(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
弁体が接離する弁座の下流側に設けられた燃料噴射孔と、前記燃料噴射孔の入口が底面に開口し前記底面の周囲が内周壁によって囲まれ前記入口の周囲に燃料の旋回流路が形成された旋回室と、一方の側壁が前記内周壁の旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され他方の側壁が前記内周壁の下流側に接続されて前記内周壁に開口し前記旋回室に燃料を供給する横方向通路と、前記燃料噴射孔、前記旋回室及び前記横方向通路が複数形成されたノズルプレートと、を有する燃料噴射弁において、
前記横方向通路の前記一方の側壁に接するように前記一方の側壁に沿って延長した第一延長線と、前記横方向通路の前記他方の側壁に接するように前記他方の側壁に沿って延長した第二延長線と、を仮想し、前記ノズルプレートの中心、前記燃料噴射孔の入口開口、前記旋回室、前記横方向通路、前記第一延長線及び前記第二延長線を燃料噴射弁の中心軸線に垂直な平面に投影した投影図上において、
前記第二延長線は前記燃料噴射孔の入口開口の中心を通り、
前記燃料噴射孔の入口開口は前記第二延長線を越えて前記一方の側壁又は前記第一延長線の側に位置する入口開口部分を有し、
前記横方向通路から前記旋回室に流入する燃料は、前記旋回流路を旋回することなく前記入口開口部分から前記燃料噴射孔に流入する第1燃料流れと、前記旋回流路を旋回して前記燃料噴射孔に流入する第2燃料流れと、を形成し、
前記第1燃料流れは噴霧角度が小さく前記燃料噴射孔の軸方向における流速が大きい燃料噴霧を形成し、
前記第2燃料流れは噴霧角度が大きく前記燃料噴射孔の軸方向における流速が小さい燃料噴霧を形成することを特徴とする燃料噴射弁。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例について、
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0012】
図1を用いて、燃料噴射弁1の全体構成について説明する。
図1は、本実施例に係る燃料噴射弁1の中心軸線1aに沿う断面を示す縦断面図である。中心軸線1aは、後述する弁体17が一体に設けられた可動子27の軸心(弁軸心)に一致し、後述する筒状体5の中心軸線に一致している。また、中心軸線1aは、後述する弁座15bの中心線とも一致している。
【0013】
燃料噴射弁1には、上端部から下端部まで延設された金属材製の筒状体5が設けられている。この筒状体5の内側に燃料流路3がほぼ中心軸線1aに沿うように構成されている。
図1において、上端部(上端側)を基端部(基端側)と呼び、下端部(下端側)を先端部(先端側)と呼ぶことにする。基端部(基端側)及び先端部(先端側)という呼び方は、燃料の流れ方向に基づいている。すなわち、燃料の流れ方向において、基端部が上流側となり、先端部が下流側となる。また、本明細書において説明される上下関係は
図1を基準とするもので、燃料噴射弁1の内燃機関への実装状態における上下方向とは関係がない。
【0014】
筒状体5の基端部には燃料供給口2が設けられている。この燃料供給口2に、燃料フィルタ13が取り付けられている。燃料フィルタ13は燃料に混入した異物を取り除くための部材である。
【0015】
筒状体5の基端部にはOリング11が配設されている。Oリング11は燃料噴射弁1が燃料配管に連結される際に、シール材として機能する。
【0016】
筒状体5の先端部には、弁体17と弁座部材15とからなる弁部7が構成されている。弁座部材15は、弁体17を収容する段付きの弁体収容孔15aが形成されている。弁体収容孔15aの途中に円錐面が形成されており、この円錐面上に弁座15bが構成される。弁体収容孔15aの弁座15bよりも上流側(基端側)の部分には、中心軸線1aに沿う方向に弁体17の移動を案内するガイド面15cが形成されている。弁座15bと弁体17とは協働して、燃料通路の開閉を行う。弁体17が弁座15bに当接することにより、燃料通路は閉じられる。また、弁体17が弁座15bから離間することにより、燃料通路は開かれる。
【0017】
弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に挿入され、レーザ溶接により筒状体5に固定されている。レーザ溶接19は、筒状体5の外周側から全周に亘って実施されている。弁体収容孔15aは、中心軸線1aに沿う方向に、弁座部材15を貫通している。弁座部材15の下端面(先端面)にはノズルプレート21nが取り付けられている。ノズルプレート21nは弁体収容孔15aによって形成された弁座部材15の開口を塞いでいる。
【0018】
本実施例では、弁座部材15とノズルプレート21nとによって旋回燃料を噴射する燃料噴射部21が構成される。ノズルプレート21nは、弁座部材15に対してレーザ溶接により、固定されている。レーザ溶接部23は、燃料噴射孔220−1,220−2,220−3,220−4(
図3参照)が形成された噴射孔形成領域を取り囲むようにして、この噴射孔形成領域の周囲を一周している。弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に圧入した上で、レーザ溶接により筒状体5に固定してもよい。
【0019】
本実施例では、弁体17は、球状を成すボール弁を用いている。このため、弁体17におけるガイド面15cと対向する部位には、周方向に間隔を置いて複数の切欠き面17aが設けられている。この切欠き面17aは板座部材15の内周面との間に隙間を形成する。この隙間によって燃料通路が構成される。なお、ボール弁以外で弁体17を構成することも可能である。例えば、ニードル弁を用いてもよい。
【0020】
本実施例において、弁座部材15及び弁体17を含む弁部7とノズルプレート21nとは燃料を噴射するためのノズル部を構成する。弁部7が構成されるノズル部本体側の先端面に、後述する燃料噴射孔220や旋回用通路210(横方向通路211及び旋回室212)が形成されたノズルプレート21nが接合される構成である。
【0021】
筒状体5の中間部には弁体17を駆動するための駆動部9が配置されている。駆動部9は電磁アクチュエータで構成されている。具体的には、駆動部9は、固定鉄心25と、可動子(可動部材)27と、電磁コイル29と、ヨーク33とによって構成されている。
【0022】
固定鉄心25は、磁性金属材料からなり、筒状体5の長手方向中間部の内側に圧入固定されている。固定鉄心25は筒状に形成され、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する貫通孔25aを有する。固定鉄心25は溶接により筒状体5に固定してもよいし、溶接と圧入を併用して筒状体5に固定してもよい。
【0023】
可動子27は、筒状体5の内部において、固定鉄心25よりも先端側に配置されている。可動子27の基端側には、可動鉄心27aが設けられている。可動鉄心27aは、固定鉄心25と微小ギャップδを介して対向する。可動子27の先端側には小径部27bが形成されており、この小径部27bの先端に弁体17が溶接により固定されている。本実施例では、可動鉄心27aと接続部27bとを一体(同一材料からなる一部材)に形成しているが、二つの部材を接合して構成してもよい。可動子27は弁体17を備え、弁体17を開閉弁方向に変位させる。可動子27は、弁体17が弁座部材15と接触し、可動鉄心27aの外周面が筒状体5の内周面に接触することにより、中心軸線1aに沿う方向(開閉弁方向)における移動を弁軸心方向の2点で案内される。
【0024】
可動鉄心27aには、固定鉄心25と対向する端面に凹部27cが形成されている。凹部27cの底面にはスプリング(コイルばね)39のばね座27eが形成されている。ばね座27eの内周側には中心軸線1aに沿って小径部(接続部)27bの先端側端部まで貫通する貫通孔27fが形成されている。また、小径部27bには側面に開口部27dが形成されている。貫通孔27fが凹部27cの底面に開口し、開口部27dが小径部27bの外周面に開口することにより、固定鉄心25に形成された燃料通路3と弁部7とを連通する燃料流路3が構成される。
【0025】
電磁コイル29は、固定鉄心25と可動鉄心27aとが微小ギャップδを介して対向する位置で、筒状体5の外周側に外挿されている。電磁コイル29は、樹脂材料で筒状に形成されたボビン31に巻回され、筒状体5の外周側に外挿されている。電磁コイル29はコネクタ41に設けられたコネクタピン43に配線部材45を介して電気的に接続されている。コネクタ41には図示しない駆動回路が接続され、コネクタピン43及び配線部材45を介して、電磁コイル29に駆動電流が通電される。
【0026】
ヨーク33は、磁性を有する金属材料でできている。ヨーク33は、電磁コイル29の外周側で、電磁コイル29を覆うように配置され、燃料噴射弁1のハウジングを兼ねる。また、ヨーク33は、その下端部が可動鉄心27aの外周面と筒状体5を介して対向しており、可動鉄心27a及び固定鉄心25と共に、電磁コイル29に通電することにより生じた磁束が流れる閉磁路を構成する。
【0027】
固定鉄心25の貫通孔25aと可動鉄心27aの凹部27cとに跨って、コイルばね39が圧縮状態で配設されている。コイルばね39は、可動子27を、弁体17が弁座15bに当接する方向(閉弁方向)に付勢する付勢部材として機能している。固定鉄心25の貫通孔25aの内側にはアジャスタ(調整子)35が配設されており、コイルばね39の基端側端部はアジャスタ35の先端側端面に当接している。中心軸線1aに沿う方向におけるアジャスタ35の貫通孔25a内での位置を調整することにより、コイルばね39による可動子27(すなわち弁体17)の付勢力が調整される。
【0028】
アジャスタ35は、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する燃料流路3を有する。燃料は、アジャスタ35の燃料流路3を流れた後、固定鉄心25の貫通孔25aの先端側部分の燃料流路3に流れ、可動子27内に構成された燃料流路3に流れる。
【0029】
筒状体5の先端部には、Oリング46が外挿されている。Oリング46は、燃料噴射弁1が内燃機関に取り付けられる際に、内燃機関側に形成された挿入口109a(
図5参照)の内周面とヨーク33の外周面との間で液密及び気密を確保するシールとして機能する。
【0030】
燃料噴射弁1の中間部から基端側端部の近傍まで、樹脂カバー47がモールドされて被覆している。樹脂カバー47の先端側端部はヨーク33の基端側の一部を被覆している。また、樹脂カバー47は配線部材45を被覆し、樹脂カバー47によりコネクタ41が一体的に形成されている。
【0031】
次に、燃料噴射弁1の動作について説明する。
【0032】
電磁コイル29に通電されていない(すなわち駆動電流が流れていない)場合、可動子27はコイルばね39により閉弁方向に付勢され、弁体17が弁座15bに当接(着座)した状態にある。この場合、固定鉄心25の先端側端面と可動鉄心27aの基端側端面との間には、ギャップδが存在する。なお、本実施例では、このギャップδは可動子27(すなわち弁体17)のストロークに等しい。
【0033】
電磁コイル29に通電されて駆動電流が流れると、可動鉄心27aと固定鉄心25とヨーク33とによって構成される閉磁路に磁束が発生する。この磁束により、ギャップδを挟んで対向する固定鉄心25と可動鉄心27aとの間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が、コイルばね39による付勢力や、可動子27に対して閉弁方向に作用する燃料圧力などの合力に打ち勝つと、可動子が開弁方向に移動し始める。弁体17が弁座15bから離れると弁体17と弁座15bとの間に隙間(燃料流路)が形成され、燃料の噴射が始まる。本実施例では、可動子27が開弁方向にギャップδに等しい距離δだけ移動して、可動鉄心27aが固定鉄心25に当接すると、可動鉄心27aは開弁方向への移動を止められ、開弁して静止した状態に至る。
【0034】
電磁コイル29の通電を打ち切ると、磁気吸引力が減少し、やがて消失する。磁気吸引力が減少する段階で、磁気吸引力がコイルばね39の付勢力よりも小さくなると、可動子27が閉弁方向へ移動を開始する。弁体17が弁座15bに当接すると、弁体17は弁部7を閉弁して静止した状態に至る。
【0035】
次に、
図2及び
図3を用いて、弁部7及び燃料噴射部21の構造について、詳細に説明する。
図2は、
図1に示す燃料噴射弁1の弁部7及び燃料噴射部21の近傍(ノズル部)を拡大して示す縦断面図(
図3のII−II矢視断面に対応する縦断面図)である。
図3は、
図1のIII−III矢視方向から見たノズルプレート21nの平面図である。
【0036】
なお、
図3の平面図は、ノズルプレート21nを燃料噴射孔の入口側から見た平面図であり、ノズルプレート21nの上端面21nu側の平面図である。上端面21nuは弁座部材15の先端面15tと対向する面である。上端面21nuに対して反対側の端面を下端面21nbと呼ぶ。
【0037】
本実施例では、
図2に示すように、ノズルプレート21nは両端面が平面で構成された板状部材で構成され、上端面21nuと下端面21nbとは平行である。すなわち、ノズルプレート21nは板厚が均一な平板で構成されている。なお、本実施例では、中心軸線1aがノズルプレート21nと中心21noで交差するように、燃料噴射弁1が構成されている。
【0038】
弁座部材15の先端面(下端面)15tは、中心軸線1aに垂直な平らな面(平坦面)で構成されている。弁座部材15の先端面15tにはノズルプレート21nが接合されており、先端面15tはノズルプレート21nの上端面21nuと当接している。
【0039】
ノズルプレート21nには、
図3に示すように、横方向通路211−1,211−2,211−3,211−4、旋回室(スワール室)212−1,212−2,212−3,212−4及び燃料噴射孔220−1,220−2,220−3,220−4が形成されている。4組の旋回用通路210−1,210−2,210−3,210−4と燃料噴射孔220−1,220−2,220−3,220−4とはそれぞれが同様に構成されるため、これらを区別せず、横方向通路211、旋回室212及び燃料噴射孔220として、説明する。各組で構成を変える場合は、適宜説明する。なお、横方向通路211及び旋回室212は、燃料に旋回力を付与して、燃料噴射孔220から旋回燃料を噴射するための旋回用通路210を構成する。
【0040】
図2に示すように、弁座部材15には、円錐状の弁座面15bが下流側に向かって縮径するように形成されている。弁座面15bの下流端は燃料導入孔300に接続されている。燃料導入孔300の下流端は弁座部材15の先端面15tに開口している。燃料導入孔300は旋回用通路210に燃料を導入する燃料通路を構成する。
【0041】
旋回用通路210は、燃料導入孔300から燃料の供給を受けるために、横方向通路211の上流端部が燃料導入孔300の開口面に対向して設けられている。本実施例では、
図3に示すように、4組の横方向通路211−1,211−2,211−3,211−4は上流端部が連通する構成であるが、各横方向通路211−1,211−2,211−3,211−4を独立して構成してもよい。
【0042】
図2では、一枚の板状部材で構成したノズルプレート21nに、横方向通路211、旋回室212及び燃料噴射孔220の全てを形成している。ノズルプレート21nは、例えば厚さ方向に分割するなどして、複数のプレートで構成することができる。例えば、横方向通路211及び旋回室212を一枚のプレートに形成し、燃料噴射孔220を別のプレートに形成する。そしてこれら二枚のプレートを積層して、ノズルプレート21nを構成してもよい。
【0043】
また、本実施例では、
図2に示すように、燃料噴射孔220は中心軸線1aに平行に形成されているが、中心軸線1aに対して0°よりも大きな角度で傾斜させてもよい。傾斜させる方向を異ならせることにより、複数の方向に燃料を噴射させるようにしてもよい。
【0044】
本実施例では、
図3に示すように、旋回用通路210−1と燃料噴射孔220−1とが一つの燃料通路を形成し、旋回用通路210−2と燃料噴射孔220−2とが一つの燃料通路を形成し、旋回用通路210−3と燃料噴射孔220−3とが一つの燃料通路を形成し、旋回用通路210−4と燃料噴射孔220−4とが一つの燃料通路を形成している。旋回用通路210−1は横方向通路211−1と旋回室212−1とで構成され、旋回用通路210−2は横方向通路211−2と旋回室212−2とで構成され、旋回用通路210−3は横方向通路211−3と旋回室212−3とで構成され、旋回用通路210−4は横方向通路211−4と旋回室212−4とで構成される。
【0045】
本実施例では、ノズルプレート21nに、全部で4組の旋回用通路210及び燃料噴射孔220からなる燃料通路が構成される。4組の燃料通路は、それぞれがノズルプレート21nの中心21no側から外周に向かって放射状に形成されている。すなわち、横方向通路211は、ノズルプレート21nの中心21no側から外周側に向けて放射状に設けられ、ノズルプレート21nの径方向に延設されている。また、それぞれの燃料通路は周方向に90°の角度間隔で形成されている。
【0046】
旋回用通路210及び燃料噴射孔220は4組に限らず、2組或いは3組であってもよく、5組以上設けられてもよい。或いは、旋回用通路210及び燃料噴射孔220を1組だけにしてもよい。
【0047】
ここで、
図4を参照して、旋回室212と燃料噴射孔220との関係について、詳細に説明する。
図4は、旋回室212及び燃料噴射孔220を拡大して示す平面図(
図3に示すIV部の拡大平面図)である。
【0048】
横方向通路211は、燃料噴射孔220の入口開口220iの中心Oに対してオフセットするように旋回室212に接続されている。中心Oは旋回室212の中心でもある。このため、横方向通路211は旋回室212の中心に対してもオフセットするようにして、旋回室212に接続されている。横方向通路211の下流端は、旋回室212の内周壁(側壁)212cに接続され、内周壁212cに開口を形成する。
【0049】
旋回室212の内周壁212cは、横方向通路211から旋回室212に流入した燃料を旋回させるように、燃料噴射孔220の入口開口iの周囲に円周を成すように形成されている。すなわち、旋回室212の内周壁212cと燃料噴射孔220の入口開口iとの間に燃料の旋回流路が形成されている。
【0050】
横方向通路211は延設方向或いは燃料の流れ方向に対して垂直な横断面が矩形状を成し、側壁(側面)211o,211i及び底面211bはノズルプレート21nによって構成されている。また、横方向通路211の上面(天井面)211u(
図2参照)は、弁座部材15の下端面15tで構成されている。
【0051】
横方向通路211の側壁211oは下流端側で、旋回室212の内周壁212cの始端部212csに接続されている。また、横方向通路211の側壁211iは下流端側で、旋回室212の内周壁212cの終端部212ceに接続されている。
【0052】
始端部212csは、旋回室212において、燃料が流入する側(上流側)に位置する端部である。すなわち、始端部212csは、旋回燃料の流れ方向における上流側に位置する端部である。一方、終端部212ceは旋回室212に流入した燃料が内周壁212cに沿って旋回室212を旋回しながら流下する側(下流側)に位置する端部である。
【0053】
また、側壁211oは、旋回室212の径方向において、外径側に位置する側壁である。一方、側壁211iは、旋回室212の径方向において、内径側(外径よりも内側)に位置する側壁である。
【0054】
本実施例では、一方の側壁211oが内周壁212cの旋回燃料の流れ方向における上流側に接続され、他方の側壁211iが内周壁212cの下流側に接続されて、渡航方向通路211の下流端が内周壁212cに開口している。
【0055】
本実施例では、旋回室212は、始端部212csから終端部212ceまでの間の内周壁212cが中心Oからの半径Rが一定となるように形成されている。すなわち、内周壁212cは正円又は真円を成す円周の一部によって構成される。これにより、燃料噴射孔220の入口開口縁220iと旋回室212の内周壁212cとの間に、燃料通路を構成する底面212bが形成される。
【0056】
内周壁212cは、燃料を旋回させながら燃料噴射孔220の入口開口i或いはその中心Oに近付けていくように、螺旋曲線或いはインボリュート曲線を描くように形成されてもよい。この場合、旋回流路の横断面積は下流側に向かって漸減する。なお、内周壁212cが螺旋曲線を成す場合は、旋回室の中心Oは螺旋曲線の旋回中心である。また、内周壁212cがインボリュート曲線を成す場合は、旋回室の中心Oは基礎円の中心である。
【0057】
燃料噴射孔220の入口開口縁220iは、終端部212ceに接続される側壁211iを延長した延長線211il(特に、旋回室212側に延長した延長線部分)を越えて、横方向通路211の側壁211o側或いは側壁211oの延長線211ol側に配置されている。延長線211ilは、側壁211iに接し、且つ側壁211iに沿って延長した仮想線である。また、延長線211olは、側壁211oに接し、且つ側壁211oに沿って延長した仮想線である。
【0058】
以下、説明を分かり易くするため、燃料噴射弁1の中心軸線1aに垂直な平面(投影面)に、燃料噴射孔220、旋回室212、横方向通路211、延長線211ol(第一の延長線)及び延長線211il(第二の延長線)を投影した図に基づいて、説明する。この図は、
図4の平面図と同じ図になる。すなわち、燃料噴射孔220、旋回室212、横方向通路211、第一の延長線211ol及び第二の延長線211ilの各投影図は、
図4に示す燃料噴射孔220、旋回室212、横方向通路211、第一の延長線211ol及び第二の延長線211ilに一致する。
【0059】
従って、
図4に基づいて、以下説明する。なお、投影した点、線分及び図形(投影図)は、投影する元の点、線分及び図形と重なるため、投影図にも投影する元の点、線分或いは図形と同じ符号を付して説明する。
【0060】
本実施例では、燃料噴射孔220の中心Oを投影した点(投影図)Oは、側壁211iの延長線211ilを投影した線分(投影図)211il上に位置している。このため、燃料噴射孔220の入口開口220iを投影した投影
図220iは、燃料噴射孔220の半径r分だけ、延長線211ilを投影した線分(投影図)211ilを越えて、側壁211oを投影した線分(投影図)211o側或いは延長線211olを投影した線分(投影図)211ol側にはみ出している。
【0061】
本実施例で必要な構成は、燃料噴射孔220の入口開口縁220iの投影
図220iが、側壁211iの延長線211ilの投影
図211ilを越えて、側壁211oの投影
図211o側或いは延長線211olの投影
図211ol側にはみ出すようにした構成である。そのはみ出し量は、
図4に記載したような、燃料噴射孔220の半径分の大きさに限定される訳ではない。また、燃料噴射孔220の中心と旋回室212の中心とは中心Oに一致している必要はなく、両者がずれていてもよい。
【0062】
燃料噴射孔220の入口開口縁220iの投影
図220iは、延長線211ilの投影
図211ilと2点2201a,220ibで交わる。本実施例では、旋回室212の底面212bは中心軸線1aに垂直に形成されているため、延長線211il及び入口開口縁220iを中心軸線1aに垂直な平面の代わりに、底面212bに投影してもよい。
【0063】
本実施例では、上述した構成により、横方向通路211の一方の側壁211oに接し且つこの一方の側壁211oに沿って延長した第一の延長線211olと、横方向通路211の他方の側壁211iに接し且つこの他方の側壁211iに沿って延長した第二の延長線211ilとを仮想し、燃料噴射孔220、旋回室212、横方向通路211、第一の延長線211ol及び第二の延長線211ilを燃料噴射弁1の中心軸線1aに垂直な平面に投影した場合、燃料噴射孔220の入口開口220iの投影
図220iが第2の延長線211ilを投影した線分(投影図)211ilを越えて一方の側壁211oを投影した線分(投影図)211o側又は第一の延長線211olを投影した線分(投影図)211ol側に位置するようにした燃料噴射弁1となる。
【0064】
本実施例の燃料噴射弁1では、延長線211ilの投影
図211ilと燃料噴射孔220の入口開口220iの投影
図220iとは、二点で交差する。
【0065】
また、本実施例の構成を実現する場合、燃料噴射孔220の入口開口縁220iが、側壁211iの延長線211ilを越えて、側壁211o側或いは延長線211ol側にはみ出し易くするために、投影面上において、燃料噴射孔220の入口開口220iの投影
図220iの全体が、線分212cel(
図4参照)と交差することなく、線分212celに対して旋回室212の中心O側に配置されるとよい。線分212celは、投影面上で、内周壁212cの下流側端部212ceを投影した点(投影図)212ceを通り、第二の延長線211ilを投影した線分(第一の線分)211ilに垂直な第二の線分212celとして仮想される。
【0066】
また、内周壁212cの下流側端部212ceは、内周壁212cと横方向通路211の側壁211iとの接続部である。下流側端部212ceには、加工を行うで、傾斜部或いは丸味部などの面取り部が形成される。このような場合は、内周壁212cと側壁211iとをそれぞれ延長した仮想線が交差する交点を、下流側端部212ceとして定めればよい。
【0067】
次に、旋回用通路210及び燃料噴射孔220の燃料流れについて説明する。
【0068】
横方向通路211から旋回室212に流入した燃料流れは、旋回室212の内周壁212cに沿って流れ、燃料噴射孔220の入口開口220iの周囲を旋回する。この段階で、燃料には旋回力が付与される。旋回力を付与された燃料流れは、旋回しながら燃料噴射孔220に流入する。燃料噴射孔220から噴射される燃料は旋回力を維持したまま液膜を形成し、さらに旋回しながら液滴に分裂する。これにより、微粒化された燃料噴霧が形成される。
【0069】
本実施例では、燃料噴射孔220の入口開口220iが、側壁211iの延長線211ilを越えて、側壁211o側にはみ出すように構成されることにより、横方向通路211から旋回室212に流入する燃料がほとんど旋回室212を旋回しないまま燃料噴射孔220に流入する。すなわち、燃料が燃料噴射孔220に流入し易くなる。側壁211o側へのはみ出し量を変えることにより、燃料噴射孔220への燃料流れの流入のし易さを調整することができ、燃料噴射孔220に流入する燃料の流量、すなわち噴射量を調整することができる。通常、側壁211o側へのはみ出しを大きくするほど、燃料噴射孔220に流入する燃料の流量(噴射量)は増加する。
【0070】
図5乃至
図7を用いて、旋回室212から燃料噴射孔220に流入する燃料流れについて説明する。
図5は、
図4のV−V矢視断面における燃料流れの解析結果を示す図である。
図6は、本実施例との比較例について、横方向通路211’、旋回室212’及び燃料噴射孔220’の構成を示す平面図である。
図7は、
図6のVII−VII矢視断面における燃料流れの解析結果を示す図である。
【0071】
本実施例では、
図5に示すような噴霧形態となる。燃料が旋回室212を十分に旋回することなく燃料噴射孔220に流入した側501では、燃料噴射孔220の軸方向における燃料の流速(軸方向速度)が大きく、かつ貫徹力の強い燃料噴霧が形成される。また、501側では、噴霧角度が小さく、ペネトレーションが長くなる。一方、502側では、旋回室212を旋回した燃料流れが燃料噴射孔220に流入する。このため、502側では、501側と比べて、燃料の軸方向速度が小さく、貫徹力の弱い燃料噴霧が形成される。また、502側では、501側と比べて、旋回力が強いため、噴霧角度が大きく、ペネトレーションが短くなる。
【0072】
一方、
図6の比較例の構成では、燃料噴射孔220’の入口開口220i’の全体が、側壁211iの延長線211ilよりも旋回室212の中心O’側に存在する。この場合、燃料噴射孔220’の入口開口220i’の全周にわたって、旋回力を付与された燃料流れが流入する。このため、比較例では、
図7に示すように、701側の噴霧角度及び燃料流速と702側の噴霧角度及び燃料流速とが均等な燃料噴霧が形成される。
【0073】
本実施例では、501側では、燃料流れの旋回力が弱いため、旋回力を利用した微粒化の効果は小さくなる。しかし、軸方向速度が大きくなることによって、空気との摩擦熱を利用して微粒化性能の低下を抑制或いは維持・向上することができる。従って、本実施例では、微粒化性能の低下を抑制して、燃料噴射量を容易に調整することができる。また、上述したように、燃料の噴霧形態(角度及び粒径)は変化するものの、流量調整のために横方向通路211及び燃料噴射孔220の横断面積を変化させる場合と比べて、噴霧形態の変化量を小さくできる。
【0074】
また、燃料噴射孔220を、側壁211iの延長線211ilを越えて側壁211o側にはみ出すように構成する場合、例えば、
図6の比較例において、燃料噴射孔220を図面の下方向にずらすことになる。すなわち、燃料噴射孔220’を図面上で上側に位置する内周壁220c’から離れる方向にずらすことになる。単に燃料噴射孔220’をずらすだけだと、燃料噴射孔220’が内周壁220c’から離れる分、燃料噴射孔220’への燃料流れの流入が阻害される。このため、燃料噴射孔220’を図面上で下方向にずらした分、図面上で上側に位置する内周壁220c’を燃料噴射孔220’に近付けることが好ましい。図面上で上側に位置する内周壁220c’を燃料噴射孔220’に近付けると、その分だけ旋回室212の容積を小さくすることができ、弁座15b下流側に形成されるデッドボリュームを小さくすることができる。
【0075】
図8を参照して、本発明に係る燃料噴射弁を搭載した内燃機関について説明する。
図8は、燃料噴射弁1が搭載された内燃機関の断面図である。
【0076】
内燃機関100のエンジンブロック101にはシリンダ102が形成されおり、シリンダ102の頂部に吸気口103と排気口104とが設けられている。吸気口103には、吸気口103を開閉する吸気弁105が、また排気口104には排気口104を開閉する排気弁106が設けられている。エンジンブロック101に形成され、吸気口103に連通する吸気流路107の入口側端部107aには吸気管108が接続されている。
【0077】
燃料噴射弁1の燃料供給口2(
図1参照)には燃料配管110が接続される。
【0078】
吸気管108には燃料噴射弁1の取付け部109が形成されており、取付け部109に燃料噴射弁1を挿入する挿入口109aが形成されている。挿入口109aは吸気管108の内壁面(吸気流路)まで貫通しており、挿入口109aに挿入された燃料噴射弁1から噴射された燃料は吸気流路内に噴射される。二方向噴霧の場合、エンジンブロック101に吸気口103が二つ設けられた形態の内燃機関を対象として、それぞれの燃料噴霧が各吸気口103(吸気弁105)を指向して噴射される。
【0079】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、一部の構成の削除や、記載されていない他の構成の追加が可能である。また、実施例間において、各実施例に記載された構成の入れ替えや追加を行うことも可能である。