(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の車両の走行制御装置の実施の形態を説明する。
【0016】
(走行制御装置の構成および走行制御装置を含むシステムの構成)
図1は本発明の走行制御装置を含む車両の構成図である。
走行制御装置100は、故障検知部101、故障度合い判断部102、動作指示部103、受信部104、走行経路変更部105、および制御ECU106を備えている。
【0017】
故障検知部101は、車両を運転支援する各種のデバイスである、ステアリング300(操舵装置)、ブレーキ400、エンジン500、アクセル600、およびNAVI700(カーナビゲーション装置)のいずれかの故障を検知する。
【0018】
なお、本明細書において「各種のデバイス」とは、車両を運転支援するアクチュエータ(ステアリング300等が相当)、センサやカメラ等の装置(外界認識部200が相当)の全般を包含するものである。
【0019】
外界認識部200からの外界情報は故障度合い判断部102に送信される。
ここで、外界認識部200には、ステレオカメラや単眼カメラ、ミリ波レーダ、レーザレーダといった、車両と車両周囲の障害物間の距離のほか、道路標識や道路白線、横断歩道、信号機灯色などのインフラ設備を認識できる装置の全般が包含される。
【0020】
なお、「信号機」には、道路に設置されている信号機のほか、踏み切りに設置されている信号機、さらには、時間帯によって走行可能車線が変更する自動車線切替え道路等における走行可否表示機などが含まれる。
【0021】
故障度合い判断部102は、故障検知部101から送信される各種のデバイスのいずれかもしくは複数が故障しているとする故障情報を取得し、取得した故障情報に基づいてその故障状態を特定し、故障デバイスの駆動の可否を判断し、判断情報を生成する。
【0022】
ここで、「故障度合い」とは、故障したデバイスの詳細な故障状態、故障したデバイスの駆動の可否、故障の原因などを含む情報のことである。
【0023】
動作指示部103は、故障度合い判断部102から送信される判断情報を取得し、自車両外部に出力する指示信号を生成し、生成された指示信号を出力(発信)する。
【0024】
ここで、「自車両外部」とは、自車両の前後左右等、自車両の周囲にある他車両や、自車両の走行方向前方にある信号機などを包含するものである。
【0025】
受信部104は、他車両等の具備する動作指示部103から発信された指示信号を受信する。
【0026】
走行経路変更部105は、故障度合い判断部102から送信される判断情報およびを受信部104から送信される受信情報を取得し、故障デバイスを具備する自車両が他車両等と事故を起こすことのない将来経路を推定する。
【0027】
走行経路変更部105にて生成された自車両の変更経路に関する情報(変更経路情報)は、動作指示部103に送信されるとともに、自車両のドライバや制御ECU106にフィードバックする必要があることから、ステアリング300やブレーキ400等の各種のデバイスにも送信される。なお、この送信に当たり、走行経路変更部105と各種のデバイスは、CAN(Controller Area Network)にて接続されている。
【0028】
制御ECU106は、走行制御装置100の各構成部を駆動制御する装置であり、CPU、ROMやRAMといった記憶装置、入出力インターフェース等から構成されている。
【0029】
(故障度合い判断部における処理フローについて)
図2は故障度合い判断部における処理フローを示した図である。
故障度合い判断部102は、デバイス駆動可否仕分部102aと駆動不可デバイス原因抽出部102bを備えている。
【0030】
まず、デバイス駆動可否仕分部102aにより、故障検知部101で検出された外界認識部200やステアリング300等の各種デバイスの故障状態を取得し、それぞれを駆動可能、駆動不可能のいずれかに区分けする(ステップS10)。
【0031】
駆動不可能に区分けされたデバイスに対しては、駆動不可デバイス原因抽出部102bにてその詳細な故障情報を抽出する(ステップS11)。
【0032】
抽出された詳細な故障情報に基づき、判断情報生成部102cにて判断情報が生成される(ステップS12)。
【0033】
ここで、ステアリング300の故障とは、障害物回避やカーブ旋回、右左折のために、ドライバがハンドルを回して旋回指令を出すことや、自動運転中の車両が旋回指令を送信している際に旋回指令を受けつけず、ステアリング300が効かないことである。
【0034】
また、ブレーキ400の故障とは、ドライバや自動運転中の車両がペダルを踏む操作を実施してブレーキ液圧指令を出しているにも関わらず、それを受け付けず、ブレーキ液圧指令値がある一定の値に張付いて減速しないことや、逆にブレーキ400が解除されないことである。
【0035】
また、エンジン500の故障とは、エンジンの回転数が上がらなくなることや、アイドルストップのようなエンジン自動停止機能を備えた車両が機能作動中に不具合を発生することである。
【0036】
さらに、アクセル600の故障とは、アクセル600が踏まれていないにも関わらず、アクセル600が開かれたままの状態になってしまうことや、逆に加速したいがアクセル600に指令を出しても加速しないことである。
ここで、詳細な故障情報に関する一例を以下の表1に示す。
【0038】
詳細な故障情報とは、各種のデバイスが駆動可能か否かに関する情報のみならず、その故障がどのような故障であるかという情報も含んでいる。
【0039】
たとえばブレーキ400の詳細な故障情報とは、ドライバや自動運転車両がブレーキ400に対して指令を送信しているにも関わらず、ブレーキ400が効かなくなり、減速できないといった情報や、ブレーキ400が効きっぱなしになっているといった情報である。
【0040】
アクセル600の詳細な故障情報とは、ドライバや自動運転車両がアクセル600に対して指令を送信しているにも関わらず、アクセル600が開かなくなり、加速できないといった情報や、逆に、アクセル600が開きっぱなしとなり、減速できないといった情報である。
【0041】
ステアリング300の詳細な故障情報とは、ドライバや自動運転車両がステアリングに対して指令を送信しているにも関わらず、旋回できないといった情報である。
【0042】
エンジン500の詳細な故障情報とは、アクセル600やブレーキ400から送られてくる指令をもとに、バルブが開かなくなる、もしくは、バルブは正常に動作しているがエンジン回転数が上がらないといった情報である。なお、アイドリングストップのようなエンジン自動停止機能を備えた車両において、エンジン停止状態からエンジンが起動しなくなったといった情報も詳細な故障情報に含まれる。
【0043】
外界認識部200の詳細な故障情報とは、車両周囲を監視する外界認識部200から周囲障害物との距離が取得できないといった情報や、カメラのような周囲環境の色彩情報までを取得できる外界認識部200であれば、その色彩情報が得られないといった情報である。
【0044】
(走行経路変更部と動作指示部における処理フローについて)
図3は走行経路変更部と動作指示部における処理フローを示した図である。
走行経路変更部105は将来経路推定部105aを備えており、故障度合い判断部102において判断された判断情報に基づいて、故障デバイスを具備する自車両が将来どの経路を通過するか、すなわち将来経路を将来経路推定部105aにて推定する(ステップS20)。
【0045】
この将来経路の推定には、外界認識部200によって自車両周囲の障害物やインフラの状況(信号機の灯色、踏み切りの有無など)を認識し、ローカルな地図情報にマッピングしたものを用いるのがよい。
【0046】
一方、動作指示部103は、指示信号生成部103a、指示信号発信部103bを備えており、将来経路推定部105aにて推定された自車両の将来経路が指示信号生成部103aに送信され、推定経路に含まれる他車両やインフラを対象とし、交通状況に応じた指示信号を生成する(ステップS30)。
【0047】
生成された指示信号は、指示信号発信部103bを介して、送信先に応じて車車間通信や路車間通信等によって発信される(ステップS31)。また、交通管理サーバを介して通信する方法であってもよい。
ここで、以下の表2に、発信される指示信号の一例を示す。
【0049】
このように、図示する走行制御装置100とこれを具備する車両によれば、自車両を構成する各種のデバイスが故障した際に、自車両が周囲の状況を認知し、故障デバイスの故障度合いに応じて決定される指示信号を他車両やインフラ機器等に発信することにより、事故や二次災害を効果的に防止することが可能になる。
【0050】
(本発明の走行制御装置の適用例その1)
図4は走行制御装置100が適用される自動車専用道路の実施の形態1を示した図である。
この適用例では、車両401は故障を起こした自車両であり、故障車両の周囲には先行車402、403が存在し、同一方向に走行しているとする。
【0051】
車両401は、故障検知部101によってブレーキ液圧指令を出しているにも関わらず、ブレーキ400が作動していないことを検知し、それ以外のデバイスは正常であったとする。
【0052】
この場合、故障度合い判断部102において、ブレーキ400の詳細な故障情報は、「ブレーキ液圧が出ず、減速できないこと」であると特定される。
【0053】
動作指示部103では、故障度合い判断部102で判断されたブレーキ400の詳細な故障情報に基づいて回避経路411を生成する。
【0054】
ここで、車両401に搭載されている外界認識部200から取得される先行車402の位置情報を持った地図データにより、車両401が生成した回避経路上に先行車402が存在することが分かる。
【0055】
先行車402が車両401よりも低車速で走行している、もしくは停車している場合、ブレーキ故障した車両401は衝突してしまう可能性が高い。
【0056】
よって、車両401は、動作指示部103において、先行車402に経路変更を指示する、もしくは経路変更を促す指示信号を生成し、生成された指示信号を発信することで、衝突による二次災害を防ぐことができる。
【0057】
車両402は、受信部104において指示信号を受信する。そして、受信した指示信号に基づき、走行経路変更部105において車両402が故障車両401との衝突を回避するための走行経路412を生成する。
【0058】
図4で示すケースにおいて、ハンドルのような操舵装置が故障し、その他のデバイスが正常の際は、先行車402との衝突を回避するために指示信号を発信せず、ブレーキ操作で故障車両401を停止させればよい。
【0059】
その際、故障車両401は横に存在する車両403に接近していく可能性があるため、車両403に対しては指示信号を発信するのが望ましい。
【0060】
(本発明の走行制御装置の適用例その2)
図5は走行制御装置100が適用される自動車専用道路の実施の形態2を示した図である。
この適用例は、車両501のアクセル600が閉じなくなったという故障が発生し、その他のデバイスは正常であるといったケースである。
【0061】
故障車両501は外界認識部200にて先行車502の存在を確認し、先行車502との衝突を回避するために走行経路変更部105にて回避経路511を生成する。
【0062】
ここで、車両501は周囲に存在する車両502、503に衝突するといった二次災害を起こさないために、故障車両501にて生成される回避経路の阻害とならぬように、減速・停車の指示信号を動作指示部103にて生成し、発信する。
【0063】
減速・停車の指示信号を受信した他車両502、503は、走行経路変更部105によって走行経路を変更することなく(他車両502の経路は512)減速・停車動作を行う。
【0064】
(本発明の走行制御装置の適用例その3)
図6は走行制御装置100が適用される自動車専用道路の実施の形態3を示した図である。
この適用例は、車両601のアクセル600が開かなくなったという故障が発生し、その他のデバイスが正常であるといったケースである。
【0065】
故障車両601はこれ以上の自走(加速)は不可能なので、外界認識部200や地図により、惰性で到達可能な路側帯や他の停車可能な場所を探索して停止措置を行う。
【0066】
仮に退避可能な場所が見つからない場合は、その場で減速・停車措置を実施する。
その際、周囲車両への情報発信として、まず、故障車両601より前方を走る先行車両が存在する場合は先行車両と故障車両601との車間距離と相対速度に基づいて、衝突危険があれば、故障車両601は先行車両に対して動作変更の指示信号を発信する。
【0067】
一方、同図において故障車両601より後方には、故障車両601と同一車線に車両602が存在し、故障車両601が存在する斜線の隣車線には車両603が存在する。
【0068】
まず、車両602に対する動作変更のための指示信号の一例としては、経路変更をする旨の指示が挙げられる。
【0069】
車両602は、故障車両601が発信する経路変更のための指示信号を受信すると、走行経路変更部105にて回避経路612を生成する。
【0070】
次に、車両603に対する動作変更のための指示信号の一例としては、経路を維持する旨の指示が挙げられる。
【0071】
車両603が経路を維持する旨の指示信号を受信すると、故障車両601を追い越していくまでは車両603の車線変更が禁止される。
【0072】
(本発明の走行制御装置の適用例その4)
図7は走行制御装置100が適用される交差路の実施の形態1を示した図である。
この適用例は、走行制御装置100を交差路に適用するものである。ここで、車両701は故障を起こした自車両とする。
【0073】
同図において、車両701は、ブレーキ400が作動しなくなったブレーキ故障を発生しており、減速措置を行えなくなっている。
【0074】
自車両の進行方向の信号は赤色(進行不可)を示しており、交差方向の信号は青色(進行可能)を示している状況で、他車両702、704は交差点手前にて停車し、交差方向を進行する他車両703は交差点に進入しようとしている。
【0075】
故障検知部101によってブレーキ故障を検知し、故障度合い判断部102において車両701はブレーキ400が作動しない故障であると故障状態を特定する。
【0076】
そして、車両701が搭載する外界認識部200にて前方車両702、704の存在を確認し、走行経路変更部105において回避経路711を生成する。
【0077】
この回避経路711には交差点進入が含まれており、そのまま故障車両701が回避経路711に従って進行してしまうと、交差方向進行車両703と衝突事故を起こしてしまう可能性が非常に高い。
【0078】
そこで、信号機付き交差点に進入してしまう場合は、全方向にある信号機の灯色を赤色(進行不可)にすることで、他車両や、交差点横断中の歩行者との衝突事故を防ぐことが可能となる。
【0079】
動作指示部103にて周囲の他車両702、703、704に減速・停止のための指示信号を発信し、交差点の信号機には灯色変更のための指示信号を発信することにより、二次災害防止を図りながら、故障車両701は安全に通過することができる。
【0080】
このように、
図7のケースでは交差路に信号機が設置されている例をあげたが、信号機が設置されていない交差路においても動作指示部103を備えた走行制御装置100の適用は有効である。
【0081】
信号機設置有無はNAVIやローカルな地図データから取得できるため、故障車両の回避経路に交差路を含む場合は、動作変更のための指示信号の送信先を予め抽出することが可能である。
【0082】
そのため、信号機の設置が無い交差路に故障車両が進入する場合においては、故障車両は交差方向に進行してくる車両に対して直接、車車間通信で減速・停止の指示信号を送信すればよい。
【0083】
(本発明の走行制御装置の適用例その5)
図8は走行制御装置100が適用される交差路の実施の形態2を示した図である。
この適用例は、車両803が交差路Aを直進する予定でいる際に、その先の交差路Bで車両801が故障して停車しているケースである。
【0084】
故障車両801は周囲の他車両に対し、減速・停車の指示信号を車車間通信によって発信している。
【0085】
車両803は交差路Aを直進する経路で走行しようとしていたが、故障車両801が発信している動作変更のための指示信号を受信することにより、走行経路変更部105にて交差路Aを左折や右折といった迂回経路を生成する。
【0086】
以上に述べてきた各適用例における動作変更のための指示信号は、故障車両が周囲車両やインフラ機器に対して自身の希望する動作指令のための指示信号を発信するものであったが、故障度合い情報のみを送信し、この故障度合い情報を受け取った他車両やインフラ機器にて動作判断を実行することも可能である。
【0087】
また、車車間通信機能を備えていない車両が故障車両の周囲に存在する場合においては、運転支援のための複数のデバイスが同時に故障した場合であっても、正常に動作しているデバイスに基づいて、二次災害回避動作の可能性を探索することができる。
【0088】
なお、走行制御装置100は、基本的には動作可能状態にしておくことが望ましいが、NAVIやポートスイッチを用いることで、ユーザが走行制御装置100の動作の可否を選択できるようにしてもよい。
符号の説明
【0089】
100 走行制御装置
101 故障検知部
102 故障度合い判断部
103 動作指示部
104 受信部
105 走行経路変更部
106 制御ECU
200 外界認識部
300 ステアリング
400 ブレーキ
500 エンジン
600 アクセル
700 NAVI