特許第6608934号(P6608934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イントラ−セルラー・セラピーズ・インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許6608934-有機化合物 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608934
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】有機化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20191111BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20191111BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   C07D487/04 142
   C07D487/04CSP
   A61K31/519
   A61P43/00 111
   A61P25/00
   A61P25/06
   A61P25/08
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P9/10 101
   A61P21/02
   A61P25/14
   A61P25/24
   A61P25/20
   A61P25/18
   A61P25/22
   A61P25/30
   A61P9/12
   A61P25/04
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-530036(P2017-530036)
(86)(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公表番号】特表2017-536410(P2017-536410A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】US2015064324
(87)【国際公開番号】WO2016090380
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年12月6日
(31)【優先権主張番号】62/088,541
(32)【優先日】2014年12月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507401225
【氏名又は名称】イントラ−セルラー・セラピーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】INTRA−CELLULAR THERAPIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ポン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ハイリン・ジェン
(72)【発明者】
【氏名】グレッチェン・スナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス・ピー・ウェノグル
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼフ・ヘンドリック
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−516074(JP,A)
【文献】 特表2014−506589(JP,A)
【文献】 特表2006−524226(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/083069(WO,A1)
【文献】 Gomez et.al.,PDE2 inhibition:Potential for the treatment of cognitive disorders,Bioorganic & medicinal chemistry letters,2013年,23,6522-6527
【文献】 Hecht et.al.,Competitive Inhibition of Beef Heart Cyclic AMP Phosphodiesterase by Cytokinins and Related Compounds,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1974年,vol.71,No.12,4670-4674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離形態または塩形態の、式I:
【化1】
[式中、
(i)R1およびR2は窒素原子と一緒になってヘテロC3-7シクロアルキルを形成し;
(ii)R3は、HまたはC1-4アルキルであり;
(iii)R4は、C1-4アルキル、3-7シクロアルキル、1-4アルコキシおよびハロC1-4アルキルから選択される1個以上の基で置換されていてもよい、ヘテロアリールまたはアリールであり;
(iv)R6は、HまたはC1-4アルキルである]
の化合物。
【請求項2】
4が、C1-4アルキル、3-7シクロアルキル、1-4アルコキシおよびハロC1-4アルキルから選択される1個以上の基で置換されていてもよいアリールである、遊離形態または塩形態の請求項1記載の化合物。
【請求項3】
6がC1-4アルキルである、遊離形態または塩形態の請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
化合物が、
7−(アゼチジン−1−イル)−3−メチル−1−(1−メチル−5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−メトキシ−2−メチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−シクロプロピルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−エチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
からなる群から選択される、遊離形態または塩形態の請求項1、2または3記載の化合物。
【請求項5】
遊離形態または塩形態の請求項1〜4いずれか1項記載の化合物を薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と組み合わせてまたは薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と一緒に含む医薬組成物。
【請求項6】
遊離形態または塩形態の請求項1〜4いずれか1項記載の化合物を含む医薬。
【請求項7】
PDE2媒介障害の処置のための、請求項5記載の医薬組成物または請求項6記載の医薬
【請求項8】
該障害が、神経障害;パーキンソン病およびうつ病に付随した認知機能障害;精神遅滞;睡眠障害;精神障害;作為症;衝動制御障害;気分障害;精神運動障害;精神病性障害;薬物依存;摂食障害;小児精神障害;向精神物質の使用に起因する精神的および行動的障害;心血管障害;および疼痛からなる群から選択される、請求項記載の医薬組成物または医薬
【請求項9】
該障害が、不安、うつ病、自閉症スペクトラム症、統合失調症、自閉症および/または統合失調症患者における不安および/またはうつ病、および統合失調症または認知症に関連する認知障害から選択される、請求項記載の医薬組成物または医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式IのPDE2阻害化合物、それらの医薬としての使用およびそれらを含む医薬組成物に関する。これらの化合物は、例えば不安、うつ病、自閉症スペクトラム症(ASD)、統合失調症および認知障害のようなPDE2媒介障害の処置において、有用である。
【背景技術】
【0002】
PDE2は、脳(海馬、線条体および前頭前野を包含する)、心臓、血小板、内皮細胞、副腎球状層細胞およびマクロファージを包含する多種多様な組織および細胞型において発現する105−KDaのホモ二量体である。cGMPは、この酵素に対する好ましい基質およびエフェクター分子であるが、PDE2は、環状アデノシン一リン酸(cAMP)および環状グアノシン一リン酸(cGMP)のどちらをも加水分解し、多くの生理的プロセスに関与すると考えられている。特に、cGMPシグナル伝達を減少させる一酸化窒素合成酵素(NOS)の阻害が抗不安化合物であるベンゾジアゼピンクロルジアゼポキシドの行動的影響を弱めることを示している。また、Bay60−7550のような市販のPDE2ツール阻害剤は、脳内の環状ヌクレオチド濃度を増加させ、正常な齧歯類およびストレス状態にある齧歯類において重要な抗不安効果および抗うつ効果を発揮することが示されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。Bay60−7550によるPDE2の阻害は、また、刺激を受けた1次ニューロン培養物中にて用量反応的にcGMPおよびcAMP濃度を上昇させること;海馬のスライス標本中にて電気刺激に応答してLTPを亢進すること;新規対象認識動物モデル(novel object recognition animal model)における学習およびラットにおける社会的認識課題(social recognition task)を増強すること;加齢老化(age impaired)ラットにおける新規対象記憶(novel object memory)の獲得期および固定期を改善すること;訓練後に投与された場合の対象位置および認識課題の遂行を改善することが示されている。非特許文献5。Bay60−7550は、また、ラットにおいて脳におけるnNOS活性を増強することによって認知および記憶機能を改善することが示されている。(非特許文献6)。したがって、PDE2は、有効な行動および認知機能において重要な役割を果たす。
【0003】
有効な行動および認知機能に加えて、内皮細胞内でのPDE2A mRNAおよび活性がインビトロでの腫瘍壊死因子−α刺激に応答して非常に誘発されることが観察されている。9−(6−フェニル−2−オキソヘキサ−3−イル)−2−(3,4−ジメトキシベンジル)−プリン−6−オン(PDP)によるPDE2活性の選択的阻害は、内皮細胞のバリア機能を非常に変化させ、これは、PDE2が病的状況下の循環器系の体液およびタンパク質完全性の調節において重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。したがって、PDE2は、敗血症に関し、またはより局在化した炎症応答において、優れた薬理学的ターゲットであり得る。
【0004】
最近の研究では、PDE2阻害は、また、肺拡張を誘発すること、肺血管リモデリングを予防すること、および肺高血圧の右心室肥大特徴を軽減することを示しており、これは、肺高血圧におけるPDE2阻害の治療可能性を示唆している。非特許文献7。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xu et al., Eur. J. Pharmacol. (2005) 518:40-46
【非特許文献2】Masood et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. (2008) 326:369-379
【非特許文献3】Masood et al., JPET (2009) 331:690-699
【非特許文献4】Xu et al., Intl. J. Neuropsychopharmacol. (2013) 16:835-847
【非特許文献5】Gomez et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. (2013) 23:6522-6527
【非特許文献6】Domek-Lopacinska et al. (2008) Brain Res. 1216:68-77
【非特許文献7】Bubb et al., “Inhibition of Phosphodiesterase 2 Augments cGMP and cAMP Signaling to Ameliorate Pulmonary Hypertension”, Circulation, August 5, 2014, p. 496-507, DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.114.009751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有望な前臨床データおよびPDE2の有望な創薬ターゲットとしての確認試験にもかかわらず、現存するPDE2化合物の代謝安定性および脳浸透性の低さを一因として、現在臨床的検討下にあることが知られているPDE2阻害剤はない。かくして、PDE2活性を選択的に阻害し、一方で優れた生物物理学的特性を示す、化合物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、経口利用能および脳アクセスが向上した、強力な選択的PDE2阻害特性を有する新規化合物を提供する。したがって、第1の態様において、本発明は、遊離形態または塩形態の、式I:
【化1】
[式中、
(i)R1およびR2は窒素原子と一緒になってヘテロC3-7シクロアルキルを形成し(例えば、アゼチジン−1−イルを形成し);
(ii)R3は、HまたはC1-4アルキル(例えば、メチル)であり;
(iii)R4は、C1-4アルキル(例えば、エチル)、C3-7シクロアルキル(例えば、シクロプロピル)、C1-4アルコキシ(例えば、メトキシ)およびハロC1-4アルキル(例えば、トリフルオロメチル)から選択される1個以上の基で置換されていてもよい、ヘテロアリールまたはアリール(例えば、フェニル)であり;
(iv)R6は、HまたはC1-4アルキル(例えば、メチル)である]
の化合物を提供する。
【0008】
本発明は、また、遊離形態または塩形態の、以下のとおりの式Iの化合物を提供する:
1.1 R1およびR2が窒素原子と一緒になってヘテロC3-7シクロアルキル(例えば、アゼチジン−1−イル)を形成する、式I;
1.2 R1およびR2が窒素原子と一緒なってアゼチジン−1−イルを形成する、式1.1;
1.3 R3がHまたはC1-4アルキル(例えば、メチル)である、式Iまたは1.1〜1.2のいずれか;
1.4 R3がC1-4アルキル(例えば、メチル)である、式Iまたは1.1〜1.2のいずれか;
1.5 R4が、C1-4アルキル(例えば、エチル)、C3-7シクロアルキル(例えば、シクロプロピル)、C1-4アルコキシ(例えば、メトキシ)およびハロC1-4アルキル(例えば、トリフルオロメチル)から選択される1個以上の基で置換されていてもよい、ヘテロアリールまたはアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
1.6 R4が、C1-4アルキル(例えば、エチル)、C3-7シクロアルキル(例えば、シクロプロピル)、C1-4アルコキシ(例えば、メトキシ)およびハロC1-4アルキル(例えば、トリフルオロメチル)から選択される1個以上の基によって置換されているアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
1.7 R4が、C1-4アルキル(例えば、エチル)で置換されているアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
1.8 R4が、C3-7シクロアルキル(例えば、シクロプロピル)で置換されているアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
1.9 R4が、C1-4アルコキシ(例えば、メトキシ)で置換されているアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
1.10 R4が、ハロC1-4アルキル(例えば、トリフルオロメチル)で置換されているアリール(例えば、フェニル)である、式Iまたは1.1〜1.4のいずれか;
【0009】
1.11 R6がHまたはC1-4アルキル(例えば、メチル)である、式Iまたは1.1〜1.10のいずれか;
1.12 R6がC1-4アルキル(例えば、メチル)である、式Iまたは1.1〜1.10のいずれか;
1.13 化合物が、
7−(アゼチジン−1−イル)−3−メチル−1−(1−メチル−5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−メトキシ−2−メチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−シクロプロピルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン;
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−エチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
からなる群から選択される、上記式のいずれか;
1.14 化合物が、例えば、実施例5に記載されるような固定金属親和性粒子試薬PDEアッセイにおいて、1μM未満、より好ましくは250nM以下、より好ましくは10nM以下のIC50をもって、cGMPのホスホジエステラーゼ媒介(例えば、PDE2媒介)加水分解を阻害する、上記式のいずれか。
【0010】
第2の態様において、本発明は、本発明の化合物、すなわち、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物を薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と組み合わせてまたは薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と一緒に含む、医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明は、また、PDE2媒介障害、例えば下記のような障害の処置(特に、不安、うつ病、自閉症スペクトラム症(ASD)、統合失調症、認知障害の処置)のための本発明の化合物を使用する方法。このリストは、完全に網羅しているわけではなく、下記のような他の疾患および障害を包含し得る。
【0012】
したがって、第3の態様において、本発明は、PDE2媒介障害の処置方法であって、該処置を必要とする対象体に、治療上有効量の、本明細書に記載の本発明の化合物、すなわち、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物、または本明細書に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0013】
第3の態様のさらなる実施態様において、本発明は、対象体、好ましくは哺乳動物、好ましくはヒトにおける以下の障害の処置方法であって、該対象体に、治療上有効量の、本明細書に記載の本発明の化合物、すなわち、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物、または本明細書に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する:
神経障害(たとえば、片頭痛;てんかん;アルツハイマー病;パーキンソン病;脳損傷;脳卒中;脳血管疾患(脳動脈硬化症、脳アミロイド血管症、遺伝性脳出血および低酸素性虚血性脳症を包含する);脊髄性筋萎縮症;側索硬化症;多発性硬化症;
認知障害(健忘症、老年認知症、HIV関連認知症、アルツハイマー関連認知症、ハンチントン関連認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、薬物関連認知症、せん妄および軽度認知障害を包含する);パーキンソン病およびうつ病に付随した認知機能障害;
精神遅滞(ダウン症候群および脆弱X症候群を包含する);
睡眠障害(過眠、睡眠リズム障害、不眠症、睡眠時随伴症および睡眠遮断を包含する);
精神障害(例えば、不安(急性ストレス反応、全般不安症、社交不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害、特定恐怖症、社会恐怖症、慢性不安症および強迫性障害を包含する);
作為症(急性幻覚性躁病を包含する);
衝動制御障害(病的賭博、病的放火、病的窃盗および間欠性爆発性障害を包含する);
気分障害(双極性I型障害、双極性II型障害、躁病、混合型情動状態、大うつ病、慢性うつ病、季節性うつ病、精神病性うつ病および産後うつ病を包含する);
精神運動障害(錐体外路性運動障害、例えば、パーキンソニズム、レビー小体病、振戦、薬物誘発性振戦、薬物誘発性遅発性ジスキネジア、Lドパ誘発性ジスキネジアおよび下肢静止不能症候群);
精神病性障害(統合失調症(例えば、連続性または突発性、妄想性、破瓜型、緊張型、未分化型および残遺型の統合失調症を包含する)、統合失調感情障害、統合失調症様および妄想性障害);
薬物依存(麻薬依存、アルコール依存症、アンフェタミン依存症、コカイン中毒、ニコチン依存症および薬物禁断症候群を包含する);
摂食障害(食欲不振、過食症(bulimia)、過食性障害、過食症(hyperphagia)および氷食症を包含する);
小児精神障害(注意欠陥障害、注意欠陥多動障害、素行障害(例えば、チック障害、例えば、一過性、慢性、運動性または音声性チック障害)、自閉症および自閉症スペクトラム症(ASD)を包含する);
向精神物質の使用に起因する精神的および行動的障害;
心血管障害(例えば、肺高血圧および肺動脈性肺高血圧症);および
疼痛(例えば、骨関節痛(変形性関節症)、反復運動痛(repetitive motion pain)、歯痛、癌性疼痛、筋筋膜痛(筋肉損傷、線維筋痛症)、手術期疼痛(一般外科、婦人科)、慢性疼痛および神経障害性疼痛)。
【0014】
一の実施態様において、該疾患または障害は、不安、うつ病、自閉症スペクトラム症および統合失調症からな群から選択され、例えば自閉症および/または統合失調症患者における不安および/またはうつ病である。別の実施態様において、該疾患または障害は、統合失調症または認知症に関連する認知障害である。
【0015】
第4の態様において、本発明は、本明細書に記載されるPDE2媒介障害の処置のための(医薬の製造に使用するための)、本明細書に記載の本発明の化合物、すなわち、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物を提供する。
【0016】
第5の態様において、本発明は、本明細書に記載されるPDE2媒介障害の処置に使用するための、明細書に記載の本発明の化合物、すなわち、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物を薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と組み合わせてまたは薬剤的に許容される希釈剤もしくは担体と一緒に含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
(本文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
他に特記されないかまたは文脈から明かではない場合、本明細書における以下の用語は、以下の意味を有する:
(a)本明細書で用いられる「アルキル」は、例えばハロゲン(例えば、クロロまたはフルオロ)、ヒドロキシまたはカルボキシで、モノ置換、ジ置換またはトリ置換されていてもよい、好ましくは炭素原子を1〜6個有し、好ましくは炭素原子を1〜4個有し、直鎖であっても分枝鎖であってもよい、飽和または不飽和の、好ましくは飽和の炭化水素基である。
(b)本明細書で用いられる「アリール」は、例えばアルキル(例えば、メチル)、ハロゲン(例えば、クロロまたはフルオロ)、ハロアルキル(例えば、トリフルオロメチル)またはヒドロキシで、置換されていてもよい、単環式または二環式芳香族炭化水素、好ましくはフェニルである。
(c)本明細書で用いられる「ヘテロアリール」は、例えばアルキル、ハロゲン、ハロアルキルまたはヒドロキシで、置換されていてもよい、芳香環を構成する原子の1個以上が炭素ではなくて硫黄または窒素である芳香族の基、例えば、ピリジルまたはチアジアゾリルである。
【0019】
本発明の化合物、例えば、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物は、遊離形態または塩形態で、例えば酸付加塩として、存在してよい。他に特記しない限り、本明細書において、「本発明の化合物」のような語は、いずれもの形態、例えば遊離形態もしくは酸付加塩形態、または該化合物が酸性置換基を含有する場合には塩基付加塩の形態の該化合物を包含すると解すべきである。本発明の化合物は、医薬としての使用を目的とし、したがって、薬剤的に許容される塩が好ましい。薬剤的使用に適していない塩は、例えば、本発明の化合物またはそれらの薬剤的に許容される塩の単離または精製に有用であり得、したがって、包含される。
本発明の化合物は、プロドラッグの形態で存在する場合もある。プロドラッグの形態は、体内で本発明の化合物に変換される化合物である。例えば、、本発明の化合物がヒドロキシ置換基またはカルボキシ置換基を含有する場合、これらの置換基は、生理学的に加水分解性でかつ許容されるエステルを形成し得る。本明細書で使用する場合、「生理学的に加水分解性でかつ許容されるエステル」とは、生理学的条件下で加水分解できて、投与されるべき用量で自体が生理学的に許容できるものである酸(ヒドロキシ置換基を有する本発明の化合物の場合)またはアルコール(カルボキシ置換基を有する本発明の化合物の場合)を生じる本発明の化合物を意味する。したがって、本発明の化合物がヒドロキシ基を含有する場合、例えば、化合物−OHである場合、該化合物のアシルエステルプロドラッグ、すなわち、化合物−O−C(O)−C1-4アルキルは、体内で加水分解して、一方では生理学的に加水分解性であるアルコール(化合物−OH)を形成することができ、他方では酸(例えば、HOC(O)−C1-4アルキル)を形成することができる。別法として、本発明の化合物がカルボン酸を含有する場合、例えば、化合物−C(O)OHである場合、該化合物の酸エステルプロドラッグである化合物−C(O)O−C1-4アルキルは、化合物−C(O)OHおよびHO−C1-4アルキルを形成することができる。当然のことであるが、かくして、該用語は、慣用の薬剤的プロドラッグ形態を包含する。
【0020】
本明細書における本発明の化合物は、それらのエナンチオマー、ジアステレ異性体およびラセミ体、ならびにそれらの多形体、水和物、溶媒和物および複合体を包含する。本発明の範囲内の化合物には二重結合を含有するものがある。本発明における二重結合の表示は、二重結合のE異性体およびZ異性体のどちらも含むことを意味する。加えて、本発明の範囲内の化合物には1個以上の不斉中心を含有するものがある。本発明は、光学的に純粋な立体異性体のいずれか、およびいずれもの立体異性体の組合せの使用を包含する。
【0021】
本発明の化合物がそれらの安定な同位体および不安定な同位体を包含することも意図される。安定な同位体は、同一の種(すなわち、元素)の豊富な核種と比べて1個のさらなる中性子を含有する非放射活性同位体である。該同位体を含む化合物の活性は保持され、該化合物は非同位体アナログの薬物動態を測定するための有用性を有すると考えられる。例えば、本発明の化合物の特定位置の水素原子を重水素(非放射性である安定な同位体)と置換できる。公知の安定な同位体の例としては、重水素、13C、15N、18Oが挙げられるが、これらに限定されない。別法として、同一の種(すなわち、元素)の豊富な核種と比べてさらなるニュートロンを含有する放射活性同位体である不安定な同位体、例えば123I、131I、125I、11C、18Fは、I、CおよびFの対応する豊富な核種と置換できる。本発明の化合物の有用な同位体の別の例は11C同位体である。これらの放射性同位体は、本発明の化合物の放射性イメージングおよび/または薬物動態学的研究に有用である。式Iの同位体標識化合物は、一般に、非放射性標識試薬の代わりに放射性標識試薬を用いることによって調製され得る。
【0022】
「本発明の化合物」または「本発明のPDE2阻害剤」という語句は、本明細書に記載された化合物、例えば、上記の、遊離形態または塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物のいずれかまたは全てを包含する。
【0023】
「処置」および「処置すること」という語は、該疾患の症状の処置または寛解、および該疾患の原因の処置を包含すると解されるべきである。一の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の疾患または障害の処置のための方法を提供する。別の実施態様において、本発明は、本明細書に記載の疾患または障害の予防のための方法を提供する。
【0024】
処置のための方法について、「有効量」という語は、特定の疾患または障害を処置するための治療上有効量を包含するよう意図されている。
【0025】
「肺高血圧」という用語は、肺動脈性肺高血圧症を包含するよう意図されている。
【0026】
「対象体」という用語は、ヒトまたは非ヒト(すなわち、動物)を包含する。特定の実施態様において、本発明は、ヒトおよび非ヒトのどちらも包含する。別の実施態様において、本発明は、非ヒトを包含する。他の実施態様において、該用語は、ヒトを包含する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「を含む」という用語は、オープンエンドであるよう意図されており、未記載のさらなる要素または方法の工程を排除しない。
【0028】
「認知障害(cognitive disorders)」という用語は、認知不全(cognitive deficiency)症状(すなわち、同年代の集団(the same general age population)内で、一個体の記憶、知力、学習、論理、注意力または実行機能(作業記憶)のような1つ以上の認知的局面における機能が他の個体と比べて亜正常または最適以下)を含む障害を表す。したがって、認知障害としては、健忘症、老年認知症、HIV関連認知症、アルツハイマー関連認知症、ハンチントン関連認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、薬物関連認知症、せん妄および軽度認知障害が挙げられるが、これらに限定されない。認知障害は、また、精神病(統合失調症)、気分障害、双極性障害、脳卒中、前頭側頭葉型認知症、進行性核上性麻痺、脳外傷および薬物乱用、アスペルガー症候群および加齢による記憶障害と主に関連があるが独占的に関連があるわけではない障害でもあり得る。
【0029】
本発明の化合物、例えば、本明細書に記載の、遊離形態または薬剤的に許容される塩形態の、式Iまたは式1.1〜1.14のいずれかの化合物は、単独の治療剤として使用することができるが、他の活性薬剤と組み合わせてまたは他の活性薬剤との共投与のために使用することもできる。
【0030】
本発明を実施する際に用いられる投与量は、もちろん、例えば、処置されるべき特定の疾患または状態、使用される特定の本発明の化合物、投与方法および所望の治療に依存して変化する。本発明の化合物は、経口、非経口、経皮または吸入を包含する好適な経路によって投与できるが、経口投与されるのが好ましい。一般に、満足できる結果は、例えば上記した疾患の処置については、約0.01〜2.0mg/kg程度の投与量の経口投与により得られるよう意図されている。大型哺乳動物、例えばヒトにおいて、経口投与について指摘された日用量は、したがって、約0.75〜150mgの範囲で、好都合には1日1回、もしくは1日2〜4回の分割用量で投与されるか、または持続放出剤形で投与される。かくして、例えば、経口投与要の単位用量は、本発明の化合物約0.2〜75または150mg、例えば、約0.2または2.0〜50、75または100mgを薬剤的に許容される希釈剤または担体と一緒に含み得る。
【0031】
本発明の化合物を含む医薬組成物は、慣用の希釈剤または賦形剤、およびガレヌス分野(galenic art)において公知の技術を用いて調製され得る。該薬剤的に許容される担体は、慣用の医薬的担体または賦形剤を含み得る。好適な医薬担体としては、不活性希釈剤または充填剤、水および種々の有機溶媒(例えば水和物および溶媒和物)が挙げられる。該医薬組成物は、必要に応じて、矯味矯臭剤、結合剤、賦形剤などのようなさらなる成分を含有することができる。かくして、経口投与について、クエン酸のような種々の賦形剤を含有する錠剤は、デンプン、アルギン酸およびある種の複合ケイ酸塩のような種々の崩壊剤、ならびにシュークロース、ゼラチンおよびアカシアのような結合剤と一緒に用いることができる。加えて、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクのような滑沢剤は、しばしば、打錠目的に有用である。同類のタイプの固体組成物は、軟および硬充填ゼラチンカプセル剤内で用いることもできる。したがって、材料の非限定的な例としては、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールが挙げられる。水性懸濁剤またはエリキシル剤が経口投与のために望ましい場合、その中の該活性化合物は、希釈剤、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンまたはそれらの組合せと一緒に、種々の甘味剤または矯味矯臭剤、着色物質または色素、および、所望により、乳化剤または懸濁化剤と合わせることができる。該医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、徐放性製剤、液剤もしくは懸濁剤として経口投与に適した剤形、滅菌溶液、懸濁液もしくはエマルションとして非経口注射に適した剤形、軟膏剤もしくはクリーム剤として局所投与に適した剤形、または坐剤として直腸投与に適した剤形であり得る。
【0032】
本明細書における本発明の化合物およびそれらの薬剤的に許容される塩は、本明細書に記載された方法および例示された方法を用いて、また、それに類似の方法および化学の分野において公知の方法によって製造され得る。このような方法としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されない。これらの方法の出発物質は、市販されていない場合には、公知化合物の合成と同様または類似の技術を用いて化学分野から選択される手順によって製造され得る。本明細書で引用される全ての文献は出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する。
【実施例】
【0033】
実施例1
7−(アゼチジン−1−イル)−3−メチル−1−(1−メチル−5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
【化2】
(a)5−クロロ−1−メチル−4−ニトロ−1H−ピラゾール
THF中のビス(トリメチルシリル)アミドリチウム(1.0M、65mL、65mmol)を25℃で1−メチル−4−ニトロ−1H−ピラゾール(5.50g、43.3mmol)およびヘキサクロロエタン(10.54g、44.5mmol)の塩化メチレン(120mL)中溶液に滴下する。該反応混合物を25℃で60分間撹拌し、次に、水(1mL)でクエンチする。該混合物を蒸発乾固させる。残留物を水(50mL)、飽和NaHCO3で2回(2×30mL)およびブライン(30mL)で連続的に洗浄し、次に、真空乾燥させて、生成物6.50g(収率93%)を得る。MS (ESI) m/z 162.0 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.15 (s, 1H), 3.92 (s, 3H)。
【0034】
(b)5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−アミン・塩酸塩
5−クロロ−1−メチル−4−ニトロ−1H−ピラゾール(6.50g、40.2mmol)の12N HCl(15mL)およびエタノール(15mL)中懸濁液に塩化スズ(II)(35.5g、160.9mmol)を添加する。反応が完了するまで該反応混合物を90℃で撹拌する。該反応混合物を蒸発乾固させる。残留物を12N HCl(25mL)で処理し、次に、5℃で2時間冷却する。濾過後、濾過ケーキを6N HCl(2×25mL)で洗浄し、次に、真空乾燥させて、生成物6.08g(収率:90%)を得る。MS (ESI) 132.0 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 7.66 (s, 1H), 3.89 (s, 3H)。
【0035】
(c)5−クロロ−4−ヒドラジニル−1−メチル−1H−ピラゾール・塩酸塩
0℃で、5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−アミン・塩酸塩(6.08g、36.2mmol)のHCl(12N、35mL)中撹拌溶液に水性NaNO2(5.50g、80.0mmol)を添加する。該反応混合物を0℃で45分間撹拌し、次に、塩化スズ(II)(22.8g、120mmol)を添加する。添加完了後、該反応混合物を0℃で30分間撹拌し、次に、室温で一夜撹拌する。得られた混合物を氷浴にて2時間冷却し、次に、濾過する。濾過ケーキをHCl(12N、20mL)で洗浄し、次に、真空乾燥させて、粗生成物7.77g(収率:98%)を得、さらなる精製を行わずに次反応で使用する。MS (ESI) m/z 147.0 [M+H]+
【0036】
(d)5−ブロモ−4−クロロ−6−(1−エトキシビニル)ピリミジン
5−ブロモ−4,6−ジクロロピリミジン(5.00g、21.9mmol)およびトリブチル(1−エトキシビニル)スタンナン(7.92g、21.9mmol)のDMF(20mL)中懸濁液をアルゴンで脱気し、次に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.27mg、1.10mmol)を添加する。該懸濁液を再度脱気し、次に、アルゴン下にて110℃で8時間加熱する。溶媒を減圧除去した後、残留物を、30分間にわたってヘキサン中0〜40%酢酸エチル勾配液で溶離するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、生成物2.72g(収率:47%)。MS (ESI) m/z 263.0 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.85 (s, 1H), 4.71 (d, J = 3.1 Hz, 1H), 4.60 (d, J = 3.1 Hz, 1H), 3.98 (q, J = 7.0 Hz, 2H), 2.67 (s, 0H), 1.42 (t, J = 7.0 Hz, 3H)。
【0037】
(e)5−ブロモ−4−クロロ−6−(1−(2−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)ヒドラゾノ)エチル)ピリミジン
5−ブロモ−4−クロロ−6−(1−エトキシビニル)ピリミジン(1.60g、6.07mmol)および5−クロロ−4−ヒドラジニル−1−メチル−1H−ピラゾール・塩酸塩(3.11g、12.1mmol)の酢酸(32mL)中懸濁液を60℃で6時間撹拌する。溶媒を減圧除去した後、残留物を飽和NaHCO3(40mL)で処理し、次に、酢酸エチル(3×100mL)で抽出する。合わせた有機相をブライン(70mL)で洗浄し、次に、蒸発乾固させる。残留物を真空乾燥させて、粗生成物1.0g(収率:45%)を得、さらなる精製を行わずに次工程で使用する。MS (ESI) m/z 362.9 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.79 (s, 1H), 7.66 (s, 1H), 7.05 (s, 1H), 3.83 (s, 3H), 2.32 (s, 3H)。
【0038】
(f)7−クロロ−1−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
密閉管中の5−ブロモ−4−クロロ−6−(1−(2−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)ヒドラゾノ)エチル)ピリミジン(334mg、0.92mmol)、1,10−フェナントロリン(497mg、2.76mmol)およびK2CO3(127mg、0.92mmol)のトルエン(4mL)中混合物を100℃で1.5時間加熱する。室温に冷却した後、該反応混合物をトルエン(3mL)で希釈し、次に、濾過する。固体をトルエンで2回(2×3mL)洗浄する。合わせた濾液を飽和FeSO4・7H2Oで3回(3×4mL)洗浄し、次に、蒸発乾固させる。得られた残留物をさらに真空乾燥させて、粗生成物147mg(収率:57%)を得、さらなる精製を行わずに次工程で使用する。MS (ESI) m/z 283.0 [M+H]+
【0039】
(g)7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
密閉管中の7−クロロ−1−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン(147mg、0.52mmol)、アゼチジン・塩酸塩(64mg、0.68mmol)およびEt3N(105mg、1.04mmol)のトルエン(1.5mL)中混合物を室温で、反応が完了するまで撹拌する。該混合物を2N NaOH(18mL)中に注ぎ、次に、CH2Cl2で3回(3×25mL)抽出する。合わせた有機相をブライン(20mL)で洗浄し、次に、蒸発乾固させる。得られた残留物をさらに真空乾燥させて粗生成物181gを得、さらなる精製を行わずに次工程で使用する。MS (ESI) 304.1 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.51 (s, 1H), 7.66 (s, 1H), 3.95 (s, 3H), 3.87 (t, J = 7.8 Hz, 4H), 2.61 (s, 3H), 2.33-2.25 (m, 2H)。
【0040】
(h)7−(アゼチジン−1−イル)−3−メチル−1−(1−メチル−5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−クロロ−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン(58mg、0.19mmol)、4−(トリフルオロメチル)−フェニルボロン酸(51mg、0.27mmol)およびリン酸三カリウム(92mg、0.43mmol)のエタノール(0.70mL)および水(0.080mL)中懸濁液をアルゴン下にて70℃で10分間加熱し、次に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(19mg、0.017mmol)を添加する。該懸濁液を再度脱気し、次に、マイクロ波にて130℃で2時間加熱する。さらなるテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(9mg、0.0079mmol)を添加する。該混合物をマイクロ波にて140℃で7時間加熱する。溶媒を除去した後、残留物を、16分間にわたって0.1%ギ酸含有水中0〜33%アセトニトリル勾配液を用いて半分取HPLCで精製して、最終生成物12mgをオフホワイト色の固体として得る(HPLC純度:98%;収率:15%)。MS (ESI) m/z 414.2 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.43 (s, 1H), 7.71 (s, 1H), 7.63 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.50 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 3.96 (s, 3H), 3.81 (t, J = 7.8 Hz, 4H), 2.59 (s, 3H), 2.32-2.21 (m, 2H)。
【0041】
実施例2
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−メトキシ−2−メチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
【化3】
最終工程で4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸およびK3PO4の代わりにそれぞれ4−メトキシ−2−メチルフェニルボロン酸およびK2CO3を添加する、実施例1の合成に記載の手順に従う類似の方法で標記化合物を製造する。最終生成物をオフホワイト色の固体として得る(HPLC純度:99%;収率:32%)。MS (ESI) m/z 390.2 [M+H]+1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.37 (s, 1H), 7.77 (s, 1H), 7.06 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.68 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 6.64 (dd, J = 8.5, 2.6 Hz, 1H), 4.04-3.82 (m, 4H), 3.74 (s, 3H), 3.71 (s, 3H), 2.55 (s, 3H), 2.35-2.26 (m, 2H), 2.08 (s, 3H)。
【0042】
実施例3
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−シクロプロピルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
【化4】
最終工程で4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸およびK3PO4の代わりにそれぞれシクロプロピルフェニル−ボロン酸およびNa2CO3を添加する、実施例1の合成に記載の手順に従う類似の方法で標記化合物を製造する。MS (ESI) m/z 386.2 [M+H]+
【0043】
実施例4
7−(アゼチジン−1−イル)−1−(5−(4−エチルフェニル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−イル)−3−メチル−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン
【化5】
最終工程で4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸およびK3PO4の代わりにそれぞれ4−エチルフェニル−ボロン酸およびCs2CO3を添加する、実施例1の合成に記載の手順に従う類似の方法で標記化合物を製造する。MS (ESI) m/z 374.2 [M+H]+
【0044】
実施例5
インビトロでのPDE2阻害の測定
r−hPDE2A(Accession No. NM_002599, Homo sapiens phosphodiesterase 2A, cGMP-stimulated, transcript variant 1): 該遺伝子の組換えcDNAコピーを有する哺乳動物発現クローニングベクターをOrigeneから購入する。HEK293細胞の一過性形質転換によりタンパク質を発現させる。形質転換から48時間後に細胞を収集し、TBSバッファー(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl)で1回洗浄し、次に、冷ホモジナイゼーションバッファー(50mM Tris−HCl、pH7.5、5mM MgCl2、1Xプロテアーゼインヒビターカクテル)中にて超音波処理によって溶解する。該ホモジネートを4℃にて15,000gで30分間遠心分離して、可溶性細胞質画分を得る。標準としてウシ血清アルブミンを用い、BCA Protein Assay Kit(Pierce)を用いて、該細胞質ゾルのタンパク質濃度を測定する。
【0045】
アッセイ: 基質としてFL−cAMPを用いて、PDE2Aをアッセイする。まず、酵素滴定を行って、PDEの作業濃度を測定する。阻害剤の不在下で100ΔmPの活性をもたらす酵素の濃度は、PDEの適切な作業濃度であると思われる。
【0046】
滴定曲線に従って標準反応バッファー(10mM Tris−HCl pH7.2、10mM MgCl2、0.1%BSA、0.05%NaN3)でPDE酵素を希釈する。PDE2アッセイについては、該反応バッファーに1μM cGMPを加えて、酵素を十分に活性化する。希釈した酵素溶液99μlを平底96ウェルポリスチレンプレートの各ウェルに添加し、次に、100%DMSOに溶解した試験化合物約1μlを添加する。該混合物を酵素と混合し、室温で10分間、プレインキュベートする。
【0047】
基質(最終45nM)を添加することによりFL−cNMP転換反応を開始する。384ウェルマイクロタイタープレート中で酵素と阻害剤との混合物(16μl)および基質溶液(0.225μM、4μl)を合わせる。該反応を暗所にて室温で15分間インキュベートする。384ウェルプレートの各ウェルに結合試薬(消泡剤の1:1800希釈液を加えた結合バッファーによるIMAPビーズの1:400希釈液)60μlを添加することにより、該反応を停止させる。該プレートを室温で1時間インキュベートして、IMAP結合を完了させ、次に、Envisionマルチモードマイクロプレートリーダー(PerkinElmer, Shelton, CT)内に置いて、蛍光偏光(Δmp)を測定する。
【0048】
Δmpの低下として測定されるcAMP濃度の低下は、PDE活性の阻害を意味している。0.00037nM〜80,000nMの範囲の8〜16種類の濃度の化合物の存在下にて酵素活性を測定し、次に、薬物濃度対ΔmPをプロットすることによってIC50値を測定する。試験ウェル値を同一プレートで行われたコントロール反応に対して正規化する(コントロールの%に変換した値)。4パラメーター・ワンサイト用量反応モデル(XLFit;IDBS, Cambridge, MA)に適合した非線形回帰ソフトウェアを使用して、IC50値を推定する。曲線の底をコントロールの0%に定める。
【0049】
品質管理: 阻害剤のIC50を測定するために、100〜200ミリ偏光単位の最適なシグナル範囲を提供する酵素濃度を選ぶ。各サンプルウェルの総蛍光強度を測定して、平均および標準偏差を算出する。いずれかのサンプルウェルの総蛍光強度が平均値±3SDの範囲内にない場合には、その特定のウェルのmp値を廃棄する。
【0050】
上記のIMAP手順またはそれと同様の手順を使用して、本発明者らは、私有のPDEに焦点を合わせた化合物ライブラリーをスクリーニングして、ナノモルPDE2阻害活性を有する新規化合物を同定した。例示された本発明の化合物(例えば、実施例1〜4の化合物)が試験され、例えば以下のとおり、ナノモル濃度で活性であることが示されている:実施例1:IC50 23.1nM;実施例2:IC50 92nM;実施例3:IC50 9.5nM;実施例4:IC50 18.5nM。これらの化合物は、PDE2に対して、より選択的である;実施例4の化合物が試験され、PDE1、PDE3、PDE4D、PDE5、PDE6、PDE7B、PDE8A、PDE9A、PDE10AおよびPDE11AよりもPDE2に対して20倍以上選択的であることが示されている。
【0051】
実施例6
マウスにおける薬物動態試験
マウスに試験されるべき化合物を単回経口投与し(10mg/kg、PO)、Zhao et al., J. Chromatogr. B. Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. (2005) 819(1):73-80およびAppels, N.M., et al., Rapid Commun. Mass Spec. 2005. 19(15):p.2187-92に記載の方法と類似の方法を用い、HPLCおよびLC−MSを用いて血漿および脳の利用能を測定する(0.25〜4時間)。該実験は、図1に示されるように実施例1の化合物が優れた脳アクセスを有することを示している。
【0052】
実施例7
物体認識課題(object recognition task)におけるウィスターラットの記憶成績に対するPDE2阻害剤による処置の効果
物体認識課題である認知の動物モデルにおいて実施例1の化合物の記憶増強効果を試験する。Ennaceur, A., Delacour, J., 1988. A new one-trial test for neurobiological studies of memory in rats. 1: Behavioral data. Behav. Brain Res. 31, 47-59を参照。ラットは、1時間後に試験した時に、前の試行でどの物体を探索したかを覚えている。しかしながら、24時間の試験間隔を用いた場合、ラットは、最初の試行でどの物体が提示されたかを覚えていられない。実施例1の化合物は、最初の試行の2時間前に投与された場合、この時間誘発性物体記憶欠損を弱めるかどうかを試験する。2〜3か月齢の雄性ウィスターラットに化合物を投与する。
【0053】
0、0.3、1、3および10mg/kgの用量で、学習の2時間前に実施例1の化合物を経口注入する(2ml/kg)。これらの試験用量のどれも探索行動に対して影響を及ぼさない。本研究は、実施例1の化合物が1.0mg/kgの用量で時間依存性忘却を完全に予防できることを示している。0.3および3.0mg/kgで中間記憶改善が見られる。
【0054】
実施例8
海馬細胞および脳におけるcGMPシグナル伝達に対する新規PDE2阻害剤の作用
本発明者らは、HT−22細胞(親HT−4細胞からサブクローニングされた不死化マウス海馬ニューロン前駆細胞)が海馬依存性情動変化に関係がある細胞および分子プロセスの理解に有用なモデルであることを提案する。本発明者らは、Aim 1が、細胞ベースのアッセイにおける機能的評価のための10〜20種類の新規PDE2阻害剤を生じると予想する。細胞ベースのHT−22細胞アッセイにおいてcGMP蓄積の有意な増加を誘発する化合物だけが行動評価に進む。細胞ベースのアッセイデータは、CNS適応症に使用する可能性のあるPDE2阻害剤の最小必要要件であり、行動試験のための用量選択の指針を提供する。
図1