(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608894
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20191111BHJP
【FI】
B25J13/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-185688(P2017-185688)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-58979(P2019-58979A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2018年12月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】平 雄二
【審査官】
臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−324755(JP,A)
【文献】
特開平11−254367(JP,A)
【文献】
特開2005−342860(JP,A)
【文献】
特開2013−000861(JP,A)
【文献】
特開2014−104530(JP,A)
【文献】
特開2017−074637(JP,A)
【文献】
特開2017−094407(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0195053(US,A1)
【文献】
米国特許第06681151(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10−19/00
G05B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの略鉛直方向の軸回りの位相を検出するワーク位相検出部と、
前記ワークを保持するハンドおよび該ハンドを略鉛直方向の回転軸回りに回転可能な手首を有するロボットと、
前記ハンドによって前記ワークを取り出し、前記手首の回転によって前記ハンドに保持された前記ワークの位相を所定の目標位相に合わせるように、前記ワーク位相検出部によって検出された前記ワークの位相に基づいて前記ロボットを制御する制御部とを備え、
該制御部が、前記手首の現在の回転角度に基づいて前記ハンドの現在の位相を取得し、複数の所定の基準位相の内、前記ハンドと前記ワークとの現在の相対位相に最も近い基準位相で前記ハンドが前記ワークを保持して取り出すように、前記ロボットを制御するロボットシステム。
【請求項2】
前記複数の所定の基準位相が、前記ワークに対する前記ハンドの相対位相の範囲を等分する位相である請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記ワーク位相検出部が、前記ワークの画像を取得するカメラを備え、該カメラによって取得された画像に基づいて前記ワークの位相を検出する請求項1または請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記ハンドが、吸着によって前記ワークを保持する請求項1から請求項3のいずれかに記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムに関し、特に搬送中のワークの位相を所定の位相に揃えるロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送装置によって搬送されているワークの画像を取得し、画像に基づいてワークの位相を検出し、ロボットによってワークの位相を所定の位相に揃えるロボットシステムが知られている(例えば、特許文献1から3参照。)。ロボットは、ワークを保持するハンドと、ハンドを回転させる手首とを有し、手首の回転によってハンドに保持されているワークの位相を調整することができる。
特許文献1,2のロボットシステムは、2台のロボットに相互に異なる位相の範囲を対応付け、対応する位相のワークの位相合わせ動作を各ロボットに実行させることで、各ロボットの手首の回転量を±90°以内に抑制し、位相合わせ動作の高速化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−000855号公報
【特許文献2】特開2013−000861号公報
【特許文献3】特開2013−173196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロボットを1台のみ使用する場合には、±180°の手首の回転量が必要となる。すなわち、手首の回転量が大きくなり、1回当たりの位相合わせ動作のサイクルタイムが長くなるという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、ロボットの手首の回転量を抑えて1つのワークの位相合わせに要するサイクルタイムを短縮することができるロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、ワークの略鉛直方向の軸回りの位相を検出するワーク位相検出部と、前記ワークを保持するハンドおよび該ハンドを略鉛直方向の回転軸回りに回転可能な手首を有するロボットと、前記ハンドによって前記ワークを取り出し、前記手首の回転によって前記ハンドに保持された前記ワークの位相を所定の目標位相に合わせるように、前記ワーク位相検出部によって検出された前記ワークの位相に基づいて前記ロボットを制御する制御部とを備え、該制御部が、
前記手首の現在の回転角度に基づいて前記ハンドの現在の位相を取得し、複数の所定の基準位相の内、前記ハンドと前記ワークとの現在の相対位相に最も近い基準位相で前記ハンドが前記ワークを保持して取り出すように、前記ロボットを制御するロボットシステムである。
【0006】
本態様によれば、ハンドによってワークが取り出され、ワーク位相検出部によって検出されたワークの位相に基づく回転量だけ手首が回転することで、ワークの位相が所定の目標位相に合わせられる。
この場合に、ハンドがワークを取り出す際のハンドとワークの相対位相は複数の基準位相の中から選択可能であり、制御部は、ハンドとワークとの現在の相対位相に最も近い基準位相を選択する。これにより、ワークの取り出し動作における手首の回転量を抑えて1つのワークの位相合わせに要するサイクルタイムを短縮することができる。
【0007】
上記態様においては、前記複数の所定の基準位相が、前記ワークに対する前記ハンドの相対位相の範囲を等分する位相であってもよい。
このようにすることで、ワークの取り出し動作における手首の回転量をより効果的に抑えることができる。
【0008】
上記態様においては、前記ワーク位相検出部が、前記ワークの画像を取得するカメラを備え、該カメラによって取得された画像に基づいて前記ワークの位相を検出してもよい。
このようにすることで、ワークの位相を簡便な処理によって検出することができる。
【0009】
上記態様においては、前記ハンドが、吸着によって前記ワークを保持してもよい。
吸着式のハンドは、どのような位相であってもワークを保持することができるので、基準位相を任意の位相に設定することができる。また、複数の指でワークを把持するチャック式のハンドに比べて、ワークの保持および解放を迅速に行うことができるので、1つのワークの位相合わせに要するサイクルタイムをさらに短縮することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロボットの手首の回転量を抑えて1つのワークの位相合わせに要するサイクルタイムを短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロボットシステムの全体構成図である。
【
図2】コンベヤ上を搬送されるワークを示す平面図である。
【
図3】0°用取り出し動作において、相対位相0°でハンドがワークを保持した状態を示す斜視図である。
【
図4】180°用取り出し動作において、相対位相180°でハンドがワークを保持した状態を示す斜視図である。
【
図5】
図1のロボットシステムによるワークの位相合わせ動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係るロボットシステム10について図面を参照して説明する。
本実施形態に係るロボットシステム10は、コンベヤ20によって略水平方向に連続的に搬送されるワークWをカメラ2によって追跡しながら、ワークWの位相合わせをロボット1によって行うビジュアルトラッキングシステムである。ロボットシステム10は、
図1に示されるように、コンベヤ20の近傍に設置されたロボット1と、ロボット1よりも搬送方向の上流側に設置されたカメラ(ワーク位相検出部)2と、カメラ2によって取得された画像に基づいてロボット1を制御する制御部3とを備えている。
図1において、コンベヤ20の搬送方向は、左側から右側に向かう方向である。
【0013】
図2に示されるように、ワークWは、搬送方向に間隔を空けてコンベヤ20上に配列されており、コンベヤ20によって上流側から下流側に向かって一方向に搬送される。ワークWは、コンベヤ20上に略水平に載置された状態で略鉛直方向の軸回りに方向性を有する形状を有している。
図2に示されるワークWは、略円板状の部材であり、側面から径方向外方向に突出する突起Pが周方向の一部分に設けられている。ワークWは、上流側において様々な位相θでコンベヤ20上に供給される。
【0014】
ロボット1は、略鉛直方向の回転軸回りに回転可能な手首4と、手首4の下端に固定されワークWを保持可能なハンド5とを備えている。ハンド5は、
図3および
図4に示されるように、吸着パッド5aがワークWの上面に吸着することでワークWを保持するようになっている。ロボット1としては、平置き型または天吊り型等の任意の形式のものを用いることができる。本実施形態においては、ワークWの高速取り出しが可能なパラレルリンクロボットを想定している。
【0015】
手首4の回転可能な範囲は、例えば、−360°以上+360°以下である。手首4の回転によってハンド5が回転軸回りに回転して回転軸回りのハンド5の位相が変化するになっている。ハンド5の位相は、ハンド5に設けられたマーカ6がコンベヤ20の下流側を向く位相が0°と定義されており、ハンド5が取り得る位相の範囲は、−180°以上+180°以下である。
【0016】
カメラ2は、コンベヤ20の上方に下向きに固定されており、コンベヤ20上の搬送方向の一部の領域に固定された視野を有する。カメラ2は、コンベヤ20上を搬送されるワークWを上方から撮影した2次元の画像を取得し、取得された画像を制御部3に送信する。
【0017】
制御部(ワーク位相検出部)3は、カメラ2によって取得された画像内のワークWを、パターンマッチング等の公知の画像認識手法によって認識し、認識されたワークWの略鉛直軸回りの位相を検出する。ワークWの位相θは、
図2に示されるように、突起Pがコンベヤ20の下流側を向く位相が0°と定義されており、ワークWが取り得る位相の範囲は、−180°以上+180°以下である。
【0018】
次に、制御部3は、予め教示された動作プログラムに従って、位相が検出されたワークWの位相合わせ動作をロボット1に実行させる。具体的には、制御部3は、コンベヤ20上からワークWをハンド5によって取り出し、手首4の回転によってワークWの位相を所定の目標位相に合わせ、ワークWをコンベヤ20上に戻す動作をロボット1に実行させる。
【0019】
ここで、制御部3は、現在の手首4の回転角度に基づいてハンド5の現在の位相を取得し、画像から検出されたワークWの位相とハンド5の現在の位相とに基づいて、複数の所定の基準位相の内、ワークWとハンド5の現在の相対位相に最も近い基準位相でハンド5がワークWを保持して取り出すように、ロボット1を制御する。複数の基準位相は、ワークWに対してハンド5が取り得る相対位相の範囲(−180°〜+180°)を等分する位相である。
【0020】
このような制御部3は、例えば、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、画像処理プログラムおよび動作プログラムが記憶されたメモリとを備えるコンピュータから構成される。すなわち、画像処理プログラムに従ってプロセッサが処理を実行することで、カメラ2によって取得された画像からワークWの位相を検出し、続いて、動作プログラムに従ってプロセッサが処理を実行することでワークWの位相合わせ動作をロボット1に実行させるようになっている。
【0021】
次に、ロボットシステム10の作用について、2つの基準位相0°,180°が制御部3に設定されている場合を例に挙げて説明する。
本実施形態に係るロボットシステム10によれば、上流側でコンベヤ20に供給されたワークWは、コンベヤ20によって下流側に向かって一方向に搬送され、カメラ2の視野の範囲を通過する間にカメラ2によって撮影され、取得された画像が制御部3に送信される。
【0022】
図5に示されるように、制御部3は、画像処理によって画像内のワークWを認識し、ワークWの位相を検出する(ステップS1)。また、制御部3は、ハンド5の現在の位相の情報を取得する(ステップS2)。
次に、制御部3は、ワークWの位相とハンド5の現在の位相とに基づき、0°用取り出し動作および180°用取り出し動作のいずれをロボット1に実行させるかを判断する(ステップS3〜S5)。
【0023】
すなわち、ワークWの位相およびハンド5の位相の両方が±90°以内であるか(ステップS3のYESかつステップS4のYES)、または、ワークWの位相およびハンド5の位相の両方が±90°以内ではない(ステップS3のNOかつステップS5のNO)場合に、制御部3は、0°用取り出し動作をロボット1に実行させる(ステップS6,S9)。
【0024】
ステップS6,S9の0°用取り出し動作において、制御部3は、
図3に示されるように、ワークWの位相に対するハンド5の相対的な位相が0°になるまで手首4を回転させる。このときの手首4の回転量は±90°以内である。次に、制御部3は、ハンド5によってワークWを保持させ、ハンド5を持ち上げることでワークWを取り出し、手首4を回転させることでワークWの位相を所定の目標位相に一致させ、ハンド5を下ろしてワークWを解放させることでワークWをコンベヤ20上に載置する。
【0025】
一方、ワークWの位相およびハンド5の位相のうち、一方が±90°以内であり、他方が±90°以内ではない(ステップS3のYESかつステップS4のNO、またはステップS3のNOかつステップS5のYES)場合に、制御部3は、180°用取り出し動作をロボット1に実行させる(ステップS7,S8)。
【0026】
ステップS7,S8の180°用取り出し動作において、制御部3は、
図4に示されるように、ワークWの位相に対するハンド5の相対的な位相が180°になるまで手首4を回転させる。このときの手首4の回転量は±90°以内である。次に、制御部3は、ハンド5によってワークWを保持させ、ハンド5を持ち上げることでワークWを取り出し、手首4を回転させることでワークWの位相を所定の目標位相に一致させ、ハンド5を下ろしてワークWを解放させることでワークWをコンベヤ20上に載置する。
【0027】
ロボットシステム10は、カメラ2によってワークWが撮影される度にステップS1〜S9を実行することで(ステップS10)、コンベヤ20によって搬送されるワークWを順番に位相合わせする。
【0028】
このように、本実施形態によれば、ワークWの取り出し動作におけるワークWに対するハンド5の相対位相として複数の基準位相0°,180°が設定されており、ワークWとハンド5の現在の相対位相に最も近い基準位相0°または180°が採用される。これにより、ワークWに対してハンド5の位相を合わせるために必要な手首4の回転量が抑制され、1つのワークWの位相合わせに要するサイクルタイムを短縮することができ、高速で搬送されるワークWの位相合わせにも対応することができるという利点がある。
【0029】
本実施形態においては、ワークWの取り出し動作におけるワークWに対するハンド5の相対的な位相を3つ以上の基準位相の中から選択するように、ロボット1の動作が教示されていてもよい。この場合にも、ワークWに対してハンド5が取り得る相対位相の範囲を等分するように3以上の基準位相が設定されることが好ましい。
【0030】
さらに、ハンド5が任意の相対位相でワークWの取り出し動作を行うことができるように、所定の基準位相として、ワークWに対してハンド5が取り得る全ての相対位相が設定されていてもよい。この場合には、制御部3は、ハンド5が現在の位相のままワークWを保持して取り出すように、ロボット1を制御する。このようにすることで、取り出し動作においてワークWに対してハンド5の位相を合わせるための手首4の回転が不要となり、1つのワークWの位相合わせに要するサイクルタイムをさらに短縮することができる。
【0031】
このように、手首4を回転させずにハンド5によるワークWの取り出し動作を行う場合、ワークWの位相合わせ動作を繰り返すうちに、手首4の回転角度がストロークリミット(−360°または+360°)に近付くことがある。したがって、制御部3は、手首4の回転角度がストロークリミットに達することがないように手首4の回転を制御してもよい。
ロボット1よりも上流側に位置するカメラ2によって、コンベヤ20上のワークWの間隔を把握することができる。したがって、例えば、制御部3は、ワークWの間隔が大きくあくタイミングで、回転角度が0°に近付く方向に手首4を回転させてもよい。あるいは、制御部3は、手首4の回転角度が所定の角度を超えた場合に、ワークWの取り出し動作において、回転角度が0°に近付く方向に手首4を回転させてもよい。
【0032】
本実施形態においては、ワークWを保持するハンド5として吸着式を用いることとしたが、ハンド5の種類はこれに限定されるものではなく、ワークWの保持および解放が可能な任意の方式のハンド5を用いることができる。例えば、磁力によってワークWを保持する磁石式のハンド、または複数本の指によってワークWを把持するチャック式のハンドを用いてもよい。ただし、ハンド5は、ワークWとハンド5の相対位相に関わらずワークWを保持することができることが好ましい。
【0033】
本実施形態においては、コンベヤ20によって連続的に搬送されるワークWをカメラ2で追跡してロボット1がワークWの取り出しを行うビジュアルトラッキングシステムについて説明したが、ロボットシステム10は、他の種類のシステムであってもよい。例えば、ワークWがコンベヤ20によってピッチ送りされる場合、ロボットシステム10は、ワークWが静止している間に、カメラ2による画像の取得およびロボット1による位相合わせを実行してもよい。
また、本実施形態に係るロボットシステム10は、ばら積みされたワークWの取り出しに適用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 ロボット
2 カメラ(ワーク位相検出部)
3 制御部(ワーク位相検出部)
4 手首
5 ハンド
5a 吸着パッド
10 ロボットシステム
W ワーク