特許第6609085号(P6609085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6609085
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】漏油検出材
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/04 20060101AFI20191111BHJP
【FI】
   G01M3/04 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-126043(P2019-126043)
(22)【出願日】2019年7月5日
【審査請求日】2019年7月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月1日に、ウェブサイトhttps://onsite.gakkai−web.net/iee/data/pdf/7_130.pdfにおいて、「油入機器の漏油検出材の試作」について電気通信回線を通じて発表した。 平成31年3月1日に発行された、平成31年電気学会全国大会講演論文集DVD−ROMにおいて、「油入機器の漏油検出材の試作」について発表した。 平成31年3月13日に、平成31年電気学会全国大会、北海道科学大学(北海道札幌市手稲区前田七条十五丁目4−1)において、「油入機器の漏油検出材の試作」について口頭にて発表した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 敏文
(72)【発明者】
【氏名】熊井 有希
(72)【発明者】
【氏名】小園 直輝
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−026946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性と油を吸収して保持する油保持性とを有する合成樹脂製であって、厚さが200μm以上の不織布で形成され、前記不織布が着色されている着色層と、
前記着色層の一面側に積層され、前記着色層が水で濡れたとき不透明であり、前記着色層が前記油で濡れたとき透明となって、前記着色層の色相が透視できるように、屈折率1.5〜1.6とする白色粉末が透明樹脂に分散された厚さが少なくとも150μmの白色層とを有することを特徴とする漏油検出材。
【請求項2】
前記着色層の他面側に、前記油が透過する粘着剤から成る粘着層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の漏油検出材。
【請求項3】
前記白色層が透明な保護層で被覆されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漏油検出材。
【請求項4】
前記保護層がフッ素樹脂層であることを特徴とする請求項3に記載の漏油検出材。
【請求項5】
前記白色層に分散された前記白色粉末が、タルク、尿素樹脂、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ又はガラスフィラーから成る粉末であり、前記白色粉末が前記透明樹脂に対して質量比で0.5〜15倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の漏油検出材。
【請求項6】
前記着色層の色が赤色、青、紺又は青紫であることを特徴とする請求項1〜5のいれずかに記載の漏油検出材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油漏れを確実に検出でき且つ油漏れの油を一時的に保持できる漏油検出材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油が貯蔵されるタンクや容器の溶接個所、油配管の接手等の油漏れは、定期検査等でタンクや容器が空のとき、油配管に油が流れていないときは、空のタンクや容器、油配管に窒素ガスを所定圧まで封入し、窒素ガスの圧力低下割合を観察して漏れの有無を検査していた。しかし、油が貯蔵されているタンクや容器、油が流れている油配管での油漏れは、視覚で検出せざるを得ないが、少量の油漏れは視覚では検出されないおそれがある。また、油漏れの油が地面に滴下すると土壌汚染となることがある。
【0003】
このように油が貯蔵されているタンクや容器、油が流れている油配管から油漏れを検出可能の検出材として、下記特許文献1には、一面側に接着層が形成された通気性フィルムの他面側に設けられた色調の濃い着色層と、この着色層を覆うように設けられた水や油に濡れると透明になり乾燥すると不透明となる白色層と、この白色層を覆うように設けられた通気性の透明な保護フィルムとから構成される漏洩検出材が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載された漏洩検出材を、油が貯蔵されているタンクや容器の溶接個所、油が流れている油配管の接手等に設置しておけば、これらからの油漏れの検出は可能である。しかしながら、タンクや容器、油配管が屋外に設置されている場合、漏洩検出材が雨水で濡れたときにも着色層の色相が視認できることから、漏油用の漏洩検出材としての信頼性は低くなるおそれがある。従って、特許文献1の漏洩検出材は、雨水に晒される屋外での使用は想定されていない。
【0005】
下記特許文献2には、油貯槽タンク等の検査体に、油溶性染料、分散剤、白色微粉末及び水系バインダーを含有する水系分散型油用漏洩検知塗料を塗布して乾燥させ、指示模様を検出する検知方法が記載されている。この検知方法によれば、油漏れの油が油溶性染料を溶解して指示模様を形成するというものである。しかしながら、特許文献2の検知方法によれば、油漏れの油を一時的に保持する機能を有しておらず、油漏れの油が直ちに地面に滴下して土壌汚染を惹起するおそれがある。
【0006】
下記特許文献3には、繰り出し自在に巻き取られ且つ切断自在な長尺状のテープ本体の内面側が、測定対象物に貼り付け可能な粘着性を備え、そのテープ本体を測定対象物に貼り付けた状態において測定対象物からの液体による濡れにより視覚的変化を生じ且つその視覚的変化を外部から読み取り可能な視覚的変化部が、前記テープ本体に設けられている漏れ検査用テープが記載されている。この視覚的変化部は、測定対象物に直接接触するようにテープ本体の内側に設けられており、油漏れの油を一時的に保持する機能は有していない。また、この漏れ検査用テープは、水及び油の両方で視覚的変化が生じるので、雨水に晒される屋外での使用には適していない。
【0007】
下記特許文献4には、油圧ホースの周囲に巻き付けて使用する油漏れ防止材であって、互いに重ねられ少なくとも一方が油透過性である帯状の第1シート部材と第2シート部材とを具備し且つ矩形の油吸収ユニットが幅方向に1又は複数個形成されると共に長さ方向に連続的に形成されている帯状の本体シートを備え、前記油吸収ユニットの各々は、前記第1シート部材と前記第2シート部材が接合されて封止された周縁部と、前記周縁部に囲まれ前記第1シート部材と前記第2シート部材の間に粉末状油ゲル化剤を充填されている袋部とを有するものが記載されている。更に、粉末状油ゲル化剤と共に、油の存在により発色する油検知剤を用いることも記載されている。この油漏れ防止材は、油圧ホースの破損等による大量の油の流出に対する漏出拡散防止と粉末状油ゲル化剤が油吸収したことの発見を目的としており、粉末状油ゲル化剤を用いることなく少量の油漏れの早期発見と油滴下防止とを図ろうとするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−185742号公報
【特許文献2】特開平11−44604号公報
【特許文献3】特開2005−55275号公報
【特許文献4】特開2015−206387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、雨水に晒される屋外で使用できる漏油用の検出材であって、目視による油漏れの検知ができ且つ油漏れの油を一時的に保持できる信頼性の高い漏油検出材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る漏油検出材は、透水性と油を吸収して保持する油保持性とを有する合成樹脂製であって、厚さが200μm以上の不織布で形成され、前記不織布が着色されている着色層と、前記着色層の一面側に積層され、前記着色層が水で濡れたとき不透明であり、前記着色層が前記油で濡れたとき透明となって、前記着色層の色相が透視できるように、屈折率1.5〜1.6とする白色粉末が透明樹脂に分散された厚さが少なくとも150μmの白色層とを有することを特徴とするものである。
【0011】
前記着色層の他面側に、前記油が透過する粘着剤から成る粘着層が積層されていることにより、漏油検出材を漏油検出対象物に簡単に装着でき好ましい。
【0012】
前記白色層が透明な保護層で被覆されていることにより、白色層等が風雨や日光による劣化を防止でき好ましい。
【0013】
前記保護層がフッ素樹脂層であることが良好な柔軟性と耐候性とを呈することができるから、屋外タンクや屋外配管等に漏油検出材を長期間設置でき好ましい。
【0014】
前記白色層に分散された前記白色粉末が、タルク、尿素樹脂、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ又はガラスフィラーから成る粉末であり、前記白色粉末が前記透明樹脂に対して質量比で0.5〜15倍であることが、着色層が水で濡れたときの白色層の不透明性を高め、他方、着色層が油で濡れたときの白色層の透明性を高めることができ好ましい。
【0015】
前記着色層の色が赤、紺又は青紫であることが、着色層が油で濡れたとき、白色層を透過して着色層を視認し易くでき好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る漏油検出材は、着色層が油で濡れたときのみに白色層が透明状態となって着色層を視認でき、着色層が水で濡れたときは白色層が不透明状態を維持しており、着色層を視認できない。従って、屋外タンクや屋外配管等に本発明に係る漏油検出材を装着した場合、雨水で漏油検出材が濡れても、白色層が不透明状態にあるから、着色層を視認できず、油漏れと誤認するおそれを解消でき、漏油検出材としての信頼性を向上できる。また、着色層を形成する不織布は油を吸収し保持できるので、タンクや配管等からの地面への滴下を遅延でき、油の地面への滴下前に漏油の修理を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を適用する漏油検出材の断面図である。
図2】本発明を適用する漏油検出材を油配管のフランジの外周面に装着した状態を説明する説明図である。
図3】本発明を適用する漏油検出材での油漏れを検出した状態を説明する説明図である。
図4】本発明を適用する漏油検出材を構成する着色層が油濡れした場合の白色層の色差と着色層が水濡れした場合の白色層の色差についてのグラフである。
図5】本発明を適用する漏油検出材を構成する白色層の厚さによる影響を示すグラフである。
図6】本発明を適用する漏油検出材での油漏れの滴下遅延時間を測定した装置を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の漏油検出材について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明に係る漏油検出材の一例を図1に示す。図1に示す漏油検出材10は、着色層12の一面側に白色層14が形成され、白色層14は透明な保護層18で被覆されている。着色層12の他面側に粘着層16が形成され、粘着層16は剥離フィルム20で被覆されている。漏油検出材10で油漏れを検出できる油は、石油等の鉱物、動物、植物からとれる疎水性の物質であって、水に浮き常温で液体のものである。特に、屈折率が1.40〜1.55の油が好ましい。このような油としては、絶縁油、灯油、軽油、重油、亜麻仁油、パラフィン油、シリコン油を挙げることができる。
【0020】
着色層12は、透水性と油を吸収して保持できる油保持性とを有する合成樹脂製の不織布で形成されている。不織布を形成する合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンを挙げることができる。特に、親油性を有するポリプロピレンが好ましい。不織布の厚さは200μm以上とすることにより、漏油を着色層12で多量に吸収でき、漏油検出材10から漏油が地面や床面に滴下するまでの時間を延長できる。この不織布の厚さの上限は500μmとすることが、漏油検出材10を油配管のフランジ等への装着を簡単にでき好ましい。
【0021】
このような不織布は着色されている。着色は何色であってもよいが、赤、紺又は青紫とすることが白色層14とのコントラストの関係で視認でき易く、漏油していることを警告でき好ましい。また、これらの色は、屋外で紫外線に晒されても退色が少ない利点もある。不織布への着色は、不織布の製造工程、例えばスパンボンド工程等で予め着色しておくことが、不織布表面に別工程で着色層を形成する工程を省略でき、且つ不織布から着色層が剥離するおそれを解消でき好ましい。
【0022】
上述した着色層12は透水性を有しているものの、その不織布を構成する繊維間に若干の水が保持されて濡れる状態となることがある。このような着色層12の一面側に積層された白色層14は、着色層12が乾燥状態での不透明状態を、着色層12が水で濡れたときにも維持できる。一方、着色層12が油で濡れたとき、白色層14は透明となり着色層12の色相が透視可能となる。この白色層14中には、屈折率が少なくとも1.5の白色粉末が透明樹脂に分散されている。この白色粉末としては、屈折率が1.5〜1.6のものが好ましい。このような屈折率の白色粉末としては、タルク(屈折率1.54)、尿素樹脂粉末(屈折率1.57)、炭酸カルシウム(屈折率1.50〜1.64)、水酸化アルミニウム(屈折率1.57)、炭酸マグネシウム(屈折率1.52〜1.53)、ガラスビーズ(屈折率1.52〜1.57)、ガラスフィラー(屈折率1.50〜1.58)を挙げることができる。特に、タルク(屈折率1.54)、尿素樹脂粉末(屈折率1.57)を白色粉末として好ましく用いることができる。これらの白色粉末は、単体或いは2〜3種類を混合して用いてもよい。白色粉末の粒径は、20μm以下が好ましく、特に10μm以下では、光の散乱効果が高まり白色層14の白色度が高くなり好ましい。
【0023】
白色粉末は、透明樹脂中に分散されて白色層14を形成している。透明樹脂としては、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、合成ゴム系樹脂を挙げることができる。特に、セルロース系樹脂(例えば、エチルセルロース)やポリエステル系樹脂が好ましい。白色粉末の透明樹脂に対する配合量は、透明樹脂に対して質量比で0.5〜15倍とすることが好ましい。
【0024】
このような白色層14の厚さは少なくとも150μmとすることが、不透明な白色層14の状態を着色層12が水で濡れたときでも維持できる。特に、白色層14の厚さが200μm以上とすることにより、着色層12が水で濡れたときでも、着色層12が乾燥状態に示す白色層14の不透明状態をほぼ維持できる。但し、着色層12が水で濡れたときの白色層14の不透明状態は、白色層14の厚さが260μm程度でほぼ飽和に達しており、白色層14の上限は漏油検出材10の柔軟性との関係から300μm程度とすることが好ましい。
【0025】
白色層14は、所定の白色粉末と所定の透明樹脂と必要に応じて溶剤とを撹拌機で分散して得たインク状物を、印刷機で着色層12の一面側に所定厚さに印刷した後、乾燥することにより得ることができる。インク状物は、所定の白色粉末と、予め溶剤に所定の透明樹脂を溶かしておいた透明樹脂溶液とを撹拌機で分散して得てもよい。
【0026】
このようにして得られた白色層14は、着色層12が油で濡れたとき透明となって、着色層12の色相が視認できる。このように着色層12が油で濡れたときのみに、白色層14が透明となる理由は下記のように推認される。まず、着色層12を濡らした油が、白色粉末が分散されている白色層14の内部に毛細管現象によって浸透する。ここで、油の屈折率が1.5近傍であり、白色層14の透明樹脂中に分散されている屈折率が少なくとも1.5の白色粉末と近い屈折率を有していることから、油を通過してきた光は白色層14の白色粉末との境界で大きく屈曲されることなく白色層14を通過できる。
【0027】
一方、着色層12が水で濡れたとき、白色層14は不透明状態を維持できる理由は下記のように推認される。水の屈折率は1.33であるが、白色層14に分散された白色粉末の屈折率は少なくとも1.5であり、両者の屈折率は大きく異なることから、着色層12を濡らして白色層14内に浸透した水を通過した光は白色粉末との境界で大きく屈曲されて散乱される。
【0028】
このような白色層14は、透明な保護層18で被覆されており、風雨や日光による劣化或いは埃による汚れを防止できる。保護層18を形成する樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を挙げることができる。特に、保護層18をフッ素樹脂層とすることにより、漏油検出材10が良好な柔軟性と耐候性とを呈することができ好ましい。保護層18の厚さは50〜200μmとすることが好ましい。保護層18は、白色層14上に透明な樹脂を所定厚さに印刷した後、乾燥することにより得ることができる。
【0029】
図1に示す漏油検出材10は、着色層12の他面側に油が透過する粘着剤から成る粘着層16が積層されている。このような粘着剤としては、アクリル樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリビニル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤を挙げることができる。これらの粘着剤は強粘着剤であって、油透過後も十分な粘着性を呈することができる。この粘着層16の厚さは30〜100μmとすることが、粘着層16が良好な油の透過性と粘着性とを併せ有することができる。この粘着層16は、剥離フィルム20で被覆されていることが、漏油検出材10の保存や運搬での取り扱い性を向上できる。
【0030】
図1に示す漏油検出材10は、漏油が懸念される箇所に貼り付けることができる。例えば、部分断面拡大図を含む図2に示すように油配管22のフランジ24a,24bの外周面に、図1に示す漏油検出材10の剥離フィルム20を剥離して露出した粘着層16を介して貼り付けて装着できる。油配管22のフランジ24a,24bは、パッキン26を介してボルト28,28で締め付けられているが、劣化したパッキン26の破損等で油配管22内の油が漏れ出す懸念がある。パッキン26が破損して油配管22から油が漏れ出したとき、漏れ出した油は粘着層16を通過して着色層12を濡らし、白色層14を透明にして着色層12の色相が保護層18を介して視認でき、漏油を発見できる。この油の漏れ出しは、早期であっても図3に示すように漏油検出材10の白色層14の一部に着色層12の色相が視認できる透明なスポット30ができることから簡単に発見できる。また、着色層12を形成する不織布が200μm以上の厚さであると、パッキン26の破損等で油配管22から漏れ出した油を一時的に着色層12で保持でき、漏油検出材10から油が地面や床面に滴下するまでの時間を遅延できることから、油配管22内の油抜き等のパッキン26の交換準備時間を十分に確保でき、安全にパッキン26を交換できる。
【0031】
屋外設置の油配管22のフランジ24a,24bの外周面に漏油検出材10を装着した場合、雨水のみで着色層12が濡れても、白色層14は依然と不透明状態である。従って、水及び油で着色層が濡れたとき白色層が透明となる漏油検出材のように、雨水のみで白色層が透明となり着色層の色相が視認可能となって、油漏れと誤認されるような事態を防止でき、漏油検出材10としての信頼性を高めることができる。
【0032】
また、漏油検出材10を、紫外線や雨等の屋外での実際の使用条件に近い条件で試験できるサンシャインウェザーメーターによる促進耐候性試験に付したところ、試験後の漏油検出材10は、試験前と同等の性能、すなわち着色層12が水で濡れても白色層14は依然として不透明であって、着色層12の色相を視認できなく、着色層12が油で濡れたとき、白色層14は透明となって着色層12の色相を視認できる。この着色層12の色相も退色は認められなかった。
【0033】
以上の説明では、漏油検出材10に保護層18が形成されているが、日光に晒されることがなく埃等も少ない屋内に設置されている油配管等に装着する場合、保護層18を省略してもよい。また、粘着層16も、漏油検出材10を透明なバンド等の装着具で油配管等に装着できる場合、省略してもよい。粘着層16を省略することにより、着色層12が直接油配管等に接触することができ、漏油を更に早期に検出できることが期待できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
(白色インクの作製)
下記表1に示すAタイプ、Bタイプ、Cタイプ及びDタイプの白色インクを作製した。各白色インクは表1に示す白色粉末と表1に示す透明樹脂溶液とを撹拌機で攪拌し分散して得たものである。
(漏油検出材の作製)
厚さ230μmのポリプロピレン製の赤色に着色された不織布を着色層12とし、着色層12の一面側に油を透過するアクリル系強粘着剤タイプの粘着剤を用いた粘着層16を貼り付けた後、着色層12の他面側に下記表1に示すAタイプ、Bタイプ、Cタイプ及びDタイプの白色インクを塗布厚250〜50μmとなるようにコーター印刷してから乾燥して白色層14を形成した。更に、白色層14を覆うようにフッ素樹脂から成るコート材を塗布厚150μmとなるようにコーター印刷した後、乾燥して透明な保護層18を形成して漏油検出材10とした。作製した漏油検出材10は、不透明な白色層14により保護層18から着色層12の色相は視認できない。
【0036】
【表1】
【0037】
作製した漏油検出材10の着色層12を水又は絶縁油で濡らして保護層18から透視できる白色層14の色差(ΔE*(ab))を測定した。また、着色層12を水又は絶縁油で濡らす前に保護層18から透視できる白色層14の色差(以下、濡れ前の白色層の色差という。)を測定し、その結果を下記表2及び図4に示す。色差の測定は、測定機器として日本電色工業株式会社製のハンディ型NF333を使用し、測定条件は測定径8mmφ、C光源、視野2°、白色校正基準とした。表2及び図4において、着色層12を絶縁油で濡らした油濡れ後に保護層18から透視できる白色層14の色差を油濡れ後の白色層の色差と記載し、着色層12を水で濡らした水濡れ後に保護層18から透視できる白色層14の色差を水濡れ後の白色層の色差と記載した。また、白色層14及び保護層18が未形成の着色層12自体の色差も同様に測定したところ、着色層12自体の色差(ΔE*(ab))は81.6であった。この色差の値も図4に着色層として示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2及び図4から明らかなように、白色層14としての厚さが200μm以上のものでは、濡れ前の白色層の色差と、油濡れ後の白色層の色差とは大きく異なっている。しかも、油濡れ後の白色層の色差は、着色層自体の色差とほぼ同じであり、油濡れにより白色層14は透明となっていることを示している。事実、油濡れ後に保護層18及び白色層14からは着色層12の色相が視認できる。一方、水濡れ後の白色層の色差は、濡れ前の白色層の色差とほぼ同じであり、水濡れ後の白色層14は依然として不透明であることを示している。事実、水濡れ後に保護層18及び白色層14から着色層12の色相は視認できない。これに対して、白色層14の厚さが50μmの比較例では、水濡れ後の色差が油濡れ後の色差に近く、水濡れ後の白色層14は透明となっていることを示す。事実、水濡れ後に保護層18及び白色層14から着色層12の色相が、油濡れ後と同様に視認できる。
【0040】
実施例2
白色層14の特性調査のため、水及び油のいずれも吸収する赤色に着色した平滑な赤色紙基材を用い、実施例1で使用したAタイプの白色インキを赤色紙基材上にコーター印刷による塗布厚を40〜300μmの間で変更して白色層14を形成したものを、アルミ板に貼付した後、アルミ板ごと水又は絶縁油に30分ほど浸漬した。水又は絶縁油に浸漬する前の濡れ前の白色層の色差、水に浸漬した後の水濡れ後の白色層の色差、及び絶縁油に浸漬した後の白色層の色差を実施例1と同様な測定方法で測定し、白色層14の厚さの影響を調査した。その結果を図5に示す。尚、赤色紙基材自体の色差も実施例1と同様な測定方法で測定し、その結果も図5に示す。
【0041】
図5から明らかなように、濡れ前の白色層及び油濡れ後の白色層の色差は、その厚さに関係なくほぼ一定であり、赤色紙基材の色相は不透明な白色層で視認できない。しかし、白色層の厚さが150μm未満の場合、水濡れ後の白色層は、その色差が濡れ前よりも大きくなって、赤色紙基材の色相が視認できる程度に透明状態となった。一方、白色層の厚さが150μm以上では、水濡れ後の白色層の色差が低下し、赤色紙基材の色相が視認でき難くなる程度に不透明状態となった。特に、白色層の厚さが200μm以上では、水濡れ後の白色層の色差が更に低下して濡れ前の白色層の色差に近づき、水濡れ後の白色層は更に不透明状態となって、赤色紙基材の色相が全く視認できなかった。
【0042】
実施例3
実施例1で得た下記表3に示す漏油検出材10を、部分拡大断面図を含む図6に示すようにフランジ25a,25bの外周面に貼着した。フランジ25aは、油配管22に固着されているドーナツ状のフランジであって、板状のフランジ25bとボルト28,28でスペーサ32による所定の隙間34を介して一体化されている。隙間34は、油配管22の油が漏れ出す隙間であって、油漏れ量が1.3ml/分(25秒/滴)程度となるようにスペーサ32によって調整されている。隙間34から漏れ出した油が、フランジ25a,25bの外周面に貼着された漏油検出材10から滴下されるまでの遅延時間を測定し、その結果を表3に示す。また、着色層12の厚さを50μmとし、白色層14の形成インクを表1のDタイプとした漏油検出材についても、同様にして漏油検出材から滴下されるまでの遅延時間を測定した。その結果を表3に比較例として併記した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3から明らかなように着色層12を形成する不織布の厚さが遅延時間に及ぼす影響が大きく、白色層14の白色粉末の影響は小さい。尚、フランジ25a,25bの隙間34からの油漏れ量の25秒/滴は、実際の油漏れ量の数時間〜1日/滴に比較して過剰となるように設定している。
【0045】
実施例4
実施例1で得た漏油検出材10をアルミ板に貼付した試作品を得た。この試作品を促進耐久性試験としてのサンシャインウェザーメーター試験に供した。サンシャインウェザーメーター試験は、スガ試験機株式会社製のS80を用いて実施した。促進耐久性試験の条件は、ブラックパネル温度63℃、スプレーサイクル18/20min、試験時間1000時間であった。試験時間1000時間後の試作品の着色層12を水又は油で濡らしたところ、試験前の試作品と同様な性能を示した。すなわち水濡れ後の白色層14は不透明状態を維持しており保護層18及び白色層14から着色層12の色相は視認できなかった。一方、油濡れ後の白色層14は透明状態となって保護層18及び白色層14から着色層12の色相を視認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る漏油検出材は、雨水のみでは変色せず且つ耐候性に優れており、屋外の油タンクや油配管等に長期間装着した状態で使用できることから、屋外の油タンクや油配管等の定期点検用として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0047】
10:漏油検出材、12:着色層、14:白色層、16:粘着層、18:保護層、20:剥離フィルム、22:油配管、24a,24b:フランジ、25a,25b:フランジ、26:パッキン、28:ボルト、30:透明なスポット、32:スペーサ、34:隙間
【要約】
【課題】屋外で使用できる漏油用の検出材であって、目視による油漏れの検知ができ且つ油漏れの油を一時的に保持できる信頼性の高い漏油検出材を提供する。
【解決手段】漏油検出材10は、透水性と油を吸収して保持できる油保持性とを有する合成樹脂製であって、厚さが200μm以上の不織布で形成され、前記不織布が着色された着色層12と、着色層12の一面側に積層され、着色層12が水で濡れたとき不透明であり、着色層12が前記油で濡れたとき透明となって、着色層12の色相が透視できるように、屈折率が少なくとも1.5の白色粉末が透明樹脂に分散された厚さが少なくとも150μmの白色層14と、着色層12の他面側に積層され、前記油が透過する粘着剤から成る粘着層16と、着色層12の他面側に積層され、前記油が透過する粘着剤から成る粘着層16と、白色層14に積層され、白色層14の劣化を防止する透明な保護層18とから構成されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6