特許第6608983号(P6608983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6608983生体組織を透明化するための組成物および同組成物を用いる生体組織の透明化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6608983
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】生体組織を透明化するための組成物および同組成物を用いる生体組織の透明化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/30 20060101AFI20191111BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20191111BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   G01N1/30
   G01N1/28 J
   G01N33/48 P
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-65661(P2018-65661)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-185297(P2018-185297A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0051443
(32)【優先日】2017年4月21日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0105551
(32)【優先日】2017年8月21日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510256159
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】パク ソン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム キ−ソク
(72)【発明者】
【氏名】ナム デ−ファン
【審査官】 永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−049101(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/147812(WO,A1)
【文献】 Etsuo A. Susaki, et al.,Whole-Brain Imaging with Single-Cell Resolution Using Chamical Cocktails and Computation Anlysis,Cell,米国,2014年 4月24日,157,p.726-739
【文献】 久野朗広,マウス全脳・全身を透明化し1細胞解像度で観察する新技術を開発,化学と生物,日本,2015年,Vol.53, No.11,p.737-740
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/30
G01N 1/28
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式1によって示される化合物またはその水和物を有効成分として含む生体組織を透明化するための組成物。
【化1】
【請求項2】
生体組織を透明化するための組成物は、尿素、CHAPSO(3−([3−コラミドプロピル]ジメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、スクロース、フルクトース、グリセロール、ジアトリゾ酸、Triton(登録商標)X−100、Tween(登録商標)−20、2,2’−チオジエタノール、イオヘキソール、抱水クロラールからなる群より選択される1つ以上の化合物をさらに含む、請求項1に記載の生体組織を透明化するための組成物。
【請求項3】
固定化された生体組織を請求項1に記載の生体組織を透明化するための組成物と接触させることによる生体組織を透明化するステップを含む、生体組織のための透明化方法。
【請求項4】
生体組織は、脳、血管、肝臓、肺、腎臓、膵臓および腸からなる群より選択される、請求項3に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項5】
固定化された生体組織は、パラホルムアルデヒド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、グルタルアルデヒドおよびポリアクリルアミドからなる群より選択される1以上の材料で固定化されている、請求項3に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項6】
生体組織のための透明化方法は、4℃〜50℃の温度にて実施される、請求項3に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項7】
固定化された生体組織をサッカライド溶液で前処理するステップと、前処理された組織を、請求項1に記載の生体組織を透明化するための組成物と接触させるステップによる、生体組織を透明化するステップと、を含む、生体組織のための透明化方法。
【請求項8】
サッカライドは、モノサッカライド、ジサッカライドおよびポリサッカライドからなる群より選択される1以上の材料である、請求項7に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項9】
前記モノサッカライドは、フルクトース、ガラクトース、グルコースまたはマンノースであり、前記ジサッカライドは、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノースまたはセロビオースであり、前記ポリサッカライドは、デキストラン、ジエチルアミノエチル−デキストラン、デキストリン、セルロースまたはβ−グルカンである、請求項8に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項10】
前記サッカライド溶液は、サッカライドを含有する水溶液である、請求項7に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項11】
前記サッカライド溶液中のサッカライドの濃度は、10〜70w/v%である、請求項7に記載の生体組織のための透明化方法。
【請求項12】
サッカライド溶液を含有する生体組織を透明化するための前処理組成物と、請求項1に記載の生体組織を透明化するための組成物と、を含む、生体組織を透明化するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の透明化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織透明化技術は、生体組織の内部構造およびタンパク質分布の確認に有用である。特に、この技術は、組織構造のより深部の観察、および様々なシステムからの統合された構造および分子情報へのアプローチを可能にする。従って、様々な方法を用いて組織を透明化する技術が開発されている。
【0003】
組織を透明化するための従来の方法としては、Spalteholz法、BABB法、Scale S法およびiDISCO法といった例を挙げることができ、それらは有機溶媒を用いて組織を透明化する方法、ACT(Active CLARITY技術)、ポリマー注入法である。ACTを除く上述の方法は、蛍光および抗原の保存性が低いという欠点を有する。ACTは、少なくとも90%の抗原保存性を有し、それは、CLARITYのようなヒドロゲルポリマーを固定タンパク質に結合させることを必要とする方法よりもずっと高い方法である。しかしながら、この方法における強力な組織固定プロセスは、抗原性の喪失を引き起こし、抗体の可能性に限界を生じる。したがって、技術を向上させる必要がある。
【0004】
最近開発された「CLARITY」に基づく組織透明化技術では、ヒドロゲルを組織に添加し、脂質を選択的に除去することにより、DNAやタンパク質などの診断のための重要な物質を保持する一種の組織網目状支持体が創出されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記した「CLARITY」に基づく技術を使用するためには、ヒドロゲル支持体を組織に導入する必要がある。このとき、ヒドロゲルの濃度が高すぎると、タンパク質との結合度が高まり、より緻密な網目構造が形成され、組織が硬くなる。組織が硬くなると、脂質は界面活性剤によって逃げにくくなり、それは、透明化に要する時間がより長くなることを示している。さらに、上記の方法は、組織表面上に空気および黒色粒子を堆積させるか、または組織を黄色に変色させるという別の問題を有する。
【0006】
さらに、「CLARITY」に基づく上記した技法は非常に複雑であり、多くの追加の装置を必要とする。例えば、脳のみを透明化するためには、3000万大韓民国ウォン以上の費用を要する。この方法は、一度に1つずつ透明化することができるものであり、つまり、仮に脳を透明化しようとする場合、脳のみを透明化することができるものであり、それは、同方法が経済的ではなく時間がかかることを意味している。より大きな問題は、抗体染色材料がポリアクリルアミド網目構造を通過しにくいという点である。
【0007】
したがって、ポリアクリルアミドを使用せずに組織の透明化を誘導する過程で組織の構造およびタンパク質を損傷することなく生体組織を透明化するための新規な技術を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/108359号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生体組織を変性させることなく、迅速な組織の透明化を可能にする、生体組織を透明にするための組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、変性させることなく、迅速な組織の透明化を可能にする、生体組織のための透明化方法を提供することにある。
【0010】
本発明の目的はまた、サッカライド溶液で前処理するステップを含む、生体組織のための透明化方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、生体組織の透明化を容易にする、生体組織を透明化するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明は、以下の式1にて示される化合物あるいは同化合物の水和物を含む、生体組織を透明化するための組成物を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
加えて、本発明は、固定された生体組織に本発明の組成物を接触させることにより、同固定された生体組織を透明にするステップを含む、生体組織のための透明化方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、固定された生体組織をサッカライド溶液で前処理するステップと、本発明の生体組織を透明にするために、前処理された組織を組成物に接触させることにより生体組織を透明化するステップとを含む、生体組織のための透明化方法を提供する。
【0015】
加えて、本発明は、サッカライド溶液を含有する生体組織を透明化するための前処理用組成物と、生体組織を透明化するための組成物と、を含む生体組織を透明化するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のCHAPSを含む、生体組織透明化剤を用いる、生体組織のための透明化方法は、組織を変性させることなる同組織の迅速な透明化を可能にするのみならず、透明化剤の処理の前に、サッカライド溶液での前処理を利用することにより優れた組織透明効果を誘導することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】マウスがPBSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されなかったことを示す写真である。
図2】マウスがCHAPSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されたことを示す写真である。
図3】本発明の組織透明化方法によってマウスの脳の透明化が誘導される前と誘導された後を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化が誘導される前のマウスの脳を示し、右側の写真は、透明化が誘導された後のマウスの脳を示す。
図4】本発明の組織透明化方法によって透明化が完了したマウスの脳およびマウスの脳における蛍光強度を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化プロセスが完了したマウスの脳を示し、右側の写真は、紫外線(UV)を用いて観察された、透明化プロセスが完了したマウスの脳におけるGAD67−GFP(グルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP)蛍光の強度を示す。
図5】マウスをコリンアセチルトランスフェラーゼ抗体で処理した後に観察された、実験例2で行った透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の蛍光画像を示す一組の写真であり、左側の写真はGAD67−GFPの蛍光画像を示し、右側の写真は、Alexa fluor−647の蛍光画像を示す。
図6】5Xおよび20Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳における免疫染色画像およびGFPシグナルを示す写真である。
図7】5Xおよび20Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳における免疫染色画像およびGFPシグナルを示す写真である。
図8】5Xおよび20Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳における免疫染色画像およびGFPシグナルを示す写真である。
図9】5X対物レンズを用いて顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、チロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の重ね合わせ(combined)蛍光画像を示す写真である。
図10】レクチン−647抗体でマウスを処理した後に観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPの重ね合わせ蛍光画像を示す写真である。
図11】実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳をチロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理し、ロバ抗ウサギIgG Alexa fluor−647でマウスの脳を染色した後に得られた蛍光画像を示す写真である。
図12】CHAPSおよび尿素を含むPBS混合溶液中のCHAPSおよび尿素の濃度に従って生体組織の透明化の程度の変化を示す一組の写真である。
図13】未処理対照群の生体組織の画像を示す写真である。
図14】20w/v%CHAPSおよび50w/v%スクロースを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図15】20w/v%CHAPSおよび75w/v%グリセロールを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図16】20w/v%CHAPSおよび50w/v%尿素を使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図17】60w/v%尿素を含有するPBSを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図18】スクロースで前処理された固定マウス脳とスクロースで処理されていない固定マウス脳との間のマウス脳の比較の結果を示す一組の写真である。図18の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
図19】スクロースで前処理するとともに透明化剤を用いる5時間の透明化プロセス完了時の固定マウス脳と、透明化剤を用いる5時間の透明化プロセス完了時の固定マウス脳との間のマウスの脳の比較の結果を示す一組の写真である。図19の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
図20】スクロースで前処理するとともに透明化剤を用いる48時間の透明化プロセス完了時の固定マウス脳と、透明化剤を用いる48時間の透明化プロセス完了時の固定マウス脳との間のマウスの脳の比較の結果を示す一組の写真である。図20の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
図21】滅菌蒸留水中での脳のインキュベーション後に観察された、透明化で処理されたマウス脳の画像を示す一組の写真である。図21の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
図22】滅菌蒸留水で脳を洗浄したのちに透明化剤を用いることによってマウス脳に誘導された透明化の結果を示す一組の写真である。図22の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施形態の用途は、添付する図面を参照して最良に理解される。
本発明は、以下において、詳細に記載される。
本発明の一態様において、本発明は、以下の式1にて示される化合物あるいは同化合物の水和物を含む、生体組織を透明化するための組成物を提供する。
【0019】
【化2】
【0020】
本発明の生体組織を透明化するための組成物は、以下において、より詳細に記載される。
本発明の生体組織を透明化するための組成物は、光の透過を阻止する脂質成分および他の分子を生体組織から除去し、タンパク質の構造的変性を引き起こすことなく、かつ組織の引き締めを提供する。
【0021】
本発明の生体組織を透明化するための組成物において、式1によって示される化合物の濃度は、好ましくは2〜55w/v%(重量/体積%)であり、より好ましくは4〜50w/v%である。このとき、濃度を示す溶液としては、当該技術分野にて使用される擬似体液を用いることができ、同疑似体液としては、より正確には、蒸留水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)およびTBS(トリス緩衝液)が例示されるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0022】
式1によって示される化合物の濃度が2w/v%未満である場合、生体組織の透明化の速度は著しく遅くなるであろう。仮に化合物の濃度が55w/v%を超える場合、式1によって示されるCHAPSは完全には溶解しないであろう。
【0023】
さらに、本発明の生体組織を透明化するための組成物は、浸透圧を制御することによって生体組織の透明化を促進し得る物質をさらに含んでいてもよい。このとき、生体組織の透明化を促進し得る物質は、尿素、CHAPSO(3−([3−コラミドプロピル(Cholamidopropyl)]ジメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、スクロース、フルクトース、グリセロール、ジアトリゾ酸、Triton(登録商標)X−100、Tween(登録商標)−20、2,2’−チオジエタノール、イオヘキソール、抱水クロラール、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。
【0024】
生体組織の透明化を促進する物質の濃度は、好ましくは5〜80w/v%、5〜75w/v%、10〜70w/v%、5〜50w/v%、または35〜60w/v%である。仮に濃度が5w/v%未満である場合、生体組織を透明化する速度が遅すぎることになる。仮に濃度が80w/v%を超えると、結晶が形成されたり、あるいは溶解性が非常に悪くなる。本発明の好ましい実施形態においては、生体組織の透明化を促進する物質として、尿素を用いた。このとき、尿素の濃度は10〜70w/v%、より好ましくは20〜60w/v%であった。生体組織の透明化を促進する物質の濃度は、式1で表される化合物の濃度とともに適切に調節することができる。
【0025】
従来の透明化方法によれば、組織および溶液の屈折率を調整するために、マウント溶液をさらに購入するか、あるいは準備する必要がある。しかしながら、本発明の生体組織を透明化するための組成物は、屈折率を調整するための溶液を必要とせず、生産コストを節約することができる。また、従来の透明化方法は、組織の膨潤を引き起こすことがあるが、本発明の組成物は、組織のいかなるサイズも変化させることはない。
【0026】
すでに説明したように、本発明の生体組織を透明化するための組成物は、高価な電気泳動装置および高価な溶液を必要とせず、脳、肝臓、肺、腎臓、腸、心臓、筋肉、および血管などの様々な生体組織にそれらの組織のいずれも損傷することなく適用することができ、気泡の形成、色の変化、または暗色の堆積物を生ずることなく、生体組織の透明性を向上させることができ、よって、生体組織を透明化するための組成物として効果的に使用することができる。
【0027】
本発明はまた、生体組織に対する透明化方法を提供し、同方法は、固定された組織を上記組成物と接触させることにより、同固定された組織を透明化するステップを含む。
本発明の生体組織に対する透明化方法を、以下において、より詳細に記載する。
【0028】
本発明の生体組織のための透明化方法は、固定された組織を上記組成物と接触させることにより、同固定された組織を透明化するステップを含む。
特に、本発明の生体組織のための透明化方法は、組織を式1で表される化合物と接触させることにより、生体組織の物理化学的特性を変化させることにより生体組織をより透明にすることにより、光をより深く浸透させることを特徴とする。
【0029】
本発明の生体組織のための透明化方法は、気泡の形成、色の変化、または暗色の堆積物のいずれも生ずることなく、代わりに、タンパク質の変性により組織の情報を損失する、あるいは歪めることなく、生体組織の透明化を改善する。特に、組織の有用な情報を得るために、GFPタンパク質を含む種々のフルオロフォアを使用することが有用となる。
【0030】
本発明の生体組織のための透明化方法において、生体組織は、透明化の前に抗原性を失わず、かつ固定化され得る限り、限定されるものではない。
より詳細には、生体組織の固定化は、必ずしも限定されるものではないが、パラホルムアルデヒド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、ポリアクリルアミド、またはこれらの組み合わせを使用して実施され得る。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、CHAPSおよび尿素の混合物での処理はタンパク質の構造的結束を増大させたが、変性を引き起こすことはなく、組織をより硬化させ、組織透明化のプロセスにおける組織の膨潤を阻止し、かつ洗浄プロセスにおいてクラッキングが生ずることが回避される。濃度を示す溶液としては、蒸留水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)およびTBS(トリス緩衝液)によってより詳細には例示される、当該技術分野において使用される疑似体液を使用することができるが、必ずしもそれらに限定されるものではない。含浸は、10℃〜50℃、12〜48℃、14〜46℃、16〜44℃、18〜42℃、20〜40℃、24〜39℃、28℃〜38℃、30℃〜37℃、または33〜34℃にて実施され得る。
【0032】
本発明の生体組織のための透明化方法は、種々の脊椎動物組織、特に脳、血管、肝臓、肺、腎臓、膵臓および腸に適用することができ、生体組織全体を一度に透明化するのに有用である。
【0033】
さらに、本発明は、DNA、RNA、タンパク質、蛍光シグナル等の透明化した組織の重要な情報を検出する方法を提供する。
本発明の方法によって透明化された生体組織におけるタンパク質またはmRNAは、GFP蛍光または免疫染色によって検出することができる。タンパク質が固定されるとき、固定プロセス時に、アミノ基が互いに結合して網目を形成し、それは安定性を付与する。一方、RNAまたはDNAといった核酸はアミノ基を有しておらず、固定された組織において、比較的不安定であることを示す。特に、電気泳動の過程で、核酸の電気的特性のために組織内においてその位置を変化させることができる。他方、本発明の方法によって透明化された生体組織は、GFP細胞およびコリンアセチルトランスフェラーゼ(コリン作動性ニューロンマーカー抗体)の蛍光染色において優れている。
【0034】
本発明の生体組織のための透明化方法は、損傷していない生体組織および分子分布の三次元観察を可能にする画像を与える。したがって、複雑な構造を有する様々な生体組織に対して、数百マイクロメートル以上の完全な構造で観察研究を行うことができる。したがって、本発明の方法は、組織から必要な情報を収集することによって、脳疾患を含む様々な疾患の原因を同定するために有効に使用することができる。
【0035】
本発明の別の態様において、本発明は、生体組織のための透明化方法を提供し、同方法は、固定された生体組織をサッカライド(saccharide)溶液で前処理するステップと、本発明の生体組織を透明化すために、前処理された組織を組成物に接触させることにより生体組織を透明化するステップとを含む。
【0036】
上記したサッカライドは、モノサッカライド、ジサッカライドおよびポリサッカライド等であってもよい。特に、本明細書において記載されるモノサッカライドは、フルクトース、ガラクトース、グルコースまたはマンノースであってもよく、本明細書において記載されるジサッカライドは、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノースまたはセロビオースであってもよく、本明細書において記載されるポリサッカライドは、デキストラン、ジエチルアミノエチル−デキストラン、デキストリン、セルロースまたはβ−グルカンであってもよい。好ましくは、サッカライドとしてスクロースが使用され得る。サッカライド溶液は、好ましくはサッカライドを含有する水溶液である。
【0037】
サッカライド溶液中のサッカライドの濃度は、好ましくは10〜70w/v%、20〜60w/v%、25〜50w/v%、又は30〜40w/v%である。
生体組織を上記したサッカライド溶液で処理した場合、光の透過を回避する脂質成分および他の分子は予め生体組織から取り除かれ、脱水が誘導される。結果として、組織を固定するための試薬と生体組織のタンパク質との間の構造的結合力が高まり、それにより、変性が阻止され、組織をより硬化させることができる。さらに、透明化プロセス時に組織が膨潤することが回避され、抗体処理プロセスおよび洗浄プロセスの過程で、組織がクラッキングを起こすことが回避される。しかしながら、サッカライド溶液中のサッカライドの濃度が10w/v%未満である場合、上記したような効果が誘導されないかもしれない。これに対し、サッカライド溶液中のサッカライドの濃度が70w/v%を超える場合、処理は経済的ではない。
【0038】
上記した生体組織の透明化方法は、4℃〜50℃、10℃〜50℃、12〜48℃、14〜46℃、16〜44℃、18〜42℃、20〜40℃、24〜39℃、28℃〜38℃、30℃〜37℃、または33〜34℃にて実施され得る。
【0039】
本発明の別の態様において、本発明は、サッカライド溶液を含有する生体組織を透明化するための前処理用組成物と、生体組織を透明化するための組成物と、を含む生体組織を透明化するためのキットを提供する。
【0040】
本発明の実際的かつ現在のところ好適な実施形態は、以下の実施例に示すように例示的である。
しかしながら、当業者は、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲内で改変および改良を行うことができることが理解されよう。
【実施例】
【0041】
実験例1:CHAPSによる生体組織の透明化の評価
CHAPSのみを含む生体組織透明化剤に生体組織を接触させた際に、生体組織の透明化が容易に誘導されるか否かを評価するために、以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0042】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。マウスの血管を染色するために、レクチン−488(カタログ番号:DL1174)を尾静脈から注射した。注射5分後、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、次いで4%PFAを含む氷冷したPBSを再び灌流させた。器官を抽出し、4%パラホルムアルデヒドおよびPFA溶液に浸漬し、4℃で12時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは−20℃〜40℃である。
【0043】
次いで、サンプル(3mmの厚さ)を50mlのPBSで2回洗浄した。上記したプロセスによって固定されたサンプルを、40%のCHAPS水溶液(DW中に40%のCHAPS)中で、37℃で、120rpmで、5日間インキュベートした。対照として、固定されたサンプルは、PBS中で、37℃で、120rpmで、5日間インキュベートした。結果を図1および図2に示す。
【0044】
図1は、マウスがPBSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されなかったことを示す写真である。
図2は、マウスがCHAPSのみで処理された場合、マウスの脳の透明化が誘導されたことを示す写真である。
【0045】
図1および図2に示されるように、CHAPSでマウスの脳のみを処理した場合、マウスの脳の透明化は有意に誘導された。加えて、CHAPSの処理は、組織のサイズにおけるいかなる変化をも引き起こさなかったので、そのことから、CHAPSは、組織の変性またはいかなる損傷をも引き起こすことなく、生体組織の透明化を誘導できることが確認できた。
【0046】
実験例2:CHAPSおよび尿素による生体組織の透明化の評価
CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤に生体組織を接触させた際に、生体組織の透明化が容易に誘導されるか否かを評価するために、以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0047】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。マウスの血管を染色するために、レクチン−488(カタログ番号:DL1174)を尾静脈から注射した。注射5分後、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、次いで4%PFAを含む氷冷したPBSを再び灌流させた。器官を抽出し、4%パラホルムアルデヒドおよびPFA溶液に浸漬し、4℃で12時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは−20℃〜40℃である。
【0048】
次いで、サンプルを50mlのPBSで2回洗浄した。固定されたサンプルを、CHAPS(20w/v%)および尿素(60w/v%)を含むPBS中で、37℃で、220rpmで、3日間インキュベートした。結果を図3に示す。
【0049】
図3は、本発明の組織透明化方法によってマウスの脳の透明化が誘導される前と誘導された後を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化が誘導される前のマウスの脳を示し、右側の写真は、透明化が誘導された後のマウスの脳を示す。
【0050】
マウスの脳を20%CHAPS(w/v%)および60%尿素(w/v%)からなるPBS混合溶液から3次(tertiary)蒸留水に移し、次いで、マウスの脳を50mlの3次蒸留水で、12時間の間、3回洗浄した。マウスの脳をCHAPSと尿素の混合溶液(マウント溶液)に移し、マウス脳の透明化を観察した。結果を図4に示す。
【0051】
図4は、本発明の組織透明化方法によって透明化が完了したマウスの脳およびマウスの脳における蛍光強度を示す一組の写真であり、左側の写真は透明化プロセスが完了したマウスの脳を示し、右側の写真は、紫外線(UV)を用いて観察された、透明化プロセスが完了したマウスの脳におけるGAD67−GFP(グルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP)蛍光の強度を示す。
【0052】
図3および4に示されるように、CHAPSおよび尿素を含有する生体組織透明化剤は、生体組織の変性を引き起こすことなく、同生体組織の迅速な透明化を誘導したことが確認できた。
【0053】
実験例3:CHAPSおよび尿素により透明化された生体組織の蛍光画像の評価
本発明の透明化方法により透明化された脳の蛍光を調べるために、光学顕微鏡(Leica製)の下で1Xの対物レンズを用いて免疫染色された蛍光および緑色蛍光タンパク質(GFP)シグナルがマウスの脳で確認された。結果を図5に示す。
【0054】
図5は、マウスをコリンアセチルトランスフェラーゼ抗体で処理した後に観察された、実験例2で行った透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の蛍光画像を示す一組の写真であり、左側の写真はGAD67−GFPの蛍光画像を示し、右側の写真は、Alexa fluor−647の蛍光画像を示す。
【0055】
図6図7および図8は、5Xおよび20Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳における免疫染色画像およびGFPシグナルを示す写真である。
【0056】
図9は、5Xの対物レンズを用いた顕微鏡検査ライトシートZ.1の下で観察された、チロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理したマウスの脳におけるGAD67−GFPおよびAlexa fluor−647の重ね合わせ蛍光画像を示す写真である。
【0057】
図10は、レクチン−647抗体でマウスを処理した後に観察された、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳におけるGAD67−GFPの重ね合わせ蛍光画像を示す写真である。
【0058】
図11は、実験例2の透明化プロセスを完了したマウスの脳をチロシンヒドロキシラーゼ抗体で処理し、ロバ抗ウサギIgG Alexa fluor−647でマウスの脳を染色した後に得られた蛍光画像を示す写真である。
【0059】
上記した結果から、本発明の透明化方法によって透明化された脳は、蛍光画像によって確認できることは明らかである。
実験例4:CHAPSおよび尿素の濃度に従う生体組織の透明化の程度の評価
CHAPSおよび尿素を含有するPBS混合溶液中のCHAPSおよび尿素の濃度の変化によって生体組織の透明化が影響を受けるかどうかについて調べるために以下の実験を実施した。
【0060】
実験例2において、20%のCHAPS(w/v%)および60%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液を使用した(20C+60U%)。この例では、マウスの脳の透明化は、実験例2に記載した方法と同じ方法によって誘導したが、例外的に、10%のCHAPS(w/v%)および65%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液(10C+65U%)および40%のCHAPS(w/v%)および45%の尿素(w/v%)を含むPBS混合溶液(40C+45U%)も使用した。結果を図12に示す。
【0061】
図12は、CHAPSおよび尿素を含むPBS混合溶液中のCHAPSおよび尿素の濃度に従って生体組織の透明化の程度の変化を示す一組の写真である。
図12に示されるように、仮にCHAPSまたは尿素の濃度が変更された場合でも、CHAPSおよび尿素を含むPBS混合溶液において、組織の変性を引き起こすことなく、マウスの脳の透明化を誘導した。
【0062】
実験例5:透明化の誘導におけるCHAPSおよび尿素を含む組成物の優位性の確認
実験例2と同様の方法で生体組織の透明化が誘導されたときに、CHAPSとともに尿素の代わりにスクロースまたはグリセロールを使用し、生体組織の透明化の比較のために対照群の調製を誘導した。生体組織の透明化は、尿素のみを使用することによっても誘導された。さらに、処理を行っていない、未処理群の生体組織も観察した。結果を図13乃至17に示す。
【0063】
図13は、未処理対照群の生体組織の画像を示す写真である。
図14は、20w/v%CHAPSおよび50w/v%スクロースを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
【0064】
図15は、20w/v%CHAPSおよび75w/v%グリセロールを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図16は、20w/v%CHAPSおよび50w/v%尿素を使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
【0065】
図17は、60w/v%尿素を含有するPBSを使用することによる生体組織の透明化を誘導した結果を示す写真である。
図13乃至17に示されるように、CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤で生体組織の透明化を誘導するとき、スクロースまたはグリセロールを含む生体組織を透明化するための組成物、あるいは尿素のみを含む生体組織透明化剤を使用した場合と比較して、タンパク質変性を引き起こすことなく、透明化が迅速に誘導された。
【0066】
特に、CHAPSおよび尿素を含む生体組織透明化剤を用いて生体組織の透明化を誘導したところ、いかなる組織の変性をも引き起こすことなく、透明化が5日以内に完了した(図16)。尿素のみを含む組織透明化剤を用いて生体組織の透明化を誘導したところ、脳の組織は構造的損傷を有し、20日後でさえ、透明化の程度が比較的低減した(図17)。
【0067】
一方、CHAPSのみで処理した場合(図2)と尿素のみで処理した場合(図17)との比較によって、CHAPSのみで処理したときには組織は透明化されたのみならずそのサイズにおける変化もなかったことが確認でき、そのことは脳の組織が損傷を受けなかったことを示す一方で、尿素のみで処理することによって組織のサイズは増大しており、そのことは脳の組織が損傷を受けたことを示している。
【0068】
実験例6:サッカライドでの前処理からの保存された組織およびタンパク質構造の状態にて生体組織の透明化の確認
サッカライドの前処理に従う組織透明化の程度に任意の変化があるかどうかについて以下の実験を行った。この陳述に記載されているすべての動物試験は、韓国毒性学会動物資源委員会のガイダンス(承認番号:RS17003)に従って実施した。
【0069】
具体的に述べると、成体マウス(8週齢)を吸入麻酔剤であるイソフルラン(1cc/分)で麻酔した。次いで、50mLの氷冷した1X PBSを灌流させ、そして氷冷した4%PFA(パラホルムアルデヒド)で再び灌流させた。器官を抽出し、4%PFA(水溶液)に浸漬し、その後、4℃で24時間インキュベートした。このとき、氷冷条件の温度は限定されるものではないが、好ましくは0℃〜10℃である(固定ステップ)。
【0070】
次いで、サンプル(器官)を40%スクロース溶液中にて、0℃〜10℃で24時間インキュベートした。このとき、スクロースの濃度(40%)は水溶液を用いたw/v%(重量/体積%)で表した(前処理ステップ)。
【0071】
対照群について、前処理ステップを実施することなく、固定ステップを実施した。
図18は、固定ステップと前処理ステップの両方が完了したマウスの脳の画像と、固定ステップのみが完了したマウスの脳の画像とを示す一組の写真である。図18の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0072】
サンプルの組織は、20w/v%のCHAPS、50w/v%の尿素および50mMのアジ化ナトリウムを含む混合溶液中で、35℃で100rpmで、5時間または48時間インキュベートした(透明化ステップ)。
【0073】
このとき、前記CHAPSは、本発明の式1に示された化合物またはその水和物を指す。
図19は、5時間の間、固定ステップ、前処理ステップおよび透明化ステップのすべてのステップを完了したマウスの脳の画像と、前処理ステップを行わずに固定ステップおよび透明化ステップを完了した対照群マウスの脳の画像と、を示す一組の写真である。図19の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0074】
図20は、48時間の間、固定ステップ、前処理ステップおよび透明化ステップのすべてのステップを完了したマウスの脳の画像と、前処理ステップを行わずに固定ステップおよび透明化ステップを完了した対照群マウスの脳の画像と、を示す一組の写真である。図20の底部の蛍光画像は、紫外線(UV)を用いて測定した脳におけるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67−GFP(GAD67−GFP)蛍光の強度の変化を示す。
【0075】
図19および図20に示されるように、組織透明化をCHAPSおよび尿素で誘導されたとき、蛍光強度は、スクロースで前処理されなかったマウスの脳と比較して、スクロースで前処理されたマウスの脳では維持された。一方、GFP蛍光の強度は、スクロースで前処理されていないマウスの脳においては低減されていた。GFP蛍光の低減は、タンパク質の構造が損傷されたことを示している。よって、スクロースによる前処理は、タンパク質の構造を維持するための重要なステップであった。
【0076】
従って、本発明のサッカライド前処理のステップを含む、生体組織のための透明化方法は、サッカライド前処理のステップを含んでいない生体組織のための透明化方法と比較して、タンパク質の構造を維持する上において、きわめて効果的であることが確認できた。
【0077】
実験例7:洗浄プロセス後の生体組織の透明化の確認
以下の実験は、実験例6において透明化された組織を再び洗浄および透明化したとき、サッカライド前処理を行う場合と行わない場合の組織透明化の程度の変化を調べるために実施した。
【0078】
実験例5で透明化された組織は、50mlの滅菌蒸留水中で、0℃〜10℃にて、20rpmにて24時間インキュベートして、その間、滅菌蒸留水は3回交換した(図21)。
【0079】
その後、20w/v%のCHAPS、50w/v%の尿素および50mMのアジ化ナトリウムを含む混合水溶液中にて、35℃にて、100rpmにて24時間インキュベートした(図22)。
【0080】
図22に示されるように、組織を洗浄した後に組織を再び透明化溶液中に装填させた時、組織の透明化が著しく改善された。従って、洗浄プロセスもまた組織の透明化において非常に重要であった。さらに、スクロースで前処理されたマウスの脳における蛍光強度は、その洗浄および透明化を実施した後でさえも維持されていた。一方、スクロースで前処理をしていないマウスの脳におけるGFP蛍光の強度は低減していた。GFP蛍光の低減は、タンパク質の構造が損傷を受けたことを示している。従って、スクロースの前処理は、タンパク質の構造を維持するために重要なステップであったことが確認できた。
【0081】
上記の結果から、本発明に従う40%スクロースでの前処理は、タンパク質および組織を生体組織の透明化のための組成物によって損傷を受けないように保護する上で、そして透明化された組織の蛍光を維持する上で極めて効果的であったことが確認できた。
【0082】
上述の記載に開示された概念および特定の実施形態は、本発明の同一の目的を実施するために、他の実施形態に改変または設計するための基礎として容易に使用できることを当業者は理解するであろう。そのような同等の実施形態は、添付された特許請求の範囲に記載されたように、本発明の精神および範囲から逸脱するものではないことも当業者は理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0083】
CHAPSを含有する生体組織透明化剤を用いて生体組織を透明化する方法は、生体組織を透明化するために有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図17
図18
図19
図20
図21
図22