(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持器の前記小環状部の内周側端面と前記内輪との間の距離は、前記内輪において前記小環状部の前記内周側端面と対向する部分の外周直径の1.0%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
<円錐ころ軸受の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。
図2は、
図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。
図3は、実施の形態に係る円錐ころ軸受の保持器を示す斜視模式図である。
図4は
図3に示した保持器の部分拡大模式図である。
図5は、
図4の線分V−Vにおける断面模式図である。
図6〜
図9は、
図3に示した保持器の第1〜第4の変形例を示す模式図である。
図10は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の第1の変形例を示す部分断面模式図である。
図11は、
図10に示した円錐ころ軸受の保持器を示す斜視模式図である。
図12および
図13は、
図11に示した保持器の第1および第2の変形例を示す模式図である。
図14は、実施の形態に係る円錐ころ軸受の第2の変形例を示す部分断面模式図である。
図15は、
図14に示した円錐ころ軸受の保持器を示す斜視模式図である。
図16は、
図14に示した円錐ころ軸受の保持器を示す斜視模式図である。
図17および
図18は、
図15に示した保持器の第1および第2の変形例を示す斜視模式図である。
図19は、
図1〜
図18に示した円錐ころ軸受の設計仕様を示す断面模式図である。
図20は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの基準曲率半径を説明するための断面模式図である。
図21は、
図20に示される領域XXIを示す部分断面模式図である。
図22は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの実曲率半径を説明するための断面模式図である。
図23は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころの大端面を示す平面模式図である。
図1〜
図23を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
【0016】
図1に示す円錐ころ軸受10は、外輪11と、内輪13と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)12と、保持器14とを主に備えている。外輪11は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪13は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面13Aを有している。内輪13は、内輪軌道面13Aが外輪軌道面11Aに対向するように外輪11の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受10の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
【0017】
ころ12は、外輪11の内周面上に配置されている。ころ12はころ転動面12Aを有し、当該ころ転動面12Aにおいて内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aに接触する。複数のころ12は樹脂からなる保持器14により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ12は、外輪11および内輪13の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受10は、外輪軌道面11Aを含む円錐、内輪軌道面13Aを含む円錐、およびころ12が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点(
図19の点O)で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受10の外輪11および内輪13は、互いに相対的に回転可能となっている。内輪13は、内輪軌道面13Aの大径側に大つば部41、小径側に小つば部42を有する。
【0018】
図3に示すように、保持器14は、周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケット109を含む。保持器14は複数の円錐ころ12の各々を複数のポケット109の各々に収容保持している。保持器14は、小環状部106と大環状部107と複数の柱部108とを含む。小環状部106は、複数の円錐ころ12の小径側で連なる。大環状部107は、複数の円錐ころ12の大径側で連なる。複数の柱部108は、小環状部106と大環状部107とを連結する。小環状部106と大環状部107と複数の柱部108とは複数のポケット109を区画する。大環状部107には非貫通穴である保油穴14Aが形成される。保油穴14Aは、ポケット109に面する開口部を含む。本実施形態の保油穴14Aは潤滑油を毛細管現象で導入して保持するように構成されている。
【0019】
保油穴14Aは、大環状部107の円錐ころ12に面する面に形成されている。保油穴14Aは、環状の保持器14の中心軸に沿った方向に延びている。
図2に示した保油穴14Aは、大環状部107を貫通することなく、当該保油穴14Aの底部は大環状部107の内部に位置する。異なる観点から言えば、上記中心軸に沿った方向において、大環状部107の長さより、保油穴14の長さは短い。また、上記中心軸に直交する方向である保持器14の径方向における保油穴14Aの幅はたとえば2mm以下としてもよい。この場合、保油穴14の内部において潤滑油の表面張力が支配的になり、保油穴14A内部に効果的に潤滑油を保持することができる。保油穴14Aは、ポケット109側の開口部の幅が一番広くなっている。保油穴14Aの径方向における幅は、開口部側から底部側に向けて徐々にせまくなっていてもよい。保油穴14Aの開口部の形状は、円形状、矩形状、楕円形状、角部が曲線状となった四角形状など、任意の形状とすることができる。
【0020】
1つのポケット109に面する保油穴14Aの数は、1つでもよいが、
図3に示すように2つでもよい。さらに、1つのポケット109に面する複数の保油穴14Aの数は3つ以上でもよい。保油穴14Aは円錐ころ12の大端面16に面するように配置されることが好ましい。保持器14の小環状部106の内周側端面と、内輪13の小つば部42の表面との間の距離LSは、内輪13の小つば部42の外周直径Dの1.0%以下とすることが好ましい。当該距離LSは、小つば部42の外周直径Dの0.08%以下としてもよい。
【0021】
また、保持器14の柱部108には、ポケット109に面する側面に油溝108Aが形成されている。油溝108Aは、保持器14の径方向における内周側から外周側に延びるように形成されている。また、油溝108Aは、外周側の端部の位置が、内周側の端部の位置より小環状部106側に位置する。また、
図3に示すように、1つの柱部108における2つの側面のそれぞれに油溝108Aが形成されている。当該2つの油溝108Aを繋ぐように、柱部108には保持器14の径方向における内周側に接続溝が形成されている。1つの側面における油溝108Aの数は
図3に示すように1つでもよいが、2つ以上の複数としてもよい。
【0022】
保持器14の小環状部106における内周側端面には、
図3および
図4に示すように平坦部106Aから突出する複数の突起部106Bが形成されている。突起部106Bは、保持器14の中心軸に沿った方向延びるように形成されている。
図5に示すように、保持器14の中心軸に交差する方向における突起部106Bの断面形状は半円状である。なお、突起部106Bの当該断面形状は、他の任意の形状としてもよく、たとえば
図6に示すような正弦波形状といった表面が曲面状の凸形状、あるいは三角形状、台形状、楕円状などとしてもよい。また、保持器14の周方向における突起部106Bの幅は、一定でも良いが局所的に異なっていてもよい。たとえば、保持器14の中心軸に沿った方向において、突起部106Bの上記幅が一方から他方に向けて徐々に狭くなるように突起部106Bを構成してもよい。また、保持器14の突起部106Bの延びる方向は、
図4に示すように保持器14の中心軸に沿った方向としているが、
図7に示すように突起部106Bの延びる方向を当該中心軸に対して傾斜する方向としてもよい。
【0023】
図8に示すように、保持器14の柱部108と小環状部106との接続部には、切欠き部106Cが形成されていてもよい。当該切欠き部106Cの表面は曲面状となっている。
【0024】
また、保持器14の形状は、
図1〜
図3に示したような小環状部106が内輪13側に延在する構成ではなく、
図9に示すように小環状部106と内輪13との間に十分な間隔が形成されるような形状としてもよい。すなわち、小環状部106が
図2に示すような内輪13側に屈曲する屈曲部を有さず、
図9に示すように、ころ12の中心軸に沿った方向に延びる部分のみから構成されていてもよい。
【0025】
次に、
図10〜
図13に示す、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の第1の変形例の構成を説明する。
図10および
図11に示す円錐ころ軸受は、基本的には
図1〜
図3に示す円錐ころ軸受と同様の構成を備えるが、保持器における保油穴14Bの構造が
図1〜
図3に示した円錐ころ軸受と異なっている。すなわち、
図10および
図11に示す円錐ころ軸受では、保持器14の保油穴14Bが大環状部107においてポケット109と反対側に位置する表面にまで到達するように、大環状部107を貫通している。保油穴14Bは環状の保持器14の中心軸に沿った方向に延びている。保持器14の径方向における保油穴14Bの幅はたとえば2mm以下としてもよい。保油穴14Bは、ポケット109側の開口部の幅が一番広くなっている。保油穴14Bの径方向における幅は、開口部側からポケット109と反対側に位置する表面側に向けて徐々にせまくなっていてもよい。保油穴14Bの開口部の形状は保油穴14Aと同様に任意の形状としてもよい。また、1つのポケット109に面する保油穴14Bの数は、1つでもよいが、複数でもよい。
図10および
図11に示した円錐ころ軸受の保持器14の形状については、上述した保油穴14B以外は油溝108Aや突起部106Bなど
図1〜
図3に示した保持器14の形状と同様である。
【0026】
また、
図12に示すように、貫通穴である保油穴14Bが形成された保持器14において、
図8に示した保持器と同様に、保持器14の柱部108と小環状部106との接続部には、切欠き部106Cが形成されていてもよい。さらに、
図13に示すように、貫通穴である保油穴14Bが形成された保持器14において、小環状部106が
図10に示すような内輪13側に屈曲する屈曲部を有さず、
図13に示すようにころ12の中心軸に沿った方向に延びる部分のみから構成されていてもよい。
【0027】
次に、
図14〜
図18に示す、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の第2の変形例の構成を説明する。
図14〜
図16に示す円錐ころ軸受は、基本的には
図1〜
図3に示す円錐ころ軸受と同様の構成を備えるが、保持器における保油穴14Cの構造が
図1〜
図3に示した円錐ころ軸受と異なっている。すなわち、
図14〜
図16に示す円錐ころ軸受では、保持器14の大環状部107が、ポケット109に面するポケット側表面部分107Aと、ポケット側表面部分107Aに連なり内輪13に面する内輪側表面部分107Bとを含む。保油穴14Cの開口部は、ポケット側表面部分107Aから内輪側表面部分107Bにまで延在するように形成されている。異なる観点から言えば、保油穴14Cは、ポケット側表面部分107Aと内輪側表面部分107Bとを繋ぐように形成された凹部である。保油穴14cは、径方向内側から視て矩形状である。
【0028】
保持器14の径方向における保油穴14Cの深さはたとえば2mm以下としてもよいが、2mm越えとしてもよい。保油穴14Cは、ポケット109側の開口部の幅が一番広くなっていてもよい。保油穴14Cの径方向における深さは、開口部側からポケット109と反対側に位置する表面側に向けて徐々に浅くなっていてもよい。ポケット側表面部分107Aにおける保油穴14Cの開口部の形状は半円状、U字状、矩形状など任意の形状としてもよい。また、1つのポケット109に面する保油穴14Cの数は、1つでもよいが、複数でもよい。
図14〜
図16に示した円錐ころ軸受の保持器14の形状については、上述した保油穴14C以外は油溝108Aや突起部106Bなど
図1〜
図3に示した保持器14の形状と同様である。
【0029】
ここで、大環状部107は、ウエルドラインを有する。具体的には、ウエルドラインが隣り合う保油穴14Cの間に設けられている。これにより、ウエルドラインが保油穴と周方向に重なる位置に設けられる構成と比べて、強度が確保された保油穴14Cを設けることが可能となる。
【0030】
また、
図17に示すように、凹部である保油穴14Cが形成された保持器14において、
図8に示した保持器と同様に、保持器14の柱部108と小環状部106との接続部には、切欠き部106Cが形成されていてもよい。さらに、
図18に示すように、凹部である保油穴14Cが形成された保持器14において、小環状部106が
図14に示すような内輪13側に屈曲する屈曲部を有さず、
図18に示すように、ころ12の中心軸に沿った方向に延びる部分のみから構成されていてもよい。
【0031】
外輪11、内輪13、ころ12を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層11B、12B、13B以外の部分で、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロム(Cr)を含んでいてもよい。
【0032】
上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
【0033】
Si含有率を0.15〜1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
【0034】
Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
【0035】
なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
【0036】
また異なる観点から言えば、外輪11および内輪13は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格に規定される高炭素クロム軸受鋼、より具体的にはJIS規格SUJ2からなるものであってもよい。ころ12は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格に規定される高炭素クロム軸受鋼、より具体的にはJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ12は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
【0037】
図2に示すように、外輪11の軌道面11Aおよび内輪13の軌道面13Aには窒素富化層11B、13Bが形成されている。内輪13では、窒素富化層13Bが軌道面13Aから小鍔面19および大鍔面18にまで延在している。窒素富化層11B、13Bは、それぞれ外輪11の未窒化部11Cまたは内輪13の未窒化部13Cより窒素濃度が高くなっている領域である。内輪13の小鍔面19は、軌道面13Aに配列された円錐ころ12の小端面17と平行な研削加工面に仕上げられている。内輪13の大鍔面18は、円錐ころ12の大端面16に沿って延びる研削加工面に仕上げられている。内輪軌道面13Aと大鍔面18とが交わる隅部には逃げ部25Aが形成されている。
【0038】
また、ころ12の転動面12Aを含む表面には窒素富化層12Bが形成されている。ころ12の大端面16に窒素富化層12Bが形成されていてもよい。さらに、ころ12の小端面17に窒素富化層12Bが形成されていてもよい。ころ12の窒素富化層12Bは、ころ12の未窒化部12Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層11B、12B、13Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
【0039】
なお、ころ12のみに窒素富化層12Bを形成してもよいし、外輪11のみに窒素富化層11Bを形成してもよいし、内輪13のみに窒素富化層13Bを形成してもよい。あるいは、外輪11、内輪13、ころ12のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。すなわち、外輪11、内輪13およびころ12のうちの少なくともいずれか1つが窒素富化層含んでいればよい。
【0040】
窒素富化層の厚さおよび窒素濃度:
窒素富化層11B、12B、13Bの厚さは0.2mm以上であってもよい。具体的には、外輪11の表面層の最表面としての外輪軌道面11Aから窒素富化層11Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。ころ12の表面層の最表面の一部としての転動面12Aから窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。ころ12の表面層の最表面の一部としての大端面16または小端面17から窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。内輪13の表面層の最表面の一部としての内輪軌道面13Aから窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。内輪13の表面その最表面の一部としての大鍔面18から窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上であってもよい。
【0041】
上記円錐ころ軸受10において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層11B、12B、13Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上であってもよい。
【0042】
円錐ころ12の大端面16の曲率半径Rと、点Oから内輪13の大鍔面18までの距離R
BASEとの比R/R
BASE:
図19に示すように、円錐ころ12と、外輪11および内輪13の各軌道面11A、13Aの各円錐角頂点は、円錐ころ軸受10の中心線上の一点Oで一致する。円錐ころ12の大端面16の曲率半径(設定曲率半径とも呼ぶ)Rと、点Oから内輪13の大鍔面18までの距離R
BASEとの比率R/R
BASEは、距離R
BASEの値に応じて決定される。具体的には、本実施の形態において、距離R
BASEが100mm以下のとき、設定曲率半径Rと距離R
BASEの比率R/R
BASEの値を0.70以上0.9以下とする。また、本実施の形態の第1の変形例として、距離R
BASEが100mmを越え200mm以下のとき、比率R/R
BASEの値を0.75以上0.85以下としてもよい。また、本実施の形態の第2の変形例として、距離R
BASEが200mmを越え300mm以下のとき、比率R/R
BASEの値を0.77以上0.83以下としてもよい。
【0043】
円錐ころ12の大端面16の形状:
円錐ころ12の大端面16の研削加工後の実曲率半径をR
processとしたとき、実曲率半径R
processと設定曲率半径Rとの比率R
process/Rは0.5以上とされる。以下、具体的に説明する。
【0044】
図20および
図21は、研削加工が理想的に施された場合に得られる円錐ころ12の転動軸に沿った断面模式図である。研削加工が理想的に施された場合、得られる円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点である点O(
図19参照)を中心とする球面の一部となる。
図20および
図21に示されるように、凸部16Aの一部を残すような研削加工が理想的に施された場合には、凸部16Aの端面を有するころ12の大端面16は、ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部となる。この場合、ころ12の転動軸(自転軸)を中心とする径方向における上記凸部16Aの内周端は凹部16Bと点C2,C3を介して接続されている。上記凸部16Aの外周端は面取り部16Cと点C1,C4を介して接続されている。理想的な大端面では、点C1〜C4は、上述のように1つの球面上に配置されている。
【0045】
一般的に、円錐ころは、円柱状のころ素形材に対し、圧造加工、クラウニング加工を含む研削加工が順に施されることにより、製造される。圧造加工により得られた成形体の大端面となるべき面の中央部には、圧造装置のパンチの形状に起因した凹部が形成されている。当該凹部の平面形状は例えば円形状である。異なる観点から言えば、圧造加工により得られた成形体の大端面となるべき面の外周部には、圧造装置のパンチに起因した凸部が形成されている。当該凸部の平面形状は例えば円環形状である。当該成形体の凸部の少なくともの一部は、その後に実施される研削加工により除去される。
【0046】
ここで、ころ12の大端面16の曲率半径(設定曲率半径)Rは、
図20に示すころ12の大端面16が設定した理想的な球面であるときのR寸法である。具体的には、
図21に示すように、ころ12の大端面16の端部の点C1、C2、C3、C4、点C1、C2の中間点P5、点C3、C4の中間点P6を考える。そして、大端面16が上記理想的な球面である場合、
図21に示した断面において、大端面16は、点C1、P5、C2を通る曲率半径R152、点C3、P6、C4を通る曲率半径R364及び点C1、P5、P6、C4を通る曲率半径R1564についてR152=R364=R1564という条件が成り立つ、理想的な単一円弧曲線となる。なお、点C1、C4は、凸部16Aと面取り部16Cとの接続点であり、点C2、C3は、凸部16Aと凹部16Bとの接続点である。ここで、R=R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線の曲率半径を設定曲率半径と呼ぶ。なお、設定曲率半径Rは、後述のように実際の研削加工により得られた円錐ころ12の大端面16の曲率半径として測定される実曲率半径R
processとは異なるものである。
【0047】
図22は、実際の研削加工により得られる円錐ころの転動軸に沿った断面模式図である。
図22では、
図21に示される理想的な大端面は点線で示されている。
図22に示されるように、上記のような凹部および凸部が形成されている成形体を研削加工して、実際に得られる円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部とならない。実際に得られる円錐ころ12の上記凸部の点C1〜C4は、
図21に示される上記凸部16Aと比べて、各点C1〜C4がだれた形状を有している。すなわち、
図22に示される点C1,C4は、
図21に示される点C1,C4と比べて、転動軸の中心に対する径方向において外周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対して片側のR152が同一ではなく、小さくできてしまう)。
【0048】
図22に示される点C2,C3は、
図21に示される点C2,C3と比べて、転動軸の中心に対する径方向において内周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対して片側のR364が同一ではなく、小さくできてしまう)。なお、
図22に示される中間点P5,P6は、例えば
図21に示される中間点P5,P6と略等しい位置に形成されている。
【0049】
図22に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面では、頂点C1および頂点C2が1つの球面上に配置されており、かつ頂点C3および頂点C4が他の1つの球面上に配置されている。一般的な研削加工によっては、一方の凸部上に形成された大端面の一部が成す1つの円弧の曲率半径は、他方の凸部上に形成された大端面の一部が成す円弧の曲率半径と、同等程度となる。すなわち、
図22に示されるころ12の大端面16の加工後の一方側のR152は、他方側のR364に略等しい。ここで、ころ12の大端面16の加工後の片側のR152、R364を実曲率半径R
processと呼ぶ。上記実曲率半径R
processは上記設定曲率半径R以下となる。
【0050】
本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころ12は、上述したように設定曲率半径Rに対する上記実曲率半径R
processの比率R
process/Rが0.5以上である。
【0051】
なお、
図22に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面において、頂点C1,中間点P5、中間点P6、および頂点C4を通る仮想円弧の曲率半径R
virtual(以下、仮想曲率半径という)は、上記設定曲率半径R以下となる。つまり、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころ12は、当該仮想曲率半径R
virtualに対する上記実曲率半径R
processの比率R
process/R
virtualが0.5以上である。
【0052】
円錐ころ12の大端面16の表面粗さ:
大端面16の算術平均粗さ(表面粗さ)Raは0.10μmRa以下であってもよい。以下、
図23を参照しながら説明する。
図23は、円錐ころ12の大端面16を示す平面模式図である。
図23に示すように、大端面16は面取り部16Cと凸部16Aと凹部16Bとを含む。大端面16では最外周に面取り部16Cが配置される。面取り部16Cの内周側に環状の凸部16Aが配置される。凸部16Aの内周側に凹部16Bが配置される。凸部16Aは凹部16Bより突出した面である。面取り部16Cは凸部16Aと円錐ころ12の側面である転動面とを繋ぐように形成されている。上述した大端面16の算術平均粗さRaは、実質的には凸部16Aの表面粗さを意味する。また、円錐ころ12の大端面16において、大鍔面18と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は0.02μm以下であってもよい。
【0053】
大鍔面18は、例えば0.12μmRa以下の表面粗さに研削加工されている。好ましくは、大鍔面の算術平均粗さRaは0.063μmRa以下である。
【0054】
窒素富化層の結晶組織:
窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。ここで、
図24は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
図25は、従来の焼入れ加工された軸受部品の旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。
図24は、窒素富化層12Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層12Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、
図25に示される従来の一般的な焼入れ加工品の旧オーステナイト結晶粒径と比べても十分に微細化されている。
【0055】
円錐ころ12の転動面と内輪軌道面との当たり位置:
図26に示すように、円錐ころ12の転動軸の延在方向における転動面12Aの幅をL、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の中心Cの、延在方向における転動面12Aの中点Nから大端面16側へのずれ量をαとしたとき、円錐ころ軸受10では、幅Lとずれ量αとの比率α/Lが0%以上20%未満であってもよい。
【0056】
本発明者らは、上記比率α/Lが0%以上20%未満であり、かつ、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面の中央Nまたは該中央Nよりも大端面16側にあることにより、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面の中央Nよりも小端面17側にある場合と比べて、スキュー角を低減し、回転トルクの増大を抑制し得ることを確認した。
【0057】
表1に、上記ずれ量αが0であるとき、すなわち内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面13Aと円錐ころ12の転動面12Aとの当たり位置の中心Cが転動軸の延在方向における転動面12Aの中央Nに位置しているときのスキュー角φ0、回転トルクM0に対する、ずれ量αを変化させたときのスキュー角φ、回転トルクMの各比率の計算結果を示す。なお、表1において、ずれ量αは、ころ12の転動面12Aの幅Lに対するずれ量αの比率(α/L)として示している。また、上記当たり位置が上記中央Nよりも小端面17側にずれているときのずれ量を負の値で示す。スキュー角φ0およびトルクM0は、ずれ量αが0の時の値である。
【0059】
表1に示すように、スキュー角φは、ずれ量αに関する比率α/Lが0%のときよりも大径側当りとした方が小さいことが分かる。また、回転トルクMは、ずれ量αが大きくなる程増大するが、大径側当りよりも小径側当りの方がその影響が大きい。ずれ量αに関する上記比率α/Lが−5%でスキュー角は1.5倍と大きくなることから、発熱への影響が無視できなくなり、実用不可(NG)と判定した。また、上記比率α/Lが20%以上になると、ころ12の転動面12Aにおけるすべりが大きくなることで回転トルクMが増大し、別のピーリング等の不具合を引き起こすため、実用不可(NG)と判定した。
【0060】
以上の結果より、スキュー角φと回転トルクMとを小さくするためには、ずれ量αに関する比率α/Lは0%以上20%未満であることが望ましい。また好ましくは、比率α/Lは0%を越える。さらに、比率α/Lは0%を越え15%未満であってもよい。
【0061】
比率α/Lが0%超えとなる構成は、たとえば
図26および
図27に示される。
図26および
図27は、円錐ころ軸受において、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の変更方法の例を示す断面模式図である。
【0062】
図26に示されるように、ころ12の転動面12Aに形成されたのクラウニング、および内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aに形成されたクラウニングの各頂点の位置を相対的にずらすことにより、実現され得る。
【0063】
また、比率α/Lが0%超えとなる構成は、
図27に示されるように、内輪軌道面13Aが内輪の軸方向に対して成す角度と、外輪軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度とを相対的に変えることより、実現され得る。具体的には、
図27中に点線で示される上記当たり位置のずれ量αがゼロである場合と比べて、内輪軌道面13Aが内輪13の軸方向に対して成す角度を大きくする、および外輪軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度を小さくする、の少なくともいずれかの方法により、比率α/Lが0%超えとなる構成は実現され得る。
【0064】
円錐ころ12の転動面の形状:
図28に示すように、ころ12の転動面12A(
図2参照)は、両端部に位置し、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24と、このクラウニング部22、24の間を繋ぐ中央部23とを含む。中央部23にはクラウニングは形成されておらず、ころ12の回転軸である中心線26に沿った方向での断面における中央部23の形状は直線状である。ころ12の小端面17とクラウニング部22との間には面取り部21が形成されている。ころ12の大端面16とクラウニング部24との間にも面取り部16Cが形成されている。
【0065】
ここで、ころ12の製造方法において、窒素富化層12Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ12にはクラウニングが形成されておらず、ころ12の外形は
図13の点線で示される加工前表面12Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として
図29の矢印に示すようにころ12の側面が加工され、
図28及び
図29に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24が得られる。
【0066】
窒素富化層の厚さの具体例:
ころ12における窒素富化層12Bの深さ、すなわち窒素富化層12Bの最表面から窒素富化層12Bの底部までの距離は、上述のように0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部21とクラウニング部22との境界点である第1測定点31、小端面17から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、ころ12の転動面12Aの中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層12Bの深さとは、ころ12の中心線26に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層12Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部21、16Cの形状やサイズ、さらに窒素富化層12Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、
図29に示した構成例では、上述のように窒素富化層12Bが形成された後にクラウニング22Aが形成されるため、窒素富化層12Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
【0067】
また、外輪11および内輪13における窒素富化層11B、13Bについても、その最表面から窒素富化層11B、13Bの底部までの距離である窒素富化層11B、13Bの厚さは上述したように0.2mm以上である。ここで、窒素富化層11B、13Bの厚さは、窒素富化層11B、13Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層11B,13Bまでの距離を意味する。
【0068】
クラウニングの形状:
ころ12のクラウニング部22、24に含まれる(中央部23に連なり内輪軌道面13Aに接触する部分である)接触部クラウニング部分27に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
【0070】
図30は、クラウニング形状の一例を示すy−z座標図である。
図30では、ころ12の母線をy軸とし、ころ12の母線上であって内輪13又は外輪11ところ12の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy−z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。
図30において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ12にクラウニングを形成していない場合の内輪13又は外輪11ところ12との接触部位である。また、円錐ころ軸受10を構成する複数のころ12の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、
図30では、一方のクラウニング22A(
図29参照)のみを示している。
【0071】
荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
【0072】
上記式(1)において、z(y)は、ころ12の母線方向位置yにおけるクラウニング22Aのドロップ量を示しており、クラウニング22Aの始点O1の座標は(a−K2a,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a−K2a)である。また、
図14では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング22Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a−K2a)のとき、z(y)=0となる。
【0073】
設計パラメータK1は荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング22Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータK2は、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング22Aの母線方向長さymの割合を意味している(K2=ym/a)。設計パラメータzmは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング22Aの最大ドロップ量を意味している。
【0074】
ここで、ころ12のクラウニングとして、設計パラメータK2=1であってストレート部の無いフルクラウニングを考えることができる。この場合、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保される。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK1,K2,zmの最適化を行う。
【0075】
設計パラメータK1,K2,zmの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
【0076】
また、ころ12に対数クラウニングを施す場合、ころの加工精度を確保するためには転動面12Aの中央部分に全長の1/2以上の長さのストレート部(中央部23)を設けるのが好ましい。この場合は、K2を一定の値とし、K1,zmについて最適化すればよい。
【0077】
ここで、円錐ころ12のクラウニング部22、24の形状は、上記の数式によって求められた対数曲線クラウニングとしている。しかし、上記の数式に限られるものではなく、他の対数クラウニング式を用いて対数曲線を求めてもよい。
【0078】
図31は、円錐ころ12のクラウニングの形状の例を説明するための図である。
図28に示す円錐ころ12のクラウニング部22、24には上記の数式で求められた対数クラウニングの対数曲線に近似する形状のクラウニングが形成されてもよい。円錐ころ12の大端面16側に形成されたクラウニング部24の詳細を
図31に基づいて説明する。
図31はクラウニング部24のドロップ量を理解しやすいように
図29に示す円錐ころ12よりも更にドロップ量を誇張して表示している。クラウニング部24は、ストレート部23に大きな曲率半径R1、R2、R3を持つ3つの円弧が滑らかに接続され複合的な円弧形状で構成されている。そして、クラウニング部24のドロップ量として、第1のゲートのドロップ量Dr1、中間の第2のゲートのドロップ量Dr2、最大の第3のゲートのドロップ量Dr3を規定することにより、対数曲線に近似したクラウニング形状となる。ドロップ量Dr3は前述した数式(1)中のzmに相当する。これにより、エッジ面圧を回避し軸方向の面圧分布を均一化できる。ドロップ量Drは、サイズや型番によって異なるが、最大でも50μm程度である。小端面17側に形成されたクラウニング部22の形状は、クラウニング部24と同様であるので、その説明は繰り返さない。本明細書における円錐ころ12の転動面の中央部23の形状が直線状であるとは、直線状の他、ドロップ量が数μm程度のクラウニングのある概略直線状のものを含む意味で用いる。
【0079】
内輪軌道面および外輪軌道面の形状:
次に、内輪軌道面13Aの母線方向の形状を
図32〜
図34に基づいて説明する。
図32は内輪13の詳細形状を示す部分断面模式図である。
図33は、
図32の領域XXXIIIの拡大模式図である。
図34は、
図32に示した内輪軌道面13Aの母線方向の形状を示す模式図である。
図32および
図33では、円錐ころ12の大端面16側の一部輪郭を2点鎖線で示す。
【0080】
図32〜
図34に示すように、内輪軌道面13Aは、緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状に形成され、逃げ部25A、25Bに繋がっている。緩やかな単一円弧のフルクラウニングの曲率半径Rcは、内輪軌道面13Aの両端でたとえば5μm程度のドロップ量が生じる極めて大きなものである。
図32に示すように、内輪軌道面13Aには逃げ部25A、25Bが設けられているので、内輪軌道面13Aの有効軌道面幅はLGとなる。
【0081】
図33に示すように、大鍔面18の半径方向の外側には、大鍔面18に滑らかに接続する逃げ面18Aが形成されている。逃げ面18Aと円錐ころ12の大端面16との間に形成される楔形隙間によって、潤滑油の引き込み作用を高め、十分な油膜を形成することができる。内輪軌道面13Aの母線方向の形状は、緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状を例示したが、これに限られず、ストレート形状としてもよい。
【0082】
以上では、内輪13の内輪軌道面13Aの母線方向の形状を説明したが、外輪軌道面11Aの母線方向の形状も同様であるので、説明は繰り返さない。
【0083】
ここで、円錐ころ12の転動面12Aを対数クラウニング形状(中央部23はストレート形状)とすると共に、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aをストレート形状又は緩やかな単一円弧のフルクラウニング形状とした本実施形態に至った検証結果を次に説明する。
【0084】
自動車のトランスミッション用円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ62mm、幅18mm)で、ミスアライメントがある低速条件(1速)の場合と、ミスアライメントがない高速条件(4速)の場合とにおける外輪軌道面11Aの接触面圧と、円錐ころ12の転動面12Aの有効転動面幅L(
図28参照)に対する接触楕円の比を検証した。検証に用いた試料を表2に示す。
【0088】
ミスアライメント無しで高速条件では、荷重条件が比較的軽いため、表3に示すように、試料1、試料2のいずれもエッジ面圧(P
EDGE)の発生はない。一方、試料2では、外輪のフルクラウニングのドロップ量が大きく、接触楕円(長軸半径)が短くなるので、接触領域が長い場合に比べて、当り位置の中心Cのばらつきが大きくなり、円錐ころのスキューを誘発しやすくなり、実用不可(NG)とした。
【0089】
一方、ミスアライメントありで低速条件では、高荷重であるため、試料2では、ころ有効転動面幅Lに対する接触楕円の比は100%となり、外輪にはエッジ面圧が発生する。さらに、エッジ当りとなることで、円錐ころの小端面側で接触駆動されるようになることから、大きなスキューを誘発してしまい、実用不可(NG)とした。
【0090】
以上より、スキューを抑制するためには、外輪に大きなドロップ量のフルクラウニングを施すことは好ましくないことが検証され、試料1の有意性が確認できた。
【0091】
<各種特性の測定方法>
窒素濃度の測定方法:
外輪11、ころ12、内輪13などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層11B,12B、13Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ12については、
図28に示した第1測定点31〜第3測定点33のそれぞれの位置から、中心線26と垂直な方向にころ12を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ12の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ12の窒素濃度とする。
【0092】
また、外輪11および内輪13については、たとえば軌道面11A、13Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
【0093】
最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
外輪11および内輪13については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。加熱温度500℃×加熱時間1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
【0094】
また、ころ12については、
図28に示した第1測定点31での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
【0095】
粒度番号の測定方法:
旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
【0096】
クラウニング形状の測定方法:
ころ12のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ12の形状を表面性状測定機により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
【0097】
ころの大端面の曲率半径の測定方法:
図22に示したころ12の大端面16における実曲率半径R
processおよび仮想曲率半径R
virtualは、研削加工により実際に形成された円錐ころに対して任意の方法により測定され得るが、例えば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。表面粗さ測定機を用いた場合には、まず転動軸を中心とする径方向に沿って測定軸を設定し、大端面の表面形状(母線方向の形状)を測定する。得られた大端面プロファイルに、上記頂点C1〜C4および中間点P5およびP6をプロットする。上記実曲率半径R
processは、プロットされた頂点C1、中間点P5および頂点C2を通る円弧の曲率半径として算出される。上記仮想曲率半径R
virtualは、プロットされた頂点C1、中間点P5,P6および頂点C4を通る円弧の曲率半径として算出される。あるいは、大端面16全体の仮想曲率半径R
virtualは、「複数回入力」というコマンドを用いて4点を取った値で近似円弧曲線半径を算出することで決定してもよい。大端面16の母線方向の形状は、直径方向に1回の測定とした。
【0098】
一方で、設定曲率半径Rは、実際の研削加工により得られた円錐ころの各寸法等から、例えばJIS規格等の工業規格に基づいて見積もられる。
【0099】
表面粗さの測定方法:
ころ12の大端面16の算術平均粗さRaは任意の方法により測定できるが、たとえば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。大端面の算術平均粗さRaは、たとえば、ころ12の大端面16に上記測定機のスタイラスを接触させる方法により測定できる。また、大端面16において、大鍔面と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は、当該凸部16Aの任意の4か所について表面粗さ測定機を用いて算術平均粗さRaを測定し、当該4か所の表面粗さの最大値と最小値との差を算出することにより求めることができる。
【0100】
<円錐ころ軸受の作用効果>
本発明者は、円錐ころ軸受に関する以下の事項に着目し、上述した円錐ころ軸受の構成に想到した。
(1)円錐ころの大端面の設定曲率半径と加工後の実曲率半径との比率
(2)円錐ころのスキューを抑制する内外輪の軌道面の形状
(3)円錐ころの転動面への対数クラウニングの適用
(4)円錐ころ、内輪および外輪への窒素富化層の適用
(5)内輪大鍔面への保油穴を利用した潤滑油の供給
以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
【0101】
本開示に従った円錐ころ軸受10は、外輪11と内輪13と複数の円錐ころ12とを備える。外輪11は、内周面において外輪軌道面11Aを有する。内輪13は、外周面において内輪軌道面13Aと、当該内輪軌道面13Aよりも大径側に配置された大鍔面18とを有し、外輪11の内側に配置される。複数の円錐ころ12は、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面13Aと接触する転動面12Aと、大鍔面18と接触する大端面16とを有する。複数の円錐ころ12は、外輪軌道面11Aと内輪軌道面13Aとの間に配列される。
【0102】
保持器14は、周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケット109を含む。保持器14は複数の円錐ころ12の各々を複数のポケット109の各々に収容保持している。保持器14は、小環状部106と大環状部107と複数の柱部108とを含む。小環状部106は、複数の円錐ころ12の小径側で連なる。大環状部107は、複数の円錐ころ12の大径側で連なる。複数の柱部108は、小環状部106と大環状部107とを連結する。小環状部106と大環状部107と複数の柱部108とは複数のポケット109を区画する。大環状部107には保油穴14A,14B,14Cが形成される。保油穴14A,14B,14Cは、ポケット109に面する開口部を含み、潤滑油を保持する。1つのポケット109に面して、複数の保油穴14A,14B,14Cを形成してもよい。
【0103】
外輪11、内輪13および複数の円錐ころ12のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面11A、内輪軌道面13Aまたは転動面12Aの表面層に形成された窒素富化層11B、12B、13Bを含む。表面層の最表面から窒素富化層11B、12B、13Bの底部までの距離は0.2mm以上である。最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層11B、12B、13Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上であってもよい。円錐ころ12の大端面16において、大鍔面18と接触する円周状の表面領域(凸部16A)の算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は0.02μm以下であってもよい。
【0104】
円錐ころ12の大端面16の設定曲率半径をR、円錐ころ12の円錐角の頂点である点O(
図19参照)から内輪13の大鍔面18までの距離をR
BASEとしたとき、設定曲率半径Rと距離R
BASEの比率R/R
BASEの値を0.75以上0.87以下とする。
図22に示すように円錐ころ12の大端面16の研削加工後の実曲率半径をR
processとしたとき、実曲率半径R
processと設定曲率半径Rとの比率R
process/Rが0.5以上である。
【0105】
設定曲率半径Rと距離R
BASEの比率R/R
BASEの値を上述のように設定することで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部において十分な油膜厚さを確保して円錐ころ12と大鍔面18との接触および摩耗の発生を抑制し、当該接触部での発熱を抑制できる。
【0106】
なお、比率R/R
BASEの値については、以下の知見を参考として決定した。
図35は、内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16との間に形成される油膜厚さtを、Karnaの式を用いて計算した結果を示す。縦軸は、R/R
BASE=0.76のときの油膜厚さt0に対する油膜厚さtの比t/t0である。油膜厚さtはR/R
BASE=0.76のとき最大となり、R/R
BASEが0.87を越えると急激に減少する。
【0107】
図36は、内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16間の最大ヘルツ応力Pを計算した結果を示す。縦軸は、
図35と同様に、R/R
BASE=0.76のときの最大ヘルツ応力P0に対する比P/P0で示す。最大ヘルツ応力Pは、R/R
BASEの増大に伴って単調に減少する。内輪13の大鍔面18と円錐ころ12の大端面16間の辷り摩擦によるトルクロスと発熱とを低減するためには、油膜厚さtを厚く、最大ヘルツ応力Pを小さくすることが望ましい。本発明者らは、
図35および
図36の計算結果を参考とし、耐焼付き試験結果および製造時の交差レンジなどを考慮して上記比率R/R
BASEの条件を決定した。
【0108】
また、外輪11、内輪13、円錐ころとしてのころ12の少なくともいずれか1つにおいて窒素富化層11B、12B、13Bが形成されているので、転動疲労寿命が向上して長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受10が得られる。さらに、当該窒素富化層11B、12B、13Bが形成されたことにより焼き戻し軟化抵抗性が向上することから、大端面16と大鍔面18との接触部が滑り接触により昇温された場合でも高い耐焼付き性を示すことができる。窒素富化層12B、13Bは大端面16と大鍔面18との両方に形成されてもよい。窒素富化層12Bは大端面16における上記円周状の表面領域(凸部16A)に形成されていてもよい。
【0109】
上記円錐ころ軸受10では、
図1および
図2に示すように保油穴14Aは大環状部107の内部に位置する底部を含んでいてもよい。異なる観点から言えば、保油穴14Aは大環状部107を貫通しないように構成されている。この場合、大環状部107において保油穴14Aが形成されることで当該保油穴14A内部に潤滑油を保持できるので、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との間に潤滑油を供給できる。さらに、保油穴14Aが大環状部107を貫通していないので、保持器14の大環状部107の強度の低下を抑制できる。
【0110】
上記円錐ころ軸受10では、
図10に示すように、保油穴14Bは、大環状部107においてポケット109と反対側に位置する表面にまで到達するように、大環状部107を貫通していてもよい。この場合、保油穴14Bが貫通穴であるため、当該保油穴14B内部に潤滑油を容易に導入できる。また、保油穴14Bの径方向における幅は、ポケット109と反対側の大環状部107の表面からポケット109側に向けて徐々に大きくなることが好ましい。この場合、円錐ころ軸受10の回転開始時に、保油穴14B内部に保持されていた潤滑油をポケット109側に容易に供給することができる。
【0111】
上記円錐ころ軸受10では、
図14に示すように、大環状部107は、ポケット109に面するポケット側表面部分107Aと、ポケット側表面部分107Aに連なり内輪13に面する内輪側表面部分107Bとを含んでいてもよい。保油穴14Cの開口部は、ポケット側表面部分107Aから内輪側表面部分107Bにまで延在するように形成されていてもよい。この場合、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大つば部41との両方に面する開口部を保油穴14Cが有するため、当該保油穴14Cから円錐ころ12の大端面16と内輪13の大つば部41との接触部へ保油穴14Cから潤滑油を確実に供給できる。
【0112】
上記円錐ころ軸受10において、複数の柱部108には、ポケット109に面する側面に油溝108Aが形成されていてもよい。この場合、当該油溝108Aにおいても円錐ころ軸受10の停止時に潤滑油を保持できる。このため、円錐ころ軸受10の回転開始時に円錐ころ12へ供給できる潤滑油量を増加させることができる。さらに、円錐ころ軸受10の運転時には当該油溝108Aを介して内輪13の大鍔面18へ潤滑油を供給できる。この結果、円錐ころ軸受10の耐焼付き性を向上させることができる。つまり、上述した構成を備えることで、上記円錐ころ軸受10では、回転開始直後と回転中との両方において、耐焼付き性の向上を図ることができるとう相乗効果を得ることができる。
【0113】
上記円錐ころ軸受10において、複数の柱部108と小環状部106との接続部には切欠き部106Cが形成されていてもよい。ポケット109の小環状部106側における周方向の幅は、大環状部107側におけるポケット109の周方向の幅より狭くなっていてもよい。このような切欠き部106Cを設けることにより、保持器14の内径側から内輪13側へ流入する潤滑油を、外輪11側へ速やかに移送することができる。この結果、円錐ころ軸受10の内部に滞留する潤滑油の分量を減らすことができる。この結果、潤滑油の流動抵抗に起因するトルク損失を低減できる。
【0114】
上記円錐ころ軸受10において、保持器14の小環状部106の内周側端面と内輪13との間の距離LSは、内輪13において小環状部106の内周側端面と対向する部分の外周直径Dの1.0%以下であってもよい。この場合、保持器14の小環状部106と内輪13との間の隙間から円錐ころ軸受12側へ流入する潤滑油量を低減できる。この結果、潤滑油の流動抵抗に起因するトルク損失を低減できる。
【0115】
このように、上述した構成を備えることで、回転開始時および回転時の耐焼付き性の向上という効果と、トルク損失の低減という相反する効果を得ることができる。
【0116】
上記円錐ころ軸受10では、保持器14の小環状部106において内輪13と対向する表面には、複数の突起部106Bが形成されていてもよい。この場合、保持器14が保持器14の径方向において移動したときに、当該保持器14と内輪13の小つば部42とが接触した場合、当該突起部106Bが形成されているため、潤滑油のくさび効果によって当該突起部106B近傍に油膜が形成され、保持器14と内輪13との直接的な接触が抑制される。この結果、保持器14と内輪13との直接接触に起因するトルクの増大を抑制できる。
【0117】
上記円錐ころ軸受10では、窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上であってもよい。この場合、旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層11B、12B、13Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させた円錐ころ軸受10を得ることができる。
【0118】
上記円錐ころ軸受10では、円錐ころ12の転動軸の延在方向における転動面の幅をL、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の、上記延在方向における転動面12Aの中点Nから大端面16側へのずれ量をαとしたとき、幅Lとずれ量αとの比率α/Lが0%以上20%未満であってもよい。異なる観点から言えば、当該当たり位置が、転動軸の延在方向における転動面12Aの中央位置または該中央位置よりも大端面16側にあることが好ましい。この場合、当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置よりも小端面側にある場合と比べて、ころにスキューを発生させる接線力の発生位置(大端面16と内輪13の大鍔面18との接点位置)から当該当たり位置までの距離を小さくできるので、円錐ころ12のスキュー角を低減でき、回転トルクの増大を抑制し得る。
【0119】
上記円錐ころ軸受10では、内輪13において、内輪軌道面13Aと大鍔面18とが交わる隅部には逃げ部25Aが形成されていてもよい。この場合、円錐ころ12の転動面12Aにおける大端面16側の端部が逃げ部25Aに位置することで、当該端部が内輪13と接触することを防止できる。
【0120】
上記円錐ころ軸受10では、内輪13の中心軸を通る断面において、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aは直線状または円弧状であってもよい。円錐ころ12の転動面12Aにはクラウニングが形成されてもよい。クラウニングのドロップ量の和は、円錐ころ12の転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K
1,K
2,z
mを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころ12の転動面12Aの母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K
1Q/πLE’としたときに、式(1)で表されてもよい。
【0122】
この場合、ころ12の転動面12Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ12の転動面12Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
【0123】
また、内輪13の中心軸を通る断面において、内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aが直線状または円弧状となっており、円錐ころ12の転動面12Aは中央部がたとえばストレート面となっており当該ストレート面に連なっていわゆる対数クラウニングが設けられているので、円錐ころ12の転動面12Aと内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aとの接触領域の寸法(たとえば接触楕円の長軸寸法)を長くすることができ、結果的にスキューを抑制できる。さらに、内輪軌道面13Aまたは外輪軌道面11Aと転動面12Aとの当たり位置のばらつきを小さくできる。
【0124】
また、上述のように転動面12Aと内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aとの接触領域の寸法(たとえば接触楕円の長軸寸法)を長くすると、モーメント荷重が作用するような使用条件ではころに従来のようなフルクラウニングを形成している場合、母線方向の端部においてエッジ面圧が発生する恐れがある。しかし上記円錐ころ軸受10では円錐ころ12に対数クラウニングが適用されているため、必要な接触領域の寸法を確保しつつ、このようなエッジ面圧の発生を抑制できる。
【0125】
ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。
図37は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。
図38は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。
図37および
図38の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。
図37および
図38の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。
図37および
図38の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
【0126】
円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、
図38に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、油膜切れや表面損傷を招く恐れがある。十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
【0127】
そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば
図37に示すように、
図38の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、
図37及び
図38には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受10を実現できる。
【0128】
上記円錐ころ軸受10において、実曲率半径R
processと設定曲率半径Rとの比率R
process/Rが0.8以上であってもよい。円錐ころ軸受10が極めて厳しい潤滑環境下で使用された場合、上記比率R
process/Rを0.8以上とすることで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部における油膜厚さを十分に厚くできる。
【0129】
上記円錐ころ軸受10において、円錐ころ12の大端面16の算術平均粗さRaが0.10μmRa以下であってもよい。この場合、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部における油膜厚さを十分に確保できる。
【0130】
ここで、円錐ころ12のスキュー角と比率R/R
BASEとの関係について検討する。比率R/R
BASEは、円錐ころ12の大端面16が、設定した理想的な球面(加工誤差を含まない)での接触状態であることを条件とする。比率R/R
BASEと円錐ころ12のスキュー角との関係を表4に示す。
【0132】
表4に示すように、ころのR/R
BASE比が小さくなる程、スキュー角は大きくなる。一方、すでに説明した
図4のころ12の大端面16の曲率半径Rは大端面16が理想的な球面でできていた時の曲率半径であり、大端面16は
図21に示すようにR152=R364=R1564という条件が成り立つ、理想的な単一円弧曲線となる。しかし、実際には
図22に示すように円錐ころ12の大端面16は、円錐ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部とならない。
図22に示すように、大端面16全体のR1564に対して片側のR152は同一ではなく、R1564より小さくなる。
【0133】
図22に示すようにころ12の大端面16における両端面がだれた場合、大端面16と内輪13の大鍔面18とは大端面16の片側(凸部16A)においてしか接触しない。このため、計算上の大端面16のR寸法はR152(
図22の実曲率半径R
process)となり、理想的なR寸法(設定曲率半径R)に対して小さくなる(比率R
process/Rが小さくなる)。この結果、大鍔面18と大端面16との接触面圧が上昇すると同時にスキュー角も増加する。スキュー角が増大すると、ころ12と大鍔面18との接触部で生じる接触楕円が大鍔面18をはみ出すことで油膜が切れ、結果的にかじり疵や焼付きが発生する場合がある。
【0134】
ここで、潤滑状態が十分ではない環境下では、ころ12のスキュー角が増加し、更に大鍔面18と大端面16との接触部における接触面圧も上昇すると、ころ12と大鍔面18間の油膜パラメータΛが低下する。油膜パラメータΛが1を切ると金属接触が始まる境界潤滑となる。この結果、ころ12の大端面16と内輪の大鍔面18との接触部では摩耗が生じ始め、この状態が続くと更に摩耗が促進され、焼付きの発生の懸念が高まる。
【0135】
ここで、油膜パラメータΛとは「弾性流体潤滑理論により求まる油膜厚さhところの大端面および内輪の大鍔面の二乗平均粗さの合成粗さσとの比」で定義される。すなわち油膜パラメータΛ=h/σである。また、算術平均粗さRaと自乗平均粗さRqには一般にRq=1.25Raの関係があり、ころの大端面の自乗平均粗さをRq
1と、大鍔面の自乗平均粗さをRq
2とすると、合成粗さσはこのRqを用いて、σ=√((Rq
12+Rq
22)/2)と表せる。
【0136】
油膜パラメータΛは合成粗さσに依存し、σの値が小さいほど油膜厚さを厚くすることができる。このため、ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18の表面粗さは超仕上げ相当の粗さであり、σの値は0.09μmRq以下であることが望ましい。
【0137】
上述した研削加工に伴う、設定曲率半径Rと円錐ころの大端面の曲率半径(実曲率半径R
ACTUAL)の差による影響についての検討結果より、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比に着目し、大端面と大つば面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータとの関係を検証した。さらに、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲の検証には、すべり接触となる内輪の大つば面と円錐ころの大端面との間の潤滑油使用温度のピーク時における潤滑状態の厳しさのレベルが影響することが判明した。
【0138】
このため、内輪の大つば面と円錐ころの大端面との間の潤滑油使用温度のピーク時における潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標を次のように検討した。
(1)内輪の大つば面と円錐ころの大端面との間の潤滑状態は、大つば面は円錐面のため直線状で一定であるので、円錐ころの大端面の曲率半径(実曲率半径R
ACTUAL)と潤滑油の使用温度により決まることに着目した。
(2)また、トランスミッションやデファレンシャルの用途では、使用される潤滑油は基本的に決まっているため、その潤滑油の粘度も決まってくることに着目した。
(3)そして、潤滑油使用温度のピーク時の最大条件として、120℃で3分(180秒)間継続する極めて厳しい温度条件を想定した。この温度条件は、ピーク時の最大条件であり、おおよそ3分を経過すれば、定常状態に戻るという意味を有し、この温度条件を本明細書において「想定ピーク温度条件」という。この「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態において急昇温を生じない実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比を設定するための閾値が求められることを見出した。
【0139】
以上の知見に基づいて、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度を加味した潤滑状態により、潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標が次式で求められることを考案した。この指標を本明細書において「つば部潤滑係数」という。
「つば部潤滑係数」=120℃粘度×(油膜厚さh)
2/180秒
ここで、油膜厚さhは、Karnaの以下の式から求められる。
【0141】
次に、本発明の実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受を説明する。本実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受は、一般的な円錐ころ軸受に比べて、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態の厳しさのレベルが、若干緩和されたレベルで使用されることと、円錐ころの大端面の実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲が拡大された点が異なる。その他の構成及び技術内容については、上述した実施の形態に係る円錐ころ軸受と同じであるので、上述した実施の形態に係る円錐ころ軸受に関する説明のすべての内容を準用し、相違する点のみ説明する。
【0142】
本実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受では、デファレンシャルによく使用されるギヤオイルであるSAE 75W−90を試料とし、「つば部潤滑係数」を算出した。75W−90の120℃粘度は10.3cSt(=10.3mm
2/s)で、式(2)より求めた油膜厚さhは、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の各値に対して表5のとおりである。
【0144】
75W−90の120℃粘度は、VG32に比べて若干高く、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態は、上述した実施の形態の場合に比べて若干緩和された条件となる。この潤滑状態を本明細書において「厳しい潤滑状態」という。
【0145】
本発明の実施の形態の変形例に係る円錐ころ軸受について、回転試験機を用いた耐焼付き試験を実施した。耐焼付き試験の試験条件は以下のとおりである。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシャル荷重7000N
・回転数:7000min
−1
・潤滑油:SAE 75W−90
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大つば面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表6に示す。表6は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径R
ACTUALが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
【0147】
表6中の試験結果(1)〜(6)、総合判定(1)〜(6)の詳細を表7に示す。
【0149】
表6および表7の結果より、デファレンシャル等のギヤオイルである75W−90が使用される「厳しい潤滑状態」では、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rは、0.5以上であることが望ましいという結論に至った。したがって、本実施の形態は、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rを0.5以上としている。このように、潤滑状態の厳しさのレベルを表す指標として「つば部潤滑係数」を導入することにより、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の実用可能な範囲を拡大することができる。これにより、使用条件に応じて、適正な軸受仕様を選定することができる。
【0150】
ただし、本実施形態の円錐ころ軸受は、デファレンシャル用途に限定されるものではなく、トランスミッションやその他の「厳しい潤滑状態」の用途に適用することができる。
【0151】
実用可能な実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比を設定する際、閾値近辺のみを試験確認してもよい。これにより、設計工数を削減できる。なお、表6の「厳しい潤滑状態」では、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rが0.4の場合でも十分な「つば部潤滑係数」が得られたが、表6よりも若干粘度の低い潤滑油を使用するような「厳しい潤滑状態」において、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rが0.4の場合では、閾値8×10
−9以上を満足しない可能性が考えられ、かつ、スキュー角も大きくなってしまうため、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rとしては0.5以上が適正である。
【0152】
また、本発明の実施の形態の他の変形例に係る円錐ころ軸受について、トランスミッションによく使用される潤滑油であるタービン油ISO粘度グレード VG32を試料とし、「つば部潤滑係数」を算出した。VG32の120℃粘度は7.7cSt(=7.7mm
2/s)で、油膜厚さhは式(2)より求めた。実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、油膜厚さhは表8のとおりである。
【0154】
VG32の120℃粘度は低く、「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度を加味した潤滑状態は極めて厳しい条件となる。この潤滑状態を本明細書において「極めて厳しい潤滑状態」という。
【0155】
併せて、回転試験機を用いた耐焼付き試験を実施した。耐焼付き試験の試験条件は以下のとおりである。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシャル荷重7000N
・回転速度:7000min
−1
・潤滑油:タービン油ISO VG32
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大つば面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表9に示す。表9は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径R
ACTUALが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
【0157】
表9中の試験結果(1)〜(6)、総合判定(1)〜(6)の詳細を表10に示す。
【0159】
表9、表10の結果より、トランスミッションオイルである低粘度のVG32が使用される「極めて厳しい潤滑状態」では、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rは、0.8以上であることが望ましいという結論に至った。したがって、本実施の形態の他の変形例に係る円錐ころ軸受では、実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rを0.8以上としている。
【0160】
ただし、上述した円錐ころ軸受は、トランスミッション用途に限定されるものではなく、デファレンシャルやその他の「極めて厳しい潤滑状態」の用途に適用することができる。
【0161】
表9、表10の結果から次のことが判明した。算出した「つば部潤滑係数」と耐焼付き試験の結果を照合すると、「つば部潤滑係数」が8×10
−9を超えるように実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rを設定すると実用可能であることが確認できた。これにより、実用可能な実曲率半径R
ACTUALと設定曲率半径Rとの比R
ACTUAL/Rを設定するための閾値として「つば部潤滑係数」=8×10
−9を用いることができる。
【0162】
<円錐ころ軸受の製造方法>
図39は、
図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図40は、
図39の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。
図41は、
図40に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。以下、円錐ころ軸受10の製造方法を説明する。
【0163】
図39に示すように、まず部品準備工程(S100)を実施する。この工程(S100)では、外輪11、内輪13、ころ12、保持器14などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ12となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は
図13の点線で示した加工前表面12Eとなっている。
【0164】
次に、熱処理工程(S200)を実施する。この工程(S200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪11、ころ12、内輪13、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層11B、12B、13Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S200)における熱処理パターンの一例を
図40に示す。
図40は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。
図41は、焼入れ途中で材料をA
1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T
1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A
1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T
2において、処理T
1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
【0165】
上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層11B、12B、13Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、
図25に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、
図24に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0166】
次に、加工工程(S300)を実施する。この工程(S300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ12については、
図29に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング22Aおよび面取り部21を形成する。
【0167】
次に、組立工程(S400)を実施する。この工程(S400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、
図1に示した円錐ころ軸受10を得る。このようにして、
図1に示した円錐ころ軸受10を製造することができる。
【0168】
<円錐ころ軸受の用途の例>
次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。
図42は、上述した円錐ころ軸受10を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受10a、10bで支持されている。
【0169】
図43は、実施の形態に係る円錐ころ軸受を備えるマニュアルトランスミッションの一部構成を示す概略断面図である。
図43に示すように、マニュアルトランスミッション100は、エンジンの回転が入力されて外周にギア114が形成された入力シャフト111と、入力シャフト111と同軸に設けられた出力シャフト112とを有している。入力シャフト111は、円錐ころ軸受10によって、ハウジング115に対して回転可能に支持されている。
【0170】
上述のように、マニュアルトランスミッション100は、回転部材としての入力シャフト111をこれに隣接して配置されるハウジング115に対して回転可能に支持するために、円錐ころ軸受10を備えている。このように、上記実施の形態に係る円錐ころ軸受10は、マニュアルトランスミッション100内において使用することができる。そして、長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受10は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。なお、円錐ころ軸受10は、オートマティックトランスミッションに使用されてもよい。
【0171】
ところで、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、省燃費化のために、潤滑油(オイル)の粘度を低下させたり、少油量化を図る傾向にあり、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。このため、自動車用の円錐ころ軸受では、寿命の向上が要求されている。よって、寿命が向上した上記の円錐ころ軸受10をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
【0172】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。