【実施例】
【0041】
実験例1:CHAPSによる生体組織の透明化の評価
CHAPSのみを含む生体組織透明化剤に生体組織を接触させた際に、生体組織の透明化が容易に誘導されるか否かを評価するために、以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0042】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。マウスの血管を染色するために、レクチン−488(カタログ番号:DL1174)を尾静脈から注射した。注射5分後、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、次いで4%PFAを含む氷冷したPBSを再び灌流させた。器官を抽出し、4%パラホルムアルデヒドおよびPFA溶液に浸漬し、4℃で12時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは−20℃〜40℃である。
【0043】
次いで、サンプル(3mmの厚さ)を50mlのPBSで2回洗浄した。上記したプロセスによって固定されたサンプルを、40%のCHAPS水溶液(DW中に40%のCHAPS)中で、37℃で、120rpmで、5日間インキュベートした。対照として、固定されたサンプルは、PBS中で、37℃で、120rpmで、5日間インキュベートした。結果を
図1および
図2に示す。
【0044】
図1は、マウスがPBSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されなかったことを示す写真である。
図2は、マウスがCHAPSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されたことを示す写真である。
【0045】
図1および
図2に示されるように、CHAPSでマウスの脳のみを処理した場合、マウスの脳の透明化は有意に誘導された。加えて、CHAPSの処理は、組織のサイズにおけるいかなる変化をも引き起こさなかったので、そのことから、CHAPSは、組織の変性またはいかなる損傷をも引き起こすことなく、生体組織の透明化を誘導できることが確認できた。
【0046】
実験例2:CHAPSおよび尿素による生体組織の透明化の評価
CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤に生体組織を接触させた際に、生体組織の透明化が容易に誘導されるか否かを評価するために、以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0047】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。マウスの血管を染色するために、レクチン−488(カタログ番号:DL1174)を尾静脈から注射した。注射5分後、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、次いで4%PFAを含む氷冷したPBSを再び灌流させた。器官を抽出し、4%パラホルムアルデヒドおよびPFA溶液に浸漬し、4℃で12時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは−20℃〜40℃である。
【0048】
次いで、サンプルを50mlのPBSで2回洗浄した。固定されたサンプルを、CHAPS(20w/v%)および尿素(60w/v%)を含むPBS中で、37℃で、220rpmで、3日間インキュベートした。結果を
図3に示す。
【0049】
図3は、本発明の組織透明化方法によってマウスの脳の透明化が誘導される前と誘導された後を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化が誘導される前のマウスの脳を示し、右側の写真は、透明化が誘導された後のマウスの脳を示す。
【0050】
マウスの脳を20%CHAPS(w/v%)および60%尿素(w/v%)からなるPBS混合溶液から3次(tertiary)蒸留水に移し、次いで、マウスの脳を50mlの3次蒸留水で、12時間の間、3回洗浄した。マウスの脳をCHAPSと尿素の混合溶液(マウント溶液)に移し、マウス脳の透明化を観察した。結果を
図4に示す。
【0051】
図4は、本発明の組織透明化方法によって透明化が完了したマウスの脳およびマウスの脳における蛍光強度を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化プロセスが完了したマウスの脳を示し、右側の写真は、紫外線(UV)を用いて観察された、透明化プロセスが完了したマウスの脳におけるGAD67−GFP(グルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP)蛍光の強度を示す。
【0052】
図3および4に示されるように、CHAPSおよび尿素を含有する生体組織透明化剤は、生体組織の変性を引き起こすことなく、同生体組織の迅速な透明化を誘導したことが確認できた。
【0053】
実験例3:CHAPSおよび尿素により透明化された生体組織の蛍光画像の評価
本発明の透明化方法により透明化された脳の蛍光を調べるために、光学顕微鏡(Leica製)の下で1Xの対物レンズを用いて免疫染色された蛍光および緑色蛍光タンパク質(GFP)シグナルがマウスの脳で確認された。結果を
図5に示す。
【0054】
図5は、マウスをコリンアセチルトランスフェラーゼ抗体で処理した後に観察された、実験例2で行った透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の蛍光画像を示す一組の写真であり、左側の写真はGAD67−GFPの蛍光画像を示し、右側の写真は、Alexa fluor−647の蛍光画像を示す。
【0055】
図6、
図7および
図8は、5Xおよび20Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳における免疫染色画像およびGFPシグナルを示す写真である。
【0056】
図9は、5Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、チロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の重ね合わせ蛍光画像を示す写真である。
【0057】
図10は、レクチン−647抗体でマウスを処理した後に観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPの重ね合わせ蛍光画像を示す写真である。
【0058】
図11は、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳をチロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理し、ロバ抗ウサギIgG Alexa fluor−647でマウスの脳を染色した後に得られた蛍光画像を示す写真である。
【0059】
上記した結果から、本発明の透明化方法によって透明化された脳は、蛍光画像によって確認できることは明らかである。
実験例4:CHAPSおよび尿素の濃度に従う生体組織の透明化の程度の評価
CHAPSおよび尿素を含有するPBS混合溶液中のCHAPSおよび尿素の濃度の変化によって生体組織の透明化が影響を受けるかどうかについて調べるために以下の実験を実施した。
【0060】
実験例2において、20%のCHAPS(w/v%)および60%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液を使用した(20C+60U%)。この例では、マウスの脳の透明化は、実験例2に記載した方法と同じ方法によって誘導したが、例外的に、10%のCHAPS(w/v%)および65%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液(10C+65U%)および40%のCHAPS(w/v%)および45%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液(40C+45U%)も使用した。結果を
図12に示す。
【0061】
図12は、CHAPSおよび尿素を含むPBS混合溶液中のCHAPSおよび尿素の濃度に従って生体組織の透明化の程度の変化を示す一組の写真である。
図12に示されるように、仮にCHAPSまたは尿素の濃度が変更された場合でも、CHAPSおよび尿素を含むPBS混合溶液において、組織の変性を引き起こすことなく、マウスの脳の透明化を誘導した。
【0062】
実験例5:透明化の誘導におけるCHAPSおよび尿素を含む組成物の優位性の確認
実験例2と同様の方法で生体組織の透明化が誘導されたときに、CHAPSとともに尿素の代わりにスクロースまたはグリセロールを使用し、生体組織の透明化の比較のために対照群の調製を誘導した。生体組織の透明化は、尿素のみを使用することによっても誘導された。さらに、処理を行っていない、未処理群の生体組織も観察した。結果を
図13乃至17に示す。
【0063】
図13は、未処理対照群の生体組織の画像を示す写真である。
図14は、20w/v%CHAPSおよび50w/v%スクロースを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
【0064】
図15は、20w/v%CHAPSおよび75w/v%グリセロールを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図16は、20w/v%CHAPSおよび50w/v%尿素を使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
【0065】
図17は、60w/v%尿素を含有するPBSを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図13乃至17に示されるように、CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤で生体組織の透明化を誘導するとき、スクロースまたはグリセロールを含む生体組織を透明化するための組成物、あるいは尿素のみを含む生体組織透明化剤を使用した場合と比較して、タンパク質変性を引き起こすことなく、透明化が迅速に誘導された。
【0066】
特に、CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤を用いて生体組織の透明化を誘導したところ、いかなる組織の変性をも引き起こすことなく、透明化が5日以内に完了した(
図16)。尿素のみを含む組織透明化剤を用いて生体組織の透明化を誘導したところ、脳の組織は構造的損傷を有し、20日後でさえ、透明化の程度が比較的低減した(
図17)。
【0067】
一方、CHAPSのみで処理した場合(
図2)と尿素のみで処理した場合(
図17)との比較によって、CHAPSのみで処理したときには組織は透明化されたのみならずそのサイズにおける変化もなかったことが確認でき、そのことは脳の組織が損傷を受けなかったことを示す一方で、尿素のみで処理することによって組織のサイズは増大しており、そのことは脳の組織が損傷を受けたことを示している。
【0068】
実験例6:サッカライドでの前処理からの保存された組織およびタンパク質構造の状態にて生体組織の透明化の確認
サッカライドの前処理に従う組織透明化の程度に任意の変化があるかどうかについて以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0069】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。次いで、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、そして氷冷した4%PFA(パラホルムアルデヒド)で再び灌流させた。器官を抽出し、4%PFA(水溶液)に浸漬し、その後、4℃で24時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは0℃〜10℃である(固定ステップ)。
【0070】
次いで、サンプル(器官)を40%スクロース溶液中にて、0℃〜10℃で24時間インキュベートした。このとき、スクロースの濃度(40%)は水溶液を用いたw/v%(重量/体積%)で表した(前処理ステップ)。
【0071】
対照群について、前処理ステップを実施することなく、固定ステップを実施した。
図18は、固定ステップと前処理ステップの両方が完了したマウスの脳の画像と、固定ステップのみが完了したマウスの脳の画像とを示す一組の写真である。
図18の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0072】
サンプルの組織は、20w/v%のCHAPS、50w/v%の尿素および50mMのアジ化ナトリウムを含む混合溶液中で、35℃で100rpmで、5時間または48時間インキュベートした(透明化ステップ)。
【0073】
このとき、前記CHAPSは、本発明の式1に示された化合物またはその水和物を指す。
図19は、5時間の間、固定ステップ、前処理ステップおよび透明化ステップのすべてのステップを完了したマウスの脳の画像と、前処理ステップを行わずに固定ステップおよび透明化ステップを完了した対照群マウスの脳の画像と、を示す一組の写真である。
図19の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0074】
図20は、48時間の間、固定ステップ、前処理ステップおよび透明化ステップのすべてのステップを完了したマウスの脳の画像と、前処理ステップを行わずに固定ステップおよび透明化ステップを完了した対照群マウスの脳の画像と、を示す一組の写真である。
図20の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0075】
図19および
図20に示されるように、組織透明化をCHAPSおよび尿素で誘導されたとき、蛍光強度は、スクロースで前処理されなかったマウスの脳と比較して、スクロースで前処理されたマウスの脳では維持された。一方、GFP蛍光の強度は、スクロースで前処理されていないマウスの脳においては低減されていた。GFP蛍光の低減は、タンパク質の構造が損傷されたことを示している。よって、スクロースによる前処理は、タンパク質の構造を維持するための重要なステップであった。
【0076】
従って、本発明のサッカライド前処理のステップを含む、生体組織のための透明化方法は、サッカライド前処理のステップを含んでいない生体組織のための透明化方法と比較して、タンパク質の構造を維持する上において、きわめて効果的であることが確認できた。
【0077】
実験例7:洗浄プロセス後の生体組織の透明化の確認
以下の実験は、実験例6において透明化された組織を再び洗浄および透明化したとき、サッカライド前処理を行う場合と行わない場合の組織透明化の程度の変化を調べるために実施した。
【0078】
実験例5で透明化された組織は、50mlの滅菌蒸留水中で、0℃〜10℃にて、20rpmにて24時間インキュベートして、その間、滅菌蒸留水は3回交換した(
図21)。
【0079】
その後、20w/v%のCHAPS、50w/v%の尿素および50mMのアジ化ナトリウムを含む混合水溶液中にて、35℃にて、100rpmにて24時間インキュベートした(
図22)。
【0080】
図22に示されるように、組織を洗浄した後に組織を再び透明化溶液中に装填させた時、組織の透明化が著しく改善された。従って、洗浄プロセスもまた組織の透明化において非常に重要であった。さらに、スクロースで前処理されたマウスの脳における蛍光強度は、その洗浄および透明化を実施した後でさえも維持されていた。一方、スクロースで前処理をしていないマウスの脳におけるGFP蛍光の強度は低減していた。GFP蛍光の低減は、タンパク質の構造が損傷を受けたことを示している。従って、スクロースの前処理は、タンパク質の構造を維持するために重要なステップであったことが確認できた。
【0081】
上記の結果から、本発明に従う40%スクロースでの前処理は、タンパク質および組織を生体組織の透明化のための組成物によって損傷を受けないように保護する上で、そして透明化された組織の蛍光を維持する上で極めて効果的であったことが確認できた。
【0082】
上述の記載に開示された概念および特定の実施形態は、本発明の同一の目的を実施するために、他の実施形態に改変または設計するための基礎として容易に使用できることを当業者は理解するであろう。そのような同等の実施形態は、添付された特許請求の範囲に記載されたように、本発明の精神および範囲から逸脱するものではないことも当業者は理解するであろう。