオーバーモールドのために、長年使用されてきた。
【0006】
グレージングに対するシールの十分な密着性を保証するために、一般には、射出成形によるオーバーモールディング段階の前に、プライマーの薄い層をそこに被着させることが必須である(例えば、欧州特許出願公開第0570282号明細書、米国特許第6348123号明細書及び欧州特許出願公開第2162487号明細書を参照されたい)。
【0007】
プライマー層を適用するこの段階には問題がある。それは自動化するのが非常に困難であり、このためほとんどの時間は手作業で行われ、これは製造コストをかなり増加させる。プライマー組成物は、イソシアネート及び有機溶媒などの、非常に反応性、毒性かつ可燃性である製品を含み、作業者によるその取扱いはフード下で行われなければならず、そして明らかな健康、安全及び環境上の問題を提起する。
【0008】
さらに、手作業で適用されるプライマー層は、多くの場合、封止段階の前にガラスを予熱するその後の段階を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このため、この下塗り段階を自動化すること、実際のところさらにはそれなしに自動化して、グレージングへのシールの密着性がそれにより損なわれることがないようにすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人の会社は、グレージング上に、特に自動車グレージング上にエラストマーシールをオーバーモールドするための組成物を開発した。該組成物は、この目的を達成することを、すなわちプライマー層の事前の適用なしに、グレージング上に該組成物を直接オーバーモールドすることを可能にする。
【0011】
本願の主題は、このように、無機ガラス製の基材上にエラストマーをオーバーモールドするための熱可塑性組成物であって、該組成物は、
(a)50〜70重量%の、スチレンブロックを含むコポリマー(TPE−S)から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(TPE)、
(b)20〜35重量%、好ましくは22〜30重量%の、ポリプロピレンホモポリマー(PP)、エチレンホモポリマー(PE)及びプロピレンとエチレンとのコポリマーから選ばれるポリオレフィン、
(c)少なくとも7重量%、好ましくは8〜20重量%、特に9〜15重量%の、官能性アルコキシシラン、
を含み、これらの百分率は成分(a)、(b)及び(c)の合計に対して表現されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性組成物は、このように、3つの必須成分,すなわち、
・弾性特性に寄与するスチレン熱可塑性エラストマー(成分a)、
・主な役割が最終のオーバーモールドされた材料の硬度を増加させることである、ポリオレフィン(成分b)、及び、
・封止組成物において通常使用されている濃度よりも高い濃度の官能性シラン(成分c)、
を含む。
【0013】
本発明で使用することができるTPE−Sは、以下の群、すなわち、
・SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)の群:2つのポリスチレンブロックにより囲まれた中央のポリブタジエンブロックを含むブロックコポリマー、
・SEBS(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン)の群:SBSの水素化により得られるコポリマー、
・SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン)の群:2つのポリスチレンブロックに隣接した中央のポリ(エチレン−プロピレン)ブロックを含むコポリマー、
・SEEPS(スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン)の群:スチレン−ブタジエン/イソプレン−スチレンコポリマーの水素化により得られるコポリマー、
を主として含む。
【0014】
これらのポリマーは、無機フィラーを含むグレードとして市販されているが、フィラー不含材料の形態もある。
【0015】
本発明では、フィラーを本質的に含まないTPE、又は5%未満の無機フィラー、好ましくは2%未満の無機フィラーを含むTPEを使用する。
【0016】
それらは、例えば、Dryflex(Hexpol TPE社)、Evoprene(AlphaGary社)、Sofprene(SO.F.TER社)、Laprene(SO.F.TER社)、Asaprene(旭化成社)又はNilflex(Taroplast社)の商品名で入手可能である。
【0017】
これらの製品は、本願において熱可塑性組成物のTPE−S分の一部を形成するものと見なされる特定の割合の有機潤滑剤、粘度低下剤又は可塑剤を含むことができる。
【0018】
TPE−Sの融点は、有利には180℃と210℃の間、特に190℃と200℃の間である。
【0019】
それらは、溶融状態で射出成形することができるのに十分なだけ流動性でなければならない。しかしながら、溶融状態での粘度に関する正確な情報は、これが温度のみでなく、ポリマーが受けるせん断力にもよるので、提供することが不可能である。供給業者からは、一般に「射出成形」グレードで提供される。
【0020】
本発明の組成物は、50〜70重量%、好ましくは55〜68重量%、そして理想的には60〜65重量%のTPE−Sを含み、これらの百分率は成分(a)、(b)及び(c)の総計に対するものである。
【0021】
自動車グレージングのシールとして満足に機能することができるためには、本発明のオーバーモールディング法の最後に得られるオーバーモールドされた成形品は、好ましくは、ショアA硬度が50と80の間であり、特に60と75の間である。
【0022】
TPE−Sを官能性シランと組み合わせて使用するだけでは、これらの硬度値を得ることはできない。これが、TPE−Sと相容性であるポリオレフィンをTPE−S中に取り込むことが必要である理由である。このポリオレフィンは、プロピレンもしくはエチレンホモポリマー、又はプロピレンとエチレンとのコポリマーである。その重量平均分子量は、一般に100000g/モル未満であり、好ましくは20000g/モルと60000g/モルの間である。
【0023】
市販製品の例として、Hostalen、Sabic、Ineos又はBorealisの名称で販売されているポリプロピレンを挙げることができる。これらの製品は本質的に無機フィラーを含まないが、少量の、一般には5重量%未満の可塑剤及び/又は潤滑剤と、1重量%未満の安定剤とを含むことができる。
【0024】
本発明の組成物の第三の本質的な成分は官能性シランであり、すなわち少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの加水分解性有機基、典型的にはアルコキシ基と、少なくとも1つの非加水分解性有機基、典型的には、オーバーモールドしようとする基材及び/又は熱可塑性組成物の成分(a)及び(b)に対して反応性である官能基を有するアルキル基、とに結合したケイ素原子から形成された有機分子である。
【0025】
好ましくは、トリアルコキシシラン、特にトリエトキシシラン及びトリメトキシシランを使用し、後者が最初のものよりも反応性であるので特に好ましい。
【0026】
アルキル基が有する反応性官能基は、好ましくは、ビニル、アクリロイル、メタクリロイル、エポキシ、メルカプト又はアミノ官能基である。アルキル基は、もちろん、1つより多くの反応性官能基を有することができる。
【0027】
このように、官能性アルコキシシランは好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン及び(メタ)アクリロイルシランならびにこれらの混合物から選ばれ、そして好ましくは、アミノシラン、ビニルシラン及びエポキシシランから選ばれる少なくとも2種のシランの混合物である。
【0028】
最も有利な官能性シランとしては、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン又は3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0029】
官能性シランは、数十年来の周知のカップリング剤である。それらは一般に、ポリマー材料と無機ガラスなどの無機材料との密着性を向上させるために、少量で、すなわち3重量%未満の割合で、一般には2重量%未満の割合で使用される。
【0030】
本発明では、非常に高価であるこれらの分子を、当該技術分野の現状よりも有意に高い濃度で使用する。多量のカップリング剤の使用は、オーバーモールディングを目的とする熱可塑性組成物の原価を所望されないほど増加させるのは確かであるが、この追加のコストは手作業での下塗り段階及びそれに伴う賃金の支払いがなくなる可能性によって大きく相殺される。
【0031】
カップリング剤は、オーバーモールディング用の熱可塑性組成物が揮発性有機溶媒を含まないように、純粋な形態で、すなわち有機もしくは水性溶媒中に溶解されずに熱可塑性組成物中に取り込まれるのが好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性組成物は、上記の官能性シランとは異なる追加のカップリング剤をさらに含むことができ、該カップリング剤は無水マレイン酸(MAH)によりグラフトされた有機ポリマーから選ばれる。このカップリング剤は一般に、官能性シラン(1種又は2種以上)よりも少量で使用される。本発明の熱可塑性組成物は、好ましくは、(a)+(b)+(c)の合計に対して0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の、無水マレイン酸(MAH)によりグラフトされた有機ポリマーを少なくとも1種含む。
【0033】
有機酸無水物によりグラフトされたこれらのポリマーは、熱可塑性組成物のTPE−S/ポリオレフィン混合物と相容性でなければならず、好ましくは、無水マレイン酸によりグラフトされたTPE−S及び無水マレイン酸によりグラフトされたポリオレフィンから選ばれる。
【0034】
TPE−S又はポリオレフィンと同一のポリマー部分を有するMAHによりグラフトされた有機ポリマーが、好ましく使用される。別の言い方をすれば、TPE−SがSBSである場合には、MAHによりグラフトされたSBSを使用するのが好ましく、そしてポリオレフィンがプロピレンホモポリマーである場合には、MAHによりグラフトされたポリプロピレンを使用するのが好ましい。
【0035】
MAHによりグラフトされたこれらのポリマーは知られており、例えばAmplify(ダウ・ケミカル社)及びScona(Byk社)の名称で市販されている。
【0036】
本発明の熱可塑性組成物は、体積計量装置を用いて適量の成分を射出スクリュー又は押出機中に導入することにより、オーバーモールド処理の直前に調製することができる。
【0037】
それは、適切なミキサー中で種々の成分を混合することにより調製してもよく、そしてその後保管してから、好ましくは低温条件下で保管してから、使用してもよい。
【0038】
本発明の他の主題は、基材上で、特に有機又は無機ガラス製、とりわけ無機ガラス製の基材上で、このような熱可塑性組成物をオーバーモールドするための2つの方法である。
【0039】
これらの方法は、特に、無機ガラス製又はポリマー製の自動車グレージングの周囲でシールを形成するために実施される。
【0040】
「オーバーモールドするための方法」という用語は、熱可塑性組成物と接触させようとする基材の部分が挿入されている成形型キャビティー中に高温の流動化された熱可塑性組成物を射出する、射出によりオーバーモールドするための方法を包含し、そしてまた、高温の可塑化された熱可塑性組成物を、一般には材料のチューブの形態で、押出して基材と接触させる、押出しによりオーバーモールドするための方法も包含する。したがって、押出しによりオーバーモールドするための方法では、組成物は成形型中に射出されないが、押出し後そして硬化前に、成形型部品により熱可塑性組成物に付形する押出法がいくつか存在する。
【0041】
本発明の射出によりオーバーモールドするための方法は、下記の3つの一連の段階、すなわち、
(1)本発明による熱可塑性組成物を1000Pa・s
-1未満の粘度を得るのに十分な温度に加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を、好ましくは無機ガラス製の、基材の一部分、特にグレージングの端部が挿入された成形型キャビティー中に射出する段階、及び、
(3)前記成形型からグレージングにオーバーモールドした集成体を取り出す段階、
を含む。
【0042】
本発明の押出しによりオーバーモールドするための方法は、下記の2つの一連の段階、すなわち、
(1)本発明による熱可塑性組成物を1000Pa・s
-1未満の粘度を得るのに十分な温度に至るまで押出機内で加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を、好ましくは無機ガラス製の、基材と、特にグレージングの端部と接触して押出しする段階、
を含む。
【0043】
下記の実施例において示されるとおり、本発明による熱可塑性組成物を加熱しそしてそれをガラス製基材の表面と接触させることで、特定の反応時間の後にポリマー相と基材との申し分のない密着性を得るのに十分である。
【0044】
このように、むき出しの基材に前処理を施し又は得られた製品に後処理を施すことは必要ない。
【0045】
したがって、本発明によるオーバーモールドするための方法の有利な実施形態では、基材の表面はいかなる化学的又は物理的な前処理も受けない。具体的に言えば、それはオーバーモールドされたポリマーと基材との密着性を向上させることを目的とした下塗りを受けない。このため、熱可塑性組成物と接触する基材の一部分に有機の下塗り層はなく、そして加熱された熱可塑性組成物は射出又は押出しの段階(2)の間、基材と、好ましくはグレージングを形成する無機ガラスと、直接接触する。
【0046】
しかしながら、一般にポリマーの接着力の向上を目的に、オーバーモールドしようとする表面の活性化又は準備を行う特定の段階を行うことを想定することが可能である。
【0047】
したがって、本発明によるオーバーモールドするための方法は、オーバーモールドしようとする基材の表面をプラズマ又はコロナ放電、好ましくは大気プラズマにより、物理的に前処理する段階をさらに含むことができる。
【0048】
官能性シランを適用することによる、及び/又は有機チタネート、ジルコネート及びジルコアルミネートから選ばれる付着促進剤を適用することによる、オーバーモールドしようとする表面の化学的な前処理の段階を有利に使用することもできる。官能性シランは、原則的に、熱可塑性組成物中に取り込まれるものから選ぶことができる。表面のこの化学的前処理に使用することができる有機チタネート、ジルコネート及びジルコアルミネートは知られており、例えば、Tyzor(登録商標)の商品名でDorf Ketal社から市販されており(チタネート及びジルコネート)、またManchem(登録商標)の商品名で市販されている(ジルコアルミネート)。
【0049】
オーバーモールドするための方法の前又は後の熱処理は必須ではないが、それはポリマー相の硬化及び基材への接着に関与する化学反応を有利に促進することができる。
【0050】
このため、本発明による方法は、さらに有利には、成形型からの取り出し又は押出しの段階の後に、さもなければ熱可塑性組成物の射出又は押出しの段階の前に、基材又はポリマーによりオーバーモールドされる基材の部分を加熱する段階を含む。
【0051】
この事前加熱又は事後加熱は、好ましくは、50℃よりも高い温度で、特に60℃と150℃の間、理想的には70℃と100℃の間の温度で行う。
【実施例】
【0052】
射出ステーションにて体積計量装置を用いて、下記の熱可塑性混合物、すなわち、
63重量部のSBSコポリマー、
25重量部のポリプロピレンホモポリマー、
5重量部の3−アミノプロピルトリエトキシシラン、
5重量部のビニルトリメトキシシラン、
1重量部の、無水マレイン酸によりグラフトされたポリプロピレン、及び、
1重量部の、無水マレイン酸によりグラフトされたSEBS、
を調製する。
【0053】
これらの成分を混合し、そして200℃〜250℃の温度(スクリューの温度)に加熱する。溶融した材料を、いかなる前処理も受けていないグレージングを挿入したオーバーモールド用成形型中に射出する。成形型もグレージングも、単独では加熱されない。
【0054】
約1分後に、シールをオーバーモールドされたグレージングを成形型から取り出し、そして23℃の温度及び50%の相対湿度で7日間保管し、その間にカップリング剤の反応が継続する。
【0055】
7日間の保管後に、シールのグレージングへの密着性を90°剥離試験(引張速度:100mm/分)により評価する。オーバーモールドされたグレージングを、次いで湿布老化試験(70℃、相対湿度95%で14日、その後−20℃で2時間冷却することによる熱衝撃)に付し、そして密着性試験を繰り返す(例1)。
【0056】
以下の変更を行いながら、上記の手順を繰り返す。
例2:熱可塑性組成物をオーバーモールドする段階の前にグレージングを80℃に予熱する。
例3:熱可塑性組成物と接触させようとするグレージングの領域を大気プラズマ処理に供する。
例4:成形型から取り出した後に、オーバーモールドしたグレージングを80℃で1時間の後硬化の段階に供する。
例5:2%のN−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,2−エタンジアミン及び2%の3−トリメトキシシリルプロパン−1−チオールのイソプロパノール溶液(Dow Automotive社からのBetawipe VP 04604)を含む化学的賦活組成物を、射出成形型中へのグレージングの挿入前に、手作業で適用する。
例6:2%のN−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,2−エチレンジアミン及び2%のトリス(ドデシルベンゼンスルホナト−O)(プロパン−2−オラト)チタンの有機溶媒混合物(Sika Aktivator)溶液を、射出成形型中へのグレージングの挿入前に、手作業で適用する。
【0057】
湿布老化の段階の前と後で例1〜6について記録した破壊のタイプ及び剥離強さを、表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明によるオーバーモールド用組成物は、高温老化の期間後により良好な結果を示すことが認められる。これらの結果は、ポリマーとガラスとの接着に関与する反応が成形型からの取り出しのずっと後にも確実に継続し、場合により周囲温度で7日間の最初の貯蔵の後でさえ継続することを示している。
【0060】
老化期間後に、すべての破壊は「凝集」タイプ(ポリマーとガラスとの接着力がポリマー材料の内部凝集力よりも大きい)であり、これは接着プライマーにより得ることが非常に困難な結果である。
【0061】
上記の例1〜6を繰り返すが、1/5の量のシランを使用し、すなわち1重量部の3−アミノプロピルトリエトキシシラン及び1重量部のビニルトリメトキシシランを使用した場合には、下記の表2に示す接着結果が得られる。
【0062】
【表2】
【0063】
すべての破壊が接着タイプであり、そして剥離強さが不十分(30N/cm未満)であることが認められる。
本発明の代表的態様としては、以下を挙げることができる:
《態様1》
無機ガラス製の基材上にエラストマーをオーバーモールドするための熱可塑性組成物であって、
(a)50〜70重量%の、スチレンブロックを含むコポリマー(TPE−S)から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(TPE)、
(b)20〜35重量%、好ましくは22〜30重量%の、ポリプロピレンホモポリマー(PP)、エチレンホモポリマー(PE)及びプロピレンとエチレンとのコポリマーから選ばれるポリオレフィン、
(c)少なくとも7重量%、好ましくは8〜20重量%、特に9〜15重量%の、官能性アルコキシシラン、
を含み、これらの百分率は成分(a)、(b)及び(c)の合計に対して表されている、無機ガラス製の基材上にエラストマーをオーバーモールドするための組成物。
《態様2》
(a)+(b)+(c)の合計に対して0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の、無水マレイン酸(MAH)によりグラフトされた少なくとも1種の有機ポリマーをさらに含むことを特徴とする、態様1記載の組成物。
《態様3》
無水マレイン酸によりグラフトされた前記有機ポリマーを、無水マレイン酸によりグラフトされたTPE−S及び無水マレイン酸によりグラフトされたポリオレフィンから選ぶことを特徴とする、態様2記載の組成物。
《態様4》
前記官能性アルコキシシランが、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、メルカプトシラン及び(メタ)アクリロイルシラン並びにこれらの混合物から選ばれ、そして好ましくは、アミノシラン、ビニルシラン及びエポキシシランから選ばれる少なくとも2種のシランの混合物であることを特徴とする、態様1〜3のいずれか一つに記載の組成物。
《態様5》
揮発性有機溶媒を含まないことを特徴とする、態様1〜4のいずれか一つに記載の組成物。
《態様6》
基材上に熱可塑性組成物を射出することによりオーバーモールドするための方法であって、以下の一連の段階、すなわち、
(1)態様1〜5のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物を1000Pa・s-1未満の粘度を得るのに十分な温度に加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を基材の一部分、好ましくはグレージングの端部を挿入した成形型キャビティー中に射出する段階、
(3)成形型からグレージングにオーバーモールドした集成体を取り出す段階、
を含む、基材上に熱可塑性組成物を射出することによりオーバーモールドするための方法。
《態様7》
基材上に熱可塑性組成物を押出しすることによりオーバーモールドするための方法であって、以下の一連の段階、すなわち、
(1)態様1〜5のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物を1000Pa・s-1未満の粘度を得るのに十分な温度に至るまで押出機内で加熱する段階、
(2)加熱した熱可塑性組成物を基材、好ましくはグレージングの端部と接触させて押出しする段階、
を含む、基材上に熱可塑性組成物を押出しすることによりオーバーモールドするための方法。
《態様8》
成形型から取り出す段階又は押出しする段階の後に、基材又はポリマーによりオーバーモールドした基材の部分を、好ましくは50℃を超える温度、特に60℃と150℃の間、理想的には70℃と100℃の間の温度で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする、態様6又は7記載の方法。
《態様9》
前記熱可塑性組成物と接触する基材の部分に有機下塗り層がなく、加熱した前記熱可塑性組成物が基材、好ましくはグレージングを形成している無機ガラスと直接接触することを特徴とする、態様6〜8のいずれか一つに記載の方法。
《態様10》
加熱した熱可塑性組成物を射出又は押出しする段階の前に、基材又は基材のオーバーモールドする部分を、好ましくは50℃を超える温度で、特に60℃と150℃の間、理想的には70℃と100℃の間の温度で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする、態様6又は7記載の方法。
《態様11》
オーバーモールドしようとする基材の表面をプラズマ又はコロナ放電、好ましくは大気プラズマにより物理的に前処理する段階、又は、オーバーモールドしようとする表面を、官能性シランの適用、及び/又は有機チタネート、ジルコネート及びジルコアルミネートから選ばれる付着促進剤の適用により化学的に前処理する段階をさらに含むことを特徴とする、態様6〜10のいずれか一つに記載の方法。